説明

長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含むTRPV1活性関連疾患または炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物

本発明は、長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含むTRPV1活性関連疾患または炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物に関する。本発明によるメイラードペプチドは、TRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することから、TRPV1活性を調節する調節剤として作用して、痛症、神経関連疾患、緊急排便、炎症性腸疾患、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚疾患、皮膚、目または粘膜の刺激、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患等のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物に用いたり、COX−2活性を阻害することができるため、リウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬、皮膚炎等の炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として有用に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TRPV1活性関連疾患または炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バニロイド受容体−1(VR1、またはTRPV1(transient receptor potential vanilloid-1))は、唐辛子の辛い成分であるカプサイシン(8−メチル−N−バニリル−6−ノネンアミド)のような刺激的な化合物によって活性化する神経膜上の受容体で、カプサイシン受容体としても知られている。また、その分子生物学的クローニングは、1997年に報告された(非特許文献1)。前記受容体は、6個の膜貫通ドメインからなる非選択的カチオンチャンネルで、特にカルシウム(Ca2+)を選択的に流入することが知られており、TRPチャンネル系列に属する。
【0003】
TRPV1は、カプサイシン、レシニフェラトキシン(RTX)、熱(>43℃)、低pH、アナンダミド、脂質代謝産物等のような刺激によって活性化するかまたは感作され、哺乳動物において生理化学的有害刺激の分子インテグレーター(molecular integrator)として重要な役割をする(非特許文献2、3)。TRPV1は、一次求心性感覚神経で多く発現し、報告によると膀胱、腎臓、肺、腸、皮膚、中枢神経系(CNS)および非神経組織のような多くの器官および組織でも発現し(非特許文献4、5、6)、また、ひどい痛みを伴った疾患状態でTRPV1タンパク質が増加する。内因性/外因性刺激によるTRPV1の活性化は、有害な刺激の伝達だけではなく神経ペプチド、例えばサブスタンスP、CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)のようなニューロペプチドを遊離させることで神経性炎症を起こす。特に、TRPV1ノックアウトマウスは、有害な物理的刺激に正常反応を示すが、バニロイドによって熱刺激に対する痛み反応および感覚感受性が減少して、炎症状態ですら熱刺激に対する痛覚過敏をほとんど示さない(非特許文献7、8、9)。
【0004】
前述のように、TRPV1ノックアウトマウスは、熱または有害刺激に対する反応が減少した。したがって、TRPV1拮抗物質が多様な痛み症状の予防または治療に用いられ得る可能性を増加させた。最近、このような可能性と関連して公知となったTRPV1拮抗剤であるカプサゼピンも、炎症性および神経病性痛症モデルにおいて物理的刺激によって惹起された痛覚過敏を減少させることが報告された(非特許文献10、11)。また、初代培養した求心性感覚神経細胞に、TRPV1作用剤であるカプサイシンなどを処理すると、神経機能を損傷させ、さらに神経細胞死滅を誘導するようになるため、TRPV1拮抗剤は前記神経機能損傷および神経細胞死滅に対する防御作用をすることが報告された(非特許文献12、13)。
【0005】
TRPV1は、胃腸系の全領域に分布している感覚ニューロンに発現し、過敏性大腸症侯群および炎症性腸疾患のような炎症性疾患において高発現することが知られている(非特許文献14、15)。また、TRPV1の活性化は、感覚神経を刺激して胃食道逆流疾患(GERD)および胃十二指腸潰瘍(DU)のような胃腸障害の発病に決定的な役割をすることが知られている、ニューロペプチド放出を惹起することが報告された(非特許文献16、17)。したがって、TRPV1拮抗剤は、前記胃腸疾患の予防および治療に効果があることが期待される。
【0006】
TRPV1を発現する求心性神経は、気道粘膜に多量に分布している。気管支過敏性は、痛覚過敏とメカニズムが非常に類似しており、TRPV1に対する内因性リガンドとして知られた陽性子およびリポキシゲナーゼ(LOX)生成物は、喘息および慢性閉鎖性肺疾患の発病をもたらす主要な要因としてよく知られている(非特許文献18、19)。また、喘息誘発物質の一種である空気汚染物質、すなわち微細粒子物質はTRPV1に特異的に作用し、前記作用はTRPV1拮抗剤であるカプサゼピンによって抑制されることが報告されている(非特許文献20)。したがって、呼吸器疾患に対するTRPV1拮抗剤の使用可能性が提案された。膀胱過敏症および尿失禁は、多様な中枢/末梢神経障害または損傷によって引き起こされ、求心性神経および尿路上皮細胞で発現されたTRPV1は、膀胱炎症の主な役割をする(非特許文献21)。また、TRPV1ノックアウトマウスは解剖学的には正常であるが、正常マウスに比べて低い収縮力による非排尿性膀胱収縮を示し、したがって、これはTRPV1が膀胱の機能に影響を及ぼすことを意味する(非特許文献22)。
【0007】
最近、一部のTRPV1作用剤が、膀胱疾患を治療するための治療剤として開発されている。TRPV1は、一次求心性感覚神経だけではなくヒト表皮角化細胞に分布していて(非特許文献23、24)、多様な有害刺激の伝達および痛症、例えば皮膚刺激および掻痒症に関与して、神経性/非神経性因子による皮膚刺激のような皮膚疾患および障害、例えば皮膚炎症の発病原因と密接な関係を有する。これは、TRPV1拮抗剤であるカプサゼピンがヒト皮膚細胞で炎症メディエーターを抑制するという報告によって裏付される(非特許文献25)。
【0008】
最近数年間に、TRPV1の他の役割に対する研究結果が多数報告された。TRPV1の感覚血管作用性ニューロペプチド放出を通じた血流/血圧調節および血漿グルコース濃度調節または第1型糖尿病の病因との関連性が報告されたことがある(非特許文献26、27、28)。また、TRPV1ノックアウトマウスは、運動性では差異がないその正常マウス1腹子より不安関連行動が緩和されることが報告された(非特許文献29)。
【0009】
