説明

長繊維強化熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】電気電子機器の部品材料に要求される高い難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性を有し、かつ薄肉成形が容易な樹脂組成物およびその成形品を提供するものである。
【解決手段】ポリアミド樹脂組成物100重量%に対して、
(A)ポリアミド樹脂、
(B)炭素繊維8〜40重量%、
(C)カーボンブラック2〜10重量%、
(D)有機リン系難燃剤13〜30重量%
を含有してなり、樹脂組成物中の成分(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性、成形加工性を兼ね備えた樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子機器の携帯化が進むにつれ、ますます高性能な成形品が求められてきている。機器を構成する部品、特に筐体には、誤作動防止のために必要な電波シールド性に加え、軽量化のために高強度・高剛性化を達成しつつ、かつ薄肉化が要求されている。また、難燃性を有することも重要であり、UL94規格に代表される燃焼性評価において、難燃グレード(例えばV−0)を有することも必要である。
【0003】
特許文献1には、炭素繊維、赤リン系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、カーボンブラックを含有する難燃性ナイロン樹脂組成物が開示されている。この方法によれば、高い難燃性、電磁波シールド性、薄肉成形性を達成できる。しかしながら、該組成物は赤リン系難燃剤を含有するため、その成形品が赤味を帯びてしまうことがしばしば課題となっている。赤リンは一般的に、難燃性付与効果に優れるが、その赤色によって調色ができないことが欠点といわれている。このため近年、有機リン系難燃剤が多く検討されている。
【0004】
特許文献2には、ポリアミド樹脂と(ジ)リン酸金属塩と特定の窒素化合物、補強充填材及び非補強充填材からなる難燃性ポリアミド樹脂組成物が開示されている。しかしながら、補強充填材として具体的な実施例に記載されているガラス繊維では低い電磁波シールド性が問題である。一方、補強充填材としての炭素繊維は一般記載としてのみ記載されている上に、本発明者の実験から、炭素繊維を配合しただけでは目的とする難燃性が得られないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−230117号公報
【特許文献2】特表2007−536402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、特に電気電子機器の部品材料に要求される高い難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性を有し、かつ薄肉成形が容易な樹脂組成物およびその成形品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂と、炭素繊維、カーボンブラック、有機リン系難燃剤を適当量配合することにより達成できることを見出した。すなわち上記課題は、
ポリアミド樹脂組成物100重量%に対して、
(A)ポリアミド樹脂、
(B)炭素繊維8〜40重量%、
(C)カーボンブラック2〜10重量%、
(D)有機リン系難燃剤13〜30重量%
を含有してなり、樹脂組成物中の成分(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
により解決される。
【0008】
また、本発明による長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、UL94規格における燃焼性が0.8mm厚みでV−0であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明による長繊維強化熱可塑性樹脂組成物には、(E)フェノール系重合体を1.6〜8重量%を含有することも好ましい。
【0010】
またさらに、本発明による長繊維強化熱可塑性樹脂組成物は、成分(D)がメラミンフォスフェート化合物および/またはフォスフィン酸金属塩化合物を含有する難燃剤であることも好ましい。
【0011】
またさらに(F)亜鉛化合物を0.1〜5重量%含有することも好ましい。
