説明

閾値更新装置、閾値決定装置、閾値更新方法、閾値決定方法およびプログラム

【課題】本人拒否率を小さな値に抑制したまま他人許可率を低下させることができ、閾値の決定や更新を容易に行うことを可能とすること。
【解決手段】本発明に係る閾値更新装置は、ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出する生体情報抽出部と、ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新する閾値更新部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閾値更新装置、閾値決定装置、閾値更新方法、閾値決定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
情報処理技術および情報通信技術の発達により、複数の機器どうしを接続してデータの共有交換を行なったり、遠隔地間で協働作業を行なったりする機会が増えてきている。接続し合う機器の組み合わせも、固定的ではなく、多数にまたがる場合が多い。このため、いわゆる「なりすまし」による情報の漏洩や不正利用を防止するべく、ユーザ本人であることを確認するための認証手続が広く採用されるようになってきている。このような認証手続の一例として、近年、セキュリティの確保が容易な生体認証が利用されつつある。この生体認証は、生体に固有な情報である生体情報に基づいて、ユーザ本人であることを確認するための認証手続である。
【0003】
このような生体認証処理を行うシステムでは、システム単位でユーザ本人であるか否かを判定するための本人判定閾値が決定されている場合が多い。この際、本人判定閾値が厳しく設定されると、本人拒否率(False Rejection Rate:FRR)が高まってしまう。また、本人判定閾値が緩く設定されると、他人許可率(False Acceptance Rate:FAR)が高まってしまう。
【0004】
そこで、以下に示す特許文献1では、システムにより決定された閾値を更新することで、高い精度で本人判定を行うことを可能とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−243054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ユーザ本人の類似度がシステムにより決定された閾値よりも低い場合には、そのユーザはシステムにより認証されなくなってしまうため、閾値は、慎重に決定される必要があり、閾値の初期値を決定することが困難であるという問題があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、認証の際に算出された類似度と現状の閾値とを比較することで閾値の更新を行うため、たまたまテンプレートと類似度が非常に高い生体情報が入力された場合であっても、閾値が急激に変化する可能性があるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、本人拒否率を小さな値に抑制したまま他人許可率を低下させることができ、閾値の決定や更新を容易に行うことが可能な、閾値更新装置、閾値決定装置、閾値更新方法、閾値決定方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出する生体情報抽出部と、ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新する閾値更新部と、を備える閾値更新装置が提供される。
【0010】
前記閾値更新装置は、ユーザ本人の生体情報およびテンプレート間の類似度の分布である本人分布を更に有しており、前記本人分布および他人分布の算出を含む統計的な演算を行う統計処理部を更に備え、前記統計処理部は、抽出された前記生体情報に基づいて、前記本人分布および前記他人分布を更新し、前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布および前記他人分布に基づいて、前記閾値の更新を行うことが好ましい。
【0011】
前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布の最小の類似度が更新後の前記他人分布の最大の類似度よりも高い場合、前記最小の類似度と前記最大の類似度との間に位置する類似度を、更新後の前記閾値とすることが好ましい。
【0012】
前記統計処理部は、前記本人分布および前記他人分布の分散値を更に算出し、前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布の最小の類似度が更新後の前記他人分布の最大の類似度よりも低い場合、前記本人分布の分散値と前記他人分布の分散値との間に位置する類似度を、更新後の前記閾値とすることが好ましい。
【0013】
前記統計処理部は、抽出した前記生体情報とユーザ本人の前記テンプレートとの類似度、および、抽出した前記生体情報と前記他のユーザのテンプレートとの類似度の最高値を算出し、算出した生体情報とユーザ本人のテンプレートとの類似度を前記本人分布に追加するとともに、前記本人分布に含まれる最も古くかつ最も類似度の高いデータを前記本人分布から削除し、算出した前記類似度の最高値を前記他人分布に追加するとともに、前記他人分布に含まれる最も古くかつ最も類似度の低いデータを前記他人分布から削除してもよい。
【0014】
前記生体情報抽出部は、複数の生体撮像画像それぞれから、前記生体情報を抽出し、
前記閾値更新装置は、抽出された複数の前記生体情報の中から、テンプレートとして登録する前記生体情報を選択するテンプレート選択部と、前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択部により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定部と、を更に備えてもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出する生体情報抽出部と、抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を決定するテンプレート選択部と、前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択部により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定部と、を備える閾値決定装置が提供される。
【0016】
前記閾値決定装置は、前記他人分布の算出を含む統計的な演算を行う統計処理部を更に備え、前記統計処理部は、前記生体情報抽出部により生成された複数の前記生体情報のうち前記テンプレートとして決定された前記生体情報と、前記テンプレートとして決定された生体情報以外の前記生体情報と、に基づいて、ユーザ本人の生体情報およびテンプレート間の類似度の分布である本人分布を算出し、前記閾値決定部は、前記本人分布と前記他人分布とに基づいて、前記閾値を決定することが好ましい。
【0017】
前記閾値決定部は、前記本人分布の最小の類似度が前記他人分布の最大の類似度よりも高い場合、前記最小の類似度と前記最大の類似度との間に位置する類似度を前記閾値とすることが好ましい。
【0018】
前記統計処理部は、前記本人分布および前記他人分布の分散値を更に算出し、前記閾値決定部は、前記本人分布の最小の類似度が前記他人分布の最大の類似度よりも低い場合、前記本人分布の分散値と前記他人分布の分散値との間に位置する類似度を前記閾値とすることが好ましい。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出するステップと、ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新するステップと、を含む閾値更新方法が提供される。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出するステップと、抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を選択するステップと、前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、決定した前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定するステップと、を含む閾値決定方法が提供される。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、コンピュータに、ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出する生体情報抽出機能と、ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新する閾値更新機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、コンピュータに、ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出する生体情報抽出機能と、抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を選択するテンプレート選択機能と、前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択機能により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定機能と、を実現させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように本発明によれば、本人拒否率を小さな値に抑制したまま他人許可率を低下させることができ、閾値の決定や更新を容易に行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】生体パターン画像について説明するための説明図である。
【図2】生体認証処理におけるFARとFRRについて説明するための説明図である。
【図3】生体認証処理におけるFARとFRRについて説明するための説明図である。
【図4A】生体情報の類似度の分布について説明するための説明図である。
【図4B】生体情報の類似度の分布について説明するための説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る閾値決定装置の構成について説明するためのブロック図である。
【図6】同実施形態に係る閾値決定装置の統計処理部の構成について説明するためのブロック図である。
【図7】同実施形態に係る閾値決定方法について説明するための説明図である。
【図8A】同実施形態に係る閾値決定方法について説明するための説明図である。
【図8B】同実施形態に係る閾値決定方法について説明するための説明図である。
【図9】同実施形態に係る閾値決定方法について説明するための流れ図である。
【図10】同実施形態に係る閾値更新装置の構成について説明するためのブロック図である。
【図11】同実施形態に係る閾値更新装置の統計処理部の構成について説明するためのブロック図である。
【図12】同実施形態に係る閾値更新方法について説明するための説明図である。
【図13】同実施形態に係る閾値更新方法について説明するための説明図である。
【図14】同実施形態に係る閾値更新方法について説明するための説明図である。
【図15】同実施形態に係る閾値更新方法について説明するための説明図である。
【図16】同実施形態に係る閾値更新方法について説明するための流れ図である。
【図17】同実施形態に係る閾値設定装置の構成について説明するためのブロック図である。
【図18】同実施形態に係る閾値設定装置の統計処理部の構成について説明するためのブロック図である。
【図19】同実施形態に係る閾値設定装置の閾値設定部の構成について説明するためのブロック図である。
【図20】ランレングス符号化処理について説明するための説明図である。
【図21】ランレングス符号化処理について説明するための説明図である。
【図22】ランレングス符号化処理について説明するための説明図である。
【図23】ランレングス符号化処理について説明するための説明図である。
【図24A】本発明に係るFARの大きさについて説明するためのグラフ図である。
【図24B】本発明に係るFARの大きさについて説明するためのグラフ図である。
【図25】本発明の実施形態に係る閾値決定装置、閾値更新装置および閾値設定装置のハードウェア構成について説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
なお、以下の説明では、生体認証の一例として、静脈認証を例にとって説明を行なうものとする。しかしながら、本発明は、静脈認証のみに限定されるわけではなく、指紋認証、顔認証、虹彩認証など、他の様々な生体認証についても適用することが可能である。
【0027】
説明は、以下の順序で行うものとする。
(1)本発明の実施形態に係る閾値の決定方法および更新方法の概略について
(2)第1の実施形態
(2−1)閾値決定装置の構成について
(2−2)閾値決定方法について
(2−3)閾値更新装置の構成について
(2−4)閾値更新方法について
(2−5)閾値設定装置の構成について
(2−6)実施例について
(3)本発明の実施形態に係る閾値決定装置、閾値更新装置および閾値設定装置のハードウェア構成について
(4)まとめ
【0028】
(閾値の決定方法および更新方法の概略について)
生体情報の照合に関して、以下のような3つの考え方がなされることが多い。
1.異なる生体部位に対して異なるパラメータを評価して、生体情報の照合を行う。
2.同じ生体部位に対しても照合アルゴリズムによって照合するパラメータが異なる。
3.同じ生体部位に対して同じ照合アルゴリズムを用いた場合でも装置や環境パラメータの変化によって生体情報が変化する場合がある。
【0029】
以下、上記3つの考え方それぞれについて、簡単に説明する。
上記1.について、例えば、生体情報が静脈に関するものである場合には、パラメータとして静脈パターンを用い、パターンマッチングにより照合を行う。また、生体情報が指紋に関するものである場合には、パラメータとして指紋の特徴点を用い、特徴点のマッチングにより照合を行う。また、生体情報が顔に関するものである場合には、パラメータとして顔に固有のベクトルを用い、固有ベクトルのマッチングにより照合を行う。この際、マッチングに用いるパラメータによっても、照合結果が異なる。また、同じパラメータを考慮したとしても、異なった生体部位に対して異なった傾向の照合結果となる場合もある。例えば、パターンマッチングに対し相互相関値を考慮したとしても、同じ人の指静脈パターン同士と指紋の特徴点パターンについて、同じ相関値となるとは限らない。
