説明

難燃性樹脂組成物、絶縁電線及びワイヤーハーネス

【課題】 本発明は、ノンハロゲンの難燃性樹脂組成物で、例えば電線被覆用に用いられる難燃性樹脂組成物を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、ポリプロピレン系樹脂50〜70質量部とポリエチレン5〜15質量部と熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の範囲で混合されるベース樹脂100質量部に、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物70〜110質量部を添加してなる難燃性樹脂組成物にあり、特に熱可塑性架橋樹脂の添加により、より優れた特性、即ち、耐磨耗性、難燃性、耐熱性、適度の柔軟性、特に曲げ白化現象の抑制効果などが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲンの難燃性樹脂組成物で、例えば電線被覆用や樹脂シートなどに用いられ、特に自動車用のワイヤーハーネス被覆用に用いて有用な難燃性樹脂組成物、及び絶縁電線、ワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の電線被覆用の樹脂組成物として、ポリオレフィン系樹脂を使用した難燃性樹脂組成物が提案されている。特に自動車用のワイヤーハーネス用の被覆材としては、耐磨耗性と柔軟性を併せ持つ塩化ビニル樹脂が用いられてきたが、この樹脂にはハロゲン元素が含まれており、燃焼したときにダイオキシンを発生することが知られている。
そこで、近年ではハロゲン元素を含まないポリオレフィン系樹脂を主体とする材料が検討されてきている。しかし、柔軟なポリオレフィン系樹脂では、耐磨耗性の確保が困難なことから、耐磨耗性に優れたポリプロピレンを主とする難燃性樹脂組成物が提案されている(引用文献1〜2など)。
【特許文献1】特開平10−294021号公報
【特許文献2】特開平11−118529号公報
【0003】
しかしながら、ポリプロピレン(PP)系樹脂は、硬く、低温特性に問題があるため、柔軟で低温特性に優れた樹脂との混合により、これらの問題を解決することが種々検討されてきている。或いは、PP系樹脂にエチレンをランダム重合やブロック重合させた共重合体として硬さなどの問題を解決することも提案されている(引用文献3)。
【特許文献3】特開2000−86858号公報
【0004】
ところが、近年の自動車用電線に対する要求仕様は益々厳しくなってきており、上記の各手法などによっても、耐磨耗性の低下と難燃性の両立などは困難であった。
【0005】
つまり、PP系樹脂を難燃化するにあたって、難燃剤として水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を添加すると、耐磨耗性の低下が避けられないからである。かといって、難燃剤の添加量を少なくすると、今度は十分な難燃性が確保できなくなるからである。
また、自動車用電線に対する要求仕様には、耐磨耗性、難燃性などの他に、良好な耐熱性や配線時の取り扱いにおいて適度の柔軟性なども必要とされ、これらの条件なども満たす必要がある。
【0006】
そこで、本発明者等の一人は、耐磨耗性、難燃性などと共に、良好な耐熱性、適度の柔軟性を有する難燃性樹脂組成物、特に自動車用電線の被覆材料を求めて種々の試験を行い、その結果、ポリプロピレン系樹脂(PP系樹脂)80〜95質量部とポリエチレン5〜20質量部の範囲で混合されるベース樹脂100質量部に対して、金属水酸化物70〜110質量部を添加したところ、上記要件を満たす難燃性樹脂組成物が得られることを見い出した。そして、本出願人は、この優れた難燃性樹脂組成物及びこれを用いた絶縁電線を既に提案してある(特許文献4)。
【特許文献4】特願2005−246006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、この難燃性樹脂組成物にあっても、電線被覆材として用い、この電線を曲げると、例えばR=6mm程度で曲げると、もともとベース樹脂の主成分であるポリプロピレン系樹脂は結晶性が高く硬いものであることから、電線屈曲部分が白く変色するという白化現象が起り易いという傾向があった。
【0008】
このため、この難燃性樹脂組成物においては、より良好な柔軟性を確保するため、柔軟性に富むポリエチレンを適量添加(5〜20質量部)すると同時に、表面硬度(ASTM−D2240)60以下のプロピレン−αオレフィン共重合体を併用添加(5〜20質量部)して、PP系樹脂(80〜95質量部)の一部を入れ換えることも提案している。柔軟性が確保されると、その分白化現象の抑制が可能となるからである。
【0009】
ことろが、この難燃性樹脂組成物において、さらに小さい曲率(例えばR=3mm程度)で曲げると、このプロピレン−αオレフィン共重合体の併用添加でも、十分な白化現象の抑止効果が得られないという傾向があることが分った。
【0010】
