説明

難燃剤分散性向上剤、熱可塑性樹脂組成物及び成形体

【課題】熱可塑性樹脂中での難燃剤の分散性を向上させ、得られる成形体の難燃性を向上させる難燃剤分散性向上剤を提供する。
【解決手段】炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位を50質量%以上含むアルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤。前記難燃剤分散性向上剤、熱可塑性樹脂、難燃剤、及び、必要に応じてポリテトラフルオロエチレン含有樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物。前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤分散性向上剤、前記難燃剤分散性向上剤、熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む熱可塑性樹脂組成物並びに前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱可塑性樹脂の難燃化の要求は高まっており、難燃化された熱可塑性樹脂材料は、自動車用部材、家電用部材等を中心に幅広く用いられている。特に、リン系難燃剤は、非ハロゲンであるため環境負荷が小さく、比較的安価で、少量の添加で熱可塑性樹脂の難燃性を付与できる。
例えば、特許文献1では、ポリプロピレン樹脂にリン酸塩系難燃剤を配合する方法が提案されている。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂にリン酸エステル系難燃剤及びメチルメタクリレート単位を主成分とするアルキルメタクリレート系重合体を配合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−26935号公報
【特許文献2】特開2002−249668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で提案されている方法では、難燃剤の分散性が不充分で、得られる成形体の難燃性が劣る。
【0005】
本発明は、熱可塑性樹脂中での難燃剤の分散性を高め、得られる成形体の難燃性を向上させる難燃剤分散性向上剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位を50質量%以上含むアルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤(A)である。
【0007】
また、本発明は、難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物である。
また、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体である。
更に、本発明は、難燃剤分散性向上剤(A)及び難燃剤(C)の全量と熱可塑性樹脂(B)の一部とでマスターバッチを製造した後、前記マスターバッチ及び熱可塑性樹脂(B)の残部を配合する前記熱可塑性樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の難燃剤分散性向上剤は、熱可塑性樹脂中での難燃剤の分散性を高め、得られる成形体の難燃性を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の難燃剤分散性向上剤(A)は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位を50質量%以上含むアルキルメタクリレート系重合体を含む。
【0010】
本発明のアルキルメタクリレート系重合体は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位を50質量%以上含む。
【0011】
本発明のアルキルメタクリレート単位は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位である。
アルキルメタクリレート単位のアルキル基の炭素数が2以上であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
【0012】
これらの炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位の中でも、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性を向上させ、得られる難燃剤分散性向上剤(A)の粉体取扱性が良好であることから、炭素数が2〜6のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位が好ましく、炭素数が4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位であるn−ブチルメタクリレート単位、i−ブチルメタクリレート単位、sec−ブチルメタクリレート単位、t−ブチルメタクリレート単位がより好ましく、i−ブチルメタクリレート単位が更に好ましい。
【0013】
アルキルメタクリレート系重合体(100質量%)中の炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位の含有率は、50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましい。
炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位の含有率が50質量%以上であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
【0014】
