説明

除氷及び伝熱液組成物、並びに使用方法

除氷のための、又は伝熱液の調製のための組成物を提供する。前記組成物は、ジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩を含めた、2以下のt/c比を有する少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物であって、上記ジカルボン酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量でその中に存在している上記混合物を含んでなる。より特に、前記混合物は、コハク酸塩とギ酸塩を含んでいて、ここで、上記コハク酸塩は乾燥重量を基準に少なくとも50wt%の量で存在している。同様に、表面の除氷のための、又は表面上への氷、雪、若しくはその混合物の堆積を予防するための方法であって、氷、雪、若しくはその混合物で覆われたか、又は氷、雪、若しくはその混合物で覆われやすい表面上に前記組成物を適用するステップ含んでなる上記方法も提供する。前記組成物はまた、冷却システムを備えた、伝熱液を含んでなる伝熱システムに使用される伝熱液冷却剤の調製に有用でもある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、並びに家庭用及び業務用の除氷用途のため又は伝熱液の調製のためなどの様々な用途においてそれを使用する方法に関する。本発明はまた、そうして得られた伝熱液の使用にも関する。任意に、本発明は、カルボン酸の塩を含む発酵ブロスから少なくとも一部を得ることもできる組成物を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
化学的除氷は、冬季の間、歩道、道路、高速道路、及び空港においてより安全な状況を維持するために日常的に使用される。現在、そういった除氷用途に使用される物質及び組成物が数多く存在する。しかしながら、それらの腐食性や環境に与えるそれらの影響を含めて多くの難点が、現在使用されている物質には存在する。
【0003】
カリウム塩などの酢酸塩及びギ酸塩の両者が、空港の滑走路除氷用途に現在使用されている1、2。しかしながら、例えば多くの空港において、前述の酢酸カリウム及びギ酸カリウムを含めた現在の滑走路除氷製品が、滑走路と支持基礎構造の保全に対して重大な脅威をもたらす形跡がある。空港の管理者は、これらの化学薬品が滑走路の保全にどのように影響するかについて、今まで以上に注意を払うことが多くなっている。かかる化学物質よって引き起こされるいずれかの構造的な崩壊は、顧客離れにつながる可能性があり、そしてより重要なことには、重大な安全性の問題を引き起こす恐れがある。航空当局は、腐食、炭素ブレーキの酸化、及びコンクリートの剥離(concrete scaling)の低減が実証された滑走路除氷製品が、強固な市場ポジショニングに値するであろうと考えている。
【0004】
さらに、さまざまな産業及び自動車向けの用途に、そしてより一般的には、水によって提供される温度範囲を超えた稼動温度範囲が所望される場合に、除氷液のそれと同様の特徴を有する組成物が伝熱液として使用される。例えば、そのような組成物は、自動車エンジンの分野で利用される場合には、凍結防止剤又は冷却剤の別名で知られている伝熱液組成物として使用される。自動車では、伝熱液は、オーバーヒートと腐食からエンジンを保護するために使用される。しかしながら、当然、自動車で使用される伝熱液は、寒冷気候での自動車の稼動を可能にする凍結防止液である。
【0005】
耐霜及び防食冷却剤組成物の例は、US5,104,562に開示されている。その組成物は、酢酸カリウムとギ酸カリウムを含んでいて、さらに尿素とエチレングリコールを含んでいてもよい。US6,689,289B1では、モノカルボン酸塩の組成物が、伝熱液中で氷点降下剤及び腐食防止剤として使用されている。より具体的には、これらの組成物は、C3−C5カルボン酸塩(例えばプロピオン酸ナトリウム)と組み合わせたC1−C2カルボン酸塩(例えばギ酸カリウム)の水溶液を含んでなる。よって、この文書の見解から、当業者は、3以上のt/c比を有するカルボン酸塩と、2又は1のt/c比を有するカルボン酸塩を組み合わせるとき、相乗効果があることを理解している。t/c比とは、分子中の総炭素原子対カルボン酸塩炭素の比を意味し、(t/c比)は、通常、重要な留意事項である。例えば、酢酸塩は、1つのカルボン酸塩炭素を含めた2つの炭素原子を持つ(t/c比が2)。ギ酸塩は、1つのカルボン酸塩炭素原子を持つので、1つの総炭素を持つ(t/c比が1)。プロピオン酸は、1つのカルボン酸塩を持つので、3つの総炭素を持つ(t/c比が3)。同様に、C6−C12カルボン酸塩を加えてもよい(例えばヘプタン酸ナトリウム)。
【0006】
しかしながら、現在使用されている冷却剤の製剤処方は、腐食作用と発泡を最小限にするために水、グリコール、及び少量の添加物から成る。伝熱液用途で最も一般的なグリコールは、市場空間の98%を占めるエチレングリコールである。
【0007】
人又はペットが飲み込んだ場合、比較的少量のエチレングリコールで重度の健康障害又は死を引き起こす可能性がある。成人致死量は、テーブルスプーン7杯より少ない3。小児は、テーブルスプーン2杯程度の少量の経口摂取で深刻な傷害を受ける可能性がある。健康影響は、軽い皮膚炎症から昏眠、呼吸機能不全、そして死亡にまで及ぶ。5lb(約2kg)のネコの致死量は、ティースプーン1杯である4。22lb(約10kg)のイヌの致死量は、1.5〜2オンス(約43〜57g)である。
【0008】
米国中毒情報センター協会(AAPCC)は、合衆国各地の64の毒物センターから中毒事件情報を収集している。2003年のAAPCCの年次報告では、自動車、航空機、及びボート製品のカテゴリにおいて、5081人のエチレングリコールによる中毒が報告されており、それらの事件のうちの11%が6歳未満の小児において報告され、そして死に至った16ケースを含んでいた5
【0009】
ASPCAの国立動物中毒情報センター(National Animal Poison Control Center)には、2.5年間で、16%の死亡を含めた510のペットの凍結防止剤中毒の報告があった。事件の大多数は未報告である。AAPCCによると、おおまかにみて、ペット及び野生生物の間で毎年10,000件の凍結防止剤関連の死亡があると推定されている。ほとんどのペットの中毒が、故障したラジエータのために車庫の中で起こる。
【0010】
