説明

難燃性樹脂組成物

【課題】DOPO誘導体を配合した難燃性アクリル樹脂組成物及び該組成物を改質剤として使用した可撓性に優れ、難燃剤のブリードアウトが抑えられた難燃性エポキシ樹脂を提供する。
【解決の手段】一般式(1)で示される反応性基含有リン系有機化合物、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基等の官能基を含有するビニル系モノマーと(メタ)アクリル酸アルキルエステルとアクリロニトリル又はスチレンとを共重合してなる可撓性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、並びに、硬化剤を主成分とする難燃性エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物に関し、より詳細には、樹脂組成物に可撓性や接着性を付与することができる難燃性アクリル樹脂、及び、該樹脂を含有し、可撓性に優れた難燃性のエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂を用いた熱硬化性樹脂や接着剤等において、可撓性や接着性の改善のためにアクリル樹脂を改質剤として添加することが行われる。しかしながら、アクリル樹脂の配合系は、比較的燃えやすいため、難燃性付与のために難燃剤の添加が必要となる。このような難燃剤としては、環境問題への対応等により近年リン系化合物が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなリン系難燃剤として、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド(DOPO)誘導体もまた知られている。DOPO誘導体を用いた難燃化技術としては、アクリロニトリルブタジエンゴムを含む熱硬化型接着剤に適用する技術(例えば、特許文献2参照。)が知られている。しかしながら、熱可塑性樹脂であるアクリル樹脂に添加して使用する場合に、難燃剤がアクリル樹脂と相溶性であることが要請されるところ、DOPO誘導体は必ずしも有機溶媒との相溶性が良好であることはなく、従来、アクリル樹脂のDOPO誘導体を用いた難燃化処方は知られていない。
【0004】
また、このようなアクリル樹脂を改質剤として使用したエポキシ樹脂の難燃化処方についても、樹脂の可撓性を損なうことなく、しかも、難燃剤がブリードアウトしない処方が要請されている。
【特許文献1】特開2004−137437号公報
【特許文献2】特開2002−188066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、DOPO誘導体を配合した難燃性アクリル樹脂組成物及び該組成物を改質剤として使用した可撓性に優れ、難燃剤のブリードアウトが抑えられた難燃性エポキシ樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一般式(1)で示されるリン系有機化合物、並びに、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有する可撓性アクリル樹脂を主成分とする難燃性アクリル樹脂組成物である。
【0007】
【化1】

【0008】
式中、R1及びR2は、同一又は異なる有機基を示し、m及びnはそれぞれ0〜4の整数を示す。ただし、m及び/又はnが2〜4の整数の場合は、複数のR1及び/又はR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。前記有機基は、反応性置換基を少なくとも1つ有していてもよい、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基であり、好ましくは、カルボキシル基を有していてもよい、メチル基、アリル基、アリール基である。Aは、R1及びR2と同一又は異なる有機基であって、それぞれ反応性置換基を少なくとも1つ有する、エステル結合を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基である。ただし、前記反応性置換基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アリールオキシ基、(メタ)アクリロイル基、エステル基、アミド基、エポキシ基、グリシジル基、及び、オキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基であり、1分子中に前記反応性置換基が複数存在する場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0009】
本発明はまた、上記一般式(1)で示されるリン系有機化合物、アクリル樹脂からなる接着性及び/又は可撓性付与成分、エポキシ樹脂、並びに、硬化剤を主成分とする難燃性エポキシ樹脂組成物でもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述の構成により、以下の効果を発揮することができる。
(1)一般式(1)で示されるリン系有機化合物は各種溶媒との相溶性に優れ、ワニスに配合して取り扱うことが可能であり、アクリル樹脂ワニスとの相溶性も良好であり、比較的燃えやすいアクリル樹脂の難燃性を向上させることが出来る。
(2)本発明の難燃性アクリル樹脂組成物は、改質剤として使用した場合にエポキシ樹脂ならびに硬化剤や有機溶媒との相溶性に優れ、注型性にも優れた取り扱いの簡便な難燃性エポキシ樹脂組成物とすることが出来る。
(3)本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、難燃剤の耐ブリード性に優れる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明におけるリン系有機化合物は上記一般式(1)で示される反応性置換基含有リン系化合物である。このような化合物としては、例えば、m及びnが0で、Aが、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、エステル結合を有する直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基(例えば、フェニル基等)、アラルキル基(例えば、ベンジル基等)、アルケニル基、又は、シクロアルキル基等であって、反応性置換基として、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アリールオキシ基、(メタ)アクリロイル基、エステル基、アミド基、エポキシ基、グリシジル基、及び、オキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基、なかでも、例えば、ヒドロキシル基又はカルボキシル基を有するもの、グリシジル基を有するもの、エステル基を有するもの、オキセタニル基を有するもの、等を挙げることができる。より具体的には、例えば、Aがヒドロキシル基を有する分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基であるもの、ヒドロキシル基を有し、エステル結合を含有する、分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基であるもの、ヒドロキシル基を有するアリール基、ヒドロキシル基を有するアラルキル基等を挙げることができ、これらのうち、一層具体的には、例えば、下記式(2)で表される化合物等を挙げることができる。
【0012】
【化2】

