電子放出素子とその製造方法、及び画像表示装置
【課題】カーボンを主体とする電子放出部形成膜に均一に且つ低電力で間隙を形成することで、優れた電子放出特性を有する電子放出素子を提供する。
【解決手段】基板1上に、一対の電極3a,3bと、該電極間に挟持された電子放出部形成膜4とを有する電極部2を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜4に間隙5を形成した電子放出素子であって、該電子放出部形成膜4が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下である。
【解決手段】基板1上に、一対の電極3a,3bと、該電極間に挟持された電子放出部形成膜4とを有する電極部2を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜4に間隙5を形成した電子放出素子であって、該電子放出部形成膜4が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる表面伝導型の電子放出素子と、その製造方法に関し、さらには、該電子放出素子を用いてなる画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面伝導型電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより、電子放出が生ずる現象を利用するものである。典型的な構成としては、基板上に一対の電極と、該電極間を連絡する電子放出部形成膜とを形成し、通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって、該電子放出部形成膜に間隙を形成したものである。当該構成で一対の電極間に電圧を印加すると、該間隙から電子が放出される。
【0003】
上記電子放出部形成膜の製造方法としては、従来よりスパッタ法や蒸着法、有機金属含有溶液をスピンナー塗布してパターニングし、熱分解する方法、インクジェット法によって、基板上に有機金属含有溶液の液滴を付与し、加熱する方法などが提案されている。
【0004】
中でもスパッタ法は、液晶表示装置やプラズマディスプレイなどの大画面ディスプレイへの実用化が進んでおり、大面積化技術として成熟してきており、均一な膜を安定に得ることが容易になってきている。
【0005】
また、電子放出部形成膜としては、Au薄膜やIn2O3/SnO2薄膜、カーボン薄膜やPd膜が挙げられ、特許文献1には金属または金属化合物とカーボンとの混合膜が挙げられている。特にカーボンを主体とする膜は、その耐熱性の高さから、駆動安定性等の優れた電子放出特性が得られることが期待される。
【0006】
【特許文献1】特開2006−491171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボンを主体とする電子放出部形成膜は、優れた電子放出特性が期待されているものの、これまで実用化することができなかった。その理由は、その優れた耐熱性にある。上述の如く、表面伝導型電子放出素子においては、電子放出を行う前に電子放出部形成膜に予め通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって電子放出部となる間隙を形成するのが一般的である。通電フォーミングは、薄膜に通電することで、薄膜内に高い電流密度が発生し、そのジュール熱により薄膜内に間隙が形成される現象である。
【0008】
しかしながら、カーボン薄膜はその耐熱性の高さゆえ、通電しても薄膜内に間隙が形成されにくく、間隙を形成できても多くの電力を要したり、多くの電力を使用することから、膜がめくれあがったり間隙の幅が不均一になるなどの問題を生じることがあった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決し、カーボンを主体とする電子放出部形成膜に均一に且つ低電力で間隙を形成することで、優れた電子放出特性を有する電子放出素子を均一に且つ低い製造コストで提供することを目的とする。さらには、該電子放出素子を用いて画像品質に優れた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成した電子放出素子であって、該電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の電子放出素子においては、以下の構成を好ましい態様として含む。
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下である。
【0012】
本発明の第2は、基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成する電子放出素子の製造方法であって、
上記電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とするである。
【0013】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、以下の構成を好ましい態様として含む。
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下である。
前記電子放出部形成膜がスパッタ法により成膜され、スパッタ時のチャンバー内の圧力が1.0Pa以上である。
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の半値幅の通電処理前後の変化率が80%乃至120%となるように上記通電処理を施す。
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の通電処理後の半値幅が通電処理前の80%未満となるように通電処理を施す。
【0014】
本発明の第3は、上記本発明の電子放出素子を複数個と、該電子放出素子に電圧を印加するための複数の配線とを備えた電子源と、該電子源の電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた対向基板とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性の高いカーボンを主体とする膜でありながら、電子放出部形成膜に低電力で間隙を形成することができ、電気特性のばらつきが少なく、優れた電子放出特性を有する電子放出素子を低コストで提供することができる。よって、該電子放出素子を用いて、高画質表示の画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
カーボンを主体とする電子放出部形成膜はその耐熱性の高さゆえ、通電フォーミングにより間隙を形成しにくいことは上述した。これを改善する手段としてカーボンを主体とする電子放出部形成膜を低いバルク密度比で形成しておき、その構造力学的な強度を低下させておくことで通電フォーミングにより間隙を形成させやすくする手法が考えられる。
【0017】
ここでバルク密度比とは、薄膜の密度測定値を、同じ組成を有するバルク体の密度で除した値を言う。
【0018】
しかしながら、この方法では間隙形成後の電子放出部形成膜の耐熱性も低下してしまい、得られる電子放出特性も十分なものではない。
【0019】
本発明者等は、むしろカーボンを主体とする電子放出部形成膜を0.7乃至1.0という高いバルク密度比で形成し、さらに、これに金属を1乃至20atom%の組成比で含有させ、且つ該金属を直径1乃至5nmの微粒子形態で含有させた。これにより、係る電子放出部形成膜に低電力で良好な間隙を形成し、駆動安定性等の優れた電子放出特性を有する電子放出素子を均一に且つ低い製造コストで得ることができることを見出した。
【0020】
また、電子放出部形成膜の製造方法としては、上述したように有機金属含有溶液をスピンナー或いはインクジェット法によって基板上に付与し、加熱する方法、蒸着法などを用いる。しかしながら、本発明においては、スパッタ法により電子放出部形成膜を製造することが好ましい。
【0021】
スパッタ法は一般に成膜する基板にある一定の方向からスパッタされた原子及び/または粒子を堆積させる成膜方法である。即ち、一定の方法から原子及び/または粒子を堆積させることにより、形成された膜に基板に平行方向と垂直方向で異なる連続性を持たせることが可能である。特にスパッタ時のチャンバー内の圧力を1.0Pa以上の高圧力領域とすることで、得られる膜は基板に平行方向よりも垂直方向に連続性の高い柱状構造を形成することが可能である。
【0022】
この柱状構造は、膜全体としては高いバルク密度であっても、基板に平行な方向では原子配列の連続性が低いため、比較的低電力で間隙を形成することが可能である。従って、本発明においては、電子放出部形成膜をスパッタ法で形成することが好ましく、さらにはスパッタ時のチャンバー内の圧力を1.0Pa以上の圧力とすることが好ましい。
【0023】
本発明においては、電子放出部形成膜の膜厚は5nm以上50nm以下とすることが好ましいが、これは電子放出部形成膜が5nm未満の膜厚であるとその抵抗値がバラツキやすくなり、得られる電子放出素子の特性もバラツキやすくなるためである。一方、膜厚が50nm以上となると基板に平行方向の膜の力学的強度が高くなるためか通電フォーミング時に間隙を形成しにくくなったり、抵抗値が下がりすぎて通電フォーミング時に間隙を形成するのに多大な電力を要したりしてしまう。
【0024】
本発明においては、電子放出部形成膜に間隙を形成するために、該電子放出部に通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施す。本発明においては、該通電処理前後における可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの半値幅の少なくとも一方の変化率が80%乃至120%となるように間隙を形成することも好ましい態様の一つである。
【0025】
これは該通電処理の過程において、カーボンのSP2結合性及び/またはSP3結合性を比較的変化させないままに間隙を形成させることに相当する。通電処理の過程においては、素子はジュール熱にさらされるため、カーボンの結合性が変わる場合は結晶性が高くなり、低抵抗化する。結晶性が高くなってしまうとカーボンの力学的強度も高くなり間隙を形成しにくくなってしまう。また電子放出部形成膜が低抵抗化してしまうと、通電処理時の電流も増大し結果として多大な電力を消費することになってしまう。そのため、環境負荷低減及び製造コストの点から、通電処理前後における上記半値幅の変化率が80%乃至120%となるように間隙を形成することが好ましい態様の一つである。
【0026】
また、本発明においては、電子放出部形成膜の通電処理後に通電処理前と比べて、上記半値幅の変化率が80%未満となるように間隙を形成することも好ましい態様の一つである。
【0027】
これは通電処理の過程において、カーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっていることに相当する。結晶性の高いカーボンを主体とする電子放出部形成膜は、その耐熱性もより高くなり電子放出の経時安定性が向上する。それと同時に、Gバンドに由来するSP2結合に関連する結晶性が高くなった場合は、原子核に束縛されにくいπ電子が増大し、電子放出量も増大することが予想される。
【0028】
従って、電子放出の経時安定性及び電子放出量の増大といった観点から、通電処理後に通電処理前と比べて上記半値幅の変化率が80%未満となるように間隙を形成することも本発明の好ましい態様の一つである。
【0029】
本発明において、電子放出部形成膜に含有される金属には、以下の作用が求められる。
(1)カーボンマトリックス中で直径1乃至5nmの微粒子形態を形成して通電フォーミング時の間隙形成をアシストすること。
(2)その含有率の増減で電子放出部形成膜の抵抗を調整することが可能なこと。
(3)スパッタ時に粗大粒子などの異物を形成しにくいこと。
(4)通電処理時にカーボンの結合性を調整できること。
【0030】
本発明者等が、鋭意検討した結果、電子放出部形成膜に含有される金属としては、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選択される一種または二種以上を用いることが好ましいことがわかった。より好ましくは、NiまたはCoまたはPd、またはこれらを併用することである。
【0031】
本発明では、通電フォーミングを行う前の電子放出部形成膜が、1乃至20atom%の金属及びカーボンからなり、金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜で、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であればよい。また、抵抗調整、結晶性の制御、吸着物の除去等の理由で、成膜後真空環境下で焼成してから通電フォーミングを実施してもよい。焼成する際の温度は、基板が変形しない等の制約条件内であれば何度でも良いが、550℃以下とするのが好ましい。焼成時の温度が高すぎる場合、焼成時にカーボンが改質してしまい、スパッタ等で形成した構造異方性が低下してしまったり、カーボンの力学的強度が増大しすぎてしまったりして通電フォーミング時に間隙を均一に形成することが困難になってしまう場合がある。
【0032】
以下に図面を参照して、本発明の電子放出素子の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0033】
