説明

陶芸用薪窯

【課題】煤煙の発生を抑制するだけでなく、陶磁器の焼き上がりに不具合を生じさせることのない登り窯や穴窯を提供する。
【解決手段】登り窯1の煙道15a,15bには、背が高く、幅も広く、中程に中間壁21を備えた二次燃焼室20を備えている。中間壁21の上流側直前には、バーナー22が設置される。バーナー22は、燃料(ガス、灯油等)を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものであって、それ自体が、二次燃焼室20内に進入・後退可能に設置される。二次燃焼室20の中間壁21の上部にはロストル23及び温度センサ24が設置される。二次燃焼室の入口25の近傍には仕切り壁26が設置される。二次燃焼によって発生したガスは、仕切り壁26に遮られると共に、送風機30が煙突内に発生させる気流に引かれ、逆流することなく排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶磁器を焼成する薪窯に係り、特に登り窯や穴窯に関する。
【背景技術】
【0002】
古くから、陶磁器の焼成には、穴窯、登り窯といった薪を燃料とする窯が用いられてきた。近年では、陶磁器用の窯としては、ガス・重油等を燃料とするものが一般的ではあるが、いわゆる窯変(予期せぬ良い陶磁器が焼成されること)を期待することができるため、現在においても、陶芸家の間では薪窯に対するニーズは高い。
【0003】
こうした期待から、最近においても、小型の薪窯(特許文献1)、木質産業廃棄物を使用してもダイオキシンの発生を抑制できる登り窯(特許文献2)、小型かつ移動可能で煤煙を除去できる薪窯(特許文献3)といった提案がなされている。
【特許文献1】特開2004−245433号公報
【特許文献2】特開2003−2732号公報
【特許文献3】特開2007−24374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,3の提案する様な小型の単一焼成室の薪窯では、自然釉の効果は発現できるとしても、酸化焼成と還元焼成の相違による窯変を計画的に発現させる等の陶芸家の要望に十分に応えることができないという問題がある。
【0005】
その点、特許文献2は登り窯である点で、陶芸家の要望に応えるものである。この特許文献2は、図5に示す様に、焼き上げる陶磁器を収容する1次燃焼室3の出口にバーナー8が設けられた2次燃焼室7を設け、燃焼を開始した初期においてはバーナー8を燃焼させて2次燃焼室7を800℃以上に上昇させ、1次燃焼室3の温度が800℃以上になったところで、バーナー8の燃焼を停止させることで、ダイオキシンの発生を防止することを提案している。また、煙突5にイジェクター送風機6を設置し、強制排気を行なうことも提案している。
【0006】
確かに、2次燃焼室を設けて排煙を再燃焼させる方法は有害物質の飛散を防止する上で効果があることは、各種の焼却炉においてもよく知られている。しかし、登り窯においては、2次燃焼室の燃焼状況が焼成室内の温度に対して影響を与え、還元焼成による窯変が期待される焼成室における陶磁器の焼き上がりに不具合を生じさせるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、煤煙の発生を抑制するだけでなく、陶磁器の焼き上がりに不具合を生じさせることのない登り窯、穴窯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の陶芸用薪窯は、焚き口から煙道にかけての床面が徐々に上昇する様に構成された焼成室を備え、該焼成室の末端部から煙道を介して設置された煙突から排煙を行う様に構成され、焼成室内の温度を検出する温度センサも備えた薪窯であって、以下の構成を備えたことを特徴とする。
(1)前記煙道を開閉するダンパーであって、中間開度にも開度を設定することができるものを備えていること。
(2)前記ダンパーよりも下流の位置に、前記煙道を横断する方向に燃料と空気を吹き込むバーナーを設置すると共に、該バーナーの設置されている部分に、前記煙道よりも断面積の大きい二次燃焼室を形成してあること。
(3)前記バーナーによる吹き込み位置と前記ダンパーとの間に、仕切り壁を設置し、前記焼成室からの排煙は当該仕切り壁を回り込んで二次燃焼室内に流入する構造としたこと。
(4)前記煙突の下部には、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機であって、風量調節が可能なものが設置されていること。
