電動機および圧縮機並びに冷凍サイクル装置
【課題】ステータのティースの先端部に疑似スロットを設けても鉄損を抑制でき、磁束密度の分布の平滑化が図れ、よりコギングトルクを低減できる電動機を提供する。
【解決手段】周方向に設けられたスロット32の間に形成されたティース33およびティース33に巻回されたコイルを有する円筒状のステータ3と、ステータ3の軸心を中心として、そのステータ3のティース33の先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石42を有するロータ4とを備え、ステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設け、ロータ4の永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータ4の外周部の間に径方向に延びるスリット44を設け、スリット44のロータ4の外周部側の先端からロータ4の外周部までの長さを不均一にしている。
【解決手段】周方向に設けられたスロット32の間に形成されたティース33およびティース33に巻回されたコイルを有する円筒状のステータ3と、ステータ3の軸心を中心として、そのステータ3のティース33の先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石42を有するロータ4とを備え、ステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設け、ロータ4の永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータ4の外周部の間に径方向に延びるスリット44を設け、スリット44のロータ4の外周部側の先端からロータ4の外周部までの長さを不均一にしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機である永久磁石型モーター、その永久磁石型モーターを備えた圧縮機、並びにその圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動・騒音の原因となるコギングトルクを抑制し、かつ高効率な圧縮機駆動用の永久磁石型モーターが知られている。
コギングトルクとは、突極性を有する永久磁石型モーターに必ず発生する力であり、無通電時にステータのティースとロータに配置された永久磁石との間に作用するロータの位置(回転角)に対する磁気吸引力の変化によって生ずるトルク脈動である。すなわち、ステータとロータ間の磁気抵抗が最小となる位置において、磁気的に最も安定しており、ロータがその位置に静止しようとする。さらに、その位置からロータを回転させるためには、磁気吸引力に打ち勝つだけのトルクが必要となる。しかし、一度ある速度で回転すると、正負のトルクが交番する振動トルクとなるために、コギングトルクの平均値は零となる。
【0003】
コギングトルクが発生すると、速度変動を生じ、ロータの軸を伝わり振動・騒音の原因となると共に、静止トルクのように作用してモーターの始動トルクを増大させる。それと同時に、ロータの回転によって磁束が変化し、そのためにヒステリシス損および渦電流損が存在する場合には、固体摩擦および粘性摩擦のように作用する。よって、コギングトルクの低減が要求される。このコギングトルクは、ステータとロータ間の磁気抵抗が回転角によって変化するために生じるものであり、磁束密度の2乗に比例するマクスウェルの応力に起因している。この磁気抵抗の変化は、ステータのスロット空間の高調波やロータに配置した永久磁石の磁束の高調波成分に大きく依存している。したがって、コギングトルクを低減するためには、ギャップ部の磁束密度の分布を円周方向に平滑化して、高調波成分を低減するのが望ましい。
【0004】
従来、コギングトルクを抑制する永久磁石型モーターとして、例えば、ロータに設けられた永久磁石の極中心に対して、磁石の両端部のエアギャップ長が大きくなるように磁石曲率を小さくし、かつステータのティースの先端部に擬似スロットを設けたものがある。
このような構造にすることで、ステータのティース先端部の擬似スロットによりスロットの空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石を極中心に対して磁石の両端部のエアギャップ長が大きくなるように磁石曲率を小さくしたことで永久磁石の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、コギングトルクが低減されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来の永久磁石型モーターとして、ステータのティースの内周側の先端部に一つ又は複数の溝であるステータ側の擬似スロットが軸方向に沿って設けられ、ロータは、回転軸を中心として複数のポールピースが等間隔に放射状に配され、ポールピースの外周側の先端部に、一つ又は複数の溝であるロータ側の擬似スロットが軸方向に沿って設けられたものがある。ステータのティースおよびロータのポールピースの先端部に溝を設けることにより、擬似的にスロット数が増え、スロット高調波の分散を図ることができる。すなわち、スロットの高調波の次数を高周波領域に移行させ、特定のスロットの高調波が重複して発生しないようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−136001号公報(第3−4頁、図1−図3)
【特許文献2】特開2006−67708号公報(第4−6頁、図1−図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の永久磁石型モーターは、以上のように構成することで、スロットの高調波に起因する振動・騒音を低減している。しかし、スロットの高調波に起因する振動・騒音のさらなる低減には、前述した永久磁石型モーターの構造では課題がある。
特許文献1に記載の永久磁石型モーターでは、擬似スロットの効果を高めるために擬似スロットの数を増やした場合、擬似スロットの幅が狭くなることで磁路が狭くなり鉄損が増大することが予想される。
