説明

電子レンジ用加熱具

【課題】 製造が容易で、十分な強度を発揮でき、発熱及び保温性能に優れた電子レンジ用加熱具を提供する。
【解決手段】 炉内にセラミックス焼結体を入れ、LPガスを供給して高温下で浸炭処理を行い、セラミックス焼結体の表面及び多孔質構造を構成する気孔内に炭素を蒸着して炭素薄膜層を形成する。この炭素薄膜層を形成してなるセラミックス焼結体を電子レジ用加熱具として構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジを用いて被調理物を加熱処理する際に用いられる電子レンジ用加熱具に関する。
【背景技術】
【0002】
電子レンジは、マグネトロンから発生するマイクロ波を被調理物に照射して、被調理物に含まれている水の分子に振動を与えて共振させ、水の分子同士の振動摩擦によって発生する熱により被調理物を加熱し、調理するものであって、食品や飲み物の加熱調理に広く利用されている。
【0003】
電子レンジで被調理物を加熱処理するに当たり、被調理物を収納載置する調理用容器が用いられるが、この容器としては主に陶磁器製のものが使用されている。しかしながら、陶磁器はマイクロ波を吸収しないため、電子レンジ加熱の際、発熱せず、従って陶磁器製容器自体は加熱されない。
【0004】
そのため、加熱処理された被調理物を電子レンジから取り出した状態において、被調理物の熱が容器に吸熱されることによって、比較的短時間で被調理物が冷めてしまい、食味が低下するという不具合があった。
【0005】
この問題点を解決するため、マイクロ波を吸収して発熱する性質を有する物質からなる発熱層を調理用容器に設けて、被調理物だけでなく容器自体も加熱するようにした調理用容器がいくつか提案されている。
【0006】
この種の従来の調理用容器として、陶磁器材料にマイクロ波吸収材としてのカーボン、カーボンブラック等の発熱物質を混合し、焼成してなるもの、又は前記発熱物質からなる発熱体であって板状等各種形状に形成したものを陶磁器材料内に埋設し、焼成してなるものがある(特許文献1)。
【0007】
また従来の調理用容器として、組織内部がカーボンブラックを含むセラミックス質で、外層がカーボンブラック不含のセラミックス質の粒状体を、セラミックス材とともに容器形状に成形焼結してなるものがある(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のものにおいては、カーボン、カーボンブラック等の発熱物質を陶磁器材料に混合したものを焼成するため、カーボン等の発熱物質の混合量が多い場合には、製品物性に影響を及ぼし、強度低下を招く虞がある。
【0009】
また、上記発熱物質のカーボン類は溶媒の水に対して疎水性のため、陶磁器材料と均一に混合せず、カーボン等の発熱物質が偏在し、そのため、カーボン等の発熱物質が陶磁器材料中に均一に分布することが困難である。
【0010】
従って、マイクロ波を照射した際、偏在するカーボン等の発熱物質により、局部的な発熱が起こり、それにより局部的な熱膨張が生じて該熱膨張による応力が発生し、その結果、容器にヒビ割れが生じたり、容器が破壊したりする不具合がある。
【0011】
また、発熱物質を板状等に成形してなる発熱体を陶磁器材料内に埋設し、焼成してなるものにおいては、マイクロ波照射時、埋設された発熱体の部分で急激な発熱が起こり、そのため温度勾配が生じて局部的な熱膨張が生じ、該熱膨張による応力が発生して、その結果、同様に容器にヒビ割れが生じたり、容器が破壊したりする欠点がある。
【0012】
一方、特許文献2記載のものにおいても、予め陶磁器材料中にカーボンブラックからなる発熱物質を含有させておき、この発熱物質含有材料を焼成して容器を成形するものであるから、発熱物質の混合量が多い場合には、強度等の物性低下の虞がある。
【0013】