空港の除氷用途に使用されるものを含めた除氷剤が、周囲の環境に施される。同様に、約39%の冷却剤が、例えば土壌、公共の排水及び下水設備、又は開水面などに不適切に処分される6。環境内へのこれらの直接放出は、ヒト、動物、及び生態系に対して潜在的曝露経路となる。除氷及び伝熱用途に使用されるエチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール類は、放流水面に対して高い生物学的酸素要求量(BOD)をもたらすので、水生種に害を及ぼす可能性がある。生物学的酸素要求量(BOD)は、好気性条件下で成長する細菌による生物学的酸化のために必要とされる酸素量である。グリコール類の代替物が、空港除氷用途のために商品化された。しかしながら、自動車の凍結防止‐冷却剤市場を対象にするものを含めた伝熱液産業には、環境に優しく、費用競争力のある、検討可能なグリコール類の代替物がなかった。
【0011】
コハク酸の水性塩溶液もまた、除氷及び伝熱特性を有することが立証された7、8、9、10。しかしながら、そのようなコハク酸塩ベースの液体は、石油化学原料からの高い製造コストが原因で実用されていない。生体触媒による工程、例えば基質として発酵性糖を使用するものなどが、伝統的な石油化学工程に対する経済的、且つ、環境に配慮した代替手段と考えられている。より特に、廃棄物とみなされるものを含めた低価値の炭水化物の変換を伴った前述の工程は、関心が高いものである。例えば、プロピオン酸及び酢酸カルシウム・マグネシウム・ベースの道路除氷剤は、発酵工程を使用することで製造される11
【0012】
嫌気条件下の微生物、例えばE.コリ(E.coli)などは、発酵性ブロスからカルボン酸の混合物を産生する12、13。カルボン酸としては、コハク酸、酢酸、及びギ酸が挙げられる。すべて商業的に実施可能である、文献に記載のコハク酸塩産生微生物は、微生物を殺滅又は抑制するほどpHが酸性又はアルカリ性になり過ぎないことを確実にするための発酵ブロスの中和を必要とする。発酵ブロスの中和は、コハク酸とその他の残りのカルボン酸、例えば酢酸やギ酸などの塩の産生につながる。
【0013】
酢酸塩、ギ酸塩及びコハク酸塩のそれぞれは、対象の使用分野において正、負、又は中間的な寄与特徴を有する。例えば、ギ酸塩が非常に腐食性である一方で、コハク酸塩には腐食防止特性が実証され、そして酢酸塩を中間的と見なすことができる。ギ酸塩の生物学的酸素要求量(BOD)は比較的低く、一方で、コハク酸塩と酢酸塩のBODはギ酸塩のそれより高い。除氷及び伝熱液用途に使用されるグリコール類との比較では、すべてのカルボン酸塩が、より低いBOD効果を有し、且つ、より生分解性である。
【0014】
図1及び2に提示したデータは、酢酸塩及びギ酸塩と比較したコハク酸カリウムの害の無い性質を実証している。重クロム酸塩によって処理されたマグネシウムは、航空機の構造体に使用される合金であり、ギ酸カリウムの存在下での腐食に非常に影響を受けやすい。酢酸塩の影響は顕著であるが、その一方で、コハク酸塩のそれは実質的により低い。同様の傾向が、コンクリートに対するギ酸塩、酢酸塩、及びコハク酸塩の影響を比較した際に観察された。ギ酸塩によるコンクリートの浸食はかなりのものであると同時に、酢酸塩によるそれは顕著である。コハク酸塩の影響はごくわずかであり、水のそれと同程度である。
【0015】
あらゆる添加物、例えば腐食防止剤などを含まない、コハク酸カリウム及び酢酸カリウム・ベースの伝熱液の腐食特性を試験し、そして自動車部品店から購入した従来のエチレングリコール(EG)冷却剤製剤と比較した。使用した試験方法は;「Standard Test Method for Corrosion Test for Engine Coolants in Glassware」ASTM Designation: D 1384-01であった。その試験を、2週間、腐食を加速するための通気下、70℃にて行う。2週間後に、金属を掃除し、そして計量して腐食による重量損失を記録する。結果を図3に示す。
【0016】
カルボン酸塩ベースの伝熱液の腐食特徴は、はんだ試料を除いて市販のEG冷却剤のそれと基本的に同一である。試験したカルボン酸塩冷却剤と異なって、市販の冷却剤は、腐食を最小限にするために腐食防止剤を補っている。自動車エンジン冷却剤を含めた見込みのある市販のカルボン酸塩伝熱液に腐食防止剤や他のタイプの防止剤を補ってもよいと予測される。
【0017】
環境中でより残留性がある化合物は、環境受容体(植物及び水生生物形態)への曝露の機会が増加する。化学的酸化及び生物分解の間の化合物の酸素必要量は、環境中のその化学物質の残留性の目安である。化学的酸素要求量(COD)は、強酸化剤を使用することで測定される、水中で化合物の化学的酸化に必要とされる酸素量である。BODは、好気性条件下で成長する細菌による生物学的酸化のために必要とされる酸素量である。BOD対CODの比は、化合物が容易に生分解可能であるかどうかを評価するために使用できる。BOD5がCODのパーセンテージとして表されるとき、<1%のCODであるところのBOD5は、比較的に非生分解性の化合物を示し、そして>10%のCODであるところのBOD5は、比較的に分解性の化合物を示す(添字の「5」は5日間の試験を意味する)。除氷及び伝熱液に使用した対象のカルボン酸塩とグリコール類の生物分解能を、表1に示す。
【0018】
表1:水中、50%(wt.)濃度の滑走路除氷液(RDF)と伝熱液の環境特性
【表1】

【0019】
明らかに、ギ酸カリウムのBOD5は、酢酸塩及びコハク酸塩の両方のそれと比べて有意に低い。しかしながら、グリコール類のBOD5値は、すべてのカルボン酸塩のそれと比べて実質的に高い。そのため、除氷及び伝熱用途に使用されるグリコール類、例えばエチレングリコールやプロピレングリコールなどは、放流水面に対して高いBOD影響を及ぼし、そういったものとして環境に対して有害である可能性もある。
【0020】
BOD:CODの比として計測されるギ酸カリウムの生物分解能は、5日間で100%であり、それは、環境中の細菌による分解の容易さの表れである、したがって、その製剤は環境中への残留性が低いであろうことの表れである。コハク酸塩と酢酸塩の両方もまた、非常に生分解性であるので、環境に残留するであろう成分とは見なされない。両方のグリコールもまた、易生分解性である。
【0021】
除氷化学物質は、一般に、より低い氷点を有する水溶液を形成するそれらの傾向によって氷を溶かす。溶かされた又は溶けている氷/雪は、機械的装置を使用することで舗装道路から取り除かれる。同様に、伝熱液化学物質は、より低い氷点と、より高い沸点を有する水溶液を形成し、事実上、温度に関して稼動範囲を拡大するそれらの傾向によって機能する。そのため、これらの液体の氷点は、性能に関して妥当な目安である。
【0022】
氷点の比較を表2に提示する。すべての液体がかなり近い氷点を有するが、酢酸カリウムは、そのより低い氷点のおかげで明らかに優位である。
【0023】
表2:水中、25%(wt.)濃度の滑走路除氷液(RDF)及び伝熱液の氷点。
【表2】

【0024】