また、特許文献2に記載の永久磁石型モーターでは、ステータ、ロータの双方に溝を設けることで擬似スロット数を増やしているため、一方に溝を設けるよりも磁路が狭くなることを抑制することができる。しかし、その構造では、スロットの高調波の次数を高周波領域に移行させるだけであって、エアギャップの磁束密度の分布の平滑化は不十分である。
【0008】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたもので、ステータのティースの先端部に疑似スロットを設けても鉄損を抑制でき、磁束密度の分布の平滑化が図れ、よりコギングトルクを低減できる電動機および圧縮機並びに冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動機は、周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータと、ステータの軸心を中心として、そのステータのティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータとを備え、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータの外周部の間に径方向に延びるスリットを設け、スリットのロータの外周部側の先端からロータの外周部までの長さを不均一にしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータの外周部の間に径方向に伸びるスリットを設け、スリットのロータの外周部側の先端からロータの外周部までの長さを不均一にしたので、スロットの空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、より一層コギングトルクを低減できる。また、ステータ側に擬似スロット、ロータ側にスリットを設けているため、磁束飽和を抑制することで鉄損を抑制しつつ擬似スロットの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る圧縮機の側面を切断して示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る電動機の構造を示す断面図である。
【図3】図2に示す永久磁石及びスリットの拡大図である。
【図4】コギング対策未実施の電動機の構造を示す断面図である。
【図5】ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機の構造を示す断面図である。
【図6】ロータにコギング対策のスリットおよびステータ側に擬似スロットを設けた電動機の構造を示す断面図である。
【図7】実施の形態1における電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図8】コギング対策未実施の電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図9】ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図10】ロータにコギング対策のスリット、ステータ側に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図11】実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の電動機およびその電動機を備えた圧縮機について図面を参照して説明する。
図1は実施の形態1に係る圧縮機の側面を切断して示す断面図である。
圧縮機1は、密閉容器2、密閉容器2内に収納された圧縮部200および電動機100、密閉容器2内の底部に貯留された冷凍機油(図示せず)などで構成されている。冷凍機油は、主に圧縮部200の摺動部を潤滑する。
【0013】
電動機100は、例えば永久磁石型モーターからなり、後述するが、周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータ3と、ステータ3の軸心を中心として、そのステータ3のティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータ4とを備えている。圧縮部200は、シリンダ5、上軸受6、下軸受7、回転軸8、ローリングピストン9、吐出マフラ10、ベーン(図示せず)などで構成されている。
【0014】
圧縮部200の構成は、回転軸8を除き一般的な圧縮機の構成と同じであり、以下に概略構成を説明する。
内部に圧縮室が形成されるシリンダ5は、外周が平面視でほぼ円形状に形成され、内部に平面視でほぼ円形状の空間であるシリンダ室が設けられている。そのシリンダ室は、軸方向の両端が開口している。シリンダ5は、側面視で所定の軸方向の高さを持つ。シリンダ5は、前述したシリンダ室に連通し、半径方向に延びる平行なベーン溝(図示せず)が軸方向に貫通して設けられる。また、ベーン溝の背面(外側)には、ベーン溝に連通する平面視でほぼ円形状の空間である背圧室(図示せず)が設けられている。
【0015】
シリンダ5には、冷凍サイクルからの吸入ガスが通る吸入ポート(図示せず)が、シリンダ5の外周面からシリンダ室に貫通している。シリンダ5には、シリンダ室を形成する円形の縁部付近(電動機100側の端面)を切り欠いた吐出ポート(図示せず)が設けられている。ローリングピストン9は、リング状に形成され、その孔に回転軸8の偏心軸部8aが摺動自在に嵌合されている。これにより、ローリングピストン9は、シリンダ室内を偏心回転する。
【0016】
ベーンは、シリンダ5のベーン溝内に収納され、背圧室に設けられたベーンスプリング(図示せず)により常にローリングピストン9に押し付けられている。圧縮機1は、密閉容器2内が高圧であるから、運転を開始するとベーンの背面(背圧室側)に密閉容器2内の高圧とシリンダ室の圧力との差圧による力が作用するので、ベーンスプリングは主に回転式圧縮機の起動時(密閉容器2内とシリンダ室の圧力に差がない状態)に、ベーンをローリングピストン9に押し付ける目的で使用される。ベーンの形状は、平たい(周方向の厚さが、径方向及び軸方向の長さよりも小さい)ほぼ直方体状に形成されている。
