説明

電力変換装置及び電力変換装置の制御方法

【課題】 スイッチング素子の過電圧を低減すると共にスイッチング素子の発熱も抑制できる電力変換装置等を提供する。
【解決手段】 電源及び多相電動機と接続され、当該電源から供給される電力を変換して多相電動機に供給する。この時、多相電動機の各相に接続された複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間(時刻t3:W相,時刻t4:U相)と、複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間(時刻t3:V相、時刻t4:W相)とを少なくとも一部で重複させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷に電力を供給する電力変換装置及び電力変換装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、モータ等の負荷に対して供給する電力を変換する技術としては、下記の特許文献1に記載されたコンバータが知られている。このコンバータは、半導体スイッチング素子がターンオフする際に発生する過電圧を低減し、当該半導体スイッチング素子の破損を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−42427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したコンバータのような電力変換装置においては、半導体スイッチング素子のスイッチング時に発生する過電圧防止と、半導体スイッチング素子の加熱防止との双方の問題がある。しかしながら、半導体スイッチング素子の過電圧を防止するために電流の立ち下がり時間を長くすると半導体スイッチング素子の発熱量が大きくなってしまい、半導体スイッチング素子の発熱を抑制するために電流の立ち下がり時間を短くすると半導体スイッチング素子に過電圧が発生する、というトレードオフの関係がある。
【0005】
上述した特許文献1を含む従来の技術では、半導体スイッチング素子の過電圧を防止する技術、半導体スイッチング素子の発熱量を抑制する技術は存在するものの、双方のトレードオフ自体を解決するものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、スイッチング素子の過電圧を低減すると共にスイッチング素子の発熱も抑制できる電力変換装置及び電力変換装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、電源及び多相電動機と接続され、当該電源から供給される電力を変換して多相電動機に供給する。この時、多相電動機の各相に接続された複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、前記複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させるので、当該転流により発生する過電圧を相殺できる。これにより、スイッチング素子の転流期間を短くでき、スイッチング素子の発熱も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態として示す電力変換装置の構成を示すブロック図である。
【図2】電気角に対する相電流の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施形態として示す電力変換装置の意義を説明する図であり、(a)は各相の出力電圧の変化を示し、(b)は多相モータに供給される電流の変化を示すタイミングチャートである。
【図4】電気角に対する相電流の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態として示す電力変換装置の動作を説明するための、各相の出力電圧の変化と、多相モータに供給される電流の変化との関係を示すタイミングチャートである。
【図6】(a)は電気角に対するサージ電圧の変化を示し、(b)は各相のサージ電圧を示す図である。
【図7】電気角と相電流との関係においてサージ電圧が発生する区間を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態として示す電力変換装置において、スイッチング素子の転流期間を選択する構成を含む回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0011】
[電力変換装置の構成]
本発明の実施形態として示す電力変換装置は、例えば図1に示すように構成されている。電力変換装置は、例えば、電気自動車に搭載される。電力変換装置は、電源1A,1Bから供給される直流電流を、スイッチング素子部3により多相電流(本実施形態では、U相電流、V相電流及びW相電流で構成される三相交流電流)に変換する。そして、変換された電流を、スイッチング素子部3によって、負荷である多相モータ4(多相電動機)に供給する。
