説明

電子キーシステム

【課題】電子キーシステムにおいて、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断をより正確に行うことにある。
【解決手段】車載装置20からは信号強度の異なる両測定用信号Srs1,Srs2が送信される。これら信号のRSSIの差がしきい値以下のとき中継器を使用した不正な通信である旨判断される。これら両測定用信号Srs1,Srs2は一定時間内に送信される。一定時間は、中継器から同一の信号強度である両測定用信号Srs1,Srs2が発信された場合においても、電子キー10の移動に伴う両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差がしきい値以下となる程度に小さく設定される。これにより、電子キー10が移動した場合であっても、中継器を使用した不正な通信である旨の判断が正しく行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子キーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電子キーシステムにおいては、電子キー及び車両間での無線通信を通じて、車両ドアの施解錠、エンジン始動等が許可される。例えば、車両は、車内通信エリアに要求信号を送信する車内アンテナと、車両周辺の車外通信エリアに要求信号を送信する車外アンテナと、を備える。何れかの通信エリアに進入した電子キーは、要求信号を受信するとIDコードを含む応答信号を送信する。車両は、車外通信エリアに存在する電子キーからの応答信号に含まれるIDコードの照合が成立したときには、車両ドアの施解錠を許可する。一方、車両は、車内通信エリアに存在する電子キーからの応答信号に含まれるIDコードの照合が成立したときには、エンジンの始動を許可する。
【0003】
近年、電波(要求信号、応答信号)をリレーする中継器を使用して遠方に存在する電子キーがあたかも車室内外に存在するかのように偽装する不正な通信が懸念されている。この中継器を使用した不正な通信によって、車両ドアの解錠又はエンジン始動が実行されるおそれがある。そこで、例えば特許文献1に開示されるように、中継機を使用した不正な通信に対する防犯対策が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−118886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願人は、車両及び電子キー間で送受信される無線信号の信号強度を変化させることで、中継器を使用した不正な通信を防止することを検討している。例えば、車両は、信号強度の異なる複数の無線信号を順に送信する。電子キーは、車両からの複数の無線信号の信号強度を検出する。ここで、中継器は、無線信号の信号強度を模倣することはない。すなわち、中継器は、車両から信号強度の異なる複数の無線信号を受信しても、同一の信号強度にて無線信号を電子キーに送信する。従って、車両及び電子キー間に中継器が存在する場合、電子キーは同一の信号強度の無線信号を受信する。このときには、中継器を使用した不正な通信である旨判断されて、車両ドアの解錠が許可されない。
【0006】
上記構成において、無線信号を受信した後であって次の無線信号を受信するまでの期間に電子キーが移動すると、中継器が介在しているにも関わらず、電子キーが受ける各無線信号の信号強度が同一とならないおそれがある。これにより、中継器が使用されているにも関わらず、中継器を使用した不正な通信でない旨判断されるおそれがあった。
【0007】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断がより正確に行われる電子キーシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の発明は、制御対象及び電子キー間で送受信される無線信号を通じて同制御対象の制御が実行される電子キーシステムにおいて、前記制御対象又は前記電子キーは、一定時間以内に信号強度の異なる複数の無線信号を送信し、前記電子キー又は前記制御対象に設けられて、前記制御対象又は前記電子キーから送信される前記各無線信号の信号強度を検出する検出部と、前記制御対象又は前記電子キーに設けられ、前記検出部を通じて認識される前記各無線信号の信号強度の差が、前記送信される各無線信号の信号強度の差に基づき設定されるしきい値を超えるとき中継器を使用した不正な通信でない旨判断して前記制御対象の制御の実行を許可し、前記しきい値以下であるとき中継器を使用した不正な通信である旨判断して前記制御対象の制御の実行を禁止する判断部と、を備え、前記一定時間は、中継器を通じて前記各無線信号の信号強度が同一とされた場合においても、前記一定時間内における前記電子キーの移動に伴う前記中継器からの各無線信号の信号強度の差がしきい値以下となるように設定されることをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、信号強度の異なる複数の無線信号が送信される。