本発明の炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位を50質量%以上含むアルキルメタクリレート系重合体は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)を50質量%以上含む単量体成分(a)を重合することにより得られる。
【0015】
炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)としては、例えば、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、i−プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、i−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートが挙げられる。これらのアルキルメタクリレート(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
これらの炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)の中でも、炭素数が2〜6のアルキル基を有するアルキルメタクリレートが好ましく、炭素数が4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートがより好ましく、i−ブチルメタクリレートが更に好ましい。
炭素数が2以上であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。また、炭素数が6以下であると、得られる難燃剤分散性向上剤(A)の粉体取扱性が良好となる。
【0017】
単量体成分(a)は、必要に応じて、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)以外にも共重合可能な他の単量体(a2)を含んでもよい。これらの他の単量体(a2)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリル酸;メチル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類が挙げられる。これらの他の単量体(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」又は「メタクリレート」を示す。
【0018】
単量体成分(a)の組成比は、炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)と他の単量体(a2)の合計100質量%中、(a1)が50質量%以上、(a2)が50質量%以下であり、(a1)が70質量%以上、(a2)が30質量%以下であることが好ましく、(a1)が85質量%以上、(a2)が15質量%以下であることがより好ましい。
炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)が50質量%以上であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
他の単量体(a2)が50質量%以下であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
【0019】
アルキルメタクリレート系重合体の重合方法としては、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、微細懸濁重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合等の公知の重合方法が挙げられる。これらの重合方法の中でも、難燃剤分散性向上剤(A)と難燃剤(C)との配合が良好となることから、乳化重合、ソープフリー乳化重合が好ましく、乳化重合がより好ましい。
【0020】
アルキルメタクリレート系重合体を乳化重合、ソープフリー乳化重合等の粒子構造体を得ることができる重合方法を用いて重合する場合の粒子構造は、単層構造であっても多層構造であってもよい。粒子構造が多層構造粒子の場合、経済性の観点から、3層構造以下であることが好ましい。
【0021】
アルキルメタクリレート系重合体を乳化重合により得る場合の乳化剤は、公知の乳化剤を用いることができ、例えば、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、高分子乳化剤、分子内にラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する反応性乳化剤が挙げられる。
【0022】
アニオン性乳化剤としては、例えば、「ニューコール560SF」、「ニューコール562SF」、「ニューコール707SF」、「ニューコール707SN」、「ニューコール714SF」、「ニューコール723SF」、「ニューコール740SF」、「ニューコール2308SF」、「ニューコール2320SN」、「ニューコール1305SN」、「ニューコール271A」、「ニューコール271NH」、「ニューコール210」、「ニューコール220」、「ニューコールRA331」、「ニューコールRA332」(商品名、日本乳化剤(株)製);「ラテムルB−118E」、「レベノールWZ」、「ネオペレックスG15」(商品名、花王(株)製);「ハイテノールN08」(商品名、第一工業製薬(株)製)が挙げられる。
ノニオン性乳化剤としては、例えば、「ノニポール200」、「ニューポールPE−68」(商品名、三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
高分子乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリビニルピロリドンが挙げられる。
