説明

電子スロットルバルブの制御装置

【課題】電子スロットルバルブの開度を変化させることなく、アイドル域を含めた開度全域でデューティを低減させ、燃費向上を図る。
【解決手段】電子スロットルバルブ1の実開度17と目標開度16とが入力され、実開度17を目標開度16に一致させるようにフィードバック制御を行うフィードバック演算手段12と、フィードバック演算手段12の出力するデューティ25に従い電子スロットルバルブ1を駆動するモータ駆動回路15とを備えている。フィードバック演算手段12にはデューティ低減処理部13が設けられており、電子スロットルバルブ1の開度が定常であると判断したとき、フィードバック制御を停止してデューティの更新を停止し、更新停止直前のデューティから所定の低減量28を減じたデューティをモータ駆動回路15へ出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子スロットルバルブの制御装置に関し、特に、燃費向上を目的として、消費電力の低減を図るための電子スロットルバルブの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、自動車の燃費向上への取り組みがいっそう進められている。その1つとして、電気駆動される補機類の消費電力を低減することで、エンジンによる発電量を削減し、結果、燃費を向上させる、という技術の開発が行われている。
【0003】
対象となる補機類にはさまざまなものがあるが、その1つに、モータによりバタフライの角度を調整しエンジンの吸気量を制御する、電子スロットルシステムがある。
【0004】
電子スロットルシステムは、電子スロットルバルブと、電子スロットルバルブを制御する制御装置と、運転者がアクセルを踏み込む量を電気信号に変換して制御装置に伝えるアクセル開度センサなどから構成されている。電子スロットルバルブは、モータでバネに反力を与え、両者の力のつりあい位置がバタフライの角度となる構造になっている。また、制御装置は、バタフライの角度をスロットル開度センサによって読み込み、この実開度がアクセル開度センサなどにより計算された目標開度と一致するよう、フィードバック制御を行う。この演算結果はデューティとしてモータ駆動回路に入力され、モータは電子スロットルバルブの実開度が目標開度となるよう駆動される。制御装置内にはマイクロコンピュータがあり、所定の周期で、これらを繰り返し実行する。
【0005】
ところで、制御装置が故障した場合も、所定の吸気量を確保する必要があることから、駆動電流が0A、すなわち、デューティが0%のとき、電子スロットルバルブはバネの力で中間開度とよばれる開度になる。この中間開度から全閉側、及び、全開側へ駆動する時、モータをそれぞれ、逆転、正転するようにデューティを与え、バネを押し込むように駆動する。前記のように、モータとバネの力がつりあうところで駆動が止まるため、デューティと開度の関係は、図1のようになる。
【0006】
このとき、バネを押し込む方向、すなわち、中間開度から遠ざかる方向と、バネに押し戻される方向、すなわち、中間開度へ近づく方向との、2つの駆動方向が存在するが、この方向によって、同じ開度でもデューティの値は異なる。つまり、デューティと開度の関係はヒステリシスをもった特性となる。このことを図1を用いて説明する。図1の開度Aが目標開度であり、実開度も開度Aで安定している場合、デューティは、区間Bのどこかの値になっていることになる。
【0007】
さて、目標開度が開度Aで、実開度も開度Aを維持している場合、区間BのどこかにあるデューティをC%に設定することができれば、実開度を開度Aに留めながらもデューティを最も少なくすることが出来る。デューティと消費電力は比例関係にあるため、つまりは、消費電力を最も少なくすることができる。特許文献1(特開2009−62899号公報)では、デューティをC%に近づけるために、一旦目標開度を開度Aより開き側に設定し、次にゆっくりと開度Aまで戻し、そのとき、デューティがC%に向けて低減される、としている。
【0008】
図2は、特許文献1の動作を示したものである。特許文献1では、区間Bの中のあるデューティD%で開度Aで定常状態であった場合、目標開度を一旦開き側へ設定し、ゆっくり開度Aまで戻すことで、デューティが最終的にD%より低いE%まで低下できる、としている。そして、この制御(揺らぎ制御)を繰り返すことで、デューティC%の近傍まで近づける、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−62899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1では、揺らぎ制御のTup+Tdownの期間、実開度は、開度Aと異なる開度となる。この開度Aとの乖離量はシステムの許容変動範囲内に設定されるとしているが、電子スロットルシステムの場合、開度変化は内燃機関の回転速度に敏感に反映されるため、この許容変動範囲は狭い。特に、アイドル域では、わずかの開度変化も回転速度に影響する。例えば、電子スロットルバルブの開度は、一般的に、スロットル開度センサの信号で、5V/4096の分解能で制御されているが、この分解能の1つ分が変化するだけで、アイドル域では、内燃機関の回転速度が約10rpm変化する。アイドル域での回転速度の許容変動範囲は、例えば、±25rpmであり、揺らぎ制御を適用しない通常時においても、その許容変動範囲に近い範囲、例えば、±20rpmで回転速度が変動している。このため、揺らぎ制御用に割り当て可能な開度の許容変動範囲は0である。つまり、特許文献1の揺らぎ制御を適用することは出来ない。
【0011】
また、仮に、揺らぎ制御を適用しない通常時の回転速度変動が極めて小さく±15rpm程度であったとしても、又は、アイドル域での回転速度の許容変動範囲が±30rpm程度に大きいとしても、揺らぎ制御用に割り当て可能な開度の許容変動範囲は分解能の1つまでが限度である。なぜなら、許容変動範囲が開度分解能の2つ、つまり、約20rpmを、通常の回転速度の変動量に上乗せすると、運転者に内燃機関のうなり音として認知されてしまい、商品性の問題が生じるため、分解能の1つまでが限度である。
