説明

電子放出源の製造方法

【課題】発光の均一性が良好な電子放出源を提供する。
【解決手段】カソード電極が形成された基板上に電子放出材料を含む層を形成する工程と、電子放出材料を含む層に機械的に表面処理する工程を有する電子放出源の製造方法であって、機械的に表面処理する工程が単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布によって研磨する工程である電子放出源の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源および電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTという)等の電子放出材料を含む電子放出源を平面状に多数配置し、蛍光体を発光させる原理の電界放出型ディスプレイ(FED)、電界放出を用いた液晶用バックライトや照明等の研究が盛んに行われている。CNTを用いた電子放出源を作製する方法の一つに、CNTをペーストにして印刷することよりカソード電極上にCNTを含む電子放出源を作製する方法がある。この方法は、はじめにカソード電極上にCNTを含むペーストを印刷し、感光性の場合はさらに露光・現像によりパターン加工を行い、焼成することによってペースト中の有機成分を分解し、基板上にCNTを含む層を形成する。次に、研磨布による研磨や粘着テープによる剥離などの機械的な表面処理を行い、電子放出源を製造することができる。特許文献1には、塵を発生させない防塵布をCNTを含む層が形成されたカソード電極上に押し当てて複数回ふき取り、カソード電極上に十分固着していない電子放出材料としてのCNTなどのカーボン物質及び低融点ガラス粒子を機械的に除去する表面処理方法が開示されている。特許文献2には、カーボン層に粘着テープを貼付した後、前記粘着テープを剥離させてエミッタを形成する工程が開示されている。
【特許文献1】特開2004−178891号公報(請求項7及び8)
【特許文献2】特開2001−35360号公報(請求項4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では除去しきれないカーボン物質がカソード電極上に残留し、電子放出源でない領域から電子放出を起こすため発光が不均一になることがあった。また、特許文献2に記載の方法では粘着テープの剥離ムラが生じることがあった。本発明は、上記課題に着目し、発光の均一性の良好な電子放出源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明はカソード電極が形成された基板上に電子放出材料を含む層を形成する工程と、電子放出材料を含む層に機械的に表面処理する工程を有する電子放出源の製造方法であって、機械的に表面処理する工程が単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布によって研磨する工程である電子放出源の製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、発光の均一性の良好な電子放出源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
発明者等は、発光の均一性の良好な電子放出源の製造方法を鋭意検討の結果、カソード電極が形成された基板上に電子放出材料を含む層を形成する工程と、電子放出材料を含む層に機械的に表面処理する工程を有する電子放出源の製造方法であって、機械的に表面処理する工程が単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布によって研磨する工程である電子放出源の製造方法によって達成されることを見出した。
【0007】
以下に、CNTを電子放出材料とした場合の電子放出源の製造方法を例に、本発明の実施態様について具体的に説明する。
【0008】
ソーダガラスやPDP用の耐熱ガラスである旭硝子(株)製のPD200等のガラス基板上にITO、Cr、Al等の導電性膜を成膜しカソード電極を形成する。次いで、CNTを含む電子放出源用ペーストをスクリーン印刷またはスリットダイコーター等により塗布する。電子放出源用ペーストは、CNTと、溶媒を必須成分とし、必要に応じてガラス粉末、バインダー樹脂、分散剤等を適宜含むことができる。
【0009】
また、電子放出源用ペーストは感光性を付与してもよく、感光性有機成分を含有することによって、露光および現像を通してパターン加工を行うことができる。感光性有機成分としては、紫外線を照射した時に化学的な変化が生じることによって、紫外線照射前には現像液に可溶であったものが露光後は現像液に不溶になるネガ型感光性有機成分と、紫外線照射前には現像液に不溶であったものが露光後は現像液に可溶になるポジ型感光性有機成分のいずれかを選ぶことができるが、特にネガ型感光性有機成分を用いたものを好適に使用することができる。ネガ型感光性有機成分としては、感光性ポリマー、感光性オリゴマー、感光性モノマーのうち少なくとも1種類から選ばれる感光性成分を含有し、さらに必要に応じて、バインダー、光重合開始剤、紫外線吸光剤、増感剤、増感助剤、重合禁止剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加成分を含むものが好ましい。感光性電子放出源用ペーストを用いた場合は、電子放出源用ペースト塗布膜を所望のパターンで上面露光または背面露光した後に現像し、電子放出源パターンを形成する。
【0010】
次に、有機成分をできるだけ除去するため、大気中または窒素雰囲気中で焼成する。有機成分を除去するには、焼成温度はより高温であるほうが効果があるが、CNTの熱による劣化を抑制できることと、安価なソーダライムガラス基板を使用できることを考慮すると、400〜500℃が好ましい。CNTの酸化による劣化を抑制できるという点で、窒素雰囲気中の焼成がより好ましい。
