説明

電子ビーム描画方法、電子ビーム描画システム、凹凸パターン担持体の製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法

【課題】PEBまでの時間の遅れによる寸法変動を補正し描画された微細パターンに応じたレジストパターンを得ることができるように電子ビーム描画を行う。
【解決手段】サーボパターンと、グルーブパターンとを含む微細パターンを描画する電子ビーム描画方法において、電子ビームEBの照射のタイミングを、電子ビームEBを遮断するブランキング手段26に対するオン・オフ信号により制御する際に、それぞれのパターン毎の露光後経過時間に対するレジスト11の感度変動データに基づいて、パターン毎に、描画半径毎のオン・オフ信号による電子ビームEBの照射のデューティ比を変化させて、レジスト11の露光量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク状磁気記録媒体用の原盤を作製する際に、所望の微細パターンを描画するための電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システムに関するものである。
【0002】
また、本発明は、電子ビーム描画方法を用いた描画を行う工程を有する凹凸パターン表面を有する凹凸パターン担持体の製造方法、さらには該凹凸パターン担持体を用いて凹凸パターンを転写する工程を有するディスク状磁気記録媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現状の磁気ディスク媒体では、一般にサーボパターンなどの情報パターンが予め形成されている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)で分離し、隣接トラック間の磁気的干渉を低減するようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)が注目されている。
【0004】
従来、上記サーボパターン等の微細パターンは、磁気ディスク媒体に凹凸パターンまたは磁化パターンなどとして形成されており、高密度の磁気ディスク媒体を製造するための磁気転写用マスター担体の原盤作製のために、レジストが塗布された基板上に所定の微細パターンをパターニングするための電子ビーム描画方法が提案されている(特許文献1等)。
【0005】
レジストとしては、化学増幅型レジストが用いられる。例えば、ポジ型の化学増幅型レジストを用いた場合、電子ビームによる所定のパターン描画の後、露光後ベーク処理、所謂PEB(Post Exposure Bake)処理を行い、その後現像液で露光部を溶解させることにより、描画パターンに応じたレジストパターンを得ることができる。
【0006】
磁気ディスク媒体用の微細パターンは記録密度の増加により、パターンの微細化が著しく、1枚の微細パターンの描画には2日〜1週間以上、長いものでは2週間程度を要する。そのため、パターンの描画後PEB処理までの時間の遅れ、所謂PED(Post Exposure Delay)によるレジスト感度の低下が問題となる。これは、PEDが長くなるほどレジストの露光量に対する感度が低下し、露光部の現像後の寸法(仕上がり寸法)に細りが生じるという問題である。
【0007】
PEDの影響は、1枚の基板についての微細パターン描画時間が長くなればなるほど大きいものとなる。また、パターンの設計線幅が小さいほど、感度変動による影響が大きく、PED時間が長くなると、線幅が細るだけでなく、解像できない場合も生じる。
【0008】
光ディスク用スタンパの製造工程において同様の問題が知られており、特許文献2、3等においては、PEDの影響を抑制するための描画方法が提案されている。具体的には、特許文献2では、半径位置に応じて描画線速度を変化させ、露光量を調整する方法が提案されており、特許文献3においては、半径位置に応じて照射電流量を変化させ、露光量を調整する方法が提案されている。
【0009】
特許文献2および3の方法によれば、半径方向位置に応じてPEDの影響による寸法変動を補正するように露光量を調整するため、露光部のレジスト現像後におけるパターンの幅の均一性を確保することができる。なお、特許文献2、3で想定されているのは光ディスク媒体用のスタンパの製造である。光ディスク媒体用のスタンパは、描画パターンとしてピット及びグルーブを含むが、それらのパターンの描画幅(寸法)は通常同一であるため、半径方向位置に応じて露光量を調整することにより良好な凹凸パターンを得ることができる。
【0010】
他方、電子ビームによるパターン描画においては、微細パターンの疎密程度に応じ近接効果の影響によって、電子ビームを走査して基板上に描画したパターン形状に対して、実際にレジストに感光される形状が異なり、パターンの密配置部では描画した形状に対して感光形状が大きくなることから、ドーズ量(照射線量)を変更する近接効果補正を行う必要があることが知られている。
【0011】
本出願人は、パターンの疎密に応じた描画方法として、特許文献4においてパターンの疎密程度に応じ、密配置部の描画では電子ビームの照射時間を、疎配置部における描画の照射時間より短く設定してドーズ量を調整する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004―158287号公報
【特許文献2】特開2004−185786号公報
【特許文献3】特開2006−10864号公報
【特許文献4】特開2009−237001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
光ディスク媒体のパターン幅は最小でも100nm程度であり、1枚の原盤パターンの描画に要する時間はせいぜい1日程度であるのに対し、磁気ディスク媒体用の微細パターンとして、現在目指している最小線幅は50nm以下と非常に微細なものとなっており、1枚の原盤パターンの描画に2日〜1週間以上、長いものでは2週間程度を要する。
レジスト感度変動による影響は、線幅が小さいほど、また、PEB(Post Exposure Bake)までの時間が長いほど大きいため、磁気ディスク媒体用のパターン描画においては光ディスク媒体の場合よりも深刻なものとなる。
【0014】
さらに、本発明者は、磁気ディスク媒体用の微細パターンを描画する際には、光ディスク媒体用のパターン描画とは異なる問題が生じることを見出した。
【0015】
磁気ディスク媒体用の微細パターンは、光ディスク媒体用パターンとは異なり、サーボパターンとグルーブパターンなどのように、寸法が異なるパターンを含んでいる。
【0016】
