説明

電動機および空調機

【課題】安価にベアリングの電食を抑制可能な電動機および空調機を得る。
【解決手段】モールドフレーム10内に配設されたステータ2と、ステータ2と対向して回転軸9に周設された永久磁石6を有する回転子5と、モールドフレーム10の両端に配設され回転軸9を支持する一対のブラケット(モールドブラケット11、金属ブラケット12)と、このブラケットに装着され回転軸9を支持する一対のベアリング13、15と、を備え、各ベアリング13、15間における回転軸9の表面には回転軸9の抵抗率よりも高い抵抗率の抵抗体18が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機およびこれを用いた空調機に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機に搭載される送風機用電動機(以下単に「電動機」と称する)は、構造的利便性などの観点から、インバータを内蔵したものが多く存在する。この電動機をインバータで駆動する場合、インバータのスイッチングに伴い、回転子軸端間、あるいは固定子(ステータ)に巻回された巻線と固定子のコア(ステータコア)との間に、電圧が誘起されることが知られている。ここで、回転軸を支持するベアリングが、内輪、外輪、および転動体で構成されたベアリングである場合、前記の電圧は、内輪と外輪との間に印加され、ベアリング内部に放電を生じ、電食と呼ばれる不具合を引き起こす虞がある。そのため、インバータ駆動の電動においては、このような電食を防止するための構造的な対策が種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1に記載の技術は、フレームに装着される2つのベアリングの外輪を電気的に接続し、巻線とステータコアとの間に発生した電圧をベアリングに伝えないように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−158152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術には、ブラケットおよびフレームの構造を変更する必要があり、従来型の電動機を製造するための設備の共用化が困難となるため、コストが増大するという課題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安価にベアリングの電食を抑制可能な電動機および空調機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、フレーム内に配設された固定子と、前記固定子と対向して回転軸に周設された永久磁石を有する回転子と、前記フレームの両端に配設され前記回転軸を支持する一対のブラケットと、前記ブラケットに装着され前記回転軸を支持する一対のベアリングと、を備え、前記各ベアリング間における前記回転軸の表面には、前記回転軸の抵抗率よりも高い抵抗率の抵抗体が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、支持部材の材料変更のみで放電電流を抑制するようにしたので、安価にベアリングの電食を抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる電動機の断面図である。
【図2】図2は、ベアリングに流れる放電電流の経路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかる電動機および空調機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかる電動機の断面図である。図1に示される電動機1は、主たる構成として、ステータ2と、ロータ5と、回転軸9と、ベアリング13と、ベアリング15と、ステータ2へ回転磁界を発生させるためのインバータ8と、モールドフレーム10と、モールドブラケット11と、金属ブラケット12とを有して構成されている。
【0012】
ステータ2は、ステータコア4をインシュレータ14にて覆い、かつ、巻線3を巻回した構造であり、インバータ8のスイッチングに伴い回転磁界を発生する。
【0013】
ロータ5は、ステータ2と対向して回転軸9に周設された永久磁石6と、回転軸9と永久磁石6との間に配設され樹脂で形成された円環状の支持部材7とを有して構成されている。そして、ロータ5は、ステータ2からの回転磁界によって回転力を得て回転軸9にトルクを伝達し、回転軸9に設けられた図示しない負荷(例えば空調機の室内機に内蔵されるファン)を駆動する。
【0014】
永久磁石6は、所定の保持力を有する磁性材料(例えば硬磁性材料)で構成されている。支持部材7は、永久磁石6を回転軸9へ機械的に固定する。モールドフレーム10は、インバータ8と一体的に形成され、ステータ2およびロータ5を内包する。
【0015】
モールドフレーム10は、インバータ8と一体的に形成され、ステータ2およびロータ5を内包する。モールドブラケット11は、モールドフレーム10の上部側(図1の上側)にてモールドフレーム10と一体的に形成され、ベアリング13の外輪aを取り囲んで支持する。金属ブラケット12は、モールドフレーム10の下部(図1の下側)側にてモールドフレーム10と一体的に形成され、ベアリング15の外輪aを取り囲んで支持する。
【0016】