【0011】
このようにして形成した電子放出材料であるCNTを含む層に、単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布による研磨によって機械的な表面処理を行う。ここで、単繊維繊度とは、生糸及び人造繊維の短繊維およびフィラメント糸の太さを表す線密度のことで、1dtex=1g/10000mである。研磨布の単繊維繊度は、研磨布の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)あるいは走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50本以上の単繊維直径の測定を3カ所以上で行い、測定した合計150本以上の単繊維直径から繊度を計算したものの平均値とする。この単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布を用いることによって、発光の均一性が良好な電子放出源を作製することができる。
【0012】
研磨布の単繊維繊度が1.0dtex以上になると、CNTを含む層の表面に局所的な荷重がかかるようになり、カソード電極が形成された基板上のCNTを含む層から結合力の弱い部分のCNTやガラス粉末などが多く脱離し、カソード電極上に残留する。残留したCNTなどは静電気力などによってカソード基板上に強く接着するため、エアーブローなどで除去することが困難である。その結果、電子放出源でない領域から電子放出を起こすため発光が不均一になる。また、アーク放電や電極間ショートの原因となることがある。研磨布の単繊維繊度を1.0dtex未満とすることによって、CNTを含む層の表面にかかる局所的な荷重を低減し、CNTやガラス粉末の脱離を抑制し、カソード電極上の残留物を低減できるため、良好な発光の均一性をえることができる。また、単繊維繊度が1.0×10−8dtexより小さいものは製造することが困難なうえ、繊維強度が不足する。単繊維繊度のより好ましい範囲は、三種類の態様があり、第一の好ましい態様としては(1)1.0×10−3dtex以上1.0dtex未満、第二の好ましい態様としては(2)1.0×10−4dtex以上1.0dtex以下、第三の好ましい態様としては(3)1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下である。研磨布は、これらの範囲の単繊維繊度を有する極細繊維のみから形成されていてもよいし、他の単繊維繊度を有する極細繊維と組み合わせて形成されていてもよいが、それぞれの好ましい態様において、(1)〜(3)のそれぞれの繊維が50重量%以上含まれていることが好ましい。
【0013】
さらに、少なくとも片面に立毛を有することが好ましい。立毛があることにより、トライオード構造の凹部に形成された電子放出源に対しても、立毛部が入り込むことができるため、十分に研磨することができる。
【0014】
研磨布として好ましい態様を以下に具体的に説明する。
【0015】
第一の好ましい態様は、単繊維繊度が1.0×10−3dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を50重量%以上含む研磨布である。より好ましくは、少なくとも片面に立毛を有する研磨布である。さらに好ましくは、単繊維繊度が1.0×10−3dtex以上1.0dtex未満の極細繊維が50重量%以上と、その他の繊維によって多層構造に構成されており、少なくとも片面に立毛を有する研磨布である。
【0016】
好ましい範囲の単繊維繊度の占める割合(繊度比率)は、以下のようにして算出する。研磨布中の単繊維のそれぞれの単繊維繊度をdtiとしその総和を総繊度(dt1+dt2+…+dtn)とする。そして、同じ単繊維繊度を持つ単繊維の頻度(個数)を数え、その単繊維繊度と頻度(個数)の積を総繊度で割ったものを繊度比率とする。これは、研磨布中に含まれる研磨布全体に対する各単繊維繊度成分の重量%に相当する。
【0017】
なお、かかる繊度比率は、研磨布の横断面をTEMあるいはSEMで観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50本の単繊維直径を測定する。そして、これを3カ所以上で行い、少なくとも合計150本の単繊維直径を測定することで求めるものであり、前述の単繊維繊度の平均値を求めるのと同様のn数として求めればよいものである。
【0018】
多層構造の研磨布とは、2層以上からなる織物、あるいは編物、不織布などからなる布帛であり、層数は特に限定されないが、表層部、裏層部の2層、あるいは表層部、中層部、裏層部の3層が好ましい。
【0019】
多層構造の少なくとも単層は極細繊維(A)とその他の繊維(B)で構成される。すなわち、まず、第一の好ましい態様である多層構造の研磨布に含まれる極細繊維(A)は単繊維繊度が1.0×10−3dtex以上1.0dtex未満の繊維であり、好ましくは5.0×10−3以上5.0×10−1dtex以下、さらに好ましくは1.0×10−2以上1.0×10−1dtex以下の繊維である。
【0020】
極細繊維(A)以外の繊維(B)の単繊維繊度は、1.0dtex以上10dtex以下のものであり、好ましくは1.3dtex以上9dtex以下、さらに好ましくは1.5dtex以上8dtex以下のものである。1.0dtexを下回る場合には布帛全体として腰がなくフニャフニャのものになって研磨しにくくなり、実用上好ましくない。10dtexを上回る場合には逆に硬いものになり、これも実用上好ましくない。
【0021】
