説明

電動ポンプ

【課題】 効率を向上可能な電動ポンプを提供すること。
【解決手段】 本発明の電動ポンプは、モータの磁極数とスロット数の最小公倍数が、ポンプロータの歯数の整数倍となるように設定し、かつ、ポンプの脈動による必要最大トルクタイミングと、モータの脈動による最大トルク出力タイミングとが一致しないように、モータロータとポンプロータとの相対角度を設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動されるポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポンプロータとアウタロータとを有するトロコイド型のオイルポンプとして特許文献1に記載の技術が開示されている。この公報には、ポンプロータの内部に固定された駆動軸と電動モータとが連結され、電動モータによってポンプを駆動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−68408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電動ポンプでは、ポンプの脈動と電動モータのトルク変動に伴う脈動とが個別に発生するため、振動に伴う異音等が発生するおそれがあった。
本発明の目的とするところは、静音性を向上可能な電動ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の電動ポンプは、モータの磁極数とスロット数の最小公倍数が、ポンプロータの歯数の整数倍となるように設定し、かつ、ポンプの脈動による必要最大トルク(ある時点でのポンプに必要な最大トルク:ポンプに作用する負荷により変化する)タイミングと、モータの脈動による最大トルク(モータに流れる電流が所定値のときの最小値:電流値が変化すれば最小値も変化する)出力タイミングとが一致しないように、モータロータとポンプロータとの相対角度を設定した。
【発明の効果】
【0006】
よって、脈動に伴う振動の振幅を抑制でき、静音性の向上した電動ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の電動ポンプの正面図である。
【図2】実施例1の電動ポンプの側面図である。
【図3】実施例1の電動ポンプのB−B断面図である。
【図4】実施例1の電動ポンプの分解斜視図である。
【図5】実施例1の電動ポンプのA−A断面図である。
【図6】実施例1の電動ポンプのポンプ要素とモータ要素の相対角度を表す図である。
【図7】モータ要素の脈動周波数とポンプ要素の脈動周波数とがばらばらの構成におけるトルク変動の様子を表す特性図である。
【図8】実施例1のモータ要素の脈動周波数とポンプ要素の脈動周波数とが一致した構成におけるトルク変動の様子を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施例1]
本発明の実施例1を図面に基づいて説明する。図1は実施例1の電動ポンプの正面図、図2は実施例1の電動ポンプの側面図、図3は実施例1の電動ポンプのB−B断面図、図4は実施例1の電動ポンプの分解斜視図、図5は実施例1の電動ポンプのA−A断面図である。実施例1の電動ポンプは、アイドルストップ機能を備えた車両の自動変速機用に搭載されるポンプである。この自動変速機はベルト式無段変速機であり、エンジンにより駆動されるメインポンプを別途備えている。そして、アイドルストップ制御によるエンジンの停止時には、メインポンプによる油圧が確保できず、また、ベルト式無段変速機内の摩擦締結要素やプーリからのリーク等によって油圧が低下すると、再発進時に必要な油圧を確保するまでに時間がかかるため、運転性の低下を招く。そこで、メインポンプとは別に、エンジンの作動状態に関わらず油圧を吐出可能な電動ポンプを備え、摩擦締結要素やプーリからのリーク分の油圧を担保することで、エンジン再始動及び再発進時の運転性を向上している。
【0009】
図3,4を参照して説明すると、実施例1の電動ポンプは、外歯を有するポンプロータ22と内歯を有するアウタロータ21とから構成されるポンプ要素と、ポンプロータ22に接続されたモータロータ33とステータ3とから構成されるモータ要素とを有する。これらポンプ要素及びモータ要素は、一つのセンターハウジング2に収容される。センターハウジング2は、軸方向外側に向けて両端において開口を有し、一方の開口内周にアウタロータ21を回転可能に収装するポンプ要素収容部24が形成された筒状のポンプ収容部2aが形成され、他方の開口内周においてステータ3を固定支持すると共に内部にモータロータ等を収容するモータ収容部2bが形成され、更にモータ収容部2bよりも軸方向外側には、自動変速機に取り付けるためのブラケット2cが形成されている。また、図5のA−A断面図に示すように、センターハウジング2内部には、ロータ駆動軸32を回転可能に支持する円筒状支持部2dと、この円筒状支持部2dをセンターハウジング2の外周と連結すると共にポンプ収容部2aとモータ収容部2bとの間を画成する隔壁を有する。そして、円筒状支持部2dの内周でロータ駆動軸32を支持すると共に、モータ収容部2b側の端部において、ロータ駆動軸32と円筒状支持部2d内周との間をシールするシール部材31が設けられている。
