説明

防汚性製品及びその製造方法

【課題】焦げ付き汚れの固着を防止することができ、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、容易に水洗除去することができる防汚性製品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の防汚性製品1は、本体を構成する基体2と、この基体2の表面に形成された薄膜3とを備え、この薄膜3は、ケイ素と、ジルコニウムと、酸素と、リンとを含有し、ケイ素を酸化ケイ素に、ジルコニウムを酸化ジルコニウムに、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素の、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量に対する質量百分率は50質量%以下であり、かつ、リン(P)は薄膜3の少なくとも表層部3aに分布している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性製品及びその製造方法に関し、特に、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物が、食品を加熱調理する際の熱、燃焼機関の燃焼熱等の各種の熱を受けることで生じる焦げ付き汚れが製品の基体上に固着することを防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても容易に水洗除去することができるという防汚性を備えた防汚性製品、及び、この防汚性製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、二酸化ケイ素、酸化ジルコニウム及びリン酸を含む薄膜を製品の基体の表面上に成膜し、この薄膜中にリチウムイオンを分散状態で含有してなる防汚性製品が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。この防汚性製品は汚れ難く、また、一旦汚れたとしても汚れが落ち易いとされている。
そして、このような特性を備えた防汚性製品の製造方法としては、製品の基体上に成膜された二酸化ケイ素、酸化ジルコニウムを含む薄膜にリチウム化合物を加熱下にて接触させて、リチウムイオンを前記薄膜の表面から内部に拡散させることにより、薄膜中にリチウムイオンを分散状態で含有させる方法が提案されている。
【0003】
一方、調理器具の分野では、酸化ジルコニウム薄膜を調理器具本体である基体の表面に成膜した調理器具が提案されており、この調理器具にあっては、食品の焦げ付き汚れを簡単に除去することができるとされている。
【特許文献1】特開2002−019007号公報
【特許文献2】特開2005−170057号公報
【特許文献3】特開2006−015754号公報
【特許文献4】特開2005−321108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の防汚性製品では、一旦、製品に焦げ付き汚れが固着すると、この焦げ付き汚れを除去するためには擦り落とす等の物理的方法を用いざるを得ないが、この物理的方法を用いた場合、製品の表面を傷つける虞があり、製品の基体上への焦げ付き汚れの固着を有効に防止することができないという問題点があった。
また、上述した従来の調理器具では、250℃以下の低温下で焦げ付いた食品の焦げ付き汚れは比較的簡単に除去することができるものの、300℃以上の高温下で焦げ付いた食品の焦げ付き汚れは簡単には除去することができず、この焦げ付き汚れを除去するためには、上記の防汚性製品と同様、擦り落とす等の物理的方法を用いざるを得ないが、この物理的方法を用いた場合、調理器具の表面を傷つける虞があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れの固着を防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、容易に水洗除去することができる防汚性製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、防汚性製品の主要部を構成する基体の表面に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の薄膜、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の薄膜、のいずれかを形成すれば、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れが基体の表面に固着するのを防止することができ、また、この焦げ付き汚れが基体上に固着したとしても容易に水洗除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の請求項1に係る防汚性製品は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品であって、前記薄膜は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は50質量%以下であり、かつ、前記リン(P)は前記薄膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係る防汚性製品の製造方法は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上の温度にて熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係る防汚性製品の製造方法は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係る防汚性製品は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品であって、前記薄膜は、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、かつ、前記リン(P)は前記薄膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に係る防汚性製品の製造方法は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上の温度にて熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6に係る防汚性製品の製造方法は、基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防汚性製品によれば、基体の表面に形成された薄膜が、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れに対して優れた防汚性を有することにより、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れの固着を防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着した場合であっても、この焦げ付き汚れを容易に水洗除去することができる。また、この薄膜は、油汚れ、水垢、動物の排泄物(例えば、糞)等の他の種類の汚れに対しても、優れた防汚性を備えている。
【0014】