【0013】
このような化合物の製造方法は、従来公知の方法で実施することができ、例えば、特開2001−172377号公報に記載の方法等によって製造することができる。また、市販の化合物を使用することもできる。
【0014】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物における可撓性アクリル樹脂は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有する。なお、可撓性アクリル樹脂とは、可撓性を有するアクリル系モノマー共重合体であって、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを主成分とし、必要に応じて、官能基(本発明の難燃性アクリル樹脂組成物においては、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基)を有するビニルモノマーやアクリロニトリル、スチレン等のモノマーを共重合してなるものである。官能基の導入方法としては、また、可撓性アクリル樹脂を、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミド基、アミノ基等を導入しうる変性剤によって処理する方法であってもよい。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸トルイルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸エトキシ化フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸t−ブチルシクロヘキシル等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0016】
カルボキシル基含有ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0017】
ヒドロキシル基を有するビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3フェノキシプロピル、コハク酸2−アクリロイロキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイロキシエチル、フタル酸2−アクリロイロキシエチル、アリルアルコール、ビニルアルコール等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0018】
エポキシ基を有するビニルモノマーとしては、例えば、メタクリル酸グリシジル、グリシジルメタクリレート、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、アリルグリシジルエーテル、脂肪族または芳香族エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸を付加反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート化合物等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
アミド基を有するビニルモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0020】
アミノ基を有するビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルアミノエチル、アリルアミン等を挙げることができる。これらのモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0021】
上述の及び後述の、本発明に使用されるアクリル樹脂の重合方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、特に限定されるものではない。しかしながら、分子量分布が狭く、乳化剤などの不純物の影響を受けない懸濁重合がより望ましい。
【0022】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物における可撓性アクリル樹脂としては、これらのうち、好ましくは、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するビニル系モノマー(b1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b2)とアクリロニトリル及びスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマー(b3)とを共重合してなる可撓性アクリル樹脂であり、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、アクリロニトリル等を主要モノマーとし、官能基として、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、グリシジル基等を有するアクリル樹脂等を挙げることができる。このようなアクリル樹脂は、有機溶剤に溶解し、しかも、エポキシ樹脂等の樹脂との相溶性がよく、樹脂改質剤として好ましい特性を有するので、本発明において好ましく使用可能である。
【0023】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物における、アクリル樹脂からなる接着性及び/又は可撓性付与成分としては、接着性や可撓性をエポキシ樹脂に付与しうるアクリル樹脂であればよく、例えば、上述の可撓性アクリル樹脂等を好適に使用することができる。
【0024】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂としては特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂、多官能フェノールのグリシジルエーテル化合物、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、芳香族グリシジルエステル化合物、脂肪族グリシジルエーテル化合物、飽和・不飽和脂肪酸グリシジルエステル化合物等を使用することができる。
【0025】
本発明における硬化剤としては、公知のエポキシ樹脂の硬化剤もしくは硬化促進剤でよく特に限定されない。またこれらの硬化剤や硬化促進剤は2種以上を併用してもよい。例えば、脂肪族(1級、2級、3級またはその塩の)アミン系硬化剤、芳香族(1級、2級、3級またはその塩の)アミン系硬化剤、変性アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、三沸化硼素アミン錯塩等の三沸化硼素錯体、イミダゾール化合物(例えば、2−フェニルイミダゾールや2−エチル−4−メチルイミダゾール等)、ジシアンジアミド、トリフェニルホスフィンとそのホスホニウム塩、ジアザビシクロウンデセン、ヒドラジン、フェノール樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミノアミド(ポリアミド)樹脂、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、ビスフェノールノボラック型等のノボラック型樹脂等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは酸無水物系硬化剤(例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等)である。
【0026】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物において、リン含量は、それぞれ、組成物中、0.01〜10重量%であることが好ましい。リン含量がこの範囲より少ないと、難燃性が不足し、この範囲より多いと難燃剤を添加しない場合の物性と異なる物性が得られることとなり好ましくない。より好ましくは0.1〜2重量%、さらに好ましくは0.4〜2重量%である。上記一般式(1)で示されるリン系有機化合物の配合量は、本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物中、リン含量が上記範囲となるように適宜配合されるが、通常、組成物中、1〜100重量%含有されることが好ましい。
【0027】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物において、アクリル樹脂からなる接着性及び/又は可撓性付与成分の配合量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、1〜100重量部が好ましく、より好ましくは2〜30重量部である。また、アクリル樹脂はワニスの状態で配合されてもよい(しかしながら、硬化物となれば溶媒は除かれる。)
