説明

防汚性基材及びその製造方法

【課題】汚染除去性に優れる被膜を基材表面に形成した防汚性基材、及びこの防汚性基材を一工程で、かつ、省スペースで製造可能な製造方法を提供すること。
【解決手段】合成樹脂組成物からなる基材と、この基材の表面に被覆された被覆層とを備え、被覆層が、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物から形成された防汚性基材を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性基材及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、基材の表面に防汚性及び汚染除去性に優れた被膜が形成された防汚性基材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば建材として用いられているプラスチック製の基材の表面に、上塗り用塗料を塗布して被膜を形成し、基材表面の保護と美観を高めることが一般的に行われている。
しかしながら、このような保護膜の表面が例えば油性ペンで汚れた場合、ウエスで乾拭きしても汚れが落ちない、あるいは、その汚れが落ちたとしても一過性で継続性がない、すなわち塗装してから一定期間は汚染除去性能を有するが、時間経過とともに汚染除去性能が低下し、汚れが落ち難くなるという問題があった。
【0003】
また、このような基材表面に保護膜を形成して防汚性基材を製造するに際しても、上塗り用塗料が熱硬化性樹脂、例えばフッ素樹脂であり、一方基材としては建材などに多用されているポリカーボネートが用いられた場合、保護膜と基材との密着性がよくないためバインダー層としてアクリル樹脂層などを介層しなければならず、バインダー層の塗工工程、塗工スペースが必要となり、コストアップとなるという問題があった。また、塗工液が2液タイプの場合、ポットライフが短いためロングラン使用が不可能なことや、増粘して使用できない塗工液は廃棄せざるを得ないので不経済であった。
さらに、予めプラスチック基材を所定寸法に形成して採取しておき、別工程においてプラスチック基板表面に塗工して保護膜を形成して製品化しているため、製造開始から製品完成までの時間が長いこと、時間的ロスの発生、在庫スペースの確保、及びこれらのことによるコストアップを生じていた。
【0004】
また、特開2002−37827号公報(特許文献1)には、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、光硬化性フッ素含有樹脂、光重合開始剤等を含有してなる光硬化性樹脂組成物を木質材等の基材表面に塗布して被膜を形成することにより、汚染除去性及び表面平滑性が改善できる旨報告されている。しかしながら、曇度が悪く透明性が損なわれたり、フッ素系の光硬化性樹脂組成物を用いているため、コストが高くなり、安価な製品を提供することが出来ないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2002−37827号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、汚染除去性に優れる被膜を基材表面に形成した防汚性基材、及びこの防汚性基材を一工程で、かつ、省スペースで製造可能な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして、本発明によれば、合成樹脂組成物からなる基材と、この基材の表面に被覆された被覆層とを備え、前記被覆層が、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物から形成された防汚性基材が提供される。
また、本発明は別の観点によれば、樹脂基層を連続的に押出成形し、この押出成形のライン上で前記樹脂基層の表面に連続して、光硬化性樹脂、光重合開始剤及び撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布し、その塗膜に電子線又は光を照射して、樹脂基層の表面に被覆層を形成する防汚性基材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防汚性基材によれば、表面が油性ペン等で汚染された場合でも、その汚れを乾いたウエスにて容易に拭き取ることができ、汚染除去性に優れる。
また、本発明の防汚性基材の製造方法によれば、上記汚染除去性に優れた防汚性基材を、一工程で連続成形することができ、製造工程の簡素化及び省スペースでの成形ラインを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の防汚性基材及びその製造方法の実施の形態を説明するが、本発明は実施の形態に限定されるものではない。
【0010】
本発明の防汚性基材は、合成樹脂組成物からなる基材と、この基材の表面に被覆された被覆層とを備え、前記被覆層が、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物から形成されたものである。なお、必要に応じて、光硬化性樹脂組成物に(メタ)アクリレート系モノマーを反応性希釈剤として混合してもよく、さらに各種添加剤を添加してもよい。
