電子放出素子、電子線装置、及び画像表示装置の製造方法
【課題】素子毎で電子放出特性のばらつきが少ない電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ゲートと、上面にゲートを有し、ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、突起部分を有し、突起部分の先端が凹部を介してゲートに向き合っているカソードと、を備える電子放出素子の製造方法であって、金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【解決手段】ゲートと、上面にゲートを有し、ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、突起部分を有し、突起部分の先端が凹部を介してゲートに向き合っているカソードと、を備える電子放出素子の製造方法であって、金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ等に用いられる電子放出素子として電界放出型の電子放出素子が知られており、特許文献1には、電界が集中する微細な突起部分を有するカソードと、この突起部分に対向するゲートを備えた電界放出型の電子放出素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、ゲート形成後の製造工程において、ゲートが自然酸化してゲートの表面に自然酸化膜が形成され、自然酸化膜の膜応力によりゲートがエミッタ方向にタレてしまうことがあった。素子毎でゲートの酸化度合いにばらつきがあると素子毎でゲートのタレがばらついてしまう。その結果、素子毎で電子放出特性にばらつきが生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、素子毎で電子放出特性のばらつきが少ない電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ゲートと、
上面に前記ゲートを有し、前記ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、
突起部分を有し、該突起部分の先端が前記凹部を介して前記ゲートに向き合っているカソードと、
を備える電子放出素子の製造方法であって、
金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、
前記ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲートの表面に不動態膜を形成し、一定の酸化膜厚とすることで、酸化に起因するゲートのタレを常に一定にすることができる。これにより、素子毎で電子放出特性のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る電子放出素子の構成を示す図である。
【図2】図1の電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図3】電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す図である。
【図4】カソード先端からゲート底面までの最短距離と電子放出特性の関係である。
【図5】ゲートのタレを説明する図である。
【図6】時間と酸化膜厚の関係、酸化膜厚とゲートのタレの関係である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図8】本発明に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図10】実施例1の電子放出素子の斜視図である。
【図11】本発明に係る画像表示装置の表示パネルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に説明する。但し、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
〔電子放出素子の概要〕
図1は本発明に係る電子放出素子の構成の一例を示す模式図であり、図1(A)は上面図、図1(B)は図1(A)におけるA−A’断面図、図1(C)は図1(B)において電子放出素子を矢印方向から眺めたときの側面図である。
【0011】
図1(B)において、1は基板、2は電極、3は絶縁部材であって絶縁層3aと絶縁層3bの積層体からなる。5はゲートであってゲート基材5a、ゲート基材5aを覆う不動態膜5b及び導電性膜5cからなる。6はカソードであって電極2に電気的に接続されている。7は絶縁部材3の凹部であって、絶縁層3bの側面のみを絶縁層3aよりも内側に凹ませて形成している。凹部7を構成する、絶縁層3aの上面の、絶縁層3bが形成されていない部分と、絶縁層3bの側面とを、以下「凹部7の内表面」ということもある。図1(B)では積層体からなる絶縁部材3に凹部7を設けているが、1つの絶縁層からなる絶縁部材3に凹部7を設けても良い。8は電子放出に必要な電界が形成される間隙(カソード6の突起部分の先端からゲート5の底面までの最短距離d)である。
【0012】
図1(B)に示すように、絶縁部材3は上面にゲート5を有し、ゲート直下の側面に凹部を有している。カソード6は突起部分を有し、該突起部分の先端が凹部7を介してゲート5に向き合っている。カソード6の突起部分の、凹部7の縁に沿った方向の長さは、ゲート5の、該突起部分に対向する部分の、該方向の長さよりも短く形成しても良い(図10参照)。また、図1(B)のように、カソード6は凹部7の縁から絶縁層3aの側面に沿って基板1上まで設けても良い。本発明では、カソード6はゲート5よりも低電位に規定される。ゲート5の電位がカソード6の電位よりも高くなるように電圧を印加することで、カソード6の突起部分から電子が電界放出される。
【0013】
図2は図1(B)における電子放出素子の凹部7周辺部分の拡大図である。図2に示すように、カソード6は距離dxをもって凹部7の内表面に入り込む形で形成されている。距離dxは10nm乃至30nm程度に設定され、20nmより長いことが望ましい。但し、距離dxをあまり長く取るとカソード6とゲート5との間に電流のリークパスが発生し、リーク電流が増大する。
【0014】
〔電源・電位〕
図3は本発明に係る電子放出素子の電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す図であり、本発明に係る電子線装置の構成の一例である。図3に示すように、本発明に係る電子線装置では、ゲート5を介してカソード6(カソード6の突起部分)と対向する位置に、これらよりも高電位に規定されたアノード20が配置されている。図3では絶縁部材3が基板1上に配置されているため、アノード20は基板1の絶縁部材3が配置されている側に、基板1に対向して配置されているとも言える。カソード6の突起部分から放出された電子の一部は、アノード20により真空中に取り出される。
【0015】
図3において、Vfはゲート5とカソード6の間に印加される電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaはカソード6とアノード20の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。ここで、電子放出効率ηは、電子放出素子に電圧を印加した時に検出される電流Ifと真空中に取り出される電流Ieを用いて、一般にはη=Ie/(If+Ie)で与えられる。
【0016】
図4(A)はカソード6の突起部分の先端からゲート5の底面までの最短距離d(以下、「最短距離d」という。)と素子電流Ifの関係の一例である。最短距離dが小さくなると電界強度が大きくなり、電子が放出されやすくなるため、図4(A)に示すように、最短距離dと素子電流Ifは負の相関をもつ。
【0017】
図4(B)は最短距離dと電子放出効率ηの関係の一例である。カソード6から対向するゲート5に向かって放出された電子は、一部がゲート5の先端部で等方的に散乱し、残りは衝突することなく外部に引き出される。最短距離dが狭い程、ゲート5の先端部で等方的に散乱した電子が外部に飛び出しにくくなり、反対に最短距離dが広い程、散乱した電子が外部に飛び出しやすくなるため、図4(B)に示すように、最短距離dと電子放出効率ηは正の相関をもつ。
【0018】
〔ゲートのタレ〕