明らかに、3種類のカルボン酸塩のそれぞれには、滑走路除氷及び伝熱液用途の両方に魅力的である目立った特徴がある。コハク酸カリウムは、群を抜いて、腐食作用と構造劣化に関して最も害の無い除氷剤である。酢酸カリウムは、その特徴的な低い氷点によって最高の性能の除氷剤及び伝熱液として際立っている。最終的に、最も低いBODを有するギ酸カリウムが、最も生態学的に理にかなった構成要素である。しかしながら、別々に使用されたカルボン酸塩のいずれも、明確な総合的な利点を実証していない。
【0025】
よって、性能と、低減された腐食作用及び汚染特性の間に良好なバランスを提供する(固形又は液状の)除氷組成物及び伝熱液組成物がまだ必要とされている。
【0026】
寒冷地域の道路や滑走路などのさまざまな表面を除氷するのに有用である低い腐食作用と低いBODを有する(固形又は液状の)除氷組成物が必要とされ、並びに低いBOD効果を有する伝熱液組成物が必要とされている。
【0027】
特に空港において、市販の除氷剤としての使用に関して経済的に魅力的であるバイオベース(biobased)カルボン酸塩の除氷組成物を提供することもまた、必要とされている。同様の必要性は、市販の伝熱液としての使用に関して経済的に魅力的であるバイオベース・カルボン酸塩にも存在している。
【0028】
本発明者は、ジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩を含めた、2以下のt/c比を有する少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物であって、上述のジカルボン酸塩が乾燥重量を基準に混合物の少なくとも50wt%の量でその中に存在している上記混合物が、その混合物の水溶液の氷点を相乗的に下げることを、思いがけず発見した。ジカルボン酸塩(例えばコハク酸塩)が、モノカルボン酸塩(例えばギ酸塩及び/又は酢酸塩)と相乗効果を示すであろうことは、当業者が予測していないことに留意のこと(上述のジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩の両方が2以下のt/c比を有する)。よって、2以下のt/c比を有する低いモノカルボン酸塩との相乗効果を得るために、より高いt/c比を有するカルボン酸塩は必要ではない。
【0029】
より特に、本発明者は、コハク酸塩とギ酸塩を含むカルボン酸塩の混合物(ここで、上述のコハク酸塩は上述の混合物の少なくとも50wt%の量で存在している)が、かかる組成物を提供することを思いがけず発見した。
【0030】
任意に、好ましい実施形態に従って、前述の組成物は、(農業や林業の廃棄物又は副産物を含めた)安価な炭水化物を利用した発酵工程から少なくとも一部を得ることもできる。かかる組成物の更なる利点は、それが発酵ブロスから直接作ることができ、その間ずっと、農業や林業の廃棄物又は副産物を処分するためのコストを大幅に削減するか又はなくす点であり、それが合成製剤の製造に関するコストを大幅に削減する。
【発明の概要】
【0031】
本発明の様々な実施形態の説明
本発明は独特で思いがけない特徴を有し、様々な用途、例えば除氷又は伝熱などに有用な、そして腐食及び環境に関して有益である新しい組成物を提供する。かかる組成物は、除氷又は伝熱液として有用である可能性もある。
【0032】
1つの実施形態によると、本発明は、除氷のための組成物又は伝熱液の調製に関し、ここで、上述の組成物は、ジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩を含めた、2以下のt/c比を有する少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物であって、上述のジカルボン酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量でその中に存在している上記混合物を含んでなる。
【0033】
特に好ましい実施形態によると、本発明は、除氷のための組成物、又は伝熱液の調製に関し、ここで、上述の組成物は、ギ酸塩とコハク酸塩を含む少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物であって、上述のコハク酸塩は乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量でその中に存在している上記混合物を含んでなる。
【0034】
他の実施形態によると、前述の混合物は、少なくとも1種類の炭水化物源と、少なくとも1種類のカルボン酸産生微生物を含んでなる発酵ブロスから少なくとも一部を得てもよい。有利なことには、カルボン酸の塩の混合物は、窒素源と少なくとも1種類のカルボン酸産生微生物の存在下、炭水化物源(糖)の発酵によって少なくとも一部が得られた。任意に、カルボン酸塩の量を、混合物中又は液体組成物中の失われた部分のカルボン酸塩の単なる添加そして混合によって前述の割合を満足させるように調整してもよい。
【0035】
好ましい実施形態によると、先に触れたカルボン酸産生微生物は、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)(ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flafum)とも呼ばれる)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、ベイヨネラ・パルビュラ(Veillonella parvula)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、マンヘイミア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)、アナエロビオスピリルム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)、パエシロミセス・バリオッティ(Paecilomyces varioti)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ルミニコラ(Bacteroides ruminicola)、バクテロイデス・アミノフィルス(Bacteroides amylophilus)、又はその混合物であってもよい。特に好ましい実施形態によると、カルボン酸産生微生物はE.コリである。
【0036】
別の好ましい実施形態によると、本発明の組成物を調製するのに使用される発酵性ブロス中に存在している炭水化物源は、六炭糖、五炭糖又はその混合物を含んでなる。微生物の存在下での発酵により、これらの六炭糖、五炭糖、又はその混合物がカルボン酸塩をもたらす。例えば、発酵は、米国特許番号第6,743,610B2号で開示されたプロトコールに従って行われる。より好ましくは、先に触れた炭水化物源は、六炭糖、五炭糖又はその混合物を含んでなる。