図1は、本発明の電子放出素子の好ましい実施形態を模式的に示したものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’断面図である。図中、1は基板、2は電極部、3aと3bは電極、4は電子放出部形成膜、5は電子放出部形成膜に形成された間隙である。
【0034】
本発明の電子放出素子は、基板1上に一対の電極3a,3bと、該電極3aと3bとに挟持された電子放出部形成膜4を有し、該電子放出部形成膜4には、電子放出部である間隙5が形成されている。
【0035】
基板1としては、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、SiO2を表面に形成したガラス基板及びアルミナ等のセラミックス基板等が挙げられる。必要な場合には上記基板を十分にクリーニングした後、シランカップリング剤を用いて基板表面を疎水化処理する。
【0036】
電極3a,3bの材料としては、Pd、Pt、Ru、Ag、Au、Ti、In、Cu、Cr、Fe、Zn、Sn、Ta、W、Pb等の金属、PdO、SnO2、In2O3、PbO、Sb2O3等の酸化物が挙げられる。また、HfB2、ZrB2、LaB6、CeB6、YB4、GdB4等の硼化物、TiC、ZrC、HfC、TaC、SiC、WC等の炭化物、TiN、ZrN、HfN等の窒化物、Si、Ge等の半導体、カーボン等が挙げられる。
【0037】
電極対3a,3bの間隔Lは、数百Å乃至数百μmである。また、電極対間に印加する電圧は低い方が望ましく、再現良く作製することが要求されるため、好ましい間隔Lは数百Å乃至数μmである。
【0038】
電子放出部形成膜4については、上記したようにNi、Co、Pd、Pt、Ir、Rhが好ましく用いられる。また、その形成においては、RFスパッタ法、DCスパッタ法、蒸着法以外に塗布方法、例えば回転塗布方法、ディップ方法、インクジェット法などのいずれの方法でも可能であるが、本発明においては、スパッタ法特にRFスパッタ法を用いることが好ましい。
【0039】
また、有機化合物を含む溶液を塗布する方法などを用いた場合は、有機化合物膜を無機カーボンに変化させる必要がある。これに用いる手段に特に制限は無いが、真空環境下で加熱する手法が好ましい。加熱温度は250℃以上550℃以下、好ましくは350℃以上550℃以下とするのが好ましい。
【0040】
次に、以上のようにして作製した電子放出部形成膜4に電子放出部となる間隙を形成する通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施す。
【0041】
通電フォーミングは、所定の真空度のもとで電極部2の電極3a,3b間に不図示の電源より通電することにより、電子放出部形成膜4に、構造の変化した間隙(亀裂)5を形成する処理である。
【0042】
通電フォーミングにおいて電極3a,3b間に印加する電圧波形の例を図2に示す。電圧波形は、特にパルス波形が好ましい。これにはパルス波高値を定電圧としたパルスを連続的に印加する図2(a)に示した手法と、パルス波高値を増加させながらパルスを印加する図2(b)に示した手法がある。
【0043】
先ず、パルス波高値を定電圧とした場合について図2(a)で説明する。図2(a)におけるT1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔である。通常、T1は1μ秒乃至10m秒、T2は10μ秒乃至100m秒の範囲で設定される。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、電子放出素子の形態に応じて適宜選択される。このような条件のもと、例えば、数秒から数十分間電圧を印加する。パルス波形は、三角波に限定されるものではなく、矩形波等の所望の波形を採用することができる。
【0044】
次に、パルス波高値を増加させながら電圧パルスを印加する場合について図2(b)で説明する。図2(b)におけるT1及びT2は、図2(a)に示したのと同様とすることができる。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させることができる。
【0045】
通電フォーミング処理の終了は、パルス電圧印加中の素子に流れる電流を測定して抵抗値を求めて、例えば1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させることができる。
【0046】
先に述べたように、この通電フォーミングにより形成した間隙5からの電子放出は、現状の条件ではまだ電子放出効率が非常に低いものである。よって、後述するように活性化と呼ばれる通電処理を施すのが好ましい。
【0047】
この活性化処理は、炭素含有ガスを含む雰囲気下、適当な真空度のもとで、パルス電圧を電極3a,3b間に繰り返し印加することによって炭素含有ガスに由来する炭素或いは炭素化合物を、前記間隙5近傍にカーボン膜として堆積させる処理である。
【0048】
本工程において例えばカーボン源としてトルニトリルを用い、スローリークバルブを通して真空空間内に導入し、1.3×10-4Pa程度を維持する。導入するトルニトリルの圧力は、真空装置の形状や真空装置に使用している部材等によって若干影響されるが、1×10-5Pa乃至1×10-2Pa程度が好適である。
【0049】
図3に、活性化処理で用いられる電圧印加の好ましい一例を示した。印加する最大電圧値は、10乃至20Vの範囲で適宜選択される。
【0050】
図3(a)において、T1は電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。また、図3(b)において、T1及びT1’はそれぞれ電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、T1>T1’、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。
【0051】
本処理においては、放出電流Ieがほぼ飽和に達した時点で通電を停止し、スローリークバルブを閉め、活性化処理を終了する。
【0052】
上記した工程を経て得られた電子放出素子に対して、好ましくは、安定化工程を行う。
【0053】
この工程は、高い真空度(活性化処理を施した場合は該活性化処理における真空度より高い真空度)の雰囲気下で、電子放出素子や、その周辺の基板1の表面などから不要な有機物質を除去する工程である。上記真空度としては、有機物質の分圧が、10-6Pa以下であることが好ましく、さらには10-8Pa以下であることが特に好ましい。また、全圧としては、極力低くすることが好ましく、実用的には、10-5Pa以下であることが好ましく、さらには10-6Pa以下であることが特に好ましい。
【0054】
以上の工程により図1に示したような電子放出素子を作製することができる。
【0055】
上述のような素子構成と製造方法によって作製された電子放出素子の基本特性について図4、図5を用いて説明する。
【0056】
図4は、前述した構成を有する電子放出素子の電子放出特性を測定するための測定評価装置の概略図である。図4において、11は素子に素子電圧Vfを印加するための電源、10は素子の電極部を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、14は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極である。また、13はアノード電極14に電圧を印加するための高圧電源、12は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。
【0057】
電子放出素子の電極3a,3b間を流れる素子電流If、及びアノードへの放出電流Ieの測定にあたっては、電極3a,3bに電源11と電流計10とを接続し、該電子放出素子の上方に電源13と電流計12とを接続したアノード電極14を配置している。
【0058】
また、本電子放出素子及びアノード電極14は真空装置15内に設置され、その真空装置には排気ポンプ16及び真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で本素子の測定評価を行えるようになっている。尚、アノード電極14の電圧は1kV乃至10kV、アノード電極14と電子放出素子との距離Hは2mm乃至8mmの範囲で測定した。
【0059】
図4に示した測定評価装置により測定された放出電流Ie及び素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の典型的な例を図5に示す。尚、放出電流Ieと素子電流Ifは大きさが著しく異なるが、図5ではIf、Ieの変化の定性的な比較検討のために、リニアスケールで縦軸を任意単位で表記した。
【0060】
本発明の電子放出素子は放出電流Ieに対する三つの特徴を有する。
【0061】
まず第一に、図5からも明らかなように、本素子はある電圧(しきい値電圧と呼ぶ、図5中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。即ち、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子としての特性を示しているのが判る。
【0062】
第二に、放出電流Ieが素子電圧Vfに依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
【0063】
第三に、アノード電極14に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。即ち、アノード電極14に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0064】
次に、本発明に係る電子源及び画像表示装置について説明する。
【0065】
図6は、本発明の電子放出素子を複数個基板上に配置してなる電子源の一実施形態を示す模式図であり、図中21は基板、22はX方向配線(上配線)、23はY方向配線(下配線)、24は電子放出素子である。
【0066】
本例の電子源は、基板21上に、複数個の電子放出素子24をマトリクス状に配線接続してなり、各電子放出素子の構成は図1と同様である。
【0067】
係る電子源の製造においては、電極部2を形成する際、配線の少なくとも一部を同時に形成することもできる。例えば後述する図15に示すような構成の電子源の場合には、各素子の電極3bとY方向配線23とを同時に形成することができる。
【0068】
上記のような単純マトリクス配置の電子源を用いた画像表示装置の一例について、図7を用いて説明する。図7は、本発明の画像表示装置の一例の表示パネルの構成を模式的に示す斜視図であり、一部を切り欠いた状態を示す。
【0069】
図7において、31は電子源基板21を搭載した基板、32はガラス基板33の内面に電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材としての蛍光膜34とメタルバック35等が形成されたフェースプレート(対向基板)である。また、36は支持枠である。基板31、支持枠36及びフェースプレート32をフリットガラスによって接着し、400乃至500℃で、10分以上焼成することで、封着して、外囲器37を構成する。
【0070】
尚、フェースプレート32と電子源基板21との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大面積パネルの場合にも大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器37を構成することもできる。
【0071】
図8はフェースプレート32上に設ける蛍光膜34の説明図である。蛍光膜34は、モノクロームの場合は蛍光体42のみから成るが、カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体42の配列によりブラックストライプ或いはブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電体41と蛍光体42とで構成される。ブラックストライプ、ブラックマトリクスが設けられる目的は、カラー表示の場合必要となる三原色蛍光体の、各蛍光体42間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることとにある。また、蛍光膜44における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。
【0072】
また、蛍光膜34の内面側には通常メタルバック35が設けられる。メタルバック35の目的は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート32側へ鏡面反射することにより輝度を向上することである。また、電子ビーム加速電圧を印加するためのアノード電極として作用すること等である。メタルバック35は、蛍光膜34作製後、蛍光膜34の内面側表面の平滑化処理(通常フィルミングと呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
【0073】
前述の封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体と電子放出素子とを対応させなくてはいけないため、上下基板の突き当て法などで十分な位置合わせを行う必要がある。
【0074】
封着時の真空度は10-5Pa程度の真空度が要求される他、外囲器37の封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行う場合もある。これは、外囲器37の封止を行う直前或いは封止後に、抵抗加熱或いは高周波加熱等の加熱法により、外囲器内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、真空度を維持するものである。