また、少なくとも多層構造を繋ぐ繊維の単繊維繊度は0.1dtex以上10dtex以下であるものが好ましく、さらに好ましくは0.5dtex以上9dtex以下、より好ましくは1.0dtex以上8dtex以下のものである。0.1dtexを下回る場合には布帛全体として腰がなくフニャフニャのものになり、実用上好ましくない。10dtexを上回る場合には逆に硬いものになり、これも実用上好ましくない。
【0022】
布帛を構成する繊維のうち、極細繊維(A)としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリルニトリル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維などの極細化可能な繊維であればいかなる繊維でもよいが、なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体などからなるポリエステル系繊維や、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66およびこれらの共重合体などからなるポリアミド系繊維が好ましい。また、(A)以外の繊維(B)としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリルニトリル系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維などを挙げることができるが、なかでも、極細繊維との相性がよい、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびこれらの共重合体などからなるポリエステル系繊維や、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン66およびこれらの共重合体などからなるポリアミド系繊維が好ましい。
【0023】
第一の好ましい態様の研磨布は、少なくとも片面に立毛を有することが好ましい。表層部、裏層部のいずれか、または両層は立毛を有する。立毛の構成は立毛が1.0×10−3dtex以上1.0dtex未満の極細繊維が50〜80重量%と1.0dtex以上10dtex以下の繊維が20〜50重量%であり、かつその立毛の長さは0.1mm〜10mmであることが好ましい。立毛は電子放出源表面を均一に研磨し、発光を均一にするのに有効である。立毛を得る方法としては、目的によって自由に選ぶことができる。例えば公知の針布起毛、バフィング、多層間のシャーリング、植毛などが挙げられるが、針布起毛、バフィングなど簡易な方法が好ましく用いることができる。
【0024】
第一の好ましい態様である多層構造の研磨布の厚さは(株)大栄精機製作所製の中型測厚器(型式:UF−60A)を用いて測定した厚さが0.5〜1.5mmであることが好ましい。さらに好ましくは0.7〜1.3mm、より好ましくは0.9〜1.1mmである。厚さが0.5mmを下回る場合には耐久性が不足し、1.5mmを上回る場合には厚くなりすぎるため、実用上、扱いにくいものになる。また、目付は50〜200g/mが好ましい。
【0025】
第一の好ましい態様の研磨布は、表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、電子放出源の表面処理において、荷重が局所的に集中することなく、発光の均一な電子放出源を得ることができる。第一の好ましい態様の研磨布として、例えばトレシー(東レ(株)製、登録商標、工業用グレード、単繊維繊度7×10−2dtex)などが挙げられる。
【0026】
第二の好ましい態様は、単繊維繊度が1.0×10−4dtex以上1.0dtex以下の極細繊維を含む研磨布である。より好ましくは、図1に示すような少なくとも片面に立毛を有する研磨布である。さらに好ましくは、極細繊維発生型繊維より得られる、単繊維繊度が1.0×10−4dtex以上1.0dtex以下の極細繊維を60重量%以上含む不織布により形成されており、少なくとも片面に立毛を有する研磨布である。
【0027】
第二の好ましい態様にいう極細繊維発生型繊維の単繊維繊度は、研磨布表面の立毛繊維の緻密性、繊維強度の点から、1.0×10−4dtex以上1.0dtexであることが好ましい。
【0028】
耐摩耗性、表面平滑性の観点から、極細繊維を構成するポリマーはポリエステルであることが好ましい。またその中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらを主体とした共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1 種のポリマーから構成されていることが好ましい。これは、繊維剛性が高く、立毛面における繊維の均一分散性に優れるため、電子放出源表面の均一な研磨を行うことができるからである。
【0029】
ポリエステル極細繊維不織布において、被研磨物へのフィット性の点から、主体をなすポリエステル極細繊維以外にも、たとえばナイロン6、ナイロン66 、ナイロン12及び共重合ナイロンなどのポリアミド類からなる極細繊維を混合して使用してもよい。また、凹凸の鋭角性の点からすると、混合量としては、繊維総重量に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の量的に少ない方が好ましく採用される。
【0030】
所望の繊度を有する極細繊維を得るには、極細繊維発生型繊維を用いることが好ましい。極細繊維発生型繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分の熱可塑性樹脂を海成分と島成分とし、海成分を溶剤などを用いて溶解除去することによって島成分を極細繊維とする海島型複合繊維や、2成分の熱可塑性樹脂を繊維断面放射状あるいは層状に交互に配置し、各成分を剥離分割することによって極細繊維に割繊する剥離型複合繊維や多層型複合繊維などを採用することができる。
【0031】
