説明

除電方法、除電装置、ガラス基板の帯電防止方法およびガラス基板の帯電防止装置

【課題】簡易かつ効率的な方式で絶縁体に対して効果的な除電を実行する除電方法および除電装置を提供する。
【解決手段】絶縁体10のおもて面に対して鉛直方向から硬X線を照射する硬X線発生装置5を設ける。硬X線発生装置5は、0.05Å以上1Å未満の硬X線を照射する。硬X線は、絶縁体10のおもて面の空気をイオン化して絶縁体10のおもて面の電荷を除電するとともに、絶縁体10を透過した透過X線が絶縁体10の裏面の電荷を除電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体基板を除電する除電方法、除電装置ならびにガラス基板の帯電防止方法およびガラス基板の帯電防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ等に使用されるガラス基板の製造プロセスでは、搬送時におけるベルト面との摩擦や真空チャックによる分離時の剥離等に起因して、原子の不完全結合部分に電子がトラップされる。また、原子がイオン化されることによって絶縁性の基板が正または負に帯電することがある。
【0003】
このようにガラス基板が帯電すると、周囲のパーティクルを吸着し、あるいは基板上に堆積される各種薄膜の絶縁破壊を招く不都合がある。また、帯電状態のガラス基板を用いて液晶ディスプレイが製造されると、ガラス基板の電荷によって液晶ディスプレイの立ち上がり電圧が変化して液晶画面の明るさが変化する等の問題を生じていた。
【0004】
そのため、ガラス基板などの絶縁体に除電する方法として、コロナ放電を利用した除電方法あるいは、軟X線を利用した除電方法等がある。コロナ放電を利用した除電方法は、放電電極から正負のイオンを発生させて、ガラス基板にイオンを吹き付けて帯電電荷を中和させる方法である。また、軟X線(波長が1Å以上)を利用した除電方法は、軟X線により絶縁体近傍の空気がイオン化され、イオン化された空気により絶縁体の電荷を中和する方法である。特許文献1〜5には、軟X線を用いて絶縁体に除電する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11−214191号公報
【特許文献2】特開2000−267106号公報
【特許文献3】特開2002−257702号公報
【特許文献4】特開2004−299814号公報
【特許文献5】特許第2749202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コロナ放電を利用した除電方法は、イオンを吹き付ける際に、ホコリ等が巻き上げられるため、クリーン環境化での使用は適さないことに加え、イオン化された空気の再結合の問題があり、除電性能に問題がある。
【0006】
図8は、従来の軟X線を用いた除電方法を説明する図である。
図8(a)に示されるように軟X線発生装置5#から軟X線を照射して、照射内にある空気をイオン化して絶縁体を中和することが可能である。
【0007】
しかしながら、軟X線は空気のイオン化効率は優れるものの、軟X線が空気に吸収されやすい性質であることから、絶縁体から軟X線発生源までの距離をとることができないため、除電エリアが狭い。
【0008】
また、ガラス基板などがステージから持ち上げられる、あるいは、搬送されるときにガラス基板の裏面に剥離・摩擦帯電がおき、剥離時に瞬間的な電位が上昇する。したがって、除電するためには、ガラス基板とステージの間にイオン化された空気を送るための間隔、あるいは軟X線を照射するための間隔が必要である。
【0009】
たとえば、図8(b)に示されるようにガラス基板の裏面に対し、横方向具体的には、右側の軟X線発生装置5#Aおよび左側の軟X線発生装置5#Bから軟X線を照射する場合、軟X線を発生させる軟X線管近傍と離れた位置では、イオン化濃度に著しく差が生じてしまうため、結果として除電ムラが生じる可能性がある。
【0010】
したがって、除電ムラを排除し、かつガラス基板などの広い面積の除電を行おうとすると、図8(c)に示すように多数の軟X線発生装置5#を装備する必要があり、非常に高価になるとともに、設置、メンテナンスに時間、コストを要することとなる。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、簡易かつ効率的な方式で絶縁体に対して効果的な除電を実行する除電方法および除電装置を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、ガラス基板などがステージから持ち上げられる、あるいは、搬送される際に生じるガラス基板の帯電を防止する帯電防止方法および帯電防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る除電方法は、波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を帯電した除電対象物に直接照射する。
【0014】