【0037】
別の好ましい実施形態によると、前記混合物は、追加のカルボン酸塩又は異化有機酸をさらに含んでいてもよい。前述の追加のカルボン酸塩の限定されることのない例は、酢酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、又はプロピオン酸のカルボン酸塩であってもよい。より好ましくは、前述の追加のカルボン酸塩は、酢酸塩であってもよい。
【0038】
別の好ましい実施形態によると、本発明の組成物中に存在しているカルボン酸の塩は、例えば、コハク酸、酢酸、ギ酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、プロピオン酸、若しくは他の異化有機酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、及び/又はマグネシウム塩である。より好ましくは、前述のカルボン酸塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、又はその混合物であってもよい。
【0039】
特に好ましい実施形態によると、先に触れたカルボン酸塩の混合物は、コハク酸カリウム、ギ酸カリウム及び酢酸カリウムを含んでいてもよい。
【0040】
他の態様において、発酵ブロスは、濃縮前に、最高で約200g/Lのカルボン酸のいずれかの塩を含んでなる。注目されるのは、所望のカルボン酸塩濃度を得るために、留去によってブロスを濃縮してもよい点である。そのうえ、混合カルボン酸塩発酵ブロスを、例えば色を薄くするためなどの精製のためにさらに処理してもよい。また、バイオマス及び他の混入物を取り除くために、発酵ブロスを処理してもよい。
【0041】
さらなる態様において、強化された特性を最終的な組成物に与えるように、本発明の組成物中存在しているカルボン酸塩の量を調整してもよい。その調整は、発酵ブロスを濃縮することによって、及び/又は少なくとも1種類のカルボン酸塩のさらなる追加によって行ってもよい。組成物のBOD値を低げるために、例えば、ギ酸カリウムを、発酵ブロスにさらに加えるか、又は濃縮し、その結果、環境保護の見地から組成物をより魅力的にすることができる。組成物中のギ酸カリウムのパーセンテージは、BODを上げるために、<50wt%であるだろう(上記パーセンテージは、乾燥重量を基準に、混合物の総重量のうちの重量で表される)。任意に、その氷点を下げ、そして性能を高めるために、酢酸カリウム又はギ酸カリウムを、発酵ブロスに加えるか又は濃縮することができる。組成物中の酢酸カリウム又はギ酸カリウムの最適なパーセンテージは、その氷点を下げるために、乾燥重量を基準に、それぞれ、<50wt%であるだろう。さらに、組成物によって引き起こされる構造破壊、例えば腐食、コンクリートの浸食、及び炭素ブレーキの酸化などを軽減するために、コハク酸カリウムを発酵ブロスに加えるか又は濃縮してもよい。組成物中のコハク酸カリウムの最適なパーセンテージは、約65wt%であるだろう。そのため、本発明は、所望の特性を有する除氷又は伝熱液組成物を得るように、それぞれのカルボン酸塩の量を調整してもよい多用途の組成物を有利に提供する。また、組成物の最終的な性質は、それぞれのカルボン酸塩の量のバランスをとることによって調整してもよい。
【0042】
他の実施形態によると、組成物は、乾燥重量を基準に、パーセンテージの合計が混合物の100wt%であることを考慮して、以下の:
コハク酸カリウム 50〜90wt%、好ましくは60〜80wt%;
ギ酸カリウム 10〜50wt%、好ましくは10〜20wt%;及び
酢酸カリウム 0〜40wt%、好ましくは10〜20wt%;
を含んでいてもよい。
【0043】
他の実施形態によると、カルボン酸塩の混合物は、固形である。固体混合物は、除氷のために直接利用できる。このような場合には、その混合物は、ブロスの水分の単なる留去と、それに続く沈殿又は結晶化、そして乾燥によって得られてもよい。当業者に周知の留去、結晶化、及び乾燥のためのあらゆる適切な手段又は装置を使用できる。あるいは、固体混合物は、当業者に周知の混合及び混ぜ合わせのための適切な手段又は装置を使用して、重量単位で適切な量のカルボン酸塩を混合することによって得ることができる。
【0044】
他の実施形態によると、組成物は、カルボン酸塩の混合物が可溶化される溶媒をさらに含んでいてもよい。特に好ましい実施形態によると、溶媒は、環境、人、動物、例えばペットなどに有害ではないどんな適切な溶媒であってもよい。溶媒の限定されることのない例は、水、1〜6個の炭素原子を持つ一価アルコール、3〜12個の炭素原子を持つ多価アルコール、3〜12個の炭素原子を持つ多価アルコールのモノメチル又はモノエチル・エーテル、又はその混合物を含んでもよい。より好ましくは、前述の溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、又はその混合物を含んでもよい。好ましくは、前記一価アルコールは、エタノール、メタノール、又はメタノールとエタノールの混合物である。特に好ましい実施形態によると、溶媒は水である。溶媒を含んでなる前述の組成物は、すぐに使用できるタイプのものであっても、使用前に希釈する必要がある液状プレミックスであってもよい。
【0045】
他の実施形態によると、本発明は、除氷又は伝熱のための水性組成物に関し、ここで、上述の組成物は、パーセンテージの合計が最大で混合物の100wt%であることを考慮して、以下の:
コハク酸カリウム 60〜80wt%;
ギ酸カリウム 10〜20wt%;及び
酢酸カリウム 10〜20wt%;
から成る混合物を含んでなり、そしてここで、上述の混合物は、水中、30〜60wt%の濃度で存在する。この場合もまた、この水性組成物は、すぐに使用できるタイプのものであることができるか、又は前述の濃度を満たす限り、使用前に水で希釈できるプレミックスを規定してもよい。
【0046】
他の実施形態によると、本発明は、氷、雪若しくはその混合物で覆われた表面を除氷するための方法、又は表面上への氷、雪若しくはその混合物の堆積を予防するための方法であって、本明細書中で先に規定した組成物のいずれを、氷、雪若しくはその混合物で覆われたか、又は氷、雪又はその混合物で覆われやすい上述の表面上に利用するステップを含んでなる上記方法に関する。前記組成物は、当業者に周知のいずれかの適切な手段又は装置によって表面上に利用されてもよい。
【0047】
他の実施形態によると、本発明は、冷却システムを備えた、伝熱液を含んでなる伝熱システムで使用される伝熱液冷却剤として本明細書中で先に規定された水性組成物の使用に関する。
【0048】
