説明

電子放出素子の製造方法およびそれを用いた発光装置

【課題】大型の極薄型ディスプレイ装置や照明装置に使用して好適な、簡易かつ実用的な電子放出素子の製造方法、およびそれを用いた発光装置を提供する。
【解決手段】隔壁14によって隔てられた窪み部12を有し、前記窪み部12にはカソード電極16と電子放出源18が設けられ、前記隔壁14上にはゲート電極20が設けられた構造体を備える電子放出素子の製造方法であって、前記隔壁14上へゲート電極20を陽極接合する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大型の極薄型ディスプレイ装置や照明装置に使用して好適な電子放出素子の製造方法、およびそれを用いた発光装置に関するに関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空中に置かれた金属や半導体に、ある閾値以上の強さの電界を与えると、金属や半導体内の電子が量子トンネル効果によって表面近傍のエネルギー障壁を通過し、常温でも真空中に電子が放出するようになる。この原理に基づく電子放出は、冷陰極電界電子放出、あるいは単に電界放出(フィールド・エミッション)と呼ばれる。この原理を利用して放出された電子を蛍光体に衝突させて生じる発光を利用したフィールド・エミッション・ディスプレイ(以下、FEDと称す)やフィールド・エミッション・ランプ(以下、FELと称す)が注目されている。代表的な使用分野には、薄型ディスプレイ、液晶ディスプレイ用バックライトや照明光源等を挙げられる。
【0003】
FED等に利用される電子放出素子には、ダイオード型電子放出素子やトライオード型電子放出素子などがある。このうち、トライオード型電子放出素子は、基板上にエミッタが形成され、そのエミッタを囲むように絶縁層が形成されており、その絶縁層上にゲート電極が形成されているのが典型的な構成である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような電子放出素子の製造方法としては、カソード電極が形成された基板上に絶縁層と、ゲート電極となる金属層を積層し、これらをエッチングしてカソード電極部を開口してから、その開口部に電子放出源をパターン形成する方法が知られている。あるいは、絶縁層をパターニングしてからその上にゲート電極を形成する方法が知られている。これらの方法において、ゲート電極はスパッタリング法やリソグラフィ法などを利用して形成される。
【0005】
一方で、金属メッシュをゲート電極に用いる技術が開発されている。そして、このような技術においては、金属メッシュを固定するために、絶縁層上に追加の金属層を設け、これと金属メッシュを超音波接合する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−249369号公報
【特許文献2】特開2003−249167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電子放出素子の製造方法ではゲート電極と絶縁層の接着力が問題となることがあった。また、これを改善するためには、例えば特許文献2に記載のように絶縁層上に追加の金属層が必要であるなど、電子放出素子の構成や製造工程が複雑になり、大型基板への適用が困難であることなどの課題を有していた。
【0008】
本発明は、大型の極薄型ディスプレイ装置や照明装置の製造に好適に使用できる、簡易かつ実用的な電子放出素子の製造方法、およびそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、隔壁によって隔てられた窪み部を有し、前記窪み部にはカソード電極と電子放出源が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極が設けられた構造体を備える電子放出素子の製造方法であって、前記隔壁上へゲート電極を陽極接合する工程を含む電子放出素子の製造方法およびそれを用いた発光装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易かつ実用的な電子放出素子の製造方法、およびそれを用いた発光装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に関する電子放出素子の断面図
【図2】本発明の第1の実施形態による電子放出素子の製造方法を示す工程断面図
【図3】本発明の第2の実施形態に関する電子放出素子の断面図
【図4】本発明の第2の実施形態による電子放出素子の製造方法を示す工程断面図