また、カーボンブラックからなる発熱物質は内層にのみ存在しているから、全体として発熱物質は偏在するため、マイクロ波照射時に、局部的に発熱し、そのため上記したと同様に局部的な熱膨張が生じ、該熱膨張による応力が発生して、容器のヒビ割れや、容器の破壊が生じるという不具合がある。
【0014】
更に、特許文献1、2に記載のものにおいては、いずれも製造工程が煩雑であり、製造コストも高価になるという不利がある。
【0015】
【特許文献1】特開平7−116058号公報
【特許文献2】特開平6−189849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記したように、従来構造のものにあっては、強度等の物性低下の虞があること、発熱物質の均一分布が困難でマイクロ波照射時に局部的な発熱が起こり、容器にヒビ割れや破壊が生じる虞があること、製造工程が煩雑で製造コストが高価になること等の問題点を有するものであった。
【0017】
本発明者等は上記の課題を解決するため鋭意研究したところ、セラミックス焼結体に浸炭処理を施して、該セラミックス焼結体の表面及び該セラミックス焼結体の多孔質構造を構成する気孔内に、気相反応により炭素を蒸着して炭素薄膜層を形成するようにすれば、セラミックス焼結体としての強度低下を招くことなく発熱物質の層をセラミックス焼結体の表面及び気孔内に形成することができるとともに、このような炭素蒸着膜を形成すれば、マイクロ波照射時に均一な発熱が行われ、容器のヒビ割れや破壊の発生を防止できるという知見を得、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0018】
従って本発明は、強度等の物性低下の問題がなく、マイクロ波照射時に十分且つ均一な発熱を行うことができ、加熱具のヒビ割れや破壊が生じる虞がなく、しかも製造が容易な電子レンジ用加熱具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、
(1)セラミックス焼結体からなり、浸炭処理により該セラミックス焼結体の表面及び気孔内に炭素薄膜層を形成してなることを特徴とする電子レンジ用加熱具、
(2)炭素薄膜層が、炭化水素の熱分解により得られる炭素からなるものである前記(1)記載の電子レンジ用加熱具、
(3)浸炭処理による炭素薄膜層は、セラミックス焼結体を加熱し、LPガスを導入して還元雰囲気で熱処理し、気相反応により炭素をセラミックス焼結体の表面及び気孔内に蒸着させることにより形成されるものである前記(1)記載の電子レンジ用加熱具、
(4)セラミックス焼結体における選択された部位における気孔内に炭素薄膜層を形成してなる前記(1)記載の電子レンジ用加熱具、
(5)選択された部位を無釉部とし、それ以外の部分に釉薬を施して浸炭処理を行い、無釉部におけるセラミックス焼結体の気孔内に炭素薄膜層を形成してなる前記(4)記載の電子レンジ用加熱具、
(6)容器形状に成形してなる前記(1)記載の電子レンジ用加熱具
を要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は浸炭処理により該セラミックス焼結体の表面及び気孔内に炭素薄膜層を形成してなるから、セラミックス焼結体を製造する段階では、通常の焼成条件で製造することができ、カーボン、カーボンブラック等の発熱物質を陶磁器材料に混合して焼成する従来技術に比べ焼成条件を調整する必要がなく、製造容易であり、且つ焼結強度や他の物理的強度が低下するという虞もない。
【0021】
本発明において炭素薄膜層を形成するに当り、セラミックス焼結体を加熱し、LPガスを導入して還元雰囲気で熱処理し、気相反応により炭素をセラミックス焼結体の表面及び気孔内に蒸着させることにより炭素薄膜層を形成した場合には、炭素からなる発熱物質をセラミックス焼結体に均一に分布することができ、その結果、マイクロ波照射時に均一な発熱が行われ、容器のヒビ割れや破壊の発生を防止できる効果がある。
【0022】
本発明によれば、均一な発熱が行われるので、電子レンジ用加熱具として十分な発熱量を発揮でき、加熱、保温に優れた電子レンジ用加熱具を提供できる。
