説明

開いたバンドギャップと、ゼロバンドギャップを有する標準的なグラフェンに匹敵する移動度とを有するSiC上にエピタキシャル成長したグラフェン

本発明は、基板(82)上の半導体性の修飾されたグラフェン層(83)を含む修飾された構造(801)を製造する方法に関し、
− 少なくとも1つの基板(81)を含む初期構造体(800)の供給、
− 前記基板上のグラフェン層(82)の形成、
− 原子状水素(85)の照射による初期構造体(800)の水素化のステップを含み、
前記グラフェンの水前記素化ステップは、100から4000Langmuirsの間の照射量で行われ、修飾されたグラフェン層を形成することに特徴づけられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロニクス産業に関し、特に、グラフェンの利用とこの産業用のそのキャリア輸送特性に関する。sp2構造で作られた炭素原子の半永久的な結晶性単分子層の形状で存在するグラフェンは、一般大衆によく知られたカーボンナノチューブのような、とても魅力的な機械的、電気的及び電子的特性を有する。
【0002】
その機械的特性に加えて、グラフェンの電子の移動度は、室温で250000cm/V・s、高温で250000cm/V・sと同じ高さであり得る。比較として、カーボンナノチューブの移動度は室温でおよそ100000 cm/V・s、シリコンの電子の移動度は1400cm/V・s近くであり、銅の電子の移動度は4400cm/V・sのオーダーである。
【背景技術】
【0003】
グラフェンは、3次元で図1Aに示すような「ハニカム」形状11を有するとよく考えられる六面構造により特徴付けられたsp2構造の炭素C原子の原子平面から形成された物質である。その原子構造とその電子特性は、60年前に予測された。実験的には、最初に、炉中または超真空でのSiCの表面に存在するシリコンの昇華による炭化ケイ素(SiC)の表面で自動組織された形成を可能にするエピタクシーの手段によって、その後の金属表面でのエピタクシーの手段によって、または、グラファイトの剥離によるエピタクシーによって、かなり後までその存在は示されなかった。
【0004】
図1Aの透視図および図1Bの断面図に示すように、SiC基板1の上で形成されたエピタキシャル成長したグラフェン層2は、広いバンドギャップで高品質の半導体基板1上で存在するという利点がある。従って、基板1は不純物を添加されない場合には、絶縁していると考えられるだろう。これは、マイクロエレクトロニクス産業に利用可能なSiC基板1上にエピタキシャル成長したグラフェン層2を形成する。例えば、リソグラフィのようなシリコン技術により用いられる方法は、SiC基板1上で、エピタキシャル成長したグラフェン層2に適用可能である。
【0005】
マイクロエレクトロニクスの技術での積層前に、これは、基板をカバーするように「シートとシート(sheet by sheet)」で絶縁基板に移動させなければならない剥離したグラフェンの場合ではない。そのような方法は、工業的な生産構造とは、あまりの互換性を持たない。
【0006】
さらに、導電基板の性質のため、金属基板1上に存在するエピタキシャル成長したグラフェン層2はあまり互換性がなく、エレクトロニクス・アプリケーションとは全く互換性がない。導電基板は、グラフェンとの電気的接触において、グラフェン下で導電平面を形成し、エピタキシャル成長したグラフェン層2に最初に存在するあらゆる電子が、下方にある金属によって捕えられ、循環する可能性がある。
【0007】
グラフェンはゼロまたは実際に0バンドギャップの半導体であるとよく考えられるが、言い換えると、それは充満帯および充満帯が導電帯域と接触している導電帯域の材料である、または、それは0.05eV未満の非常に小さいバンドギャップによってそれから分離され、しばしば、ゼロであると考えられる。比較として、マイクロエレクトロニクスで利用できる最も小さいバンドギャップの半導体材料のバンドギャップは、0.1eVのオーダーである。
【0008】
上述したように、グラフェンの電子の移動度は、約250000cm/V.s.に近接する。この例外的な移動度は、ディラック円錐(Dirac cone)を形成するグラフェンの充満帯の形状の特徴に起因する。これは、電子を電子輸送の間、0質量でディラックフェルミオンのようにふるまわせる。
【0009】
この特徴は、角度分解型光電子分光法(ARPES)、紫外線においてだけ発光する光子源が使用されるときに角度分解型光電子分光法(ARUPS)とも呼ばれる方法により、互いに略隣接し、一方が充満帯を示し、他方が導電帯域の位置を示す2つのディラック円錐の直接の観察によって、または、充満帯の電子状態の連続した分布の形状において観察できる。ここで連続したという用語は、線形であるということ、言い換えると、電子状態の分散を示す直線部分に沿って如何なる弯曲もない直線を意味するのに用いられる。電子状態の分散が対称であるので、ARPES法を使用する一つの曲線の観察は、ディラック円錐の形であるために充満帯を誘導する。
【0010】
半導体は、それらのバンドギャップによって3つのクラスに分類される。0.1eVから0.7eVの間の小さなバンドギャップのInSb、InAsまたはGaSbのような半導体、0.7eVから2eVの間の中程度のシリコン、GaAsまたはInPのような半導体、および、2eV以上の広バンドギャップのSiC、ZnO、GaN、AlN、BNまたはダイヤモンド等のような半導体。
【0011】
このように、半導体を製造するためにマイクロエレクトロニクス産業で利用される前に、グラフェンのバンドギャップを開くことは非常に重要である。
【0012】
当業者は、SiC上でエピタキシャル成長したグラフェンの酸化が非常に弱い電子移動度のあるグラフェン酸化物[1]の形成を引き起こすことによって、0.7eVまでのバンドギャップを開くことを引き起こすことを知っている。
【0013】
もう一つのアプローチによれば、グラフェンバンドギャップは、「グラファン(graphane)」[2]の形成を生じている剥離したグラフェンの特別な場合に、水素化によって開かれた。しかしながら、グラファンの形成は、グラフェン平面の2つの辺での水素化を必要とし、したがって基板上に存在するグラフェンに適用することはできない。
【0014】
さらに、このように得られたグラファンは絶縁体であり、その中の電子の移動度は10cm/V.s.である。これは、グラフェンの長所、特にそのキャリア輸送の特性が、そのような水素化の後に消滅することを示す。
【0015】
最後に、メッシュのパラメータは、水素の作用の下で、5%〜10%まで減少する。メッシュのパラメータのそのような減少は、いかなる基板もない剥離したグラフェンシートに如何なる問題も生じないが、グラフェン層が基板に結合した場合には、高いストレスの出現を生じるだろう。
【0016】
より良い成果はオルフス(Aarhus)大学でデンマークのチームによって得られ、スペインのグラナダで2009年9月21日から25日まで開かれたACSIN−10会議で発表された。このチームは、原子状水素とイリジウム基板1上に存在するエピタキシャル成長したグラフェン層2の相互作用の研究を示した[3]。
【0017】
「走査型トンネル顕微鏡」(STM)、「走査型トンネル分光法」(STS)の結果は、イリジウム基板1上に存在するエピタキシャル成長したグラフェン層2の水素化が0.45eVまでグラフェンバンドギャップを開くことができることを示す。
【0018】
しかしながら、この方法は、グラフェンの電子輸送特性も損失を生じる。ARPES方法によって観察され、この会議で提示された電子状態の分散は、エピタキシャル成長したグラフェン層2の水素化がエピタキシャル成長したグラフェン層2で電子の分散で弯曲の形成を生じたことを示す。従って、それはもはや線形でない。そのような半導体グラフェンの充満帯は、ディラック円錐でない。
【0019】
さらに、基板が金属製であるため、マイクロエレクトロニクスの生産ラインでそのような製品を使用することは容易でない。
【0020】
2つの異なる研究は、2つの水素化条件下でSiC基板1上にエピタキシャル成長したグラフェン層2の水素化にあてはまる。研究のうちの1つは、0.1eV未満のバンドギャップを開くこともグラフェンの電子状態の分散で弯曲を引き起こす絶縁グラフェンを生産する方法[4]を示す。従って、バンドギャップの小さな開きと電子移動度特性の損失のため、そのような方法は、SiC上で半導体体グラフェンを生産するのに用いられることができない。
【0021】
SiC基板1上に部分的に存在するグラフェンに実施さした第2の研究[5])は、1200ラングミュア(Langmuirs)の全量で、水素化を使用し、1ラングミュアは、10−6torr.s、すなわち、0.133mPa.sに等しいガスガス定量単位である。電子特性および輸送特性が局所的に修飾されるにもかかわらず、水素化がグラフェンのバンドギャップに少しの変化も引き起こさないことが確認飲された。
【0022】
現在、グラフェンはいくつかの欠陥がある。第1の欠陥、すなわち、そのグラフェンは「0」バンドギャップまたは半金属の半導体であることは、上ですでに示された。
【0023】
もう一つの欠陥、第1とは無関係に、支持基板上にグラフェン層を製造する多くの方法がグラフェン層と支持基板の間に界面欠陥をもたらすということである。これらの欠陥は電子井戸、短絡である可能性がありまたはそれらは2つの結晶格子、すなわち、基板に特有の結晶格子とグラフェン層の結晶格子の代表例の間に大きい不整合によって発生する可能性がある。
【0024】
界面欠陥なしでグラフェンの大きな面積を得ることが難しくなるという点で、グラフェン層はこの第2の欠陥に関連した第3の欠陥を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】X. Wu, M. Sprinkle, X. Li, F. Ming, C. Berger, W.A. of Heer, Phys. Rev. Lett. 101. 026801 (2008)
【非特許文献2】R. Balog et al., ACSIN-10. Granada, Spain, September 21-25 2009, published as R. Balog et al., Nature Materials 9, 315 (April 2010)
【非特許文献3】A. Bostwick et al., arXiv: 0904.2249 (2009)
【非特許文献4】N.P. Guisinger, G.M. Rutter, J.N. Crain, Ph.N. First, J.A. Stroscio, NanoLett. 9, 1462 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
この方法、グラフェンのエピタクシーは、グラフェンの大きな面積が必要とされる場合、そして、特に半導体グラフェン基板が必要とされる場合に適用した、最も少ない費用の1つと最も簡単なものの1つであるので、発明者は、広いバンドギャップでSiC基板上エピタキシャル成長した半導体グラフェンを生産した。
【0027】
最高水準の技術がグラフェンの水素化が電子状態の分散、したがって電子の例外的な移動度特性の損失で弯曲を誘発することを示唆するにもかかわらず、発明者は広いバンドギャップの開きと電子状態の線形分散の水素化手段によって、SiC基板上で少なくとも1層の半導体グラフェン層を得た。本発明は、比較的低量での水素化の利用に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0028】