本発明の防汚性製品の製造方法によれば、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れの固着を防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着した場合であっても、この焦げ付き汚れを容易に水洗除去することができ、さらに、油汚れ、水垢、動物の排泄物(例えば、糞)等の他の種類の汚れに対しても優れた防汚性を備えた防汚性製品を、簡便かつ安価に作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の防汚性製品及びその製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0016】
「第1の実施形態」
図1は、本発明の第1の実施形態の防汚性製品を示す断面図であり、この防汚性製品1は、防汚性製品の本体を構成する基体2と、この基体2の表面のうち少なくとも焦げ付き汚れが固着する虞のある領域に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する薄膜3が形成され、この薄膜3の少なくとも表層部3aにはリン(P)が分布している。
【0017】
防汚性製品1としては、特に制限されるものではないが、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れに対して防汚性が要求される製品であればよく、例えば、キッチン、厨房で使用されるフライパン、鍋、調理用プレート、魚焼き用グリルの水入れ皿、焼き網等の各種調理器具は勿論のこと、コンロ天板、コンロ部品、オーブン内部品等、食品の調理に用いられる各種調理機器、さらには、ストーブ、ボイラー等の熱機関等を総称したものである。
【0018】
基体2は、防汚性製品1の本体を構成するもので、その形状は、目的とする器具、機器、部材等の形状や仕様により様々な形状のものが選択使用される。また、その材質としては、鋼、ステンレス鋼等の各種金属、低熱膨張性結晶化ガラス等の各種耐熱ガラスを含むセラミックス、琺瑯等の金属−セラミックス複合物等、100℃以上の温度での熱処理が可能であれば種類を問わない。
【0019】
薄膜3は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下であり、かつ、リン(P)は、この薄膜3の少なくとも表層部3aに分布している。
このリン(P)を含む表層部3aが、焦げ付き汚れ等に対して優れた防汚性を有している。また、この表層部3aは、酸化ケイ素(SiO)を含有しているので、耐水性、基体2に対する密着性に優れている。
【0020】
ここで、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率を50質量%以下とした理由は、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が50質量%を越えると、焦げ付き汚れが固着するのを防止することができなくなり、しかも、一旦固着した焦げ付き汚れを水拭き程度では除去することができなくなるからである。
特に、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が1質量%以上かつ20質量%以下の場合には、焦げ付き汚れの固着をより一層効率よく防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、この焦げ付き汚れをより一層効率よく容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0021】
薄膜3の厚みは、0.001μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この薄膜3の厚みが0.001μmを下回ると、防汚性の付与、すなわち焦げ付き汚れに対する防汚性及び固着した焦げ付き汚れの除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、薄膜3自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、薄膜3の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0022】
この表層部3aの厚みは、後述する第1の製造方法の「第2の工程」における熱処理条件により決定されるが、通常の熱処理条件下では、薄膜3の表面から少なくとも0.0001μm以上、好ましくは0.005μm以上である。また、この表層部3aにおけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下であり、この薄膜3の表面から深さ方向に向かって徐々に低濃度となるような濃度勾配を有している。
この表層部3aにおけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、300℃以上の高温下で焦げ付いて固着した焦げ付き汚れは水拭き程度では除去することができず、一方、表層部3aにおけるリン(P)の濃度が10質量%を上回ると、薄膜3の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0023】
このような表層部3aを有する薄膜3が形成された防汚性製品1は、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で焦げ付いた焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
しかも、この表層部3aを有する薄膜3は、耐久性にも優れている。
【0024】
この薄膜3の表層部3aが防汚効果を発揮する理由は、表層部3aの構成成分であるケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、リン(P)の各原子と酸素(O)原子との結合状態と密接に関連すると考えられる。
ここで、代表的な2種類の結合状態について説明する。
(1)下記の構造式(1)に示すように、1つのケイ素(Si)原子が4つの酸素(O)原子と化学結合しており、各々の酸素(O)原子が結合手を一本持っている場合。
【化1】

【0025】
この場合、酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示す。薄膜3の表層部3aが親水性を示すと、たんぱく質などに代表される親水性の有機質物質が熱作用を受けて焦げ付いた場合、焦げ付き汚れがより強固に固着する。
【0026】
(2)下記の構造式(2)に示すように、1つのジルコニウム(Zr)原子が3つの酸素(O)原子と化学結合しており、これらの酸素(O)原子のうち1つの酸素(O)原子とは二重結合しており、その他の酸素(O)原子はそれぞれ結合手を一本持っている場合。
【化2】

【0027】
この場合、これらの酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示す。薄膜3の表層部3aが親水性を示すと、たんぱく質などに代表される親水性の有機質物質が熱作用を受けて焦げ付いた場合、焦げ付き汚れがより強固に固着する。
【0028】
このようなケイ素(Si)原子と酸素(O)原子との化学結合、及びジルコニウム(Zr)原子と酸素(O)原子との化学結合を有する薄膜3中にリン(P)が含まれると、例えば、下記の構造式(3)に示すように、リン(P)が酸素(O)原子の結合手と脱水縮合反応により架橋され、更に二重結合が生じる。この二重結合は水酸基(−OH)ではないために、ある程度の撥水性を示す。
【化3】

【0029】