【0023】
また、既存製品の容器、皿等を利用してこれらに浸炭処理を施すことにより、本発明電子レンジ用加熱具を得るようにしてもよく、本発明電子レンジ用加熱具の製造は極めて簡便且つ容易であり、製造コストを低減できる利点がある。
【0024】
本発明において、選択された部位を無釉部とし、それ以外の部分に釉薬を施し、この一種の部分マスキングを施した状態で浸炭処理を行うことによって本発明電子レンジ用加熱具を構成した場合は、高発熱部と低発熱部を設けることができ、手持ちする場合などでは使い勝手の良い電子レンジ用加熱具を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の電子レンジ用加熱具は、セラミックス焼結体からなり、ここでセラミックス焼結体とは、土器、石器、陶器、磁器等の陶磁器類全般を指す。セラミックス材料としては、コーディライト、コーディライト−ムライト、ペタライト、β−スポジュメン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、その他各種のシャモット等が挙げられる。
【0026】
セラミックス材料の選択は任意であるが、120℃以上の加熱や急熱急冷により或いは大型で厚手物の場合には熱膨張の応力によりヒビ割れや破壊が生じる虞があるので、このようなヒビ割れや破壊を防止するために低膨張性セラミックスである、ペタライト、コーディライト、コーディライト−ムライト或いは各種のシャモットを用いることが好ましい。
【0027】
本発明におけるセラミックス焼結体は、多孔質セラミックス焼結体であり、図1に示すように無数の微細な気孔Aを有する。同図は走査型電子顕微鏡によるセラミックス焼結体の断面写真(倍率100倍の拡大写真)であり、図中、Bは該セラミックス焼結体の表面を、Cは内部をそれぞれ示す。
【0028】
気孔Aは連続気孔構造を有し、焼結体の内部の奥深くまで形成されている。気孔Aの形状、大きさや気孔率等の気孔に関する特性は、浸炭処理による炭素の蒸着量との関係で決定される。即ち、気孔内における炭素の蒸着量は、気孔特性によって自ずとその大小が決定される。ここにおいて、浸炭処理による炭素の気孔内への蒸着量は、現象的に水の浸透量と比例関係にあると考えられるから、上記にいう気孔特性は吸水率をもって表示することが可能である。
【0029】
本発明において、気孔特性としての吸水率は、0.2重量%〜30重量%が好ましい。吸水率が0.2重量%未満では、炭素の蒸着量が充分でなく、マイクロ波吸収発熱量が不足し、被調理物に対する加熱能力が不十分となる。また吸水率が30重量%を超えると、セラミックス焼結体としての強度低下を招き、実用に耐えなくなる虞がある。吸水率のより好ましい範囲は0.5重量%〜5重量%である。
【0030】
本発明において、セラミックス焼結体を製造するに当っては、従来から行われている一般的な製造方法を採用できる。即ち、セラミックス粉末に水を加えてボールミル等の混練機により均一に湿式混合し、その後脱水して得られた原料を用いて成形を行う。この成形に当っては、プレス成形、鋳込み成形、ローラーマシン成形等の成形法が採用され、器形状等所望の形状を有する成形品を製造する。成形品は次いで焼成され、これによりセラミックス焼結体が得られる。
【0031】
本発明において、セラミックス焼結体は器形状のものに限定されず、平板状のものであってもよい。器形状として構成する場合、容器形状、皿形状等、種々の形状に形成することが可能である。
【0032】
この得られたセラミックス焼結体に浸炭処理が施される。浸炭処理とは、LPガス(液化石油ガス)等の炭素を含むガス状物質(以下、LPガスを用いる場合を例にとり説明する)が供給される空間内にセラミックス焼結体を臨ませ、LPガスを加熱して熱分解させ、気相反応により炭素を焼結体の表面(即ち、セラミックス焼結体の基材を構成する粒子の表面)及び多孔質構造を構成する微細な気孔内に蒸着させる処理のことをいう。