本発明の除氷組成物は、あらゆる家庭用又は業務用の除氷用途に有用である。特定の実施形態において、前記表面は、空港の滑走路などの滑走路である。
【0049】
本発明は、エンジン冷却剤として本発明の伝熱液組成物を準備し;その組成物をエンジンの冷却システムに導入し;そして冷却剤を含んでいるエンジンを動作させることを含んでなる、エンジンを冷却する方法にさらに関係がある。
【0050】
本発明の伝熱液組成物は、自動車のエンジン冷却剤として特に有用である。
【0051】
そのため、本発明の組成物と方法の利点は、所望の特性を有する組成物を得ためにそれぞれのカルボン酸塩の量を調整してもよい多用途の組成物を提供する点である。組成物の最終的な性質を、それぞれのカルボン酸塩の量のバランスをとることによって調整してもよい。
【0052】
以下の実施例に示されるように、除氷又は伝熱液組成物中のそれらの相対量によるかかる成分の存在は、高効率の除氷又は伝熱/凍結防止特性につながると同時に、改善された防食及び環境適合特性を示す相乗効果をもたらすことが示された。
【0053】
本発明の除氷組成物は、あらゆる家庭用又は業務用の表面の除氷に有効である。例えば、除氷されるべき表面は、滑走路であってもよい。特定の実施形態において、組成物は、空港の滑走路除氷液として使用される。前記組成物はまた、道路、及び道路に関連する特に高価な建造物、例えば橋、ランプ、及び駐車施設などの除氷にも好適である。
【0054】
従って、本発明はまた、本発明の除氷組成物の適用によって表面を除氷する方法を提供する。その方法は、氷/雪で覆われた表面に、又は着氷/降雪事象の前の露出表面に、その表面上の氷/雪を実質的に減少させる量の、本明細書中で先に規定した除氷組成物を適用することにある。
【0055】
本発明の組成物は、伝熱液組成物として有用である。より特に、前記組成物は、自動車、例えば乗用車、バス、トラックなどのエンジン冷却剤として有用である。
【0056】
よって、本発明はまた、エンジン冷却剤として本発明の伝熱液組成物を準備し;その組成物をエンジンの冷却システム内に導入し;そしてその冷却剤を含んでいるエンジンを動作させることを含んでなる、エンジンを冷却するための方法も提供する。
【0057】
発明の詳細な説明
本発明は、除氷又は伝熱液の調製に関して思いがけない特性を有する新規組成物を提供するが、ここで、上述の組成物は、ジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩を含めた、2以下のt/c比を有する少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物であって、上述のジカルボン酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量でその中に存在している上記混合物を含んでなる。より好ましくは、前記混合物は、ギ酸塩とコハク酸塩を含む少なくとも2種類のカルボン酸塩であって、上述のコハク酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量でその中に存在する上記混合物を含んでいてもよい。任意に、前述の混合物は、発酵ブロスから少なくとも一部を得ることもできる。
【0058】
本発明はまた、本発明の除氷組成物の適用によって滑走路の表面を除氷する方法を提供する。本発明は、エンジン冷却剤として本発明の伝熱液組成物を使用することでエンジンを冷却する方法にさらに関係する。本発明は、産業上の利用における本発明の伝熱液組成物を使用した伝熱の方法にさらに関係する。そのうえ、本発明は、ベース組成物を準備し、そして所望の特徴を有する組成物を得るためにそれぞれカルボン酸塩の量を調整することによって強化された特徴を有する組成物の作製方法を提供する。
定義
【0059】
t/c比は、総炭素原子対カルボキシル基の比を意味する。例えば、酢酸塩は、1つのカルボン酸塩炭素を含む2つの炭素原子を持つ(t/c比が2)。ギ酸塩は、1つのカルボン酸塩炭素原子を持ち、そして1つの総炭素を持つ(t/c比が1)。プロピオン酸塩は、1つのカルボン酸塩を持ち、そして3つの総炭素を持つ(t/c比が3)。
【0060】
本発明による「発酵ブロス」又は「発酵ブロス混合物」という表現は、窒素源と少なくとも1種類のカルボン酸産生生物の存在下、1種類以上の炭水化物又は糖を含んでなる発酵性ブロスの発酵によって得られた少なくとも1種類のカルボン酸塩を含むブロスを指す。「高容積/低価値」工程に通常分類される化学工業を対象とした発酵技術について、発酵性ブロスは、安価な農業及び林業の廃棄物/副産物、例えばコーン・スティープ・リカー/ソリッドなどを使用して処方でき、それは、非常に多くの、且つ、かなりの割合で栄養素を含む。少量の無機塩と栄養素を使用した培地の何らかの成分及び栄養の添加が、特定の微生物の生理学的な要求を満たすために必要とされてもよい。通常、細胞バイオマス及び代謝産物産生の要件、エネルギー必要量、並びに発酵性要件を満たす最も生産的、且つ、経済的な組み合わせが、発酵性ブロスを処方する際に考慮される。発酵性ブロスで利用される炭水化物は、非常に多い。従来の炭水化物としては、グルコース、フルクトース、及びショ糖が挙げられる。後者は、二糖グルコシドであり、それは、タンパク質、エタノール、有機酸、及びアミノ酸の製造を含めた多くの発酵工程で利用される。植物バイオマスからの加水分解された構造多糖類は、発酵性ブロスのための次世代の基質と見なされる。セルロース及びヘミセルロースの加水分解は、発酵のためのいくつかの六炭糖(グルコースとマンノース)及び五炭糖(キシロースとアラビノース)を提供する。回分発酵は100g/Lを超える基質を利用してもよく、そして連続発酵又は流加発酵は0.5〜4.0g/L/時間の基質を利用してもよい。
【0061】
本発明による「カルボン酸産生生物」は、炭水化物源からカルボン酸を作り出すことができる生物を意味する。例えば、前記生物は、アスペルギルス・ニガー、コリネバクテリウム・グルタミカム(ブレビバクテリウム・フラバムとも呼ばれる)、エシェリキア・コリ、エンテロコッカス・フェカーリス、ベイヨネラ・パルビュラ、アクチノバチルス・サクシノゲネス、マンヘイミア・サクシニシプロデュセンス、アナエロビオスピリルム・サクシニシプロデュセンス、パエシロミセス・バリオッティ、サッカロミセス・セレビシエ、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・ルミニコラ、バクテロイデス・アミノフィルス、若しくはカルボン酸を作り出すことができるあらゆる他の生物のうちの1種類又はその混合物であってもよい。1つの態様において、前記生物は微生物E.コリである。
【0062】