【0075】
前述した本発明の電子放出素子の基本的特性によれば、電子放出部からの放出電子は、しきい値電圧以上では対向する電極間に印加するパルス状電圧の波高値と幅によって制御され、その中間値によっても電流量が制御され、もって中間調表示が可能になる。
【0076】
また多数の電子放出素子を配置した場合、各ラインの走査線信号によって選択ラインを決め、各情報信号ラインを通じて個々の素子に上記パルス状電圧を適宜印加すれば、任意の素子に適宜電圧を印加する事が可能となり、各素子をONすることができる。
【0077】
また中間調を有する入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式が挙げられる。
【0078】
以下に具体的な駆動装置について説明する。
【0079】
単純マトリクス配置の電子源基板を用いて構成した表示パネルを利用した、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示用の画像表示装置の構成例を、図9に示す。
【0080】
図9において、51は図7に示したような画像表示パネル、52は走査回路、53は制御回路、54はシフトレジスタ、55はラインメモリ、56は同期信号分離回路、57は情報信号発生器、Vaは直流電圧源である。
【0081】
電子源基板21を用いた画像表示パネル51のX方向配線には、走査線信号を印加するXドライバーの走査回路52が、Y方向配線には情報信号が印加されるYドライバーの情報信号発生器57が接続されている。
【0082】
電圧変調方式を実施するには、情報信号発生器57として、一定の長さの電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜パルスの波高値を変調するような回路を用いる。また、パルス幅変調方式を実施するには、情報信号発生器57としては、一定の波高値の電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜電圧パルスの幅を変調するような回路を用いる。
【0083】
制御回路53は、同期信号分離回路56より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscan,Tsft及びTmryの各制御信号を発生する。
【0084】
同期信号分離回路56は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離するための回路である。この輝度信号成分は、同期信号に同期してシフトレジスタ54に入力される。
【0085】
シフトレジスタ54は、時系列的にシリアルに入力される前記輝度信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換して、制御回路53より送られるシフトクロックTsftに基づいて動作する。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分のデータ(電子放出素子n素子分の駆動データに相当)は、n個の並列信号として前記シフトレジスタ54より出力される。
【0086】
ラインメモリ55は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、記憶された内容は、情報信号発生器57に入力される。
【0087】
情報信号発生器57は、各々の輝度信号に応じて、電子放出素子の各々を適切に駆動する為の信号源であり、その出力信号はY方向配線を通じて表示パネル51内に入り、走査回路52によって選択中のX方向配線との交点にある各々の電子放出素子に印加される。
【0088】
X方向配線を順次走査する事によって、パネル全面の電子放出素子を駆動する事が可能になる。
【0089】
以上のように本発明による画像表示装置において、各電子放出素子にXY方向配線を通じ、電圧を印加することにより電子放出させる。一方、直流電圧源Vaに接続された高圧端子Hvを通じ、アノード電極であるメタルバック35に高圧を印加し、発生した電子ビームを加速し、蛍光膜34に衝突させることによって、画像を表示することができる。
【0090】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明の画像表示装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号についてはNTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、HDTVなどでも同じである。
【実施例】
【0091】
(比較例1)
図1に示す基本構成の電子放出素子を作製した。
【0092】
基板1として、アルカリ成分が少ないPD−200(商品名、旭硝子(株)社製)の2.8mm厚ガラスを用い、更にこの上にナトリウムブロック層としてSiO2膜100nmを塗付焼成したものを用いた。
【0093】
ガラス基板1上に、スパッタ法によってチタニウムTiを5nm、その上に白金Ptを40nmを成膜した後、ホトレジストを塗布し、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングし、電極3a,3bを形成した。
【0094】
本例では素子電極の間隔L=10μm、幅W=1000μmとした。
【0095】
上記基板上に感光性樹脂(メタクリル酸−メチルメタクリル酸−エチルアクリレート−n−ブチルアクロレート−アゾビスイソブチロニトリル重合体)をスピンコーターで全面に塗布し、ホットプレートにて100℃で10分間乾燥した。
【0096】
次いで、フォトマスクを用いて電子放出部形成膜領域を覆い、該領域以外を、超高圧水銀ランプ(照度=8mW/cm2)にて、キヤノン社製PLA501FでL.I=8.0で露光し、純水を用いてパドル法で60秒間現像を行って樹脂パターンを得た。
【0097】
樹脂パターンを形成した基板をデポアップ型のRFマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に投入し、ロータリーポンプ、次いでクライオポンプにて圧力が5×10-5Pa以下になるまで排気した。スパッタリングターゲットには、直径8インチのアモルファスカーボンターゲットを使用し、このターゲット上にパラジウム製のチップを設置することで成膜される膜の組成比を調整した。
【0098】
所定の圧力に到達後、チャンバー内に圧力が1.4Paになるようにアルゴンガスを流入させ、300WのRF出力で80分間スパッタリングした。
【0099】
次いでRFマグネトロンスパッタ装置から基板を取り出し、テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液(濃度2.38質量%)を用いて、パドル法にて5分間処理してレジストを剥離し、電子放出部形成膜4のパターンを得た。
【0100】
本例では電子放出部形成膜4の幅W’=100μmとした。
【0101】
こうしてできた基板を、真空チャンバー内に保持し、電極3a,3bをプローブと接続し、チャンバー外部より通電処理が可能な状態にした。次いで、チャンバー内部をターボ分子ポンプ及びスクロールポンプによって排気し、チャンバー内部の圧力が1×10-6Pa以下に達するまで排気を行った後、電極3a,3b間に図2(b)の三角波を矩形波に変更したパルス電圧を印加した。T1=0.1ms、T2=50msとした。電圧は1Vから始め、5秒ごとに0.1Vずつ増加させ、50Vまで印加した後、電圧印加を終了した。以上の工程で電子放出素子を得た。
【0102】
(実施例1)
比較例1におけるRF出力を2400Wに、スパッタリング時間を2分30秒にそれぞれ変更し、パラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0103】
(実施例2)
実施例1におけるパラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0104】
(実施例3)
実施例1におけるパラジウム製チップを異なる大きさのニッケル製チップに変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0105】
(実施例4)
実施例1におけるスパッタリング時間を55秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0106】
(比較例2)
実施例1におけるパラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0107】
上記比較例1,2,実施例1乃至4の電子放出素子の電子放出部形成膜をX線光電子分光分析装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy=XPS)で分析し、膜の組成比をモル比として得、密度はX線反射率法により測定した。
【0108】
パラジウム、ニッケル、アモルファスカーボンのバルク密度をそれぞれ、11.99、8.908、2.10とし、これと各元素の原子量から、X線光電子分光分析により求めた組成でのバルク密度を算出した。またバルク密度比は、X線反射率法により求めた密度値を、バルク密度で除することにより求めた。
【0109】
シート抵抗はテスターにより求めた。
【0110】
各例の電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、全てカーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0111】
また、フォーミング後の電子放出部形成膜に形成された間隙を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察し、間隙部が均一に形成されているか、膜の剥がれ等の異常がないか確認した。
【0112】
結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
比較例1では、印加電圧31Vで1.0×107Ω/□以上の抵抗に到達したが、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡観察をしたところ、間隙近傍の膜がめくれあがっている箇所があり、不均一なフォーミング形態であった。これに対し実施例1乃至4では、間隙近傍にめくれあがった箇所は見られず、100μmの素子の幅にわたってほぼ均一に間隙が形成されていた。
【0115】
これは比較例1ではバルク密度比が0.7未満という極めて低密度な膜になっているためであると考えられる。即ち、スパッタ時の圧力が1.4Paという高圧力領域で形成された膜は、通常基板に平行方向よりも垂直方向の方が膜の連続性が高い、いわゆる柱状構造の膜を形成する。比較例1ではバルク密度比が0.7未満と低いため、この垂直方向と平行方向の力学的な強度差が小さくなり、均一に間隙が形成されにくくなっていたと推察される。
【0116】
一方、実施例1乃至4では、バルク密度比が0.7乃至1.0であるため、上記の柱状構造に由来する基板に垂直方向と平行方向の膜の力学的な強度差が大きくなり、均一に間隙形成されたものと推察される。
【0117】
また、比較例2では、バルク密度比は0.95と高いが、50Vまで電圧を上げても、1.0×107Ω/□以上の抵抗に到達せず、電子放出部形成膜に間隙を形成することは出来なかった。これは、金属含有率が25atom%と高いため、フォーミング時にパラジウム粒子間で導電パスを形成してしまい、電流がパラジウムよりも比抵抗の高いカーボン膜にはあまり流れず、投入電力がほとんどカーボン膜の切断に使用されなかったためと推察される。
【0118】
尚、実施例1乃至4、比較例1では、シート抵抗の低い膜ほど低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られた。
【0119】
(実施例5)
実施例1におけるスパッタ時のチャンバー内に圧力を2.0Paに、スパッタリング時間を3分に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0120】
(実施例6)
実施例1におけるスパッタ時のチャンバー内に圧力を0.8Paに、スパッタリング時間を2分に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0121】
実施例5,6の素子の電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、全てカーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0122】
実施例1、実施例5乃至6のフォーミング後の電子放出部形成膜に形成された間隙を走査型電子顕微鏡により観察し、間隙の幅を測定した。
【0123】
以上実施例1、実施例5乃至6で得られた値を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
表1に見られたように実施例1乃至4、比較例1では、シート抵抗の低い膜ほど低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られたが、表2のごとく実施例1、実施例5乃至6ではシート抵抗の高い膜の方が低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られた。
【0126】
