電動オイルポンプの制御装置
【課題】車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの起動可能な温度範囲を拡げて有効活用度を高めると共に、起動成功確率を高め、かつ故障発生を抑制する。
【解決手段】計測油温Toが、電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲(T1≦To<T2)にあるとき、電動オイルポンプを故障判定無効(非確定状態)で正規運転時より制限された駆動電流及び目標回転数Noで試運転し(S1→S6)、所定回転数No以上を達成できないときは、ポンプ駆動を停止し(S9,14)、達成したときは、故障判定を許可し(S11)、指示に応じてポンプ駆動させる(S12)。
【解決手段】計測油温Toが、電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲(T1≦To<T2)にあるとき、電動オイルポンプを故障判定無効(非確定状態)で正規運転時より制限された駆動電流及び目標回転数Noで試運転し(S1→S6)、所定回転数No以上を達成できないときは、ポンプ駆動を停止し(S9,14)、達成したときは、故障判定を許可し(S11)、指示に応じてポンプ駆動させる(S12)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ車の変速機油圧生成用、あるいは、ハイブリッド車の走行用電動モータもしくはインバータの冷却用等、車両の駆動系に供給される電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動オイルポンプでは、オイル温度(油温)の極低温時は粘性が大きく増大し、ポンプ駆動用電動モータの回転数が不足して所望の油量(油圧)を吐出できなくなる。そこで、電動オイルポンプを作動させる油温を設定することが考えられるが、油温センサの特性バラツキ等による計測誤差があるため、実際には電動オイルポンプが作動できる油温であるにも関らず、電動オイルポンプを作動させることができない場合があった。
【0003】
そのため、電動オイルポンプを作動できる温度範囲が狭められ、制御機能を十分に発揮できないことがあった。
特許文献1では、電動オイルポンプの起動失敗時にオイル粘性による影響を考慮して外気温度に応じて電動オイルポンプの故障の有無を判断し、誤診断防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−254616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1も電動オイルポンプを作動できる温度範囲を拡張できるものではない。また、電動オイルポンプを、実際に起動を必要とする場面にならないとポンプを作動することができないため、ポンプ起動失敗時に電動オイルポンプによる油圧,流量等が得られず、車両への影響が大であった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、電動オイルポンプを起動できる温度範囲を拡げて有効活用度を高めると共に、起動成功確率を高めることができる電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、以下の各手段を含んで構成した。
A.オイル温度を計測する手段
B.計測されたオイル温度が、計測誤差を考慮したときに電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲にあるとき、前記電動オイルポンプを、故障判定の非確定状態で試運転する手段
C.前記試運転された電動オイルポンプの駆動状態に基づいて、前記電動オイルポンプの故障判定及び正規運転の許否を判定する手段
また、より具体化された本発明は、以下の各手段を含んで構成した。
D.駆動電源ON後に計測した油温が第2温度以上のとき、要求に応じて電動オイルポンプを駆動する手段
E.計測した油温が第2温度より低い第1温度未満のとき、電動オイルポンプの駆動を非許可とする手段
F.計測した油温が第1温度以上で第2温度未満のとき、電動オイルポンプの故障判定を確定しない状態でポンプ作動要求の有無に関らず電動オイルポンプを、駆動電流を制限しつつ制限された所定回転数を目標値として強制的に駆動する手段
G.強制的な駆動によって所定回転数に到達できない場合は、電動オイルポンプの駆動を停止し、所定回転数に到達できた場合は、電動オイルポンプ本体の故障判定を許可し、要求に応じて電動オイルポンプを駆動させる手段
【発明の効果】
【0008】
油温センサの計測誤差を考慮したときに、計測油温が、電動オイルポンプが正常に作動するか否かが不明な温度範囲(第1温度以上で第2温度未満)にあるときは、電動オイルポンプを、故障判定を確定させないで試運転し、該試運転の結果に基づいて故障判定と電動オイルポンプの駆動(正規運転)との許否が判断される。
【0009】
これにより、電動オイルポンプを起動可能な油温領域が拡張されて有効活用性を高められると共に、成功確率が高められる。
また、試運転時に成功しない場合、油温が低すぎるためか、電動オイルポンプの駆動系に故障があるためか不明であるため、故障判定を確定させず、試運転に成功した(所定回転数に到達できた)場合は、電動オイルポンプの正常な作動が保証される温度以上であると推定でき、電動オイルポンプの故障判定が可能となるので、故障判定を許可する。これにより、故障診断精度を高めることができる。
【0010】
また、駆動電流や目標回転数を制限して試運転する場合は、試運転による消費電力を節減でき、正規運転時でのバッテリ容量不足を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図4】同上電動オイルポンプの起動時制御における油温と作動状態の関係を示す線図。
【図5】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図6】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図7】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図8】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図9】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図10】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図11】第5実施形態の電動オイルポンプの駆動回路側の制御フローを示すフローチャート。
【図12】第5実施形態の外部コントローラ側の制御フローを示すフローチャート。
【図13】電動オイルポンプの駆動の許可判定のフローを示す第6実施形態のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を、アイドルストップ車の変速機油圧生成に適用した実施の形態を説明する。
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0013】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油(オイル)を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0014】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0015】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0016】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0017】
一方、前記機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に電動オイルポンプ8が配設される。該電動オイルポンプ8は、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0018】
すなわち、一時的に停車してアイドルストップ制御が開始されると、電動オイルポンプ8が駆動されて変速機構20の各部へ作動油を供給する。これにより、前後進切換機構3の前進クラッチの油圧を再始動用油圧以上に維持させた後、エンジン停止を許可してアイドル運転を停止する。
【0019】
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0020】
図2は、上記再始動時用油圧制御の制御システムブロック図を示す。
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。
【0021】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるモータ81の実回転数又は実モータ電流、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0022】
そして、モータ81の実回転数を、目標回転数に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。
【0023】
また、後述する電動オイルポンプ8の起動時制御のため、油温(オイル温度)を計測する油温センサ83が配設され、計測された油温信号が目標値演算部51に出力される。
かかる構成において、電動オイルポンプ起動時の制御を以下のように実施する。
【0024】
図3は、第1実施形態のフローチャートを示す。