このため、本発明者等が、さらに白化現象について鋭意研究したところ、PP系樹脂をベース樹脂とするものの、このPP系樹脂に適量のポリエチレンと共に、適量の熱可塑性架橋樹脂、例えば、エチレン−無水マレイン酸−アクリレート三元共重合体を添加すると、R=3mm程度の小さい曲率で曲げでも、白化現象は起らず、十分な白化現象の抑止効果が得られることを見い出した。勿論、この組成物の本来の特性、即ち、難燃性、耐磨耗性、耐熱性なども確保されることが分った。
【0011】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、基本的には、PP系樹脂とポリエチレンと熱可塑性架橋樹脂とからなるベース樹脂に対して、所定量の表面処理の施された金属水酸化物を添加することにより、優れた特性の難燃性樹脂組成物を提供し、また、これを用いた絶縁電線(ケーブルも含む)やワイヤーハーネスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の本発明は、ポリプロピレン系樹脂50〜70質量部とポリエチレン5〜15質量部と熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の範囲で混合されるベース樹脂100質量部に、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物70〜110質量部を添加してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物にある。
【0013】
請求項2記載の本発明は、前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0014】
請求項3記載の本発明は、前記ベース樹脂に表面硬度(ASTM−D2240)60以下のプロピレン−αオレフィン共重合体10質量部以下の範囲で混合してベース樹脂100質量部とすることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0015】
請求項4記載の本発明は、前記ポリプロピレン系樹脂の融点が160℃以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0016】
請求項5記載の本発明は、前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0017】
請求項6記載の本発明は、前記熱可塑性架橋樹脂が、エチレン−無水マレイン酸−アクリレート三元共重合体であることを特徴とする請求項1、2、3、又は5記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0018】
請求項7記載の本発明は、前記組成物を、電子線照射により架橋させることを特徴とする請求項1、2、3、4、6又は7記載の難燃性樹脂組成物にある。
【0019】
請求項8記載の本発明は、請求項1〜7のいずれかの難燃性樹脂組成物を、導体上に被覆したことを特徴とす絶縁電線にある。
【0020】
請求項9記載の本発明は、請求項8の絶縁電線からなるワイヤーハーネスにある。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、上記した構成により、耐磨耗性、難燃性などと共に、良好な耐熱性や適度の柔軟性を有し、さらに、曲げによる白化現象が効果的に抑制される優れた難燃性樹脂組成物が得られる。従って、その用途は特に限定されないが、これを電線被覆材に用いれば、優れた絶縁電線、特に自動車用のワイヤーハーネスが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明で用いるポリプロピレン(PP)系樹脂は、ホモPPの他、ランダムPPやブロックPPも含む。ランダムPPやブロックPPはポリプロピレンにポリエチレンをランダム重合やブロック重合させた共重合体である。これらは、単独で、或いは混合物として併用することもできる。また、これらのPP系樹脂の融点としては、160℃以上のものの使用が望ましい。融点が160℃以上であることで、良好な耐熱性が得られるからである。即ち、ISO6722規格による85℃及び100℃の耐熱グレードに合格するレベルの樹脂組成物が得られるからである。
【0023】
このPP系樹脂50〜70質量部に対して、ポリエチレン5〜10質量部とポリエチレン5〜15質量部と熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の範囲で混合してベース樹脂100質量部とする。これらのポリエチレンと熱可塑性架橋樹脂の混合により、難燃剤の金属水酸化物を適量(所望の難燃性を維持できる量)添加しても、耐磨耗性の低下が抑制できるようになるからである。つまり、ポリエチレンの存在により、表面処理の施された金属水酸化物がポリエチレン中に選択的に分散されるため、PP系樹脂成分部分の本来の特性が維持されて、耐磨耗性の低下が抑制できるものと推測される。さらに、熱可塑性架橋樹脂の存在によって、結晶成分の低下によるスクレープ特性の劣化が最小限に抑えられる。その理由は、PP系樹脂やポリエチレンが結晶性の高い樹脂であり、難燃剤などのフィラー受容性が乏しいのに対して、熱可塑性架橋樹脂は無水マレイン酸などの極性基が導入されているため、界面を補強する効果が大きいからである。さらに、160℃以下では極性基の結合により架橋構造の3次元構造が構築される。このため、熱可塑性架橋樹脂中に取り込まれたフィラーはスクレープ特性などの磨耗試験によって樹脂中から脱落し難くなるというメカニズムが発現するようになる。また、ポリエチレンや熱可塑性架橋樹脂はPP系樹脂に比較して、柔らかいため、適度の柔軟性も確保できるようになる。