上記いずれかによって得られた長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を射出成形して、難燃性樹脂成形品を得ることも好ましい。このとき、成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.3〜2mmであることもさらに好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、特に電気電子機器の部品材料に要求される高い難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性を有し、かつ薄肉成形が容易な樹脂組成物およびその成形品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明で成分(A)として用いるポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とするナイロンであれば特に制限無く使用可能で、ナイロンホモポリマーまたはコポリマーを各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0015】
有用なポリアミド樹脂としては、200℃以上の融点を有する耐熱性や強度に優れたナイロン樹脂であり、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン9T、ナイロン66/6T、ナイロン6T/6、ナイロン66/6I、ナイロン12/6T、ナイロン66/6T/6I、ナイロン66/6I/6、ナイロン6T/6I、ナイロン6T/M5T、ナイロンMXD6およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。更に、これらのポリアミド樹脂を成形性、耐熱性、低吸水性などの必要特性に応じて、これらの共重合体、および2種類以上混合した樹脂も本発明で使用できる。また、更に耐衝撃性向上などのために、上記樹脂にエラストマー、もしくはゴム成分を添加した樹脂や、樹脂を混合するときの相溶性制御などのために末端基を変性したり、封止したりした樹脂も、本発明で使用できるポリアミド樹脂に含まれる。
【0016】
本発明で使用されるポリアミド樹脂は、薄肉成形品を得るために成形時の流動性に優れるものがよく、硫酸相対粘度ηrが2.7以下であることも好ましい。より望ましくはηrが2.6以下であり、更に望ましくはηrが2.5以下であるポリアミド樹脂である。ηrが2.7を超える場合は成形時の流動性に劣り、成形時の流動性が有効に発現しないことがある。ηrの下限は特にないが、一般的に2.0以上である。ここで硫酸相対粘度ηrは、JIS K6920−2(2000)に示されるとおり、98%硫酸で溶液濃度が1g/100mlになるように溶かした後、25℃の恒温槽内でオストワルド粘度計を用いて流下速度を測定し、98%硫酸に対する試料溶液の粘度比(流下秒数比)で表される。
【0017】
本発明で成分(B)として用いる炭素繊維は、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維である。また、炭素繊維にニッケルや銅などの金属を被覆した金属被覆炭素繊維なども本発明で使用できる。
【0018】
有用な炭素繊維としては、引張破断伸度は少なくとも1.5%以上の炭素繊維がよい。引張破断伸度が1.5%未満である場合、成形工程で繊維が切断されやすく、樹脂組成物、およびその成形品中の繊維長さを大きくすることができないため、高い力学的特性(特に衝撃強度)が達成できない。高い力学的特性を付与するためには、引張破断伸度が1.5%以上、より望ましくは引張破断伸度が1.7%以上、更に望ましくは引張破断伸度が1.9%以上の炭素繊維を用いるのがよい。本発明で使用する炭素繊維の引張破断伸度に上限はないが、一般的には5%未満である。炭素繊維として更に望ましくは、強度と弾性率とのバランスに優れるPAN系炭素繊維がよい。また、これらの炭素繊維は、シランカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理されたり、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、アミド系樹脂、アクリル系樹脂、フェノール系重合体、液晶性樹脂、アルコールまたは水可溶性樹脂などで集束処理されたりしていてもよい。
【0019】
本発明の樹脂組成物は、成分(B)を8〜40重量%の範囲で配合されていることが好ましい。8重量%未満では難燃性、電磁波シールド性が劣ることがあり、40重量%超では流動性が低くなるため薄肉成形性が劣ることがある。最も好ましい配合量は、15〜30重量%の範囲である。
【0020】
本発明で成分(C)として用いるカーボンブラックは、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどを採用することができ、これらのうち1種を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。また有用なカーボンブラックとしては、導電性付与効果の面で粒子径が500nm以下であることが好ましい。ここで粒子経とは、電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径である。
【0021】