一方、TRPV1作用剤は、鎮痛剤としての使用可能性も報告されたことがある(特許文献1)。TRPV1作用剤による鎮痛効果は、カプサイシン敏感性感覚神経の脱感作に基づいた薬理機序を有する。すなわち、TRPV1作用剤の初期処理時のTRPV1の活性化で陽イオン流入によって痛症と刺激性を一時的に誘発するが、その後すぐ脱感作を誘導して作用剤自体だけではなく他の有害刺激に対しても痛症を遮断するようになる。このような特性を用いてカプサイシン(商品名:Zostrix)、オルバニル、ヌバニル、レシニフェラトキシン等の類似体が、急性痛症治療剤、慢性痛症治療剤、神経性痛症治療剤および神経損傷治療剤、リウマチ性関節炎治療剤、尿失禁治療剤または皮膚疾患治療剤として使用されているか、または開発中である(非特許文献30)。しかし、TRPV1作用剤は、脱感作の前に初期興奮作用である痛症と刺激性が問題点になっている。
【0010】
特許文献2は、TRPV1拮抗剤として強力な鎮痛効果を示す4−(メチルスルホニルアミノ)フェニル同族体およびそれを含む薬学的組成物を開示した。特許文献3は、TRPV1を拮抗剤としてインダゾール誘導体を開示した。特許文献4は、TRPV1拮抗剤としてベンズイミダゾール誘導体および製造方法を開示した。特許文献5は、TRPV1拮抗剤としてベンズイミダゾール、それを含む薬剤学的組成物およびそれを用いた治療方法を開示した。特許文献6は、TRPV1拮抗剤としてO−置換されたジベンジルウレア誘導体を開示した。特許文献7は、置換されたモノサイクリックヘテロアリールTRPV1リガンドおよび各種治療剤としての用途を開示した。
【0011】
一方、特許文献1は、TRPV1作用剤として強力な鎮痛効果を示す単純構造のレシニフェラトキシン同族体およびそれを含む薬学的組成物を開示した。
【0012】
さらに、特許文献8および特許文献9は、ビフェニル部分構造を有するTRPV1調節剤を開示し、特許文献10は、TRPV1調節剤としてテトラヒドロピリミドアゼピン誘導体を開示した。しかし、TRPV1作用剤および拮抗剤は従来、有機合成によって生成されるのが大部分であり、自然に存在する天然成分で生物学的安定性を有した物質に対しては報告されたことが全くない。
【0013】
一方、TRPV1活性化による痛症緩和効果と炎症に対するTRPV1の役割に対する研究が報告されている。リポポリサッカライド(LPS)、組織プラスミノーゲン活性化剤(TPA)または炎症誘発因子等の有害な刺激は免疫体系を亢進させて、TNF−α、IL−6、プロスタグランジンおよび酸化窒素のような炎症誘発物質を過度に誘導して炎症疾患を誘発することが知られている。COX−2(cyclooxygenase-2)は、プロスタグランジンを合成する酵素であり、主な炎症媒介物質(pro-inflammatory mediator)で、最近TRPV1活性化と関連してCOX−2に対する興味深い研究が報告された。例えば、TRPV1活性化による細胞死滅がCOX−2に依存的であることを明らかにした研究が進行している(非特許文献31)。TRPV1作用剤であるグリセリルノニバミドが、LPSによるCOX−2発現とプロスタグランジンの生成を抑制し、これは転写因子であるNF−κBを通じて行われることが報告され(非特許文献32)、TPAによるCOX−2の発現とプロスタグランジンの生成が、TRPV1作用剤であるカプサイシンによって有意に抑制されることが報告された(非特許文献33)。また、炎症反応において、TRPV1の役割に対する研究が発表されてTRPV1の作用剤が炎症治療剤として注目されている(非特許文献34、35)。このように、細胞内のTRPV1信号伝達は、アラキドン酸恒常性とCOX−2代謝作用に直接的に関連しているという観点で、TRPV1を活性化させる食品由来タンパク質代謝体によるCOX−2調節は、食品由来タンパク質代謝体のTRPV1チャンネルの新しい作用剤としての可能性を解明することができるであろう。
【0014】
そこで、本発明者らは自然に存在する天然成分の中で、TRPV1の活性を調節する物質を開発するために研究中、長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチド(maillard peptides)がTRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することによってTRPV1活性を調節する調節剤として作用するのみならず、COX−2活性を阻害することができるので、痛症、神経関連疾患、緊急排便、炎症性腸疾患、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚疾患、皮膚、目または粘膜の刺激、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患等のようなTRPV1活性関連疾患またはリウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬、皮膚炎等のような炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として有用に用いることができることを発見して本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】韓国登録特許第556157号
【特許文献2】韓国登録特許第707123号
【特許文献3】韓国公開特許第2008−67361号
【特許文献4】韓国公開特許第2009−35701号
【特許文献5】韓国公開特許第2009−90386号
【特許文献6】韓国公開特許第2009−90347号
【特許文献7】米国公開特許第2005−277631号
【特許文献8】国際公開特許第06−101321号
【特許文献9】国際公開特許第06−101318号
【特許文献10】韓国公開特許第2009−6098号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Caterinaら,Nature,1997年、第389巻、p.816-824
【非特許文献2】Tominagaら,Neuron,1998年,第21巻,p.531-543
【非特許文献3】Hwangら,PNAS,2000年,第97巻,p.6155-6160
【非特許文献4】Mezeyら,PNAS,2000年,第97巻,p.3655-3660
【非特許文献5】Standerら,Exp.Dermatol.2004年,第13巻,p.129-139
【非特許文献6】Cortrightら,BBRC,2001年,第281巻,p.1183-1189
【非特許文献7】Caterinaら,Science,2000年,第288巻,p.306-313
【非特許文献8】Davisら,Nature,2000年,第405巻,p.183-187
【非特許文献9】Karaiら,J.Clin.Invest.,2004年,第113巻,p.1344-1352
【非特許文献10】Walkerら,JPET,2003年,第304巻,p.56-62
【非特許文献11】Garcia-Martinezら,PNAS,2002年,第99巻,p.2374-2379
【非特許文献12】Holzer P.,Pharmacological Reviews,第43巻,p.143-201
【非特許文献13】Mezeyら,PNAS,2000年,第97巻,p.3655-3660
【非特許文献14】Chanら,Lancet,2003年,第361巻,p.385-391
【非特許文献15】Yiangouら,Lancet,2001年,第357巻,p.1338-1339
