説明

電動パワーステアリング装置

【課題】 自動停止条件の成立後に操舵トルクが増加する場合であっても、操舵トルクの急変を抑制可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】 電動パワーステアリング装置10は、ステアリング系20の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ41と、ステアリング系20に補助トルクを与える電動モータ43と、操舵トルクに基づく目標電流値で電動モータ43のモータ電流値を制御するモータ電流制御部42と、を備える。モータ電流制御部42は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させるアイドリングストップ制御部100の自動停止条件が成立することに起因して、目標電流値を目標電流上限値以下に設定する。目標電流上限値は、目標電流値を目標電流上限値以下に設定することを開始した時Tsの目標電流値Imsと関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動停止条件の成立によってエンジンが停止した時に、電動モータの目標電流値を制限する電動パワーステアリング装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、電動パワーステアリング装置を備えることができ、電動パワーステアリング装置は、ステアリングハンドルへの運転者による操作によって生じるステアリング系での操舵トルクを低減させる補助トルクを発生させる。補助トルクの発生により、電動パワーステアリング装置は、運転者の負担を軽減することができる。
【0003】
例えば特許文献1は、補助トルクを発生させる電動モータを備える電動パワーステアリング装置を開示する。特許文献1の図2の電動パワーステアリング用ECU2は、操舵トルク信号に基づく目標モータ電流Imを演算し、目標モータ電流Imと電動モータ5からフィードバックされる実モータ電流Irとから電動モータ5を駆動させるための駆動電流Iを求める。目標モータ電流Imは、特許文献1の図7に示されるモータ電流徐減係数λ(t)によって減少され、最終目標モータ電流Immは、Im×λ(t)によって決定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−106107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の運転者によっては、エンジンが自動停止した後であっても、交差点での右左折の為に予めステアリングハンドルを操舵する場合がある。
【0006】
このような場合、自動停止後に、操舵トルクが増加する。操舵トルクが増加すると、増加した操舵トルクにλ(t)を乗算しても、最終目標モータ電流Imm(=Im×λ(t))は、結果として、自動停止後に増加するようになる。この時、モータ電流徐減係数λ(t)は、0に向かって減少するので、最終目標モータ電流Immは、最終的に減少することになる。よって、最終目標モータ電流Immは、自動停止後に一旦増加し、その後に急激に減少してしまう。このような操舵トルクの変化は、運転者に違和感を与えてしまう虞がある。
【0007】
本発明の1つの目的は、エンジンの自動停止後に操舵トルクが増加する場合であっても、操舵トルクの変化を抑制可能な電動パワーステアリング装置を提供することである。本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び好ましい実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0009】
本発明に従う第1の態様は、ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記ステアリング系に補助トルクを与える電動モータと、
前記操舵トルクに基づく目標電流値で前記電動モータのモータ電流値を制御するモータ電流制御部と、
を備え、
前記モータ電流制御部は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させるアイドリングストップ制御部の前記自動停止条件が成立することに起因して、前記目標電流値を目標電流上限値以下に設定し、
前記目標電流上限値は、前記目標電流値を前記目標電流上限値以下に設定することを開始した時の前記目標電流値と関連することを特徴とする電動パワーステアリング装置に関係する。
【0010】
モータ電流制御部は、自動停止条件が成立することに起因して、例えばエンジンが自動停止した時に、目標電流値を目標電流上限値以下に設定することができる。ここで、目標電流値は、例えばエンジンが自動停止した時の目標電流値と関連する目標電流上限値以下に設定されるので、目標電流値が目標電流上限値を超えて増加することが回避される。このように目標電流値の増加(補助トルクの増加)が抑制されることで、自動停止条件の成立によってエンジンが停止した後に、操舵トルクの急変を抑制できる。
