説明

長繊維不織布およびその製造方法

【課題】生分解性のポリマーを主成分とし、環境に対する負荷が低いとともに、優れた柔軟性と力学特性を有し、生分解が進んだ後の廃棄が容易な長繊維不織布およびその製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルとポリアミドとのブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを含んで構成されたウェブを仮熱圧着した後、三次元交絡処理によって前記ウェブを構成する長繊維を相互に三次元的に交絡し、全体として一体化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステルを主成分とし、優れた柔軟性と力学的特性を有する長繊維不織布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自然資源を原料とした生分解性ポリマーの研究が活発となっている。中でも、力学的特性やコスト等の面から注目を集めているのが脂肪族ポリエステルの一種であるポリ乳酸(以下、PLA)である。しかしながら、このPLAでさえ、実用化にあたっては力学的特性および柔軟性に課題があり、これらが要求される用途、例えば土木資材や衛生材料用素材、ワイピングクロス、使い捨ておしぼりなどへの製品展開拡大の障害となっている。そこでPLAあるいはPLAを主成分とする生分解性ポリマーで構成された不織布の力学的特性の向上について種々の検討がなされている。
【0003】
これまでにポリ乳酸を用いた不織布として、例えば特許文献1にはポリ乳酸を主成分とする短繊維不織布が示されており、また、特許文献2にはポリ乳酸短繊維不織布の製造に有用なポリ乳酸の短繊維が開示されている。しかし、このような短繊維不織布は、繊維の溶融紡糸から不織布化までに多数の製造工程を要することから、製造コストの低減に限界がある。特許文献3には、生分解性繊維からなり、メルトブロー法により形成された不織布と、生分解性繊維からなり、水流絡合法及び/又はニードルパンチ法により形成された不織布を、超音波により融着一体化させた濾過材が開示されているが、これも多数の製造工程を要し、製造コストが高くなるという問題がある。
【0004】
特許文献4には、メルトフローレート値が1〜100g/10分であるポリ乳酸系重合体からなるウェブに部分的熱圧着点を形成し、次いで、三次元交絡を施すことによって全体として一体化したポリ乳酸系不織布が開示されている。しかし、ここで開示されている不織布の力学的特性は十分なものではなく、使用時に不織布が破断しやすいという問題がある。
【0005】
特許文献5には、ポリ乳酸系重合体にて形成された長繊維不織布ウェブ層と、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された長繊維不織布ウェブ層とが積層され、かつ、構成繊維同士の三次元交絡により一体化された不織布が開示されている。しかし、芳香族ポリエステル系重合体にて形成された層が生分解性を有しないため、不織布の使用量が多い場合、廃棄物の取り扱いが困難になる可能性がある。
【0006】
また、特許文献6には、鞘成分が生分解性熱可塑性ポリマー、芯成分がポリエステルである芯鞘型複合長繊維よりなり、この長繊維の一部が切断されていることを特徴とした長繊維不織布が開示されている。しかし、ここで開示されている不織布は、繊維が切断されているために力学特性が十分なものではなく、十分な力学特性を得るために切断箇所を少なくすると、生分解が進んだ後でもシートが形態を保持しており、これも廃棄時の取り扱いが困難になるという問題がある。
【特許文献1】特開平7−126970号公報
【特許文献2】特開平6−212511号公報
【特許文献3】特開平10−314520号公報
【特許文献4】特開平9−95850号公報
【特許文献5】特開2006−57197号公報
【特許文献6】特開2004−100108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の背景に鑑み、生分解性のポリマーを主成分としながら、優れた柔軟性と力学特性を有し、生分解が進んだ後の廃棄が容易な長繊維不織布およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の長繊維不織布は、脂肪族ポリエステル中にポリアミドを分散したブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを含み、該フィラメントが三次元交絡処理によって相互に三次元的に交絡され、全体として一体化されていることを特徴とする長繊維不織布であることを特徴とするものである。
【0009】
かかる本発明の長繊維不織布の好ましい態様は、下記の通りである。すなわち、
(1)前記長繊維不織布が、下記式(I)の関係を満足すること。
120≧Y×Z/X≧50 ・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)
(2)前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度が1〜10デシテックスであること。
【0010】
(3)前記不織布のJIS L 1906に基づいて測定される目付が20〜1000g/mであること。
【0011】
(4)前記ブレンドポリマーの脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率が50:50〜95:5であること。
【0012】
(5)前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの断面において、ポリアミド成分が平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスの太さで分散していること。
【0013】
(6)前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であり、前記ポリアミドがナイロン6であること。
【0014】
(7) 三次元交絡処理が、加圧液体流および/またはニードルパンチによるものであること。
【0015】