本発明に係る別の除電方法は、波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を発生する硬X線発生装置を除電対象物に直接照射できる位置に配置し、硬X線を除電対象物に直接照射する。
【0015】
好ましくは、除電対象物は、ガラス基板に相当する。
特に、硬X線は、帯電したガラス基板のおもて面に対して鉛直方向から直接照射され、ガラス基板の裏面は、ガラス基板を透過した硬X線により除電される。
【0016】
本発明に係る他の除電方法は、設置台の上面に密着して置かれたガラス基板に対して、設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射して除電する。
【0017】
本発明に係るガラス基板の帯電防止方法は、設置台の上面に密着して置かれたガラス基板を持ち上げる際に、設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する。
【0018】
本発明に係る除電装置は、ガラス基板を設置する設置台と、設置台の上面に密着して置かれたガラス基板に対して、設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する照射手段とを備える。
【0019】
本発明に係るガラス基板の帯電防止装置は、ガラス基板を設置する設置台と、設置台の上面に密着して置かれたガラス基板を持ち上げる際に、設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る除電方法および除電装置は、波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を除電対象物に対して照射する。硬X線は、除電対象物との距離を離した場合であっても除電対象物近傍の気体をイオン化することができるため、除電エリアを広くとることができ、簡易かつ効率的な方式で効果的な除電を実行することができる。
【0021】
本発明に係る帯電防止方法および帯電防止装置は、ガラス基板を持ち上げる際に、波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する。硬X線は、軟X線と比較してガラス基板の透過率が高いためおもて面のみならず裏面に対しても透過X線により除電することができ、剥離・摩擦帯電を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰返さない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に従う除電装置1の概略構成図である。
図1を参照して、本発明の実施の形態に従う除電装置1は、硬X線発生装置5と、除電対象物である絶縁体10を支持する、接地されたステージ15と、ステージ15上において絶縁体10を距離dの間隔を開けて保持するプラスチック等で形成される支持部材20と、センサ25と、センサ25と接続され絶縁体の表面電位を計測する表面電位計30と、データロガー35と、制御装置(PC)40とを備える。センサ25は、絶縁体10の裏面の表面電位を計測するように設けられている。表面電位計30は、絶縁体10に生じた電荷に起因してセンサ25に誘導された電荷から表面電位を計測する。表面電位の計測については、一般的であるのでその詳細な説明は省略する。
【0024】
なお、硬X線発生装置5と、絶縁体10との間は、距離Zの間隔が設けられており、絶縁体10の上面の鉛直方向から硬X線が直接照射される位置に配置されているものとする。また、絶縁体10は、帯電しているものとする。本例においては、絶縁体の一例として液晶ディスプレイ用のガラス基板(以下、LCDガラス基板とも称する)あるいはプラズマディスプレイ用のガラス基板(以下、PDPガラス基板とも称する)を用いるものとする。
【0025】
本発明の実施の形態に従う除電方法は、硬X線を絶縁体10に直接照射することにより除電する。
【0026】
図2は、硬X線を発生する硬X線発生装置5の構成図である。
図2を参照して、硬X線発生装置5は、硬X線発生ユニット50を制御する制御部100と、制御部100からの指示に基づき硬X線を生成する硬X線発生ユニット50とを含む。なお、制御部100は、ケーブルCB1を介して外部電源と接続され、硬X線発生ユニット50を駆動するために必要な電圧を供給するとともに、制御するための制御信号を出力しているものとする。硬X線発生ユニット50は、高圧発生部51と、X線管冷却部52と、X線管53と、鉛で形成された保護ケースとを含む。X線管53は、フィラメント54およびタングステン等の金属材料で形成されたターゲット55を含む。高圧発生部51は、X線管53のフィラメント54にいわゆるフィラメント電流を供給し、タングステン等の金属材料で形成されたターゲット55に高電圧を印加する。これに伴い、フィラメント電流の供給を受けたフィラメント54から熱電子がターゲット55に対して飛び出す。そして、ターゲット55に衝突することによりX線が発生する。本実施の形態に従う硬X線発生装置5は、波長が0.05Å以上1Å未満の硬X線を発生させるものとする。この0.05Å以上1Å未満の硬X線は、実際にガラス基板に対して除電を実行した場合に使用可能な硬X線の波長の範囲である。