【0011】
モータ電流制御部は、自動停止条件が成立することに起因して、例えば、エンジンが自動停止する前の自動停止条件が成立した時に、目標電流値を目標電流上限値以下に設定することもできる。この場合も、目標電流値は、自動停止条件が成立した時の目標電流値と関連する目標電流上限値以下に設定され、目標電流値が目標電流上限値を超えて増加することが回避される。
【0012】
第1の態様において、前記目標電流上限値は、前記目標電流値を前記目標電流上限値以下に設定することを開始した時の前記目標電流上限値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新されてもよい。
【0013】
本発明に従う第1の態様は、ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記ステアリング系に補助トルクを与える電動モータと、
前記操舵トルクに基づく目標電流値で前記電動モータのモータ電流値を制御するモータ電流制御部と、
を備え、
前記モータ電流制御部は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させるアイドリングストップ制御部によって前記エンジンが停止した時に前記目標電流値を目標電流上限値以下に設定し、
前記目標電流上限値は、前記エンジンが停止した時の前記目標電流値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新されることを特徴とする電動パワーステアリング装置に関係してもよい。
【0014】
目標電流値は、自動停止条件の成立によってエンジンが停止した時の目標電流値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新される目標電流上限値以下に設定される。従って、ステアリングハンドルへの操作等によって操舵トルクが増加する場合であっても、操舵トルクの急変を抑制することができる。
【0015】
第1の態様において、前記フェードアウト係数は、時間とともに漸減する係数であってもよい。
【0016】
フェードアウト係数が時間とともに漸減するので、フェードアウト係数が減少する時の速度を一定に保つことができる。
【0017】
第1の態様において、前記アイドリングストップ制御部は、再始動条件が成立すると前記エンジンを再始動させ、
前記目標電流上限値は、前記エンジンが再始動した時まで有効であってもよい。
【0018】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に従う電動パワーステアリング装置の概略構成例を示す。
【図2】図2(a)及び図2(b)は、目標電流上限値の設定例を示す。
【図3】フェードアウト係数の設定例を示す。
【図4】図4(a)は、目標電流値の設定例を示し、図4(b)は、設定例の比較例を示す。
【図5】図5(a)は、目標電流値の中断例を示し、図5(b)は、中断例の比較例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に説明する好ましい実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0021】
図1は、本発明に従う電動パワーステアリング装置10の概略構成例を示す。図1の例において、電動パワーステアリング装置10は、車両のステアリングハンドル(例えばステアリングホイール)21から車両の転舵車輪(例えば前輪)29,29に至るステアリング系20に補助トルク(付加トルクとも言う。)を与える補助トルク機構40を備えている。
【0022】
図1の例において、ステアリング系20は、ステアリングハンドル21にステアリングシャフト22(ステアリングコラムとも言う。)及び自在軸継手23,23を介して回転軸24(ピニオン軸、入力軸とも言う。)を連結し、回転軸24にラックアンドピニオン機構25を介してラック軸26を連結し、ラック軸26の両端に左右のタイロッド27,27及びナックル28,28を介して左右の転舵車輪29,29を連結したものである。ラックアンドピニオン機構25は、回転軸24に有したピニオン31と、ラック軸26に有したラック32とを備える。
【0023】
ステアリング系20によれば、運転者がステアリングハンドル21を操舵することで、その操舵トルクによりラックアンドピニオン機構25を介して、転舵車輪29,29を転舵することができる。
【0024】
図1の例において、補助トルク機構40は、ステアリングハンドル21に加えたステアリング系20の操舵トルクを操舵トルクセンサ41で検出し、この検出信号(トルク信号とも言う。)に基づき制御部42で制御信号を発生し、この制御信号に基づき操舵トルクに応じた補助トルク(付加トルク)を電動モータ43で発生し、補助トルクを減速機構44(例えばウォームギヤ機構)を介して回転軸24に伝達し、さらに、補助トルクを回転軸24からステアリング系20のラックアンドピニオン機構25に伝達するようにした機構である。
