説明

電動パワーステアリング制御装置

【課題】車載装置からの指令に基づく制御と通常のパワーステアリング制御との両立を安価な手段で実現可能な電動パワーステアリング制御装置を得る。
【解決手段】メインマイコン503とメインマイコン監視回路511とを備える。メインマイコン503は、トルク信号TRQに基づきパワーステアリング指示電流ImtEPSを決定するパワーステアリング制御部503cと、自動駐車制御信号PASigに基づき自動駐車制御電流ImtPAを決定する自動駐車制御部503dと、モータ電流指示値Imt1を切替える切替信号生成処理部503eおよびモータ電流切替部503fと、監視特性を切替える監視回路モード選択部503jおよび監視回路特性切替部503mとを有する。メインマイコン監視回路511は、モータ電流検出信号Imdが制限値を超えた場合に異常状態と判定して制御を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両に搭載される電動パワーステアリング制御装置に関し、特に制御系の監視技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング制御装置は、モータの駆動力を補助力として用いることにより操舵力(操舵トルク)を軽減するものである。この種の電動パワーステアリング制御装置においては、制御装置に異常(故障)が発生して異常な補助力が発生すると、セルフステア状態となるので、車両の運転操作上好ましくない。
【0003】
そこで、従来から、制御系の異常発生時における上記問題を回避するための監視装置を設け、制御装置が異常動作をしても安全性を確保することのできる電動パワーステアリング制御装置が提案されている(たとえば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
特許文献1に記載の技術においては、操舵トルクを検出し、操舵トルクと逆方向のモータ駆動を制限する監視装置を設けることにより走行信頼性を確保している。
また、特許文献2に記載の技術においては、パワーステアリング制御を行う主演算手段と、主演算手段を監視する副演算手段とを設け、主演算手段が異常動作しても、副演算手段がモータ駆動を制限することにより安全性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3364135号公報
【特許文献2】特開2009−132281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電動パワーステアリング制御装置は、特許文献1に記載の技術によれば、走行信頼性の確保は可能であるが、車載LAN経由で入力される情報(自動駐車など)に基づいてステアリング制御を行う場合にも、監視装置によってモータ制御が制限されるので、意図した制御ができなくなる可能性があるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載の技術によれば、上記課題を解決可能ではあるが、モータ電流の制限判定が複雑な演算によって行われるので、副制御装置として高価なもの(たとえば、サブマイコンなど)を用いる必要があり、製品コストが高くなるという課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、他の車載装置からの入力情報に基づくパワーステアリング制御を安価な手段で実現可能な電動パワーステアリング制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る電動パワーステアリング制御装置は、車両のハンドルに加わる操舵トルクを検出するトルクセンサと、ハンドルに対する操舵補助力を発生するモータと、車両の車速を検出する車速センサと、モータを駆動制御する制御ユニットと、を備え、制御ユニットは、モータを駆動制御するための演算処理を行う主制御部と、モータの駆動制御状態を監視する監視部と、モータに電流を供給するモータ駆動部と、モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、を有する電動パワーステアリング制御装置であって、主制御部は、操舵トルクおよび車速に基づいてモータに対する第1の指示電流を決定する第1の指示電流生成部と、他の車載制御装置からの指令信号に応じて第2の指示電流を決定する第2の指示電流生成部と、第1または第2の指示電流を切替選択してモータ電流指示値を生成するモータ電流切替部と、指令信号に応じて、モータ電流指示値を第1の指示電流から第2の指示電流に切替えるための切替信号を生成する切替信号生成処理部と、モータ電流指示値と一致するようにモータ電流を制御するモータ電流制御部と、車速の異常状態を検出して車速異常信号を生成する車速異常検出処理部と、切替信号、車速および車速異常信号に基づいて、監視部のモードを切替えるための監視モード信号を生成する監視モード信号生成部と、を含み、監視部は、操舵トルクの大きさに応じたモータ電流の監視領域を、切替信号の有無に応じて異なる複数の領域に分割する領域区分手段を含み、領域区分手段は、第1の指示電流による制御時においては、複数の領域ごとにモータ電流に対する第1の電流制限値を設定し、第2の指示電流による制御時においては、複数の領域ごとにモータ電流に対する第2の電流制限値を設定し、監視部は、モータ電流が第1または第2の電流制限値を超えた場合に、異常状態を示す出力信号を生成するものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、他の車載装置(自動駐車制御装置など)の指示にしたがったパワーステアリング制御において、正常動作時のモータ電流制御を制限することなく、且つ異常時にはモータ電流制御を制限することにより、走行信頼性を安価に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング制御装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】図1内のEPSECUの制御機能構成を示すブロック図である。
【図3】図2内のメインマイコンの制御機能を示すブロック図である。
【図4】図3内のモータ電流制御部のPI制御機能を示すブロック図である。
【図5】図3内のパワーステアリング制御部による制御特性を示す説明図である。
【図6】図3内の監視回路モード選択部による処理手順を示すフローチャートである。
【図7】図3内の車速異常検出処理部によるCANフェール(車速異常)判定の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図3内のモード選択異常判定部による処理手順を示すフローチャートである。
【図9】図2内のメインマイコン監視回路の制御機能を示すブロック図である。
【図10】パワーステアリング動作中にメインマイコン監視回路内の監視判定ロジック部で用いられる第1の電流制限値を示す特性図である。
【図11】自動駐車制御中にメインマイコン監視回路内の監視判定ロジック部で用いられる第2の電流制限値を示す特性図である。