【0011】
[被覆層についての説明]
本発明において、被覆層は汚染除去機能を有し、基材の表面を汚れから保護すると共に、被覆層表面へ付着した汚れを容易に拭き取れるようにする目的で設けられる。上記汚れとしては水性又は油性インク、泥、食品等の様々な汚れが挙げられるが、プラスチック材へ付着した場合に特に落ち難い油性インク(例えば油性マジックインキ(登録商標))でも、本発明における被覆層であれば汚染除去機能により表面の汚れを乾いたウエスにて容易に拭き取ることができる。なお、被覆層は、光硬化性樹脂組成物から形成されるため、透光性である必要があるが、被覆層が十分に硬化する量であれば着色材を含有していてもよい。
この被覆層は単層に限らず複数層とするもよく、1つの層の膜厚は1〜150μm、好ましくは3〜100μm、さらに好ましくは5〜30μmである。なお、膜厚が1μmよりも薄い場合、光硬化時に酸素阻害が起こり硬化不良となりやすくなる。一方150μmよりも厚い場合、コスト的に高くなると共に、塗工が困難となる。
以下、光硬化性樹脂組成物を構成する各要素について説明する。
【0012】
<光硬化性樹脂>
本発明において、光硬化性樹脂としては、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、光硬化性フッ素含有樹脂等が挙げられるが、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂がコスト面、透明性等の観点から好ましい。光硬化性(メタ)アクリレート樹脂としては、脂肪族、芳香族のいずれであってもよい。本発明で用いられる光硬化性(メタ)アクリレート樹脂は、1分子中に2個以上のアクリロイル基(CH2=CH−CO−)又はメタクリロイル基(CH2=C(CH3)−CO−)を有する光硬化性(メタ)アクリレート系モノマーを重合して得られた樹脂である。
このような光硬化性(メタ)アクリレート樹脂の具体例としては、例えばエポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系又はポリエーテル(メタ)アクリレート系モノマーを重合して得られた樹脂が挙げられ、これらのうちの1種単独あるいは2種以上組合せて用いることができる。
【0013】
エポキシ(メタ)アクリレートは、エピクロルヒドリン等のエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応により合成される。エポキシ(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物と(メタ)アクリル酸との反応により合成されるビスフェノールA型エポキシアクリレート、ビスフェノールSとエピクロルヒドリンとの反応物と(メタ)アクリル酸との反応により合成されるビスフェノールS型エポキシアクリレート、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの反応物と(メタ)アクリル酸との反応により合成されるビスフェノールF型エポキシアクリレート、フェノールノボラックとエピクロルヒドリンとの反応物と(メタ)アクリル酸との反応により合成されるフェノールノボラック型エポキシアクリレートなどが挙げられる。
【0014】
ウレタン(メタ)アクリレートは、たとえばジイソシアネート類とポリオール類とヒドロキシアクリレート類とを反応させることによって得られ、分子中に官能基としてアクリロイル基(CH2=CHCO−)またはメタクリロイル基(CH2=C(CH3)−CO−)と、ウレタン結合(−NH・COO−)とを有する。
上記ジイソシアネート類としては、具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート[HDI]、イソホロンジイソシアネート[IPDI]、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)[HMDI]、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート[TMHMDI]、トリレンジイソシアネート[TDI]、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート[MDI]、キシリレンジイソシアネート[XDI]などが挙げられる。
上記ポリオール類としては、具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。ウレタン(メタ)アクリレートの合成に用いられるヒドロキシアクリレートとしては、具体的には、2ーヒドロキシメチルアクリレート[HEA]、2-ヒドロキシエチルメタクリレート[HEMA]、2-ヒドロキシプロピルアクリレート[HPA]、グリシドールジメタクリレート[GDMA]、ペンタエリスリトールトリアクリレート[PETA]、ポリカプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0015】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、無水フタル酸とプロピレングリコールと(メタ)アクリル酸とからなるポリエステル(メタ)アクリレート、アジピン酸と1,6-ヘキサンジオールと(メタ)アクリル酸とからなるポリエステル(メタ)アクリレート、トリメリット酸とジエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とからなるポリエステル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0016】
