説明

離型油

【課題】乳化油脂タイプの従来の離型油は、固型タイプや液状タイプの離型油に比べ、塗布効率の問題や飛散ミスト、液ダレの問題を生じ難い反面、焼成後の食品の色や艶が劣り、乳化剤を含む場合には風味への影響を生じ易かった。また乳化剤を含まない乳化油脂タイプの離型油は、長期間の保存によって分離を生じたり、離型性も十分でなく、安定性、離型性を高めようとすると機械噴霧による塗布が困難となったり、食品の風味を低下させたりする虞があった。本発明は従来の離型油の問題を解決した乳化油脂タイプの離型油を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の離型油は、20℃における固体脂含量が3%以下の液状油脂60〜85重量%、融点50℃以上の高融点油脂0.1〜5.0重量%、ワックス0.1〜5.0重量%、水10〜40重量%(ただし、液状油脂、高融点油脂、ワックス、水の合計は100重量%)を含有するW/O型乳化物よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン類等の食品を製造する際の離型剤として、天板や型、容器に塗布して用いられる離型油に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類、焼き菓子、ケーキ等の洋菓子類、人形焼き、鯛焼き、どらやき等の和菓子類を製造する過程において、食品の離型性を高める目的で離型油が使用されている。例えばパン製造では、発酵時の発酵槽への付着低減や、焼成時の焼き型への付着を抑制するために離型油が用いられている。離型油は固型油脂タイプ、液状・流動状油脂タイプ、乳化油脂タイプに大別され、固形状油脂タイプの離型油は、付着性、離型性は良いものの、ローラー、モップ状の油拭き等を用いて型に手塗り塗布するため、衛生上の問題や塗布効率の面で問題がある。液状・流動状油脂タイプの離型油は、機械噴霧による塗布が可能であるため衛生上の問題が少なく塗布効率も良いが、特に液状タイプは噴霧塗布時の飛散ミストが多く、液ダレによって型の底面に油脂分がたまり、食品の底部側の吸油量が多くなったり、製品が不均一になるという問題がある。また乳化油脂タイプの離型油は、油脂と水を乳化剤によりW/O型に乳化したものであり、飛散ミストや液ダレの問題が生じ難いが、焼成後の食品の色や艶が固型油脂タイプの離型油や液状油脂タイプの離型油に比べて劣るという問題があった。また乳化剤を含むために風味等への影響を生じやすく、近年の消費者の健康志向と相俟って乳化剤を含まない乳化油脂タイプの離型油が望まれている。
【0003】
このような要望に応えるため、乳化剤を用いずに安定なW/O型乳化物とするために種々の工夫がされており、液状油脂、動植物ワックス、水を特定の割合で配合し、ワックス成分中に木蝋を特定量配合して特定の粘度とすることで、W/O型乳化物としたもの(特許文献1)、油脂、キャンデリラワックス、水を特定の割合で配合し、特定温度で加熱後、特定の速度で冷却することでW/O型乳化物としたもの(特許文献2)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−22791号公報
【特許文献2】特開2008−237188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2等に記載されているような、乳化剤を含まずワックスを含む従来の乳化油脂タイプの離型油は、ワックスの添加量が少ないと乳化安定性が劣り、長期間保存すると分離が起こり、離型性も不十分となる。ワックス添加量を多くすると高粘度となり、機械噴霧による塗布が困難となるばかりか、食品の風味を悪くしたり、残存した離型油が重合して型、容器を汚し、食品の汚染等の問題があった。
本発明は上記従来の離型油の問題点に鑑みなされたもので、乳化剤を含まない乳化油脂タイプの離型油、固型油脂タイプや液状・流動状油脂タイプの離型油の有する上記の問題を解決できるとともに、乳化剤を含む従来の乳化油脂タイプの離型油の有する問題も解決することのできる乳化油脂タイプの離型油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
(1)20℃における固体脂含量が3%以下の液状油脂60〜85重量%、融点50℃以上の高融点油脂0.1〜5.0重量%、ワックス0.1〜5.0重量%、水10〜40重量%(ただし、液状油脂、高融点油脂、ワックス、水の合計は100重量%)を含有するW/O型乳化物よりなることを特徴とする離型油、