不織布シートをポリウレタンを主成分とする高分子弾性体を付与させてもよい。かかる高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、極細短繊維不織布の内部空間に高分子弾性体を充填し一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物表面の傷の抑制効果に優れるものである。
【0032】
第二の好ましい態様の研磨布において、極細繊維と高分子弾性体とからなるシート状物の少なくとも片面に、極細繊維からなる立毛面を有することが好ましい。該立毛面はバッフィング処理により得られる。ここでいうバッフィング処理としては、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いてシート表面を研削する方法などが一般的である。とりわけ、シート表面をサンドペーパーを使用して起毛処理することにより、均一で緻密な立毛を形成することができる。更に、スクラッチを抑制する目的で、シート表面上の表面繊維分布の均一性及び緻密性を向上させ、立毛繊維の方向性を極めて少なくするためには、研削負荷をより小さくすることが好ましい。研削負荷が高い状態では、巻き毛状となる立毛繊維が多く、また立毛繊維が束状に膠着した状態となりやすい。研削負荷を小さくするためには、バフ段数やサンドペーパー番手などを適宜調整することが好ましい。中でも、バフ段数は3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の150番〜600番の範囲とすることが好ましい。
【0033】
第二の好ましい態様の研磨では、研磨布の立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上であることが好ましい。上限は特に限定されず、数値が大きいほど好ましいが、通常1000本/100μm幅以下となる。ここでいう表面繊維本数の線密度は、以下により定義されるものである。該研磨布の立毛面を観察面としてSEMにより観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。また、これを母集団とした平均値を算出する。表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅未満である場合には、緻密性に劣る。
【0034】
また、第二の好ましい態様の研磨布において、JIS B−0601(2001年版)の規定に基づいて測定される表面粗さは、30μm以下であることが好ましい。表面粗さは、より好ましくは20μm以下である。下限は特に限定されず、小さいほど好ましいが、通常0.1μm以上となる。表面粗さが30μmを超えると、電子放出源の表面のうねりを抑制することができず、また所望の表面粗さを達成し得ないことがある。
【0035】
第二の好ましい態様の研磨布をテープ状として、電子放出源の表面処理を施す際に、研磨布に寸法変化が生じると、基板表面を均一に研磨することができないため、研磨布の形態安定性の点から、第二の好ましい態様の研磨布に用いられるシート状物の目付は100〜400g/mであることが好ましく、150〜300g/mであることがより好ましい。研磨布の厚さは(株)大栄精機製作所製の中型測厚器(型式:UF−60A)を用いて測定した厚さが0.5〜1.4mmであることが好ましい。厚さが0.5mmを下回る場合には耐久性が不足し、1.4mmを上回る場合には厚くなりすぎるため、実用上、扱いにくいものになる。
【0036】
第二の好ましい態様の研磨布は、表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、電子放出源の表面処理において、荷重が局所的に集中することなく、発光の均一な電子放出源を得ることができる。第二の好ましい態様の研磨布として、例えばエクセーヌ(東レ(株)製、登録商標、単繊維繊度4×10−2dtex)などが挙げられる。
【0037】
第三の好ましい態様の研磨布は、単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の極細繊維を60重量%以上含む研磨布である。より好ましくは、少なくとも片面に立毛を有する研磨布である。さらに好ましくは、単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の極細繊維を60重量%以上表面に有しており、表面に露出した単繊維繊度1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の極細繊維間の交差点が、SEMを用いて2000倍にて観測した0.01mmの範囲50ヶ所において、平均で500ヶ所以上存在することを特徴とする研磨布である。
【0038】
第三の好ましい態様にいう極細繊維とは、単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の繊維であり、これは単繊維直径が1〜400nmのナノファイバーに相当する。ナノファイバーは、形態的にはその単繊維がバラバラに分散したものが大部分を占めるが、単繊維が部分的に結合しているもの、あるいは複数の単繊維が凝集した集合体などの全ての総称である。その繊維長や断面形態などは限定されない。
【0039】
また、第三の好ましい態様の研磨布において、単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の繊維の比率は60重量%以上であることが好ましい。これにより、ナノファイバー研磨布の性能を充分に発揮し、電子放出源の均一な表面処理を行うことができる。なお、単繊維繊度の範囲は、より好ましくは1.0×10−8dtex以上6.0×10−4dtex以下である。
【0040】