ステップ1では、油温センサ83で計測された油温Toが第1温度T1以上であるかを判定する。ここで、第1温度T1は、油温センサ83のバラツキ等による計測誤差を考慮して設定されている。例えば、実油温toが所定値t0以上のときにオイルの粘度が所定以下に保たれて電動オイルポンプ8の駆動が保証される場合、油温センサ83の計測油温Toに対して実油温toが高温側(正側)へ最大の誤差を有する場合に対応して設定された温度である。
【0025】
ステップ1で計測温度Toが第1温度T1未満と判定されたときは、(油温センサ83の該実油温toが高温側へ最大誤差を有する場合でも、)実油温toが作動保証油温t0未満であるので、電動オイルポンプ8が正常であっても作動が保証されないと判断し、ステップ10へ進んで電動オイルポンプ8の駆動を禁止する。
【0026】
また、計測温度Toが第1温度T1以上と判定されたときは、ステップ2へ進み、計測油温Toが第2温度T2未満であるかを判定する。ここで、第2温度T2は、計測油温Toに対して実油温toが低温側(負側)へ最大の誤差を有する場合に対応して設定された温度である。
【0027】
ステップ2で計測油温Toが第2温度T2以上と判定されたときは、(油温センサ83の該実油温toが低温側へ最大誤差を有する場合でも、)実油温が作動保証油温t0以上であり、電動オイルポンプ8が正常であればポンプの作動が保証されるので、電動オイルポンプ8の故障判定が可能と判断する。つまり、電動オイルポンプ8が正常であれば指示通りに制御され、故障していれば指示通りに制御されないので故障判定が可能である。
【0028】
したがって、この場合は、ステップ11へ進んで、故障判定を許可に設定し、ステップ12で指示に応じて電動オイルポンプ8を駆動する。そして、故障判定によって指示どおりに制御されない場合は、その他のバッテリ電圧、油温センサ83その他駆動回路の故障判定をした上で、これらが正常であるときに、電動オイルポンプ8が故障していると確定する。
【0029】
ステップ2で計測油温Toが第2温度T2以下と判定された場合、即ち、計測油温ToがT1≦To≦T2の範囲内にあると判定された場合は、油温センサ83のバラツキ等による計測誤差によって、実油温Toが作動保証温度t0以上か未満かを判定することができない。この場合は、ステップ3以降へ進み、電動オイルポンプ8を、駆動を制限しつつ強制的に駆動(試運転)する。
【0030】
ステップ3では、後述する電動オイルポンプ8の試運転により、所定回転数Noに達したか否かの判定がなされた(確認された)か否(未確認)かを判定する。
未確認と判定されたときは、ステップ4へ進んで、電動オイルポンプ8の故障判定を無効(故障判定を確定させない)に設定する。
【0031】
次いで、ステップ5で電動オイルポンプ8の目標回転数を所定回転数Noに設定する。
ここで、所定回転数Noは、例えば、上記制限された駆動電流で電動オイルポンプ8を駆動したときに、実油温toが作動保証温度t0であるときに達成しうる回転数、あるいは、これより少し低めの回転数(正規運転時に設定される目標回転数より低速値)に設定される。したがって、該所定回転数Noを目標回転数とする制御によって電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達したときは、実油温toが作動保証温度t0以上に確保されていると推定できる。
【0032】
ステップ6では、電動オイルポンプ8を、上記駆動電流を制限しつつ駆動し、所定回転数Noを目標回転数とする制御を実施する。
ステップ7では、電動オイルポンプ8の回転数が所定回転数Noに達することができたか否かを判定する。
【0033】
そして、所定回転数Noに達することができた場合は、ステップ8へ進んで、所定回転数作動OK設定とする。
所定回転数Noに達することができなかった場合は、電動オイルポンプ8の正常動作が保証されないので、ステップ9へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0034】
かかる電動オイルポンプ8の試運転後、次回フローでステップ3からステップ13へ進んで所定回転数No作動の達成の有無を判定し、達成できなかったと判定された場合は、電動オイルポンプ8の作動が保証されない(作動不良)と判断し、ステップ14へ進んで電動オイルポンプ8の駆動を停止する。但し、電動オイルポンプ8の作動不良が、電動オイルポンプ8の故障によるものか、実油温toが低すぎるためであるかを判別できないので、故障判定の無効設定を維持し故障判定を確定しない。
【0035】
一方、ステップ13で所定回転数No作動を達成できたと判定された場合は、実油温toが作動保証温度t0以上であると推定し、ステップ11で故障判定許可設定を行うと共に、ステップ12で指示に応じて電動オイルポンプ8を駆動する。
【0036】
図4は、上記電動オイルポンプ8の起動時制御における油温と作動状態の関係を示す。
かかる制御によれば、油温センサ83の計測誤差を考慮した油温の計測値(計測油温)に基づいて、実油温toが電動オイルポンプ8の作動保証油温t0より低温と判定されて電動オイルポンプ8の作動が保証されない場合は、電動オイルポンプ8の駆動が禁止される。これにより、電動オイルポンプ8へ過大な電力が供給されることによる回路故障等の発生を抑制できる。
【0037】
同じく計測油温Toに基づいて実油温toが作動保証油温t0より高温と判定され、電動オイルポンプ8の作動が保証される場合は、電動オイルポンプ8の通常制御を開始し、油圧を上昇させてクラッチ締結時のショックを軽減させ、また、故障判定を許可することができる。
【0038】
一方、計測油温Toが電動オイルポンプ8の作動が保証されるか否かが不明な温度範囲にある場合は、電動オイルポンプ8を、駆動電流を制限し、制限された所定回転数Noを目標回転数とした制御(試運転)を行い、所定回転数No達成の可否によって、実油温toが作動保証油温t0以上であるか否かを推定することができる。
【0039】
そして、実油温toが作動保証油温t0以上と推定したときは、電動オイルポンプの故障判定を許可すると共に、指示に応じた通常制御(正規運転)を行わせて、再始動時のショックを軽減させることができる。即ち、計測油温Toが第2温度T2以上となるのを待つことなく、速やかに、故障判定許可及び通常制御を開始することができる。このように、電動オイルポンプの作動開始可能温度を低温側に拡張することができる。
【0040】
また、実油温toが作動保証油温t0未満と推定したときは、電動オイルポンプ8の駆動を禁止して過大電力供給による回路故障の発生を抑制できる。ここで、かかる推定前に電動オイルポンプ8は駆動されているが、駆動電流及び目標回転数を制限した試運転であるため、過大電力供給による回路故障の発生を回避できると共に、試運転による消費電力を節減でき、正規運転時でのバッテリ容量不足を抑制できる。
【0041】
さらに、実油温toが作動保証油温t0未満と推定したときは、電動オイルポンプ8の故障判定を確定させないことにより、故障判定の信頼性を確保することができる。
図5及び図6は、第2実施形態のフローチャートを示す。
【0042】
基本的な制御の流れは、第1実施形態と同様であるので、相違する箇所を主として説明する。
ステップ2の判定がYESで、計測油温ToがT1≦To<T2の範囲内にあると判定された場合は、ステップ20で、所定回転数作動OK判定が無かったかを判定する。
【0043】
初回のフローでは、所定回転数作動OK設定が無いので、ステップ3へ進み、所定回転数作動も未確認であるので、ステップ4以降へ進んで、電動オイルポンプ8を駆動電流及び目標回転数を制限して駆動する。
【0044】
そして、ステップ7で、電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達したと判定されたときは、ステップ8で所定回転数作動OK設定とし、次回フローでステップ20の判定がNOとなってステップ11での故障判定許可設定、ステップ12での指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動を行う(第1実施形態と同様である)。
【0045】
一方、ステップ7で、電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達しないと判定されたときは、ステップ22で計測油温Toを記憶した後、ステップ9で電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0046】
そして、次回のフローでステップ3の判定がNOとなったときに、ステップ21で、新たな計測油温Toが上記の記憶された計測油温To(記憶油温)より所定値α以上上昇していたかを判定する。
【0047】
計測油温Toが所定値α以上上昇していないと判定されたときは、本フローを抜けるが、計測油温Toが所定値α以上上昇していると判定されたときは、ステップ4以降へ進んで制限された電動オイルポンプ8の駆動を再開し、再度所定回転数No達成の判定を行い、判定結果に応じてステップ8で所定回転数作動OK設定、または、ステップ22でその時点の計測油温Toを更新記憶する。
【0048】
即ち、計測油温Toが所定値α以上上昇したときは、制限された電動オイルポンプ8を再度駆動し、所定回転数Noに達成した後、ステップ20の判定がNOとなってステップ11,12に進み、故障判定を許可し、指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動に切り換える。
【0049】
なお、上記電動オイルポンプ8の再駆動の判断を、単位時間当たりの計測油温Toの上昇率によって判定する構成とし、上昇率が低いときは、実油温toが短時間で作動保証温度t0以上に上昇する可能性が低いので、電動オイルポンプ8の停止を維持するようにしてもよい。
【0050】