その結果、薄膜3の表層部3aは焦げ付き汚れに対して適度の親水性と撥水性を具備することとなり、よって、焦げ付き汚れの基体2との密着性が低下し、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で焦げ付いた焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
【0030】
この防汚性製品1は、例えば、次のような第1の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第1の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下である第1の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とする第1の工程と、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて熱処理することによりリン(P)成分を薄膜に含有せしめる第2の工程とを有している。
【0031】
この第1の塗布液における上記のジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドを例示することができる。これらジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラプロポキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取り扱い易いので、膜質が均一な薄膜を形成することができる。
【0032】
また、上記のジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物、ジルコニウムテトラプロポキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0033】
これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物は、吸湿性が高く、非常に不安定であり、さらには、この第1の塗布液の貯蔵安定性も劣っているので、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物を用いることが好ましい。
【0034】
上記のジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物を例示することができる。ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
【0035】
また、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤との反応生成物を例示することができる。加水分解抑制剤の定義は、上述した通りである。
【0036】
この加水分解抑制剤の、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に対する割合は、このジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.5モル倍〜4モル倍、好ましくは1モル倍〜3モル倍が好ましい。
割合が0.5モル倍よりも少ないと、塗布液の安定性が不充分なものとなるからであり、一方、4モル倍を上回ると、熱処理した後においても加水分解抑制剤が薄膜中に残留し、その結果、薄膜の硬度が低下するからである。
【0037】
これらジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を溶媒中に溶解し、さらに加水分解抑制剤を添加し、得られた溶媒中にてキレート化反応を生じさせたものであってもよい。
【0038】
上記のケイ素成分としては、熱処理により酸化ケイ素となり得るケイ素化合物であれば特に制限はないが、例えば、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0039】
上記の溶媒としては、上述したジルコニウム成分及びケイ素成分を溶解または分散させることのできる溶媒であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコールの他、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類(セロソルブ類)、アセトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類、エチレングリコール等のグリコール類、高級アルコール類、エステル類等を挙げることができる。特に、溶媒として水を用いる場合、アルコキシドの加水分解量以上の量の水を含有させると、塗布液の安定性が低下するので好ましくない。
【0040】
ここで、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を用いる場合、あるいは、ケイ素成分としてケイ素アルコキシドおよび/またはケイ素アルコキシドの加水分解物を用いる場合には、このジルコニウム成分またはケイ素成分の加水分解反応を制御する触媒を添加してもよい。
この触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸等を例示することができる。また、この触媒の添加量は、通常、塗布液中のジルコニウム成分及びケイ素成分の合計量に対して0.01〜10質量%程度が好ましい。なお、触媒の過剰の添加は、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞があるので好ましくない。
【0041】
この点、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドのキレート化合物またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物を用い、ケイ素成分としてコロイダルシリカを用いると、加水分解反応を制御する触媒である酸を添加する必要がなく、したがって、薄膜を形成する際に熱処理を行う熱処理炉を腐食する虞がないので好ましい。
【0042】
この塗布液においては、ジルコニウム成分とケイ素成分の合計の含有率は、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計の含有率が0.1質量%以上かつ10質量%以下であることが好ましい。
合計の含有率が0.1質量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10質量%を上回ると、膜厚が所定の膜厚を超えて薄膜が白化したり、剥離する原因となるので好ましくない。
【0043】
次いで、この第1の塗布液を基体2の表面に塗布する。塗布方法としては特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。塗布に当たっては、塗布膜の厚みを、熱処理後の膜厚が0.001μm〜10μmの範囲になるように調製することが好ましい。
【0044】
このようにして得られた塗布膜を100℃以上、より好ましくは200℃以上の熱処理温度にて、通常、0.1時間以上かつ24時間以下の熱処理時間、熱処理し、薄膜3とする。
熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、得られた薄膜3の膜強度が低下するので好ましくない。一方、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2の材質に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0045】
