説明

除振装置

【課題】小型で高さが低く、床振動を絶縁する、または機械振動等を床に伝えない簡便で安価な除振材を提供する。
【解決手段】複数の同径の穴を打ち抜いた可撓性・弾性シート1の穴にそれぞれコイルバネ2を貫通配置し、各コイルバネの軸方向両端側に、コイルバネの外径に対応する領域を連結部を残して囲み、その内側に領域に対応する島部を形成する互いに対向する一対のスリット3C、4Cを形成した一組の単位ゴム板3、4を配置し、一組の単位ゴム板の各島部でこれらの間にあるコイルバネを圧縮しつつ、スリットの外側の部分でゴムシートを挟みこれらを貫通するビスナット5又はリベットで一体に固定してなる除振ユニット100よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体製造検査装置、電子顕微鏡、空気圧縮機、真空ポンプ、プレス機械、ピアノ等の精密機器、産業機械、音響機器等を除振する除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
除振材として防振ゴム、コイルバネ、空気バネなどが使われているが、これらの除振材は機械を点支持する発想で設計されている。除振設計時点で機械質量、重心位置、加振力、床剛性、機械揺れ許容値、床振動許容値などの設計要因が把握しきれずに、一旦、仮の除振材を試用してその結果により、除振材の交換、据付位置の移動を行う場合がある。点支持であると除振材の交換、移動に手間を要する。また1支持点当りの支持質量が大きくなり平面寸法、高さが大きくなる。
【0003】
防振ゴムはもっとも多く使われている除振材である。小型軽量、安価であり振動減衰能もあり、使い易いが、バネ作用が硬く、除振性能に劣る。また支持質量の小さい質量領域においては防振ゴムが小型となり、低い固有振動数が得られない。
【0004】
以下、図22に示した系について除振材の除振作用を説明する。
図中のMaは支持する機械、Dは除振材、Floorは床を表している。支持する機械Maの振動周波数又は床Floorの振動周波数をf(Hz)、除振材の動バネ定数をk(N/M)、除振材のロスファクタをη、支持質量をm(kg)、衝撃応答振幅の初期値をz(M)とすると、系の固有振動数f(Hz)、振動伝達率Tr、衝撃応答振幅z(M)はそれぞれ式(1)、(2)、(3)で表される。但し括弧内のMはメートルである。
【数1】

【数2】

【数3】

【0005】
代表的なコイルバネ、防振ゴムの振動伝達率の周波数特性を図23に、また衝撃応答を図24に示す。これらの図において、aはコイルバネの特性、bは防振ゴムの特性である。
図23に示すように固有振動数が低いと除振対象となる周波数領域(例えば20〜40 Hz)での振動伝達率Trは小さくなり除振性能が良くなる。
【0006】
コイルバネと粘弾性体を組合せた様々な構造の除振装置が提案されているが(例えば特許文献1)、いずれも点支持構造のものである。点支持の場合、支持質量を大きくしようとすると大型となり、除振装置の高さが増大する。
【0007】
空気バネは圧縮空気の柔らかいバネ作用と空気の絞り効果による振動減衰能を持ち、除振性能に優れるが、構造上大型、高価となり汎用性に欠ける。
【0008】
コイルバネはバネ作用が柔らかく支持質量に関係なく低い固有振動数が得られて除振性能に優れているが、振動減衰能が小さい。減衰が小さいと図23のグラフのピーク値(共振倍率)は大きくなる。また、式(3)あるいは図24に示される衝撃応答振幅の収束が遅くなる。
【0009】
機械等を工場内に設置する場合、当然ながら除振材を含めた高さが工場内に収容可能でなければならない。加えて付属する配管、ダクト等も考慮すると、除振材の高さは低ければ低いほど望ましいのは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−324654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は小型で高さが低く、床振動を絶縁する、または機械振動等を床に伝えない簡便で安価な線支持又は面支持の除振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の実施態様は、複数の同径の穴を打ち抜いた可撓性・弾性シートの前記穴にそれぞれコイルバネを貫通配置し、各コイルバネの軸方向両端側に、前記コイルバネの外径に対応する領域を連結部を残して囲み、その内側に前記領域に対応する島部を形成する互いに対向する一対のスリットを形成した一組の単位ゴム板を配置し、前記一組の単位ゴム板の各島部でこれらの間にある前記コイルバネを圧縮しつつ前記スリットの外側の部分で前記ゴムシートを挟みこれらを貫通するビスナット又はリベットで一体に固定してなる除振ユニットよりなることを特徴としている。