【0012】
電源1A,1Bは、電力を蓄電する、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池といったバッテリ(直流電源)に相当する。
【0013】
多相モータ4は、車両の車輪を駆動するための駆動力を発生させる駆動用モータである。多相モータ4は、例えば、中性点を中心に星形結線された複数の相巻線(Ru,Rv,Rw)を有する。この多相モータ4は、電力変換装置1内で変換された三相交流電流が各相巻線のそれぞれ対応して供給される。これにより、多相モータ4は、各相巻線から生じる磁界と、ロータの永久磁石が作る磁界との相互作用により駆動する。電力変換装置1の動作はコントローラ10によって制御される。なお、本実施形態では、U相巻線、V相巻線、W相巻線からなる3つの相巻線を有する3相交流モータを例に挙げるが、2相モータや、3相よりも相数が多いモータであっても良いことは勿論である。
【0014】
スイッチング素子部3は、インダクタンス2A,2Bを介して電源1A,1Bに接続されている。スイッチング素子部3は、電源1A,1Bの両端子(P(正)側端子、N(負)側端子)間に接続されている。スイッチング素子部3は、U相用のスイッチング回路と、V相用のスイッチング回路と、W相用のスイッチング回路とを有する。U相用のスイッチング回路は、互いに直列接続された一対のスイッチング素子S1(U),S2(X)を含む。V相用のスイッチング回路は、互いに直列接続された一対のスイッチング素子S3(V),S4(Y)を含む。W相用のスイッチング回路は、互いに直列接続された一対のスイッチング素子S5(W),S6(Z)を含む。
【0015】
個々のスイッチング素子S1〜S6としては、NPN型のトランジスタ等のスイッチング素子を用いることができる。個々のトランジスタには、コレクタ・エミッタ間に還流ダイオードD1〜D6がそれぞれ並列接続されている。
【0016】
U相用のスイッチング素子S1,S2の相互接続点、V相用のスイッチング素子S3,S4の相互接続点、及び、W相用のスイッチング素子S5,S6の相互接続点は、それぞれが各相(U,V,W)の電流出力点となっている。各電流出力点には、多相モータ4の各相巻線が接続される。
【0017】
このような電力変換装置1により生成される三相交流電流をそれぞれU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwとする。また、各電流について、多相モータ4側へ電流が流れる方向を正とする。
【0018】
コントローラ10は、図示しない駆動回路を介して、スイッチング素子部3に含まれる各スイッチング素子S1〜S6のゲート端子に対して制御信号を供給する。これにより、コントローラ10は、スイッチング素子S1〜S6をスイッチング動作させて、多相モータ4に供給する電流を調整する。
【0019】
[電力変換装置が行う動作の意義]
つぎに、上述した電力変換装置の意義について説明する。
【0020】
本実施形態における電力変換装置の動作の前に、一般的な電力変換装置の動作について説明することにより、本実施形態における電力変換装置が行う動作の意義について説明する。
【0021】
上述した電力変換装置において、コントローラ10は、多相モータ4の相電流を、それぞれ独立に時間的に変動させる。また、コントローラ10は、多相モータ4のそれぞれの相に印加すべき電圧についても、それぞれ独立に時間的に変動させる。
【0022】
本実施形態のように多相モータ4が3相電動機の場合、各相の電流及び電圧は独立ではあるものの、多相モータ4が3相対称であることから、電流実績と電圧指令とは3相交流となる。通常の三角波比較PWM方式によるスイッチング素子S1〜S6への制御信号の作成処理は、図2に示す各相ごとの正弦波と、キャリアとしての三角波との比較により行われる。
【0023】
このとき、図2における電気角Aの状態にて、図3(a)のように各相にてスイッチング動作が行われた時の電流変化を図3(b)に示す。図3(b)に示すように、合計電流Ipnが、電源1A,1Bとスイッチング素子部3との間に流れる。ここで、図1に示すように電源1A,1Bとスイッチング素子部3との間にインダクタンス2A,2Bが存在し、合計電流Ipnの電流変化率に比例した電圧が電源電圧に対して加算される。U相電流Iu及びV相電流Ivは、図2に示すように正であるので、当該相に対応したスイッチング素子がオンとされることにより合計電流Ipnが増加する。一方、当該相に対応したスイッチング素子がオフとされることにより合計電流Ipnが減少する。W相電流Iwは、図2に示すように負であるので、当該相に対応したスイッチング素子がオンとされることにより合計電流Ipnが減少し、当該相に対応したスイッチング素子がオフとされることにより合計電流Ipnが増加する。
【0024】
電力変換装置にとって特に問題になるのは、電源1A,1Bの正側(P側)の電流変化率が負の大きい値をとる場合である。この場合、電源電圧に対して電流変化率とインダクタンス2A,2Bに比例したサージ電圧が加算され、スイッチング素子部3に過電圧が印加されることになる。