【0030】
上記2.について、例えば、静脈パターンのマッチングにおいて、相互相関を用いるアルゴリズム、細線化された静脈パターンについて相互相関を用いるアルゴリズム、ハフ変換後のパターンの相関を用いるアルゴリズム等がある。これらのアルゴリズム間においても、照合に用いる値が大きい程類似度が高い、照合に用いる値がある範囲内であると類似度が高い、など、照合結果の傾向が異なる。
【0031】
上記3.について、例えば、照合に用いる画像サイズによって同じ生体部位でも照合に用いる類似度(例えば、差分絶対値和:SAD)の値が倍になったり、明るさの変化によって相互相関値が変化したりする、といったことが起こる。また、環境変数によっても、照合結果の閾値は変化する。
【0032】
任意の生体認証システムにおいて、データベース内のすべてのデータに対して、生体部位、アルゴリズム、装置、環境などが同一であるため、これらの要因を調整して閾値を決める方法が一般的なやり方である。つまり、一般的な方法では、あるシステムに対して照合結果がある決まった閾値以上または閾値以下であることによって、「認証」の判断をしていた。
【0033】
これに対して、本発明の実施形態では、生体部位、アルゴリズム、装置、環境等といった要因が同一であっても、データベース内の各データに対して、そのデータ独特の閾値を用いること(すなわち、ユーザに個別の閾値を設定すること)を提案する。その理由は、個人毎に、生体部位から抽出される情報量が大幅に異なり、情報量の大きさによって本質的に照合結果が変動するためである。
【0034】
例えば、図1に示した指静脈のパターン画像に対して差分絶対値和(Sum of Absolute Difference:SAD)を算出する場合について考える。図1(a)に示した指静脈パターンでは、抽出されたパターン部分が非常に少ないため、任意の静脈パターン、例えば、図1(b)とのSADを求める場合、白い画素が重なり合う確立が低く、SADの値が大きくなりがちである。他方、図1(c)のような静脈パターンの場合、異なる静脈パターンと照合した場合でも、白い画素が重なり合う確立が高くなるため、SADの値は低くなりがちである。同様のことは、SADだけでなく、相関値を用いる場合も言える。例えば、パターンが多い画像ほど、異なる画像との照合を行った際には、パターンの一部が類似する確率が高くなる。よって、異なる画像の場合、テンプレート画像の特徴によって照合結果が異なると言える。本発明の実施形態では、この特徴に着目し、データベース内のそれぞれのデータに対して固有の閾値を設定する。
【0035】
ユーザそれぞれに対してユーザに適した閾値を設定することで、任意のテンプレート画像に対して、データベース内の他のテンプレートの特徴を考慮せず、閾値を最大限に厳しくすることができる。よって、本発明の実施形態では、以下のような利点がある。
【0036】
すなわち、単一のステップを経て認証を行うような、いわゆる1対1認証による生体認証システムでは、他人許可率を低下させることが可能である。また、複数のステップを経て認証を行うような、いわゆる1対N認証による生体認証システムでは、他人許可率を低下させることが可能となるとともに、次段階のステップに認証候補として伝送されるテンプレートの候補数を減少させることができる。その結果、1対N認証に要する計算時間を削減し、認証処理の高速化を図ることが可能となる。
【0037】
また、一般的な生体認証システムでは、他人許可率を低下させるために敢えて閾値を厳しく設定し、本人拒否率の増加をある程度まで許容する。しかしながら、本発明の実施形態では、本人拒否率を最小限に抑制したままで、他人許可率を削減することが可能となる。
【0038】
以下では、図2を参照しながら、閾値が一律に設定される一般的な生体認証システムにおける他人許可率と本人拒否率との関係について説明する。図2は、生体認証処理におけるFARとFRRについて説明するための説明図である。
【0039】
図2では、20本の指(すなわち、20人のユーザ)のそれぞれについて、複数回の本人認証の際に算出された類似度(例えば、相互相関値を用いた類似度)を○で示し、他のユーザの19本の指との類似度を*で示している。図2において、横軸は、ユーザに付与されているインデックス(ユーザ・インデックス)であり、縦軸は、相互相関値である。
【0040】
図2において、システムの閾値を下側の点線の値(システム内における○の最小値)に設定した場合、本人拒否率は0となるが、下側の点線よりも上側に*がプロットされているユーザが本人として認証されることとなり、他人許可率が増加する。他方、システムの閾値が上側の点線の値(システム内における*の最大値)に設定した場合、他人許可率は0となるが、大量の本人データが拒否され、本人拒否率が増加することとなる。このように、本人拒否率と他人許可率とは、トレードオフの関係となっている。そのため、一般的な生体認証システムでは、本人拒否率と他人許可率の双方をある程度許容し、中央の実線で示した値をシステムの閾値として設定する。
【0041】
これに対し、図3に示す本発明の実施形態に係る閾値決定方法および閾値更新方法では、各登録データに対して別々の閾値を設定する。これにより、自身の生体情報が他人の生体情報と類似しやすいユーザ(*が高い位置まで存在するユーザ)には、高い閾値を設定し、自身の生体情報が他人の生体情報と類似していないユーザ(*が低い位置にとどまっているユーザ)には、低い閾値を設定できる。これにより、従来では避けられなかったFARとFRRのトレードオフを避け、FARとFRRを0に保持することができる。つまり、本発明の実施形態では、生体認証システムの認証精度を向上させることが可能となり、ひいてはユーザの利便性を向上させることができる。
【0042】
閾値設定の際、低い画質の本人入力画像と登録画像の類似度とを採択する傾向はあるが、これにより、他人画像が認証されてしまう、つまりFARを大きくしてしまう可能性がある。この点について、本発明の実施形態では、以下のように考える。
【0043】
任意のシステムに対して認証を行う際、生体部位(例えば、指など)の置き方によって一連の入力画像の中で、初期画像フレームと登録画像との間の類似性が低くなることが生じうる。これは、生体部位を撮像する際に生体部位を載置した瞬間の不安定さによって生じるものである。よって、一般的なシステムでは、一度の認証にかかる時間ではなく、その複数倍の時間を「タイムアウト時間」として定義し、タイムアウト時間までに認証が取れない場合に、結果として「認証失敗」を出力する。よって、本人認証の場合、タイムアウトまでは複数回認証を繰り返す余裕があり、そのうち安定した画像が生成されることとなるため、認証結果として「認証成功」が出力されると考えられる。つまり、入力画像の中から類似性の低い画像を無視し、認証結果を統計的な解析に基づいて採用できると考えられる。
【0044】
以上を考慮し、本発明の実施形態では、閾値を設定する際、対応するユーザの「本人同士の類似度分布(本人分布)」と「他人との間の類似度分布(他人分布)」に基づいて、これらの分布から直接閾値を決定するか、更に統計的な処理を行うかを判断する。
【0045】
図4Aおよび図4Bは、生体情報の類似度の分布について説明するための説明図である。図4Aおよび図4Bの横軸は、類似度(例えば、相互相関値)を表しており、値が高いほど2つのデータが類似していることを示す。また、図4Aおよび図4Bの縦軸は、同一の類似度を持つデータの頻度である。
【0046】
図4Aに示したように、本人分布と他人分布とがはっきり分かれている場合(すなわち、本人分布の類似度の最小値が他人分布の類似度の最大値よりも大きい場合)は、図中の2本の点線で挟まれた領域内に位置する任意の類似度を、閾値に設定すればよい。
【0047】
また、図4Bに示したように、本人分布と他人分布とが重なり合っている場合(すなわち、本人分布の類似度の最小値が他人分布の類似度の最大値よりも小さい場合)は、ある程度の本人拒否率または他人許可率を許さざるを得ない。このようなケースでは、本人分布および他人分布だけでなく、これらの分布の統計的な性質を考慮し閾値を設定する。
【0048】
例えば、図4Bに示した分布において、他人許可率を抑制したい場合、本人分布の分散を考慮した上で、閾値を決定する。また、図4Bに示した分布において、本人拒否率を抑制したい場合、他人分布の分散を考慮した上で、閾値を決定する。
【0049】
以下、本発明の実施形態に係る閾値決定方法および閾値更新方法について、詳細に説明する。
【0050】
(第1の実施形態)
<閾値決定装置の構成について>
まず、図5および図6を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る閾値決定装置の構成について、詳細に説明する。図5は、本実施形態に係る閾値決定装置の構成について説明するためのブロック図である。図6は、本実施形態に係る統計処理部の構成について説明するためのブロック図である。
【0051】
本実施形態に係る閾値決定装置10は、例えば図5に示したように、生体撮像部101、撮像制御部103、生体情報抽出部105、テンプレート選択部107、統計処理部109、閾値決定部111および記憶部113を主に備える。
【0052】
生体撮像部101は、生体部位の表面(以下、体表面とも称する。)に対して所定の波長帯域を有する近赤外光を照射する光源部と、撮像素子およびレンズ等の光学素子から構成される光学系と、を含む。
【0053】
近赤外光は、身体組織に対して透過性が高い一方で、血液中のヘモグロビン(還元ヘモグロビン)に吸収されるという特徴を有するため、近赤外光を指や手のひらや手の甲に照射すると、指や手のひらや手の甲の内部に分布している静脈が影となって画像に現れる。画像に表れる静脈の影を、静脈パターンという。このような静脈パターンを良好に撮像するために、発光ダイオード等の光源部は、約600nm〜1300nm程度の波長、好ましくは、700nm〜900nm程度の波長を有する近赤外光を照射する。
【0054】
ここで、光源部が照射する近赤外光の波長が600nm未満または1300nm超過である場合には、血液中のヘモグロビンに吸収される割合が小さくなるため、良好な静脈パターンを得ることが困難となる。また、光源部が照射する近赤外光の波長が700nm〜900nm程度である場合には、近赤外光は、脱酸素化ヘモグロビンと酸素化ヘモグロビンの双方に対して特異的に吸収されるため、良好な静脈パターンを得ることができる。
【0055】
光源部から射出された近赤外光は、生体部位の表面に向かって伝搬し、直接光として、生体の側面などから内部に入射する。ここで、人体は良好な近赤外光の散乱体であるため、生体内に入射した直接光は四方に散乱しながら伝搬する。生体内を透過した近赤外光は、光学系を構成する光学素子に入射することとなる。
【0056】
生体撮像部101を構成する光学系は、1または複数の光学素子と、1または複数の撮像素子と、から構成される。
【0057】
人体の皮膚は、表皮層、真皮層および皮下組織層の3層構造となっていることが知られているが、静脈の存在する静脈層は、真皮層に存在している。真皮層は、指表面に対して0.1mm〜0.3mm程度の位置から2mm〜3mm程度の厚みで存在している層である。したがって、このような真皮層の存在位置(例えば、指表面から1.5mm〜2.0mm程度の位置)にレンズ等の光学素子の焦点位置を設定することで、静脈層を透過した透過光を、効率よく集光することが可能となる。
【0058】
光学素子によって集光された静脈層を透過した透過光は、CCDやCMOS等の撮像素子に結像されて、静脈撮像データとなる。生成された静脈撮像データは、後述する生体情報抽出部105に伝送される。
【0059】
撮像制御部103は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現される。撮像制御部103は、光源部、光学系および撮像素子を制御して、撮像データを生成する。より詳細には、撮像制御部103は、光源部、光学系および撮像素子を制御して、所定時間の間体表面を撮像し、複数の撮像データを生成する。撮像制御部103は、体表面を撮像し続け、複数の画像フレームからなる動画データを生成してもよく、体表面を所定の時間間隔で撮像し、複数の静止画データを生成してもよい。なお、動画データが生成される場合には、この動画データのフレームレートは、生体撮像部101の性能や設置環境等に応じて、任意の値に設定される。
【0060】
撮像制御部103は、撮像素子によって生成された撮像データを、後述する生体情報抽出部105に出力させる。また、撮像制御部103は、得られた撮像データを、後述する記憶部113等に記録してもよい。また、記憶部113等への記録に際して、撮像制御部103は、生成した撮像データに撮像日や撮像時刻等を関連づけてもよい。なお、生成される撮像データは、RGB(Red−Green−Blue)信号であってもよいし、それ以外の色やグレースケール等の画像データであってもよい。
【0061】
また、撮像制御部103は、予め設定された所定時間が経過すると、体表面の撮像を停止する。
【0062】
生体情報抽出部105は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。生体情報抽出部105は、生体撮像部101から伝送された近赤外撮像データのなかから、ユーザの静脈パターンを表す画像である生体情報(静脈画像)を抽出する。この生体情報抽出部105は、例えば、画像平滑化部、輪郭抽出部、マスク画像生成部、切出部、静脈平滑化部、2値化部、太線化部、細線化部、サムネイル画像生成部といった処理部を更に有する。
【0063】
画像平滑化部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。画像平滑化部は、生体撮像部101から伝送される静脈撮像データに対して、例えばガウシアンと呼ばれる空間フィルタを用いてフィルタ処理を施し、静脈撮像データに対応する静脈画像を平滑化する。
【0064】
輪郭抽出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。輪郭抽出部は、画像平滑化部によって平滑化された静脈画像に対して、例えばLog(Laplacian of Gaussian)フィルタと呼ばれる空間フィルタを用いてフィルタ処理を施し、静脈画像における輪郭を強調して浮き彫りにする。
【0065】