ベアリング13は、回転軸9と一体回転する内輪bと、モールドブラケット11に設けられた外輪aと、内輪bの回転方向に所定間隔を保持しつつ配設され内輪bと外輪aとの間に転動自在に配置された複数の転動体cとで構成されている。ベアリング15も同様に、内輪bと、金属ブラケット12に設けられた外輪aと、複数の転動体cとで構成されている。
【0017】
次に、電食の発生原理と電食の抑制機構に関して説明する。
【0018】
図2は、ベアリング13、15に流れる放電電流の経路を説明するための図である。電動機1をインバータ8で駆動する場合、印加される電源に不平衡が生じたり、ステータ2に施された各相の巻線3に不平衡が生じることによって、インバータ8のスイッチングに伴い、回転軸9の軸端間等に電圧が誘起される。この電圧がベアリング13、15内部の油膜の絶縁破壊電圧を超えたとき、ベアリング13、15の内部には微小電流(放電電流)が流れる。そして、この放電電流が、ベアリング13、15の内部に電食を発生させる。電食が進行した場合、内輪b、外輪a、または転動体cに、波状の摩耗現象が発生し、この摩耗現象に起因した異常音が電動機における不具合の主要因の1つとなっている。
【0019】
図2には、放電電流の経路の一例が示され、放電電流は、実線に示すような「経路A」で電動機1内を流れ、インバータ8、モールドブラケット11、ベアリング13、回転軸9、ベアリング15、金属ブラケット12、ステータ2、および巻線3の導体を通流する。なお、点線で示される「経路B」のように、放電電流がロータ5からステータ2に直接流れる経路も考えられるが、本実施の形態では、支持部材7が樹脂などの電気的な絶縁物であるため、ロータ5内のラジアル方向のインピーダンスが高く、放電経路としては無視できる。従って、以下の説明では、実線で示される経路Aを放電経路として説明する。
【0020】
小型の送風用電動機での放電電流の共振周波数は、数十MHz〜数百MHzとなることから、この共振周波数近傍で回転軸9に流れる電流を抑制することによって放電電流が素早く減少し、電食を抑止することが可能となる。一方、導体(例えば回転軸9)に高周波電流が流れるとき、その高周波電流は、周波数が高くなるに従って導体の表面に近いところを密集して流れるが、表面から離れるほど(中心部に近いほど)交流抵抗が高まるため殆ど流れない。この現象は、表皮効果と呼ばれ、導体の中心付近に電流が流れるとき、その直角方向に磁界が生じてこの磁界の密度が導体の中心部ほど強くなり、その磁界による逆起電力が発生して電流の流れを阻止する方向に働く。このように、高周波電流(すなわち放電電流)は、導体の表面に多く流れるため、この導体の表面に抵抗体18を設けることによって高周波電流を低減することができれば、抵抗体18が無い場合に比べてベアリング13、15の内部の電食を抑制することが可能である。
【0021】
本実施の形態にかかる電動機1では、各ベアリング13、15間における回転軸9の表面に、回転軸9の抵抗率よりも高い抵抗率の抵抗体が施されている。回転軸9の表面とは、回転軸9の外周面から回転軸9の中心線20に向かう所定厚さである。この所定厚さは、特に限定されるものではないが、例えば表皮深さd(電流が導体表面に流れる電流の1/e(約37%)になる導体表面からの距離であり、d=(2ρ/ωμ)1/2(ρ:導体の抵抗率、ω:電流の角速度=2πf、μ:導体の透磁率)で定義される)以上の厚みであることが望ましい。例えば、導体が鉄であり、かつ、高周波電流の周波数が100MHzの場合における表皮深さdは、約15.92μmであるので、回転軸9が鉄製の場合、所定厚さは、15.92μm以上となる。
【0022】
本実施の形態にかかる抵抗体18は、例えば、回転軸9の表面を焼鈍することでも得られるし、回転軸9の表面に炭素皮膜抵抗など形成することでも得られる。抵抗体18の位置について説明すると、例えば、図1に示されるように支持部材7と回転軸9との間に全体的に設けてよい。このように抵抗体18を設けることによって、回転軸9の表面に流れる放電電流を効果的に抑制することができる。
【0023】
また、他の実施例としては、抵抗体18を回転子5とベアリング13との間、または回転子5とベアリング15との間に設けてもよい。このように抵抗体18を設けることによって、回転子5とベアリング13との間、または回転子5とベアリング15との間に設けられた隙間を有効に利用して放電電流を効果的に抑制することができると共に、支持部材7と回転軸9との間に抵抗体18を全体的に設ける場合に比べて加工工数を減らすことができる。
【0024】
また、他の実施例としては、抵抗体18を回転子5と支持部材7との間に設けてもよい。この実施例は、例えば回転子5とベアリング13との間または回転子5とベアリング15との間に隙間が殆ど設けられていない電動機1などに有効であり、このように抵抗体18を設けた場合でも、放電電流を効果的に抑制することができると共に、支持部材7と回転軸9との間に抵抗体18を全体的に設ける場合に比べて加工工数を減らすことができる。
【0025】
以下、動作を説明する。インバータ8のスイッチングに伴い、回転軸9の軸端間等に電圧が誘起されることによって生じた放電電流は、回転軸9の表面に流れるが、この放電電流は、回転軸9の表面に設けられた抵抗体18によってその流れが妨げられる。その結果、ベアリング13、15の内部における電食が抑制される。
【0026】
なお、上記説明では、電動機1を空調機の室内機に適用した場合に関して説明したが、これに限定されるものではなく、電動機1は室外機にも適用可能である。
【0027】