また、本発明の長繊維不織布の製造方法は下記の通りである。すなわち、
(A)ポリ乳酸とナイロン6を含むブレンドポリマーを220〜260℃の温度で1〜10デシテックスの単繊維繊度となるように溶融紡糸し、口金から押出された糸条群をエジェクターで吸引して、該エジェクターから噴射された糸条群を下方に配設された捕集装置でネット上に捕集し、不織布ウェブの目付が20〜400g/mの範囲となるように形成されたウェブを70〜120℃の温度に加熱した1対のロールによって仮熱圧着した後、三次元交絡処理によって長繊維を相互に三次元的に交絡させ、全体として一体化することを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
および、
(B)前記(A)において、仮熱圧着させて得られたウェブを複数枚積層した後、三次元交絡処理によって長繊維を相互に三次元的に交絡させ、全体として一体化することを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、環境負荷の低い原料である脂肪族ポリエステルを主たる成分の一つとして含みながら、優れた柔軟性と引張強度、引張伸度などの力学特性に優れ、生分解後の廃棄性が容易な長繊維不織布およびその製造方法を提供することができる。また、ここで得られた不織布は、土木用資材、おむつや生理用品などの衛生材料用素材、使い捨ておしぼり、ワイピングクロスなど、柔軟性と力学特性が要求される用途に有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の不織布は、熱可塑性フィラメント不織布からなるものであり、かかる熱可塑性フィラメント不織布を構成する熱可塑性フィラメントとして、脂肪族ポリエステルとポリアミドがブレンドされたブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを用いたところに特徴を有するものである。
【0018】
本発明でいう脂肪族ポリエステルは、生分解性の脂肪族ポリエステルであれば特に限定されないが、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシブチレートバリレート、あるいはこれらの共重合体や変成物を、単独またはブレンドして用いることができる。なかでも紡糸性、力学的特性が良好であり、かつ植物由来のデンプンからの合成が可能であるため環境影響が小さい、ポリ乳酸が最も好ましいものである。かかるポリ乳酸としては、ポリ(D−乳酸)と、ポリ(L−乳酸)と、D−乳酸とL−乳酸の共重合体、あるいはこれらのブレンド体(ステレオコンプレックスを含む)が好ましいものである。
【0019】
かかるポリ乳酸の重量平均分子量は5万〜30万が好ましく、より好ましくは10万〜30万である。重量平均分子量が5万を下回る場合は、繊維の強力が低くなる傾向があり、また、重量平均分子量が30万を越える場合は、粘度が高いためノズルから押し出したポリマーの曳糸性が乏しく、高速延伸ができにくくなり、究極的には未延伸状態になり、十分な繊維強度を得ることができない傾向がでてくる。
【0020】
また、本発明に用いる脂肪族ポリエステルは、分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖剤により末端封鎖されてなるものが好ましい。脂肪族ポリエステルの分子鎖末端のカルボキシル基の一部、またはすべてが末端封鎖されることにより、加水分解によるフィラメント、さらにはシートの強度低下が抑制される。末端封鎖剤の添加により脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端濃度を、0〜20当量/tonとすることが好ましく、0〜15当量/tonとすることがより好ましく、0〜10当量/tonとすることがさらに好ましい。ここで脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端濃度は、精秤したサンプルをo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液にて滴定することにより求めることができる。
【0021】
本発明にて用いられる脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤としては、何ら制限されるものではないが、カルボジイミド化合物や、イソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物が好ましいものである。これら末端封鎖剤の添加量は、脂肪族ポリエステルに対して、0.05〜10wt%が好ましい範囲であり、0.1〜7wt%がさらに好ましい範囲である。
【0022】
本発明にて脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるカルボジイミド化合物としては、特に限定されるものではないが、モノカルボジイミド化合物が用いられる場合は、5%重量減少温度(以下、T5%と示す)が170℃以上のモノカルボジイミド化合物であることが好ましく、T5%が190℃以上のモノカルボジイミド化合物であることがより好ましい。かかるモノカルボジイミド化合物のT5%が170℃未満の場合、モノカルボジイミド化合物が紡糸時に分解および/または気化し、糸切れの増加や製品品位の悪化が発生する傾向であり好ましくない方向である。さらにはモノカルボジイミド化合物が脂肪族ポリエステルのカルボキシル基末端に有効に反応、作用せず十分な耐加水分解性の向上効果を得られない傾向もあり好ましくない。
【0023】
なお、ここで5%重量減少温度とは、マックサイエンス(MACSCIENCE)社製“TG−DTA2000S”TG−DTA測定機により、試料重量10mg程度、窒素雰囲気中にて昇温速度10℃/分として測定した時の、測定開始前の試料重量に対して重量が5%減量したときの温度として求めた温度である。
【0024】