【0027】
なお、保護ケース54には、開口穴が設けられており、そこからX線が外部に対して照射される。また、フィラメント54から飛び出した熱電子の99%の運動エネルギーは熱に変換されるので、X線管冷却部52を用いて冷却されている。冷却方式としては、空冷あるいは油冷方式等を用いることが可能である。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態に従う除電方式を説明する概念図である。
図3を参照して、本発明の実施の形態に従う除電方式は、硬X線発生装置5から硬X線(ハードX線)を絶縁体10に照射する。
【0029】
硬X線発生装置5から照射された硬X線は、空気に吸収されてイオンを生成する。これに伴い、絶縁体10の近傍に生成されたイオンが絶縁体10の帯電電荷と反応して中和される。
【0030】
また、軟X線と異なり、硬X線は絶縁体に直接照射することで、絶縁体の原子番号により、絶縁体自体が二次電子、二次X線及び散乱X線を発生させて、絶縁体近傍の空気をイオン化する。具体的には、硬X線の照射により絶縁体に含まれている遷移元素、軽元素あるいは重元素から二次X線、散乱X線および二次電子が生成される。これらも、空気と反応してイオンを生成する。この生成されたイオンが絶縁体に帯電している電荷と反応して中和する。すなわち、硬X線に加えて二次X線、散乱X線および二次電子によりさらに除電効果を高めている。
【0031】
また、硬X線は、絶縁体固体を電離するため、固体電離により絶縁体の電荷が中和されることになる。すなわち、ガラス基板内を硬X線が通過するとガラス材を電離し、ショートする効果を得ることができる。このため、ガラス基板内の残留電荷を除去する事ができる。
【0032】
特に、本発明の実施の形態に従う硬X線は、軟X線と比較し高エネルギーであるため、空気に吸収されにくく、絶縁体と硬X線発生装置までの距離を絶縁体と軟X線発生装置までの距離よりも長くとることが可能である。従って、X線管からの照射角が仮に等しい場合、軟X線方式よりも照射エリア(除電エリア)が広くなる。
【0033】
図4は、軟X線と、硬X線とを絶縁体に照射した場合における除電時間の比較を説明する図である。
【0034】
図4に示されるように距離が短い場合には、軟X線の方が空気の吸収率が高いため効果的にイオンが生成され、除電時間は、硬X線とほぼ同じ短い期間で実行することが可能である。
【0035】
しかしながら、図4に示されているように距離が長くなればなるほど、軟X線は、近距離で空気に吸収されてしまうため絶縁体付近においてイオンが生成される割合が減少し、結果として除電時間が硬X線よりも極めて長時間かかることになる。たとえば、距離Z=1000mm程度とした場合には、軟X線の除電時間は6秒であるのに対して硬X線の除電時間は2秒である。したがって、硬X線を用いた除電方法の場合には、照射範囲を広げた場合であっても十分に除電効果を期待することができる。
【0036】
さらに、硬X線発生装置5から照射された硬X線は、絶縁体を透過する。したがって、絶縁体のおもて面を透過した硬X線が裏面の空気と反応してイオンが生成される。透過した硬X線により絶縁体裏面近傍の空気がイオン化するため、ガラス基板などの裏面に帯電した電荷が中和されることになる。
【0037】
すなわち、ガラス基板など絶縁体の上方片方からのみに硬X線を照射することにより、ガラス基板などの絶縁体のおもて面だけでなく、裏面を同時に除電することが可能となる。
【0038】
また、裏面に照射された硬X線についても二次X線、散乱X線および二次電子が生成され、上述したのと同様にこれらも空気と反応してイオンを生成する。この生成されたイオンが絶縁体10の裏面に帯電している電荷と反応して中和される。
【0039】
図5は、軟X線と硬X線とを照射した場合におけるガラス基板の透過率を説明する図である。
【0040】
図5(a)は、ガラス基板を設けなかった場合のX線強度が示されている。なお、ここでは、X線発生装置の距離Z=200mmに設定している。
【0041】
図5(b)は、LCDガラス基板を配置してその透過率を計測した場合が示されている。ここで、LCDガラス基板の厚さは約0.7mmとしている。
【0042】
この場合には、軟X線はエネルギーが低いためLCDガラスの透過率は極めて低い。
図5(c)は、PDPガラス基板を配置してその透過率を計測した場合が示されている。ここで、PDPガラス基板の厚さは約2.8mmとしている。
【0043】
この場合にも、軟X線はエネルギーが低いためPDPガラスの透過率は極めて低く、硬X線のみが計測されている。
【0044】
硬X線は、LCDガラス(0.7mm)あるいはPDPガラス(2.8mm)などを透過するため、硬X線が絶縁体を透過した透過X線によりガラス裏面の除電が可能となる。
【0045】
