電力用半導体装置
【課題】モールド樹脂注入時にワイヤが倒れることを防止し、チップエッジからワイヤまでの距離を大きくして絶縁距離を確保する電力用半導体装置を提供する。
【解決手段】ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂10により封止された電力用半導体装置100であって、パワーチップは、ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、ワイヤは、バンプの上を通って延びる。
【解決手段】ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂10により封止された電力用半導体装置100であって、パワーチップは、ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、ワイヤは、バンプの上を通って延びる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体装置に関し、特に、ワイヤがパワーチップにウエッジボンディングされた電力用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置では、制御チップとパワーチップ間は金を主成分とするワイヤによりワイヤボンドされる。ワイヤボンド工程では、ファーストボンディングであるボールボンディングと、セカンドボンディングであるウエッジボンディングを行う必要があり、制御チップとパワーチップの間の接続では、通常、制御チップにファーストボンディングした後、パワーチップにセカンドボンディングが行われる。また、絶縁距離を大きくするために、パワーチップ上にバンプを形成し、その上にウエッジボンディングをすることで制御チップとワイヤとの距離(空間距離)を大きくして所定の絶縁距離を確保している(例えば、特許公報1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−150595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大型の電力用半導体装置では、制御チップとパワーチップを接続するワイヤが長くなり、モールド樹脂を注入して樹脂モールドを形成する場合にワイヤが倒れやすいという問題があった。特に、大型の電力用半導体装置では、樹脂モールド後に両端の接合部に生じる応力を低減するため、モールド樹脂中のフィラー含有量を増やし、熱収縮を抑えるが、フィラー含有量の増加によりモールド樹脂の粘度が高くなり、ワイヤが倒れやすくなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、モールド樹脂注入時にワイヤが倒れることを防止し、チップエッジからワイヤまでの距離を大きくして絶縁距離を確保できる電力用半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって、パワーチップは、ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、ワイヤは、バンプの上を通って延びることを特徴とする電力用半導体装置である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明にかかる電力用半導体装置では、バンプがワイヤを支えることによりモールド樹脂注入時のワイヤの流れを防止でき、ワイヤとパワーチップとの間に所定の絶縁距離を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の斜視図である。
【図2】図1をI−I方向に見た場合の断面図である。
【図3A】IGBTの上面図である。
【図3B】図3AのIGBTをIIIA−IIIA方向に見た場合の側面図である。
【図4】比較例にかかる従来のワイヤボンド構造の側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の側面図である。
【図6A】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図6B】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図6C】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図7A】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7B】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7C】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7D】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7E】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図8A】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の概略図である。
【図8B】従来のワイヤボンド構造の概略図である。
【図9】本発明の実施の形態1にかかる他のワイヤボンド構造の概略図である。
【図10A】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10B】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10C】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10D】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図11】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造の上面図である。
【図12】図11をXI−XI方向に見た場合の断面図である。
【図13】ワイヤボンド装置のキャピラリの側面図である。
【図14】本発明の実施の形態2で用いる他の傾斜付き高さ調整バンプの断面図である。
【図15】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの上面図である。
【図16A】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの側面図である。
【図16B】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置100の斜視図であり、図2は、図1をI−I方向に見た場合の断面図である。
【0010】