反応性乳化剤としては、例えば、「Antox MS−60」、「Antox MS−2N」(商品名、日本乳化剤(株)製);「エレミノールJS−2」(商品名、三洋化成工業(株)製);「ラテムルS−120」、「ラテムルS−180」、「ラテムルS−180A」、「ラテムルPD−104」(花王(株)製);「アデカリアソープSR−10」、「アデカリアソープSE−10」(商品名、(株)ADEKA製);「アクアロンKH−05」、「アクアロンKH−10」、「アクアロンHS−10」(商品名、第一工業製薬(株)製)等の反応性アニオン乳化剤;「アデカリアソープNE−10」、「アデカリアソープER−10」、「アデカリアソープNE−20」、「アデカリアソープER−20」、「アデカリアソープNE−30」、「アデカリアソープER−30」、「アデカリアソープNE−40」、「アデカリアソープER−40」(商品名、(株)ADEKA製);「アクアロンRN−10」、「アクアロンRN−20」、「アクアロンRN−30」、「アクアロンRN−50」(商品名、第一工業製薬(株)製)等の反応性ノニオン性乳化剤が挙げられる。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
アルキルメタクリレート系重合体を得るための重合開始剤は、公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系化合物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル等の油溶性アゾ系化合物;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシエチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]及びその塩類、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)及びその塩類、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]及びその塩類等の水溶性アゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、乳化重合法にて重合を行う場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、アスコルビン酸塩等の還元剤を、上記ラジカル重合開始剤と組合せて用いることもできる。
【0024】
アルキルメタクリレート系重合体の粉体化方法は、特に限定されるものではなく、重合方法に応じて適宜選択できる。例えば、アルキルメタクリレート系重合体を乳化重合により得る場合のアルキルメタクリレート系重合体の粉体化方法は、例えば、凝析法、スプレードライ法、遠心分離法、凍結乾燥法が挙げられる。これらの粉体化方法の中でも、得られるアルキルメタクリレート系重合体粉体の均質性が良好となることから、凝析法、スプレードライ法が好ましい。
【0025】
凝析法を用いてアルキルメタクリレート系重合体ラテックスを粉体化する場合、アルキルメタクリレート系重合体ラテックスを30〜90℃で凝析剤に接触させ、攪拌しながら凝析させてスラリーとし、脱水乾燥することで、アルキルメタクリレート系重合体を粉体化することができる。凝析法における凝析剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸類;蟻酸、酢酸等の有機酸類;硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等の無機塩類;酢酸カルシウム等の有機塩類が挙げられる。
【0026】
スプレードライ法を用いてアルキルメタクリレート系重合体ラテックスを粉体化する場合、アルキルメタクリレート系重合体ラテックスを、入口温度120〜220℃、出口温度40〜90℃の条件で、スプレードライヤーにより噴霧乾燥することで、アルキルメタクリレート系重合体を粉体化することができる。出口温度としては、アルキルメタクリレート系重合体粉体の1次粒子への解砕性が良好となることから、40〜80℃が好ましく、40〜70℃がより好ましい。
【0027】
本発明のアルキルメタクリレート系重合体は、同一の重合体を単独で用いてもよく、組成、分子量、粒子径等の異なる重合体を2種以上併用してもよい。
【0028】
アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量は、1,000〜3,000,000が好ましく、3,000〜500,000がより好ましく、5,000〜100,000が更に好ましく、10,000〜50,000が特に好ましい。
アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量が1,000以上であると、得られる難燃剤分散性向上剤(A)の粉体取扱性が良好となる。また、アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量が3,000,000以下であると、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
尚、アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定される。
【0029】
アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量の調整方法は、特に限定されるものではなく、例えば、重合開始剤量を調整する方法、連鎖移動剤量を調整する方法が挙げられる。
【0030】
連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
連鎖移動剤の使用量は、アルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量、用いる連鎖移動剤の種類、単量体の組成比等に応じて、適宜調整することができる。
【0032】
本発明の難燃剤分散性向上剤(A)は、アルキルメタクリレート系重合体以外にも、必要に応じて、アエロジル等のブロッキング防止剤等の添加剤を含んでもよい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)を含む。