なお、以下の説明において、本発明の除振装置の1個のコイルバネを一組の単位ゴム板で可撓性弾性シートに固定した単位を「除振ユニット」と称する。
【0013】
また本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において前記各コイルバネのバネ定数は3〜30N/mm、前記単位ゴム板の各島部のバネ定数は3〜35N/mmであり、前記コイルバネとこのコイルバネを挟む一対の島部の合成バネ定数は6〜65N/mmであり、除振ユニット1個のコイルバネの支持質量が40kg以下であることを特徴としている。
【0014】
本発明の第3の実施態様は、前記除振ユニットの単位ゴム板は円板状であり、円弧状のスリットが2本同心円上に互いに対向するように形成されていることを特徴としている。
【0015】
本発明の第4の実施態様は前記単位ゴム板が矩形状であり、コの字状のスリットが2本、矩形の相対する2辺に沿ってそれぞれ中心を挟んで対向して形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明の第5の実施態様は、複数の同寸法方形穴を打ち抜いた可撓性弾性シートの前記方形穴にそれぞれコイルバネを貫通配置し、各コイルバネの上下両端を、中央が前記コイルバネの外径に対応する円形の凹部を有する短冊状の単位ゴム板の前記凹部に係合させ、前記単位ゴム板を介して前記コイルバネを圧縮しつつ、前記単位ゴム板を前記可撓性弾性シートに当接させて、前記可撓性弾性シートの方形穴を挟む位置で、これらを貫通するビスナット又はリベットで一体に固定してなることを特徴としている。
【0017】
本発明の第6の実施態様は、第5の実施態様においてコイルバネを挟む1組の単位ゴム板の両端がビスナット又はリベットで一体に固定するのではなく、ゴム金型により単位ゴム板成型時に一体成型されるものであり、前記可撓性弾性シートには接着剤により一体化されたものであることを特徴としている。
【0018】
本発明の第7の実施態様は、第1ないし第6の実施態様のいずれかにおいて各除振ユニットのコイルバネの高さとコイルバネの中心径の比(コイルバネの高さ/コイルバネの中心径)が2以下であることを特徴としている。
【0019】
本発明の第8の実施態様は、第1ないしは第6の実施態様のいずれかにおいて各除振ユニットのコイルバネの固有振動数が4.5〜8.5Hzであることを特徴としている。
【0020】
本発明の第9の実施態様は、第1ないし第8の実施態様のいずれかにおいて各除振ユニットの高さは質量無負荷時にて50mm以下であることを特徴としている。
【0021】
本発明の第10の実施態様は、第1ないし第9の実施態様のいずれかにおいて円形もしくは方形穴が打ち抜かれた可撓性弾性シートに、除振ユニットを個々に分離するための裁断用の溝が付けられていることを特徴としている。
裁断用の溝は、格子状に形成され、コイルバネが貫通する穴は溝で囲まれた矩形の領域の中心に形成されることが望ましい。
可撓性弾性シートとしては、ゴムシートやプラスチックシートが例示される。
【発明の効果】
【0022】
本発明の除振装置は、コイルバネ主体の除振ユニットを集合した構造となっているため、支持質量が小さくとも防振ゴムと比べて小さい固有振動数が得られる。また、単位ゴム板の曲げ、せん断変形により振動減衰能が付加される。除振ユニット1個当たりの許容質量を抑制し、複数個の除振ユニットを集合した結果、高さの低い除振材が得られ、支持質量に応じて集合している除振シートを裁断して任意個数の除振ユニットを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態である除振装置の概略構造を示す図である。
【図2】図1におけるX−X線の矢印方向よりみた断面模式図である。
【図3】本発明の第1実施形態である除振装置の除振ユニットの概略構造を示す図である。