電力用半導体装置100は、複数のリードフレーム1、11を含む。リードフレーム1、11には予め所定の回路が形成されている。リードフレーム1のダイパッド上には、2つのパワーチップ、IGBT(Insulate Gate Bipolar Transistor)13、FWDi(Free Wheeling Diode)14がはんだで固着されている。FWDi14の表面電極とリードフレーム1のボンディングパッド部、IGBT13の表面電極とFWDi14の表面電極は、φ200〜400μm程度の太線ワイヤ16により接続されている。一方、パワーチップを制御するための制御チップ(ICチップ)12は、リードフレーム11のボンディングパッドに導電性樹脂により固着されている。制御チップ12の表面電極とIGBT13の表面電極とは、金あるいは銅を主成分とするφ20〜50μmの細線ワイヤ17により接続されている。
【0011】
リードフレーム1のダイパッドは絶縁シート31の上に設けられている。パワーチップ等はモールド樹脂10で封止されている。絶縁シート31の熱伝導率は、モールド樹脂10の熱伝導率のより大きい。モールド樹脂10からは、絶縁シート31の一部、リードフレーム1、11の端部が露出する。
【0012】
次に、制御チップ12の表面電極とIGBT13の表面電極との間の接続について、詳しく説明する。上述のように、これらの表面電極間は、細線ワイヤ17を使用したワイヤボンドにより接続される。ワイヤボンド工程は、ファーストボンディングであるボールボンディングと、セカンドボンディングであるウエッジボンディングに分かれる。一般的に、ボールボンディングとウエッジボンディングでは、ボールを使用しないウエッジボンディングの方が被接続部に与えるダメージが大きい。このため、電力用半導体装置100では、制御チップ12の方がダメージに対して敏感であるため、制御チップ12の表面電極にボールボンディングを行い、IGBT13の表面電極上にウエッジボンディングを行う。
【0013】
次に、電力用半導体装置100のチップ周囲での絶縁について説明する。電力用半導体装置100では、IGBT13などのパワーチップに数100V以上の高電圧が印加される。図3Aは、IGBT13の上面図であり、図3Bは、図3AをIIIA−IIIA方向に見た場合の側面図である。
【0014】
図3Aに示すように、IGBT13は、耐圧を確保するために、高電圧領域19がガードリング部18で囲まれた構造となっている。高電圧領域19に接続される細線ワイヤ17においても周囲との耐圧の確保が重要になる。このため、細線ワイヤ17とIGBT13の端部(チップエッジ)20との間で高い耐圧を得るために、空間距離(IGBT13の端部と細線ワイヤとの距離)dを所定の絶縁距離以上に保つことが必要となる。所定の絶縁距離は、例えば、モールド樹脂を充填した後においては、数100μm程度の距離となる。
【0015】
図4は、比較例にかかる従来のワイヤボンド構造を示す側面図である。制御チップ12とIGBT13がそれぞれリードフレーム(図示せず)上に設けられ、制御チップ12とIGBT13との間は、細線ワイヤ17により接続されている。細線ワイヤ17は、制御チップ12上にボールボンディングした後、IGBT13上にウエッジボンディングされる。従来構造では、IGBT13の表面電極上に予めボールバンプ11を形成し、その上にウエッジボンディングを行うことで、空間距離d41を大きくしている。
【0016】
しかしながら、大型の電力用半導体装置では、モールド樹脂の熱膨張を抑えるために、フィラー含有量を増やしたモールド樹脂が用いられる。フィラー含有量が大きくなるとモールド樹脂の粘性が高くなる。この結果、モールド樹脂注入中にワイヤが倒れやすくなり(いわゆるワイヤの流れ)、絶縁距離が確保できないという問題があった。特に、大型の電力用半導体装置では、細線ワイヤ17(ループ)が長くなるためワイヤが倒れやすく、絶縁距離の確保が課題であった。また、バンプの上にウエッジボンディングする場合、バンプの表面が湾曲しているため接合面積が小さくなり、ウエッジボンディング部の強度が低下し、特に、フィラー含有量が大きく粘性の高い樹脂を用いて樹脂モールドした場合、ウエッジボンディング部が切断されるという問題もあった。
【0017】
図5は、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造を示す側面図である。図5は、電力用半導体装置100(図2)の制御チップ12、IGBT13付近を拡大したものである。図5に示すワイヤボンド構造では、ウエッジボンディング部に隣接する箇所で、かつ、ワイヤループ方向(ボールボンディングしたワイヤが延びてくる方向)に、高さ調整バンプ23が形成されている。
【0018】
次に、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の作製方法について説明する。なお、図6A〜図6Cは高さ調整バンプ23の作製工程、図7A〜図7Eはワイヤボンディング工程を示す。
【0019】
まず、図6Aに示すように、ワイヤボンド装置のキャピラリ32から延びた細線ワイヤ17の先端に放電エネルギーを加え、ボールを形成する。
【0020】
次に、図6Bに示すように、キャピラリ32を用いて、IGBT13の表面電極上にボールを押し付けながら超音波を印加し、細線ワイヤ17の先端のボールをIGBT13の表面電極に超音波接合させる。
【0021】
次に、図6Cに示すように、キャピラリ32を上げて、ワイヤボンド装置のワイヤクランプ(図示せず)を閉じて細線ワイヤ17を切断する。以上の工程で、IGBT13の表面電極上に、高さ調整バンプ23が形成される。
【0022】
続いて、図7Aに示すように、制御チップ12の表面電極上にキャピラリ32を用いボールボンディングを行う。
【0023】
次に、図7Bに示すように、キャピラリ32を上昇させる。
【0024】
次に、図7Cに示すように、IGBT13側までキャピラリ32を移動させる。
【0025】
次に、図7Dに示すように、高さ調整バンプ23に隣接する表面電極上に、ウエッジボンディングを行う。ウエッジボンディングは、細線ワイヤ17のワイヤループが高さ調整バンプ23に接するように行う。
【0026】
最後に、図7Eに示すように、ワイヤボンド装置のワイヤクランプを閉じて細線ワイヤ17を切断し、ワイヤボンド構造が完成する。
【0027】
図8Aは、以上の工程で作製した本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の概略図であり、図8Bは、比較例として示す高さ調整バンプ23の無い通常のワイヤボンド構造の概略図である。
【0028】
ウエッジボンディングでは、超音波を印加して細線ワイヤ17の表面を潰して接合するため、図8Bに示すように、IGBT13のチップエッジと細線ワイヤ17との絶縁距離d0は小さくなりやすい。
【0029】
これに対して、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造では、図8Aに示すように、ワイヤループ側で細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23に接して支持されるため、細線ワイヤ17を立ち上げることができる。この結果、IGBT13のチップエッジにおける細線ワイヤ17の高さを大きくでき、所定の絶縁距離dを確保することが容易となる。