【0012】
しかし、開度の許容変動範囲が分解能の1つでは、特許文献1の揺らぎ制御を適用しても、デューティを低減することは出来ない。なぜなら、特許文献1では、開度Aから一旦開くときの作動時間Tupより、再び開度Aへ戻す作動時間Tdownを長くすることが必要となるが、分解能の1つしか許容できないのであれば、図3に示すように、TupとTdownは1演算周期と等しく、開き側と閉じ側の作動時間に差をつけることが出来ないからである。
【0013】
このように、開度変化が内燃機関の回転速度に敏感に反映される電子スロットルシステムにおいては、最も運転状態として頻度の高いアイドル域に、特許文献1の技術を適用することが出来ない、という問題が生じる。
【0014】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたものであり、電子スロットルバルブの開度を変化させることなく、アイドル域を含めた開度全域でデューティを低減させ、燃費向上を図ることが出来る電子スロットルバルブの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、内燃機関の吸気量を調節する電子スロットルバルブに接続され、前記電子スロットルバルブを制御するための電子スロットルバルブの制御装置であって、内燃機関の状態を検出する各種センサからの値に基づいて、前記電子スロットルバルブの目標開度を決定する目標開度演算手段と、前記電子スロットルバルブの実際の開度である実開度と前記目標開度とが入力され、前記実開度を前記目標開度に一致させるようにフィードバック制御を行うフィードバック演算手段と、前記フィードバック演算手段の出力するデューティに従い前記電子スロットルバルブを駆動するモータ駆動回路とを備え、前記フィードバック演算手段は、前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合に、前記フィードバック制御によるデューティの更新を停止し、更新停止直前のデューティの値から所定量を減じた値を前記デューティとして前記モータ駆動回路へ出力するデューティ低減処理部を含み、前記フィードバック演算手段は、前記電子スロットルバルブの開度が定常でないと判断した場合は、通常の前記フィードバック制御により前記デューティの更新を行い、前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合には、前記デューティ低減処理部による処理を行うことを特徴とする電子スロットルバルブの制御装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、内燃機関の吸気量を調節する電子スロットルバルブに接続され、前記電子スロットルバルブを制御するための電子スロットルバルブの制御装置であって、内燃機関の状態を検出する各種センサからの値に基づいて、前記電子スロットルバルブの目標開度を決定する目標開度演算手段と、前記電子スロットルバルブの実際の開度である実開度と前記目標開度とが入力され、前記実開度を前記目標開度に一致させるようにフィードバック制御を行うフィードバック演算手段と、前記フィードバック演算手段の出力するデューティに従い前記電子スロットルバルブを駆動するモータ駆動回路とを備え、前記フィードバック演算手段は、前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合に、前記フィードバック制御によるデューティの更新を停止し、更新停止直前のデューティの値から所定量を減じた値を前記デューティとして前記モータ駆動回路へ出力するデューティ低減処理部を含み、前記フィードバック演算手段は、前記電子スロットルバルブの開度が定常でないと判断した場合は、通常の前記フィードバック制御により前記デューティの更新を行い、前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合には、前記デューティ低減処理部による処理を行うことを特徴とする電子スロットルバルブの制御装置であるので、電子スロットルバルブの開度を変化させることなく、アイドル域を含めた開度全域でデューティを低減させ、燃費向上を図ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】電子スロットルシステムにおける、デューティと開度の特性図である。
【図2】特許文献1における、揺らぎ制御を説明するためのタイミングチャートである。
【図3】特許文献1における、揺らぎ制御の許容変動範囲が分解能の1の場合のタイミングチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1における、電子スロットルシステムの構成を示した構成図である。
【図5】本発明の実施の形態1における、電子スロットルシステム全体の制御ブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態1における、フィードバック演算手段の制御ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態1における、デューティ低減処理部において、所定の周期で実行される処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1における、デューティ低減処理部において、カウンタの初期化処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態1における、デューティ低減処理部の動作を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態1.