繊度比率は、以下のようにして算出する。研磨布中のナノファイバーそれぞれの単繊維繊度をdtiとしその総和を総繊度(dt1+dt2+…+dtn)とする。そして、同じ単繊維繊度を持つナノファイバーの頻度(個数)を数え、その単繊維繊度と頻度(個数)の積を総繊度で割ったものを繊度比率とする。これは、研磨布中に含まれるナノファイバー全体に対する各単繊維繊度成分の重量分率に相当し、この値が大きい単繊維繊度成分が研磨布の性質に対する寄与が大きいことになる。
【0041】
なお、かかるナノファイバーの繊度比率は、ナノファイバーを少なくとも一部に含むシート状物の横断面をTEMあるいはSEMで観察し、同一横断面内で無作為に抽出した50本のナノファイバーの単繊維直径を測定する。そして、これを3カ所以上で行い、少なくとも合計150本の単繊維直径を測定することで求めるものであり、前述の単繊維繊度の平均値を求めるのと同様のn数として求めればよいものである。
【0042】
第三の好ましい態様の研磨布は、表面に露出した単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の極細繊維間の交差点が、SEMを用いて2000倍にて観測した表面0.01mmの範囲50ヶ所において、平均で500ヶ所以上存在していることが好ましい。ここで表面繊維の分散性は以下の方法で求めることができる。すなわち、極細繊維を含む研磨布の表面をSEMで観察、加速電圧20kV、ワーキングディスタンス8mm、倍率2000倍で撮影した表面写真において、明らかな欠点ヶ所は除いて無作為に表面0.01mmの範囲を抽出し、研磨布の表面に露出した単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.4×10−3dtex以下の極細繊維の繊維間の交差点をカウントする。合計50枚の表面写真を測定し、各写真についてカウントを行い、50ヶ所の平均を求め小数点第一位で四捨五入するものである。このとき、表面にポリウレタンなどの高分子弾性体が露出し、極細繊維が存在しない部分や、ニードルパンチ等により大きな穴を形成している部分は避け、判定に用いないものとする。ここでいう極細繊維間の交差点とは、分散した極細繊維の1本と1本が交差する点であり、交差角の鋭角が20°以上である交差点である。繊維が部分的に合流している箇所や、交差せずに並行している部分、フィブリル化した部分は除くものとする。また、極細繊維が2本以上凝集して形成される束同士の交差点、あるいは束状部分と極細繊維1本の間の交差点もカウントしない。なお、極細繊維が数百本単位で凝集した束の表面で、部分的に分散した極細繊維間の交差点についてはカウントするものとする。ここで、研磨布の極細繊維を含む表面0.01mmの極細繊維間の交差点は写真50枚平均で500ヶ所以上存在することが必要であり、より好ましくは1000ヶ所以上である。ナノファイバーが表面に分散することで、従来の極細繊維では達成し得なかった極めて緻密な表面状態と優れた平滑性を有する不織布からなる研磨布が得られるからである。
【0043】
第三の好ましい態様の研磨布を構成するポリマーとしては、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点は165℃以上であると、極細繊維の耐熱性が良好となるため好ましい。例えば、PETは255℃、N6は220℃、ポリ乳酸(PLA)は170℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加剤を含有させても良いし、ポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていても良い。
【0044】
第三の好ましい態様の研磨布に用いられる極細繊維不織布において、不織布の強度補強やクッション性の向上の点から、主体をなすナノファイバー以外にも、単繊維繊度が1.4×10−3dtex以上のナイロン6、ナイロン66、ナイロン12及び共重合ナイロンなどのポリアミド類からなる極細繊維を混合して使用してもよい。ただし、研磨布表面の平滑性の点から混合量としては、繊維総重量に対して、好ましくは30重量%以下、より好ましくは10重量%以下が採用される。
【0045】
第三の好ましい態様の研磨布を構成するナノファイバーは、静電紡糸法などの公知のナノファイバー製造法を用いることもできるし、ポリマーアロイ繊維から得ることもできる。
【0046】
第三の好ましい態様の研磨布にポリウレタンを主成分とする高分子弾性体を付与させてもよい。かかる高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、極細短繊維不織布の内部空間に高分子弾性体を充填し一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物表面の傷の抑制効果に優れるものである。
【0047】
高分子弾性体は特に限定はない。例えば、ポリウレタン、ポリウレア、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマーなどを用いることができる。中でもポリウレタン、ポリウレタン・ポリウレアエラストマーなどのポリウレタン系エラストマーが好ましい。
【0048】
第三の好ましい態様の研磨布をテープ状として、電子放出源の表面処理を施す際に、研磨布に寸法変化が生じると、電子放出源表面を均一に研磨することができない。そこで、研磨布の形態安定性の点から、第三の好ましい態様の研磨布の目付は100〜600g/mであることが好ましく、150〜300g/mであることがより好ましい。また、同様の観点から第三の好ましい態様の研磨布は厚みが0.1〜10mmの範囲が好ましく、0.3〜5mmの範囲がより好ましい。なお、第三の好ましい態様の研磨布の密度については特に限定されるものではないが、均一な加工性を得るためには0.1〜1.0g/cmの範囲が好適である。