【0028】
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物において、硬化剤の配合量は、硬化剤の種類により異なるが、例えば、酸無水物化合物の場合、エポキシ樹脂100重量部に対して、40〜200重量部が好ましい。他の種類の化合物の場合も、これを参照して、当業者は適宜定めることができる。
【0029】
また、硬化触媒を使用することもできる。硬化触媒としては、硬化剤の種類により異なるが、例えば、酸無水物化合物とともに触媒量(例えば、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.1〜5重量部)の3級アミン等を使用することができる。
【0030】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物においては、また、有機溶剤を配合してワニス化することもできる。上記有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、エチレングリコールモノエチルエーテル、シクロヘキサノン、キシレン、トルエン、メタノール、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができる。これらの溶剤は、単独あるいは混合系でも良く、難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物との割合は使用する設備にあわせて使用量を調整することができる。
【0031】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成は、無機フィラーと混合して使用することもできる。無機フィラーとしては、例えば、シリカ、溶融シリカ、タルク、アルミナ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、アエロジル、炭酸カルシウム等が使用可能であり、これらは単独あるいは混合してもよい。また、前記有機溶剤等と配合したワニスと混合してもよい。
【0032】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物は、上記各成分を混合して製造することができる。難燃性エポキシ樹脂組成物においては、上記一般式(1)で示されるリン系有機化合物を、予めアクリル樹脂成分に混合しておき、これをエポキシ樹脂成分と混合してもよく、又は、アクリル樹脂成分、エポキシ樹脂成分とは別に別途添加して混合してもよく、さらには、予めエポキシ樹脂成分に混合してもよい。
【0033】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物は、可撓性や接着性を付与する難燃性樹脂改質剤として使用することができ、接着剤組成物に好適に使用することができる。また、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、難燃性接着剤組成物、各種難燃性硬化物等を製造することができる。
【0034】
さらに、本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物は、接着シートとすることができ、またフィルム状基材に塗布して接着フィルムとすることができる。上記フィルム状基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレノキサイド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、アラミド、ポリアリレート、ポリアミド等のプラスチックからなる厚さ数μm〜数百μmのフィルムであり、これらから選ばれる複数のフィルムを積層して用いても良い。また必要に応じて、加水分解、コロナ放電、低温プラズマ、物理的粗面化、易接着コーティング処理等の表面処理を施すことができる。接着フィルムは、上記フィルム状基材の片面又は両面に、本発明の難燃性アクリル樹脂組成物又は難燃性エポキシ樹脂組成物を、塗布厚み3〜50μm程度に塗布し、必要に応じて乾燥させB−ステージ化させて、製造することができる。上記接着フィルムは、フィルム状基材を剥離可能にすることが好ましい。また、本発明の難燃性アクリル樹脂組成物又は難燃性エポキシ樹脂組成物を離形紙等に塗布した後にフィルム状基材に転写してもよく、さらに、銅箔やアルミ箔などの導電性材料に直接塗布してもよい。
【0035】
以下に実施例を示して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
実施例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、接着性及び/又は可撓性付与成分としてテイサンレジンSG−80H(ナガセケムテックス株式会社製。グリシジル基含有可撓性アクリル共重合体。Tg=7.5℃、Mn=15×10、Mw=35×10)を99部加え、難燃剤としてデナフォラスR−112(ナガセケムテックス株式会社製。一般式(2)で示されるリン系有機化合物。難燃剤中のリン含量約7%)を13部を加え、メチルエチルケトンを混合して、接着剤ワニスを調製し、触媒量の3級アミン(ジメチルベンジルアミン0.2部。以下おなじ。)存在下に加熱して、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0037】
実施例2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、接着性及び/又は可撓性付与成分としてテイサンレジンSG−80Hを99部加え、難燃剤としてデナフォラスR−112を32部加え、メチルエチルケトンを混合して、接着剤ワニスを調製し、触媒量の3級アミン存在下に加熱して、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0038】
実施例3
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、接着性及び/又は可撓性付与成分としてテイサンレジンSG−80Hを99部加え、難燃剤としてデナフォラスR−112を44部加え、メチルエチルケトンを混合して、接着剤ワニスを調製し、触媒量の3級アミン存在下に加熱して、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0039】
比較例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、接着性及び/又は可撓性付与成分としてテイサンレジンSG−80Hを99部加え、メチルエチルケトンを混合して、接着剤ワニスを調製し、触媒量の3級アミン存在下に加熱して、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0040】
比較例2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、接着性及び/又は可撓性付与成分としてテイサンレジンSG−80Hを99部加え、難燃剤としてトリクレジルホスフェート(難燃剤中のリン含量8.4%。)を11部加え、メチルエチルケトンを混合して、接着剤ワニスを調製し、触媒量の3級アミン存在下に加熱して、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0041】
得られたエポキシ樹脂の硬化物の難燃性を酸素指数で評価した。指数が大きいほど難燃性が高い。弾性率を下記の方法で測定して評価した。また、リン含量を配合組成から算出した。結果を表1に示した。さらに、得られたエポキシ樹脂の硬化物の加熱減少率(200℃環境中、200時間後の測定)を下記の方法で測定した。
【0042】
評価方法
酸素指数:JIS K 7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して行った。
弾性率:試験片として、幅10mm×長さ50mm×厚さ3mmの硬化物を作製し、セイコーインスツルメンツ株式会社製粘弾性測定装置DMS6100を用いて、両持ち曲げモードにて測定した。
加熱減少率:作製した硬化物の重量を測定して初期重量とし、この試験片を200℃に温度調整した送風式乾燥器に静置する。所定の時間が経過した後に、試験片を取り出し、デシケータ中で室温に冷却して重量を測定する。初期重量との差を加熱減量とし、初級重量に対する重量百分率を算出し、加熱減少率とした。
【0043】
【表1】