従って、本発明の第一段階は1つの基板および少なくとも1つの層の改善された半導体グラフェン、言い換えると、0.2eVから1.8eVの間、例えば走査型トンネル分光法で測定した1.3eVまでのバンドギャップ、そして、角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察されるような電子状態の分散が、ディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散であるようなものであり、前記基板上に存在する前記修飾されたグラフェン層を備える構造体を製造する方法に関するものであって、以下のステップ、
− グラフェン層を支持することができる少なくとも1つの非金属基板を備える初期構造体の供給、
− 前記基板上のグラフェン層の形成、
− 原子状水素への照射による初期構造体の水素化
を備える方法。
【0029】
前記方法は、グラフェン層の水素化ステップが所与の反応試験設定の関数として事前に評価された適当な照射量を使用してされる点で特徴付けられる。前記適当な照射量は低く、数百または数千Langmuirsとして測定される。
【0030】
前記適当な照射量は、例えば、STS法を用い、100Langmuirsから少なくとも1100Langmuirsまで、または4000Langmuirsまでまたは5000Langmuirsまで変えた量の範囲で、前記範囲で採取することにより、照射量にさらされるグラフェン層を有する初期構造のために、グラフェン層の数とグラフェンのバンドギャップの値の測定を行うことによって評価された。少なくとも1つのグラフェン水素化サイクルは、それから同定される。前記適当な照射量は、2つの連続した標本抽出された量の間に値のために選択され、そのために、0.2eVを超えるバンドギャップは、少なくとも1つの標本で少なくとも1枚の修飾されたグラフェン層上で測定された。
【0031】
照射量は好ましくは10−4Pascal(パスカル)未満またはほぼ等しく、または、10−6または10−7Pascal未満または等しい水素圧で得られる。
【0032】
特に、本発明は、基板と、少なくとも1層の修飾された半導体エピタキシャル成長したグラフェン層であって、走査型トンネル分光法で測定された0.2eVから1.8eVの間のバンドギャップを有し、電子状態の分散をディラック円錐形成する充満帯または電子状態の線形分散である角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察された電子状態の分散を有し、修飾されたグラフェン層と呼ばれ、前記基板上に存在するエピタキシャル成長したグラフェン層と、を備える構造を製造する方法に関するものである。前記方法は、以下のステップ、
− グラフェン層を支持することができる非金属製の少なくとも1つの基板を備える初期構造体の供給、
− 前記基板上のグラフェン層の形成、
− 原子状水素の照射による初期構造体の水素化
を含む。
【0033】
前記方法は、グラフェン層の水素化ステップが100Langmuirsから4000Langmuirsの間、すなわち13mPa.sから533mPa.sの間の照射量でされるという点で特徴付けられる。Langmuirsで与えられる照射量は、所与の時間での所与の圧力に対応する。
【0034】
このように同じ照射量のために、照射時間は1つの製造された構造体ともう一方とで変えることができる。
【0035】
修飾されたグラフェン層の形成のために、水素化ステップは、基板の表面に加えられる水素原子を有利に導入することができる。
【0036】
前記方法は、使用される基板の機能によって変えることができる。本発明に係る方法の幾つかの変形において、水素化ステップは、グラフェン層の形成の後に行う。水素化は、それから、グラフェン半導体を作るために、または半導体グラフェンを有利に作る新しいグラフェン層を形成するために、グラフェン層を修飾することができる。
【0037】
このように、本発明に係る方法の第1の有利な実施形態によれば、使用される試験設定によって適合されるように、水素化の間の照射量が100から1100Langmuirsの間にあり、ゼロではない半導電バンドギャップを備えるグラフェン層が修飾されたグラフェン層であってもよい。修飾されたグラフェン層が走査型トンネル分光法で測定された0.2eVから1.8eVのバンドギャップを備え、ディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散のような角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察された電子状態の分散を有することを意味する。
【0038】
そのような方法は、初期構造体が原子状水素の適量を受け、付加的な水素原子がグラフェン層と基板の間に挿入されることを意味する。後述するように、本発明者は、グラフェン層のために最大のバンドギャップの開きを可能にする閾値照射量があることに気づいた。従って、グラフェン層のバンドギャップが開かない最小限の照射量と、バンドギャップがグラフェン層を半導体としてみなすには小さくなり過ぎ、マイクロエレクトロニクスで利用可能な最大量がある。従って、最高水準の技術の上のそのような方法の第1の長所は、マイクロエレクトロニクス産業に魅力的なバンドギャップを開かせるために照射量を選ぶことができるということである。
【0039】
本発明に係る第1の有利な実施形態において、水素化の間の照射量は、使用される試験設定の機能として適合させるために、200から500Langmuirsの間である。この照射量は閾値線量より少ないが、それはマイクロエレクトロニクス産業のために興味深いバンドギャップの開きを与えることができる。従って、この照射量は、バンドギャップの開きが不十分であると考慮される場合、更にそれから増加することができる所定のバンドギャップの開きをもたらすことができる。これは、本発明の第1の実施形態によって、第2の水素化ステップの間、達することができた。上記のように、閾値照射量以下では、照射量の増加によってバンドギャップの開きの増加を生じ、閾値照射量を上回ると、照射量の増加によって最大のバンドギャップの開きからバンドギャップの開きの減少が生じる。
【0040】
本発明に係る方法の第2の有利な実施形態は、グラフェン層が水素化ステップの前に形成されたか否か、に関係なく、適用することができる。本実施形態においては、基板の少なくとも1層の表面層は、SiCでできている。照射量は、使用される試験設定の機能として適合するために、1300から4000または5000Langmuirsの間にある。この第2の実施形態において、少なくとも1つの最後のカーボン平面は、SiC製の表面層から分離され、水素化の後、付加的に修飾されたグラフェン層を少なくとも1層形成する。
【0041】
このように、本発明に係る方法のこの有利な実施形態の第1の変形において、基板はSiCでできており、水素化の間の照射量は1300Langmuirsから2500Langmuirsの間にある。第1の有利な実施形態の場合の上述の閾線量を越えてよく配置される際に、修飾されたグラフェン層は、ほとんど0バンドギャップで形成される。原子状水素の作用下で、最後のカーボン平面はSiC基板からも分離され、付加的な修飾されたグラフェン層も形成する。少なくとも1層の付加的に修飾されたグラフェン層は、電子状態のディラック円錐または線形分散の形で少なくとも1つの充満帯とともに0.2eV以上のバンドギャップの半導体グラフェンでできている。
【0042】
従って、発明に係る方法のこの第2の有利な実施形態のために、最初はグラフェン層を持たない構造体がSiC基板上で修飾されたグラフェン層を形成する水素化に使用可能であると理解することができる。逆に言えば、標準的なグラフェン層を含む初期構造体が使われる場合、修飾された二重グラフェン層が形成されることになる。言い換えると、グラフェン層が水素化ステップの前に形成されない場合、このステップはグラフェン層の形成を誘導する。グラフェン層が水素化ステップの前にすでに形成される場合、最初の層がほとんど金属性のグラフェンで形成され、付加的な層は第1の修飾された半導体グラフェン層を形成するように、付加的なグラフェン層が形成される。
【0043】
本発明に係る方法のこの有利な実施形態の第2の変形において、照射量は更に増加する。照射量は、使用される試験設定の機能として適合するために2500から4000または5000Langmuirsの間にあってもよい。このように、2層の追加的な修飾されたグラフェン層は、基板上で形成することができる。最初のグラフェン層がある場合、それは2層の修飾されたグラフェン層によって基板から分離されるだろう。付加的な修飾されたグラフェン層のうちの少なくとも1層は、0.2eV以上のバンドギャップで、ディラック円錐の形の少なくとも1つの充満帯または電子状態の線形分散を有する半導体グラフェンでできている。半導体グラフェンでできているいくつかの層がある場合、それらは異なるバンドギャップを有してもよい。
【0044】
金属的な挙動の表面帯を含み、2層の付加的な修飾されたグラフェン層から形成された異なるバンドギャップの2層の半導電性層上に重ね合わされた最初のグラフェン層から形成されたヘテロ構造のダイオードを形成することは可能である。そのようなダイオードには、ヘテロ構造によるダイオードの効果、グラフェンに特有の電子移動度の効果と、3つの原子平面の重ね合わせを含む事実を有する。
【0045】
本発明に係る方法のこの第2の有利な実施形態において、グラフェンが半導体であるときに、それはディラック円錐の形の充満帯によって、または、少なくとも電子状態の線形分散によって特徴づけられたその電子移動度特性を維持する。
【0046】
さらに、本発明に係る方法のこの第2の有利な実施形態において、最初に存在するグラフェン層が水素化ステップの前にあるとき、この層はほとんど金属的になるかもしれない。言い換えると、そのバンドギャップは、再び閉じられる。
【0047】
基板は、有利にSiCでできている。これは、マイクロエレクトロニクスにおいては非常に魅力的な材料であり、高い熱伝導度も有する広いバンドギャップ材料である。最後に、SiCからエピタキシャル成長したグラフェン層を形成することは、比較的容易である。
【0048】
基板がSiCでできている場合、本発明に係る方法の第1の有利な実施形態において、付加的な水素原子は修飾されたグラフェン層とSiC基板の間にバッファ面を形成する。大多数の水素原子は、基板でSiCに結合する。このバッファ面は、修飾されたグラフェン層を基板から電気的に分離することができる。
【0049】
本発明に係る方法または構造体では、半導体基板は、SiC材料でできている。これは、如何なる結晶方向に沿っても、如何なるSiC結晶多形(ポリタイプ)で形成されたSiC基板であってもよい。さらにまた、グラフェン層は、SiC基板のシリコン面またはカーボン面に存在してもよい。これは、基板の選択で、いくらかの簡略化したものを可能にする。さらにまた、本発明に係る修飾されたグラフェン層を使用したいという要望とは別に、これは、基板の表面がSiC、シリコンまたはカーボンでできているために選択できることを意味する。従って、これは使用の増加した柔軟性を保証する。
【0050】
SiC基板は、シリコン基板から生じてもよい。SiC表面層を含むシリコン基板であってもよい。本発明に適用されるそのような構造体では、SiC表面層が、グラフェン層とシリコン基板の間にある。
【0051】
従って、基板がシリコン基板から生じ、それは少なくとも1層のSiC表面層を含むことができると理解することができる。これは、SiC標準基板の表面処理によって、例えば炭酸飽和によって得られる大きなSiC層の形成を可能にする。グラフェンの成長は、立方結晶格子(3C)および/または六角形の結晶格子(6Hまたは4H)で、SiCの上で交互に起きてもよい。
【0052】
第2に、本方法は、少なくとも1つの熱処理が水素化ステップの間か後に、200℃から400℃の間、好ましくは250℃から350℃、有利には約300℃の間の温度で構造体に適用されるという点で、有利に特徴づけられる。