実施例1、実施例5乃至6では、スパッタ時の圧力が高くなるほどシート抵抗が高くなっている。スパッタ時の圧力を高くした場合、基板に平行方向よりも垂直方向の方が膜の連続性が高い、いわゆる柱状構造がより顕著になる。そのため、基板に平行方向の連続性に相関するシート抵抗の値が高くなり、またこの構造異方性の増大に伴って間隙形成がより低エネルギーでなされるようになったものと思われる。従って実施例5は、より高抵抗な電子放出部形成膜により低電圧で間隙を形成しており、フォーミング電力の低減という観点から、より好ましい本発明の実施態様と言える。
【0127】
また、実施例1及び実施例5では100μmの素子の幅にわたって間隙はほぼ10nm幅で均一に形成されていたが、実施例6では間隙幅はところどころ40nm程度の幅広い箇所が見られた。この事実からも、スパッタ時の圧力は1.0Pa以上とすることが本発明の好ましい実施態様であり、より好ましくは2.0Pa以上である。
【0128】
(実施例7)
実施例1におけるスパッタリング時間を6分40秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0129】
得られた電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、カーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0130】
実施例1及び実施例7において、フォーミング前後におけるカーボンの状態を顕微レーザーラマン分光光度計を用いて分析した。得られたラマンスペクトルは、カーボンのSP2結合性に由来する1580cm-1付近にピークを持ついわゆるGバンド、及びSP3結合性に由来する1360cm-1付近にピークを持ついわゆるDバンドにスペクトル分離した。そして、Gバンド、Dバンドそれぞれについて半値幅の通電フォーミング前後における変化率を算出した。
【0131】
【表3】
【0132】
実施例1においては、Gバンド、Dバンド共に、通電フォーミング前後での半値幅の変化率は80%以上120%以下であるが、実施例7においてはGバンド、Dバンド共に、半値幅の変化率が60%以下となっている。これはフォーミングの過程において、実施例1ではカーボンの結合性が比較的変化しなかったのに対し、実施例7ではカーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっているものと推察される。これに伴って、実施例7ではフォーミング時に大幅に低抵抗化しており、フォーミング終了電圧、フォーミング時最大電流ともに増大している。従って実施例7よりも実施例1の方が、より低電力でフォーミングされ、環境負荷低減及び製造コストの点から、より好ましい本発明の実施態様であることがわかる。
【0133】
(実施例8)
実施例2で得られた電子放出素子において、通電フォーミングに続いて、活性化処理を施した。具体的には、チャンバー内部にトルニトリル蒸気を分圧1.3×10-4Paで導入し、電極3a,3b間にパルス電圧を印加し、30分間活性化を行った。パルス波形は図3(a)の波形で、18VでT1=1msの矩形パルスと、−18VでT1=1msの矩形パルスとを交替で100Hzで印加した。活性化工程中の電子放出量とその経時変動を観察した。
【0134】
(実施例9)
実施例8におけるスパッタリング時間を75秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得、評価した。
【0135】
得られた電子放出素子の電子放出部形成膜を通電フォーミング前の段階で断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、カーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0136】
実施例1及び実施例8において、通電フォーミング前後におけるカーボンの状態を顕微レーザーラマン分光光度計を用いて分析した。得られたラマンスペクトルは、カーボンのSP2結合性に由来する1580cm-1付近にピークを持ついわゆるGバンド、及びSP3結合性に由来する1360cm-1付近にピークを持ついわゆるDバンドにスペクトル分離した。そして、Gバンド、Dバンドそれぞれについて半値幅の通電フォーミング前後における変化率を算出した。
【0137】
【表4】
【0138】
実施例9においては、Gバンド、Dバンド共に、通電フォーミング前後の半値幅の変化率は80%以上120%以下であるが、実施例8においてはGバンド、Dバンド共に、その半値幅の変化率が60%以下となっていた。これはフォーミングの過程において、実施例9ではカーボンの結合性が比較的変化しなかったのに対し、実施例8ではカーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっているものと推察される。
【0139】
これと相関して実施例8の方が、実施例9よりも活性化時の電子放出量が多く、且つ電子放出量が安定していた。これは実施例8の方が、フォーミング時にSP2結合に関連する結晶性が高くなっており、より原子核に束縛されにくいπ電子が多くなっているため電子放出量が多くなっているのではないかと思われる。また、フォーミング時に結晶性が高くなることで活性化時の熱安定性も高くなり、電子放出量の変動も低減しているものと思われる。
【0140】
従って、実施例9は電子源特性の観点から、本発明のより好ましい実施態様であることがわかる。
【0141】
(実施例10)
実施例1の電子放出素子を複数個有する電子源を作製した。製造工程を図10乃至図15に沿って説明する。
【0142】
ガラス基板21上にスパッタリング法及びリフトオフ法を用いて、厚み40nmのPtからなる電極3a,3bを形成した(図10)。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−4035C)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、450℃の焼成を加えることで、厚み10μmのY方向配線23を形成した(図11)。Y方向配線23は電極3bと導通がある様にした。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−7710)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、570℃の焼成を加えることで、厚み20μmの絶縁膜61を形成した(図12)。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−4035C)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、450℃の焼成を加えることで、厚み10μmのX方向配線22を形成した(図13)。X方向配線22は電極3aと導通がある様にした。また、X方向配線22とY方向配線23とは、絶縁膜61によって絶縁される様にした。
【0143】
この様にしてできた、電極3a,3b及び配線22,23の形成された基板21を洗浄した。その後、感光性樹脂(メタクリル酸−メチルメタクリル酸−エチルアクリレート−n−ブチルアクリレート−アゾビスイソブチロニトリル重合体)をスリットコーターで全面に塗布し、100℃で10分間乾燥した。
【0144】
次いで、フォトマスクを用いて感光性樹脂の塗膜のパターンを形成する領域を露光し、純水シャワーによって60秒間現像を行って樹脂パターンを得た。
【0145】
樹脂パターンを形成した基板21をRFマグネトロンスパッタ装置に投入し、チャンバー内の圧力が5×10-5Pa以下になるまで排気した。スパッタリングターゲットには、アモルファスカーボン中に金属パラジウム粒子が分散されたコンポジットターゲットを使用した。
【0146】
所定の圧力に到達後、チャンバー内に圧力が1.4Paになるようにアルゴンガスを流入させ膜厚が11nmとなるようにスパッタ時間及び投入電力を調整して成膜した。
【0147】
次いでRFマグネトロンスパッタ装置から基板21を取り出し、テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液(濃度2.38質量%)を用いて、5分間処理してレジストを剥離し、電子放出部形成膜4を形成した(図14)。
【0148】
こうしてできた基板21を、真空チャンバー内に保持した。X方向配線22とY方向配線23とはチャンバー内でそれぞれプローブ群と接続され、チャンバー外部より通電処理及び抵抗測定が可能の状態にした。チャンバー内部の排気はターボ分子ポンプ及びスクロールポンプによって行い、チャンバー内部の圧力が1×10-6Pa以下に達するまで排気を行い、以下の通電フォーミング処理によって電子放出部形成膜4に微小なギャップ形成を行った。
【0149】
X方向配線毎に、図2(b)の三角波を矩形波とし、T1=0.1ms、T2=50msのパルス電圧を印加した。電圧は1Vから始め、5秒ごとに0.1Vずつ増加させ、30Vまで印加した後、電圧印加を終了した。電圧を増加させる過程で、およそ20乃至25V程度印加した時点で、通電によるジュール熱の影響で電子放出部形成膜4に間隙が形成され、電圧印加終了時では全ラインの電子放出部形成膜4の抵抗値が1MΩ以上にまで上昇した。こうして、電子放出部形成膜4の中央部に間隙5を形成した。
【0150】
続いてチャンバー内部にトルニトリル蒸気を分圧1.3×10-4Paで導入し、X方向配線22及びY方向配線23の間にパルス電圧を印加し、30分間活性化を行った。パルスは図3(a)に示す波形で、18V、1msの矩形パルスと、−18V、1msの矩形パルスとを交替で100Hzで印加した。活性化工程中の素子電流の増大の様子を観察したところ、全導電性膜にわたって均一な電流の増大が見られた。
【0151】
以上により基板上で個々の電子放出素子の電子放出効率にむらのない電子源基板が形成できた。
【0152】
さらにこの電子源基板を用いて、図7に示す様な画像表示装置を製作した。上記電子源基板21をガラス材からなるリアプレート31、支持枠36、フェースプレート36の中に収め、各部材を接着した。接着にはフリットガラスを用い、450℃に加熱して接着した。フェースプレート36の内側には、メタルバック35と、蛍光体34が形成してあり、メタルバック35に接続された高圧端子Hvが画像表示装置外部に引き出される構造とした。さらに不図示の排気管を通し、真空ポンプを使って内部の空気を排気した。排気管をガスバーナーで溶着させ、画像表示装置を完成させた。この画像表示装置のメタルバック35には、高圧端子Hvを通して4kVの電位を与え、X方向配線22及びY方向配線23に画像信号を入力することで、画像表示を行った。
【0153】
表示画面全面にわたって、むらのない均一な表示が得られていることが、観察された。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の電子放出素子の好ましい実施形態を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係る通電フォーミングに用いられる電圧波形の例を示す図である。
【図3】本発明に係る活性化処理で用いられる電圧波形の例を示す図である。
【図4】本発明の電子放出素子の特性を測定するための測定評価装置の概略図である。
【図5】本発明の電子放出素子の特性を示す図である。
【図6】本発明の電子放出素子を用いてなる電子源の構成例を示す図である。
【図7】本発明の画像表示装置の表示パネルの構成例を示す図である。
【図8】本発明の画像表示装置に用いられる蛍光膜の構成例を示す図である。
【図9】本発明の画像表示装置をテレビジョン表示用に用いた恒例を示す図である。
【図10】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図11】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図12】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図13】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図14】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図15】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0155】
1 基板
2 電極部
3a,3b 電極
4 電子放出部形成膜
5 間隙
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる表面伝導型の電子放出素子と、その製造方法に関し、さらには、該電子放出素子を用いてなる画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面伝導型電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより、電子放出が生ずる現象を利用するものである。典型的な構成としては、基板上に一対の電極と、該電極間を連絡する電子放出部形成膜とを形成し、通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって、該電子放出部形成膜に間隙を形成したものである。当該構成で一対の電極間に電圧を印加すると、該間隙から電子が放出される。
【0003】
上記電子放出部形成膜の製造方法としては、従来よりスパッタ法や蒸着法、有機金属含有溶液をスピンナー塗布してパターニングし、熱分解する方法、インクジェット法によって、基板上に有機金属含有溶液の液滴を付与し、加熱する方法などが提案されている。