【0033】
この気相反応において、熱分解ガスから炭素が単離し、この単離した炭素が焼結体の表面及び気孔内に付着し、次第に堆積して炭素薄膜層(炭素蒸着膜層)を形成することにより、炭素蒸着が行われる。
【0034】
浸炭処理には、加熱設備を備え且つ外気を遮断できる構造を備えた炉が用いられる。この炉内に例えば棚に載置する形でセラミックス焼結体を入れ、同時にLPガスを炉内に供給して燃焼し、セラミックス焼結体を加熱する。炉内温度が所定温度に達した段階で、加熱を停止し、炉内を外気と遮断し、還元雰囲気下でLPガスを供給し、このLPガスを高温に加熱されたセラミックス焼結体に接触させる。LPガスはセラミックス焼結体の表面に接触するほか、該焼結体の気孔内にも入り込み接触する。
【0035】
加熱を停止する段階での温度は、1000℃〜1100℃が好ましい。LPガスは、この高温雰囲気下で加熱を受けることにより熱分解を起こす。即ち、LPガスの主成分であるプロパン、ブタン等の炭化水素の熱分解が起こり、この熱分解ガスから炭素が単離する。この単離した炭素が焼結体の表面及び気孔内に付着し、それが堆積して層状を形成する。このようにして炭素が焼結体の表面及び気孔内に蒸着し、炭素薄膜層が形成される。
【0036】
浸炭処理に用いる炉として、例えば図2に示すような構造のものが用いられる。
【0037】
同図において1は炉本体で、該炉本体1は図示しない扉を有し、且つ該炉本体1の内部には複数段の棚2が炉床3上に設置されている。炉床3には加熱用のガスバーナー4が設けられ、該ガスバーナー4はガス供給管5を通してLPガスボンベ6に連結されており、ガス供給管5の途中にはLPガスボンベ6から供給されるガスの流量を調整する供給ガス流量調整弁7が設けられている。
【0038】
炉床3に複数の吸込口8及びこれらの吸込口8に連通している煙道9が設けられ、この煙道9を炉外方に延設するとともに、その延設部を炉本体1の外部に設置した煙突10に連通している。煙道9と煙突10との連結部に炉内の圧力を調整する圧力調整弁11を設け、更に煙突10の通路途中に排ガスの流量を調整する排ガス流量調整弁12を設ける。
【0039】
扉の開閉箇所や、その他の接続箇所には無機質の断熱パッキンが施され、炉全体として気密構造を備えるように構成されている。
【0040】
次に、上記の如く構成される炉を用いて浸炭処理を行う一例を説明する。
炉の扉を開き、棚2の各段に複数の焼成品13(容器形状に成形してなるセラミックス焼結体)を載置した後、扉を閉め、LPガスボンベ6の開閉弁を開き、LPガスをガス供給管5を通して炉内のガスバーナー4に送り、燃焼させる。ガス燃焼のためLPガスは酸素存在下で炉内に供給される。即ち、LPガスは空気とともに炉内に供給される。このとき供給ガス流量調整弁7により、LPガスと空気との混合比を調整する。このガス燃焼により炉内及び焼成品13が加熱される。燃焼ガスは吸引口8から煙道9に導かれ、煙突10内に入り込み、該煙突10より大気中に放出される。
【0041】
炉内及び焼成品13の温度が1000℃〜1100℃に上昇した段階で供給ガス流量調整弁7を操作して空気供給を停止し、ガス燃焼を停止する。この状態でLPガスを炉内に供給するともに、圧力調整弁11及び排ガス流量調整弁12の開度を調整して炉内の圧力が外気圧よりも大きくなるようにする。このような圧力調整により、空気が炉内に入り込むのを防止することができる。炉内に供給されるLPガスは、酸素不存在下で焼成品13と接触する。
【0042】
この高温且つ還元雰囲気下においてLPガスは加熱され、LPガスの主成分であるプロパン、ブタン等の炭化水素が熱分解する。炭化水素の熱分解ガスから単離した炭素が焼成品13の表面及び焼成品13の素材であるセラミックス焼結体の多孔質構造の気孔内に付着し、且つ堆積する。このように気相反応により、焼成品13の表面及び気孔内に炭素が蒸着し、炭素薄膜層が形成される。
【0043】
