説明

電力増幅器および電力増幅方法

【課題】ACLRが劣化しないTDD方式用の無線送信用電力増幅器および電力増幅方法を提供する。
【解決手段】終段増幅器5は、受信タイミングにはDCオフセット信号が入力され、送信タイミングには、入力される前記デジタル変調信号を電力増幅してアンテナへ向けて出力し、制御電源部23は、TDD送信タイミングに合わせて終段増幅器5のFETのドレインへ最大ピーク電圧のハイレベルのドレイン電圧およびそのFETがONとなるバイアス電圧と、TDD受信タイミングに合わせて前記FETのドレインへ低電圧のローレベルのドレイン電圧とそのFETがONとなるバイアス電圧とを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、無線送信機に使用される電力増幅器および電力増幅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、移動体通信では、OFDM等の様な広帯域、かつピーク対平均電力比(PAPR)が大きい変調信号を無線送信する無線送信機が増えている。これらの送信機は、電源効率が高いことと低歪みなことが要求され、終段の電力増幅器には高速スイッチングが可能なGaN(Gallium Nitride:窒化ガリウム)デバイスが採用され、高出力時におけるバックオフ対策をして低歪化を図るなどデプレッション型のGaNFETの使用が主力となりつつある(例えば、特許文献1。)。
【0003】
WiMAXやPHSなどで利用されるTDD(Time Division Duplex:時分割多重)の無線通信方式は、送受信を交互に切り替えることにより同じ周波数帯で双方向通信を可能にし、送信時には電力増幅器PAに電流が流れる(ON)が受信タイミングには電流が流れない(OFF)ため消費電力を抑えることが出来る。
【0004】
ところが、GaNを終段の電力増幅器に用いたPAでは、所定の出力レベルとなる信号入力に対し、立ち上がりの一瞬、所期のレベルよりも大きく出力し、時間が経過すると所期のレベルに近づく。この立ち上がり特性は、GaNデバイスのジャンクション温度が低い状態(OFF)から信号を入力(ON)すると出力レベルが大きくなり、ジャンクション温度が上がるにつれ出力レベルが下がり安定することに関係している。
【0005】
TDD方式では電力増幅器PAを高速に交互にON/OFFしているため、OFFになるとジャンクション温度は下がり、立ち上がり時には所定出力レベルよりもレベルが大きくなり、送信の立ち上がりタイミングにACLR(Adjacent Channel Leakage Ratio:隣接チャネル漏洩電力比)が劣化することがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−15239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のGaNデバイスを使用した電力増幅器は、送信が交互にON/OFFされるTDD無線通信方式(以下、TDD方式と称す。)では、OFFになるとジャンクション温度は下がるので、送信の立ち上がり時には所期出力レベルよりもレベルが大きくなりACLR(Adjacent Channel Leakage Ratio:隣接チャネル漏洩電力比)が劣化することがある問題があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、送信の立ち上がり時の出力増加を抑えACLRの劣化を防ぐことが出来るTDD方式の電力増幅器および電力増幅方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本実施形態の電力増幅器は、入力されるデジタル変調信号をTDD送信する無線送信用の電力増幅器において、受信タイミングにはDCオフセット信号が入力され、送信タイミングには、入力される前記デジタル変調信号を電力増幅してアンテナへ向けて出力するGaNFETを用いた終段増幅器と、前記TDD送信タイミングに合わせて前記終段増幅器のFETのドレインへハイレベルのドレイン電圧とそのFETがONとなるバイアス電圧とを供給し、TDD受信タイミングに合わせて前記FETのドレインへ低電圧のローレベルのドレイン電圧とそのFETがONとなるバイアス電圧とを供給するスイッチング電源手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本実施形態の電力増幅器の電力増幅方法は、GaNFETを用いた終段増幅器と、スイッチング電源手段とを備え、入力されるデジタル変調信号をTDD送信する無線送信用の電力増幅器の電力増幅方法において、前記終段増幅器は、受信タイミングにはDCオフセット信号が入力され、送信タイミングには、入力される前記デジタル変調信号を電力増幅してアンテナへ向けて出力し、前記スイッチング電源手段は、前記TDD送信タイミングに合わせて前記終段増幅器のFETのドレインへハイレベルのドレイン電圧とそのFETがONとなるバイアス電圧とを供給し、TDD受信タイミングに合わせて前記FETのドレインへ低電圧のローレベルのドレイン電圧とそのFETがONとなるバイアス電圧とを供給することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態に係わる電力増幅器の動作を説明する機能ブロック図。
【図2】本実施形態の終段増幅器の電源電圧設定を示す図。
【図3】本実施形態の送信電波のキャリアからの離調周波数のスペクトラムの一例を示す図。
【図4】本実施形態の電源電圧の制御手順を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下実施形態の電力増幅器を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係わる電力増幅器の動作を説明する機能ブロック図である。
図1において、電力増幅器PAは、入力されるデジタル変調信号にDPD(Digital Pre Distortion)を施して出力するDPD部2、その出力信号をデジタル−アナログ変換するD/A3、アナログ変換された信号をRF帯の信号に変換するミキサ4、そのRF信号をGaNFETデバイスで電力増幅する終段増幅器5、アンテナ6、アンテナから送信された信号の一部をループバック信号として抽出するカプラ61、ループバック信号をIF帯の信号へ変換するミキサ41、IF帯のループバック信号をアナログ−デジタル変換し、DPD部2へ出力するA/D31と、CPU7と、終段増幅器5の電源電圧を制御する制御電源部23とを備えている。また入力部71は、CPU7が制御するプログラムや、動作パラメータを設定するもので、ダイヤル、スイッチのほか、情報端末を接続する物でも良い。
【0014】
電力増幅器PAは、デジタル変調信号が入力されると共に、図示されない変調部、または制御部等の外部からTDD送信するための送信タイミング、受信タイミングを同期するための同期信号が入力される。この同期信号を元に後述の図2に示される電源出力制御が行われる。
【0015】
DPD部2及び制御電源部23は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)の様なLSIまたは、ゲートアレイ回路等によるデジタル信号処理回路によって以下の所定の機能を実行するように構成される。CPU7は、デジタル信号処理回路との間が、バスライン等で接続され、予め設定されたプログラムにより、そのFPGAの動作を監視すると共に、その動作条件を変化させるパラメータを制御する。
【0016】
CPU7は、入力される同期信号を参照してTDD送信タイミング制御を実行するか、または、図示されないTDD送信制御手段からそのタイミング制御情報を取得している。また、CPU7は、ダイヤル、スイッチ、または、通信インタフェース等によりパーソナルコンピュータ等の情報端末による入力部71が接続され、電力増幅器PAの各種動作設定入力が行われる。たとえば、後述のACLRモニタ部24が監視測定する為のキャリア中心周波数、隣接チャネル周波数帯域等もこの設定事項に含まれる。
【0017】
DPD部2は、入力されるデジタル変調信号を増幅する際の利得、位相を調整するDPD補正部21と、DPD補正部21が補正処理をする際に必要な補正パラメータを出力するDPD推定部25と、FFT(Fast Fourier Transform :高速フーリエ変換)部22と、ACLRモニタ部24とを備えている。
【0018】
A/D31からのループバック信号は、DPD推定部25へ入力される。例えば、DPD推定部25の内部の記憶手段にリストされているLUT(Look Up Table)に従って補正される出力信号の想定値とループバック信号とのレベル差(位相差でも良い。)を調べ、その差が無くなるよう更にDPDの補償値の補正(Adaptive DPD)を行ってもよい。
【0019】