【図12】この発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング制御装置の正常時における制御特性軌跡を示す説明図である。
【図13】この発明の実施の形態2によるEPSECUの制御機能構成を示すブロック図である。
【図14】図13内のメインマイコン監視回路による制御機能を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1の全体構成を示すブロック図である。
図1において、この発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置は、ステアリングシャフト2に設けられてハンドル1の操舵力(操舵トルク)を検出するトルクセンサ3と、車速を検出する車速センサ4と、電動パワーステアリング制御装置全体を制御する制御ユニット5と、を備えている。以下、制御ユニット5を、EPSECU5(ECU:Electronic Control Unit)と称する。
【0013】
また、この発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング制御装置は、EPSECU5の制御下で補助操舵力を発生するモータ6と、モータ6からの補助力をステアリングシャフト2に伝えるギヤ7と、ステアリングシャフト2からの回転力を車両の前輪9に伝えるためのラック&ピニオン機構8と、EPSECU5に電力を供給するバッテリ10と、他の車載装置11と、車載エンジンの回転を検出するエンジン回転センサ12と、を備えている。以下、他の車載装置11を、自動駐車制御装置を例にとって、PAECU11と称する。
【0014】
PAECU11は、電動パワーステアリング制御装置以外の自動駐車(PA)制御装置などであり、車両状況(たとえば、自動駐車時)に応じて、ステアリング制御が必要な場合にトリガ信号を生成し、指令信号としてEPSECU5に送信する。
【0015】
図2はEPSECU5の内部の制御機能構成を示すブロック図であり、前述(図1参照)と同様のものについては、同一符号を付して詳述を省略する。
図2において、EPSECU5は、トルクセンサ3からの検出信号(操舵トルク)を取り込むインタフェース回路(以下、「I/F回路」という)501と、他の情報を取り込むI/F回路502と、パワーステアリング制御の実行プログラムを有するメインマイコン503と、リレー駆動回路504と、異常時にモータ電流を遮断するリレー505と、モータ6に流れる電流を検出するシャント抵抗506と、電流検出回路507と、AND(論理積)回路508と、FET駆動回路509と、モータ駆動回路510と、メインマイコン監視回路511と、を備えている。
【0016】
I/F回路502は、車速センサ4およびエンジン回転センサ12からの検出信号と、PAECU11からの指令信号とを、CAN(Controller Area Network)バス経由のバス情報CANとして取り込む。
リレー駆動回路504は、メインマイコン503からのリレー制御信号DryMがON信号を示す場合にリレー505をON駆動し、リレー制御信号DryMがOFF信号を示す場合にリレー505をOFFしてモータ電流を遮断させる。
【0017】
電流検出回路507は、シャント抵抗506の両端に発生する電位差(モータ電流)を増幅し、モータ電流検出信号Imdとしてメインマイコン503に入力する。
AND回路508は、メインマイコン監視回路511から出力される制御継続フラグDmtSがモータON(論理レベル「1」、すなわち正常)を示す場合には、メインマイコン503からのモータ電流指令DmtMを通過させ、モータ6を駆動させるための信号としてFET駆動回路509に入力する。
【0018】
一方、メインマイコン監視回路511からの制御継続フラグDmtSがモータOFF(論理レベル「0」、すなわち異常)を示す場合には、AND回路508は、モータ電流指令DmtMを遮断し、FET駆動回路509への入力を禁止する。
【0019】
FET駆動回路509は、AND回路508からの出力信号に基づき、モータ駆動回路510を駆動制御してモータ6を駆動させる。
モータ駆動回路510は、モータ6の電流を制御するために複数トランジスタのブリッジ構成からなる。
【0020】
メインマイコン監視回路511は、I/F回路501からのトルク信号TRQと電流検出回路507からのモータ電流検出信号Imdとを用いて、メインマイコン503の異常を検出し、異常発生時にはモータ電流に制限をかける(モータ6をOFF、リレー505をOFFする)。
【0021】
図3はメインマイコン503の制御機能を示すブロック図である。
図3において、メインマイコン503は、トルク入力処理部503aと、CAN通信処理部503bと、パワーステアリング制御部503c(第1の指示電流生成部)と、自動駐車制御部503d(第2の指示電流生成部)と、切替信号生成処理部503e(切替信号生成処理部)と、モータ電流切替部503fと、モータ電流制御部503gと、モータ電流入力処理部503hと、車速異常検出処理部503iと、監視回路モード選択部503j(監視モード信号生成部)と、モード選択異常判定部503k(監視モード信号異常判定部)と、監視回路特性切替部503mと、を備えている。
【0022】
トルク入力処理部503aは、I/F回路501からのトルク信号TRQをA/D変換し、右トルク信号をプラス値、左トルク信号をマイナス値としてトルク信号TRQ1を生成する。
CAN通信処理部503bは、CANバスからのバス情報CANを取り込み、車速情報Vsp1と自動駐車制御信号PASigとを生成する。
【0023】
パワーステアリング制御部503cは、EPS指示電流決定部として機能し、トルク信号TRQ1および車速情報Vsp1に基づき、パワーステアリング指示電流ImtEPSを決定する。
自動駐車制御部503dは、自動駐車制御信号PASigに基づき、自動駐車制御電流ImtPAを生成する。
【0024】
切替信号生成処理部503eは、自動駐車制御信号PASigに基づき、自動駐車状態信号F_PAを生成する。
すなわち、切替信号生成処理部503eは、自動駐車制御信号PASigが自動駐車制御ONを示す場合には、F_PA=1とし、自動駐車制御OFFを示す場合には、F_PA=0とする。
【0025】
モータ電流切替部503fは、自動駐車状態信号F_PAの値に応じて、モータ6に通電する目標電流となるモータ電流指示値Imt1を切替選択してモータ電流制御部503gに入力する。
すなわち、モータ電流切替部503fは、自動駐車制御OFF(F_PA=0)の場合には、パワーステアリング指示電流ImtEPSを選択してモータ電流指示値Imt1とし、自動駐車制御ON(F_PA=1)の場合には、自動駐車制御電流ImtPAを選択してモータ電流指示値Imt1とし、モータ6に通電する目標電流として出力する。
【0026】
モータ電流入力処理部503hは、電流検出回路507からのモータ電流検出信号ImdをA/D変換し、右方向の電流をプラス値、左方向の電流をマイナス値としてモータ電流検出信号Imd1を生成する。