図5(A)を用いて、ゲート5のタレについて説明する。ゲート5のタレとは、ゲート基材5aの底面とゲート基材5aの側面の交点9が、ゲート基材5aと絶縁層3bの界面の延長線よりもエミッタ側に変形してしまう現象のことである。尚、酸化膜がゲート基材5aと絶縁層3bの界面の延長線の内側に拡散している場合は補正を行えば良い。素子毎でゲート5のタレが一定でない場合、素子毎で電子放出に必要な電界が形成される間隙8(最短距離d)が一定でなくなる。その結果、素子毎で電子放出量や電子放出効率にばらつきが生じてしまう。
【0019】
図5(B)を用いてゲート5のタレが発生する原因について説明する。ゲート5のタレについて本発明者らが鋭意検討した結果、ゲート5のタレはゲート基材5aの表面に酸化膜ができることにより発生していることが分かった。図5(B)において酸化膜は膜厚方向には抗力がない。膜厚方向に抗力がないと酸化膜は膨張するが、図5(B)において酸化膜は面内方向に連続しているため、結果的に酸化膜は膨張せずに圧縮応力が発生する。酸化膜の持つ圧縮応力の大きさをゲート基材5aのアノード側と凹部7側とで比較すると、アノード側の方が酸化膜の面積が広いため、アノード側の方が面内方向にかかる圧縮応力が大きい。このため、ゲート5はアノード側の方がより面内方向に広がるため、図5(C)のように絶縁層3b側にゲート5が変形する。
【0020】
〔不動態膜の形成方法〕
次に、不動態膜とその形成方法について説明する。不動態膜とは、金属表面に腐食作用に抵抗する酸化皮膜が生じた状態のことである。不動態膜は緻密な膜であり、表面に形成されると金属は反応性を失い、腐蝕や酸化から保護される。不動態膜を形成しやすい金属は、例えばTi,Zr,Hf,Ta,Al,Cu,Ni,Cr等の金属又はこれらの合金材料である。不動態膜は酸素プラズマ照射、大気焼成等で形成される。形成される不動態膜は数nmから数十nm程度であり、金属種や処理条件によって異なる。
【0021】
〔時間と酸化膜厚の関係〕
図6(A)は時間と酸化膜厚の関係の一例である。図6(A)に示すように、金属を自然酸化させると酸素に触れている時間や温度等によって酸化度合いが変化し、酸化膜厚も変化する。これに対して酸素プラズマ照射や大気焼成を行うと短時間でゲート基材5aの表面が酸化され、不動態膜5bが形成される。不動態膜5b形成後は自然酸化が進まなくなり、膜厚が変化しない。
【0022】
〔酸化膜厚とゲートのタレの関係〕
図6(B)は酸化膜厚とゲート5のタレの関係の一例である。酸化膜の圧縮応力は酸化膜厚に比例するため、酸化膜厚が厚くなるとゲート5のタレも大きくなることがわかる。図6(A)で示したように、自然酸化の場合、酸化度合いによって酸化膜厚が変化するため、素子毎でゲート5のタレがばらついてしまう。一方、酸素プラズマ照射や大気焼成により一定の条件で金属表面に不動態膜を形成すると、酸化膜厚が処理条件に依存して一定となるためゲート5のタレが一定となる。
【0023】
また、酸化膜には圧縮応力が働くため膜密度が高くなる。一般的に膜密度とヤング率は正の相関をもつため、酸化膜のヤング率は大きくなる。このため、ゲート5は圧縮応力によりタレた後には、クーロン力等の外力に対して変形しにくくなる。
【0024】
〔楔形ゲート〕
上記では、ゲート5を図2に示すような矩形断面を有する形状としたが、ゲート5を本発明の他の実施形態である図7に示すような外表面ほど細くなる楔形断面を有する形状とした場合にも、酸化膜が形成されるとゲート5のタレが発生する。この場合、ゲート5のタレを一定にするためには、矩形断面を有する形状とした場合と同様に不動態膜を形成すれば良い。
【0025】
〔製造方法の概要〕
図8は本発明の電子放出素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。まず、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により、基板1上に絶縁層22、絶縁層23、導電層24をこの順に積層して形成する(図8(A))。
【0026】
基板1は素子を機械的に支えるための基板であり、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板等を使用できる。基板に必要な機能としては機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があるものが望ましい。ディスプレイパネルのような一体ものとして用いる場合は成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが望ましい。また、熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しづらい材料が望ましい。
【0027】
絶縁層22、絶縁層23は加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、例えばSiN(SixNy)やSiO2等を使用できる。絶縁層22の厚さは数nmから数十μmの範囲で設定し、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で選択する。絶縁層23の厚さは数nmから数百nmの範囲で設定し、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択する。尚、絶縁層22と絶縁層23を積層した後に凹部7を形成する必要があるため、絶縁層22と絶縁層23はエッチングに対して異なるエッチング量を持つような関係に設定するのが望ましい。さらに、絶縁層22と絶縁層23との間のエッチング量の比は、10以上が望ましく、できれば50以上とれることが望ましい。例えば、絶縁層22としてSixNyを用い、絶縁層23としてSiO2等の絶縁性材料或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等を用いた構成とすることができる。
【0028】
導電層24は導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料かつ不動態膜を形成可能な材料が望ましい。例えば、Ti,Zr,Hf,Ta,Al,Cu,Ni,Cr等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC等の炭化物、HfB2,ZrB2等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物等も使用できる。導電層24の厚さは数nmから数百nmの範囲で設定し、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択する。
【0029】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層24上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層24、絶縁層23、絶縁層22を順に加工し、ゲート基材5a、絶縁層3b、絶縁層3aを得る(図8(B))。このようなエッチング加工では、一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)を用いる。この際の加工ガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を形成する場合はCF4、CHF3、SF6のフッ素系ガスが選ばれ、加工する対象部材がSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl2、BCl3等の塩素系ガスが選ばれる。また、レジストとの選択比を取るため、エッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガス等を随時添加する。
【0030】
続いて、絶縁層3bをエッチングして、絶縁層3a、絶縁層3bからなる絶縁部材3に凹部7を形成する(図8(C))。エッチングは、例えば絶縁層3bがSiO2からなる材料であれば通称バッファードフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用い、絶縁層3bがSixNyからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液を用いることができる。凹部7の深さ(絶縁部材3の外表面(絶縁層3aの側面)から絶縁層3bの側面までの距離)は、電子放出素子作製後のリーク電流に深く関わり、凹部7を深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。このため、およそ30nm乃至200nm程度で形成される。