本発明において末端封鎖剤として用いることのできるモノカルボジイミド化合物の例としては、例えば、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジ−tert.−ブチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N’−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミドなどが挙げられる。末端封鎖剤として用いられるモノカルボジイミド化合物は、1種の単独使用であっても複数種の混合物であってもよいが、耐熱性および反応性や脂肪族ポリエステルとの親和性の点でN,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICと記す)が好ましく、複数種のモノカルボジイミド化合物を併用する場合は、末端封鎖剤として用いるモノカルボジイミド化合物の総量のうち50%以上がTICであることが好ましい。
【0025】
かかるモノカルボジイミド化合物により末端カルボキシル基を封鎖する方法としては、脂肪族ポリエステルの溶融状態でモノカルボジイミド化合物を末端封鎖剤として適量反応させることで得ることができるが、脂肪族ポリエステルの高重合度化、残存低分子量物の抑制などの観点から、ポリマーの重合反応終了後にモノカルボジイミド化合物を添加、反応させることが好ましい。上記したモノカルボジイミド化合物と脂肪族ポリエステルとの混合、反応としては、例えば、重縮合反応終了直後の溶融状態の脂肪族ポリエステルにモノカルボジイミド化合物を添加し攪拌・反応させる方法、脂肪族ポリエステルのチップにモノカルボジイミド化合物を添加、混合した後に反応缶あるいはエクストルーダなどで混練、反応させる方法、エクストルーダで脂肪族ポリエステルに液状のモノカルボジイミド化合物を連続的に添加し、混練、反応させる方法、モノカルボジイミド化合物を高濃度含有させた脂肪族ポリエステルのマスターチップと脂肪族ポリエステルのホモチップとを混合したブレンドチップをエクストルーダなどで混練、反応させる方法などにより行うことができる。
【0026】
本発明において加水分解抑制剤として用いられるカルボジイミド化合物は、特に限定されるものではないが、ポリカルボジイミド化合物が用いられる場合は、下記化学式[化1]で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、および下記化学式[化2]で表されるイソホロンジイソシアネート、および、下記化学式[化3]で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネートの少なくとも1種に由来し、分子中に2以上のカルボジイミド基を有し、かつそのイソシアネート末端がカルボン酸で封止されてなるポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
【化2】

【0029】
【化3】

【0030】
ポリカルボジイミド化合物は、上記化学式の[化1]で表される4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、HMDIと略記)、または、上記化学式の[化2]で表されるイソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略記)、または、上記化学式の[化3]で表されるテトラメチルキシリレンジイソシアネート(以下、TMXDIと略記)のいずれか1種に由来するカルボジイミド、もしくは上記化合物の2種混合物、又は3種混合物のいずれかの混合物に由来するカルボジイミドで、分子中に2以上のカルボジイミド基、好ましくは5以上のカルボジイミド基を有するものを主成分とする。
【0031】
なお、ポリカルボジイミド分子中のカルボジイミド基の数の上限は20である。このようなカルボジイミドは、HMDI、またはIPDI、またはTMXDI、または上記化合物の2種混合物、または3種混合物を原料とする脱二酸化炭素反応を伴うカルボジイミド化反応により製造することができる。なお、これらの中でも、得られた繊維の力学的特性が優れているという点で、HMDIを50重量%以上含むカルボジイミドが好ましく、HMDIを80重量%以上含むカルボジイミドがより好ましい。
【0032】
また、本発明において使用されるポリカルボジイミド化合物としては、脂肪族ポリエステル樹脂中に未反応のポリカルボジイミド化合物が存在しても、熱安定性に優れるために、フィラメント化する際の紡糸性悪化や刺激性ガスの発生を抑えることができることから、イソシアネート末端がカルボン酸を用いて末端を封止されたものであることが好ましい。かかるカルボン酸の中でも、好ましく用いられるものは、モノカルボン酸であり、例えばシクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、無水トリメリット酸、2−ナフトエ酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、2−フル酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、メタクリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ケイ皮酸、グリセリン酸、アセト酢酸、ベンジル酸、アントラニル酸等が挙げられ、これらの中でも最も好ましいのはシクロヘキサンカルボン酸である。
【0033】
なお、未反応のポリカルボジイミド化合物の熱劣化によって生じる熱分解ガスの発生量を減じるため、ポリカルボジイミド化合物の添加量を、カルボジイミド基当量として脂肪族ポリエステルのトータルカルボキシル基末端量の2倍当量以下に制御することが好ましい。かかるポリカルボジイミド化合物の添加量は、より好ましくはトータルカルボキシル基末端量の1.5倍当量以下であり、さらに好ましくは1.2倍当量以下である。
【0034】
本発明において、脂肪族ポリエステルの末端封鎖剤として用いられるイソシアヌル酸を基本骨格とするグリシジル変性化合物とは、下記化学式[化4]で表されるものである。
【0035】
【化4】

【0036】
(ここで、R〜Rのうち、少なくとも1つはグリシジルエーテル若しくはグリシジルエステルであり、残りは水素、炭素原子数1〜10のアルキル基、水酸基、アリル基等の官能基)