光硬化性(メタ)アクリレート樹脂を構成するポリエーテル(メタ)アクリレートは、例えば1,2,6-ヘキサントリオール等のポリオールを塩基性または酸触媒(BF3、NaOH)の存在下に、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドと反応させ、次いで、得られたポリエーテルと(メタ)アクリル酸とを反応させることにより合成される。
【0017】
上記のような光硬化性(メタ)アクリレート樹脂は、不揮発分換算で光硬化性樹脂組成物100重量%に対して45〜99重量%、好ましくは65〜98重量%の割合で用いられる。なお、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂の割合が45重量%よりも少ないと、その分撥水撥油剤及び光重合開始剤の添加量が多くなり、被覆層の保護膜としての物性が低下する。一方99重量%よりも多いと、撥水撥油剤及び光重合開始剤の添加量が少なくなり、防汚性能が低下又は発現しない問題、被覆層の硬化不良及び基材との密着不良を生じる問題がある。
【0018】
<撥水撥油剤>
本発明において、撥水撥油剤は、被覆層に汚染除去性能を付加するためのものであり、ジメチルシリコン系又はフルオロアルキルシリコン系の撥水撥油剤が好ましいものとして挙げられる。撥水撥油剤は、分子量の大きいものを使用すると汚染除去性能は良好となるが、被覆層のレベリング性及び光硬化性樹脂との相溶性が悪くなり、平滑で尚かつクリアな塗膜が得られない。また、分子量の小さいものを使用するとレベリング性・相溶性は良くなり、平滑で尚かつクリアな塗膜が得られる反面、汚染除去性能は満足のいく結果が得られない。上記観点から本発明においては、例えばジメチルシリコン系である大日本インキ化学工業製のユニディックRS21−395L1(重量平均分子量:4196)が好ましい撥水撥油剤として用いられる。撥水撥油剤は、不揮発分換算で光硬化性樹脂組成物100重量%に対して0.2〜2.4重量%、好ましくは0.4〜1.2重量%、さらに好ましくは0.4〜0.8重量%の割合で添加される。なお、撥水撥油剤の添加量が0.2重量%よりも少ないと、撥水撥油性が著しく低下し被覆層の汚染除去性能が発現しなくなる。一方2.4重量%より多くても汚染除去性能の向上は望めず、被覆層が透明の場合は透明性が低下すると共にコストアップとなる。
【0019】
<光重合開始剤>
本発明において、光重合開始剤としては、具体的には、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系光重合開始剤;ベンジルジメチルケタール(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)、ジエトキシアセトフェノン、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1ー[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1等のアセトフェノン系光重合開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光重合開始剤;チオキサンソン、2-クロルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2、4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4-ジクロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサントン系光重合開始剤などが挙げられる。中でもベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましく用いられる。
上記のような光重合開始剤は、不揮発分換算で光硬化性樹脂組成物100重量%に対して0.3〜10重量%、好ましくは0.5〜8重量%、さらに好ましくは0.8〜6重量%の割合で添加される。なお、光重合開始剤の添加量が0.3重量%よりも少ないと、被覆層の硬化不良が生じ基材との密着不良や強度低下の原因となる。一方10重量%よりも多いとくても樹脂分が少なくなるので被覆層の強度低下に繋がり、コストアップにもなる。
【0020】
<(メタ)アクリレート系モノマー>