(5)前記二次燃焼室は、前記煙道よりも背が高く、前記バーナーの後背位置には中間壁が立設され、当該二次燃焼室内の気流が前記バーナーによる吹き込み位置から上昇した後、前記中間壁を乗り越えて下降し、後方の煙道へと排出される構造とされていること。
(6)前記バーナーは、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものであること。
(7)前記二次燃焼室の前記中間壁よりも後方の位置に設置され、当該二次燃焼室内の温度を検出す温度センサを備えていること。
【0009】
本発明の陶芸用薪窯によれば、焼成室から排出される排煙は、煙道から二次燃焼室へと流入する。この排煙の量は、ダンパーの開度によって調整される。また、排煙は、二次燃焼室へ流入する際に、仕切り壁を回り込む様になっている。二次燃焼室内では、バーナーを駆動して焚き始めは燃料と空気とを共に吹き込む。これにより、排煙中の未燃焼の成分が二次燃焼される。この二次燃焼によってガス圧が上昇するが、仕切り壁の存在により、焼成室側への逆流は抑さえられる。また、二次燃焼室内で発生した燃焼ガスは中間壁を乗り越える様に上昇し、中間壁の裏側へと流れていく。つまり、二次燃焼室内の容積を十分に大きく採ることによる逆流防止効果が発揮されると共に、中間壁の裏側へ流すことによってさらに逆流防止効果が高まる。そして、送風機を駆動して煙突内に上昇気流を生じさせることで、二次燃焼室内の燃焼ガスが煙突へと流れ出すのをアシストすることができる。これにより、二次燃焼室内のガスは二次燃焼による膨張を抑えられることなく、煙突からの排出方向へとスムーズに流される状況を安定的に生じさせることが可能となる。この結果、二次燃焼による煤煙の浄化で煙突から真っ黒な煙が排出されるのを防止することができると共に、二次燃焼室から焼成室への燃焼ガスの逆流が防止され、燃焼室内の環境を変動させる問題も排除される。
【0010】
また、バーナーの運転方法としては、最初は、バーナーから燃料と空気を吹き出して二次燃焼を開始し、焼成室及び二次燃焼室内の温度が800℃程度まで十分に上昇したら、燃料噴射を停止し、空気のみを吹き出すブロワーとして使用する。排煙中の未燃焼成分は、焼成室及び二次燃焼室の温度が十分に上昇した後は、十分な空気を送り込むことにより、自然に着火し、燃焼する。これにより、燃料を必要最小限の使用に留めることが可能であり、かつ、二次燃焼を十分に継続することも可能である。また、ブロワー機能により吹き込まれた空気も仕切り壁によって焼成室側への逆流が防止される。焼成室及び二次燃焼室に設置された温度センサの検出結果を、バーナーの機能切り替え等のタイミングを決定するのに利用することで、勘に頼るのではなく、確実な切り替え操作を可能にすることができる。送風機は、燃焼開始の初期においては風量を大きくすることにより、ダンパーの開度を必要最小限としても十分に排煙機能を発揮させることができる。ダンパーの開度を必要最小限とすることで、焼成室の温度上昇・温度保持を的確ならしめ、二次燃焼ガスの逆流防止にも効果を発揮させることができる。なお、送風機の風量は、焼成室内の温度上昇の状況が目的に適うものとなる様に調節する運転方法とすることが望ましい。
【0011】
なお、(6)の構成については、以下の様に変更することもできる。
(6’)前記バーナーを停止したときに、前記仕切り壁と前記中間壁の間の前記バーナーによる燃料吹き込み位置へと空気を吹き込むブロワーを別途備えていること。
【0012】
これらの陶芸用薪窯は、さらに、以下の構成をも備えるとよい。
(8)前記二次燃焼室と前記煙突との間に、水噴霧室を形成し、該水噴霧室の天井に水噴霧ノズルを設置してあること。
(9)前記送風機の吹き込み口より上部の煙突内の温度を検出す温度センサを備えていること。
【0013】
煙突の出口付近の温度が高い場合に、水噴霧を実施することで、排出ガスの温度を低下させ、環境への影響を最小限に抑制することができる。
【0014】
同じく上記目的を達成するためになされた本発明のもう一つのタイプの陶芸用薪窯は、焚き口から煙道にかけての床面が徐々に上昇する様に構成された焼成室を備え、該焼成室の末端部から煙道を介して設置された煙突から排煙を行う様に構成され、焼成室内の温度を検出する温度センサも備えた薪窯であって、以下の構成を備えたことを特徴とする。
(11)前記煙道を開閉するダンパーであって、中間開度にも開度を設定することができるものを備えていること。
(12)前記煙突内に斜め上方へ向かって燃料を空気と共に吹き込むバーナーが設置されていること。
(13)前記バーナーからの吹き出し口は、前記煙突内の煙道開口よりも上部に開口されていること。
(14)前記煙突内には、前記バーナーからの燃料吹き込み距離を考慮して前記吹き出し口よりも所定距離上方に離れた位置に、スリット入りの水平仕切り部材が設置されていること。