本発明の樹脂組成物は、成分(C)を2〜10重量%の範囲で配合されていることが好ましい。本発明において、成分(C)を適量に配合されていることが最も重要な要件である。成分(C)を配合すると、電磁波シールド性が向上するだけでなく、成分(B)および成分(D)の存在下においては、成分(C)を含まない場合より難燃性も格段に向上することを見出した。成分(C)は、2重量%未満では難燃性、電磁波シールド性が劣ることがあり、10重量%超では薄肉成形性、耐衝撃性が劣ることがある。
【0022】
本発明で成分(D)として用いる有機リン系難燃剤は、リン酸および/または縮合リン酸とメラミンおよび/またはメラミン縮合物の反応生成物、下記の化学式(1)のフォスフィン酸金属塩、下記の化学式(2)のジフォスフィン酸金属塩から選ばれる1種または2種以上の混合物である。より好ましくは、リン酸および/または縮合リン酸とメラミンおよび/またはメラミン縮合物の反応生成物の1種以上と、フォスフィン酸金属塩および/またはジフォスフィン酸金属塩から選ばれる1種以上の混合物である。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
上記の化学式の中で、RおよびRは各々独立に水素、線状もしくは枝分かれC〜Cアルキル基、またはアリール基であり、Rは線状もしくは枝分かれC〜C10アルキレン基、アリーレン基、アルキルアリーレン基またはアリールアルキレン基であり、Mはカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムまたは亜鉛であり、mは1〜4であり、nは1〜4であり、xは1〜2である。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、成分(D)を13〜30重量%の範囲で配合されていることが好ましい。成分(D)は難燃性付与に寄与していると推測できるが、前述のとおり成分(B)、成分(C)と同時に配合される相乗効果により、難燃性の大きな向上が可能となる。成分(D)は、13重量%未満では難燃性が劣ることがあり、30重量%超では薄肉成形性、耐衝撃性に劣ることがある。
【0027】
本発明にかかるポリアミド樹脂組成物は、上記の(A)ポリアミド樹脂、(B)炭素繊維8〜40重量%、(C)カーボンブラック2〜10重量%、(D)有機リン系難燃剤13〜30重量%の範囲で構成されることで、目的の難燃性、流動性、電波シールド性、耐衝撃性が同時に得られるものであり、この範囲から外れた場合、前記した目的を達成する特性を有するポリアミド樹脂組成物を得ることはできない。
【0028】
本発明の樹脂組成物に更に(E)フェノール系重合体が混合されていると、本発明の効果の一つである薄肉成形性をより高く発現することが出来きるので好ましい。フェノール系重合体は、例えばフェノールノボラック、クレゾールノボラック、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、アルキルベンゼン変性フェノール、カシュー変性フェノール、テルペン変性フェノール、テルペンフェノール重合体などの例が挙げられる。フェノール系重合体の含有量は、力学的特性・成形性の面から本発明の樹脂組成物100重量%に対して、1.6〜8重量%含有されることが好ましい。
【0029】
また、成分(E)の好ましい形態としては、成分(E)が成分(B)へ予め含浸されていることであり、該形態により、薄肉成形性を最も効率的に発現することが可能となる。本発明の樹脂組成物は、例えば、特開平10―138379公報に記載されている形態を有すること、あるいは該公報の製造方法によって本発明の樹脂組成物を製造することは最も好ましい形態である。
【0030】
本発明の樹脂組成物に更に成分(F)として亜鉛化合物が含有されていると、本発明の主目的である難燃性を効果的に向上できる。その理由については判明していないが、成分(F)を成分(D)と併用することで難燃性を保持したまま成分(D)を減量することが可能となり、薄肉成形性および耐衝撃性の向上が可能となる。亜鉛化合物は、好ましくは酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛、硫化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸亜鉛から選ばれる1種または2種以上の混合物である。亜鉛化合物は、樹脂組成物100重量%に対して0.1〜5重量%の範囲で配合されていることが好ましい。0.1重量%未満では難燃性が劣ることがあり、5重量%超では耐衝撃性が劣ることがある。
【0031】
また本発明の樹脂組成物へ、難燃性、流動性、電波シールド性、耐衝撃性を低下させない範囲で、目的に応じて酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種安定剤、顔料、染料、滑剤および可塑剤などを添加することもできる。例えば、ハイドロタルサイト類化合物の配合は、本発明の樹脂組成物の加熱時あるいは溶融時に発生する金属腐食性ガスを抑制できるため有用な添加剤である。