本発明者は、このような微細パターンの露光現像後のパターンを詳細に検討した結果、同一の描画半径(すなわちPEDが同等である位置)においても、パターンが異なると、補正すべき露光量が異なることを見出した(図4参照)。
【0017】
この原因は以下のように考察される。設計パターン寸法が異なるパターンでは、EB描画の走査軌跡により、描画幅方向の露光強度分布のコントラストが変わる。すなわち、グルーブ幅のような細い設計寸法では、分布がよりシャープになり、サーボのビット長のような太い設計寸法では、分布がよりブロードとなる。このため、同じ日数のPED影響を受けた場合でも、細い設計寸法での線幅変動は小さく感度変化も小さいが、太い設計寸法での線幅変動は大きく、感度変化も大きくなる。これにより、パターン寸法が異なると、PED影響を受けた場合でも感度変化量が異なると考えられる。
すなわち、ディスク媒体用パターンがサーボパターンとグルーブパターンなどのように異なる設計寸法のパターンを含む場合に、特許文献2および3等に記載されているような方法を用いて、同一の描画半径における補正露光量を一定としたのでは、パターンの種によっては露光量不足、あるいは露光過多となる場合が生じるという問題を見出した。
【0018】
既述の通り、特許文献4においては近接効果補正のために、パターンの疎密により同一の描画半径において露光量を変化させる方法を提案しているが、PEBまでの時間によるレジストの感度劣化については考慮されておらず、半径方向の寸法が異なるパターン間での露光量調整についても検討されていない。
【0019】
本発明は、本発明者により見出された上述の新たな課題を解決するためになされたものであって、PEDによる寸法変動を補正し描画された微細パターンに応じたレジストパターンを得ることができる電子ビーム描画方法および電子ビーム描画を行うための電子ビーム描画システムを提供することを目的とするものである。
【0020】
また、本発明は、電子ビームにより精度よく描画された微細パターンを有する、インプリントモールドや磁気転写用マスター担体などの凹凸パターン担持体の製造方法を提供すること、および、その凹凸パターン担持体を用いて凹凸パターンもしくは磁気パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の電子ビーム描画方法は、レジストが塗布され回転ステージ上に載置された基板を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該基板上に電子ビームを照射すると共に、1回転の描画後に前記電子ビームの描画半径位置を移動させることを繰り返してディスク状記録媒体用の微細パターンを描画する電子ビーム描画方法であって、
前記微細パターンは、サーボパターンと、隣接トラック間を分離するトラック方向に延びるグルーブパターンとを含むものであり、
前記電子ビームの照射のタイミングを、該電子ビームを遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号により制御する際に、前記パターン毎の露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データに基づいて、該パターン毎に、前記描画半径毎の前記オン・オフ信号による前記電子ビームの照射のデューティ比を変化させて、前記レジストの露光量を調整することを特徴とするものである。
【0022】
前記パターン毎の前記露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データから、前記パターン毎の前記露光後経過時間に対して補正すべき露光量を算出し、
前記描画半径と前記露光後経過時間との関係から、前記パターン毎に各描画半径毎の補正露光量を求めて前記電子ビーム照射のデューティ比を設定すればよい。
【0023】
前記サーボパターンを、1トラック幅、1ビット長のサーボエレメント毎に前記電子ビームを周方向もしくは半径方向に高速振動させると共に、高速振動の方向に直交する方向に偏向して形状を塗りつぶすように走査して描画し、
前記グルーブパターンを、周方向に複数のグルーブエレメントに分割し、該グルーブエレメント毎に前記電子ビームを周方向の前記回転ステージの回転の向きと逆向きに偏向走査して描画するものとすることができる。
【0024】
本発明の電子ビーム描画システムは、本発明の電子ビーム描画方法を実現するのに適するものであり、回転ステージと、前記基板上に電子ビームを走査する電子ビーム照射部とを備えた電子ビーム描画装置と、
レジストが塗布され前記回転ステージ上に載置された基板に描画するディスク状記録媒体用の、サーボパターンと、隣接トラック間を分離するトラック方向に延びるグルーブパターンとを含む微細パターンに応じた描画データ信号を、前記電子ビーム描画装置に送出する信号送出装置とを備え、
前記描画データ信号が、前記電子ビームの照射のタイミングを、該電子ビームを遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号により制御する制御信号を含むものであり、
前記信号送出装置が、前記パターン毎の露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データに基づいて、該パターン毎に、前記描画半径毎の前記オン・オフ信号による前記電子ビームの照射のデューティ比を変化させて、前記レジストの露光量を調整する制御信号を前記電子ビーム描画装置に送出するものであることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の凹凸パターン担持体の製造方法は、本発明の電子ビーム描画方法により、ディスク状記録媒体用の微細パターンをレジストが塗布された基板に描画し、該微細パターンが描画された基板を用いて、前記微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の凹凸パターン担持体の製造方法は、本発明の電子ビーム描画方法により、ディスク状記録媒体用の微細パターンをレジストが塗布された基板に描画し、該微細パターンが描画された基板を用いて、前記微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を含むことを特徴とする。
【0027】
ここで、凹凸パターン担持体とは、具体的には、表面に所望の凹凸パターン形状を有する担体であり、その凹凸パターンの形状をディスク状記録媒体に転写するためのインプリントモールドである。
【0028】