本発明において、(メタ)アクリレート系モノマーは、反応性希釈用として粘度を下げる目的で用いる他、被覆層の基材への密着性、硬度の調整、硬化速度の調整、耐屈曲性、収縮性などの塗膜物性を調整するための機能を付与する目的でも使用することができる。(メタ)アクリレート系モノマーとして具体的には、アクリレート、メタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、ジエレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアアクリレートなどが挙げられる。
【0021】
上記のような(メタ)アクリレート系モノマーは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。(メタ)アクリレート系モノマーは必要に応じて、不揮発分換算で光硬化性樹脂組成物100重量%に対して0〜50重量%、好ましくは0〜30重量%の割合で用いられる。なお、(メタ)アクリレート系モノマーを用いない場合は、光硬化性樹脂組成物の塗工粘度を調整して塗工を容易とするために希釈用溶剤(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、n−ブタノール、トルエン等)を用いることができる。
(メタ)アクリレート系モノマーは50重量%よりも多く用いることも可能であるが、塗工時に空気中の塵や埃が塗膜に顕著に付着し易くなり製品の外観を損い易くするため、クリーンルームでの塗工が望ましい。また、(メタ)アクリレート系モノマーを50重量%よりも多く用いた場合に形成された被覆層は、モノマーの種類によって多少の差異はあるが、汚染除去機能及び基材との密着性(塗膜硬化)が問題視される程低下することはなく、光硬化性樹脂の全量を(メタ)アクリレート系モノマーに置き換えることも可能である。
【0022】
<添加剤>
本発明において、光硬化性樹脂組成物に添加する添加剤としては、例えば水酸基含有アクリル樹脂、重合禁止剤、非反応性希釈剤、艶消し剤、消泡剤、沈降防止剤、レベリング剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられ、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0023】
[基材についての説明]
本発明において、基材としては、具体的には、透明プラスチック類が挙げられ、ポリカーボネート樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂などの透明樹脂が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂は、2,2'-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン又はこれと2,2'-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパンとホスゲンとを公知の方法で反応させて得られるものであり、好適な分子量は粘度平均分子量で20,000〜40,000である。また、ポリカーボネート樹脂には必要に応じて耐候性を付与させるために、適当な紫外線吸収剤を添加することができる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系の紫外線吸収剤が使用可能である。さらに、必要に応じて着色剤や顔料を添加することも可能である。また、直射光の透過を拡散させるために表面に微細なエンボス模様を付与させておくことができる。
メタクリル酸エステル系樹脂とは、メタクリル酸メチルのホモポリマー及びメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体との共重合体をいう。共重合可能な単量体としては、メタクリル酸エステル類(例えばメタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル等)、アクリル酸エステル類(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、スチレン、アクリロニトリル、無水マレイン酸等が挙げられる。これらの単量体は1種又は2種以上を30重量%以下、好ましくは20重量%以下の量で共重合される。また、メタクリル酸エステル系樹脂は、それ自体で耐候性が良好であるが、必要に応じてさらに耐候性を付与させるために、一般の紫外線吸収剤を添加することができる。たとえばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸系の紫外線吸収剤が使用可能である。さらに、必要に応じて着色剤や顔料を添加することも可能である。
基材の形状としては特に限定されず、その使用目的に応じてフィルム状、シート状(板状)、筒状、棒状等の各種形状を選択することができるが、例えば基材を建築物の外壁用、内装用、窓用等に用いる場合はフィルム状やシート状を選択することができる。この場合、基材は、必要に応じて上記の樹脂組成物を共押出成形、熱ラミネートなどにより複層に構成してもよく、全体としての厚みは0.03〜10mm、好ましくは0.5〜5mm、さらに好ましくは0.6〜3mmである。