【0024】
この柔軟性の確保にあたって、PP系樹脂としてより具体的な特性としては、破断点伸び500%以上(引っ張り速度200mm/min)、MFR1.0g/10min(230℃、2.16Kg)以下のものの使用が好ましい。このようなPP系樹脂の市販品としては、例えば、プライムポリマー社製、E111G(商品名、ホモPP、融点165℃、MFR=0.5g/10min)、B221W(商品名、ランダムPP、融点148℃、MFR=0.5g/10min)、EG8(商品名、ブロックPP、融点161℃、MFR=0.5g/10min)、B701WB(商品名、ブロックPP、融点163℃、MFR=0.5g/10min))などが挙げられる。
【0025】
また、上記ポリエチレン(ポリエチレン系樹脂も可)として特に限定されないが、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)よりも、低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の使用が好ましい。これらは、単独で、或いは混合物として併用することもできる。このポリエチレンの添加により、上記したように、樹脂組成物の耐磨耗性の低下が抑制できる。また、適度の柔軟性も確保できるようになる。このため、PP系樹脂50〜70質量部に対して、ポリエチレンの添加量は、5質量部以上で、15質量部以下の範囲で混合し、熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の配合量も含めて、ベース樹脂100質量部とする必要がある。
つまり、ポリエチレンの添加量が5質量部未満では、所望の樹脂組成物の耐磨耗性の低下が抑制できず、また、適度の柔軟性も確保もできなくなるからである。しかし、ポリエチレンの添加量が15質量部を超えるようになると、柔らかくなり過ぎて、主成分のPP系樹脂の特性が失われるなどの問題が生じるようになるからである。
【0026】
このような特性の確保にあたって、ポリエチレンとしてより具体的な特性としては、破断点伸び500%以上(引っ張り速度200mm/min)、MFR1.0g/10min(190℃、2.16Kg)以下のものの使用が好ましい。このようなポリエチレンの市販品としては、例えば、宇部興産社製、UBEC150(商品名、LDPE)などが挙げられる。
【0027】
一方、熱可塑性架橋樹脂としては、上述したように、極性基が導入された結晶性の低くものが好ましく、例えば、エチレン−無水マレイン酸−アクリレート三元共重合体を挙げることができる。この具体的な市販品としては、例えば、日本ポリエチレン社製、レクスパールES030Y〔商品名、密度=0.946g/cm3 、MFR=6g/10min(190℃)〕などが挙げられる。
【0028】
そして、この熱可塑性架橋樹脂の添加量を、上記した5〜45質量部としたのは、次の理由による。先ず、5質量部未満では添加量が少な過ぎて十分な添加効果、特に電線の白化現象の抑止効果が得られなくあるからである。また、45質量部を超えるようになると、耐磨耗性、特にスクレープ特性が低下するようになるからである。
【0029】
このようにしてなるベース樹脂100質量部に70〜110質量部添加される、金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、好ましくは水酸化マグネシウムの使用が望ましい。さらに、上記ベース樹脂の構成に対して、表面処理の施されたもの、即ち、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物とする必要がある。通常この種の表面処理剤としては、ステアリン酸、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などによるものが挙げられるが、ステアリン酸処理の方がよい。
【0030】
つまり、ステアリン酸はベース樹脂のポリオレフィン樹脂との相溶性がよいからである。その反面、処理量が多くなると(0.5質量%を超えると)、樹脂界面で滑りが生じるようになり樹脂から脱落し易くなり、スクレープ特性が低下するようになる。また、曲げ白化現象も生じ易くなる。このような特性の市販品としては、例えば、キスマ5LA(商品名、協和化学社製、ステアリン酸表面処理、処理量0.5質量%以下)を挙げることができる。なお、ステアリン酸表面処理の処理量0.5質量%を超えるもの、例えば1.0質量%以上のものとしては、キスマ5A(商品名、協和化学社製)を挙げることができる。また、シランカップリング剤表面処理のものとしては、キスマ5P(商品名、協和化学社製)を挙げることができる。勿論、表面処理のないもののにあっては、ポリオレフィン樹脂に対する相溶性の低下は避けられない。
【0031】