【図5】トライオード型電子放出素子の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、隔壁によって隔てられた窪み部を有し、前記窪み部にはカソード電極と電子放出源が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極が設けられた構造体を備える電子放出素子の製造方法であって、前記隔壁上へゲート電極を陽極接合する工程を含む電子放出素子の製造方法に関する。以下、具体的な実施形態に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では窪み部が溝状である形態を具体例とする説明を行うが、窪み部の形状はこれに限られるものではなく、丸形や方形など他の形状であっても本発明を同様に適用できる。また、本発明の実施形態は以下の実施形態に限られるものではない。
【0013】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態は、前記構造体が基板に溝部を形成したものであり、溝部として除かれた残部により隔壁が構成されたものである電子放出素子の製造方法である。
【0014】
図1は本実施形態により製造される電子放出素子の説明図である。本実施形態では、基板10に溝部12が設けられており、その残部が隔壁14としての役割を果たす。そして、溝部12にはカソード電極16と電子放出源18が形成されており、隔壁14上にはゲート電極20が形成されている。
【0015】
本実施形態においては、溝部が形成され、前記溝部にカソード電極と電子放出源が形成された基板を準備して、隔壁14上にゲート電極20を陽極接合させることにより、電子放出素子を製造することができる。
【0016】
陽極接合とは以下のような技術である。まず、ガラスのように内部をある程度自由に動くことができるアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等の陽イオン(以下、単に「アルカリイオン」という)を有する物質に金属を接触させる。この状態で加熱し、ガラス側が陰極、金属側が陽極となるように電圧を印加する。すると、ガラス側のアルカリイオンが負電圧に引っ張られ、金属側では自由電子が正電圧に引っ張られる。結果として、ガラスと金属の接合面では、ガラス側は負に、金属側は正にそれぞれ帯電し、ガラスと金属の接合面において化学的な結合が生じる。このようにして、ガラスと金属を強固に接着させることができる。
【0017】
本実施態様においても、基板10側を陰極に、ゲート電極20側を陽極にするように電圧を印加することで、隔壁14上にゲート電極20を陽極接合させることができる。基板10と隔壁14が一体となっており、隔壁14の内部に存在するアルカリイオンが基板10の底部側に移動できるので、隔壁14の上部は負に帯電しているからである。
【0018】
陽極接合の際、加熱温度は200℃〜400℃であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましい。印加電圧は50V〜1000Vが好ましく、200V以上であることが好ましい。加熱温度が250℃以上、または印加電圧が200V以上であれば、十分な接合強度を得やすい。さらに、陽極接合は、大気中、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、還元性雰囲気下のいずれで実施しても良い。不活性ガスの雰囲気下で行う場合は、大気を減圧除去したあと不活性ガスで置換する態様としてもよいし、不活性ガスをフロー置換する態様としてもよい。雰囲気圧力は、加圧、大気圧、または減圧下のいずれで実施しても良い。陽極接合における電子放出材料の劣化をより低減する目的からは、不活性雰囲気下や還元性雰囲気下、または減圧下が好ましく、10−3Pa以下の真空雰囲気で行うことがより好ましい。
【0019】
基板10は、陽極接合に供することができる材質であれば特に制限はないが、陽極接合において可動イオンとなるナトリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリイオンを含有するガラスであることが好ましく、汎用のアルカリ含有ガラスを使用できる。アルカリ含有ガラスには、ソーダガラス、“パイレックス”(登録商標)ガラス、ホウ珪酸ガラスが例示され、安価なソーダガラスが好ましい。
【0020】
