説明

電動機

【課題】ヒルホールド状態等においてオイルポンプが停止した場合でも、ステータの過熱を抑制することができる電動機を提供することを目的とする。
【解決手段】環状油路60は、冷却油71が導入される導入口57と、導入口57よりも重力方向において高い位置に配置され、環状油路60内を流通した冷却油71が排出される排出口58,65とを備え、供給機構70は、シャフト12の回転力により駆動し、冷却油71を循環させるオイルポンプ72と、オイルポンプ72よりも下流側に配置され、ベアリング26,27へ冷却油71を供給するための第1油路81と、導入口48に接続され、環状油路60内に冷却油71を供給するための第2油路82とを備え、第2油路82には、逆流防止弁83が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、コイルが巻装されたステータ、及びステータの内側に配置されたロータを有するモータと、このモータが収納されたハウジングとを備えたモータユニットが知られている。このようなモータユニットは、ステータの外周面がハウジングの内壁面に密着配置されることにより、ステータがハウジング内に固定されるようになっている。
【0003】
ところで、上述したモータを駆動すると、ステータに巻装されたコイルに電流が流れることによりコイルが発熱し、モータ特性の低下等に繋がる虞がある。そこで、ハウジング内に貯留された冷却油をステータ(コイル)に向けて噴射し、コイルの発熱による温度上昇を抑制することを目的にした構成が提案されている。
このような構成としては、例えば特許文献1に示されるように、オイルポンプを用いてハウジング下部に溜まった冷却油を噴射ノズルまで汲み上げ、噴射ノズルからコイルに向けて冷却油を噴射するものがある。この時、噴射される冷却油の一部は上方(重力方向上方)に飛散し、毛細管現象により、ハウジング内壁面とステータ外周面との間の隙間に侵入することで、ステータを冷却するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−324901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステータは、一般的に複数の磁性板材が軸方向に沿って積層されてなるので、ステータの外周面とハウジングの内壁面との間に軸方向に沿って均一な隙間を形成することが難しい。この場合、各磁性板材の径方向における寸法誤差等により、ステータの外周面に軸方向に沿って段差が生じている虞があり、この段差によって冷却油の進路が遮られ、冷却油がステータ全体に行き届かない虞もある。また、ステータの外周面とハウジングの内壁面との間に流通する冷却油が各磁性板材間に漏れ出て、冷却油が磁性板材間を重力方向に沿って流れ落ちる虞がある。これらの理由により、ステータ全体を均一に冷却することが難しいという問題がある。
【0006】
また、燃料電池車両等の電気自動車に搭載されるモータユニットは、坂路における停車状態において車両の後退を抑制するために、モータからトルクを発生させることで、ブレーキ操作をすることなく停止状態(ヒルホールド状態)を維持することも可能である。上述した冷却油を供給するオイルポンプとして、シャフトの回転に連動するオイルポンプを採用した場合には、車両の走行停止とともにオイルポンプが停止する。そしてオイルポンプが停止すると、冷却油の供給が停止してステータとハウジングとの間に冷却油が供給されなくなる。一方、モータ自体はトルクを発生させながら坂路でのヒルホールド状態を維持しているために、コイルには電流が供給され続ける。
その結果、モータが過熱され、モータ特性の低下に繋がる虞がある。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであって、ヒルホールド状態等においてオイルポンプが停止した場合でも、ステータの過熱を抑制することができる電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の電動機は、車両を駆動するための電動機(例えば、実施形態におけるモータユニット10)であって、油が貯留されるハウジング(例えば、実施形態におけるモータハウジング11)と、前記ハウジング内に収納されたロータ(例えば、実施形態におけるロータ22)と、前記ロータの軸中心を貫通するシャフト(例えば、