【0004】
中でもスパッタ法は、液晶表示装置やプラズマディスプレイなどの大画面ディスプレイへの実用化が進んでおり、大面積化技術として成熟してきており、均一な膜を安定に得ることが容易になってきている。
【0005】
また、電子放出部形成膜としては、Au薄膜やIn2O3/SnO2薄膜、カーボン薄膜やPd膜が挙げられ、特許文献1には金属または金属化合物とカーボンとの混合膜が挙げられている。特にカーボンを主体とする膜は、その耐熱性の高さから、駆動安定性等の優れた電子放出特性が得られることが期待される。
【0006】
【特許文献1】特開2006−491171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カーボンを主体とする電子放出部形成膜は、優れた電子放出特性が期待されているものの、これまで実用化することができなかった。その理由は、その優れた耐熱性にある。上述の如く、表面伝導型電子放出素子においては、電子放出を行う前に電子放出部形成膜に予め通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって電子放出部となる間隙を形成するのが一般的である。通電フォーミングは、薄膜に通電することで、薄膜内に高い電流密度が発生し、そのジュール熱により薄膜内に間隙が形成される現象である。
【0008】
しかしながら、カーボン薄膜はその耐熱性の高さゆえ、通電しても薄膜内に間隙が形成されにくく、間隙を形成できても多くの電力を要したり、多くの電力を使用することから、膜がめくれあがったり間隙の幅が不均一になるなどの問題を生じることがあった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決し、カーボンを主体とする電子放出部形成膜に均一に且つ低電力で間隙を形成することで、優れた電子放出特性を有する電子放出素子を均一に且つ低い製造コストで提供することを目的とする。さらには、該電子放出素子を用いて画像品質に優れた画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成した電子放出素子であって、該電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明の電子放出素子においては、以下の構成を好ましい態様として含む。
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下である。
【0012】
本発明の第2は、基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成する電子放出素子の製造方法であって、
上記電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とするである。
【0013】
本発明の電子放出素子の製造方法においては、以下の構成を好ましい態様として含む。
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上である。
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下である。
前記電子放出部形成膜がスパッタ法により成膜され、スパッタ時のチャンバー内の圧力が1.0Pa以上である。
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の半値幅の通電処理前後の変化率が80%乃至120%となるように上記通電処理を施す。
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の通電処理後の半値幅が通電処理前の80%未満となるように通電処理を施す。
【0014】
本発明の第3は、上記本発明の電子放出素子を複数個と、該電子放出素子に電圧を印加するための複数の配線とを備えた電子源と、該電子源の電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた対向基板とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱性の高いカーボンを主体とする膜でありながら、電子放出部形成膜に低電力で間隙を形成することができ、電気特性のばらつきが少なく、優れた電子放出特性を有する電子放出素子を低コストで提供することができる。よって、該電子放出素子を用いて、高画質表示の画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
カーボンを主体とする電子放出部形成膜はその耐熱性の高さゆえ、通電フォーミングにより間隙を形成しにくいことは上述した。これを改善する手段としてカーボンを主体とする電子放出部形成膜を低いバルク密度比で形成しておき、その構造力学的な強度を低下させておくことで通電フォーミングにより間隙を形成させやすくする手法が考えられる。
【0017】
ここでバルク密度比とは、薄膜の密度測定値を、同じ組成を有するバルク体の密度で除した値を言う。
【0018】
しかしながら、この方法では間隙形成後の電子放出部形成膜の耐熱性も低下してしまい、得られる電子放出特性も十分なものではない。
【0019】
本発明者等は、むしろカーボンを主体とする電子放出部形成膜を0.7乃至1.0という高いバルク密度比で形成し、さらに、これに金属を1乃至20atom%の組成比で含有させ、且つ該金属を直径1乃至5nmの微粒子形態で含有させた。これにより、係る電子放出部形成膜に低電力で良好な間隙を形成し、駆動安定性等の優れた電子放出特性を有する電子放出素子を均一に且つ低い製造コストで得ることができることを見出した。
【0020】
また、電子放出部形成膜の製造方法としては、上述したように有機金属含有溶液をスピンナー或いはインクジェット法によって基板上に付与し、加熱する方法、蒸着法などを用いる。しかしながら、本発明においては、スパッタ法により電子放出部形成膜を製造することが好ましい。
【0021】
スパッタ法は一般に成膜する基板にある一定の方向からスパッタされた原子及び/または粒子を堆積させる成膜方法である。即ち、一定の方法から原子及び/または粒子を堆積させることにより、形成された膜に基板に平行方向と垂直方向で異なる連続性を持たせることが可能である。特にスパッタ時のチャンバー内の圧力を1.0Pa以上の高圧力領域とすることで、得られる膜は基板に平行方向よりも垂直方向に連続性の高い柱状構造を形成することが可能である。
【0022】
この柱状構造は、膜全体としては高いバルク密度であっても、基板に平行な方向では原子配列の連続性が低いため、比較的低電力で間隙を形成することが可能である。従って、本発明においては、電子放出部形成膜をスパッタ法で形成することが好ましく、さらにはスパッタ時のチャンバー内の圧力を1.0Pa以上の圧力とすることが好ましい。
【0023】
本発明においては、電子放出部形成膜の膜厚は5nm以上50nm以下とすることが好ましいが、これは電子放出部形成膜が5nm未満の膜厚であるとその抵抗値がバラツキやすくなり、得られる電子放出素子の特性もバラツキやすくなるためである。一方、膜厚が50nm以上となると基板に平行方向の膜の力学的強度が高くなるためか通電フォーミング時に間隙を形成しにくくなったり、抵抗値が下がりすぎて通電フォーミング時に間隙を形成するのに多大な電力を要したりしてしまう。
【0024】
本発明においては、電子放出部形成膜に間隙を形成するために、該電子放出部に通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施す。本発明においては、該通電処理前後における可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの半値幅の少なくとも一方の変化率が80%乃至120%となるように間隙を形成することも好ましい態様の一つである。
【0025】
これは該通電処理の過程において、カーボンのSP2結合性及び/またはSP3結合性を比較的変化させないままに間隙を形成させることに相当する。通電処理の過程においては、素子はジュール熱にさらされるため、カーボンの結合性が変わる場合は結晶性が高くなり、低抵抗化する。結晶性が高くなってしまうとカーボンの力学的強度も高くなり間隙を形成しにくくなってしまう。また電子放出部形成膜が低抵抗化してしまうと、通電処理時の電流も増大し結果として多大な電力を消費することになってしまう。そのため、環境負荷低減及び製造コストの点から、通電処理前後における上記半値幅の変化率が80%乃至120%となるように間隙を形成することが好ましい態様の一つである。
【0026】
また、本発明においては、電子放出部形成膜の通電処理後に通電処理前と比べて、上記半値幅の変化率が80%未満となるように間隙を形成することも好ましい態様の一つである。
【0027】
これは通電処理の過程において、カーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっていることに相当する。結晶性の高いカーボンを主体とする電子放出部形成膜は、その耐熱性もより高くなり電子放出の経時安定性が向上する。それと同時に、Gバンドに由来するSP2結合に関連する結晶性が高くなった場合は、原子核に束縛されにくいπ電子が増大し、電子放出量も増大することが予想される。
【0028】
従って、電子放出の経時安定性及び電子放出量の増大といった観点から、通電処理後に通電処理前と比べて上記半値幅の変化率が80%未満となるように間隙を形成することも本発明の好ましい態様の一つである。
【0029】
本発明において、電子放出部形成膜に含有される金属には、以下の作用が求められる。
(1)カーボンマトリックス中で直径1乃至5nmの微粒子形態を形成して通電フォーミング時の間隙形成をアシストすること。
(2)その含有率の増減で電子放出部形成膜の抵抗を調整することが可能なこと。
(3)スパッタ時に粗大粒子などの異物を形成しにくいこと。
(4)通電処理時にカーボンの結合性を調整できること。
【0030】
本発明者等が、鋭意検討した結果、電子放出部形成膜に含有される金属としては、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選択される一種または二種以上を用いることが好ましいことがわかった。より好ましくは、NiまたはCoまたはPd、またはこれらを併用することである。
【0031】
本発明では、通電フォーミングを行う前の電子放出部形成膜が、1乃至20atom%の金属及びカーボンからなり、金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜で、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であればよい。また、抵抗調整、結晶性の制御、吸着物の除去等の理由で、成膜後真空環境下で焼成してから通電フォーミングを実施してもよい。焼成する際の温度は、基板が変形しない等の制約条件内であれば何度でも良いが、550℃以下とするのが好ましい。焼成時の温度が高すぎる場合、焼成時にカーボンが改質してしまい、スパッタ等で形成した構造異方性が低下してしまったり、カーボンの力学的強度が増大しすぎてしまったりして通電フォーミング時に間隙を均一に形成することが困難になってしまう場合がある。
【0032】
以下に図面を参照して、本発明の電子放出素子の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。但し、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0033】
図1は、本発明の電子放出素子の好ましい実施形態を模式的に示したものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A’断面図である。図中、1は基板、2は電極部、3aと3bは電極、4は電子放出部形成膜、5は電子放出部形成膜に形成された間隙である。
【0034】
本発明の電子放出素子は、基板1上に一対の電極3a,3bと、該電極3aと3bとに挟持された電子放出部形成膜4を有し、該電子放出部形成膜4には、電子放出部である間隙5が形成されている。
【0035】
基板1としては、例えば石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、SiO2を表面に形成したガラス基板及びアルミナ等のセラミックス基板等が挙げられる。必要な場合には上記基板を十分にクリーニングした後、シランカップリング剤を用いて基板表面を疎水化処理する。
【0036】
電極3a,3bの材料としては、Pd、Pt、Ru、Ag、Au、Ti、In、Cu、Cr、Fe、Zn、Sn、Ta、W、Pb等の金属、PdO、SnO2、In2O3、PbO、Sb2O3等の酸化物が挙げられる。また、HfB2、ZrB2、LaB6、CeB6、YB4、GdB4等の硼化物、TiC、ZrC、HfC、TaC、SiC、WC等の炭化物、TiN、ZrN、HfN等の窒化物、Si、Ge等の半導体、カーボン等が挙げられる。
【0037】
電極対3a,3bの間隔Lは、数百Å乃至数百μmである。また、電極対間に印加する電圧は低い方が望ましく、再現良く作製することが要求されるため、好ましい間隔Lは数百Å乃至数μmである。
【0038】
電子放出部形成膜4については、上記したようにNi、Co、Pd、Pt、Ir、Rhが好ましく用いられる。また、その形成においては、RFスパッタ法、DCスパッタ法、蒸着法以外に塗布方法、例えば回転塗布方法、ディップ方法、インクジェット法などのいずれの方法でも可能であるが、本発明においては、スパッタ法特にRFスパッタ法を用いることが好ましい。
