説明

電動機の冷却機構

【課題】ロータとステータの間に冷却液が入り難く、ロータの回転抵抗を増加させることなく冷却液によりステータを冷却できる低コストの電動機の冷却機構を提供する。
【解決手段】電動機20に装備され、ロータ22の回転軸部25内に形成されたオイル導入通路32からステータ21のコイルエンド部24a、24bに冷却液を供給する電動機の冷却機構であって、回転軸部25に、ロータ22の両端面22c、22dより軸方向外方側でコイルエンド部24a、24bの近傍に向って開口する冷却液噴出孔33、34が形成され、コイルエンド部24a、24bの近傍に、オイルの流動方向をコイルエンド部24a、24bに向う方向に変化させる偏向部材41が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の冷却機構に関し、特にロータの軸心部に導入した冷却液をステータコイル側に供給するようにした電動機の冷却機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行駆動装置に用いられるインホイールモータ等の電動機、エンジンと共にハイブリッド駆動装置を構成する発電電動機、あるいはエンジンに装着される発電機等の電動機においては、ステータ等の発熱部からの放熱が容易でない場合が多く、エンジンの内部や歯車伝動機構の潤滑・冷却油あるいは油圧作動アクチュエータ等の作動油を冷却液に用いてその発熱部を冷却する冷却機構を備えるものがある。
【0003】
この種の電動機の冷却機構としては、例えばロータの端部にステータコイルのコイルエンド部の内周面に向って開口する冷却流体通路を設け、ロータの軸心部に導入したオイルをその冷却流体通路を通してステータコイルのコイルエンド部の内周面に向けて流出させるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、クランク軸の端部に装着されたカップ状のフライホイルの内周部に永久磁石を装着する一方、その永久磁石とフライホイルのボス部との間に位置するようクランクケース側のカバーにステータを支持させた内燃機関用の発電機において、クランク軸の軸心部に導入されるオイルをステータのコイルエンド部に向けて噴射する噴射穴を、フライホイルのボス部に形成したものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、ロータの軸心部に導入されるオイルをロータの端面部に形成されたオイル噴射孔から噴射させることで、ステータコイルエンドの内周部に冷却液としてのオイルを供給するものがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平01−113561号公報
【特許文献2】特開2001−37160号公報
【特許文献3】特開2005−6428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来の電動機の冷却機構にあっては、ロータの軸心側から発熱部であるステータのコイルエンド部の内周面側に冷却用のオイルを供給するものであったため、冷却用のオイルがロータとステータの間に入り易く、特にロータが高速回転する場合にそのオイルによるロータの引きずり抵抗や攪拌抵抗が増大し、動力損失が大きくなるという問題があった。
【0008】
また、ステータの軸方向範囲内となるロータの本体部にオイルの噴出孔を設けていたため、オイル通路が長くなり、コスト高になっていた。
【0009】
そこで、本発明は、ロータとステータの間に冷却液が入り難く、ロータの回転抵抗を増加させることなく冷却液によりステータを冷却することのできる低コストの電動機の冷却機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る電動機の冷却機構は、上記課題を解決するため、(1)ケースの内部にステータおよび該ステータに対し回転するロータを有する電動機に装備され、前記ロータの軸部内に形成された冷却液導入通路に冷却液を導入して、該冷却液導入通路から前記ステータに前記冷却液を供給する電動機の冷却機構であって、前記ロータの軸部に、前記冷却液導入通路に連通するとともに、前記ロータの両端面より軸方向の外方側で前記ステータの端部の近傍に向って開口するよう冷却液噴出孔が形成されるとともに、前記ステータの端部の近傍に、前記冷却液噴出孔から噴出したオイルの流動方向を放射外方向から前記ステータの端部に向う方向に変化させる偏向部材が設けられ、前記ステータの端部の内周側には、前記ステータの端部に供給された前記冷却液の流動方向を前記ステータと前記ロータとの間の隙間から離隔させる方向に規制する流動方向規制部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
この構成により、電動機が作動するとき、ロータの両端面より軸方向の外方側でロータの軸部の冷却液噴出孔から冷却液が噴出され、ステータの端部の近傍に配された偏向部材により、その冷却液の流動方向が放射外方向からステータの端部に向う流動方向に偏向され、ステータの端部に冷却液が供給される。したがって、ロータの回転抵抗が冷却液の引きずりによって増加することがなく、冷却液によりステータを十分に冷却することが可能になる。しかも、ロータの軸部に形成される冷却液導入通路には歯車潤滑用のオイルあるいは油圧作動アクチュエータの作動用のオイルを冷却液として容易に導入可能となる。
