説明

零(0)の波長分散性を有し、面内位相差の値が均一な位相差フィルム及び正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルム

【課題】零(0)の波長分散性を有し、面内位相差の値が均一な位相差フィルム及び正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムを提供する。
【解決手段】アイソタクチックインデックス(isotactic index)が85%以上であるホモポリプロピレン樹脂で製造されて零(0)の波長分散性を有し、特定部位における面内位相差(Re)値が平均値に比べて±5nm範囲内の均一性を有することを特徴とする。また、このように零(0)の波長分散性を有する位相差フィルムに負(−)の波長分散性を有する他の位相差フィルムを積層させて正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホモポリプロピレン樹脂で製造される光学フィルムに係り、特に、零(0)の波長分散性を有し、面内位相差の値が均一な位相差フィルム及び正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムに関する。より詳しくは、耐久性が高く、零(0)の波長分散性を有し、面内位相差の値が均一な位相差フィルム及び可視光線領域の全体で広帯域理論値にさらに近接した正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来では位相差フィルムは所望の光学的特性に応じて様々な種類のポリマー樹脂をその材料として用いている。
その中でポリプロピレン系樹脂は、一般にそれと重合する共重合体の種類及びその構造によって、ホモポリマー、ランダム共重合体及びブロック共重合体に分けられ、さらにポリプロピレン系樹脂の分子鎖が有する立体規則性に応じて、アイソタクチック、シンジオタクチック及びアタクチックに分けられる。ポリプロピレン系樹脂を用いて光学異方性フィルムを製造する従来の技術において、立体規則性がないか、あるいはごく低いエチレン−プロピレン共重合体樹脂のような無定形あるいは低結晶性ランダム及びブロック共重合体は、樹脂材料としての透明性及び光学異方性制御が相対的に容易であるため、一般に広く用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
しかしながら、樹脂材料として上述したエチレン−プロピレン共重合体などを用いる場合、共重合体樹脂の無定形あるいは低結晶性特性から剛性(stiffness)及び引張強度などの機械的強度が低いという問題がある。これにより、実際製品を製造する場合、フィルムの厚さを厚くしなければならず、これはフィルムの透明性を低下させる要因となる。また、共重合体である樹脂特性により融点が低くて高温及び連続使用の際には耐熱性の問題が発生し、相対的に(プロピレン単独重合体であるホモポリプロピレン樹脂に比べて)分子量が小さくて高いメルトフローレイト(MFR)を有するのみならず、延伸及び配向加工性が低くて(例えば、延伸比が高くなるか、延伸速度が速くなると、フィルムが破綻するなどの問題が発生する)所望の任意の光学異方性を十分に提供することができず、高速及び大量生産に向かない問題があるなど、商業的利用に限界がある。
【0004】
一方、モバイル機器用及び屋外広告用のモニターなどの新規な用途に適当な反射型及び半透過型液晶表示装置分野や光ディスク用のピックアップ分野においては、可視光線の全体領域(400〜800nm)で特定位相差を透過光の各分光波長に付与できる広帯域位相差のフィルムが必要である。例えば、各分光波長に対して、同一にλ/4の特定位相差を透過光に提供する広帯域位相差の発現のために、透過光が長い波長であるほど位相差が増える特性の光学フィルムが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−253377号公報
【特許文献2】特開2007−286615号公報
【特許文献3】特開2007−316603号公報
【特許文献4】特開2007−333846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、アイソタクチックインデックス(isotactic index)が85%以上であるホモポリプロピレン樹脂で製造されて零(0)の波長分散性を有し、特定部位における面内位相差(Re)値が平均値に比べて±5nm範囲内の均一性を有することを特徴とする面内位相差の値が均一な位相差フィルムを提供することである。
また、本発明の他の目的は、零(0)の波長分散性を有する位相差フィルムに負(−)の波長分散性を有する他の位相差フィルムを積層させることにより、可視光線領域の全体(400〜800nm)において、例えば、各分光波長に対して同一に1/4だけの位相差(λ/4位相差)を透過光に提供する広帯域位相差の発現のために正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本発明の面内位相差の値が均一な位相差フィルム(以下、「本発明の位相差フィルム」と呼ぶ場合がある。)は、アイソタクチックインデックス(isotactic index)が85%以上であるホモポリプロピレン樹脂が延伸してなるものであって、特定の部位において下記式(I)による面内位相差(Re)値が平均値に比べて±5nm範囲内の均一性を有することを特徴とする。なお、「特定の部位」とは、本発明の位相差フィルムにおける任意の位置を意味する。
【0008】
【数1】

(ここで、nはフィルムの面内で最大屈折率を示す軸(地上軸)方向の屈折率であり、nは該地上軸と直交する方向の屈折率であり、Dはフィルムの厚さ(nm)を意味する。)
【0009】
ここで、上記ホモポリプロピレン樹脂は1〜15g/10min範囲内のメルトフローレイト(Melt Flow Rate:MFR)を有することができる。
【0010】
また、本発明の位相差フィルムは、上記ホモポリプロピレン樹脂を溶融及び混練して押出させた後、冷却ロールで急冷して無延伸フィルムを収得し、上記無延伸フィルムを延伸して収得され、上記冷却ロールは5〜35℃範囲内の表面温度を有することができる。
【0011】
また、本発明による面内位相差の値が均一な位相差フィルムは、下記式(II)による波長分散比の最大値または最小値が1±0.1範囲以内であり、透過光が長い波長であるほど、位相差が減るか増える零(0)波長分散性を有することを特徴とする。
【0012】
【数2】

(ここで、Reは可視光線領域(400〜800nm)におけるフィルム面内位相差(nm)であり、Re(550)は550nm波長におけるフィルム面内位相差(nm)を意味する。)
【0013】