【非特許文献16】Holzer P.,Eur.J.Pharmacol.,2004年,第500巻,p.231-241
【非特許文献17】Geppettiら,Br.J.Pharmacol.,2004年,第141巻,p.1313-1320
【非特許文献18】Hwangら,Curr.Opin.Pharmacol.,2002年,p.235-242
【非特許文献19】Spinaら,Curr.Opin.Pharmacol.2002年,p.264-272
【非特許文献20】Veronesiら,NeuroToxicology,2001年,第22巻,p.795-810
【非特許文献21】Birderら,PNAS,2001年,第98巻,p.13396-13401
【非特許文献22】Birderら,Nat.Neuroscience,2002年,第5巻,p.856-860
【非特許文献23】Dendaら,Biochem.Biophys.Res.Commun.,2001年,第291巻,p.1250-1250
【非特許文献24】Inoueら,Biochem Biophys Res Commun.,2002年,第291巻,p.124-129
【非特許文献25】Southallら,J. Pharmacol.Exp.Ther.,2003年,第304巻,p.217-222
【非特許文献26】Inoueら,Cir.Res.,2006年,第99巻,p.119-31
【非特許文献27】Razaviら,Cell,2006年,第127巻,p.1123-1135
【非特許文献28】Gramら,Eur.J.Neurosci.,2007年,第25巻,p.213-223
【非特許文献29】Marschら,J.Neurosci.,2007年,第27(4)巻,p.832-839
【非特許文献30】Wriggleworth and Walpole,Drugs of the Future,1998年,第23巻,p.531-538
【非特許文献31】Eichele Kら,Pharm.Res.,2008年
【非特許文献32】Lin Yら,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2007年
【非特許文献33】Chen CWら,Br.J.Pharmacol,2003年
【非特許文献34】Helyes Zら,Am.J.Physiol.Lung.Cell.Mol.Physiol.,2007年
【非特許文献35】Huang Wら,Hypertension,2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、TRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供することにある。
【0018】
また、本発明の目的は、長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明は、TRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することによりTRPV1活性を調節する調節剤として作用する、長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、TRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【0020】
また、本発明はCOX−2活性を阻害する長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明による長期熟成の在来式醤油から分離したメイラードペプチドは、TRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することによりTRPV1活性を調節する調節剤として作用し、痛症、神経関連疾患、緊急排便、炎症性腸疾患、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚疾患、皮膚、目または粘膜の刺激、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患等のようなTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として用いたり、COX−2活性を阻害したりすることができ、リウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬、皮膚炎等の炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物で有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明による製造例1のメイラードペプチド分離時に測定した吸光度を示したグラフである。
【図2】図2は、本発明によるメイラードペプチドのTRPV1に対する活性を測定したグラフである((a):TRPV1を発現させないHEK293細胞、(b):TRPV1を発現させたHEK293細胞)。
【図3】図3は、本発明によるメイラードペプチドの投与時間によるTRPV1に対する活性を測定したグラフである((a):1分間処理、(b):2分間処理、(c):3分間処理)。
【図4】図4は、本発明によるメイラードペプチドとTRPV1の作用剤であるレシニフェラトキシンを用いて、COX−2活性抑制効果を測定したグラフである。
【図5】図5は、本発明によるメイラードペプチドとTRPV1の拮抗剤であるSC0030を用いて、COX−2活性抑制効果を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、長期熟成醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、TRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【0024】
また、本発明は、前記メイラードペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩を治療的に有効な量でこれを要する患者に投与する工程を含む、TRPV1活性関連疾患の治療方法を提供する。
【0025】
さらに、本発明は、TRPV1活性関連疾患の治療用製剤の製造において、前記メイラードペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する。
【0026】
前記メイラードペプチドは、分子量が500〜10,000であることが好ましい。前記メイラードペプチドの分子量が500未満の場合、遊離アミノ酸、遊離糖、塩などが含まれる問題点が発生し、前記メイラードペプチドの分子量が10,000以上の場合は、熟成中に分解されないタンパク質や不純物などペプチド以外の物質が含有される問題点が発生する。
【0027】
前記長期熟成在来式醤油は、3年以上熟成させた醤油であることが好ましい。前記醤油が3年未満熟成された場合には、十分な量のメイラードペプチドが生成されないという問題点が発生する。
【0028】
本発明による前記メイラードペプチドは、TRPV1活性を調節することで、TRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として用いることができる。
【0029】