【0010】
ポンプカバー1は、ポンプ要素の吐出領域と連通する円筒状に延在された吐出ポート11と、ポンプ要素の吸入領域と連通する吸入ポート12と、を有する。吐出ポート11の先端外周には、シールリング11bが取り付けられるシールリング溝11aが形成されている。また、ポンプカバー1には、周方向三箇所にボルト穴13が形成され、センターハウジング2に形成されたボルト穴23に対し、ボルト14によって締め付け固定される。また、モータ収容部2bを閉塞するモータカバー4は、モータ収容部2bを閉塞する閉塞面41と、閉塞面41から立設されモータ収容部2bの内壁に挿入される円筒状立設部42と、ブラケット2cのフランジ面と当接しシール部材16を押圧すると共にボルト5が貫通する貫通孔を備えたフランジ面43とを有する。これにより、モータ収容部2b内は乾燥室として構成され、ポンプ収容部2aの内部及びポンプ外周は湿室として構成される。
【0011】
ポンプ要素は、外歯数Nr=12を備えたポンプロータ22と、内歯数が13のアウタロータ21とを有する。ポンプロータ22は、中心に二面幅を有する連結孔22aが形成され、ロータ駆動軸32のポンプ側端部に形成された二面幅32aと嵌合する。これにより、ロータ駆動軸32とポンプロータ22との回転方向相対位置が決定されると共に動力伝達が行われる。
【0012】
モータ要素は、磁極数Nm=4のモータロータ33と、スロット数Ns=6のステータ3とを有する。すなわち、ステータ3のステータコア34に形成された6つのティースにそれぞれコイル35が巻回されてスロットを形成している。モータロータ33は、断面略コの字状の円筒部材であり、円筒外周に永久磁石331,332がN極とS極とが交互に並ぶように4つ取り付けられている。モータロータ33の円筒を閉塞している支持面の中心には、二面幅を有する連結孔33aが形成され、ロータ駆動軸32のモータ側端部に形成された二面幅32bと嵌合する。これにより、ロータ駆動軸32とモータロータ33との回転方向相対位置が決定されると共に動力伝達が行われる。尚、ポンプロータ22と、ロータ駆動軸32と、モータロータ33との回転角に基づく位置関係については後述する。
【0013】
図5に示すように、自動変速機のハウジング100には、電動ポンプを収容する電動ポンプ収容部が形成されている。具体的には、図外のコントロールバルブユニットに油圧を供給する吐出油路103と、電動ポンプのポンプ部が収容された状態で吸入ポート12と連通する吸入油路開口部102と、吸入油路開口部102よりも大径に形成されセンターハウジング2のモータ収容部2bの外周と略同一径を有するポンプ支持開口101と、ポンプ支持開口101のハウジング100外側開口縁に形成されたテーパ面15とを有する。吐出油路103は吐出ポート11の外周径と略同じであって挿入により嵌合支持される。吸入油路開口部102は、吐出油路103を取り囲む位置に形成された円筒状の空間であって、図外のオイルパン内に開口するオイル吸い込み口と連通する。また、ポンプ支持開口101はモータ収容部2bの外周との間で嵌合することで電動ポンプを径方向に支持する。また、テーパ面15はモータ収容部2b外周との間でシールリング15を狭持する。電動ポンプはボルト5によりハウジング100の側壁に締め付け固定される。
【0014】
(電動ポンプの脈動作用)
電動ポンプは、モータ要素の駆動によりロータ駆動軸32が駆動され、ポンプ要素のポンプロータ22が回転することで、流体吐出が行われる。このとき、モータ要素ではモータロータ33の永久磁石とステータ3のコイル35との間で脈動(コギングトルク)が発生する。また、ポンプ要素では吸入と吐出を繰り返す際に脈動が発生する。図7は、モータ要素の脈動周波数とポンプ要素の脈動周波数とがばらばらの構成におけるトルク変動の様子を表す特性図である。
このモータ脈動周波数とポンプ脈動周波数は以下のように表される。
モータ脈動周波数fm:(磁極数Nmとスロット数Nsの最小公倍数)×回転数N
ポンプ脈動周波数fr:歯数Nr×回転数N
例えば、
N=50rps(3000rpm),Nm=6,Ns=9のとき、fm=18×50=900Hz
Nr=7のとき、fr=7×50=350Hz
このように、モータ脈動周波数fmとポンプ脈動周波数frとが異なり、更に、ポンプロータ22が最もトルクを必要とするピークで、モータの発生するトルクピークがずれていると、ポンプロータ22の脈動とモータロータ33の脈動との合成波の振幅による振動に伴って異音等を発生するおそれがある。
【0015】
そこで、fm/fr=整数となるようにNm,Ns,Nrを調整し、脈動周波数をほぼ一致させる。特に、fm/fr=1(fm=fr)の時、最も効率が良い。
そこで、実施例1では、
n=50rps(3000rpm)のとき、Nm=4,Ns=6とし、
fm=12×50=600Hz
また、Nr=12とすると、
fr=12×50=600Hz
となり、fm/fr=600Hz/600Hz=1(整数)を達成する。これにより、ポンプ要素において小さいトルクが必要なタイミングと、モータのトルクピークを一致させた場合には、両者の振動を打ち消して高い静音性が得られる。