次いで、リン(P)成分を、水あるいは有機溶媒に溶解または分散させて、リン(P)成分を含む溶液または分散液を作製する。
このリン(P)成分としては、リン酸、ポリリン酸、メタリン酸等のリン酸類、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のリン酸塩、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、ポリリン酸水素ナトリウム、メタリン酸水素ナトリム等の縮合リン酸塩、リン酸エステル等のリン酸化合物等、リン(P)を分子骨格中に有するリン化合物であればよく、特に制限はない。
この溶液または分散液の溶媒としては、リン(P)成分を溶解または分散させることのできる溶媒であればよく、水あるいは有機溶媒が挙げられ、この有機溶媒には特に制限はない。
このリン(P)成分を、水あるいは有機溶媒に溶解または分散させる。有機溶媒には特に制限はない。
【0046】
このリン(P)成分を含む溶液または分散液におけるリン(P)の濃度は特に制限されないが、好ましくは、0.01質量%以上かつ10質量%以下である。
このリン(P)成分の濃度が0.01質量%を下回ると、本発明の特徴的な効果である防汚性が充分に達成されず、一方、リン(P)成分の濃度が10質量%を上回ると、表層部3aの表面が粗面化され、表面祖れが生じる虞がある。
また、このリン(P)を含む溶液または分散液には、塗布性を改善するために界面活性剤を含有してもよい。
【0047】
このリン(P)成分を含む溶液または分散液を、薄膜3の上に塗布する。
塗布方法としては特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。また、この溶液または分散液を塗布する際の塗布量については、薄膜3に十分に防汚性を付与することができる量であればよく、特に制限は無い。
【0048】
次いで、このリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布した薄膜3を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、リン(P)成分を薄膜3に含浸せしめる。
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、薄膜3の膜強度が不充分となり、薄膜3の表層部3aにおけるリン(P)成分の含有量が不足し、防汚性の効果が達成されないからである。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
熱処理後、残渣が残ることがあるが、これは水洗などで容易に取り除くことができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の防汚性製品によれば、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れの固着を防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着した場合であっても、この焦げ付き汚れを容易に水洗除去することができる。
【0050】
本実施形態の防汚性製品の製造方法によれば、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れの固着を防止することができ、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着した場合であっても、この焦げ付き汚れを容易に水洗除去することができる防汚性製品を、特殊な装置や工程を必要とすることなく、簡便かつ安価に作製することができる。
【0051】
「第2の実施の形態」
図2は、本発明の第2の実施形態の防汚性製品を示す断面図であり、この防汚性製品11が第1の実施形態の防汚性製品1と異なる点は、第1の実施形態の防汚性製品1では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する薄膜3を形成し、この薄膜3の少なくとも表層部3aにリン(P)を分布したのに対し、本実施形態の防汚性製品11では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有する薄膜12を形成し、この薄膜12中にリン(P)を略均一に分布した点である。
【0052】
この薄膜12の組成は、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)を含み、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下であり、かつ、リン(P)は薄膜12中に略均一に分布している。
そして、このリン(P)を含む薄膜12全体が優れた防汚機能を備えており、防汚性の薄膜となっている。また、薄膜12は酸化ケイ素(SiO)を含有しているので、耐水性及び基体2に対する密着性に優れている。
【0053】
ここで、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ケイ素(SiO)と酸化ジルコニウム(ZrO)の合計量に対する質量百分率を50質量%以下とした理由は、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率が50質量%を上回ると、焦げ付き汚れの固着を防止することができなくなり、固着した焦げ付き汚れを水拭き程度では除去することができなくなるからである。
特に、酸化ケイ素(SiO)の質量百分率を1質量%以上かつ20質量%以下とすると、焦げ付き汚れの固着をより一層効率よく防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、この焦げ付き汚れをより一層効率よく容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0054】
この薄膜12中におけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.01質量%以上かつ10質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下である。
この薄膜12におけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、300℃以上の高温下で焦げ付いて固着した焦げ付き汚れは水拭き程度では除去することができず、一方、リン(P)の濃度が10質量%を上回ると、薄膜12の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0055】
薄膜12の厚みは、0.001μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この薄膜12の厚みが0.001μmを下回ると、防汚性の付与、すなわち焦げ付き汚れに対する防汚性及び固着した焦げ付き汚れの除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、薄膜12自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、薄膜12の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0056】