【0053】
本発明に係る方法の主要な長所は、熱処理が基板面上に加えられた水素原子の拡散を引き起こすということである。グラフェン層が水素化ステップの前に形成される場合、熱処理はグラフェン層を通して添加水素原子のより速く且つより均一な拡散を生じることができる。熱処理は、基板の表面上に加えられた水素原子の密度を均質にすることもでき、修飾されたグラフェン層を分解しないように、基板と優先的に反応させることもできる。本方法のこの部分は、標準的なグラフェン、すなわち、例外的な電子移動度の重要な特性が、修飾されたグラフェン層に保持されることができることを意味する。本方法におけるこのステップも、グラフェン層の充満帯で電子状態の分散を変更することなくバンドギャップを開くことをより容易にする。電子状態の前記分散は、線形のままで、ディラック円錐をつくる。グラフェン層が水素化ステップの前にない場合、熱処理は基板面上に存在する最後のシリコン面から原子を取り除くことができて、最後のシリコン面と付加的な水素原子の間の相互作用を均質にすることができる。
【0054】
本発明に係る方法では、熱処理は水素化アニーリングと呼ばれている水素化ステップの間に行われるアニーリングを含んでもよい。水素化アニーリングは、200℃から400℃、の間、望ましくは250℃から350℃、有利には約300℃の温度で行われる。このステップは構造体上でそれらの堆積の間に直接的な付加的な水素原子の拡散を可能にする。従って、付加的な水素原子とグラフェン層の間の如何なる不利な相互作用も制限される。
【0055】
上述の水素化アニーリングの代わりに、または、に加えて、本方法は200℃から400℃の間、望ましくは250℃から350℃、有利には約300℃間に、の温度で、水素化ステップの後に行われるアニーリング、水素化後アニーリングと呼ぶ、熱処理であってもよく、それは1分から20分の間、有利に5分の期間を有する。どんな照射量に対しても同一の水素化後アニーリングをすることは可能である。さらに、同じ照射量に対して、照射時間は1つの構造体からもう一つのものに変化させることができる。水素化後アニーリングは、照射時間からアニーリング期間を分離することができる。アニーリングが炉でされる場合、同時にアニーリングをいくつかの構造体に課すことも可能である。水素化後アニーリングが水素化ステップの間行われたか、または、水素化が室温で起われたがに関係なく、水素化後アニーリングを適用することができる。
【0056】
本発明に係る方法では、後述する割れによる標準製品に代わるものとして、原子状水素ガスは、コールドプラズマによって製造することができる。この場合、水素化アニーリングが水素化ステップの間になく、水素化後アニーリングは適用される。
【0057】
あるいは、水素化ステップを行う前に、グラフェン層が形成されてもよく、酸化ステップがグラフェン層のバンドギャップを開くことを誘導してそれに適用されてもよい。初期構造の供給の前のこの酸化ステップは、グラフェン層の電子移動度特性を低下させる欠陥を形成する。この場合、本発明に係る方法の水素化ステップは、酸化によって形成される欠陥を皮膜で保護する。
【0058】
同様に、グラフェン層が水素化ステップの前に形成される場合、構造体は、基板とグラフェン層の間の臨界欠陥と呼ばれる電子トラップを最初に含んでもよい。これらの電子トラップは、カーボンナノチューブの破片またはペンダント結合を含む他の炭化した構造体であってもよい。臨界欠陥は、初期構造体の標準的なグラフェン層の電子移動度を低下させる。本発明に係る方法における水素化ステップは、臨界欠陥を皮膜で保護し、したがって、高い電子移動度の修飾されたグラフェン層を達成することができる。
【0059】
本発明は、少なくとも1つの半導体であるか絶縁基板と、この基板上の少なくとも1層のグラフェン層を含む構造に関し、グラフェン層が第1の修飾された半導体グラフェン層と呼ばれている修飾されたグラフェン層であるという点で特徴付けられる。本発明によれば、第1の修飾されたグラフェン層は、走査型トンネル分光法で測定された0.25eVから1.8eVの間のバンドギャップを有する。さらにまた、修飾されたグラフェン層は、ディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散のいずれかの形態において、角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察される電子状態の分散を有する。
【0060】
都合のよいことに、第1の修飾されたグラフェン層は、基板からほとんど電子的に分離される。これは、基板でグラフェン層をドーピングまたはドーピングの変形から独立させる。
【0061】
第1の修飾されたグラフェン層は、エピタキシャル成長したグラフェン層であってもよい。
【0062】
本発明は、また、金属的な挙動、または、ほとんど0バンドギャップの第2の修飾されたグラフェン層を含む構造体に関するものである。第2の修飾されたグラフェン層は、第1の修飾されたグラフェン層によって基板から分離され、第1のグラフェン層は0.2eV以上のバンドギャップを有する。
【0063】
本発明は、第1の修飾されたグラフェン層と第2の修飾されたグラフェン層の間に挿入された少なくとも1層の第3の修飾されたグラフェン層を含む構造体に関する。好ましくは、第3の修飾されたグラフェン層は、0.2eV以上のバンドギャップと、ディラック円錐の形状の少なくとも1つの充満帯または電子状態の線形分散を有する半導体グラフェンで形成される。第3のグラフェン層は、望ましくは第1のグラフェン層バンドギャップと異なるバンドギャップを有し、それは有利により小さい。
【0064】
従来のマイクロエレクトロニクスのラインで発明に係る構造体に集積できるように、基板は望ましくは半導体基板である。基板は、有利にSiCでできている表面層を含む。
【0065】
本発明に係る方法または構造体において、いくつかのグラフェン層があってもよい。従って、本発明に係る方法または構造体の結果によって、いくつかの修飾されたグラフェン層がある。これらは各々の上で積み重なって、電子的に各々からほとんど分離される。
【0066】
本発明に係る方法または構造体の修飾されたグラフェン層は、「p」型ドーピングを有してもよい。
【発明の効果】
【0067】
上述したように、使用される1つの照射量と対応する修飾されたグラフェン層のバンドギャップを開くことの関係を形状が修正することができるので、使用される量は試験設定の形状に依存して変えることができる。当業者は、彼らが使用する反応槽の特徴の機能として本発明による方法を調整するために必要な試験をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
発明はより良好なよく理解され、中で添付の図面を参照して非限定的な例として与えられる以下の説明を読んだ後に他の詳細、それの長所と特徴が現れる。そしてそれは、
【図1A】最高水準の技術によって基板上での標準的なグラフェン層の三次元図および断面図を示す。
【図1B】最高水準の技術によって基板上での標準的なグラフェン層の三次元図および断面図を示す。
【図2】少なくとも1層の修飾された半導体グラフェン層を含む本発明に係る修飾された構造体を示す。
【図3A】最高水準の技術の本発明の第1、第2、第3の実施形態に係るSTSによって測定されたグラフェン層のバンドギャップ示すグラフである。
【図3B】最高水準の技術の本発明の第1、第2、第3の実施形態に係るSTSによって測定されたグラフェン層のバンドギャップ示すグラフである。
【図3C】最高水準の技術の本発明の第1、第2、第3の実施形態に係るSTSによって測定されたグラフェン層のバンドギャップ示すグラフである。
【図3D】最高水準の技術の本発明の第1、第2、第3の実施形態に係るSTSによって測定されたグラフェン層のバンドギャップ示すグラフである。
【図4】ARPES観察によって得られた電子状態の密度を示すグラフを示す。
【図5A】基板上に存在するグラフェン層表面のSTSによって得られたマップであり、各図中の挿入図は各図の一部の拡大を示す。
【図5B】基板上に存在するグラフェン層表面のSTSによって得られたマップであり、各図中の挿入図は各図の一部の拡大を示す。
【図5C】2つの六方格子の間の相互作用を表す図である。
【図6A】いくつかの修飾されたグラフェン層がある本発明に係る修飾された構造体を表す。
【図6B】いくつかの修飾されたグラフェン層がある本発明に係る修飾された構造体を表す。
【図7A】いくつかの修飾されたグラフェン層がある本発明に係る修飾された構造体におけるSTSによるバンドギャップ測定を示すグラフである。
【図7B】最高水準の技術によるグラフェン層およびいくつかの修飾されたグラフェン層を含む構造体におけるバンドギャップ測定を示すグラフである。
【図7C】最高水準の技術によるグラフェン層およびいくつかの修飾されたグラフェン層を含む構造体におけるバンドギャップ測定を示すグラフである。
【図7D】最高水準の技術によるグラフェン層およびいくつかの修飾されたグラフェン層を含む構造体におけるバンドギャップ測定を示すグラフである。
【図8A】本発明に係る修飾された構造体を得るための本発明に係る方法におけるステップを示す。
【図8B】本発明に係る修飾された構造体を得るための本発明に係る方法におけるステップを示す。
【図8C】本発明に係る修飾された構造体を得るための本発明に係る方法におけるステップを示す。
【図8D】本発明に係る方法の変形を示す。
【図8E】本発明に係る方法の変形を示す。
【図9A】本発明に係る方法の第1の有利な実施例を表し、本発明に係る方法が始まる前に、本実施形態は異なる初期構造も供給する。
【図9B】本発明に係る方法の第1の有利な実施例を表し、本発明に係る方法が始まる前に、本実施形態は異なる初期構造も供給する。
【図9C】本発明に係る方法の第1の有利な実施例を表し、本発明に係る方法が始まる前に、本実施形態は異なる初期構造も供給する。
【図10】STMによって得られた臨界欠陥を含む初期構造のマップを示す。
【図11】本発明に係る方法の第2の有利な実施形態に特有な照射量を受けた構造体の低エネルギー電子回折測定を示す。
【図12A】本発明に係る方法の第2の有利な実施形態を示す。
【図12B】本発明に係る方法の第2の有利な実施形態を示す。
【図12C】本発明に係る方法の第2の有利な実施形態を示す。
【図13A】本発明に係る方法の第3の有利な実施形態を示す。
【図13B】本発明に係る方法の第3の有利な実施形態を示す。
【図13C】本発明に係る方法の第3の有利な実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
異なる図の同一、類似または等価の部分は、1つの図からもう一方に変更することを容易にするために、同じ数の参照番号を有する。
【0070】
図に示される異なる部品は、より容易に図を読みやすくするために、必ずしもすべて同じスケールであるというわけではない。
【0071】
本発明に係る装置のさまざまな実施形態を例示する図面は、例として与えられ、限定されるものではない。
【0072】
エピタキシャル成長したまたは非エピタキシャル成長した標準的なグラフェンは、先に述べたように、非常に高い電子移動度特性を有する材料である。
【0073】