これら信号の信号強度の差がしきい値以下のとき中継器を使用した不正な通信である旨判断される。これは、中継器は無線信号の信号強度を模倣することはないため、中継器を使用した場合には、そこから発信される各無線信号の信号強度の差はゼロに近似するからである。しかし、中継器が使用された場合であっても、ユーザが携帯する電子キーが移動することで検出部を通じて検出される各無線信号の信号強度に差が生じる。この点、上記構成では各無線信号は一定時間内に送信される。一定時間は短く設定されるほど、その間に電子キーが移動可能な距離は小さくなるため、電子キーの移動に伴う各無線信号の信号強度の差は小さくなる。そのような観点から、一定時間は、中継器から同一の信号強度である各無線信号が発信された場合においても、電子キーの移動に伴う各無線信号の信号強度の差がしきい値以下となる程度の時間に設定されている。これにより、電子キーが移動した場合であっても、中継器を使用した不正な通信である旨の判断が正しく行われる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子キーシステムにおいて、前記一定時間は、前記各無線信号の信号強度に応じた信号到達距離の差を、想定されるユーザの最大移動速度で割り算することにより算出されることをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、一定時間内に電子キーが各無線信号の信号到達距離の差を越えて移動することを防ぐことができる。これにより、中継器から各無線信号が同一の信号強度で発信された場合において、電子キーの移動に伴って各無線信号の信号強度の差がしきい値を超えること、ひいては、中継器を使用した不正な通信でない旨の誤判断がされることを抑制できる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電子キーシステムにおいて、前記検出部は、前記電子キーに設けられるとともに前記制御対象からの前記複数の無線信号である複数の測定用信号の信号強度を検出し、前記電子キーは、前記検出部を通じて認識した前記各測定用信号の信号強度を信号強度情報信号に含ませて送信し、前記判断部は、前記制御対象に設けられるとともに、前記信号強度情報信号に含まれる前記各測定用信号の信号強度に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行うことをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、検出部の検出結果は信号強度情報信号を通じて制御対象に送信される。これにより、制御対象における判断部を通じて中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行うことができる。このように、判断部を制御対象に設けることで、制御対象に比して高い携帯性が要求される電子キーをよりコンパクトに構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子キーシステムにおいて、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断がより正確に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電子キーシステムの構成図。
【図2】各種信号のRSSI及び送信タイミングを示すタイミングチャート。
【図3】測定用信号等の送信エリアを示した車両の上面図。
【図4】図3の部分拡大図。
【図5】電子キー制御部11及び車載制御部21の処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる電子キーシステムについて図1〜図5を参照して説明する。
図1に示されるように、電子キーシステム1は、ユーザによって所持される電子キー10と、車載装置20とを備えている。電子キー10及び車載装置20間で相互通信が行われ、その相互通信が車外及び車内にて成立したことを条件として車両ドアの施解錠及びエンジンの始動が許可される。
【0017】
<電子キー>
電子キー10は、電子キー制御部11と、LF受信部12と、UHF送信部13とを備える。
【0018】
電子キー制御部11は、コンピュータユニットによって構成されるとともに、不揮発性のメモリ11aを備える。このメモリ11aには電子キー10に固有のIDコードが記憶されている。
【0019】
LF受信部12は、図2に示すように、その受信アンテナ12aを通じて車載装置20から送信されるウェイク信号Swk及び第1の測定用信号Srs1と、ウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2とを連続的に受信する。そして、LF受信部12は、これら信号をパルス信号に復調したうえで電子キー制御部11へ出力する。ウェイク信号Swk及び両測定用信号Srs1,Srs2はLF(Low Frequency)帯の無線信号である。
【0020】