本第2実施形態では、試運転開始時点では、作動保証油温t0に達していないと推定されるときでも、短時間で作動保証油温t0に達する可能性がある場合は試運転を継続し、作動保証油温t0に達したと推定された時点から故障判定を許可でき、通常の指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動(正規運転)を開始させることができるため、電動オイルポンプ8によるクラッチ締結ショック軽減機能を、より高頻度で活用することができる。
【0051】
図7及び図8は、第3実施形態のフローチャートを示す。本実施形態は、第2実施形態に、電動オイルポンプ8の試運転を行いつつ第1油温T1を作動保証油温として学習する機能を追加したものである。したがって、第2実施形態に追加された部分を主に説明する。
【0052】
ステップ31では、後述する油温学習の学習値を有しているか(学習されたか)を判定する。
学習値を有していると判定したときは、ステップ32で第1温度T1として学習値を設定する。
【0053】
一方、学習値を有していないと判定されたときは、ステップ33で第1油温T1を初期値T10に設定する。
次いで、第2実施形態と同様のステップを経て、電動オイルポンプ8を制限して駆動し、ステップ7の判定で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、ステップ33で該所定回転数No作動の達成が、作動確認の2回目以降でなされたか、を判定する。
【0054】
2回目以降で所定回転数No作動が達成されたと判定されたとき、つまり、少なくとも1回は所定回転数Noに達せず、その後の油温上昇によって所定回転数No作動が達成されたときは、このときの計測油温Toが電動オイルポンプ8の作動を保証する下限温度、つまり、作動保証温度に近い油温に達したと推定される。そこで、ステップ34で、現在の計測油温Toを学習値として記憶する。なお、ノイズ現象や、油温センサ83や電動オイルポンプ8性能の経時劣化等を考慮して、学習値を加重平均やフィルタ処理によって算出することが精度上好ましい。
【0055】
このように学習値が設定された後は、ステップ32で第1油温T1として学習値が用いられることとなる。
本第3実施形態では、上記のように第1油温T1を学習することにより、実油温toが低温で電動オイルポンプ8の作動が保証されない状態での試運転を短縮でき、学習後は、実質的に無くすことも可能となるので、消費電力を節減できる。
【0056】
また、ステップ33での第1油温T1の初期値T10は、第1、第2実施形態同様に油温センサ83の正側のばらつきを考慮して設定してよいが、学習を行う本実施形態の場合は、電動オイルポンプ8が損傷せず作動する、より低い下限温度に設定してもよい。
【0057】
例えば、電動オイルポンプ8の性能が高い場合、油温センサ83のばらつきを考慮して設定された第1温度より低めの油温で作動が保証される可能性もある。このような場合でも、第1油温の初期値は電動オイルポンプ8が損傷しない範囲でできるだけ低温に設定しておけば、学習によって、より低い作動保証温度t0を見つけ出すことができ、電動オイルポンプ8によるクラッチ締結ショック軽減機能を、さらに高頻度で活用することができる。
【0058】
図9及び図10は、第4実施形態のフローチャートを示す。本実施形態は、第3実施形態同様、第1油温T1を作動保証油温として学習するが、さらに、第1油温T1を徐々に下げて学習する機能を追加したものである。したがって、第3実施形態に追加された部分を主に説明する。
【0059】
ステップ31で、油温学習の学習値を有していると判定されたときに、ステップ32’へ進んで、第1温度T1として学習値から所定値αを減算した値を設定する。ここで、所定値αを減算する理由は、後述する。
【0060】
次いで、第3実施形態と同様のステップを経て、電動オイルポンプ8を制限して駆動し、ステップ7の判定で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、ステップ8で所定回転数作動OK設定をした後、ステップ34で、学習の有無を判定する。学習値を有していないと判定されたときは、ステップ35で計測油温Toがステップ33で設定された第1温度T1の初期値T10以下であるかを判定する。
【0061】
そして、計測油温Toが初期値T10より大と判定された場合は、ステップ36で前記所定回転数No作動の達成が、作動確認の2回目以降でなされたか、を判定する。
2回目以降で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、第3実施形態で説明したように、このときの計測油温Toが作動保証温度t0に達したと推定されるので、ステップ34で、現在の計測油温Toを学習値として記憶する。
【0062】
一方、ステップ33で第1温度T1の初期値T10以下と判定された場合は、初回のフローで計測油温Toが初期値T10で所定回転数No作動が達成され、この場合は、該初期値T10より低い油温でも電動オイルポンプ8の作動が保証される可能性を有する。そこで、ステップ37で現在の計測油温To(=T10)を学習値として記憶し、次回フローのステップ32’で第1温度T1(学習値)を減少させて再度試運転を行わせ、試運転に成功したときに、より低温な作動保証温度t0に更新する学習が行われるようにする。
【0063】
また、ステップ31で第1温度T1の学習値を有していると判定されたときも、その学習値は、前回作動までに確認された作動保証温度t0であり、今回のステップ32'で前回のより減少した学習値で試運転に成功しているので、ステップ34にて、今回の計測油温Toを前回より低温側に学習された作動保証温度t0として記憶更新する。
【0064】
本第4実施形態では、上記のようにして、試運転が成功する限り、第1温度T1を漸減させつつより低温側の作動保証温度t0を学習し、試運転が成功しなくなるまで、作動保証温度t0を引き下げることができ、電動オイルポンプを作動できる温度範囲を低温側に可及的に拡張することができる。
【0065】
なお、本実施形態でも、第1油温T1の初期値T10は、第1、第2実施形態同様に油温センサ83の正側のばらつきを考慮して設定してよいが、これより低温側に設定してもよい。学習によって見つけられる最低の作動保証温度t0を予測できれば、その予測値付近に初期値T1Oを設定することにより、該最低の作動保証温度t0を、より短い学習時間で獲得することができる。
【0066】
次に、上記第1〜第4実施形態における制御を、電動オイルポンプ8の制御回路(図2のフィードバック制御器52及び駆動回路82)と、外部コントローラ(図2の目標値演算部51)との間で相互通信を行って実施する第5実施形態について説明する。
【0067】
電動オイルポンプ8の制御回路では、外部コントローラから入力した駆動指示に応じて作動する。
駆動指示通りに作動できない場合は、電動オイルポンプ8の駆動を停止させ、作動不能を外部コントローラへ送信する。
【0068】
外部コントローラは、油温センサ83からの計測油温To信号及びその他の車両情報を入力し、これらの情報に基づいて、電動オイルポンプ8の駆動指示信号を生成し、電動オイルポンプ8へ送信する。
【0069】
電動オイルポンプ8の制御回路(フィードバック制御器52)から、駆動指示どおりに作動しないとの信号を受けた場合は、その時の車両状態に応じて外部コントローラ側で電動オイルポンプ8の故障を判断する。
【0070】
図11は、第5実施形態の電動オイルポンプ8の制御回路(フィードバック制御器52)の制御フローを示す。
ステップ41では、電動オイルポンプ8の駆動指示(試運転の指示を含む)の有無を判定し、指示がない場合は、ステップ45で電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0071】
駆動指示があると判定されたときは、ステップ42で電動オイルポンプ8を、駆動電流を駆動指示に応じて制限しつつ制御する(試運転の制御は、通常制御時より制限が強い)。
【0072】
駆動指示は、例えばポンプ(モータ)回転数[試運転時は所定回転数No、試運転完了後の通常制御(正規運転)時は車両状態に応じて設定された目標回転数]になるので、以下のようないずれかの方式で電流を制御する。
【0073】
a.指示されたポンプ回転数に比例して電流値を設定する(試運転を含む)。
b.正規運転時に指示されたポンプ回転数が設定回転数No1(>No)以上のときと、設定回転数No1未満のときとで、高低2段で電流値を切換えて設定する。
c.試運転時の所定回転数Noのときに電流値を制限し、所定回転数Noより高い回転数が指示された場合は、電流値の制限を無しとする。
d.試運転、正規運転に関わらず、常に所定電流値に制限する。
【0074】
ステップ43では、電動オイルポンプ8が指示通りに作動可能であるかを判定する。
指示通りに作動可能であった場合は、ステップ44で、電動オイルポンプ8の駆動を継続する。
【0075】
電動オイルポンプ8が指示通りに作動可能でない(試運転での所定回転数を含めて目標回転数に達しない)場合は、ステップ46で、電動オイルポンプ8の駆動を停止し、ステップ47で該作動状態(作動不可)を外部コントローラへ送信する。
【0076】
図12は、第5実施形態の外部コントローラ側の制御フローを示す。
ステップ51では、計測油温Toを含む車両情報を読み込む。
ステップ52では、電動オイルポンプ8の駆動が必要かを判定する。
【0077】
駆動が必要でないと判定された場合は、ステップ60で電動オイルポンプ8の駆動停止を指示する。これにより、電動オイルポンプ8の駆動回路でステップ41の判定がNOとなって駆動停止される。
【0078】
駆動が必要と判定された場合は、ステップ53で電動オイルポンプ8の駆動回路に駆動指示を出力する。例えば、試運転時は所定回転数、試運転完了後の通常制御時は車両状態に応じて設定された目標回転数とするフィードバック制御の駆動を指示する。