【0039】
また、有機化合物を含む溶液を塗布する方法などを用いた場合は、有機化合物膜を無機カーボンに変化させる必要がある。これに用いる手段に特に制限は無いが、真空環境下で加熱する手法が好ましい。加熱温度は250℃以上550℃以下、好ましくは350℃以上550℃以下とするのが好ましい。
【0040】
次に、以上のようにして作製した電子放出部形成膜4に電子放出部となる間隙を形成する通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施す。
【0041】
通電フォーミングは、所定の真空度のもとで電極部2の電極3a,3b間に不図示の電源より通電することにより、電子放出部形成膜4に、構造の変化した間隙(亀裂)5を形成する処理である。
【0042】
通電フォーミングにおいて電極3a,3b間に印加する電圧波形の例を図2に示す。電圧波形は、特にパルス波形が好ましい。これにはパルス波高値を定電圧としたパルスを連続的に印加する図2(a)に示した手法と、パルス波高値を増加させながらパルスを印加する図2(b)に示した手法がある。
【0043】
先ず、パルス波高値を定電圧とした場合について図2(a)で説明する。図2(a)におけるT1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔である。通常、T1は1μ秒乃至10m秒、T2は10μ秒乃至100m秒の範囲で設定される。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、電子放出素子の形態に応じて適宜選択される。このような条件のもと、例えば、数秒から数十分間電圧を印加する。パルス波形は、三角波に限定されるものではなく、矩形波等の所望の波形を採用することができる。
【0044】
次に、パルス波高値を増加させながら電圧パルスを印加する場合について図2(b)で説明する。図2(b)におけるT1及びT2は、図2(a)に示したのと同様とすることができる。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させることができる。
【0045】
通電フォーミング処理の終了は、パルス電圧印加中の素子に流れる電流を測定して抵抗値を求めて、例えば1MΩ以上の抵抗を示した時に通電フォーミングを終了させることができる。
【0046】
先に述べたように、この通電フォーミングにより形成した間隙5からの電子放出は、現状の条件ではまだ電子放出効率が非常に低いものである。よって、後述するように活性化と呼ばれる通電処理を施すのが好ましい。
【0047】
この活性化処理は、炭素含有ガスを含む雰囲気下、適当な真空度のもとで、パルス電圧を電極3a,3b間に繰り返し印加することによって炭素含有ガスに由来する炭素或いは炭素化合物を、前記間隙5近傍にカーボン膜として堆積させる処理である。
【0048】
本工程において例えばカーボン源としてトルニトリルを用い、スローリークバルブを通して真空空間内に導入し、1.3×10-4Pa程度を維持する。導入するトルニトリルの圧力は、真空装置の形状や真空装置に使用している部材等によって若干影響されるが、1×10-5Pa乃至1×10-2Pa程度が好適である。
【0049】
図3に、活性化処理で用いられる電圧印加の好ましい一例を示した。印加する最大電圧値は、10乃至20Vの範囲で適宜選択される。
【0050】
図3(a)において、T1は電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。また、図3(b)において、T1及びT1’はそれぞれ電圧波形の正と負のパルス幅、T2はパルス間隔であり、T1>T1’、電圧値は正負の絶対値が等しく設定されている。
【0051】
本処理においては、放出電流Ieがほぼ飽和に達した時点で通電を停止し、スローリークバルブを閉め、活性化処理を終了する。
【0052】
上記した工程を経て得られた電子放出素子に対して、好ましくは、安定化工程を行う。
【0053】
この工程は、高い真空度(活性化処理を施した場合は該活性化処理における真空度より高い真空度)の雰囲気下で、電子放出素子や、その周辺の基板1の表面などから不要な有機物質を除去する工程である。上記真空度としては、有機物質の分圧が、10-6Pa以下であることが好ましく、さらには10-8Pa以下であることが特に好ましい。また、全圧としては、極力低くすることが好ましく、実用的には、10-5Pa以下であることが好ましく、さらには10-6Pa以下であることが特に好ましい。
【0054】
以上の工程により図1に示したような電子放出素子を作製することができる。
【0055】
上述のような素子構成と製造方法によって作製された電子放出素子の基本特性について図4、図5を用いて説明する。
【0056】
図4は、前述した構成を有する電子放出素子の電子放出特性を測定するための測定評価装置の概略図である。図4において、11は素子に素子電圧Vfを印加するための電源、10は素子の電極部を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、14は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極である。また、13はアノード電極14に電圧を印加するための高圧電源、12は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。
【0057】
電子放出素子の電極3a,3b間を流れる素子電流If、及びアノードへの放出電流Ieの測定にあたっては、電極3a,3bに電源11と電流計10とを接続し、該電子放出素子の上方に電源13と電流計12とを接続したアノード電極14を配置している。
【0058】
また、本電子放出素子及びアノード電極14は真空装置15内に設置され、その真空装置には排気ポンプ16及び真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で本素子の測定評価を行えるようになっている。尚、アノード電極14の電圧は1kV乃至10kV、アノード電極14と電子放出素子との距離Hは2mm乃至8mmの範囲で測定した。
【0059】
図4に示した測定評価装置により測定された放出電流Ie及び素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の典型的な例を図5に示す。尚、放出電流Ieと素子電流Ifは大きさが著しく異なるが、図5ではIf、Ieの変化の定性的な比較検討のために、リニアスケールで縦軸を任意単位で表記した。
【0060】
本発明の電子放出素子は放出電流Ieに対する三つの特徴を有する。
【0061】
まず第一に、図5からも明らかなように、本素子はある電圧(しきい値電圧と呼ぶ、図5中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。即ち、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子としての特性を示しているのが判る。
【0062】
第二に、放出電流Ieが素子電圧Vfに依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
【0063】
第三に、アノード電極14に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。即ち、アノード電極14に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0064】
次に、本発明に係る電子源及び画像表示装置について説明する。
【0065】
図6は、本発明の電子放出素子を複数個基板上に配置してなる電子源の一実施形態を示す模式図であり、図中21は基板、22はX方向配線(上配線)、23はY方向配線(下配線)、24は電子放出素子である。
【0066】
本例の電子源は、基板21上に、複数個の電子放出素子24をマトリクス状に配線接続してなり、各電子放出素子の構成は図1と同様である。
【0067】
係る電子源の製造においては、電極部2を形成する際、配線の少なくとも一部を同時に形成することもできる。例えば後述する図15に示すような構成の電子源の場合には、各素子の電極3bとY方向配線23とを同時に形成することができる。
【0068】
上記のような単純マトリクス配置の電子源を用いた画像表示装置の一例について、図7を用いて説明する。図7は、本発明の画像表示装置の一例の表示パネルの構成を模式的に示す斜視図であり、一部を切り欠いた状態を示す。
【0069】
図7において、31は電子源基板21を搭載した基板、32はガラス基板33の内面に電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材としての蛍光膜34とメタルバック35等が形成されたフェースプレート(対向基板)である。また、36は支持枠である。基板31、支持枠36及びフェースプレート32をフリットガラスによって接着し、400乃至500℃で、10分以上焼成することで、封着して、外囲器37を構成する。
【0070】
尚、フェースプレート32と電子源基板21との間に、スペーサーと呼ばれる不図示の支持体を設置することにより、大面積パネルの場合にも大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器37を構成することもできる。
【0071】
図8はフェースプレート32上に設ける蛍光膜34の説明図である。蛍光膜34は、モノクロームの場合は蛍光体42のみから成るが、カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体42の配列によりブラックストライプ或いはブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電体41と蛍光体42とで構成される。ブラックストライプ、ブラックマトリクスが設けられる目的は、カラー表示の場合必要となる三原色蛍光体の、各蛍光体42間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることとにある。また、蛍光膜44における外光反射によるコントラストの低下を抑制することである。
【0072】
また、蛍光膜34の内面側には通常メタルバック35が設けられる。メタルバック35の目的は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート32側へ鏡面反射することにより輝度を向上することである。また、電子ビーム加速電圧を印加するためのアノード電極として作用すること等である。メタルバック35は、蛍光膜34作製後、蛍光膜34の内面側表面の平滑化処理(通常フィルミングと呼ばれる)を行い、その後Alを真空蒸着等で堆積することで作製できる。
【0073】
前述の封着を行う際、カラーの場合は各色蛍光体と電子放出素子とを対応させなくてはいけないため、上下基板の突き当て法などで十分な位置合わせを行う必要がある。
【0074】
封着時の真空度は10-5Pa程度の真空度が要求される他、外囲器37の封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行う場合もある。これは、外囲器37の封止を行う直前或いは封止後に、抵抗加熱或いは高周波加熱等の加熱法により、外囲器内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、真空度を維持するものである。
【0075】
前述した本発明の電子放出素子の基本的特性によれば、電子放出部からの放出電子は、しきい値電圧以上では対向する電極間に印加するパルス状電圧の波高値と幅によって制御され、その中間値によっても電流量が制御され、もって中間調表示が可能になる。
【0076】
また多数の電子放出素子を配置した場合、各ラインの走査線信号によって選択ラインを決め、各情報信号ラインを通じて個々の素子に上記パルス状電圧を適宜印加すれば、任意の素子に適宜電圧を印加する事が可能となり、各素子をONすることができる。
【0077】
また中間調を有する入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式が挙げられる。
【0078】
以下に具体的な駆動装置について説明する。
【0079】
単純マトリクス配置の電子源基板を用いて構成した表示パネルを利用した、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示用の画像表示装置の構成例を、図9に示す。
【0080】
図9において、51は図7に示したような画像表示パネル、52は走査回路、53は制御回路、54はシフトレジスタ、55はラインメモリ、56は同期信号分離回路、57は情報信号発生器、Vaは直流電圧源である。
【0081】
電子源基板21を用いた画像表示パネル51のX方向配線には、走査線信号を印加するXドライバーの走査回路52が、Y方向配線には情報信号が印加されるYドライバーの情報信号発生器57が接続されている。
【0082】
電圧変調方式を実施するには、情報信号発生器57として、一定の長さの電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜パルスの波高値を変調するような回路を用いる。また、パルス幅変調方式を実施するには、情報信号発生器57としては、一定の波高値の電圧パルスを発生するが入力されるデータに応じて、適宜電圧パルスの幅を変調するような回路を用いる。
【0083】
制御回路53は、同期信号分離回路56より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscan,Tsft及びTmryの各制御信号を発生する。