なお、絶縁体裏面下に二次電子、二次X線及び散乱X線を発生しやすい二次励起板を配置しておくと、絶縁体を透過したX線が二次励起板にあたり、二次励起板から発生する二次X線及び散乱X線、二次電子によって除電対象物裏面周辺の空気がイオン化するのでさらに効果的な除電が可能である。
【0046】
また、洗浄工程を経たあとの水で濡れたガラス基板などの絶縁体のおもて面が帯電している場合において、軟X線を照射すると絶縁体おもて面のおもて面電位は0Vとなるが、ガラス基板の裏面には静電誘導により、数十ボルトから数百ボルトの裏面電位が発生している場合や、軟X線の照射を止めると0Vだったおもて面に電位が発生するなどの現象があり、ガラスおもて面の帯電であっても、濡れ状態により軟X線で完全に除電できない場合がある。
【0047】
図6は、硬X線と軟X線をガラス基板のおもて面に照射した場合の裏面の電位を計測した場合を説明する図である。ここでは、図1に示されるセンサ25を用いて裏面の表面の電位が計測されている。
【0048】
図6に示されるように除電時間はほぼ同じであるが、軟X線で除電した場合には、21Vの電位が残留している。したがって、軟X線で除電した場合には、帯電しているガラス基板をおもて面および裏面について完全に中和することが難しい。硬X線で除電した場合には、おもて面および裏面の電位はともに0Vとなるため完全に中和することができる。
【0049】
特に、硬X線を用いた場合には、ガラスの濡れ状態に関わらず、ガラスのおもて面、裏面を除電することが可能である。
【0050】
そして、ガラス基板などがステージから持ち上げられる、あるいは、搬送されるときにガラス基板の裏面に剥離・摩擦帯電がおき、剥離時に瞬間的な電位が上昇する可能性がある。特に、軟X線を用いた場合には、残留電荷が残るとともに、ガラス基板がステージと密着状態である場合には、イオン化された空気を送るための間隔、あるいは軟X線を照射するための間隔を取ることが困難であるが、硬X線を用いた場合には、絶縁体裏面下に透過X線および二次電子、二次X線及び散乱X線が発生するため剥離時に生じる剥離・摩擦帯電を防止してガラス基板に瞬間的な電位の上昇が生じるのを抑制することができる。
【0051】
すなわち、ガラス基板などがステージから持ち上げられる、あるいは、搬送されるときに硬X線をガラス基板に照射することによりガラス基板の剥離・摩擦帯電を防止することが可能となる。
【0052】
図7は、X線をガラス基板に照射した場合におけるガラス基板材料を形成する金属材料が励起した場合の分布図である。
【0053】
図7(a)は、LCDガラス基板であり、LCDガラス基板を形成する金属Al,Si,Ca,Fe,Srが元素番号の小さい順に現れている。軟X線のエネルギーは、10keV程度までであるため金属Srに対しては励起できないことになる。
【0054】
図7(b)は、PDPガラス基板であり、PDPガラス基板を形成する金属Si,K,Ca,Fe,Sr,Zr,Baが元素番号の小さい順に現れている。上述したように軟X線のエネルギーは、10keVであるためそれ以降のエネルギーで励起される金属Sr,Zr,Baについては励起できないことになる。
【0055】
したがって、波長が約1Å未満(エネルギーが12.4eV以上)の硬X線を照射することにより、それら、軟X線エネルギーでは励起できない金属に対しても二次電子、二次X線および散乱X線等が発生することになり、軟X線よりもさらに除電効果を期待することができる。なお、X線の波長は短くなるほど高エネルギーとなり、遮蔽構造も含めて大型化すること、そして、最もX線透過率が小さいPDPガラス基板においてX線が裏面へ到達する必要性を考慮すると、X線の波長は0.05Å以上が妥当だと考えられる。
【0056】
本発明の実施の形態に従う除電方法は、エネルギーの高い硬X線を用いるためエネルギーの低い軟X線を用いる場合と比較し、照射距離を長くするあるいは照射角を広げて照射範囲を広くした場合であっても十分に除電することができる。従って、ガラス基板などの大面積の絶縁体を除電するのに必要な硬X線発生装置の必要台数を削減することができる。これに伴いメンテナンス、設置も容易となり全体としてコストが低減される。
【0057】
また、一般的な軟X線を発生するX線管は、軟X線透過効率の良いX線窓材としてベリリウム窓が設けられている。しかしながら、ベリリウムは有害物質であるため、取り扱いおよび回収を含め、安全性・環境面からの管理が必須であり取り扱いに注意を要する。
【0058】
一方、硬X線を発生するX線管は、有害物質を使用しないため、取り扱い、回収等に安全性・環境面からも有利である。
【0059】
なお、上記の実施の形態で説明した硬X線を照射するために管電圧53に印加する高電圧として40kV、フィラメント電流として0.6mAを与えて実験しているが、これら数値に限られず、絶縁体の厚さ等に応じて数値を調整することにより同様の効果を得ることが可能である。
【0060】