【0079】
ステップ54では、駆動回路側から入力した電動オイルポンプ8の作動状態を読み込む。
ステップ55では、指示通りの作動が不可であるか(電動オイルポンプ8の駆動回路側からステップ47での作動不良状態を入力したか)を判定する。
【0080】
指示通りの作動が不可と判定されていない場合は、現状を維持するが、指示通りの作動が不可と判定された場合は、ステップ56で車両情報を読み込む。
ステップ57では、車両情報に基づいて、電動オイルポンプ8の故障を確定できる状態であるか否かを判定する。例えば、油温が作動保証油温t0以上であって、その他にバッテリ電圧が所定値以上であり、油温センサ83その他の駆動回路が正常と診断済みであることなど、電動オイルポンプ8の作動が正常であれば駆動指示通りに作動できる状態であって、駆動指示通りに作動できないのは電動オイルポンプ8の故障と確定される状態であると判定する。
【0081】
このように、故障と確定される状態であると判定した場合は、ステップ58で電動オイルポンプ8が故障していると確定した後、ステップ59へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動停止処理(既に停止している場合は停止を維持)を行う。
【0082】
一方、試運転が完了していない状態(所定回転数への到達を確認していない状態)では故障を確定できないので、故障を確定することなく、ステップ59へ進んで電動オイルポンプ8の駆動停止処理を行う。
【0083】
ここで、電動オイルポンプ8の駆動回路で、油温センサ83からの信号を入力して油温に応じた故障判定を行う構成とすると、マイコンの負荷が増大すると共に、油温センサ83から駆動回路までのハーネスを追加する必要があるなどコストアップとなる。
【0084】
これに対し、外部コントローラは、元々、駆動指示信号生成のために油温情報を入力しているため、本実施形態のように、油温に応じた故障判定も行わせる方が、駆動回路のマイコン負荷を軽減でき、ハーネスの追加も不要となってコスト的にも有利である。
【0085】
図13は、上記第1〜第4実施形態の制御において、ステップ12での指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動の許可判定のフローを示す第5実施形態のフローチャートである。
【0086】
ステップ61では、計測油温Toが、第1温度T1以上であるかを判定し、第1油温T1未満と判定されたときは、電動オイルポンプ8の作動が保証されないので、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。なお、第1油温T1は、第1,第2実施形態では、油温センサ83のばらつきを考慮して設定された油温であり、第3実施形態では、学習値、または、学習前の電動オイルポンプ8の機能保証下限温度、,第4実施形態では、学習値−α、または、ばらつきを考慮して設定された油温より低めに設定された温度である。
【0087】
計測油温Toが第1油温T1以上と判定された場合は、ステップ62で計測油温Toが第2油温T2未満であるかを判定する。
計測油温Toが第2油温T2以上と判定されたときは、電動オイルポンプ8の作動を保証する油温であるため、ステップ65へ進み、その他の作動許可条件(バッテリ電圧や他の駆動回路の故障診断結果が正常であることなど)が成立しているかを判定する。
【0088】
そして、ステップ65でその他の作動許可条件も成立していると判定されたときは、ステップ66で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を許可する。その他の作動許可条件が非成立の場合は、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。
【0089】
また、ステップ62で計測油温Toが第2油温T2未満と判定されたときは、ステップ63で、所定回転数作動がNG(試運転で所定回転数に到達しなかった)であるかを判定する。
【0090】
そして、所定回転数作動がNGと判定された場合は、ステップ64で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止し、所定回転数作動がOKと判定された場合は、ステップ65へ進み、その他の作動許可条件成立時は、ステップ66で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を許可し、非成立時は、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。
【0091】
このようにすれば、電動オイルポンプ8が指示通り正常に作動することの信頼性が高いときに駆動指示出力が許可されるので電動オイルポンプ8の消費電力の浪費を節減できる。
【0092】
一方、正常作動の信頼性が低いときには駆動指示出力が禁止されるので、過剰電流供給による電動オイルポンプ8の耐久性劣化を抑制することができる。
以上の実施形態は、アイドルストップ車の変速機油圧生成用の電動オイルポンプの制御装置に適用したものを示したが、ハイブリッド車の走行用電動モータもしくはインバータの冷却用等に用いられる電動オイルポンプの制御装置にも同様にして適用することができ、同様の効果を得られる。
【符号の説明】
【0093】
1…エンジン、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、81…モータ、82…駆動回路、83…油温センサ、5…CVTコントロールユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドルストップ車の変速機油圧生成用、あるいは、ハイブリッド車の走行用電動モータもしくはインバータの冷却用等、車両の駆動系に供給される電動オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動オイルポンプでは、オイル温度(油温)の極低温時は粘性が大きく増大し、ポンプ駆動用電動モータの回転数が不足して所望の油量(油圧)を吐出できなくなる。そこで、電動オイルポンプを作動させる油温を設定することが考えられるが、油温センサの特性バラツキ等による計測誤差があるため、実際には電動オイルポンプが作動できる油温であるにも関らず、電動オイルポンプを作動させることができない場合があった。
【0003】
そのため、電動オイルポンプを作動できる温度範囲が狭められ、制御機能を十分に発揮できないことがあった。
特許文献1では、電動オイルポンプの起動失敗時にオイル粘性による影響を考慮して外気温度に応じて電動オイルポンプの故障の有無を判断し、誤診断防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−254616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1も電動オイルポンプを作動できる温度範囲を拡張できるものではない。また、電動オイルポンプを、実際に起動を必要とする場面にならないとポンプを作動することができないため、ポンプ起動失敗時に電動オイルポンプによる油圧,流量等が得られず、車両への影響が大であった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、電動オイルポンプを起動できる温度範囲を拡げて有効活用度を高めると共に、起動成功確率を高めることができる電動オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、以下の各手段を含んで構成した。
A.オイル温度を計測する手段
B.計測されたオイル温度が、計測誤差を考慮したときに電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲にあるとき、前記電動オイルポンプを、故障判定の非確定状態で試運転する手段
C.前記試運転された電動オイルポンプの駆動状態に基づいて、前記電動オイルポンプの故障判定及び正規運転の許否を判定する手段
また、より具体化された本発明は、以下の各手段を含んで構成した。
D.駆動電源ON後に計測した油温が第2温度以上のとき、要求に応じて電動オイルポンプを駆動する手段
E.計測した油温が第2温度より低い第1温度未満のとき、電動オイルポンプの駆動を非許可とする手段
F.計測した油温が第1温度以上で第2温度未満のとき、電動オイルポンプの故障判定を確定しない状態でポンプ作動要求の有無に関らず電動オイルポンプを、駆動電流を制限しつつ制限された所定回転数を目標値として強制的に駆動する手段
G.強制的な駆動によって所定回転数に到達できない場合は、電動オイルポンプの駆動を停止し、所定回転数に到達できた場合は、電動オイルポンプ本体の故障判定を許可し、要求に応じて電動オイルポンプを駆動させる手段
【発明の効果】
【0008】
油温センサの計測誤差を考慮したときに、計測油温が、電動オイルポンプが正常に作動するか否かが不明な温度範囲(第1温度以上で第2温度未満)にあるときは、電動オイルポンプを、故障判定を確定させないで試運転し、該試運転の結果に基づいて故障判定と電動オイルポンプの駆動(正規運転)との許否が判断される。
【0009】
これにより、電動オイルポンプを起動可能な油温領域が拡張されて有効活用性を高められると共に、成功確率が高められる。
また、試運転時に成功しない場合、油温が低すぎるためか、電動オイルポンプの駆動系に故障があるためか不明であるため、故障判定を確定させず、試運転に成功した(所定回転数に到達できた)場合は、電動オイルポンプの正常な作動が保証される温度以上であると推定でき、電動オイルポンプの故障判定が可能となるので、故障判定を許可する。これにより、故障診断精度を高めることができる。