【0027】
モータ電流制御部503gは、モータ電流指示値Imt1とモータ電流検出信号Imd1とを比較し、モータ電流検出信号Imd1がモータ電流指示値Imt1と一致するようにフィードバック制御を行い、フィードバック制御後のモータ電流指令DmtMをAND回路508に入力する。
【0028】
図4はモータ電流制御部503gのPI制御機能を示すブロック図である。
図4において、モータ電流制御部503gは、一般的なPI制御器からなり、モータ電流検出信号Imd1とモータ電流指示値Imt1との電流偏差ΔImを求める減算器51と、電流偏差ΔImに基づき比例演算制御を行う比例項52と、電流偏差ΔImに基づき積分演算制御を行う積分項53と、比例項52および積分項53の各演算出力値を加算してモータ電流指令DmtMを生成する加算器54と、を備えている。
【0029】
図3内の車速異常検出処理部503iは、EPSECU5の外部の車速センサ4から受信した車速情報Vsp1の異常を検出し、異常の有無に応じた車速異常フラグF_VspNGを生成する。
すなわち、車速異常検出処理部503iは、車速情報Vsp1が正常の場合には、F_VspNG=0とし、車速情報Vsp1が異常の場合には、F_VspNG=1とする。
【0030】
監視回路モード選択部503jは、切替信号生成処理部503eからの自動駐車状態信号F_PAと、CAN通信処理部503bからの車速情報Vsp1と、車速異常検出処理部503iからの車速異常フラグF_VspNGとに基づき、監視回路モード選択フラグILMODEを生成し、監視回路特性切替部503mを介してメインマイコン監視回路511の電流閾値を切替える。
【0031】
モード選択異常判定部503kは、車速情報Vsp1および監視回路モード選択フラグILMODEに基づき、監視回路モード選択部503jの異常判定を行い、異常の有無に応じたモード選択異常判定フラグF_CtrlILNGを生成する。
すなわち、モード選択異常判定部503kは、監視回路モード選択部503jが正常の場合には、F_CtrlILNG=0とし、監視回路モード選択部503jが異常の場合には、F_CtrlILNG=1とする。
【0032】
監視回路特性切替部503mは、モード選択異常判定フラグF_CtrlILNGの値に応じて、メインマイコン監視回路511に対する監視特性設定信号ILCTRLを切替選択して出力する。
言い換えれば、監視回路特性切替部503mは、監視回路モード選択フラグILMODEの異常の有無に応じてメインマイコン監視回路511の特性を切替える。
【0033】
すなわち、F_CtrlILNG=0(ILMODEが正常)の場合には、監視回路特性切替部503mは、図3に示す位置に切替選択し、監視回路モード選択フラグILMODEを監視特性設定信号ILCTRLとして、メインマイコン監視回路511に入力する。
一方、F_CtrlILNG=1(ILMODEが異常)の場合には、監視回路特性切替部503mは、図3に示す位置から下側に切替えて、ILCTRL=0とし、メインマイコン監視回路511に入力する。
【0034】
次に、図5を参照しながら、パワーステアリング制御部503cによる具体的な制御動作について説明する。
図5はパワーステアリング制御部503cによる制御特性を示す説明図である。
パワーステアリング制御部503cは、図5の特性にしたがい、運転者がハンドル1を右(+)方向に操舵した場合には、トルク信号TRQ1の大小に応じた右(+)方向のモータ電流指示値Imt1を生成する。
【0035】
同様に、パワーステアリング制御部503cは、図5の特性にしたがい、運転者がハンドル1を左(−)方向に操舵した場合には、左(−)方向のモータ電流指示値Imt1を生成する。
このとき、図5に示すように、車速情報Vsp1(0km/h、10km/h、・・・)に応じて、モータ電流指示値Imt1が可変設定されるので、車速情報Vsp1に応じた最適なパワーステアリング制御を行うことができる。
【0036】
一方、自動駐車制御部503dおよび切替信号生成処理部503eは、バス情報CANから得られるモータ制御量データに基づいてモータ電流を決定する。
たとえば、自動駐車制御を行わない場合には、CAN通信処理部503bからの自動駐車制御信号PASigはOFFを示すので、自動駐車制御部503dは、ImtPA=0[A]を生成し、切替信号生成処理部503eは、F_PA=0を生成する。
【0037】
また、PAECU(自動駐車制御装置)11が右操舵方向に30[A]の通電を要求する場合には、右30[A]の指示電流が送られてくるので、自動駐車制御部503dは、ImtPA=+30Aを生成し、切替信号生成処理部503eは、F_PA=1を生成する。
【0038】
同様に、PAECU(自動駐車制御装置)11が左操舵方向に40[A]の通電を要求する場合には、左40[A]の指示が送られてくるので、自動駐車制御部503dは、ImtPA=−40Aを生成し、切替信号生成処理部503eは、F_PA=1を生成する。
【0039】
次に、図6のフローチャートを参照しながら、監視回路モード選択部503jによる処理手順について説明する。
図6において、監視回路モード選択部503jは、まず、切替信号生成処理部503eからの自動駐車状態信号F_PAをチェックし、F_PA=1(自動駐車中)であるか否かを判定する(ステップS101)。
【0040】
ステップS101において、F_PA=0(すなわち、No)と判定されれば、パワーステアリング制御中(モータ電流切替部503fがパワーステアリング指示電流ImtEPSを選択中)なので、監視回路モード選択部503jは、監視回路モード選択フラグILMODE=0として、パワーステアリング用の特性を選択するように指示し(ステップS105)、図6の処理ルーチンを終了する。
【0041】
一方、ステップS101において、F_PA=1(すなわち、Yes)と判定されれば、自動駐車中(モータ電流切替部503fが自動駐車制御電流ImtPAを選択中)であるが、続いて、監視回路モード選択部503jは、車速異常検出処理部503iからの車速異常フラグF_VspNGを参照し、F_VspNG=0(車速情報Vsp1が正常)であるか否かを判定する(ステップS102)。
【0042】
ステップS102において、F_VspNG=1(すなわち、No)と判定されれば、車速情報Vsp1が異常状態なので、前述のステップS105に移行して、パワーステアリング用の特性を選択するように指示し、図6の処理ルーチンを終了する。
【0043】
一方、ステップS102において、F_VspNG=0(すなわち、Yes)と判定されれば、車速情報Vsp1が正常状態であるが、続いて、監視回路モード選択部503jは、車速情報Vsp1が低車速を示す所定値(たとえば、10km/h)以下であるか否かを判定する(ステップS103)。
【0044】
ステップS103において、車速情報Vsp1>所定値(すなわち、No)と判定されれば、低車速状態ではないので、前述のステップS105に移行して、パワーステアリング用の特性を選択するように指示し、図6の処理ルーチンを終了する。