【0012】
上記(1)に記載の電動機の冷却機構においては、(2)前記ステータの端部の内周側には、前記ステータの端部に供給された前記冷却液の流動方向を前記ステータと前記ロータとの間の隙間から離隔させる方向に規制する流動方向規制部材が設けられているのが好ましい。
【0013】
この構成により、ステータの端部の内周側では、流動方向規制部材によって冷却液の流動方向がステータとロータとの間の隙間から離隔する方向に規制されることから、ステータとロータとの間の隙間に冷却液が入ることがない。
【0014】
上記(1)、(2)に記載の電動機の冷却機構においては、(3)前記偏向部材が、前記ステータの端部の近傍に、前記ステータの端部から離れるほど前記ロータの軸部に接近するよう前記ロータの回転中心軸線に対し傾斜した傾斜面部を有するのが好ましい。
【0015】
この構成により、冷却液噴出孔側からステータの端部の近傍に向って噴射された冷却液が偏向部材の傾斜面部に当たり、その流動方向が放射外方向からステータの端部に向う方向に確実に変化する。
【0016】
上記(3)に記載の電動機の冷却機構においては、(4)前記偏向部材の前記傾斜面部が、前記ステータの端部の近傍に位置するとともに、少なくとも前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側に位置するのが好ましい。
【0017】
この構成により、少なくともロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側において、冷却液噴出孔からの冷却液が偏向部材の傾斜面部によって確実にステータの端部に向うように方向付けられ、ステータが確実に冷却される。
【0018】
上記(4)に記載の電動機の冷却機構においては、(5)前記偏向部材が、前記ケースおよび前記ステータのうちいずれかに支持されるとともに、前記偏向部材の前記傾斜面部が、前記ロータの軸部を取り囲む環状をなしているのがより好ましい。
【0019】
この構成により、冷却液噴出孔から噴出される冷却液の流動方向がロータの回転に伴って変化しても、ステータの端部の近傍において、冷却液噴出孔からの冷却液が偏向部材の傾斜面部によって確実にステータの端部に向うように方向付けられ、ステータが確実に冷却される。なお、偏向部材はケースに支持されてもよいし、ケースに一体に形成されていてもよい。
【0020】
上記(2)に記載の電動機の冷却機構においては、(6)前記流動方向規制部材が、少なくとも前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側で前記ステータの端部の内周側に配置されているのがよい。
【0021】
この構成により、少なくともロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側において、ステータの端部に供給された冷却液の流動方向が、流動方向規制部材によりステータとロータとの間の隙間から離隔する方向に規制されることになるから、ロータの回転抵抗が冷却液の引きずりによって増加することが防止される。
【0022】
上記(6)に記載の電動機の冷却機構においては、(7)前記流動方向規制部材が、前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側で前記ステータの端部に対向する円弧状をなしている。
【0023】
この構成により、ステータの端部に供給されて流下する冷却液が、流動方向規制部材によってステータとロータとの間の隙間から離隔する方向に流下方向を規制されることになる。したがって、円弧状の流動方向規制部材を通過した冷却液は、ステータとロータとの間の隙間から半径方向または/および軸方向に離隔する位置からさらに流下することになり、ステータとロータとの間の隙間に冷却液が入ることがない。
【0024】
上記(6)、(7)に記載の電動機の冷却機構においては、(8)前記流動方向規制部材が、前記ステータの端部に近接する一端側では前記ステータの端部を構成するコイルエンド部の内周面に対向し、前記ステータの端部から離隔する他端側では前記一端側より前記ロータの軸部に接近しているのがよい。
【0025】
この構成により、流動方向規制部材の一端側では、冷却液がステータとロータの間の隙間から仕切られた状態でコイルエンド部の内周面に沿って流下し、流動方向規制部材の他端側では、冷却液がステータとロータの間の隙間からロータの軸方向に離れるように流下する。したがって、ステータとロータとの間の隙間に冷却液が入ることがない。
【0026】
上記(1)〜(8)に記載の電動機の冷却機構においては、(9)前記ケースと前記ロータの軸部との間に、前記冷却液噴出孔から噴射された冷却液が導入される冷却液通路が形成されるとともに、前記ケースに、前記冷却液通路内に導入された前記冷却液を前記ステータの端部に向けて再度噴出させる固定噴射孔が形成されていても好ましい。
【0027】