かかるグリシジル変性化合物としては、上記化学式[化4]で表される化合物であれば特に限定されるものではないが、上記化学式[化4]のRのうち、いずれか一つがグリシジル基、残る二つがアリル基であるジアリルモノグリシジルイソシアヌレートや、上記化学式[化4]のR〜Rのうち、いずれか二つがグリシジル基、残る一つがアリル基であるモノアリルジグリシジルイソシアヌレートや、上記化学式[化4]のR〜Rの全てがグリシジル基であるトリス(2,3−エポキシプロピル)イソシアヌレートなどが好ましく用いられる。
【0037】
なお、前記脂肪族ポリエステルには、結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0038】
本発明において脂肪族ポリエステルとブレンドポリマーを構成するポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6−10、ナイロン12、あるいはこれらの共重合体や変性物を単独またはブレンドして用いることができる。かかるポリアミドの選定にあたっては、脂肪族ポリエステルとの融点差の少ないものを選ぶことが好ましい。
【0039】
なお、かかるポリアミドには、結晶核剤や艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、親水剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。本発明において最も好ましいブレンドポリマーは、脂肪族ポリエステルとして前述のポリ乳酸を使用し、ポリアミドとしてナイロン6を使用してなるものである。かかるナイロン6は融点が220℃とポリ乳酸の融点170℃に対し融点差が少なく、親和性も高く複合紡糸した場合の紡糸性がよいため特に好ましい。さらに、融点差が少ないため仮熱圧着する際に一方のポリマーが過度に溶融することがなく、三次元交絡を施す工程で糸切れ、針折れなどのトラブルが発生しにくく、工程安定性が損なわれない点からも好ましい。
【0040】
本発明におけるブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントは、その断面方向において、ポリアミドが平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスという微細な太さで分散してなることが好ましい。ポリアミドの平均単繊維繊度が上記範囲内で分散していれば、不織布の引張強度、引張伸度などの力学特性が十分となるので好ましい。また、ポリアミドの平均単繊維繊度が上記範囲内で分散していると、脂肪族ポリエステル成分が生分解されやすくなる傾向であり、さらには生分解後にシートがばらけやすくなるため、廃棄処理が容易になるため好ましい方向である。かかる分散したポリアミドの平均単繊維繊度は2×10−7〜5×10−4デシテックスの範囲であるのがより好ましく、9×10−7〜4×10−4デシテックスの範囲であるのが最も好ましい。
【0041】
また、本発明においてブレンドされる脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率は、50:50〜95:5の範囲が好ましく、さらに好ましくは55:45〜90:10であり、最も好ましくは、60:40〜85:15である。ポリアミドの重量比率が50を越えて多くなる場合は、脂肪族ポリエステルを使用することにより環境負荷を低減させるという効果が小さくなるため好ましくない方向である。
【0042】
また、ポリアミドの重量比率が5未満の場合は、ウェブを構成する繊維の伸度が低くなりすぎるため、三次元絡合を施す工程で繊維が切断されやすくなったり、得られた不織布の引張強度、引張伸度、引裂強力などの力学特性が不十分なものとなり、また、脂肪族ポリエステル中にポリアミドを分散させることにより脂肪族ポリエステルが生分解されやすくなる効果が小さくなるため好ましくない方向である。
【0043】
なお、本発明におけるポリアミド成分の平均単繊維繊度は、以下の方法で求められる。すなわち、試料からランダムに小片サンプルを10個採取し、エポキシ樹脂に包埋して断面方向に超薄切片として切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM、例えば日立製H7100FA型)で、4万〜10万倍の倍率で写真を撮影する。各サンプルからポリアミド成分の断面積の大きさを20本ずつ、計200本測定して平均値を算出し、これを円形繊維の繊維径に換算し、ポリマーの密度で補正して求められるものである。なおTEM観察において、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとが識別しにくい場合には、適宜試料を染色してもよい。
【0044】
本発明において、ポリアミドを脂肪族ポリエステル中に分散させる方法としては、溶融混練押出機や静止混練器等によって混練することが好ましい。また混練性を高める方法として、ポリアミドと脂肪族ポリエステルの組み合わせも重要であり、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましい。かかる相溶性の指標として、ポリアミドと脂肪族ポリエステルの溶解度パラメーター(SP値)の差を、1〜9(MJ/m1/2とすることが好ましい。
【0045】
ここでSP値とは、(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。
【0046】
かかるポリアミドと脂肪族ポリエステルのSP値の差を1〜9(MJ/m1/2の範囲にすれば、ポリマー同士の相溶性が良くなるためポリアミドの分散性が良くなり、さらには紡糸安定性も向上する傾向となるため好ましい方向である。例えば、前述のポリ乳酸とナイロン6の組み合わせは、SP値の差が2(MJ/m1/2であり、相溶性の点からも好ましいものである。
【0047】
またさらに、かかるポリアミドとして、その溶融粘度が、脂肪族ポリエステルの溶融粘度より低くいものを選択して使用すると、剪断力によりポリアミドが変形しやすく、分散しやすくなるので好ましい。
【0048】