本発明のディスク状記録媒体の製造方法は、本発明の製造方法により製造された凹凸パターン担持体としてのインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電子ビーム描画方法および電子ビーム描画システムによれば、ディスク状記録媒体用の、サーボパターンとグルーブパターンとを含む微細パターンを描画するにあたり、電子ビームの照射のタイミングを、電子ビームを遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号により制御する際に、パターン毎の露光後経過時間に対するレジストの感度変動データに基づいて、パターン毎に、描画半径毎のオン・オフ信号による電子ビームEBの照射のデューティ比を変化させて、レジストの露光量を調整するので、パターン毎に、適正な補正量で補正することができるため、PEDによるレジストの感度劣化を適正に補償することができ、現像後にレジスト残渣が生じたり、ブリッジ部が生じたりすることがなく、設計寸法(線幅)に忠実な線幅の鮮鋭度の高いパターンを得ることができる。
【0030】
さらに、本発明の凹凸パターン担持体の製造方法によれば、上記の電子ビーム描画方法により、レジストが塗布された基板に、ディスク状記録媒体用の微細パターンを描画し、該微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て凹凸パターン担持体を製造するので、表面に高精度の凹凸パターン形状を有する担体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画する微細パターン例を示す平面図
【図2】微細パターンの一部の拡大図
【図3】描画方式(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種信号(B)〜(G)を示す図
【図4】PEDに対するレジストの感度変化を示す図
【図5】PEDに対する補正露光量を示す図
【図6】描画半径に対するPEDを示す図
【図7】描画半径に対するPED補正露光量
【図8】PED補正露光量に対するDuty比を示す図
【図9】本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の電子ビーム描画システムの要部を示す概略構成図
【図10】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えたインプリントモールドを用いて磁気ディスク媒体に微細パターンを転写形成している過程を示す概略断面図
【図11】実施例および比較例のサーボ部における描画半径に対する線幅を示す図
【図12】実施例および比較例のグルーブ部における描画半径に対する線幅を示す図
【図13】実施例および比較例のサーボ部のSEM画像
【図14】実施例および比較例のグルーブ部のSEM画像
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画するべきディスク状記録媒体、特にここでは、磁気ディスク媒体用の微細パターンを示す全体平面図であり、図2はこの微細パターンの一部の拡大図である。
【0033】
図1に示すように、本実施形態における磁気ディスク媒体用の微細パターンは、ディスクリートトラックメディア用のパターンであり、周方向に交互に配置されたサーボ領域12とデータ領域15とにそれぞれ形成されるサーボパターンSとグルーブパターンGで構成され、円盤状の基板10に、外周部および内周部を除く円環状領域に形成される。
【0034】
サーボパターンSは、基板10の同心円状トラックに等間隔で、各セクターに中心部から湾曲放射状の細幅のサーボ領域12に形成されてなる。サーボパターンSは、例えば、プリアンブル、アドレス、バースト信号に対応するパターンを含み、一部を拡大した図2にはプリアンブル部のパターンが示されている。
サーボパターンSは、1トラック幅、1ビット長(1T)の略平行四辺形の多数のサーボエレメントS1、S2、S3…から構成されている。このエレメントが1描画単位である。
【0035】
一方、グルーブパターンGは、隣接する各トラックを分離するようトラック方向に延びる同心円状に形成されてなるものである。
【0036】
最終的なディスクリートトラックメディアでは、グルーブパターンGおよびサーボパターンSの描画部分が凹部に、その他の部分が磁性層による平坦部(ランド)となる。なお、凹部は非磁性体により埋め込まれていてもよい。
【0037】
上記サーボパターンSおよびグルーブパターンGの描画は、表面にレジスト11が塗布された基板10を回転ステージ31(図参照)に設置して回転させつつ、例えば、外周側のトラックより内周側トラックへ順に、またはその反対方向へ、1トラックずつ電子ビームEBで走査しレジスト11を照射露光するものである。基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる。
【0038】
既述の通り、全面の微細パターンを描画するには、長時間を要するため、PEB処理までの時間(PED)が描画開始位置と描画終了位置とで大きく変わる。このPEB処理までの時間が長くなればなるほど、露光量に対する現像感度が低下し、露光直後にPEB処理を行った場合と比較して現像される幅が狭くなるという問題がある。
【0039】
本発明の電子ビーム描画方法では、この寸法変動を補償するための露光補正を組み込んだ制御信号に基づいてパターン描画を行う。以下、電子ビーム描画方法の詳細を説明する、
【0040】
一般的な磁気ディスク媒体は、角速度一定(CAV)方式で信号の記録再生が行われる。したがって、最終的な磁気ディスク媒体として回転駆動された際に、ディスク全域においてサーボエレメントから読み出される信号が同じとなるように、磁気ディスク媒体用のパターンにおいては、同心円状のトラックの各トラック幅(トラックピッチ)は一定であるが、内周から外周にかけて、円周が大きくなるに伴ってエレメントの周方向の長さ(物理ビット長)は大きくなっている。
【0041】
一方で、上記のような磁気ディスク媒体用の微細パターンを描画する際には、基板10の描画領域における、描画半径位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側半径でも内周側半径でも全描画域で同一の線速度となるように、回転ステージ31の回転数を外周トラック描画時には遅く、内周トラック描画時には速くなるように調整する。
【0042】
図3は、本発明の電子ビーム描画方法を実行するためのタイミングチャートを示す図である。
図3(A)電子ビームEBの半径方向Yおよび周方向Xの電子ビームEBの描画動作を示し、図3(B)に半径方向Yの偏向信号Def(Y)を、(C)に周方向Xの偏向信号Def(X)を、(D)に周方向Xの振動信号Mod(X)を、(E)にEB照射のオン・オフ動作を、(F)にブランキング手段のオン・オフ信号を、(G)に描画クロックをそれぞれ示している。なお、(A)の横軸は基板10の位相を、(B)〜(G)の横軸は時間を示している。