【0030】
また、大型の電力用半導体装置などで、ワイヤループが長い場合でも、IGBT13のチップエッジ近傍で、細線ワイヤ17を高さ調整バンプ23で支えることにより、適切な絶縁距離を確保することができる。
【0031】
更に、熱膨張の低いモールド樹脂、つまりフィラー含有量が高く粘性が高いモールド樹脂を用いて樹脂モールドした場合でも、高さ調整バンプ23で細線ワイヤ17を支えることにより、細線ワイヤ17の倒れ等を防止し、適切な絶縁距離の確保が可能となる。
【0032】
また、IGBT13の、平坦な表面電極上に直接ウエッジボンディングするため、従来のようなバンプ上にウエッジボンディングする場合に比べて、バンプ表面の平坦性の影響を受けることなくウエッジボンディングを行うことができる。この結果、ボンディング強度の低下やバラつきを防止し、良好なボンディングが可能となる。
【0033】
ここで、ウエッジボンディングにおいては、接合部の面積がボンディングの良否を判断する重要な基準であり、目視等の検査が行われていた。しかし、従来のように、金のバンプ上に金ワイヤを用いてウエッジボンディングした場合、バンプとワイヤの材料が同じであるため、光学顕微鏡の光が反射してしまい、接合部の寸法の測定が困難であった。これに対して、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造では、アルミニウムからなるIGBT13の表面電極上に、金の細線ワイヤ17を用いて直接ウエッジボンディングするため、表面電極とウエッジボンディング部の濃淡がはっきりし、目視検査が格段に行いやすくなり、接合部の寸法測定が容易になる。更に、色の濃淡が分かりやすいため、自動検査装置による外観検査が可能となり、コストの低減に繋がる。
【0034】
また、高さ調整バンプ23を形成することで、モールド樹脂注入後のワイヤ流れ(ワイヤの移動や変形)の検査も容易となる。即ち、非破壊で内部検査する場合に、高さ調整バンプ23の直上にワイヤループがあることを確認するのみでワイヤ流れの検査が可能となり、検査工程を簡略化できる。
【0035】
図9は、本発明の実施の形態1にかかる他のワイヤボンド構造の概略図である。図9のワイヤボンド構造では、高さ調整バンプ23に隣接する箇所にウエッジボンディングが行われているが、高さ調整バンプ23と細線ワイヤ17とは接していない。例えば、ワイヤボンド工程は、高さ調整バンプ23に細線ワイヤ17が接するように行うが、その後の樹脂モールド工程において細線ワイヤ17と高さ調整バンプ23の間にモールド樹脂が入り込み、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23から浮き上がった場合である。しかしながら、このような場合でも、樹脂モールド中に、高さ調整バンプ23が細線ワイヤ17の最低高さを規定するため、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23から浮き上がっても必要な絶縁距離は確保できる。特に、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23に接している場合よりも、チップエッジからの絶縁距離は大きくなり、十分な絶縁耐圧を得ることができる。
【0036】
図10A〜図10Dは、本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプ25の作製工程であり、図10Dに示すような、直線形状、または内側に湾曲した形状の傾斜を有する高さ調整バンプ25が形成される。
【0037】
かかるワイヤボンディング工程では、図10A〜図10Cに示すように、上述の図6A〜図6Cと同じ工程で高さ調整バンプ23を作製した後、図6Dに示すように、キャピラリ32で高さ調整バンプ23を押さえることにより、高さ調整バンプ23の一部を変形させて、図10Dのような高さ調整バンプ25が得られる。
【0038】
これに続いて、図7A〜図7Eに示すウエッジボンディング工程を行うことで、ウエッジボンディング工程が完了する。
【0039】
図10Dに示すような高さ調整バンプ25を用いることにより、絶縁距離を変えることなく細線ワイヤ17の立ち上がり角度を緩やかにすることができる。電力用半導体装置の使用時に生じる温度サイクルにより、細線ワイヤ17のワイヤネック部に繰り返し応力が生じ、ネックが疲労破壊することが知られているが、かかるワイヤボンド構造では、細線ワイヤ17の立ち上がり角度が緩やかなため応力がワイヤ全体に均等に生じ、局所的に大きな応力が生じるのを抑制し、疲労破壊を防止することができる。
【0040】
特に、細線ワイヤ17に、銅を主成分とする材料を使用した場合には、細線ワイヤ17の酸化が問題となる。例えば、銅ワイヤで形成したボールバンプは酸化しやすく、その後にボールバンプ上にウエッジボンディングする場合(図4参照)、不着すなわちウエッジボンディングができないという問題がある。
【0041】
不着を抑制する方法としては、ワイヤボンド装置のボンディング位置付近の搬送系に、水素と窒素の混合ガスなどを噴きつけ、酸化抑制と還元を促す方法がある。しかしながら、ワイヤボンド装置には常に外部からサンプルを供給するため、チャンバのような大きな雰囲気中で酸素濃度を低減することは非常に困難であり、ボンディング装置の改造コストが発生する。
【0042】
これに対して、本発明の実施の形態1では、アルミニウムからなるIGBT13の表面電極上に直接ウエッジボンディングすることで、銅のボールバンプ上にウエッジボンディングする場合のようなバンプの酸化の影響がなくなるため、ウエッジボンディング時の不着を防止できる。
【0043】
このように、バンプの酸化の影響を考慮する必要が無いため、水素と窒素の混合ガスを供給するようなボンディング装置の改造は不要となり、装置コストの低減にも繋がる。
【0044】
なお、高さ調整バンプ23、25の材料は、ウエッジボンディングで使用する細線ワイヤ17の材料と同様でも異なっても良い。
【0045】
高さ調整バンプ23、25を形成するボールバンプは、チップのダメージを抑制するにはできるだけ軟らかい材料が好ましい。一方で、ワイヤ流れを防止して絶縁距離を確保するには、ワイヤループは高ヤング率、高降伏応力の硬い材料が好ましい。このため、高さ調整バンプ23、25は、金を主成分とするワイヤから作製し、一方、細線ワイヤ17は、銅を主成分とするワイヤで作製することが好ましい。
【0046】
特に、高温で動作する電力用半導体装置では、従来のように金を主成分とした細線ワイヤを使用する場合と比較して、銅を主成分とする細線ワイヤ17を使用することにより信頼性が向上する。即ち、高温状態において、銅の細線ワイヤとアルミニウムの表面電極との接合部は、金の細線ワイヤとアルミニウムの表面電極との接合部よりも合金層の成長が遅く、カーケンダルボイドの生成が緩やかであり、高寿命を得ることが可能となる。
【0047】
実施の形態2.