【0034】
本発明の難燃剤分散性向上剤(A)は、本発明のアルキルメタクリレート系重合体を含む。本発明の難燃剤分散性向上剤(A)は、難燃剤(C)を熱可塑性樹脂(B)へ配合する際に、難燃剤(C)の分散性を高める役割を果たす。
【0035】
熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂(B)の中でも、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が向上し、得られる成形体の難燃性が向上することから、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィン系単量体の単独重合体又はオレフィン系単量体を主成分とする単量体混合物の共重合体をいう。
オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。
オレフィン系単量体の単独重合体又はオレフィン系単量体を主成分とする共重合体としては、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン/プロピレン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリブテン、これらの混合物が挙げられる。
【0037】
本発明の難燃剤分散性向上剤(A)により分散性を高めることができる難燃剤(C)は、特に限定されるものではなく、例えば、臭素系難燃剤、リン酸塩系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、チッソ系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ヒンダードアミン系難燃剤が挙げられる。
臭素系難燃剤としては、例えば、「FR−1025M」、「FR−1524」、「FR−2124」、「F−2016」、「F−2300」、「F−2310」、「F−2300H」(商品名、ICL−IPジャパン(株)製);「フレームカット 120G」、「フレームカット 121K」、「フレームカット 122K」(商品名、東ソー(株)製);「SAYTEX RB−100」、「SAYTEX BT−93」、「SAYTEX BT−93W」、「SAYTEX 8010」、「SAYTEX HP−7010P」(商品名、アルベマール日本(株))が挙げられる。
リン酸塩系難燃剤としては、例えば、「アデカスタブ FP−2100J」、「アデカスタブ FP−2200」、「アデカスタブ FP−2200S」(商品名、(株)ADEKA);「ファイアカットP770」(商品名、鈴裕化学(株))が挙げられる。
リン酸エステル系難燃剤としては、例えば、「TPP」、「TCP」、「TXP」、「CDP」、「CR−733S」、「CR−741」、「PX−200」、「TMCPP」、「CR−900」、「CR−509」、「CR−530」、「CR−504L」(商品名、大八化学工業(株));「アデカスタブ PFR」、「アデカスタブ FP−500」、「アデカスタブ FP−600」(商品名、(株)ADEKA)が挙げられる。
金属水酸化物系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウムを主成分とした難燃剤、水酸化アルミニウムを主成分とした難燃剤、これらの混合物が挙げられる。
チッソ系難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレートを主成分とした難燃剤が挙げられる。
シリコーン系難燃剤としては、例えば、直鎖状の分子構造を有するシリコーンオイル系難燃剤、架橋構造を有するシリコーン樹脂系難燃剤が挙げられる。
ヒンダードアミン系難燃剤としては、例えば、NOR構造を有するヒンダードアミン化合物が挙げられ、具体的には、「フレームスタブ NOR 116FF」(商品名、チバ・ジャパン(株))が挙げられる。
これらの難燃剤(C)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの難燃剤(C)の中でも、熱可塑性樹脂(B)中での難燃剤(C)の分散性が良好となることから、リン酸塩系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤が好ましく、リン酸塩系難燃剤がより好ましい。
【0038】
熱可塑性樹脂(B)と難燃剤(C)の組成比は、難燃剤(C)の種類や難燃性の要求レベルに応じて適宜設定できるが、熱可塑性樹脂(B)と難燃剤(C)の合計100質量%中、熱可塑性樹脂(B)の含有率が30〜97質量%、難燃剤(C)の含有率が3〜70質量%であることが好ましく、熱可塑性樹脂(B)の含有率が50〜95質量%、難燃剤(C)の含有率が5〜50質量%であることがより好ましい。
【0039】
難燃剤分散性向上剤(A)の含有量は、難燃剤(C)100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、2〜40質量部であることがより好ましく、3〜30質量部であることが更に好ましい。
難燃剤分散性向上剤(A)の含有量が、難燃剤(C)100質量部に対して1質量部以上であると、得られる成形体の難燃性が向上し、50質量部以下であると、熱可塑性樹脂(B)本来の特性を損なわない。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)以外にも、ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を含んでもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物にポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を含むことで、得られる成形体の燃焼時の滴下を防止することができる。特に、難燃剤(C)として、発泡炭化層を形成させて難燃性を付与するリン酸塩系難燃剤を用いる場合、ポリテトラフルオロエチレンが発泡層形成に寄与するので、本発明の熱可塑性樹脂組成物にポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を含むことが好ましい。
