説明

長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置及びその製造方法

【課題】含浸ダイの導入孔からの溶融樹脂の漏出防止及び溢出量の抑制を図る。
【解決手段】含浸室1に連続した強化繊維の繊維束4を連続して供給するための複数個の導入孔7が入口板2に設けられている含浸ダイにおいて、上記入口板2の各導入孔7に対しシャッター5が導入孔を個別に開閉可能に設けられており、入口板2の導入孔の下側にシャッター受け6が設けられており、前記シャッター5を該シャッター受け6に係合させた状態で上下動させることによって導入孔7を開閉することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維の繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させてなる長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、射出成形用途、押出成形用途及びプレス成形用途などに使用される長繊維強化熱可塑性樹脂材料は、含浸ダイによって強化繊維の繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させて製造される。この含浸ダイとして種々の形式の含浸ダイが知られているが、その代表的な含浸ダイの基本構造が、例えば特許文献1及び特許文献2等に開示されている。この含浸ダイは、図7に示すように上流側の入口板2に設けた導入孔7から繊維束4を溶融熱可塑性樹脂(以下、溶融樹脂ということもある)が収容されている含浸ダイの含浸室1に導入し、溶融樹脂供給管9から含浸室1に供給された溶融樹脂内を通過させて該繊維束4に溶融樹脂を含浸させた後、含浸ダイの下流側の出口板3に設けられている引抜孔8から抜き取るものである。
【0003】
上記含浸ダイにおいて、導入孔7及び引抜孔8は生産性をよくするために通常はそれぞれ入口板2及び出口板3に複数個(例えば2〜100個程度)が横方向に一定の間隔で並列して設けられており、各導入孔に繊維束4を挿通して含浸室1内に導入し溶融樹脂中を通過させることにより複数本の繊維束4に溶融樹脂が同時に含浸されるようになっている。この場合、これらの繊維束4に溶融樹脂が充分に含浸されるように、また空気が繊維束4に連行して導入孔7から侵入するのを防止するために、使用量に見合った溶融樹脂を含浸室1に供給して室内の溶融樹脂に一定の内圧が働くように制御し、溶融樹脂を導入孔7と繊維束4との隙間から僅かに溢出(オーバーフロー)させている。
【特許文献1】特開2003−305779号公報
【特許文献2】特開平11−42639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、長繊維強化熱可塑性樹脂材料を上記の如き含浸ダイを使用して製造する場合、含浸ダイに導入される又は導入された繊維束のモノフィラメントが作業中に切断され(いわゆる単糸切れ)、切断されたモノフィラメントが導入孔に詰まったり、又は切断されモノフィラメントが含浸ダイ内を引抜孔に移動して塞ぎ、繊維束の引っ張り抵抗が増すことによって破断を誘起しやすく、それよって次のような問題があった。
【0005】
すなわち、繊維束に対する溶融樹脂の含浸性と樹脂含浸繊維束の引き抜き性を容易にしたり、繊維束に連行して空気が導入孔から浸入しないよう導入孔と繊維束との隙間から溶融樹脂を僅かずつ溢出させるために、含浸ダイの内圧を若干高くなるように調整しながら溶融樹脂の供給量を調整している。その結果、繊維束に破断が発生すると、破断を生じた導入孔から溶融樹脂が漏出するために、その都度、作業を中断して修復する必要があり、作業効率の低下を招いていた。
【0006】
また、繊維束の破断等によって溶融樹脂の使用量と供給量の均衡が崩れると、含浸ダイ内の溶融樹脂の内圧分布が変わるため、導入孔によって繊維束に溶融樹脂の含浸不良が生じたり、ある特定の導入孔からの溶融樹脂の溢出量が増加してもこれを抑える方策がないため、溶融樹脂の無駄や含浸むらを発生しやすいという問題を有していた。
【0007】
本発明の目的は、繊維束の破断が生じても、導入孔からの溶融樹脂の漏出を臨機に防止して含浸ダイ内の内圧を常に一定に維持し、繊維束に対する溶融樹脂の含浸性が良好な長繊維強化熱可塑性樹脂材料を生産性よく製造できる製造装置及び製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、以下の長繊維強化樹脂材料の製造装置及び製造方法を提供する。すなわち、