(15)前記煙突には、前記水平仕切り部材よりも上方の位置から、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機であって、風量調節が可能なものが設置されていること。
(16)前記バーナーは、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものとされていること。
(17)前記水平仕切り部材の設置位置付近の煙突内の温度を検出する温度センサを備えていること。
【0015】
このタイプの陶芸用薪窯は、既設の登り窯あるいは穴窯において、煙道が短い場合に有効なものである。即ち、(12),(14)によって煙突内に二次燃焼室を形成し、(13)の構成と(15)の構成により、逆流を防止して二次燃焼ガスの流れをスムーズにすることで、二次燃焼を実行しつつ焼成室の焼成環境の変動を抑制することができるものとなる。
【0016】
なお、(16)の構成については、以下の様に変更することもできる。
(16’)前記バーナーを停止したときに、前記バーナーの吹き出し口から空気を吹き込むブロワーを別途備えていること。
【0017】
また、このタイプの陶芸用薪窯において、さらに、以下の構成をも備えるとよい。
(18)前記水平仕切り部材と前記送風機の吹き込み口との間に、前記煙突内に水平方向に水を噴霧する水噴霧ノズルを設置してあること。
(19)前記送風機の吹き込み口より上部の煙突内の温度を検出す温度センサを備えていること。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、煤煙の発生を抑制するだけでなく、陶磁器の焼き上がりに不具合を生じさせることのない登り窯や穴窯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1の登り窯の構造を示す断面図である。
【図2】実施例2の登り窯の構造を示す断面図である。
【図3】実施例3の登り窯の構造を示す断面図である。
【図4】実施例4の穴窯の構造を示す断面図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態として、具体的な実施例を図面に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0021】
実施例1の登り窯1は、図1に示す様に、最下段の焚き口11から、徐々に上昇する勾配をもって連設される複数(実施例では3つ)の焼成室12〜14を備え、最終段の焼成室14から、煙道15a,15bを経由して煙突16へと煙を導き、排煙を行う様に構成された薪窯である。
【0022】
煙道15aには、開閉用のダンパー17が備えられている。このダンパー17は、全開位置と全閉位置の他に、中間開度の位置にも保持できる構造とされている。ダンパー17は、焚き始めから、床面との隙間が数cm〜5cm程度の排煙に必要最小限の中間開度で焼成を続行し、窯焚きを終了する時点で全閉にする。窯焚き終了時には、焚き口11も閉じられる。
【0023】
煙道15a,15bの間には、ダンパー17よりも下流に位置する様に、二次燃焼室20が設置されている。この二次燃焼室20は、煙道15a,15bよりも背が高く、幅も広くなっており、中程に中間壁21を備えている。この中間壁21の上流側の直前には、煙道15a,15bを横断する方向に燃料と空気を吹き込むバーナー22が設置されている。
【0024】
このバーナー22は、燃料(ガスあるいは灯油など)を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものであって、それ自体が、二次燃焼室20内に進入・後退する方向に移動可能に設置されている。また、二次燃焼室20の中間壁21の上部には、スリットの入った耐火レンガ製のロストル23が設置されている。そして、中間壁21の下流側でロストル23の上部に相当する位置に、温度センサ24が設置されている。この温度センサ24によって、二次燃焼室内の温度を計測し、二次燃焼の状態を温度面から観察することができる様になっている。なお、最終段の焼成室14にも温度センサ14aが設置され、焼成室内の温度を計測できる様になっている。
【0025】
また、二次燃焼室20の入口25の近傍には、バーナー22による吹き込み位置と入口25との間を仕切る様に仕切り壁26が設置されている。この仕切り壁26が存在する結果、焼成室14から排出された煙は、煙道15aを通過し、二次燃焼室20に入口25から入り込むと共に、仕切り壁22の上及び横を回り込んでバーナー22による吹き込み位置へと流入する構造とされている。
【0026】