(2)W/O型乳化物中に、更にアルカリ性物質が含有されている上記(1)の離型油、
(3)ワックスがカルナウバワックスである上記(1)又は(2)の離型油、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の離型油は、機械噴霧による塗布が容易であり、飛散ミストや液ダレを生じることなく、型等に均一に塗布することができ、食品の離型性にも優れている。また繰り返し型等に塗布しても型汚れが生じ難く、食品を汚染する虞も少なく、色、艶、表面状態の良い食品を得ることが出来る。また乳化剤を含んでいないにもかかわらず乳化が安定であり、乳化剤による食品風味低下の問題もない。本発明の離型油は、更にアルカリ物質を含んでいると、微細な乳化状態となり乳化安定性が向上するとともに、ワックス量の低減が可能であり、食品の風味、色、艶を更に向上できる。またワックスとしてカルナウバワックスを用いると、焼成時の離型性が更に向上できる等の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において20℃における固体脂含量が3%以下の液状油脂としては、菜種油、米油、コーン油、サフラワー油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、オリーブ油等の植物油脂、これらの油脂を精製したサラダ油、これらの油脂を固体脂含量が、20℃で3%以下となるように微水添した油脂、分別油、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセライド)等が挙げられる。これらのうち、熱安定性の良い菜種油、米油、コーン油、サフラワー油、MCT、分別油を単独または混合して用いることが好ましい。固体脂含量が20℃で3%を超える液状油脂を用いると、流動状を保持しなくなり、噴霧塗布が不可能になる虞がある。
【0009】
高融点油脂としては、融点50℃以上の硬化油脂が挙げられるが菜種硬化油、パーム硬化油、大豆硬化油、ラード硬化油、牛脂硬化油、魚油硬化油等を用いることが出来る。融点57℃以上のものが好ましく、融点60℃以上ものがより好ましい。
尚、本発明において、液状油脂の固体脂含量は、日本油化学協会基準油脂分析試験法(2003年版)2.2.9 固体脂含量(NMR法)に規定の方法に準じて測定を行う。また高融点油脂の融点は、日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.2.4.2 融点(上昇融点)に規定の方法に準じて測定を行う。
【0010】
ワックスとしては、モクロウ、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックスや、ラノリン、ミツロウなどの動物系ワックスが挙げられ、これらは一種または二種以上を混合して用いることができる。ワックスとしては、比較的乳化力に優れ、風味、離型性が良好なカルナウバワックスが好ましい。
【0011】
本発明の離型油は、上記液状油脂60〜85重量%、高融点油脂0.1〜5.0重量%、ワックス0.1〜5.0重量%、水10〜40重量%(但し、液状油脂、高融点油脂、ワックス、水の合計は100重量%)含有するW/O型乳化物よりなる。液状油脂が60重量%未満の場合、離型性が悪く、また水の量が多くなるため、乳化に必要なワックス量が多く必要となり粘度が高く、機械による噴霧塗布が困難となる虞がある。また液状油脂が85重量%を超えると、油分が多くなり飛散ミストが多く発生し、粘度が低く噴霧塗布後に液ダレを生じる虞がある。また高融点油脂が0.1重量%未満の場合、粘度が低く乳化安定性が劣り、離型性も悪くなる。5重量%を超えると、粘度が高くなりすぎて噴霧が困難となる虞がある。ワックスの割合が0.1重量%未満の場合、離型性が低下し、粘度が低く乳化安定性が劣り、液ダレを生じる。5重量%を超えると粘度が高くなり過ぎ、機械噴霧による塗布が良好に行えなくなるとともに、風味も低下する。本発明の離型油は、液状油脂65〜75重量%、高融点油脂0.5〜3重量%、ワックス1〜3重量%、水20〜30重量%(但し、液状油脂、高融点油脂、ワックス、水の合計は100重量%)が好ましい。
【0012】