【0017】
上軸受6は、回転軸8の主軸部8b(偏心軸部8aより上の部分)に摺動自在に嵌合すると共に、シリンダ5のシリンダ室(ベーン溝も含む)の一方の端面(電動機100側)を閉塞する。下軸受7は、側面視でほぼT字状に形成され、回転軸8の副軸部8c(偏心軸部8aより下の部分)に摺動自在に嵌合すると共に、シリンダ5のシリンダ室(ベーン溝も含む)の他方の端面(冷凍機油側)を閉塞する。
【0018】
上軸受6には、その外側(電動機100側)に吐出マフラ10が取り付けられている。上軸受6の吐出弁から吐出される高温・高圧の吐出ガスは、一旦吐出マフラ10に入り、その後、吐出マフラ10の吐出穴(図示せず)から密閉容器2内に放出される。密閉容器2の横には、溶接等により密閉容器2の側面に固定された吸入マフラ11が設けられている。この吸入マフラ11は、シリンダ5の吸入ポートに吸入管12を介して接続されており、冷凍サイクル装置からの低圧の冷媒ガスを吸入し、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ5のシリンダ室に吸入されるのを抑制する。
【0019】
圧縮部200で圧縮された高温・高圧のガス冷媒は、吐出マフラ10の吐出穴から電動機100を通過し、密閉容器2の頂部に設けられた吐出管13から冷凍サイクル装置の冷媒回路(図示せず)へ吐出される。
【0020】
次に、前述した電動機100の構造について図2を用いて説明する。
図2は実施の形態1に係る電動機の構造を示す断面図、図3は図2に示す永久磁石及びスリットの拡大図である。
電動機100のステータ3は、薄い電磁鋼板を所定の形状に打ち抜いて軸心方向に積層された円筒状のステータコア31と、ステータコア31に設けられたスロット32間のティース33に巻き付けられたコイル(図示せず)とを有している。前述のスロット32は、ステータコア31の周方向に配置され、内周面に軸心方向に延びて設けられている。
【0021】
このティース33は、ステータコア31の外径側から内径側にかけてはほぼ平行の形状をなしており、その先端部が両サイドが周方向に拡がっている。また、ティース33の先端部には、軸心側が開放の凹状の疑似スロット34が設けられている。疑似スロット34は、スロットオープニングとほぼ等しい幅となっている。ティース33毎に設けられた疑似スロット34は、異なるピッチで設けられている。本実施の形態1においては、スロット32の数が18個、各ティース33の先端部に設けられた擬似スロット34の数が2個となっているが、スロット32の数と擬似スロット34の数はこの限りではない。
【0022】
電動機100のロータ4は、ステータ3の開口内に0.3〜0.8mm程度のエアギャップを有して設けられ、板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、軸心方向に積層して構成されるロータコア41と、ロータコア41の周方向に配置され、かつロータコア41の軸心方向に挿入された例えば6個の永久磁石42とを備えている。永久磁石42は、N極とS極とが交互になるようにロータコア41内に埋め込まれている。前述した圧縮機1にロータ4を搭載する場合は、圧縮機1の回転軸8をロータ4の軸孔に焼嵌又は圧入して固定する。
【0023】
前述のロータコア41には、永久磁石42が挿入される永久磁石挿入孔43と、永久磁石挿入孔43および永久磁石挿入孔43に対向するロータコア41の外周部の間に永久磁石挿入孔43の長手方向に沿って設けられ、ロータコア41の径方向に延びる複数個のスリット44とを備えている。この複数個のスリット44のロータコア41の外周部側の先端部からロータコア41の外周部までの長さは各々のスリット44で不均一になっている。永久磁石挿入孔43毎に設けられた各スリット44は、電磁鋼板毎に形成され、異なるピッチで配置されている。永久磁石挿入孔43は、図3に示すように、永久磁石42の長手方向の寸法より若干長く形成されている。なお、スリット44の数を9本としているが、スリット44の数はこの限りではない。
【0024】
次に、本実施の形態1のコギングトルクの低減効果をコギング対策未実施の電動機(図4参照)、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機(図5参照)、ロータにコギング対策のスリットおよびステータ側に擬似スロットを設けた電動機(図6参照)のコギングトルクと対比させながら説明する。なお、図4〜図6に示す符号は、図2で説明した実施の形態1と同様の部分である。
【0025】
図7(a)は本実施の形態1における電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図8(a)はコギング対策未実施の電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図9(a)はステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図10(a)はロータにコギング対策のスリット、ステータ側に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形を示す。
【0026】
本結果より、本実施の形態1の電動機は、図8(a)、図9(a)、図10(a)で示した従来の電動機と比較して、コギングトルクの波形が滑らかであり、コギングトルクのピーク値も低減していることが分かる。
【0027】
コギングトルクの周波数の分析結果を基に図2に示す本実施の形態1の電動機の構造に起因するコギングトルク(ステータ側のスロット数と磁極数の最小公倍数の整数倍)のピークレベルの低減効果を前述した従来の電動機と対比させながら説明する。
図7(b)は図7(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図8(b)は図8(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図9(b)は図9(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図10(b)は図10(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果を示す。