また、煙突16の下部には、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機30が設置されている。この送風機30は、風量調整が可能なものであって、焼成中に駆動され、煙突16内に上昇気流を発生させて煙道15bからの排煙がスムーズに行われる様にアシストする。特に、焼成開始時には風量を大きめにすることで、床上数cm程度しかないダンパー17設置部の隙間を介して排煙を二次燃焼室20へとスムーズに引き出し、焼成室11〜14の通風を大きくすることによって薪の燃焼を活発化させる役割も発揮する。なお、この送風機30の風量が大きすぎると焼成室14の温度上昇を妨げる場合がある。そこで、送風機30の風量は、焼成室14に設置した温度センサ14aの温度検出値に基づいて調節し、焼成室温度を目的に適った状態で推移させる制御を行う。送風機30と焼成室温度センサ14aとによる風量調節が可能な結果、焚き始めから、ダンパー17を必要最小限の開度にしたままで焼成を行うことができる。ダンパー17の開度を必要最小限とすることもまた、二次燃焼ガスの逆流防止に役立っている。
【0027】
この実施例1の登り窯1は、窯詰めを行った後、焚き口11から薪を投入して燃焼を開始する。このとき、ダンパー17は、中間開度の位置で煙道の底から5cm程度の高さの開口を形成する程度にしておき、送風機30を駆動して煙突16内に上昇気流を発生させる。送風機30が煙道15a,15b内の煙を吸引する作用を発揮するため、ダンパー17はわずかな開口を形成する位置に下げておくことができるのである。
【0028】
この結果、薪の燃焼によって第1焼成室11で発生した煙は、第1焼成室12、第2焼成室13、第3焼成室14の内部を満たしながら煙道15aへと出て行く。そして、煙道15aへと出た煙は、仕切り壁26の上及び横を回り込む様にして二次燃焼室20の仕切り壁26と中間壁21の間に流れ出る。
【0029】
このとき、仕切り壁26と中間壁21の間には、バーナー22を前進させて燃料と空気を吹き込む。この結果、仕切り壁26と中間壁21の間に流れ出た煙中の未燃焼物(煤煙成分)に着火し、二次燃焼が実行される。
【0030】
この二次燃焼によって発生するガスは、中間壁21に沿って上昇し、二次燃焼室20の天井部分で中間壁21を乗り越えて後方に下降するように回り込み、後段の煙道15bを通過して煙突16へと吸い込まれていく。このとき、ロストル23が存在することによって煙突16へと流れるガスの勢いが弱められ、熱された状態のロストル23のスリットを通過する際に、ガス中の未燃焼成分が自然に着火し、二次燃焼がさらに確実に実行される。
【0031】
温度センサ14a,24の検出値に基づき、焼成室14及び二次燃焼室20の温度が800℃に達して二次燃焼が安定して実行されている状態を確認してから5〜10分程度経過した後に、バーナー22を後退させると共に、燃料噴出を停止し、空気のみを吹き込む状態にする。二次燃焼室20内が、既に、煤煙中の未燃焼成分の着火温度に保持されていることから、空気の吹き込みによって二次燃焼室20内での二次燃焼は維持される。バーナー22を後退させることで、ブロアーとして機能させる際の空気吹き込みによる二次燃焼室20内の気流の乱れを生じ難くなる。この結果、二次燃焼に十分な量の大量の空気を二次燃焼室20内に吹き込むことができる。
【0032】
こうして、焼成を進め、各焼成室12〜14の温度が予定温度に達し、所定時間が経過したら、焚き口11を閉じると共に、ダンパー17を全閉にし、バーナー22及び送風機30を停止する。こうして、窯内の温度を保持した状態で1日〜数日放置し、窯全体が冷えてから窯を開いて焼き上がった陶磁器を取り出す。
【0033】
本実施例によれば、二次燃焼室20での二次燃焼によって煙突16から排出される煙は無色透明の煤煙を含まないものとすることができる。ちなみに、各焼成室12〜14が空の状態で、焚き口11より薪を投入し、約60分間の燃焼を実施し、その間、「二次燃焼なし」の場合と「二次燃焼あり」の場合で、煙突16から排出される煤の量を計測したところ、「二次燃焼なし」の場合には0.031g/m3Nであったものが、二次燃焼を行うことによって0.0025g/m3Nと、煤塵の量が1/10以下になることが出願人の実験で確認されている。
【0034】