図2は本実施形態における工程の一例を示す断面図である。まず、基板10に溝部12を形成する(図2(a)〜(b))。溝部の形成方法としては、ウエットエッチングやドライエッチングなど公知の手法を使用でき、ケミカルエッチング、サンドブラスト法、レーザー加工、超音波加工が例示される。これらの中で、生産性が高く、低コストであるケミカルエッチングやサンドブラスト法が好ましい。
【0021】
溝部は電圧制御のために連絡したカソード電極を形成する目的からライン状の溝であることが好ましい。溝部分の幅は50μm〜500μm、深さは0.5μm〜100μmの間で適宜形成されることが好ましいが、これらに限られない。
【0022】
次に、溝部12にカソード電極16を形成する(図2(c))。カソード電極の材質は特に制限はなく、金属材料または半金属材料などのような導電性材料など公知のものを用いることができ、Cr、Au、Ag、Cu、Nb、Taなどが例示される。また、カソード電極の形成方法は印刷法など公知の方法を利用することができる。なお、カソード電極16の形成に先だって、溝部12の底部に下地となる他の材料からなる層を形成してもよい。他の材料とは、例えば、溝部との電極との接着性の改良や電極を形成しやすくする目的で使用するガラスなどである。
【0023】
次にカソード電極16上に電子放出源18を作製する(図2(d))。カソード電極上に電子放出源を形成する方法としては、一般的なスクリーン印刷法、インクジェット法などの印刷法が好ましく用いられる。また、感光性を付与した電子放出源用ペーストを用いて、フォトリソグラフィーによって電子放出源を形成してもよい。
【0024】
電子放出源は、電子放出特性を向上する目的から、追加の処理を施されてもよい。追加の処理としては、電子放出源に含有される有機物成分を除去する目的で施される焼成や、埋没する電子放出材料を電子放出源の表面に突出させる目的で施される表面活性化処理などが挙げられる。前記の電子放出源の電子放出特性を向上するための追加の処理は、次の陽極接合の工程に先だって実施してもよく、陽極接合の工程の後に実施してもよい。高い電子放出特性の電子放出源を得る目的からは、陽極接合の後に電子放出特性を向上するための追加の処理を実施することが好ましい。
【0025】
陽極接合の工程に先だって、電子放出特性を向上するための追加の処理をする方法(1)の具体例は、例えば以下のようなものである。スクリーン印刷法等で基板上に電子放出源用ペーストを印刷した後、必要により熱風乾燥機等で乾燥して、電子放出源を得る。前記電子放出源を、大気中または窒素等の不活性ガス雰囲気中で、400〜500℃の温度で焼成する。焼成した電子放出源は、表面活性化処理を行い、表面から電子放出材料が突出した電子放出源とする。表面活性化処理には、粘着性を有するテープまたはローラーを用いた剥離法やレーザー処理法などを使用できる。
【0026】
陽極接合の工程の後に電子放出特性を向上するための追加の処理をする場合には、例えば、陽極接合の工程の前に前記条件で電子放出源を焼成し、陽極接合の工程の後に前記と同様の表面活性化処理する方法(2)、陽極接合の工程の後に、前記と同様の表面活性化処理と焼成をする方法(3)が使用できる。方法(3)では表面活性化処理は、陽極接合の後であれば、焼成の前でも後でもよい。
【0027】
さらに、焼成時に電子放出源に亀裂や孔が発生し、電子放出材料が表面に突出する電子放出源を用いて、焼成と表面活性化処理を単一の処理で実施する方法(4)が使用できる。すなわち、焼成時に電子放出源に亀裂や孔が発生することで電子放出材料が突出する現象を利用して、焼成と表面活性化処理を兼ねる方法である。このような電子放出源としては、特開2004−87304号公報、特開2010−86966号公報、PCT/JP2010/063070、特願2010−45036、特願2010−74297等に記載の電子放出源が例示される。なお、電子放出源18に好ましく用いられる材料については後述する。
【0028】
次に、隔壁14上にゲート電極20を形成する(図2(e))。ゲート電極を構成する材料は、特に限定されないが、陽極接合性の良い鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムが好ましく、安価で、陽極接合が容易なアルミニウムがより好ましい。ゲート電極の形成方法は特に制限はないが、スパッタリング法やリソグラフィ法により作製する方法や、あらかじめ作製したい電極の形状に整えた金属板を配置する方法など、公知の方法を利用することができる。
【0029】