【0032】
本発明の樹脂組成物中の成分(B)は、重量平均繊維長が3〜15mmである。この繊維長を有すると、射出成形品にしたときの成形品中の成分(B)の繊維長を長く保持できるため、難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性の向上が可能となる。射出成形によって得られた成形品中の成分(B)の重量平均繊維長は0.3〜2mmであることが好ましい。通常市販されている例えば2軸押出機でコンパウンドされた炭素繊維強化材ペレット中の繊維長はたかだか0.2〜0.3mmでしかなく、この程度の繊維長では前述した特性を十分に発現することは出来ない。
【0033】
ここで、重量平均繊維長は、得られたペレットまたは成形品をポリアミド樹脂が溶ける溶剤にて溶かした後、濾過を行い、その残さを光学顕微鏡にて観察、1000本の長さを測定し、重量平均長さを計算して得られたものである。
【0034】
本発明の樹脂組成物の形態は、長繊維ペレットの形態をとることが好ましい。本発明でいう長繊維ペレットとは、成分(B)がペレットの長手方向にほぼ平行に配列し、ペレット中の成分(B)の長さがペレット長さと同一もしくはそれ以上であるペレットが含まれるものである。特にペレット中の配置は限定されないが、少なくとも成分(A)を含む本発明中の成分が炭素繊維の周囲を被覆するように配置されてなるペレットであることも好ましい。このようなペレットを得る手段としては、炭素繊維の束を押出機の先端に取り付けた溶融樹脂が充満しているコーティングダイの中に通しながら、バーでしごく、拡幅・集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作で炭素繊維の束に樹脂を含浸させる方法や、電線被覆用のコーティグダイの中に通し、熱可塑性樹脂を押出被覆させ電線状のガットを得る方法などがある。このガットをストランドカッターで所定の長さにカットすることで、炭素繊維長がペレットの長さと実質的に同一の樹脂組成物が得られる。
【0035】
本発明の樹脂組成物の形状は、特に限定されるものではないが、直径1〜5mm、ペレット長3〜15mmの円柱形状であることが好ましい。直径がこれより小さすぎると製造が困難になり、大きすぎると射出成形時に成形機へのカミコミが難しく供給が困難になる場合がある。ペレット長は実質的に炭素繊維長でもあるため、短すぎると本発明の特性が十分に得られない場合があり、長すぎるとやはり成形機への供給性が難しくなることが考えられる。
【0036】
本発明にかかるポリアミド樹脂組成物は、UL94規格における燃焼性が0.8mm厚みでV−0であることがより好ましい。電気電子分野の一部の成形品では難燃性が要求されており、特に、パソコン、デジタルビデオカメラ、液晶プロジェクターなど発熱しうる装置を含む機器の筐体は、UL94規格でV−0であることが好ましい。ここでUL94規格とは、アンダーライターズ・ラボラトリーで定められたプラスチックス材料の燃焼性試験の規格であり、世界的規格として普及され、日本でも法的な拘束力はないものの成形品材料の使用可否判断として一般的に用いられている。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形などの方法で成形することによって成形品を得ることができる。なかでも射出成形は、ウエルド部やヒンジ部を有する成形品やインサート成形品などの複雑な形状の成形品や薄肉成形品であっても、高い寸法精度で量産できる点で特に好適である。
【0038】
射出成形においては、以下の点に配慮して、炭素繊維の過剰な折損を抑制することがより好ましい。すなわち好ましい成形条件の傾向としては、背圧を低くすること、また射出成形機において、ノズル径を太くすること、スクリューの溝深さを深くすること、テーパー角度を小さくすること、圧縮比を低くすること、また成形用金型において、スプルー径、ランナー径、ゲート径を大きくすることなどである。これらの対処を施すことにより、成分(B)の重量平均繊維長を長く保つことができる。
【0039】
本発明における難燃性成形品の用途としては、高い難燃性、電磁波シールド性、耐衝撃性および薄肉成形性が同時に求められるOA機器、家電機器などの電気電子機器、自動車用部材などに有用であり、特に難燃性と電磁波シールド性を要求される電気電子機器筐体にとりわけ有用である。
【0040】
電気電子機器筐体の用途としては、例えば、ディスプレー、パラボラアンテナ、パソコン、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチールカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルMD、家庭用電子ゲーム機などの電気電子機器筐体に有用である。中でも、高剛性かつ軽量であって、複雑形状部を有し、かつ電滋波シールド性が要求される、ノートパソコン、携帯電話、PDAなどの電子電気機器筐体に有用である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例のみ限定されるものではない。