マスク画像生成部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。マスク画像生成部は、輪郭抽出部によって輪郭が強調された静脈画像から、背景部分とのコントラストを基に、指輪郭などの輪郭線を検出する。また、マスク画像生成部は、検出された輪郭線に囲まれる指領域と、それ以外の領域とを、2値で示す画像(以下、これをマスク画像とも称する。)を生成する。
【0066】
切出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。切出部は、輪郭抽出部によって輪郭が強調された静脈画像から、マスク画像生成部によって生成されたマスク画像を用いて、指輪郭に囲まれる指領域を含む所定サイズの画像を切り出す。
【0067】
静脈平滑化部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。静脈平滑部は、切出部によって切り出された静脈画像に対して、例えばメディアンと呼ばれる空間フィルタを用いてフィルタ処理を施し、静脈画像における静脈部分を平滑化する。
【0068】
2値化部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。2値化部は、静脈平滑化部によって静脈部分が平滑化された静脈画像を、設定された輝度レベルを基準として、2値レベルに変換する。ここで、仮に、静脈が平滑化される前の静脈画像を2値化対象の画像とした場合、実際には一本の静脈が、2値化によって2本の静脈として分離される確率が高くなる。したがって、静脈が平滑化された静脈画像を2値化対象とすることで、実際の静脈に近似する状態での2値化が可能となる。
【0069】
太線化部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。太線化部は、2値化部によって2値化された静脈画像に対して、例えばダイレーションと呼ばれる空間フィルタを用いてフィルタ処理を施し、静脈画像に含まれる静脈を太線化する。この結果、本来連結された静脈箇所であるにもかかわらず途切れていた静脈箇所が連結される。
【0070】
細線化部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。細線化部は、太線化部によって静脈部分が太線化された静脈画像に対して、例えばエロージョンと呼ばれる空間フィルタを用いてフィルタ処理を施し、静脈部分の静脈幅を一定とする。
【0071】
サムネイル画像生成部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。サムネイル画像生成部は、静脈幅が一定となった静脈部分と、背景部分とを2値で示す静脈画像を細線化部から取得し、この静脈画像から、縦横サイズをn分の1倍に圧縮した画像であるサムネイル画像を生成する。
【0072】
このようにして生体情報抽出部105は、静脈幅が一定とされる静脈部分と、背景部分とを2値で示す画像を、生体画像として抽出し、生体画像のサムネイル画像を生成する。生体情報抽出部105は、複数の撮像データから抽出した複数の生体情報を、後述するテンプレート選択部107および統計処理部109に伝送する。また、生体情報抽出部105は、抽出した生体情報を、これらの情報に固有の識別情報(例えば、識別番号等)と関連付けて、後述する記憶部113に格納してもよい。
【0073】
なお、本実施形態に係る生体情報抽出部105は、必要に応じて、以下で説明するような特徴量抽出部を更に有しても良い。
【0074】
特徴量抽出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。特徴量抽出部は、生体情報抽出部105から伝送された生体画像や、各種の情報に基づいて、ユーザの静脈パターンに固有な特徴量に関する情報である特徴量情報を抽出する。ユーザの静脈パターンに固有な特徴量として、例えば、体の一部(例えば指等)の輪郭に関する情報や、静脈画像の輝度分布に関する情報や、静脈画像の血管量に関する情報等がある。この特徴量抽出部は、例えば、輪郭形状抽出部、度数分布抽出部、血管量抽出部等を更に有する。
【0075】
輪郭形状抽出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。輪郭形状抽出部は、ノイズ成分の除去段階で生成される静脈画像を用いて、体の一部(例えば、指等)の輪郭形状を表す情報を抽出する。
【0076】
この抽出手法の具体的な一例を説明する。輪郭形状抽出部は、マスク画像生成部からマスク画像を取得し、取得したマスク画像から、指輪郭(指枠を構成する画素)の一部を含む特定領域を切り出す。
【0077】
その後、輪郭形状抽出部は、特定領域を、縦横サイズがn分の1倍となるように圧縮し、圧縮された特定領域に含まれる指輪郭(指枠を構成する画素)の位置を、特定領域での基準(例えば、左端)からの距離を示す座標値(x座標値)として抽出する。
【0078】
度数分布抽出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。度数分布抽出部は、ノイズ成分の除去段階で生成される静脈画像を用いて、指などの体の一部の輪郭に囲まれる生体領域の度数分布を表す情報を抽出する。
【0079】
この抽出手法の具体的な一例を説明する。度数分布抽出部は、画像平滑化部から、平滑化された静脈画像を取得するとともに、マスク画像生成部からマスク画像を取得する。
【0080】
そして度数分布抽出部は、平滑化された静脈画像から、マスク画像を用いて体の部分に該当する領域(例えば指領域)を認識し、体の部分に該当する領域から、設定された輝度階級ごとの画素数を抽出する。
【0081】
血管量抽出部は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。血管量抽出部は、2値画像における静脈の太線化段階で生成される静脈画像を用いて、指等の体の一部の輪郭に囲まれる領域内の静脈量を表す情報を抽出する。この抽出手法の具体的な一例を説明する。血管量抽出部は、静脈が太線化された2値の静脈画像を太線化部から取得し、静脈画像から、静脈を構成する画素の数(血管量)を表す情報を抽出する。
【0082】
特徴量抽出部は、輪郭形状を表す情報、度数分布を表す情報、および血管量を表す情報等を対応する生体画像に関連付けて、後述する記憶部113等に格納することが可能である。
【0083】
テンプレート選択部107は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。テンプレート選択部107は、生体情報抽出部105から伝送された複数の生体情報の中から、テンプレートとして登録する生体情報を選択する。
【0084】
テンプレートとして登録される生体情報は、複数の生体情報のうち所定の基準を満たすものである。このような基準の一例として、ある画像の前後(時間的な前後)に位置するフレームに比べてパターン量が多すぎたり少なすぎたりしていない、前後の画像に比べてパターンの差が激しく変化していない、等がある。また、テンプレート選択部107は、これらの基準以外に、任意の基準に基づいてテンプレートの選択を行うことができる。なお、テンプレート選択部107が複数の生体情報の中から選択する生体情報の個数は、1つに限定されるわけではない。
【0085】
テンプレート選択部107は、テンプレートとして選択した生体情報を、後述する記憶部113等に格納されているデータベースに登録する。また、テンプレート選択部107は、複数の生体情報のうちテンプレートとして選択した生体情報、および、テンプレートとして選択された生体情報以外の生体情報を特定するための情報を、後述する統計処理部109に伝送する。
【0086】
統計処理部109は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。統計処理部109は、テンプレート選択部107から伝送された情報、および、後述する記憶部113に格納されている他のユーザのテンプレート等に基づいて各種の統計処理を行い、各種の統計的なデータを算出する。この統計処理部109は、例えば図6に示したように、類似度算出部121、分布算出部123および分散値算出部125を更に備える。
【0087】
類似度算出部121、分布算出部123および分散値算出部125は、各処理部が単独で動作したり、各処理部が互いに連携しながら動作したりして、各種の統計データを算出する。
【0088】
類似度算出部121は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。類似度算出部121は、テンプレートに選択された生体情報に基づいて、テンプレートに選択された生体情報と選択されなかった生体情報との類似度、および、テンプレートとして選択された生体情報と他のユーザのテンプレートとの類似度を算出する。類似度算出部121が算出する類似度として、例えば、相互相関値および差分の総和を用いた類似度などを挙げることができる。差分の総和を用いる方法の例として、差分絶対値和(Sum of Absolute Difference:SAD)および差分自乗和(Sum of Squared Difference:SSD)がある。
【0089】
なお、テンプレートとして複数の生体情報(例えば、a個)が登録されており、ユーザqについて類似度の算出を行う場合、類似度算出部121は、a個のテンプレートそれぞれを用いて、ユーザqに関してa個の類似度を算出する。類似度算出部121は、算出したa個の類似度のうち、値が最も大きいもの(相互相関値の場合)、または、値が最も小さいもの(差分の総和を用いる場合)を、各種の統計データを算出する際の類似度として利用する。
【0090】
例えば図7に示したように、テンプレート選択部107から(M+N)個の生体情報が伝送され、M枚の生体情報がテンプレートとして選択された場合を考える。この場合、類似度算出部121は、M個のテンプレートと、残りN個の生体情報とに基づいて、残りN個の生体情報それぞれについてM通りの類似度を算出する。その後、類似度算出部121は、M通りの類似度のうち値が最も大きいもの(相互相関値の場合)、または、値が最も小さいもの(差分の総和を用いる場合)を、本人分布を算出する際の類似度として利用するために選択する。その結果、類似度算出部121は、N個の本人分布算出用の類似度を得ることとなる。類似度算出部121は、この本人分布算出用の類似度を、後述する分布算出部123に伝送する。
【0091】
また、類似度算出部121は、テンプレートとして選択されたM個の生体情報と、他のユーザのテンプレートとに基づいて、他人分布算出用の類似度を算出する。各ユーザに対してM個のテンプレートが登録されている場合、各ユーザについてM×M個の類似度が算出されることとなる。類似度算出部121は、算出された類似度のうち、値が最も大きいもの(相互相関値の場合)、または、値が最も小さいもの(差分の総和を用いる場合)を選択する。例えば、他のユーザが(S−1)人存在する場合には、(S−1)個の他人分布算出用の類似度を得ることとなる。類似度算出部121は、この他人分布算出用の類似度を、後述する分布算出部123に伝送する。
【0092】
類似度算出部121は、算出した類似度を分布算出部123に伝送するとともに、後述する閾値決定部111に伝送してもよい。また、類似度算出部121は、算出した類似度を、後述する記憶部113等に記録してもよい。
【0093】
なお、類似度算出部121は、算出したこれらの類似度に対して、これらの類似度を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0094】
分布算出部123は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。分布算出部123は、類似度算出部121から伝送された本人分布算出用の類似度と、他人分布算出用の類似度と、に基づいて、本人分布および他人分布を算出する。
【0095】
より詳細には、分布算出部123は、本人分布算出用の類似度を、類似の度合いが高いことを示す値から順に類似の度合いが低いことを示す値まで並び替え、本人分布(より詳細には、本人分布を表す類似度の配列データ)とする。また、分布算出部123は、他人分布算出用の類似度を、類似の度合いが低いことを示す値から順に類似の度合いが高いことを示す値まで並び替え、他人分布(より詳細には、他人分布を表す類似度の配列データ)とする。
【0096】
分布算出部123は、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、後述する閾値決定部111および分散値算出部125に伝送する。また、分布算出部123は、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、後述する記憶部113等に記録する。この際、分布算出部123は、これらの配列データに対して、これらの配列データを生成した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0097】
分散値算出部125は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。分散値算出部125は、分布算出部123から伝送された本人分布および他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値とを算出する。
【0098】
分散値算出部125は、算出したそれぞれの分布の分散値を、後述する閾値決定部111に伝送する。また、分散値算出部125は、算出した分散値を、後述する記憶部113等に記録することが好ましい。この際、分散値算出部125は、これらの分散値に対して、これらの分散値を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0099】
類似度、本人分布、他人分布および分散値といった、統計処理によって生成された各種の統計データに対して時刻情報を関連づけることで、データの新旧を容易に判断することが可能となる。
【0100】
再び図5に戻って、閾値決定部111について詳細に説明する。
閾値決定部111は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。閾値決定部111は、ユーザに個別に設定されており、生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を決定する。この際、閾値決定部111は、テンプレート選択部107により選択されたテンプレート、および、分布算出部123から伝送された他人分布に基づいて、閾値を決定する。
【0101】
以下では、閾値の決定方法について、より詳細に説明する。