本発明の他の実施形態として正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムは、上述したような第1の位相差フィルムに、上記式(II)による波長分散比の最大値または最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が減る負(−)の波長分散性を有する第2の位相差フィルムが積層されて、上記式(II)による波長分散比の最大値または最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が増える正(+)の波長分散性を有することを特徴とする。
ここで、上記第1の位相差フィルムのMD(Machine Direction)方向と第2の位相差フィルムの位相遅延軸方向が20〜40°範囲内に傾斜するように積層されることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、アイソタクチックインデックス(isotactic index)が85%以上であるホモポリプロピレン樹脂で製造されて波長分散性がごく小さい零(0)の波長分散性を有し、特定部位における面内位相差(Re)値が平均値に比べて±5nm範囲内の均一性を有する面内位相差の値が均一な位相差フィルムを提供することができる。また、本発明により、零(0)の波長分散性を有する位相差フィルムに、負(−)の波長分散性を有する他の位相差フィルムを積層させることにより、可視光線(400〜800nm)領域の全体において{+}波長分散性を有する広帯域光学異方性ラミネートポリプロピレンフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例2〜3及び比較例2〜3による光学異方性フィルムの可視光線領域内において位相差Reを示す模式図である。
【図2】本発明の実施例3及び比較例2、比較例3による光学異方性フィルムの可視光線領域内において波長分散性Re/Re(550)を示す模式図である。
【図3】本発明の実施例19〜21及び比較例9による広帯域光学異方性ラミネートフィルムの可視光線領域内において波長分散性Re/Re(550)を広帯域理論値と比べて示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、以下に本発明に係る技術的用語の定義を示す。
(技術的定義)
“アイソタクチックインデックス(isotactic index)”はホモポリプロビレンのアイソタクチック度を測定したものであって、核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)測定方法で測定したメチルが立体整列されているアイソタクチックペンタッド(pentad)単位の重量%を意味し、百分率が高いほどアイソタクチック度が高いことを意味する。
【0017】
“メルトフローレイト(MFR)”はASTM D 1238によって測定した10分当たりグラム(g/10min)単位にして示した溶融樹脂の流量を意味する。
【0018】
フィルムの“面内位相差(Re)”は下記式(I)により測定された値を意味する。
【0019】
【数3】

(ここで、nはフィルムの面内において最大屈折率を示す軸(地上軸)方向の屈折率であり、nは該地上軸と直交する方向の屈折率であり、Dはフィルムの厚さ(nm)を意味する)。
【0020】
また、フィルムの面内位相差(Re)は透過光の波長に依存して分散され、フィルムの“波長分散比”は次の式(II)により中心波長550nmにおける面内位相差(Re)値に対する各分光波長における面内位相差(Re)分率を意味する。
【0021】
【数4】

(ここで、Reは各分光波長におけるフィルム面内位相差(nm)であり、Re(550)は550nm波長におけるフィルム面内位相差(nm)を意味する。)
【0022】
ここで、フィルムの光学特性は、上記波長分散比の増減程度に応じて負(−)、零(0)及び正(+)の波長分散性として示すことができる。すなわち、可視光線(400〜800nm)領域内で波長が長い波長になることによって、面内位相差Reが急激に減少して波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1の範囲を外れると、“負(−)の波長分散性”、面内位相差Reが緩やかに減るか増えて波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1の範囲以内にあれば、“零(0)の波長分散性”、また面内位相差Reが急激に増えて波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1の範囲を外れると、“正(+)の波長分散性”を有すると見なすことができる。
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面を参照して詳しく説明する。
大部分の位相差フィルムの波長分散性は透過光の振動数とフィルムの偏極度分散により左右されて負(−)の波長分散性を示す。一定偏極度及び誘電特性を有する位相差フィルムに透過光が入射されると、同一振動数の新しい光が出射される。この際、高い振動数の光(例えば、短い波長/青)は低い振動数(例えば、長い波長/赤)の光よりさらに多いエネルギーを運ぶため、効率よく分子を励起することができ、これにより、偏極度分散が発生して可視光線領域(400〜800nm/青〜赤)で負(−)の波長分散性を示す。
【0024】
しかしながら、ポリプロピレンは零(0)の波長分散性を示すが、これは非極性高分子として相対的に誘電特性が低く、偏極度及び偏極分散性が大きくないことから発現する特性である。これに比べて、従来の位相差フィルムであるポリスルホンフィルムは強い(−)波長分散性を示すが、その分子構造は原子間の距離が短いS=0及びC=0結合があるとともに、多数のベンゼン環で構成されて高い電子密度を有するので、偏極度が高く、透過光の振動数に応じて波長分散を大きく発生させる特性を有する。
【0025】
これにより、本発明者は基本的に零(0)の波長分散性を有する位相差フィルムを製造するために、偏極度分散性の低いポリプロピレンをフィルムの主原料として用いた。
ポリプロピレンの光学異方性は高分子鎖の偏極度異方性及び誘電特性に基づくが、成型、加工されたポリプロピレンフィルムは、フィルム内の分子構成が秩序のある結晶形態または無秩序な混在状態の無定形状態からなり、これが互いに相殺するため、平均偏極度は方向に応じて大きな差はない。しかしながら、機械的な延伸過程からポリプロピレンの高分子鎖を一定な方向に規則正しく延伸・配向させる場合には、配向方向に偏極度が高くなり偏極度の主軸上の3方向の屈折率n、n及びnは分子群の配向状態に応じて変わる。したがって、本発明者はこの場合の延伸倍率、延伸温度、フィルムの厚さおよび2軸延伸の場合の軸角度などを精密に操作して配向状態を制御することにより、所望の光学異方性を収得しようとした。
【0026】