【0025】
図2の電気角Aにて示すように、U相電流Iu、V相電流Ivは正、W相電流Iwは負である矢印のタイミングを考える。ここで、スイッチング素子S1〜S6に対して制御(ゲート)信号がオンとされると、当該スイッチング素子の相電流が負から正となる転流が発生し、スイッチング素子S1〜S6に対して制御(ゲート)信号がオフとされると、当該スイッチング素子の相電流が正から負となる転流が発生する。このため、U相の制御信号をオフ、V相の制御信号をオン、W相の制御信号をオンとすると、それぞれのスイッチング素子にてサージ過電圧が発生することになる。
【0026】
このようにスイッチング素子S1〜S6を制御すると、それぞれにおける相電流の転流発生に応じて、3回のサージ過電圧が発生する。この転流が発生する転流時間は、相電流の立下り時間である。この相電流の立ち下がり時間は、スイッチング素子S1〜S6に供給する制御信号を加工して調整することができる。しかし、この立ち下がり時間を短くすると、電流変化率の絶対値が大きくなるため大きなサージ過電圧が発生する。したがって、スイッチング素子S1〜S6の耐圧を超えないように、相電流の立ち下がり時間を長く設定する。このとき、サージ過電圧は、各相の相電流の絶対値に比例する。
【0027】
一方、各スイッチング素子S1〜S6の発熱量は、相電流の立ち下がり時間に大きく依存する。相電流の立ち下がり時間が長くほど、スイッチング素子S1〜S6の発熱量が大きくなる。
【0028】
そのため、スイッチング素子S1〜S6の過熱を防止することと、スイッチング素子S1〜S6の過電圧を低減することとの間にはトレードオフが存在する。このようなトレードオフの関係に対し、本実施形態における電力変換装置は、サージ過電圧が相電流の電流変化率ではなく、電流合計の電流変化率で発生することに着目して、トレードオフを改善する。
【0029】
[電力変換装置による転流期間の重複動作]
つぎに、上述したように構成された電力変換装置において、複数のスイッチング素子の転流期間を重複させる動作について説明する。
【0030】
例えば図4に示すように、U相電流、V相電流、W相電流が正弦波に沿って変化する場合において、任意の電気角におけるU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを多相モータ4に供給することを考える。
【0031】
この場合、コントローラ10は、図5に示すように、時刻t1にてU相のスイッチング素子S1,S2を制御して、U相電流Iuを多相モータ4のU相巻線に供給させる。このときの多相モータ4に対する合計電流は、U相電流Iuのみとなる。
【0032】
次にコントローラ10は、時刻t2にて、V相のスイッチング素子S3,S4を制御して、V相電流Ivを多相モータ4のV相巻線に供給させる。このとき、V相電流Ivが負値であるので、多相モータ4に流れる合計電流としては低くなる。ここで、V相電流Ivの変動によるサージ電圧は、U相、W相と比較して低く、最小の電圧印加は残ることとなる。
【0033】
次にコントローラ10は、時刻t3にてV相電流Ivを負から0(正)とすると同時に、W相電流Iwを0(正)から負とするように、スイッチング素子S3,S4,S5,S6を制御する。これにより、コントローラ10は、V相電流Ivが負から0に切り替わる転流期間と、W相電流Iwが0から負に切り替わる転流期間とを重複させる。この時の合計電流は、V相電流Ivの変動分とW相電流Iwの変動分とが相殺された値だけ変動する。したがって、W相電流Iwのみの変動分と比較して、V相電流Ivの変動分とW相電流Iwの変動分とが相殺された結果としての小さい変動分(Iv+Iw)だけに、合計電流の変動を抑制できる。
【0034】
次にコントローラ10は、時刻t4にてU相電流Iuを正から0(負)とすると同時に、W相電流Iwを負から0(正)とするように、スイッチング素子S1,S2,S5,S6を制御する。これにより、コントローラ10は、U相電流Iuが正から0に切り替わる転流期間と、W相電流Iwが負から0(正)に切り替わる転流期間とを重複させる。この時の合計電流は、U相電流Iuの変動分とW相電流Iwの変動分とが相殺される。したがって、U相電流Iuのみの変動分と比較して、U相電流Iuの変動分とW相電流Iwの変動分とが相殺された結果としての小さい変動分(Iu+Iw)だけに、合計電流の変動を抑制できる。
【0035】
このように、電力変換装置は、複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させることができる。ここで、図5においては、2つの相における相電流の転流を同時に行う場合を示しているが、相電流の転流期間が少なくとも一部で重複していれば、双方の相電流による相殺によって、合計電流の変動幅を小さくできる。すなわち、この電力変換装置によれば、電源1A,1Bとスイッチング素子部3との間の合計電流変化が各相の電流変化ではなく、相電流が正の相の電流減少と相電流が負の相の電流増加とが相殺されたトータルの電流変化となる。これにより、電力変換装置によれば、スイッチング素子部3に発生するサージ過電圧を低減することができる。