本発明による「カルボン酸塩」は、発酵性ブロス中に含まれた炭水化物の発酵により微生物によって作り出されたカルボン酸の塩である。そのカルボン酸塩は、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸塩、トリカルボン酸又はその混合物であってもよい。特定の実施形態によると、本発明は前述のカルボン酸塩の混合物を網羅する。例えば、前記カルボン酸塩は、コハク酸、酢酸、ギ酸、リンゴ酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、プロピオン酸、若しくは他の異化性有機酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、及び/又はマグネシウム塩、あるいはその混合物である。特定の実施形態によると、本発明の組成物は、コハク酸塩、酢酸塩、及びギ酸塩の混合物を含んでなる。よりいっそう好ましくは、前記組成物は、コハク酸カリウム、酢酸カリウム、及びギ酸カリウムの混合物を含んでなる。
【0063】
本発明との関連において「異化性有機酸」という表現は、発酵工程で使用した微生物の代謝から生じる発酵ブロス中に見られる有機酸を意味する。
【0064】
発明の使用との関連において使用される「量」という用語は、除氷すべき表面に存在している氷、及び/又は雪の量を減少させるのに必要とされる本発明の除氷組成物の量を表す。特定の実施形態において、かかる量は、表面が通常活動に使用できるようにする安全な状態に戻すように、氷及び/又は雪の減量又は融解を可能にする。除氷は、着氷/降雪事象の前、又は着氷/降雪事象の後のいずれかの除氷剤の適用によって達成できる。
【0065】
本発明との関連において使用する「伝熱液組成物」は、特に使用中にエンジンを冷却するために、良好な伝熱特性を有すると同時に、寒冷気候の中でエンジンが動作していないときに、凍結を予防するための凍結防止特性もまた有している液体組成物を意味する。
【0066】
本発明との関連において使用する「強化された特徴」という表現は、その組成物に存在していることを目指した特徴を指す。これらの強化された特徴は、その組成物に関して意図された特定の用途によるだろう。例えば、強化された特徴は、高められた環境保護特性である可能性がある。それはまた、強化された防食特徴又は強化された凍結防止特性である可能性もある。前記組成物はまた、これらの強化された特徴の組み合わせを有していてもよい。本発明による強化された特徴を有している組成物は、特定の用途のために必要とされる良好な環境保護、及び/又は防食、及び/又は凍結防止特徴を有する組成物であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】(従来技術)1:3wt%の除氷剤を含む水性除氷剤溶液中の重クロム酸塩処理マグネシウム合金の腐食。腐食防止剤を使用しなかった。Y=mg/cm2単位の変化率;a=ギ酸カリウム;b=酢酸カリウム;c=コハク酸カリウム。
【図2】(従来技術)1:コンクリートに対する水性除氷剤の影響。50回の凍結‐融解サイクルの後に、グラム単位で計測した累積剥離コンクリートを示す。Y=剥離コンクリートの量(g);a=ギ酸カリウム;b=酢酸カリウム;c=コハク酸カリウム;d=脱イオン蒸留水。
【図3】(従来技術):「Standard Test Method for Corrosion Test for Engine Coolants in Glassware」ASTM Designation:D 1348-01に従って実施したエンジン・ブロック腐食試験の結果。A=銅、B=はんだ、C=真鍮、D=鋼鉄、E=鋳鉄、F=鋳造アルミニウム。
【図4】25%(wt.)の水性カルボン酸塩溶液の氷点。その溶液の構成要素の相対重量組成を、K−ScAc:K−AcAc:K−FcAc{ここで、K−ScAcがコハク酸二カリウムであり、K−AcAcが酢酸カリウムであり、及びK−FcAcがギ酸カリウムである。}に関して示し、そして(a)=50:0:0、(b)=30:0:20、(c)=25:0:25、及び(d)=0:0:50である。
【図5】水性カルボン酸塩溶液によるコンクリートの剥離。その溶液の構成要素の相対重量組成を、K−ScAc:K−AcAc:K−FcAc:水{ここで、K−ScAcがコハク酸二カリウムであり、K−AcAcが酢酸カリウムであり、及びK−FcAcがギ酸カリウムである。}に関して示し、そして(a)=50:0:0:50であり、(b)=30:20:0:50であり、(c)=20:30:0:50であり、(d)=10:50:0:40であり、及び(e)=0:50:0:50である。コンクリート剥離試験を、ASTM C672 & C672M「Standard Test Method for Scaling Resistance of Concrete Surfaces Exposed to Deicing Chemicals」に指定されたプロトコールに従って実施した。
【図6】水性カルボン酸塩溶液によるコンクリートの剥離。その溶液の構成要素の相対重量組成を、K−ScAc:K−AcAc:K−FcAc:水{ここで、K−ScAcがコハク酸二カリウムであり、K−AcAcが酢酸カリウムであり、及びK−FcAcがギ酸カリウムである。}に関して示し、そして(a)=50:0:0:50であり、(b)=30:20:0:50であり、(c)=20:30:0:50であり、(d)=10:50:0:40であり、及び(e)=0:50:0:50である。コンクリート剥離試験を、ASTM C672 & C672M「Standard Test Method for Scaling Resistance of Concrete Surfaces Exposed to Deicing Chemicals」に指定されたプロトコールに従って実施した。
【図7】水中、25wt%での表3のカルボン酸塩組成物の氷点(℃)。
【図8】水中、25wt%での表3の二成分カルボン酸塩組成物の氷点(℃)。
【図9】ASTM C672 & C672Mによって試験した表3の50wt%の水性カルボン酸塩組成物についてのコンクリートの剥離(kg/m2)。
【図10】ASTM C672 & C672Mによって試験した表3の50wt%の水性二成分カルボン酸塩組成物についてのコンクリートの剥離(kg/m2
【実施例】
【0068】
空港の滑走路や除氷を必要とするその他の表面に対する使用のための除氷組成物との関連において、その組成物の所望の特徴は周知である。前記特徴としては、氷の融解に関する良好な性能、航空機用合金、鋼鉄、及びコンクリートを含めた構造成分に対する低い影響、そして環境に与える影響を最小限にするための低いBODが挙げられる。先に提示したデータは、コハク酸塩ベースの除氷剤製剤が、例えば航空機用合金、鋼鉄、及びコンクリートなどの構造成分、並びに環境の両方に対する影響の低減において実質的な効果を持ち得ることを明確に実証している。