この薄膜12が形成された防汚性製品11は、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で固着した焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
しかも、この薄膜12は、耐久性にも優れている。
この薄膜12が防汚効果を発揮する理由は、第1の実施形態の薄膜3の表層部3aと同様の理由による。
【0057】
この防汚性製品11は、例えば、次のような第2の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第2の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下、好ましくは1質量%以上かつ20質量%以下である第2の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理する工程を有している。
【0058】
この第2の塗布液におけるリン(P)成分の濃度は、特に制限されないが、リン(P)成分をリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が0.001質量%以上かつ10質量%以下であることが、得られる薄膜12が防汚性に優れ、焦げ付き汚れの固着をより一層効率よく防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、この焦げ付き汚れをより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0059】
この第2の塗布液におけるジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、ケイ素成分、溶媒、触媒、リン(P)成分については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0060】
この第2の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第2の塗布液を塗布した基体2を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に薄膜12を形成する。
【0061】
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、薄膜12の膜強度が不充分となるからである。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
熱処理後、残渣が残ることがあるが、これは水洗などで容易に取り除くことができる。
【0062】
この防汚性製品11は、第1の実施形態の第1の製造方法によっても作製することができる。すなわち、上述した第1の製造方法の「第2の工程」における熱処の際に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を、薄膜の深部(底部)まで充分に浸透させ、熱処理を施すことにより、リン(P)との化学反応を薄膜の深部においても生起させる。
【0063】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
しかも、薄膜12中にリン(P)を略均一に分布したので、防汚性製品11の表面における防汚性の面内均一性が向上したものとなる。
【0064】
「第3の実施の形態」
図3は、本発明の第3の実施形態の防汚性製品を示す断面図であり、この防汚性製品21が第1の実施形態の防汚性製品1と異なる点は、第1の実施形態の防汚性製品1では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する薄膜3を形成し、この薄膜3の少なくとも表層部3aにリン(P)を分布したのに対し、本実施形態の防汚性製品21では、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する薄膜22を形成し、この薄膜22の少なくとも表層部22aにリン(P)を分布した点である。
【0065】
薄膜22の厚みは、0.001μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この薄膜22の厚みが0.001μmを下回ると、防汚性の付与、すなわち焦げ付き汚れに対する防汚性及び固着した焦げ付き汚れの除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、薄膜22自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、薄膜22の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0066】
この表層部22aの厚みは、後述する第3の製造方法の「第2の工程」における熱処理条件により決定されるが、通常の熱処理条件下では、薄膜22の表面から少なくとも0.0001μm以上、好ましくは0.005μm以上である。また、この表層部22aにおけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下であり、この薄膜22の表面から深さ方向に向かって徐々に低濃度となるような濃度勾配を有している。
この表層部22aにおけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、300℃以上の高温下で焦げ付いて固着した焦げ付き汚れは水拭き程度では除去することができず、一方、表層部22aにおけるリン(P)の濃度が10質量%を上回ると、薄膜22の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0067】
このような表層部22aを有する薄膜22が形成された防汚性製品21は、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で焦げ付いた焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
しかも、この表層部22aを有する薄膜22は、耐久性にも優れている。
【0068】
この表層部22aが防汚効果を発揮する理由は、表層部22aの構成成分であるジルコニウム(Zr)、リン(P)の各原子と酸素(O)原子との結合状態と密接に関連すると考えられる。
すなわち、下記の構造式(4)に示すように、1つのジルコニウム(Zr)原子は、3つの酸素(O)原子と化学結合しており、これらの酸素(O)原子のうち1つの酸素(O)原子とは二重結合しており、その他の酸素(O)原子はそれぞれ結合手を一本持っている。
【化4】

【0069】
これらの酸素(O)原子の結合手の一部が水素と結合して水酸基(−OH)となり、親水性を示すこととなる。薄膜22の表層部22aが親水性を示すと、たんぱく質などに代表される親水性の有機質物質が熱作用を受けて焦げ付いた場合、焦げ付き汚れがより強固に固着する。
【0070】
このようなジルコニウム(Zr)原子と酸素(O)原子との化学結合を有する薄膜22中にリン(P)が含まれると、下記の構造式(5)に示すように、リン(P)が酸素(O)原子の結合手と脱水縮合反応により架橋され、更に二重結合が生じる。この二重結合は水酸基(−OH)ではないために、ある程度の撥水性を示す。
【化5】

【0071】