【0041】
ポリテトラフルオロエチレンは、テトラフルオロエチレンの単独重合体又はテトラフルオロエチレンを主成分とする単量体混合物の共重合体をいう。
単量体混合物中のテトラフルオロエチレン以外の単量体としては、例えば、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
これらの単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
ポリテトラフルオロエチレンの質量平均分子量は、100万〜5000万が好ましく、300万〜3000万がより好ましい。
ポリテトラフルオロエチレンの質量平均分子量が100万以上であると、得られる成形体の難燃性が向上する。また、ポリテトラフルオロエチレンの質量平均分子量が5000万以下であると、熱可塑性樹脂組成物中での難燃剤(C)の分散性が向上する。
【0043】
本発明のポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)は、ポリテトラフルオロエチレンを変性せずそのままの未変性ポリテトラフルオロエチレンを用いてもよく、ポリテトラフルオロエチレンを変性した変性ポリテトラフルオロエチレンを用いてもよい。
未変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、例えば、「テフロン(登録商標) T5」、「テフロン(登録商標) T6」、「テフロン(登録商標) 6C」、「テフロン(登録商標) 6C−J」、「テフロン(登録商標) 6J」、「テフロン(登録商標) 7A」、「テフロン(登録商標) 7J」、「テフロン(登録商標) 30」、「テフロン(登録商標) 30B」、「テフロン(登録商標) 30J」、「テフロン(登録商標) 30N」、「テフロン(登録商標) 100」、「テフロン(登録商標) 110」、「テフロン(登録商標) 120」、「テフロン(登録商標) 327」、「テフロン(登録商標) 850」、(商品名、デュポン(株)製);「フルオン G201」、「フルオン G307」、「フルオン CD1」、「フルオン CD141」、「フルオン CD123」、「フルオン CD076」、「フルオン CD090」、「フルオン AD911L」、「フルオン AD983L」、「フルオン G163」、「フルオン G192」、「フルオン G307」(商品名、旭硝子(株)製);「ポリフロンMPA FA−500C」(商品名、ダイキン(株)製)が挙げられる。
変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、「メタブレンA−3000」、「メタブレンA−3800」、「メタブレンA−3750」、「メタブレンA−3700」(商品名、三菱レイヨン(株)製);「ブレンデックス449」(商品名、ケムチュラ(株)製);「AD−001」、「CX−500」(商品名、山東東岳(株)製);「SN−3300」、「SN−3300B2」、「SN−3300B3」(商品名、シャインポリマー(株)製)が挙げられる。
これらのポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)は、1種を単独で用いてもよく、変性の有無に関わらず2種以上を併用してもよい。
【0044】
ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)の含有量は、熱可塑性樹脂(B)と難燃剤(C)の合計100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜3質量部であることがより好ましく、0.1〜2質量部であることが更に好ましい。
ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)の含有量が、(B)と(C)の合計100質量部に対して0.01質量部以上であると、得られる成形体の難燃性が向上し、5質量部以下であると、熱可塑性樹脂組成物を溶融混練する際に過剰な負荷がかからず、容易に押出成形が可能となる。
【0045】
本発明の難燃熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、酸化防止剤、光安定剤、滑剤、発泡剤、難燃助剤等の添加剤を含んでもよい。
【0046】
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、ガラス繊維、炭素繊維、炭酸マグネシウム、マイカ、カオリン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、チタンホワイト、ホワイトカーボン、カーボンブラックが挙げられる。これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤を用いることができる。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの酸化防止剤の中でも、リン酸塩系難燃剤又はリン酸エステル系難燃剤との難燃性の相乗効果を発現することから、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤を併用することが好ましい。
【0048】
光安定剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の公知の光安定剤を用いることができる。これらの光安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの光安定剤の中でも、チャー形成能向上により、得られる成形体の難燃性が向上することからトリアジン系紫外線吸収剤が、また、ラジカル捕捉により、得られる成形体の難燃性が向上することから、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましい。