上記ブレンドポリマーを熱可塑性フィラメント不織布の原料ポリマーとして用いるが、熱可塑性フィラメント不織布を後述するスパンボンド法で製造する場合には、ブレンドと紡糸を連続して行ってもよい。また、かかる熱可塑性フィラメント不織布には、本発明の効果を損なわない範囲でかかるブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメント以外の熱可塑性フィラメントを含んでいてもよい。
【0049】
また、本発明におけるブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度は1〜10デシテックスであることが好ましく、より好ましくは1〜8デシテックス、さらに好ましくは1〜6デシテックスである。かかるフィラメントの単繊維繊度が1デシテックス未満の場合、操業時の紡糸性が不安定となる、すなわち、例えば糸切れが増加傾向となるため好ましくない。また、単繊維繊度が10デシテックスを超える場合は、溶融紡糸時に冷却固化する際、冷却性に劣るものとなり、繊維間の融着による開繊性不良やウェブのムラが発生する傾向となり、また、ウェブの風合いも硬くなるため好ましくない。
【0050】
なお、ここでいう単繊維繊度は、試料からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の0.01μmの位を四捨五入して算出した繊維径を、ポリマーの密度で補正し、小数点第一位を四捨五入して求められるものである。
【0051】
またさらに、かかる熱可塑性フィラメントの断面形状は何ら制限されるものではなく、丸形、楕円型、中空丸形、扁平型、あるいはX形、Y形、多葉形等の異形、等が好ましく使用されるが、製造が簡便であり、特に、三次元絡合の方法としてニードルパンチを用いる場合に針のダメージを受けにくい点から、丸形形状が最も好ましいものである。
【0052】
本発明における熱可塑性フィラメント不織布の目付は、20〜1000g/mであることが好ましい。かかる目付が20g/mを下回ると、不織布の目付ムラおよび引張強力などの機械的強力に劣り、実用に耐えなくなる傾向が出てくる。逆に、目付が1000g/mを超えると柔軟性に劣ったものとなるばかりでなく、コスト高になる傾向であるため好ましくない。より好ましい不織布の目付は25〜900g/m、さらに好ましくは30〜800g/mの範囲である。
【0053】
ここで、不織布の目付は以下の方法で求めるものである。すなわち、縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求めるものである。
【0054】
また、本発明における熱可塑性フィラメント不織布においては、該不織布の目付と該不織布の引張強力、該不織布の引張伸度および該不織布の引裂強力が、次式(I)を満たす関係にあることが好ましい
120≧Y×Z/X≧50 ・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)である。
【0055】
ここで、Y×Z/Xは、不織布の目付100g/mあたりの引張強力と伸度の積を示すものであり、不織布の強度が高く、また、伸度が高いほど高い数値となる。すなわち不織布の力学特性と柔軟性の指標となるものである。
【0056】
上記式(I)において、より好ましい範囲は100≧Y×Z/X≧55、さらに好ましい範囲は90≧Y×Z/X≧60である。上記式(I)において、Y×Z/X≦120を満たさない場合は、不織布の強度は十分であるが、風合いが硬くなる傾向であるため好ましくない。また、上記式(I)において、Y×Z/X≧50を満たさない場合は、不織布の強度が不十分となるため好ましくない。
【0057】
ここで、引張強力と引張伸度は以下の方法で求めるものである。すなわち、不織布の縦方向(シート長さ方向)および横方向(シート幅方向)のそれぞれについて、幅5cm×長さ30cmの試験片を10点採取する。試験片を定速伸長型引張試験機にて、つかみ間隔20cm、引張速度10±1cm/minで引張試験を実施し、破断するまでの最大荷重時の強さ(N)および最大荷重時の伸びをそれぞれ0.1N、1mmの位まで測定する。
【0058】
引張強力については、ここで得られた最大荷重を、小数点第二位を四捨五入し、試験片幅5cmあたりの強力(N/5cm)として求める。引張伸度(%)については測定で得られた伸びを試験片長さ(20cm)で除し、小数点以下第二位を四捨五入して求める。
【0059】
つぎに、引張強力および引張伸度の縦方向、横方向それぞれの平均値を算出し、小数点第1位を四捨五入する。引張強力の縦方向および横方向のうち、いずれか値の大きい方をその不織布の引張強力(N/5cm)とし、これに対応する引張伸度(%)をその不織布の引張伸度(%)とする。
【0060】
本発明において熱可塑性フィラメント不織布を構成する熱可塑性フィラメントは、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1〜5.0wt%含有することが好ましい。かかる脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを0.1wt%以上含有することにより、フィラメント表面の摩擦抵抗が小さくなり、エンボスロールおよび/またはカレンダーロールからの不織布の剥離性が向上し、安定した不織布の搬送が可能となり好ましいものである。また含有量を5.0wt%以下とすることにより、紡糸性の悪化も発生しにくい傾向であり好ましい。より好ましい含有量の範囲は0.3〜4.0wt%、さらに好ましい範囲は0.5〜2.0wt%である。なお、本発明においては、脂肪族ビスアミドまたはアルキル置換型の脂肪族モノアミドをそれぞれ単独で用いてもよいし、両者を併用して含有するものでもよい。
【0061】
本発明において用いられる脂肪族ビスアミドは特に制限されるものではないが、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド、および芳香族系脂肪酸ビスアミド等であり、例えばメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスバルミチン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0062】