【0028】
まず、図8(b)と図9(b)を比較すると、ステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設けることで、スロット32の空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域が高次にシフトする効果で図5の電動機100の方が図4のコギング対策未実施の電動機100よりもピークレベルが低減している。
【0029】
次に、図9(b)と図10(b)を比較すると、高調波の次数18、36のピークレベルは、ステータ3のティース33の先端部に設けた擬似スロット34の効果に加え、ロータ4の永久磁石挿入孔43とロータ4の外周部の間にスリット44を設けたことによるエアギャップの磁束密度分布の平滑化の効果により、図6に示す電動機の方が図5の電動機よりピークレベルが低減している。しかし、高調波の次数54のピークレベルは、逆に図5の電動機より悪化している。これは、図6に示すように、スリット44のロータコア41の外周部側の先端部からその外周部までの長さ(スリット薄肉部)が薄く均一に構成されることにより、スリット薄肉部が磁気飽和し透磁率が低下することで、エアギャップの磁束密度分布に前述の次数54のピークを悪化させるリップルが発生しているためである。
【0030】
次に、図7(b)と図10(b)を比較すると、高調波の次数18、36のピークレベルは同等で、高調波の次数54のピークレベルは本実施の形態1の電動機100の方が低減している。これは、ロータ4に設けたスリット薄肉部の一部に厚みをもたせる(薄肉部不均一化)ことでスリット薄肉部の磁気飽和の影響を緩和し前述の次数54のピークレベルを悪化させるリップルを低減させた効果といえる。コギングトルクの特定次数でのピークはステータ3のスロット数、ステータ3のティース33先端に設けた擬似スロット34の数、磁極数、永久磁石挿入孔43のロータ4の外周部側に設けたスリット44の数に影響され、本実施の形態では、高調波の次数54のピークが発生したが、従来の電動機100では異なる次数でピークが発生し得る。しかし、いずれの場合においてもロータ4に設けたスリット薄肉部の厚みを不均一化することで特定次数でのコギングトルクのピークを低減することができる。
【0031】
以上のように実施の形態1によれば、N極とS極が交互に着磁された永久磁石42を用いた電動機100においては、ロータコア41の永久磁石挿入孔43とロータコア41の外周部の間に設けたスリット44の先端部(ロータコア41の外周部側)とロータコア41の外周部との間の長さを不均一にし、かつステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設けた構成としている。これにより、スロット32の空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石42の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、より一層コギングトルクを低減できる。また、ステータ3側に擬似スロット34、ロータ4側にスリット44(溝)を設けているため、磁束飽和を抑制することで鉄損を抑制しつつ擬似スロット34の効果が得られる。
【0032】
実施の形態2.
図11は実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す模式図である。なお、実施の形態1と同様に部分には同じ符号を付している。
実施の形態2に係る冷凍サイクル装置は、実施の形態1で説明した密閉型の圧縮機1を備えている。
【0033】
図11において、冷凍サイクル装置は、密閉型の圧縮機1、四方弁51、室外熱交換器52、絞り装置53、室内熱交換器54が冷媒配管により順次に接続されて構成されている。密閉型圧縮機1には、実施の形態1で説明した電動機100が搭載され、回転軸を介して圧縮部200と連結されている。四方弁51は、冷房運転時に図中に示す矢印の方向に冷媒が流れるように流路を切り替え、暖房運転時には室内熱交換器54側へ流れるように流路を切り替える。室外熱交換器52は、冷房運転のときには凝縮器として、暖房運転のときには蒸発器として作用する。室内熱交換器54は、冷房運転のときには蒸発器として、暖房運転のときには凝縮器として作用する。絞り装置53は、室外熱交換器52又は室内熱交換器54からの高圧低温の冷媒を減圧する。
【0034】
実施の形態2においては、冷凍サイクル装置に実施の形態1の電動機100が搭載された密閉型の圧縮機1を備えているので、振動や騒音が抑制された冷凍サイクル装置を提供できる。
【符号の説明】
【0035】
1 密閉型圧縮機、2 密閉容器、3 ステータ、31 ステータコア、32 スロット、33 ティース、34 疑似スロット、4 ロータ、41 ロータコア、42 永久磁石、43 永久磁石挿入孔、44 スリット、5 シリンダ、6 上軸受、7 下軸受、8 回転軸、8a 偏心軸部、8b 主軸部、8c 副軸部、9 ローリングピストン、10 吐出マフラ、11 吸入マフラ、12 吸入管、13 吐出管、100 電動機、200 圧縮部、51 四方弁、52 室外熱交換器、53 絞り装置、54 室内熱交換器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機である永久磁石型モーター、その永久磁石型モーターを備えた圧縮機、並びにその圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動・騒音の原因となるコギングトルクを抑制し、かつ高効率な圧縮機駆動用の永久磁石型モーターが知られている。