ポリプロピレン系樹脂の中でも、下記[化1]のプロピレン単独重合体であるアイソタクチックポリプロピレンは、主鎖軸を含む平面に対してメチル基が上方あるいは下方のいずれか一方に配列された立体規則性を有するため、高い結晶性を示す。また、これにより高融点を達成することができて耐熱性が高く、引張強度などの機械的性質も優れた特性を示す。
【0027】
【化1】

【0028】
また、上記アイソタクチックホモポリプロピレン樹脂を溶融・押出した後、融点以下の温度で冷却・固化すると、核の生成によりラメラ構造で結晶が成長して球晶(円形結晶)を形成するようになり、このようなラメラ群が球晶の中心からすべての方向に成長して隣の球晶と衝突して結晶の成長が止まるか、既に形成されている球晶内で残存する無定形状が続けて結晶化して、球晶の内部構造をさらに緻密にする結晶化が行われる。この際、結晶化過程で生成される球晶の大きさが可視光線より大きいか不均一に分布すると、延伸・配向後にも球晶の大きさが十分に小さくならず、不均一な分布をもたらして透明性が低下するか光学異方性(例えば、位相差のごく大きい値を示すなど)の制御が難しくなることがある。
【0029】
そのため、ポリプロピレン系樹脂を用いて位相差フィルムを製造する従来の技術においては、立体規則性がないかごく低いエチレン−プロピレン共重合体樹脂のような無定形または低結晶性ランダム及びブロック共重合体が一般に用いられた。しかしながら、この場合には、共重合体樹脂の無定形または低結晶性特性から剛性(stiffness)及び引張強度などの機械的強度が低く、共重合体である樹脂特性から融点が低くて高温及び連続使用時には耐熱性が低下し、相対的に(プロピレン単独重合体であるホモポリプロピレン樹脂に比べて)分子量が小さくて高いメルトフローレイト(MFR)を有するのみならず、延伸及び配向加工性が低いという短所がある。
【0030】
したがって、高い耐久性及び均一性を有する位相差フィルムを製造するためには、ホモポリプロピレン樹脂を用いる場合、結晶化過程で生ずる球晶による不均一性と、エチレン−プロピレン共重合体樹脂を用いる場合、剛性及び耐久性不足問題などを同時に解決する必要がある。本発明者は数年間研究を繰り返した結果、ホモポリプロピレン樹脂の結晶化過程で生成される球晶の大きさを小さくすると、その後の延伸・配向過程で球晶の大きさを十分に縮小させることができ、これにより均一な分布で透明性の低下を防ぐことができることが分かった。
【0031】
このような状況下、本発明は基本的に薄膜化、高剛性化及び透明性などの点においてプロピレン単独重合体であるホモポリプロピレン樹脂を用い、高い延伸・配向加工性、耐熱性を考慮した高融点化、後加工安全性(例えば、引張強度など)の点において結晶の核形成が多くなされて球晶の大きさを小さく均一にするのに容易なアイソタクチック度の高いポリプロピレンを用いることである。
【0032】
特に、本発明に用いられる最適のポリプロピレン樹脂はアイソタクチック度の高いプロピレン単独重合体であるホモポリプロピレンであって、アイソタクチックインデックスが85%以上(特に好ましくは、90%以上)の立体規則性を有する。上記アイソタクチックインデックスが85%未満の場合には、球晶の大きさ及び分布不均一によるヘイズ及び全光線透過率が急激に減るとともに、フィルムの幅及び長さ方向に位相差不均一をもたらす。
【0033】
また、本発明による上記ポリプロピレン樹脂は高速及び大量加工性に大きな影響を与える要素として樹脂の分子量及び分子量分布のような流動的な性質を考慮することが好ましい。上記流動的な性質はメルトフローレイト(MFR、すなわち、溶融指数)を用いて判断し、MFRが1〜15g/10min、好ましくは、2〜10g/10minであることが適している。MFRが1g/10min未満の場合には、溶融・押出時に押出器の内部の圧力負荷が大きくなり安定した押出性が得られないのみならず、フィルムの延伸・配向時に高速加工性が劣化するか位相差不均一をもたらすことがあり、15g/10minを超過する場合には、延伸・配向時に破断がすぐ発生するので、加工することができないか、位相差不均一をもたらすことがある。
【0034】
さらに、本発明による上記ポリプロピレン樹脂の球晶の大きさをより縮小させるために、上記樹脂を溶融及び混練し押出させて冷却ロールで急冷させて無延伸フィルムを得る過程において、上記冷却ロールは5〜35℃範囲内の表面温度を有することが最も好ましいことを確認した。5℃未満の場合には結露が発生し、35℃を超過すると均一性が劣化する問題がある。
【0035】
また、本発明の位相差フィルムは必要によって溶融・押出時に核剤をさらに含むことにより、核を多く形成させるか、耐熱性を向上させることができ、加工性及びフィルム物性を調整するために本発明が達成するための目的に影響を与えない範囲内で可塑化剤、酸化防止剤、加工助剤、無機充填剤、スリップ剤、紫外線吸収剤及び帯電防止剤などの添加剤をさらに含むこともできる。
【0036】
以下、本発明の好ましい実施形態による製造方法を詳しく説明する。
まず、ポリプロピレン樹脂は分子鎖の主鎖に数多い第3級炭素原子があり、上記ポリプロピレン樹脂に付加されている水素原子は酸化に弱い。したがって、ポリプロピレン樹脂のパレット(pallet)に内在されている気体(酸素など)及び水分を取り除くために、ポリプロピレン樹脂原料を不活性ガス循環式乾燥機または真空乾燥機を用いて乾燥させた後、窒素またはアルゴンなどの不活性気体で充填されたホッパーを用いて押出器に移送することが好ましい。ここで、好適な乾燥温度は20〜50℃、特に30〜40℃であり、好適な維持時間は2〜3時間、特に1〜2時間である。
【0037】
一方、乾燥処理された樹脂材料を溶融・押出法により単層または多層構造のフィルムにする方法は特に限定されず、公知方法を用いることができる。例えば、樹脂材料を押出器に移送して融点以上の温度で溶融させ、溶融された樹脂をスリット型の出口を有するダイ(die)でフィルム形状にして押出し、鏡面ロールの表面に密着させて冷却・固化させることにより、無延伸状態のフィルムを収得することである。さらに、ダイから押出される溶融樹脂を定量的に計量・供給するためにギアポンプを用い、溶融樹脂の各種欠点(例えば、異物、気泡、炭化物及び未溶融ゲルなど)を取り除くためのフィルターシステムを用いることが好ましい。
【0038】
ここで、押出器としては単軸、二軸、油性式及びタンダム型(tandem)のうちいずれを用いてもよい。好ましくは、溶融樹脂に加えられる熱を最小化して劣化を防止するために、一次にタンダム型押出器を用いて樹脂を全部溶融した後、二次に少し低い温度で押出することが好ましい。押出器のL/Dは28〜40が好ましく、スクリュー形状としてはベント(vent)型、先端 Dulmage型、full flight型などがあるが、full flight型が好ましい。さらに、スクリューの直径は押出量に応じて30〜200Fが好ましい。スクリューの直径が30F未満であれば、計量安定性やフィルム生産性が低下し、200Fを超過すると、計量された溶融樹脂の滞留時間が長くなり劣化の恐れがある。
【0039】