実施形態におけるシャフト24)と、前記ハウジングに設けられ、前記シャフトを回転可能に支持するベアリング(例えば、実施形態におけるベアリング26,27)と、前記ロータの外周に配置されたステータ(例えば、実施形態におけるステータ21)と、前記ステータの外周と前記ハウジングの内壁との間に形成され、前記ステータの周方向に沿って前記油が流通する環状油路(例えば、実施形態における環状油路60)と、前記ベアリング及び前記環状油路に向けて前記油を供給する供給機構(例えば、実施形態における循環機構70)とを備え、前記環状油路は、前記油が導入される導入口(例えば、実施形態における導入口57)と、前記導入口よりも重力方向において高い位置に配置され、前記環状油路内を流通した前記油が排出される排出口(例えば、実施形態における排出口58,65)とを備え、前記供給機構は、前記シャフトの回転力により駆動し、前記油を循環させるオイルポンプ(例えば、実施形態におけるオイルポンプ72)と、前記オイルポンプよりも下流側に配置され、前記ベアリングへ前記油を供給するための第1油路(例えば、実施形態における第1油路81)と、前記導入口に接続され、前記環状油路内に前記油を供給するための第2油路(例えば、実施形態における第2油路82)とを備え、前記第2油路には、逆流防止弁(例えば、実施形態における逆流防止弁83)が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ステータとハウジングとの間に形成された環状油路内に油が流通しているので、ステータの外面形状に関わらず、ステータの全周に亘って油が行渡ることになる。そのため、油とステータとの熱交換がステータの全周に亘って均一に行われる。すなわち、ステータとハウジングとの間に空気が介在している場合に比べて、ステータとの熱交換を効率的に行うことができる。
特に、第2油路には逆流防止弁が設けられているので、ヒルホールド状態等においてシャフトの回転停止に伴ってオイルポンプが停止した場合に、環状油路から第2油路に向かって逆流しようとする油を塞き止めることができる。よって、ヒルホールド状態等であっても、排出口と逆流防止弁との間に介在する油は、環状油路内に介在し続けることになるので、環状油路内の油面を低下させることがない。これにより、ヒルホールド状態等においても、油とステータとの熱交換がステータのほぼ全周に亘って均一に行われる。その結果、電動機の伝熱性能を維持することができるので、電動機の過熱を防止して、モータ性能の低下を防止することができる。
【0010】
また、前記排出口は、前記環状油路における重力方向最上部に配置されていることを特徴とする。
本発明によれば、オイルポンプから送出される油は、環状油路の軸方向端部等から漏れ出ることなく、環状油路内の全域に行き渡りながら周方向に沿って流通し、環状油路の上部まで到達する。これにより、油が環状油路内の全域を均一に流通することになるので、油とステータとの熱交換をステータのほぼ全周に亘って均一に行わせることができる。
特に、ヒルホールド状態において、環状油路内に介在する油は、排出口からほとんど漏れ出ることがないので、環状油路内の油面を低下させず、環状油路内の略全周に亘って油を介在させておくことができる。その結果、ステータの略全周に亘って均一な伝熱性能を確保することができる。
【0011】
また、前記ステータにはコイル(例えば、実施形態におけるコイル20)が巻装されるとともに、前記ステータの軸方向両端に前記コイルの渡り部(例えば、実施形態における渡り部19)が形成され、前記排出口から排出される前記油が前記渡り部に被るようにして排出されることを特徴とする。
本発明によれば、排出口から排出された油が下方に流れ落ちる際に、油と渡り部との間で直接、熱交換が行われるので、電動機の伝熱効率を向上させ、電動機の過熱を防止することができる。
【0012】
また、前記ハウジングと前記ステータとの間には、前記ステータを前記ハウジングに固定するステータホルダ(例えば、実施形態におけるステータホルダ50)を備え、前記ステータホルダは、円筒部(例えば、実施形態における円筒部54)およびフランジ部(例えば、実施形態における外フランジ部55)を備え、前記円筒部の内周側に前記ステータを保持するとともに、前記フランジ部において前記ハウジングに固定され、前記ステータホルダの前記円筒部と前記ハウジングの内壁面との間の中間領域に、前記環状油路が形成されるとともに、前記ステータホルダの前記フランジ部に前記導入口及び前記排出口が形成されていることを特徴とする。