【0044】
ブリード性
リン系難燃剤のブリード性を評価するために、以下の参考例配合を用いて、加熱減量、加熱減少率を測定した。
【0045】
参考例1
ビスフェノールA型エポキシ樹脂88部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物74部と、難燃剤としてデナフォラスR−112を12部混合し、触媒量の3級アミンを加えて、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0046】
参考例2
ビスフェノールA型エポキシ樹脂80部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物68部と、難燃剤としてデナフォラスR−112を20部混合し、触媒量の3級アミンを加えて、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0047】
参考例3
ビスフェノールA型エポキシ樹脂90部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物76部と、難燃剤としてトリクレジルホスフェート10部混合し、触媒量の3級アミンを加えて、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0048】
参考例4
ビスフェノールA型エポキシ樹脂100部に硬化剤としてメチル−テトラヒドロフタル酸無水物80部と、触媒量の3級アミンを加えて、エポキシ樹脂の硬化物を得た。
【0049】
得られたエポキシ樹脂の硬化物の加熱減量、加熱減少率(200℃環境中、500時間、1000時間、2000時間後の測定)を上記の方法で測定した。さらに、リン含量を配合組成から算出した。結果を表2に示した。
【0050】
【表2】

【0051】
実施例1〜3から、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、可撓性を確保しつつ、しかも、良好な難燃性を発揮することが判った。一方、難燃剤を使用しない比較例1は酸素指数が低く、また、他のリン系化合物を使用した比較例2は、同一のリン含量をもつ実施例1よりも可撓性に対する悪影響が観察された。実施例1〜3の加熱減少率はリン系化合物を使用した比較例2よりも小さな値を示し、本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物は、難燃剤のブリードアウトが抑制されていることが判った。また、アクリル樹脂成分を使用せずにエポキシ樹脂に難燃剤を配合した参考例1〜4から、上記一般式(1)で示される反応性置換基含有リン系化合物はエポキシ硬化系に配合した場合に、加熱減少率が、他のリン系化合物に比べて(参考例3)有意に低く、リン系化合物を全く含有しない樹脂組成物の場合の加熱減少率(参考例4)と殆ど同程度であり、このことからも、本発明の組成物においてブリードアウトが抑えられていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の難燃性アクリル樹脂組成物及び難燃性エポキシ樹脂組成物は、難燃性接着剤組成物等に使用可能であり、ブリードアウトが抑えられているため、各種電子部品等の分野、特に多層配線板用接着シート等に好適に使用することができる。例えば、回路接続用接着剤組成物、プラスチックフィルムと金属箔とを貼り合わせた配線材料等においてプラスチックフィルムと金属箔とを接着する接着剤等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示されるリン系有機化合物、並びに、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミド基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有する可撓性アクリル樹脂を主成分とする難燃性アクリル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、反応性置換基を少なくとも1つ有していてもよい、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基であり、m及びnはそれぞれ0〜4の整数を示す。ただし、m及び/又はnが2〜4の整数の場合は、複数のR1及び/又はR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Aは、R1及びR2と同一又は異なる有機基であって、それぞれ反応性置換基を少なくとも1つ有する、エステル結合を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基である。ただし、前記反応性置換基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アリールオキシ基、(メタ)アクリロイル基、エステル基、アミド基、エポキシ基、グリシジル基、及び、オキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基であり、1分子中に前記反応性置換基が複数存在する場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
一般式(1)で示されるリン系有機化合物、アクリル樹脂からなる接着性及び/又は可撓性付与成分、エポキシ樹脂、並びに、硬化剤を主成分とする難燃性エポキシ樹脂組成物。
【化2】