その結果、薄膜22の表層部22aは焦げ付き汚れに対して適度の親水性と撥水性を具備することとなり、よって、焦げ付き汚れの基体2との密着性が低下し、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で焦げ付いた焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
【0072】
この防汚性製品21は、例えば、次のような第3の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第3の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む第3の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とする第1の工程と、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて熱処理することによりリン(P)成分を薄膜に含有せしめる第2の工程とを有している。
【0073】
この第3の塗布液における上記のジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、溶媒、触媒については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0074】
この第3の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第3の塗布液を塗布した基体2を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に薄膜22を形成する。
【0075】
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、薄膜22の膜強度が不充分となるからである。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0076】
次いで、この薄膜22上に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布する。このリン(P)成分を含む溶液または分散液は、第1の実施形態のリン(P)成分を含む溶液または分散液と同様である。
このリン(P)成分を含む溶液または分散液を薄膜22の上に塗布する塗布方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
【0077】
次いで、このリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布した薄膜22を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、リン(P)成分を薄膜22に含浸せしめる。
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、薄膜22の膜強度が不充分となり、薄膜22の表層部22aにおけるリン(P)成分の含有量が不足し、防汚性の効果が達成されないからである。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
熱処理後、残渣が残ることがあるが、これは水洗などで容易に取り除くことができる。
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0078】
「第4の実施の形態」
図4は、本発明の第4の実施形態の防汚性製品を示す断面図であり、この防汚性製品31が第2の実施形態の防汚性製品11と異なる点は、第2の実施形態の防汚性製品11では、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有する薄膜12を形成し、この薄膜12中にリン(P)を略均一に分布したのに対し、本実施形態の防汚性製品31では、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを所定の割合で含有する薄膜32を形成し、この薄膜32中にリン(P)を略均一に分布した点である。
そして、このリン(P)を含む薄膜32全体が優れた防汚機能を備えており、防汚性の薄膜となっている。
【0079】
この薄膜32中におけるリン(P)の濃度は、特に制限されるものではないが、0.001質量%以上かつ10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上かつ10質量%以下である。
この薄膜32中におけるリン(P)の濃度が0.001質量%を下回ると、300℃以上の高温下で焦げ付いて固着した焦げ付き汚れは水拭き程度では除去することができず、一方、リン(P)の濃度が10質量%を上回ると、薄膜32の耐水性、耐摩耗性が低下するので好ましくない。
【0080】
薄膜32の厚みは、0.001μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この薄膜32の厚みが0.001μmを下回ると、防汚性の付与、すなわち焦げ付き汚れに対する防汚性及び固着した焦げ付き汚れの除去容易性が不充分となり、一方、厚みが10μmを上回ると、薄膜32自体の耐衝撃性が低下してクラックが入り易くなるので好ましくない。
特に、干渉色の発生を防止するためには、薄膜32の厚みを0.1μm以下とするのが好適である。
【0081】
この薄膜32が形成された防汚性製品31は、焦げ付き汚れの固着が有効に防止され、300℃以上の高温下で焦げ付いて固着した焦げ付き汚れであっても、水拭き程度で簡単に除去することができる。
しかも、この薄膜32は、耐久性にも優れている。
この薄膜32が防汚効果を発揮する理由は、第3の実施形態の薄膜22と同様の理由による。
【0082】
この防汚性製品31は、例えば、次のような第4の製造方法により作製することができる。
すなわち、この第4の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む第4の塗布液を、基体2の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理する工程を有している。
【0083】
この第4の塗布液におけるリン(P)成分の濃度は、特に制限されないが、リン(P)成分をリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)に対する質量百分率が0.001質量%以上かつ10質量%以下であることが、得られる薄膜32が防汚性に優れ、焦げ付き汚れの固着をより一層効率よく防止することができ、また、300℃以上の高温下で焦げ付き汚れが固着したとしても、この焦げ付き汚れをより一層効率よく、しかも容易に水洗除去することができるので好ましい。
【0084】
この第4の塗布液におけるジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物、加水分解抑制剤、溶媒、触媒、リン(P)成分については、第1の実施形態の第1の塗布液における各成分と同様である。
【0085】
この第4の塗布液を基体2の上に塗布する方法としては、特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。
次いで、この第4の塗布液を塗布した基体2を、100℃以上、好ましくは200℃以上の温度にて0.1時間〜24時間熱処理し、基体2上に薄膜32を形成する。
【0086】