【0031】
次に、酸素プラズマ照射又は大気焼成により、ゲート基材5aの表面に不動態膜5bを形成する(図8(D))。不動態膜5bは自然酸化膜よりも十分厚く形成することが望ましい。本発明者らが検討した結果、例えばTaNの場合、自然酸化膜は数nmであり、5nm以上形成すればほとんど自然酸化が進まなくなることが分かった。不動態膜5bの形成方法は一定の条件で酸化できる方法であれば良く、酸素プラズマ照射、大気焼成に限らない。
【0032】
酸素プラズマ照射の場合、プラズマ発生装置によって行う。酸素プラズマ照射の条件はゲート基材5aの表面に不動態膜5bができる条件であれば良いが、一定の膜厚を作る観点から、不動態化させる条件は常に一定であることが望ましい。具体的な処理時間やパワー等の条件は装置に依存する。一例としては、照射時間は30秒、パワーはPs(ソース用高周波)=1.5kW、Pb(バイアス用高周波)=0.5kWとすれば良い。
【0033】
大気焼成の場合、焼成炉によって行う。大気焼成の条件はゲート基材5aの表面に不動態膜5bができる条件であれば良いが、一定の膜厚を作る観点から、不動態化させる条件は常に一定であることが望ましい。具体的には、焼成温度は350℃以上、焼成時間は30分以上とすれば良い。
【0034】
以上で挙げた具体的な数値は一例であり、装置によって時間や条件は変わるが、ゲート基材5aの表面に不動態膜5bが存在していることが確認できれば良い。不動態膜の確認方法としては、例えばTEM(透過型電子顕微鏡)によって断面を観察すれば良い。
【0035】
本実施形態では絶縁層3bをエッチングして絶縁部材3に凹部7を形成した後に不動態膜5bを形成しているが、凹部7形成前に不動態膜5bを形成しても本発明の効果が得られる。但し、凹部7形成前に不動態膜5bを形成すると、凹部7形成後のゲート基材5aの凹部7側には不動態膜5bが形成されていないため、ゲート基材5aの凹部7側が自然酸化することがある。ゲート基材5aの凹部7側が自然酸化すると、凹部7形成後に不動態膜5bを形成する場合よりも素子毎のゲート5のタレがばらつくことがある。このため、素子毎の電子放出特性のばらつき抑制の効果をより高める観点からすると、凹部7形成後に不動態膜5bを形成するのがより好ましい。
【0036】
続いて、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により、不動態膜5b上、絶縁部材3の外表面の一部及び凹部7の内表面に導電性膜を付着させる(図8(E))。不動態膜5b上に付着した導電性膜は導電性膜5cとなる。絶縁部材3の外表面の一部及び凹部7の内表面に付着した導電性膜はカソード6となる。カソード6となる導電性膜は、突起部分を有し、該突起部分の先端が絶縁部材3の凹部を介してゲート5に向き合うように付着させる。
【0037】
導電性膜は電界放出する材料であれば良く、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい或いは簡易に化学反応層を除去可能な材料が好ましい。例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN,TaN等の窒化物も使用できる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用できる。
【0038】
本発明の他の実施形態として、不動態膜5b上の導電性膜5cを取り除いても良い。導電性膜5cを取り除く場合は、図9(A)のように、導電性膜の成膜前に剥離層25を形成する。剥離層25は電解メッキにて剥離金属を付着させる等の方法により形成すれば良い。剥離層25形成後に導電性膜を付着させ、図9(B)のように、剥離層25と導電性膜5cを剥離した後にゲート基材5aを不動態化し、不動態膜5bを形成すれば良い。
【0039】
本発明においては効率良く電子を取り出すため、カソード6の突起部分が最適な形状になるように、蒸着の角度と成膜時間、形成時の温度及び形成時の真空度を制御して作製する必要がある。具体的には、凹部7の内表面となる絶縁層3a上面への導電性膜の入り込み量dxは10nm乃至30nm、より好ましくは20nm乃至30nmである。絶縁部材3の凹部7の内表面となる絶縁層3aの上面とカソード6の突起部分とのなす角度(図2のθ)は90°以上とするのが良い。
【0040】
次に、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により、カソード6と電気的な導通を取るための電極2を形成する(図8(F))。電極2はカソード6と同様に導電性を有しており、例えばBe,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物も使用できる。さらに、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用できる。電極2の厚さは数十nmから数mmの範囲で設定し、好ましくは数十nmから数μmの範囲で選択する。
【0041】
以下に本発明に係る電子放出素子を複数配して得られる電子源とアノードとを備えた電子線装置と、発光部材と、を有する画像表示装置について、図11を用いて説明する。図11は単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、一部を切り欠いた状態で示している。
【0042】
図11において、31は電子源基板、32はX方向配線、33はY方向配線である。電子源基板31は上述した電子放出素子の基板1に相当し、X方向配線32は上述した電極2を共通に接続する配線であり、Y方向配線33は上述したゲート5を共通に接続する配線である。34は本発明に係る電子放出素子である。m本のX方向配線32は、Dx1,Dx2,…Dxmからなる。n本のY方向配線33は、Dy1,Dy2,…Dynからなる。上記構成においては、単純なマトリクス配線を用い、個別の電子放出素子を選択して独立に駆動可能とすることができる。
【0043】
また、図11において、41は電子源基板31を固定したリアプレート、46はガラス基板43の内面に発光部材としての蛍光体である蛍光膜44とアノード20であるメタルバック45等が形成されたフェースプレートである。42は支持枠であり、支持枠42にリアプレート41、フェースプレート46がフリットガラス等を介して取り付けられ、外囲器47を構成している。
【0044】
表示パネルは、端子Dx1乃至Dxm、端子Dy1乃至Dyn、及び高圧端子を介して外部の電気回路と接続している。端子Dx1乃至Dxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ちm行n列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動するための走査信号が印加される。一方、端子Dy1乃至Dynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御するための変調信号が印加される。高圧端子には、直流電圧源から例えば10[kV]の直流電圧が供給されるが、これは電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与するための加速電圧である。走査信号の印加、変調信号の印加、及びアノードへの高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体に照射させ画像表示装置を実現する。
【0045】
上記画像表示装置を本発明に係る電子放出素子を用いて形成することにより、電子ビームの形状の整った画像表示装置を構成でき、その結果、良好な表示特性の画像表示装置を提供することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0047】
[実施例1]