また、樹脂の計量に用いられるギアポンプは内部潤滑式あるいは外部潤滑式の両方を用いることができるが、溶融樹脂を円滑に排出できることから外部潤滑式が好ましい。さらに、重合体フィルターシステムとしては、リーフディスク(leaf disk)、キャンドル(candle)、リーフ(leaf)及びスクリーンメッシュ(screenmesh)タイプなどがあるが、溶融樹脂の滞留を抑制する点から、高精細焼結金属を複数用いたリーフディスクタイプが好ましく用いられる。フィルターのろ過精密度は20μm以下、好ましくは、5μm以下が適している。濾過精密度が20μmを超過する場合には、各種欠点(例えば、異物、気泡、炭化物及び未溶融ゲルなど)が重合体フィルターを通るため、収得するフィルムに各種欠点が発生するなど外観不良が発生する。
【0040】
さらに、ダイには通常Tダイ(T-die)が用いられる。Tダイの種類としては、マニフォールド(manifold)形状に応じてコートハンガー(coat hanger)ダイとフィッシュテール(fish tail)ダイなどがあるが、ダイの内部樹脂流動を均一にしてフィルムの厚さ均一性を保持し、熱劣化を抑える点から、滞留が発生しにくい構造のコートハンガーダイが好ましく用いられる。ダイの材質としては、ダイライン及び吐き出しフィルムにすす混入を防止するために、鋼鉄、ステンレスなどの表面にクロム、ニッケル、チタンなどの鍍金を行い、表面の傾度を高め、樹脂との摩擦力を低減したものを用いることが好ましい。
【0041】
また、鏡面ロールとしては、内部に加熱及び冷却手段を有する金属ロールにクロム鍍金、無電解ニッケル鍍金などの鏡面加工したロールやセラミックス材質のロールが好ましく用いられる。さらに、鏡面ロールと溶融樹脂との密着性を向上させる方法としては、ニップロール(nip roll)、静電印加、エアナイフ(air knife)、片面ベルト、両面ベルト及び三つの冷却ロール方式などがあるが、光学特性の変形が少ないフィルムを製造するためには三つの冷却ロール方式が好ましい。冷却・固化温度は、決定化過程で形成される球晶の大きさを小さく均一にして面内位相差Reが不均一になることを防止するために、5〜35℃、好ましくは、10〜20℃で急冷する。冷却温度が5℃未満の場合には、急激な温度差によるフィルムの結露現象が発生することがあり、35℃を超過する場合には、位相差の不均一をもたらすことがある。
【0042】
上記溶融・押出法による無延伸状態のポリプロピレンフィルムは、追加延伸により分子鎖を一定な方向に規則正しく配向させることにより、透過光に位相差を提供する光学異方性フィルムとなる。
【0043】
延伸方法としては特に限定されないが、必要によって公知した一軸延伸法あるいは二軸延伸法が用いられる。詳しくは、駆動ロール間の走行速度差を用いるローリング法による一軸延伸法、円周の違う二対のロールを用いる一軸延伸法、テンター(tentering)法による一軸延伸法、固定するテンター(tenter)クリップの間隔があいて縦方向の延伸とともに把持クリップのガイドレールの分散角度に応じて横方向に延伸する同時二軸延伸法、駆動ロール間の走行速度差を用いて縦方向に延伸した後、両端部をクリップで把持してテンター(tenter)を通過させることにより、横方向に延伸する順次2軸延伸法などの方法が用いられる。また、同時二軸延伸及び順次二軸延伸などの二つの延伸軸を有する場合、二つの延伸軸が交差する角度は所望の目標特性に応じて決まるので、特に限定されないが、一般に120〜60°とすることが好ましい。
【0044】
また、延伸温度は樹脂材料の軟化点と融点との間の温度であれば、特に限定されないが、延伸温度が低いほど位相差は大きくなり、温度が高いほど位相差は小さくなるため、目標特性に応じて調整することが好ましく、厚さ及び位相遅延軸などの不均一を最小化するために温度の変動は±3%以内、好ましくは、±0.5%以内にすることが適している。
さらに、延伸比(ここで、延伸比は“(延伸後の長さ)/(延伸前の長さ)”を意味する)は目標特性に応じて決まるので、特に限定されないが、延伸・配向による分極度の変化を考慮して決めることが好ましい。例えば、本発明の樹脂材料であるアイソタクチックポリプロピレンは非極性高分子であって、透過光の電気場が与えられる場合、ポリスルホンまたはポリカーボネートなどの極性の強い樹脂と比べて、偏極現象がすこし発生するので、これらフィルムと同一な位相差を付与するためには相対的に延伸比を大きくしなければならない。そのため、位相差の制御した商業的価値のあるフィルムを得るためには、延伸方法に応じて異なるが、1.1〜10倍、好ましくは、2〜10倍のすこし高い比で延伸する必要がある。この際、延伸前のフィルムの厚さが同一であれば、延伸比が高いほど位相差を大きく制御することができ、延伸比の変動は±3%以内(特に±0.5%以内)にして厚さ及び位相遅延軸などの不均一性を克服した後、最終段階で寸法特性の経時変化を低減するために熱固定することが好ましい。
【0045】
また、延伸後の最終厚さは目標特性に応じて決まるので、特に限定されないが、2〜200μm、好ましくは、5〜50μmが適しており、同一な延伸比で厚さを厚くすることにより位相差を高く制御することができ、逆に厚さを薄くし延伸比を大きくして軽量化・薄膜化に対応できるが、厚さが2μm未満の場合には取り扱いが非常に難しくなるという問題がある。ここで、最終厚さ制御は延伸前のフィルム厚さを調整するか延伸比を調整することにより行うが、厚さの分布は位相遅延軸の不均一などを防ぐために平均値に比べて±3%以内、好ましくは、±1%以内にするのが適している。
【0046】
上述した方法で製造された光学異方性フィルムは、他の基材との接合または塗布層との接着力を向上させるために、表面上にプライマーコーティング、コロナ処理、プラズマ処理、火炎処理、オゾンシャワー及びイオンビーム処理などを行うこともできる。
一方、本発明の他の一実施形態により提供される正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルムは、上述したように、零(0)の波長分散性を有する第1の位相差フィルムと、負(−)の波長分散性を有する別途の他の第2の位相差フィルムとが、所定の粘着剤により積層された広帯域光学異方性ラミネートフィルムである。
このようなラミネートフィルムの面内位相差Reは、各々の積層フィルム及び粘着剤の位相差に対する引き算により得られるので、下記式(III)のように示すことができる。
【0047】
【数5】

(ここで、Re(L)はラミネートフィルム面内位相差(nm)であり、Re(1)及びΔn(1)は位相差の大きいフィルム面内位相差(nm)及び複屈折率であり、Re(2)及びΔn(2)は位相差の小さいフィルム面内位相差(nm)及び複屈折率であり、Re(ad)及びΔn(ad)は粘着剤の面内位相差(nm)及び複屈折率であり、Dはフィルムの厚さ(nm)を意味する。)
【0048】