本発明は、内部に溶融熱可塑性樹脂を収容する含浸室と、溶融熱可塑性樹脂を上記含浸室内に供給するための樹脂供給経路と、前記含浸室の上流側の入口板に設けられ、連続した強化繊維の繊維束を上記含浸室に連続して供給するための複数個の導入孔と、前記含浸室の下流側の出口板に設けられ、溶融熱可塑性樹脂が含浸された繊維束を外部に引き抜くための複数個の引抜孔と、を有する含浸ダイを備えた長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置において、上記入口板の各導入孔に対しシャッターが入口板の外側に導入孔を個別に開閉可能に設けられていることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、含浸ダイの入口板に設けられている複数個の導入孔から連続した強化繊維の繊維束を溶融熱可塑性樹脂が充填されている含浸室に導入し、溶融熱可塑性樹脂中を連続的に通過させて該繊維束に溶融熱可塑性樹脂を含浸し、溶融熱可塑性樹脂が含浸された繊維束を含浸ダイの出口板の引抜孔から引き抜く長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造方法において、前記入口板の各導入孔にシャッターを個別に開閉可能に設け、該シャッターによって導入孔から漏出又は溢出する溶融熱可塑性樹脂を制御することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、強化繊維の繊維束の導入孔が設けられている、含浸ダイの入口板に、導入孔を個別に開閉できるシャッターが設けられているので、作業中に繊維束の破断が生じてもその導入孔をシャッターで速やかに閉塞して導入孔からの溶融樹脂の漏出を防止できる。これにより、従来はその都度作業を中断していたが、本発明は破断の生じた導入孔を閉塞して作業を継続することができるので、作業効率の向上が得られる。
【0011】
また、各導入孔から溢出する溶融樹脂量を適正かつ均一に管理できるので、繊維束に溶融樹脂を均一に含浸させて高品質の長繊維強化樹脂材料を得ることができる。
【0012】
さらに、含浸ダイ内の溶融樹脂の内圧分布が変わっても、導入孔と繊維束との隙間から溢出する溶融樹脂量をシャッターで個別に管理できるので、繊維束に対する溶融樹脂の含浸性を良好にし高品質の長繊維強化樹脂材料を生産性よく製造できる。
【0013】
さらに、本発明はシャッターにシャッター受けを付設することにより、シャッターの開閉を容易にできるので、作業性が改善される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明において使用する強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、セラミック繊維などを単独あるいは併用して使用することができる。中でもガラス繊維はその特性とコストなどの点で広く使用されており好ましい。これらの強化繊維は、モノフィラメントを集束してなる繊維束として使用され、前記モノフィラメントとしては平均径4〜30μmが好ましく、より好ましくは7〜25μmである。モノフィラメントの平均径が4μm未満では、得られる長繊維強化樹脂材料がコスト高になり、30μm超では得られる長繊維強化樹脂材料の機械的物性が劣るために好ましくない。
【0015】
また、本発明で使用する繊維束は、100〜20,000本程度のモノフィラメントを集束したものである。集束するモノフィラメントが、100本未満であると生産性が劣り、20,000本を超えると繊維束が太くなるために溶融樹脂をモノフィラメント間に均一に含浸させることが困難になる。
【0016】
本発明において上記繊維束に含浸させる熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、一般に市販されているものが使用できるが、含浸性、コスト及び物性の点からポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスチレン系樹脂が適しており、特にポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂が好適である。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが好ましい。ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6.6、ナイロン6、ナイロン12、MXDナイロンなどが好ましい。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。これらの樹脂には着色剤、変性剤、酸化防止剤及び耐紫外線剤などの添加剤や、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどのフィラーを混合して用いても差し支えない。