なお、ゲート電極は、複数の電子放出源にそれぞれ対応した電子通過孔を有する金属メッシュからなることが好ましい。ゲート電極が各隔壁上でそれぞれ独立していると、陽極接合の際にすべてのゲート電極について電圧をかけなければならない。これに対し、金属メッシュからなるゲート電極を利用すれば、各隔壁上のゲート電極は一体となっているため、金属メッシュの一部に導通することでゲート電極全体に同じ電圧をかけることができる。金属メッシュを用いたゲート電極の形成方法は、例えば金属メッシュをその開口部と溝部12の位置が対応するように隔壁14上に配置する方法などが挙げられる。
【0030】
その後、上記の通り加熱しながら基板10側を陰極に、ゲート電極20側を陽極にするように電圧を印加することで、陽極接合された電子放出素子が得られる(図2(f))。加熱手段としては、ヒーター等の加熱源を有する板状の金属等によって基板またはゲート電極を直接的に加熱してもよく、加熱源からの熱放射や雰囲気気体の対流によって間接的に加熱してもよい。電圧印加手段としては、基板や陽極の接合面に均等に電圧印加することが好ましく、板状の金属や複数のピン状の金属によって接点を形成してもよい。
【0031】
上記の例では溝部が形成され、前記溝部にカソード電極と電子放出源が形成された基板に対し陽極接合を行う実施形式について説明したが、カソード電極、電子放出源およびゲート電極の形成順序やこれらと陽極接合の順序は適宜入れ替えてもよい。例えば、基板10に溝部12を形成した後、隔壁14上にゲート電極20を形成して陽極接合を行ってから、溝部12にカソード電極16および電子放出源18を形成してもよい。
【0032】
<第2の実施形態>
本発明の第2の実施形態は、前記構造体が基板上に隔壁を形成したものである電子放出素子の製造方法である。
【0033】
図3は本実施形態により製造される電子放出素子の説明図である。本実施形態では、基板10上の隔壁14によって隔てられた部分が溝部12としての役割を果たす。そして、溝部12にはカソード電極16と電子放出源18が形成されており、隔壁14上にはゲート電極20が形成されている。
【0034】
本実施形態においては、隔壁が形成され、前記隔壁間(溝部)にカソード電極と電子放出源が形成された基板を準備して、隔壁14上にゲート電極20を陽極接合させることにより、電子放出素子を製造することができる。
【0035】
本実施形態においても、基板10側を陰極に、ゲート電極20側を陽極にするように電圧を印加することで、隔壁14上にゲート電極20を陽極接合させることができる。ただし、本実施態様においては基板10と隔壁14が一体ではないため、隔壁14の内部に存在するアルカリイオンが基板10側に移動できるよう、基板10と隔壁14の材質を選択することが必要である。
【0036】
図4は本実施態様における工程の一例を示す断面図である。まず、基板10上に隔壁14を形成する(図4(a)〜(b))。隔壁14は絶縁材料からなるものであり、ナトリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリイオンを含有するガラスを含むことが好ましい。隔壁14の形成法は特に制限はないが、スクリーン印刷法やノズル塗布など公知の方法を利用することができる。隔壁間の幅は50μm〜500μm、深さは0.5μm〜100μmの間で適宜形成されることが好ましいが、これらに限られない。
【0037】
その後、隔壁14で隔てられた溝部12にカソード電極16および電子放出源18を形成し、隔壁14上にゲート電極20を形成し、陽極接合を行う点は第1の実施形態と同様である(図4(c)〜(f))。なお、本実施形態においても、カソード電極、電子放出源およびゲート電極の形成順序やこれらと陽極接合の順序は適宜入れ替えてもよい。あるいは、あらかじめ溝部となる位置にカソード電極および電子放出源を形成してから隔壁をパターニングし、ゲート電極を形成して陽極接合を行ってもよい。
【0038】
<電子放出源>
次に、本発明に好ましく用いられる電子放出源の材料について説明する。電子放出源は、電子放出材料としてモリブデンに代表される金属材料や、炭素系材料を含んで構成されるなど公知の材料であれば特に制限はないが、電子放出材料として炭素系材料を含むことが好ましい。また、電子放出源は、電子放出材料を含む電子放出源用ペーストを用いて、カソード電極上に形成されることが好ましい。
【0039】
炭素系材料の電子放出材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト等の針状炭素系材料、ダイアモンド、ダイアモンドライクカーボン、グラファイト、カーボンブラック、フラーレン等のその他の炭素系材料などが挙げられる。針状炭素系材料は、低い仕事関数特性によって低電圧駆動が可能であることから好ましい。針状炭素系材料の中でも、カーボンナノチューブは高アスペクト比であるために良好な電子放出特性を持つことからより好ましい。