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
図4は、本発明の実施の形態1に係る、電子スロットルバルブの制御装置が設けられた、電子スロットルシステム全体の構成を示す図である。内燃機関であるエンジンの吸気管には、電子スロットルバルブ1が設けられ、エンジンへの吸入空気量を調節する。また、エンジンには、エンジン制御用各種センサ2が備えられ、これらの情報を用いて、エンジン制御ユニット3(以下、ECU3とする)は、エンジンの運転状態を適切に制御する。エンジン制御用各種センサ2の例としては、例えば、エアフローメータ、クランク角センサ、冷却水温センサ、吸気温センサ、Oセンサなどが挙げられる。バッテリ4は、ECU3に接続されて、電力をECU3に供給する。アクセル開度センサ5は、ECU3に接続され、運転者のアクセル踏み込み量をECU3へ伝える。また、ECU3内には、図示しないマイクロコンピュータが内臓され、エンジン制御用各種センサ2の信号やアクセル開度センサ5の信号を読み込み、目標とする電子スロットルバルブ1の開度(以下、目標開度とする)を演算する。なお、ECU3が、本発明の実施の形態1に係る電子スロットルバルブの制御装置を構成している。
【0020】
電子スロットルバルブ1は、DCモータ6、ギア7、バタフライ8、バネ9、スロットル開度センサ10により構成されている。DCモータ6は、ECU3から電力を供給されて、正転、逆転の回転を行う。その回転トルクがギア7を介して、バタフライ8とバネ9とスロットル開度センサ10とが同軸で接続されているシャフトへ伝えられる。バネ9とDCモータ6の回転トルクが釣り合うところでバタフライ8の動きが止まり、バタフライ8の角度は、スロットル開度センサ10にて検出され、ECU3内のマイクロコンピュータに読み込まれる。この値から、電子スロットルバルブ1の実際の開度(以下、実開度とする)が演算され、当該値が目標開度と一致するようにフィードバック制御が行われ、当該制御により、電子スロットルバルブ1のDCモータ6が駆動される。
【0021】
図5は、本発明に係る電子スロットルシステム全体の制御ブロックを示す図である。図5に示すように、ECU3は、目標開度演算手段11と、フィードバック演算手段12と、故障判定手段14と、モータ駆動回路15とにより、構成されている。また、フィードバック演算手段12内には、後述するデューティ低減処理部13が設けられている。
【0022】
当該構成において、まず、エンジン制御用各種センサ2の信号やアクセル開度センサ5の信号から、ECU3内の目標開度演算手段11にて、電子スロットルバルブ1の目標開度16が算出される。例えば、エンジン冷却水の温度から定める開度とアクセル開度に比例する開度との和を、目標開度16として決定する。この目標開度16と、スロットル開度センサ10を介して読み込んだ実開度17とを、フィードバック演算手段12で比較して、デューティとモータ駆動方向を演算する。デューティの演算方法については後述する。モータの駆動方向の決定方法は、目標開度16と実開度17との大小関係により決定する。すなわち、目標開度16の方が実開度17より大きければ、開き側、すなわち、モータを正転させる方向に駆動方向を決定し、逆に、目標開度16の方が実開度17よりも小さければ、閉じ側、すなわち、モータを逆転させる方向に駆動方向を決定する。このフィードバック演算手段12の内部には、本発明の特徴であるデューティ低減処理部13が組み込まれており、従来の方法で算出されたデューティに追加の処理を行う。また、ECU3内には、故障判定手段14が設けられている。故障判定手段14は、電子スロットシステムが正常か故障かを判定し、故障時には故障フラグを1にしてフィードバック演算手段12に対して出力し、それを受けて、フィードバック演算手段12は、デューティ低減処理部13の処理を実行しない。
【0023】
なお、デューティ低減処理部13は、電子スロットルバルブ1の開度が定常であると判断したとき、フィードバック制御を停止してデューティの更新を停止し、更新停止直前のデューティから所定の低減量を減じたデューティを出力する。一方、デューティ低減処理部13は、電子スロットルバルブ1の開度が定常でないと判断したときは、通常のフィードバック制御によるデューティの更新を継続し、(動的に変化する)今回演算値のデューティを出力する。