本発明の離型油は、更にアルカリ性物質を含有していると、乳化安定性が向上するとともに、食品の焼き色や艶が良好となり、風味を損なう虞のあるワックスを減量することができる。アルカリ性物質としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸二ナトリウム等が挙げられるが、乳化安定性が良好となる炭酸ナトリウムが好ましい。アルカリを使用する場合、アルカリの割合は使用する水に対して0.1〜0.5重量%が好ましく、0.2〜0.4重量%がより好ましい。
【0013】
本発明の離型油は、液状油脂、高融点油脂、ワックスを加熱溶解して調製した油相を同温度に保持しながら、必要に応じてアルカリ性物質を配合した水相を加熱し油相に少量ずつ加える。ホモミキサーで攪拌し、W/O型に乳化後、急冷して本発明の離型油を得ることができる。
本発明の離型油を噴霧塗布する機械として、パン製造における発酵槽に噴霧塗付するには、各種のエアーレス方式のスプレーガン等が使用可能であり、またパンや菓子、和菓子等の焼き型に噴霧塗付する機械としては、各種の乳化タイプ用グリーサー(塗付機)が使用可能である。また、刷毛、モップ状の油拭き、ローラー等の手塗り作業にも使用可能である。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1〜8、比較例1〜7
表1、2に示す油相成分を80〜90℃に加熱溶解して油相を調製し、同温度に保持したまま90℃に加熱した水相を添加してホモミキサーで攪拌、乳化後、70〜80℃に保持し20℃に急冷して離型油を得た。得られた離型油を発酵槽用離型油として用いて食パンを焼成し、離型油の乳化安定性、塗布時付着性、塗布時飛散ミスト、離型性、風味を試験した。結果を表1(実施例)、表2(比較例)に示す。
【0015】
実施例9〜17、比較例8〜16
表3、4に示す油相成分を80〜90℃に加熱溶解して油相を調製し、同温度に保持したまま90℃に加熱した水相を添加してホモミキサーで攪拌、乳化後、70〜80℃に保持し20℃に急冷して離型油を得た。得られた離型油を焼き型用離型油として用いて食パンを焼成し、離型油の乳化安定性、塗布時付着性、塗布時飛散ミスト、離型性、離型後の型の汚れ、得られた食パンの表面状態、風味を試験した。結果を表3(実施例)、表4(比較例)に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
尚、比較例1、2、3、4は粘度が高くスプレーガンで塗布不可能であったため塗布時付着性、飛散ミストの試験は行わなかった。また比較例6は離型油作成直後に離水し、乳化不可能であったため乳化安定性以外の各種評価は行わなかった。
【0019】
【表3】

【0020】
【表4】

【0021】
尚、比較例15は水を含有しないため乳化安定性試験は行わなかった。比較例9、12は型より離型しなかったため食パンの表面状態、風味の評価は行わなかった。比較例13は粘度が高くスプレーガンで塗布不可能であったため塗布時付着性、飛散ミストの試験は行わなかった。
【0022】
※1 固体脂含量0%
※2 融点62℃
※3 融点50℃
※4 融点58℃
※5 固体脂含量5%
※6 融点34℃
※7 PGPR:ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル
【0023】
※8 乳化安定性
調製した離型油100mlをサンプル瓶に取り、20℃の恒温槽中に10日間静置した後、乳化状態を目視により以下のように評価を行った。
◎:液表面に1mm未満の液体脂がみられるが、他は分離が無く均一である。
○:液表面に1mm以上〜3mm未満の液体脂がみられるが、他は分離が無く均一である。
△:液表面に3mm以上〜6mm未満の液体脂がみられるが、他は分離が無く均一である。
×:水相、乳化相、油相に分離する。
【0024】
※9 塗布時付着性、
スプレーガン(アネスト岩田製エアーレスユニットALS122型)を使用し、NT2505ノズルを装着し使用圧力1〜2kg/cmで離型油を、垂直に立てかけた6取天板に横方向50cmより1秒間噴霧して、30分後の付着状況を目視により以下のように評価をした。
◎:液ダレがなく付着性は良好である。
○:液ダレが若干ある。
△:液ダレ多くある。
×:液ダレが多く下にたまる。
【0025】
※10 塗布時飛散ミスト
付着性試験と同じスプレーガンを使用して床に置いた6取天板に上部方向1mより離型油を噴霧し、飛散するミストの発生状況を目視により以下のように評価した。
◎:ミストは殆ど発生しない。
○:ミストは少々発生するが舞い上がらずに下に落ちる。
△:ミストやや多くやや上に舞い上がる。