コギングトルクとは、突極性を有する永久磁石型モーターに必ず発生する力であり、無通電時にステータのティースとロータに配置された永久磁石との間に作用するロータの位置(回転角)に対する磁気吸引力の変化によって生ずるトルク脈動である。すなわち、ステータとロータ間の磁気抵抗が最小となる位置において、磁気的に最も安定しており、ロータがその位置に静止しようとする。さらに、その位置からロータを回転させるためには、磁気吸引力に打ち勝つだけのトルクが必要となる。しかし、一度ある速度で回転すると、正負のトルクが交番する振動トルクとなるために、コギングトルクの平均値は零となる。
【0003】
コギングトルクが発生すると、速度変動を生じ、ロータの軸を伝わり振動・騒音の原因となると共に、静止トルクのように作用してモーターの始動トルクを増大させる。それと同時に、ロータの回転によって磁束が変化し、そのためにヒステリシス損および渦電流損が存在する場合には、固体摩擦および粘性摩擦のように作用する。よって、コギングトルクの低減が要求される。このコギングトルクは、ステータとロータ間の磁気抵抗が回転角によって変化するために生じるものであり、磁束密度の2乗に比例するマクスウェルの応力に起因している。この磁気抵抗の変化は、ステータのスロット空間の高調波やロータに配置した永久磁石の磁束の高調波成分に大きく依存している。したがって、コギングトルクを低減するためには、ギャップ部の磁束密度の分布を円周方向に平滑化して、高調波成分を低減するのが望ましい。
【0004】
従来、コギングトルクを抑制する永久磁石型モーターとして、例えば、ロータに設けられた永久磁石の極中心に対して、磁石の両端部のエアギャップ長が大きくなるように磁石曲率を小さくし、かつステータのティースの先端部に擬似スロットを設けたものがある。
このような構造にすることで、ステータのティース先端部の擬似スロットによりスロットの空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石を極中心に対して磁石の両端部のエアギャップ長が大きくなるように磁石曲率を小さくしたことで永久磁石の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、コギングトルクが低減されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、従来の永久磁石型モーターとして、ステータのティースの内周側の先端部に一つ又は複数の溝であるステータ側の擬似スロットが軸方向に沿って設けられ、ロータは、回転軸を中心として複数のポールピースが等間隔に放射状に配され、ポールピースの外周側の先端部に、一つ又は複数の溝であるロータ側の擬似スロットが軸方向に沿って設けられたものがある。ステータのティースおよびロータのポールピースの先端部に溝を設けることにより、擬似的にスロット数が増え、スロット高調波の分散を図ることができる。すなわち、スロットの高調波の次数を高周波領域に移行させ、特定のスロットの高調波が重複して発生しないようにしている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−136001号公報(第3−4頁、図1−図3)
【特許文献2】特開2006−67708号公報(第4−6頁、図1−図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来の永久磁石型モーターは、以上のように構成することで、スロットの高調波に起因する振動・騒音を低減している。しかし、スロットの高調波に起因する振動・騒音のさらなる低減には、前述した永久磁石型モーターの構造では課題がある。
特許文献1に記載の永久磁石型モーターでは、擬似スロットの効果を高めるために擬似スロットの数を増やした場合、擬似スロットの幅が狭くなることで磁路が狭くなり鉄損が増大することが予想される。
また、特許文献2に記載の永久磁石型モーターでは、ステータ、ロータの双方に溝を設けることで擬似スロット数を増やしているため、一方に溝を設けるよりも磁路が狭くなることを抑制することができる。しかし、その構造では、スロットの高調波の次数を高周波領域に移行させるだけであって、エアギャップの磁束密度の分布の平滑化は不十分である。
【0008】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたもので、ステータのティースの先端部に疑似スロットを設けても鉄損を抑制でき、磁束密度の分布の平滑化が図れ、よりコギングトルクを低減できる電動機および圧縮機並びに冷凍サイクル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電動機は、周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータと、ステータの軸心を中心として、そのステータのティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータとを備え、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータの外周部の間に径方向に延びるスリットを設け、スリットのロータの外周部側の先端からロータの外周部までの長さを不均一にしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向するロータの外周部の間に径方向に伸びるスリットを設け、スリットのロータの外周部側の先端からロータの外周部までの長さを不均一にしたので、スロットの空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、より一層コギングトルクを低減できる。また、ステータ側に擬似スロット、ロータ側にスリットを設けているため、磁束飽和を抑制することで鉄損を抑制しつつ擬似スロットの効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施の形態1に係る圧縮機の側面を切断して示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る電動機の構造を示す断面図である。
【図3】図2に示す永久磁石及びスリットの拡大図である。
【図4】コギング対策未実施の電動機の構造を示す断面図である。