【0024】
フィードバック演算手段12で算出されたデューティとモータ駆動方向は、モータ駆動回路15でPWM波形に変換され、それに基づき電子スロットルバルブ1のDCモータ6が駆動される。その後は、既に説明のとおり、この駆動力がバタフライ8の角度となり、この角度をスロットル開度センサ10でECU3が読み込み、次のフィードバック演算が実施される。
【0025】
図6は、フィードバック演算手段12の制御ブロック図である。図5の目標開度演算手段11にて演算された目標開度16と、電子スロットルバルブ1のスロットル開度センサ10から読みこんだ実開度17と、故障判定手段14にてシステムが正常か故障かを判定した結果である故障フラグ18とが、フィードバック演算手段12の入力となる。
【0026】
フィードバック演算手段12のうちのデューティ低減処理部13以外の部分は、従来から一般的に設けられている構成(以下、従来部分とする)である。まず、この、フィードバック演算手段12の従来部分について説明する。従来部分には、P項演算部20、I項演算部21、D項演算部22、および、デューティ変換部24が設けられている。当該構成において、まず、目標開度16と実開度17とが入力され、それらの差分(=(目標開度16)−(実開度17))を演算し、これを偏差19とする。偏差19をフィードバック制御の1つであるPID制御の各項への入力とし、すなわち、偏差19を、P項演算部20、I項演算部21、および、D項演算部22にそれぞれ入力し、それらの項のそれぞれで演算を行い、それらの出力の和を操作量23とする。具体的には、例えば、Kp、Ki、Kdをそれぞれのゲイン定数として所定の値を定め、P項演算部20で、Kp×偏差の演算を行い、I項演算部21で、Σ(Ki×偏差)の演算を行い、D項演算部22で、Kd×(現時刻の偏差−1演算周期前の偏差)の演算を行い、それらの演算結果の和である、Kp×偏差+Σ(Ki×偏差)+Kd×(現時刻の偏差−1演算周期前の偏差)を求め、操作量23へ代入する。次に、デューティ変換部24で、操作量23に所定の係数を乗じる等の演算により、操作量23はデューティ25に変換され、モータ駆動回路15へ伝えられ、ここでPWM波形として出力されることになる。
【0027】
次に、本発明のデューティ低減処理部13について説明する。デューティ低減処理部13には、定常判定部26と安定判定部27とが設けられている。定常判定部26には、偏差19と、目標開度16と、実開度17と、故障フラグ18とが入力され、それらに基づき、定常か否かの判定が行われる。定常判定部26にて定常と判定された場合は、デューティ変換部24により演算された今回演算値のデューティは、RAMのデューティ記憶領域(以下、デューティ25とする)に代入されず、デューティ25には前回値が保持される。一方、定常判定部26にて定常ではないと判定された場合は、通常のフィードバック制御が行われ、すなわち、デューティ変換部24で今回演算した今回演算値でデューティ25が更新される。
【0028】
なお、定常判定部26は、(a)目標開度16の前回値と今回値との絶対差(Δ目標開度)が予め設定した第1の定数K1より小さいこと、(b)実開度17の前回値と今回値との絶対差(Δ実開度)が予め設定した第2の定数K2より小さいこと、(c)偏差19の絶対値が予め設定した第3の定数K3より小さいこと、(d)故障フラグ18がリセット、すなわち、電子スロットルシステムが故障していないこと、の4つの条件(a)〜(d)の全てを満足する場合を定常と判定し、それ以外を定常ではない、と判定する。
【0029】
定常判定部26の結果は、安定判定部27へ入力され、ここで、所定時間の間、定常であれば、安定と判断され、デューティ25から所定の低減量28を減算するようにスイッチの切り替えが行われ、それ以外の場合は安定でないと判断され、デューティ25はそのままモータ駆動回路15へ出力される。
【0030】