【0042】
[原材料]
実施例および比較例で使用した原材料は以下に示すとおりである。なお、ポリアミドは常法に従い重合したものを使用した。有機リン系難燃剤および亜鉛化合物は、ポリアミド樹脂に混合する前に、所定の混合割合で予め攪拌混合したものを使用した。
【0043】
ポリアミド樹脂:PA6(相対粘度2.6)
炭素繊維:東レ(株)製炭素繊維T700SC−12K−50C(直径7μm、引張伸度2.1%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製#20B(粒子経約50nm)
有機リン系難燃剤:ポリリン酸メラミン、ジエチルフォスフィン酸亜鉛、ジエチルフォスフィン酸アルミニウム
テルペン・フェノール樹脂:ヤスハラケミカル(株)製YP90L(重量平均分子量460)
亜鉛化合物:ホウ酸亜鉛
ハイドロタルサイト:共和化学(株)製DHT−4A−2(BET比表面積18m/g)
【0044】
[材料評価方法]
各材料を日本製鋼所J350EII−SP型射出成形機にて、シリンダー温度:270℃、金型:80℃、射出時間:10秒、冷却:20秒、射出速度:射出成形機の最大設定値に対して70%、射出圧力:充填下限圧力+1.0MPaの設定条件で、各種試験片を作製し、下記方法により測定した。
【0045】
(1)燃焼性:UL94V規格に従って125mm×13mm×0.8mmの試験片を製造し、0.8mm厚みを評価した。特に難燃性が要求される電気電子機器用途への使用は、V−0であることが好ましいため、V−0規格の合否を記載した。また、不合格の材料については難燃レベルを記載した。
【0046】
(2)流動性:200mm×200mm×1.0mmの角板金型(ファンゲート)を使用し、充填下限圧力で評価した。充填することが第一条件であるが、射出圧力が低いほど流動性に優れ、成形条件幅が広がるとともに薄肉成形品に対応できる。
【0047】
(3)電波透過性:KEC法に従い、1mm厚みの電波シールド性を測定した。具体的には、120mm×120mm×1.0mm角板を絶乾状態(水分率0.1%以下)とし、四辺に導電性ペースト(藤倉化成(株)製ドータイト)を塗布し、十分に導電性ペーストを乾燥させて試験片とした。そしてスペクトラムアナライザーにて周波数1GHzでの電波シールド効果(dB)を測定した。この値は、大きいものほど電磁波シールド性に優れる。
【0048】
(4)耐衝撃性:ASTM−D256基準に従って評価した。値が大きいものほど、耐衝撃性に優れる。
【0049】
(5)平均繊維長:得られたペレットまたは成形品をギ酸にて溶かした後、濾過を行い、その残さを光学顕微鏡にて観察しながら1000本の長さを測定し、重量平均長さを求めた。
【0050】
[実施例1〜7、比較例1、3〜7]
表1に示す割合で成分(A)、(C)、(D)、(F)を2軸押出機にてコンパウンドし、マスターペレットを製造する。
【0051】
他方、130℃に加熱されたロール上に、成分(E)を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するためキスコーターを用いた。このロール上を連続した成分(B)を接触させながら通過させて、炭素繊維束の単位長さあたりに一定量のテルペンフェノール重合体を付着させた(炭素繊維4に対しテルペンフェノール重合体1の割合)。成分(E)を付着させた成分(B)を、130℃に加熱された、ベアリングで自由に回転する、一直線上に配置された8本の直径50mmのロールの上下を交互に通過させた。この操作により、成分(E)を成分(B)の繊維束の内部まで含浸させた。
【0052】
次いで、前記マスターペレットと成分(A)を所望比率にてドライブレンドしたものを1軸押出機にて、その先端に取り付けたクロスヘッドダイ中に十分溶融された状態で押しだし、同時に成分(B)束も連続して前記クロスヘッドダイ中に供給することによって溶融した成分(A)などを成分(B)束中に含浸させる。クロスヘッドダイとは、そのダイ中で繊維束を開繊させながら溶融樹脂などを含浸させる装置のことをいう。前述のようにして得られた連続した成分(B)の炭素繊維束を含有した樹脂ストランドを、カッターで7mmの長さに切断して、7mmの長繊維ペレットを得た。得られた長繊維ペレットを、80℃にて5時間以上真空中で乾燥させた後、前述した射出成形装置の設定条件により、各試験片の射出成形を行った。
【0053】
各材料の各成分の配合率、射出成形装置の設定条件、および評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1〜5のいずれの材料も、0.8mm厚の燃焼性はV−0を達成した。充填下限圧も高くならず薄肉部分も寸法精度よく成形できた。また、EMIシールド性も39dB以上と高い電磁波シールド性を発現でき、同時にIzod衝撃強度も高い値を発現できた。このように、高い難燃性、薄肉成形性、電磁波シールド性、耐衝撃性のいずれも高いレベルで同時に発現できることがわかった。