【0018】
本発明で得られる長繊維強化樹脂材料は、例えば、太さが0.2〜4.0mmで長さが3〜50mmのペレット状や針状物もしくは線材状物、連続又は非連続のテープ又はシート状物が挙げられる。また、強化繊維の含有率は得られる長繊維強化樹脂材料の用途等によって変わり特定されないが通常は15〜80vol%である。強化繊維の含有率が上記範囲であれば、長繊維強化樹脂材料の高い補強効果が得られ、該長繊維強化樹脂材料から高強度の成形物を得ることができる。
【0019】
次に、本発明を好ましい実施の形態を図面に従ってさらに詳細に説明する。図面は本発明の好ましい長繊維強化樹脂材料製造装置の含浸ダイ(以下、本含浸ダイとする)を例示するものであるが、本発明はこれに限定されない。なお、図7の含浸ダイと同じ構成要素には同一の符号を付して説明する。
【0020】
図1は本含浸ダイを概略的に示す断面説明図である。本含浸ダイは、図1に示す如く溶融樹脂供給管9から供給される溶融樹脂を収容する含浸室1の上流側に設けられ、連続した強化繊維の繊維束4を含浸室1に導入するための導入孔7が設けられている入口板2と、含浸室1の下流側に設けられ、溶融樹脂が含浸された繊維束を含浸室1から引き出すための取出口8が設けられている出口板3とを具備し、上記導入孔7から含浸室1に導入された繊維束4を含浸室1の溶融樹脂内を通過させて該繊維束4に溶融樹脂を含浸させ、この繊維束4を出口板3の引抜孔8に送って余分の溶融樹脂をしごいて除いた後、含浸ダイから連続的に抜き取るように構成されている。以上の操作は含浸ダイの入口板2に設けられている全ての導入孔において連続的に行なわれる。上記入口板2及び出口板3は、含浸室1の外壁の一部としてそれぞれ含浸室1の上流側及び下流側の側壁を形成する部分を指す。
【0021】
本含浸ダイの上記構成は従来公知の含浸ダイと同様であり、入口板2に導入孔7を有する含浸ダイのいずれにも本発明を適用することができる。この含浸ダイは、鉄,ニッケル、クロムなどの各種金属メッキした鉄,ステンレススチールなどの材料から形成される。したがって、入口板2及び出口板3もこれらの材料で形成できる。含浸ダイの内部には中空の略箱状の含浸室1が形状されており、該含浸室1に溶融樹脂供給管9から溶融樹脂が供給される。含浸室1の大きさは特定されないが、縦10〜200cm、横10〜200cm、深さ1〜50cm程度であるので、入口板2及び出口板3は横20〜100cm、高さ1〜50cm程度となる。また、図示はしていないが含浸ダイには含浸室1内に繊維束4の解繊装置(例えば解繊バー)を設けたり、必要に応じて加熱あるいは保温装置を付設することができる。
【0022】
本含浸ダイの入口板2は、図2の示すように高さ方向のほぼ中央部分に複数個の導入孔7が横方向に所定の等間隔で並列して設けられている。この場合、導入孔7の個数は特定されないが、通常は生産性と実用性などの点から10〜100個程度が好ましく、またその間隔は5〜50mm程度が好ましい。導入孔7の形状としては、楕円状、矩形状又は円形状などが挙げられる。これらのうちで、図2に例示する楕円状の導入孔は繊維束4を横方向に広げた状態で含浸室1に導入できるので、溶融樹脂の含浸性をよくできる。この楕円状の導入孔7(円形状を含む)は横径が約1〜45mm程度であり、縦径が1〜10mm程度である。含浸室1の出口板3には、導入孔7と同一個数の引抜孔8が導入孔7に対応して設けられている。該引抜孔8の形状は円形が一般的であり、その孔径は約0.2〜4mm程度であるが、楕円形などの他の形状であってもよい。
【0023】
上記導入孔7の外側(図1の左側)の角部は、導入時における繊維束4の抵抗を小さくして繊維束4を円滑に導入できるように2R〜4Rの面取りが施される。この面取りは溶融樹脂が含浸された繊維束の取り出しを円滑にし糸切れや切断された繊維の目詰まりを防止するために、引抜孔8の含浸室側の角部に対しても同様に行われる。これらの面取りは孔の全周に対し行われるのが好ましい。
【0024】
さらに本含浸ダイの入口板2には、図2に示す如く導入孔7の上側にボルト孔10が各導入孔7に対応して設けられている。このボルト孔10は後述のシャッターをボルトで取り付けるためのもので、シャッターが導入孔7の真上に取り付けられるよう導入孔7の幅方向中心を通る垂線x上に設けるのが好ましい。また、導入孔7の下側には、シャッター受け(後述)を取り付けするためのボルト孔11が設けられている。
【0025】