デューティ低減処理部13の動作を図7のフローチャートを用いて説明する。このプログラムや定数は、本発明の適用対象となるフィードバック演算手段12と同じく、マイクロコンピュータ内のROMに格納され、フィードバック演算手段12と同じ、所定の周期で実行される。
【0031】
デューティ低減処理部13は、まず、ステップS1において、前回演算時の目標開度16’と今回演算時の目標開度16との絶対差である、Δ目標開度(=|(前回演算時の目標開度16’)−(今回演算時の目標開度16)|)を演算し、第1の定数K1と比較する。Δ目標開度が第1の定数K1より小さければ、Yes判定となり、ステップS2へ進む。一方、Δ目標開度が第1の定数K1以上であれば、No判定となり、ステップS6へ進む。この第1の定数K1は、例えば、制御分解能(5V/4096)×2に設定する。
【0032】
次に、ステップS2において、前回演算時の実開度17’と今回演算時の実開度17との絶対差である、Δ実開度(=|(前回演算時の実開度17’)−(今回演算時の実開度17)|)を演算し、第2の定数K2と比較する。Δ実開度が第2の定数K2より小さければ、Yes判定となり、ステップS3へ進む。一方、Δ実開度が第2の定数K2以上であれば、No判定となり、ステップS6へ進む。この第2の定数K2は、例えば、制御分解能(5V/4096)×2に設定する。
【0033】
次に、ステップS3において、今回演算時の目標開度16と今回演算時の実開度17との絶対差である、偏差の絶対値(=|(今回演算時の目標開度16)−(今回演算時の実開度17)|)を演算し、第3の定数K3と比較する。偏差の絶対値が第3の定数K3より小さければ、Yes判定となり、ステップS4へ進む。一方、偏差の絶対値が第3の定数K3以上であれば、No判定となり、ステップS6へ進む。この第3の定数K3は、例えば、制御分解能(5V/4096)×1に設定する。
【0034】
さらに、ステップS4において、故障フラグ18を読み取り、システムが正常であれば、Yes判定となり、ステップS5へ進む。システムが異常であれば、No判定となり、ステップS6へ進む。
【0035】
ステップS5においては、前処理で定常であると判定された間の時間、すなわち、ステップS1からステップS4が全てYes判定であった時間をカウントするカウンタc1を減算する。なお、カウンタc1の減算とは、RAMに記憶されているカウンタc1の値が1以上であれば1を減じ、それ以外の場合は何も処理を行わない事を示す。その後、ステップS7へ進む。
【0036】
ステップS6においては、カウンタc1に初期値として予め設定された第5の定数K5を代入する。この第5の定数K5は、例えば100msに相当する値に設定する。つぎに、ステップS7へ進む。
【0037】
次に、ステップS7において、カウンタc1が0か否かを判定する。0であればYes判定(定常であると判定)となり、ステップS8へ進む。一方、カウンタc1が1以上であれば、No判定(定常でないと判定)となり、ステップS10へ進む。
【0038】
ステップS8においては、定常時の処理として、フィードバック制御を停止する。すなわち、今回演算時のデューティを、デューティ25に代入せず、デューティ25の値は前回値のままとし、I項演算部21の積算を停止する。次に、ステップS9で、カウンタc2を1つ減算し、ステップS12へ進む。
【0039】
ステップS10においては、定常時以外の通常の処理として、フィードバック制御を継続する。すなわち、今回演算時のデューティを、従来どおり、デューティ25に代入し、I項演算部21の積算を従来どおり実行する。次に、ステップS11で、カウンタc2に初期値として予め設定した第6の定数K6を代入し、ステップS12へ進む。この第6の定数K6は、例えば20msに相当する値に設定する。
【0040】
ステップS12において、カウンタc2が0か否かを判定する。0であればYes判定(安定であると判定)となり、ステップS13へ進む。1以上であれば、No判定(安定でないと判定)となり、ステップS18へ進む。
【0041】
ステップS13において、カウンタc3が0か否かを判定する。0であればYes判定(所定の繰返し時間が経過)となり、ステップS14へ進む。1以上であれば、No判定(所定の繰返し時間が未経過)となり、ステップS20へ進む。