図2で示すように、本発明は、半導体または絶縁基板21上に存在する修飾された半導体エピタキシャル成長したグラフェン層23のような、修飾された構造体201(以下では構造体601、801として示されるように、201は図2においても示される。)を、まず、得ることに関連する。本発明においては、修飾されたグラフェン層と呼ばれている修飾されたエピタキシャル成長したグラフェン層23は、標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層の特性がある。特に、本発明によれば、電子移動度特性は、本発明に係る構造体201に存在する修飾されたグラフェン層23に保持される。標準的なエピタキシャル成長したグラフェンおよび修飾されたエピタキシャル成長したグラフェン層は、それらのグラフェンが通常、エピタクシーによって形成されるので、このように呼ばれる。しかしながら場合によっては、特に本発明が付加的なグラフェン層を形成することを可能にするとき、問題のグラフェン層はエピタクシーによって形成されない。
【0074】
さらに、この図は本発明の1つの有利な実施形態を表し、後で説明されるように、付加的な水素原子Hは化学結合24によって基板21に結合される。
【0075】
より正確には、本発明に係る構造体100は、0.20eVから1.8eVの間、望ましくは0.25eVから1.5eVの間、例えば1eVのバンドギャップで、修飾されたグラフェン層3を含む。特定の実施例において、修飾されたエピタキシャル成長したグラフェン層3のバンドギャップは、対応する図3A、3Bまたは3Cに示すように、0.25eVまたは1.3eVまたは0.40eVであってもよい。
【0076】
図3A、3B、3Cおよび3Dは、縦座標は、エピタクシーによって得られ、SiC基板上に存在するグラフェン層を流れる、ナノアンペアの測定した強度Iの対数を示し、横座標によって示された電圧で、印加電圧Uの関数として表すグラフである。各図は、走査型トンネル分光法(STS)を用いてエピタキシャル成長したグラフェン層を研究することによって得られる。この方法は、この場合は半導体グラフェンにおいて、研究された材料のバンドギャップ(7A、7B、7C)を測定することができる。2つのエネルギーバンド、バンドギャップによって分離される充満帯と導電帯域を含む半導体材料の場合、この試験された材料に適用される電圧Uは、充満帯に存在する電子にエネルギーを供給することができ、それらがバンドギャップを通り抜けることによって導電帯域に移ることができるようにする。これは、電流の流れを生じる。
【0077】
これらの図において、差は、導電帯域に特有で、電流が通過することを可能にするより小さい正の電圧U2と、充満帯に特有で、電流が通過することを可能にしているより小さい負の電圧U1の間に見ることができる。この差は、バンドギャップの値を測定するために考慮することができる。ゼロ電圧と対して最も小さい負電圧U2の相対的な位置と、最も小さい正電圧U1は、フェルミ準位と関連する充満帯と導電帯域の位置を表現する。
【0078】
図3Aは、本発明の第1の特定の実施形態に係る構造体に存在する修飾されたグラフェン層7AのバンドギャップのSTSによって得られる測定を示す。バンドギャップ7A、電流が通過することができる最も小さい正の電圧U1と電流が通過することができる最も小さい負の電圧U2の差は、1.3eVにほぼ同等しく測定される。ゼロの電圧は、電流が通過することができる最も小さい負の電圧U2からの0.33Vであるので、フェルミ準位は充満帯より上の0.33V、すなわち、電子ボルトで表される0.33eVである。このように、フェルミ準位が導電帯域よりも充満帯に近いので、修飾されたグラフェン層は「p」ドープされているとみなしてもよい。500Langmuirsの量の原子状水素の照射量で、後述する方法によって得られる修飾されたグラフェン層に対して、1.3eVのバンドギャップによる修飾されたグラフェン層(図3A)が得られ、pドープした半導体材料のようにふるまう。
【0079】
図3Bは、本発明の第2の特定の実施形態に係る構造体に存在する修飾されたグラフェン層のバンドギャップ7BのSTSによって得られる測定を示す。バンドギャップ7B、電流が通過することができる最小の正の電圧U1と電流が通過することができる最小の負の電圧U2の差は、0.25eVとほぼ同等に測定される。本発明の第1および第2実施例に係る上記の2つの構造体は、SiC基板のシリコン面上に存在する修飾されたグラフェン層を含む。
【0080】
図3Cは、本発明の第3の特定の実施形態に係る構造体に存在する修飾されたグラフェン層バンドギャップ7CのSTSによって得られる測定を示す。バンドギャップ7C、電流が通過する最小の正の電圧U1と電流が通過する最小の負の電圧U2の間の差は、約0.40eVに等しく測定される。本発明の第3の実施形態に係るこの構造体は、欠陥が基板と修飾されたグラフェン層の間に存在するSiC基板のカーボン表面に存在する修飾されたグラフェン層を含む。
【0081】
比較のために、本発明者らは、SiC基板のシリコン表面に存在する標準的なグラフェン層上で、バンドギャップをSTSで測定した。図3Dは、標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層のバンドギャップのこの測定を示す。この図において、強度はあらゆる印加電圧Uに対して生成される。したがって、バンドギャップがゼロであると推測される。
【0082】
これらの図において、図3Aの場合のように、0電圧に位置するフェルミ準位は、導電帯域よりも充満帯に近い。このように、本発明の範囲内で、修飾されたグラフェン層は、有利に「p」ドープされたものである。
【0083】
まず、標準的なグラフェン層は、バンドギャップなしで、または、SiC基板の上で形成されるバンドギャップがほとんどなく、グラフェン層とSiCの間の界面の特性と、グラフェン層を作る従来の方法のために、強く「n」ドープされる。SiCは強く通常、不純物を「n」ドープされ、ドーピング剤のSiCからグラフェン層への若干の拡散がある。
【0084】
この結果は、本発明に係る異なる修飾されたグラフェン層に対して観察することができる。
【0085】
本発明のさまざまな構造は、異なるバンドギャップで修飾されたグラフェン層を含み、半導体グラフェンの使用をさまざまな応用に広げ、各々がバンドギャップの異なる開きを要求し、全てがグラフェンの例外的な移動度特性から利益を得ることができ、本発明に係る構造体に保持される。
【0086】
本発明者らは、本発明に係る構造体に存在する修飾されたグラフェン層での電子状態の分散についての観察を行い、標準的なグラフェン層の電子移動度が本発明に係る修飾されたグラフェン層に保持されることを示した。これらの観察は、上述のARPES法を用いる測定を使用して行われた。
【0087】
ARPESまたはARUPS方法では、光子は試料の表面上に送られ、それに応じて、光電子と呼ばれる電子が特定の方向に沿って、所定の運動エネルギーで「光電子放射」される。光電子の運動エネルギーの測定は、試料、特にその表面の電子特性に関する情報を提供する。しかしながら、光電効果は占められた電子状態であり、空隙の電子状態でないものを測定するだけであり、半導体において、研究はフェルミ準位従って、充満帯以下の状態に関して主になされる。逆光電子放射は、導電帯域を走査するのに用いることができる。場合によっては、フェルミ準位が導電帯域の中で位置する場合、ARPESまたはARUPS法はフェルミ準位以下に位置する導電帯域の一部を示すのに用いることができる。
【0088】
光電子が試料の表面から放出される方向の測定は、光電子回折の原理に従って、その原子構造を知る手段を提供する。これは、ブリュアン帯(k)の方向に沿った電子状態の分散を同定し、従って、グラフェンの場合に、ディラック円錐において、フェルミ面と充満帯の形状を決定するのを助けることができる。
【0089】
修飾されたグラフェン層の充満帯の位置を観察するこの方法は、いずれかのビームラインに沿ったシンクロトロン、または紫外線プラズマ放出ランプと分析装置を使用することができる。例えば、SOLEILシンクロトロン、特にTEMPOまたはCassiopeeと呼ばれるビームラインで、VG−SCIENTA社によって製造されたSCIENTAアナライザを使用して、そのような観察を行うことができる。しかしながら、ARPES法は、当業者に知られている。
【0090】
図4は、ARPES法を使用する本発明の第1の実施形態に係る構造体を観察するときに得られた結果を表す。修飾されたグラフェン層の電子状態の分散の半分だけが測定され、充満帯において常に完全な左右対称であるのため、これで充分である。従って、充満帯と導電帯域の概要は、容易に推定することができる。この図において、横座標は逆格子のk、ブリュアン帯の方向、のバリエーションを示す。縦座標は、光電子の運動エネルギーを示す。情報の2つの重要な項目は、修飾されたグラフェン層の特徴について言及されなければならない。
− 第1に、本発明に係る修飾されたグラフェン層の電子状態43の分散の曲線が完全に線形であることを観察することができ、弯曲は観察されない。これは、充満帯が完全なディラック円錐をつくることを意味する。
− フェルミ準位Fは、kのすべての値に対して白いシグナルを与える運動エネルギーを考慮するこの図の中で特定することができる。第2に、修飾されたグラフェン層の電子状態43の分散が観察され、0.6eVの値によってフェルミ準位Fから分離される。上述した、この値とSTSによって得られる値の間のバリエーションは、2つの測定方法に対する分析領域の大きさの違いに起因する。ARPES法はSTS法より大きな領域を観察し、異なるドーピングまたは異なるバンドギャップの開きを持つ修飾されたグラフェン層における点を含む。
【0091】
本発明に係る構造体の基板は絶縁体であってもよいが、望ましくは半導体、有利には広いバンドギャップの半導体である。半導体基板は高品質であり、絶縁体の場合を必要とするものではなく、従来のマイクロエレクトロニクス素子を製造することを可能にする。さらに、小さいバンドギャップの半導体基板とは異なり、広いバンドギャップの半導体基板はキャリアがエピタキシャル成長したグラフェン層に制限されたままで、基板で分散しないことを可能にする。
【0092】
基板は、好ましくはSiCでできている。これは、非常に有利な材料であり、それは広バンドギャップ材料であり、それも高い熱伝導度を持うぃ、SiCから標準的なグラフェン層を作ることは容易である。
【0093】
基板は、SiCのいずれかの既知の結晶多形、特にSiCの六方晶、菱面体(rhombohedric)、立方結晶多形、例えば、4H−SiC、6H−SiC2H−SiC、2C−SiCまたは3C−SiCの一つから形成されても良い。結晶多形は、一つのSiC単結晶中にシリコンとカーボン平面の組成を特定する既知の単位である。基板は、大部分はもう一つの材料、例えばシリコンを含む主な基板の表面上に存在する1層のSiC層だけを含んでもよい。
【0094】
本発明に係る1つの構造では、修飾されたグラフェンは、SiC基板のカーボン面、または、シリコン面で存在してもよい。これは、SiC結晶格子に含まれる修飾されたグラフェン層直下の平面が、それぞれカーボンまたはシリコンを含むことを意味する。30°の回転角が、エピタキシャル成長したグラフェン層の原子格子とSiC基板の結晶格子の間に通常ある。そのような回転は、本発明のために限定的でない。
【0095】
最後に、すべての表面配向が、本発明に係る基板のために用いることができ、例えば、六角形の結晶多形に対して、面(0001)、(000−1)(11−20)(1−102)(−110−2)(0−33−8)(1−100)、SiC面心立方結晶多形に対して、面(100)、(110)または(111)である。
【0096】
標準的なエピタキシャル成長したグラフェンの場合、基板とその表面に存在するエピタキシャル成長したグラフェン層の間の多くの電子結合ある。都合のよいことに、大部分のこれらの電子結合は、本発明に係る構造体で消えた。このように、望ましくは、本発明に係る構造体は、修飾されたグラフェン層が基板から電気的に分離されるものである。図5Aおよび5Cは、本発明に係る構造体上に存在するエピタキシャル成長したグラフェンのこの特徴を有利に表す。
【0097】