本発明において用いられるアルキル置換型の脂肪族モノアミドとしては、飽和脂肪酸モノアミドや不飽和脂肪酸モノアミド等のアミド水素をアルキル基で置換した構造の化合物を示し、N−ラウリルラウリル酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等が挙げられ、これらを複数種類混合して使用してもよい。
【0063】
脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを熱可塑性フィラメントに含有させるにあたっては、熱可塑性フィラメントの表面に付与する等の方法もあるが、原料となるブレンドポリマーに添加する方法が好ましい。脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを、紡糸するための原料となるブレンドポリマーに添加する方法は何ら制限されるものではないが、予め原料樹脂と添加する物質を加熱溶融混合したマスターチップを作製し、これを紡糸の際に原料樹脂に必要量添加して、添加物質量を調整する方法が最も好ましい。
【0064】
本発明の熱可塑性フィラメント不織布は、連続したフィラメントからなる長繊維不織布であり、生産効率が高く、かつ機械的強度や寸法安定性に優れる点から、スパンボンド法により得られる長繊維不織布が最も好ましい。
【0065】
かかるスパンボンド法とは、溶融した原料ポリマーをノズルより押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸してフィラメントとし、これを帯電開繊し移動コンベア上に堆積捕集させて繊維ウェブとし、この繊維ウェブを機械的絡合、熱接着、バインダー樹脂接着、あるいはこれらの方法を組み合わせることにより一体化してシートとする方法である。
【0066】
本発明においては原料ポリマーを溶融させる温度は、脂肪族ポリエステルの融点より30〜90℃高いことが好ましく、40〜80℃高いことがより好ましく、50〜70℃高いことが最も好ましい。かかる溶融温度と脂肪族ポリエステルの融点の差が30℃未満の場合は、原料の溶融粘度が高くなり過ぎ、紡糸性が不安定となる傾向であり、好ましくない方向である。また、かかる溶融温度と脂肪族ポリエステルの融点の差が90℃を超える場合は、特に脂肪族ポリエステルの熱分解が激しくなる傾向であり、好ましくない方向である。
【0067】
さらにフィラメントを吸引延伸する紡糸の速度は、1500〜6000m/minが好ましいものである。かかる紡糸速度が1500m/minを下回る場合は、延伸不足によりフィラメントの強度が不十分となる場合があり好ましくない。また、かかる紡糸速度が6000m/minを超える場合は、紡糸の安定性が悪くなる傾向であり、好ましくない。より好ましい紡糸速度の範囲は2000〜5000m/minである。
【0068】
本発明において繊維ウェブを一体化する方法としては、熱可塑性フィラメントを構成する成分の中で最も低い融点を有する重合体の融点よりも5〜70℃低い温度に加熱された1対のロールでウェブを仮熱圧着したのち、機械的絡合により三次元交絡処理を行う方法が好ましい。ここで機械的絡合とは、加圧液体流によりフィラメントを絡合させる、いわゆるウォータージェットパンチ処理および/または突起を有する針でフィラメント同士を絡めるニードルパンチ処理が好ましい。
【0069】
ここで、前記仮熱圧着する方法は特に限定されるものではなく、熱ロールを使用する方法、あるいは超音波発振装置とエンボスロールを使用する方法などを適宜選択すればよいが、前者の熱ロールを使用する方法が特に好ましい形態である。熱ロールを使用して仮熱圧着する方法としては、一対のフラットロール、エンボスロールとフラットロールを組み合わせたもの、一対のエンボスロールなどを適宜使用することができるが、少なくとも一方のロールをエンボス加工することにより仮熱圧着部を部分的に形成することが三次元交絡工程での繊維切断を抑制する上で好ましい形態である。このとき、熱圧着の温度はフィラメントを構成する脂肪族ポリエステルの融点より50〜100℃低いことが好ましく、60〜90℃低いことがより好ましい。すなわち、かかる熱圧着の温度と脂肪族ポリエステルの融点の温度差が、50℃未満の場合は、熱接着が強くなり過ぎる傾向であり、逆に、100℃を上回る場合は、熱圧着が不十分となる場合があり好ましくない。
【0070】
ここで、部分的な仮熱圧着を施すにあたり、個々の熱圧着領域の形状としては丸型,楕円型,菱型,三角型,T字型,井型等、任意の形状を適宜使用することができる。さらに、部分的な仮熱圧着部の個々の圧着点の面積は0.2〜15mm2であることが好ましく、圧着点密度は2〜50点/cm2 であることが好ましい。さらに好ましくは、圧着点密度は4〜40点/cm2 であるのが良い。圧着点密度が2点/cm2 未満であると熱圧着後のウェブの形態保持性が向上せず、三次元絡合処理の際のウェブ取り扱い性が困難になるため好ましくない方向である。逆に、圧着点密度が50点/cm2 を超えると三次元交絡処理時の加工性に劣ったり、三次元交絡した不織布の風合いが硬くなる方向であるため好ましくない。また、ウェブの全表面積に対する全熱圧着領域の面積の比、すなわち圧着面積率は、3〜50%のあることが好ましい。仮熱圧着面積の割合が、不織布の全面積に対して3%未満である場合は、ウェブの形態保持性およびウェブ強力が小さいため、三次元絡合処理の際のウェブ取り扱い性が困難になるため好ましくない。また、仮熱圧着面積の割合が50%を超える場合は、不織布の風合いが硬くなり過ぎたり、三次元絡合処理において繊維が切断されやすく、得られる不織布の力学的特性が劣ったものになる傾向があるため好ましくない。より好ましい仮熱圧着面積率は5〜30%である。
【0071】
本発明において、三次元絡合処理は、加圧液体流によりフィラメントを絡合させる、いわゆるウォータージェットパンチ処理および/または突起を有する針でフィラメント同士を絡めるニードルパンチ処理が好ましい。
【0072】
ウォータージェットパンチ処理の場合、水は柱状流の状態で行うことが好ましい。柱状流を得るには、通常、直径0.05〜3.0mmのノズルから圧力1〜60MPaで噴出させる方法が好適に用いられる。また、表裏両面を、それぞれ1回以上処理することによって、絡合も適切に行われ、強度も十分な不織布を提供することができる。なお、繊維を効率的に絡合するため、少なくとも1回は10MPa以上の圧力で処理することが好ましく、15MPa以上がより好ましい。