【0042】
ステップS14において、カウンタc4が0より大きいか否かを判定する。0より大きい(1以上)であれば、Yes判定(所定の繰返し回数に到達)となり、ステップS15へ進む。0であれば、No判定(所定の繰返し回数に未到達)となり、ENDへ進み、全ての処理が終わる。
【0043】
ステップS15において、デューティ25に記憶されている値から、低減量28として、予め設定された第7の定数K7を引いた値を、新たなデューティとしてデューティ25へ代入する。
【0044】
この第7の定数K7は、次の条件を考慮して設定する。まず、制御対象となる電子スロットルバルブ1の、温度や個体差などのばらつきが考慮されたヒステリシス幅の最小値を、電子スロットルバルブ設計値や特性値からあらかじめ定めておく。ステップS19で説明する繰り返し回数K9と第7の定数K7との積である合計の低減量は、このヒステリシス幅の最小値より小さいだけでなく、減算後のデューティがヒステリシス幅から出てしまうことを防ぐため、前記ヒステリシス幅の最小値の1/5〜1/10程度に設定することが推奨される。例えば、ヒステリシス幅の最小値の1/6程度の値が、デューティ1%であるとすると、1%/K9をK7に設定する。
【0045】
次のステップS16において、カウンタc3に初期値K8を代入し、次のステップS17において、カウンタc4から1を減算し、ENDへ進み、全ての処理が終わる。この定数K8は、ステップS13での所定の繰返し時間に相当するもので、例えば50msに相当する値に設定する。
【0046】
一方、ステップS12においてNo判定となった場合、ステップS18において、カウンタc3に0を代入し、次のステップS19において、カウンタc4に初期値K9を代入し、ENDへ進み、全ての処理が終わる。この定数K9は、ステップS14での所定の繰返し回数に相当するもので、例えば2回に設定する。
【0047】
ステップS13においてNo判定となった場合、ステップS20において、カウンタc3を1減算し、ENDへ進み、全ての処理が終わる。
【0048】
また、ECU3内のマイクロコンピュータに電源が投入された時などは、本発明のデューティ低減処理部13に関するカウンタRAMを初期化する必要がある。この場合、図8に示すステップS21を実行する。すなわち、カウンタc1に初期値K5を、カウンタc2に初期値K6を、カウンタc3に0を、カウンタc4に初期値K9を、それぞれ代入し、処理を終了する。この図8のプログラムも、図7同様、マイクロコンピュータ内のROMに格納され実行される。
【0049】
図7の動作を、図9のタイミングチャートを用いて説明する。ここでは、デューティC%を、図1の意味で用いており、定数K9は、前記の例のように2としている。
【0050】
目標開度が開度Aで一定であり、実開度が開度Aへ近づいている場合(Δ目標開度<K1)、フィードバック制御によりデューティは動的に変化しており、C%より高い値である。このとき、カウンタc1はK5、カウンタc2はK6、カウンタc3は0、カウンタc4はK9、となっている。
【0051】
時刻T1において、Δ実開度<K2、|偏差|<K3、かつ、故障フラグよりシステムが正常である、の条件をすべて満たすとする。すると、カウンタc1が減算を始め、やがて0となり、続いて、カウンタc2が減算を始め、やがて0となる。この0となる時刻をT2とする。
【0052】
時刻T2において、デューティは前回値からK7引かれた値となり、カウンタc3はK8が代入され、カウンタc4は1つ減算される。カウンタc3は、次の演算周期以降で減算を始め、やがて0となる。この0となる時刻をT3とする。
【0053】
時刻T3において、デューティは前回値から、さらにK7引かれた値となり、カウンタc3はK8が代入され、カウンタc4はさらに1つ減算され、0となる。カウンタc3は、次の演算周期以降で減算を始め、やがて0となる。しかし、カウンタc4が0であるため、デューティはこれ以上減算されることはない。
【0054】
このようにしてデューティは低減され、一方、C%以上であるため、実開度は開度Aから変化することはない。つまり、デューティだけが低減されたことになり、特許文献1の課題を解決できる。