図5Aおよび5Cは、SiCの4H−SiC結晶多形でできた基板上存在するエピタキシャル成長したグラフェン層の表面のマップをそれぞれ示す。これらのマップは、走査型トンネル顕微鏡(STM)によって得られた。走査型トンネル顕微鏡は、表面原子と走査型トンネルチップとの間の電子相互作用を測定することによって、表面トポロジーを観察することができる。図5Aの挿入図は、図5Aのマップの一部の拡大を示す。この挿入図は、SiC上のエピタキシャル成長したグラフェン層に特有の六角形の網目の「ハニカム」構造51を示す。この図5Aは、SiC基板上に存在する標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層のSTM観察によって得られる挿入図の外側のSTMマップを示し、明るいスポットClとより暗い領域Sの規則的なモアレを示す。規則的なモアレは、類似した網目のある2つの原子の格子の間の電子相互作用の特徴的な徴候であるが、互い重ならない。それは、SiC基板上存在する標準的なグラフェンに特徴的である。
【0098】
、フランコ ヴァルチョンの「炭化ケイ素上のグラフェンの電子的および構造的な特性」、2008年12月8日により主張された命題の部分を形成している文書から生じている図5Bは、角度θによって互いに関連する誤った方向付けで2つの六方格子の重ね合わせを表すことによるこの現象を示す。AAとABは格子の間の相互作用が強い、図5Aの明るいスポットClに対応する1つの点と、格子の間の相互作用がより弱い、図5Aの中でより暗い領域Sに対応する1つの点特定する円である。結果は、相互作用が強い点の間の期間Dと、モアレの左右対称を定義する半角Φである。走査型トンネル顕微鏡は表面原子とプローブの間の電子相互作用を測定し、したがって、STM法を使用する測定はグラフェン層とSiC基板を含む表面の間のあらゆる電子結合に影響を受ける。
【0099】
図5Cは本発明の第1の実施形態に係る構造体のSTMマップであり、1.3eVであるSTSで測定したバンドギャップのSiC基板上に存在する修飾されたグラフェン層を含む。この図の中の挿入図は、標準なエピタキシャル成長したグラフェンのために図5Aの中で観察されたものと同一の六角形の網目でできた「ハニカム」格子11があることを明らかに示す。さらにまた、図5C、挿入図の外側は、規則的なモアレを含まない。示される全てが、強度の幾らかの不規則性である。規則的なモアレの消失は、修飾されたグラフェン層とSiC基板の間の規則的な相互作用が、本発明に係る構造体にはないことを示す。2つの観察された構造体の基板が同一であるので、SiC結晶格子とエピタキシャル成長したグラフェン層の原子格子の間の回転は同一である。図5Cにおいて、いかなる規則的なモアレのでも欠如も、修飾されたグラフェン層が基板からほぼ電子的に分離されることを明らかに示す。
【0100】
さらに、図2で分かるように、本発明に係る構造体201では、好ましくは、修飾されたグラフェン層23と基板21の間の付加的な水素原子Hと呼ばれている水素原子の形で存在する原子状水素がある。添加水素原子Hは、プロチウム(水素のH同位元素)またはジュウテリウム(水素のH同位元素)またはこれらの2つの同位元素の混合であってもよく、原子状水素を含む緩衝平面を形成する。好ましくは、付加的な水素原子Hは、化学結合24によって、基板21と結合し、幾らかの付加的な水素原子Hは、グラフェン層23が修飾されなかった場合、基板21と標準なグラフェン層間の電子結合があるだろう所に配置される。有利に、付加的な水素原子Hは、修飾されたグラフェン層の幾らかの炭素原子と相互に作用する。都合のよいことに、緩衝平面は、修飾されたグラフェン層を基板から電子的に分離すことができる。
【0101】
最後に、本発明に係る構造体601は、基板1(図6A)より上に、各々の最上層に存在するいくつかの修飾されたグラフェン層63、63’の一組を含んでもよい。本発明に係るいくつかの修飾されたエピタキシャル成長したグラフェン層63、63’の組合せは、開いたバンドギャップの半導体であり、電子状態の線形分散を有する。
【0102】
従って、本発明が基板61(図6A)より上に2層の修飾されたグラフェン層63と63’を含む構造体に関するものでもあると理解することができる。第1の修飾されたグラフェン層63は、例えば0.25eVから1.8eVの間、例えば最高1.3eVに、前に示された構造体に存在する修飾されたグラフェン層の場合のように、同じ桁のバンドギャップの半導体グラフェンでできている。第1の修飾されたグラフェン層63は、ディラック円錐の形で充満帯を含み、基板61と第2の修飾されたグラフェン層63’の間に位置する。第2の修飾されたグラフェン層63’は、例えばゼロバンドギャップのほとんど金属性の挙動を有してもよい。
【0103】
基板61、第1の修飾されたグラフェン層63と第2の修飾されたグラフェン層63に加えて、本発明は、第3の修飾されたグラフェン層63’’(図6B)を含む上述の構造体の代替物に関するものであると理解することもできる。第3の修飾されたグラフェン層63’’を第1の修飾されたグラフェン層63と第2の修飾されたグラフェン層63の間に挿入する。第3のグラフェン層63’’は望ましくは、ディラック円錐の形にある充満帯の半導体グラフェンでできている。第3の修飾されたグラフェン層63’’は、第1の修飾されたグラフェン層63のバンドギャップと望ましくは異なバンドギャップを、例えば、より小さくてもよい。
【0104】
さまざまなグラフェン層は、望ましくは各々から電気的に分離される。
【0105】
図7Aは、修飾されたグラフェン層と基板の間の欠陥のない、本発明に係る構造体のSiC基板上のカーボン表面に存在する修飾されたグラフェンの重ね合わされた2層を含む構造体に、グラフェンバンドギャップ7’のSTS測定を示す。バンドギャップ7’が開いており、約0.95eVの値を持つことが分かる。0.25eVから0.35eVのかなりの差は、充満帯U2のエネルギー準位とフェルミ準位(0横座標)の間に観察される。さまざまな層は、各々から電子的に分離されてもよい。
【0106】
図7B〜7Dは、ARPES法を使用して得られた図であり、一つ以上のグラフェン層を含む構造体の充満帯の形状を表す。
【0107】
これらの図において、電子状態の分散の総数が測定された。これは、SiC基板上の標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層を含む最高水準の技術に係る構造体(図7B)に対して、<<X>>の形状の観察された電子分散があり、フェルミ準位Fの左にある「X」の交点である。「X」の形状は、接触または準接触において、グラフェン層が充満帯Vと導電帯域Cを含むことを意味する。
【0108】
これは、充満帯Vがディラック円錐の形であることを示し、充満帯Vの電子分散は、最低のエネルギーから始まって、より高いエネルギーに向かって移動する2つの線形曲線、2本の曲線の何れにおいても、どちらの弯曲もない高いエネルギーで交差する形で測定される。
【0109】
図7Cは、ARPES法を使用して図6Aで示された本発明に係る構造体の測定を示し、更にSTS法を使用して図7Aで測定された。この図は、2つの充満帯V1とV2及び少なくとも1つの導電体を示す導電円錐Cを示す。第1の充満帯は導電帯域Cから分離され、フェルミ準位Fから少なくとも0.4eVに位置する。この測定はバリエーションを除いて、STS方法を使用して観察された差に一致する。
【0110】
ディラック円錐を形成する第1の充満帯V1は、第1の修飾されたグラフェン層が半導体グラフェンでできており、標準的なグラフェンの電子移動度特性が保持されることを明らかに示す。第2の充満帯V2は、第1の充満帯V1より図のさらに右に位置し、導電性円錐Cの末端をなすディラック円錐を形成する。この結果は、充満帯と導電帯域の間に分離がないこと、および第2のグラフェン層が金属的な挙動をするということである。
【0111】
最後に、図7Dは、ARPES法を用いる図6Bに示された本発明に係る構造体の測定を示す。ディラック円錐の形の第3の充満帯V3は、第1および第2の充満帯V1とV2の間に位置して見られる。第1の充満帯V1は導電円錐Cから明らかに分離している。第1の充満帯はフェルミ準位Fから0.4eVで位置し、第3の充満帯はフェルミ準位Fからの約0.2eVである。これは、第1および第3の修飾されたグラフェン層が実は異なるバンドギャップの半導体グラフェンでできていることを意味する。
【0112】
これら3つの図7Bから7Dで、図7Aに示されるようなバンドギャップに直接よりも、充満帯とフェルミ準位の間に差を見ることができる。特に、図7Aは、バンドギャップが充満帯とフェルミ準位間の差より大きいことを示す。
【0113】
第2に、本発明は本発明に係る方法の第1の有利な実施形態に関する。本方法のこの第1の有利な実施形態は、本発明に係る構造体を生成することができる。
【0114】
本発明に係る方法の第1の有利な実施形態は、図8A〜8Eに示される2つの大きなステップ含む。
− 第1に、半導性または絶縁性基板81の上に存在する標準的なグラフェン層82を含む初期構造800は、図8Aに示されるように提供されなければならない。理由の簡略化のため、物理的な結合は、標準的なグラフェン層82と基板81の間には示されない。しかしながら、これらの結合が存在する。
− 次のステップは、標準的なグラフェン層82が位置する一方に水素化ステップを初期構造800に適用することである。
【0115】
この水素化ステップは超真空下で行われてもよく、原子状水素ガス85は初期構造800と接触をもたらす。このステップの間、初期構造800は100Langmuirsから1100Langmuirsの間の照射量で、原子状水素ガス85に照射される。langmuirは、10−6のtorr.s、すなわち、0.133mPa.sに等しいガス量測定単位である。例えば、1langmuirに等しい照射量によるガスへの照射は、133秒間に0.001mPaの圧力でのガス照射または1秒間に0.133mPaの圧力でのガス照射によって区別なく行われてもよい。
【0116】
本発明に係る水素化ステップは、200Langmuirsから800Langmuirsの間の照射量で、または、望ましくは200Langmuirsから500Langmuirsの間の照射量で有利に行われる。
【0117】
このステップの間、図8Bに示すように、原子状水素から成る付加的な水素原子Hは、初期構造800上に堆積され、それから、図8Cに示されるように、標準的なグラフェン層82から始まり修飾されたグラフェン層83を形成するようにそれと相互作用する。このように、得られた結果は、修飾された構造体801である。
【0118】
ほとんどの付加的な水素原子Hが基板81と化学結合84を作る。水素化ステップの間、付加的な水素原子Hは、基板81と修飾されたグラフェン層83の間に原子状水素で構成されたバッファ層を有利に形成する。
【0119】
本発明に係る修飾されたグラフェン層83は、例えば照射量が1100Langmuirsと等しいにとき0.25eVから1.8eVの間の値、または、望ましくは0.25eVから1.5eVの間の開いたバンドギャップのグラフェン層である。
【0120】
特に、原子状水素ガス85に対する照射量が500Langmuirsである場合、STSで測定されるバンドギャップの開きは、一つの修飾されたグラフェン層83がSiC基板81のシリコン面上に存在する場合には約1.3eV、いくつかの修飾されたグラフェン層83がSiC基板81のカーボン面上に存在する場合には0.95eVに等しい。これらの2つのバンドギャップの値は、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップの値がシリコンに対するような同じ桁の大きさである。
【0121】