図1に示した構成の電子放出素子を図8の工程に従って作製した。図10は本実施例で作製した電子放出素子の斜視図である。まず、スパッタ法により基板1上に絶縁層22、絶縁層23、導電層24をこの順に積層して形成した(図8(A))。基板1には高歪点ガラスであるPD200を用いた。絶縁層22にはSiN(SixNy)を用い、厚さは500nmとした。絶縁層23にはSiO2を用い、厚さは23nmとした。導電層24にはTaNを用い、厚さは30nmとした。
【0048】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層24上にレジストパターンを形成した後、RIEを用いて導電層24、絶縁層23、絶縁層22を順に加工し、ゲート基材5a、絶縁層3b、絶縁層3aを得た(図8(B))。この時の加工ガスとしては、絶縁層22、絶縁層23及び導電層24にはフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスを用いた。このガスを用いてRIEを行った結果、絶縁層3a、絶縁層3b及びゲート基材5aのエッチング後の角度は基板水平面に対しておよそ80°の角度で形成されていた。
【0049】
続いて、レジストを剥離した後、BHFを用いて絶縁層3bをエッチングし、絶縁層3a、絶縁層3bからなる絶縁部材3に凹部7を形成した(図8(C))。凹部7の深さは約150nmとした。
【0050】
次に、プラズマ発生装置(東京エレクトロン株式会社製 プラズマエッチングシステムSE−1310T)を用いて、ゲート基材5aの表面に酸素プラズマを照射し不動態膜5bを形成した(図8(D))。照射時間は30秒、パワーはPs(ソース用高周波)=1.5kW、Pb(バイアス用高周波)=0.5kWとした。
【0051】
続いて、EB蒸着法により絶縁部材3の外表面及び凹部7の内表面(絶縁層3aの上面)に導電性膜であるモリブデン(Mo)を付着させてカソード6を形成した(図8(E))。この際、不動態膜5b上にも導電性膜を付着させた。本実施例では凹部7内に40nm程度、導電性膜が入り込むように、基板の角度を基板水平面に対し60°にセットした。これによりゲート5上部にはMoが60°で入射し、絶縁部材3の一部である絶縁層3aのRIE加工後の外表面上には入射角度が40°で入射するようにセットした。蒸着は約12nm/minになるように蒸着速度を定めた。そして蒸着時間を精密に制御し(本実施例では2.5分)、絶縁部材3の外表面上のMoの厚さが30nm、凹部7内への導電性膜の入り込み量(dx)が40nmとなるように形成した。また、凹部7の内表面(絶縁層3aの上面)と電子放出部となるカソード6の突起部分とのなす角度(図2のθ)が120°となるようにした。
【0052】
次に、カソード6の幅T4(図10)が200μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。その後、RIEを用いてモリブデンからなるカソード6を加工した。この時の加工ガスとしては、導電層材料として用いたモリブデンがフッ化物を作るためCF4系のガスを用いた(図8(E))。これによって、絶縁部材3の凹部7の縁に沿って位置する突起部分を有する短冊状のカソード6を形成した。本実施例ではカソード6の幅は突起部分の幅と一致しており、T4(図10)は突起部分の幅とも言える。尚、突起部分の幅とは、突起部分の、絶縁部材3の凹部7の縁に沿った方向の長さを意味する。
【0053】
続いて、スパッタ法により基板1上及びカソード6上に電極2を形成した(図8(F))。電極2には銅(Cu)を用い、厚さは500nmとし、配線パターンに加工した。
【0054】
上記方法で作製した電子放出素子に対して、図3の構成で電子放出特性を測定し、断面TEMにより、ゲートの酸化膜厚、ゲートのタレ量、最短距離dを測定した。表1に本実施例における電子放出電流が平均的な素子、最大の素子及び最小の素子測定結果を示す。表1中の1は電子放出電流が最小の素子、2は電子放出電流が平均的な素子、3は電子放出電流が最大の素子である。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは13.0〜13.6μAであった。ゲートの酸化膜厚は5.2〜5.3nm、ゲートのタレは11.0〜12.0nm、最短距離dは9.4〜9.8nmであった。本実施例では電子放出特性が揃った均一な素子が得られた。これは素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったためと考えられる。
【0055】
また、酸素プラズマの照射時間を60秒、90秒として同様の評価を実施したところ、照射時間30秒との差は小さく、ほぼ同等の電子放出特性が得られ、ゲートの酸化膜厚も同等であった。これは酸素プラズマの照射により十分厚い不動態膜が形成され、素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったためと考えられる。
【0056】
[比較例]
比較例として、不動態膜を形成しない電子放出素子を作製した。本比較例では酸素プラズマを照射せず大気中に静置したこと以外は、実施例1と同様の方法で電子放出素子を作製した。電子放出素子作製後、実施例1と同様の方法で電子放出特性と断面形状を測定した。表1に本比較例における電子放出電流が平均的な素子、最大の素子及び最小の素子の測定結果を示す。表1中の1は電子放出電流が最小の素子、2は電子放出電流が平均的な素子、3は電子放出電流が最大の素子である。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは3.0〜13.3μAであった。ゲートの酸化膜厚は3.6〜5.1nm、ゲートのタレは6.0〜12.0nm、最短距離dは9.6〜13.8nmであった。本比較例では素子毎でゲートの酸化膜厚がばらついたため、素子毎でゲートのタレにもばらつきが生じた。その結果、素子毎で電子放出特性がばらついたと考えられる。
【0057】
[実施例2]
本実施例では大気焼成により不動態膜を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で電子放出素子を作製した。不動態膜を形成する際には、焼成炉により350℃で30分焼成した。電子放出素子作製後、実施例1と同様の方法で電子放出特性と断面形状を測定したところ、本実施例でも電子放出特性が揃った均一な素子が得られた。ばらつき範囲が実施例1と同等であったため、表1には本実施例における電子放出電流が平均的な素子の測定結果のみ示す。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは13.9μAであった。ゲートの酸化膜厚は6.0nm、ゲートのタレは12.0nm、最短距離dは9.2nmであった。本実施例でも実施例1と同様に素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったため、素子毎で電子放出特性が均一になったと考えられる。
【0058】
【表1】
【符号の説明】
【0059】
1:基板、2:電極、3:絶縁部材、5:ゲート、5a:ゲート基材、5b:不動態膜、5c:導電性膜、6:カソード、7:凹部、8:間隙、20:アノード
【技術分野】
【0001】
本発明は電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ等に用いられる電子放出素子として電界放出型の電子放出素子が知られており、特許文献1には、電界が集中する微細な突起部分を有するカソードと、この突起部分に対向するゲートを備えた電界放出型の電子放出素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−272298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、ゲート形成後の製造工程において、ゲートが自然酸化してゲートの表面に自然酸化膜が形成され、自然酸化膜の膜応力によりゲートがエミッタ方向にタレてしまうことがあった。素子毎でゲートの酸化度合いにばらつきがあると素子毎でゲートのタレがばらついてしまう。その結果、素子毎で電子放出特性にばらつきが生じるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、素子毎で電子放出特性のばらつきが少ない電子放出素子、電子放出素子を用いた電子線装置、及び電子線装置を用いた画像表示装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ゲートと、