【0073】
ニードルパンチ処理の場合は、針深度5〜30mm、針密度50〜4000回/cmの条件で行うのが好ましい。かかる針深度が5mm未満であると交絡が不十分なものとなる傾向があるため好ましくない。逆に、針深度が30mmを超えると生産性が悪くなるため好ましくない。また、かかる針密度が50回/cmを下回る場合は、絡合が不十分で強度が低くなり、さらには耐摩耗性が不十分なものとなる傾向であるため好ましくない。針密度が4000回/cmを超えると絡合は十分になるが、フィラメントの損傷が激しく不織布の強度が低下する傾向となるため好ましくない。より好ましい針密度は80〜3000回/cmである。なお、ニードルパンチ針は、単糸繊度、使用用途に応じ、その太さ、長さ、バーブ数、バーブ形状を適宜選択することができる。また、予めウェブに繊維と金属(ニードル)の動摩擦抵抗を抑制する油剤など平滑剤を付与した後に、ニードルパンチすることが繊維切断を抑制する上で好ましい形態である。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
【0075】
(1)ポリマーの溶融粘度(poise)
東洋精機製作所(株)製キャピラログラフ1Bにより、ポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0076】
(2)融点(℃)
Perkin Elmer DSC−7を用いて2nd runでポリマーの溶融を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は20℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0077】
(3)重量平均分子量
ポリ乳酸の重量平均分子量は以下の方法で求めた。試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とし、これをWaters社製ゲルパーミテーションクロマトグラフ(GPC)Waters2690を用いて、25℃で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。各試料につき3回の測定を行い、平均値を算出し、千の位を四捨五入してそれぞれの重量平均分子量とした。
【0078】
(4)単繊維繊度(デシテックス):
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値の0.01μmの位を四捨五入して算出した繊維径を、ポリマーの密度で補正し、小数点第一位を四捨五入して求めた。
【0079】
(5)目付(g/m):
不織布から縦50cm×横50cmのサイズの試料を3個採取して各重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
【0080】
(6)ポリアミド成分の分散状態(平均単繊維繊度:デシテックス)
不織布からランダムに小片サンプルを10個採取し、エポキシ樹脂に包埋して断面方向に切削して超薄切片として切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM:日立製H7100FA型)で、4万〜10万倍の倍率で写真を撮影した。各サンプルからポリアミド成分の断面積の大きさを20本ずつ、計200本測定してそれらの平均値を算出し、これを円形繊維の繊維径に換算し、ポリマーの密度で補正してポリアミド成分の単繊維繊度を求めた。なお、TEM観察において、ポリアミドと脂肪族ポリエステルとが識別しにくい場合には、適宜試料を染色した。
【0081】
(7)引張強力(N/5cm)、引張伸度(%)
JIS L1906(2000年度版)の5.3.1を参考とし、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件でシート縦方向、横方向ともそれぞれ10点ずつの引張試験を行った。サンプルが破断した時の最大荷重を、小数点以下第二位を四捨五入した値をその試験片の引張強力とした。また、最大荷重時のサンプルの伸びを1mm単位まで測定し、これを試験片長さ(20cm)で除し、小数点以下第二位を四捨五入し、これをその試験片の引張伸度とした。次に、縦横各10点の試験片の引張強力および引張伸度から、縦横それぞれの平均値を算出した。この平均値は、小数点以下第一位を四捨五入して算出した。このとき、縦方向、横方向の引張強力のうち、いずれか値の大きい方をその不織布の引張強力:Yとし、またYに対応する引張伸度をZとした。これらY、Zの値と前記(5)で測定した目付:Xとの関係を、前述の式(I)に適合するものか検証した。
【0082】
(実施例1)
溶融粘度570poise(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点220℃のナイロン6(40重量%)、と重量平均分子量12万、溶融粘度300poise(240℃、剪断速度2432sec−1)、融点170℃のポリ(L−乳酸)(光学純度99.5%以上)(60重量%)を2軸押出混練機にて240℃で混練してブレンドポリマーチップを得た。このブレンドポリマーチップにエチレンビスステアリン酸アミドを0.5wt%添加し、以下に示すスパンボンド法により不織布ウェブを得た。すなわち、ブレンドポリマーチップを押出機にて紡糸温度240℃で溶融し、孔の形状が丸形であり、孔径が0.3mm、孔数が3200ホールである矩形口金から紡出した後、矩形エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に捕集し、熱圧着部(凸部)の面積率が16%であるエンボスロール及びフラットロールを使用して、温度80℃、線圧20kg/cmの条件で仮熱圧着し、単繊維繊度3.0デシテックス、目付150g/mの不織布ウェブを得た。
【0083】
次いで、この不織布ウェブにシリコーン系油剤(SM7060:東レ・ダウコーニング株式会社製)を約2重量%付与した後、針深度10mm、針密度150本/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維を三次元絡合させて長繊維不織布を得た。
【0084】