まず、後述する記憶部113等に一人もテンプレートが格納されていない場合、すなわち、1人目のユーザの閾値を決定する場合には、他のユーザのテンプレートが登録されていないため、他人分布を生成することができない。そのため、閾値決定部111は、伝送された本人分布に基づいて、1人目のユーザの閾値を決定する。この際、閾値決定部111は、本人分布を表す類似度の配列データのうち類似の度合いが最も小さいことを表す類似度に基づいて1人目のユーザの閾値を決定するなど、任意の方法で1人目のユーザの閾値を決定可能である。
【0102】
また、2人目以降のユーザの閾値を決定する場合には、閾値決定部111は、例えば図7に示したように、本人分布を表す類似度の配列データおよび他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、閾値を決定する。以下の説明では、類似度の値が高い程類似の度合いが高く、類似度の値が小さい程類似の度合いが低い場合(すなわち、類似度として相関値を用いる場合)を例にとって説明を行う。
【0103】
閾値決定部111は、本人分布を表す類似度の配列データと、他人分布を表す類似度の配列データとを比較して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値のどちらが大きいかを判別する。
【0104】
本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも大きい場合、閾値決定部111は、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との間に位置する類似度を、該当するユーザの閾値に決定する。例えば図8Aに示したように、本人分布を表す類似度の最小値と他人分布を表す類似度の最大値との間に、類似度L分の差がある場合には、閾値決定部111は、この区間L内に含まれる類似度を、ユーザの閾値とする。
【0105】
この際、閾値決定部111は、図8Aに示したように、区間Lの中間点に位置する類似度をユーザの閾値としてもよい。また、閾値決定部111は、実現したいセキュリティ・レベルに応じて、中間点よりも本人分布の最小値側に位置する類似度や、中間点よりも他人分布の最大値側に位置する類似度を、ユーザの閾値としてもよい。
【0106】
他方、本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも小さい場合、閾値決定部111は、分散値算出部125から伝送された各分布の分散値に基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間に位置する類似度を、ユーザの閾値とする。本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも小さい場合は、例えば図8Bに示したように、本人分布の一部と他人分布の一部が重なり合っている場合を意味する。閾値決定部111は、このような場合には、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間の差分L内に含まれる類似度を、ユーザの閾値とする。
【0107】
この際、閾値決定部111は、図8Bに示したように、区間Lの中間点に位置する類似度をユーザの閾値としてもよい。また、閾値決定部111は、実現したいセキュリティ・レベルに応じて、中間点よりも本人分布の最小値側に位置する類似度や、中間点よりも他人分布の最大値側に位置する類似度を、ユーザの閾値としてもよい。
【0108】
なお、図8Aおよび図8Bにおいて、ユーザの閾値を中間点よりも本人分布の最小値側にシフトさせるということは、認証成功のための類似度の値を高くすることを意味するため、セキュリティ・レベルをより高くすることができる。逆に、ユーザの閾値を中間点よりも他人分布の最大値側にシフトさせるということは、認証成功のための類似度の値を低くすることを意味する。そのため、セキュリティ・レベルは若干低くなるものの、ユーザ本人が認証されやすくなり、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0109】
閾値決定部111は、上述のようにして決定した閾値を、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、後述する記憶部113等に記録する。
【0110】
このように、本実施形態に係る閾値決定部111は、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて決定する。これにより、本実施形態に係る閾値決定装置10は、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に設定することが可能となる。
【0111】
記憶部113には、テンプレート選択部107により決定されたテンプレートが格納される。また、記憶部113には、生体撮像部101により生成された撮像データや、生体情報抽出部105により抽出された生体情報等が一時的に格納されてもよい。また、記憶部113には、テンプレートの登録に関する履歴情報、本人分布および他人分布の算出に関する履歴情報など、各種の履歴情報が記録されていてもよい。さらに、記憶部113には、本実施形態に係る閾値決定装置10が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部113は、生体撮像部101、撮像制御部103、生体情報抽出部105、テンプレート選択部107、統計処理部109、閾値決定部111等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0112】
なお、本実施形態に係る閾値決定装置10は、上述の処理部に加えて、抽出された生体情報を認証する生体情報認証部を更に備えても良い。
【0113】
以上、本実施形態に係る閾値決定装置10の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0114】
なお、上述のような本実施形態に係る閾値決定装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0115】
<閾値決定方法について>
続いて、図9を参照しながら、本実施形態に係る閾値決定装置10において実施される閾値決定方法について、詳細に説明する。図9は、本実施形態に係る閾値決定方法について説明するための流れ図である。
【0116】
まず、閾値決定装置10の生体撮像部101は、所定の位置に載置された生体部位を撮像して、複数の生体撮像データを生成し(ステップS101)、生体情報抽出部105に伝送する。生体情報抽出部105は、複数の生体撮像データそれぞれから生体情報を抽出して(ステップS103)、テンプレート選択部107および統計処理部109に伝送する。
【0117】
テンプレート選択部107は、生体情報抽出部105から伝送された複数の生体情報の中から、テンプレートとして登録する生体情報を、所定の基準に則して選択する(ステップS105)。テンプレート選択部107は、テンプレートの選択が終了すると、テンプレートとして選択された生体情報、および、残りの生体情報を特定するための情報を、統計処理部109に伝送する。
【0118】
統計処理部109に含まれる類似度算出部121は、生体情報抽出部105から伝送された生体情報と、テンプレート選択部107から伝送された情報とに基づいて、テンプレートと残りの生体情報との類似度を算出する(ステップS107)。続いて、類似度算出部121は、テンプレートとして登録される生体情報と、他のユーザのテンプレートとに基づいて、テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度を算出する(ステップS109)。類似度算出部121は、これら2種類の類似度の算出が終了すると、算出したこれらの類似度を、分布算出部123に伝送する。
【0119】
統計処理部109に含まれる分布算出部123は、類似度算出部121から類似度に関するデータが伝送されると、伝送された類似度に関するデータの並び替えを行い、本人分布および他人分布を表す配列データを生成する(ステップS111)。その後、分布算出部123は、生成した本人分布および他人分布を表す配列データを、閾値決定部111および分散値算出部125に伝送する。
【0120】
また、統計処理部109に含まれる分散値算出部125は、分布算出部123から伝送された本人分布および他人分布を表す配列データに基づいて、本人分布および他人分布の分散値をそれぞれ算出する(ステップS113)。分散値算出部125は、算出した本人分布および他人分布の分散値を、閾値決定部111に伝送する。
【0121】
閾値決定部111は、統計処理部109の分布算出部123から伝送された各分布を表す配列データを参照して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との大小関係を判断する。閾値決定部111は、大小関係の判断結果に基づいて、ユーザの閾値を決定する(ステップS115)。閾値決定部111は、ユーザの閾値を決定すると、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、決定した閾値を記録する。
【0122】
このように、本実施形態に係る閾値決定方法では、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて決定する。これにより、本実施形態に係る閾値決定方法では、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に設定することが可能となる。
【0123】
<閾値更新装置の構成について>
生体認証を行う装置に対するユーザの振る舞い(例えば、生体部位の置き方等)は、時間と共に少しずつ変化するものであり、より新しいユーザの振る舞いの動向に応じて生体認証処理を行うことが、ユーザの利便性を考慮するうえで効果的である。先に説明したように、生体部位の置き方といったユーザの振る舞いは、算出される類似度にも影響を与える要因であるため、かかる動向に応じてユーザに個別に設定された閾値を更新する仕組みが求められる。そこで、以下で説明する本実施形態に係る閾値更新装置では、生体認証を行う際に用いられる生体情報に応じて、設定されている閾値を更新する。
【0124】
以下では、図10を参照しながら、本実施形態に係る閾値更新装置の構成について、詳細に説明する。図10は、本実施形態に係る閾値更新装置の構成について説明するためのブロック図である。
【0125】
本実施形態に係る閾値更新装置20は、例えば図10に示したように、生体撮像部201、撮像制御部203、生体情報抽出部205、生体情報認証部207、統計処理部209、閾値更新部211および記憶部213を主に備える。
【0126】
ここで、生体撮像部201、撮像制御部203および生体情報抽出部205は、閾値決定装置10における生体撮像部101、撮像制御部103および生体情報抽出部105と同様の構成を有しており、同様の効果を奏するものである。従って、以下では、これらの処理部に対する詳細な説明は、省略することとする。
【0127】
生体情報認証部207は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。生体情報認証部207は、生体情報抽出部205から伝送された生体情報と、予め登録されているテンプレートとに基づいて算出された類似度を利用して、伝送された生体情報の認証を行う。ここで、認証に用いる類似度の算出は、後述する統計処理部209に要請してもよく、生体情報認証部207が算出してもよい。生体情報認証部207は、算出した類似度(例えば、相互相関値)が所定の閾値以上であった場合に、伝送された生体情報の認証に成功したと判断する。また、認証に用いる類似度は、相互相関値に限定されるわけではなく、SADやSSDなどの差分和であってもよい。
【0128】
生体情報認証部207は、得られた認証結果を、後述する統計処理部209に伝送する。また、生体情報認証部207は、得られた認証結果を、表示制御部(図示せず。)を介してユーザに表示してもよい。
【0129】
統計処理部209は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。統計処理部209は、生体情報抽出部205から伝送された生体情報、生体情報認証部207から伝送された認証結果に関する情報、および、後述する記憶部213に格納されている他のユーザのテンプレート等に基づいて、各種の統計処理を行う。これにより、統計処理部209は、各種の統計的なデータを算出する。この統計処理部209は、例えば図11に示したように、類似度算出部221、分布更新部223および分散値算出部225を更に備える。
【0130】
類似度算出部221、分布更新部223および分散値算出部225は、各処理部が単独で動作したり、各処理部が互いに連携しながら動作したりして、各種の統計データを算出する。
【0131】
類似度算出部221は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。類似度算出部221は、生体情報抽出部205から伝送された生体情報に基づいて、生体情報と自身のテンプレートとの類似度、および、生体情報と他のユーザのテンプレートとの類似度を算出する。類似度算出部221が算出する類似度として、例えば、相互相関値および差分の総和を用いた類似度などを挙げることができる。差分の総和を用いる方法の例として、SADおよびSSDがある。
【0132】
なお、テンプレートとして複数の生体情報(例えば、a個)が登録されており、ユーザqについて類似度の算出を行う場合、類似度算出部221は、a個のテンプレートそれぞれを用いて、ユーザqに関してa個の類似度を算出する。類似度算出部221は、算出したa個の類似度のうち、値が最も大きいもの(相互相関値の場合)、または、値が最も小さいもの(差分の総和を用いる場合)を、各種の統計データを算出する際の類似度として利用する。
【0133】
かかる演算を行うことにより、類似度算出部221は、伝送された生体情報と、記憶部213等に格納されている自身のテンプレートとに基づいて、本人分布更新用の類似度を算出する。また、類似度算出部221は、伝送された生体情報と、記憶部213等に格納されている他のユーザのテンプレートとに基づいて、他人分布更新用の類似度を算出する。
【0134】
類似度算出部221は、算出した類似度を分布更新部223に伝送する。また、類似度算出部221は、算出した類似度を後述する閾値更新部211に伝送してもよい。
【0135】
なお、類似度算出部221は、算出したこれらの類似度に対して、これらの類似度を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0136】