また、図1に示すように、LF受信部12にはRSSI検出回路16が設けられている。RSSI検出回路16は両測定用信号Srs1,Srs2の受信信号強度RSSI(Receive Signal Strength Indication)を検出して、その検出結果を電子キー制御部11へ出力する。
【0021】
電子キー制御部11は、ウェイク信号Swkを認識すると、その後に入力される各測定用信号Srs1,Srs2のRSSIをRSSI検出回路16を通じて認識する。また、電子キー制御部11は、2つめのウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2を認識すると、アック信号Sacを生成し、それをUHF送信部13へ出力する。UHF送信部13は、アック信号Sacを変調し、それを自身の送信アンテナ13aを介してUHF(Ultra High Frequency)帯の無線信号として送信する。
【0022】
図2に示すように、このアック信号Sacに対して車載装置20からチャレンジ信号Sccが送信される。
LF受信部12は、受信アンテナ12aを介してチャレンジ信号Sccを受信すると、同チャレンジ信号Sccをパルス信号に復調し、それを電子キー制御部11へ出力する。電子キー制御部11は、LF受信部12からチャレンジ信号Sccが入力されると、チャレンジ信号Sccに含まれるチャレンジコードを認識する。そして、電子キー制御部11は、このチャレンジコードを暗号化することでレスポンスコードを生成する。
【0023】
電子キー制御部11は、生成したレスポンスコードと、RSSI情報としての両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIとを含ませたレスポンス信号Sreを生成し、この信号をUHF送信部13へ出力する。UHF送信部13は、レスポンス信号Sreを変調するとともに、そのレスポンス信号Sreを送信アンテナ13aを介してUHF帯の無線信号として送信する。
<車載装置>
図1に示すように、車載装置20は、車載制御部21と、車外送信部22と、車内送信部23と、車載受信部24とを備えている。また、車載制御部21には、ロックスイッチ36と、エンジンスイッチ33と、ドアロック装置34と、エンジン装置35と、が電気的に接続されている。
【0024】
図3の円中に拡大して示すように、車外送信部22は、車両ドアのアウトサイドドアハンドル4に内蔵されている。また、ロックスイッチ36はアウトサイドドアハンドル4に設けられるとともに、ユーザに押し操作されるとその旨の操作信号を車載制御部21に出力する。
【0025】
車載受信部24は車室内の略中央に設けられている。また、車内送信部23は、車室内における図3の上下方向に沿って2つ設けられている。さらに、エンジンスイッチ33は運転席近傍に設けられるとともに、ユーザによって押し操作されるとその旨の操作信号を車載制御部21に出力する。また、ドアロック装置34は、車両ドアが閉じた状態において車両ドアを自動的に施解錠する。
【0026】
車載制御部21は、コンピュータユニットによって構成されるとともに、不揮発性のメモリ21aを備える。このメモリ21aには、電子キー10に記憶されるIDコードと同一のIDコードが記憶されている。
【0027】
車載制御部21は、ロックスイッチ36が操作された旨認識すると、ウェイク信号Swk及び第1の測定用信号Srs1と、ウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2とを順に生成し、それを車外送信部22に出力する。
【0028】
車外送信部22は、車載制御部21からウェイク信号Swk及び第1の測定用信号Srs1、並びにウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2が連続的に入力されると、それらを順に変調する。そして、車外送信部22は、それら変調した信号を自身の送信アンテナ22aを介してLF帯の無線信号として送信する。
【0029】
図2に示すように、第1の測定用信号Srs1の信号強度は、第2の測定用信号Srs2の信号強度より強く設定されている。従って、第1の測定用信号Srs1と第2の測定用信号Srs2とが送信されるエリアは異なる。詳しくは、図3に示すように、第1の測定用信号Srs1は、各アウトサイドドアの外側に半円状に形成される第1の送信エリア31に送信される。この第1の送信エリア31は、アウトサイドドアハンドル4を中心として半径R1にて形成されている。また、第2の測定用信号Srs2は、半径R1より小さい半径R2にて半円状に形成される第2の送信エリア32に送信される。すなわち、第2の送信エリア32は、第1の送信エリア31に含まれる態様で形成される。本実施形態では、半径R2及び半径R1の差は40cmに設定されている。換言すると、半径R2及び半径R1の差が40cmとなるように、両測定用信号Srs1,Srs2の信号強度が設定されている。
【0030】
また、図2に示すように、両測定用信号Srs1,Srs2は、一定時間T1未満に送信される。本実施形態では、この一定時間T1は300msに設定される。この一定時間T1の算出方法については後で詳述する。
【0031】