この構成により、ロータの軸部をケースに支持する軸受がロータの近傍に配置される場合でも、固定噴射孔から偏向部材に向けて冷却液を確実に噴射できる。
【0028】
上記(1)〜(9)に記載の電動機の冷却機構においては、(10)前記電動機が、歯車伝送装置と共に車両に搭載され、前記歯車伝動装置の潤滑に供されるオイルが、前記冷却液として前記冷却液導入通路に導入されるものであってもよい。
【0029】
この構成により、車両の走行駆動装置やハイブリッド駆動装置に装備される電動機をオイルにより良好に冷却できる冷却機構となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、ロータの両端面より軸方向の外方側でロータの軸部の冷却液噴出孔から冷却液が噴出され、ステータの端部の近傍に配された偏向部材によりその冷却液の流動方向が放射外方向からステータの端部に向う流動方向に偏向される一方、ステータの端部の内周側では、流動方向規制部材によって冷却液の流動方向がステータとロータとの間の隙間から離隔する方向に規制されるようにしているので、ロータとステータの間に冷却液が入り難く、ロータの回転抵抗を増加させることなく冷却液によりステータを十分に冷却することのできる低コストの電動機の冷却機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電動機の冷却機構の概略断面図である。
【図2】図1に示す電動機の冷却機構のII−II矢視断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電動機の冷却機構の概略断面図である。
【図4】図3に示す電動機の冷却機構のIV−IV矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】
(第1実施形態)
図1および図2に本発明の第1実施形態に係る電動機の冷却機構を示している。なお、本実施形態は、本発明を車両用ハイブリッド駆動装置の一部を構成する電動機の冷却機構に適用したものである。
【0034】
まず、構成について説明する。
【0035】
図1および図2に示すように、本実施形態の電動機は、発電電動機20として構成されている。この発電電動機20は、ケース10の内部に固定されたステータ21と、そのステータ21に対し回転するロータ22とを有しており、ロータ22は一対の軸受11、12を介してケース10に回転自在に支持された回転軸部25(軸部)を有している。
【0036】
また、発電電動機20は、車両の補助的なあるいは主な走行駆動力を選択的に発生するモータの機能と、車両制動時等に車両の慣性力を電気エネルギとして回生するジェネレータの機能とを併有しており、図示しない遊星歯車機構等の歯車伝送装置と共に前記ハイブリッド駆動装置の一部として車両に搭載されている。
【0037】
ケース10は、全体を図示しないが、前記ハイブリッド駆動装置のケースの一部となっており、中心部に軸穴が形成された複数の有底筒状のケース部材を一体に締結して構成されている。
【0038】
ステータ21は、その主要部を構成する略円環状のステータコア23に対してステータコイル24を巻回したものであり、ステータコア23は、図示しない複数の締結ボルトによりケース10に締結され固定されている。また、詳細を図示しないが、ステータコア23は、例えばロータ22の回転方向に隣り合う複数の分割コアによって構成され、複数の電磁鋼板(符号無し)を積層してなる円形ヨーク部と、ステータコイル24が巻回される複数のティース部とを有している。また、ロータ22は、複数の電磁鋼板が積層されてなるロータ本体部22aに複数の永久磁石22b(図1中に1つのみ図示)を所定角度間隔に装着したものであり、回転軸部25に一体的に支持されている。
【0039】
一方、発電電動機20には、冷却機構30が装備されている。
【0040】
冷却機構30は、前記ハイブリッド駆動装置内の図示しない歯車伝動機構を潤滑・冷却するオイル(冷却液)をロータ22の回転軸部25の内部に導入し、ロータ22の回転軸部25側からステータ21のステータコイル24のコイルエンド部24a、24b(ステータの端部;以下、ステータ21のコイルエンド部24a、24bという)に冷却液を供給してステータ21を冷却するようになっている。
【0041】
この冷却機構30は、オイル供給手段としてのオイルポンプ31と、回転軸部25の軸心部に形成される冷却液導入通路としてのオイル導入通路32と、このオイル導入通路32から回転軸部25の放射方向(半径方向)に延びる略円形断面の複数のオイル噴出孔33、34とを含んで構成されている。
【0042】
なお、図中には、ロータ22の一方側のオイル噴出孔33とロータ22の他方側のオイル噴出孔34とをそれぞれ1つずつしか図示していないが、勿論、ロータ22の一方側のオイル噴出孔33が等角度間隔に複数設けられてもよいし、ロータ22の一方側の複数のオイル噴出孔33がロータ22の軸方向の異なる位置にずれて配置されてもよい。また、その場合、複数のオイル噴出孔33同士が異なる径および断面積に形成され得る。ロータ22の他方側のオイル噴出孔34についても、同様に、等角度間隔に複数設けられてもよいし、ロータ22の軸方向の異なる位置にずれて配置されたり、複数のオイル噴出孔34同士が異なる径および断面積に形成されたりしてもよい。さらに、複数のオイル噴出孔33、34は、オイル導入通路32に対し直交するように回転軸部25の半径方向に延びているが、オイル導入通路32に対し直交する向きから外れるように傾斜してもよい。また、複数のオイル噴出孔33、34は、それらの中心軸線がロータ22の回転中心軸線Cから離れたもの(食い違う軸線)であってもよいし、オイル噴出孔33、34のそれぞれが非円形断面であってもよい。