また、上記の実施の形態においては、ガラス基板のおもて面の鉛直方向から硬X線を照射して、透過X線により裏面の電荷も中和することが可能であることについて説明したが、これに限られず、図8(b)で示されるように裏面に対しては、右側および左側に対して硬X線発生装置を設けて裏面に硬X線を照射することも可能である。この場合、硬X線の場合には、上述したように有効照射距離が長いため除電ムラが発生することなく、効果的に裏面の除電を実行することも可能である。すなわち、硬X線発生装置の設置数を削減することが可能であり、設置コストおよび保守頻度の低減に伴う経済効果を期待できる。
【0061】
また、上記においては、LCDガラスあるいはPDPガラスを例に挙げて説明したが、これに限られず、SED(Surface-conduction Electron-emitter Display)、有機EL(organic electroluminescence display)、FPD(Flat Panel Display)あるいはコピー用紙や包装・梱包材等、種々の絶縁性の材質や固体・液体・気体の除電に対しても適用可能である。
【0062】
さらには、上記の例においては、照射距離を長くするあるいは照射角を広げて照射範囲を広くする場合について説明してきたが、コリメータやスリットあるいはキャピラリー等を用いて細束硬X線ビームにして照射範囲を狭くすることにより固体、液体あるいは気体の除電領域を限定して、所望の領域のみに対して上述した除電方法を適用することも可能である。また、このビームを空間的ならびに時間的に制御することによりユーザのニーズに合わせて多種多様な帯電防止および除電方法を実現することが可能である。
【0063】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に従う除電装置1の概略構成図である。
【図2】硬X線を発生する硬X線発生装置5の構成図である。
【図3】本発明の実施の形態に従う除電方式を説明する概念図である。
【図4】軟X線と、硬X線とを絶縁体に照射した場合における除電時間の比較を説明する図である。
【図5】軟X線と硬X線とを照射した場合におけるガラス基板の透過率を説明する図である。
【図6】硬X線と軟X線をガラス基板のおもて面に照射した場合の裏面の電位を計測した場合を説明する図である。
【図7】X線をガラス基板に照射した場合におけるガラス基板材料を形成する金属材料が励起した場合の分布図である。
【図8】従来の軟X線を用いた除電方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0065】
1 除電装置、5 硬X線発生装置、10 絶縁体、15 ステージ、20 支持部材、25 センサ、30 表面電位計、35 データロガー、40 PC、50 硬X線発生ユニット、51 高圧発生部、52 X線管冷却部、53 X線管、54 フィラメント、55 ターゲット、100 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を帯電した除電対象物に直接照射する、除電方法。
【請求項2】
波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を発生する硬X線発生装置を除電対象物に直接照射できる位置に配置し、
前記硬X線を前記除電対象物に直接照射する、除電方法。
【請求項3】
前記除電対象物は、ガラス基板に相当する、請求項1記載の除電方法。
【請求項4】
前記硬X線は、帯電した前記ガラス基板のおもて面に対して鉛直方向から直接照射され、
前記ガラス基板の裏面は、前記ガラス基板を透過した前記硬X線により除電される、請求項3記載の除電方法。
【請求項5】
設置台の上面に密着して置かれたガラス基板に対して、前記設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射して除電する、除電方法。
【請求項6】
設置台の上面に密着して置かれたガラス基板を持ち上げる際に、前記設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する、ガラス基板の帯電防止方法。
【請求項7】
ガラス基板を設置する設置台と、
前記設置台の上面に密着して置かれたガラス基板に対して、前記設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する照射手段とを備える、除電装置。
【請求項8】
ガラス基板を設置する設置台と、
前記設置台の上面に密着して置かれたガラス基板を持ち上げる際に、前記設置台の上面より鉛直方向から波長0.05Å以上1Å未満の硬X線を直接照射する、ガラス基板の帯電防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−294602(P2006−294602A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69108(P2006−69108)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(501174837)株式会社エックスレイプレシジョン (7)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】