図3は、図1の入口板2の導入孔7部分における縦断面図(図6のA−A部の断面部)である。本発明は、図3に示すように上記入口板2の導入孔7に各導入孔7を個別に開閉可能なシャッター5を設けることを特徴としている。このシャッター5は各導入孔7の上側に設けた前記ボルト孔10にボルト12によって取り付けられており、ボルト12を弛めた状態で上下させることによって導入孔7を開閉できる。さらに本発明の好ましい実施の形態では、該シャッター5の開閉操作を円滑かつ確実にするためにシャッター受け6が設けられる。本例では図3に示すように導入孔7の下側にボルト13で固定して設けている。以下、これらシャッター5及びシャッター受け6について図面に従って説明する。
【0026】
図4に示すようにシャッター5は、基部15と該基部15の下方に延在している脚部16とからなる板状体で全体的にT字状をなしている。このシャッター5の材質としては、例えばステンレススチール、ニッケルやクロムなどの各種金属メッキした鉄など入口板2と同じ材料が好ましく使用できる。厚さは特定されないが、1〜10mm程度が好ましい。厚さが1mmより薄くなると、変形が起こりやすくなるためにシャッターとして充分な機能が得られなくなるおそれが生じる。一方、10mmを超えるような肉厚のシャッターは、重くなってシャッターの開閉の操作性が悪くなるばかりでなくコスト面でも劣る。
【0027】
上記基部15の中央には遊嵌長孔14が縦方向に形成されており、この遊嵌長孔14にボルト12を挿通して入口板2の前記ねじ孔10にねじ留めすることによって、シャッター5を入口板2の外側の導入孔7の上側に取り付けできる。このシャッター5はボルト12を弛めた状態で前記遊嵌長孔14の範囲内で上下方向に可動であるので、入口板2の外面に沿って所定の位置まで動かして固定することによって導入孔7を個別に開閉できる。すなわち、各導入孔に対して取り付けられたシャッター5は、普段は脚部16の下端17が導入孔7より上に上昇した位置で、つまり導入孔7が開いた状態になる位置で入口板2にボルト12によって固定されているが、特定された導入孔7を閉塞したい場合には、該シャッターのボルト12を弛めてシャッター5の脚部16を導入孔7の途中又は最下位まで下降させて固定することによって、シャッター5の脚部16で該導入孔7の一部又は全部を塞ぐことができる。本発明において導入孔の開閉というときには、このように導入孔を完全に閉塞することはいうまでもなくその開口部分の一部だけを塞ぐことも意味している。
【0028】
上記シャッター5において、基部15の幅(シャッター5の幅)aは、導入孔7の間隔幅(ピッチ)に合わせてこれより小さい寸法に決められる。aが導入孔7の間隔幅より大きいと、隣接するシャッター同士が互いに制約を受けてシャッター5を入口板2の各導入孔に対し設けることができなくなるので、aは導入孔7の間隔幅より小さくすることが必要である。
【0029】
上記脚部16の寸法及び形状は特定されないが、シャッター5を下降させたとき導入孔7が脚部16で完全に閉塞されるように決められる。本例では図4に示すように矩形状の脚部16にして楕円状の導入孔7に適合させているがこれに限定されない。該シャッター5において、脚部16の幅bは導入孔7の横幅より僅かに大きいのが好ましい。bが導入孔7の横幅より大きくなっていると、脚部16が多少横方向にずれても導入孔7の幅方向を塞ぐことができるからである。また、シャッター5を充分に下降させたとき脚部16で導入孔7の全体を閉塞できるようにするために、脚部16の高さ(長さ)cは導入孔7の縦幅より大き目に選定されるのが好ましい。脚部16の下端17の外側角部は、繊維束を導入孔7に円滑に導入できるよう面取りされている。
【0030】
以上、本含浸ダイの好ましいシャッターの一例について説明したが、シャッター5の形状や上下動方法は導入孔7の開閉調節の目的が達成できる範囲で変更でき限定されない。例えば、図示はしないがシャッター5の形状はT字状のほか、溶融樹脂の漏出防止が可能であれば、例えば矩形状等も適宜採用することができる。また、基部15の上端を外側に折り曲げたり、あるいは基部15の上端に把持用突片を設けておくと、シャッター5の上げ下げが容易に得られる。また、本例ではシャッター5を上下動させるときはボルト12を弛めた状態でシャッター5の一部をつかんで行うが、例えばシャッター5を入口板2にねじ棒で懸持しておくと、ねじ操作でシャッター5を上下動させて所定の位置に正確に固定することができる。
【0031】