【0049】
第三の好ましい態様の研磨布において、極細繊維が研磨布の表面で分散した状態となるためには、ポリマーアロイ繊維不織布と高分子弾性体とからなるシート状物の少なくとも片面に、ポリマーアロイ繊維からなる立毛面を形成させた後に、ポリマーアロイ繊維を極細繊維化することが好ましい。ポリマーアロイ繊維からなる立毛部分が表面に分散した状態で極細繊維化が起こり、極細化の工程で表面に分散し、これを乾燥せしめることで表面を覆うようにして均一に分散させることができるからである。なお、静電紡糸法を用いた場合は、より簡便にナノファイバーが表面に分散した状態を形成させることが可能である。
【0050】
第三の好ましい態様の研磨布の立毛は、バッフィング処理により得られる。ここでいうバッフィング処理とは、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて表面を研削する方法などにより施すのが一般的である。特に、表面をサンドペーパーにより、起毛処理することにで均一かつ緻密な立毛を形成することができる。さらに、研磨布の表面に均一な立毛を形成させるためには、研削負荷を小さくすることが好ましい。研削負荷を小さくするためには、バフ段数、サンドペーパー番手などを適宜調整することが好ましい。中でも、バフ段数は3段以上の多段バッフィングとし、各段に使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の150番〜600番の範囲とすることがより好ましい。
【0051】
次に、立毛させたポリマーアロイ繊維から極細繊維を発現せしめる方法、すなわち、極細繊維発 生加工の方法は、除去する成分(易溶解性ポリマーからなる海成分)の種類に依存する。例えば、除去する成分がPEやポリスチレン等のポリオレフィンであれば、トルエンやトリクロロエチレン等の有機溶媒、PLAや共重合ポリエステルであれば、水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で浸漬・窄液を行う方法を好ましく用いることができる。
【0052】
また、極細繊維発生加工の際に極細繊維を研磨布表面に分散させ、第三の好ましい態様の研磨布表面の緻密化、平滑化を達成するためには、極細繊維発生加工中、もしくは発生加工後、液中にて物理的刺激を加えることが重要である。物理的刺激としては特に限定されるものではないが、ウオータージェットパンチング処理などの高速流体流処理や、液流染色機、ウィンス染色機、ジッガー染色機、タンブラー、リラクサー等を用いた揉み処理、超音波処理等を適宜組み合わせて実施してもよい。
【0053】
第三の好ましい態様の研磨布は、表面上の立毛繊維の剛性が高く、また緻密且つ均一に分散した状態で分布しているので、電子放出源の表面処理において、荷重が局所的に集中することなく、発光の均一な電子放出源を得ることができる。
【0054】
研磨布による研磨の方法は、例えば底面が平面状である母材の底面や、ロール状の母材に研磨布を固定し、一定荷重を加えながら一定速度で電子放出材料であるCNTを含む層の表面を研磨することができる。荷重は1.0×10−5〜10kg/cmの範囲が好ましい。1.0×10−4〜1.0×10−1kg/cmがさらに好ましい。また、速度は0.01〜50cm/秒が好ましい。ロール状の母材に研磨布を固定した場合、ロールを回転させながら研磨してもよい。ロールの周速度は0.01〜100cm/秒が好ましい。
【0055】
次に、ダイオード型の電子放出素子の作製方法を説明する。ソーダライムガラスやPDP用の耐熱ガラスである旭硝子(株)製のPD200等のガラス基板上にITOを成膜しアノード電極を形成する。アノード電極上に白色の蛍光体を印刷法により積層する。カソード電極と電子放出源の形成された背面基板と、アノード電極と蛍光体層の形成された前面基板をスペーサーガラスをはさんで貼り合わせ、容器に接続した排気管により真空排気することによりダイオード型電子放出素子を作製することができる。アノード電極に0.5〜5kVの電圧を供給することで、CNTから電子が放出され蛍光体発光を得ることができる。
【0056】
次に、トライオード型の電子放出素子の作製方法を説明する。ソーダガラスやPDP(プラズマディスプレイパネル)用の耐熱ガラスである旭硝子(株)製のPD200等のガラス基板上にITO等の導電性膜を成膜しカソード電極を形成する。得られたカソード電極上に電子放出源用ペーストをクリーン印刷またはスリットダイコーター等により塗布し、乾燥する。その電子放出源用ペースト塗膜上に現像可能な絶縁層用ガラスペーストをクリーン印刷またはスリットダイコーター等により乾燥塗膜が5〜20μmとなるように塗布し、乾燥する。さらにゲート電極となるネガ型感光性銀ペーストをクリーン印刷またはスリットダイコーター等により塗布し、乾燥する。所定のパターンを上面露光または背面露光の後に現像し、絶縁層用ガラスペースト塗膜と感光性銀ペースト塗膜に所定のホールパターンを形成する。このとき、ホールパターン底部には電子放出源用ペースト塗膜が露出する。この後、大気中または窒素雰囲気中で400〜500℃で焼成し、電子放出源用ペースト塗膜、絶縁層用ガラスペースト塗膜、感光性銀ペースト塗膜に含まれる有機成分を除去する。最後に本発明の方法によって表面処理を行い、電子放出素子を作製する。また、電子放出源用ペースト塗膜を作製する前に、絶縁層とゲート電極を形成し、その後電子放出源用ホールパターン内に、電子放出源パターンを作製し、焼成、本発明の方法による表面処理を行って電子放出素子を作製してもよい。
【0057】