【図4】本発明の第1実施形態である図3の除振ユニットをY軸方向からみた側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態である図3の除振ユニットをX軸方向からみた側面図である
【図6】本発明の第1実施形態である除振装置を構成する除振ユニットの単位ゴム板の平面図である。
【図7】本発明の第1実施形態である除振装置を構成する除振ユニットの単位ゴム板の平面図である図6のB−B線方向からみた断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態である除振装置を構成する除振ユニットのコイルバネの側面図である。
【図9】本発明の第1実施形態である除振装置を構成するゴムシートの平面図である。
【図10】本発明の第1実施形態である除振装置を構成する除振ユニットの組み立て方法を示す図である。
【図11】本発明の第1実施形態の変形例である除振ユニットを構成する単位ゴム板の平面図である。
【図12】本発明の第1実施形態の変形例である除振ユニットを構成する単位ゴム板の平面図である図11のB−B線断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態である除振装置の除振ユニットの概略構造を示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態である除振装置の除振ユニットのY軸方向からみた概略構造を示す図である。
【図15】本発明の第3実施形態である除振装置の除振ユニットの概略構造を示す図である。
【図16】本発明の第3実施形態である除振装置の除振ユニットの概略構造を示す図である図15のB−B線断面図である。
【図17】本発明の除振ユニットの作用を説明する図である。
【図18】本発明の実施例と比較例の支持質量と固有振動数の関係を示す図である。
【図19】本発明の実施例と比較例の支持質量と高さの関係を示す図である。
【図20】本発明の実施例と比較例との振動伝達率の周波数特性を示す図である。
【図21】本発明の実施例と比較例との衝撃応答特性を示す図である。
【図22】除振を対象とするシステムを示す図である。
【図23】代表的なコイルバネ、防振ゴムの振動伝達率の周波数特性を示す図である。
【図24】代表的なコイルバネ、防振ゴムの衝撃応答の特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の除振装置を、除振対象となる機器の設置面積が1m×1m、機器の質量が1,000kgのシステムに適用する場合について説明する。この機器は、本発明が適用される除振対象としては最も重い部類に属するものである。
この実施の形態では、複数の除振ユニットを直列に配列させた除振装置が、除振対象機器の外周部分に沿って設置される。この除振装置の幅は5cmであり、除振ユニットの大きさは5cm×5cmである。設置対象の機器の外周の総長さは100cm×2+(100cm−5cm−5cm)×2=380cmであるが、偏重心に対応する除振ユニットの配置を10cmに1個ずつとして、この総長さの1/2だけに配置するとすれば190cmの周長が有効設置長となる。従って、190cm÷5cm=38個の除振ユニットが配置されることになる。機械質量が1,000kgであるから、1,000kg÷38個=26.3kg、すなわち、除振ユニット1個あたり26.3kgの質量支持容量があればよいことになる。余裕をみて1個の除振ユニットが40kgを最大の支持容量とする。
【0025】
1m×1mの床面積において、最も軽い部類に属する機器の質量は40kgである。この場合、機器の重心のバランス取りを考え、8点支持とすれば、40kg÷8個=5kg/個の支持質量となる。なお、除振ユニット1個あたりの支持質量の下限は2kg程度である。
【0026】
本発明の実施形態では、除振ユニットの支持質量を2〜40kg/個、固有振動数を6〜8Hz位に抑制することにより小型化を図ることができる。設置平面積は5cm×5cm、質量支持時の高さを40mm以下とすることが望ましい。固有振動数が4.5〜8.5Hzであれば機械、あるいは床の振動数15Hz以上の振動を除振できる。一般に問題となるのは周波数15Hz以上の振動であるから大半の振動問題はこの実施形態により解決することができる。ちなみに、防振ゴムでは支持質量40kg以下の場合、防振ゴムが小型になり、固有振動数8Hz以下とすることができない。
【0027】