図2に示すように、2つめのウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2を受信した電子キー10からアック信号Sacが返信される。
車載受信部24は、その受信アンテナ24aを介してアック信号Sacを受信する。そして、車載受信部24は、アック信号Sacをパルス信号に復調し、それを車載制御部21へ出力する。
【0032】
車載制御部21は、アック信号Sacを認識すると、チャレンジコードを含むチャレンジ信号Sccを生成し、それを車外送信部22に出力する。このとき、車載制御部21は、チャレンジコードを暗号化することによりレスポンスコードを生成する。この暗号化に利用される暗号鍵は電子キー10及び車載装置20で共通のものが使用される。車外送信部22は、車載制御部21からチャレンジ信号Sccが入力されると、それを変調して、その変調した信号を自身の送信アンテナ22aを介して送信する。
【0033】
図2に示すように、チャレンジ信号Sccに対して電子キー10からはレスポンス信号Sreが返信される。
車載受信部24は、その受信アンテナ24aを介して電子キー10からのレスポンス信号Sreを受信する。そして、車載受信部24は、レスポンス信号Sreをパルス信号に復調し、それを車載制御部21へ出力する。
【0034】
車載制御部21は、レスポンス信号Sreに含まれるIDコードと、レスポンスコードと、RSSI情報である両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIとを認識する。車載制御部21は、自身が生成したレスポンスコードと、レスポンス信号Sreに含まれるレスポンスコードとの照合を行う(レスポンス照合)。また、車載制御部21は、レスポンス信号Sreに含まれるIDコードと、メモリ21aに記憶されるIDコードとの照合を行う(IDコード照合)。車載制御部21は、レスポンス照合及びIDコードの照合が成立した旨判断すると、中継器を使用した不正な通信であるか否かを判断する。
【0035】
詳しくは、車載制御部21は、RSSI情報に基づき認識した第1の測定用信号Srs1のRSSIと第2の測定用信号Srs2のRSSIとの差がしきい値を超える場合には、電子キー10との通信が中継器を使用した不正なものでない旨判断する。また、車載制御部21は、認識した第1の測定用信号Srs1のRSSIと第2の測定用信号Srs2のRSSIとの差がしきい値以下の場合には、電子キー10との通信が中継器を使用した不正なものである旨判断する。このしきい値は、車載装置20から送信される両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差に基づき設定される。
【0036】
車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信でない旨判断したとき、ドアロック装置34を通じて車両ドアの施解錠状態を切り替える。一方、車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信である旨判断したとき、車両ドアの施解錠状態の切り替えを行わない。
【0037】
また、車載制御部21は、エンジンスイッチ33が操作された認識すると、上記ロックスイッチ36が操作されたときと同様に、車内送信部23及びその送信アンテナ23aを介してウェイク信号Swk及び第1の測定用信号Srs1と、ウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2とを連続的に車室内に送信する。これら信号の信号強度並びに送信タイミングは、上述の車外送信部22を介して送信される信号と同様である。車載制御部21は、レスポンス照合及びIDコード照合が成立した旨判断すると、中継器を使用した不正な通信であるか否かを判断する。そして、車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信でない旨判断したとき、エンジン装置35を通じてエンジンを始動する。一方、車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信である旨判断したときエンジンを始動させない。
【0038】
つぎに、中継器を使用した不正な通信及びそのときの車載装置20及び電子キー10の処理動作について図4を参照しつつ説明する。
同図に示すように、中継器101は、自身の送受信ユニット101aを介してウェイク信号Swk、両測定用信号Srs1,Srs2及びチャレンジ信号Sccを受信する。中継器101は、送受信ユニット101aを通じて受信したウェイク信号Swk等を、ケーブル101bを通じて車両から離れた位置にある送受信ユニット101cから送信する。これにより、中継器101を通じてウェイク信号Swk等が車両から離れた位置に中継される。このとき、中継器101は、各種信号の信号強度を模倣しない。すなわち、中継器101は、送受信ユニット101aを通じてRSSIの異なる両測定用信号Srs1,Srs2を受信しても、送受信ユニット101cを通じて同一の信号強度にて両測定用信号Srs1,Srs2を送信する。