TRPV1の活性調節と関連する疾患は、痛症、神経関連疾病、糖尿病性末梢神経症(Kameiら,Eur.J,Pharmacol.,2001年,第422巻,p.83-86)、排便調節能力の異常状態、過敏性大腸症侯群(Chanら,Lancet、2003年,第361巻,p.385-391)、炎症性腸疾患(Yiangouら,Lancet,2001年,第357巻,p.1338-1339)、胃腸障害、呼吸器疾患、尿失禁(Birderら,Nat.Neuroscience,2002年,第5巻,p.856-860)、膀胱過敏症(Birderら,PNAS,2001年,第98巻,p.13396-13401)、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚病、皮膚刺激、目または粘膜の炎症(Tominagaら,Neuron,1998年,第21巻,p.531-543)、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症(Balabanら,Hear Res.,2003年,第175巻,p.165-170)、心臓疾患、発毛関連障害、鼻炎(Sekiら,Rhinology,2006年,第44巻,p.128-134)、膵臓炎(Hutterら,Pancreas,2005年,第30巻,p.260-265)、膀胱炎(Dinisら,J.Neurosci.,2004年,第24巻,p.11253-11263;Sculptoreanuら,Neurosci.Lett.,2005年,第381巻,p.42-46)、外陰痛症(Tympanidisら,Eur.J.Pain.,2004年,第8巻,p.12-33)、精神疾患(Marschら,J.Neurosci.,2007年,第27(4)巻,p.832-839)などを含む。
【0030】
前記痛症は、急性痛症、慢性痛症、神経病症性痛症、手術後痛症、リウマチ関節痛、骨関節炎性痛症、帯状疱疹後神経痛、神経痛、頭痛、歯痛、骨盤痛症、偏頭痛、骨癌痛、乳房痛、内臓痛などを含む(Petersenら,Pain,2000年,第88巻,p.125-133;Walkerら,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2003年,第304巻,p.56-62;Morganら,J.Orofac.Pain、2005年,第19巻,p.248-260;Dinisら,Eur.Urol.,2005年,第48巻,p.162-167;Akermanら,Br.J.Pharmcol.,2004年,第142巻,p.1354-1360;Ghilardiら,J.Neurosci.,2005年,第25巻,p.3126-3131;Gopinathら,BMC Womens Health,2005年,第5巻,p.2-9)。
【0031】
前記神経関連疾病は、神経障害、HIV−関連神経障害、神経損傷、神経退行、脳卒中などを含む(Parkら,Arch.Pharm.Res.,1999年,第22巻,p.432-434;Kimら,J.Neurosci.,2005年,第25(3)巻,p.662-671)。
【0032】
前記胃腸障害は、胃食道逆流疾患、胃十二指腸潰瘍、クローン病などを含む(Holzer P.,Eur.J.Pharmacol.,2004年,第500巻,p.231-241;Geppettiら,Br.J.Pharmacol.,2004年,第141巻,p.1313-1320)。
【0033】
前記呼吸器疾患は、喘息、慢性閉塞性肺疾患、咳などを含む(Hwangら,Curr. Opin.Pharmacol.,2002年,p.235-242;Spinaら,Curr.Opin.Pharmacol.,2002年,p.264-272;Geppettiら,Eur.J.Pharmacol.,2006年,第533巻,p.207-214;McLeodら,Cough、2006年,第2巻,p.10)。
【0034】
前記神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚病は、乾癬、掻痒感、痒疹、皮膚刺激などを含む(Southallら,J.Pharmacol.Exp.Ther.,2003年,第304巻,p.217-222)。
【0035】
前記心臓疾患は、心筋虚血を含む(Scotlandら,Circ.Res.,2004年,第95巻,p.1027-1034;Panら,Circulation,2004年,第110巻,p.1826-1834)。
【0036】
前記発毛関連障害は、多毛症、悪臭、脱毛症などを含む(Bodoら,Am.J.Patho.,2005年,第166巻,p.985-998;Biroら,J.Invest.Dermatol.,2006年,p.1-4)。
【0037】
本発明による前記メイラードペプチドは、TRPV1に対する活性測定実験の結果、TRPV1を発現させた群にメイラードペプチドを処理した場合に、15pAの弱い内向性電流が発生することによってTRPV1を活性させる作用剤として作用することが分かる(実施例1および図2参照)。
【0038】
また、本発明による前記メイラードペプチドは、投与時間によるTRPV1に対する活性測定実験の結果、メイラードペプチドを処理した以後に100nMカプサイシンを処理した場合には、100nMカプサイシンを単独で処理した場合に比べて電流発生が約50〜70%減少することから、TRPV1の活性を抑制させる拮抗剤として作用することが分かる(実施例2および図3参照)。
【0039】
したがって、本発明による長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドは、TRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することによって、TRPV1活性を調節する調節剤として作用することができるので、痛症、神経関連疾患、緊急排便、炎症性腸疾患、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚疾患、皮膚、目または粘膜の刺激、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患等のようなTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として有用に用いることができる。
【0040】
本発明によるメイラードペプチドは、長期熟成在来式醤油原液を遠心分離して沈殿物を除去する工程(工程1)、
前記工程1で得た長期熟成在来式醤油から分子量が500〜10,000のペプチド画分を得る工程(工程2)、および
前記工程2で得たペプチド画分をゲルろ過クロマトグラフィーを遂行してメイラードペプチドを得る工程(工程3)を含んでなる製造方法によって製造することができる。
【0041】
以下、本発明による前記製造方法を工程別にさらに詳細に説明する。
【0042】
まず、本発明の前記工程1は、長期熟成在来式醤油原液を遠心分離して沈殿物を除去する工程である。
【0043】
前記遠心分離は、7,000〜12,000rpmの速度で10分ないし20分間行なうことが好ましく、ペプチドの変性を防止するために4℃で行なうことが好ましい。前記遠心分離を遂行して長期熟成在来式醤油原液に含まれている沈殿物を除去することができる。
【0044】
次に、前記工程2は、前記工程1で得た長期熟成在来式醤油から分子量が500〜10,000のペプチド画分を得る工程である。
【0045】