【0024】
[防汚性基材の製造方法についての説明]
本発明の防汚性基材の製造方法は、樹脂基層を連続的に押出成形し、この押出成形のライン上で前記樹脂基層の表面に連続して、光硬化性樹脂、光重合開始剤及び撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布し、その塗膜に電子線又は光を照射して、樹脂基層の表面に被覆層を形成することを特徴とする。
以下、本発明の防汚性基材の製造方法について詳しく説明する。
【0025】
<光硬化性樹脂組成物の調製>
本発明に係る光硬化性樹脂組成物は、光硬化性樹脂、光重合開始剤、撥水撥油剤、必要に応じてモノマー、添加剤等の諸成分を、上述した配合割合で、従来より公知の混合機、分散機、撹拌機等の装置を用いて混合・撹拌することにより得ることができる。このような装置としては、たとえば混合・分散ミル、モルタルミキサー、ロール、ペイントシェカー、ホモジナイザーなどが挙げられる。
【0026】
<防汚性基材を製造する製造ライン及び製造方法>
本発明の防汚性基材がシート状の場合、例えば図1に示すような同一の製造ラインにて基材の成形と被覆層の形成を連続的に製造することができる。この製造ラインは、ライン上流側から、基材形成用の樹脂組成物をシート状に連続的に押し出す押出機1と、縦方向に3本配置され矢印方向に回転するロール2、3、4と、上下一対のピンチロール5、6と、被覆層形成用の樹脂組成物を基材表面に塗布する塗工装置7と、塗膜の硬化装置8と、トリミング装置9と、カッティング装置10とを備えている。なお、必要に応じて、塗工装置7と硬化装置8の間に塗膜中の溶剤を揮発させる乾燥炉を配置してもよい。
塗工装置7としては、特に限定されず、例えばスプレー、フローコーター、表面がゴム乃至スポンジのロールコーターなど連続的に塗布可能な装置が挙げられ、図1ではフローコーターの場合を例示している。また、硬化装置8としては、電子線照射機あるいは光照射機(紫外線又は可視光線)を用いることができる。なお、塗工装置7及び硬化装置8のセット数は、被覆層を2層以上とする場合は2セット以上を配置してもよく、各装置においては上記の機種を1種あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
【0027】
次に、本発明の防汚性基材を上記製造ラインにて製造する一例を説明する。この場合、基材の厚みを0.03〜10mm、被覆層の厚みを1〜150μmとする防汚性基材の製造方法を例示する。
先ず、押出機1により基材形成用樹脂組成物からなる樹脂基層Bをシート状に連続的に押し出す。ダイ温度は、基材形成用樹脂組成物がポリカーボネート系樹脂組成物では230〜300℃に設定され、メタクリル酸エステル系樹脂組成物では200〜280℃に設定される。また、引取速度は、ポリカーボネート系樹脂組成物では0.3〜20m/分に設定され、メタクリル酸エステル系樹脂組成物でも0.3〜20m/分に設定される。
【0028】
3本のロール2、3、4の間及びピンチロール5、6の間を通って厚み0.03〜10mmのシート状に成形された(カットされる前の)樹脂基層Bは、図示しない搬送装置にて下流側の塗工装置7及び硬化装置8へと連続的に搬送される。そして、塗工装置7により樹脂基層Bの表面にウエット状態で5〜200g/m2の光硬化性樹脂組成物が塗布される。その後、硬化装置8により照射された電子線又は光によって塗膜が硬化して被覆層が形成する。電子線照射機を使用する場合、例えば200kV、3〜10Mradで0.1〜1秒間照射し、光照射機として水銀ランプを使用する場合は、例えば80〜120W/cmで0.5〜10秒間照射する。なお、硬化装置8の灯数、出力、高さ及び引取速度等のパラメータを変更することにより、防汚性基材の品種、生産量を制御することができる。
その後、被覆層付きの樹脂基層Bはトリミング装置9により両端縁が除去され、カッティング装置10により所定長さに切断されて、製品としての防汚性基材Pが製造される。
【0029】
このような防汚性基材の製造方法によれば、同一の製造ラインにて基材(樹脂基層)の成形と被覆層の形成(インラインコート)を連続的に一工程にて行って、汚染除去性に優れた防汚性基材を製造することができる。したがって、製造工程の簡素化及び省スペースでの成形ラインを実現することができる。つまり、被覆層の形成は光硬化であるため、熱硬化に比べて製造ラインを省スペースで納めることが可能であり、後から硬化装置の設置も可能でありライン設計も容易に行える。さらに、防汚性基材の製造時に所定長さに切断することができるため、ユーザーの要望する長さに容易に対応することができ、少量多品種生産にも対応可能であり、多品種を在庫する必要もない。つまり、予め被覆層となるフィルムを作製しておき、別工程でフィルムを基材にラミネートする方法では、製造ラインが複数となり広いスペースが必要であると共に、生産効率が低くコストアップに繋がる。また、予め所定長さの基材を作製しておき、別工程で基材毎に光硬化性樹脂組成物を塗工・硬化して被覆層を形成する方法では、ユーザーが要望する長さに対応するためには多品種を在庫する必要があり、少量多品種生産には不利である。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例により本発明を説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