上記式(III)による面内位相差Re(L)値に基づいて、本発明は上述したような零(0)の波長分散性を有する第1の位相差フィルムに、次の式(II)による波長分散比の最大値または最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が減る{−}波長分散性を有する第2の位相差フィルムが積層されて、次の式(II)による波長分散比の最大値または最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が増える{+}波長分散性を有することを特徴とする。
【0049】
【数6】

(ここで、Reは可視光線領域(400〜800nm)におけるフィルム面内位相差(nm)であり、Re(550)は550nm波長におけるフィルム面内位相差(nm)を意味する。)
【0050】
上述したように、本発明は零(0)の波長分散性を有し、位相差絶対値を大きく制御する第1の位相差フィルムと、負(−)の波長分散性を有し、位相差絶対値の小さい第2の位相差フィルムとを積層することにより、位相が相殺及び変調する物理化学的な干渉現象により可視光線領域(400〜800nm)の全体において正(+)の波長分散性を示す広帯域化機能を有するフィルムを提供することができる。また、負(−)の波長分散性を有するフィルムを波長分散の大きいフィルムに取り替えるか、位相遅延軸を回転・配置させて干渉現象を調整することにより、広帯域性を最適にすることができる。
【0051】
ここで、第1の位相差フィルムと第2の位相差フィルムとを積層させる粘着剤は、基材の種類に応じて異なる。例えば、基材がポリカーボネートであれば、これとの反応性がなくて白濁などの欠点が生じないアクリル系粘着剤を用いることが好ましい。また、基材とのラミネーティング後の剥離力が500gf/25mm以上である粘着剤を用いることもできる。さらに、粘着層のコーティング厚さは0.5〜30μm、好ましくは、1〜10μmである。粘着層の厚さが0.5μm未満であれば、粘着力の不均一による作業性及び粘着力の低下が発生し、30μmを超過すると、広帯域光学異方性ラミネートフィルムの位相差特性が低下することがある。
【0052】
また、粘着剤のコーティング方法としては特に限定されないが、従来のすべてのコーティング方式を用いることができる。例えば、エアダクターコーター、ブレードコーター、ロードコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スロットダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーターまたはバーコーターなどを用いる方法が可能である。また、上述したように基材に粘着剤をコーティングして通常乾燥炉を通過させ、ゴム系の圧着ロールで残余フィルムを接合するドライラミネーション方法により、広帯域光学異方性ポリプロピレンラミネートフィルムを収得することができる。
【0053】
さらに、本発明によれば、上記ラミネートフィルムが本来の目的として用いられる前に外部の温度、湿気環境及び物理的な衝撃や侵入から保護するか、他の基材(例えば、ガラス、鏡、プラスチック及びプラスチックフィルムなど)に取り付けできるようにするために、上記フィルムの片面以上の面に保護フィルムをラミネートするか、粘着コーティング層を形成させることもできる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳しく説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されることではない。また、実施例における各種項目に対する評価は次のように行った。
【0055】
(1)アイソタクチックインデックス
核磁気共鳴(NMR)測定方法によって、メチルが立体整列されているアイソタクチックペンタッド(pentad)単位の重量%を測定して百分率にして評価した。なお、アイソタクチックインデックスの詳細な評価法は、Macromolecules 6(6), 925-26(1973) またはヨーロッパ特許出願公告第B-255 693 号明細書に記載されている。
【0056】
(2) 溶融指数(MFR)
ASTM D 1238の測定方法によって測定して、10分当たりグラム(g/10min)単位の溶融樹脂の流量を確認して評価した。
【0057】
(3) エチレン含有量
エチレン−プロピレンランダム共重合体に対してFT-IRスペクトル分析を通じて該当共重合体中のエチレン由来の構成単位の含量を測定して評価した。
【0058】
(4) 全光線透過率及びヘイズ
積分球式のヘイズメーター(日本電色工業社製)を用いてフィルムの全光線透過率及びヘイズを測定して評価した。
【0059】
(5) 延伸加工性
各実施例において設備稼働後の連続走行中にフィルムの破断が24時間“ない場合は○”、“5回以下の場合は△”、“5回を超過する場合は×”にして評価した。
【0060】
(6) 光学異方性
位相差フィルム検査装置であるRETS(大塚電気社製)を用いて以下の特性を測定して評価した。
(フィルム面内位相差 Re)
フィルムの全幅×長さ1mの試料を取って幅方向20mm間隔、長さ方向3部位20mm間隔にして可視光線領域(400〜800nm)の全体にかけて測定し、各試料及び分光波長による平均値を図式にして評価した。
(面内位相差 Re 均一性)
フィルムの全幅×長さ1mの試料を取って幅方向20mm間隔、長さ方向3部位20mm間隔にして550nm波長における面内位相差 Reを測定して、平均値に比べて“±5nm以内の場合は○”、“±5〜10nmの場合は△”、“それ以上の場合は×”にして評価した。
(波長分散性)
550nm波長における面内位相差 Reに比べた各分光波長における面内位相差 Reを分率にして計算してRe/Re(550)を示し、可視光線(400〜800nm)領域で波長帯によるRe/Re(550)の増減・比較により負(−)、零(0)及び正(+)の波長分散性を確認した。
ここで、波長分散性は可視光線(400〜800nm)領域内で波長が長い波長となることにより、面内位相差Reが急激に減ってRe/Re(550)の最大値あるいは最小値が1±0.1の範囲を外れると、“負(−)の波長分散性”、面内位相差Reが緩慢に減ってRe/Re(550)の最大値あるいは最小値が1±0.1の範囲以内にあれば、“零(0)の波長分散性”、また、面内位相差 Reが増えると、“正(+)の波長分散性”を意味する。
(位相遅延軸)
偏光顕微鏡(ライカ社製)を用いて幅600mmを20mm間隔にして光軸の角度を確認して評価した。
【0061】
(7) 粘着力
引張試験機(インストロン社製)を用いて幅25mmの試料の一方の積層部を剥離速度300mm/minの下において180℃剥離させるときのロード値を測定して評価した。
【0062】
実施例1〜10:位相差フィルムの製造
まず、本実施例1〜10は本発明によって樹脂材料として低誘電特性を有するホモポリプロピレン樹脂を用いる場合、面内位相差Reの波長分散性が零(0)の波長分散性を有するか否かと、延伸条件及び最終フィルムの厚さを制御して任意の位相差が提供できるか否かを確認するためである。