【0043】
本実施形態においては、1トラック分のグルーブパターンGとサーボパターンSを、基板10の1回転で一度に描画する。
グルーブパターンGは、基板10(回転ステージ31)を回転させつつ、周方向に分割されたグルーブエレメントG毎に一定の時間間隔をおいて描画される。グルーブエレメントGは、電子ビームを周方向Xの回転の向きAとは逆向きに偏向させて描画する。グルーブエレメントGの描画の際には、電子ビームは高速振動することなく、グルーブエレメントは所謂一本描きで描画される。
【0044】
他方サーボパターンSはそれぞれトラック幅に亘るサーボエレメントS,S,…毎に、基板10を回転させつつ、その形状を塗りつぶすように微小径の電子ビームEBで走査して、描画する。
エレメント形状を塗りつぶす電子ビームEBの走査は、電子ビームEBの照射のオン、オフを後述のブランキング手段24の動作により制御しつつ、微小径の電子ビームEBを、周方向Xに一定の振幅で高速に往復振動させつつ、半径方向Yおよび周方向XへX−Y偏向させることより行う。
【0045】
なお、既述のとおり電子ビームEB照射のオン、オフは、ブランキング手段のオフ、オンで制御する。後述の電子銃からの電子ビーム出力自体をオン・オフするのは電子ビームの安定性上好ましくなく、一般に電子ビームEBの照射のオン、オフは、電子ビームを遮蔽するブランキング手段のオフ、オンで行う。以下において、電子ビームEBの照射のオンはブランキング手段のオフ、電子ビームEBの照射のオフはブランキング手段のオンを意味する。
【0046】
グルーブエレメントGn−1、Gの基本的な描画動作は、それぞれa,c点で電子ビームEBの照射をオンとし、描画を開始するものであり、描画開始位置にある電子ビームEBを(C)の偏向信号Def(X)により回転の向きAと反対向きの周方向(−X)に偏向させ、b,d点でのブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBの照射を停止し、各グルーブエレメントの描画を終了する。それぞれの描画後に、周方向Xの偏向を基準位置に戻す。
【0047】
また、各エレメントS〜Sの基本的な描画動作は、それぞれe,g,i,k点で電子ビームEBの照射をオンとし、描画を開始するものであり、描画開始位置にある電子ビームEBを(D)の振動信号Mod(X)により周方向Xに往復振動させつつ、(B)の偏向信号Def(Y)により半径方向(−Y)に偏向させて送るとともに、A方向への基板10の回転に伴う電子ビームEBの照射位置のずれを補償するために、(C)の偏向信号Def(X)によりA方向と同方向の周方向Xに偏向させて送ることにより、矩形状のエレメントS〜Sを塗りつぶすように走査し、f,h,j,l点でのブランキング信号BLKのオンにより電子ビームEBの照射を停止し、各サーボエレメントS〜Sの描画を終了する。描画後に、半径方向Yおよび周方向Xの偏向を基準位置に戻す。なお、各サーボエレメントS1〜S4の周方向Xの長さ(1T)は、電子ビームEBの周方向往復振動の振幅によって規定される。
【0048】
1つのトラックを1周描画した後、次のトラックに移動し同様に描画して、基板10の全領域に所望の微細パターンを描画する。描画位置のトラック移動(径方向への移動)は、電子ビームEBを半径方向Yに偏向させて行うか、あるいは回転ステージ31を半径方向Yに直線移動させて行う。回転ステージを直線移動させるのは、前述のように、電子ビームEBの半径方向Yの偏向可能範囲に応じて複数トラックの描画毎に行うか、1トラックの描画毎に行ってもよい。しかしながら、偏向手段により径方向へ移動させる方が効率的であることから、偏向手段による径方向への移動が可能な範囲では偏向させることによりトラック移動を行って複数トラック描画させた後に、ビームの偏向手段による径方向への偏向を一旦解除すると共に、直線移動手段34を用いて回転ステージを複数トラック分程度半径方向に移動させるのが好ましい。
【0049】
また、基板10の描画領域における、描画部位の半径方向位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側でも内周側でも全描画域で同一の線速度となるように、回転ステージ31の回転速度を外周側描画時には遅く、内周側描画時には速くなるように調整している。
【0050】
電子ビームEBのビーム強度は、最小の補正露光量でレジスト11の露光が十分に行える程度に設定されている。ビーム強度は描画全域において変化させず一定とする。電子ビームEBによる描画幅(実質露光幅)は、照射時間、振幅が大きいほど照射ビーム径および振幅より広くなる特性があり、最終的な描画幅を得るためには、その描画幅となる所定の照射線量で走査するために、振幅、偏向速度等を調整する。
【0051】
本実施形態においては、PEDによるレジスト感度の低下を補償するために、グルーブパターンおよびサーボパターンのそれぞれについて、パターン毎の露光後経過時間に対するレジストの感度変動データに基づいて、パターン毎に、描画半径毎において、パターン毎にブランキング手段24に対するオン・オフ制御信号による電子ビームEBの照射のデューティ比(tg/Tg、ts/Ts)を変化させて、レジストに対する照射線量、すなわちレジストの露光量を調整している。
なお、PEDによる影響は、サーボパターンにおいては半径方向にサーボエレメントが連続して配置されてなるプリアンブルパターンの周方向幅に、周方向に延びるグルーブパターンにおいては、その半径方向の幅(グルーブ幅)に、それぞれ顕著に表れる。グルーブ幅は半径によらず一定であるが、プリアンブルパターンの周方向幅は半径毎で異なる。そのため、サーボパターンとグルーブパターンとでは、描画半径位置による補正露光量の変化が異なるのである。
【0052】
半径方向Yの偏向信号Def(Y)、周方向Xの偏向信号Def(X)、周方向Xの振動信号Mod(X)を、ブランキング手段のオン・オフ信号は、予めレジスト感度の低下を補償するように補正された照射線量(露光量)で、電子ビームをレジストに照射するように設定された制御信号である。
【0053】
補正制御信号の設定について、具体例を説明する。
【0054】
微細パターンとして、プリアンブル、アドレスおよびバーストを含むサーボパターンと、グルーブパターンとを含むものを描画するものとする。