【0040】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、または2層、3層等の多層カーボンナノチューブが使用できる。層数の異なるカーボンナノチューブの混合物であってもよい。未精製カーボンナノチューブ粉末は、アモルファスカーボンや触媒金属等の不純物を除くために精製することによって純度を高めて使用することもできる。また、カーボンナノチューブの長さを調整するため、ボールミルやビーズミル等でカーボンナノチューブ粉末を粉砕してもよい。
【0041】
電子放出源用ペースト全体に対する電子放出材料の含有量は0.1〜20重量%が好ましい。また、0.1〜10重量%であることがより好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。電子放出材料の含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な分散性、印刷性およびパターン形成性が得られる。
【0042】
本発明の電子放出源用ペーストは無機粉末を含むことができる。無機粉末は、接着剤としての役割を果たすものであればいずれも用いることができる。電子放出材料として好ましく用いられるカーボンナノチューブの耐熱性が500〜600℃であること、基板ガラスとしてソーダガラス(軟化点500℃程度)等が好ましく用いられることなどを考慮すると、無機粉末の焼結温度は500℃以下であることが好ましく、450℃以下がさらに好ましい。前記焼結温度を有する無機粉末を用いることで、電子放出材料の焼失を抑制し、ソーダガラスなどの安価な基板ガラスを使用することができる。このような無機粉末の具体例としては銀、銅、ニッケル、合金、はんだなどの金属粉末、ガラス粉末、もしくはそれらを混ぜて使用することができる。金属粉末は触媒作用によって電子放出材料の焼失を促進することから、ガラス粉末が好ましく用いられる。
【0043】
ガラス粉末は、500℃以下に軟化点をもつ低軟化点ガラスを用いることが好ましい。500℃以下に軟化点をもつ低軟化点ガラスとしては、Bi系ガラス、アルカリ系ガラス、SnO−P系ガラス、SnO−B系ガラスが好ましい。さらに、軟化点は、300℃〜450℃の範囲に制御することがより好ましい。
【0044】
ガラス粉末の平均粒径は、2μm以下であることが好ましい。さらに、1μmより小さいことが好ましい。ガラス粉末の平均粒径が2μm以下であれば、微細な電子放出源の形成が容易であり、また、電子放出源とカソード電極の間に十分な接着性を得られる。
【0045】
ここで平均粒径とは、累積50%粒径(D50)である。これは、一つの粉体の集団の全体積を100%として体積累積カーブを求めたとき、その体積累積カーブが50%となる点の粒径を表したものであり、累積平均径として一般的に粒度分布を評価するパラメータの1つとして利用されているものである。なお、ガラス粉末の粒度分布の測定はマイクロトラック法(日機装(株)製マイクロトラックレーザー回折式粒度分布測定装置による方法)で測定することができる。
【0046】
電子放出源用ペーストに含まれる電子放出材料と無機粉末の比は、電子放出材料100重量部に対し、無機粉末が200〜8000重量部であることが好ましい。200重量部以上であれば、電子放出源とカソード電極の間に十分な接着性を得られる。また、8000重量部以下であれば、ペースト粘度が高くなりすぎることがない。
【0047】
また、電子放出源用ペーストは無機粉末の一部として導電性粒子を含むことができる。電子放出源用ペーストが導電性粒子を含むことで、電子放出源内部の抵抗値が下がり、電子放出源から低電圧での電子放出が可能となる。前記導電性粒子は、導電性のあるものであれば特に限定されないが、導電性酸化物を含む粒子、あるいは酸化物表面の一部または全部に導電性材料がコーティングされた粒子であることが好ましい。金属は触媒活性が高く、焼成や電子放出により高温になったときに炭素系材料を劣化させることがある。導電性酸化物としては、酸化インジウム・スズ(ITO)、酸化スズ、酸化亜鉛などが好ましい。また、酸化チタン、酸化ケイ素などの酸化物表面の一部または全部にITO、酸化スズ、酸化亜鉛、金、白金、銀、銅、パラジウム、ニッケル、鉄、コバルトなどがコーティングされたものも好ましい。この場合も、導電性材料のコーティング材料としては、ITO、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性酸化物が好ましい。