コイルに電流が流れるとステータに磁界が形成され、ステータとロータとの間に生じる磁気的な吸引力や反発力が繰り返し発生することで、ステータの形状が繰り返し変形する(いわゆる、磁歪振動が発生する)。この磁歪振動がハウジングに伝達されることでNV性能が悪化するという問題がある。特に、燃料電池車両等の電気自動車の駆動源として搭載される比較的大きなモータユニットにおいては、ステータの磁歪振動によるノイズが無視できない程大きくなる。
そこで、本発明の構成によれば、ステータホルダを介してステータをハウジングに固定することで、ステータホルダとハウジングとの間に中間領域が形成される。そして、ステータがハウジングとの間に中間領域を挟んで配置されているので、ステータの磁歪振動がハウジングに直接伝達されることがなく、ステータホルダとハウジングとの接触部分を経由して伝達されることになる。すなわち、ステータの外周面が直接、ハウジングの内壁面に密着配置されている構成に比べて、ステータの磁歪振動がハウジングまで伝達され難くなるので、磁歪振動がハウジングに伝達されることにより発生するノイズを低減することが可能になる。したがって、NV性能の悪化を抑制することができる。
また、中間領域を環状油路として利用することで、ハウジングとステータとの間に別体の環状油路を形成する必要がない。さらに、ステータホルダのフランジ部に導入口及び排出口を形成することで、オイルポンプから送出される油を直接環状油路内に供給することができる。その結果、製造効率の向上及び構成の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステータとハウジングとの間に形成された環状油路内に油が流通しているので、ステータの外面形状に関わらず、ステータの全周に亘って油が行渡ることになる。そのため、油とステータとの熱交換がステータの全周に亘って均一に行われる。すなわち、ステータとハウジングとの間に空気が介在している場合に比べて、ステータとの熱交換を効率的に行うことができる。
特に、第2油路には逆流防止弁が設けられているので、ヒルホールド状態等においてシャフトの回転停止に伴ってオイルポンプが停止した場合に、環状油路から第2油路に向かって逆流しようとする油を塞き止めることができる。よって、ヒルホールド状態等であっても、排出口と逆流防止弁との間に介在する油は、環状油路内に介在し続けることになるので、環状油路内の油面を低下させることがない。これにより、ヒルホールド状態等においても、油とステータとの熱交換がステータのほぼ全周に亘って均一に行われる。その結果、電動機の伝熱性能を維持することができるので、電動機の過熱を防止して、モータ性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】モータユニットの概略構成図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】ステータホルダの平面図である。
【図4】オイルポンプの停止時におけるモータユニットの概略構成図である。
【図5】図4のE−E線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(車両用駆動モータユニット)
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では本発明の電動機を燃料電池車両に搭載される車両用駆動モータユニットとして採用した場合について説明する。
図1は車両用駆動モータユニットの概略構成図であり、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。なお、以下の説明では、図1の紙面上下方向をモータの軸方向、紙面左右方向を重力方向として説明する。
図1,2に示すように、車両用駆動モータユニット(以下、モータユニットという。)10は、ステータ21及びロータ22を備えたモータ23と、モータ23を収納するモータハウジング11と、モータハウジング11の軸方向一端側(図1中下側)に配置され、モータ23のシャフト24からの動力を伝達する動力伝達部(不図示)を収容するギヤハウジング12と、ギヤハウジング12及びモータハウジング11を共用する共用ハウジング13と、モータハウジング11の軸方向他端側(図1中上側)に配置され、モータハウジング11の他方側の開口部を閉塞するエンドハウジング14とを備えている。