分布更新部223は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。分布更新部223は、類似度算出部221から伝送された本人分布更新用の類似度と、他人分布更新用の類似度と、に基づいて、記憶部213等に格納されている本人分布および他人分布を更新する。
【0137】
より詳細には、分布更新部223は、本人分布更新用の類似度を、本人分布(より詳細には、本人分布を表す類似度の配列データ)の最後尾に追加する。ここで、本人分布を表す類似度の配列データは、類似の度合いが高いことを示す値から順に類似度が配列されており、各類似度が算出された日時に関する時刻情報が関連付けられているデータであることが好ましい。また、分布更新部223は、本人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も高い値を有している配列データを削除する。
【0138】
また、分布更新部223は、他人分布更新用の類似度を、他人分布(より詳細には、他人分布を表す類似度の配列データ)の最後尾に追加する。ここで、他人分布を表す類似度の配列データは、類似の度合いが低いことを示す値から順に類似度が配列されており、各類似度が算出された日時に関する時刻情報が関連付けられているデータであることが好ましい。また、分布更新部223は、他人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も低い値を有している配列データを削除する。
【0139】
分布更新部223は、類似度算出部221から伝送された類似度に基づいて、かかる処理を行うことにより、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを更新する。このような更新処理により、それぞれの分布を表す配列データの中から、現在のユーザの振る舞いから得られる類似度とは異なる値を有していると推測され、閾値から最も遠いところに位置している(すなわち、閾値との差分が最も大きな)データが削除される。
【0140】
なお、分布更新部223は、類似度が所定の順序で配列している本人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も高い値を有しているデータを削除するかわりに、配列データの最上位に位置しているデータを削除してもよい。また、分布更新部223は、類似度が所定の順序で配列している他人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も低い値を有しているデータを削除するかわりに、配列データの最上位に位置しているデータを削除してもよい。
【0141】
分布更新部223は、更新後の本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、後述する閾値更新部211および分散値算出部225に伝送する。また、分布更新部223は、更新後の本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、後述する記憶部213等に記録する。
【0142】
分散値算出部225は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。分散値算出部225は、分布更新部223から伝送された更新後の本人分布および他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値とを算出する。
【0143】
分散値算出部225は、算出したそれぞれの分布の分散値を、後述する閾値更新部211に伝送する。また、分散値算出部225は、算出した分散値を、後述する記憶部213等に記録することが好ましい。この際、分散値算出部225は、これらの分散値に対して、これらの分散値を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0144】
再び図10に戻って、閾値更新部211について詳細に説明する。
閾値更新部211は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。閾値更新部211は、ユーザに個別に設定されており、生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を更新する。この際、閾値更新部211は、生体情報抽出部205により抽出された生体情報や、分布更新部223から伝送された他人分布に基づいて、閾値を更新する。
【0145】
以下では、閾値の更新方法について、より詳細に説明する。なお、以下の説明では、類似度の値が高い程類似の度合いが高く、類似度の値が小さい程類似の度合いが低い場合(すなわち、類似度として相関値を用いる場合)を例にとって説明を行う。
【0146】
まず、閾値更新部211は、更新後の本人分布を表す類似度の配列データと、更新後の他人分布を表す類似度の配列データとを比較して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値のどちらが大きいかを判別する。
【0147】
本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも大きい場合、閾値更新部211は、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との間に位置する類似度を、該当するユーザの閾値に決定する。本人分布を表す類似度の最小値と他人分布を表す類似度の最大値との間に、類似度L分の差がある場合には、閾値更新部211は、この区間L内に含まれる類似度を、更新後のユーザの閾値とする。
【0148】
この際、閾値更新部211は、区間Lの中間点に位置する類似度を更新後のユーザの閾値としてもよい。また、閾値更新部211は、実現したいセキュリティ・レベルに応じて、中間点よりも本人分布の最小値側に位置する類似度や、中間点よりも他人分布の最大値側に位置する類似度を、更新後のユーザの閾値としてもよい。
【0149】
他方、本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも小さい場合、閾値更新部211は、分散値算出部225から伝送された各分布の分散値に基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間に位置する類似度を、ユーザの閾値とする。すなわち、このような場合には、閾値更新部211は、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間の差分L内に含まれる類似度を、更新後のユーザの閾値とする。
【0150】
この際、閾値更新部211は、区間Lの中間点に位置する類似度を更新後のユーザの閾値としてもよい。また、閾値更新部211は、実現したいセキュリティ・レベルに応じて、中間点よりも本人分布の最小値側に位置する類似度や、中間点よりも他人分布の最大値側に位置する類似度を、更新後のユーザの閾値としてもよい。
【0151】
閾値更新部211は、上述のようにして更新した閾値を、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、後述する記憶部213等に記録する。
【0152】
例えば図12に示したように、本実施形態に係る閾値更新装置20は、生体認証処理に用いられる生体情報と、自身のテンプレートとに基づいて、本人認証(すなわち、類似度の算出)を行い、算出した類似度に基づいて本人分布を更新する。また、閾値更新装置20は、生体認証処理に用いられる生体情報と、他のユーザのテンプレートとに基づいて、他のユーザとの類似度を算出し、算出した類似度に基づいて他人分布を更新する。その後、閾値更新部211は、更新後の本人分布および他人分布に基づいて、ユーザに個別に設定されている閾値を更新する。
【0153】
本実施形態に係る閾値更新部211は、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて更新する。これにより、本実施形態に係る閾値更新装置20は、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に更新することが可能となる。
【0154】
記憶部213には、各ユーザのテンプレートが格納される。また、記憶部213には、生体撮像部201により生成された撮像データや、生体情報抽出部205により抽出された生体情報等が一時的に格納されてもよい。また、記憶部213には、生体認証処理に関する履歴情報、本人分布および他人分布の更新に関する履歴情報など、各種の履歴情報が記録されていてもよい。さらに、記憶部213には、本実施形態に係る閾値更新装置20が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部213は、生体撮像部201、撮像制御部203、生体情報抽出部205、生体情報認証部207、統計処理部209、閾値更新部211等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0155】
なお、本実施形態に係る統計処理部209および閾値更新部211が連携することにより、以下のような方法で閾値の更新を行うことも可能である。以下で説明する方法は、抽出された生体情報に基づいて本人分布を更新するだけでなく、他のユーザの振る舞いに応じて他人分布についても更新を行い、ユーザに個別に設定された閾値を更新する方法である。
【0156】
この閾値の更新方法では、例えば図13に示したように、生体情報抽出部205によって抽出され、認証処理に用いられる生体情報が、生体情報認証部207と、記憶部213等に設けられた入力生体情報バンクと、に伝送される。この際、生体情報抽出部205は、抽出した生体情報に、当該生体情報を抽出した日時に関する時刻情報を、ヘッダー情報などとして関連付ける。また、このヘッダー情報には、生体情報認証部207による認証処理などにより判明したユーザのユーザID等が更に記載されてもよい。
【0157】
閾値更新部211は、所定の期間毎(例えば、3日おき、1週間おき等)に入力生体情報バンクを参照し、入力生体情報バンクに格納されている生体情報を全て読み込み、後述する閾値の更新処理に利用する。この際、閾値更新部211は、入力生体情報バンクに格納されている生体情報に関連付けられている時刻情報を参照し、前回の処理で読み込んだ生体情報を取得しないようにしてもよい。
【0158】
閾値更新部211は、例えば図14に示したように、読み込んだ全情報の中から、ユーザ本人に関する生体情報を抽出する。この抽出処理は、例えば、生体情報に関連付けられたユーザID等を参照することで行うことが可能である。閾値更新部211は、抽出したユーザ本人に関する生体情報を統計処理部209に伝送する。
【0159】
統計処理部209の類似度算出部221は、伝送されたユーザ本人に関する生体情報と、このユーザのテンプレートとを用いて、伝送された生体情報の類似度を算出する。ここで、抽出したユーザ本人に関する生体情報がNi個存在し、テンプレートとして登録されている生体情報がNr個である場合に、各生体情報に対して得られるNr個の類似度のうち、最大値のものを、該当する生体情報に関する類似度とする。類似度算出部221は、算出した類似度を、分布更新部223に伝送する。
【0160】
分布更新部223は、類似度算出部221から伝送された類似度の個数を参照し、本人分布を表す類似度の配列データに記載されているデータ数(要素数)Miとの比較を行う。すなわち、伝送された類似度の個数Niが要素数Miよりも大きい場合には、Ni個の類似度を、類似の度合いが小さいことを表す値から順に並び替え、度合いが小さいことを表す値から順にMi個の類似度を、本人分布を表す類似度の配列データに追記する。この場合、本人分布を表す類似度の配列データに記載されていたMi個の古い要素は、全てが消去されることとなる。
【0161】
他方、伝送された類似度の個数Niが要素数Miよりも小さい場合には、Ni個の類似度全てが、本人分布を表す類似度の配列データに追記される。この場合、配列データに記載されている最も古い要素から(Mi−Ni)個の要素が消去される。なお、配列データに(Mi−Ni)個よりも多い要素が同じ古さを持つ要素として記載されている場合には、類似の度合いを表す値が大きいものから順に(Mi−Ni)個の要素が消去される。
【0162】
分布更新部223は、かかる処理を行うことにより、本人分布を表す類似度の配列データを更新することができる。
【0163】
また、例えば図15に示したように、閾値更新部211は、読み込んだ全情報の中から、他のユーザの認証時に利用された生体情報を抽出する。この抽出処理は、例えば、取得した全ての生体情報から、ユーザ本人の生体情報を除くことで行うことができる。閾値更新部211は、抽出した他のユーザに関する生体情報を統計処理部209に伝送する。
【0164】
統計処理部209の類似度算出部221は、伝送された他のユーザに関する生体情報と、ユーザ本人のテンプレートとを用いて、伝送された生体情報の類似度を算出する。ここで、抽出した他のユーザに関する生体情報がNq個存在し、テンプレートとして登録されている生体情報がNr個である場合に、各生体情報に対して得られるNr個の類似度の全て(Nq×Nr=Nqr個)を、後述する他人分布の更新処理に利用する。類似度算出部221は、算出したNqr個の類似度を、分布更新部223に伝送する。
【0165】
分布更新部223は、類似度算出部221から伝送された類似度の個数を参照し、他人分布を表す類似度の配列データに記載されているデータ数(要素数)Mqとの比較を行う。すなわち、伝送された類似度の個数Nqrが要素数Mqよりも大きい場合には、Nqr個の類似度を、類似の度合いが大きいことを表す値から順に並び替え、度合いが大きいことを表す値から順にMq個の類似度を、他人分布を表す類似度の配列データに追記する。この場合、他人分布を表す類似度の配列データに記載されていたMq個の古い要素は、全てが消去されることとなる。
【0166】
他方、伝送された類似度の個数Nqrが要素数Mqよりも小さい場合には、Nqr個の類似度全てが、他人分布を表す類似度の配列データに追記される。この場合、配列データに記載されている最も古い要素から(Mq−Nqr)個の要素が消去される。なお、配列データに(Mq−Nqr)個よりも多い要素が同じ古さを持つ要素として記載されている場合には、類似の度合いを表す値が小さいものから順に(Mq−Nqr)個の要素が消去される。
【0167】
分布更新部223は、かかる処理を行うことにより、他人分布を表す類似度の配列データを更新することができる。