上面に前記ゲートを有し、前記ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、
突起部分を有し、該突起部分の先端が前記凹部を介して前記ゲートに向き合っているカソードと、
を備える電子放出素子の製造方法であって、
金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、
前記ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲートの表面に不動態膜を形成し、一定の酸化膜厚とすることで、酸化に起因するゲートのタレを常に一定にすることができる。これにより、素子毎で電子放出特性のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る電子放出素子の構成を示す図である。
【図2】図1の電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図3】電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す図である。
【図4】カソード先端からゲート底面までの最短距離と電子放出特性の関係である。
【図5】ゲートのタレを説明する図である。
【図6】時間と酸化膜厚の関係、酸化膜厚とゲートのタレの関係である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図8】本発明に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る電子放出素子の凹部周辺部分の拡大図である。
【図10】実施例1の電子放出素子の斜視図である。
【図11】本発明に係る画像表示装置の表示パネルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示的に説明する。但し、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0010】
〔電子放出素子の概要〕
図1は本発明に係る電子放出素子の構成の一例を示す模式図であり、図1(A)は上面図、図1(B)は図1(A)におけるA−A’断面図、図1(C)は図1(B)において電子放出素子を矢印方向から眺めたときの側面図である。
【0011】
図1(B)において、1は基板、2は電極、3は絶縁部材であって絶縁層3aと絶縁層3bの積層体からなる。5はゲートであってゲート基材5a、ゲート基材5aを覆う不動態膜5b及び導電性膜5cからなる。6はカソードであって電極2に電気的に接続されている。7は絶縁部材3の凹部であって、絶縁層3bの側面のみを絶縁層3aよりも内側に凹ませて形成している。凹部7を構成する、絶縁層3aの上面の、絶縁層3bが形成されていない部分と、絶縁層3bの側面とを、以下「凹部7の内表面」ということもある。図1(B)では積層体からなる絶縁部材3に凹部7を設けているが、1つの絶縁層からなる絶縁部材3に凹部7を設けても良い。8は電子放出に必要な電界が形成される間隙(カソード6の突起部分の先端からゲート5の底面までの最短距離d)である。
【0012】
図1(B)に示すように、絶縁部材3は上面にゲート5を有し、ゲート直下の側面に凹部を有している。カソード6は突起部分を有し、該突起部分の先端が凹部7を介してゲート5に向き合っている。カソード6の突起部分の、凹部7の縁に沿った方向の長さは、ゲート5の、該突起部分に対向する部分の、該方向の長さよりも短く形成しても良い(図10参照)。また、図1(B)のように、カソード6は凹部7の縁から絶縁層3aの側面に沿って基板1上まで設けても良い。本発明では、カソード6はゲート5よりも低電位に規定される。ゲート5の電位がカソード6の電位よりも高くなるように電圧を印加することで、カソード6の突起部分から電子が電界放出される。
【0013】
図2は図1(B)における電子放出素子の凹部7周辺部分の拡大図である。図2に示すように、カソード6は距離dxをもって凹部7の内表面に入り込む形で形成されている。距離dxは10nm乃至30nm程度に設定され、20nmより長いことが望ましい。但し、距離dxをあまり長く取るとカソード6とゲート5との間に電流のリークパスが発生し、リーク電流が増大する。
【0014】
〔電源・電位〕
図3は本発明に係る電子放出素子の電子放出特性を測定する時の電源の供給配置を示す図であり、本発明に係る電子線装置の構成の一例である。図3に示すように、本発明に係る電子線装置では、ゲート5を介してカソード6(カソード6の突起部分)と対向する位置に、これらよりも高電位に規定されたアノード20が配置されている。図3では絶縁部材3が基板1上に配置されているため、アノード20は基板1の絶縁部材3が配置されている側に、基板1に対向して配置されているとも言える。カソード6の突起部分から放出された電子の一部は、アノード20により真空中に取り出される。
【0015】
図3において、Vfはゲート5とカソード6の間に印加される電圧、Ifはこの時流れる素子電流、Vaはカソード6とアノード20の間に印加される電圧、Ieは電子放出電流である。ここで、電子放出効率ηは、電子放出素子に電圧を印加した時に検出される電流Ifと真空中に取り出される電流Ieを用いて、一般にはη=Ie/(If+Ie)で与えられる。
【0016】
図4(A)はカソード6の突起部分の先端からゲート5の底面までの最短距離d(以下、「最短距離d」という。)と素子電流Ifの関係の一例である。最短距離dが小さくなると電界強度が大きくなり、電子が放出されやすくなるため、図4(A)に示すように、最短距離dと素子電流Ifは負の相関をもつ。
【0017】
図4(B)は最短距離dと電子放出効率ηの関係の一例である。カソード6から対向するゲート5に向かって放出された電子は、一部がゲート5の先端部で等方的に散乱し、残りは衝突することなく外部に引き出される。最短距離dが狭い程、ゲート5の先端部で等方的に散乱した電子が外部に飛び出しにくくなり、反対に最短距離dが広い程、散乱した電子が外部に飛び出しやすくなるため、図4(B)に示すように、最短距離dと電子放出効率ηは正の相関をもつ。
【0018】
〔ゲートのタレ〕
図5(A)を用いて、ゲート5のタレについて説明する。ゲート5のタレとは、ゲート基材5aの底面とゲート基材5aの側面の交点9が、ゲート基材5aと絶縁層3bの界面の延長線よりもエミッタ側に変形してしまう現象のことである。尚、酸化膜がゲート基材5aと絶縁層3bの界面の延長線の内側に拡散している場合は補正を行えば良い。素子毎でゲート5のタレが一定でない場合、素子毎で電子放出に必要な電界が形成される間隙8(最短距離d)が一定でなくなる。その結果、素子毎で電子放出量や電子放出効率にばらつきが生じてしまう。
【0019】
図5(B)を用いてゲート5のタレが発生する原因について説明する。ゲート5のタレについて本発明者らが鋭意検討した結果、ゲート5のタレはゲート基材5aの表面に酸化膜ができることにより発生していることが分かった。図5(B)において酸化膜は膜厚方向には抗力がない。膜厚方向に抗力がないと酸化膜は膨張するが、図5(B)において酸化膜は面内方向に連続しているため、結果的に酸化膜は膨張せずに圧縮応力が発生する。酸化膜の持つ圧縮応力の大きさをゲート基材5aのアノード側と凹部7側とで比較すると、アノード側の方が酸化膜の面積が広いため、アノード側の方が面内方向にかかる圧縮応力が大きい。このため、ゲート5はアノード側の方がより面内方向に広がるため、図5(C)のように絶縁層3b側にゲート5が変形する。
【0020】
〔不動態膜の形成方法〕
次に、不動態膜とその形成方法について説明する。不動態膜とは、金属表面に腐食作用に抵抗する酸化皮膜が生じた状態のことである。不動態膜は緻密な膜であり、表面に形成されると金属は反応性を失い、腐蝕や酸化から保護される。不動態膜を形成しやすい金属は、例えばTi,Zr,Hf,Ta,Al,Cu,Ni,Cr等の金属又はこれらの合金材料である。不動態膜は酸素プラズマ照射、大気焼成等で形成される。形成される不動態膜は数nmから数十nm程度であり、金属種や処理条件によって異なる。
【0021】
〔時間と酸化膜厚の関係〕
図6(A)は時間と酸化膜厚の関係の一例である。図6(A)に示すように、金属を自然酸化させると酸素に触れている時間や温度等によって酸化度合いが変化し、酸化膜厚も変化する。これに対して酸素プラズマ照射や大気焼成を行うと短時間でゲート基材5aの表面が酸化され、不動態膜5bが形成される。不動態膜5b形成後は自然酸化が進まなくなり、膜厚が変化しない。