図11は、本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置のIGBT13の上面図であり、図12は、図11をXI−XI方向に見た場合の断面図である。図11、12中、図2と同一符号は同一又は相当箇所を示し、他の構造は図2の電力用半導体装置100と同様である。
【0048】
本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、図11に示すように、細線ワイヤ17のワイヤループの両側に、高さ調整バンプ26、27がそれぞれ形成されている。高さ調整バンプ26、27の作製は、図6A〜図6Cに示す工程で行われる。高さ調整バンプ26、27は、互いに接するように設けられるのが好ましい。
【0049】
図12の断面図に示すように、高さ調整バンプ26、27は、高さが最も高い中央の円筒部を囲んで、高さの低い面28、29を有する。高さの低い面28、29は、図13に示すキャピラリ32の底面30で高さ調整バンプ26、27を押すことで形成される。図13に示すように、キャピラリの底面30が水平である場合は、高さの低い面28、29も水平になり、キャピラリの底面30が斜めの場合は、高さの低い面28、29も傾斜を持つ。
【0050】
なお、図12に示すように、細線ワイヤ17は、高さ調整バンプ26、27のそれぞれに対して、少なくとも1点で接することが好ましい。
【0051】
このように、高さ調整バンプ26、27に接するように細線ワイヤ17が設けられることにより、細線ワイヤ17のワイヤループを所定の位置に保持することができる。ワイヤボンディング工程後に行われる樹脂モールド工程では、リードフレーム等が配置された金型中にモールド樹脂が注入されて全体が樹脂封止される。上述のように、粘度の高いモールド樹脂が使用された場合、モールド樹脂に押されてワイヤが動き、流れる場合がある。ワイヤが流れると、近隣のワイヤとの距離が小さくなりワイヤ同士の絶縁距離が小さくなったり、接触して短絡したりする。
【0052】
これに対して、本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、細線ワイヤ17のワイヤループが所定の位置に保持されるため、樹脂モールド工程においてワイヤが下に動くような力が加わった場合でも、ワイヤ高さが小さくなることを防止できる。また、ワイヤに左右方向の力が加わった場合でも、ワイヤが左右方向に流れるのを防止できる。
【0053】
このように、本実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、粘性の高いモールド樹脂を使用した場合でも、絶縁性能を確保することができ、モールド樹脂の選択性が高まる。
【0054】
また、強度の低い細線ワイヤ17を使用した場合でも、モールド樹脂の注入中のワイヤ流れを防止でき、細線ワイヤの材料とモールド樹脂の組み合わせの幅が拡がり、開発期間の短縮に繋がる。
【0055】
同様に、細線ワイヤのワイヤ径や材料の選択性も広がる。また、ワイヤ長を大きくすることができ、電力用半導体装置の設計において、ワイヤ長さなどの制約を受けずにチップ配置を決めることができ、電力用半導体装置の小型化に繋がる。
【0056】
更に、細線ワイヤ17のワイヤループが、高さ調整バンプ26、27の間に確実に形成されるため、モールド樹脂注入後のワイヤ流れに対する検査を省略することができ、製造コストを低減することができる。
【0057】
図14は、本発明の実施の形態2で用いる他の傾斜付き高さ調整バンプ26、27の断面図である。傾斜付き高さ調整バンプ26、27では、2つのバンプの内側方向(図11では横方向)に傾斜がついている。傾斜部分は、細線ワイヤ17を挟んで対向するように形成され、対称な形状であることが好ましい。
【0058】
傾斜付き高さ調整バンプ26、27の作製方法は、図10Dと同様に、調整バンプ形成後にキャピラリ32で押さえて傾斜を形成する。
【0059】
このような傾斜付き高さ調整バンプ26、27を設けることで、上面から見た場合のワイヤループのコントロールが容易となる。例えば、細線ワイヤ17が、図15に示すような形状を有する場合、ワイヤボンド装置のキャピラリの動きのみでは細線ワイヤ17を曲げる際の支点が無いため、細線ワイヤ17を湾曲させて調整バンプの上に細線ワイヤ17を載置することは困難である。
【0060】
しかしながら、図14の傾斜付き高さ調整バンプ26、27を設けることにより、高さ調整バンプ26、27がワイヤ曲げの支点の役割を果たすため、細線ワイヤ17の曲げを容易に行える。また、常に一定の曲げ形状を得ることができる。このため、ワイヤボンドが正常に行われているかを所定の箇所で外観検査する場合に、一定の形状でループを形成することが可能となり、自動検査が可能となる。
【0061】
なお、図16A、図16Bに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を調整することで、空間距離(チップエッジと細線ワイヤ17との距離)を調整することができる。即ち、図16Aに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を小さくした場合の空間距離d1と、図16Bに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を大きくした場合の空間距離d2との間に、d1>d2の関係が成立する。
【0062】
これを用いることにより、3次元的にワイヤループを制御すること、つまり、ワイヤループの高さや上面から見た際の曲げを制御することで、ワイヤループ間で所定の絶縁距離を確保しながら、ワイヤループを交差させることが可能となり、配線の自由度が向上し、モジュールの小型化や電力損失の低減が可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態2においても、実施の形態1の場合と同様に、樹脂モールド中に細線ワイヤ17が高さ調整バンプ26、27から浮き上がっても、必要な絶縁距離は確保できる。
【符号の説明】
【0064】
1 リードフレーム、10 モールド樹脂、11 リードフレーム、12 制御チップ、13 IGBT、14 FWDi、16 太線ワイヤ、17 細線ワイヤ、18 ガードリング、19 高電圧領域、20 チップエッジ、23 高さ調整バンプ、25、26、27 傾斜付高さ調整バンプ、28、29 高さの低い面、30 キャピラリの底面、31 絶縁シート、32 キャピラリ、33 ウエッジボンディング端部、100 電力用半導体装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力用半導体装置に関し、特に、ワイヤがパワーチップにウエッジボンディングされた電力用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置では、制御チップとパワーチップ間は金を主成分とするワイヤによりワイヤボンドされる。ワイヤボンド工程では、ファーストボンディングであるボールボンディングと、セカンドボンディングであるウエッジボンディングを行う必要があり、制御チップとパワーチップの間の接続では、通常、制御チップにファーストボンディングした後、パワーチップにセカンドボンディングが行われる。また、絶縁距離を大きくするために、パワーチップ上にバンプを形成し、その上にウエッジボンディングをすることで制御チップとワイヤとの距離(空間距離)を大きくして所定の絶縁距離を確保している(例えば、特許公報1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−150595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、大型の電力用半導体装置では、制御チップとパワーチップを接続するワイヤが長くなり、モールド樹脂を注入して樹脂モールドを形成する場合にワイヤが倒れやすいという問題があった。特に、大型の電力用半導体装置では、樹脂モールド後に両端の接合部に生じる応力を低減するため、モールド樹脂中のフィラー含有量を増やし、熱収縮を抑えるが、フィラー含有量の増加によりモールド樹脂の粘度が高くなり、ワイヤが倒れやすくなるという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、モールド樹脂注入時にワイヤが倒れることを防止し、チップエッジからワイヤまでの距離を大きくして絶縁距離を確保できる電力用半導体装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって、パワーチップは、ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、ワイヤは、バンプの上を通って延びることを特徴とする電力用半導体装置である。