【0048】
導電性粒子の平均粒径は0.1〜1μmであることが好ましく、0.1〜0.6μmがさらに好ましい。導電性粒子の平均粒径が前記範囲内であれば、電子放出源内部の抵抗値均一性が良好であり、さらには表面平坦性が得られることから、低電圧で表面から均一な電子放出を得られる。
【0049】
電子放出源用ペーストにおける導電性粒子の含有量は、電子放出材料1重量部に対して導電性粒子0.1〜100重量部であることが好ましく、0.5〜50重量部であることがさらに好ましい。導電性粒子の含有量が前記範囲内であれば、電子放出材料とカソード電極の電気的接触がより良好となる。
【0050】
電子放出源用ペーストは、必要に応じて溶媒、分散剤、有機バインダーを含んでもよい。さらに、光硬化性モノマー、紫外線吸収剤、重合禁止剤、増感助剤を含んでもよく、フォトリソグラフィー法によるパターン形成や、乾燥塗膜の紫外線照射で亀裂を生じさせて電子放出材料を突出させることによって、前述方法に替わる表面活性化処理が可能となる。さらに、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加成分を含んでもよい。
【0051】
溶媒は、他の有機成分を溶解するものが好ましい。例えば、エチレングリコールやグリセリンに代表されるジオールやトリオールなどの多価アルコール、アルコールをエーテル化および/またはエステル化した化合物(エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート)などが挙げられる。具体的には、テルピネオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトールアセテートなどやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が挙げられる。
【0052】
溶媒の含有量は、電子放出源用ペースト全量に対して、10〜99重量%の範囲が好ましく、20〜90重量%の範囲がより好ましい。溶媒の含有量が前記範囲内であれば、電子放出源用ペーストの良好な分散安定性、印刷特性、塗膜形成性を得られる。
【0053】
分散剤は、その添加によって電子放出源用ペースト中で無機粉末や電子放出材料の分散性を向上させられる。分散剤としては、アミン系くし形ブロックコポリマーが好ましい。アミン系くし形ブロックコポリマーには、アビシア(株)製のソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース24000GR、ソルスパース28000(いずれも商品名)が例示される。
【0054】
有機バインダー樹脂としては,エチルセルロース,ニトロセルロース,酢酸セルロース,ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース系,アクリル酸エステル,メタクリル酸エステル,シアノアクリル酸エステル等またはアクリル系単量体との共重合体などのアクリル樹脂系およびその他,酢酸ビニル系,ポリビニルアルコール系,ポリビニルアセタール系,ポリエステル系などの樹脂が使用できる。
【0055】
電子放出源用ペーストは、各種成分を所定の組成になるよう調合した後、3本ローラー、ボールミル、ビーズミル等の混練機で均質に混合分散することによって作製することができる。ペースト粘度は、無機粉末、溶剤、分散剤、その他の添加成分の添加割合によって適宜調整される。ペースト粘度は、2〜200Pa・sの範囲が好ましく、スリットダイコーター法やスクリーン印刷法によって基板への良好に塗布できる。スピンコート法、スプレー法やインクジェット法で行う場合は、0.001〜5Pa・sがより好ましい。
【0056】
<発光装置>
次に、本発明の電子放出素子を用いたトライオード型電子放出素子および発光装置とそれらの製造方法について説明する。図5は本発明の電子放出素子を用いて製造されるトライオード型電子放出素子の一例を示す断面図である。トライオード型電子放出素子3は、本発明の電子放出素子1を背面板として用い、アノード電極32および蛍光体層34を備えた前面板2を対向させ、スペーサー36を介して貼り合わせることで得られる。
【0057】
前面板2の作製方法を説明する。ソーダガラス等のガラス基板30上にITO等の透明導電性膜をスパッタ法などによって成膜しアノード電極32を形成する。アノード電極32上に蛍光体層34を印刷法によって形成し、前面板2が得られる。
【0058】