【0022】
〔酸化膜厚とゲートのタレの関係〕
図6(B)は酸化膜厚とゲート5のタレの関係の一例である。酸化膜の圧縮応力は酸化膜厚に比例するため、酸化膜厚が厚くなるとゲート5のタレも大きくなることがわかる。図6(A)で示したように、自然酸化の場合、酸化度合いによって酸化膜厚が変化するため、素子毎でゲート5のタレがばらついてしまう。一方、酸素プラズマ照射や大気焼成により一定の条件で金属表面に不動態膜を形成すると、酸化膜厚が処理条件に依存して一定となるためゲート5のタレが一定となる。
【0023】
また、酸化膜には圧縮応力が働くため膜密度が高くなる。一般的に膜密度とヤング率は正の相関をもつため、酸化膜のヤング率は大きくなる。このため、ゲート5は圧縮応力によりタレた後には、クーロン力等の外力に対して変形しにくくなる。
【0024】
〔楔形ゲート〕
上記では、ゲート5を図2に示すような矩形断面を有する形状としたが、ゲート5を本発明の他の実施形態である図7に示すような外表面ほど細くなる楔形断面を有する形状とした場合にも、酸化膜が形成されるとゲート5のタレが発生する。この場合、ゲート5のタレを一定にするためには、矩形断面を有する形状とした場合と同様に不動態膜を形成すれば良い。
【0025】
〔製造方法の概要〕
図8は本発明の電子放出素子の製造方法の一例を示す模式断面図である。まず、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により、基板1上に絶縁層22、絶縁層23、導電層24をこの順に積層して形成する(図8(A))。
【0026】
基板1は素子を機械的に支えるための基板であり、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板等を使用できる。基板に必要な機能としては機械的強度が高いだけでなく、ドライエッチング、ウェットエッチング、現像液等のアルカリや酸に対して耐性があるものが望ましい。ディスプレイパネルのような一体ものとして用いる場合は成膜材料や他の積層部材と熱膨張差が小さいものが望ましい。また、熱処理に伴いガラス内部からのアルカリ元素等が拡散しづらい材料が望ましい。
【0027】
絶縁層22、絶縁層23は加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、例えばSiN(SixNy)やSiO2等を使用できる。絶縁層22の厚さは数nmから数十μmの範囲で設定し、好ましくは数十nmから数百nmの範囲で選択する。絶縁層23の厚さは数nmから数百nmの範囲で設定し、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択する。尚、絶縁層22と絶縁層23を積層した後に凹部7を形成する必要があるため、絶縁層22と絶縁層23はエッチングに対して異なるエッチング量を持つような関係に設定するのが望ましい。さらに、絶縁層22と絶縁層23との間のエッチング量の比は、10以上が望ましく、できれば50以上とれることが望ましい。例えば、絶縁層22としてSixNyを用い、絶縁層23としてSiO2等の絶縁性材料或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等を用いた構成とすることができる。
【0028】
導電層24は導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料かつ不動態膜を形成可能な材料が望ましい。例えば、Ti,Zr,Hf,Ta,Al,Cu,Ni,Cr等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC等の炭化物、HfB2,ZrB2等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物等も使用できる。導電層24の厚さは数nmから数百nmの範囲で設定し、好ましくは数nmから数十nmの範囲で選択する。
【0029】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層24上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層24、絶縁層23、絶縁層22を順に加工し、ゲート基材5a、絶縁層3b、絶縁層3aを得る(図8(B))。このようなエッチング加工では、一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)を用いる。この際の加工ガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を形成する場合はCF4、CHF3、SF6のフッ素系ガスが選ばれ、加工する対象部材がSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl2、BCl3等の塩素系ガスが選ばれる。また、レジストとの選択比を取るため、エッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガス等を随時添加する。
【0030】
続いて、絶縁層3bをエッチングして、絶縁層3a、絶縁層3bからなる絶縁部材3に凹部7を形成する(図8(C))。エッチングは、例えば絶縁層3bがSiO2からなる材料であれば通称バッファードフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用い、絶縁層3bがSixNyからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液を用いることができる。凹部7の深さ(絶縁部材3の外表面(絶縁層3aの側面)から絶縁層3bの側面までの距離)は、電子放出素子作製後のリーク電流に深く関わり、凹部7を深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。このため、およそ30nm乃至200nm程度で形成される。
【0031】
次に、酸素プラズマ照射又は大気焼成により、ゲート基材5aの表面に不動態膜5bを形成する(図8(D))。不動態膜5bは自然酸化膜よりも十分厚く形成することが望ましい。本発明者らが検討した結果、例えばTaNの場合、自然酸化膜は数nmであり、5nm以上形成すればほとんど自然酸化が進まなくなることが分かった。不動態膜5bの形成方法は一定の条件で酸化できる方法であれば良く、酸素プラズマ照射、大気焼成に限らない。
【0032】
酸素プラズマ照射の場合、プラズマ発生装置によって行う。酸素プラズマ照射の条件はゲート基材5aの表面に不動態膜5bができる条件であれば良いが、一定の膜厚を作る観点から、不動態化させる条件は常に一定であることが望ましい。具体的な処理時間やパワー等の条件は装置に依存する。一例としては、照射時間は30秒、パワーはPs(ソース用高周波)=1.5kW、Pb(バイアス用高周波)=0.5kWとすれば良い。
【0033】
大気焼成の場合、焼成炉によって行う。大気焼成の条件はゲート基材5aの表面に不動態膜5bができる条件であれば良いが、一定の膜厚を作る観点から、不動態化させる条件は常に一定であることが望ましい。具体的には、焼成温度は350℃以上、焼成時間は30分以上とすれば良い。
【0034】
以上で挙げた具体的な数値は一例であり、装置によって時間や条件は変わるが、ゲート基材5aの表面に不動態膜5bが存在していることが確認できれば良い。不動態膜の確認方法としては、例えばTEM(透過型電子顕微鏡)によって断面を観察すれば良い。
【0035】
本実施形態では絶縁層3bをエッチングして絶縁部材3に凹部7を形成した後に不動態膜5bを形成しているが、凹部7形成前に不動態膜5bを形成しても本発明の効果が得られる。但し、凹部7形成前に不動態膜5bを形成すると、凹部7形成後のゲート基材5aの凹部7側には不動態膜5bが形成されていないため、ゲート基材5aの凹部7側が自然酸化することがある。ゲート基材5aの凹部7側が自然酸化すると、凹部7形成後に不動態膜5bを形成する場合よりも素子毎のゲート5のタレがばらつくことがある。このため、素子毎の電子放出特性のばらつき抑制の効果をより高める観点からすると、凹部7形成後に不動態膜5bを形成するのがより好ましい。