【発明の効果】
【0007】
以上のように、本発明にかかる電力用半導体装置では、バンプがワイヤを支えることによりモールド樹脂注入時のワイヤの流れを防止でき、ワイヤとパワーチップとの間に所定の絶縁距離を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置の斜視図である。
【図2】図1をI−I方向に見た場合の断面図である。
【図3A】IGBTの上面図である。
【図3B】図3AのIGBTをIIIA−IIIA方向に見た場合の側面図である。
【図4】比較例にかかる従来のワイヤボンド構造の側面図である。
【図5】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の側面図である。
【図6A】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図6B】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図6C】本発明の実施の形態1で用いる高さ調整バンプの作製工程である。
【図7A】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7B】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7C】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7D】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図7E】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンディング工程である。
【図8A】本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の概略図である。
【図8B】従来のワイヤボンド構造の概略図である。
【図9】本発明の実施の形態1にかかる他のワイヤボンド構造の概略図である。
【図10A】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10B】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10C】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図10D】本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプの作製工程である。
【図11】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造の上面図である。
【図12】図11をXI−XI方向に見た場合の断面図である。
【図13】ワイヤボンド装置のキャピラリの側面図である。
【図14】本発明の実施の形態2で用いる他の傾斜付き高さ調整バンプの断面図である。
【図15】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの上面図である。
【図16A】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの側面図である。
【図16B】本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造を有するIGBTの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電力用半導体装置100の斜視図であり、図2は、図1をI−I方向に見た場合の断面図である。
【0010】
電力用半導体装置100は、複数のリードフレーム1、11を含む。リードフレーム1、11には予め所定の回路が形成されている。リードフレーム1のダイパッド上には、2つのパワーチップ、IGBT(Insulate Gate Bipolar Transistor)13、FWDi(Free Wheeling Diode)14がはんだで固着されている。FWDi14の表面電極とリードフレーム1のボンディングパッド部、IGBT13の表面電極とFWDi14の表面電極は、φ200〜400μm程度の太線ワイヤ16により接続されている。一方、パワーチップを制御するための制御チップ(ICチップ)12は、リードフレーム11のボンディングパッドに導電性樹脂により固着されている。制御チップ12の表面電極とIGBT13の表面電極とは、金あるいは銅を主成分とするφ20〜50μmの細線ワイヤ17により接続されている。
【0011】
リードフレーム1のダイパッドは絶縁シート31の上に設けられている。パワーチップ等はモールド樹脂10で封止されている。絶縁シート31の熱伝導率は、モールド樹脂10の熱伝導率のより大きい。モールド樹脂10からは、絶縁シート31の一部、リードフレーム1、11の端部が露出する。
【0012】
次に、制御チップ12の表面電極とIGBT13の表面電極との間の接続について、詳しく説明する。上述のように、これらの表面電極間は、細線ワイヤ17を使用したワイヤボンドにより接続される。ワイヤボンド工程は、ファーストボンディングであるボールボンディングと、セカンドボンディングであるウエッジボンディングに分かれる。一般的に、ボールボンディングとウエッジボンディングでは、ボールを使用しないウエッジボンディングの方が被接続部に与えるダメージが大きい。このため、電力用半導体装置100では、制御チップ12の方がダメージに対して敏感であるため、制御チップ12の表面電極にボールボンディングを行い、IGBT13の表面電極上にウエッジボンディングを行う。
【0013】
次に、電力用半導体装置100のチップ周囲での絶縁について説明する。電力用半導体装置100では、IGBT13などのパワーチップに数100V以上の高電圧が印加される。図3Aは、IGBT13の上面図であり、図3Bは、図3AをIIIA−IIIA方向に見た場合の側面図である。
【0014】
図3Aに示すように、IGBT13は、耐圧を確保するために、高電圧領域19がガードリング部18で囲まれた構造となっている。高電圧領域19に接続される細線ワイヤ17においても周囲との耐圧の確保が重要になる。このため、細線ワイヤ17とIGBT13の端部(チップエッジ)20との間で高い耐圧を得るために、空間距離(IGBT13の端部と細線ワイヤとの距離)dを所定の絶縁距離以上に保つことが必要となる。所定の絶縁距離は、例えば、モールド樹脂を充填した後においては、数100μm程度の距離となる。
【0015】