【0010】
また、駆動電流や目標回転数を制限して試運転する場合は、試運転による消費電力を節減でき、正規運転時でのバッテリ容量不足を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態に係る電動オイルポンプの制御装置を備えた車両の駆動力伝達系を示す図。
【図2】上記電動オイルポンプの制御装置の制御ブロック図。
【図3】第1実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御のフローチャート。
【図4】同上電動オイルポンプの起動時制御における油温と作動状態の関係を示す線図。
【図5】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図6】第2実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図7】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図8】第3実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図9】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の前段フローチャート。
【図10】第4実施形態にかかる電動オイルポンプの電源電流制御の後段フローチャート。
【図11】第5実施形態の電動オイルポンプの駆動回路側の制御フローを示すフローチャート。
【図12】第5実施形態の外部コントローラ側の制御フローを示すフローチャート。
【図13】電動オイルポンプの駆動の許可判定のフローを示す第6実施形態のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を、アイドルストップ車の変速機油圧生成に適用した実施の形態を説明する。
図1において、エンジン(内燃機関)1には、トルクコンバータ2及び発進用クラッチ機構である前後進切換機構3を介して無段変速機4が接続されている。
【0013】
前後進切換機構3は、例えば、エンジン出力軸と連結したリングギア、ピニオン及びピニオンキャリア、変速機入力軸と連結したサンギアからなる遊星歯車機構と、変速機ケースをピニオンキャリアに固定する後退ブレーキと、変速機入力軸とピニオンキャリアを連結する前進クラッチと、を含んで構成され、車両の前進と後退とを切換える。これら後退ブレーキ及び前進クラッチの切換えは、無段変速機4と共通の作動油(オイル)を用いた油圧による締結の切換えによって行われる。
【0014】
無段変速機4は、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42と、これらプーリ間に掛けられたVベルト43と、を含んで構成され、プライマリプーリ41の回転は、Vベルト43を介してセカンダリプーリ42へ伝達され、セカンダリプーリ42の回転は、駆動車輪へ伝達されて車両が走行駆動される。
【0015】
上記駆動力伝達中、プライマリプーリ41の可動円錐板及びセカンダリプーリ42の可動円錐板を軸方向に移動させてVベルト43との接触位置半径を変えることにより、プライマリプーリ41とセカンダリプーリ42との間の回転比つまり変速比を変えることができる。
【0016】
かかる前後進切換機構3及び無段変速機4を備えた変速機構20の制御は、以下のように行われる。
車両の各種信号に基づいてCVTコントロールユニット5が変速制御信号を演算し、該変速制御信号を入力した調圧機構6が、エンジン駆動される機械式オイルポンプ7からの吐出圧を変速機構20の各部毎に調圧して、それぞれ供給することにより行われる。
【0017】
一方、前記機械式オイルポンプ7をバイパスする通路に電動オイルポンプ8が配設される。該電動オイルポンプ8は、車両のアイドルストップ後の再始動時における締結ショックを緩和するため、CVTコントロールユニット5からの制御信号によって駆動される。
【0018】
すなわち、一時的に停車してアイドルストップ制御が開始されると、電動オイルポンプ8が駆動されて変速機構20の各部へ作動油を供給する。これにより、前後進切換機構3の前進クラッチの油圧を再始動用油圧以上に維持させた後、エンジン停止を許可してアイドル運転を停止する。
【0019】
なお、電動オイルポンプ8出口の油通路には、通常時のオイルの逆流を防止する逆止弁9が介装される。また、図示点線で示すように、電動オイルポンプ8からの吐出圧を所定圧以下に制限するため、該所定圧以下で開弁するリリーフ弁10を設けてもよい。
【0020】
図2は、上記再始動時用油圧制御の制御システムブロック図を示す。
目標値演算部51は、車両の各種センサからの検出信号(車速、ブレーキ、アクセル、シフト位置、エンジン回転速度、バッテリ電圧、その他)を入力し、これら信号に基づいて検出された車両運転状態に応じて、電動オイルポンプ8を駆動するモータ81の回転数(またはモータ電流)の目標値を演算する。
【0021】
フィードバック制御器52は、前記目標値演算部51からの目標値(目標モータ回転数又は目標モータ電流)を入力すると共に、制御量であるモータ81の実回転数又は実モータ電流、及びモータ81の駆動回路82の実電源電流Ibを入力する。電源電流Ibは、電流センサ53によって検出される。モータ81の実回転数は、センサによって直接計測する他、駆動回路82からモータの相電圧を入力して検出することも可能である。
【0022】
そして、モータ81の実回転数を、目標回転数に近づけるようにPID制御等を用いて演算したフィードバック操作量を出力して制御する。操作量としては、例えば、PWM(パルス幅変調)制御の場合、パルス幅(デューティ比)である。
【0023】
また、後述する電動オイルポンプ8の起動時制御のため、油温(オイル温度)を計測する油温センサ83が配設され、計測された油温信号が目標値演算部51に出力される。
かかる構成において、電動オイルポンプ起動時の制御を以下のように実施する。
【0024】
図3は、第1実施形態のフローチャートを示す。
ステップ1では、油温センサ83で計測された油温Toが第1温度T1以上であるかを判定する。ここで、第1温度T1は、油温センサ83のバラツキ等による計測誤差を考慮して設定されている。例えば、実油温toが所定値t0以上のときにオイルの粘度が所定以下に保たれて電動オイルポンプ8の駆動が保証される場合、油温センサ83の計測油温Toに対して実油温toが高温側(正側)へ最大の誤差を有する場合に対応して設定された温度である。
【0025】
ステップ1で計測温度Toが第1温度T1未満と判定されたときは、(油温センサ83の該実油温toが高温側へ最大誤差を有する場合でも、)実油温toが作動保証油温t0未満であるので、電動オイルポンプ8が正常であっても作動が保証されないと判断し、ステップ10へ進んで電動オイルポンプ8の駆動を禁止する。
【0026】
また、計測温度Toが第1温度T1以上と判定されたときは、ステップ2へ進み、計測油温Toが第2温度T2未満であるかを判定する。ここで、第2温度T2は、計測油温Toに対して実油温toが低温側(負側)へ最大の誤差を有する場合に対応して設定された温度である。
【0027】
ステップ2で計測油温Toが第2温度T2以上と判定されたときは、(油温センサ83の該実油温toが低温側へ最大誤差を有する場合でも、)実油温が作動保証油温t0以上であり、電動オイルポンプ8が正常であればポンプの作動が保証されるので、電動オイルポンプ8の故障判定が可能と判断する。つまり、電動オイルポンプ8が正常であれば指示通りに制御され、故障していれば指示通りに制御されないので故障判定が可能である。
【0028】
したがって、この場合は、ステップ11へ進んで、故障判定を許可に設定し、ステップ12で指示に応じて電動オイルポンプ8を駆動する。そして、故障判定によって指示どおりに制御されない場合は、その他のバッテリ電圧、油温センサ83その他駆動回路の故障判定をした上で、これらが正常であるときに、電動オイルポンプ8が故障していると確定する。
【0029】
ステップ2で計測油温Toが第2温度T2以下と判定された場合、即ち、計測油温ToがT1≦To≦T2の範囲内にあると判定された場合は、油温センサ83のバラツキ等による計測誤差によって、実油温Toが作動保証温度t0以上か未満かを判定することができない。この場合は、ステップ3以降へ進み、電動オイルポンプ8を、駆動を制限しつつ強制的に駆動(試運転)する。
【0030】
ステップ3では、後述する電動オイルポンプ8の試運転により、所定回転数Noに達したか否かの判定がなされた(確認された)か否(未確認)かを判定する。
未確認と判定されたときは、ステップ4へ進んで、電動オイルポンプ8の故障判定を無効(故障判定を確定させない)に設定する。
【0031】
次いで、ステップ5で電動オイルポンプ8の目標回転数を所定回転数Noに設定する。
ここで、所定回転数Noは、例えば、上記制限された駆動電流で電動オイルポンプ8を駆動したときに、実油温toが作動保証温度t0であるときに達成しうる回転数、あるいは、これより少し低めの回転数(正規運転時に設定される目標回転数より低速値)に設定される。したがって、該所定回転数Noを目標回転数とする制御によって電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達したときは、実油温toが作動保証温度t0以上に確保されていると推定できる。
【0032】
ステップ6では、電動オイルポンプ8を、上記駆動電流を制限しつつ駆動し、所定回転数Noを目標回転数とする制御を実施する。
ステップ7では、電動オイルポンプ8の回転数が所定回転数Noに達することができたか否かを判定する。
【0033】
そして、所定回転数Noに達することができた場合は、ステップ8へ進んで、所定回転数作動OK設定とする。