また除振ユニットの支持質量を2〜40kgとして所定の高さ範囲で除振ユニットのバネ定数を求めると6〜65N/mmとなる。本発明では、コイルバネと単位ゴム板2枚で分担するので、コイルバネのバネ定数は3〜30N/mm、単位ゴム板のバネ定数は3〜35N/mmとなる。
【0028】
本発明の除振装置は、可撓性弾性シートを裁断して任意の複数の除振ユニットで構成することができるので、重心取り、質量見積もり誤差の修正が容易であるとともに質量支持時の高さを40mm以下とすることができ、除振対策が容易となる。除振効果を一層高めるには除振装置を2段重ねにすれば理論的に固有振動数が√2分の1と低くなる。
【0029】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施形態を詳細に説明する。
図1〜24において、同一の部位には共通の符号を付して重複する説明は省略する。
図1は、本発明の除振ユニット100が縦4個×横4個、合計16個集合した除振装置10の平面図、図2は、図1のX−X線断面図である。また図3は、各除振ユニットの平面図、図4は、図3のY軸方向から側面図、図5は、X軸方向からみた側面図である。
【0030】
これらの図に示した本発明の第1の実施形態は、複数の同径の穴(コイルバネの逃げ穴)1aを打ち抜いたゴムシート1と、ゴムシートの穴1a内にそれぞれ貫通するように伸縮方向をゴムシート1の面と直交させて配置された中心径/高さが2以下のコイルバネ2と、ゴムシート1の両面に、それぞれのコイルバネ2を挟んで配置された単位ゴム板3,4と、単位ゴム板3、ゴムシート1、単位ゴム板4を貫通して、これらを一体に固定するビスナット5から構成されている。
単位ゴム板3,4のゴムシート1の各穴1aに対応する位置には、コイルバネ2の外径に対応する領域を連結部3a,4aを残して囲み、内側に島部A3、A4を形成した一対のスリット3c、4cが形成されている。
単位ゴム板3,4は、コイルバネ2を押し縮めた状態で連結部3b、4bがゴムシート1に両面側から当接されビスナット5で固定されている。単位ゴム板3,4の連結部3b、4bはコイルバネ2の弾発力により引き伸ばされて、島部A3、A4は、図4,図5に示すように、ゴムシート1の面から離れた状態になっている。
次に、この実施形態の組立方法について説明する。
図6は、この実施形態に使用する単位ゴム板の平面図、図7はそのB−B線に沿う断面図、図8はコイルバネの側面図、図9はゴムシートの平面図、図10は組立図である。
【0031】
この実施形態では、図9に示すように、ゴムシート1に格子状に溝1bが形成され、溝1bで区画された矩形領域の中心にコイルバネ2が配置される複数の逃げ穴1aが形成され、各逃げ穴1aを挟んで一対のビスナット穴1dが形成されている。
また、図6,図7に示すように、単位ゴム板3,4には、それぞれ片面にコイルバネ受け用凹部3a,4aが形成され、その外側に連結部3b,4bを残して同心円上に円弧状のスリット3c,4cが形成されている。スリット3c,4cの中央部の外側にはゴムシート1のビスナット穴1cに対応するビスナット穴3d,4dが形成されている。
これらの単位ゴム板3,4とゴムシート1は図10に示すように単位ゴム板3、ゴムシート1、単位ゴム板4の順にビスナット穴を一致させて重ね、ビスナット穴3d,4dにビスナットを挿通させて、これらを一体に共締めする。
次に、単位ゴム板3,4のスリット3c,4cの内側部分(島部)を引伸ばしつつ持ち上げて、その中に、両端が凹部3a,4aに係合するようにして圧縮させたコイルバネ2を挿入する。
【0032】
このようにして組立てられた除振装置では、コイルバネ2は引張変形可能な単位ゴム板2枚の凹部3a、4aで嵌め合っているため着脱可能であり、分担する支持質量に合わせてバネ定数の合ったコイルバネを選択し、除振ユニット100を分解することなく着脱交換することができる。
【0033】
ゴムシート1により各除振ユニットが集合連結されている。ゴムシート1には裁断用の溝1bを設け、必要ユニット数に切り分ける際、容易に切り分けできるようにしてもよい。
【0034】
上述した防振ユニットでは単位ゴム板は円板状であるが、方形板である例を図11に示す(第1実施形態の変形例)。図11に示すように単位ゴム板(31、41)は方形(矩形状)であり、スリット31c(41c)はコの字状である。図11のB−B線より見た断面図を図12に示している。