【0045】
一方、ステップS103において、車速情報Vsp1≦所定値(すなわち、Yes)と判定されれば、実際に自動駐車が行われるものと見なし、監視回路モード選択部503jは、監視回路モード選択フラグILMODE=1として、自動駐車制御用の特性を選択するように指示し(ステップS104)、図6の処理ルーチンを終了する。
これにより、メインマイコン監視回路511は、監視回路特性切替部503mを介した監視特性設定信号ILCTRLに応答して、自動駐車制御用特性を選択する。
【0046】
次に、図7のフローチャートを参照しながら、車速異常検出処理部503iによる車速情報Vsp1のフェール判定処理手順について説明する。
図7においては、一例として、車速情報Vsp1を含むCANIDのメッセージチェックにより車速異常を判定する場合を示している。
【0047】
図7において、まず、車速異常検出処理部503iは、車速情報Vsp1を含むCANIDを受信したか否かを判定し(ステップS201)、CANIDを一定時間以上継続して取得できなかった(すなわち、No)と判定された場合に、車速異常状態と見なし、車速異常を示す判定結果として、車速異常フラグF_VspNG=1を生成し(ステップS204)、図7の処理ルーチンを終了する。
【0048】
一方、ステップS201において、CANIDを受信した(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、車速異常検出処理部503iは、CANIDに含まれるチェックサム値や、1パケットごとに更新されるカウンタのモニタなどのメッセージチェックにより、CANIDの受信データが正常であるか否かを判定する(ステップS202)。
【0049】
ステップS202において、CANIDの受信データが異常(すなわち、No)と判定されれば、前述のステップS204に移行して、車速異常フラグF_VspNG=1を生成し、図7の処理ルーチンを終了する。
【0050】
一方、ステップS202において、CANIDの受信データが正常(すなわち、Yes)と判定されれば、車速正常を示す判定結果として、車速異常フラグF_VspNG=0を生成し(ステップS203)、図7の処理ルーチンを終了する。
なお、ここでは、通信手段のみを用いて車速異常を判定したが、受信データの内容(たとえば、前回値との比較結果など)を用いて車速異常を判定してもよい。
【0051】
次に、図8のフローチャートを参照しながら、モード選択異常判定部503kによる処理手順について説明する。
図8において、まず、モード選択異常判定部503kは、車速情報Vsp1が前述の所定値(たとえば、10km/h)を超えているか否かを判定し(ステップS301)、車速情報Vsp1≦所定値(すなわち、No)と判定されれば、異常判定処理を実行することなく、図8の処理ルーチンを終了する。
【0052】
一方、ステップS301において、車速情報Vsp1>所定値(すなわち、Yes)と判定されれば、続いて、モード選択異常判定部503kは、監視回路モード選択フラグILMODEを参照し、監視回路モード選択部503jがパワーステアリング用の特性を選択指示中(ILMODE=0)であるか否かを判定する(ステップS302)。
【0053】
ステップS302において、ILMODE=0(すなわち、Yes)と判定されれば、監視回路モード選択部503jがパワーステアリング用の特性を指示しているので、モード選択異常判定部503kは、モード選択が正常状態と見なして、モード選択異常判定フラグF_CtrlILNG=0を生成し(ステップS303)、図8の処理ルーチンを終了する。
【0054】
一方、ステップS302において、ILMODE=1(すなわち、No)と判定されれば、監視回路モード選択部503jが自動駐車制御用の特性を指示しているので、モード選択異常判定部503kは、モード選択が異常状態と見なして、モード選択異常判定フラグF_CtrlILNG=1を生成し(ステップS304)、図8の処理ルーチンを終了する。
【0055】
次に、図9を参照しながら、メインマイコン監視回路511(監視部)の動作について説明する。
図9はメインマイコン監視回路511の制御機能を示すブロック図である。
図9において、メインマイコン監視回路511は、監視判定ロジック部511aと、継続時間判定タイマ511bとを備えている。
【0056】
監視判定ロジック部511aは、メインマイコン503内の監視回路特性切替部503mからの監視特性設定信号ILCTRLと、I/F回路501からのトルク信号TRQと、電流検出回路507からのモータ電流検出信号Imdとを入力情報として、監視判定条件の成立有無を判定し、監視判定条件が成立した場合に、条件成立フラグILSig=1を生成し、監視判定条件が非成立の場合に、条件成立フラグILSig=0を生成する。
【0057】
継続時間判定タイマ511bは、条件成立フラグILSigを入力情報として、ILSig=1の状態が所定時間(たとえば、50ms)にわたって継続した場合に、制御継続フラグDmtS=0(異常状態)を生成し、それ以外の場合には、制御継続フラグDmtS=1(正常状態)を生成する。
【0058】
次に、図10および図11を参照しながら、メインマイコン監視回路511内の監視判定ロジック部511aによる判定機能について説明する。
図10はパワーステアリング動作中に監視判定ロジック部511aで用いられる第1の電流制限値を示す特性図であり、図11は自動駐車制御中に監視判定ロジック部511aで用いられる第2の電流制限値を示す特性図である。
【0059】
図10において、トルクがほぼ0の領域での電流値Ia1、−Ia1は、パワーステアリング動作中(走行状態)でのモータ電流の許容上限値(第1の電流制限値)である。
同様に、図11において、トルクがほぼ0の領域での電流値Ia2、−Ia2は、自動駐車制御中に必要な電流の許容上限値(第2の電流制限値、たとえば50A)である。
【0060】
監視判定ロジック部511aは、あらかじめ設定格納された図10および図11に示す特性を参照し、トルク(トルク信号TRQ)とモータ電流(モータ電流検出信号Imd)との関係が第1および第2の領域21、22(斜線領域)内にある場合には、条件成立フラグILSig=1を生成し、第3の領域23(斜線領域の外)にある場合には、条件成立フラグILSig=0を生成する。
【0061】
さらに、監視判定ロジック部511aは、監視特性設定信号ILCTRLに基づき、監視特性設定信号ILCTRL=0の場合には、図10の特性(第1の電流制限値)を用いて監視判定を行い、監視特性設定信号ILCTRL=1の場合には、図11の特性(第2の電流制限値)を用いて監視判定を行う。
【0062】
この発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング制御装置は、上述のように構成されているので、以下のように動作する。
まず、パワーステアリング動作を行う場合について説明する。