【0168】
分布更新部223は、更新後の本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、分散値算出部225および閾値更新部211に伝送する。
【0169】
分散値算出部225は、更新後の本人分布および他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、新たに各分布の分散値を算出し、閾値更新部211に伝送する。
【0170】
閾値更新部211は、伝送された本人分布および他人分布を表す類似度の配列データおよび分散値を利用して、先に説明した方法で、ユーザの閾値を更新する。
【0171】
以上説明したような手順を経ることで、閾値更新装置20は、ユーザ本人の振る舞いの動向だけでなく、他のユーザの振る舞いの動向を反映させながら本人分布および他人分布を更新することが可能となる。閾値更新部211は、更新後の本人分布および他人分布を利用して、ユーザによって利用のしやすい閾値を、新たに設定することが可能となる。
【0172】
以上、本実施形態に係る閾値更新装置20の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0173】
なお、上述のような本実施形態に係る閾値更新装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0174】
<閾値更新方法について>
続いて、図16を参照しながら、本実施形態に係る閾値更新装置20において実施される閾値更新方法について、詳細に説明する。図16は、本実施形態に係る閾値更新方法について説明するための流れ図である。
【0175】
まず、閾値更新装置20の生体撮像部201は、所定の位置に載置された生体部位を撮像して、生体撮像データを生成し(ステップS201)、生体情報抽出部205に伝送する。生体情報抽出部205は、生体撮像データから生体情報を抽出して(ステップS203)、生体情報認証部207および統計処理部209に伝送する。
【0176】
生体情報認証部207は、生体情報抽出部205から伝送された生体情報について、予め登録されているテンプレートを利用して類似度を算出するように、統計処理部209に要請する。統計処理部209の類似度算出部221は、生体情報認証部207の要請に応じて、生体情報とテンプレートとの類似度を算出し(ステップS205)、生体情報認証部207に伝送する。生体情報認証部207は、類似度算出部221から伝送された類似度に基づいて、抽出された生体情報の認証処理を行う。
【0177】
また、類似度算出部221は、生体情報抽出部205から伝送された生体情報と、他のユーザのテンプレートとに基づいて、生体情報と他のユーザのテンプレートとの類似度を算出する(ステップS207)。類似度算出部221は、これら2種類の類似度の算出が終了すると、算出したこれらの類似度を、分布更新部223に伝送する。
【0178】
統計処理部109に含まれる分布更新部223は、類似度算出部221から類似度に関するデータが伝送されると、伝送された類似度に基づいて、本人分布および他人分布を表す配列データを更新する(ステップS209)。その後、分布更新部223は、更新後の本人分布および他人分布を表す配列データを、閾値更新部211および分散値算出部225に伝送する。
【0179】
また、統計処理部209に含まれる分散値算出部225は、分布更新部223から伝送された更新後の本人分布および他人分布を表す配列データに基づいて、本人分布および他人分布の分散値をそれぞれ算出する(ステップS211)。分散値算出部225は、算出した本人分布および他人分布の分散値を、閾値更新部211に伝送する。
【0180】
閾値更新部211は、統計処理部209の分布更新部223から伝送された各分布を表す配列データを参照して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との大小関係を判断する。閾値更新部211は、大小関係の判断結果に基づいて、ユーザの閾値を更新する(ステップS213)。閾値更新部211は、ユーザの閾値を更新すると、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、更新した閾値を記録する。
【0181】
このように、本実施形態に係る閾値更新方法では、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて更新する。これにより、本実施形態に係る閾値更新方法では、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に更新することが可能となる。
【0182】
<閾値設定装置の構成について>
先の説明では、ユーザに個別に設けられる閾値を決定する装置と、ユーザに個別に設けられた閾値を更新する装置とが、異なる装置として構成されている場合について説明を行った。しかしながら、ユーザに個別に設けられる閾値を決定する機能と、この閾値を更新する機能とは、同一の装置内に設けられていてもよい。以下で説明する本実施形態に係る閾値設定装置は、本人分布および他人分布に基づいて、ユーザに個別に設けられる閾値を決定する機能と、この閾値を更新する機能とを有する。
【0183】
以下では、図17〜図19を参照しながら、本実施形態に係る閾値設定装置の構成について、詳細に説明する。図17は、本実施形態に係る閾値設定装置の構成について説明するためのブロック図である。図18は、本実施形態に係る閾値設定装置が備える統計処理部311の構成について説明するためのブロック図である。図19は、本実施形態に係る閾値設定装置が備える閾値設定部の構成について説明するためのブロック図である。
【0184】
本実施形態に係る閾値設定装置30は、例えば図17に示したように、生体撮像部301、撮像制御部303、生体情報抽出部305、テンプレート選択部307、生体情報認証部309、統計処理部311、閾値設定部313および記憶部315を主に備える。
【0185】
ここで、生体撮像部301、撮像制御部303および生体情報抽出部305は、閾値決定装置および閾値更新装置が備える生体撮像部、撮像制御部および生体情報抽出部と同様の構成を有し、ほぼ同様の効果を奏するものである。従って、これらの処理部に関する詳細な説明は省略することとする。
【0186】
テンプレート選択部307は、閾値決定装置10が備えるテンプレート選択部107と同様の構成を有し、ほぼ同様の効果を奏するものである。従って、テンプレート選択部307に関する詳細な説明は省略することとする。
【0187】
生体情報認証部309は、閾値更新装置20が備える生体情報認証部207と同様の構成を有し、ほぼ同様の効果を奏するものである。従って、生体情報認証部309に関する詳細な説明は省略することとする。
【0188】
統計処理部311は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。統計処理部311は、生体情報抽出部305、テンプレート選択部307および生体情報認証部309から伝送された各種の情報、ならびに、後述する記憶部315に格納されている他のユーザのテンプレート等に基づいて、各種の統計処理を行う。これにより、統計処理部311は、各種の統計的なデータを算出する。この統計処理部311は、例えば図18に示したように、類似度算出部321、分布算出部323および分散値算出部325を更に備える。
【0189】
類似度算出部321は、閾値決定装置10が備える類似度算出部121、および、閾値更新装置20が備える類似度算出部221の双方の機能を兼ね備える処理部である。すなわち、類似度算出部321は、生体情報抽出部305から伝送された生体情報に基づいて、生体情報と自身のテンプレートとの類似度、および、生体情報と他のユーザのテンプレートとの類似度を算出する。
【0190】
類似度算出部321が算出する類似度として、例えば、相互相関値および差分の総和を用いた類似度などを挙げることができる。差分の総和を用いる方法の例として、SADおよびSSDがある。
【0191】
かかる演算を行うことにより、類似度算出部321は、伝送された生体情報と、記憶部315等に格納されている自身のテンプレートとに基づいて、本人分布決定用の類似度および本人分布更新用の類似度を算出する。また、類似度算出部321は、伝送された生体情報と、記憶部315等に格納されている他のユーザのテンプレートとに基づいて、他人分布決定用の類似度および他人分布更新用の類似度を算出する。
【0192】
類似度算出部321は、算出した類似度を分布算出部323に伝送する。また、類似度算出部321は、算出した類似度を後述する閾値設定部313に伝送してもよい。
【0193】
なお、類似度算出部321は、算出したこれらの類似度に対して、これらの類似度を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0194】
分布算出部323は、閾値決定装置10が備える分布算出部123、および、閾値更新装置20が備える分布更新部223の双方の機能を兼ね備える処理部である。すなわち、分布算出部323は、類似度算出部321から伝送された本人分布算出用の類似度と、他人分布算出用の類似度と、に基づいて、本人分布および他人分布を算出する。また、分布算出部323は、類似度算出部321から伝送された本人分布更新用の類似度と、他人分布更新用の類似度と、に基づいて、本人分布および他人分布を更新する。
【0195】
より詳細には、分布算出部323は、本人分布算出用の類似度を、類似の度合いが高いことを示す値から順に類似の度合いが低いことを示す値まで並び替え、本人分布を表す類似度の配列データとする。また、分布算出部323は、他人分布算出用の類似度を、類似の度合いが低いことを示す値から順に類似の度合いが高いことを示す値まで並び替え、他人分布を表す類似度の配列データとする。
【0196】
また、分布算出部323は、本人分布更新用の類似度を、本人分布を表す類似度の配列データの最後尾に追加する。ここで、本人分布を表す類似度の配列データは、類似の度合いが高いことを示す値から順に類似度が配列されており、各類似度が算出された日時に関する時刻情報が関連付けられているデータであることが好ましい。また、分布算出部323は、本人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も高い値を有している配列データを削除する。
【0197】
さらに、分布算出部323は、他人分布更新用の類似度を、他人分布を表す類似度の配列データの最後尾に追加する。ここで、他人分布を表す類似度の配列データは、類似の度合いが低いことを示す値から順に類似度が配列されており、各類似度が算出された日時に関する時刻情報が関連付けられているデータであることが好ましい。また、分布算出部323は、他人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も低い値を有している配列データを削除する。
【0198】
分布更新部223は、類似度算出部221から伝送された類似度に基づいて、かかる処理を行うことにより、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを更新する。このような更新処理により、それぞれの分布を表す配列データの中から、現在のユーザの振る舞いから得られる類似度とは異なる値を有していると推測され、閾値から最も遠いところに位置している(すなわち、閾値との差分が最も大きな)データが削除される。
【0199】
なお、分布更新部223は、類似度が所定の順序で配列している本人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も高い値を有しているデータを削除するかわりに、配列データの最上位に位置しているデータを削除してもよい。また、分布更新部223は、類似度が所定の順序で配列している他人分布を表す類似度の配列データの中から、最も古く、かつ、最も低い値を有しているデータを削除するかわりに、配列データの最上位に位置しているデータを削除してもよい。
【0200】
分布算出部323は、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを生成および更新し、後述する閾値設定部313および分散値算出部325に伝送する。また、分布算出部323は、本人分布および他人分布を表す類似度の配列データを、記憶部315等に記録する。この際、分布算出部323は、これらの配列データに対して、これらの配列データを生成した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0201】
分散値算出部325は、閾値決定装置10が備える分散値算出部125、および、閾値更新装置20が備える分散値算出部225の双方の機能を兼ね備える処理部である。すなわち、分散値算出部325は、分布算出部323から伝送された本人分布および他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値とを算出する。
【0202】
分散値算出部325は、算出したそれぞれの分布の分散値を、後述する閾値設定部313に伝送する。また、分散値算出部325は、算出した分散値を、記憶部315等に記録することが好ましい。この際、分散値算出部325は、これらの分散値に対して、これらの分散値を算出した日時に関する時刻情報を関連づけることが好ましい。
【0203】
再び図17に戻って、本実施形態に係る閾値設定部313について説明する。
閾値設定部313は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。閾値設定部313は、ユーザに個別に設定されており、生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、決定したり更新したりする。この際、閾値設定部313は、生体情報抽出部305により抽出された生体情報、テンプレート選択部307により選択されたテンプレート、および、分布算出部323から伝送された他人分布に基づいて、閾値を決定したり更新したりする。
【0204】
この閾値設定部313は、例えば図18に示したように、閾値決定部351と、閾値更新部353と、を含む。
【0205】
閾値決定部351は、閾値決定装置10における閾値決定部111と同様の構成を有し、同様の効果を奏する処理部である。すなわち、閾値決定部351は、テンプレート選択部307により選択されたテンプレート、および、分布算出部323から伝送された他人分布に基づいて、ユーザに個別に設定される閾値を決定する。
【0206】
以下では、閾値の決定方法について、より詳細に説明する。