【0055】
さて、このような場合において、例えば、スロットル開度が電子スロットルバルブの振動で変化した、或いは、スロットル開度センサの信号にノイズが乗った、などにより、実開度が変化し、Δ実開度≧K2、又は、|偏差|≧K3、となった場合を考える。この時刻をT4とする。
【0056】
時刻T4において、定常ではないと判定されるため、カウンタc1はK5、カウンタc2はK6、カウンタc3は0、カウンタc4はK9、に設定され、フィードバック制御が再開される。このため、デューティは動的に変化し、実開度が開度Aに収束される。この時刻をT5とする。この時、収束したデューティは、図1の区間Bの中のいずれかに収束するが、時刻T1でのデューティと必ずしも一致するわけではない。
【0057】
時刻T5において、Δ実開度<K2、|偏差|<K3、となり、再び、カウンタc1が減算を始め、やがて0となり、続いて、カウンタc2が減算を始め、やがて0となる。この時刻をT6とする。
【0058】
時刻T6において、時刻T2と同様、デューティは前回値からK7引かれ、カウンタc3はK8が代入され、カウンタc4は1つ減算される。カウンタc3は、次の演算周期以降で減算を始め、やがて0となる。この時刻をT7とする。
【0059】
時刻T7において、時刻T3と同様、デューティは前回値から、さらにK7引かれた値となり、カウンタc3はK8が代入され、カウンタc4はさらに1つ減算され、0となる。カウンタc3は、次の演算周期以降で減算を始め、やがて0となる。しかし、カウンタc4が0であるため、デューティはこれ以上減算されることはない。このときのデューティは、時刻T3でのデューティと必ずしも一致するわけではなく、また、図9のように、時刻T3でのデューティよりも大きな値になってしまう場合もある。しかし、本発明を適用しない場合に比べ、K7×K9分(例えば、1%)のデューティを低減させることができ、かつ、実開度を変化させることがない。すなわち、特許文献1の課題を解決できる。
【0060】
消費電力の低減量は、例えば、モータ駆動回路のON抵抗を0.3Ω、ECUとモータ間のハーネス抵抗を0.17Ω、モータのコイル抵抗を1.2Ωとすると、全抵抗は1.67Ω(=0.3(Ω)+0.17(Ω)+1.2(Ω))となり、バッテリ電圧を14Vとすると、デューティ100%相当の電流値は、約8.38A(≒14(V)÷1.67(Ω))となる。合計のデューティ低減量(K9×K7)を1%とすると、0.0838A相当となり、ヒステリシス幅の最小値が0.5Aであれば、これは約1/6を低減することに相当し、この低減量は適当である。このデューティ低減量1%による、消費電力低減量は、14(V)×0.0838(A)の約1.17Wとなる。特許文献1の技術は、開度の許容変動範囲が非常に狭い電子スロットルバルブの制御には適用できず、消費電力を低減できないが、本発明は、開度に影響を与えることなく、走行時の頻度の多いアイドル域を含めて、約1Wの電力消費を軽減することが出来る。
【0061】
なお、電子スロットルシステムの故障を示す故障フラグがセットされている時のほか、例えば、電子スロットルバルブの全閉開度や全開開度を学習するための処理を実行している場合も、本発明の処理は実施されない。
【0062】
以上のように、本発明の電子スロットルバルブの制御装置であるECU3は、電子スロットルバルブ1の目標開度16を決定する目標開度演算手段11と、電子スロットルバルブ1の実際の開度である実開度17と目標開度16とが入力され、実開度17を目標開度16に一致させるようにフィードバック制御を行うフィードバック演算手段12と、フィードバック演算手段12の出力するデューティ25に従って電子スロットルバルブ1を駆動するモータ駆動回路15とを備え、フィードバック演算手段12は、電子スロットルバルブ1の開度が定常であると判断したとき、デューティ25の更新を停止し、更新停止直前のデューティから所定の低減量28を減じたデューティをモータ駆動回路15へ出力するデューティ低減処理部13を含むようにしたので、開度が定常時には、デューティから、駆動ヒステリシスの範囲内に収まる所定値、すなわち、ヒステリシスの幅より小さい所定値を、低減量28として減算することで、駆動電流を低減させることができるため、開度を変動させることなく、アイドル域を含めた開度全域でデューティを低減させることができ、エンジン回転数への影響を出すことなく、消費電力低減、すなわち、燃費向上を図ることができるという効果を奏する。