図1〜図3において、ハンドル1が操舵されると、トルクセンサ3と、EPSECU5内のI/F回路501と、メインマイコン503内のトルク入力処理部503aとを介して、トルク信号TRQ1が生成される。
【0063】
続いて、メインマイコン503内のパワーステアリング制御部503cは、トルク信号TRQ1に基づき、EPS目標電流となるパワーステアリング指示電流ImtEPSを決定する。
具体的には、パワーステアリング制御部503cは、図5のように、制御時の車速情報Vsp1とトルク信号TRQ1とにしたがってパワーステアリング指示電流ImtEPSを決定する。
【0064】
続いて、モータ電流切替部503fは、最終指示電流となるモータ電流指示値Imt1を決定し、モータ電流制御部503gに入力する。
たとえば、自動駐車制御がOFFの場合には、切替信号生成処理部503eからの自動駐車状態信号F_PAが、F_PA=0となるので、モータ電流切替部503fを介したモータ電流指示値Imt1は、Imt1=ImtEPSとなり、モータ電流制御部503gは、パワーステアリング指示電流ImtEPS(EPS目標電流)をモータ6への通電指令値とする。
【0065】
このとき、図5に示すように、右(+)方向に操舵した場合には、右方向で指示電流(モータ電流指示値Imt1)が流れるので、モータ6に右方向のトルク(トルク信号TRQ1)が発生する。発生したトルクは、ギヤ7を介してステアリングシャフト2に伝達され、補助力として作用する。
なお、左(−)方向への操舵の場合には、上記の逆方向になるものの、基本的に同様のアシスト動作となる。
【0066】
次に、自動駐車制御が動作している場合について説明する。
図1〜図3において、PAECU11からCANバス経由で送られてきた指令信号は、I/F回路502と、メインマイコン503内のCAN通信処理部503bとを介して、自動駐車制御信号PASigとしてメインマイコン503内の自動駐車制御部503dおよび切替信号生成処理部503eに取り込まれる。
【0067】
自動駐車制御部503dは、自動駐車制御信号PASigに基づき自動駐車制御電流ImtPA(自動駐車制御用の目標電流)を決定し、切替信号生成処理部503eは、自動駐車制御信号PASigに基づき、自動駐車状態信号F_PA=1を出力する。
モータ電流切替部503fは、自動駐車状態信号F_PA=1に応答して、図3に示した切替状態を選択し、モータ電流指示値Imt1を、Imt1=ImtPAとする。
これにより、モータ電流制御部503gは、モータ電流指示値Imt1=ImtPAをモータ6への通電指令値とする。
【0068】
図12はこの発明の実施の形態1に係る電動パワーステアリング制御装置の正常時における制御特性軌跡を示す説明図であり、パワーステアリングとして動作する場合(Imt1=ImtEPS)の軌跡31と、自動駐車として動作する場合(Imt1=ImtPA)の軌跡32とを重ねて示している。
【0069】
図12において、パワーステアリング動作中においては、トルク信号TRQ1(および車速情報Vsp1)に応じて指示電流(Imt1=ImtEPS)が増加するので、軌跡31を描く。
一方、自動駐車動作中においては、ハンドル1が手放し状態なので、トルク信号TRQ1がほぼゼロとなり、指示電流(Imt1=ImtPA)の特性は、軌跡32を描く。
【0070】
メインマイコン503がパワーステアリングとして動作する場合には、上述の通り、監視回路モード選択部503jは、監視回路モード選択フラグILMODE=0として、監視特性設定信号ILCTRL=0とする。
【0071】
これにより、メインマイコン監視回路511は、図10の特性(第1の電流制限値)を適用してメインマイコン503を監視する。
図10の特性においては、図12内のパワーステアリング動作中の軌跡31に適合した異常判定領域(斜線領域)が設定されている。
【0072】
すなわち、メインマイコン503は図12内の軌跡31で動作するが、正常状態の軌跡31は、図10内の第3の領域23(正常判定領域)に位置することから、メインマイコン監視回路511は、メインマイコン503が正常状態であると判定する。
したがって、メインマイコン監視回路511がモータ電流を制限することはないので、意図通りのパワーステアリング制御が可能となる。
【0073】
一方、自動駐車制御中においては、パワーステアリング動作中の軌跡31とは異なり、軌跡32で示すように、操舵トルクが発生しない状態(TRQ1=0)であっても、モータ6に指示電流(Imt1)を流してハンドル1を回動させる状況が発生する。
このとき、仮に図10の特性(第1の電流制限値)を適用すると、斜線で示す第2の領域22(異常判定領域)内に入り、異常状態と判定して制御を中止することになってしまう。
【0074】
したがって、メインマイコン503が自動駐車として動作する場合は、監視回路モード選択部503jは、監視回路モード選択フラグILMODE=1として、監視特性設定信号ILCTRL=1とする。
これにより、メインマイコン監視回路511は、図11の特性(第2の電流制限値)でメインマイコン503を監視する。
【0075】
図11の特性は、自動駐車制御中の軌跡32に適合して、操舵トルクが発生しない状態(TRQ1=0)での第3の領域23(正常判定領域)が広く設定されている。
すなわち、メインマイコン503は、図12内の軌跡31で動作するが、正常状態の軌跡32は、図11内の第3の領域23にあるので、メインマイコン監視回路511は、メインマイコン503およびPAECU11が正常状態であると判定する。
したがって、メインマイコン監視回路511がモータ電流を制限することはないので、意図通りの自動駐車制御が可能となる。
【0076】
次に、メインマイコン503またはPAECU11に異常が発生し、過大なモータ電流が流れた場合の監視動作について説明する。
まず、パワーステアリング動作中(操舵中)に操舵方向に異常電流(過大電流)が流れた場合には、軌跡31は、図10内の第3の領域23に位置し、運転者の操舵力が軽くなるのみであり特に問題が生じないので、パワーステアリング制御が継続される。
【0077】
一方、パワーステアリング動作中(操舵中)に操舵方向とは逆方向に過大電流が流れた場合には、図10内の第1の領域21(斜線領域:異常判定領域)に位置するので、メインマイコン監視回路511は、異常状態と判定してモータ電流を制限(OFF)する。
【0078】
なお、操舵力が小さい(ほとんど操舵していない)状態で、操舵方向とは逆方向に小さい(たとえば、10A以下の)電流が流れた場合には、特に問題は生じないので、図10内の第3の領域23(正常判定領域)に位置し、パワーステアリング制御が継続される。
ただし、操舵力が小さくても、逆方向に大きい電流が流れた場合には、図10内の第2の領域22(斜線領域:異常判定領域)に位置するので、メインマイコン監視回路511は、異常状態と判定してモータ電流を制限(OFF)する。
【0079】
次に、自動駐車制御中の異常監視動作について説明する。
自動駐車制御中において、メインマイコン監視回路511は、図11の特性に基づきメインマイコン503を監視している。