次にシャッター受け6について説明する。本発明においてシャッター5はシャッター受け6なしでも使用できるが、シャッター5の開閉をしやすくするため、図1及び図2に示すようにシャッター受け6を設けるのが好ましい。図5に示すようにシャッター受け6は上端部に凹部19を有する長尺の矩形板状体で、その横幅は入口板2の横幅とほぼ同じである。このシャッター受け6にはその長手方向に沿って複数の孔18が設けられており、この孔18にボルト13を通して入口板2の前記ボルト孔11(図2参照)に留めることによって、シャッター受け6を入口板2の導入孔7の下側に取り付けることができる。これにより、入口板2の外側には図3に示すようにシャッター5とシャッター受け6とが導入孔7を挟んで取り付けされる。
【0032】
上記シャッター受け6において、凹部19は入口板2に装着された各シャッター5の脚部16が該凹部19に嵌合できるように形成される。このため凹部19はシャッター5の脚部16の間隔と同じ間隔で形成されており、またその形状寸法は脚部16の形状と実質的に同じであることが好ましい。具体的には、凹部19の幅は脚部16の幅bと同じか、又はそれより僅かに大きくなっている。その結果、導入孔7の上側に取り付けられているシャッター5の脚部16にシャッター受け6の凹部19を対応させて取り付けると、シャッター5は図5に鎖線で示すように脚部16がシャッター受け6の凹部19に嵌合した状態で凹部19の案内を受けながら上下動されるので、横方向のずれを生じることなく導入孔7をその脚部16で確実に開閉できる。凹部19の少なくとも下辺部20の外側角部は、繊維束4が導入しやすいように面取りされるのが好ましい。なお、本例ではシャッター受け6を1枚の板状体で形成しているが、シャッター受け6は複数個に分割してもよい。
【0033】
このように入口板2に取り付けされたシャッター5とシャッター受け6との関係を図6に従って更に詳しく説明する。図6は図3を左方向から見たときの一部の側面図で、図には1個のシャッターだけを示したが、他のシャッターもこれと同じである。図はシャッター5が開の状態を示している。図6に示す如くシャッター5とシャッター受け6が入口板2に固定されたとき、該シャッター受け6の凹部19に入口板2の導入孔7が入った状態となり、凹部19の下辺部20を該導入孔7の最下部とほぼ同一レベルに位置させ、またシャッター受け6の上端を導入孔7の最上部より僅かに上に位置させる。一方、シャッター5は脚部16の先部をシャッター受け6の上記凹部19に嵌合して、下端17が導入孔7の最上部とほぼ同じレベルまたはそれより上の位置で入口板2にボルト12によって固定されている。このように入口板2に取り付けられたシャッター5とシャッター受け6との間には、シャッター受け6の凹部19とシャッター5の脚部16とで包囲された孔空間21(図3参照)が形成される。この孔空間21は導入孔7と連通して繊維束4の導入路を形成し、通常作業時には繊維束4をこの導入路から含浸ダイに導入できる。
【0034】
次に、導入孔7をシャッター5で開閉する方法について図6に従って説明する。本発明においてシャッター5は繊維束の破断が生じた場合、あるいは導入孔7と繊維束との隙間から溢出する溶融樹脂量を抑制したい場合に開閉される。前者では導入孔7からの溶融樹脂の漏出を防ぐために、繊維束の破断が生じた導入孔7のシャッター5のボルト12を弛めて、脚部15の下端17がシャッター受け6の凹部19の下辺部20に当接するまでシャッター5を下降させ、この位置でシャッター5をボルト12で固定することによりシャッター5の脚部15で導入孔7を閉塞し溶融樹脂の漏出を防止する。
【0035】
また、後者では溶融樹脂の溢出量を抑えたい導入孔7のシャッター5を同様にボルト12を弛めて所定の位置まで下降させて固定する。これにより、導入孔7の上部分がシャッター5の脚部16によって塞がれるので、導入孔7の上部分における繊維束との隙間からの溶融樹脂の溢出が抑えられその溢出量を調節することができる。
【0036】
このように本発明によれば、繊維束が破断して溶融樹脂の漏出が生じた導入孔、又は含浸室内の溶融樹脂の内圧分布が変わり導入孔から溢出する樹脂量が増加した導入孔を、シャッターで個別に開閉調節できる。これにより、一部の導入孔に繊維束の破断が生じても、破断の生じた導入孔を閉塞して樹脂漏出を直ちに防止できるので、従来のように作業を中断することなく作業を継続することが可能になり作業効率の向上が得られる。また、各導入孔から溢出する溶融樹脂量を適正かつ均一に管理できるので、繊維束に溶融樹脂を均一に含浸させて高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂材料を得ることができる。
【0037】