そして、モータハウジング11の内部は、モータボックス36として、ギヤハウジング12の内部はギヤボックス37としてそれぞれ構成され、共用ハウジング13の仕切壁38によりモータボックス36とギヤボックス37とが仕切られている。
【0016】
モータハウジング11は、モータ23全体を覆うような略円筒形状で形成されている。
共用ハウジング13の仕切壁38には、仕切壁38の厚さ方向(軸方向)に貫通する貫通孔40が形成されている。この貫通孔40内には、モータ23のシャフト24の軸方向一端側(図1中下側)を回転自在に支持するベアリング26が挿入されている。シャフト24の軸方向一端には、ギヤボックス37内で図示しない動力伝達部と噛合するギヤ28が固定されている。一方、エンドハウジング14内には、モータ23のシャフト24の軸方向他端を回転自在に支持するベアリング27が設けられている。
【0017】
ロータ22は、磁性板材33が積層された略円筒状のロータコア41を備えている。ロータコア41の径方向中央部に形成された貫通孔42には、シャフト24が固定されている。ロータコア41の径方向外側における端部近傍には、ロータコア41を軸方向に貫通する複数の収容孔43が形成されている。各収容孔43の内部には、ネオジウムなどの希土類からなる永久磁石30が収容されている。また、永久磁石30はロータコア41の周方向に沿って略等間隔に複数配置され、周方向に隣接する永久磁石30は交互に逆方向に着磁されている。
【0018】
ロータ22の周面には、軸方向から見て円環状に形成されたステータ21が対向配置されている。ステータ21は、複数の磁性板材49が軸方向に沿って積層されてなり、後述するステータホルダ50内に固定されており、外周部分を構成するヨーク部47と、ヨーク部47から径方向内側(ロータ22に向かう方向)に向かって突出する複数のティース部48とを備えている。
ティース部48は、周方向に等間隔に複数形成されており、隣り合うティース部48間に形成されたスロット(不図示)にはコイル20が巻き回されている。本実施形態では、コイル20は分布巻きで巻き回されている。したがって、コイル20には、ステータ21の軸方向両端面から外側に突出した渡り部19が形成されている。
【0019】
モータハウジング11は、ダイキャスト法等で形成されたアルミ等からなる円筒部16を備えている。円筒部16は、内径がステータホルダ50の外径よりも僅かながら大きく形成されたものであり、円筒部16を形成する壁部内には、周方向全周に亘ってウォータージャケット45が形成されている。このウォータージャケット45は、その内部に冷媒である冷却水を流通させるための流路であり、ウォーターポンプ(不図示)から送出される冷却水がウォータージャケット45内を循環するようになっている。ウォータージャケット45は、その軸方向における長さがステータ21の軸方向における長さと同等に形成されている。また、ウォータージャケット45の内周面には、多数のフィン(不図示)が形成されている。
【0020】
図3は、ステータホルダの平面図である。
図1,3に示すように、ステータホルダ50は、プレス成型やダイキャスト法等により形成されたアルミ等からなる部材であり、モータハウジング11の内壁面に沿って形成された円筒部54を備えている。ステータホルダ50は、上述したステータ21を保持した状態でモータハウジング11に固定されるものであり、円筒部54の内周面とステータ21の外周面とが同軸上で密着配置されることにより、円筒部54内にステータ21が固定されている。
【0021】
円筒部54の軸方向一端側の開口縁には、円筒部54から径方向外側に向けて張り出す外フランジ部55が形成されている。ステータホルダ50は、軸方向他端側からモータハウジング11の円筒部16内に挿入されることにより、外フランジ部55がモータハウジング11の軸方向一端側の端面に突き合わされている。そして、外フランジ部55には、周方向に沿って等間隔に複数の取付片56が形成されており、これら取付片56とモータハウジング11の軸方向一端側の端面とがボルト等によって締結されることにより、ステータホルダ50がモータハウジング11に固定されている。
【0022】