記録密度は800Gbpsiクラスであり、描画領域は2.5吋(インチ)である。サーボパターンの描画単位であるサーボエレメントの半径方向の寸法(トラックピッチ)は60nmであり、周方向の長さ(1T)は半径位置によって変化し、半径30mm位置において95nm、半径15mm位置において47nmとする。すなわち、描画単位であるサーボエレメントの大きさは半径30nm位置で60nm×95nm、半径15nm位置において60nm×47nmである。
また、グルーブの半径方向の寸法(幅)は描画半径によらず一定であり、ここでは30nmとする。
【0055】
電子ビーム描画は、Rθ型電子ビーム描画装置を用いて行うものとする。具体的には、加速電圧50kVの電子ビームを用い、外周から内周に向けて描画する。回転ステージの線速度は100mm/Sで一定とすると、全面描画時間は約6日間である。
基板10としてSiを用い、レジスト11としてポジ型化学増幅レジスト(CAR)を用いるものとする。
プリベーク(PreB)は120℃で90秒、ポストエクスポージャーベーク(PEB)は110℃で90秒とする。
TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)2.38%の現像液を用い、60秒パドル現像を行うものとする。
【0056】
(補正条件の決定)
補正条件は次のようにして決定する。
まず、微細パターンに含まれる、サーボパターンとグルーブパターンのそれぞれのPEDに対するレジストの感度(必要露光量)の変化データを取得する(図4参照)。レジストの感度は、一般に現像に必要な露光量で示され、レジストの必要露光量の増加がレジスト感度低下を示す指標となる。図4において、露光後、その日のうち(PEDが0)にPEB処理を行った場合の感度(必要露光量)を100%とし、異なるPED後にPEB処理を行った場合に、PEDが0の場合と同等の現像後線幅を得るために必要な露光量を示している。
【0057】
図4に示すように、サーボパターン(Sr部)とグルーブパターン(Gr部)とではこの感度変化の傾きが異なる。
なお、経過時間0においてサーボ部、グルーブ部の感度に差が生じているのは、レジストのコートを行ってからの時間の感度変化への影響と考えられるが、PEDと比較してPCD(ポストコートディレイ)による影響は小さいため無視している。
図4に示すように、PED経過時間に対する感度変化は、Sr部とGr部とで大きく異なり、両者の補正露光量はそれぞれの感度変化に応じて決定する必要があることは明らかである。
【0058】
パターン毎のPEDに対するレジストの感度変化データから、パターン毎のPEDに対する補正露光量を算出する(図5参照)。露光量に対しする現像時における感度低下を補償するために、PEDが大きくなるほど必要とされる露光量は大きくなる。感度変化に応じて、補正露光量もSr部とGr部とでは異なる。
【0059】
回転線速度と、描画開始半径および描画終了半径から描画位置毎のPEDを求める。図6においては、半径31mmの外周側から半径13mmの内周側に向けて順次描画を行うものとしている。描画終了半径13mmにおける露光後ベークまでの時間の遅れ(PED)を0としたとき、描画開始半径31mmにおける露光後経過時間は約5.6日となる。描画開始位置から終了位置へ向け徐々にPEDは減少する。このとき、PEDは同一半径においても描画位置毎に少しずつ異なるが、同一半径においてはPEDはほぼ同一と看做すことができる。
【0060】
図5に示したPEDに対する補正露光量および図6に示した描画半径に対するPED関係から、図7に示す、各パターン毎の各描画半径に対するPED補正露光量を求める。
いずれもPEDが0のときの露光量を100%とし、PEDが大きくなる描画半径位置ほど大きな露光量で露光する必要がある。図7に示すように、描画開始半径(31mm)において、Sr部では20%増し、Gr部では13%増しの露光量とする必要がある。
【0061】
そのために、PED補正露光量に対する電子ビーム照射のデューティ比(Duty比)を求める。図8が補正露光量に対するDuty比を示すグラフである。
最大の補正露光量よりもやや大きい補正露光量(図8においては130%)で、Duty比が50%となるように設定している。すなわち、PEDが0の補正露光量が100%の描画時のDuty比を小さく設定している。図8に示す描画半径に対するPED補正露光量を達成するDuty比を、パターン毎に設定する。このとき、同一の描画半径であっても、Sr部とGr部とでは補正露光量が異なるので、パターン毎で描画半径毎に適正なDuty比に設定する。
【0062】
電子ビーム照射のDuty比に基づく照射時間の設定は、例えば、Sv部では1描画単位であるエレメントを描画するために割り当てられる基準描画時間に対応する描画クロック数を、整数個単位で加減算することにより行う。
各描画半径に対する電子ビーム照射のデューティ比を設定し、このデューティ比をブランキング手段へのオフ・オン制御信号により制御する。
【0063】
既述のとおり、描画Duty比は、描画クロック数で規定される。すなわち、各サーボエレメント、グルーブエレメントの描画時間は、図3(G)の描画クロック信号におけるクロック数で定めている。
【0064】
図3の(G)の描画クロック信号は、後述の信号送出装置内で生成される、状況に応じて変化することのない一定のクロック信号(基本クロック信号)に基づき生成される信号である。描画クロック信号は、内周トラック描画時と外周トラック描画時とで回転ステージ31の回転数が変化しても、1回転(1周)でのクロック数が同一となるように、回転数の変更に応じてクロック幅(クロック長さ)が調整される。つまり、クロック幅は半径rに応じて所定トラックごとに、内周トラックで狭く、外周側トラックで広くなるように、変化するものである。
【0065】
そして、周方向(回転方向A)の寸法的および時間的幅を、描画クロック信号のクロック数で規定し、内周トラックおよび外周トラックで同じ描画クロック数で微細パターンを描画することを基本としている。これにより、内周側と外周側とでの、同一角度(位相)における描画クロック数を同じにして、相似形のパターンを簡易に描画できる。
【0066】
すなわち、内周トラック描画時と比較すると、外周トラック描画時には、(B),(C),(F)の各制御信号が、周方向Xの長さが所定倍率で長くなるように設定される。また、(D)の信号は内周側振幅に対し、外周側振幅がサーボエレメントの幅の増大に対応した所定倍率で大きく設定される。そして、周方向Xおよび半径方向Yの偏向送りの基準速度は、外周側トラックの描画で送りが遅く、内周側トラックの描画で送りが速くなる。一方、基本クロック信号は時間的に同じ間隔で一定に生起し、これに基づき(G)の描画クロック信号が半径に応じて1周で同じクロック数となるようにクロック幅が調整される。つまり、(B)〜(F)の倍率と同様の倍率でクロック幅が大きくなる。そして、上記描画クロック信号の信号数(クロック数)を数えて、各種制御信号のオン・オフタイミング、信号形状を設定する。