また、この様な煤塵を除去する効果の高い二次燃焼を実行しても、二次燃焼室20の入口25の直後には仕切り壁26を設置し、中間壁21を乗り越えた裏側にロストル23を設置し、さらに送風機30で煙突16内に上昇気流を強制的に生じさせることでダンパー17の開度を小さくしたので、二次燃焼によって膨張したガスが焼成室14へと逆流することがない。よって、二次燃焼室内での燃焼を活発化させても焼成室14の焼成環境に変動を引き起こすことがなく、焼き上がりの陶磁器に対して悪影響を及ぼすことがない。また、送風機30の風量で焼成室14の温度調節を行う様にしたので、ダンパー17の開度を焚き始めから窯焚終了まで同一開度に保ったままとすることができる。この結果、焼成室14と二次燃焼室20との間の排煙の流通環境を一定に保つことができ、焼成室の温度制御と二次燃焼とを安定的に両立させることができる。
【実施例2】
【0035】
実施例2の登り窯2は、図2に示す様に、実施例1の登り窯1とほぼ同様の構成となってるが、次の構成が追加されている。即ち、二次燃焼室20の直後に水噴霧室40を備えると共に、送風機30の吹き込み口31の下部び上部の煙突内の温度を検出す温度センサ32,33を備えさせている点である。
【0036】
水噴霧室40は、中程に中間壁41を備え、天井中央に水噴霧ノズル42を備えた部屋として構成されている。
【0037】
本実施例では、温度センサ32,33の検出温度に基づき、排気温度が所定温度以上のときに、水噴霧ノズル42を作動させて水噴霧による排気の冷却を行うことができる。これにより、煙突16からの排気の温度を低下させ、排気温度の面での環境への影響を最小限に抑制することができる。なお、水噴霧は、排気中の窒素酸化物等を除去する作用も発揮する。
【0038】
この実施例2においても、二次燃焼室内での燃焼を活発化させても焼成室14の焼成環境に変動を引き起こすことがなく、焼き上がりの陶磁器に対して悪影響を及ぼすことがないという効果については、実施例1と同様に発揮される。。
【実施例3】
【0039】
実施例3の登り窯3は、図3に示す様に、実施例1,2と異なる点として、煙道15には、二次燃焼室を備えていない。その代わりに、煙突16の下部に、斜め上方へ向かって燃料を空気と共に吹き込むバーナー51を設置してある。このバーナー51からの吹き出し口52は、煙突16内の煙道開口16aよりも上部に開口されている。そして、このバーナー51からの燃料吹き込み距離を考慮して吹き出し口52よりも所定距離上方に離れた位置に、スリット入りのロストル53が設置されている。これにより、バーナー51の吹き出し口52とロストル53の間の煙突内空間が、本実施例における二次燃焼室50となる。また、バーナー51は、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものである。なお、ロストル53は、バーナー51から炎が出ているときに炙られる位置に設置される。これにより、バーナー51からの燃料噴射を停止した後は、熱されたロストル53のスリットを通過する際にブロワーの空気を得た煤煙中の未燃焼成分に自然着火が生じ、二次燃焼が継続される。
【0040】
また、煙突16には、ロストル53よりも上方の位置から斜め上方に向かって空気を吹き込む様に送風機55が設置されている。そして、ロストル53の下部近傍と、送風機55の吹き出し口56の上部近傍に、それぞれ温度センサ57,58が設置されると共に、送風機55とロストル53の間に、水平方向に水噴霧する水噴霧ノズル59を備えている。
【0041】
この実施例3の登り窯3は、窯を焚き始めるとき、送風機55を駆動して煙突16内に上昇気流を発生させて煙道15からの煙を煙突16内へとスムーズに引き込む様にする。そして、煙突16内に引き込まれた煙は、バーナー51を駆動して燃料及び空気を吹き込んで二次燃焼させ、燃え残りの煤煙を燃焼させる。また、水噴霧ノズル59を作動させて上昇する排気の温度を冷却させると共に窒素酸化物等の成分を除去する。そして、ロストル53の直ぐ下に設置した温度センサ57で二次燃焼室50の内部の温度が自然発火可能な温度まで上昇して安定したことを確認した後は、バーナー51は燃料を停止して送風のみを行う状態に切り換える。
【0042】
以上の様にして、窯焚き中の煤煙を二次燃焼で除去しつつ、排気の温度を下げて環境への排気熱の影響を抑制することができる。また、煙突16内へのバーナー51からの吹き出しは、斜め上方に向かって実施されて、かつ、送風機55によって発生する上昇気流によってアシストされていることから、煙突内で生じた二次燃焼ガスは、煙道15側へと逆流することがなく、焼成室14等の環境に影響を与えることもない。
【実施例4】
【0043】
実施例4は、焼成室が一つの穴窯4において本発明を適用した例である。図4に示す様に、煙道15から先の構成においては、水噴霧ノズル59を備えていない点を除き、実施例3の登り窯3と同様の構成となっている。しかし、焚き口61から徐々に上昇する勾配をもって床面が形成される焼成室62には、登り窯1〜3の様な途中の仕切りはなく、焼成室一つだけの構造となっている。