【0063】
「実施例1」
樹脂材料としてアイソタクチックインデックスが98%であり、溶融指数が3.0g/10minであるホモポリプロピレン(融点:168℃)100重量%を、スクリューの直径がそれぞれ65mmF、125mmF及び65mmFである3層共押出溶融・押出器(三菱重工業社製、125mmF押出器はタンダム型)で樹脂温度250℃で溶融・混練した。また、一つの共押出Tダイ(EDI社製、コートハンガー型のメニフォールドダイ)を通じて表層/深層/離層の1種3層にして共押出させ、それぞれ20℃に設定された三つの鏡面ロールキャストドラムで急冷・固化させて無延伸状態のキャストフィルムを収得した。その後、連続して縦延伸器(三菱重工業社製)に導入するようにした。次いで、導入された無延伸状態のキャストフィルムを予熱した後、延伸温度(延伸ロール温度)を120℃にし、ロール間の走行速度の差により3段階にかけて縦方向に2倍延伸した後、上記縦方向に延伸されたフィルムをテンター(tenter)型の横延伸器(三菱重工業社製)に導入して予熱した後、テンター(tenter)内の延伸領域の温度を155℃にして横方向に4倍延伸、テンター(tenter)レール幅を4%弛緩、165℃で熱処理した。その後、一方の端面の表面張力が38dyne/cm以上となるようにコロナ放電処理した。次いで、これを巻き取る一連の作業を連続実施して最終厚さ8μmの樹脂1種、層構成3層構造の光学異方性ポリプロピレンフィルムP1を製造した。
【0064】
「実施例2」
実施例1において、延伸比を縦方向3.03倍及び横方向5.91倍に上向き調整することを除いては、実施例1と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP2を製造した。
【0065】
「実施例3」
実施例1において、延伸比を縦方向4.71倍及び横方向9.05倍に上向き調整することを除いては、実施例1と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP3を製造した。
【0066】
「実施例4」
実施例2において、縦方向及び横方向への延伸後に最終巻き取るフィルムの厚さが25μmとなるようにすることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP4を製造した。
【0067】
「実施例5」
実施例2において、縦方向及び横方向延伸後に最終巻き取るフィルムの厚さが40μmとなるようにすることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP5を製造した。
【0068】
「実施例6」
樹脂材料としてアイソタクチックインデックスが98%であり、溶融指数が3.0g/10minであるホモポリプロピレン(融点:168℃)100重量%を、スクリューの直径が65mmFである溶融・押出器(三菱重工業社製)で樹脂温度250℃で溶融・混練した。その後、Tダイ(EDI社製、コートハンガー型)を通じてフィルム形状にして成形・押出させ、それぞれ20℃に設定された三つの鏡面ロールキャストドラムで急冷・固化させて無延伸状態のキャストフィルムを得た。次いで、連続して縦延伸器(三菱重工業社製)に導入するようにした。その後、このように導入された無延伸状態のキャストフィルムを予熱した後、延伸温度を120℃にし、ロール間の走行速度の差により3段階にかけて縦方向に1.1倍延伸させた。その後、165℃に設定された熱処理領域を通過させる方法で熱処理し、一方の端面の表面張力が38dyne/cm以上となるようにコロナ放電処理し、これを巻き取る一連の作業を連続して行うことにより、最終厚さ40μmの樹脂1種、層構成単層構造の光学異方性ポリプロピレンフィルムP6を製造した。
【0069】
「実施例7」
実施例6において、延伸比を縦方向2.5倍に上向き調整することを除いては、実施例6と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP7を製造した。
【0070】
「実施例8」
実施例6において、延伸比を縦方向4.71倍に上向き調整することを除いては、実施例6と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP8を製造した。
【0071】
「実施例9」
実施例6において、延伸温度を110℃に下向き調整することを除いては、実施例6と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP9を製造した。
【0072】
「実施例10」
実施例6において、延伸温度を135℃に上向き調整することを除いては、実施例6と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP10を製造した。
【0073】
比較例1〜3:無延伸ポリプロピレンフィルム、ポリスルホン系光学異方性フィルムの製造及びポリカーボネート系の光学異方性フィルム評価
「比較例1」
実施例6において、縦方向延伸器のロール間の走行速度差が発生しないようにし、押出量を最終フィルムの厚さが40μmとなるように調整することを除いては、実施例6と同一な方法で無延伸ポリプロピレンフィルムRP1を製造した。
【0074】
「比較例2」
スクリューの直径が30mmFであり、三つのシリンダーユニットで構成された溶融・押出器において、上記シリンダーの温度を原料ホッパーと近い順序で315℃、345℃及び345℃に設定し、樹脂材料としてポリスルホン(C27H22OS、BASF社製)100重量%を樹脂温度が310℃となるようにして溶融・混練した。その後、幅40mmのTダイを通じてフィルム形状に成形・押出させ、それぞれ25℃に設定された三つの鏡面ロールキャストドラムによって急冷・固化させ、一方の断面の表面張力が45dyne/cm以上となるようにコロナ放電処理した。このように製造されたフィルムを巻き取りして延伸状態のキャストフィルムを収得した。その後、巻き取られた延伸状態のキャストフィルムを別途の縦方向延伸器に装着し、そのフィルムを巻き取りながら延伸温度275℃でロール間の走行速度の差により3段階にかけて縦方向に1.13倍延伸することによって、最終厚さ72μmである樹脂1種、層構成単層構造の光学異方性フィルムRP2を製造した。
【0075】
「比較例3」
(−)波長分散性を示す厚さ50μmの従来のポリカーボネート系位相差フィルム(カネカ社製)RP3の特性を評価した。
【0076】
上述した実施例1〜10及び比較例1〜3の製造条件と評価結果を表1及び図1〜2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
図1は本発明の実施例2〜3及び比較例2〜3による光学異方性フィルムの可視光線領域内において位相差 Reを示す模式図であり、図2は本発明の実施例3及び比較例2、比較例3による光学異方性フィルムの可視光線領域内において波長分散性 Re/Re(550)を示す模式図である。