【0049】
滑剤としては、例えば、ラウリル酸、パルミチン酸、オレイン酸又はステアリン酸のナトリウム、カルシウム又はマグネシウム塩が挙げられる。これらの滑剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
発泡剤としては、無機発泡剤、揮発性発泡剤、分解型発泡剤等の公知の発泡剤を用いることができる。
無機発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、空気、窒素が挙げられる。
揮発性発泡剤としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロブタン、シクロペンタン等の環式脂肪族炭化水素;トリクロロフロロメタン、ジクロロジフロロメタン、ジクロロテトラフロロエタン、メチルクロリド、エチルクロリド、メチレンクロリド等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。
分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、重炭酸ナトリウムが挙げられる。
これらの発泡剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
難燃助剤としては、例えば、酸化亜鉛等の金属酸化物;ペンタエリスリトール等の水酸基含有化合物が挙げられる。これらの難燃助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
熱可塑性樹脂組成物の混合方法は、押出混練、ロール混練等の公知の溶融混練を用いることができる。
溶融混練方法は、特に限定されるものではなく、本発明の難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)、難燃剤(C)、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を同時に溶融混練してもよく、難燃剤分散性向上剤(A)及び難燃剤(C)の全量と熱可塑性樹脂(B)の一部とで溶融混練してマスターバッチを製造した後、前記マスターバッチ及び熱可塑性樹脂(B)の残部、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を溶融混練してもよい。
【0053】
上記のマスターバッチは、難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)を任意の割合で混合して製造することができる。
マスターバッチ中の難燃剤分散性向上剤(A)の含有率は特に限定されないが、マスターバッチ(100質量%)中、1〜30質量%であることが好ましい。難燃剤分散性向上剤(A)の含有率が1質量%以上であれば、マスターバッチと熱可塑性樹脂(B)を混練した際の難燃剤の分散性を確保でき、30質量%以下であれば、マスターバッチ製造の際のペレット化が容易となる。
難燃剤分散性向上剤(A)の含有率は、1〜25質量%がより好ましく、1〜20質量%が更に好ましい。
マスターバッチ中の熱可塑性樹脂(B)の含有率は特に限定されないが、マスターバッチ(100質量%)中、1〜55質量%であることが好ましい。熱可塑性樹脂(B)の含有率が1質量%以上であれば、マスターバッチ製造時のペレット化が容易となり、ホットカッタ等の特殊な製造装置を用いずとも製造できるため、有利である。熱可塑性樹脂(B)の含有率が55質量%以下であれば、難燃剤の濃度が充分に高くでき、マスターバッチとして使用できる。
熱可塑性樹脂(B)の含有率は、5〜50質量%がより好ましく、10〜50質量%が更に好ましい。
マスターバッチ中の難燃剤(C)の含有率は特に限定されないが、マスターバッチ(100質量%)中、40〜90質量%であることが好ましい。難燃剤(C)の含有率が40質量%以上であれば、難燃剤の濃度が充分であり、マスターバッチとして使用でき、90質量%以下であれば、溶融押出により混練可能である。
難燃剤(C)の含有率は、45〜90質量%がより好ましく、45〜85質量%が更に好ましい。
マスターバッチは、難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)の他、必要に応じ、ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)、酸化防止剤、造核剤等の他の改質剤を更に加えて溶融混練することもできる。また、上記マスターバッチは二軸押出機等の押出機を用いて、溶融混練して製造可能である。
【0054】
溶融混練温度は、熱可塑性樹脂(B)の種類に応じて、適宜設定することができる。
熱可塑性樹脂(B)がポリオレフィン系樹脂である場合の溶融混練温度は、160〜280℃であることが好ましく、180〜240℃であることがより好ましい。
【0055】
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
【0056】
成形方法は、公知の成形方法を用いることができ、例えば、押出成形、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、熱成形、発泡成形、溶融紡糸が挙げられる。
【0057】
本発明の成形体は、難燃性が良好であるため、光学シート等のシート材、食品フィルム等のフィルム材、自動車用部材、家電用部材、医療用部材、建築部材に好適である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
尚、実施例中の「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を示す。
【0059】
(1)重合率