【0044】
この実施例4の穴窯4においても、窯を焚き始めるとき、送風機55を駆動して煙突16内に上昇気流を発生させて煙道15からの煙を煙突16内へとスムーズに引き込む様にする。そして、煙突16内に引き込まれた煙は、バーナー51を駆動して燃料及び空気を吹き込んで二次燃焼させ、燃え残りの煤煙を燃焼させる。そして、二次燃焼室62に設置した温度センサ62aとロストル53の直ぐ下に設置した温度センサ57の検出値がいずれも800℃以上となり、二次燃焼室50の内部の温度が自然発火可能な温度まで上昇して安定したことを確認した後は、バーナー51は燃料を停止して送風のみを行う状態に切り換える。
【0045】
以上の様にして、窯焚き中の煤煙を二次燃焼で除去しつつ、排気の温度を下げて環境への排気熱の影響を抑制することができる。また、煙突16内へのバーナー51からの吹き出しは、斜め上方に向かって実施されて、かつ、送風機55によって発生する上昇気流によってアシストされていることから、煙突内で生じた二次燃焼ガスは、煙道15側へと逆流することがなく、焼成室62の環境に影響を与えることもない。
【0046】
以上、発明を実施形態として実施例1〜3を説明したが、本発明は、これらに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内における種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、実施例3において水噴霧ノズル59を備えないものとしても、煤煙を抑えつつ、焼成環境に影響を与えないという本発明の目的を十分に達成し得る登り窯を構成することができる。逆に、実施例4において水噴霧ノズル59を備えさせた穴窯とすることもできる。
【0048】
また、実施例1,2のバーナー22はブロワーとしては用いないこととして、バーナー22を後退させた状態で駆動され、仕切り壁26の背面位置に空気を吹き込むブロワーを別途備える様にしてもよい。
【0049】
同じく、実施例3,4のバーナー51と並列にブロワーを別途備える様にしてもよい。
【0050】
加えて、実施例1,2において、バーナー22は二次燃焼室20に対して進入・後退する機能を有しないものとしておいても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、薪を燃料とする登り窯や穴窯に適用することで、作品に影響を与えることなく煤煙を除去する技術として利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1・・・実施例1の登り窯
2・・・実施例2の登り窯
3・・・実施例3の登り窯
4・・・実施例4の穴窯
11・・・焚き口
12〜14・・・焼成室
14a・・・温度センサ
15,15a,15b・・・煙道
16・・・煙突
16a・・・煙道開口
17・・・ダンパー
20・・・二次燃焼室
21・・・中間壁
22・・・バーナー
23・・・ロストル
24・・・温度センサ
25・・・二次燃焼室の入口
26・・・仕切り壁
30・・・送風機
31・・・送風機からの吹き込み口
32,33・・・温度センサ
40・・・水噴霧室
41・・・中間壁
42・・・水噴霧ノズル
50・・・二次燃焼室
51・・・バーナー
52・・・バーナーからの吹き出し口
53・・・ロストル
55・・・送風機
56・・・送風機の吹き出し口
57,58・・・温度センサ
59・・・水噴霧ノズル
61・・・焚き口
62・・・焼成室
62a・・・温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焚き口から煙道にかけての床面が徐々に上昇する様に構成された焼成室を備え、該焼成室の末端部から煙道を介して設置された煙突から排煙を行う様に構成され、焼成室内の温度を検出する温度センサも備えた薪窯であって、以下の構成を備えたことを特徴とする陶芸用薪窯。
(1)前記煙道を開閉するダンパーであって、中間開度にも開度を設定することができるものを備えていること。
(2)前記ダンパーよりも下流の位置に、前記煙道を横断する方向に燃料と空気を吹き込むバーナーを設置すると共に、該バーナーの設置されている部分に、前記煙道よりも断面積の大きい二次燃焼室を形成してあること。
(3)前記バーナーによる吹き込み位置と前記ダンパーとの間に、仕切り壁を設置し、前記焼成室からの排煙は当該仕切り壁を回り込んで二次燃焼室内に流入する構造としたこと。
(4)前記煙突の下部には、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機であって、風量調節が可能なものが設置されていること。