【0025】
補助トルクがステアリング系20に与えられる箇所によって、電動パワーステアリング装置10は、ピニオンアシスト型、ラックアシスト型、コラムアシスト型等に分類することができる。図1の電動パワーステアリング装置10は、ピニオンアシスト型を示しているが、電動パワーステアリング装置10は、ラックアシスト型、コラムアシスト型等に適用してもよい。
【0026】
電動モータ43は、例えばブラシレスモータであり、ブラシレスモータは、レゾルバ等の回転センサを内蔵している。この回転センサは、ブラシレスモータにおけるロータの回転角(モータ回転信号とも言う。)を検出するものである。
【0027】
制御部42は、例えば、電源回路、モータ電流値を検出する電流センサ、入力インターフェース回路、マイクロプロセッサ、出力インターフェース回路、FETブリッジ回路等によって構成される。入力インターフェース回路は、例えば、外部からトルク信号、車速信号、モータ回転信号等を取り込むことができる。マイクロプロセッサは、例えば、入力インターフェース回路によって取り込んだトルク信号、車速信号等に基づいて、電動モータ43をベクトル制御することができる。出力インターフェース回路は、例えば、マイクロプロセッサの出力信号をFETブリッジ回路への駆動信号に変換することができる。FETブリッジ回路は、例えば、電動モータ43(ブラシレスモータ)に駆動電流(3相交流電流)を通電するスイッチング素子によって構成される。
【0028】
このような制御部42は、概して、操舵トルクセンサ41によって検出された操舵トルク(トルク信号)と、図示せぬ車速センサによって検出された車速(車速信号)と、回転センサによって検出されたロータの回転角(回転信号)等に基づいて、目標電流値を設定する。制御部42は、電流センサによって検出されたモータ電流値が目標電流値に一致するように、電動モータ43の駆動電流値を制御することができる。制御部42は、少なくとも操舵トルク(トルク信号)に基づいて目標電流値を設定し、その目標電流値でモータ電流値を制御するので、制御部42をモータ電流制御部と呼ぶことができる。なお、モータ電流値を検出する電流センサを電動モータ43側に取り付け、制御部42は、電動モータ43からモータ電流を取り込んでもよい。
【0029】
電動パワーステアリング装置10によれば、運転者の操舵トルクに電動モータ43の補助トルク(付加トルク)を加えた複合トルクにより、ラック軸26で転舵車輪29,29を転舵することができる。
【0030】
電動パワーステアリング装置10の制御部42(モータ電流制御部)は、図示せぬエンジンを制御する制御部100(アイドリングストップ制御部とも言う。)からの出力信号を取り込むことができる。制御部100(アイドリングストップ制御部)からの出力信号は、例えばエンジンが停止しているか否かを表す信号を含むことができる。例えばエンジンの回転数が所定の回転数(所定の回転数<アイドリング時の回転数)以下である場合、制御部100は、エンジンが停止していると判断することができる。なお、制御部42及び制御部100を備える制御装置を車両用制御装置と呼ぶことができる。
【0031】
制御部100は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させ、自動停止条件は、エンジンが始動している状態で、例えば、車速が0であること、及び運転者が図示せぬブレーキペダルを踏んでいることによって成立する。この場合、制御部100は、車速センサ及び図示せぬブレーキスイッチによって自動停止条件の成立を判断することができる。自動停止条件は、この例に限定されず、様々な手法で構築することができる。自動停止条件は、例えば、エンジンを冷却する冷却水の水温が考慮されてもよく、水温が所定値以上であることによって自動停止条件が成立してもよい。制御部100は、自動停止条件が成立するとエンジンへの燃料供給を遮断して、エンジンを停止させるとともに、エンジンが停止していることを表す信号を制御部42に送る。なお、制御部100は、自動停止条件の内容に応じて必要な機器(例えば、車速センサ、ブレーキスイッチ等)に接続されている。
【0032】
制御部100は、エンジンが停止しているか否かを表す信号に代えて、或いは、エンジンが停止しているか否かを表す信号に加えて、自動停止条件が成立しているか否かを表す信号を制御部42に送ってもよい。一般に、自動停止条件が成立した時からエンジンが停止するまでの間、所定の時間を要する。従って、制御部100は、自動停止条件が成立することに起因する信号として、自動停止条件が成立しているか否かを表す信号、エンジンが停止しているか否かを表す信号等を制御部42に送ることができる。制御部42は、自動停止条件が成立することに起因して、目標電流値を制限することができる。
【0033】