【図5】ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機の構造を示す断面図である。
【図6】ロータにコギング対策のスリットおよびステータ側に擬似スロットを設けた電動機の構造を示す断面図である。
【図7】実施の形態1における電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図8】コギング対策未実施の電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図9】ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図10】ロータにコギング対策のスリット、ステータ側に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形およびその波形を周波数分析した結果を示す図である。
【図11】実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
以下、本発明の電動機およびその電動機を備えた圧縮機について図面を参照して説明する。
図1は実施の形態1に係る圧縮機の側面を切断して示す断面図である。
圧縮機1は、密閉容器2、密閉容器2内に収納された圧縮部200および電動機100、密閉容器2内の底部に貯留された冷凍機油(図示せず)などで構成されている。冷凍機油は、主に圧縮部200の摺動部を潤滑する。
【0013】
電動機100は、例えば永久磁石型モーターからなり、後述するが、周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータ3と、ステータ3の軸心を中心として、そのステータ3のティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータ4とを備えている。圧縮部200は、シリンダ5、上軸受6、下軸受7、回転軸8、ローリングピストン9、吐出マフラ10、ベーン(図示せず)などで構成されている。
【0014】
圧縮部200の構成は、回転軸8を除き一般的な圧縮機の構成と同じであり、以下に概略構成を説明する。
内部に圧縮室が形成されるシリンダ5は、外周が平面視でほぼ円形状に形成され、内部に平面視でほぼ円形状の空間であるシリンダ室が設けられている。そのシリンダ室は、軸方向の両端が開口している。シリンダ5は、側面視で所定の軸方向の高さを持つ。シリンダ5は、前述したシリンダ室に連通し、半径方向に延びる平行なベーン溝(図示せず)が軸方向に貫通して設けられる。また、ベーン溝の背面(外側)には、ベーン溝に連通する平面視でほぼ円形状の空間である背圧室(図示せず)が設けられている。
【0015】
シリンダ5には、冷凍サイクルからの吸入ガスが通る吸入ポート(図示せず)が、シリンダ5の外周面からシリンダ室に貫通している。シリンダ5には、シリンダ室を形成する円形の縁部付近(電動機100側の端面)を切り欠いた吐出ポート(図示せず)が設けられている。ローリングピストン9は、リング状に形成され、その孔に回転軸8の偏心軸部8aが摺動自在に嵌合されている。これにより、ローリングピストン9は、シリンダ室内を偏心回転する。
【0016】
ベーンは、シリンダ5のベーン溝内に収納され、背圧室に設けられたベーンスプリング(図示せず)により常にローリングピストン9に押し付けられている。圧縮機1は、密閉容器2内が高圧であるから、運転を開始するとベーンの背面(背圧室側)に密閉容器2内の高圧とシリンダ室の圧力との差圧による力が作用するので、ベーンスプリングは主に回転式圧縮機の起動時(密閉容器2内とシリンダ室の圧力に差がない状態)に、ベーンをローリングピストン9に押し付ける目的で使用される。ベーンの形状は、平たい(周方向の厚さが、径方向及び軸方向の長さよりも小さい)ほぼ直方体状に形成されている。
【0017】
上軸受6は、回転軸8の主軸部8b(偏心軸部8aより上の部分)に摺動自在に嵌合すると共に、シリンダ5のシリンダ室(ベーン溝も含む)の一方の端面(電動機100側)を閉塞する。下軸受7は、側面視でほぼT字状に形成され、回転軸8の副軸部8c(偏心軸部8aより下の部分)に摺動自在に嵌合すると共に、シリンダ5のシリンダ室(ベーン溝も含む)の他方の端面(冷凍機油側)を閉塞する。
【0018】
上軸受6には、その外側(電動機100側)に吐出マフラ10が取り付けられている。上軸受6の吐出弁から吐出される高温・高圧の吐出ガスは、一旦吐出マフラ10に入り、その後、吐出マフラ10の吐出穴(図示せず)から密閉容器2内に放出される。密閉容器2の横には、溶接等により密閉容器2の側面に固定された吸入マフラ11が設けられている。この吸入マフラ11は、シリンダ5の吸入ポートに吸入管12を介して接続されており、冷凍サイクル装置からの低圧の冷媒ガスを吸入し、液冷媒が戻る場合に液冷媒が直接シリンダ5のシリンダ室に吸入されるのを抑制する。
【0019】
圧縮部200で圧縮された高温・高圧のガス冷媒は、吐出マフラ10の吐出穴から電動機100を通過し、密閉容器2の頂部に設けられた吐出管13から冷凍サイクル装置の冷媒回路(図示せず)へ吐出される。
【0020】
次に、前述した電動機100の構造について図2を用いて説明する。
図2は実施の形態1に係る電動機の構造を示す断面図、図3は図2に示す永久磁石及びスリットの拡大図である。
電動機100のステータ3は、薄い電磁鋼板を所定の形状に打ち抜いて軸心方向に積層された円筒状のステータコア31と、ステータコア31に設けられたスロット32間のティース33に巻き付けられたコイル(図示せず)とを有している。前述のスロット32は、ステータコア31の周方向に配置され、内周面に軸心方向に延びて設けられている。
【0021】
このティース33は、ステータコア31の外径側から内径側にかけてはほぼ平行の形状をなしており、その先端部が両サイドが周方向に拡がっている。また、ティース33の先端部には、軸心側が開放の凹状の疑似スロット34が設けられている。疑似スロット34は、スロットオープニングとほぼ等しい幅となっている。ティース33毎に設けられた疑似スロット34は、異なるピッチで設けられている。本実施の形態1においては、スロット32の数が18個、各ティース33の先端部に設けられた擬似スロット34の数が2個となっているが、スロット32の数と擬似スロット34の数はこの限りではない。