表1、図1及び図2からわかるように、本発明による実施例により製造される光学異方性フィルムは樹脂材料として低誘電特性を有するホモポリプロピレン樹脂を用いることにより、面内位相差Reの波長分散性が零(0)である波長分散性を有する。また、延伸条件及び最終フィルムの厚さを制御して一枚の薄膜フィルムでも特定波長(例えば、550nm)で所望の任意の位相差を透過光に提供できることが確認した。
【0079】
実施例11〜18:均一な面内位相差の値を有する位相差フィルムの製造
「実施例11」
実施例2において、樹脂材料としてアイソタクチックインデックスが92%であるホモポリプロピレンを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP11を製造した。
【0080】
「実施例12」
実施例2において、樹脂材料としてアイソタクチックインデックスが85%であるホモポリプロピレンを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP12を製造した。
【0081】
「実施例13」
実施例2において、冷却ロール三つの温度をそれぞれ10℃に下向き調整することを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP13を製造した。
【0082】
「実施例14」
実施例2において、冷却ロール三つの温度をそれぞれ5℃に下向き調整することを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP14を製造した。
【0083】
「実施例15」
実施例2において、冷却ロール三つの温度をそれぞれ30℃に上向き調整することを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP15を製造した。
【0084】
「実施例16」
【0085】
実施例2において、樹脂材料として溶融指数が1.0g/10minであることを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP16を製造した。
【0086】
「実施例17」
実施例2において、樹脂材料として溶融指数が8.0g/10minであることを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP17を製造した。
【0087】
「実施例18」
実施例2において、樹脂材料として溶融指数が15g/10minであることを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムP18を製造した。
【0088】
比較例4〜8:不均一な面内位相差値を有する位相差フィルム及びエチレン-プロピレン共重合体を用いる光学異方性フィルムの製造
「比較例4」
実施例2において、樹脂材料としてアイソタクチックインデックスが81%であるホモポリプロピレンを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムRP4を製造した。
【0089】
「比較例5」
実施例2において、冷却ロール三つの温度をそれぞれ35℃に上向き調整することを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムRP5を製造した。
【0090】
「比較例6」
実施例2において、樹脂材料として溶融指数が0.5g/10minであることを用いることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムRP6を製造した。
【0091】
「比較例7」
実施例2において、樹脂材料としてエチレン含有量が4.9%であり、溶融指数が8.0g/10minである非晶質エチレン−プロピレンランダム共重合体(融点:135℃)を用いて、155℃で縦方向及び122℃で横方向に延伸した後、最終に巻き取るフィルムの厚さが30μmとなるようにすることを除いては、実施例2と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムRP7を製造した。
【0092】
「比較例8」
比較例2において、樹脂材料としてエチレン含有量が1.8%、溶融指数が5.0g/10minであるエチレン-プロピレンランダム共重合体を用いることを除いては、比較例4と同一な方法で光学異方性ポリプロピレンフィルムRP8を製造した。
【0093】
上述した実施例11〜18及び比較例4〜8の製造条件と評価結果を表2に整理した。
【0094】
【表2】

【0095】
表2からわかるように、本発明による他の実施例により製造される光学異方性フィルムは、延伸条件などの主工程変数が同じ場合にも、樹脂材料の物理・化学的特性及び冷却・固化条件などにより面内位相差Re均一性のみならず、各種光学特性と加工安定性が変わる。しかしながら、これはアイソタクチックポリプロピレン樹脂の結晶化過程で発生する結晶成長メカニズムが大きな原因となる。したがって、結晶成長により生成される球晶の大きさ及び分布を、上述したような最適原料及び製造条件の選定により、小さく均一に制御する必要があるということが確認した。また、加工安定性の点から適切な溶融指数を有する樹脂材料の選定が必要であり、これによる実施例により製造される光学異方性フィルムは、全体的に比較例7、8によることより加工安定性及び面内位相差 Re均一性が著しく優れていることがわかる。
【0096】
特に、実施例11、12及び比較例4の結果から、本発明によってアイソタクチックインデックスの含量が85%以上である場合には面内位相差が均一であり、特に、90%以上である場合には著しく優れている均一性を示すことがわかる。
実施例16〜18と比較例6の結果から、本発明によって溶融指数が1.0以上である場合には面内位相差が均一であるが、それ以下の場合には均一でないことがわかる。
さらに、実施例13〜15及び比較例5の結果からわかるように、冷却ロールの温度が高すぎる場合よりは、35℃以下の場合に一層優れている面内位相差の均一性を確保することができる。
【0097】
実施例19〜21:広帯域光学異方性ラミネートフィルムの製造
「実施例19」
スロットダイコーティングヘッド部とラミネート部とが取り付けられている Roll−to−Rollフィルムコーターにおいて、光学異方性フィルムP3(ポリプロピレン:PP)の片面にアクリル系粘着剤(サイデン社製)を5μm厚さにしてコーティングし、乾燥機を通過させて粘着剤に含まれている溶剤を取り除いた後、光学異方性フィルムRP3(ポリカーボネート:PC)とラミネートする方法でロール状態の広帯域光学異方性ラミネートフィルムP19を製造した。
【0098】
「実施例20」