制御部100は、再始動条件が成立するとエンジンを再始動させ、再始動条件は、エンジンが停止している状態で、例えば、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除すること、運転者が図示せぬアクセルペダルを踏んでいること、又は車速が所定値以上であることによって成立する。再始動条件は、この例に限定されず、様々な手法で構築することができる。制御部100は、再始動条件が成立すると例えば図示せぬスターターモータを起動させて、エンジンを再始動させるとともに、エンジンが停止していないことを表す信号を制御部42に送る。
【0034】
図2(a)及び図2(b)は、目標電流上限値の設定例を示す。図2(a)の例及び図2(b)の例において、自動停止条件の成立によってエンジンが停止した場合、目標電流値は、目標電流上限値以下に設定されている。具体的には、制御部42は、エンジンが停止しているか否かを表す信号を制御部100から受け、この信号によってエンジンが停止状態であることを判断すると、制御部42は、目標電流値が目標電流上限値以下であるか否かを判定する。この判定結果により、制御部42は、目標電流上限値以下である目標電流値をそのまま採用する一方、目標電流上限値を超える目標電流値を目標電流上限値に設定する。制御部42は、このような目標電流値及び目標電流上限値を設定することができ、目標電流値及び目標電流上限値は、例えば制御部42の内部メモリ等の記憶部に記憶され、更新される。
【0035】
なお、エンジンが自動的に停止している間に再始動条件が成立し、エンジンが再始動した場合、目標電流値は、目標電流上限値によって制限されない。具体的には、制御部42は、エンジンが停止しているか否かを表す信号を制御部100から受け、この信号によってエンジンが停止状態から非停止状態に変化したこと、即ちエンジンが再始動したことを判断すると、制御部42は、目標電流値が目標電流上限値以下であるか否かを判定しないで、制御部42は、目標電流上限値以下である目標電流値をそのまま採用する。
【0036】
図2(a)の例において、時刻Tsは、エンジンが自動的に停止した時を示し、目標電流値は、時刻Tsまで増加している。時刻Ts後、目標電流値は、点線で示されるように増加しようとするが、目標電流値の増加は、目標電流上限値によって制限されている。図2(a)の例において、目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値Imsと一致し、時刻Ts後、目標電流値が目標電流上限値を超えて増加することが回避される。
【0037】
図2(b)の例において、時刻Tsは、エンジンが自動的に停止した時を示し、時刻Ts後の目標電流値の増加を見越して、目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値Imsよりも大きく設定することができる。この場合、時刻Tsでの目標電流値Imsは、時刻Tsでの目標電流上限値よりも小さいので、目標電流値は、時刻T1まで増加し、目標電流上限値によって制限されていない。時刻T1での目標電流値は、目標電流上限値と一致し、時刻T1後、目標電流値が目標電流上限値を超えて増加することが回避される。
【0038】
図2(a)の例及び図2(b)の例において、時刻Tsは、エンジンが自動的に停止した時を示すが、時刻Tsは、例えば、自動停止条件が成立した時に変更してもよい。即ち、制御部42は、エンジンが自動停止した時刻以降に目標電流値を目標電流上限値以下に設定しているが、制御部42は、自動停止条件が成立した時刻以降に目標電流値を目標電流上限値以下に設定してもよい。具体的には、制御部42は、自動停止条件が成立しているか否かを表す信号を制御部100から受け、この信号によって自動停止条件が成立状態であることを判断すると、制御部42は、目標電流値を目標電流上限値以下に設定してもよい。
【0039】
目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値Imsと関連し、図2(a)の例及び図2(b)の例に限定されない。例えば、時刻Ts後の目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流上限値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新することができる。なお、図2(a)の例において、時刻Tsでの目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値Imsと一致するので、時刻Ts後の目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値Imsにフェードアウト係数を乗算した値によって更新することができる。
【0040】