【0043】
オイルポンプ31は、ケース10を含むトランスミッションケースの最下部に装着されたオイルパン35内あるいはトランスミッションケース内のいずれかの室の内底部からオイルを汲み上げて、オイル導入通路32に加圧したオイルを吐出するようになっている。このオイルポンプ31は、例えば電動式のオイルポンプで構成され、図示しない電子制御ユニット(以下、ECUという)によって制御されるようになっている。なお、オイルポンプ31は、歯車ポンプ等の機械式のオイルポンプとオイルの供給を制御するバルブとを併用して構成されてもよい。
【0044】
オイルポンプ31およびオイル導入通路32は、前記遊星歯車機構等の歯車伝送装置の歯車の噛合部や軸受部等に潤滑・冷却用のオイルを供給する手段ともなっており、オイル導入通路32内を通るオイルの一部は、前記遊星歯車機構等の歯車伝送装置の歯車の噛合部や軸受部等に潤滑・冷却用のオイルとして供給されるようになっている。なお、回転軸部25のオイル導入通路32の内部に、回転動力を伝達する円筒状の軸部材やオイル配管が挿入され、オイル導入通路32の一部が回転軸部25の内部でその円筒状の軸部材やオイル配管によって形成されてもよい。
【0045】
オイル噴出孔33、34は、それぞれオイル導入通路32に連通するようロータ22の回転軸部25に形成されるとともに、ロータ22の軸方向の両端面22c、22dより軸方向の外方側(図1中の左右両側)でステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に向って開口している。すなわち、オイル噴出孔33、34は、オイル導入通路32に導入されるオイルをステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に向けて噴出させるようになっている。なお、ケース10の内底壁部13には、ステータ21の冷却に供したオイルを再度オイルパン35側に流下させるオイル流下通路14a、14bが形成されている。
【0046】
ところで、ステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bの近傍には、オイル噴出孔33、34からそれぞれ噴出したオイルの流動方向を放射外方向からステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bに向う方向に変化させる板金製の一対の偏向部材41が設けられている。
【0047】
これら偏向部材41は、それぞれステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に、ロータ22の回転中心軸線Cに対し傾斜した略円錐面状の傾斜面部41aを有している。また、一対の偏向部材41の傾斜面部41aは、ステータ21のコイルエンド部24a、24bから離れるほどロータ22の回転軸部25に接近するように傾斜しており、ロータ22の回転中心軸線方向におけるオイル噴出孔33、34の中心位置は、同方向における偏向部材41の傾斜面部41aの形成範囲内に設定されている。
【0048】
さらに、一対の偏向部材41は、それぞれの傾斜面部41aがステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に位置するとともに少なくともロータ22の回転軸中心軸線Cより鉛直方向の上方側に位置するように、ケースおよびステータ21のうちいずれか、例えばステータ21のステータコア23に支持されている。各偏向部材41は、具体的には、ロータ22の回転軸部25を取り囲む円環状をなすとともにステータコア23に支持された円筒状部41bと、ロータ22の回転軸中心軸線Cに対し一定の傾斜角度をなす円錐面部41cとを有しており、傾斜面部41aはその円錐面部41cの内周面となっている。
【0049】
一方、ステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bの内周側には、それぞれステータ21のコイルエンド部24a、24bに供給された冷却液の流動方向をステータ21とロータ22との間の円筒状の隙間36から離隔させる方向に規制する板金製の流動方向規制部材42が設けられている。
【0050】
流動方向規制部材42は、少なくともロータ22の回転軸中心軸線より鉛直方向の上側でステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側に配置されている。この流動方向規制部材42は、ロータ22の回転軸中心軸線Cより鉛直方向の上方側でステータ21のコイルエンド部24a、24bに対向する円弧状をなしている。
【0051】