実施例19において、光学異方性フィルムRP3の代わりに光学異方性フィルムRP2(ポリスルホン:PSU)を用いることを除いては、実施例19と同一な方法で広帯域光学異方性ラミネートフィルムP20を製造した。
【0099】
「実施例21」
光学異方性フィルムRP2の位相遅延軸とシートの横方向の終端線とが形成する角度が時計方向に60°となるようにし、横500mm×縦400mmサイズのシート状態にして裁断する一方、実施例22において光学異方性フィルムRP3を25μmのポリエステール離型フィルムに取り替えることを除いては、実施例19と同一な方法で離型フィルムが接合されている光学異方性フィルムP3を用意した。
本実施例は第1の位相差フィルム(P3)のMD(Machine Direction)方向と第2の位相差フィルム(RP2)の位相遅延軸方向とが30°程度傾斜するように積層されたラミネートフィルムを製造するためのことである。すなわち、用意したロールとシートをRoll−to−Sheetラミネートでシートの縦方向とロールの走行方向を同一にしてRoll−to−Sheet ラミネートする方法で広帯域光学異方性ラミネートフィルムP21を製造した。
【0100】
比較例9:光学異方性ラミネートフィルムの製造
「比較例9」
実施例19において、光学異方性フィルムP3及びRP3の代わりにそれぞれ光学異方性フィルムP2を用いることを除いては、実施例19と同一な方法で光学異方性ラミネートフィルムRP9を製造した。
【0101】
上述した実施例19〜21及び比較例9の製造条件と評価結果を表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
図3は本発明の実施例19〜21と比較例9による広帯域光学異方性ラミネートフィルムの可視光線領域内において、波長分散性 Re/Re(550)を広帯域理論値と比べて示す模式図である。
【0104】
表3及び図3からわかるように、本発明によるまた他の実施例により製造される光学異方性ラミネートフィルムは、零(0)の波長分散性を有し、位相差絶対値を大きく制御した本発明の光学異方性フィルムと、負(−)の波長分散性を有し、位相差絶対値の小さい従来の光学異方性フィルムとを積層することにより、位相が相殺及び変調されて可視光線領域(400〜800nm)の全体において正(+)の波長分散性を示すので、広帯域化機能を有することと確認できる。また、負(−)の波長分散性を有する構成フィルムの位相遅延軸を回転させて零(0)の波長分散性を有するフィルムと積層させることにより、広帯域理論値に最も近接することが確認できる。
【0105】
以上、本発明を特定の好適実施例について説明したが、本発明の技術的な特徴や分野を逸脱しない限り、本発明を様々に改造及び変更できるということは該当技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は反射・半透過型の液晶表示装置や光ディスク用のピックアップで要求される広帯域位相差特性を有する光学フィルムを提供することができる。また、本発明による光学異方性フィルム及び光学異方性ラミネートフィルムは、モバイル機器(例えば、携帯電話、PMP、PDA、車両用ナビゲーション、情報端末機、無線呼出し器など)、モニター、平板TV照光パネル、事務自動化、AV機器などの各種液晶表示装置、3D立体映像ディスプレイ、液晶プロジェクター、タッチパネル及びOLED、ELなどの電界発光素子などに用いられる。また、CD、DVD及びMDなどの光ディスクの記録及び再生装置に用いられる波長板としても使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイソタクチックインデックス(isotactic index)が85%以上であるホモポリプロピレン樹脂を延伸してなり、
特定の部位において下記式(I)による面内位相差(Re)値が平均値に比べて±5nm範囲内の均一性を有することを特徴とする内位相差の値が均一な位相差フィルム。
【数1】

(ここで、nはフィルムの面内で最大屈折率を示す軸(地上軸)方向の屈折率であり、nは前記地上軸と直交する方向の屈折率であり、Dはフィルムの厚さ(nm)を意味する。)
【請求項2】
前記ホモポリプロピレン樹脂は1〜15g/10min範囲内のメルトフローレイト(Melt Flow Rate:MFR)を有することを特徴とする請求項1に記載の面内位相差の値が均一な位相差フィルム。
【請求項3】
前記ホモポリプロピレン樹脂を溶融及び混練し押出させた後、冷却ロールで急冷して無延伸フィルムを収得し、前記無延伸フィルムを延伸して収得され、
前記冷却ロールは5〜35℃範囲内の表面温度を有することを特徴とする請求項1に記載の面内位相差の値が均一な位相差フィルム。
【請求項4】
下記式(II)による波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1範囲以内であり、透過光が長い波長であるほど、位相差が減るか増える零(0)の波長分散性を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項に記載の面内位相差の値が均一な位相差フィルム。
【数2】

(ここで、Reは可視光線領域(400〜800nm)におけるフィルム面内位相差(nm)であり、Re(550)は550nm波長におけるフィルム面内位相差(nm)を意味する。)
【請求項5】
請求項4による第1の位相差フィルムに、
下記式(II)による波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が減る負(−)の波長分散性を有する第2の位相差フィルムが積層されて、
下記式(II)による波長分散比の最大値あるいは最小値が1±0.1範囲を超過し、透過光が長い波長であるほど、位相差が増える正(+)の波長分散性を有することを特徴とする正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルム。
【数3】

(ここで、Reは可視光線領域(400〜800nm)におけるフィルム面内位相差(nm)であり、Re(550)は550nm波長におけるフィルム面内位相差(nm)を意味する。)
【請求項6】
前記第1の位相差フィルムのMD(Machine Direction)方向と第2の位相差フィルムの位相遅延軸方向とが20〜40°範囲内に傾斜するように積層されることを特徴とする請求項5に記載の正(+)の波長分散性を有する積層光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−301036(P2009−301036A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140420(P2009−140420)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509165529)ファシュン インダストリーズ カンパニー リミティド (1)
【Fターム(参考)】