自動駐車制御は、極低車速(たとえば、10km/h以下)で行われており、図11の特性から、ほとんど操舵していない状態では、自動駐車制御中に必要な最大の電流値Ia2(たとえば、50A)まで通電することができる。
【0080】
電流値Ia2は、ハンドル1を動かすのに充分な電流であるが、車速が低いので、直ちに問題とはならない。たとえば、自動駐車制御が異常動作して、右(+)方向にハンドル1が回り始めた場合、運転者はハンドル1を保持する。また、モータ6が右(+)方向に動き続けると、トルクセンサ3からは左(−)方向のトルク信号TRQが出力される。
【0081】
このとき、トルク信号TRQが−Ta(たとえば、左(−)方向3Nm)以上になると、第1の領域21(異常判定領域)に入るので、メインマイコン監視回路511は、異常状態と判定してモータ電流を制限(OFF)するので、ハンドル1が不要に回ることはなく、問題は生じない。
【0082】
なお、低車速が重要な前提条件となる自動駐車制御中において、車速が所定値(たとえば、10km/h)を超えた場合には、メインマイコン監視回路511が、図11の特性から強制的に図10の特性に切替えられるので、走行状態(パワーステアリング動作中)におけるモータ電流は電流値Ia1までしか流れず、運転制御性を損なうことはない。
さらに、車速情報Vsp1に異常が生じた場合も、メインマイコン監視回路511は、強制的に図10の特性を選択するので、モータ電流は電流値Ia1までしか流れず、問題は生じない。
【0083】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図12)に係る電動パワーステアリング制御装置は、車両のハンドル1に加わる操舵トルクを検出してトルク信号TRQを生成するトルクセンサ3と、ハンドル1に対する操舵補助力を発生するモータ6と、車両の車速を検出して車速情報Vsp1を生成する車速センサ4と、モータ6を駆動制御するEPSECU5(制御ユニット)と、を備えている。
【0084】
EPSECU5(制御ユニット)は、モータ6を駆動制御するための演算処理を行うメインマイコン503(主制御部)と、モータ6の駆動制御状態を監視するメインマイコン監視回路511(監視部)と、モータ6に電流を供給するモータ駆動回路510(モータ駆動部)と、モータ6に流れる電流を検出してモータ電流検出信号Imdを生成する電流検出回路507(モータ電流検出部)と、を有する。
【0085】
メインマイコン503(主制御部)は、操舵トルク(トルク信号TRQ1)および車速(車速情報Vsp1)に基づいてモータ6に対するパワーステアリング指示電流ImtEPS(第1の指示電流)を決定するパワーステアリング制御部503c(第1の指示電流生成部)と、PAECU11(他の車載制御装置)からの指令信号に応じて自動駐車制御電流ImtPA(第2の指示電流)を決定する自動駐車制御部503d(第2の指示電流生成部)と、第1または第2の指示電流(ImtEPS、ImtPA)を切替選択してモータ電流指示値Imt1を生成するモータ電流切替部503fと、指令信号に応じて、モータ電流指示値Imt1をImtEPSからImtPAに切替えるための自動駐車状態信号F_PA(切替信号)を生成する切替信号生成処理部503eと、を備えている。
【0086】
また、メインマイコン503(主制御部)は、モータ電流指示値Imt1と一致するようにモータ電流を制御するモータ電流制御部503gと、車速の異常状態を検出して車速異常フラグF_VspNG(車速異常信号)を生成する車速異常検出処理部503iと、切替信号(F_PA)、車速(Vsp1)および車速異常信号(F_VspNG)に基づいて、メインマイコン監視回路511(監視部)のモードを切替えるための監視回路モード選択フラグILMODE(監視モード信号)を生成する監視回路モード選択部503j(監視モード信号生成部)と、を備えている。
【0087】
メインマイコン監視回路511(監視部)は、操舵トルクの大きさに応じたモータ電流の監視領域を、自動駐車状態信号F_PA(切替信号)の有無に応じて異なる複数の領域に分割する領域区分手段を有する。
【0088】
メインマイコン監視回路511の領域区分手段は、パワーステアリング指示電流ImtEPS(第1の指示電流)による制御時(ILCTRL=0)においては、複数の領域ごとにモータ電流に対する第1の電流制限値(図10)を設定し、自動駐車制御電流ImtPA(第2の指示電流)による制御時(ILCTRL=1)においては、複数の領域ごとにモータ電流に対する第2の電流制限値(図11)を設定する。
メインマイコン監視回路511(監視部)は、モータ電流が第1または第2の電流制限値を超えた場合に、異常状態を示す制御継続フラグDmtS(出力信号)を生成する。
【0089】
また、図10、図11に示すように、第2の電流制限値は、複数の領域のうちの操舵トルクがほぼ0に対応する領域において、第1の電流制限値よりも大きい値に設定されている。
メインマイコン監視回路511(監視部)は、モータ電流と第1または第2の電流制限値との比較結果に応じて、モータ6の駆動方向に対する駆動許可または駆動非許可を示す制御継続フラグDmtS(出力信号)を生成する。
【0090】
メインマイコン監視回路511は、トルク信号TRQおよびモータ電流検出信号Imdからメインマイコン503の異常を検出した場合には、制御継続フラグDmtSによりモータ6の駆動を制限する。すなわち、制御継続フラグDmtSにより、メインマイコン503(主制御部)とは独立に、モータ駆動部の駆動を許可または停止させる。
【0091】
メインマイコン監視回路511の領域区分手段は、複数の領域として、異常判定用の第1の領域21と、自動駐車信号(CAN信号)の正常/異常、車速情報Vsp1に応じた監視特性切替信号およびモータ電流に基づく異常判定用の第2の領域22と、正常判定用の第3の領域23とを設定する。
【0092】
メインマイコン監視回路511は、トルク信号TRQおよびモータ電流検出信号Imdに基づき第1〜第3の領域を判別し、PAECU11(自動駐車制御装置)の指示にしたがうPA制御中や、パワーステアリングの応答性や安定性を改善する制御を備えたEPS制御中において、正常動作時の制御を制限することなく、且つ異常時にはモータ電流制御を制限することにより、車両操舵の安定性を確保することができる。
なお、図10、図11において、制限時の電流値Ia1、Ia2を一定値としたが、操舵トルクに応じて変化する特性を有するように設定してもよい。
【0093】
監視回路モード選択部503j(監視モード信号生成部)は、車速が所定値以下で、且つモータ電流指示値Imt1として自動駐車制御電流ImtPA(第2の指示電流)が選択され、且つ車速異常フラグF_VspNGが生成されていない場合には、メインマイコン監視回路511(監視部)に対して、第2の電流制限値を選択させるための監視回路モード選択フラグILMODE(監視モード信号)を生成し、他の場合には、メインマイコン監視回路511に対して、第1の電流制限値を選択させるための監視回路モード選択フラグILMODEを生成する。