炉は自然冷却され、炉内温度が炭素の発火燃焼温度以下となった時点で、炉の扉を開いて、浸炭処理された焼成品13を炉より取り出す。炉の扉を開いて外気を導入する段階は、炉内温度が350℃以下に冷却された時点が好ましい。
【0044】
上記の如くして浸炭処理された焼成品13は、本発明の電子レンジ用加熱具として用いられる。このようにして得られる本発明加熱具は、カーボンによる黒色外観を呈する。
【0045】
本発明の電子レンジ用加熱具は、セラミックス焼結体の表面及び気孔内に炭素薄膜層が形成されているから、本発明加熱具に食品、飲み物等の被調理物を入れて、これを電子レンジ内で加熱したとき、電子レンジのマグネトロンから発生するマイクロ波を炭素薄膜層が吸収して発熱し、それにより本発明加熱具は電子レンジ内で加熱される。
【0046】
その結果、被調理物がマイクロ波により加熱されるだけでなく、本発明加熱具自体もマイクロ波により加熱されるため被調理物を十分に加熱できるとともに、電子レンジから取り出した後も被調理物を保温できる効果がある。
【0047】
本発明は、セラミックス焼結体における選択された部位における気孔内に炭素薄膜層を形成することができる。即ち、本発明はセラミックス焼結体の多孔質構造における気孔全部に炭素薄膜層を形成することに限定されず、気孔のうち、或る選択された部位における気孔のみに炭素薄膜層を形成するようにしてもよい。
【0048】
このようないわゆる部分炭素薄膜層の形成に当っては、炭素の透過が困難な材料を用いて部分マスキングを施し、この部分マスキングされたセラミックス焼結体を浸炭処理すればよい。この場合に用いるマスキング材としては、陶磁器の表面に施される一般的な釉薬を用いることができ、なかでもガラス質層を形成する釉薬を用いることが好ましい。
【0049】
この釉薬による部分マスキングに当っては、選択された部位を無釉部とし、それ以外の部分に釉薬を施す。この部分マスキングされたセラミックス焼結体に浸炭処理を施すと、無釉部におけるセラミックス焼結体の表面及び気孔内に炭素が蒸着して炭素薄膜層が形成される。一方、釉薬を施した部分(施釉部)においては、炭素は釉薬表面に蒸着するが、この釉薬層を炭素が透過しないため、釉薬層に覆われているセラミックス焼結体部位においては、気孔内に炭素が蒸着せず、従って、炭素薄膜層は釉薬層表面にのみ形成され、気孔内には形成されない。
【0050】
このように、無釉部においては、表面及び気孔内に炭素薄膜層が形成され、一方、施釉部においては、表面のみに炭素薄膜層が形成されるため、電子レンジ加熱時の発熱量は無釉部におけるほうが施釉部におけるよりも大きくなる。ここにおいて、無釉部に対応した部分を高発熱部、施釉部に対応した部分を低発熱部と称すと、本発明のこの実施形態によれば、本発明電子レンジ用加熱具の一部を高発熱部として構成し、他部を低発熱部として構成することができる。
【0051】
この実施形態における具体的態様として、セラミックス焼結体を例えば湯飲み茶碗の如き椀形状とした場合において、椀の上部を低発熱部として構成し、それより下方を高発熱部として構成することができる。この場合、椀に飲み物を入れて電子レンズで加熱を行っても椀上部の発熱量は少ないため、椀を取り出す際に椀上部を手に持っても熱すぎることはない。
【0052】
また、取っ手のある容器の場合に取っ手部を低発熱部として構成すれば、取っ手部の発熱量は少ないため、電子レンジから容器を取り出す際、同様に取っ手部を手に持っても熱すぎることはない。
【0053】
更に、容器の上方部の或る特定位置に高発熱部を構成すれば、内容物たる食品の上部に焦げ目を付けることも可能となる。
【0054】
一般に、深底容器に牛乳等の液体を入れて電子レンジで加熱した際、該液体の上方よりも下方のほうが加熱温度が低く、深度に沿って温度勾配が生じる。本発明の上記実施形態によれば、深底容器の上部を低発熱部として構成し、該容器の下部を高発熱部として構成することができ、このように構成することにより、牛乳等の液体を上下方向に均一に加熱することが可能となる。