得られたアルキルメタクリレート系重合体ラテックス1gをアセトン10gで希釈した試料を、ガスクロマトグラフ(機種名「7890」、アジレント・テクノロジー(株)製)、カラム(商品名「HP−5」、内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm、アジレント・テクノロジー(株)製)を用い、ラテックス中に残存する単量体成分量を測定し、残存する単量体成分量から単量体成分の重合率を算出した。内部標準物質としては、メチルイソブチルケトンを用いた。
【0060】
(2)質量平均分子量
アルキルメタクリレート系重合体のテトラヒドロフラン可溶分を試料として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(機種名「HLC−8220」、東ソー(株)製)、カラム(商品名「TSK−GEL SUPER HZM−M」、東ソー(株)製)を用い、溶離液テトラヒドロフラン、測定温度40℃の条件で測定した。
尚、質量平均分子量は、標準ポリスチレンによる検量線から求めた。
【0061】
(3)分散性
得られた成形体(フィルム)を、実体顕微鏡を用い、100倍の倍率で任意の観察点(視野の広さ1mm)を5視野選択して観察を行い、1視野につき50μm以上の難燃剤未分散物が2つ以上観察される視野の数を求め、以下の基準で分散性を判断した。
○:難燃剤未分散物が観察される視野が2未満。
×:難燃剤未分散物が観察される視野が2以上。
【0062】
(4)難燃性
得られた成形体(1/16インチの試験棒)を用い、試験環境23±2℃、炎の大きさ20mm、接炎時間10秒、測定回数5回の条件で、燃焼試験を実施し、以下の基準で燃焼性を判断した。
○:接炎により、5回とも試験棒に引火しない。
×:接炎により、1回以上試験棒に引火し、燃焼する。
【0063】
[実施例1]
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水225部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0006部、アスコルビン酸0.48部を仕込み、セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで、内温を73℃まで昇温させ、クメンヒドロパーオキシド0.2部、n−オクチルメルカプタン1部、i−ブチルメタクリレート98部、n−ブチルアクリレート2部の混合物を1時間かけて滴下し、更に同温で1時間保持して、アルキルメタクリレート系重合体ラテックスを得た。ガスクロマトグラフより、単量体の重合率は99.9%以上であった。
得られたアルキルメタクリレート系重合体ラテックスを25℃まで冷却後、酢酸カルシウム5部を含む70℃の温水500部中に滴下した後、90℃まで昇温させて凝析させた。得られた凝析物を分離洗浄後、60℃で12時間乾燥させて、アルキルメタクリレート系重合体粉体を得た。得られたアルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量は、30,000であった。
得られたアルキルメタクリレート系重合体粉体を難燃剤分散性向上剤(A−1)とした。
【0064】
[比較例1]
温度計、窒素導入管、冷却管及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、イオン交換水225部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、硫酸第一鉄0.0002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.0006部、アスコルビン酸0.48部を仕込み、セパラブルフラスコ内を窒素置換した。次いで、内温を73℃まで昇温させ、クメンヒドロパーオキシド0.2部、n−オクチルメルカプタン1部、メチルメタクリレート98部、n−ブチルアクリレート2部の混合物を1時間かけて滴下し、更に同温で1時間保持して、アルキルメタクリレート系重合体ラテックスを得た。ガスクロマトグラフより、単量体の重合率は99.9%以上であった。
得られたアルキルメタクリレート系重合体ラテックスを25℃まで冷却後、酢酸カルシウム5部を含む70℃の温水500部中に滴下した後、90℃まで昇温させて凝析させた。得られた凝析物を分離洗浄後、60℃で12時間乾燥させて、アルキルメタクリレート系重合体粉体を得た。得られたアルキルメタクリレート系重合体の質量平均分子量は、30,000であった。
得られたアルキルメタクリレート系重合体粉体を難燃剤分散性向上剤(A−2)とした。
【0065】
[製造例1]マスターバッチ(M−1)の製造
難燃剤分散性向上剤(A−1)5部、ポリプロピレン樹脂「ノバテックPP FY−4」(商品名、日本ポリプロ(株)製、メルトフローレート5g/10分)50部、リン酸塩系難燃剤「アデカスタブ FP−2200」(商品名、(株)ADEKA製)45部をハンドブレンドで混合し、次いで、φ30mm同方向二軸押出機(機種名「BT−30」、(株)プラスチック工学研究所製、L/D=30)を用いて、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度200℃の条件で溶融混練をし、マスターバッチ(M−1)を得た。
得られたマスターバッチ(M−1)の組成比は、難燃剤分散性向上剤(A−1)/ポリプロピレン樹脂/難燃剤=5/50/45(wt%)であった。
【0066】
[製造例2]マスターバッチ(M−2)の製造
難燃剤分散性向上剤(A−1)5部、リン酸塩系難燃剤「アデカスタブ FP−2200」(商品名、(株)ADEKA製)80部をハンドブレンドで混合し、当該混合物をフィーダー(機種名「CE−T−1型」、(株)クボタ製)を用いて5.1kg/hrの速度で押出機に供給した。
また、ポリプロピレン樹脂「ノバテックPP FY−4」(商品名、日本ポリプロ(株)製、メルトフローレート5g/10分)15部をフィーダー(機種名「ALS−254」、産業機電(株)製)を用いて0.9kg/hrの速度で押出機に供給した。