【0094】
メインマイコン503(主制御部)は、監視回路モード選択フラグILMODEの異常状態を判定してモード選択異常判定フラグF_CtrlILNGを生成するモード選択異常判定部503k(監視モード信号異常判定部)と、監視回路モード選択フラグILMODE(監視モード信号)およびモード選択異常判定フラグF_CtrlILNGに基づきメインマイコン監視回路511に対する監視特性設定信号ILCTRLを切替える監視回路特性切替部503mと、を備えている。
【0095】
モード選択異常判定部503kは、車速が所定値以上で、且つ監視回路モード選択フラグILMODEが第2の電流制限値の選択を示している場合に、監視回路モード選択フラグILMODEが異常状態であると判定してモード選択異常判定フラグF_CtrlILNGを生成する。
メインマイコン監視回路511は、監視特性設定信号ILCTRLに応じて第1または第2の電流制限値を選択する。
【0096】
このように、操舵トルクおよびモータ電流に基づきEPSECU5の異常を判定する監視部は、パワーステアリング動作中(第1の指示電流の有効時)の異常判定特性(第1の電流制限値)と、PAECU11(パワーステアリング装置以外の車載装置)の指示にしたがって動作中(第2の指示電流の有効時)の異常判定特性(第2の電流制限値)とをあらかじめ設定し、2つの異常判定特性を制御状態に応じて切替えるように構成されているので、異常状態を確実に判定することができ、制御性を向上させることができる。
【0097】
したがって、PAECU11(他の車載装置)の指示に応じた自動駐車制御が可能な電動パワーステアリング制御装置において、PAECU11(車載装置)からの指令信号に基づく自動駐車制御(パワーステアリング制御)と通常走行時のパワーステアリング制御との両立を安価な手段で実現することができる。
すなわち、正常動作時のモータ電流制御を制限することなく、且つ異常時にはモータ電流制御を制限することにより、走行信頼性を安価に確保することができる。
【0098】
また、第2の電流制限値(Ia2)は、第1の電流制限値(Ia1)よりも大きい値に設定されているので、第2の指示電流の有効時のモータ制御可能範囲を広げることができ、PAECU11(他の車載装置)によるモータ電流制御が、有効範囲内で制限を受けないようすることができる。
【0099】
また、第2の電流制限値(Ia2)は、車速が所定値(10km/h)以下の場合のみに選択されるようにすることにより、異常発生時の支障が大きい走行時(10km/h以上)においては、強制的に第1の電流制限値が切替選択されるので、走行安定性を確保することができる。
【0100】
また、車速情報Vsp1の異常状態が検出されて、車速異常フラグF_VspNGが生成された場合には、強制的に第1の電流制限値に切替えることにより、車速異常時の制御性を確保することができる。
さらに、第1の電流制限値と第2の電流制限値とを切替えるためのモード選択部の異常を検出して、モード選択異常発生時には強制的に第1の電流制限値を選択させることにより、モード選択異常時の制御安定性を確保することができる。
【0101】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図2)では、PAECU11からの指令信号に基づく自動駐車状態信号F_PAを、CANバスおよびメインマイコン503(CPU)を介して、監視特性設定信号ILCTRLとしてメインマイコン監視回路511に送信したが、図13のように、PAECU11から生成される自動駐車状態信号F_PA1(指令信号)を、EPSECU5A内のメインマイコン監視回路511Aに直接送信してもよい。
【0102】
図13はこの発明の実施の形態2に係る電動パワーステアリング制御装置を示すブロック図であり、EPSECU5Aの機能構成を示している。
図13において、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。また、図13に示されない構成は、図1に示した通りである。
【0103】
図13において、メインマイコン監視回路511Aは、前述(図2)の入力情報(監視特性設定信号ILCTRLを含む)に加えて、PAECU11から直接送信される自動駐車状態信号F_PA1を用いて異常状態を判定する。
この場合、PAECU11からの自動駐車状態信号F_PA1は、EPSECU5A内のメインマイコン監視回路511Aに直接入力される。
【0104】
図14はメインマイコン監視回路511Aの制御機能構成を示すブロック図であり、前述(図9参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
図14において、メインマイコン監視回路511Aは、前述の構成に加えて、判定ロジック部511cを備えており、判定ロジック部511cは、メインマイコン503と監視判定ロジック部511aとの間に挿入されている。
【0105】
判定ロジック部511cは、監視判定ロジック部511aの上流側において、PAECU11からの自動駐車状態信号F_PA1と、メインマイコン503からの監視特性設定信号ILCTRLとを入力情報として、自動駐車状態信号F_PA1に応じた別の監視特性設定信号ILCTRL1を生成し、監視判定ロジック部511aに入力する。
すなわち、判定ロジック部511cは、自動駐車状態信号F_PA1に応じて、監視判定ロジック部511aに入力される別の監視特性設定信号ILCTRL1を切替える。
【0106】
たとえば、判定ロジック部511cをOR(論理和)回路で構成すると、メインマイコン503からの監視特性設定信号ILCTRL(=1)が入力される前に、PAECU11からの自動駐車状態信号F_PA1が入力された時点で、判定ロジック部511cから別の監視特性設定信号ILCTRL1(=1)が生成されるので、自動駐車制御を優先と見なして動作させることができる。
【0107】
このように、自動駐車状態信号F_PA1を、EPSCPU5Aおよびメインマイコン監視回路511Aに同時に入力することにより、EPSCPU5Aおよびメインマイコン監視回路511Aは、自動駐車状態信号F_PA1に応答した動作をほぼ同時に実行することができる。
【0108】
一方、判定ロジック部511cを、AND(論理積)回路により構成した場合には、自動駐車制御(ILCTRL1=1)への遷移が成立しにくくなるので、EPSアシスト制御(ILCTRL1=0)が優先となる。
【0109】
以上のように、この発明の実施の形態2(図1、図13、図14)に係る電動パワーステアリング制御装置のメインマイコン監視回路511Aは、PAECU11(他の車載制御装置)からの自動駐車状態信号F_PA1(指令信号)と、監視回路特性切替部503mからの監視特性設定信号ILCTRLとに基づき別の監視特性設定信号ILCTRL1を生成する判定ロジック部511cを備えており、監視判定ロジック部511aは、別の監視特性設定信号ILCTRL1に応じて、第1の電流制限値または第2の電流制限値を選択する。
【0110】