×:ミスト多く上に舞い上がる。
【0026】
※11 発酵槽の離型性
食パン中種配合(配合:強力粉70%、イースト2.2%、イーストフード0.1%、水45%)2kg仕込で離型性試験を行った。縦型ミキサーで生地のミキシングを行い、ステンレス製ボール(上部内寸18cm、高さ87.5cm)に離型油0.5gを刷毛で塗付し、分割した生地250gを入れ、温度27℃、湿度75%ホイロに4時間発酵させる。4時間後、発酵相よりボールを取り出し、30cmの高さより反転し生地が落下するまでの時間と生地の付着状態を目視により評価した。
◎:反転して10秒未満で落下し、ボールへの付着は殆どない。
○:反転して10秒〜2分未満で落下し、ボールへの付着は若干あり。
△:反転して2分〜10分未満で落下し、ボールへの付着は非常に多い。
×:10分以上逆転しても落下はしない
【0027】
※12 発酵槽用離型性の風味
離型油をビーカーに採取し、パネラー10名で風味の官能検査を行い、下記のように評価した。
◎:10名中8名以上が異味・異臭がないと判断した。
○:10名中5〜7名が異味・異臭がないと判断した。
△:10名中3〜4名が異味・異臭がないと判断した。
×:10名中2名以下が異味・異臭がないと判断した。
【0028】
※13 焼き型の離型性
リッチな食パン配合(配合:強力粉100%、砂糖10%、食塩2%、全卵20%、マーガリン15%、脱粉3%、イースト5%、フード0.1%、水45%)2kg仕込みストレート法にて焼成し焼き型の離型性試験を行った。縦型ミキサーで食パン生地をミキシングし、温度27℃、湿度75%で発酵させ、分割、成形後、離型油1.5gを刷毛で塗布した食パン用焼き型(ワンローフ型)に生地320gを入れ、ホイロ温度38℃、湿度80%で50分発酵させ、温度180℃オーブンにて25分焼成して得た食パンの焼き型からの離型性を確認した。焼成後、焼き型を反転し30cmの高さよりパンを落下させ、1回で落下しない場合、焼き型を上に向け30cmの高さより落下させ、再度反転しパンを落下させ、落下する回数と焼き型に付着したパン生地の付着状態を目視により評価した。
◎:落下1回目で離型し、焼き型への付着は殆どない。
○:落下2〜3回目で離型し、焼き型への付着は少々ある。
△:離型に4〜10回の落下を要し、焼き型への付着は多い。
×:10回落下させてもパンは離型しない。
【0029】
※14 型の汚れ
離型油を加熱し、離型油の重合の進み具合が遅い程、型の汚れが少ないとして型の汚れを評価した。シャーレ(直径6cm、高さ1.5cm)に離型油1.5gを採取し、190℃恒温槽に5時間保管して重合する状態を目視、触指により以下のように評価した。
◎:粘度が高い液状。
○:ペースト状になる。
△:柔らかいガム状になる。
×:硬いガム状になる。
【0030】
※15 食パンの表面状態
焼成した食パン側面(焼き型に接した部分)の焼き色、艶を観察し、目視より評価した。
◎:焼き色、艶共に良好である。
○:焼き色は若干白っぽくなるが、艶は良好である。
△:焼き色は若干白っぽくなり、艶が若干劣る。
×:焼き色は白っぽくなり、艶も劣る。
【0031】
※16 食パンの風味
焼成した食パンをパネラー10名で風味の官能検査を行い下記のように評価した。
◎:10名中8名以上が異味・異臭がないと判断した。
○:10名中5〜7名が異味・異臭がないと判断した。
△:10名中3〜4名が異味・異臭がないと判断した。
×:10名中2名以下が異味・異臭がないと判断した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20℃における固体脂含量が3%以下の液状油脂60〜85重量%、融点50℃以上の高融点油脂0.1〜5.0重量%、ワックス0.1〜5.0重量%、水10〜40重量%(ただし、液状油脂、高融点油脂、ワックス、水の合計は100重量%)を含有するW/O型乳化物よりなることを特徴とする離型油。
【請求項2】
W/O型乳化物中に、更にアルカリ性物質が含有されている請求項1記載の離型油。
【請求項3】
ワックスがカルナウバワックスである請求項1又は2記載の離型油。

【公開番号】特開2011−130712(P2011−130712A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293596(P2009−293596)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【Fターム(参考)】