さらに、シャッターだけでも導入孔の開閉ができるが、本例のようにシャッターにシャッター受けを付設することにより、シャッターの開閉作業が容易となるとともにシャッターの開閉を迅速に操作できるので、高い作業性が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、シャッターで導入孔を個別に開閉し導入孔からの溶融樹脂の漏出防止や溢出量の適正化を図ることができるので、高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂材料を生産性よく製造するのに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の好ましい実施形態である長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造用含浸ダイの概略断面説明図。
【図2】図1の入口板の正面図。
【図3】図1の導入孔部分の断面図。
【図4】好ましいシャッターの斜視図。
【図5】好ましいシャッター受けの正面図。
【図6】図1の含浸ダイの部分左側面図。
【図7】従来の含浸ダイの概略断面説明図。
【符号の説明】
【0040】
1:含浸室、 2:入口板、 3:出口板、
4:繊維束、 5:シャッター、 6:シャッター受け、
7:導入孔、 8:引抜孔、 9:溶融樹脂供給管、
10:ボルト孔、 11:ボルト孔、 12:ボルト、
13:ボルト、 14:遊嵌長孔、 15:基部、
16:脚部、 17:下端、 18:孔、
19:凹部、 20:下辺部、 21:孔空間、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶融熱可塑性樹脂を収容する含浸室と、溶融熱可塑性樹脂を上記含浸室内に供給するための樹脂供給経路と、前記含浸室の上流側の入口板に設けられ、連続した強化繊維の繊維束を上記含浸室に連続して供給するための複数個の導入孔と、前記含浸室の下流側の出口板に設けられ、溶融熱可塑性樹脂が含浸された繊維束を外部に引き抜くための複数個の引抜孔と、を有する含浸ダイを備えた長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置において、上記入口板の各導入孔に対しシャッターが入口板の外側に導入孔を個別に開閉可能に設けられていることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置。
【請求項2】
前記シャッターが入口板の導入孔の上側に設けられており、該シャッターを導入孔に対し上下方向に可動することによって導入孔を開閉できる請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置。
【請求項3】
前記入口板の導入孔の下側にシャッター受けが設けられており、前記シャッターを該シャッター受けに係合させた状態で上下動させることにより導入孔の開閉が行われる請求項2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置。
【請求項4】
前記シャッターは遊嵌長孔を有する基部と該基部の下方に延在する脚部とからなり、前記遊嵌長孔に通したボルトによって入口板に取り付けられボルトを弛めた状態で上下方向に可動になっており、前記シャッター受けは上端部に設けた凹部に導入孔が位置するように入口板に固定されており、前記凹部にシャッターの脚部を嵌合させて上下動させることにより該脚部で導入孔を開閉する請求項3に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造装置。
【請求項5】
含浸ダイの入口板に設けられている複数個の導入孔から連続した強化繊維の繊維束を溶融熱可塑性樹脂が充填されている含浸室に導入し、溶融熱可塑性樹脂中を連続的に通過させて該繊維束に溶融熱可塑性樹脂を含浸し、溶融熱可塑性樹脂が含浸された繊維束を含浸ダイの出口板の引抜孔から引き抜く長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造方法において、前記入口板の各導入孔にシャッターを個別に開閉可能に設け、該シャッターによって導入孔から漏出又は溢出する溶融熱可塑性樹脂を制御することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−175959(P2007−175959A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375625(P2005−375625)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(306014725)オーウェンスコーニング製造株式会社 (20)
【Fターム(参考)】