図4は、比較例にかかる従来のワイヤボンド構造を示す側面図である。制御チップ12とIGBT13がそれぞれリードフレーム(図示せず)上に設けられ、制御チップ12とIGBT13との間は、細線ワイヤ17により接続されている。細線ワイヤ17は、制御チップ12上にボールボンディングした後、IGBT13上にウエッジボンディングされる。従来構造では、IGBT13の表面電極上に予めボールバンプ11を形成し、その上にウエッジボンディングを行うことで、空間距離d41を大きくしている。
【0016】
しかしながら、大型の電力用半導体装置では、モールド樹脂の熱膨張を抑えるために、フィラー含有量を増やしたモールド樹脂が用いられる。フィラー含有量が大きくなるとモールド樹脂の粘性が高くなる。この結果、モールド樹脂注入中にワイヤが倒れやすくなり(いわゆるワイヤの流れ)、絶縁距離が確保できないという問題があった。特に、大型の電力用半導体装置では、細線ワイヤ17(ループ)が長くなるためワイヤが倒れやすく、絶縁距離の確保が課題であった。また、バンプの上にウエッジボンディングする場合、バンプの表面が湾曲しているため接合面積が小さくなり、ウエッジボンディング部の強度が低下し、特に、フィラー含有量が大きく粘性の高い樹脂を用いて樹脂モールドした場合、ウエッジボンディング部が切断されるという問題もあった。
【0017】
図5は、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造を示す側面図である。図5は、電力用半導体装置100(図2)の制御チップ12、IGBT13付近を拡大したものである。図5に示すワイヤボンド構造では、ウエッジボンディング部に隣接する箇所で、かつ、ワイヤループ方向(ボールボンディングしたワイヤが延びてくる方向)に、高さ調整バンプ23が形成されている。
【0018】
次に、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の作製方法について説明する。なお、図6A〜図6Cは高さ調整バンプ23の作製工程、図7A〜図7Eはワイヤボンディング工程を示す。
【0019】
まず、図6Aに示すように、ワイヤボンド装置のキャピラリ32から延びた細線ワイヤ17の先端に放電エネルギーを加え、ボールを形成する。
【0020】
次に、図6Bに示すように、キャピラリ32を用いて、IGBT13の表面電極上にボールを押し付けながら超音波を印加し、細線ワイヤ17の先端のボールをIGBT13の表面電極に超音波接合させる。
【0021】
次に、図6Cに示すように、キャピラリ32を上げて、ワイヤボンド装置のワイヤクランプ(図示せず)を閉じて細線ワイヤ17を切断する。以上の工程で、IGBT13の表面電極上に、高さ調整バンプ23が形成される。
【0022】
続いて、図7Aに示すように、制御チップ12の表面電極上にキャピラリ32を用いボールボンディングを行う。
【0023】
次に、図7Bに示すように、キャピラリ32を上昇させる。
【0024】
次に、図7Cに示すように、IGBT13側までキャピラリ32を移動させる。
【0025】
次に、図7Dに示すように、高さ調整バンプ23に隣接する表面電極上に、ウエッジボンディングを行う。ウエッジボンディングは、細線ワイヤ17のワイヤループが高さ調整バンプ23に接するように行う。
【0026】
最後に、図7Eに示すように、ワイヤボンド装置のワイヤクランプを閉じて細線ワイヤ17を切断し、ワイヤボンド構造が完成する。
【0027】
図8Aは、以上の工程で作製した本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造の概略図であり、図8Bは、比較例として示す高さ調整バンプ23の無い通常のワイヤボンド構造の概略図である。
【0028】
ウエッジボンディングでは、超音波を印加して細線ワイヤ17の表面を潰して接合するため、図8Bに示すように、IGBT13のチップエッジと細線ワイヤ17との絶縁距離d0は小さくなりやすい。
【0029】
これに対して、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造では、図8Aに示すように、ワイヤループ側で細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23に接して支持されるため、細線ワイヤ17を立ち上げることができる。この結果、IGBT13のチップエッジにおける細線ワイヤ17の高さを大きくでき、所定の絶縁距離dを確保することが容易となる。
【0030】
また、大型の電力用半導体装置などで、ワイヤループが長い場合でも、IGBT13のチップエッジ近傍で、細線ワイヤ17を高さ調整バンプ23で支えることにより、適切な絶縁距離を確保することができる。
【0031】
更に、熱膨張の低いモールド樹脂、つまりフィラー含有量が高く粘性が高いモールド樹脂を用いて樹脂モールドした場合でも、高さ調整バンプ23で細線ワイヤ17を支えることにより、細線ワイヤ17の倒れ等を防止し、適切な絶縁距離の確保が可能となる。
【0032】
また、IGBT13の、平坦な表面電極上に直接ウエッジボンディングするため、従来のようなバンプ上にウエッジボンディングする場合に比べて、バンプ表面の平坦性の影響を受けることなくウエッジボンディングを行うことができる。この結果、ボンディング強度の低下やバラつきを防止し、良好なボンディングが可能となる。
【0033】
ここで、ウエッジボンディングにおいては、接合部の面積がボンディングの良否を判断する重要な基準であり、目視等の検査が行われていた。しかし、従来のように、金のバンプ上に金ワイヤを用いてウエッジボンディングした場合、バンプとワイヤの材料が同じであるため、光学顕微鏡の光が反射してしまい、接合部の寸法の測定が困難であった。これに対して、本発明の実施の形態1にかかるワイヤボンド構造では、アルミニウムからなるIGBT13の表面電極上に、金の細線ワイヤ17を用いて直接ウエッジボンディングするため、表面電極とウエッジボンディング部の濃淡がはっきりし、目視検査が格段に行いやすくなり、接合部の寸法測定が容易になる。更に、色の濃淡が分かりやすいため、自動検査装置による外観検査が可能となり、コストの低減に繋がる。
【0034】
また、高さ調整バンプ23を形成することで、モールド樹脂注入後のワイヤ流れ(ワイヤの移動や変形)の検査も容易となる。即ち、非破壊で内部検査する場合に、高さ調整バンプ23の直上にワイヤループがあることを確認するのみでワイヤ流れの検査が可能となり、検査工程を簡略化できる。
【0035】
図9は、本発明の実施の形態1にかかる他のワイヤボンド構造の概略図である。図9のワイヤボンド構造では、高さ調整バンプ23に隣接する箇所にウエッジボンディングが行われているが、高さ調整バンプ23と細線ワイヤ17とは接していない。例えば、ワイヤボンド工程は、高さ調整バンプ23に細線ワイヤ17が接するように行うが、その後の樹脂モールド工程において細線ワイヤ17と高さ調整バンプ23の間にモールド樹脂が入り込み、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23から浮き上がった場合である。しかしながら、このような場合でも、樹脂モールド中に、高さ調整バンプ23が細線ワイヤ17の最低高さを規定するため、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23から浮き上がっても必要な絶縁距離は確保できる。特に、細線ワイヤ17が高さ調整バンプ23に接している場合よりも、チップエッジからの絶縁距離は大きくなり、十分な絶縁耐圧を得ることができる。
【0036】
図10A〜図10Dは、本発明の実施の形態1で用いる傾斜付き高さ調整バンプ25の作製工程であり、図10Dに示すような、直線形状、または内側に湾曲した形状の傾斜を有する高さ調整バンプ25が形成される。
【0037】