(式中、R1及びR2は、同一又は異なって、反応性置換基を少なくとも1つ有していてもよい、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基であり、m及びnはそれぞれ0〜4の整数を示す。ただし、m及び/又はnが2〜4の整数の場合は、複数のR1及び/又はR2は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。Aは、R1及びR2と同一又は異なる有機基であって、それぞれ反応性置換基を少なくとも1つ有する、エステル結合を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1〜10のアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、又は、シクロアルキル基である。ただし、前記反応性置換基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アリールオキシ基、(メタ)アクリロイル基、エステル基、アミド基、エポキシ基、グリシジル基、及び、オキセタニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基であり、1分子中に前記反応性置換基が複数存在する場合は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
リン含量が0.01〜10重量%である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
リン系有機化合物は、下記式(2)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか記載の組成物。
【化3】

【請求項5】
接着性及び/又は可撓性付与成分は、カルボキシル基、ヒドロキシル基及びエポキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含有するビニル系モノマー(b1)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b2)とアクリロニトリル及びスチレンからなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマー(b3)とを共重合してなる可撓性アクリル樹脂である請求項1〜4のいずれか記載の組成物。
【請求項6】
硬化剤は、酸無水物化合物である請求項2〜5記載の組成物。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか記載の組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか記載の組成物を含有してなる接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか記載の組成物をフィルム状基材に塗布してなる接着シート。

【公開番号】特開2007−231091(P2007−231091A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52635(P2006−52635)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】