また、本実施形態では、このループバック信号がFFT部22にも入力され、FFT部22で高速フーリエ変換された信号がACLRモニタ部24へ入力される。ACLRモニタ部24は、送信電波(信号)のスペクトラム分析を行い、隣接チャネルへの不要出力成分(スプリアス)を監視し、この歪に当たるスプリアス情報(ACLR)をDPD推定部25へ出力する。DPD推定部25は、歪量を補正するLUTを参照して歪量を所定のレベル以下に抑えるようDPD補正部21にDPDの補償値の補正(Adaptive DPD)を行う。
【0020】
ACLRモニタ部24からCPU7へ同様に隣接チャネルへのスプリアス情報(ACLR)が出力される。CPU7は、ACLRの値が所定のレベル以下になるよう制御電源部23が出力する電源電圧を制御する。
【0021】
図2は、本実施形態の終段増幅器5の電源電圧設定を示す図である。
GaNデバイスは、先に述べたように、ON/OFFに伴うジャンクション温度の変化に伴い、ONした直後、すなわち送信開始直後には出力が高くなる。送信ピーク出力は、DPDと併用されるピークカットなどの処理により制限されるが、低レベルの信号出力が上方へシフトするので、図2(a)に示したように歪み成分も増えてしまう。
【0022】
TDD方式では、例えば、図2(a)に示すように、送信出力信号は、5ms毎に送信と受信のサイクルが交互に入れ替わる。図2(a)の点線で示される送信開始時は、終段増幅器の増幅デバイス(GaN FET)が温度が低温側にあるので出力が高くなり、その後温度上昇とともに出力が定常状態になることを示している。
【0023】
実際には図2(b)に示すように終段増幅部5は、送信タイミングの直前、直後の僅かな時間Δtを含めてONの期間を設けた「ハイレベル」、すなわちピーク出力のドレイン電圧Vd(ここでは、50V)が送信タイミングと同期して制御電源部23(高速スイッチング電源)から印加され、増幅動作をする。
【0024】
受信タイミング(終段デバイスがOFF時)に終段増幅器5のGaNFET(デバイス)のゲートソース電圧Vgs、すなわちバイアスを「−2V」にした場合、受信タイミングは完全なOFFとなるのでデバイスの冷却が進み、その結果送信開始時の出力が大きくなり歪が増えることになる。
【0025】
そこで、この受信タイミングでも図2(c)の様にFETをONにするバイアス(ゲートソース電圧Vgs)をかけるとともに、ドレイン電圧を完全に0にするのではなく、例えば、受信タイミングの2.5Vの様な低い電圧をかける。そうすることにより受信タイミングにもGaNFET(デバイス)に電力消費の増加を低く抑えて発熱をさせ、OFFからONへ切り替えた時の出力変動を低く下げている。先に述べたように終段増幅器に用いるFETは、デプレッション型のGaNFETが用いられる事が多い。
【0026】
この終段増幅器5のドレイン電圧Vd(ここでは、2.5V)とFETをONにするバイアス電圧とは、ACLRが所要の値になるように調整して設定される。受信タイミングではバイアス(ゲートソース電圧Vgs)は、例えば、―1Vの一定に保たれたままで、かつ終段増幅器には出力、綱和知ドレイン電圧Vdが2.5Vとなるように、小レベルのDCオフセット信号が入力される。そしてオフセット信号を電力増幅することによりFETが発熱を継続するので送信タイミングの開始時も出力増加を低く抑えることが可能になる。
【0027】
なお、別の方法として、終段のGaNFETのドレインには常時50Vのドレイン電圧Vdをかけておき、受信タイミングには、送信タイミングとは別のバイアス(ゲートソース電圧Vgs)、例えば、―1.8Vを加え、小電流を流すことによって発熱をさせ、送信開始時の出力増加を抑えるようにしても良い。
【0028】
更に別の方法として受信タイミングにドレイン電圧Vdを2.5Vと低くすると共にバイアスのゲートソース電圧Vgsを、例えば−1.6Vにして消費電力が少なくなるように調整するようにしても良い。
【0029】
また、新たな方法として送信タイミングに図1に示されるようにループバック信号をFFT部22でスペクトラム分析する。そして、このドレイン電圧とバイアス電圧とをパラメータにして、ACLR部24が分析データからACLRを測定する。この測定結果は前述の如くCPU7に通知され、CPU7は制御電源部23の出力電圧を制御する。その結果制御電源部23は、ACLRモニタ値が所要の規格値になる様に終段増幅器5の受信タイミングのドレイン電圧(例えば、図2(c)の50Vと2.5Vとの間)と、FETをONにするバイアスの電圧(例えば、図2(d)のゲートソース電圧Vgsが−1Vと−1.8Vとの間)とを出力する。)。
【0030】