【0067】
上記のように(G)の描画クロック信号は、クロック幅が外周トラックで広く内周トラックで狭くなり、回転ステージ31の回転数は前述のように外周トラックで遅く内周トラックで速くなり、両者は同期させて同時に変更する。そして、同じ回転数の時は描画半径位置rを若干変更しても、1周のクロック数が同一であるので同じ描画クロック数による制御で同じ位相位置に略同じ形態のエレメントが描画できる。そのとき、電子ビームEBに対するレジスト11の相対移動速度は、半径位置で異なり、外周で若干速くなり、単位面積の露光量が変化する。しかし、描画されたサーボエレメントの信号幅は(D)の振動信号の振幅に依存するので略同じとなり、回転数および描画クロック信号幅を変更せずに、描画トラック位置の若干の変動はレジストの感度、信号精度等で補償され、実際の記録情報としては問題なく使用できるものであり、1トラック移動ごとに回転数および描画クロック幅を変更する必要はなく、前述のように例えば8トラック描画毎に変更調整する。
【0068】
そして、既述のとおり補正露光量を達成するためのDuty比に基づく、各エレメントの描画時間(電子ビーム照射オン時間)の調整は、整数個のクロック数を増減により行う。
【0069】
例えば、各サーボエレメントの描画に割り当てられる基準描画時間をt=62クロックとする、このとき周期Ts=124クロックである。最大露光補正量よりやや大きい補正量(130%)でのDuty比(ts/Ts=62/124)を50%と設定しておく。描画半径31mmでは補正量が121%であり、Duty比は47%であるから、124×0.47=58.28であるが、制御の容易化のために整数個のクロック数で増減させるため、描画時間は58クロックとすればよい。
【0070】
また、各グルーブエレメントの描画に割り当てられる基準描画時間をt、周期をTとしてDuty比(tg/Tg)は、描画半径31mmで補正量が113%であるから、Duty比44%程度となるように描画クロック数を設定する。tgのクロック数はサーボエレメントと同一であっても異なっていてもよい。なお、本実施形態においてはグルーブエレメントとサーボエレメントの描画クロック数は異なっている。
【0071】
なお、それぞれ周期Tg、Tsは、基準描画時間のクロック数の2倍としている。すなわち、ここで、電子ビームの照射のデューティ比とは、基準描画時間の2倍に対するエレメント描画時のオン時間の比である。
【0072】
図3においては、最大補正露光を要する描画開始半径付近での描画におけるタイミングチャートを示している。グルーブエレメントGnを描画する際のEB照射オン/オフのDuty比はtg/Tgであり、サーボエレメントSnを描画する際のEB照射オン/オフのDuty比はts/Tsである。最小補正の描画終了半径付近での描画におけるグルーブエレメントGnの照射時間tg0、サーボエレメントSnの照射時間ts0は、それぞれDuty比tgo/Tg、ts0/Tsが39%程度となるように調整されている。
【0073】
なお、照射オン時間を変化させるのに伴い、半径方向(Y方向)および周方向(X方向)への偏向速度はいずれも照射オン時間内に所定の偏向量偏向できるように設定する必要がある。
【0074】
以上により、描画後経過PED時間に応じて、描画開始半径から終了半径にかけて、描画オン時間を段階的に減らし、PEDによる線幅変動を露光量調整により補正することができ、設計通りの線幅を得ることができる。
なお、「背景技術」において挙げた特許文献2、3では、線速度あるいは照射電流量を半径位置に応じて変更することにより半径位置毎の露光量を補正しているが、これらの従来技術では同一半径における異なるパターン毎で露光量を変化させることはできない。一方、上述のように、Duty比を変化させる方法であれば、容易に同一半径においてパターン毎に補正露光量を変化させることができる。
【0075】
上記のような本発明の電子ビーム描画方法を実施するための本発明の電子ビーム描画システムの実施形態について図9を参照して説明する。図9に示す本実施形態の電子ビーム描画システム100は、電子ビーム描画装置40および信号送出装置50を備え、電子ビーム描画装置40は、基板10に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、基板10を回転および直線移動させる機械駆動部30とを備えている。
【0076】
電子ビーム照射部20は、鏡筒18内に電子ビームEBを出射する電子銃21、電子ビームEBを半径方向Yおよび円周方向Xへ偏向させるとともに円周方向Xに一定の振幅で微小往復振動させる偏向手段22,23、電子ビームEBの照射をオン・オフするためのブランキング手段24としてアパーチャ25およびブランキング26(偏向器)を備えており、電子銃21から出射された電子ビームEBは偏向手段22、23および図示しない電磁レンズ等を経て、レジスト11が塗布された基板10上に照射される。
【0077】
ブランキング手段24における上記アパーチャ25は、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング26はEB照射のオン・オフ信号の入力に伴って、オン信号時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ25の透孔を通過させて照射させ、一方、オフ信号時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ25の透孔を通過させることなくアパーチャ25で遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。すなわち、ブランキング手段24のオフ/オン比が電子ビームEB照射のオン/オフ比に相当するものとなる。
【0078】
機械駆動部30は、鏡筒18が上面に配置された筐体19内に原盤を支持する回転ステージ31および該ステージ31の中心軸と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ32と備えた回転ステージユニット33と、回転ステージユニット33を回転ステージ31の一半径方向に直線移動させるための直線移動手段34とを備えている。直線移動手段34は、回転ステージユニット33の一部に螺合された精密なネジきりが施されたロッド35と、このロッド35を正逆回転駆動させるパルスモータ36とを備えている。また、ステージユニット33には、回転ステージ31の回転角に応じたエンコーダ信号を出力する図示しないエンコーダが設置されている。エンコーダは、スピンドルモータ32のモータ軸に取り付けられる、多数の放射状のスリットが形成された回転板と、そのスリットを光学的に読み取る光学素子とを備え、エンコーダスリットの読み取りによって所定回転位相で等間隔に生じるエンコーダ信号を信号送出装置50に送出する。