【0039】
このとき、電子キー制御部11はRSSI検出回路16を通じて送受信ユニット101cからの両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIを認識する。このとき、上述のように、両測定用信号Srs1,Srs2の信号強度は同一である。従って、電子キー制御部11は、第1の測定用信号Srs1のRSSIと第2の測定用信号Srs2のRSSIとの差がしきい値以下であるとして、中継器を使用した不正な通信である旨判断する。
【0040】
ここで、例えば、ユーザが所持する電子キー10が移動することで、送受信ユニット101c及び電子キー10間の距離が変化する。電子キー10が受ける送受信ユニット101cからの無線信号のRSSIは、送受信ユニット101c及び電子キー10間の距離に反比例する。
【0041】
このため、第1の測定用信号Srs1の受信後であって第2の測定用信号Srs2の受信前の期間に、ユーザの移動により電子キー10及び送受信ユニット101c間の距離が変化した場合、中継器を使用した不正な通信であるにも関わらず、両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIに差が生じるおそれがある。
【0042】
具体的には、図4の位置P1に示すように、第1の送信エリア31の円周上に電子キー10が存在する場合、両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差はしきい値を越える。一方、中継器101が使用される際、図4の位置P2に電子キー10が存在して一定期間T1内に電子キー10が送受信ユニット101cと反対側に移動したとき、第2の測定用信号Srs2のRSSIは第1の測定用信号Srs1のRSSIより小さくなって、それらの差はしきい値を越えるおそれがある。
【0043】
中継器101が使用された場合に、両RSSIの差がしきい値を越えるには、電子キー10の移動量が両送信エリア31,32の半径の差「半径R1−半径R2」で表される距離を超えることが条件となる。
【0044】
その点、本実施形態においては、両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差がしきい値を超えることはない。すなわち、両RSSIの差がしきい値を超えないように、両測定用信号Srs1,Srs2の送信に係る一定時間T1は設定されている。一定時間T1は、電子キー10が「半径R1−半径R2」だけ移動できない程度の時間に設定される。この一定時間T1を算出するにあたって、例えば、ユーザの歩行時における最大移動速度Vmaxを決める。そして、「半径R1−半径R2」を最大移動速度Vmaxで割り算することで一定時間T1が算出される。例えば、最大移動速度Vmaxが5km/hであって、「半径R1−半径R2」が40cmの場合には、一定時間T1は約300msとなる。これにより、最大移動速度Vmaxである5km/hで電子キー10が移動した場合であっても、その移動距離は40cmとなる。この場合における両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差はしきい値と同じ値になる。従って、両RSSIの差はしきい値以下となるので中継器を使用した不正な通信である旨判断される。このように電子キー10が移動した場合であっても、正しく中継器を使用した不正な通信である旨判断される。
【0045】
つぎに、電子キー制御部11及び車載制御部21の動作について図5のフローチャートに従って説明する。このフローチャートは、例えばエンジン停止状態において繰り返し実行される。
【0046】
まず、車載制御部21は、ロックスイッチ36又はエンジンスイッチ33が操作された旨認識すると、ウェイク信号Swk及び第1の測定用信号Srs1と、ウェイク信号Swk及び第2の測定用信号Srs2とを連続的に送信する(S101及びS102)。電子キー制御部11は、各種信号を受信すると、両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIを認識する(S103)。そして、電子キー制御部11はアック信号Sacを送信する(S104)。車載制御部21は、アック信号Sacを受信すると、チャレンジ信号Sccを送信する(S105)。電子キー制御部11は、チャレンジ信号Sccを受信すると、レスポンス信号Sreを送信する(S106)。車載制御部21は、レスポンス信号Sreを受信して、レスポンス照合及びIDコード照合が成立した旨判断すると(S107)、レスポンス信号Sreに含まれるRSSI情報に基づき、今回の電子キー10との通信が中継器を使用した不正なものであるか否かを判断する(S108)。車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信でない旨判断すると(S108でNO)、エンジンの始動又は車両ドアの解錠を行う(S109)。一方、車載制御部21は、中継器を使用した不正な通信である旨判断すると(S108でYES)、エンジンの始動又は車両ドアの解錠を行うことなく、当該フローチャートを終了する。