【0055】
釉薬の施された陶磁器製容器において、容器の底部には釉薬が施されないのが普通であり、この容器に浸炭処理を施した場合、無釉部である容器底部における多孔質構造を構成する気孔内に炭素が蒸着し、炭素薄膜層が形成される。
【0056】
この態様における本発明加熱具に被調理物を入れて電子レンジで加熱した際、容器底部における炭素薄膜層が発熱部となって容器が発熱し、被調理物に加熱作用を与えるとともに、電子レンジ加熱後の保温機能を発揮する。
【0057】
本発明加熱具は、椀類、丼、湯のみコップ類、皿類、鉢類等の食器、急須、徳利等の注器、土鍋、陶板等の調理具、ホットプレート、保温容器等に適用できる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明の実施例を示す。
実施例1
セラミックス基材組成
ぺタライト粉末 50重量部
可塑性粘土 20重量部
アルミナ 10重量部
天草陶土 20重量部
上記組成からなるセラミックス基材の各成分を湿式で均質に混合し、脱水した後、泥しょうに調整し、鋳込み成形により縦90mm×横90mm×厚さ30mmの板状片を成形し、乾燥した後、800℃で素焼きした。得られた素焼片を大気下で1250℃、12時間で焼成し、焼結片とした。この焼結片の吸水率を測定したところ3.2重量%であった。
【0059】
焼結片を図2に示す炉の中にいれ、LPガスを吹き込んで温度1100℃に加熱し、10時間浸炭処理を行った。これにより均質な黒色を呈する試験片が得られた。この試験片を家庭用電子レンジ(出力600W)に入れ、マイクロ波をそれぞれ30秒、60秒、90秒照射したときの発熱温度を表面温度計(testo社製 905−T2型)で測定した。即ち、まず第1の試験片について、30秒加熱後に電子レンジより試験片を取り出し、表面温度計を試験片に当てて発熱温度を測定し、次いで第2の試験片について、60秒加熱後に電子レンジより試験片を取り出して同様に発熱温度を測定し、また第3の試験片について90秒加熱後に同様に取り出して、発熱温度を測定した。結果を表1に示す。
実施例2
実施例1に示すセラミックス基材を用いて実施例1と同様の方法で焼結片を作り、この焼結片の一辺から60mmの長さの地点までの領域に釉薬を施し施釉部を形成する。釉薬は、ぺタライト粉末50重量部、可塑性粘土5重量部、長石30重量部、タルク15重量部を湿式で粉砕混合し、水分率を45重量部に調整したものを用いた。この施釉した焼結片の吸水率を測定したところ2.5重量%であった。
【0060】
次いで、焼結片に実施例1と同様の方法で浸炭処理を施した。施釉部はクリーム色で、無釉部は黒色を呈する試験片が得られた。この試験片について実施例1と同様の方法で発熱温度を測定した。発熱温度は無釉部に表面温度計を当てて測定した。結果を表1に示す。
比較例1
実施例1に示すセラミックス基材を用いて実施例1と同様な方法により同一の焼結片を製作した。この焼結片に浸炭処理を施さないものを試験片とし、この試験片について実施例1と同様の方法で発熱温度を測定した。結果を表1に示す。
比較例2
実施例1に示すセラミックス基材を用いて実施例2と同様な方法により施釉部と無釉部を有する同一の焼結片を製作した。この焼結片に浸炭処理を施さないものを試験片とし、この試験片について実施例1と同様の方法で発熱温度を測定した(測定箇所は無釉部)。結果を表1に示す。
【0061】
(表1)

【0062】
測定結果から、実施例1、2は高温に発熱するが、比較例1、2はほとんど発熱しないことが判る。実施例1は実施例2よりも発熱温度の上昇速度が大きく、しかもより高温に発熱している。
実施例3
実施例1に示すセラミックス基材を用いて鋳込み成形により図3に示す容器を成形し、実施例1と同様の方法で素焼きし、その後焼成して実施例1と同様な吸水率を有する容器を製作した。この容器に実施例1と同様の方法で浸炭処理を施した。
【0063】