【0079】
上記スピンドルモータ32の駆動すなわち回転ステージ31の回転速度、パルスモータ36の駆動すなわち直線移動手段34による直線移動、電子ビームEBの変調、偏向手段22、23の制御、ブランキング手段24のブランキング26のオン・オフ制御等は信号送出装置50から送出される制御信号に基づいて行われる。
【0080】
信号送出装置50は、所望のディスク媒体用の微細パターン(設計パターン)に基づく描画データを記憶し、電子ビーム描画装置40に描画データ信号に基づく各種制御信号を送出するものである。
【0081】
信号送出装置50は、描画データを蓄積する描画データ蓄積部52と、描画タイミングを計るための描画クロックを生成する描画クロック生成部51と、描画データに基づく各種制御信号を生成し、描画データ信号として電子ビーム描画装置40に送出する信号送出部53とを備えている。信号送出装置50は所謂フォーマッタにより構成することができる。
【0082】
描画すべきパターンに関する設計パターンに基づく描画データは、電子ビーム描画を開始する前に、予め図示しない外部の設計データ処理装置から信号送出装置50に送られ、描画データ蓄積部52に蓄積される。
【0083】
描画クロック生成部51は、不変の基準クロックを発生する基準クロック発生部を内包し、この基準クロックおよび電子ビーム描画装置40からのエンコーダ信号や半径位置信号に基づいて、各半径位置に応じたクロック幅の描画クロック信号を生成するものである。
【0084】
本電子ビーム描画システム100においては、信号送出装置50が、ブランキングのオン・オフ制御、電子ビームEBのX−Y偏向制御、回転ステージ31の回転速度制御等の制御信号からなる描画データ信号を、各アンプおよびドライバに振り分けるものであり、それぞれのデータ信号はエンコーダ37から入力されたエンコーダパルスと描画クロックに基づいて所定のタイミングで送出される。
【0085】
そして、電子ビーム描画装置40において、スピンドルモータ32の駆動すなわち回転ステージ31の回転速度、パルスモータ36の駆動すなわち直線移動手段34による直線移動、電子ビームEBの変調、偏向手段22および23の制御、ブランキング手段24のブランキング26のオン・オフ制御(すなわち電子ビーム照射のオフ・オン制御)等は信号送出装置50から送出された描画データ信号に基づいて行われる。
【0086】
この描画データ信号は、サーボパターンとグルーブパターンという異なる複数のパターンを含む磁気ディスク用微細パターンを描画するためのデータであり、既述の本発明の電子ビーム描画方法におけるPEDによる寸法変動を補償する補正露光量が盛り込まれた、パターン毎に、描画半径毎のオン・オフ信号による電子ビームの照射のデューティ比を変化させて、レジストの露光量が調整された制御信号である。
【0087】
<凹凸パターン担持体の製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法>
次に、上記のような電子ビーム描画システム100により、前述の電子ビーム描画方法によって微細パターンを描画する工程を経て製造する凹凸パターン担持体の製造方法およびその凹凸パターン担持体を用いた磁気ディスク媒体の製造方法を説明する。図10は、凹凸パターン担持体の一形態であるインプリントモールドを用いて微細凹凸パターンを転写形成している過程を示す概略断面図である。
【0088】
インプリントモールド70は、透光性材料による基板71の表面にレジスト11が塗布され、磁気ディスク用の微細パターンが描画される。その後、現像処理して、レジストによる凹凸パターンを基板71に形成する。このパターン状のレジストをマスクとして基板71をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターン72を備えるインプリントモールド70を得る。一例としては、上記微細凹凸パターン72は、ディスクリートトラックメディア用のサーボパターンとグルーブパターンとを備えたものである。
【0089】
このインプリントモールド70を用いて、インプリント法によって磁気ディスク媒体80を作製する。磁気ディスク媒体80は、基板81上に磁性層82を備え、その上にマスク層を形成するためのレジスト樹脂層83が被覆されている。そして、このレジスト樹脂層83に、前記インプリントモールド70の微細凹凸パターン72が押し当てられて、紫外線照射によって上記レジスト樹脂層83を硬化させ、微細凹凸パターン72の凹凸形状を転写形成してなる。その後、レジスト樹脂層83の凹凸形状に基づき磁性層82をエッチングし、磁性層82による微細凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディア用の磁気ディスク媒体80を作製するものである。
【実施例】
【0090】
本発明の実施例および比較例について説明する。実施例として、上述の実施形態の電子ビーム描画方法で説明した具体例に沿って求めたPEDに対するレジストの感度劣化を補償する補正条件に基づく描画データ信号によりパターン描画を行った。また、比較例として、PEDに対するレジストの感度劣化を補償する補正を含まない描画データ信号によりパターン描画を行った。
【0091】
(評価条件)
実施例、比較例についてパターン描画後PBDおよび現像を行ったものについて、測長SEMを用いて線幅の自動測定を行った。
検査領域長は1μm(ラインアンドスペースの縦方向長さ)とし、検査領域長内での検出エッジ点間隔を2.5nmとして、線幅の算出を行った。なお、計100本のスペース線幅の幅を測定し、平均値を算出した。
【0092】
図11はSr部の、各描画半径における設計値、実施例(補正あり)、比較例(補正なし)の線幅(1T)を示すグラフであり、図12はGr部の、各描画半径における設計値、実施例(補正あり)、比較例(補正なし)の線幅(グルーブ幅)を示すグラフである。図11および図12は、既述の評価条件に基づいて線幅を測定して得られたものである。
【0093】
また、図13、図14は現像後のレジストパターンのSEM画像である。
図13は、サーボ部のプリアンブルパターンの描画半径31mm近傍におけるレジストパターンであり、(a)実施例、(b)比較例である。