【0035】
図13は第2の実施形態である除振装置を構成する除振ユニット101を示す平面図であり、図14はこの防振ユニット101のY軸方向の側面図である。この実施形態では、ゴムシート12に設けられたコイルバネの逃げ穴12aは矩形状であり、単位ゴム板は中央がコイルバネ収容用凹部32a(42a)を持つ短冊状である。この例では水平方向のX方向、Y方向に対して異なるバネ定数となる。Y方向はコイルバネの曲げ、せん断変形が主体であるが、X方向は単位ゴム板の変形にコイルバネの圧縮成分が含まれるためにY方向よりもバネ定数が大きくなる。
【0036】
バネ定数には静バネ定数、動バネ定数の2種類がある。弾性体をゆっくり加力した場合のバネ定数を静バネ定数、振動が作用した状態のバネ定数を動バネ定数という。動バネ定数を静バネ定数で除した比率を動倍率と言う。単位ゴム板を付加した場合に振動減衰能、すなわちロスファクタηが同一であれば動倍率が小さいほど小さい固有振動数が得られて除振効果が大きい。
【0037】
コイルバネにおいては式(1)のロスファクタはおおむねη=0.01以下であり、また、静バネ定数と動バネ定数はほぼ等しい、とみなすことができるので動倍率は1である。本発明においては単位ゴム板が圧縮変形ではなく曲げ、せん断変形であるために断面積に比較して長さ寸法が大きくできること、また、横弾性係数は縦弾性係数の約1/3であることから、単位ゴム板の静バネ定数は小さい値が得られる。また、曲げ、せん断変形は圧縮変形に比較して分子間の間隔変位が小さいため動倍率は小さく、したがって、小さい動バネ定数が得られる。
【0038】
式(1)の定数kdはコイルバネのバネ定数とゴム板のバネ定数の和である。前項に述べられているように動倍率1のコイルバネに付加される単位ゴム板の動バネ定数が小さいため式(1)の固有振動数の増大は少なく、式(2)の振動伝達率が小さくなる。また、本発明においては図17に示すように垂直方向に圧縮荷重Pが加わると除振ユニットの幅Dが拡幅して、ゴムシート3が引張変形し、更にゴムシートのバネ定数、振動減衰能が付加される。
【0039】
図15は図14の第2の実施形態である除振装置を構成する除振ユニットの単位ゴム板33、43が短冊状の両端の連結部33bで単位ゴム板成型時に一体成型されている構造である。単位ゴム板とゴムシート13との結合は接着面6で接着された構造であり、ビスナットまたはリベットを含まない。この場合も実施例2の場合と同様コイルバネの逃げ穴13aは矩形状である。
【0040】
除振ユニットの高さを40kgの最大支持質量を持つ実施例4について以下に示す。
HO=δST+Ha+δs+2t(mm)……………………………(4)
HO:除振ユニットの無負荷時の高さ mm
δST:静的たわみ
固有振動数を4.5〜8.5Hzに抑制して必要なδSTを、動的バネ定数が静バネ定数よりも硬くなることを考慮して最大支持質量40kg作用時にて15mmとした。
もし従来品のように固有振動数を3.5Hzとする場合、δST 40〜60mm必要である。
Ha :コイルバネの密着高さ(40 kgのときHa=17.6mm)
δs :コイルバネが15mm撓んだ時、密着しないための余裕(5mm)。
t :コイルバネが挿入されている単位ゴム板の厚さ(3.5mm)。
HO=15mm+17.6mm+5mm+7mm=44.6mm
40kg作用時の高さHは
H=44.6mm−15mm=29.6mm
実施例1、2、3はコイルバネの線径が細くて密着高さが低いことなどから、最大支持質量5kg、10kg、20kgにおける高さは22mmとなる。
【0041】
除振ユニットすなわち単位ゴム板付きコイルバネはゴムシートにより複数個集合されている。一般に機械の据付においては、機械下の除振材据付部は高さの制限はあるが平面的には余裕があり、広い面支持が可能である。シートをT形、L形、長方形などに裁断してコイルバネが均等にたわむように配列すれば、除振材のレベル調整機構が不要となる。均等なたわみが得られる結果、使用するコイルバネ個数を最小限にして最大のたわみを得ることが出来る。この結果、最小の固有振動数が得られて良好な除振性能が得られる。
【実施例】
【0042】