【0047】
以上、説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)車載装置20からは信号強度の異なる両測定用信号Srs1,Srs2が送信される。これら信号のRSSIの差がしきい値以下のとき中継器101を使用した不正な通信である旨判断される。これは、中継器101は無線信号の信号強度を模倣することはないため、中継器101を使用した場合には、そこから発信される両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差はゼロに近似するからである。しかし、中継器101が使用された場合であっても、ユーザが携帯する電子キー10が移動することでRSSI検出回路16を通じて検出される両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIに差が生じる。この点、上記構成では両測定用信号Srs1,Srs2は一定時間T1内に送信される。一定時間T1は短く設定されるほど、その間に電子キー10が移動可能な距離は小さくなるため、両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差は小さくなる。そのような観点から、一定時間T1は、中継器101から同一の信号強度である両測定用信号Srs1,Srs2が発信された場合においても、電子キー10の移動に伴う両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差がしきい値以下となる程度に小さく設定される。これにより、電子キー10が移動した場合であっても、中継器を使用した不正な通信である旨の判断が正しく行われる。
【0048】
(2)両送信エリア31,32の半径の差「半径R1−半径R2」を最大移動速度Vmaxで割り算することで一定時間T1が算出される。従って、一定時間T1内に電子キー10が「半径R1−半径R2」で表せる距離を越えて移動することを防げる。これにより、中継器101から同一の信号強度である両測定用信号Srs1,Srs2が発信された場合において、電子キー10の移動に伴って両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIの差がしきい値を超えること、ひいては、中継器101を使用した不正な通信でない旨の誤判断がされることを抑制できる。
【0049】
(3)RSSI検出回路16の検出結果はレスポンス信号Sreを通じて車載装置20に送信される。車載装置20は、レスポンス信号Sreに含まれるRSSI検出回路16の検出結果に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行うことができる。このように、車載装置20にて上記判断を行うことで、電子キー10におけるその判断に係る処理を省略できる。
【0050】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することができる。
・上記実施形態においては、電子キー10において、RSSI検出回路16の検出結果に対して何らの判断も加えることなく、その検出結果をレスポンス信号Sreに含ませて送信していた。しかし、電子キー制御部11が判断部としてRSSI検出回路16の検出結果に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断(S108)を行ってもよい。電子キー10は、その判断結果を無線信号に含ませて車載装置20に送信する。車載装置20は、前記無線信号に含まれる判断結果に基づき、車両ドアの解錠又はエンジンの始動をするか否かを決める。
【0051】
・上記実施形態におけるRSSI検出回路16は、LF受信部12と独立して設けられていてもよい。
・上記実施形態においては、両測定用信号Srs1,Srs2は車載装置20から電子キー10に送信されていた。しかし、電子キー10から車載装置20に両測定用信号Srs1,Srs2が送信されてもよい。この場合、RSSI検出回路16は、車載受信部24に、若しくは車載受信部24と独立して車載装置20に設けられる。本構成においても、電子キー10の移動に伴って両測定用信号Srs1,Srs2のRSSIは変化するため、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0052】
・上記実施形態においては、両測定用信号Srs1,Srs2は、それぞれウェイク信号Swkの後に送信されていた。しかし、単一のウェイク信号Swkを送信した後、連続して両測定用信号Srs1,Srs2を送信してもよい。さらに、ウェイク信号Swkを省略してもよい。
【0053】
・上記実施形態においては、RSSI情報はレスポンス信号Sreに含まれて送信されていた。しかし、レスポンス信号とは別にRSSI情報のみを含むRSSI情報信号が送信されてもよい。また、RSSI情報をアック信号Sacに含ませてもよい。
【0054】