【0069】
除氷剤溶液の氷点は、除氷剤の性能に関する主要な指標である。伝熱液は寒冷地域で機能するように通常処方されるので、それはまた、伝熱液の重要な特徴でもある。氷点を、50%と25%の両方で計測できる。滑走路除氷剤の業界では、適用時点の除氷剤の希釈、並びに計測の容易さのため、それを25%にて計測する;すなわち、50%の市販の溶液を計測前に25%に希釈する。水による市販の除氷剤の1:1希釈物の氷点についての臨界値は、空港の滑走路除氷用途に関しては−14.5℃よりも低くすべきである。通常、市販の溶液は50%である。カルボン酸塩の混合溶液、特に発酵ブロスから得ることができるものが、そういった溶液が個々のカルボン酸塩のそれと比較して向上した性能を提供するであろうことを示す氷点の相乗的な向上を実証することを発見した。データを表3、並びに図4、7及び8にまとめる。
【0070】
空港及び飛行機の除氷剤は、AMS 1435A22によって記載されているストリンジェントな要件に適合していることが必要である。前記文書は、以下の:(1)氷点(ASTM D 1177);及び(2)滑走路コンクリート剥離耐性(ASTM C 672)を含めた除氷剤のための一連の試験を指定している。これらのプロトコールに従って、表3、並びに図4、5、及び6に示すデータを得た。
【0071】
図4は、コハク酸塩二カリウムとギ酸カリウムの混合溶液の氷点における相乗的な向上を実証している。等量の両カルボン酸塩方から成る組成物は、ギ酸カリウムのそれに比べて顕著に低い氷点を示している。さらに、コハク酸塩:ギ酸塩=30:20の組成物(より少ないギ酸塩を含む)は、ギ酸カリウムの氷点に比べてわずかに低い氷点を示す。
【0072】
カルボン酸カリウム混合物の氷点に対するギ酸カリウムの効果を、表3、並びに図7及び8に示したデータで観察できる。コハク酸塩:酢酸塩:ギ酸塩=40:10:0の組成物の氷点(試験番号4)が、−13℃であることが観察された。しかしながら、コハク酸塩:酢酸塩:ギ酸塩=40:5:5の組成物(試験番号5)を生じさせるギ酸塩による酢酸塩含量の半分の置換が、−16℃の氷点をもたらした。これは、量的に同等な置換にもかかわらず、氷点に関してかなりの向上であった。同様の向上は、試験番号8及び9でも観察された。コハク酸塩:酢酸塩:ギ酸塩=30:20:0の組成物(試験番号9)の氷点は、−14℃であることが観察された。コハク酸塩:酢酸塩:ギ酸塩=30:10:10の組成物(試験番号8)を生じさせるギ酸塩による酢酸塩含量の半分の置換が、−19℃の氷点をもたらす。そのデータは、好ましい除氷剤組成物が、酢酸塩とギ酸塩の合計が等量の酢酸塩とギ酸塩から成る場合;例えば、試験番号5及び8に示した組成物では、酢酸塩とギ酸塩の合計と比較して比較的に大量のコハク酸塩から成るものであることを示唆する。
【0073】
以前、コハク酸カリウムが、酢酸カリウム及びギ酸カリウムの両者からの大きな影響と比較してコンクリートに対して非常にわずかな影響しか与えないことが実証された(図2)。コハク酸カリウムの害の無い性質は、表3、並びに図9及び10に示したデータで確認される。そのデータは、酢酸カリウム(試験番号2)が、コハク酸カリウム(試験番号1)と比べてコンクリートに対して5360%有害であり、そして、ギ酸カリウム(試験番号3)が、コハク酸カリウム(試験番号1)と比べてコンクリートに対して14,840%有害であることを示している。
【0074】
この取り組みの間に、酢酸カリウム及びギ酸カリウムの両方を含むコハク酸カリウムの混合物が、コンクリート剥離の程度の不釣合な低減につながることを発見した。データを、図5及び図6に示す。図5は、コハク酸カリウムによる酢酸カリウムの16.6%の置換(除氷剤溶液(d))が、コンクリート剥離の98.2%の低減につながることを示している。前記データは、すべての割合においてコハク酸カリウムによる酢酸カリウムの置換が、コンクリート剥離の非常に不釣合な低減につながることを実証しており、それは、従来技術によって予測されていない。従来技術は、コハク酸カリウムによる酢酸カリウムの置換に起因するコンクリート剥離の低減が、置換の割合に比例するであろうと予測した。すなわち、20%の置換は、コンクリート剥離の20%の低減につながるであろう。明らかなことには、コハク酸カリウムの非常に不釣合なプラスの影響の発見は、新規であって、そして除氷用途のための水性カルボン酸塩組成物を処方することに関して有益である。
【0075】
図6は、コハク酸カリウムによるギ酸カリウムの置換についての類似効果を示す。コハク酸カリウムによるギ酸カリウムの16.6%の置換(除氷剤溶液(d))は、コンクリート剥離の63.5%の低減につながる。コハク酸カリウムによるギ酸カリウムの40%の置換(除氷剤溶液(c))は、コンクリート剥離の84.3%の低減につながる。コハク酸塩とギ酸塩の混合物の場合には相対的効果が、コハク酸塩と酢酸塩の混合物で観察された効果ほどはっきりしなかったが、その効果は、かなりのものであり、新規であり、そして除氷業界に有益である。
【0076】
先に、氷点データに基づいて予測された好ましい除氷剤組成物は、酢酸塩とギ酸塩の合計が等量の酢酸塩とギ酸塩から成る場合;例えば、試験番号5及び8に示した組成物では、酢酸塩とギ酸塩の合計と比較して比較的に大量のコハク酸塩から成るものであると主張された。コンクリート剥離データもまた、そのような組成物は、それらの組成物が性能及び基礎構造に対する影響に関してより良好な総合的な特徴を有することを示唆する非常に低いコンクリート剥離をもたらすことも示した。
【0077】
先に議論したように、コハク酸二カリウムは、群を抜いて、腐食及び構造劣化に関して最も害の無い除氷剤である。現在のデータはまた、カルボン酸カリウム混合物中へのコハク酸二カリウムの包含が、その混合物の氷点の相乗的な向上、そしてその結果、性能、並びにコンクリート剥離の非常に不釣合な低減につながることも示している。組み合わせると、発見した組成物は、向上した性能と、低減された腐食、コンクリート剥離、及び汚染特性を有する除氷及び伝熱液組成物を提供するだろう。
【0078】
表3:カルボン酸カリウム溶液の氷点とコンクリート剥離に関する実験データ。氷点及びコンクリート剥離のデータを、それぞれ、ASTM D 1177及びASTM C 672/C 672 Mの所定のプロトコールに従って収集した。K−ScAc=コハク酸カリウム、K−AcAc=酢酸カリウム、及びK−FcAc=ギ酸カリウム。
【表3】

【0079】
本発明を、好ましい実施形態に関して説明した。図面と同じく本明細書は、本発明の範囲を限定するよりも本発明の理解を助けることを目的とした。様々な変更が、本明細書中に記載の本発明の範囲から逸脱することなく本発明に加えられてもよく、且つ、そういった変更を本明細書の対象とすることを意図していることは、当業者にも明らかであるだろう。本発明は、以下の請求項によって規定される。