かかるワイヤボンディング工程では、図10A〜図10Cに示すように、上述の図6A〜図6Cと同じ工程で高さ調整バンプ23を作製した後、図6Dに示すように、キャピラリ32で高さ調整バンプ23を押さえることにより、高さ調整バンプ23の一部を変形させて、図10Dのような高さ調整バンプ25が得られる。
【0038】
これに続いて、図7A〜図7Eに示すウエッジボンディング工程を行うことで、ウエッジボンディング工程が完了する。
【0039】
図10Dに示すような高さ調整バンプ25を用いることにより、絶縁距離を変えることなく細線ワイヤ17の立ち上がり角度を緩やかにすることができる。電力用半導体装置の使用時に生じる温度サイクルにより、細線ワイヤ17のワイヤネック部に繰り返し応力が生じ、ネックが疲労破壊することが知られているが、かかるワイヤボンド構造では、細線ワイヤ17の立ち上がり角度が緩やかなため応力がワイヤ全体に均等に生じ、局所的に大きな応力が生じるのを抑制し、疲労破壊を防止することができる。
【0040】
特に、細線ワイヤ17に、銅を主成分とする材料を使用した場合には、細線ワイヤ17の酸化が問題となる。例えば、銅ワイヤで形成したボールバンプは酸化しやすく、その後にボールバンプ上にウエッジボンディングする場合(図4参照)、不着すなわちウエッジボンディングができないという問題がある。
【0041】
不着を抑制する方法としては、ワイヤボンド装置のボンディング位置付近の搬送系に、水素と窒素の混合ガスなどを噴きつけ、酸化抑制と還元を促す方法がある。しかしながら、ワイヤボンド装置には常に外部からサンプルを供給するため、チャンバのような大きな雰囲気中で酸素濃度を低減することは非常に困難であり、ボンディング装置の改造コストが発生する。
【0042】
これに対して、本発明の実施の形態1では、アルミニウムからなるIGBT13の表面電極上に直接ウエッジボンディングすることで、銅のボールバンプ上にウエッジボンディングする場合のようなバンプの酸化の影響がなくなるため、ウエッジボンディング時の不着を防止できる。
【0043】
このように、バンプの酸化の影響を考慮する必要が無いため、水素と窒素の混合ガスを供給するようなボンディング装置の改造は不要となり、装置コストの低減にも繋がる。
【0044】
なお、高さ調整バンプ23、25の材料は、ウエッジボンディングで使用する細線ワイヤ17の材料と同様でも異なっても良い。
【0045】
高さ調整バンプ23、25を形成するボールバンプは、チップのダメージを抑制するにはできるだけ軟らかい材料が好ましい。一方で、ワイヤ流れを防止して絶縁距離を確保するには、ワイヤループは高ヤング率、高降伏応力の硬い材料が好ましい。このため、高さ調整バンプ23、25は、金を主成分とするワイヤから作製し、一方、細線ワイヤ17は、銅を主成分とするワイヤで作製することが好ましい。
【0046】
特に、高温で動作する電力用半導体装置では、従来のように金を主成分とした細線ワイヤを使用する場合と比較して、銅を主成分とする細線ワイヤ17を使用することにより信頼性が向上する。即ち、高温状態において、銅の細線ワイヤとアルミニウムの表面電極との接合部は、金の細線ワイヤとアルミニウムの表面電極との接合部よりも合金層の成長が遅く、カーケンダルボイドの生成が緩やかであり、高寿命を得ることが可能となる。
【0047】
実施の形態2.
図11は、本発明の実施の形態2にかかる電力用半導体装置のIGBT13の上面図であり、図12は、図11をXI−XI方向に見た場合の断面図である。図11、12中、図2と同一符号は同一又は相当箇所を示し、他の構造は図2の電力用半導体装置100と同様である。
【0048】
本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、図11に示すように、細線ワイヤ17のワイヤループの両側に、高さ調整バンプ26、27がそれぞれ形成されている。高さ調整バンプ26、27の作製は、図6A〜図6Cに示す工程で行われる。高さ調整バンプ26、27は、互いに接するように設けられるのが好ましい。
【0049】
図12の断面図に示すように、高さ調整バンプ26、27は、高さが最も高い中央の円筒部を囲んで、高さの低い面28、29を有する。高さの低い面28、29は、図13に示すキャピラリ32の底面30で高さ調整バンプ26、27を押すことで形成される。図13に示すように、キャピラリの底面30が水平である場合は、高さの低い面28、29も水平になり、キャピラリの底面30が斜めの場合は、高さの低い面28、29も傾斜を持つ。
【0050】
なお、図12に示すように、細線ワイヤ17は、高さ調整バンプ26、27のそれぞれに対して、少なくとも1点で接することが好ましい。
【0051】
このように、高さ調整バンプ26、27に接するように細線ワイヤ17が設けられることにより、細線ワイヤ17のワイヤループを所定の位置に保持することができる。ワイヤボンディング工程後に行われる樹脂モールド工程では、リードフレーム等が配置された金型中にモールド樹脂が注入されて全体が樹脂封止される。上述のように、粘度の高いモールド樹脂が使用された場合、モールド樹脂に押されてワイヤが動き、流れる場合がある。ワイヤが流れると、近隣のワイヤとの距離が小さくなりワイヤ同士の絶縁距離が小さくなったり、接触して短絡したりする。
【0052】
これに対して、本発明の実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、細線ワイヤ17のワイヤループが所定の位置に保持されるため、樹脂モールド工程においてワイヤが下に動くような力が加わった場合でも、ワイヤ高さが小さくなることを防止できる。また、ワイヤに左右方向の力が加わった場合でも、ワイヤが左右方向に流れるのを防止できる。
【0053】
このように、本実施の形態2にかかるワイヤボンド構造では、粘性の高いモールド樹脂を使用した場合でも、絶縁性能を確保することができ、モールド樹脂の選択性が高まる。
【0054】
また、強度の低い細線ワイヤ17を使用した場合でも、モールド樹脂の注入中のワイヤ流れを防止でき、細線ワイヤの材料とモールド樹脂の組み合わせの幅が拡がり、開発期間の短縮に繋がる。
【0055】
同様に、細線ワイヤのワイヤ径や材料の選択性も広がる。また、ワイヤ長を大きくすることができ、電力用半導体装置の設計において、ワイヤ長さなどの制約を受けずにチップ配置を決めることができ、電力用半導体装置の小型化に繋がる。
【0056】
更に、細線ワイヤ17のワイヤループが、高さ調整バンプ26、27の間に確実に形成されるため、モールド樹脂注入後のワイヤ流れに対する検査を省略することができ、製造コストを低減することができる。
【0057】
図14は、本発明の実施の形態2で用いる他の傾斜付き高さ調整バンプ26、27の断面図である。傾斜付き高さ調整バンプ26、27では、2つのバンプの内側方向(図11では横方向)に傾斜がついている。傾斜部分は、細線ワイヤ17を挟んで対向するように形成され、対称な形状であることが好ましい。
【0058】
傾斜付き高さ調整バンプ26、27の作製方法は、図10Dと同様に、調整バンプ形成後にキャピラリ32で押さえて傾斜を形成する。
【0059】
このような傾斜付き高さ調整バンプ26、27を設けることで、上面から見た場合のワイヤループのコントロールが容易となる。例えば、細線ワイヤ17が、図15に示すような形状を有する場合、ワイヤボンド装置のキャピラリの動きのみでは細線ワイヤ17を曲げる際の支点が無いため、細線ワイヤ17を湾曲させて調整バンプの上に細線ワイヤ17を載置することは困難である。
【0060】
しかしながら、図14の傾斜付き高さ調整バンプ26、27を設けることにより、高さ調整バンプ26、27がワイヤ曲げの支点の役割を果たすため、細線ワイヤ17の曲げを容易に行える。また、常に一定の曲げ形状を得ることができる。このため、ワイヤボンドが正常に行われているかを所定の箇所で外観検査する場合に、一定の形状でループを形成することが可能となり、自動検査が可能となる。