水素化ステップの1つの特定の例示的な実施形態は、必要な量、例えば500Langmuirs量に対して100分を得るのに十分な期間に10−7Pascalの水素圧を使用することである。この圧力が、上述の照射量で上述のバンドギャップ値を得るために、CEA−Saclayで実験的な反応試験設定で使われた。
【0122】
本発明者らは、最大のバンドギャップの開きを与える至適ピークがあること観察した。照射量が100Langmuirsから200Langmuirsまで増加する場合、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップは増加する。さらに、照射量が800Langmuirsから1100Langmuirsに増加する場合、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップは減少する。500Langmuirsの量がこれらの値の間に適用される場合、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップは2つの上述の照射量より大きい。従って、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップの開きの値は、原子状水素ガス85に対して照射量を制御することによって調整することができる。
【0123】
従って、閾値照射量は、修飾されたグラフェン層83のバンドギャップの最大の開きがある200Langmuirsからがある800Langmuirsの間にある。最大のバンドギャップの開きを生じるこの閾値照射量は、本発明に係る方法に最適の実施形態でない。
【0124】
バンドギャップの開きは、必要なアプリケーションのために最適なだけである。このように、必要なアプリケーションが約0.25eVのバンドギャップで修飾された構造801を必要とし、または、もう一つの必要なアプリケーションが1.3eVまたは0.95eVの近くにバンドギャップを必要とする場合、これらの値でバンドギャップを有する本発明に係る方法によって得られる修飾されたグラフェン層83は必要なアプリケーションのために至適バンドギャップの開きを有する。これらのアプリケーションの一部は、トランジスタ、ダイオードまたは他のマイクロエレクトロニクスもしくはナノエレクトロニクスデバイスの製造に関する。本発明に係る方法は、所定のアプリケーションに修飾されたグラフェン層83のバンドギャップの開きを調整することができる。
【0125】
200℃から400℃の間、望ましくは250℃から350℃の間、例えば300℃近くでの熱処理は、修飾されたグラフェン層83と基板81の間に一様に水素化ステップの間、初期構造体100上に堆積した付加的な水素原子Hを分布させるために、付加的な水素原子Hに適用される。
【0126】
図8Bに示すように、熱処理は水素化ステップの間、水素化アニーリング86と呼ばれる、構造体のアニーリングを行なってもよい。それから、基板81と標準的なグラフェン層82を含む初期構造体800は、水素化ステップの全体を通じて、例えばプレートを加熱する手段によって必要な温度に保持される。
【0127】
あるいは、熱処理は、水素化後アニーリング86’と呼ばれる水素化ステップの後に行われるアニーリング、から成ってもよい。それは、そして、アニーリング86のないことは別として図8Bと同一である、図8Dに示される室温での水素化ステップの後で行われてもよい。それから、図8Eで示すように、付加的な水素原子が存在する初期構造体800は、上述の水素化後アニーリング86’を受けてもよい。水素化後アニーリング86’は、200℃から400℃の間、望ましくは250℃から350℃の間、特に300℃の近くの温度で、数分間、例えば1分から20分、有利には5分の間持続する。例えば、それは炉、または、水素化が行われた反応槽で行われてもよい。
【0128】
また、代わりとして、水素化後アニーリング86’は、図8Bで示すように、水素化アニーリング86を含む水素化ステップに加えて行われてもよい。
【0129】
水素化アニーリング86と水素化後アニーリング86’の目的は、基板81の方へ標準的なグラフェン層82を通して付加的な水素原子Hの拡散を促進することである。もう一つの目的は、基板81上に付加的な水素原子Hの均一の分布を可能にすることであり、このように基板81上に付加的な水素原子Hのほぼ一定の密度を持つことである。これらのアニーリングは修飾されたグラフェン層のバンドギャップを開くのに必要でないが、それらは層上全体に均一なバンドギャップの開きを得るのに必要である。アニーリングの不足は、構造体の表面上でのバンドギャップの開きにおける変化、第1のバンドギャップの値を有するいくつかの点と他のバンドギャップの値を有する他の点を得るのを助けることができる。
【0130】
水素化ステップの間、使用される原子状水素Hは、例えば、1400℃または2000℃または2000℃以上の(高温で加熱され、初期構造体800から有利に短い距離に位置しているタングステン・フィラメントによって、二水素の解離によって望ましくは形成される。例えば、使用されるタングステン・フィラメントは0.25mmの直径を有してもよく、それは必要な温度に達するために3.7Aの電流をもたらしてもよい。
【0131】
あるいは、原子状水素ガス85は、コールドプラズマの手段によって形成されてもよい。この場合、水素化アニーリング86はなく、水素化後アニーリング86’は強制的に適用される。
【0132】
望ましくは、本発明に係る構造体に関しては、基板81はSiC、特に上述した結晶多形のうちの1つでできており、標準的なグラフェン層82はどんなタイプのSiC面方向に存在してもよい。
【0133】
同様に、修飾されたグラフェン層3は、SiC基板81のシリコン面またはカーボン面に別々に存在してもよい。
【0134】
上記の水素化が、試験設定の所定の状態で、反応槽で行われる。照射量と修飾されたグラフェン層83のバンドギャップの開きの関係は、試験設定の状態、使用される圧力と使用されるSiCの結晶多形によって変化することができる。しかしながら、100Langmuirsから始まる本発明に係る初期構造体の照射量の増加は、
− バンドギャップを開くこと、
− 最大のバンドギャップの開きに達すること、
− そして、最後に、バンドギャップの開きの減少
を連続的に誘導する。
【0135】
この観察は、すべての試験設定状態、用いられるすべてのSiC結晶多形、そして、すべての原子状水素ガス圧力に対して真実のままである。当業者は、彼らが使用する反応槽と使用されるSiC結晶多形の特徴の機能として本発明に係る方法を調整するのに必要な試験を行う方法を知るだろう。
【0136】
本発明者らは、これを例示している1つの特別な例を示した。彼らは、必要な量を得るのに十分長い間、例えばSOLEIL Synchrotronでの実験的な反応試験設定では500Langmuirsの量に対して10分間、10−6Pascalの水素圧を使用した。得られた構造体は、図6Aおよび7Bに先に示した、2つの修飾されたグラフェン層を、その一つはバンドギャップを持つものである。この結果は、後で更に詳細にコメントされる。
【0137】
本発明に係る1つの方法では、基板81は3C−SiCでできていてもよく、言い換えると、SiCが六角形のメッシュの代わりに面心立方のメッシュを有する。この場合、3C−SiC基板81が従来のシリコン基板から製造されると有利かもしれない。これは、SiC基板801上の標準的なグラフェン層82を含む初期構造体800が、以下のステップを使用して有利に製造されることを意味する。
− シリコン基板90(図9A)の供給、
− シリコン基板90より上にSiCから作られた少なくとも1つの表面層91(図9B)を得るために、1200℃と1300℃の間で、基板表面に存在するシリコンの昇華および/または従来の炭酸飽和、または真空炉のような他のいかなる既知の方法によるSiCの形成、加圧下での中性ガスの昇華、
− 本発明(図9C)に係る初期構造体900を形成するために、シリコン基板90上で存在するSiCで作られた表面層91上の標準的なグラフェン層92の形成。
【0138】
シリコン基板90と、したがってSiCでできている表面層91とは、(100)、(110)または(111)の配向を有しても良い。
【0139】
大きなシリコン基板90を得ることが容易であるので、そのような方法は有利である。従って、大きな高品質のSiC表面層91でおおわれた基板を製造することは可能であり、比較的容易である。それは、マイクロエレクトロニクスでの修飾されたエピタキシャル成長したグラフェンの利用を比較的容易にする。
【0140】
照射量がより高い場合、例えば、1300Langmuirsから2500Langmuirsの間の、または2000Langmuirs以上、おそらく4000Langmuirsまたは5000Langmuirsまで、バンドギャップは本発明に係る方法の第1の有利な実施形態で得られるバンドギャップと関連して閉まり、修飾されたグラフェン層はほぼ金属的になる。明らかに、例で与えられる量値は、上述の実験的なCEA−Saclay試験の設定に適用できる。もう一つの試験設定で作業している当業者は、それを調整して、したがって、方法を修正することが可能であるはずである。
【0141】
従って、本発明も本発明に係る方法の第2の有利な実施形態に関し、図12Aから12Cに示される。本発明に係る方法のこの第2の有利な実施形態は、水素ガスに対する照射量が異なる本発明に係る方法の第1の有利な実施形態の変形である。
【0142】
本発明に係る初期構造体1201が、図12Aに示すようにSiC表面層121上に置かれる少なくとも1層の最初のグラフェン層123を含むとき、最初のグラフェン層123のすぐ下に位置するSiC基板、「バッファ層」とも呼ばれる、のカーボン平面122と呼ばれる炭素原子の最後の平面がある。
【0143】
最初のグラフェン層123がSiC基板のカーボン面で存在する場合、この場合に示すように、最後のカーボン平面122は最後のシリコン平面124と呼ばれるシリコン原子の最後の平面より上に位置してもよい。逆に言えば、最初のグラフェン層123がSiC基板のシリコン面上にある場合、最後のカーボン平面は最後のシリコン平面124の下に位置してもよく、最後のシリコン平面124がグラフェン層123と最後のカーボン平面122の間にあってもよい。
【0144】
上記のように、初期構造体1201は、SiC表面層121の製造と互換性を持つ他のいかなる材料でもできている基板120の上に存在するSiC表面層121を含んでもよい。あるいは、基板120はSiCでできていてもよい。この場合、表面層121と基板120に違いはない。
【0145】
図12Bに示した水素化125が、例えば1300Langmuirsから4000のLangmuirsの間のより高い照射量で行われるならば、付加的な水素原子Hが最初のグラフェン層123に浸透し、付加的な水素原子のバッファを形成する。このバッファは、本発明に係るアニーリング126の間、基板からSiC基板の最後のカーボン平面122を分離し、最後のシリコン平面128からシリコン原子のいくつかを取り除く。
【0146】
水素化(アニーリングが続く)は、最後のカーボン平面122から始まる付加的なグラフェン層123’の形成を生じる(図12C)。従って、結果は、基板120と、少なくとも1つのカーボン平面と初期構造1201上にあるシリコン平面の一部が取り出されたSiC表面層129と、基板120全体にわたり、および、特にSiC表面層129全体にわたって広がる2重の修飾されたグラフェン層1230とを含む最終的な構造1200である。
【0147】
好ましくは、初期構造1201上で、本発明に係る方法のこの実施形態で行われる水素化は、1500Langmuirsから2500Langmuirsの間、例えば2000Langmuirsまたは2200のLangmuirs、または2500以上Langmuirsの水素ガス照射量を課す。従って、量は4000Langmuirsまたは5000Langmuirsと同程度に高くできる。