これにより、メインマイコン監視回路511Aによる監視制御において、メインマイコン503からの監視特性設定信号ILCTRLと、PAECU11からの自動駐車状態信号F_PA1(指令信号)との両方が用いられるので、各信号の重要度に合わせて、メインマイコン監視回路511Aの電流制限値特性を切替えることが可能となる。
【符号の説明】
【0111】
1 ハンドル、2 ステアリングシャフト、3 トルクセンサ、4 車速センサ、5 EPSECU(制御ユニット)、6 モータ、10 バッテリ、11 PAECU(他の車載装置)、12 エンジン回転センサ、21 第1の領域、22 第2の領域、23 第3の領域、503 メインマイコン、503a トルク入力処理部、503b CAN通信処理部、503c パワーステアリング制御部、503d 自動駐車制御部、503e 切替信号生成処理部、503f モータ電流切替部、503g モータ電流制御部、503h モータ電流入力処理部、503i 車速異常検出処理部、503j 監視回路モード選択部、503k モード選択異常判定部、503m 監視回路特性切替部、507 電流検出回路、508 AND回路、509 FET駆動回路、510 モータ駆動回路、511、511A メインマイコン監視回路、511a 監視判定ロジック部、511b 継続時間判定タイマ、511c 判定ロジック部、DmtM モータ電流指令、DmtS 制御継続フラグ、F_CtrlILNG モード選択異常判定フラグ、F_PA 自動駐車状態信号、F_PA1 自動駐車状態信号(指令信号)、F_VspNG 車速異常フラグ(車速異常信号)、Ia1、−Ia1 第1の電流制限値、Ia2、−Ia2 第2の電流制限値、ILCTRL 監視特性設定信号、ILCTRL1 別の監視特性設定信号、ILMODE 監視回路モード選択フラグ(監視モード信号)、ILSig 条件成立フラグ、Imd、Imd1 モータ電流検出信号、Imt1 モータ電流指示値、ImtEPS パワーステアリング指示電流(第1の指示電流)、ImtPA 自動駐車制御電流(第2の指示電流)、PASig 自動駐車制御信号、TRQ、TRQ1 トルク信号、Vsp1 車速情報。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のハンドルに加わる操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記ハンドルに対する操舵補助力を発生するモータと、
前記車両の車速を検出する車速センサと、
前記モータを駆動制御する制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記モータを駆動制御するための演算処理を行う主制御部と、
前記モータの駆動制御状態を監視する監視部と、
前記モータに電流を供給するモータ駆動部と、
前記モータに流れるモータ電流を検出するモータ電流検出部と、
を有する電動パワーステアリング制御装置であって、
前記主制御部は、
前記操舵トルクおよび前記車速に基づいて前記モータに対する第1の指示電流を決定する第1の指示電流生成部と、
他の車載制御装置からの指令信号に応じて第2の指示電流を決定する第2の指示電流生成部と、
前記第1または第2の指示電流を切替選択してモータ電流指示値を生成するモータ電流切替部と、
前記指令信号に応じて、前記モータ電流指示値を前記第1の指示電流から前記第2の指示電流に切替えるための切替信号を生成する切替信号生成処理部と、
前記モータ電流指示値と一致するように前記モータ電流を制御するモータ電流制御部と、
前記車速の異常状態を検出して車速異常信号を生成する車速異常検出処理部と、
前記切替信号、前記車速および前記車速異常信号に基づいて、前記監視部のモードを切替えるための監視モード信号を生成する監視モード信号生成部と、を含み、
前記監視部は、前記操舵トルクの大きさに応じた前記モータ電流の監視領域を、前記切替信号の有無に応じて異なる複数の領域に分割する領域区分手段を含み、
前記領域区分手段は、
前記第1の指示電流による制御時においては、前記複数の領域ごとに前記モータ電流に対する第1の電流制限値を設定し、
前記第2の指示電流による制御時においては、前記複数の領域ごとに前記モータ電流に対する第2の電流制限値を設定し、
前記監視部は、前記モータ電流が前記第1または第2の電流制限値を超えた場合に、異常状態を示す出力信号を生成することを特徴とする電動パワーステアリング制御装置。
【請求項2】
前記第2の電流制限値は、前記複数の領域のうちの前記操舵トルクがほぼ0に対応する領域において、前記第1の電流制限値よりも大きい値に設定され、
前記監視部は、
前記モータ電流と前記第1または第2の電流制限値との比較結果に応じて、前記モータの駆動方向に対する駆動許可または駆動非許可を示す出力信号を生成し、
前記出力信号により、前記主制御部とは独立に、前記モータ駆動部の駆動を許可または停止させることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項3】
前記監視モード信号生成部は、
前記車速が所定値以下で、且つ前記モータ電流指示値として前記第2の指示電流が選択され、且つ前記車速異常信号が生成されていない場合には、前記監視部に対して、前記第2の電流制限値を選択させるための監視モード信号を生成し、
他の場合には、前記監視部に対して、前記第1の電流制限値を選択させるための監視モード信号を生成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項4】
前記主制御部は、
前記監視モード信号の異常状態を判定してモード選択異常判定フラグを生成する監視モード信号異常判定部と、
前記監視モード信号および前記モード選択異常判定フラグに基づき前記監視部に対する監視特性設定信号を切替える監視回路特性切替部と、を含み、
前記監視モード信号異常判定部は、前記車速が所定値以上で、且つ前記監視モード信号が前記第2の電流制限値の選択を示している場合に、前記監視モード信号が異常状態であると判定して前記モード選択異常判定フラグを生成し、
前記監視部は、前記監視特性設定信号に応じて前記第1または第2の電流制限値を選択することを特徴とする請求項3に記載の電動パワーステアリング制御装置。
【請求項5】
前記監視部は、
前記他の車載制御装置からの指令信号と、前記監視回路特性切替部からの監視特性設定信号とに基づいて、別の監視特性設定信号を生成する判定ロジック部を含み、
前記別の監視特性設定信号に応じて、前記第1の電流制限値または前記第2の電流制限値を選択することを特徴とする請求項4に記載の電動パワーステアリング制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−86610(P2013−86610A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227736(P2011−227736)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】