図1の構造を持つ除振ユニットの許容支持質量5kg(実施例1)、10kg(実施例2)、20kg(実施例3)、40kg(実施例4)の除振ユニットに、許容値の50%〜100%までを負荷した場合の固有振動数を太い実線で図18に示す。実施例1が符号番号a、実施例2が符号番号b、実施例3が符号番号c、実施例4が符号番号dである。単位ゴム板の材質は高減衰合成ゴムである。実施例5は実施例3の高減衰ゴムを天然ゴムに置き換えたものである。(符号番号:e)。実施例5では減衰能は小さく共振倍率は28dB、η=0.04であるが、動倍率は小さいため10kgの支持質量で6.5Hz、20kgで4.8Hzの低固有振動数が得られている。
【0043】
高減衰ゴムの実施例1〜4の場合、平均的にほぼ6.0 Hz(許容支持質量の100%)〜8Hz(許容支持質量の50%)の結果が得られた。これは防振ゴムの約1/2の固有振動数、すなわち、防振ゴムの1/4の動バネ定数に相当する。また各除振ユニットの支持質量が80%のときの高さを図19に示す。図19においても各実施例に対応する符号番号は同じである。
【0044】
実施例1〜4の固有振動数を平均的に7Hz、ロスファクタηを0.18とみなした場合の振動伝達率の周波数特性を符号番号cとして図20に、衝撃応答の波形を図21に示す。
【比較例】
【0045】
比較例として小型除振ゴム(比較例1)φ15×17.8、φ20×21.4、φ30×29.6、の平均的固有振動数を12Hz、ロスファクタηを0.1、および、普及型コイルバネ(比較例2)の固有振動数を4.5Hz、ロスファクタηを0.01と見なした場合の振動伝達率の周波数特性を図20(小型除振ゴム符号番号b、普及型コイルバネ符号番号a)に、衝撃応答の波形を図21にあわせて示す。
【0046】
図20、図21に示されるように実施例1〜4の最大支持質量40kg以下において、防振ゴムと普及型コイルバネの中間の固有振動数を持つものが測定された。実施例1の単位ゴム板は図1の円形であるがその断面寸法は幅7.5mm、厚さ3.7mm、円弧長さ15mmである。コイルバネのバネ定数は3.23N/mm、単位ゴム板のバネ定数は支持質量により変化し3.89〜5.10N/mm、合計バネ定数は7.12〜8.33N/mmであった。固有振動数は6.5〜8.5Hz、動倍率2.5倍、共振倍率は平均的に12 dB(ロスファクタη=0.25)の測定結果が得られた。
【0047】
実施例2においてはゴム板の幅は7.5mm、厚さ4.0mm、円弧長さ15mm。コイルバネのバネ定数は6.90N/mm、ゴム板のバネ定数は5.72〜7.29N/mm、合計バネ定数は12.62〜14.19N/mmであった。固有振動数8〜6Hz、動倍率1.8〜2.0倍、共振倍率は平均的に13 dB(η=0.22) の測定結果が得られた。
【0048】
実地例3においては単位ゴム板の幅は7.5mm、厚さ5.0mm、円弧長さ15mm。コイルバネのバネ定数は14.20N/mm、単位ゴム板のバネ定数は7.98〜14.19N/mm、合計バネ定数は22.18〜28.39N/mmであった。固有振動数6〜7.5Hz、動倍率1.5〜2.0倍、共振倍率は平均的に15〜17dB(η=0.14〜0.17) の測定結果が得られた。
【0049】
実施例4においては単位ゴム板の幅は7.5mm、厚さ6.0mm、円弧長さ18mm。コイルバネのバネ定数は25.6N/mm、単位ゴム板のバネ定数は24.46〜27.46N/mm、合計バネ定数は50.48〜53.06N/mmであった。固有振動数5.8〜8Hz、動倍率は1.7〜1.8倍、共振倍率は平均的に18dB(η=0.12)が得られた。除振ユニットの1個の大きさは許容支持質量が5〜20kgにて外径Φ42、組立時高さ36mm、許容負荷支持時の高さ22mm、許容支持質量40kgにて外径Φ48mm、組立時高さ44.6mm、許容支持質量時の高さ29.6mmである。高減衰の除振装置は往復動圧縮機、振動コンベヤー、プレス機械、液晶検査装置などに好んで使われる。
【0050】
他方、送風機、ポンプなどの回転機械は衝撃力がなく、高減衰板バネを適用する必要がない。天然ゴムのように低減衰で動的倍率の小さいものとし、低固有振動数を得て振動伝達率を小さく出来る。すでに説明したように図18に許容支持質量20kgについて天然ゴムを使用した場合の固有振動数を太線の破線で示す。高減衰ゴムに対して固有振動数が約20%低減している。
【0051】
コイルバネの高さhと中心径dの比率(h/d)を2以下とし機械支持時の安定性を確保してある。2段重ねしても除振材の座屈は無く安定的に機械を支持できる。2段重ねすれば固有振動数が4.2〜5.6Hzとなり機械、床の振動数7〜10Hzの振動が除振できる。