前記工程1で得た長期熟成在来式醤油を限外ろ過装置を用いてろ過することで、分子量が500〜10,000のペプチド画分を得ることができる。前記限外ろ過装置は、一般的に気孔サイズ(Pore Size)が0.1〜0.001μmの中空の繊維状であり、精密ろ過(M/F)と逆浸透圧(R/O)方式の中間程度の溶液中のイオン性物質などを除く微粒子や微生物(藻類、大腸菌、一般細菌など)の除去能力に優れていて、優秀な分画性能と透過性によって高分子物質および低分子物質が混合している溶液の中から特定物質のみを分別濃縮、精製することができる。
【0046】
ここで、得たペプチド画分を凍結乾燥する過程を追加して行なうことができる。
【0047】
次に、前記工程3は、前記工程2で得たペプチド画分をゲルろ過クロマトグラフィーを遂行してメイラードペプチドを得る工程である。
【0048】
前記工程2で得たペプチド画分粉末をエチルアルコールに溶解してゲルろ過クロマトグラフィーを行なうことができる。前記ゲルろ過クロマトグラフィーは、セパデックスLH−20(ヒドロキシプロピル化した架橋デキストラン)を充填したカラムを使用することができる。前記工程2で得た画分に対して、20%エチルアルコールを移動相にしてセパデックスLH−20カラムを用いたゲルろ過クロマトグラフィーを遂行して本発明によるメイラードペプチドを得ることができる。
【0049】
また、本発明は長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物を提供する。
【0050】
さらに、本発明は前記メイラードペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩を治療的に有効な量でこれを必要とする患者に投与する工程を含む、炎症関連疾患の治療方法を提供する。
【0051】
さらに、本発明は炎症関連疾患の治療用製剤の製造において、前記メイラードペプチドまたはその薬学的に許容可能な塩の用途を提供する。
【0052】
本発明による前記メイラードペプチドは、COX−2活性を阻害することから炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として用いることができる。
【0053】
炎症関連疾患は、リウマチ熱(Revathi S.ら,J Pharm Biomed Anal.,2006年,第42(2)巻,p.283-289)、インフルエンザ(Leeら,J Infect Dis.,2008年,第198(4)巻,p.525-535;Careyら,J Immunol.,2005年,第175(10)巻,p.6878-6884)、風邪(Shiraishi Yら,J Immunol.,2008年,第180(1)巻,p.541-549)、首の痛み(Schachtel BPら,J Clin Pharmacol.,2007年,第47(7)巻,p.860-870)、頭痛(Drescherら,Headache.,2006年,第46(10)巻,p.1487-1491;O’Connorら,Eur J Neurol.,2008年,第15(1)巻,p.e1)、歯痛(Huber MAら,J Am Dent Assoc.,2006年,第137(4)巻,p.480-487)、捻挫(Islam MSら,Br J Pharmacol.,2008年,第154(4)巻,p.812-824)、神経痛(Suyamaら,Brain Res.,2004年,第1010(1-2)巻,p.144-150;Shackelfordら,J Pain.,2009年,第10(6)巻,p.654-660)、滑膜炎(Rattrayら,Haemophilia.,2006年,第12(5)巻,p.514-517)、関節炎(Hazewinkelら,Res Vet Sci.,2008年,第84(1)巻,p.74-79)、リウマチ性関節炎(Sanghiら,Cardiovasc Hematol Disord Drug Targets.,2006年,第6(2)巻,p.85-100)、退行性関節疾患(Jeanら,Osteoarthritis Cartilage.,2007年,第15(6)巻,p.638-645)、痛風(Villiger PM、Ther Umsch.,2004年,第61(9)巻,p.563-566)、強直性脊椎炎(Croom KF、Drugs.,2009年,第69(11)巻,p.1513-1532)、乾癬(Soriano ERら,J Rheumatol.,2006年,第33(7)巻,p.1422-1430)、皮膚炎(Medeiros Rら,Eur J Pharmacol.,2007年,第559(2-3)巻,p.227-235;Bae EAら,Biol Pharm Bull.,2006年,第29(9)巻,p.1862-1867)などを含む。
【0054】
本発明による前記メイラードペプチドは、COX−2活性抑制効果測定実験の結果、TPAによって誘導されたCOX−2活性が阻害され、従来のTRPV1の拮抗剤として知られたSC0030と同時に投与した場合には、TPAによって誘導されたCOX−2活性がメイラードペプチドを単独で投与した場合より、約3倍以上高いことを確認されたことによってCOX−2活性を阻害することが分かる(実施例3、図4および図5参照)。
【0055】
したがって、本発明による長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドは、COX−2活性を阻害することができるので、リウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬、皮膚炎等の炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として有用に用いることができる。
【0056】
本発明による組成物を医薬品として使用する場合、前記メイラードペプチドを有効成分として含む薬学的組成物は臨床投与時に、下記の多様な経口または非経口投与形態に製剤化して投与することができるが、これに限定されるのではない。
【0057】
経口投与剤形では例えば、錠剤、丸薬、硬/軟質カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳化剤、シロップ剤、顆粒剤、エリクシール剤などがあるが、これら剤形は有効成分以外に希釈剤(例:ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン)、滑剤(例:シリカ、タルク、ステアリン酸およびそのマグネシウムまたはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール)を含んでいる。錠剤はまたマグネシウムアルミニウムシリケート、澱粉ペースト、ゼラチン、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポリビニルピロリジンのような結合剤を含むことができ、場合によって澱粉、寒天、アルギン酸またはそのナトリウム塩のような崩解剤または同等の混合物および/または吸収剤、着色剤、香味剤、および甘味料を含むことができる。
【0058】
前記メイラードペプチドを有効成分とする薬学的組成物は、非経口投与することができ、非経口投与は、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射等の方法による。ここで、非経口投与剤形に製剤化するために、前記メイラードペプチドを安定剤または緩衝剤とともに水に混合して溶液または懸濁液に製造して、それをアンプルまたはバイアル単位投与型に製造することができる。