本実施例1、2及び比較例1〜3において、塗膜付着性、汚染除去性及び曇度の評価を、次の方法にしたがって行った。なお、各実施例及び比較例における被覆層形成用の光硬化性樹脂組成物の成分及び上記評価の結果を表1及び2に示した。
【0031】
(1)塗膜密着性
塗膜密着性は、JIS K5400に基づき、碁盤目試験(2mm幅の碁盤目、セロテープ(登録商標)剥離試験)を行ない、塗膜の残存マス目の数で3段階評価した。
(3段階評価)
3:残存マス目が98〜100個(合格)
2:残存マス目が90〜97個(不合格)
1:残存マス目が89個以下(不合格)
【0032】
(2)汚染除去性(A)
基材表面に形成された塗膜表面を、黒油性ペン、赤油性ペン、青油性ペンで汚し、その4時間後に、水で拭き取ってその表面を目視観察し、汚染除去性を3段階評価した。
(3段階評価)
3:汚れ無し。(合格)
2:僅かな汚れあり(合格)
1:汚れ有り(不合格)
【0033】
(3)汚染除去性(B)
基材表面に形成された塗膜表面を、黒油性ペンで汚し、その10秒後にウエスで空拭きする。この操作を同一箇所にて繰り返し行ない、黒油性ペンの跡が残るまでの回数で、
汚染除去性を3段階評価した。
(3段階評価)
3:10回以上黒油性ペンを拭き取りできる。(合格)
2:1〜10回の間で黒油性ペンの跡が残る。(不合格)
1:1回で黒油性ペンの跡が残る。(不合格)
【0034】
(4)曇度
曇度測定は JIS K 7136に基づき測定し、曇度を3段階評価した。
(3段階評価)
3:曇度が1%未満。(合格)
2:曇度が1%以上、2%未満(合格)
1:曇度が2%以上(不合格)
【0035】
[実施例1]
光硬化性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂として大日本インキ化学工業社製:ユニディックS2−371(不揮発分75%)の133.33重量部、シリコン系撥水撥油剤として大日本インキ化学工業社製:ユニディックRS21−395L1の0.75重量部、アセトフェノン系光重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:イルガキュア184の3.0重量部、ベンゾフェノン系光重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製:ダロキュアTPOの0.5重量部及び溶剤として酢酸ブチルの30重量部を加えて撹拌し、塗料としての光硬化性樹脂組成物を得た。
【0036】
押出機によりダイ温度270℃、引取速度3m/分でポリカーボネート系樹脂組成物を厚み2mmのシートに成形し、シート上に連続してバーコーターにより上記配合の塗料を塗布し、紫外線照射機により120W/cmでUV硬化させて、塗膜10μmの防汚機能を付与した透明プラスチック基材を得た。
また、押出機によりダイ温度250℃、引取速度3m/分でメタクリル酸エステル系樹脂組成物を厚み2mmのシートに成形し、シート上に連続してバーコーターにより上記配合の塗料を塗布し、紫外線照射機により120W/cmでUV硬化させて、塗膜10μmの防汚機能を付与した透明プラスチック基材を得た。
【0037】
[実施例2]
光硬化性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としてユニディックS2−371の106.67重量部、アクリル系モノマーとして大阪有機化学工業社製:V−150の10重量部並びにダイセル・ユーシービー社製:HDODAの10重量部、撥水撥油剤としてユニディックRS21−395L1の0.75重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184の3.0重量部並びにダロキュアTPOの0.5重量部及び溶剤として酢酸ブチルの15重量部を加え撹拌し、塗料としての光硬化性樹脂組成物を得た。
その後、上記配合の塗料を用いて被覆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして2種類の透明プラスチック基材を得た。
【0038】
[比較例1]
光硬化性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としてユニディックS2−371の133.33重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184の3.0重量部並びにダロキュアTPOの0.5重量部及び溶剤として酢酸ブチルの30重量部を加え撹拌し、光硬化性塗料組成物を得た。
その後、上記配合の塗料を用いて被覆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして1種類の透明プラスチック基材(基材がポリカーボネート系樹脂組成物)を得た。
【0039】
[比較例2]