【0036】
以上のように、本実施形態として示す電力変換装置によれば、スイッチング素子S1〜S6の過電圧を低減することができる。また、この電力変換装置は、双方の相電流が相殺できるように双方の転流期間を重複させれば良いので、過電圧防止のために転流期間を長くする必要が無く、スイッチング素子S1〜S6の過熱を防止することができる。
【0037】
また、上述した電力変換装置は、多相モータ4が3相である場合を説明したが、任意の第1相乃至N相(Nは自然数)のN個の相を有しているものであっても良い。この場合、各相の相電流の絶対値が大きい順序に各相を配列させ、当該配列順序にて隣接する相を第1相及び第2相とする。これにより、第1相と第2相、第2相と第3相、第3相と第4相・・・といったように、複数の組み合わせを決定できる。各組み合わせにおいて、相番号が小さい方を第1スイッチング素子、相番号が大きい方を第2スイッチング素子とする。そして、コントローラ10は、第1スイッチング素子が正から負となる転流期間と、第2スイッチング素子が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させる。
【0038】
再び図4を例に挙げると、U相電流Iuが正で絶対値が最大、W相電流Iwが負で絶対値が2番目に大きく、V相電流Ivが負で絶対値が最小である。このため、U相、W相、V相の順序に各相を配列できる。
【0039】
この場合、U相電流Iuが正であるので、最大のサージ過電圧は、U相の上側のスイッチング素子S1をオフに転流した時に発生する。これに対し、相電流の絶対値が2番目に大きいW相の下側のスイッチング素子S6をオフに転流させることにより、当該最大の最小サージ過電圧を相殺する。更に、このW相のサージ過電圧は、上側のスイッチング素子S6をオフへ転流させた時に発生するが、当該最大の最小サージ電圧をV相の上側スイッチング素子S3のオフへの転流により発生するサージ電圧により相殺する。
【0040】
このような動作を行う電力変換装置によれば、多相モータ4の相数が多数となっても、相電流の絶対値が近い相同士の組み合わせを設定して、当該組み合わせにより互いのサージ電圧を相殺することができ、効率的にサージ電圧を低減できる。
【0041】
また、図5に示した動作をする電力変換装置は、相電流の減少と相電流の増加とを相殺させるために、他の動作をしても、スイッチング素子の過電圧防止及びスイッチング素子の発熱量低減とを実現できる。
【0042】
具体的には、電力変換装置は、スイッチング素子部3に供給される相電流が最大である相に接続されたスイッチング素子(第1スイッチング素子)と、多相モータ4に供給される相電流が最小である相に接続されたスイッチング素子(第2スイッチング素子)とを制御する。この場合、コントローラ10は、複数の相電流のうちで最大の相電流が正から負となる転流期間と、複数の相電流のうちで最小の相電流が負から正となる流転時間とを、少なくとも一部にて重複するようにする。
【0043】
例えば図4において電気角が30〜90度である時の相電流は、U相電流Iuが最大であり、V相電流Ivが最小である。したがって、コントローラ10は、U相電流Iuが正から負(0)となる転流期間と、V相電流Ivが負から正(0)となる転流期間とを少なくとも一部で重複させる。この時、コントローラ10は、U相の上側のスイッチング素子S1がオフとなる期間と、V相の下側のスイッチング素子S4がオフとなる期間とを同期させる。
【0044】
このような電力変換装置によれば、電流変化の絶対値の大きい2つの相電流が最大の相と相電流が最小の相との間の電流変化を互いに相殺することができ、スイッチング素子部3に発生するサージ電圧を大きく低減できる。
【0045】
また、双方の転流期間を完全に重複させた場合、図6(a)に示すように、最大の相電流が転流した時に生ずる最大サージ電圧、中間の相電流が転流した時に生ずる中間サージ電圧、最小の相電流が転流した時に生ずる最小サージ電圧が、多相交流モータ4にて発生する。これらサージ電圧は、図6(b)のように、転流時の電流変化率に応じて、その大きさが決定される。そして、最小サージ電圧と中間サージ電圧とを相殺した場合に生ずる第1サージ電圧は、最大サージ電圧から中間サージ電圧を減算した値となる。中間サージ電圧と最小サージ電圧とを相殺した場合に生ずる第2サージ電圧は、中間サージ電圧から最小サージ電圧を減算した値となる。
【0046】
電力変換装置は、サージ電圧を相殺したために、転流期間を短縮できる。これにより、電力変換装置は、スイッチング素子部3におけるスイッチング素子S1〜S6のスイッチング動作により発生する電力損失を低減することができる。電力変換装置は、例えば図7に示すようなサージ電圧となるように、スイッチング素子S1〜S6をスイッチング動作させる。