具体的には、流動方向規制部材42は、ステータ21のコイルエンド部24a、24bに近接する一端側では、ステータ21の端部を構成するコイルエンド部24a、24bの内周面に対向する円筒状部42bを有する一方、ステータ21の端部であるコイルエンド部24a、24bから離隔する他端側では、一端側の円筒状部42bよりロータ22の回転軸部25に接近するように傾斜する円錐面部42aを有している。ここで、流動方向規制部材42の円筒状部42bは、ロータ22より大径であり、流動方向規制部材42の円錐面部42aとロータ22の回転軸部25との間の最小距離は、ロータ22のロータ本体部22aの半径より小さくなっている。また、一対の流動方向規制部材42の円錐面部42aは、ロータ22の回転中心軸線方向において、それぞれステータ21のコイルエンド部24a、24bよりも軸方向の外側に突出するように配置される一方で、一対の偏向部材41の円錐面部41cとステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bとの間に位置している。
【0052】
さらに、各偏向部材41の円筒状部42bには、ケース10のオイル流下通路14a、14bのいずれかに連通するオイル流下穴41dが形成されており、オイル噴出孔33、34からケース10内に噴射され、ステータ21の冷却に供されたオイルがケース10の内底壁部13側に流下するとき、オイル流下穴41dからオイル流下通路14a、14bを通してオイルパン35にオイルが流下するようになっている。
【0053】
次に、作用について説明する。
【0054】
上述のように構成された本実施形態の電動機の冷却機構においては、発電電動機20が作動するとき、ロータ22のロータ本体部22aの両端面22c、22dより軸方向の外方側で、ロータ22の回転軸部25のオイル噴出孔33、34から冷却液が噴出される。
【0055】
このとき、ステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bの近傍に配された一対の偏向部材41により、それぞれの冷却液の流動方向が放射外方向からステータ21の両端部に向う流動方向に変更され、ステータ21のコイルエンド部24a、24bに確実に供給される。したがって、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側にオイルを噴射する場合に比べ、ステータ21とロータ22との間の隙間36にオイルが入り難くなる。その結果、ロータ22の回転抵抗が冷却液の引きずりによって増加することがなく、オイルによりステータ21を十分に冷却することができる。
【0056】
しかも、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側では、流動方向規制部材42によって冷却液の流動方向がステータ21とロータ22との間の隙間36から離隔する方向に規制されることから、ステータ21とロータ22との間の隙間に冷却液が入ることがない。
【0057】
また、ロータ22の回転軸部25に形成されるオイル導入通路32には歯車潤滑用のオイルあるいは油圧作動アクチュエータの作動用のオイルが導入されることから、そのオイルを冷却液としてオイル噴出孔33、34に容易に導入でき、冷却油路構造が非常に簡素になる。
【0058】
加えて、偏向部材41の傾斜面部41aが、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に位置するとともに、少なくともロータ22の回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側に位置するので、少なくともロータ22の回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側において、オイル噴出孔33、34からのオイルが偏向部材41の傾斜面部41aによって確実にステータ21のコイルエンド部24a、24bに向うように方向付けられ、ステータ21が確実に冷却される。特に、本実施形態では、偏向部材41の傾斜面部41aが、ロータ22の回転軸部25を取り囲む環状をなしているので、オイル噴出孔33、34から噴出されるオイルの流動方向がロータ22の回転に伴って変化しても、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍においては、オイル噴出孔33、34からのオイルが偏向部材41の傾斜面部41aによって確実にステータ21のコイルエンド部24a、24bに向うように方向付けられ、ステータ21が確実に冷却される。
【0059】
さらに、流動方向規制部材42が、少なくともロータ22の回転軸中心軸線Cより鉛直方向の上方側でステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側に配置されるとともに、ステータ21のコイルエンド部24a、24bに対向する円弧状をなしているので、少なくともロータ22の回転軸中心軸線Cより鉛直方向の上方側において、ステータ21のコイルエンド部24a、24bに供給されて流下するオイルが、流動方向規制部材42によってステータ21とロータ22との間の隙間36から離隔する方向にその流下方向を規制されることになる。したがって、円弧状の流動方向規制部材42を通過したオイルは、ステータ21とロータ22との間の隙間36から半径方向および軸方向のいずれかに離隔する位置からさらに流下することになる。