【0059】
前記組成物は、滅菌して防腐剤、安定化剤、水和剤または油化促進剤、浸透圧調節のための塩および/または緩衝剤等の補助剤、およびその他の治療的に有用な物質を含むことができ、通常の方法である混合、顆粒化またはコーティング方法によって製剤化することができる。
【0060】
本発明の前記メイラードペプチドを有効成分とする薬学的組成物を、単位用量形態に製剤化する場合、有効成分としてメイラードペプチドを約0.1〜1,500mgの単位用量で含有することが好ましい。投与量は、患者の体重、年齢および疾病の特殊な性質と深刻性のような要因にしたがって医者の処方にしたがう。しかし、成人の治療に必要な投与量は、投与の頻度と強度によって一日に約1〜500mgの範囲が普通である。成人に筋肉内または静脈内投与時の一回投与量としては、一日に普通約5〜300mgの全体投与量なら十分であるが、一部患者の場合はさらに多い一日の投与量が好ましいことがある。
[発明の実施のための形態]
【0061】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
【0062】
ただし、下記の実施例は本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるのではない。
【0063】
<製造例1>メイラードペプチドの製造
在来式方式で仕込んで4年熟成させた醤油原液を、4℃で9,000rpmで15分間遠心分離して沈殿物を除去した後、Amicon社(Beverly,MA,米国)の限外ろ過装置(Model No.8400)を用いて、圧力60psiを加えてペプチド画分を分離した。すなわち、Millipore社(Milipore Co.,Bedford,MA)の限外ろ過膜YM−10(molecular weight cut-off 10,000 dalton)で分子量が10,000以上のペプチドを含む溶液と分子量が10,000未満のペプチドを含む溶液を分離した。以後、分子量が10,000以上のペプチドを含む溶液を除去した。分子量10,000未満のペプチドを含む溶液を再び限外ろ過膜YC−05(molecular weight cut-off 500 dalton)で限外ろ過して分子量500未満のペプチドを含む溶液を除去し、分子量が500〜10,000のペプチド画分を得た。前記画分を凍結乾燥して粉末にした後、再び20%のエチルアルコールに溶解してセパデックスLH−20カラム(Φ1.9×150cm)を用いてクロマトグラフィーを行なった。ここで、溶出は20%のエチルアルコールを用いて行なった。溶出した各画分を分光光度計を用いて、214nm、280nmおよび420nmで吸光度を測定した。ここで、測定した吸光度値を図1に示した。一画分の含量を8.4mlにして溶出画分を分離したとき、32番と33番の画分付近で溶出されるピークをメイラードペプチドと名付け、31番、32番、33番および34番の画分を集めて凍結乾燥した。分子量500と10,000の間であるペプチド画分1.0gから回収されるメイラードペプチドの量は、0.087±0.014mgで、回収率は約8.7%であった。
【0064】
<実施例1>TRPV1に対する活性測定
本発明によるメイラードペプチドのTRPV1に対する活性を測定するために、TRPV1を発現させたHEK293細胞を用いて下記の実験を行なった。
【0065】
ヒト胚芽腎臓細胞HEK293(American Type Culture Collection,Manassas,VA)を製造業者推奨の方法に従って培養し、次のように一時的形質転換を実施した。前記細胞を35mmプレートに播種して、翌日0.4μg rTRPV1のpcDNAコンストラクトをエフェクテン(Effectene)形質移入試薬(キアゲン(QIAGEN)社製品)を用いて製造者のプロトコールによって形質転換した。18〜24時間が経過した後、形質転換された細胞をトリプシン処理して、細胞全体パッチクランプ記録実験に用いた。全体細胞電流は、EPC9増幅器(HEKA)を用いて増幅させた。記録電極は、ボロシリケートガラスで製作し、標準細胞内溶液で満たした時に5〜7MΩの抵抗を有するように準備した。全体パッチクランプ細胞実験で次の組成を有した外部培地(normal extracellular solution)を用いた。ここで、培地は140mM NaCl、5mM KCl、2mM CaCl、1mM MgCl、10mMブドウ糖および10mM N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)組成を有し、pHはNaOHを用いて7.4に調節した。また、記録電極溶液は、135mM CsCl、5mM MgCl、10mM HEPES、5mM EGTA、10mMブドウ糖および1mM Mg−ATPの組成を有し、pHはCsOHを用いて7.3に調節した。すべての薬品溶液の流れは重力によって誘導された(流れ速度、1〜5ml/分)。実験は、室温(18〜22℃)で行なって液体接合電位を避けるために、KClアガーブリッジを用いた。対照群には、TRPV1を発現させないHEK293細胞を用いた。
【0066】
膜電圧固定法では、細胞が恒常的に細胞膜を中心に電位差を有するようになる。ここで、細胞膜は安定時に膜電圧を有し、それを安定膜電圧といい、一般的に細胞の安定膜電圧は−60〜−70mVであって、この時の細胞膜を基準に電流がほとんどない状態である。前記実施例1で用いた膜電圧固定法は、細胞に記録電極を挿入して電気的に細胞内を操作することができるようにした後、人為的に膜電圧を固定する方法である。一般的な安定膜電圧である−60mVに細胞膜電圧を固定させた後、薬物投与によって発生する電流を観察した。細胞を刺激する薬物は細胞の電気信号を発生させるが、前記薬物で本発明による製造例1のメイラードペプチド0.2%と、TRPV1の作用剤として知られたカプサイシン100nMを用いて、前記薬物を1分間処理して、その時に発生する電気信号を電流で記録した。その結果を図2に示す。より詳細には、図2の(a)に対照群であるTRPV1を発現させないHEK293細胞の電流測定結果を示し、図2の(b)にTRPV1を発現させたHEK293細胞の電流測定結果を示す。
【0067】
図2の(a)に示されるように、TRPV1を発現させない対照群は、本発明によるメイラードペプチドを処理した場合に電流が発生しないことが分かる。また、メイラードペプチドを処理した後に、TRPV1を活性化させる作用剤として知られるカプサイシンを処理した場合にも電流が発生しないことが分かる。
【0068】
また、図2の(b)に示されるように、TRPV1を発現させた群は、本発明によるメイラードペプチドを処理した場合に15pAの弱い内向性電流が発生したことが分かる。また、本発明によるメイラードペプチドを処理した後に、TRPV1を活性化させる作用剤として知られるカプサイシンを処理した場合に、120pAの電流が発生することが分かる。
【0069】
このことから、本発明によるメイラードペプチドは、TRPV1を活性させる作用剤として作用することが分かる。
【0070】
<実施例2>投与時間によるTRPV1に対する活性測定
本発明によるメイラードペプチドについて、投与時間によるTRPV1に対する活性を測定するために、TRPV1の脱感作を防止するCa2+を含まない細胞外溶液を用いて下記の実験を遂行した。
【0071】