ここで、熱処理温度が100℃を下回るか、熱処理時間が不足すると、薄膜32の膜強度が不充分となるからである。なお、熱処理温度が高すぎたり、熱処理時間が長すぎたりすると、基体2が変形する虞があるため、熱処理温度及び熱処理時間を基体2に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
熱処理後、残渣が残ることがあるが、これは水洗などで容易に取り除くことができる。
【0087】
この防汚性製品31は、第3の実施形態の第3の製造方法によっても作製することができる。すなわち、上述した第3の製造方法の「第2の工程」における熱処の際に、リン(P)成分を含む溶液または分散液を、薄膜の深部(底部)まで充分に浸透させ、熱処理を施すことにより、リン(P)との化学反応を薄膜の深部においても生起させる。
本実施形態においても、第2の実施形態と同様の効果を奏することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例では、防汚性製品としてコンロ用天板を用いた。
「実施例1」
ジルコニウムテトラブトキシド6質量部、アセト酢酸エチル3質量部、2−プロパノール90.9質量部を室温(25℃)下で30分混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液にテトラメトキシシラン0.1質量部を添加し、得られた溶液をエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)にて10倍に希釈し、実施例1の塗布液を得た。
【0089】
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は2質量%であった。
【0090】
次いで、この塗布液を結晶化ガラス製のコンロ天板上に、100g/mの塗布量にてスプレー塗装し、大気雰囲気中、500℃にて20分間熱処理して焼き付け、コンロ天板上に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
次いで、このコンロ天板を、1質量%(P換算)のトリポリ燐酸ナトリウム水溶液に浸漬して、薄膜の表面を充分に濡した後、引き上げ、さらに、このコンロ天板を、大気雰囲気下、250℃にて20分間熱処理した。次いで、水洗して薄膜上の残渣を取り除き、実施例1のコンロ用天板を得た。
このコンロ用天板の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
【0091】
また、この実施例1のコンロ用天板の防汚性を「焦げ付き汚れの除去容易性」にて評価した。評価方法は、次のとおりである。
「焦げ付き汚れの除去容易性」
薄膜の表面に1mLの醤油を滴下し、次いで、(1)大気中、250℃にて1時間、(2)大気中、350℃にて1時間、のそれぞれの条件の下で焦げ付かせた。次いで、水を含ませた布切れでこの焦げ付きを水拭きし、除去の容易性を評価した。評価結果を表1に示す。表1中の「含浸」とは、第1の製造方法によったことを示す。
【0092】
「実施例2」
ジルコニウムテトラブトキシドを1.7質量部に、アセト酢酸エチルを0.8質量部に、2−プロパノールを96.6質量部に、テトラメトキシシランを0.9質量部にそれぞれ変更した他は、実施例1に準じて実施例2の塗布液を得た。
この実施例2の塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は45質量%であった。
【0093】
次いで、この実施例2の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例2のコンロ用天板を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例2のコンロ用天板の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
さらに、この実施例2のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0094】
「実施例3」
ジルコニウムテトラブトキシド6質量部、アセト酢酸エチル3質量部、2−プロパノール91質量部を室温(25℃)下で30分混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液をエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)にて10倍に希釈し、実施例3の塗布液を得た。
【0095】
次いで、この実施例3の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例3のコンロ用天板を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例3のコンロ用天板の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、0.1質量%であった。
さらに、この実施例3のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。表1中の「含浸」とは、第3の製造方法によったことを示す。
【0096】
「実施例4」
実施例1の塗布液に、リン(P)成分としてリン酸トリメチルを添加して実施例4の塗布液を得た。ただし、リン(P)成分の添加量は、リン酸トリメチルをリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率を1質量%とした。
【0097】
次いで、この実施例4の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて実施例4のコンロ用天板を得た。ただし、実施例4の塗布液中には、リン(P)成分としてリン酸トリメチルが予め添加されているので、トリポリリン酸処理は施さなかった。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例4のコンロ用天板の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、1質量%であった。
さらに、この実施例4のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。表1中の「塗布」とは、第2の製造方法によったことを示す。
【0098】
「実施例5」
実施例3の塗布液に、リン(P)成分としてリン酸トリメチルを添加して実施例5の塗布液を得た。ただし、リン(P)成分の添加量は、リン酸トリメチルをリン(P)に、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、リン(P)の酸化ジルコニウム(ZrO)に対する質量百分率を1質量%とした。
【0099】
次いで、この実施例5の塗布液を用いた他は、実施例3に準じて実施例5のコンロ用天板を得た。ただし、実施例5の塗布液中には、リン(P)成分としてリン酸トリメチルが予め添加されているので、トリポリリン酸処理は施さなかった。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この実施例5のコンロ用天板の薄膜の表面におけるリン(P)の含有率を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定したところ、1質量%であった。
さらに、この実施例5のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。表1中の「塗布」とは、第4の製造方法によったことを示す。