【0047】
このように求められるサージ電圧は、図7に示すように電気角に対して変化する。この場合、電力変換装置は、コントローラ10に、三角波によりパルス幅変調を行ってスイッチング素子S1〜S6を動作させる構成と、スイッチング素子S1〜S6をオフにする転流期間を可変とする構成とを備えることが必要となる。
【0048】
最大の相電流と中間の相電流との差が小さい場合、最小の相電流は0に近いので、中間の相電流がオフとなる転流時に、最小の相電流の転流により当該中間の相電流の転流によるサージ電圧を打ち消すことができない。この場合、図7に示すようなサージ最大区間が発生することとなる。また、最小の相電流が最も大きい電気角においては、中間の相電流の転流によるサージ電圧を、当該最小の相電流の転流によるサージ電圧により効率的に相殺することができる。このような場合、図7に示すようなサージ最小区間が発生することとなる。
【0049】
[スイッチング素子の動作タイミングの決定動作]
つぎに、上述した電力変換装置において、転流期間が重複されるスイッチング素子同士の動作タイミングを決定する動作について説明する。
【0050】
上述したように、電力変換装置は、スイッチング素子間の相電流の転流期間を重複させる。この相電流の転流期間を重複させるスイッチング素子の組み合わせは、相電流が正から負となるスイッチング素子と相電流が負から正となるスイッチング素子となる。また、他のスイッチング素子の組み合わせは、相電流が最大である相に接続されたスイッチング素子(第1スイッチング素子)と、多相モータ4に供給される相電流が最小である相に接続されたスイッチング素子(第2スイッチング素子)とである。更に他のスイッチング素子の組み合わせは、相電流の絶対値が大きい順序で配列した時の隣接する相のスイッチング素子同士である。
【0051】
このようにスイッチング素子の組み合わせは、コントローラ10によって決定される。コントローラ10は、転流期間を少なくとも一部にて重複させる複数のスイッチング素子の相電流が共に正である期間、又は、転流期間を少なくとも一部にて重複させる複数のスイッチング素子の相電流が共に負である期間に、転流期間を重複させる複数のスイッチング素子の動作タイミングを決定する。
【0052】
例えば、図5の時刻t3のように、V相電流Ivの転流期間とW相電流Iwの転流期間とを重複させる場合、図4に示す電気角が60〜90度付近の双方の相電流が負である期間に、U相のスイッチング素子とW相のスイッチング素子との間で相電流を相殺する動作タイミングを決定する。また、図5の時刻t4のように、U相電流Iuの転流期間とW相電流Iwの転流期間とを重複させる場合、図4に示す電気角が0〜60度付近の双方の相電流が正である期間に、U相のスイッチング素子とW相のスイッチング素子との間で相電流を相殺する動作タイミングを決定する。
【0053】
このようにスイッチング素子の動作タイミングを決定することにより、相電流が時間と共に変動瞬時の相電流絶対値によって相殺の組み合わせを決定する必要があっても、常にサージ過電圧を低減できると共に、スイッチング素子のオンオフ状態を突然に変化させることはない。
【0054】
[転流期間の調整動作]
つぎに、上述した電力変換装置において、スイッチング素子の流転時間を調整できる一構成例について説明する。
【0055】
この電力変換装置は、コントローラ10により、スイッチング素子の転流期間における電流変化率合計値の絶対値が小さいほど、当該転流期間を短く設定する。このような電力変換装置によれば、上述したサージ電圧同士の相殺により多相モータ4における合計電流変化率が低減すると、サージ過電圧が低減されて、スイッチング素子の転流期間を短くできる。このスイッチング素子の転流期間を短くできると、スイッチング素子の発熱を抑制することができる。
【0056】
したがって、電力変換装置は、サージ電圧の低減分に相当する転流期間を短くするように、スイッチング素子の転流期間を変更する。これにより、スイッチング素子の発熱を低減して、スイッチング素子部3における電力変換効率を向上させるとともに、短時間電流過負荷耐量を増加させることができる。
【0057】
このために、コントローラ10は、例えば、それぞれの値が段階的に異なる複数の流転時間設定値を予め記憶しておく。そして、コントローラ10は、スイッチング素子の転流期間における電流変化率合計値の絶対値が小さい場合には、複数の流転時間設定値のうちで短い流転時間設定値を選択する。一方、コントローラ10は、スイッチング素子の転流期間における電流変化率合計値の絶対値が大きい場合には、複数の流転時間設定値のうちで長い流転時間設定値を選択する。
【0058】
具体的には、コントローラ10は、図8に示すように、ゲート信号発生器として機能する。なお、図8には、単一のスイッチング素子SWのみだけを示しているが、全てのスイッチング素子SWに図8に示す構成を設ける必要があることは勿論である。
【0059】
コントローラ10とスイッチング素子SWとの間には、スイッチング素子SWをオン、オフさせる速度ごとに、抵抗及びダイオードが設けられている。