【0036】
続いて、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術により、不動態膜5b上、絶縁部材3の外表面の一部及び凹部7の内表面に導電性膜を付着させる(図8(E))。不動態膜5b上に付着した導電性膜は導電性膜5cとなる。絶縁部材3の外表面の一部及び凹部7の内表面に付着した導電性膜はカソード6となる。カソード6となる導電性膜は、突起部分を有し、該突起部分の先端が絶縁部材3の凹部を介してゲート5に向き合うように付着させる。
【0037】
導電性膜は電界放出する材料であれば良く、一般的には2000℃以上の高融点、5eV以下の仕事関数材料であり、酸化物等の化学反応層の形成しづらい或いは簡易に化学反応層を除去可能な材料が好ましい。例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN,TaN等の窒化物も使用できる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用できる。
【0038】
本発明の他の実施形態として、不動態膜5b上の導電性膜5cを取り除いても良い。導電性膜5cを取り除く場合は、図9(A)のように、導電性膜の成膜前に剥離層25を形成する。剥離層25は電解メッキにて剥離金属を付着させる等の方法により形成すれば良い。剥離層25形成後に導電性膜を付着させ、図9(B)のように、剥離層25と導電性膜5cを剥離した後にゲート基材5aを不動態化し、不動態膜5bを形成すれば良い。
【0039】
本発明においては効率良く電子を取り出すため、カソード6の突起部分が最適な形状になるように、蒸着の角度と成膜時間、形成時の温度及び形成時の真空度を制御して作製する必要がある。具体的には、凹部7の内表面となる絶縁層3a上面への導電性膜の入り込み量dxは10nm乃至30nm、より好ましくは20nm乃至30nmである。絶縁部材3の凹部7の内表面となる絶縁層3aの上面とカソード6の突起部分とのなす角度(図2のθ)は90°以上とするのが良い。
【0040】
次に、CVD法、真空蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により、カソード6と電気的な導通を取るための電極2を形成する(図8(F))。電極2はカソード6と同様に導電性を有しており、例えばBe,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属又はこれらの合金材料を使用できる。また、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB2,ZrB2,CeB6,YB4,GdB4等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物も使用できる。さらに、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等も使用できる。電極2の厚さは数十nmから数mmの範囲で設定し、好ましくは数十nmから数μmの範囲で選択する。
【0041】
以下に本発明に係る電子放出素子を複数配して得られる電子源とアノードとを備えた電子線装置と、発光部材と、を有する画像表示装置について、図11を用いて説明する。図11は単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、一部を切り欠いた状態で示している。
【0042】
図11において、31は電子源基板、32はX方向配線、33はY方向配線である。電子源基板31は上述した電子放出素子の基板1に相当し、X方向配線32は上述した電極2を共通に接続する配線であり、Y方向配線33は上述したゲート5を共通に接続する配線である。34は本発明に係る電子放出素子である。m本のX方向配線32は、Dx1,Dx2,…Dxmからなる。n本のY方向配線33は、Dy1,Dy2,…Dynからなる。上記構成においては、単純なマトリクス配線を用い、個別の電子放出素子を選択して独立に駆動可能とすることができる。
【0043】
また、図11において、41は電子源基板31を固定したリアプレート、46はガラス基板43の内面に発光部材としての蛍光体である蛍光膜44とアノード20であるメタルバック45等が形成されたフェースプレートである。42は支持枠であり、支持枠42にリアプレート41、フェースプレート46がフリットガラス等を介して取り付けられ、外囲器47を構成している。
【0044】
表示パネルは、端子Dx1乃至Dxm、端子Dy1乃至Dyn、及び高圧端子を介して外部の電気回路と接続している。端子Dx1乃至Dxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ちm行n列の行列状にマトリクス配線された電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動するための走査信号が印加される。一方、端子Dy1乃至Dynには、走査信号により選択された一行の電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御するための変調信号が印加される。高圧端子には、直流電圧源から例えば10[kV]の直流電圧が供給されるが、これは電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与するための加速電圧である。走査信号の印加、変調信号の印加、及びアノードへの高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体に照射させ画像表示装置を実現する。
【0045】
上記画像表示装置を本発明に係る電子放出素子を用いて形成することにより、電子ビームの形状の整った画像表示装置を構成でき、その結果、良好な表示特性の画像表示装置を提供することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0047】
[実施例1]
図1に示した構成の電子放出素子を図8の工程に従って作製した。図10は本実施例で作製した電子放出素子の斜視図である。まず、スパッタ法により基板1上に絶縁層22、絶縁層23、導電層24をこの順に積層して形成した(図8(A))。基板1には高歪点ガラスであるPD200を用いた。絶縁層22にはSiN(SixNy)を用い、厚さは500nmとした。絶縁層23にはSiO2を用い、厚さは23nmとした。導電層24にはTaNを用い、厚さは30nmとした。
【0048】
次に、フォトリソグラフィー技術により導電層24上にレジストパターンを形成した後、RIEを用いて導電層24、絶縁層23、絶縁層22を順に加工し、ゲート基材5a、絶縁層3b、絶縁層3aを得た(図8(B))。この時の加工ガスとしては、絶縁層22、絶縁層23及び導電層24にはフッ化物を作る材料が選択されているためCF4系のガスを用いた。このガスを用いてRIEを行った結果、絶縁層3a、絶縁層3b及びゲート基材5aのエッチング後の角度は基板水平面に対しておよそ80°の角度で形成されていた。
【0049】
続いて、レジストを剥離した後、BHFを用いて絶縁層3bをエッチングし、絶縁層3a、絶縁層3bからなる絶縁部材3に凹部7を形成した(図8(C))。凹部7の深さは約150nmとした。
【0050】
次に、プラズマ発生装置(東京エレクトロン株式会社製 プラズマエッチングシステムSE−1310T)を用いて、ゲート基材5aの表面に酸素プラズマを照射し不動態膜5bを形成した(図8(D))。照射時間は30秒、パワーはPs(ソース用高周波)=1.5kW、Pb(バイアス用高周波)=0.5kWとした。
【0051】
続いて、EB蒸着法により絶縁部材3の外表面及び凹部7の内表面(絶縁層3aの上面)に導電性膜であるモリブデン(Mo)を付着させてカソード6を形成した(図8(E))。この際、不動態膜5b上にも導電性膜を付着させた。本実施例では凹部7内に40nm程度、導電性膜が入り込むように、基板の角度を基板水平面に対し60°にセットした。これによりゲート5上部にはMoが60°で入射し、絶縁部材3の一部である絶縁層3aのRIE加工後の外表面上には入射角度が40°で入射するようにセットした。蒸着は約12nm/minになるように蒸着速度を定めた。そして蒸着時間を精密に制御し(本実施例では2.5分)、絶縁部材3の外表面上のMoの厚さが30nm、凹部7内への導電性膜の入り込み量(dx)が40nmとなるように形成した。また、凹部7の内表面(絶縁層3aの上面)と電子放出部となるカソード6の突起部分とのなす角度(図2のθ)が120°となるようにした。