以上に説明したように、本実施の形態にかかる電動機1は、モールドフレーム(フレーム)10内に配設されたステータ(固定子)2と、ステータ2と対向して回転軸9に周設された永久磁石6を有する回転子5と、モールドフレーム10の両端に配設され回転軸9を支持する一対のブラケット(モールドブラケット11、金属ブラケット12)と、このブラケット(モールドブラケット11、金属ブラケット12)に装着され回転軸9を支持する一対のベアリング13、15と、を備え、各ベアリング13、15間における回転軸9の表面には回転軸9の抵抗率よりも高い抵抗率の抵抗体が施されているので、電食の要因となる放電電流を効果的に減衰させることが可能である。従来では、電食の耐力を向上させるため、ブラケットおよびフレームの構造を変更する手法や、回転軸9とベアリング13、15の内輪bとの間に絶縁スリーブを介在させる手法や、ベアリング13、15の転動体cにセラミックを用いる技術や、ベアリング13、15と回転子鉄心との間における軸の外周部にヒステリシス損の大きい磁性材料を固着させる技術などが存在する。ただしこれらの手法では、製造コストが増大を招き、あるいは電動機が大型化するという課題があった。本実施の形態にかかる電動機1は、回転軸9に抵抗体18を設けるのみで放電電流を抑制することができるため、電動機1の製造設備の共通化が可能である。その結果、安価にベアリング13、15の電食を抑制することが可能である。
【0028】
また、本実施の形態にかかる抵抗体18は、回転子5とベアリング13との間(または回転子5とベアリング15との間)に設けるようにしたので、回転子5とベアリング13との間(または回転子5とベアリング15との間)に設けられた隙間を有効に利用して放電電流を効果的に抑制することができると共に、支持部材7と回転軸9との間に抵抗体18を全体的に設ける場合に比べて加工工数を減らすことができる。
【0029】
また、本実施の形態にかかる電動機1は、永久磁石6を支持可能に回転軸9と永久磁石6との間に配設される支持部材7を有し、抵抗体18は、回転子5と支持部材7との間に設けるようにしたので、回転子5とベアリング13との間(または回転子5とベアリング15との間)に隙間が殆ど設けられていない電動機1における放電電流を、効果的に抑制することができると共に、支持部材7と回転軸9との間に抵抗体18を全体的に設ける場合に比べて加工工数を減らすことができる。
【0030】
また、本実施の形態にかかる空調機は、電動機1を室内機ファン駆動用電動機として備えるようにしたので、ベアリング13、15の電食による騒音を軽減することができる。特に、ベアリング13、15の電食によって問題となるのは騒音であり、空調機の室内機は、居住空間で長時間使用するために静音性が求められ、電食の耐力を向上することが製品の信頼性に大きく寄与するからである。
【0031】
なお、本発明の実施の形態にかかる電動機および空調機は、本発明の内容の一例を示すものであり、更なる別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略するなど、変更して構成することも可能であることは無論である。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明は、電動機に適用可能であり、特に、寸法を変更することなく、かつ、安価にベアリングの電食を抑制可能な発明として有用である。
【符号の説明】
【0033】
1 電動機
2 ステータ(固定子)
3 巻線
4 ステータコア
5 ロータ(回転子)
6 永久磁石
7 支持部材
8 インバータ
9 回転軸
10 モールドフレーム
11 モールドブラケット
12 金属ブラケット
13、15 ベアリング
14 インシュレータ
18 抵抗体
20 中心線
A、B 放電電流の経路
a 外輪
b 内輪
c 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム内に配設された固定子と、
前記固定子と対向して回転軸に周設された永久磁石を有する回転子と、
前記フレームの両端に配設され前記回転軸を支持する一対のブラケットと、
前記ブラケットに装着され前記回転軸を支持する一対のベアリングと、
を備え、
前記各ベアリング間における前記回転軸の表面には、前記回転軸の抵抗率よりも高い抵抗率の抵抗体が施されていることを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記抵抗体は、前記回転子と前記ベアリングとの間に設けられることを特徴とする請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記永久磁石を支持可能に前記回転軸と前記永久磁石との間に配設される支持部材を有し、
前記抵抗体は、前記回転子と前記支持部材との間に設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1つに記載の電動機を、室内機ファン駆動用電動機として備えた空調機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−244820(P2012−244820A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113882(P2011−113882)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】