浸炭処理後の容器を実施例1と同様の方法により電子レンジに入れ、60秒照射して加熱し、その後取り出して、実施例1で用いたと同様な表面温度計を容器の各部位に当てて各部位における発熱温度を測定した。容器の口縁部14、胴部15及び高台16の各部位について発熱温度を測定した。結果を表2に示す。
実施例4
実施例1に示すセラミックス基材を用いて実施例3と同様な方法により容器を製作した。容器の口縁部14から高台16までの高さをLとしたとき、口縁部14から高台16に向けて2L/3に相当する長さの領域に実施例2と同様の方法により釉薬を施し施釉部を形成し、この施釉部を形成してなる容器に実施例1と同様の方法で浸炭処理を施した。
【0064】
浸炭処理後の容器を実施例1と同様の方法により電子レンジにて加熱し、実施例3と同様、容器の各部位における発熱温度を測定した。結果を表2に示す。
比較例3
実施例1に示すセラミックス基材を用いて実施例3と同様な方法により容器を製作した。この容器に浸炭処理を施すことなく、実施例1と同様の方法により電子レンジにて加熱し、実施例3と同様、容器の各部位における発熱温度を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
(表2)

【0066】
測定結果から、実施例3、4においては各部位において高い発熱温度が得られるが、比較例3の場合には、どの部位もほとんど発熱していないことが判る。実施例3、4のうち、実施例3は各部位においてほぼ均等な発熱温度が得られるが、実施例4においては口縁部14から高台16にかけて次第に発熱温度が高くなり、温度勾配を生じている。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電子レンジ用加熱具は、製造が容易で、十分な強度を発揮でき、発熱及び保温性能に優れており、食品や飲み物の加熱調理具等として用いるのに極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】走査型電子顕微鏡によるセラミックス焼結体の断面写真である。
【図2】浸炭処理を説明するための説明図である。
【図3】発熱温度を測定する部位を示す容器の断面略図である。
【符号の説明】
【0069】
A セラミックス焼結体の気孔
B セラミックス焼結体の表面
14 口縁部
15 胴部
16 高台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス焼結体からなり、浸炭処理により該セラミックス焼結体の表面及び気孔内に炭素薄膜層を形成してなることを特徴とする電子レンジ用加熱具。
【請求項2】
炭素薄膜層が、炭化水素の熱分解により得られる炭素からなるものである請求項1記載の電子レンジ用加熱具。
【請求項3】
浸炭処理による炭素薄膜層は、セラミックス焼結体を加熱し、LPガスを導入して還元雰囲気で熱処理し、気相反応により炭素をセラミックス焼結体の表面及び気孔内に蒸着させることにより形成されるものである請求項1記載の電子レンジ用加熱具。
【請求項4】
セラミックス焼結体における選択された部位における気孔内に炭素薄膜層を形成してなる請求項1記載の電子レンジ用加熱具。
【請求項5】
選択された部位を無釉部とし、それ以外の部分に釉薬を施して浸炭処理を行い、無釉部におけるセラミックス焼結体の気孔内に炭素薄膜層を形成してなる請求項4記載の電子レンジ用加熱具。
【請求項6】
容器形状に成形してなる請求項1記載の電子レンジ用加熱具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−268119(P2007−268119A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99849(P2006−99849)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(590003722)佐賀県 (38)
【出願人】(506111044)
【Fターム(参考)】