【0148】
特に、上記のように、同一の結果を達成するのに必要な照射量は、試験設定によって変化することができる。バンドギャップが図7Aで測定された構造体は、上述のCEAグルノーブル試験設定で、2200Langmuirsの照射量で得られた。上記のように、バンドギャップが、図7Cで測定された構造体は、上述のSOLEIL試験設定で、500Langmuirsの照射量で得られた。従って、約4.4の係数が、これらの2つの試験設定から量の効果の間にある。
【0149】
図6Bと7Dで示された構造体は、1000Langmuirsの照射量、SOLEIL試験設定において、10−6Paの圧力。で、本発明に係る方法によって得られた。これは、4400Langmuirsの照射線がCEA試験設定と同様の結果のために必要であることを意味する。
【0150】
例えばSiC基板のカーボン平面から始まる第4と第5のグラフェン層に対して、量が約10−5Paから10−8Paの間の圧力で更に増加する場合、他の修飾されたグラフェン層が形成されてもよい。修飾されたグラフェン層のいくつかは、本発明に係る半導性である。
【0151】
本発明に係る方法の第1の有利な実施形態の場合と同様に、上記のアニーリング126は、水素化アニーリングおよび/または水素化後アニーリングであってもよい。従って、それはそれぞれ、水素化の間、および/または水素化の後にすることができる。アニーリングは200℃から400℃の間、望ましくは250℃から350℃の間、特に300℃.の近くの温度で行われる。水素化後アニーリングは、それがされる場合、望ましくは数分間、例えば1分から20分の間、有利には5分の間持続する。それが、炉または水素化が起こる反応槽で例えば行われてもよい。
【0152】
新しい修飾されたグラフェン層が作られるとき、新しいカーボン平面と新しいシリコン平面は、最後のカーボン平面と最後のシリコン平面として定義される。
【0153】
このように、図12Aから12Cで述べられたこの方法を繰り返すことによって、または、水素ガスに対して照射量を増やし、おそらくより長期間にわたるアニーリングによって、最後のシリコン平面を形成しているシリコン原子を破壊し、最後のカーボン平面を分離することは、もう一度可能である。3層目の修飾されたグラフェン層は、新しいカーボン平面と新しいシリコン平面が最後のカーボン平面と最後のシリコン平面として定義される表面上の少なくとも1つのSiC表面層121、129を含む基板1201上で形成される。
【0154】
本発明によれば、望ましくは先に述べたように水素化アニーリングおよび/または水素化後アニーリングを含むまたは続く、10−5Paから10−8Paの間に低圧で水素化を実施する中で、グラフェン層の水素化サイクルは、照射量を増加させることで観察することができる。
【0155】
標準的なグラフェンでできている最初のエピタキシャル成長したグラフェン層を含む初期構造体から始まる、グラフェン層の第1の水素化サイクルは、
− 最初のグラフェン層のバンドギャップを開くこと、
− 最大のバンドギャップを得ること、
− バンドギャップを閉めること、
− 最初のグラフェン層が、ほぼ金属的な挙動を得ること
を観察することができる。
【0156】
照射量が更に増加する場合、新しい修飾されたグラフェン層の作成のための機序は、最初のグラフェン層と基板の間に観察される。新しい修飾されたグラフェン層のバンドギャップも、第1のサイクルと同様に第2のグラフェン層水素化サイクルの関数によって変化する。しかしながら、第2のグラフェン層水素化サイクルの照射量の値は、第1のサイクルに照射量の値と異なることができる新しい修飾されたグラフェン層の形成から始めて算出される。
【0157】
しかしながら、新しいグラフェン層がエピタキシャル成長されないので、3層目の修飾されたグラフェン層は、上述の第2のサイクルの終わりの前に形成されてもよい。3層目の修飾されたグラフェン層も、第2のサイクルと同様に第3のグラフェン層水素化サイクルの関数によって変化するバンドギャップを有する。もう一度、3層目のグラフェン層の形成から算出される照射量の値は、第2のサイクルにそれらと異なってもよい。
【0158】
これは、さらなる量の増加によって、時間が過ぎるにつれて、ほぼ金属的な挙動を得る基板から最も遠いグラフェン層、および、照射量が増加するにつれて半導体グラフェン層のような、ゼロバンドギャップで最初に形成される新しいグラフェン層を生じることができる。
【0159】
従って、本発明の第1の有利な実施形態が、グラフェン層の第1の水素化サイクルに続いて、最初のグラフェン層のバンドギャップを形成することによって半導体グラフェン層を得ることを目的とすると理解することができる。本発明に係る方法の第2の有利な実施形態が、1つまたはいくつかの新しい修飾されたグラフェン層の作成によって半導体グラフェン層を得ることを目的とするとも理解される。従って、新しい修飾されたグラフェン層のうちの少なくとも1層は、半導体グラフェンでできている。
【0160】
幾つかのステップで本発明に係る方法を実行するのに要求される場合、構造体により把握される総照射量は、あらゆる脱離とともに可能にされなければならない。
【0161】
本発明に係る方法の第2の有利な実施形態を用いる修飾されたグラフェンの二重層の形成は、図11に示すように、低エネルギー電子回折(LEED)を用いる観察によって確認される。この図は、中心放出スポット110と6つの周辺スポット111から116を表す。SiC基板上の標準的なグラフェン層の場合の様に30°の回転があった場合、これらの周辺スポットの全ては少なくとも1つの6√3×6√3のサテライトスポットを有するだろう。6√3×6√3サテライトがないので、これは、SiC結晶格子から30°回転によって誤った方向付けされたグラフェン層の痕跡がないことを意味する。最初のグラフェン層が基板から30°までの誤った方向付けがされたため、これは、新しいグラフェン層があることを意味する。従って、修飾されたグラフェンの二重層には、6√3×6√3サテライトがない低エネルギー電子線回折構造がある。
【0162】
このように、SiC結晶格子といかなる回転もしない少なくとも1層のグラフェン層があり、したがって、グラフェン層は最後のカーボン平面から作られた。これは、最後のカーボン平面とSiC基板の間に位置する付加的な水素原子Hによって剥離することを明らかに示す。さらにまた、これはこの二重層が閉じたバンドギャップを持つという事実によって確認される。
【0163】
従って、この場合、二重層はほとんど金属的、または、ゼロバンドギャップの半導体になった。大きな領域にわたり均一な2重のグラフェン層を作ることが非常に難しいため、これは非常に興味深い。
【0164】
この図は、本発明に係る方法の第1の有利な実施形態の量が、先に述べたように例えば2000Langmuirs以上に増加する場合、少なくとも1層のグラフェン層がほぼ金属的であり、少なくとも1層のグラフェン層がエピタキシャル成長したグラフェンの単層から始まり、半導体グラフェンまたはいくつかの層のエピタキシャル成長したグラフェン、例えば2層以上の修飾されたグラフェン層の重ね合わせの修飾されたエピタキシャル成長したグラフェンの二重層を得ることが従って、可能である。グラフェン層の格子とSiC基板の結晶格子の間に完璧な一致があるので、この二重層はSiC基板と弱い相互作用を持つ。
【0165】
言い換えると、新しい修飾されたグラフェン層123’は、ほとんど欠陥のないSiCでできた新しい表面層129との界面を有する。新しい修飾されたグラフェン層123’が表面層121の最後のカーボン平面122に由来するので、新しい修飾されたグラフェン層123’に特有の結晶格子と新しい表面層129に特有の結晶格子の間にほぼ完全な配列がある。
【0166】
下記の事例で使用される参考文献は、図8A〜8Cを参照する。
【0167】
基板上に存在する修飾されたグラフェン層を含む構造体を製造する方法の第1の有利な実施形態が、そのような構造体のSTM観察を再現する図10に示されるような不完全な初期構造で使われてもよい。特に、既存の臨界欠陥102がSiC基板と修飾されたグラフェン層の間にある場合、本発明に係る方法を適用することができる。
【0168】
SiC基板の表面欠陥は、標準的なエピタキシャル成長したグラフェン、または、修飾されたグラフェン層での移動度の少しの減少も引き起こさない。従って、これらの欠陥は、決定的でない。
【0169】
しかしながら、臨界欠陥102は存在するかもしれない。特に、これらの欠陥が、電子トラップであるかもしれない。それらは、ペンダント結合を用いる標準的なグラフェン層の電子の移動度を減らす。それらは、カーボンナノチューブの端部、または、標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層の充満帯のディラック円錐の形状を変形させる界面状態をつくるペンダント結合との炭化した鎖を含むかもしれない。この状況は、通常、基板と従来の方法によって得られるグラフェン層の間の界面で、かなり頻度が高い。
【0170】
標準的なエピタキシャル成長したグラフェン層の電子の低下した移動度を有するこの種の構造体への本発明に係る方法の第1の有利な実施形態の使用は、半導体性の修飾されたグラフェン層を得て、臨界欠陥を皮膜で保護するのに用いることができる。充満帯の形状は、もう一度ディラック円錐のようである。このように、電子の高移動度は、本発明に係る方法の後、もう一度見つかる。
【0171】
本発明に係る方法の第1の有利な実施形態のもう一つのありうる応用は、標準的なグラフェン層82のバンドギャップを開けるために、標準的なグラフェン層82が本発明に係る水素化ステップの前に酸化した初期構造体800を選択することである。このように、上で示したように、そのような酸化は、電子状態の分散での弯曲を誘発している電子トラップの形成、したがって標準的なグラフェン層82での低下した電子の移動度を引き起こす。
【0172】
そのような初期構造体800に対する本発明に係る方法の応用は、酸化ステップによって得られるバンドギャップの開きの修正、および、電子トラップを不動態化する手段である。修飾されたグラフェン層83は、電子状態の分散が線形のようなものであり、したがって、修飾されたグラフェン層83には標準的な欠陥のないグラフェン層82と同じ移動度がある。
【0173】
本発明に係る方法の初期構造体800は、重ね合わせた修飾されたエピタキシャル成長したグラフェン層83を含んでもよい。本発明に係る方法の適用の後、バンドギャップが開かれ、その値は約0.95eVであることがわかる。
【0174】
本発明に係る方法の第1の有利な実施形態に関して上で示された本発明に係る方法の応用の特別な場合は、1500Langmuirsから2500Langmuirsの間、または2500以上Langmuirsの照射量の使用を推奨する発明に係る方法の第2の有利な実施形態に適用できる。しかしながら、これらの特例が半導体性の修飾されたグラフェン層を含む構造体を得るフレームワークに述べられるので、説明のこの部分は半導体性の修飾されたグラフェン層よりむしろ2重の修飾されたグラフェン層を開示するべきである。このように、標準的なグラフェン層の臨界欠陥がこの前記標準的なグラフェン層で電子移動度を減らしている初期構造に存在する場合、これらの臨界欠陥は水素化ステップによって皮膜で保護される。
【0175】
本発明に係る方法の第1の実施形態の様に、第2の実施形態は、修飾されたグラフェン層を得て、最初のグラフェン層とSiC表面層121の間に存在するかもしれない大部分の臨界欠陥を皮膜で保護するのに用いることができる。充満帯は、再びディラック円錐の形状を持つ。このように、電子の高移動度は、有利な実施形態のいずれか一つにより、発明に係る方法の後に更新される。