図3は、本実施形態の送信電波のキャリアからの離調周波数のスペクトラムの一例を示す図、図4は、ACLRを測定して受信タイミングのドレイン電圧とFETをONにするバイアス電圧を設定するフローチャートである。
図3において、送信電波は、符号Ssで示される所望チャネル信号成分と、符号SddとSduで示されるその上下の周波数(隣接チャネル)領域に現れる歪によるスペクトラム広がり部分(スプリアス)が生じる。
【0031】
通常、ACLR部24がこのスプリアスを測定し(図4のステップs1)そのデータからCPU7は、例えばスプリアスの規格値以下で有れば「1」、以上で有れば「0」の様な制御フラグを制御電源部23へ入力する。制御電源部23は、所望チャネル信号Ssに対して、フラグが「1」、すなわち規定出力以下になる様に、受信タイミングのドレイン電圧とFETをONにするバイアス電圧を設定する。ここで、ドレイン電圧は制御するが、FETをONにするバイアス電圧を一定のままとする方が制御は容易であり、回路、部品点数も少なくて済むのでバイアス電圧制御は省略しても良い。
【0032】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の電力増幅器および電力増幅方法によれば、受信タイミングにおいても終段増幅部のFETをONにして直流のドレイン電圧を出力させて発熱を継続し、TDD送信開始タイミングの出力増大を防ぎ送信出力の一定化を図ることによりACLRが劣化を防ぐことが出来るTDD方式の無線送信用の電力増幅器提供することが可能となる。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0034】
2 DPD部
21 DPD補正部
22 FFT部
23 制御電源部
24 ACLRモニタ部
25 DPD推定部
3 D/A(デジタル−アナログ変換部)
31 A/D(アナログ−デジタル変換部)
4、41 ミキサ
5 終段増幅器
6 アンテナ
61 カプラ61
7 CPU7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されるデジタル変調信号をTDD送信する無線送信用の電力増幅器において、
受信タイミングにはDCオフセット信号が入力され、送信タイミングには、入力される前記デジタル変調信号を電力増幅してアンテナへ向けて出力するGaNFETを用いた終段増幅器と、
前記TDD送信タイミングに合わせて前記終段増幅器のFETのドレインへハイレベルのドレイン電圧およびそのFETがONとなるバイアス電圧を供給し、TDD受信タイミングに合わせて前記FETのドレインへ低電圧のローレベルのドレイン電圧およびそのFETがONとなるバイアス電圧を供給するスイッチング電源手段とを
備えることを特徴とする電力増幅器。
【請求項2】
前記電力増幅器が出力する信号の一部をループバック信号として取り出して出力するループバック手段と、
前記ループバック手段から入力される信号をFFT処理してスペクトラム情報として出力するFFT手段と、
前記スペクトラム情報が入力され、前記無線送信される電波のキャリア周波数に対するACLRを測定したモニタ結果を出力するACLRモニタ手段と、
前記測定されるACLRのモニタ結果を入力し、そのモニタ結果が予め定められたACLR値よりも低くなるように、前記FETのドレインに供給されるドレイン電圧を調整する電源制御手段とを
更に備えることを特徴とする電力増幅器。
【請求項3】
GaNFETを用いた終段増幅器と、スイッチング電源手段とを備え、入力されるデジタル変調信号をTDD送信する無線送信用の電力増幅器の電力増幅方法において、
前記終段増幅器は、受信タイミングにはDCオフセット信号が入力され、送信タイミングには、入力される前記デジタル変調信号を電力増幅してアンテナへ向けて出力し、
前記スイッチング電源手段は、前記TDD送信タイミングに合わせて前記終段増幅器のFETのドレインへハイレベルのドレイン電圧およびそのFETがONとなるバイアス電圧を供給し、TDD受信タイミングに合わせて前記FETのドレインへ低電圧のローレベルのドレイン電圧およびそのFETがONとなるバイアス電圧を供給する
ことを特徴とする電力増幅器の電力増幅方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−5353(P2013−5353A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136783(P2011−136783)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】