【0063】
なお、上記の説明においては、定数K6を所定の値とする例について記載したが、その場合に限定されるものではなく、定数K6を0としてもよく、この場合には、定常判定の成立(図7のステップS7)と安定判定の成立(図7のステップS12)が同時となる。
【0064】
また、上記の説明においては、定数K9を2とする例について記載したが、その場合に限らず、定数K9を1に設定して、定数K7でのデューティ低減(図7のステップS15)を1回だけにしてもよい。
【0065】
また、図7及び図8で説明した定数K1〜K3,K5〜K9は固定値であったが、エンジン制御用各種センサ2、例えば、水温、バッテリ電圧、開度位置、に応じて値が変更されるよう、定数K1〜K3,K5〜K9の値をマップデータとすることもできる。
【0066】
フィードバック制御は、上述のPID制御のほか、微分先行型PID制御、PI制御、など、他のフィードバック制御においても同様に適用できる。
【0067】
更に、本発明は、内燃機関の電子スロットルシステムに限定されず、内燃機関の制御に用いる他の装置(例えば、可変バルブ装置、EGR装置等)や内燃機関以外に用いる様々な装置等、制御対象の制御量を目標値に一致させるように操作量やデューティを制御するシステムで、操作量やデューティに対しヒステリシスを有するシステムに広く適用して実施できる。
【符号の説明】
【0068】
1 電子スロットルバルブ、2 エンジン制御用各種センサ、3 エンジン制御ユニット(ECU)、4 バッテリ、5 アクセル開度センサ、6 DCモータ、7 ギア、8 バタフライ、9 バネ、10 スロットル開度センサ、12 フィードバック演算手段、13 デューティ低減処理部、14 故障判定手段、15 モータ駆動回路、16 目標開度、17 実開度、18 故障フラグ、19 偏差、20 P項演算部、21 I項演算部、22 D項演算部、23 操作量、24 デューティ変換部、25 デューティ、26 定常判定部、27 安定判定部、28 低減量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気量を調節する電子スロットルバルブに接続され、前記電子スロットルバルブを制御するための電子スロットルバルブの制御装置であって、
内燃機関の状態を検出する各種センサからの値に基づいて、前記電子スロットルバルブの目標開度を決定する目標開度演算手段と、
前記電子スロットルバルブの実際の開度である実開度と前記目標開度とが入力され、前記実開度を前記目標開度に一致させるようにフィードバック制御を行うフィードバック演算手段と、
前記フィードバック演算手段の出力するデューティに従い前記電子スロットルバルブを駆動するモータ駆動回路と
を備え、
前記フィードバック演算手段は、
前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合に、前記フィードバック制御によるデューティの更新を停止し、更新停止直前のデューティの値から所定量を減じた値を前記デューティとして前記モータ駆動回路へ出力するデューティ低減処理部
を含み、
前記フィードバック演算手段は、前記電子スロットルバルブの開度が定常でないと判断した場合は、通常の前記フィードバック制御により前記デューティの更新を行い、前記電子スロットルバルブの開度が定常であると判断した場合には、前記デューティ低減処理部による処理を行う
ことを特徴とする電子スロットルバルブの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−87621(P2012−87621A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232233(P2010−232233)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】