図13において、灰色部分がサーボパターンとして露光した露光部(スペース部)であり、黒い部分が未露光部(ライン部)である。図13(a)に示す比較例においては、2T幅のスペース部の中央に白い残渣101が残っているが、図13(b)に示す実施例においては、2T幅のスペース部分にも残渣なく、良好なパターン形成がなされていることが分かる。2T幅の部分は1T幅のエレメント毎に描画を行うが、このとき、露光量補正がなされず不十分になると、図13(a)に示すように、エレメント間に露光量不足の部分が生じこれが残渣となって現像後に残ると考えられる。図11に示すように、PED経過時間が長くなる外周部において補正を行わない場合、サーボ部で線幅(周方向の幅)の細りが生じていることが分かる。本発明の露光補正を行うことにより、外周部においてもほぼ設計値通りの線幅のスペースが得られた。
【0094】
図14は、グルーブ部の描画半径31mm近傍におけるレジストパターンであり、(a)実施例、(b)比較例である。
図14において、黒い部分がグルーブパターンとして露光した露光部(スペース部)であり、灰色の部分が未露光部(ライン部)である。図14(a)に示す比較例においては、ライン間を繋ぐブリッジ102が形成されており、この部分で露光量不足(感度低下)が生じていると考えられる。一方、図14(b)に示す実施例においては、ブリッジは形成されておらず、ラインとスペースの幅がほぼ1:1に形成されていることが分かる。図12示すように、PED経過時間が長くなる外周部において補正を行わない場合、グルーブ部の線幅(半径方向の幅)の細りが非常に顕著であることが分かる。本発明の露光補正を行うことにより、外周部においても補正なしの場合と比較して設計値に非常に近い線幅のスペースが得られた。
【符号の説明】
【0095】
10 基板
11 レジスト
12 サーボ領域
15 データ領域
20 電子ビーム照射部
22,23 偏向手段
24 ブランキング手段
25 アパーチャ
26 ブランキング
30 機械駆動部
31 回転ステージ
34 直線移動手段
40 電子ビーム描画装置
50 信号送出装置
70 インプリントモールド
80 磁気ディスク媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストが塗布され回転ステージ上に載置された基板を前記回転ステージを回転させることにより回転させつつ、該基板上に電子ビームを照射すると共に、1回転の描画後に前記電子ビームの描画半径位置を移動させることを繰り返してディスク状記録媒体用の微細パターンを描画する電子ビーム描画方法であって、
前記微細パターンは、サーボパターンと、隣接トラック間を分離するトラック方向に延びるグルーブパターンとを含むものであり、
前記電子ビームの照射のタイミングを、該電子ビームを遮断するブランキング手段に対するオン・オフ信号により制御する際に、前記パターン毎の露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データに基づいて、前記パターン毎に、前記描画半径毎の前記オン・オフ信号による前記電子ビームの照射のデューティ比を変化させて、前記レジストの露光量を調整することを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記パターン毎の前記露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データから、前記パターン毎の前記露光後経過時間に対して補正すべき露光量を算出し、
前記描画半径と前記露光後経過時間との関係から、前記パターン毎に各描画半径毎の補正露光量を求めて前記電子ビーム照射のデューティ比を設定することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記サーボパターンを、1トラック幅、1ビット長のサーボエレメント毎に前記電子ビームを周方向もしくは半径方向に高速振動させると共に、高速振動の方向に直交する方向に偏向して形状を塗りつぶすように走査して描画し、
前記グルーブパターンを、周方向に複数のグルーブエレメントに分割し、該グルーブエレメント毎に前記電子ビームを周方向の前記回転ステージの回転の向きと逆向きに偏向走査して描画することを特徴とする請求項1または2記載の電子ビーム描画方法。
【請求項4】
回転ステージと、前記基板上に電子ビームを走査する電子ビーム照射部とを備えた電子ビーム描画装置と、
レジストが塗布され前記回転ステージ上に載置された基板に描画するディスク状記録媒体用の、サーボパターンと、隣接トラック間を分離するトラック方向に延びるグルーブパターンとを含む微細パターンに応じた描画データ信号を、前記電子ビーム描画装置に送出する信号送出装置とを備え、
前記描画データ信号が、前記電子ビームの照射のタイミングを、該電子ビームを遮断するブランキング手段に対するオフ・オン信号により制御する制御信号を含むものであり、
前記信号送出装置が、前記パターン毎の露光後経過時間に対する前記レジストの感度変動データに基づいて、該パターン毎に、前記描画半径毎の前記オン・オフ信号による前記電子ビームの照射のデューティ比を変化させて、前記レジストの露光量を調整する制御信号を前記電子ビーム描画装置に送出するものであることを特徴とする電子ビーム描画システム。
【請求項5】
請求項1から3いずれか1項記載の電子ビーム描画方法により、ディスク状記録媒体用の微細パターンをレジストが塗布された基板に描画し、該微細パターンが描画された基板を用いて、前記微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を含むことを特徴とする凹凸パターン担持体の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の製造方法により製造された凹凸パターン担持体としてのインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写する工程を含むことを特徴とするディスク状記録媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の製造方法により製造された凹凸パターン担持体としての磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写する工程を含むことを特徴とするディスク状記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−216260(P2012−216260A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80181(P2011−80181)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】