【0022】
電動機100のロータ4は、ステータ3の開口内に0.3〜0.8mm程度のエアギャップを有して設けられ、板厚が0.1〜1.5mmの電磁鋼板を所定の形状に打ち抜き、軸心方向に積層して構成されるロータコア41と、ロータコア41の周方向に配置され、かつロータコア41の軸心方向に挿入された例えば6個の永久磁石42とを備えている。永久磁石42は、N極とS極とが交互になるようにロータコア41内に埋め込まれている。前述した圧縮機1にロータ4を搭載する場合は、圧縮機1の回転軸8をロータ4の軸孔に焼嵌又は圧入して固定する。
【0023】
前述のロータコア41には、永久磁石42が挿入される永久磁石挿入孔43と、永久磁石挿入孔43および永久磁石挿入孔43に対向するロータコア41の外周部の間に永久磁石挿入孔43の長手方向に沿って設けられ、ロータコア41の径方向に延びる複数個のスリット44とを備えている。この複数個のスリット44のロータコア41の外周部側の先端部からロータコア41の外周部までの長さは各々のスリット44で不均一になっている。永久磁石挿入孔43毎に設けられた各スリット44は、電磁鋼板毎に形成され、異なるピッチで配置されている。永久磁石挿入孔43は、図3に示すように、永久磁石42の長手方向の寸法より若干長く形成されている。なお、スリット44の数を9本としているが、スリット44の数はこの限りではない。
【0024】
次に、本実施の形態1のコギングトルクの低減効果をコギング対策未実施の電動機(図4参照)、ステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機(図5参照)、ロータにコギング対策のスリットおよびステータ側に擬似スロットを設けた電動機(図6参照)のコギングトルクと対比させながら説明する。なお、図4〜図6に示す符号は、図2で説明した実施の形態1と同様の部分である。
【0025】
図7(a)は本実施の形態1における電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図8(a)はコギング対策未実施の電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図9(a)はステータのティースの先端部に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形、図10(a)はロータにコギング対策のスリット、ステータ側に擬似スロットを設けた電動機のロータの角度変化に対するコギングトルクの波形を示す。
【0026】
本結果より、本実施の形態1の電動機は、図8(a)、図9(a)、図10(a)で示した従来の電動機と比較して、コギングトルクの波形が滑らかであり、コギングトルクのピーク値も低減していることが分かる。
【0027】
コギングトルクの周波数の分析結果を基に図2に示す本実施の形態1の電動機の構造に起因するコギングトルク(ステータ側のスロット数と磁極数の最小公倍数の整数倍)のピークレベルの低減効果を前述した従来の電動機と対比させながら説明する。
図7(b)は図7(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図8(b)は図8(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図9(b)は図9(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果、図10(b)は図10(a)に示すコギングトルクの波形を周波数分析した結果を示す。
【0028】
まず、図8(b)と図9(b)を比較すると、ステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設けることで、スロット32の空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域が高次にシフトする効果で図5の電動機100の方が図4のコギング対策未実施の電動機100よりもピークレベルが低減している。
【0029】
次に、図9(b)と図10(b)を比較すると、高調波の次数18、36のピークレベルは、ステータ3のティース33の先端部に設けた擬似スロット34の効果に加え、ロータ4の永久磁石挿入孔43とロータ4の外周部の間にスリット44を設けたことによるエアギャップの磁束密度分布の平滑化の効果により、図6に示す電動機の方が図5の電動機よりピークレベルが低減している。しかし、高調波の次数54のピークレベルは、逆に図5の電動機より悪化している。これは、図6に示すように、スリット44のロータコア41の外周部側の先端部からその外周部までの長さ(スリット薄肉部)が薄く均一に構成されることにより、スリット薄肉部が磁気飽和し透磁率が低下することで、エアギャップの磁束密度分布に前述の次数54のピークを悪化させるリップルが発生しているためである。
【0030】
次に、図7(b)と図10(b)を比較すると、高調波の次数18、36のピークレベルは同等で、高調波の次数54のピークレベルは本実施の形態1の電動機100の方が低減している。これは、ロータ4に設けたスリット薄肉部の一部に厚みをもたせる(薄肉部不均一化)ことでスリット薄肉部の磁気飽和の影響を緩和し前述の次数54のピークレベルを悪化させるリップルを低減させた効果といえる。コギングトルクの特定次数でのピークはステータ3のスロット数、ステータ3のティース33先端に設けた擬似スロット34の数、磁極数、永久磁石挿入孔43のロータ4の外周部側に設けたスリット44の数に影響され、本実施の形態では、高調波の次数54のピークが発生したが、従来の電動機100では異なる次数でピークが発生し得る。しかし、いずれの場合においてもロータ4に設けたスリット薄肉部の厚みを不均一化することで特定次数でのコギングトルクのピークを低減することができる。
【0031】