【0060】
具体的には、コントローラ10とスイッチング素子SWとの間には、スイッチング素子SWを第1速度でオンにさせるための充電抵抗RON1及びダイオードD11と、スイッチング素子SWを第1速度でオフとさせるための放電抵抗ROFF1及びダイオードD12とを備える。また、コントローラ10とスイッチング素子SWとの間には、スイッチング素子SWを第2速度でオンにさせるための充電抵抗RON2及びダイオードD13と、スイッチング素子SWを第2速度でオフにさせるための放電抵抗ROFF2及びダイオードD14とを設けている。
【0061】
充電抵抗RON1と充電抵抗RON2とは、段階的にスイッチング素子SWのオン速度(転流期間)を異なるものにするために、段階的に異なる値のものが使用されている。また、放電抵抗ROFF1と放電抵抗ROFF2とは、段階的にスイッチング素子SWのオフ速度(転流期間)を異なるものにするために、段階的に異なる値のものが使用されている。
【0062】
充電抵抗RON1及びダイオードD11、又は、放電抵抗ROFF1及びダイオードD12は、第1速度にてスイッチング素子SWをオン又はオフを開始するための第1速度信号が、ゲート信号発生器の端子10aから供給される。充電抵抗RON2及びダイオードD13、又は、放電抵抗ROFF2及びダイオードD14は、第2速度にてスイッチング素子SWをオン又はオフを開始するための第2速度信号が、ゲート信号発生器の端子10bから供給される。また、ゲート信号発生器の端子10cは、スイッチング素子SWのソース端子に接続されている。
【0063】
なお、オン用の充電抵抗及びダイオード、オフ用の放電抵抗及びダイオードを別々に設けることにより、スイッチング素子SWのオン時の速度とオフ時の速度とを別々に設定しても良い。
【0064】
このような構成によれば、コントローラ10によって、各相の電流変化率合計値の絶対値を検出して、各スイッチング素子SW(S1〜S6)のオンオフ速度を選択する。このオンオフ速度を選択することは、予め設定された転流期間設定値を選択することに相当する。
【0065】
第1速度にてスイッチング素子SWをオンさせる場合には、ゲート信号発生器は、第1速度信号を充電抵抗RON1に供給する。これに応じて、スイッチング素子SWの寄生キャパシタCgsは、充電抵抗RON1を介して第1速度信号により充電され、当該充電速度(第1速度)にてスイッチング素子SWをオンとさせる。第1速度にてスイッチング素子SWをオフさせる場合には、ゲート信号発生器は、第1速度信号を放電抵抗ROFF1に供給する。これに応じて、スイッチング素子SWの寄生キャパシタCgsは、放電抵抗ROFF1を介して第1速度信号により放電され、当該放電速度(第2速度)にてスイッチング素子SWをオフとさせる。また、第2速度にてスイッチング素子SWをオン又はオフさせる場合には、第2速度信号を充電抵抗RON2又は放電抵抗ROFF2に出力し、スイッチング素子SWの寄生キャパシタCgsを第2速度にて充電又は放電させることとなる。
【0066】
以上のように、電力変換装置は、ゲート信号発生器を含むスイッチング素子のオンオフ速度を変更する構成を備えることにより、各スイッチング素子の転流期間を変更することができる。これにより、相電流の絶対値が大きい場合には長い転流期間とし、相電流の絶対値が小さい場合には短い転流期間とすることができ、簡易なスイッチング素子のゲート駆動回路を構成するのみで、相電流に応じて、スイッチング素子の過熱防止とスイッチング素子の過電圧低減の双方を実現できる。
【0067】
[電力変換装置の動作切り替え]
つぎに、上述したようなスイッチング素子の転流期間を重複させる動作を行うか否かを切り替える電力変換装置について説明する。
【0068】
この電力変換装置は、コントローラ10により、多相モータ4に対して所定値よりも高い電流を供給する大電流動作時又は当該電力変換装置の初期動作時であることを判定した場合に、上述したようなスイッチング素子の転流期間を重複させる動作を行う。ここで、多相モータ4に大電流を供給していると判定する所定値は、予め電力変換装置の設計時に決定された値であり、スイッチング素子の切り替え時に発生するリップル電流、スイッチング素子の発熱量に基づいて決定されている。
【0069】
このように、多相モータ4の大電流動作時、電力変換装置の初期動作時に、上述したようなスイッチング素子の転流期間を重複させる動作を行うことにより、スイッチング素子への過電圧防止と、スイッチング素子の発熱防止の双方を実現する。
【0070】
また、コントローラ10は、電力変換装置が動作開始してからの一定時間経過後又は電源1A,1Bの温度上昇時には、パルス幅変調によりスイッチング素子をスイッチング動作させる。このパルス幅変調としては、三角波を用いても良く、鋸波を用いても良い。
【0071】