このような金属水酸化物の添加量を70〜110質量部としたのは、70質量部未満では、所望の難燃性が得られず、110質量部を超えるようになると、樹脂組成物の耐磨耗性の低下が避けられるなくなるからである。ここで、所望の難燃性とは、45°傾斜燃焼試験による難燃性に合格するレベルである。
【0032】
このようにしてなる樹脂組成物において、用途によって、よりよい柔軟性を確保する場合には、必要に応じて、ベース樹脂の上記組成成分に対して、表面硬度(ASTM−D2240)60以下のプロピレン−αオレフィン共重合体を、10質量部以下の範囲で添加することができる。このプロピレン−αオレフィン共重合体は、PP系樹脂成分に比べて柔らかいため、この範囲での添加により柔軟性が確保できるからである。また、この範囲の添加量では、耐磨耗性は少々低下するものの、難燃性への影響はない。しかし、この10質量部を超えるようになると、耐磨耗性、即ち、スクレープ特性が低下するようになる。このものの市販品としては、例えば、三井化学工業社製、タフマーXM−7070(商品名)などが挙げられる。
【0033】
このような配合からなる本発明の樹脂組成物には、使用用途などによって、必要により、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、紫外線劣化防止剤、加工助剤、着色顔料、カーボンブラックなどを適宜添加することができる。
【0034】
この本発明の樹脂組成物を、例えば、絶縁電線の絶縁体などとして被覆するには、単に押出被覆してもよいが、電子線照射により架橋させることもできる。電子線照射は大気圧中で行ってもよいが、より好ましくは、適当な密閉手段を講じて窒素雰囲気中で行うのが望ましい。そして、その照射強度は、例えば、絶縁体の被覆厚を0.2mmとした場合、0.5Mrad程度とするのが好ましい。この電子線照射による架橋により、組成物特性の向上が得られる。また、電子線照射を窒素雰囲気中で行った場合、電子線照射によって生じる酸素ラジカル(大気中酸素及び溶存酸素)による樹脂の劣化を防ぐことが可能となる。この電子線照射による架橋にあたって、好ましくは架橋助剤を添加するとよい。この架橋助剤としては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)の使用が望ましい。このとき、少量のハイドロキノン(HQ)を併用するとよい。HQはTMPTが熱により自己重合するのを抑制する働きがある。
【0035】
このようにして得られた絶縁電線の用途は特に限定されないが、自動車用のワイヤーハーネスとして使用することができる。
【0036】
〈実施例、比較例〉
表1〜表3に示した配合からなる、本発明の難燃性樹脂組成物(実施例1〜6)と、本発明の条件を欠く樹脂組成物(比較例1〜13)により、サンプルの絶縁電線を製造した。なお、サンプルの絶縁電線は、導体(19/0.12)を用い、厚さ0.25mmの被覆層を上記各例の難燃性樹脂組成物により押出形成したもので、外径は1.04mmである。押出後、窒素雰囲気中で電子線照射を行った。電子線照射の強度は0.5Mradであった。また、表中の配合材料の数値は質量部数を示す。
【0037】
また、用いたPP系樹脂はプライムポリマー社製、E111G(商品名、ホモPP、融点165℃)、ポリエチレンは宇部興産社製のUBEC150(商品名、LDPE)、熱可塑性架橋樹脂は日本ポリエチレン社製、レクスパールES030Y〔商品名、密度=0.946g/cm3 、MFR=6g/10min(190℃)〕、プロピレン−αオレフィン共重合体は三井化学工業社製、タフマーXM−7070(商品名)、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物の水酸化マグネシウムはキスマ5LA(商品名、協和化学社製)、その他の水酸化マグネシウムはキスマ5A(商品名、協和化学社製、ステアリン酸表面処理、処理量1質量%以上)、キスマ5P(商品名、協和化学社製、シランカップリング剤表面処理のもの)、プロピレン−αオレフィン共重合体は表面硬度60以下のもので、三井化学工業社製、タフマーXM−7070(商品名)である。
【0038】
このようにして得られた各サンプルの絶縁電線に対して、以下のような物性評価、即ち、「引張破断強度」、「引張破断伸び」、「難燃性」、「スクレープ特性(耐磨耗性)」、「曲げ白化特性」の試験を行い、その結果を、同表1〜表3に併記した。
【0039】
「引張破断強度」
長さ約150mmのサンプルの絶縁電線から導体を抜き、筒状となった絶縁体の中央部に20mmの間隔で標線を配し、JISB7721に規定の試験装置のチャックに取り付け、引っ張り速度200mm/minとして、サンプルの破断引張荷重から、引張破断強度を求めた。そして、引張破断強度が10Mpa以上の場合を「合格」とし、これ未満の場合を「不合格」とした。
【0040】
「引張破断伸び」
長さ約150mmのサンプルの絶縁電線から導体を抜き、筒状となった絶縁体の中央部に20mmの間隔で標線を配し、JISB7721に規定の試験装置のチャックに取り付け、引っ張り速度200mm/minとして、サンプルの絶縁電線の破断の標線間の長さから、引張破断伸びを求めた。そして、引張破断伸びが150%以上の場合を「合格」とし、これ未満の場合を「不合格」とした。