図1,2に示すように、ステータホルダ50における円筒部54の外周面とモータハウジング11の円筒部16の内壁面との間の中間領域は、冷却油71が流通する環状油路60を構成している。環状油路60は、ステータホルダ50とモータハウジング11との間に、周方向全周に亘って形成されたものである。すなわち、ステータ21は、ステータホルダ50を介してモータハウジング11に連結されているため、ステータ21はモータハウジング11の内側に、環状油路60及びステータホルダ50の円筒部54を挟んだ状態で配置されることになる。
【0023】
図1,3に示すように、環状油路60の軸方向一端側は、ステータホルダ50の外フランジ部55によって、周方向の略全周が閉塞されている。外フランジ部55の重力方向における最下部には、軸方向に貫通する導入口57が形成されている。この導入口57は、後述する循環機構70の第2油路82が接続され、循環機構70と環状油路60とを連通させるようになっている。
一方、外フランジ部55の重力方向における最上部には、環状油路60から冷却油71を排出するための排出口58が形成されている。この排出口58は、外フランジ部55が外周縁から切欠き形成されたものであり、排出口58を介して環状油路60とモータボックス36内とが連通している。
【0024】
一方、環状油路60の軸方向他端側には、ステータホルダ50とモータハウジング11の内壁面との間に、Oリング等のシール部材64が設けられている。シール部材64は、環状油路60の軸方向他端側において、周方向の略全周を閉塞するように配置されるとともに、環状油路60の重力方向における最上部に排出口65を有している。すなわち、環状油路60は、軸方向一端側がステータホルダ50の外フランジ部55によって、軸方向他端側がシール部材64によってそれぞれ閉塞される一方、軸方向両端側において、各排出口58,65のみを介してモータボックス36内に連通している。なお、シール部材64は、排出口65を有していれば、Oリングに限らず、他のシール部材や蓋体等を採用しても構わない。
【0025】
ここで、モータユニット10内(各ハウジング11〜14内)の下部は、冷却油71が貯留された油溜69を構成している。油溜69は、各ハウジング11〜14間で連通しており、モータハウジングと11とギヤハウジング12との間は、共用ハウジング13の下部に形成された連通孔29を介して連通している。なお、油溜69内に貯留された冷却油71の油面は、モータユニット10の軸方向が水平に保持された状態で、ステータ21の下部が浸漬されるとともに、ロータ22の外周面に冷却油71が接触しない高さで保持されている。
【0026】
そして、モータユニット10内には、冷却油71を用いてベアリング26,27の潤滑や冷却、またモータ23等の冷却を行うための循環機構70が設けられている。循環機構70は、冷却油71が貯留された上述した油溜69と、冷却油71を循環させるオイルポンプ72と、冷却油71が通流する油路73とを備えている。
【0027】
オイルポンプ72は、ギヤボックス37内における上部に設けられ、シャフト24の軸方向一端側に固定されたギヤ28に噛合するギヤ74を備えている。すなわち、オイルポンプ72は、シャフト24の回転に連動して作動するポンプであり、シャフト24の回転力がギヤ74を介してオイルポンプ72に伝達され、オイルポンプ72が作動するようになっている。
油路73は、オイルポンプ72に接続されており、油溜69内に貯留された冷却油71をオイルポンプ72まで汲み上げる吸引油路75と、オイルポンプ72まで汲み上げられた冷却油71をベアリング26,27やモータ23に供給するための供給油路76とを備えている。
【0028】
吸引油路75は、オイルポンプ72から下方に延び、先端部分(上流部分)が油溜69内に貯留された冷却油71に浸漬されている。そして、油溜69内に貯留された冷却油71は、吸引油路75の先端から吸引され、オイルポンプ72に向かって流通する(図1中矢印B)。
供給油路76は、共通油路80と、共通油路80の先端(下流端)から分岐した第1油路81及び第2油路82とを備えている。共通油路80は、吸引油路75と同様にオイルポンプ72から下方に向かって延びており、その下流側が油溜69の冷却油71に浸漬されている。そして、供給油路76内では、オイルポンプ72から共通油路80の先端に向かって冷却油71が流通する(図1中矢印C)。
【0029】