次に、前面基板を作製する。ソーダライムガラスやPDP用の耐熱ガラスである旭硝子(株)製のPD200等のガラス基板上にITOを成膜しアノード電極を形成する。アノード電極上に赤緑青の蛍光体を印刷法により積層する。背面基板と前面基板をスペーサーガラスをはさんで貼り合わせ、容器に接続した排気管により真空排気することによりトライオード型電子放出素子を作製する。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を、ゲート電極に5〜100Vのパルス電圧を供給することで、CNTから電子が放出され蛍光体発光を得ることができる。
【0058】
電子放出源が形成されるホールパターンの形状は図2、3に例示するように、研磨方向において長さが最大となる形状であるトライオード型電子放出素子であることが好ましい。研磨方向における長さが最大であることによって、電子放出源表面をより強く研磨することができる。
【0059】
また、図4に例示するように、トライオード型電子放出素子において、電子放出源がゲート電極と同じ高さ、またはゲート電極より高い位置にあってもよい。この場合には、ダイオード型電子放出素子と同様、電子放出源表面をより強く研磨することができる。
【0060】
図4に例示する構造は、次のように作製することができる。ソーダガラスやPDP(プラズマディスプレイパネル)用の耐熱ガラスである旭硝子(株)製のPD200等のガラス基板上にITO等の導電性膜を成膜しカソード電極およびゲート電極を形成する。非感光導電ペースト、感光性導電ペーストを用いてカソード電極およびゲート電極を形成してもよい。カソード電極上にのみ電子放出源用ペーストをクリーン印刷等により塗布し、乾燥する。感光性電子放出源用ペーストを用いて、カソード電極上にのみパターン形成してもよい。この後、大気中または窒素雰囲気中で400〜500℃で焼成し、電子放出源用ペースト塗膜に含まれる有機成分を除去する。最後に本発明の方法によって表面処理を行い、電子放出素子を作製する。前面基板は前述と同様のものを用いることができ、背面基板と前面基板をスペーサーガラスをはさんで貼り合わせ、容器に接続した排気管により真空排気することによりトライオード型電子放出素子を作製する。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を、ゲート電極に5〜100Vのパルス電圧を供給することで、CNTから電子が放出され蛍光体発光を得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
カーボンナノチューブ(CNT):ShinzhenNanotechPortCo.,Ltd.製S−DWNT
ガラス粉末:ビスマス系ガラス(酸化ビスマス:85wt%、酸化ホウ素:4wt%、酸化ケイ素:1.5wt%、酸化亜鉛:9.5wt%)、荷重軟化点415℃、平均粒径0.5μm
バインダー:ポリメタクリル酸メチル
溶媒:α−テルピネオール(和光純薬工業(株)製)
研磨布1:トレシー工業用グレードMEワイパー(東レ(株)製、登録商標、ポリエチレンテレフタラート、単繊維繊度7×10−2dtex、表面は立毛していない)
研磨布2:エクセーヌ(東レ(株)製、登録商標、ナイロン6、単繊維繊度4×10−2dtex)
研磨布3:ナノファイバー(東レ(株)製、ポリエチレンテレフタラート、単繊維繊度7.9×10−5dtex)
研磨布4:エクセーヌ(東レ(株)製、ナイロン6、単繊維繊度5×10−3dtex)
研磨布5:エクセーヌ(東レ(株)製、ナイロン6、単繊維繊度1×10−2dtex)
研磨布6:エクセーヌ(東レ(株)製、ナイロン6、単繊維繊度2×10−2dtex)
研磨布7:エクセーヌ(東レ(株)製、ポリエチレンテレフタラート、単繊維繊度2.1×10−1dtex)
研磨布8:ナイロン布(東レ(株)製、ナイロン、単繊維繊度10dtex)
研磨布9:レーヨン布(東レ(株)製、レーヨン、単繊維繊度10dtex)
単繊維繊度の測定
極細繊維の単繊維繊度は以下のように求めた。はじめに研磨布の横断面をSEM((株)キーエンス製 VE−7800型)で観察し、3ヶ所で同一横断面内で無作為に抽出した50本の単繊維直径を測定した。測定には画像処理ソフト(WINROOF)を用いた。研磨布を構成する単繊維が異形断面の場合、まず単繊維の断面積を測定し、その面積を仮に断面が円の場合の面積とした。その面積から直径を算出することによって単繊維直径を求めた。単繊維直径はnm単位で小数点の一桁目まで測定し、小数点以下を四捨五入した。その単繊維直径から単繊維繊度を算出して、150本分についての単純な数平均を求め、これを単繊維繊度とした。
【0062】
電子放出源用ペーストの作製
CNT1g、ガラス粉末2g、バインダー5g、溶媒12gをプラスチック容器に加え、ハイブリッドミキサー(キーエンス(株)製、HM−500)にて予備撹拌したあと、3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストとした。
【0063】
ダイオード型電子放出素子用カソード基板の作製
厚み1.8mmのソーダガラス基板上にITOをスパッタにより成膜しカソード電極を形成した。得られたカソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により塗布、乾燥した。窒素雰囲気で450℃、15分間焼成(昇温速度5℃/分)することによってカソード基板を得た。
【0064】
トライオード型電子放出素子用カソード基板の作製