図3は、フェードアウト係数の設定例を示す。図3の例において、時刻Tsでのフェードアウト係数は1を示し、時刻Teでのフェードアウト係数は0を示す。時刻Tsから時刻Teまでの期間(フェードアウト制御期間)は、時刻Tsでの目標電流上限値に依存しないで一定に設定することができる。時刻Teは、フェードアウトが終了した時を示し、時刻Teでの目標電流上限値は、0になる。図2(a)の例に図3のフェードアウト係数を適用すると、時刻Tsでフェードアウト係数が1であるので、時刻Tsでの目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流上限値(=時刻Tsでの目標電流値Ims)×1であり、変化しない(図4(a)参照)。時刻Tsから時刻Teまでの間、フェードアウト係数は減少し、時刻Teでのフェードアウト係数は0であるので、時刻Ts後、フェードアウト係数が適用される目標電流上限値は、Ims×1よりも徐々に小さくなり、時刻Teでの目標電流上限値は、0になる(図4(a)参照)。
【0041】
図2(b)の例に図3のフェードアウト係数を適用すると、時刻Tsでフェードアウト係数が1であるので、時刻Tsでの目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流上限値×1であり、変化しない(図示せず)。時刻Tsから時刻T1までの間、フェードアウト係数は減少するので、時刻Ts後、フェードアウト係数が適用される目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流上限値×1よりも徐々に小さくなり、時刻Teでの目標電流上限値は、0になる(図示せず)。
【0042】
フェードアウト係数は、時刻Ts後、徐々に減少して、そのうち0になり、時間とともに漸減する係数を示す図3の例に限定されない。図3の例において、フェードアウト係数は、直線的に減少して、時刻Teで0になるが、フェードアウト係数は、曲線的に減少してもよい。
【0043】
図4(a)及び図4(b)は、目標電流値の設定例を示し、図4(a)の例において、時刻Ts後の目標電流値は、図2(a)及び図3で示されるような目標電流上限値に一致し、図4(b)の例(比較例)において、図2(a)、図2(b)で示されるような目標電流上限値が存在せず、時刻Ts後の目標電流値は、図3で示されるようなフェードアウト係数(特許文献1の図7で示されるようなモータ電流徐減係数λ(t))によって制御される。言い換えれば、図4(a)の例において、時刻Ts後のある時刻の目標電流値は、目標電流上限値(=時刻Tsでの目標電流値×時刻Ts後のある時刻でのフェードアウト係数)以下に設定される。図4(b)の例において、時刻Ts後のある時刻の目標電流値は、時刻Ts後のある時刻での目標電流値×時刻Ts後のある時刻でのフェードアウト係数に設定される。
【0044】
図4(a)の例において、時刻Ts後、ステアリングハンドル21への操作等によって操舵トルクが増加する。従って、時刻Ts後の操舵トルクに基づく目標電流値は、常に、目標電流上限値を超えている(図示せず)。このような目標電流値は、目標電流上限値によって制限され、時刻Ts後の目標電流値は、目標電流上限値に一致している(図4(a)参照)。なお、時刻Tsでの目標電流上限値は、図2(a)で示されるように、時刻Tsでの目標電流値と一致し、時刻Ts後の目標電流上限値は、時刻Tsでの目標電流値(=時刻Tsでの目標電流上限値)に図3のフェードアウト係数を乗算した値によって更新されている。
【0045】
図4(b)の例(比較例)において、時刻Ts後もステアリングハンドル21への操作が継続している。従って、時刻Ts後に、操舵トルクが増加する。操舵トルクが増加すると、増加した操舵トルクにフェードアウト係数を乗算しても、目標電流値は、結果として、時刻Ts後に、例えば時刻Tb1まで増加し得る。この時、目標電流値の増加は、補助トルクの増加を意味し、従って、操舵トルクの増加が抑制され、操舵トルクは時刻Tsから例えば時刻Tb2までゆっくりと増加する。ところで、フェードアウト係数は、0に向かって減少するので、目標電流値は、その後、減少することになる。即ち、目標電流値は、時刻Ts後に増加し、例えば時刻Tb1後に減少する。従って、目標電流値が増加することによって操舵トルクの変化量が時刻Tsから例えば時刻Tb2まで小さい一方、目標電流値が減少することによって操舵トルクの変化量が例えば時刻Tb2から例えば時刻Teまで大きくなり、このような時刻Tb2での操舵トルクの急激な変化は、運転者に違和感を与えてしまう。
【0046】
図4(a)に示される時刻Ts後の操舵トルクの変化量は、ほぼ一定であり、操舵トルクの急激な変化が生じない。従って、図4(a)の例では、エンジンが自動停止した時刻Ts以降に操舵トルクが増加する場合であっても、運転者に違和感を与えない。なお、自動停止条件が成立した時刻以降に目標電流値を目標電流上限値以下に設定することを開始しても、運転者に違和感を与えない。
【0047】