【0084】
同期信号分離回路56は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離するための回路である。この輝度信号成分は、同期信号に同期してシフトレジスタ54に入力される。
【0085】
シフトレジスタ54は、時系列的にシリアルに入力される前記輝度信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換して、制御回路53より送られるシフトクロックTsftに基づいて動作する。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分のデータ(電子放出素子n素子分の駆動データに相当)は、n個の並列信号として前記シフトレジスタ54より出力される。
【0086】
ラインメモリ55は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、記憶された内容は、情報信号発生器57に入力される。
【0087】
情報信号発生器57は、各々の輝度信号に応じて、電子放出素子の各々を適切に駆動する為の信号源であり、その出力信号はY方向配線を通じて表示パネル51内に入り、走査回路52によって選択中のX方向配線との交点にある各々の電子放出素子に印加される。
【0088】
X方向配線を順次走査する事によって、パネル全面の電子放出素子を駆動する事が可能になる。
【0089】
以上のように本発明による画像表示装置において、各電子放出素子にXY方向配線を通じ、電圧を印加することにより電子放出させる。一方、直流電圧源Vaに接続された高圧端子Hvを通じ、アノード電極であるメタルバック35に高圧を印加し、発生した電子ビームを加速し、蛍光膜34に衝突させることによって、画像を表示することができる。
【0090】
ここで述べた画像表示装置の構成は、本発明の画像表示装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号についてはNTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、HDTVなどでも同じである。
【実施例】
【0091】
(比較例1)
図1に示す基本構成の電子放出素子を作製した。
【0092】
基板1として、アルカリ成分が少ないPD−200(商品名、旭硝子(株)社製)の2.8mm厚ガラスを用い、更にこの上にナトリウムブロック層としてSiO2膜100nmを塗付焼成したものを用いた。
【0093】
ガラス基板1上に、スパッタ法によってチタニウムTiを5nm、その上に白金Ptを40nmを成膜した後、ホトレジストを塗布し、露光、現像、エッチングという一連のフォトリソグラフィー法によってパターニングし、電極3a,3bを形成した。
【0094】
本例では素子電極の間隔L=10μm、幅W=1000μmとした。
【0095】
上記基板上に感光性樹脂(メタクリル酸−メチルメタクリル酸−エチルアクリレート−n−ブチルアクロレート−アゾビスイソブチロニトリル重合体)をスピンコーターで全面に塗布し、ホットプレートにて100℃で10分間乾燥した。
【0096】
次いで、フォトマスクを用いて電子放出部形成膜領域を覆い、該領域以外を、超高圧水銀ランプ(照度=8mW/cm2)にて、キヤノン社製PLA501FでL.I=8.0で露光し、純水を用いてパドル法で60秒間現像を行って樹脂パターンを得た。
【0097】
樹脂パターンを形成した基板をデポアップ型のRFマグネトロンスパッタ装置のチャンバー内に投入し、ロータリーポンプ、次いでクライオポンプにて圧力が5×10-5Pa以下になるまで排気した。スパッタリングターゲットには、直径8インチのアモルファスカーボンターゲットを使用し、このターゲット上にパラジウム製のチップを設置することで成膜される膜の組成比を調整した。
【0098】
所定の圧力に到達後、チャンバー内に圧力が1.4Paになるようにアルゴンガスを流入させ、300WのRF出力で80分間スパッタリングした。
【0099】
次いでRFマグネトロンスパッタ装置から基板を取り出し、テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液(濃度2.38質量%)を用いて、パドル法にて5分間処理してレジストを剥離し、電子放出部形成膜4のパターンを得た。
【0100】
本例では電子放出部形成膜4の幅W’=100μmとした。
【0101】
こうしてできた基板を、真空チャンバー内に保持し、電極3a,3bをプローブと接続し、チャンバー外部より通電処理が可能な状態にした。次いで、チャンバー内部をターボ分子ポンプ及びスクロールポンプによって排気し、チャンバー内部の圧力が1×10-6Pa以下に達するまで排気を行った後、電極3a,3b間に図2(b)の三角波を矩形波に変更したパルス電圧を印加した。T1=0.1ms、T2=50msとした。電圧は1Vから始め、5秒ごとに0.1Vずつ増加させ、50Vまで印加した後、電圧印加を終了した。以上の工程で電子放出素子を得た。
【0102】
(実施例1)
比較例1におけるRF出力を2400Wに、スパッタリング時間を2分30秒にそれぞれ変更し、パラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0103】
(実施例2)
実施例1におけるパラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0104】
(実施例3)
実施例1におけるパラジウム製チップを異なる大きさのニッケル製チップに変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0105】
(実施例4)
実施例1におけるスパッタリング時間を55秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0106】
(比較例2)
実施例1におけるパラジウム製チップの大きさを変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0107】
上記比較例1,2,実施例1乃至4の電子放出素子の電子放出部形成膜をX線光電子分光分析装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy=XPS)で分析し、膜の組成比をモル比として得、密度はX線反射率法により測定した。
【0108】
パラジウム、ニッケル、アモルファスカーボンのバルク密度をそれぞれ、11.99、8.908、2.10とし、これと各元素の原子量から、X線光電子分光分析により求めた組成でのバルク密度を算出した。またバルク密度比は、X線反射率法により求めた密度値を、バルク密度で除することにより求めた。
【0109】
シート抵抗はテスターにより求めた。
【0110】
各例の電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、全てカーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0111】
また、フォーミング後の電子放出部形成膜に形成された間隙を光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡により観察し、間隙部が均一に形成されているか、膜の剥がれ等の異常がないか確認した。
【0112】
結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
比較例1では、印加電圧31Vで1.0×107Ω/□以上の抵抗に到達したが、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡観察をしたところ、間隙近傍の膜がめくれあがっている箇所があり、不均一なフォーミング形態であった。これに対し実施例1乃至4では、間隙近傍にめくれあがった箇所は見られず、100μmの素子の幅にわたってほぼ均一に間隙が形成されていた。
【0115】
これは比較例1ではバルク密度比が0.7未満という極めて低密度な膜になっているためであると考えられる。即ち、スパッタ時の圧力が1.4Paという高圧力領域で形成された膜は、通常基板に平行方向よりも垂直方向の方が膜の連続性が高い、いわゆる柱状構造の膜を形成する。比較例1ではバルク密度比が0.7未満と低いため、この垂直方向と平行方向の力学的な強度差が小さくなり、均一に間隙が形成されにくくなっていたと推察される。
【0116】
一方、実施例1乃至4では、バルク密度比が0.7乃至1.0であるため、上記の柱状構造に由来する基板に垂直方向と平行方向の膜の力学的な強度差が大きくなり、均一に間隙形成されたものと推察される。
【0117】
また、比較例2では、バルク密度比は0.95と高いが、50Vまで電圧を上げても、1.0×107Ω/□以上の抵抗に到達せず、電子放出部形成膜に間隙を形成することは出来なかった。これは、金属含有率が25atom%と高いため、フォーミング時にパラジウム粒子間で導電パスを形成してしまい、電流がパラジウムよりも比抵抗の高いカーボン膜にはあまり流れず、投入電力がほとんどカーボン膜の切断に使用されなかったためと推察される。
【0118】
尚、実施例1乃至4、比較例1では、シート抵抗の低い膜ほど低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られた。
【0119】
(実施例5)
実施例1におけるスパッタ時のチャンバー内に圧力を2.0Paに、スパッタリング時間を3分に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0120】
(実施例6)
実施例1におけるスパッタ時のチャンバー内に圧力を0.8Paに、スパッタリング時間を2分に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0121】
実施例5,6の素子の電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、全てカーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0122】
実施例1、実施例5乃至6のフォーミング後の電子放出部形成膜に形成された間隙を走査型電子顕微鏡により観察し、間隙の幅を測定した。
【0123】
以上実施例1、実施例5乃至6で得られた値を表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
表1に見られたように実施例1乃至4、比較例1では、シート抵抗の低い膜ほど低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られたが、表2のごとく実施例1、実施例5乃至6ではシート抵抗の高い膜の方が低電圧でフォーミングが終了する傾向が見られた。
【0126】
実施例1、実施例5乃至6では、スパッタ時の圧力が高くなるほどシート抵抗が高くなっている。スパッタ時の圧力を高くした場合、基板に平行方向よりも垂直方向の方が膜の連続性が高い、いわゆる柱状構造がより顕著になる。そのため、基板に平行方向の連続性に相関するシート抵抗の値が高くなり、またこの構造異方性の増大に伴って間隙形成がより低エネルギーでなされるようになったものと思われる。従って実施例5は、より高抵抗な電子放出部形成膜により低電圧で間隙を形成しており、フォーミング電力の低減という観点から、より好ましい本発明の実施態様と言える。
【0127】
また、実施例1及び実施例5では100μmの素子の幅にわたって間隙はほぼ10nm幅で均一に形成されていたが、実施例6では間隙幅はところどころ40nm程度の幅広い箇所が見られた。この事実からも、スパッタ時の圧力は1.0Pa以上とすることが本発明の好ましい実施態様であり、より好ましくは2.0Pa以上である。
【0128】
(実施例7)
実施例1におけるスパッタリング時間を6分40秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得た。
【0129】
得られた電子放出部形成膜を断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、カーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0130】
実施例1及び実施例7において、フォーミング前後におけるカーボンの状態を顕微レーザーラマン分光光度計を用いて分析した。得られたラマンスペクトルは、カーボンのSP2結合性に由来する1580cm-1付近にピークを持ついわゆるGバンド、及びSP3結合性に由来する1360cm-1付近にピークを持ついわゆるDバンドにスペクトル分離した。そして、Gバンド、Dバンドそれぞれについて半値幅の通電フォーミング前後における変化率を算出した。
【0131】
【表3】
【0132】
実施例1においては、Gバンド、Dバンド共に、通電フォーミング前後での半値幅の変化率は80%以上120%以下であるが、実施例7においてはGバンド、Dバンド共に、半値幅の変化率が60%以下となっている。これはフォーミングの過程において、実施例1ではカーボンの結合性が比較的変化しなかったのに対し、実施例7ではカーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっているものと推察される。これに伴って、実施例7ではフォーミング時に大幅に低抵抗化しており、フォーミング終了電圧、フォーミング時最大電流ともに増大している。従って実施例7よりも実施例1の方が、より低電力でフォーミングされ、環境負荷低減及び製造コストの点から、より好ましい本発明の実施態様であることがわかる。