(5)前記二次燃焼室は、前記煙道よりも背が高く、前記バーナーの後背位置には中間壁が立設され、当該二次燃焼室内の気流が前記バーナーによる吹き込み位置から上昇した後、前記中間壁を乗り越えて下降し、後方の煙道へと排出される構造とされていること。
(6)前記バーナーは、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものであること。
(7)前記二次燃焼室の前記中間壁よりも後方の位置に設置され、当該二次燃焼室内の温度を検出す温度センサを備えていること。
【請求項2】
前記(6)の構成を以下の構成に変更したことを特徴とする請求項1記載の陶芸用薪窯。
(6’)前記バーナーを停止したときに、前記仕切り壁と前記中間壁の間の前記バーナーによる燃料吹き込み位置へと空気を吹き込むブロワーを別途備えていること。
【請求項3】
さらに、以下の構成をも備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の陶芸用薪窯。
(8)前記二次燃焼室と前記煙突との間に、水噴霧室を形成し、該水噴霧室の天井に水噴霧ノズルを設置してあること。
(9)前記送風機の吹き込み口より上部の煙突内の温度を検出す温度センサを備えていること。
【請求項4】
焚き口から煙道にかけての床面が徐々に上昇する様に構成された焼成室を備え、該焼成室の末端部から煙道を介して設置された煙突から排煙を行う様に構成され、焼成室内の温度を検出する温度センサも備えた薪窯であって、以下の構成を備えたことを特徴とする陶芸用薪窯。
(11)前記煙道を開閉するダンパーであって、中間開度にも開度を設定することができるものを備えていること。
(12)前記煙突内に斜め上方へ向かって燃料を空気と共に吹き込むバーナーが設置されていること。
(13)前記バーナーからの吹き出し口は、前記煙突内の煙道開口よりも上部に開口されていること。
(14)前記煙突内には、前記バーナーからの燃料吹き込み距離を考慮して前記吹き出し口よりも所定距離上方に離れた位置に、スリット入りの水平仕切り部材が設置されていること。
(15)前記煙突には、前記水平仕切り部材よりも上方の位置から、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機であって、風量調節が可能なものが設置されていること。
(16)前記バーナーは、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものとされていること。
(17)前記水平仕切り部材の設置位置付近の煙突内の温度を検出する温度センサを備えていること。
(11)前記煙道を開閉するダンパーを備えていること。
(12)前記煙突内に斜め上方へ向かって燃料を空気と共に吹き込むバーナーが設置されていること。
(13)前記バーナーからの吹き出し口は、前記煙突内の煙道開口よりも上部に開口されていること。
(14)前記煙突内には、前記バーナーからの燃料吹き込み距離を考慮して前記吹き出し口よりも所定距離上方に離れた位置に、スリット入りの水平仕切り部材が設置されていること。
(15)前記煙突には、前記水平仕切り部材よりも上方の位置から、斜め上方に向かって空気を吹き込む送風機が設置されていること。
(16)前記バーナーは、燃料を停止して空気のみを吹き込むブロワーとして使用可能なものとされていること。
(17)前記水平仕切り部材の設置位置付近の煙突内の温度を検出する温度センサを備えていること。
【請求項5】
前記(16)の構成を以下の構成に変更したことを特徴とする請求項4記載の陶芸用薪窯。
(16’)前記バーナーを停止したときに、前記バーナーの吹き出し口から空気を吹き込むブロワーを別途備えていること。
【請求項6】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項4又は5記載の陶芸用薪窯。
(18)前記水平仕切り部材と前記送風機の吹き込み口との間に、前記煙突内に水平方向に水を噴霧する水噴霧ノズルを設置してあること。
(19)前記送風機の吹き込み口より上部の煙突内の温度を検出す温度センサを備えていること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−271002(P2010−271002A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124915(P2009−124915)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(309015318)イシカワ電子株式会社 (1)
【Fターム(参考)】