厚み1.8mmのソーダガラス基板上にITOをスパッタにより成膜しカソード電極を形成した。得られたカソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により1cm×1cmの矩形に塗布し、乾燥した。さらに電子放出源用ペーストが全て覆われるように現像可能な絶縁層用ガラスペーストをスクリーン印刷により2.0cm×2.0cmの矩形に塗布し、乾燥した。さらに、ネガ型感光性銀ペーストをスクリーン印刷により1.8cm×1.8cmの矩形に塗布し、乾燥した。次いで、所定のネガ型クロムマスクを用いて上面から50mW/cm出力の超高圧水銀灯で紫外線露光した。そして炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない感光性銀ペースト塗膜、およびその直下の現像可能な絶縁層用ガラスペースト塗膜を除去し、ホールパターンを作製した。次に、ここで得たパターンを大気中500℃、20分間焼成(昇温速度5℃/分)し、ゲート電極膜厚3μm、絶縁層膜厚10μmのトライオード型電子放出素子用カソード基板を得た。
【0065】
表面処理方法
実施例1〜9、比較例1〜2においては、ディスペンサー(武蔵エンジニアリング(株)製SHOTMASTER3)のヘッド部分に12cm×12cm×3cmの直方体樹脂を取り付け、12cm×12cmの底面に表1に示す研磨布を貼り付け、直方体樹脂の上面に1.3kgのおもりを載せることによって荷重を加えながら、1cm/秒の速さで、電子放出源の表面を1回研磨した。比較例3においては、剥離接着強さ6.7N/cmのテープ(住友スリーエム(株)、8421S)を電子放出源に貼り付け、45°の角度を保持しながら1cm/秒の速さでテープを剥離した。
【0066】
発光の均一性評価方法
はじめにITOをスパッタした厚み1.8mmのソーダガラス基板上に蛍光体を印刷し、アノード基板を作製した。次に、先に作製したダイオード型電子放出素子用カソード基板とアノード基板とを、スペーサーガラスをはさんで貼り合わせ、真空チャンバー内にセットした。電極を接続して1×10−3Paになるまで真空排気し、電流値が500μAになるまでアノード電極に電圧を印加し、蛍光体発光を観察した。目視で発光の均一性が非常に良好なものを○、電子放出源以外の領域からの発光がみられるものや、発光しない領域があるものを×、電子放出源全体から発光が得られているが、目視で輝点が○よりも少ないものを△とした。
【0067】
実施例1〜7、比較例1〜3の結果は表1、図5〜14に示した。単繊維繊度が1.0×10−8以上1dtex未満の研磨布を用いた場合に、発光の均一性は良好であった。一方、単繊維繊度が1.0×10−8以上1dtex未満の範囲内から外れた研磨布では、電子放出源以外の領域からの発光もみられ、発光が不均一であった。また、テープ剥離では発光状態にテープの剥離ムラがみえ、発光が不均一であった。
【0068】
実施例10〜12
実施例10〜12の結果は表2に示した。実施例10、11においては、ストライプ状(線幅50μm、150μmピッチ)のパターンを有するトライオード型電子放出素子用カソード基板を形成した。実施例12においては、ドット状(ビアホール径100μm、50μmピッチ)のパターンを有するトライオード型電子放出素子用カソード基板を形成した。研磨布は、実施例10、12では立毛のある研磨布2を、実施例11では立毛のない研磨布1を用いた。実施例10〜12ともに均一な発光を確認したが、実施例10における発光が、より均一であった。
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の研磨布の好ましい態様である。
【図2】本発明に好適な電子放出素子基板である。
【図3】本発明に好適な電子放出素子基板である。
【図4】本発明に好適な電子放出素子基板である。
【図5】実施例1で得られた蛍光体の発光状態である。
【図6】実施例2で得られた蛍光体の発光状態である。
【図7】実施例3で得られた蛍光体の発光状態である。
【図8】実施例4で得られた蛍光体の発光状態である。
【図9】実施例5で得られた蛍光体の発光状態である。
【図10】実施例6で得られた蛍光体の発光状態である。
【図11】実施例7で得られた蛍光体の発光状態である。
【図12】比較例1で得られた蛍光体の発光状態である。
【図13】比較例2で得られた蛍光体の発光状態である。
【図14】比較例3で得られた蛍光体の発光状態である。
【符号の説明】
【0072】
1:電子放出源
2:ガラス板
3:絶縁層
4:ゲート電極
5:カソード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極が形成された基板上に電子放出材料を含む層を形成する工程と、電子放出材料を含む層に機械的に表面処理する工程を有する電子放出源の製造方法であって、機械的に表面処理する工程が単繊維繊度が1.0×10−8dtex以上1.0dtex未満の極細繊維を含む研磨布によって研磨する工程である電子放出源の製造方法。
【請求項2】
研磨布が、少なくとも片面に立毛を有する請求項1に記載の電子放出源の製造方法。
【請求項3】
研磨布の単繊維繊度が1.0×10−4dtex以上1.0dtex未満である請求項1または2記載の電子放出源の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で得られた電子放出源を有するトライオード型電子放出素子であって、電子放出源が形成されるビアホールの形状が研磨方向において長さが最大となる形状であるトライオード型電子放出素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法で得られた電子放出源を有するトライオード型電子放出素子であって、電子放出源がゲート電極と同じ高さ、またはゲート電極より高い位置にあるトライオード型電子放出素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−99560(P2009−99560A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247566(P2008−247566)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】