光硬化性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としてユニディックS2−371の133.33重量部、撥水撥油剤としてユニディックRS21−395L1の3.0重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184の3.0重量部並びにダロキュアTPOの0.5重量部及び溶剤として酢酸ブチルの30重量部を加え撹拌し、光硬化性塗料組成物を得た。
その後、上記配合の塗料を用いて被覆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして1種類の透明プラスチック基材(基材がポリカーボネート系樹脂組成物)を得た。
【0040】
[比較例3]
光硬化性フッ素含有(メタ)アクリレート樹脂として関東電化工業社製:KD−220UV(不揮発分44%)の227.27重量部、光重合開始剤としてイルガキュア184の3.0重量部並びにダロキュアTPOの0.5重量部を加え撹拌し、光硬化性塗料組成物を得た。
その後、上記配合の塗料を用いて被覆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして1種類の透明プラスチック基材(基材がポリカーボネート系樹脂組成物)を得た。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表2からわかるように、実施例1及び2は、付着性、汚染除去性(A)(B)及び曇度に関して全て良好な結果が得られた。これに対し、比較例1は汚染除去性(A)(B)が悪く、この結果は光硬化性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂に対して撥水撥油剤が無添加であったためと考えられる。比較例2は 曇度について合格レベルではあるものの実施例に比して悪くなっており、この結果は撥水撥油剤の添加量が3%と多いためであると考えられる。比較例3は汚染除去性(A)(B)は良好であるが曇度が悪く、この結果はフッ素含有アクリレート樹脂に由来するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の防汚性基材は、産業機械用途や建材用途等に利用でき、特に産業機械等の油量覗き窓や保護メガネや落書き防止用に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の防汚性基材の製造方法の一例を説明するための製造ラインの模式図である。
【符号の説明】
【0046】
1 押出機
2、3、4ロール
5、6ピンチロール
7 塗工装置
8 硬化装置
9 トリミング装置
10 カッティング装置
B 樹脂基層(基材)
P 防汚性基材(製品)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂組成物からなる基材と、この基材の表面に被覆された被覆層とを備え、前記被覆層が、光硬化性樹脂と、光重合開始剤と、撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物から形成されたことを特徴とする防汚性基材。
【請求項2】
光硬化性樹脂が、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系又はポリエーテル(メタ)アクリレート系モノマーを重合して得られた光硬化性アクリレート樹脂である請求項1に記載の防汚性基材。
【請求項3】
光硬化性樹脂組成物が、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系又はポリエーテル(メタ)アクリレート系モノマーを含む請求項2に記載の防汚性基材。
【請求項4】
撥水撥油剤が、ジメチルシリコン系又はフルオロアルキルシリコン系の撥水撥油剤である請求項1〜3のいずれか1つに記載の防汚性基材。
【請求項5】
基材が、ポリカーボネート系樹脂またはメタクリル酸エステル系樹脂からなる請求項1〜4のいずれか1つに記載の防汚性基材。
【請求項6】
基材が建築用板材である請求項1〜5のいずれか1つに記載の防汚性基材。
【請求項7】
樹脂基層を連続的に押出成形し、この押出成形のライン上で前記樹脂基層の表面に連続して、光硬化性樹脂、光重合開始剤及び撥水撥油剤を含有する光硬化性樹脂組成物を塗布し、その塗膜に電子線又は光を照射して、樹脂基層の表面に被覆層を形成することを特徴とする防汚性基材の製造方法。
【請求項8】
樹脂基層の表面に被覆層を形成した後、同一ライン上で所定寸法に切断する請求項7に記載の防汚性基材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−8741(P2006−8741A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183814(P2004−183814)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000207562)大日本プラスチックス株式会社 (23)
【Fターム(参考)】