・上記実施形態においては、2つの測定用信号Srs1,Srs2が送信されていた。しかし、複数であれば3つ以上の測定用信号が送信されてもよい。この場合、各測定用信号のRSSIの差に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を正確に行うことができる。
【0055】
・上記実施形態においては、車外送信部22及び車内送信部23が設けられていた。しかし、車内外共通の送信部を設けてもよい。この送信部は、車室内外に送信エリアを形成する。
【0056】
・上記実施形態におけるステップS107及びステップS108の処理を逆にしてもよい。この場合、中継器を使用した不正な通信である旨判断したとき、レスポンス照合及びIDコード照合を行うことなく、当該フローチャートを終了する。
【0057】
・上記実施形態においては、車載装置20からはLF帯の無線信号が送信され、電子キー10からはUHF帯の無線信号が送信されていた。しかし、車載装置20及び電子キー10間で送受信される無線信号の周波数帯はこれらに限らない。
【0058】
・上記実施形態においては、制御対象である車載装置20は、電子キー10との間での無線通信を通じて車両ドアの施解錠等を行っていた。しかし、制御対象は、車載装置20に限らず、例えば住宅用のドア装置であってもよい。この場合であっても、上記実施形態と同様に、中継器を使用した不正な通信を防止できる。
【0059】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想をその効果と共に記載する。
(イ)請求項3に記載の電子キーシステムにおいて、前記信号強度情報信号は、前記検出部の検出結果に加えて前記電子キーに固有のIDコードを含むレスポンス信号であって、前記制御対象は、前記レスポンス信号を受信すると、その信号に含まれるIDコードと、自身に予め記憶されるIDコードとの照合を行い、前記判断部は、前記IDコードの照合が成立したとき、前記レスポンス信号に含まれる前記検出部の検出結果に基づき中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行う電子キーシステム。
【0060】
同構成によれば、IDコードの照合が成立したときに中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断が行われる。これにより、その判断の回数を低減することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…電子キーシステム、10…電子キー、20…車載装置(制御対象)、21…車載制御部(判断部)、16…RSSI検出回路(検出部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象及び電子キー間で送受信される無線信号を通じて同制御対象の制御が実行される電子キーシステムにおいて、
前記制御対象又は前記電子キーは、一定時間以内に信号強度の異なる複数の無線信号を送信し、
前記電子キー又は前記制御対象に設けられて、前記制御対象又は前記電子キーから送信される前記各無線信号の信号強度を検出する検出部と、
前記制御対象又は前記電子キーに設けられ、前記検出部を通じて認識される前記各無線信号の信号強度の差が、前記送信される各無線信号の信号強度の差に基づき設定されるしきい値を超えるとき中継器を使用した不正な通信でない旨判断して前記制御対象の制御の実行を許可し、前記しきい値以下であるとき中継器を使用した不正な通信である旨判断して前記制御対象の制御の実行を禁止する判断部と、を備え、
前記一定時間は、中継器を通じて前記各無線信号の信号強度が同一とされた場合においても、前記一定時間内における前記電子キーの移動に伴う前記中継器からの各無線信号の信号強度の差がしきい値以下となるように設定される電子キーシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の電子キーシステムにおいて、
前記一定時間は、前記各無線信号の信号強度に応じた信号到達距離の差を、想定されるユーザの最大移動速度で割り算することにより算出される電子キーシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子キーシステムにおいて、
前記検出部は、前記電子キーに設けられるとともに前記制御対象からの前記複数の無線信号である複数の測定用信号の信号強度を検出し、
前記電子キーは、前記検出部を通じて認識した前記各測定用信号の信号強度を信号強度情報信号に含ませて送信し、
前記判断部は、前記制御対象に設けられるとともに、前記信号強度情報信号に含まれる前記各測定用信号の信号強度に基づき、中継器を使用した不正な通信であるか否かの判断を行う電子キーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−144905(P2012−144905A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4066(P2011−4066)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】