押出機はφ26mm同方向二軸押出機(機種名「TEM−26SS」、東芝機械(株)製、L/D=64.6)を用い、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度180℃の条件で溶融混練をし、マスターバッチ(M−2)を得た。
得られたマスターバッチ(M−2)の組成比は、難燃剤分散性向上剤(A−1)/ポリプロピレン樹脂/難燃剤=5/15/80(wt%)であった。
【0067】
[実施例2〜8、比較例2〜6]
難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)、難燃剤(C)及びポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を表1に記載の比率で配合し、ハンドブレンドで混合した。その後、φ30mm同方向二軸押出機(機種名「BT−30」、(株)プラスチック工学研究所製、L/D=30)を用い、スクリュー回転数200rpm、シリンダー温度200℃の条件で溶融混練をし、熱可塑性樹脂組成物を得た。
尚、熱可塑性樹脂(B)として、ポリプロピレン樹脂「ノバテック FY−4」(商品名、日本ポリプロ(株)製、メルトフローレート5g/10分)、難燃剤(C)として、リン酸塩系難燃剤「アデカスタブ FP−2200」(商品名、(株)ADEKA製)、ポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)として、変性ポリテトラフルオロエチレン「メタブレンA−3800」(商品名、三菱レイヨン(株)製)を用いた。
得られた熱可塑性樹脂組成物を100t射出成形機(機種名「SE−100DU」、住友重機械工業(株)製)を用い、成形温度200℃の条件で射出成形を行い、成形体(1/16インチの試験棒)を得た。
得られた成形体(1/16インチの試験棒)を油圧成形機(庄司鉄工所(株)製)を用い、成形温度190℃、成形圧力10MPaの条件で、予熱5分、加圧5分、冷却5分の手順でプレスし、厚さ50μmの成形体(フィルム)を得た。
【0068】
得られた成形体の分散性、難燃性の評価結果を、表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1から明らかなように、本発明のアルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤を配合した実施例2〜4で得られた成形体は、難燃剤の分散性が良好であった。また、更にポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を配合した実施例5〜6で得られた成形体は、難燃性が良好であった。更に、マスターバッチを用いた実施例7及び8で得られた成形体も同様に、難燃剤の分散性、難燃性が良好であった。
一方、本発明の範囲外となるアルキル基の炭素数が1のメチルメタクリレート単位を主成分とするアルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤を配合した比較例2〜4で得られた成形体は、難燃剤の分散性が不良であった。また、更にポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を配合した比較例6で得られた成形体は、難燃剤の分散性が不良であり、難燃性が劣った。アルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤を配合しなかった比較例5で得られた成形体も同様に、難燃剤の分散性が不良であり、難燃性が劣った。
以上のことから、本発明の難燃剤分散性向上剤(A)を用いることで、得られる成形体の難燃性が向上することが確認できた。特に、難燃性が良好である成形体を得るために、難燃剤の配合量を少なくすることに有効である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の難燃剤分散性向上剤(A)を用いて得られる成形体は、難燃性が良好であるため、光学シート等のシート材、食品フィルム等のフィルム材、自動車用部材、家電用部材、医療用部材、建築部材に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(a1)単位を50質量%以上含むアルキルメタクリレート系重合体を含む難燃剤分散性向上剤(A)。
【請求項2】
炭素数が2以上のアルキル基を有するアルキルメタクリレート単位がi−ブチルメタクリレート単位である請求項1記載の難燃剤分散性向上剤(A)。
【請求項3】
請求項1又は2記載の難燃剤分散性向上剤(A)、熱可塑性樹脂(B)及び難燃剤(C)を含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
更にポリテトラフルオロエチレン含有樹脂(D)を含む請求項3記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項3又は4記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3〜5の何れかに記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項7】
難燃剤分散性向上剤(A)及び難燃剤(C)の全量と熱可塑性樹脂(B)の一部とでマスターバッチを製造した後、前記マスターバッチ及び熱可塑性樹脂(B)の残部を配合する請求項3記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−246688(P2011−246688A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33269(P2011−33269)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】