前記実施例2は、前記実施例1で140mM NaCl、5mM KCl、2mM CaCl、1mM MgCl、10mMブドウ糖および10mM N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)の組成を有する外部培地の代りに、40mM NaCl、5mM KCl、2mM EGTA、1mM MgCl、10mMブドウ糖および10mM N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)の組成を有する外部培地を使用することを除き、前記実施例1の方法と同じ方法で実験を行った。ここで、本発明による製造例1のメイラードペプチド0.2%を、それぞれ1分、2分および3分間処理して、その時に発生する電気信号を電流で記録した。その結果を図3に示す。より詳細には、図3の(a)にメイラードペプチドを1分間処理した場合の電流測定結果を示し、図3の(b)にメイラードペプチドを2分間処理した場合の電流測定結果を示し、図3の(c)にメイラードペプチドを3分間処理した場合の電流測定結果を示す。
【0072】
図3の(a)に示されるように、本発明によるメイラードペプチドを1分間処理した場合には、弱い電流が発生することが分かる。また、本発明によるメイラードペプチドを1分間処理した後に、100nMカプサイシンを処理した場合には、100nMカプサイシンを単独で処理した場合に比べて弱い電流が発生することから、本発明によるメイラードペプチドがカプサイシンによる電流発生を減少させることが分かる。
【0073】
また、図3の(b)および(c)に示されるように、本発明によるメイラードペプチドを2分または3分間処理した後、100nMカプサイシンを処理した場合には、100nMカプサイシンを単独で処理した場合に比べて電流発生が約50〜70%減少することが分かる。また、洗浄した後に100nMカプサイシンを再処理した場合には電流発生が段々増加することから、カプサイシンによって誘導された電流が回復することが分かる。
【0074】
このことから、本発明によるメイラードペプチドは、TRPV1の活性を抑制させる拮抗剤として作用することが分かる。
【0075】
<実施例3>COX−2活性抑制効果測定
本発明によるメイラードペプチドのCOX−2活性抑制効果を測定するために、下記の実験を行なった。
【0076】
HEK293細胞を成長培地(DMEM、10%仔牛血清、100ユニット/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)で37℃、95%(v/v)、二酸化炭素5%(v/v)雰囲気下の条件で培養して、対数的に増殖する細胞を作った後、培地を除去してPBSで洗浄した後、トリプシン処理によって培養細胞を分離した後、血清が入っている培地に入れてトリプシンを不活性化した。200×gで2分間遠心分離して細胞沈殿物(pellet)を得た後5×10cells/mlの濃度で1分間よく混合した後、電気穿孔用キュベットに入れてEquibio社の電気穿孔装置(製品名:Easyject)を用いて常温、1,500μF、270Vでパルスを与え、プラスミド(COX−2プローモーターリポーター遺伝子とヒトTRPV1)を細胞内に注入させた後、直ちに10%仔牛血清培地に入れて希釈した後、24ウェルプレートに平板培養した。電気穿孔方法によるプラスミドの細胞内注入効率は、発現したルシフェラーゼの活性測定によって換算した。プラスミドを形質転換した細胞を、PBSで洗浄して溶解緩衝溶液(125mM Tris pH7.8、10mM CDTA、10mM DTT、50%グリセロ−ル、5%トリトンX−100)に入れて細胞を破壊した後、上澄み液を得てブラッドフォード分析法を用いてタンパク質量を定量した。ルシフェラーゼ活性測定は、20μl細胞抽出物に100μl分析緩衝溶液(20mMトリシン、1.07mM (MgCO)4Mg(OH)O、2.67mM MgSO、0.1mM EDTA、33.3mM DTT、270μM粗酵素A(リチウム塩)、470μMルシフェリン、530μM ATP)を加えた後、光の放出を発光分析機(LUMAT LB 9501/16)を用いて20秒間測定した。ルシフェラーゼ活性は10μgタンパク質当りの発光量(RLU)で表示した。
【0077】
TPAでCOX−2を誘導させた状況で、本発明による製造例1のメイラードペプチドを0.1%および0.2%で処理してリポーター遺伝子アッセイを行なった。ここで、対照群にはTRPV1の作用剤であるレシニフェラトキシン(RTX)またはTRPV1の拮抗剤であるSC0030を用いた。その結果を図4および図5に示す。より詳細には、図4に対照群として、TRPV1の作用剤であるレシニフェラトキシンを用いた場合のCOX−2活性程度を示し、図5に対照群として、TRPV1の拮抗剤であるSC0030(アストラゼネカ、製品名:JYL1421)を用いた場合のCOX−2活性程度を示した。
【0078】
図4に示されるように、本発明によるメイラードペプチドを投与した場合に、TPAによって誘導されたCOX−2活性が阻害されることが分かる。また、従来からTRPV1の作用剤として知られたレシニフェラトキシンを投与した場合にも、TPAによって誘導されたCOX−2活性が阻害されることが分かる。
【0079】
図5に示されるように、本発明によるメイラードペプチドを投与した場合に、TPAによって誘導されたCOX−2活性が阻害されることが分かる。また、本発明によるメイラードペプチドと従来からTRPV1の拮抗剤として知られるSC0030を同時に投与した場合には、TPAによって誘導されたCOX−2活性が、メイラードペプチドを単独で投与した場合より約3倍以上高いことを確認することによって、メイラードペプチドによるCOX−2活性阻害効果がTRPV1拮抗剤によって遮断されることが分かる。
【0080】
このことから、本発明によるメイラードペプチドは、COX−2活性を阻害することが分かる。
【0081】
したがって、本発明による長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドは、TRPV1に対して作用剤および拮抗剤として作用することから、TRPV1活性を調節する調節剤として作用し、痛症、神経関連疾患、緊急排便、炎症性腸疾患、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚疾患、皮膚、目または粘膜の刺激、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患等のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として用いることや、COX−2活性を阻害することができ、リウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬、皮膚炎などのような炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物として有用に用いることができる。
【0082】
一方、本発明によるメイラードペプチドは、目的によって多くの形態で製剤化が可能である。下記では、本発明によるメイラードペプチドを活性成分として含有するいくつかの製剤化方法を例示するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。
【0083】
<製剤例1>散剤の製造
メイラードペプチド 2g