【0061】
なお、図16A、図16Bに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を調整することで、空間距離(チップエッジと細線ワイヤ17との距離)を調整することができる。即ち、図16Aに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を小さくした場合の空間距離d1と、図16Bに示すように、ウエッジボンディング端部33から高さ調整バンプ23までの距離を大きくした場合の空間距離d2との間に、d1>d2の関係が成立する。
【0062】
これを用いることにより、3次元的にワイヤループを制御すること、つまり、ワイヤループの高さや上面から見た際の曲げを制御することで、ワイヤループ間で所定の絶縁距離を確保しながら、ワイヤループを交差させることが可能となり、配線の自由度が向上し、モジュールの小型化や電力損失の低減が可能となる。
【0063】
なお、本実施の形態2においても、実施の形態1の場合と同様に、樹脂モールド中に細線ワイヤ17が高さ調整バンプ26、27から浮き上がっても、必要な絶縁距離は確保できる。
【符号の説明】
【0064】
1 リードフレーム、10 モールド樹脂、11 リードフレーム、12 制御チップ、13 IGBT、14 FWDi、16 太線ワイヤ、17 細線ワイヤ、18 ガードリング、19 高電圧領域、20 チップエッジ、23 高さ調整バンプ、25、26、27 傾斜付高さ調整バンプ、28、29 高さの低い面、30 キャピラリの底面、31 絶縁シート、32 キャピラリ、33 ウエッジボンディング端部、100 電力用半導体装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって、
該パワーチップは、該ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、該接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、
該ワイヤは、該バンプの上を通って延びることを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
上記ワイヤは、上記接合部から上記バンプに接しながら立ち上がることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
上記バンプは傾斜面を有し、該傾斜面に沿って上記ワイヤが立ち上がることを特徴とする請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
上記ワイヤは、上記接合部から立ち上がり、上記バンプの上方を該バンプから離れて通ることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
上記バンプは、隣り合って設けられた第1バンプと第2バンプからなり、上記ワイヤは、上記接合部から、該第1バンプと該第2バンプの間を、該第1バンプと該第2バンプの双方に接しながら立ち上がることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
上記第1バンプと上記第2バンプは、対向する位置にそれぞれ傾斜面を有し、双方の該傾斜面に接するように上記ワイヤが立ち上がることを特徴とする請求項5に記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
上記バンプは、隣り合って設けられた第1バンプと第2バンプからなり、上記ワイヤは、上記接合部から、該第1バンプと該第2バンプの上方を双方のバンプから離れて通ることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項8】
上記第1バンプと上記第2バンプは、対向する位置にそれぞれ傾斜面を有し、該傾斜面の上方を上記ワイヤが通ることを特徴とする請求項7に記載の電力用半導体装置。
【請求項9】
上記傾斜面は、平面または凹面であることを特徴とする請求項3、6または8のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【請求項10】
上記バンプと上記ワイヤとが異なる材料からなり、該バンプの材料の強度は該ワイヤの材料の強度より大きいことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【請求項1】
ワイヤで接続された制御チップとパワーチップがモールド樹脂により封止された電力用半導体装置であって、
該パワーチップは、該ワイヤがウエッジボンディングされた接合部と、該接合部の近傍に設けられたバンプとをその表面上に有し、
該ワイヤは、該バンプの上を通って延びることを特徴とする電力用半導体装置。
【請求項2】
上記ワイヤは、上記接合部から上記バンプに接しながら立ち上がることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
上記バンプは傾斜面を有し、該傾斜面に沿って上記ワイヤが立ち上がることを特徴とする請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
上記ワイヤは、上記接合部から立ち上がり、上記バンプの上方を該バンプから離れて通ることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
上記バンプは、隣り合って設けられた第1バンプと第2バンプからなり、上記ワイヤは、上記接合部から、該第1バンプと該第2バンプの間を、該第1バンプと該第2バンプの双方に接しながら立ち上がることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
上記第1バンプと上記第2バンプは、対向する位置にそれぞれ傾斜面を有し、双方の該傾斜面に接するように上記ワイヤが立ち上がることを特徴とする請求項5に記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
上記バンプは、隣り合って設けられた第1バンプと第2バンプからなり、上記ワイヤは、上記接合部から、該第1バンプと該第2バンプの上方を双方のバンプから離れて通ることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項8】
上記第1バンプと上記第2バンプは、対向する位置にそれぞれ傾斜面を有し、該傾斜面の上方を上記ワイヤが通ることを特徴とする請求項7に記載の電力用半導体装置。
【請求項9】
上記傾斜面は、平面または凹面であることを特徴とする請求項3、6または8のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【請求項10】
上記バンプと上記ワイヤとが異なる材料からなり、該バンプの材料の強度は該ワイヤの材料の強度より大きいことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電力用半導体装置。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16A】
【図16B】
【公開番号】特開2012−174776(P2012−174776A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33266(P2011−33266)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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