第1油路81は、ベアリング26に向けて冷却油71を供給するようになっており(図1中矢印C1)、共通油路80の下流端から斜め上方に向かって分岐している。なお、図示しないが、第1油路81は軸方向他端のベアリング27にも冷却油71を供給するようになっている。
第2油路82は、共通油路80の下流端から、さらに下方に向かって分岐し、仕切壁38に形成された連通孔29を通ってステータホルダ50の下部に形成された導入口57に接続されている。すなわち、第2油路82は、ステータホルダ50とモータハウジング11との間に形成された環状油路60内に冷却油71を供給するようになっている(図1中矢印C2)。
【0030】
第2油路82の上流側には、逆流防止弁83が設けられている。この逆流防止弁83は、第2油路82内を流通する冷却油71の流通方向(図1中矢印C2)と反対方向に冷却油71が逆流することを防ぐためのものである。逆流防止弁83は、供給油路76内における冷却油71の流通方向において、第1油路81と第2油路82との分岐地点よりも下流側であって、第1油路81よりも重力方向下方に配置されており、油溜69内において冷却油71に浸漬配置されている。
【0031】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。なお、以下の説明では主として冷却油の循環経路について説明する。
図1に示すように、ステータ21に巻装されたコイル20に電流が供給されることにより、ステータ21に磁束が発生して、この磁束とロータ22に設けられた永久磁石30との間に生じる磁気的な吸引力や反発力によってシャフト24が回転駆動する。すると、この回転力がシャフト24のギヤ28を介して動力伝達部や、オイルポンプ72のギヤ74に伝達されることで、車両が走行するとともに、シャフト24の回転に連動してオイルポンプ72が作動する。
【0032】
オイルポンプ72が作動すると、油溜69に貯留された冷却油71が、吸引油路75を流通して汲み上げられる(図1中矢印B)。そして、油溜69から汲み上げられた冷却油71は、オイルポンプ72により供給油路76に送出され、供給油路76の下流端で第1油路81と第2油路82とに分岐する。第1油路81に分岐した冷却油71は、第1油路81内を流通した後各ベアリング26,27に連続的に供給され(図1中矢印C1)、ベアリング26,27の潤滑や冷却が行われる。
【0033】
一方、第2油路82に分岐した冷却油71は、第2油路82を流通した後、ステータホルダ50に形成された導入口57から連続的に環状油路60内に供給される。環状油路60内に供給された冷却油71は、環状油路60内に沿って重力方向下部から上部に向かって流通する。このように、ステータ21とモータハウジング11との間に形成された環状油路60内に冷却油71が流通しているので、ステータ21の外面形状に関わらず、ステータ21の全周に亘って冷却油71が行渡ることになる。そのため、冷却油71とステータ21との熱交換がステータ21の全周に亘って均一に行われる。この場合、ステータ21とモータハウジング11との間に空気が介在している場合に比べて、ステータ21との熱交換を効率的に行い、ステータ21の冷却効率を向上させることができる。
しかも、環状油路60は、上部に形成された排出口58,65のみでモータユニット10内と連通しているので、冷却油71は環状油路60の軸方向端部等から漏れ出ることなく、環状油路60内の軸方向及び径方向における全域に行き渡りながら周方向に沿って流通し、環状油路60の上部まで到達する。これにより、冷却油71が環状油路60内の全域を均一に流通することになるので、ステータ21の外面形状に関わらず、冷却油71とステータ21との熱交換がステータ21の全周に亘って均一に行われる。その結果、モータ23を冷却して、モータ性能の低下を防止することができる。
【0034】
環状油路60の上部まで流通した冷却油71は、ステータホルダ50の最上部に形成された各排出口58,65から排出され、モータユニット10内を下方に向かって流れていく(図1中矢印D)。この時、排出口58,65から排出された冷却油71は、ステータ21の軸方向両端面から外側に突出した渡り部19を伝って下方に流れていく。そのため、冷却油71と渡り部19との間で熱交換が行われ、冷却油71によってコイル20を直接冷却することができる。これにより、モータ23の冷却効率を向上させ、モータの過熱を防止することができる。しかも、環状油路60の両端に排出口58,65が形成されているので、排出口58,65から排出された冷却油71を軸方向両端の渡り部19に均一に供給することができる。そのため、各渡り部19と冷却油71との熱交換を均一に行わせることができる。