このような電力変換装置によれば、上述したようなスイッチング素子の転流期間を重複させる動作により短時間における電流過負荷耐量を増加させると共に、熱時定数の長い平滑コンデンサといった電源1A,1Bに対しては、長期的にはリプル電流が最小となるため、電源1A,1Bの熱定格による連続定格低下が防止できる。
【0072】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
S1〜S6 スイッチング素子
1 電力変換装置
1A,1B 電源
2A,2B インダクタンス
3 スイッチング素子部
4 多相モータ
10 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源及び多相電動機と接続され、当該電源から供給される電力を変換して多相交流電動機に供給する電力変換装置において、
前記多相電動機の各相に接続された複数のスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のスイッチング動作を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、前記複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第1スイッチング素子を、前記多相電動機に供給される相電流が最大である相に接続されたスイッチング素子に決定すると共に、前記第2スイッチング素子を、前記多相電動機に供給される相電流が最小である相に接続されたスイッチング素子に決定し、前記第1スイッチング素子が正から負となる転流期間と、前記第2スイッチング素子が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記多相電動機は、第1相乃至N相(Nは自然数)のN個の相を有し、
各相の相電流の絶対値が大きい順序に各相を配列させた場合に、当該配列順序にて隣接する相を第1相及び第2相とすると共に、当該第1相に接続されたスイッチング素子を前記第1スイッチング素子、前記第2相に接続されたスイッチング素子を前記第2スイッチング素子に決定することにより第1スイッチング素子と第2スイッチング素子との組み合わせを複数決定し、前記第1スイッチング素子が正から負となる転流期間と、前記第2スイッチング素子が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記転流期間を少なくとも一部にて重複させる複数のスイッチング素子の相電流が共に正である期間又は前記転流期間を少なくとも一部にて重複させる複数のスイッチング素子の相電流が共に負である期間に、前記転流期間を重複させる複数のスイッチング素子の動作タイミングを決定することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記転流期間における電流変化率合計値の絶対値が小さいほど、当該転流期間を短く設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御手段は、それぞれの値が段階的に異なる複数の流転時間設定値を予め記憶しておき、前記転流期間における電流変化率合計値の絶対値が小さい場合には複数の流転時間設定値のうちで短い流転時間設定値を選択し、前記転流期間における電流変化率合計値の絶対値が大きい場合には複数の流転時間設定値のうちで長い流転時間設定値を選択することを特徴とする請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記多相電動機に対して所定値よりも高い電流を供給する大電流動作時又は当該電力変換装置の初期動作時には、前記複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、前記複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させる動作を行い、
当該電力変換装置が動作開始してからの一定時間経過後又は前記電源の温度上昇時には、パルス幅変調により前記スイッチング素子をスイッチング動作させること
を特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
電源及び多相電動機と接続され、当該電源から供給される電力を変換して多相電動機に供給する電力変換装置の制御方法において、
前記多相電動機の各相に接続された複数のスイッチング素子のうち、第1スイッチング素子の相電流が正から負となる転流期間と、前記複数のスイッチング素子のうち、第2スイッチング素子の相電流が負から正となる転流期間とを少なくとも一部で重複させることを特徴とする電力変換装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−178601(P2010−178601A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21760(P2009−21760)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】