【0133】
(実施例8)
実施例2で得られた電子放出素子において、通電フォーミングに続いて、活性化処理を施した。具体的には、チャンバー内部にトルニトリル蒸気を分圧1.3×10-4Paで導入し、電極3a,3b間にパルス電圧を印加し、30分間活性化を行った。パルス波形は図3(a)の波形で、18VでT1=1msの矩形パルスと、−18VでT1=1msの矩形パルスとを交替で100Hzで印加した。活性化工程中の電子放出量とその経時変動を観察した。
【0134】
(実施例9)
実施例8におけるスパッタリング時間を75秒に変更した以外は同様にして電子放出素子を得、評価した。
【0135】
得られた電子放出素子の電子放出部形成膜を通電フォーミング前の段階で断面方向から透過型電子顕微鏡で観察した結果、カーボン膜中に金属微粒子が直径1乃至5nmの微粒子形態で存在していることが確認された。
【0136】
実施例1及び実施例8において、通電フォーミング前後におけるカーボンの状態を顕微レーザーラマン分光光度計を用いて分析した。得られたラマンスペクトルは、カーボンのSP2結合性に由来する1580cm-1付近にピークを持ついわゆるGバンド、及びSP3結合性に由来する1360cm-1付近にピークを持ついわゆるDバンドにスペクトル分離した。そして、Gバンド、Dバンドそれぞれについて半値幅の通電フォーミング前後における変化率を算出した。
【0137】
【表4】
【0138】
実施例9においては、Gバンド、Dバンド共に、通電フォーミング前後の半値幅の変化率は80%以上120%以下であるが、実施例8においてはGバンド、Dバンド共に、その半値幅の変化率が60%以下となっていた。これはフォーミングの過程において、実施例9ではカーボンの結合性が比較的変化しなかったのに対し、実施例8ではカーボンが大きく改質され、より結晶性の高いカーボンになっているものと推察される。
【0139】
これと相関して実施例8の方が、実施例9よりも活性化時の電子放出量が多く、且つ電子放出量が安定していた。これは実施例8の方が、フォーミング時にSP2結合に関連する結晶性が高くなっており、より原子核に束縛されにくいπ電子が多くなっているため電子放出量が多くなっているのではないかと思われる。また、フォーミング時に結晶性が高くなることで活性化時の熱安定性も高くなり、電子放出量の変動も低減しているものと思われる。
【0140】
従って、実施例9は電子源特性の観点から、本発明のより好ましい実施態様であることがわかる。
【0141】
(実施例10)
実施例1の電子放出素子を複数個有する電子源を作製した。製造工程を図10乃至図15に沿って説明する。
【0142】
ガラス基板21上にスパッタリング法及びリフトオフ法を用いて、厚み40nmのPtからなる電極3a,3bを形成した(図10)。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−4035C)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、450℃の焼成を加えることで、厚み10μmのY方向配線23を形成した(図11)。Y方向配線23は電極3bと導通がある様にした。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−7710)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、570℃の焼成を加えることで、厚み20μmの絶縁膜61を形成した(図12)。次にペースト材料(ノリタケ(株)製NP−4035C)を、スクリーン印刷の手法を用いて、基板上に印刷し、450℃の焼成を加えることで、厚み10μmのX方向配線22を形成した(図13)。X方向配線22は電極3aと導通がある様にした。また、X方向配線22とY方向配線23とは、絶縁膜61によって絶縁される様にした。
【0143】
この様にしてできた、電極3a,3b及び配線22,23の形成された基板21を洗浄した。その後、感光性樹脂(メタクリル酸−メチルメタクリル酸−エチルアクリレート−n−ブチルアクリレート−アゾビスイソブチロニトリル重合体)をスリットコーターで全面に塗布し、100℃で10分間乾燥した。
【0144】
次いで、フォトマスクを用いて感光性樹脂の塗膜のパターンを形成する領域を露光し、純水シャワーによって60秒間現像を行って樹脂パターンを得た。
【0145】
樹脂パターンを形成した基板21をRFマグネトロンスパッタ装置に投入し、チャンバー内の圧力が5×10-5Pa以下になるまで排気した。スパッタリングターゲットには、アモルファスカーボン中に金属パラジウム粒子が分散されたコンポジットターゲットを使用した。
【0146】
所定の圧力に到達後、チャンバー内に圧力が1.4Paになるようにアルゴンガスを流入させ膜厚が11nmとなるようにスパッタ時間及び投入電力を調整して成膜した。
【0147】
次いでRFマグネトロンスパッタ装置から基板21を取り出し、テトラメチルアンモニウムハイドライド水溶液(濃度2.38質量%)を用いて、5分間処理してレジストを剥離し、電子放出部形成膜4を形成した(図14)。
【0148】
こうしてできた基板21を、真空チャンバー内に保持した。X方向配線22とY方向配線23とはチャンバー内でそれぞれプローブ群と接続され、チャンバー外部より通電処理及び抵抗測定が可能の状態にした。チャンバー内部の排気はターボ分子ポンプ及びスクロールポンプによって行い、チャンバー内部の圧力が1×10-6Pa以下に達するまで排気を行い、以下の通電フォーミング処理によって電子放出部形成膜4に微小なギャップ形成を行った。
【0149】
X方向配線毎に、図2(b)の三角波を矩形波とし、T1=0.1ms、T2=50msのパルス電圧を印加した。電圧は1Vから始め、5秒ごとに0.1Vずつ増加させ、30Vまで印加した後、電圧印加を終了した。電圧を増加させる過程で、およそ20乃至25V程度印加した時点で、通電によるジュール熱の影響で電子放出部形成膜4に間隙が形成され、電圧印加終了時では全ラインの電子放出部形成膜4の抵抗値が1MΩ以上にまで上昇した。こうして、電子放出部形成膜4の中央部に間隙5を形成した。
【0150】
続いてチャンバー内部にトルニトリル蒸気を分圧1.3×10-4Paで導入し、X方向配線22及びY方向配線23の間にパルス電圧を印加し、30分間活性化を行った。パルスは図3(a)に示す波形で、18V、1msの矩形パルスと、−18V、1msの矩形パルスとを交替で100Hzで印加した。活性化工程中の素子電流の増大の様子を観察したところ、全導電性膜にわたって均一な電流の増大が見られた。
【0151】
以上により基板上で個々の電子放出素子の電子放出効率にむらのない電子源基板が形成できた。
【0152】
さらにこの電子源基板を用いて、図7に示す様な画像表示装置を製作した。上記電子源基板21をガラス材からなるリアプレート31、支持枠36、フェースプレート36の中に収め、各部材を接着した。接着にはフリットガラスを用い、450℃に加熱して接着した。フェースプレート36の内側には、メタルバック35と、蛍光体34が形成してあり、メタルバック35に接続された高圧端子Hvが画像表示装置外部に引き出される構造とした。さらに不図示の排気管を通し、真空ポンプを使って内部の空気を排気した。排気管をガスバーナーで溶着させ、画像表示装置を完成させた。この画像表示装置のメタルバック35には、高圧端子Hvを通して4kVの電位を与え、X方向配線22及びY方向配線23に画像信号を入力することで、画像表示を行った。
【0153】
表示画面全面にわたって、むらのない均一な表示が得られていることが、観察された。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】本発明の電子放出素子の好ましい実施形態を模式的に示した図である。
【図2】本発明に係る通電フォーミングに用いられる電圧波形の例を示す図である。
【図3】本発明に係る活性化処理で用いられる電圧波形の例を示す図である。
【図4】本発明の電子放出素子の特性を測定するための測定評価装置の概略図である。
【図5】本発明の電子放出素子の特性を示す図である。
【図6】本発明の電子放出素子を用いてなる電子源の構成例を示す図である。
【図7】本発明の画像表示装置の表示パネルの構成例を示す図である。
【図8】本発明の画像表示装置に用いられる蛍光膜の構成例を示す図である。
【図9】本発明の画像表示装置をテレビジョン表示用に用いた恒例を示す図である。
【図10】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図11】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図12】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図13】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図14】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【図15】本発明の実施例の電子源の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0155】
1 基板
2 電極部
3a,3b 電極
4 電子放出部形成膜
5 間隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成した電子放出素子であって、
該電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成する電子放出素子の製造方法であって、
上記電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記電子放出部形成膜がスパッタ法により成膜され、スパッタ時のチャンバー内の圧力が1.0Pa以上であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の半値幅の通電処理前後の変化率が80%乃至120%となるように上記通電処理を施すことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の通電処理後の半値幅が通電処理前の80%未満となるように通電処理を施すことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子放出素子を複数個と、該電子放出素子に電圧を印加するための複数の配線とを備えた電子源と、該電子源の電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた対向基板とを有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成した電子放出素子であって、
該電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
基板上に、一対の電極と該電極間に挟持された電子放出部形成膜とを有する電極部を形成し、該電極間に通電処理を施すことにより、上記電子放出部形成膜に間隙を形成する電子放出素子の製造方法であって、
上記電子放出部形成膜が、金属及びカーボンからなり、該金属の含有量が1乃至20atom%であり、且つ該金属が直径1乃至5nmの微粒子形態である混合膜であって、該混合膜のバルクに対する密度比が0.7以上1.0以下であることを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
前記電子放出部形成膜に含有される金属が、Ni、Co、Pd、Pt、Ir、Rhよりなる群から選ばれる一種又は二種以上であることを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記電子放出部形成膜の膜厚が5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記電子放出部形成膜がスパッタ法により成膜され、スパッタ時のチャンバー内の圧力が1.0Pa以上であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の半値幅の通電処理前後の変化率が80%乃至120%となるように上記通電処理を施すことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
前記電子放出部形成膜に間隙を形成するための通電処理において、前記電子放出部形成膜の可視光ラマン分光法におけるカーボンのGバンド及びDバンドの少なくとも一方の通電処理後の半値幅が通電処理前の80%未満となるように通電処理を施すことを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電子放出素子を複数個と、該電子放出素子に電圧を印加するための複数の配線とを備えた電子源と、該電子源の電子放出素子から放出された電子の照射によって発光する発光部材を備えた対向基板とを有することを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−33929(P2010−33929A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195903(P2008−195903)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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