【0041】
「難燃性」
これはISO6722の45°傾斜燃焼試験に準じて行った。試験は全てのサンプルの絶縁電線(長さ500mm)について行い、70秒以内に自己消化し、500mm中の上部50mmが残ったものを「合格」とし、上部50mm未満しか残らなかったものを「不合格」とした。
【0042】
「スクレープ特性」
これはJASO−D611の耐磨耗試験に準じて行った。ここで、φ0.45mmのニードル径、荷重7Nである。そして、繰り返し試験を行い、被覆が剥離されて導体との導通が生じるまでのスクレープ回数を表示した。なお、編肉の影響をなくすため、90°ずつ回転させて12回試行してその平均値として求めた。ここで、スクレープ回数が100回以上のものが「合格」のレベルであり、それ未満は「不合格」のレベルである。
【0043】
「曲げ白化特性」
これはR=3mmのマンドレルにサンプルの絶縁電線を5ターン(5周)巻き付けて行った。そして、目視により曲げ部分に白化現象が見られないもの「合格」とし、白化現象が見られたものを「不合格」とした。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
上記表1から、本発明に係る難燃性樹脂組成物を用いた絶縁電線(実施例1〜6)にあっては、すべての特性、即ち、「引張破断強度」、「引張破断伸び」、「難燃性」、「スクレープ特性」、「曲げ白化特性」について、良好な結果が得られていることが判る。
【0048】
これに対して、表2〜表3から、本発明の要件を欠く絶縁電線(比較例1〜13)では、いずれかの特性において問題があることが判る。
なお、比較例1〜4はPP系樹脂の配合量が本発明の要件範囲外の場合、比較例5はポリエチレンが無添加で本発明の要件範囲外の場合、比較例6はプロピレン−αオレフィン共重合体の配合量が多過ぎて本発明の要件範囲外の場合、比較例7は熱可塑性架橋樹脂が無添加で本発明の要件範囲外の場合、比較例8は熱可塑性架橋樹脂の配合量が多過ぎて本発明の要件範囲外の場合、比較例9はポリエチレンの配合量が多過ぎて本発明の要件範囲外の場合、比較例10はステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物の配合量が少な過ぎて本発明の要件範囲外の場合、比較例11はステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物の配合量が多過ぎて本発明の要件範囲外の場合、比較例12〜13は添加する金属水酸化物の特性が本発明の要件を満たさない場合である。
【0049】
なお、上記の説明では、本発明に係る難燃性樹脂組成物を電線被覆用に用い、また、これを用いた絶縁電線及びワイヤーハーネスについて説明したが、本発明の難燃性樹脂組成物は、これに限定されず、その他の樹脂成形品、例えば樹脂シートなどの種々のものにも使用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂50〜70質量部とポリエチレン5〜15質量部と熱可塑性架橋樹脂5〜45質量部の範囲で混合されるベース樹脂100質量部に、ステアリン酸で処理されたもので処理剤の含有量が0.5質量%以下である金属水酸化物70〜110質量部を添加してなることを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物が、水酸化マグネシウムであることを特徴とする請求項1記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ベース樹脂に表面硬度(ASTM−D2240)60以下のプロピレン−αオレフィン共重合体10質量部以下の範囲で混合してベース樹脂100質量部とすることを特徴とする請求項1又は2記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂の融点が160℃以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンが、低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性架橋樹脂が、エチレン−無水マレイン酸−アクリレート三元共重合体であることを特徴とする請求項1、2、3、又は5記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記組成物を、電子線照射により架橋させることを特徴とする請求項1、2、3、4、6又は7記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの難燃性樹脂組成物を、導体上に被覆したことを特徴とす絶縁電線。
【請求項9】
請求項8の絶縁電線からなるワイヤーハーネス。


【公開番号】特開2007−176981(P2007−176981A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−373984(P2005−373984)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】