【0176】
同様に、本発明者らは、本発明に係る方法の第3の実施形態を開示するために、図13Aから13Cに示すように、本発明に係る方法の第2の実施形態に関係する機序から推定した。
【0177】
本発明に係る方法の第1および第2有利な実施形態は、最初のエピタキシャル成長したグラフェン層が表面上に存在する少なくとも1つの基板を含む初期構造体を必要とする。
【0178】
本発明者らは、半導体性の修飾されたグラフェン層を含む構造体を得るために、この必要を除去する本発明に係る方法の第3の有利な実施形態を提唱する。
【0179】
第1に、初期構造体1301は、いかなる最初のエピタキシャル成長したグラフェン層も有しない少なくとも1層の炭化ケイ素SiC層を含むものから選択される。炭化ケイ素層は、図13Aに示した層のような、シリコン面またはカーボン面のあるSiCであってもよい。この層はそれ自身で独立基板であってもよく、または、それはもう一つの材料、例えばシリコンでできている基板120の上で存在する表面層131であってもよい。この層の自由表面に2つの最後の原子平面、最後のカーボン平面132と最後のシリコン平面134がある。最後の原子平面は、表面層131のカーボン面かシリコン面それぞれが露出するかどうか依存する最後のカーボン平面132または最後のシリコン平面134である。
【0180】
水素化135と熱処理136は、本発明に係る方法の第2の有利な実施形態と同様の実施条件で、上記の自由表面と最後の2つの原子平面に適用される(図13B)。特に、水素化は1500Langmuirsから2500Langmuirsの間、または2500Langmuirs以上、例えば2000Langmuirsまたは2200Langmuirsまたは3000Langmuirsの水素ガス照射量で望ましくは行われる。これらの値は、CEAの実験的な試験設定で、10−7Paに等しい圧力状況下で考慮されなければならない。水素圧が変わり、試験設定が変わる場合、当業者は上述の値の調整をして、例えば、4000Langmuirsまたは5000Langmuirsと同程度高い照射量を使用する。
【0181】
本発明に係る方法の第1のおよび第2有利な実施形態で述べたのと同じ方法では、上記の熱処理136は、水素化アニーリングおよび/または水素化後アニーリングであってもよい。従って、それは水素化の間、および/または後に行われてもよい。アニーリング作業の温度は200℃から400℃の間、望ましくは250℃から350℃の間、特に300℃の近くにあり、時間は数分、例えば1分から20分の間、有利には5分である。例えば、アニーリングは炉内でされてもよい。
【0182】
付加的な水素原子Hは、付加的な水素原子Hのバッファ面を形成し、表面層131から最後のカーボン平面を分離する最後のカーボン平面132の下に浸透する。さらにまた、水素原子は取り除かれてもよく、または最後のシリコン平面138の一部を破壊してもよい。
【0183】
これは、最後のカーボン平面132から、付加的なグラフェン層123を形成する(図13C)。従って、得られた結果は、基板120と、少なくとも1つのカーボン平面と少なくともシリコン平面の一部が初期構造体1301から除かれたSiC表面層121と、基板120全体にわたり、かつSiC表面層121全体にわたって広がることができる修飾されたグラフェン層123を含む新しい構造体1201である。
【0184】
表面にあり、この修飾されたグラフェン層123はあたかもグラフェンが有意にpドープされたかのような挙動をする。
【0185】
このように、本発明に係る水素化ステップに対する表面上の最初のグラフェン層のない最初のSiC基板の露出は、電気的に基板から分離した単層の修飾されたグラフェン層を形成するために、最後のカーボン平面をSiC面から分離することができる。
【0186】
この新しい構造体から始まって、照射量は、本発明に係る方法の第2の有利な実施形態の説明に示されたグラフェン層の水素化サイクルに由来する情報を適用することによって、前に得られた修飾されたグラフェン層の下でいくつかの重ね合わせた修飾されたグラフェン層を形成するために増加することができる。
【0187】
照射量のこの増加は、第3の有利な実施形態における水素化ステップの間、なされてもよく、または、それは追加的なステップで行われてもよい。使用されるべき水素に対する照射量は、構造体の機能と使用される圧力として評価されるべきである。
【0188】
本発明に係る方法の各実施形態において、水素化はいかなる水素同位元素によってでも、または、異なる水素同位元素のガスの混合でされてもよい。特定に、プロチウム(H)またはジュウテリウム(H)または、プロチウムとジュウテリウムのガス性混合を使うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の半導体グラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)を含み、前記修飾されたグラフェン層は、査型トンネル分光法で測定された0.2eVから1.8eVの間のバンドギャップ(7A、7B、7C、7’、角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察された電子状態の分散を有し、前記電子状態の分散はディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散であり、前記修飾されたグラフェン層が基板(21、61、81、91、121、131)上に存在し、
− グラフェン層(21、61、81、91)を支持可能な少なくとも1つの非金属基板を含む初期構造体(800、900、1201、1301)の供給、
− 前記基板上にグラフェン層(22、82、92、23、63、63’、63’’、83、123、123’)の形成、
− 修飾されたグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)を得るために、100Langmuirsから4000Langmuirsの間に、すなわち13mPa.sから533mPa.sの間の照射量で、原子状水素への照射(85)による初期構造体の水素化(800、900)、
を含む構造体(201、601、801、1200)を製造する方法。
【請求項2】
前記水素化ステップがグラフェン層(22、82、92)の形成の後に行われる請求項1の方法。
【請求項3】
水素化の間の照射量が100から1100Langmuirsの間、すなわち13mPa.sから147mPa.sのあいだであり、前記グラフェン層(22、82、92)はディラック円錐の形状の充満帯または電子状態の線形分散を有する半導体性の修飾されたグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’である請求項2の方法。
【請求項4】
前記基板の少なくとも1層の表面層(91、121、131)はSiCで形成され、前記照射量は1300から2500Langmuirsの間、または、1300から4000Langmuirsの間、すなわち、173mPa.sから333mPa.sの間、または、173のmPa.sから533のmPa.sの間であり、少なくとも1層の最後のカーボン平面(122、132)はSiC表面層(91、121、131)から分離され、ディラック円錐の形状の充満帯または電子状態の線形分散を有する少なくとも1層の半導体性の修飾されたグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)を形成する請求項1または2の方法。
【請求項5】
前記基板(21、61、81、91、121、131)の少なくとも1層の表面層(91、121、131)はSiCでできており、前記基板(21、61、81、91、121、131)がシリコン基板(90)から生じる請求1から4のうちの1つの方法。
【請求項6】
200℃から400℃の間の温度で1分から20分の間持続する水素化後アニーリング(86’)と呼ばれる水素化ステップの後に行われるアニーリングを含む請求1から5のうちの1つの方法。
【請求項7】
200℃から400℃の間の温度で水素化アニーリング(86)と呼ばれる水素化ステップの間に行われるアニーリングを含む請求1から6のうちの1つの方法。
【請求項8】
前記水素化ステップが10−4Pascal以下の圧力で行われる請求1から7のうちの1つの方法。
【請求項9】
少なくとも1つの半導体性または絶縁基板(21、61、81、91、121、131)と、この基板(21、61、81、91、121、131)上に存在し、走査型トンネル分光法によって測定した0.2eVから1.8eV間のバンドギャップ(7A、7B、7C、7’)を含む半導体修飾されたグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)であるという点と、ディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散の形で角度分解型光電子分光法(ARPESまたはARUPS)によって観察された電子状態の分散を有する点で特徴付けられる少なくとも1層のグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)を含む構造体。
【請求項10】
付加的な水素原子(H)が修飾されたグラフェン層(23、63、63’、63’’、83、123、123’)とSiC基板(21、61、81、91、121、131)の間にバッファ平面を形成し、付加的な水素原子(H)は前記基板(21、61、81、91、121、131)のSiCに結合する請求項9の構造体。
【請求項11】
いくつかのグラフェン層(63、63’、63’’が互いに積層し、電気的に互いに分離する請求9から10のうちの1つの構造体。
【請求項12】
いくつかのグラフェン層(63、63’、63’’)を含み、0.2eV以上のバンドギャップとディラック円錐を形成する充満帯または電子状態の線形分散を有する第1の半導体性の修飾されたグラフェン層(63)と、ゼロバンドギャップのほぼ金属的または半導体性の挙動の層を含み、第1のグラフェン層によって基板から分離した第2のグラフェン層(63’)を備える請求9から11のうちの1つの構造体。
【請求項13】
前記第1のグラフェン層(63)と前記第2のグラフェン層(63’)との間に挿入される第3のグラフェン層(63’’)を含み、前記第3のグラフェン層(63’’)は0.2eV以上のバンドギャップと、ディラック円錐の形の充満帯または電子状態の線形分散を有する修飾されたグラフェン層である請求項12の構造体。
【請求項14】
前記第3のグラフェン層(63’’)が前記第1のグラフェン層(63)のバンドギャップと異なるバンドギャップを有する請求項13の構造体。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【公表番号】特表2013−510071(P2013−510071A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538310(P2012−538310)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/067134
【国際公開番号】WO2011/054968
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(506423291)コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ (85)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【Fターム(参考)】