説明

防腐剤組成物

【課題】人体に対する刺激が少なく、長期間防腐効果の持続する防腐剤組成物、並びに、当該防腐剤組成物を用いた香粧品及び洗浄用組成物を提供すること。
【解決手段】一般式(1)R−CH(OH)−CH2(OH) (1)(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物と、変性β−シクロデキストリンを配合することを特徴とする防腐剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間防腐効果の持続する防腐剤組成物、並びに、当該防腐剤を用いた香粧品及び洗浄用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ローション剤、乳剤、軟膏、化粧水、乳液、クリーム、シャンプー、リンス、ボディーソープ、ハンドソープ、口腔用洗浄剤等の香粧品、台所洗剤、レンジ周り用洗剤、衣類用洗剤等の洗浄剤組成物など、水を含有する剤型の製品においては、製造時および使用時における細菌、かび等の微生物の混入による変質を防止するため、また口腔、皮膚、頭髪の細菌、微生物を殺菌するために種々の防腐剤 または殺菌剤が使用されている。
【0003】
これらの製品に用いられる防腐剤および殺菌剤としては、例えば、イソプロピルメチルフェノール、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、ヒノキチオール等のフェノール類、安息香酸およびその塩、サリチル酸およびその塩、デヒドロ酢酸およびその塩、ソルビン酸およびその塩等の酸類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム等の第4級アンモニウム類、塩酸アルキルアミノエチルグリシン、塩化ステアリルヒドロキシエチルベタインナトリウム等の両性界面活性剤、ウンデシレン酸亜鉛、ビヒデン、ヨウ素等が挙げられる。これらの防腐剤を入れた製品は、あるものは効果に乏しく、またあるものは一定期間製品の腐敗等を防止するが、持続面で十分ではないという問題があった。
【0004】
そこで防腐剤の添加量を増やすことが考えられるが、例えば、パラオキシ安息香酸エステル等は、安全性の面から日本薬局方、化粧品原料基準、食品添加物公定書においてその配合量が規制されており、実際に有効な抗菌活性を示す量を配合できないことも多く、長期間効果を持続させるために配合量を増やすことはできない。また、増やしたとしても、効果の持続は期待できなかった。更に、例えば、塩化ベンザルコニウム等の4級アンモニウム塩は、配合量を増やすと刺激性が高くなるため、増やすことはできなかった。
【0005】
そこで、オクタンジオールに代表される、ジオール化合物を防腐剤として利用することが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらは人体に対する刺激性も少なく、配合量を規制されることもないが、疎水性が強いため、水を含有する剤型の製品においては、微量しか配合できないという問題があり、長期間効果を持続させることができなかった。
【0006】
また、シクロデキストリンを使用して、水に難溶な化合物を水溶液中に可溶化することも知られている(例えば、特許文献4参照)。しかし防腐効果を持つジオール化合物は、通常のシクロデキストリンで可溶化することはできなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平11−310506号公報
【特許文献2】特開2001−48781号公報
【特許文献3】特開2003−81761号公報
【特許文献4】特開昭56−139409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明が解決しようとする課題は、人体に対する刺激が少なく、長期間防腐効果の持続する防腐剤組成物、並びに、当該防腐剤組成物を用いた香粧品及び洗浄用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者等は、前記課題について鋭意検討し、長期間防腐効果の持続する防腐剤組成物を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、下記一般式(1)
【0010】
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物と、変性β−シクロデキストリンを配合することを特徴とする防腐剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果は、人体に対する刺激が少なく、長期間防腐効果の持続する防腐剤組成物、並びに、当該防腐剤を用いた香粧品及び洗浄用組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の防腐剤組成物は、下記一般式(1)で表される化合物と変性β−シクロデキストリンを含有するものである。
【0013】
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)
【0014】
一般式(1)のRは、炭素数4〜20のアルキル基を表し、例えば、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、ターシャリブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、ネオペンチル基、ターシャリペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基、ヘプチル基、2級ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、2級オクチル基、ノニル基、2級ノニル基、デシル基、2級デシル基、ウンデシル基、2級ウンデシル基、ドデシル基、2級ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、2級トリデシル基、テトラデシル基、2級テトラデシル基、ヘキサデシル基、2級ヘキサデシル基、ステアリル基、エイコシル基等が挙げられる。