参考文献
【化1】

【化2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
除氷のための又は伝熱液の調製のための組成物であって、ジカルボン酸塩とモノカルボン酸塩を含む、2以下のt/c比を有する少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物を含んでなり、上記ジカルボン酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量で当該混合物中に存在している、組成物。
【請求項2】
除氷のため又は伝熱液の調製のための組成物であって、ギ酸塩とコハク酸塩を含む、少なくとも2種類のカルボン酸塩の混合物を含んでなり、上記コハク酸塩が乾燥重量を基準に混合物重量の少なくとも50wt%の量で当該混合物中に存在している、組成物。
【請求項3】
前記混合物を、少なくとも一部、少なくとも1種類の炭水化物源と少なくとも1種類のカルボン酸産生微生物を含んでなる発酵ブロスから得る、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸産生微生物が、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)、ベイヨネラ・パルビュラ(Veillonella parvula)、アクチノバチルス・サクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、マンヘイミア・サクシニシプロデュセンス(Mannheimia succiniciproducens)、アナエロビオスピリルム・サクシニシプロデュセンス(Anaerobiospirillum succiniciproducens)、パエシロミセス・バリオッティ(Paecilomyces varioti)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・ルミニコラ(Bacteroides ruminicola)、バクテロイデス・アミノフィルス(Bacteroides amylophilus)、又はその混合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記カルボン酸産生微生物が、E.コリである、請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
前記炭水化物源が、六炭糖、五炭糖、又はその混合物を含んでなる、請求項3〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
追加のカルボン酸塩又は異化性有機酸をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、又はプロピオン酸から成る追加のカルボン酸塩をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
酢酸塩をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記カルボン酸塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、カルシウム塩、又はマグネシウム塩、あるいはその混合物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記カルボン酸塩の混合物が、コハク酸カリウム、ギ酸カリウム、及び酢酸カリウムを含んでなる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
乾燥重量を基準に、パーセンテージの合計がその混合物の100wt%であることを考慮して、以下の:
コハク酸カリウム 50〜90wt%、
ギ酸カリウム 10〜50wt%、
酢酸カリウム 0〜40wt%、
から成る混合物を含んでなる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
以下の:
コハク酸カリウム 60〜80wt%、
ギ酸カリウム 10〜20wt%、
酢酸カリウム 10〜20wt%、
から成る混合物を、乾燥重量を基準に、パーセンテージの合計が当該混合物の100wt%となるように含んでなる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記カルボン酸塩が固形である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
前記のカルボン酸塩の混合物が可溶化される溶媒をさらに含んでなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記溶媒が水である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
除氷のため又は伝熱液の調製のための水性組成物であって、以下の:
コハク酸カリウム 60〜80wt%、
ギ酸カリウム 10〜20wt%、
酢酸カリウム 10〜20wt%、
から成る混合物を、乾燥重量を基準に、パーセンテージの合計が当該混合物の100wt%となるように含んでなる、組成物。
【請求項18】
表面の除氷、又は表面上の氷、雪、若しくはその混合物の堆積を予防する方法であって、氷、雪、若しくはその混合物によって覆われたか、又は氷、雪、若しくはその混合物によって覆われやすい表面上に、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物を適用するステップを含んでなる上記方法。
【請求項19】
冷却システムを備えた、伝熱液を含んでなる伝熱システムで使用される伝熱液冷却剤の調製のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−524435(P2011−524435A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511951(P2011−511951)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国際出願番号】PCT/CA2009/000809
【国際公開番号】WO2009/146562
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(510272609)ビオアンブ,ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ (3)
【Fターム(参考)】