【0056】
一方、比較例1、2、4、6は、燃焼性が難燃レベルV−0を達成できなかった。難燃性は主には成分(D−1)と成分(D−2a)が寄与するものの、成分(D−1)と成分(D−2a)のみを増やしても難燃レベルを満足することはできない。比較例1と実施例2、また比較例6と実施例2とをそれぞれ比較すると、成分(C)の存在や、成分(B)の適正範囲の存在によって、難燃レベルを向上させることができたといえる。また、比較例2から、成分(B)の平均繊維長も燃焼性に寄与することが確認できた。
【0057】
一方、比較例3、5は、流動性とIzod衝撃強度に劣っていた。これらの比較例は、成分(A)、成分(B)といった長繊維強化熱可塑性樹脂組成物の主成分以外の添加剤を増量したものであり、繊維強化樹脂が求められる基本的な特性、すなわち流動性や耐衝撃性が十分発現できない条件となった。
【0058】
また成分(F)を配合した実施例6、7は、実施例3に比べて、少量の成分(D−1)配合で難燃レベルを満足できるので、その他の流動性および耐衝撃性は向上させることが可能となり、本発明における最良の組み合わせであることがわかった。
【0059】
[比較例2]
溶融樹脂が含浸された成分(B)の炭素繊維束を含有した樹脂ストランドを、カッターで2.5mmの長さに切断した以外は、実施例2と同じ方法で作製、評価を行った。V−0不合格の他に、EMIシールド性、Izod衝撃強度が大きく劣っていた。
【0060】
例えば電気電子機器筐体として使用した場合、電波シールド性が30dB未満では、周囲の電波ノイズによって誤作動を引き起こす可能性があり、Izod衝撃強度が100J/m未満では、落下させた場合に割れなどの破壊を生じることがある。充填不可の場合は、形状が複雑化している成形品の作製が困難になる可能性がある。
【0061】
次に、実施例4のペレットを射出成形し、幅300mm、長さ180mm、高さ10mmの箱形成形品を得た。平均厚みは1.2mmであり、KEC法における電界シールド性は1GHz帯において40dBであった。また、この筐体は、手に持った感触から軽量かつ高剛性であった。また、得られた成形品中の炭素繊維の平均繊維長は0.6mmであった。
【0062】
[実施例8]
マスターペレット製造に際し、樹脂組成物100重量%に対して成分(G)を0.2重量%配合した以外は、実施例7と同様の方法で長繊維ペレットを作製、評価を行った。燃焼性、流動性、電波シールド性、耐衝撃性はいずれも実施例7と同等の値であった。また、この長繊維ペレット50gと5×10mmの銀端子を200mlのガラス容器に入れ密封し、280℃で10分間熱処理した後の銀端子の抵抗値(未処理時の抵抗値は0.7mΩ)を測定することで金属腐食テストを行った結果、5mΩであったが、実施例7の長繊維ペレットを用いた場合は20mΩであった。このように成分(G)を配合することで金属腐食を抑制する効果が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物100重量%に対して、
(A)ポリアミド樹脂、
(B)炭素繊維8〜40重量%、
(C)カーボンブラック2〜10重量%、
(D)有機リン系難燃剤13〜30重量%
を含有してなり、樹脂組成物中の成分(B)の重量平均繊維長が3〜15mmである長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
UL94規格における燃焼性が0.8mm厚みでV−0である請求項1記載の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(E)フェノール系重合体を1.6〜8重量%を含有する請求項1または2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
成分(D)がメラミンフォスフェート化合物および/またはフォスフィン酸金属塩化合物を含有する難燃剤である請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
さらに(F)亜鉛化合物を0.1〜5重量%含有する請求項1〜4記載の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂組成物を射出成形してなる難燃性樹脂成形品。
【請求項7】
成形品中の炭素繊維の重量平均繊維長が0.3〜2mmである請求項6に記載の難燃性樹脂成形品。

【公開番号】特開2010−31257(P2010−31257A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149263(P2009−149263)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】