【0060】
特に、本実施形態では、流動方向規制部材42の一端側の円筒状部42bでは、オイルがステータ21とロータ22の間の隙間36から仕切られた状態でコイルエンド部24a、24bの内周面に沿って流下し、流動方向規制部材42の他端側の円錐面部42aでは、オイルがステータ21とロータ22の間の隙間36からロータ22の軸方向に離れるように流下するから、ステータ21とロータ22との間の隙間36にオイルが入ることがない。また、流動方向規制部材42も簡素な形状で済む。
【0061】
このように、本実施形態においては、ロータ22の両端面22c、22dより軸方向の外方側でロータ22の回転軸部25のオイル噴出孔33、34からオイルが噴出され、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に配された偏向部材41によりそのオイルの流動方向が放射外方向からステータ21のコイルエンド部24a、24bに向う流動方向に偏向され、その一方、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側では、流動方向規制部材42によってオイルの流下方向がステータ21とロータ22との間の隙間36から離隔する方向に規制されるようにしているので、ロータ22とステータ21の間にオイルが入り難く、ロータ22の回転抵抗を増加させることなくオイルによりステータ21を十分に冷却することのできる低コストの電動機の冷却機構を提供することができる。
【0062】
さらに、発電電動機20が、遊星歯車機構等の歯車伝送装置と共に車両に搭載され、その歯車伝動装置の潤滑に供されるオイルが、冷却液としてオイル導入通路32に導入されるので、車両の走行駆動装置やハイブリッド駆動装置に装備される場合等において、その電動機をオイルにより良好に冷却できる冷却機構となる。
【0063】
(第2実施形態)
図3および図4に本発明の第2実施形態に係る電動機の冷却機構を示している。なお、本実施形態は、上述の第1実施形態と略同様の全体構成を有するものであるので、第1実施形態の対応する構成要素と同一もしくは類似の構成要素については、図3および図4中にそれぞれ図1および図2中の対応する構成要素と同一の符号を付し、以下の説明においては、第1実施形態との相違点とその近傍の構成について詳述する。
【0064】
本実施形態の発電電動機50においては、軸受11、12がロータ22のロータ本体部22aに近接して配置されており、それら軸受11、12の近傍において、ケース10とロータ22の回転軸部25との間に、オイル噴出孔33、34から噴射されたオイルが導入される環状のオイル通路51、52が形成されている。また、ロータ22の回転軸部25が挿通されるとともに軸受11、12がそれぞれ装着されるケース10のボス部15、16には、オイル通路51、52内に導入されたオイルをステータ21のコイルエンド部24a、24bに向けて再度噴出させる固定噴射孔53、54が形成されている。
【0065】
固定噴射孔53、54のうち少なくとも一方、例えば固定噴射孔53、54の双方は、図4に示す固定噴射孔54のように、それぞれ所定の角度間隔で複数設けられている。そして、固定噴射孔53、54のそれぞれが、ロータ22の回転中心軸線Cより上方側のステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bの近傍に向けてオイルを等角度間隔に噴射するようになっている。
【0066】
ステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍には、固定噴射孔53、54からそれぞれ噴出したオイルの流動方向を放射外方向からステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bに向う方向に変化させる板金製の一対の偏向部材41が設けられている。これら偏向部材41は、第1実施形態の場合と同様に、それぞれステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に略円錐面状の傾斜面部41aを有しており、それぞれの傾斜面部41aがステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に位置するとともに少なくともロータ22の回転軸中心軸線Cより鉛直方向の上方側に位置するように、ケースおよびステータ21のうちいずれか、例えばステータ21のステータコア23に支持されている。また、各偏向部材41は、円筒状部41bと円錐面部41cとを有しており、傾斜面部41aが円錐面部41cの内周面となっている。
【0067】