しかしながら、ポンプ要素とモータ要素の脈動周波数を一致させた状態で、ポンプ要素が最も大きいトルクが必要なタイミングで、モータ要素が最大トルクを出力する位相となった場合には、やはり、合成波の振幅は大きくなる。言い換えると、モータ要素が最も大きいトルクを出力するタイミングと、ポンプ要素が最も大きいトルクを必要とするタイミングとがずれていれば、その分、静音性は向上し、モータ要素が最も小さいトルクを出力するタイミングと、ポンプ要素が最も大きいトルクを必要とするタイミングとが一致したときに脈動は完全に打ち消し合い(以下、脈動トルクの反転一致と記載する。)、合成波はフラットとなり、最高の静音性が得られる。
【0016】
図6は実施例1の電動ポンプのポンプ要素とモータ要素の相対角度を表す図、図8は実施例1のモータ要素の脈動周波数とポンプ要素の脈動周波数とが一致した構成におけるトルク変動の様子を表す特性図である。このように、モータ要素とポンプ要素の脈動周波数を一致させ、更に、脈動トルクのピーク位置を反転一致させるべく、ポンプロータ22とモータロータ33との相対的な位置を調整し、コイル35の中心と永久磁石331の中心とをθだけずらす。この相対角度のずれは、磁石極数、スロット数、コイルへの通電順序によって生じるものであり、これによって、脈動トルクのピークを反転一致させることができる。この相対角度は、ロータ駆動軸32の両端に形成された二面幅の相対角度で調整してもよいし、連結孔22a,33aの相対角度によって調整してもよい。
尚、本発明を逸脱しない範囲で、ポンプの最大トルクが必要なタイミングと、モータの最大トルクピーク、又はポンプの最小トルクが必要なタイミングとモータの最小トルクピークがずれていても構わない(例えば、1/4位相)。
【0017】
[効果]
以下、実施例1から把握される電動ポンプの効果を列挙する。
(1)複数の磁極を有するモータロータ33と、複数のスロットを有するステータ3とを有する永久磁石モータと、モータロータ33と接続されたロータ駆動軸32と、ロータ駆動軸32に接続された複数の歯を有するポンプロータ22を有し、伝達されたトルクを流体吐出仕事に変換するポンプと、を備え、磁極数Nm(=4)とスロット数Ns(=6)の最小公倍数(=12)が、歯数Nr(=12)の整数倍(=1)となるようにNm,Ns,Nrを設定し、かつ、ポンプの脈動による必要最大トルクタイミングと、モータの脈動による最大トルク出力タイミングと、を一致しないように、モータロータ33とポンプロータ22との相対角度θを設定した。
よって、効率の高い電動ポンプを提供することができる。
(2)ポンプの脈動による必要最大トルクタイミングと、モータの脈動による最小トルク出力タイミングとが一致するように相対角度θを設定した。よって、脈動トルクのピーク位置を反転一致させることができ、合成波の振幅をフラットにすることで高い静音性を得ることができる。
(3)磁極数Nmとスロット数Nsの最小公倍数と歯数とを一致するように設定した。よって、ポンプで必要とするトルクとモータから出力されるトルクとを全て反転一致させることができ、更に高い静音性を得ることができる。
【符号の説明】
【0018】
2 センターハウジング
2a ポンプ収容部
2b モータ収容部
3 ステータ
4 モータカバー
5 ボルト
11 吐出ポート
12 吸入ポート
21 アウタロータ
22 ポンプロータ
22a,33a 連結孔
33 モータロータ
33a 連結孔
34 ステータコア
35 コイル
103 吐出油路
331,332 永久磁石
fm モータ脈動周波数
fr ポンプ脈動周波数
N 回転数
Nm 磁極数
Nr 外歯数
Nr 歯数
Ns スロット数
θ 相対角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁極を有するモータロータと、複数のスロットを有するステータとを有する永久磁石モータと、
前記モータロータと接続された駆動軸と、
前記駆動軸に接続された複数の歯を有するポンプロータを有し、伝達されたトルクを流体吐出仕事に変換するポンプと、
を備え、
前記磁極数と前記スロット数の最小公倍数が、前記歯数の整数倍となるように前記磁極数,前記スロット数及び前記歯数を設定し、かつ、ポンプの脈動による必要最大トルクタイミングと、モータの脈動による最大トルク出力タイミングとが一致しないように、前記モータロータと前記ポンプロータとの相対角度を設定したことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプにおいて、
ポンプの脈動による必要最大トルクタイミングと、モータの脈動による最小トルク出力タイミングとが一致するように前記相対角度を設定したことを特徴とする電動ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動ポンプにおいて、
前記最小公倍数と前記歯数とを一致するように設定したことを特徴とする電動ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97586(P2012−97586A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243555(P2010−243555)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】