【0015】
これらのアルキル基の中でも、炭素数4〜15が好ましく、炭素数6〜10がより好ましく、炭素数6〜8が更に好ましく、炭素数6が最も好ましい。炭素数が4より小さいと、防腐剤としての効果がなく、炭素数が20を超えると、分散させるのが困難になったり、製品に混合した後分離したりする。
【0016】
本発明に使用するもう一つの成分は変性β−シクロデキストリンである。シクロデキストリンとは環状のオリゴ糖であり、グルコースがα−1,4結合で環状に連なった化合物である。グルコースが6、7、8個環状に結合したものが、それぞれ、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンと呼ばれており、それ以上の大環状のシクロデキストリンも存在する。
【0017】
シクロデキストリンは、水に難溶な化合物を可溶化することが知られており、これを応用して化粧品や食品等に使用されている。しかし、一般式(1)で表される化合物は、通常のシクロデキストリンで可溶化することはできず、シクロデキストリンの中でも、β−シクロデキストリンを変性したものだけが可溶化できるという特異な性能を示す。
【0018】
本発明で使用する好ましい変性β−シクロデキストリンとは、β−シクロデキストリンにある水酸基を、アルキル基やヒドロキシアルキル基、アシル基等で変性したものである。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、第二ブチル基、第三ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。ヒドロキシアルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等が挙げられる。アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基やヒドロキシアルキル基で変性したものが好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基で変性したものがより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基で変性したものがさらに好ましい。
【0019】
シクロデキストリン類を形成するグルコースには水酸基が3つあり、全ての水酸基(21個)が変性されたもの(β−シクロデキストリンにはグルコースが7つあるので水酸基の数は21)を置換度3と呼び、グルコースあたり1つの水酸基が変性されたもの(β−シクロデキストリンにはグルコースが7つあるので、グルコースあたり1つの水酸基とは、β−シクロデキストリンあたり7つの水酸基に相当)を置換度1と呼ぶ。例えば、β−シクロデキストリンの4つの水酸基が変性したものは、4/7=0.57で置換度0.57となる。β−シクロデキストリンは変性されていればよいが、置換度は0.3〜2.0が好ましく、0.5〜2.0がより好ましく、0.8〜2.0が更に好ましい。置換度が0.3未満の時や2.0より大きい場合は、本発明の防腐剤組成物を水溶液中で使用した時、一般式(1)で表される化合物が分離して水溶液中に可溶化できない場合がある。
【0020】
一般式(1)で表される化合物と、変性β−シクロデキストリンは任意の割合で配合することができるが、一般式(1)で表される化合物1質量部に対して、変性β−シクロデキストリンの割合が3〜100質量部であることが好ましく、5〜50質量部であることがより好ましく、8〜30質量部であることが更に好ましい。一般式(1)で表される化合物1質量部に対して、変性β−シクロデキストリンの割合が3質量部未満であると、完全に可溶化できずに分離する場合があり、一般式(1)で表される化合物1モル部に対して、変性β−シクロデキストリンの割合が100質量部を超えると、防腐剤としての効果が小さくなる場合がある。
【0021】
一般式(1)で表されるジオール化合物と変性β−シクロデキストリンの混合方法は、特に限定されないが、変性β−シクロデキストリンを水に溶かした後で、ジオール化合物を混合する方法、ジオール化合物を水に分散させた後で、変性β−シクロデキストリンを混合する方法、極性溶剤に変性β−シクロデキストリンとジオール化合物を溶解させた後で、水へ添加する方法等が挙げられる。また、ジオール化合物と変性β−シクロデキストリン及び水との混合物から水を除去し、ジオール化合物と変性β−シクロデキストリンだけの混合物にしてもよい。これらは再び水を入れることにより、水を除去する前と同様の効果を持つ混合物となる。
【0022】
本発明の香粧品は、本発明の防腐剤組成物を配合した香粧品であり、香粧品とは、例えば、クリーム、乳液、化粧水、美容液等の基礎化粧品、石鹸、洗顔料、ボディーシャンプー、シャンプー、リンス、ヘアトニック、整髪料等のヘアケア製品、ファンデーション、アイライナー、マスカラ、口紅等のメイクアップ化粧品、うがい薬、歯磨き等の口腔製品等に適用することができる。
【0023】
係る香粧品に添加する本発明の防腐剤組成物の添加量は、0.001〜10質量%が好ましく、0.005〜5質量%がより好ましく、0.005〜1質量%が更に好ましく、0.01〜0.8質量%が最も好ましい。配合量が0.001質量%未満であると、防腐剤としての効果を発揮できず、10質量%を超えると配合量に見合う効果が得られず、配合した製品が分離する場合もある。
【0024】
また、本発明の洗浄剤組成物は、本発明の防腐剤組成物を配合した洗浄剤であり、洗浄剤としては、例えば、台所洗剤、レンジ周り用洗剤、衣類用洗剤、自動食器洗浄機用洗剤、ガラス用洗剤、家具用洗剤、トイレ用洗剤、浴室浴槽用洗剤、柔軟剤、リンス剤等に適用することができる。係る洗浄剤組成物に添加する本発明の防腐剤組成物の添加量は、0.001〜10質量%が好ましく、0.005〜5質量%がより好ましく、0.005〜1質量%が更に好ましく、0.01〜0.8質量%が最も好ましい。配合量が0.001質量%未満であると、防腐剤としての効果を発揮できず、10質量%を超えると配合量に見合う効果が得られず、配合した製品が分離する場合もある。