(実施例2)
不織布ウェブの目付が90g/mとなるようにネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で仮熱圧着した不織布ウェブを製造した。次いで、実施例1と同様の条件でシリコーン系油剤(SM7060:東レ・ダウコーニング株式会社製)を約2重量%付与した後、針深度8mm、針密度90本/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維を三次元絡合させて長繊維不織布を得た。
【0085】
(実施例3)
不織布ウェブの目付が160g/m、なるようネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で仮熱圧着した不織布ウェブを製造した。次いで、この仮熱圧着した不織布ウェブにシリコーン系の油剤を約2重量%付与した後、このウェブを3枚積層し、針深度15mm、針密度300本/cmの条件でニードルパンチを施して構成繊維を三次元絡合させて長繊維不織布を得た。
【0086】
【表1】

【0087】
得られた長繊維不織布の特性は表1に示したとおりであるが、実施例1〜3の不織布とも紡糸性、三次元絡合加工(ニードルパンチ加工)性は良好であり、またいずれの不織布も前記式(I)の関係を満たしており、良好な引張強度、引張伸度を有し、かつ風合いも柔軟なものであった。
【0088】
(比較例1)
実施例1記載のポリ乳酸樹脂を単成分で押出機により溶融し、単繊維繊度3.5デシテックス、不織布ウェブの目付が150g/mとなるよう吐出量、ネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で不織布ウェブを製造した。次いで、この不織布ウェブにシリコーン系の油剤を約2重量%付与した後、針深度10mm、針密度100本/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維を三次元絡合させて長繊維不織布を得た。
【0089】
得られた長繊維不織布の特性は表1に示したとおりであるが、柔軟性、力学特性に劣ったものであった。
【0090】
(比較例2)
実施例1記載のポリ乳酸樹脂を単成分で押出機により溶融し、単繊維繊度3.5デシテックス、不織布ウェブの目付が55g/mとなるよう吐出量、ネットコンベアーの移動速度を調整した以外は、実施例1と同様の条件で不織布ウェブを製造した。次いで、この不織布ウェブにシリコーン系の油剤を約2重量%付与した後、針深度8mm、針密度90本/cmの条件でニードルパンチを施し、構成繊維を三次元絡合させて長繊維不織布を得た。得られた長繊維不織布の特性は表1に示したとおりであるが、柔軟性、力学特性に劣ったものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル中にポリアミドを分散したブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントを含み、該フィラメントが三次元交絡処理によって相互に三次元的に交絡され、全体として一体化されていることを特徴とする長繊維不織布。
【請求項2】
前記長繊維不織布が、下記式(I)の関係を満足することを特徴とする請求項1記載の長繊維不織布。
120≧Y×Z/X≧50 ・・・(I)
ただし、X:不織布目付(g/m)、Y:不織布の引張強力(N/5cm)、Z:不織布の引張伸度(%)
【請求項3】
前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの単繊維繊度が、1〜10デシテックスであることを特徴とする請求項1または2いずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項4】
前記不織布のJIS L 1906に基づいて測定される目付が20〜1000g/mであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項5】
前記ブレンドポリマーの脂肪族ポリエステル:ポリアミドの重量比率が、50:50〜95:5であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項6】
前記ブレンドポリマーからなる熱可塑性フィラメントの断面において、ポリアミド成分が平均単繊維繊度1×10−7〜1×10−3デシテックスの太さで分散していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であり、前記ポリアミドがナイロン6であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項8】
前記三次元交絡処理が、加圧液体流および/またはニードルパンチによるものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の長繊維不織布。
【請求項9】
ポリ乳酸とナイロン6を含むブレンドポリマーを220〜260℃の温度で1〜10デシテックスの単繊維繊度となるように溶融紡糸し、口金から押出された糸条群をエジェクターで吸引して、該エジェクターから噴射された糸条群を下方に配設された捕集装置でネット上に捕集し、不織布ウェブの目付が20〜400g/mの範囲となるように形成されたウェブを70〜120℃の温度に加熱した1対のロールによって仮熱圧着した後、三次元交絡処理によって長繊維を相互に三次元的に交絡させ、全体として一体化することを特徴とする長繊維不織布の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、仮熱圧着して得られたウェブを複数枚積層した後、三次元交絡処理によって長繊維を相互に三次元的に交絡させ、全体として一体化することを特徴とする長繊維不織布の製造方法。

【公開番号】特開2008−255505(P2008−255505A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−96088(P2007−96088)
【出願日】平成19年4月2日(2007.4.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】