【0035】
ところで、上述したように燃料電池車両等の電気自動車では、坂路における停車状態において、ブレーキ操作をすることなく停止状態(ヒルホールド状態)を維持することもできる。この際、モータ23の回転に連動して作動するオイルポンプ72を用いると、車両の走行停止(シャフト24の回転停止)とともにオイルポンプ72が停止して環状油路60への冷却油71の供給が停止する。それにも関わらず、環状油路60内に存在する冷却油71は排出口58,65から排出され続ける。また、環状油路60内に介在する冷却油71が導入口57から逆流し、供給油路76内を流通して油溜69に排出される。
一方、モータユニット10自体はトルクを発生させながら坂路での停止状態を維持しているために、コイル20には電流が供給され続ける。その結果、環状油路60内の油面が低下し、モータ23の伝熱性能が低下する虞がある。
オイルポンプ72に代えて、モータ23の回転と独立して作動する電動ポンプを用いることも考えられるが、この場合にはモータユニット10の大型化や製造コストの増加に繋がるため、好ましくない。
【0036】
図4はオイルポンプの停止時におけるモータユニットの概略構成図であり、図5は図4のE−E線に沿う断面図である。
本実施形態では、図4,5に示すように、オイルポンプ72が停止すると、第1油路81、共通油路80及び吸引油路75内に流通する冷却油71が逆流して、吸引油路75から油溜69内に排出される。
これに対して、第2油路82には逆流防止弁83が設けられているので、ヒルホールド状態等において、シャフト24の回転停止に伴ってオイルポンプ72が停止した場合に、環状油路60から第2油路82に向かって逆流しようとする冷却油71を第2油路82中で塞き止めることができる。よって、ヒルホールド状態であっても、排出口58,65と逆流防止弁83との間に介在する冷却油71は、環状油路60内に介在し続けることになるので、環状油路60内の油面を低下させることがない。これにより、ヒルホールド状態においても、冷却油71とステータ21との熱交換がステータのほぼ全周に亘って均一に行われる。その結果、モータユニット10の小型化及び製造コストの低減を図った上で、冷却油71の伝熱性能を維持することができるので、モータ23の過熱を防止して、モータ性能の低下を防止することができる。
【0037】
しかも、本実施形態では、冷却油71が排出される排出口58,65がステータホルダ50の最上部に配置されているので、冷却油71の供給が停止した場合に環状油路60内に介在する冷却油71は、排出口58,65からほとんど漏れ出ることがなく、環状油路60内の略全周に亘って冷却油71を介在させておくことができる。その結果、ステータ21の略全周に亘って均一な伝熱性能(冷却性能)を確保することができる。なお、逆流防止弁83が共通油路80ではなく、第2油路82に設けられているので、環状油路60内から逆流しようとする冷却油71が、他の油路(例えば、第1油路81)に分岐することもないので、環状油路60内に確実に冷却油71を介在させておくことができる。
【0038】
ところで、上述したようにコイル20に電流が流れるとステータ21に磁界が形成され、ステータ21とロータ22との間に生じる磁気的な吸引力や反発力が繰り返し発生することで、磁歪振動が発生する。この磁歪振動がモータハウジング11に伝達されることでNV性能が悪化するという問題がある。特に、本実施形態のように燃料電池車両等の電気自動車の駆動源として搭載される比較的大きなモータユニット10においては、ステータ21の磁歪振動によるノイズが無視できない程大きくなる。
【0039】
そこで、本実施形態によれば、ステータホルダ50を介してステータ21をモータハウジング11に固定することで、ステータホルダ50とモータハウジング11との間に中間領域が形成される。そして、ステータ21がモータハウジング11との間に中間領域を挟んで配置されているので、ステータ21の磁歪振動がモータハウジング11に直接伝達されることがなく、ステータホルダ50とモータハウジング11との接触部分(例えば、外取付片56)を経由して伝達されることになる。すなわち、ステータ21の外周面が直接、モータハウジング11の内壁面に密着配置されている構成に比べて、ステータ21の磁歪振動がモータハウジング11まで伝達され難くなるので、磁歪振動がモータハウジング11に伝達されることにより発生するノイズを低減することが可能になる。したがって、NV性能の悪化を抑制することができる。