所定回転数Noに達することができなかった場合は、電動オイルポンプ8の正常動作が保証されないので、ステップ9へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0034】
かかる電動オイルポンプ8の試運転後、次回フローでステップ3からステップ13へ進んで所定回転数No作動の達成の有無を判定し、達成できなかったと判定された場合は、電動オイルポンプ8の作動が保証されない(作動不良)と判断し、ステップ14へ進んで電動オイルポンプ8の駆動を停止する。但し、電動オイルポンプ8の作動不良が、電動オイルポンプ8の故障によるものか、実油温toが低すぎるためであるかを判別できないので、故障判定の無効設定を維持し故障判定を確定しない。
【0035】
一方、ステップ13で所定回転数No作動を達成できたと判定された場合は、実油温toが作動保証温度t0以上であると推定し、ステップ11で故障判定許可設定を行うと共に、ステップ12で指示に応じて電動オイルポンプ8を駆動する。
【0036】
図4は、上記電動オイルポンプ8の起動時制御における油温と作動状態の関係を示す。
かかる制御によれば、油温センサ83の計測誤差を考慮した油温の計測値(計測油温)に基づいて、実油温toが電動オイルポンプ8の作動保証油温t0より低温と判定されて電動オイルポンプ8の作動が保証されない場合は、電動オイルポンプ8の駆動が禁止される。これにより、電動オイルポンプ8へ過大な電力が供給されることによる回路故障等の発生を抑制できる。
【0037】
同じく計測油温Toに基づいて実油温toが作動保証油温t0より高温と判定され、電動オイルポンプ8の作動が保証される場合は、電動オイルポンプ8の通常制御を開始し、油圧を上昇させてクラッチ締結時のショックを軽減させ、また、故障判定を許可することができる。
【0038】
一方、計測油温Toが電動オイルポンプ8の作動が保証されるか否かが不明な温度範囲にある場合は、電動オイルポンプ8を、駆動電流を制限し、制限された所定回転数Noを目標回転数とした制御(試運転)を行い、所定回転数No達成の可否によって、実油温toが作動保証油温t0以上であるか否かを推定することができる。
【0039】
そして、実油温toが作動保証油温t0以上と推定したときは、電動オイルポンプの故障判定を許可すると共に、指示に応じた通常制御(正規運転)を行わせて、再始動時のショックを軽減させることができる。即ち、計測油温Toが第2温度T2以上となるのを待つことなく、速やかに、故障判定許可及び通常制御を開始することができる。このように、電動オイルポンプの作動開始可能温度を低温側に拡張することができる。
【0040】
また、実油温toが作動保証油温t0未満と推定したときは、電動オイルポンプ8の駆動を禁止して過大電力供給による回路故障の発生を抑制できる。ここで、かかる推定前に電動オイルポンプ8は駆動されているが、駆動電流及び目標回転数を制限した試運転であるため、過大電力供給による回路故障の発生を回避できると共に、試運転による消費電力を節減でき、正規運転時でのバッテリ容量不足を抑制できる。
【0041】
さらに、実油温toが作動保証油温t0未満と推定したときは、電動オイルポンプ8の故障判定を確定させないことにより、故障判定の信頼性を確保することができる。
図5及び図6は、第2実施形態のフローチャートを示す。
【0042】
基本的な制御の流れは、第1実施形態と同様であるので、相違する箇所を主として説明する。
ステップ2の判定がYESで、計測油温ToがT1≦To<T2の範囲内にあると判定された場合は、ステップ20で、所定回転数作動OK判定が無かったかを判定する。
【0043】
初回のフローでは、所定回転数作動OK設定が無いので、ステップ3へ進み、所定回転数作動も未確認であるので、ステップ4以降へ進んで、電動オイルポンプ8を駆動電流及び目標回転数を制限して駆動する。
【0044】
そして、ステップ7で、電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達したと判定されたときは、ステップ8で所定回転数作動OK設定とし、次回フローでステップ20の判定がNOとなってステップ11での故障判定許可設定、ステップ12での指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動を行う(第1実施形態と同様である)。
【0045】
一方、ステップ7で、電動オイルポンプ8が所定回転数Noに達しないと判定されたときは、ステップ22で計測油温Toを記憶した後、ステップ9で電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0046】
そして、次回のフローでステップ3の判定がNOとなったときに、ステップ21で、新たな計測油温Toが上記の記憶された計測油温To(記憶油温)より所定値α以上上昇していたかを判定する。
【0047】
計測油温Toが所定値α以上上昇していないと判定されたときは、本フローを抜けるが、計測油温Toが所定値α以上上昇していると判定されたときは、ステップ4以降へ進んで制限された電動オイルポンプ8の駆動を再開し、再度所定回転数No達成の判定を行い、判定結果に応じてステップ8で所定回転数作動OK設定、または、ステップ22でその時点の計測油温Toを更新記憶する。
【0048】
即ち、計測油温Toが所定値α以上上昇したときは、制限された電動オイルポンプ8を再度駆動し、所定回転数Noに達成した後、ステップ20の判定がNOとなってステップ11,12に進み、故障判定を許可し、指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動に切り換える。
【0049】
なお、上記電動オイルポンプ8の再駆動の判断を、単位時間当たりの計測油温Toの上昇率によって判定する構成とし、上昇率が低いときは、実油温toが短時間で作動保証温度t0以上に上昇する可能性が低いので、電動オイルポンプ8の停止を維持するようにしてもよい。
【0050】
本第2実施形態では、試運転開始時点では、作動保証油温t0に達していないと推定されるときでも、短時間で作動保証油温t0に達する可能性がある場合は試運転を継続し、作動保証油温t0に達したと推定された時点から故障判定を許可でき、通常の指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動(正規運転)を開始させることができるため、電動オイルポンプ8によるクラッチ締結ショック軽減機能を、より高頻度で活用することができる。
【0051】
図7及び図8は、第3実施形態のフローチャートを示す。本実施形態は、第2実施形態に、電動オイルポンプ8の試運転を行いつつ第1油温T1を作動保証油温として学習する機能を追加したものである。したがって、第2実施形態に追加された部分を主に説明する。
【0052】
ステップ31では、後述する油温学習の学習値を有しているか(学習されたか)を判定する。
学習値を有していると判定したときは、ステップ32で第1温度T1として学習値を設定する。
【0053】
一方、学習値を有していないと判定されたときは、ステップ33で第1油温T1を初期値T10に設定する。
次いで、第2実施形態と同様のステップを経て、電動オイルポンプ8を制限して駆動し、ステップ7の判定で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、ステップ33で該所定回転数No作動の達成が、作動確認の2回目以降でなされたか、を判定する。
【0054】
2回目以降で所定回転数No作動が達成されたと判定されたとき、つまり、少なくとも1回は所定回転数Noに達せず、その後の油温上昇によって所定回転数No作動が達成されたときは、このときの計測油温Toが電動オイルポンプ8の作動を保証する下限温度、つまり、作動保証温度に近い油温に達したと推定される。そこで、ステップ34で、現在の計測油温Toを学習値として記憶する。なお、ノイズ現象や、油温センサ83や電動オイルポンプ8性能の経時劣化等を考慮して、学習値を加重平均やフィルタ処理によって算出することが精度上好ましい。
【0055】
このように学習値が設定された後は、ステップ32で第1油温T1として学習値が用いられることとなる。
本第3実施形態では、上記のように第1油温T1を学習することにより、実油温toが低温で電動オイルポンプ8の作動が保証されない状態での試運転を短縮でき、学習後は、実質的に無くすことも可能となるので、消費電力を節減できる。
【0056】
また、ステップ33での第1油温T1の初期値T10は、第1、第2実施形態同様に油温センサ83の正側のばらつきを考慮して設定してよいが、学習を行う本実施形態の場合は、電動オイルポンプ8が損傷せず作動する、より低い下限温度に設定してもよい。
【0057】
例えば、電動オイルポンプ8の性能が高い場合、油温センサ83のばらつきを考慮して設定された第1温度より低めの油温で作動が保証される可能性もある。このような場合でも、第1油温の初期値は電動オイルポンプ8が損傷しない範囲でできるだけ低温に設定しておけば、学習によって、より低い作動保証温度t0を見つけ出すことができ、電動オイルポンプ8によるクラッチ締結ショック軽減機能を、さらに高頻度で活用することができる。
【0058】
図9及び図10は、第4実施形態のフローチャートを示す。本実施形態は、第3実施形態同様、第1油温T1を作動保証油温として学習するが、さらに、第1油温T1を徐々に下げて学習する機能を追加したものである。したがって、第3実施形態に追加された部分を主に説明する。
【0059】
ステップ31で、油温学習の学習値を有していると判定されたときに、ステップ32’へ進んで、第1温度T1として学習値から所定値αを減算した値を設定する。ここで、所定値αを減算する理由は、後述する。
【0060】