まず、記憶部315等に一人もテンプレートが格納されていない場合、すなわち、1人目のユーザの閾値を決定する場合には、他のユーザのテンプレートが登録されていないため、他人分布を生成することができない。そのため、閾値決定部351は、伝送された本人分布に基づいて、1人目のユーザの閾値を決定する。この際、閾値決定部351は、本人分布を表す類似度の配列データのうち類似の度合いが最も小さいことを表す類似度に基づいて1人目のユーザの閾値を決定するなど、任意の方法で1人目のユーザの閾値を決定可能である。
【0207】
また、2人目以降のユーザの閾値を決定する場合には、閾値決定部351は、本人分布を表す類似度の配列データおよび他人分布を表す類似度の配列データに基づいて、閾値を決定する。以下の説明では、類似度の値が高い程類似の度合いが高く、類似度の値が小さい程類似の度合いが低い場合(すなわち、類似度として相関値を用いる場合)を例にとって説明を行う。
【0208】
閾値決定部351は、本人分布を表す類似度の配列データと、他人分布を表す類似度の配列データとを比較して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値のどちらが大きいかを判別する。
【0209】
本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも大きい場合、閾値決定部351は、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との間に位置する類似度を、該当するユーザの閾値に決定する。
【0210】
他方、本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも小さい場合、閾値決定部351は、分散値算出部325から伝送された各分布の分散値に基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間に位置する類似度を、ユーザの閾値とする。
【0211】
閾値決定部351は、上述のようにして決定した閾値を、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、記憶部315等に記録する。
【0212】
閾値更新部353は、閾値更新装置20における閾値更新部211と同様の構成を有し、同様の効果を奏する処理部である。すなわち、閾値更新部353は、生体情報抽出部305により抽出された生体情報や、分布算出部323から伝送された他人分布に基づいて、ユーザに個別に設定された閾値を更新する。
【0213】
以下では、閾値の更新方法について、より詳細に説明する。なお、以下の説明では、類似度の値が高い程類似の度合いが高く、類似度の値が小さい程類似の度合いが低い場合(すなわち、類似度として相関値を用いる場合)を例にとって説明を行う。
【0214】
まず、閾値更新部353は、更新後の本人分布を表す類似度の配列データと、更新後の他人分布を表す類似度の配列データとを比較して、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値のどちらが大きいかを判別する。
【0215】
本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも大きい場合、閾値更新部353は、本人分布を表す類似度の最小値と、他人分布を表す類似度の最大値との間に位置する類似度を、該当するユーザの閾値に決定する。本人分布を表す類似度の最小値と他人分布を表す類似度の最大値との間に、類似度L分の差がある場合には、閾値更新部353は、この区間L内に含まれる類似度を、更新後のユーザの閾値とする。
【0216】
他方、本人分布を表す類似度の最小値が他人分布を表す類似度の最大値よりも小さい場合、閾値更新部353は、分散値算出部325から伝送された各分布の分散値に基づいて、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間に位置する類似度を、ユーザの閾値とする。すなわち、このような場合には、閾値更新部353は、本人分布の分散値と他人分布の分散値との間の差分L内に含まれる類似度を、更新後のユーザの閾値とする。
【0217】
閾値更新部353は、上述のようにして更新した閾値を、該当するユーザのテンプレートに関連付けて、記憶部315等に記録する。
【0218】
本実施形態に係る閾値設定部313は、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて決定したり更新したりする。これにより、本実施形態に係る閾値設定装置30は、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に決定したり更新したりすることが可能となる。
【0219】
再び図17に戻って、記憶部315について詳細に説明する。
記憶部315には、各ユーザのテンプレートが格納される。また、記憶部315には、生体撮像部301により生成された撮像データや、生体情報抽出部305により抽出された生体情報等が一時的に格納されてもよい。また、記憶部315には、テンプレートの登録に関する履歴情報、生体認証処理に関する履歴情報、本人分布および他人分布の更新に関する履歴情報など、各種の履歴情報が記録されていてもよい。さらに、記憶部315には、本実施形態に係る閾値設定装置30が、何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過等、または、各種のデータベース等が、適宜記録される。この記憶部315は、生体撮像部301、撮像制御部303、生体情報抽出部305、テンプレート選択部307、生体情報認証部309、統計処理部311、閾値更新部313等が、自由に読み書きを行うことが可能である。
【0220】
以上、本実施形態に係る閾値設定装置30の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0221】
なお、上述のような本実施形態に係る閾値設定装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0222】
(実施例)
続いて、図20〜図24Bを参照しながら、本発明の実施形態に係る閾値設定方法の効率性について検討する。ここでは、生体情報として指静脈画像を例にとり、以下で説明するような1次元ランレングスベクトルをメタデータとして利用した際の認証結果について着目した。
【0223】
<1次元ランレングスベクトルについて>
まず、1次元ランレングスベクトルについて、図20〜図23を参照しながら、簡単に説明する。1次元ランレングスベクトルは、指静脈画像のようなバイナリ画像に対して、以下で説明するようなランレングス符号化処理を行うことで得られるものである。図20〜図22は、ランレングス符号化処理について説明するための説明図である。
【0224】
図20に示した18列×20行のバイナリ画像を考える。このバイナリ画像は、白色で表された画素値0の背景画素と、黒色で表された画素値1の輪郭を表す画素から構成されている。ここで、このバイナリ画像のうち、上4行が背景画素のみから構成される行であり、左2列および右3列が背景画素のみから構成される列である。そのため、入力された18列×20行の画像のうち、上4行分、左2列分および右3列分を除いた13列×16行のバイナリ画像が、処理対象領域として選定される。
【0225】
図20に示した処理対象領域に対してランレングス符号化処理が施されると、まず、図21に示したように、画素値を表す配列と連続数を表す配列の2種類の配列が、符号化情報として生成される。この符号化情報の中から画素値を現す配列が削除され、画素値の連続数を表す配列からなる画素連続数情報が生成される。続いて、この画素連続数情報が2つに分割され、画素値0のランレングスベクトル(すなわち、背景ランレングスベクトル)と、画素値1のランレングスベクトルが生成される。
【0226】
図1に示したような細線化された静脈画像は、先に説明したようなランレングス符号化処理が可能なバイナリ画像の一つである。静脈が存在する部分の外形は、それぞれの静脈画像によって異なっており、独特の形状を有している。そのため、静脈部分の外形を特徴づける画素は、静脈画像を構成する背景画素である。多少のノイズが静脈画像に重畳していたとしても、同じ生体部位における静脈を表す曲線の相対的な方向性(orientation)は保たれると考えられるため、このような背景画素の連続性は、同一の生体部位であれば類似すると考えられる。
【0227】
この背景画素の連続性(すなわち、静脈部分の外形)を表す情報は、先に説明したように、背景画素のランレングスベクトル(背景ランレングスベクトル)で表すことが可能である。従って、予め登録されている静脈画像(以下、テンプレートと称する。)を用いた生体認証に先立ち、このようなランレングスベクトルによる認証を行うことで、認証候補として用いられるテンプレートの個数を絞りこむことが可能である。
【0228】
このようなランレングスベクトルの生成は、例えば以下のようにして行われる。図22にその概要を示したように、まず、生体の一部を撮像して生成された撮像画像から、バイナリ画像である細線化された静脈画像を抽出する。その後、細線化された静脈画像に含まれる複数の曲線のうち、所定の長さ未満の曲線がノイズとして除去される。図22における細線化された静脈画像と、ノイズ除去後の静脈画像とを対比すると明らかなように、図中において点線で囲った領域に存在していた曲線が、所定の長さに満たない曲線であるとして除去される。
【0229】
次に、ノイズ等が除去された静脈画像から、背景画素のみから構成される行および列が除去され、処理対象領域が選定される。続いて、選定された処理対象領域に対して、ランレングス符号化処理が行われ、背景画素のランレングスベクトルが生成される。生成されたランレングスベクトルは、上述のように一次元のデータであるが、このランレングスベクトルを記載されている要素の順ごとに連続数についてプロットすると、例えば図22の右端に示したように、ランレングスベクトルに対応するグラフ図が得られる。
【0230】
例えば、図23に示したような2つの背景ランレングスベクトル情報を考える。ここで、情報Aが、登録背景ランレングスベクトル情報であり、情報Bが、生成した背景ランレングスベクトル情報であるとする。図23に示した2種類の情報の場合、情報Bを1つずつ下方にシフトさせながら、情報Aとの類似度が算出される。
【0231】
ここで、ランレングスベクトル情報のシフト方向は、ランレングスベクトル情報を図23に示したようなグラフ図で表した場合における、要素に関する軸の方向である。例えば、比較の基準となる情報のn番目の要素と比較対象である情報のt番目の要素を比較した場合、比較の基準となる情報のn番目の要素と比較対象である情報のt+1番目の要素とが比較される。
【0232】
ここで、算出される類似度としては、2つの画像のマッチングを行う際に利用される任意のマッチング方法を利用することができる。このようなマッチング方法として、例えば、相関を用いる方法や差分の総和を用いる方法がある。
【0233】
図23に示した場合では、情報Bを4回下方にシフトさせた時点で、最も2つの背景ランレングスベクトル情報の類似度が高くなることがわかる。
【0234】
<実施方法>
以下では、実験のために、30本の指のデータを利用した。各指について3個ずつテンプレートを登録し、また、各指を3回ずつ撮像して、ランレングスベクトルの認証処理を行った。
【0235】
ここで、任意の指に対して対応する3個のテンプレートのいずれかに類似していると認証されればFRRが生じていないと判断し、残りの87本(29本×3個)の指の中で何本と認証が取れなかった(類似していないと判断されたか)を検討した。認証が取れなかった本数が多いほど、本実施形態に係る閾値の設定方法が有用であるといえる。
【0236】
以下では、30本の指に対してFRRが0となる条件のもとで共通の閾値を決定した場合の結果と、FRRが0となる条件のもとで各指に対して個別に閾値を設定した場合の結果と、を提示する。以下の結果において、「FARがどれくらい小さくなるのか」が、本実施形態に係る閾値の設定方法の効率性を示すものとなる。
【0237】
以下に示す表1および表1を図示した図24Aは、ランレングスベクトルをシフトさせながら相互相関値を算出し、得られたFARの大きさを示したものである。
【0238】
【表1】

【0239】
表1および図24Aから明らかなように、本実施形態に係る閾値決定方法におけるFARは、シフト要素数の大きさに関わらず、従来のユーザに共通する閾値を設定した場合に比べて、非常に良好なFARを示すことがわかった。
【0240】
また、認証に要する演算負荷を軽減するため、得られたランレングスベクトルのサンプリングを行った後に相互相関値を算出し、FARの大きさについて検討した。その結果を、表2および図24Bに示す。
【0241】
【表2】

【0242】
表2および図24Bから明らかなように、本実施形態に係る閾値決定方法におけるFARは、サンプリング係数の大きさに関わらず、従来のユーザに共通する閾値を設定した場合に比べて、非常に良好なFARを示すことがわかった。
【0243】
(ハードウェア構成について)
次に、図25を参照しながら、本発明の実施形態に係る閾値決定装置10のハードウェア構成について、詳細に説明する。図25は、本発明の実施形態に係る閾値決定装置10のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0244】
閾値決定装置10は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、閾値決定装置10は、更に、ホストバス907と、ブリッジ909と、外部バス911と、インターフェース913と、入力装置915と、出力装置917と、ストレージ装置919と、ドライブ921と、接続ポート923と、通信装置925とを備える。
【0245】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置919、またはリムーバブル記録媒体927に記録された各種プログラムに従って、閾値決定装置10内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901の実行において使用するプログラムや、その実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるホストバス907により相互に接続されている。
【0246】
ホストバス907は、ブリッジ909を介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バス911に接続されている。