【0052】
次に、カソード6の幅T4(図10)が200μmになるようにフォトリソグラフィー技術によりレジストパターンを形成した。その後、RIEを用いてモリブデンからなるカソード6を加工した。この時の加工ガスとしては、導電層材料として用いたモリブデンがフッ化物を作るためCF4系のガスを用いた(図8(E))。これによって、絶縁部材3の凹部7の縁に沿って位置する突起部分を有する短冊状のカソード6を形成した。本実施例ではカソード6の幅は突起部分の幅と一致しており、T4(図10)は突起部分の幅とも言える。尚、突起部分の幅とは、突起部分の、絶縁部材3の凹部7の縁に沿った方向の長さを意味する。
【0053】
続いて、スパッタ法により基板1上及びカソード6上に電極2を形成した(図8(F))。電極2には銅(Cu)を用い、厚さは500nmとし、配線パターンに加工した。
【0054】
上記方法で作製した電子放出素子に対して、図3の構成で電子放出特性を測定し、断面TEMにより、ゲートの酸化膜厚、ゲートのタレ量、最短距離dを測定した。表1に本実施例における電子放出電流が平均的な素子、最大の素子及び最小の素子測定結果を示す。表1中の1は電子放出電流が最小の素子、2は電子放出電流が平均的な素子、3は電子放出電流が最大の素子である。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは13.0〜13.6μAであった。ゲートの酸化膜厚は5.2〜5.3nm、ゲートのタレは11.0〜12.0nm、最短距離dは9.4〜9.8nmであった。本実施例では電子放出特性が揃った均一な素子が得られた。これは素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったためと考えられる。
【0055】
また、酸素プラズマの照射時間を60秒、90秒として同様の評価を実施したところ、照射時間30秒との差は小さく、ほぼ同等の電子放出特性が得られ、ゲートの酸化膜厚も同等であった。これは酸素プラズマの照射により十分厚い不動態膜が形成され、素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったためと考えられる。
【0056】
[比較例]
比較例として、不動態膜を形成しない電子放出素子を作製した。本比較例では酸素プラズマを照射せず大気中に静置したこと以外は、実施例1と同様の方法で電子放出素子を作製した。電子放出素子作製後、実施例1と同様の方法で電子放出特性と断面形状を測定した。表1に本比較例における電子放出電流が平均的な素子、最大の素子及び最小の素子の測定結果を示す。表1中の1は電子放出電流が最小の素子、2は電子放出電流が平均的な素子、3は電子放出電流が最大の素子である。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは3.0〜13.3μAであった。ゲートの酸化膜厚は3.6〜5.1nm、ゲートのタレは6.0〜12.0nm、最短距離dは9.6〜13.8nmであった。本比較例では素子毎でゲートの酸化膜厚がばらついたため、素子毎でゲートのタレにもばらつきが生じた。その結果、素子毎で電子放出特性がばらついたと考えられる。
【0057】
[実施例2]
本実施例では大気焼成により不動態膜を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で電子放出素子を作製した。不動態膜を形成する際には、焼成炉により350℃で30分焼成した。電子放出素子作製後、実施例1と同様の方法で電子放出特性と断面形状を測定したところ、本実施例でも電子放出特性が揃った均一な素子が得られた。ばらつき範囲が実施例1と同等であったため、表1には本実施例における電子放出電流が平均的な素子の測定結果のみ示す。駆動電圧Vf=23V、アノード印加電圧Va=11.8kVで、電子放出電流Ieは13.9μAであった。ゲートの酸化膜厚は6.0nm、ゲートのタレは12.0nm、最短距離dは9.2nmであった。本実施例でも実施例1と同様に素子毎でゲートの酸化膜厚が揃ったため、素子毎で電子放出特性が均一になったと考えられる。
【0058】
【表1】
【符号の説明】
【0059】
1:基板、2:電極、3:絶縁部材、5:ゲート、5a:ゲート基材、5b:不動態膜、5c:導電性膜、6:カソード、7:凹部、8:間隙、20:アノード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲートと、
上面に前記ゲートを有し、前記ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、
突起部分を有し、該突起部分の先端が前記凹部を介して前記ゲートに向き合っているカソードと、
を備える電子放出素子の製造方法であって、
金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、
前記ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
酸素プラズマ照射により前記不動態膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
大気焼成により前記不動態膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記不動態膜の厚さが5nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
電子放出素子と、アノードと、を有する電子線装置の製造方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法で製造した電子放出素子のカソードとアノードとを、前記ゲートを介して対向させて配置することを特徴とする電子線装置の製造方法。
【請求項6】
電子線装置と、蛍光体と、を有する画像表示装置の製造方法であって、
請求項5に記載の製造方法で製造した電子線装置のアノードと蛍光体とを積層して配置することを特徴とする画像表示装置の製造方法。
【請求項1】
ゲートと、
上面に前記ゲートを有し、前記ゲート直下の側面に凹部を有する絶縁部材と、
突起部分を有し、該突起部分の先端が前記凹部を介して前記ゲートに向き合っているカソードと、
を備える電子放出素子の製造方法であって、
金属を含み不動態を形成可能な部材からなるゲート、を上面に有する絶縁部材を形成した後、
前記ゲートの表面に不動態膜を形成することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
酸素プラズマ照射により前記不動態膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
大気焼成により前記不動態膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記不動態膜の厚さが5nm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
電子放出素子と、アノードと、を有する電子線装置の製造方法であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法で製造した電子放出素子のカソードとアノードとを、前記ゲートを介して対向させて配置することを特徴とする電子線装置の製造方法。
【請求項6】
電子線装置と、蛍光体と、を有する画像表示装置の製造方法であって、
請求項5に記載の製造方法で製造した電子線装置のアノードと蛍光体とを積層して配置することを特徴とする画像表示装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−150937(P2012−150937A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7554(P2011−7554)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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