次いで、第3実施形態と同様のステップを経て、電動オイルポンプ8を制限して駆動し、ステップ7の判定で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、ステップ8で所定回転数作動OK設定をした後、ステップ34で、学習の有無を判定する。学習値を有していないと判定されたときは、ステップ35で計測油温Toがステップ33で設定された第1温度T1の初期値T10以下であるかを判定する。
【0061】
そして、計測油温Toが初期値T10より大と判定された場合は、ステップ36で前記所定回転数No作動の達成が、作動確認の2回目以降でなされたか、を判定する。
2回目以降で所定回転数No作動が達成されたと判定されたときは、第3実施形態で説明したように、このときの計測油温Toが作動保証温度t0に達したと推定されるので、ステップ34で、現在の計測油温Toを学習値として記憶する。
【0062】
一方、ステップ33で第1温度T1の初期値T10以下と判定された場合は、初回のフローで計測油温Toが初期値T10で所定回転数No作動が達成され、この場合は、該初期値T10より低い油温でも電動オイルポンプ8の作動が保証される可能性を有する。そこで、ステップ37で現在の計測油温To(=T10)を学習値として記憶し、次回フローのステップ32’で第1温度T1(学習値)を減少させて再度試運転を行わせ、試運転に成功したときに、より低温な作動保証温度t0に更新する学習が行われるようにする。
【0063】
また、ステップ31で第1温度T1の学習値を有していると判定されたときも、その学習値は、前回作動までに確認された作動保証温度t0であり、今回のステップ32'で前回のより減少した学習値で試運転に成功しているので、ステップ34にて、今回の計測油温Toを前回より低温側に学習された作動保証温度t0として記憶更新する。
【0064】
本第4実施形態では、上記のようにして、試運転が成功する限り、第1温度T1を漸減させつつより低温側の作動保証温度t0を学習し、試運転が成功しなくなるまで、作動保証温度t0を引き下げることができ、電動オイルポンプを作動できる温度範囲を低温側に可及的に拡張することができる。
【0065】
なお、本実施形態でも、第1油温T1の初期値T10は、第1、第2実施形態同様に油温センサ83の正側のばらつきを考慮して設定してよいが、これより低温側に設定してもよい。学習によって見つけられる最低の作動保証温度t0を予測できれば、その予測値付近に初期値T1Oを設定することにより、該最低の作動保証温度t0を、より短い学習時間で獲得することができる。
【0066】
次に、上記第1〜第4実施形態における制御を、電動オイルポンプ8の制御回路(図2のフィードバック制御器52及び駆動回路82)と、外部コントローラ(図2の目標値演算部51)との間で相互通信を行って実施する第5実施形態について説明する。
【0067】
電動オイルポンプ8の制御回路では、外部コントローラから入力した駆動指示に応じて作動する。
駆動指示通りに作動できない場合は、電動オイルポンプ8の駆動を停止させ、作動不能を外部コントローラへ送信する。
【0068】
外部コントローラは、油温センサ83からの計測油温To信号及びその他の車両情報を入力し、これらの情報に基づいて、電動オイルポンプ8の駆動指示信号を生成し、電動オイルポンプ8へ送信する。
【0069】
電動オイルポンプ8の制御回路(フィードバック制御器52)から、駆動指示どおりに作動しないとの信号を受けた場合は、その時の車両状態に応じて外部コントローラ側で電動オイルポンプ8の故障を判断する。
【0070】
図11は、第5実施形態の電動オイルポンプ8の制御回路(フィードバック制御器52)の制御フローを示す。
ステップ41では、電動オイルポンプ8の駆動指示(試運転の指示を含む)の有無を判定し、指示がない場合は、ステップ45で電動オイルポンプ8の駆動を停止する。
【0071】
駆動指示があると判定されたときは、ステップ42で電動オイルポンプ8を、駆動電流を駆動指示に応じて制限しつつ制御する(試運転の制御は、通常制御時より制限が強い)。
【0072】
駆動指示は、例えばポンプ(モータ)回転数[試運転時は所定回転数No、試運転完了後の通常制御(正規運転)時は車両状態に応じて設定された目標回転数]になるので、以下のようないずれかの方式で電流を制御する。
【0073】
a.指示されたポンプ回転数に比例して電流値を設定する(試運転を含む)。
b.正規運転時に指示されたポンプ回転数が設定回転数No1(>No)以上のときと、設定回転数No1未満のときとで、高低2段で電流値を切換えて設定する。
c.試運転時の所定回転数Noのときに電流値を制限し、所定回転数Noより高い回転数が指示された場合は、電流値の制限を無しとする。
d.試運転、正規運転に関わらず、常に所定電流値に制限する。
【0074】
ステップ43では、電動オイルポンプ8が指示通りに作動可能であるかを判定する。
指示通りに作動可能であった場合は、ステップ44で、電動オイルポンプ8の駆動を継続する。
【0075】
電動オイルポンプ8が指示通りに作動可能でない(試運転での所定回転数を含めて目標回転数に達しない)場合は、ステップ46で、電動オイルポンプ8の駆動を停止し、ステップ47で該作動状態(作動不可)を外部コントローラへ送信する。
【0076】
図12は、第5実施形態の外部コントローラ側の制御フローを示す。
ステップ51では、計測油温Toを含む車両情報を読み込む。
ステップ52では、電動オイルポンプ8の駆動が必要かを判定する。
【0077】
駆動が必要でないと判定された場合は、ステップ60で電動オイルポンプ8の駆動停止を指示する。これにより、電動オイルポンプ8の駆動回路でステップ41の判定がNOとなって駆動停止される。
【0078】
駆動が必要と判定された場合は、ステップ53で電動オイルポンプ8の駆動回路に駆動指示を出力する。例えば、試運転時は所定回転数、試運転完了後の通常制御時は車両状態に応じて設定された目標回転数とするフィードバック制御の駆動を指示する。
【0079】
ステップ54では、駆動回路側から入力した電動オイルポンプ8の作動状態を読み込む。
ステップ55では、指示通りの作動が不可であるか(電動オイルポンプ8の駆動回路側からステップ47での作動不良状態を入力したか)を判定する。
【0080】
指示通りの作動が不可と判定されていない場合は、現状を維持するが、指示通りの作動が不可と判定された場合は、ステップ56で車両情報を読み込む。
ステップ57では、車両情報に基づいて、電動オイルポンプ8の故障を確定できる状態であるか否かを判定する。例えば、油温が作動保証油温t0以上であって、その他にバッテリ電圧が所定値以上であり、油温センサ83その他の駆動回路が正常と診断済みであることなど、電動オイルポンプ8の作動が正常であれば駆動指示通りに作動できる状態であって、駆動指示通りに作動できないのは電動オイルポンプ8の故障と確定される状態であると判定する。
【0081】
このように、故障と確定される状態であると判定した場合は、ステップ58で電動オイルポンプ8が故障していると確定した後、ステップ59へ進んで、電動オイルポンプ8の駆動停止処理(既に停止している場合は停止を維持)を行う。
【0082】
一方、試運転が完了していない状態(所定回転数への到達を確認していない状態)では故障を確定できないので、故障を確定することなく、ステップ59へ進んで電動オイルポンプ8の駆動停止処理を行う。
【0083】
ここで、電動オイルポンプ8の駆動回路で、油温センサ83からの信号を入力して油温に応じた故障判定を行う構成とすると、マイコンの負荷が増大すると共に、油温センサ83から駆動回路までのハーネスを追加する必要があるなどコストアップとなる。
【0084】
これに対し、外部コントローラは、元々、駆動指示信号生成のために油温情報を入力しているため、本実施形態のように、油温に応じた故障判定も行わせる方が、駆動回路のマイコン負荷を軽減でき、ハーネスの追加も不要となってコスト的にも有利である。
【0085】
図13は、上記第1〜第4実施形態の制御において、ステップ12での指示に応じた電動オイルポンプ8の駆動の許可判定のフローを示す第5実施形態のフローチャートである。
【0086】
ステップ61では、計測油温Toが、第1温度T1以上であるかを判定し、第1油温T1未満と判定されたときは、電動オイルポンプ8の作動が保証されないので、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。なお、第1油温T1は、第1,第2実施形態では、油温センサ83のばらつきを考慮して設定された油温であり、第3実施形態では、学習値、または、学習前の電動オイルポンプ8の機能保証下限温度、,第4実施形態では、学習値−α、または、ばらつきを考慮して設定された油温より低めに設定された温度である。
【0087】
計測油温Toが第1油温T1以上と判定された場合は、ステップ62で計測油温Toが第2油温T2未満であるかを判定する。
計測油温Toが第2油温T2以上と判定されたときは、電動オイルポンプ8の作動を保証する油温であるため、ステップ65へ進み、その他の作動許可条件(バッテリ電圧や他の駆動回路の故障診断結果が正常であることなど)が成立しているかを判定する。
【0088】
そして、ステップ65でその他の作動許可条件も成立していると判定されたときは、ステップ66で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を許可する。その他の作動許可条件が非成立の場合は、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。
【0089】
また、ステップ62で計測油温Toが第2油温T2未満と判定されたときは、ステップ63で、所定回転数作動がNG(試運転で所定回転数に到達しなかった)であるかを判定する。