乳糖 1g
前記の成分を混合して気密包装に充填して散剤を製造した。
【0084】
<製剤例2>錠剤の製造
メイラードペプチド 100mg
とうもろこし澱粉 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記の成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法にしたがって打錠して錠剤を製造した。
【0085】
<製剤例3>カプセル剤の製造
メイラードペプチド 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記の成分を混合した後、通常のカプセル剤の製造方法にしたがってゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造した。
【0086】
<製剤例4>注射剤の製造
メイラードペプチド 100mg
マンニトール 180mg
NaHPO・2HO 26mg
蒸留水 2974mg
通常の注射剤の製造方法によって、前記成分を提示された含量で含有させて注射剤を製造した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む、TRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項2】
前記メイラードペプチドの分子量が、500〜10,000であることを特徴とする、請求項1に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項3】
前記長期熟成在来式醤油が、3年以上熟成させた醤油であることを特徴とする、請求項1に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項4】
前記TRPV1活性関連疾患が、痛症、神経関連疾病、糖尿病性末梢神経症、排便調節能力の異常状態、過敏性大腸症侯群、炎症性腸疾患、胃腸障害、呼吸器疾患、尿失禁、膀胱過敏症、神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚病、皮膚刺激、目または粘膜の炎症、聴覚過敏症、耳鳴、前庭過敏症、心臓疾患、発毛関連障害、鼻炎、膵臓炎、膀胱炎、外陰部痛症および精神疾患からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項1に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項5】
前記痛症が、急性痛症、慢性痛症、神経病症性痛症、手術後痛症、リューマチ関節痛、骨関節炎性痛症、帯状疱疹後神経痛、神経痛、頭痛、歯痛、骨盤痛症、偏頭痛、骨癌痛、乳房痛および内臓痛症からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項6】
前記神経関連疾病が、神経障害、HIV−関連神経障害、神経損傷、神経退行および脳卒中からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項7】
前記胃腸障害が、胃食道逆流疾患、胃十二指腸潰瘍およびクローン病からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項8】
前記呼吸器疾患が、喘息、慢性閉塞性肺疾患および咳からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項9】
前記神経性症/アレルギー性/炎症性皮膚病が、乾癬、掻痒感、痒疹および皮膚刺激からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項10】
前記心臓疾患が、心筋虚血であることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項11】
前記発毛関連障害が、多毛症、悪臭および脱毛症からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項4に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項12】
前記メイラードペプチドが、TRPV1活性を調節する調節剤として作用することを特徴とする、請求項1に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項13】
前記メイラードペプチドが、TRPV1を活性化させる作用剤として作用することによって、TRPV1の活性を調節する調節剤として作用することを特徴とする、請求項12に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項14】
前記メイラードペプチドが、TRPV1を活性を抑制する拮抗剤として作用することによって、TRPV1の活性を調節する調節剤として作用することを特徴とする、請求項12に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項15】
前記メイラードペプチドが、
長期熟成在来式醤油の原液を遠心分離して沈殿物を除去する工程(工程1)、
前記工程1で得た長期熟成在来式醤油から分子量が500〜10,000のペプチド画分を得る工程(工程2)、および
前記工程2で得たペプチド画分をゲルろ過クロマトグラフィーを遂行してメイラードペプチドを得る工程(工程3)からなる方法で製造されることを特徴とする、請求項1に記載のTRPV1活性関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項16】
長期熟成在来式醤油から分離したメイラードペプチドを有効成分として含む炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項17】
前記炎症関連疾患が、リウマチ熱、インフルエンザ、風邪、首の痛み、頭痛、歯痛、捻挫、神経痛、滑膜炎、リウマチ性関節炎、退行性関節疾患、痛風、強直性脊椎炎、乾癬および皮膚炎からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項16に記載の炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。
【請求項18】
前記メイラードペプチドが、COX−2活性を阻害することを特徴とする、請求項16に記載の炎症関連疾患の予防または治療のための薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−510144(P2013−510144A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537825(P2012−537825)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007845
【国際公開番号】WO2011/056033
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(508092761)コリア フード リサーチ インスティチュート (2)
【出願人】(511109331)エスエヌユー アール&ディービー ファウンデーション (3)
【氏名又は名称原語表記】SNU R&DB FOUNDATION
【Fターム(参考)】