【0025】
本発明の香粧品及び洗浄剤組成物は、上記組成物の種類や剤型等に応じた公知の配合成分を用い、公知の方法により調製することができる。公知の配合成分としては、例えば、界面活性剤、油分、アルコール類、保湿剤類、増粘剤、キレート剤、アルカリ剤、pH調整剤、香料、色素、酸化防止剤、紫外線吸収剤、ビタミン類、アミノ酸類、水等を必要に応じて適宜配合することができる。また、本発明の香粧品及び洗浄剤組成物には、上記有効成分に加え、一般に用いられている抗菌剤や防腐剤、例えば、パラベン類等を本発明の効果を損なわない範囲で、あわせて配合することもできる。
【実施例】
【0026】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%及びppmは特に記載が無い限り質量基準である。
【0027】
<実施例1〜8、及び比較例1〜14>
【0028】
下記の配合量に従い、基準化粧水及び基準台所用洗剤を作成し、この基準化粧水と基準台所用洗剤に抗菌剤類やシクロデキストリン類を添加した。添加量及び混合状態は表1及び表3に示した。密閉した容器に入れたこれらの化粧水と台所用洗剤を、40℃の恒温槽に入れ、経時でこれらの化粧水及び台所用洗剤をサンプリングした。下記4種類の菌類を予め10レベルに調整した後、これら全てを同量ずつ混合し、この混合菌液0.27mlをマイクロプレートに入れ、サンプリングした試験溶液0.03mlを添加してよく撹拌した。この混合溶液を37℃で24時間培養し、培養終了後、マイクロプレートの濁度を測定し、被験菌の生育を阻止したかどうか判断し、結果を表2及び表4に記した。なお、使用した菌類及び試験化合物は以下の通りである。なお、菌類が育成したサンプルについてはその後の試験を中止した。
【0029】
(細菌類)
Escherichia coli ATCC14948 (大腸菌)
Pseudomonas aeruginosa IFO13736 (緑膿菌)
(真菌類)
Candida albicans (カンジタ菌)
Aspergillus niger (クロコウジカビ)
【0030】
<化合物>
A:オクタンジオール(R:炭素数6)
B:デカンジオール(R:炭素数8)
C:ドデカンジオール(R:炭素数10)
D:パラオキシ安息香酸メチル
【0031】
<シクロデキストリン類>
E:メチル変性β―シクロデキストリン(置換度:1.8)
F:ヒドロキシプロピル変性β―シクロデキストリン(置換度:0.7)
G:β―シクロデキストリン
H:メチル変性α―シクロデキストリン(置換度:1.8)
I:ヒドロキシプロピル変性γ―シクロデキストリン(置換度:0.7)
【0032】
<基準化粧水の配合量>
エタノール :5%
3−ブタンジオール :2%
グリセリン :5%
ポリオキシエチレン(50)硬化ひまし油 :0.3%
クエン酸ナトリウム :0.5%
コラーゲン :0.2%
精製水 :87%
【0033】
<基準台所用洗剤>
エタノール :5%
ラウリルエーテル硫酸ナトリウム :16%
ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド :5%
ポリオキシエチレン(8)ラウリルエーテル :3%
精製水 :71%
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
【表4】

【0038】
表1及び表3より、変性β−シクロデキストリン以外のシクロデキストリンでは、ジオール型の抗菌剤は可溶化できないことがわかる。また表2及び表4より、ジオール型の抗菌剤に変性β−シクロデキストリンを入れると、効果が長期に渡って持続することがわかる。また、現行の抗菌剤であるパラオキシ安息香酸メチルは、量を多く添加しても持続効果はそれほど伸びず、シクロデキストリン類を入れると、逆に持続効果がなくなってしまう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
R−CH(OH)−CH2(OH) (1)
(Rは炭素数4〜20のアルキル基を表す。)で表される化合物と、変性β−シクロデキストリンを配合することを特徴とする防腐剤組成物。
【請求項2】
変性β−シクロデキストリンの変性基が、メチル基、エチル基、プロピル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基からなる群より選ばれる1つ以上の基であることを特徴とする、請求項1に記載の防腐剤組成物。
【請求項3】
変性β−シクロデキストリンの置換度が0.3〜2.0であることを特徴とする、請求項1または2に記載の防腐剤組成物。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物のRが、炭素数6〜8のアルキル基であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の防腐剤組成物。
【請求項5】
一般式(1)で表される化合物1質量部に対して、変性β−シクロデキストリンの割合が、3〜100質量部であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の防腐剤組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された防腐剤組成物を0.001〜10質量%配合した香粧品。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載された防腐剤組成物を0.001〜10質量%配合した洗浄用組成物。

【公開番号】特開2006−193493(P2006−193493A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8927(P2005−8927)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】