また、ステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bの内周側には、第1実施形態の場合と同様に一対の流動方向規制部材42が設けられており、これら流動方向規制部材42はそれぞれロータ22の回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側でステータ21のコイルエンド部24a、24bに対向する円弧状をなしている。また、一対の流動方向規制部材42は、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周面に対向する円筒状部42bと、円筒状部42bよりロータ22の回転軸部25に接近するように傾斜する円錐面部42aとを有している。そして、流動方向規制部材42の円錐面部42aは、ロータ22の回転中心軸線方向において、それぞれステータ21のコイルエンド部24a、24bよりも軸方向の外側に突出するように配置される一方で、一対の偏向部材41の円錐面部41cとステータ21の両端側のコイルエンド部24a、24bとの間に位置している。
【0068】
なお、ロータ22の回転軸部25とケース10との間の環状隙間部分には、環状のオイル通路51、52よりロータ22の軸線向の外方側でその環状隙間部分を内外に区画するようシールするOリング等のシールリング55、56が介装され、さらに、環状のオイル通路51、52よりロータ22の軸線向の内方側でその環状隙間部分を内外に区画するようラビリンスシール等のシールリング57、58(詳細図示せず)が介装されている。
【0069】
本実施形態の電動機の冷却機構においては、ロータ22の回転軸部25をケース10に支持する軸受11、12がロータ22の近傍に配置されるものの、ロータ22の両端面22c、22dより軸方向の外方側で固定噴射孔53、54から偏向部材41に向けてオイルが噴射されるので、上述の第1実施形態と同様に、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの近傍に配された偏向部材41によりそのオイルの流動方向が放射外方向からステータ21のコイルエンド部24a、24bに向う流動方向に偏向され、その一方、ステータ21のコイルエンド部24a、24bの内周側では、流動方向規制部材42によってオイルの流下方向がステータ21とロータ22との間の隙間36から離隔する方向に規制される。したがって、ロータ22とステータ21の間にオイルが入り難く、オイルの引きずりによりロータ22の回転抵抗を増加させることがなく、オイルによりステータ21を十分に冷却することのできる低コストの電動機の冷却機構を提供することができる。さらに、車両の走行駆動装置やハイブリッド駆動装置に装備される電動機をオイルにより良好に冷却できる冷却機構を提供することができる。
【0070】
なお、偏向部材41はステータ21のステータコア23と共にケース10に締結されてもよいし、ケース10の内周壁面に嵌入されてもよい。さらに、偏向部材41がケース10に一体に形成され、その傾斜面部41aがケース10の内壁面の一部となっていてもよい。また、傾斜面部41aは、その母線が直線となる円錐面に限らず、母線が曲線となるように湾曲した傾斜面を形成してもよい。また、流動方向規制部材42は、ステータ21のステータコア23に支持されるものとしたが、流動方向規制部材42をケース10の内壁に直接支持させることもできる。ただし、その場合には、オイル噴出孔33、34あるいは固定噴射孔53、54から偏向部材41の傾斜面部41aに向って噴射されるオイルを通過させるための開口部を流動方向規制部材42に形成する必要がある。
【0071】
上述の各実施形態では、ハイブリッド駆動装置内の歯車伝動装置の潤滑に供されるオイルが、冷却液としてオイル導入通路32に導入されるものとしたが、他の油圧作動式のアクチュエータ類、例えば湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧モータ等に使用されるオイルをオイル導入通路32に導入してもよいことはいうまでもない。
【0072】
また、第2実施形態では、ケース10のボス部15、16側の環状凹部とロータ22の回転軸部25の外周面との間に、オイル噴出孔33、34から噴射された冷却液が導入される環状のオイル通路51、52が形成されていたが、ケース10側と回転軸部25側のうちいずれか一方に環状の凹部(環状溝)を設けてもよいし双方に環状凹部を設けてもよい。
【0073】
また、上述の各実施形態においては、流動方向制限部材42を略半円形の庇状の部材としたが、円錐面部42aに代えて、流動方向制限部材42の円筒状部42bの外端部に略U字形もしくはV字形断面等の樋状の部材をロータ半径方向に開放する向きに装着することもできる。
【0074】
以上説明したように、本発明に係る電動機の冷却機構は、ロータの両端面より軸方向の外方側でロータの軸部の冷却液噴出孔から冷却液が噴出され、ステータの端部の近傍に配された偏向部材によりその冷却液の流動方向が放射外方向からステータの端部に向う流動方向に偏向される一方、ステータの端部の内周側では、流動方向規制部材によって冷却液の流動方向がステータとロータとの間の隙間から離隔する方向に規制されるようにしているので、ロータとステータの間に冷却液が入り難く、ロータの回転抵抗を増加させることなく冷却液によりステータを冷却することのできる低コストの電動機の冷却機構を提供することができるという効果を奏するものであり、ロータの軸心部に導入した冷却液をステータコイル側に供給するようにした電動機の冷却機構全般に有用である。