また、中間領域を環状油路60として利用することで、モータハウジング11とステータ21との間に別体の環状油路60を形成する必要がない。さらに、ステータホルダ50に導入口57及び排出口58を形成することで、オイルポンプ72から送出される冷却油71を直接環状油路60内に供給することができる。その結果、製造効率の向上及び構成の簡素化を図ることができる。
【0040】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や形状などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、本発明の電動機を燃料電池車両に搭載される車両用駆動モータユニット10として採用した場合について説明したが、これに限らず、各種電気自動車等に採用することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
10…モータユニット(電動機) 11…モータハウジング(ハウジング) 19…渡り部 20…コイル 21…ステータ 22…ロータ 24…シャフト 26,27…ベアリング 50…ステータホルダ 57…導入口 58,65…排出口 60…環状油路 70…循環機構 72…オイルポンプ 81…第1油路 82…第2油路 83…逆流防止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するための電動機であって、
油が貯留されるハウジングと、
前記ハウジング内に収納されたロータと、
前記ロータの軸中心を貫通するシャフトと、
前記ハウジングに設けられ、前記シャフトを回転可能に支持するベアリングと、
前記ロータの外周に配置されたステータと、
前記ステータの外周と前記ハウジングの内壁との間に形成され、前記ステータの周方向に沿って前記油が流通する環状油路と、
前記ベアリング及び前記環状油路に向けて前記油を供給する供給機構とを備え、
前記環状油路は、前記油が導入される導入口と、
前記導入口よりも重力方向において高い位置に配置され、前記環状油路内を流通した前記油が排出される排出口とを備え、
前記供給機構は、前記シャフトの回転力により駆動し、前記油を循環させるオイルポンプと、
前記オイルポンプよりも下流側に配置され、前記ベアリングへ前記油を供給するための第1油路と、
前記導入口に接続され、前記環状油路内に前記油を供給するための第2油路とを備え、
前記第2油路には、逆流防止弁が設けられていることを特徴とする電動機。
【請求項2】
前記排出口は、前記環状油路における重力方向最上部に配置されていることを特徴とする請求項1記載の電動機。
【請求項3】
前記ステータにはコイルが巻装されるとともに、前記ステータの軸方向両端に前記コイルの渡り部が形成され、
前記排出口から排出される前記油が前記渡り部に被るようにして排出されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電動機。
【請求項4】
前記ハウジングと前記ステータとの間には、前記ステータを前記ハウジングに固定するステータホルダを備え、
前記ステータホルダは、円筒部およびフランジ部を備え、前記円筒部の内周側に前記ステータを保持するとともに、前記フランジ部において前記ハウジングに固定され、
前記ステータホルダの前記円筒部と前記ハウジングの内壁面との間の中間領域に、前記環状油路が形成されるとともに、前記ステータホルダの前記フランジ部に前記導入口及び前記排出口が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−4488(P2011−4488A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144273(P2009−144273)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】