【0090】
そして、所定回転数作動がNGと判定された場合は、ステップ64で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止し、所定回転数作動がOKと判定された場合は、ステップ65へ進み、その他の作動許可条件成立時は、ステップ66で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を許可し、非成立時は、ステップ67で電動オイルポンプ8への駆動指示の出力を禁止する。
【0091】
このようにすれば、電動オイルポンプ8が指示通り正常に作動することの信頼性が高いときに駆動指示出力が許可されるので電動オイルポンプ8の消費電力の浪費を節減できる。
【0092】
一方、正常作動の信頼性が低いときには駆動指示出力が禁止されるので、過剰電流供給による電動オイルポンプ8の耐久性劣化を抑制することができる。
以上の実施形態は、アイドルストップ車の変速機油圧生成用の電動オイルポンプの制御装置に適用したものを示したが、ハイブリッド車の走行用電動モータもしくはインバータの冷却用等に用いられる電動オイルポンプの制御装置にも同様にして適用することができ、同様の効果を得られる。
【符号の説明】
【0093】
1…エンジン、8…電動オイルポンプ、20…変速機構、51…目標値演算部、52…フィードバック制御器、81…モータ、82…駆動回路、83…油温センサ、5…CVTコントロールユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、
オイル温度を計測する手段と、
計測されたオイル温度が、計測誤差を考慮したとき電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲にあるときに、前記電動オイルポンプを故障判定の非確定状態で、試運転する手段と、
前記試運転された電動オイルポンプの駆動状態に基づいて、前記電動オイルポンプの正規運転の許否を判定する手段と、
を含んで構成したことを特徴とする電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、
オイル温度を計測するオイル温度計測手段と、
駆動電源ON後に計測したオイル温度が第2温度以上のとき、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動する手段と、
前記計測したオイル温度が前記第2温度より低い第1温度未満のとき、前記電動オイルポンプの駆動を非許可とする手段と、
前記計測したオイル温度が前記第1温度以上で前記第2温度未満のとき、電動オイルポンプの故障判定を非確定状態でポンプ作動要求の有無に関らず前記電動オイルポンプを、駆動電流を制限しつつ制限された所定回転数を目標値として強制的に駆動する手段と、
前記強制的な駆動によって前記所定回転数に到達できない場合は、前記電動オイルポンプの駆動を停止し、
前記所定回転数に到達できた場合は、前記電動オイルポンプ本体の故障判定を有効とし、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動させる手段と、
を含んで構成したことを特徴とする電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記所定回転数に到達できず、前記電動オイルポンプの駆動を停止した場合に、前記計測したオイル温度が前記第1温度より所定温度高い温度(但し、前記第2温度より低温)に上昇したときに、再度前記電動オイルポンプを、駆動量を制限しつつ前記所定回転数を目標値として強制的に駆動して、前記所定回転数に到達するか否かの判断を行うことを特徴とする請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項4】
前記所定回転数に到達できず、前記電動オイルポンプの駆動を停止した場合には、前記計測したオイル温度が前記第2温度に達したときに前記電動オイルポンプ本体の故障判定を有効とし、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動させることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項5】
前記電動オイルポンプを、駆動量を制限しつつ前記所定回転数を目標値として強制的に駆動して、前記所定回転数に到達したときは、その時計測したオイル温度を基に、電動オイルポンプの起動方法を制御することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項6】
前記電動オイルポンプの駆動指示を外部コントローラで行い、前記電動ポンプは前記駆動指示に従って動作する構成であって、
前記電動オイルポンプは、駆動指示通りに作動可能か否かの判定手段と、
作動可能と判定された場合は、そのまま駆動指示通りに作動すると共に、作動不能と判定されたときは、故障判断を行うことなく電動オイルポンプの作動を停止させ、かつ、前記外部コントローラに作動不能の判断を伝達する手段と、を有し、
外部コントローラで少なくともオイル温度情報等を基に電動オイルポンプの故障を判断する構成としたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項1】
車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、
オイル温度を計測する手段と、
計測されたオイル温度が、計測誤差を考慮したとき電動オイルポンプが正常動作するか否かが不明な温度範囲にあるときに、前記電動オイルポンプを故障判定の非確定状態で、試運転する手段と、
前記試運転された電動オイルポンプの駆動状態に基づいて、前記電動オイルポンプの正規運転の許否を判定する手段と、
を含んで構成したことを特徴とする電動オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
車両駆動系にオイルを供給する電動オイルポンプの制御装置であって、
オイル温度を計測するオイル温度計測手段と、
駆動電源ON後に計測したオイル温度が第2温度以上のとき、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動する手段と、
前記計測したオイル温度が前記第2温度より低い第1温度未満のとき、前記電動オイルポンプの駆動を非許可とする手段と、
前記計測したオイル温度が前記第1温度以上で前記第2温度未満のとき、電動オイルポンプの故障判定を非確定状態でポンプ作動要求の有無に関らず前記電動オイルポンプを、駆動電流を制限しつつ制限された所定回転数を目標値として強制的に駆動する手段と、
前記強制的な駆動によって前記所定回転数に到達できない場合は、前記電動オイルポンプの駆動を停止し、
前記所定回転数に到達できた場合は、前記電動オイルポンプ本体の故障判定を有効とし、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動させる手段と、
を含んで構成したことを特徴とする電動オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記所定回転数に到達できず、前記電動オイルポンプの駆動を停止した場合に、前記計測したオイル温度が前記第1温度より所定温度高い温度(但し、前記第2温度より低温)に上昇したときに、再度前記電動オイルポンプを、駆動量を制限しつつ前記所定回転数を目標値として強制的に駆動して、前記所定回転数に到達するか否かの判断を行うことを特徴とする請求項2に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項4】
前記所定回転数に到達できず、前記電動オイルポンプの駆動を停止した場合には、前記計測したオイル温度が前記第2温度に達したときに前記電動オイルポンプ本体の故障判定を有効とし、要求に応じて前記電動オイルポンプを駆動させることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項5】
前記電動オイルポンプを、駆動量を制限しつつ前記所定回転数を目標値として強制的に駆動して、前記所定回転数に到達したときは、その時計測したオイル温度を基に、電動オイルポンプの起動方法を制御することを特徴とする請求項2〜請求項4のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
【請求項6】
前記電動オイルポンプの駆動指示を外部コントローラで行い、前記電動ポンプは前記駆動指示に従って動作する構成であって、
前記電動オイルポンプは、駆動指示通りに作動可能か否かの判定手段と、
作動可能と判定された場合は、そのまま駆動指示通りに作動すると共に、作動不能と判定されたときは、故障判断を行うことなく電動オイルポンプの作動を停止させ、かつ、前記外部コントローラに作動不能の判断を伝達する手段と、を有し、
外部コントローラで少なくともオイル温度情報等を基に電動オイルポンプの故障を判断する構成としたことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の電動オイルポンプの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−68267(P2013−68267A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206739(P2011−206739)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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