【0247】
入力装置915は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置915は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、閾値決定装置10の操作に対応した携帯電話やPDA等の外部接続機器929であってもよい。さらに、入力装置915は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。閾値決定装置10のユーザは、この入力装置915を操作することにより、閾値決定装置10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0248】
出力装置917は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置917は、例えば、閾値決定装置10が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、閾値決定装置10が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0249】
ストレージ装置919は、閾値決定装置10の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置919は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置919は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0250】
ドライブ921は、記録媒体用リーダライタであり、閾値決定装置10に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ921は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体927に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体927は、例えば、DVDメディア、HD−DVDメディア、Blu−rayメディア等である。また、リムーバブル記録媒体927は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体927は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0251】
接続ポート923は、機器を閾値決定装置10に直接接続するためのポートである。接続ポート923の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート等がある。接続ポート923の別の例として、RS−232Cポート、光オーディオ端子、HDMI(High−Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート923に外部接続機器929を接続することで、閾値決定装置10は、外部接続機器929から各種のデータを取得したり、外部接続機器929に各種のデータを提供したりする。
【0252】
通信装置925は、例えば、通信網931に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置925は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置925は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置925は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置925に接続される通信網931は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0253】
以上、本発明の実施形態に係る閾値決定装置10の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0254】
なお、本実施形態に係る閾値更新装置20および閾値設定装置30のハードウェア構成は、閾値決定装置10のハードウェア構成と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0255】
(まとめ)
以上説明したように、本発明の実施形態に係る閾値決定方法によれば、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて決定することが可能となる。これにより、生体認証システムの管理者は、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に決定することが可能となる。
【0256】
また、本発明の実施形態に係る閾値更新方法によれば、本人分布および他人分布という大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して、各ユーザに個別の閾値を統計的な処理に基づいて更新することが可能となる。これにより、生体認証システムの管理者は、各ユーザの生体部位の特徴に応じた閾値を、客観的かつ容易に更新することが可能となる。
【0257】
図2に例示したような、従来の各ユーザに共通の閾値を設定する方法では、各ユーザの閾値を更新する場合、まず、ユーザがユーザ本人である旨が認証された後に閾値の更新を行うこととなる。これは、閾値以上の相関値を有する生体情報が入力されない限り、閾値の更新が行われないこと、および、閾値が現状の閾値以上となる相関値へと更新されるのみであることを意味している。しかしながら、本発明の実施形態では、閾値はユーザに個別に設定されているため、各ユーザに設定された閾値が、現状の閾値の相関値よりも小さな値へと更新される場合も、現状の閾値の相関値よりも大きな値へと更新される場合も生じうる。従って、本発明の実施形態に係る閾値更新方法では、よりユーザの利便性を高めることが可能となる。
【0258】
また、本発明の実施形態に係る閾値更新方法では、大量のデータに基づいた類似度の分布を利用して統計的な処理を利用して閾値を更新するため、たまたま類似度の高い生体情報が入力された場合であっても、閾値は急激に変動しない。そのため、急に認証されにくくなる、といったような事態が生じることはない。
【0259】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0260】
10 閾値決定装置
20 閾値更新装置
30 閾値設定装置
101,201,301 生体撮像部
103,203,303 撮像制御部
105,205,305 生体情報抽出部
107,307 テンプレート選択部
109,209,311 統計処理部
111,351 閾値決定部
113,213,315 記憶部
121,221,321 類似度算出部
123,323 分布算出部
125,225,325 分散値算出部
207,309 生体情報認証部
211,353 閾値更新部
223 分布更新部
313 閾値設定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出する生体情報抽出部と、
ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新する閾値更新部と、
を備える、閾値更新装置。
【請求項2】
前記閾値更新装置は、
ユーザ本人の生体情報およびテンプレート間の類似度の分布である本人分布を更に有しており、
前記本人分布および他人分布の算出を含む統計的な演算を行う統計処理部を更に備え、
前記統計処理部は、抽出された前記生体情報に基づいて、前記本人分布および前記他人分布を更新し、
前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布および前記他人分布に基づいて、前記閾値の更新を行う、請求項1に記載の閾値更新装置。
【請求項3】
前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布の最小の類似度が更新後の前記他人分布の最大の類似度よりも高い場合、前記最小の類似度と前記最大の類似度との間に位置する類似度を、更新後の前記閾値とする、請求項2に記載の閾値更新装置。
【請求項4】
前記統計処理部は、前記本人分布および前記他人分布の分散値を更に算出し、
前記閾値更新部は、更新後の前記本人分布の最小の類似度が更新後の前記他人分布の最大の類似度よりも低い場合、前記本人分布の分散値と前記他人分布の分散値との間に位置する類似度を、更新後の前記閾値とする、請求項2に記載の閾値更新装置。
【請求項5】
前記統計処理部は、
抽出した前記生体情報とユーザ本人の前記テンプレートとの類似度、および、抽出した前記生体情報と前記他のユーザのテンプレートとの類似度の最高値を算出し、
算出した生体情報とユーザ本人のテンプレートとの類似度を前記本人分布に追加するとともに、前記本人分布に含まれる最も古くかつ最も類似度の高いデータを前記本人分布から削除し、
算出した前記類似度の最高値を前記他人分布に追加するとともに、前記他人分布に含まれる最も古くかつ最も類似度の低いデータを前記他人分布から削除する、請求項2に記載の閾値更新装置。
【請求項6】
前記生体情報抽出部は、複数の生体撮像画像それぞれから、前記生体情報を抽出し、
前記閾値更新装置は、
抽出された複数の前記生体情報の中から、テンプレートとして登録する前記生体情報を選択するテンプレート選択部と、
前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択部により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定部と、
を更に備える、請求項2に記載の閾値更新装置。
【請求項7】
ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出する生体情報抽出部と、
抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を選択するテンプレート選択部と、
前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択部により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定部と、
を備える、閾値決定装置。
【請求項8】
前記閾値決定装置は、前記他人分布の算出を含む統計的な演算を行う統計処理部を更に備え、
前記統計処理部は、前記生体情報抽出部により生成された複数の前記生体情報のうち前記テンプレートとして決定された前記生体情報と、前記テンプレートとして決定された生体情報以外の前記生体情報と、に基づいて、ユーザ本人の生体情報およびテンプレート間の類似度の分布である本人分布を算出し、
前記閾値決定部は、前記本人分布と前記他人分布とに基づいて、前記閾値を決定する、請求項7に記載の閾値決定装置。
【請求項9】
前記閾値決定部は、前記本人分布の最小の類似度が前記他人分布の最大の類似度よりも高い場合、前記最小の類似度と前記最大の類似度との間に位置する類似度を前記閾値とする、請求項8に記載の閾値決定装置。
【請求項10】
前記統計処理部は、前記本人分布および前記他人分布の分散値を更に算出し、
前記閾値決定部は、前記本人分布の最小の類似度が前記他人分布の最大の類似度よりも低い場合、前記本人分布の分散値と前記他人分布の分散値との間に位置する類似度を前記閾値とする、請求項8に記載の閾値決定装置。
【請求項11】
ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出するステップと、
ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新するステップと、
を含む、閾値更新方法。
【請求項12】
ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出するステップと、
抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を選択するステップと、
前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、決定した前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定するステップと、
を含む、閾値決定方法。
【請求項13】
コンピュータに、
ユーザの生体の一部を撮像して得られた生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を抽出する生体情報抽出機能と、
ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報と予め登録されている生体情報であるテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、抽出した生体情報、および、ユーザのテンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて更新する閾値更新機能と、
を実現させるためのプログラム。
【請求項14】
コンピュータに、
ユーザの生体の一部を撮像して得られた複数の生体撮像画像から、生体に固有な情報である生体情報を複数抽出する生体情報抽出機能と、
抽出された複数の前記生体情報の中から、予め登録されている生体情報であるテンプレートとして登録する前記生体情報を選択するテンプレート選択機能と、
前記ユーザに個別に設定されており、かつ、生体情報を用いた生体認証の際に生体情報とテンプレートとの類似の度合いを判別するために利用される閾値を、前記テンプレート選択機能により選択された前記テンプレート、および、当該テンプレートと他のユーザのテンプレートとの類似度の分布である他人分布に基づいて決定する閾値決定機能と、
を実現させるためのプログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25】
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【公開番号】特開2011−44101(P2011−44101A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193427(P2009−193427)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】