図5(a)及び図5(b)は、目標電流値の中断例を示し、時刻Tcは、再始動条件が成立した時を示す。図5(a)は、図4(a)の例において、時刻Tsから時刻Tbまでの期間(フェードアウト制御期間)の途中の時刻Tcで、再始動条件が成立したことを示す。ここで車両に設けられた図示せぬバッテリ電源電圧が低下している場合には、再始動条件の成立によってスターターモータが起動し、バッテリ電源電圧が更に低下して、バッテリ電源電圧に接続される制御部42が動作しないことがある。制御部42の機能が停止すると、時刻Tc後の目標電流値は、0になり、目標電流値が瞬間的に断絶する。これにより、補助トルクも瞬間的に断絶して、時刻Tcで、操舵トルクは急激に上昇する(図5(a)参照)。
【0048】
図5(b)は、図4(b)の例において、時刻Tcで、再始動条件が成立したことを示す。図5(b)の例において、時刻Tcでの操舵トルクも、急激に上昇する。図5(b)における操舵トルクの急激な増加幅は、図5(a)における操舵トルクの急激な増加幅よりも大きく、従って、運転者に与える違和感は、非常に大きくなる。言い換えれば、図5(b)に示されるような時刻Tsから時刻Tcまでの目標電流値の増加を抑制することで、操舵トルクの急激な増加幅が小さくなることが期待される。図5(a)の例が好ましいが、図3のフェードアウト係数を利用しないで、図2(a)又は図2(b)に示される目標電流上限値を採用するだけでも、操舵トルクの急激な増加幅を小さくすることができる。
【0049】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0050】
10・・・電動パワーステアリング装置、20・・・ステアリング系、21・・・ステアリングハンドル、22・・・ステアリングシャフト、23・・・自在軸継手、24・・・回転軸、25・・・ラックアンドピニオン機構、26・・・ラック軸、27・・・タイロッド、28・・・ナックル、29・・・転舵車輪、31・・・ピニオン、32・・・ラック、40・・・補助トルク機構、41・・・操舵トルクセンサ、42・・・制御部(モータ電流制御部)、43・・・電動モータ、44・・・減速機構、100・・・制御部(アイドリングストップ制御部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記ステアリング系に補助トルクを与える電動モータと、
前記操舵トルクに基づく目標電流値で前記電動モータのモータ電流値を制御するモータ電流制御部と、
を備え、
前記モータ電流制御部は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させるアイドリングストップ制御部の前記自動停止条件が成立することに起因して、前記目標電流値を目標電流上限値以下に設定し、
前記目標電流上限値は、前記目標電流値を前記目標電流上限値以下に設定することを開始した時の前記目標電流値と関連することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記目標電流上限値は、前記目標電流値を前記目標電流上限値以下に設定することを開始した時の前記目標電流上限値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新されることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
ステアリング系の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサと、
前記ステアリング系に補助トルクを与える電動モータと、
前記操舵トルクに基づく目標電流値で前記電動モータのモータ電流値を制御するモータ電流制御部と、
を備え、
前記モータ電流制御部は、自動停止条件が成立するとエンジンを停止させるアイドリングストップ制御部によって前記エンジンが停止した時に前記目標電流値を目標電流上限値以下に設定し、
前記目標電流上限値は、前記エンジンが停止した時の前記目標電流値にフェードアウト係数を乗算した値によって更新されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記フェードアウト係数は、時間とともに漸減する係数であることを特徴とする請求項2又は3に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記アイドリングストップ制御部は、再始動条件が成立すると前記エンジンを再始動させ、
前記目標電流上限値は、前記エンジンが再始動した時まで有効であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−91348(P2013−91348A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233033(P2011−233033)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】