以上のように実施の形態1によれば、N極とS極が交互に着磁された永久磁石42を用いた電動機100においては、ロータコア41の永久磁石挿入孔43とロータコア41の外周部の間に設けたスリット44の先端部(ロータコア41の外周部側)とロータコア41の外周部との間の長さを不均一にし、かつステータ3のティース33の先端部に擬似スロット34を設けた構成としている。これにより、スロット32の空間高調波が分散されてコギングトルクの周波数帯域を高次側に分散してシフトできるという効果に加え、永久磁石42の極間部の磁力の変化を滑らかにでき、磁力が急峻に変化するのを抑制できるという効果が重畳されるため、それぞれの効果を単独で作用させる場合と比べて、より一層コギングトルクを低減できる。また、ステータ3側に擬似スロット34、ロータ4側にスリット44(溝)を設けているため、磁束飽和を抑制することで鉄損を抑制しつつ擬似スロット34の効果が得られる。
【0032】
実施の形態2.
図11は実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の冷媒回路を示す模式図である。なお、実施の形態1と同様に部分には同じ符号を付している。
実施の形態2に係る冷凍サイクル装置は、実施の形態1で説明した密閉型の圧縮機1を備えている。
【0033】
図11において、冷凍サイクル装置は、密閉型の圧縮機1、四方弁51、室外熱交換器52、絞り装置53、室内熱交換器54が冷媒配管により順次に接続されて構成されている。密閉型圧縮機1には、実施の形態1で説明した電動機100が搭載され、回転軸を介して圧縮部200と連結されている。四方弁51は、冷房運転時に図中に示す矢印の方向に冷媒が流れるように流路を切り替え、暖房運転時には室内熱交換器54側へ流れるように流路を切り替える。室外熱交換器52は、冷房運転のときには凝縮器として、暖房運転のときには蒸発器として作用する。室内熱交換器54は、冷房運転のときには蒸発器として、暖房運転のときには凝縮器として作用する。絞り装置53は、室外熱交換器52又は室内熱交換器54からの高圧低温の冷媒を減圧する。
【0034】
実施の形態2においては、冷凍サイクル装置に実施の形態1の電動機100が搭載された密閉型の圧縮機1を備えているので、振動や騒音が抑制された冷凍サイクル装置を提供できる。
【符号の説明】
【0035】
1 密閉型圧縮機、2 密閉容器、3 ステータ、31 ステータコア、32 スロット、33 ティース、34 疑似スロット、4 ロータ、41 ロータコア、42 永久磁石、43 永久磁石挿入孔、44 スリット、5 シリンダ、6 上軸受、7 下軸受、8 回転軸、8a 偏心軸部、8b 主軸部、8c 副軸部、9 ローリングピストン、10 吐出マフラ、11 吸入マフラ、12 吸入管、13 吐出管、100 電動機、200 圧縮部、51 四方弁、52 室外熱交換器、53 絞り装置、54 室内熱交換器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータと、
前記ステータの軸心を中心として当該ステータのティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータとを備え、
前記ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、
前記ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向する前記ロータの外周部の間に径方向に延びるスリットを設け、
前記スリットの前記ロータの外周部側の先端から当該ロータの外周部までの長さを不均一にしたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記ステータのティースの先端部に設けられた擬似スロットと前記ロータに設けられたスリットとが異なるピッチで設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電動機を備えたことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項3記載の圧縮機を備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項1】
周方向に設けられたスロット、隣接するスロットの間に形成されたティースおよびティースに巻回されたコイルを有する円筒状のステータと、
前記ステータの軸心を中心として当該ステータのティースの先端部とエアギャップを介して設けられ、周方向に設けられた永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔に挿入された永久磁石を有するロータとを備え、
前記ステータのティースの先端部に擬似スロットを設け、
前記ロータの永久磁石挿入孔および永久磁石挿入孔と対向する前記ロータの外周部の間に径方向に延びるスリットを設け、
前記スリットの前記ロータの外周部側の先端から当該ロータの外周部までの長さを不均一にしたことを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記ステータのティースの先端部に設けられた擬似スロットと前記ロータに設けられたスリットとが異なるピッチで設けられていることを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
請求項1又は2記載の電動機を備えたことを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項3記載の圧縮機を備えたことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−147313(P2011−147313A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8236(P2010−8236)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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