【符号の説明】
【0052】
1、12、13……ゴムシート
1a、12a、13a……コイルバネ用逃げ穴
1b、12b、13b……ゴムシート裁断の案内溝
2……コイルバネ
3、31、32、33、4、41、42……単位ゴム板
3a、31a、32a、33a、4a、41a、42a……コイルバネ受け用凹部
3b、31b、32b、33b……連結部
3c、31c、4c、41c……スリット
3d、31d、4d、41d……ビスナット用穴
5……ビスナット
6……接着面
10……除振装置
100、101、102……除振ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の同径の穴を打ち抜いた可撓性弾性シートの前記穴にそれぞれコイルバネを貫通配置し、各コイルバネの軸方向両端側に、前記コイルバネの外径に対応する領域を連結部を残して囲みその内側に前記領域に対応する島部を形成する互いに対向する一対のスリットを形成した1組の単位ゴム板を、それぞれ配置し、前記一組の単位ゴム板の各島部でこれらの間にある前記コイルバネを圧縮しつつ前記スリットの外側の部分で前記可撓性弾性シートを挟みこれらを貫通するビスナット又はリベットで一体に固定してなる除振ユニットよりなることを特徴とする除振装置。
【請求項2】
前記各コイルバネのバネ定数が3.0〜30N/mm、前記単位ゴム板の各島部のバネ定数が3.0〜35N/mm前記コイルバネとこのコイルバネを挟む一対の島部の合成バネ定数は6.0〜65N/mmである除振装置であり、コイルバネ1個を含む除振ユニット1個のコイルバネの支持質量が2〜40kg以下であることを特徴とする請求項1記載の除振装置。
【請求項3】
前記除振ユニットの単位ゴム板が円板状であり、円弧のスリットが2本施されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の除振装置。
【請求項4】
前記単位ゴム板が矩形状であり、コの字状のスリットが矩形の島部を形成するように島部の中心に対して対向して2本施されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の除振装置。
【請求項5】
複数の同寸法方形穴を打ち抜いた可撓性弾性シートの前記方形穴にそれぞれコイルバネを貫通配置し、各コイルバネの上下両端を、中央が前記コイルバネの外径に対応する円形の凹部を有する短冊状の単位ゴム板に前記凹部に係合させ、前記単位ゴム板を介して前記コイルバネを圧縮しつつ、前記単位ゴム板を前記可撓性弾性シートに当接させ、前記可撓性弾性シートの方形穴を挟む位置で、これらを貫通するビスナット又はリベットで一体に固定してなることを特徴とする除振装置。
【請求項6】
前記単位ゴム板がビスナット又はリベットで一体に固定するのではなく、ゴム金型による単位ゴム板成型時に一体成型され、前記可撓性弾性シートには接着剤により一体化されたものであることを特徴とする請求項5記載の除振装置。
【請求項7】
前記コイルバネの高さとコイルバネの中心径の比(コイルバネの高さ/コイルバネの中心径)が2以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6記載の除振装置。
【請求項8】
前記コイルバネの固有振動数が4.5〜8.5Hzであることを特徴とする請求項1ないし請求項7記載の除振装置。
【請求項9】
前記コイルバネの位置する部位の高さは50mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8記載の除振装置。
【請求項10】
円形もしくは方形穴が打ち抜かれた前記可撓性弾性シートに裁断用の溝が付けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項9記載の除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−62982(P2012−62982A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208799(P2010−208799)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(510250700)
【Fターム(参考)】