【符号の説明】
【0075】
10 ケース
11、12 軸受
13 内底壁部
14a、14b オイル流下通路
15、16 ボス部
20 発電電動機(電動機)
21 ステータ
22 ロータ
22a ロータ本体部
22b 永久磁石
22c、22d 両端面
23 ステータコア
24 ステータコイル
24a、24b コイルエンド部
25 回転軸部(軸部)
30 冷却機構
31 オイルポンプ
32 オイル導入通路(冷却液導入通路)
33、34 オイル噴出孔(冷却液噴出孔)
35 オイルパン
36 隙間(ステータとロータの間の隙間)
41 偏向部材
41a 傾斜面部
41b 円筒状部
41c 円錐面部
41d オイル流下穴
42 流動方向規制部材
42a 円錐面部
42b 円筒状部
51、52 環状のオイル通路(冷却液通路)
53、54 固定噴射孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内部にステータおよび該ステータに対し回転するロータを有する電動機に装備され、前記ロータの軸部内に形成された冷却液導入通路に冷却液を導入して、該冷却液導入通路から前記ステータに前記冷却液を供給する電動機の冷却機構であって、
前記ロータの軸部に、前記冷却液導入通路に連通するとともに、前記ロータの両端面より軸方向の外方側で前記ステータの端部の近傍に向って開口するよう冷却液噴出孔が形成されるとともに、
前記ステータの端部の近傍に、前記冷却液噴出孔から噴出したオイルの流動方向を放射外方向から前記ステータの端部に向う方向に変化させる偏向部材が設けられていることを特徴とする電動機の冷却機構。
【請求項2】
前記ステータの端部の内周側には、前記ステータの端部に供給された前記冷却液の流動方向を前記ステータと前記ロータとの間の隙間から離隔させる方向に規制する流動方向規制部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電動機の冷却機構。
【請求項3】
前記偏向部材が、前記ステータの端部の近傍に、前記ステータの端部から離れるほど前記ロータの軸部に接近するよう前記ロータの回転中心軸線に対し傾斜した傾斜面部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電動機の冷却機構。
【請求項4】
前記偏向部材の前記傾斜面部が、前記ステータの端部の近傍に位置するとともに、少なくとも前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側に位置することを特徴とする請求項3に記載の電動機の冷却機構。
【請求項5】
前記偏向部材が、前記ケースおよび前記ステータのうちいずれかに支持されるとともに、
前記偏向部材の前記傾斜面部が、前記ロータの軸部を取り囲む環状をなしていることを特徴とする請求項4に記載の電動機の冷却機構。
【請求項6】
前記流動方向規制部材が、少なくとも前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側で前記ステータの端部の内周側に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の電動機の冷却機構。
【請求項7】
前記流動方向規制部材が、前記ロータの回転軸中心軸線より鉛直方向の上方側で前記ステータの端部に対向する円弧状をなしていることを特徴とする請求項6に記載の電動機の冷却機構。
【請求項8】
前記流動方向規制部材が、前記ステータの端部に近接する一端側では前記ステータの端部を構成するコイルエンド部の内周面に対向し、前記ステータの端部から離隔する他端側では前記一端部より前記ロータの軸部に接近していることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の電動機の冷却機構。
【請求項9】
前記ケースと前記ロータの軸部との間に、前記冷却液噴出孔から噴射された冷却液が導入される冷却液通路が形成されるとともに、
前記ケースに、前記冷却液通路内に導入された前記冷却液を前記ステータの端部に向けて再度噴出させる固定噴射孔が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のうちいずれか1の請求項に記載の電動機の冷却機構。
【請求項10】
前記電動機が、歯車伝送装置と共に車両に搭載され、
前記歯車伝動装置の潤滑に供されるオイルが、前記冷却液として前記冷却液導入通路に導入されることを特徴とする請求項1ないし請求項9のうちいずれか1の請求項に記載の電動機の冷却機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−188686(P2011−188686A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53388(P2010−53388)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】