【0100】
「比較例1〜3」
実施例1〜3のコンロ用天板それぞれにおいて、トリポリリン酸処理を施す前の未処理品、すなわち薄膜が焼き付けられただけのコンロ天板を、比較例1〜3のコンロ天板とした。
この比較例1〜3のコンロ天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0101】
「比較例4」
ジルコニウムテトラブトキシドを1.5質量部に、アセト酢酸エチルを0.8質量部に、2−プロパノールを96.6質量部に、テトラメトキシシランを1.1質量部にそれぞれ変更した他は、実施例1に準じて比較例4の塗布液を得た。
この比較例4の塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は55質量%であった。
【0102】
次いで、この比較例4の塗布液を用いた他は、実施例1に準じて比較例4のコンロ用天板を得た。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
この比較例4のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。表1中の「含浸」とは、第1の製造方法によったことを示す。
【0103】
「比較例5」
実施例1の塗布液を結晶化ガラス製のコンロ天板上に、100g/mの塗布量にてスプレー塗装し、大気雰囲気中、500℃にて20分間熱処理して焼き付け、コンロ天板上に薄膜を形成した。この薄膜の厚みは0.1μmであった。
次いで、この薄膜上に、5質量%の水酸化リチウム溶液を50g/mの塗布量にて塗布し、大気雰囲気中、250℃の温度にて20分間熱処理し、表面にリチウムを含有する薄膜が形成されたコンロ用天板を得た。
この比較例5のコンロ用天板の防汚性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1によれば、実施例1〜5のコンロ用天板では、250℃、350℃のいずれの条件下においても、焦げ付き汚れの除去が容易であり、比較例1〜5のコンロ用天板と比べて防汚性に優れていることが分かった。
一方、比較例1〜3では、250℃における焦げ付き汚れの除去容易性は実施例1〜5と遜色が無かったものの、350℃における焦げ付き汚れの除去容易性が悪く、350℃という高温下における防汚性が劣ったものであった。
また、比較例4、5では、250℃及び350℃における焦げ付き汚れの除去容易性は共に、不良もしくは極めて不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の防汚性製品は、防汚性製品の主要部を構成する基体の表面に、ケイ素(Si)とジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の薄膜、ジルコニウム(Zr)と酸素(O)とリン(P)とを含有する特定組成の薄膜、のいずれかを形成することにより、食品、燃料の不完全燃焼物、燃料中の不純物等の有機物に起因する焦げ付き汚れが基体の表面に固着するのを防止することができ、また、この焦げ付き汚れが基体上に固着したとしても容易に水洗除去することができるものであるから、コンロ用天板等の各種調理機器は勿論のこと、各種調理器具、熱機関等に対しても適用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の第1の実施形態の防汚性製品を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の防汚性製品を示す断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態の防汚性製品を示す断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態の防汚性製品を示す断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1 防汚性製品
2 基体
3 薄膜
3a 表層部
11 防汚性製品
12 薄膜
21 防汚性製品
22 薄膜
22a 表層部
31 防汚性製品
32 薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品であって、
前記薄膜は、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率は50質量%以下であり、かつ、前記リン(P)は前記薄膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする防汚性製品。
【請求項2】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上の温度にて熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめることを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項3】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、ケイ素(Si)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム(Zr)成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素(Si)成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する質量百分率が50質量%以下である塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項4】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品であって、
前記薄膜は、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)と、リン(P)とを含有し、かつ、前記リン(P)は前記薄膜の少なくとも表層部に分布してなることを特徴とする防汚性製品。
【請求項5】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理して薄膜とし、次いで、この薄膜の上にリン(P)成分を含む溶液または分散液を塗布して100℃以上の温度にて熱処理することにより前記リン(P)成分を前記薄膜に含有せしめることを特徴とする防汚性製品の製造方法。
【請求項6】
基体と、この基体の表面に形成された薄膜とを備えてなる防汚性製品の製造方法であって、
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム(Zr)成分と、リン(P)成分と、溶媒とを含む塗布液を、前記基体の表面に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を100℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする防汚性製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−83131(P2009−83131A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252352(P2007−252352)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】