そして、電子放出素子1(背面板)および前面板2を、電子放出源18と蛍光体層34が対向するようにスペーサー36を挟んで貼り合わせ、容器とする。容器に接続した排気管から真空排気して、内部の真空度が1×10−3Pa以下の状態で、スペーサー36と、前面版のガラス基板30および電子放出素子1のゲート電極14を融着することによってトライオード型電子放出素子3が得られる。スペーサー36を構成する絶縁材料としては、セラミックス、ガラス等が挙げられる。
【0059】
トライオード型電子放出素子では、アノード電極に5〜30kV、ゲート電極に10〜500Vの電圧を供給することで、電子放出材料から電子が放出されて蛍光体にぶつかり、蛍光体の発光を得ることができる。
【0060】
本発明のトライオード型電子放出素子を例えば、面状に配列することによって、面状の発光装置を形成できる。得られる発光装置は、低コストでかつ均一発光が可能であり、ディスプレイ用バックライト光源、あるいは照明ランプ等に好適に利用される。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
(電子放出源用ペーストの作製例)
2層カーボンナノチューブ(東レ(株)製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕した後、ガラス粉末、導電性粒子、有機バインダー、分散剤、溶剤を添加して3本ローラーで混練し、電子放出源用ペーストを作製した。電子放出源用ペーストの組成は、以下の通りであった。
【0063】
電子放出材料:カーボンナノチューブ(針状炭素系材料、2層カーボンナノチューブ;東レ(株)社製):100重量部
無機粉末:軟化点350℃のガラス粉末(SnO−P系ガラス、平均粒径0.2μm):600重量部
導電性粒子:SnO 粒子(平均粒径0.1μm):300重量部
分散剤:“ソルスパース24000GR”(アビシア(株)製):10重量部
溶媒:テルピネオール:5000重量部。
【0064】
(実施例1)
(トライオード型電子放出素子用の背面板の作製)
支持基板として対角5インチのソーダガラス基板(板厚1.3mm)を用い、サンドブラスト法で溝を形成した。本実施例においては、溝の幅を200μm、溝のピッチを300μm、溝の深さを50μmとした。次に、スクリーン印刷法で、前記の溝の底部に、幅100μm、膜厚5μmのカソード電極用の銅配線を形成した。
【0065】
カソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により印刷した後、熱風乾燥機中で85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚は10μmであった。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で焼成し、電子放出源を得た。焼成後の電子放出源に対して、剥離接着強さ5N/10mmの粘着テープを付着し、再剥離する方法によって、電子放出源の表面活性化処理としてカーボンナノチューブの起毛処理を行った。
【0066】
前記電子放出源に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として基板上に配置し、陽極接合装置に投入した。雰囲気を5×10−4Paに減圧後、350℃に加熱した。ガラス基板を陰極、ゲート電極を陽極とし、600Vの電圧を10分間印加し、陽極接合によってガラス基板とゲート電極を結合した。陽極接合中も装置の減圧排気を継続し、陽極接合中の圧力は5×10−4〜8×10−4Paの範囲に維持した。
【0067】
(トライオード型電子放出素子の作製)
前記のように電子放出源を形成した基板と、ITO基板上に厚み5μmの蛍光体層(P22;化成オプトニクス(株)製)を形成した前面基板を10mmのガラススペーサーを挟んで貼り合わせ、一体化した容器とした後、真空度5×10−4Paの状態で融着することによってトライオード型電子放出素子を得た。
【0068】
電圧印加装置によって、アノード電圧10kVとし、エミッション電流値が1mA/cmに達するゲート電圧を求めたところ、80Vであり、良好な発光特性を示した。
【0069】
(実施例2)
電子放出源を得て起毛処理を行うまでは実施例1と同様にした。前記電子放出源に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として基板上に配置し、陽極接合装置に投入した。装置内に窒素ガスをフローさせながら、350℃に加熱した。ガラス基板を陰極、ゲート電極を陽極とし、600Vの電圧を10分間印加し、陽極接合によってガラス基板とゲート電極を結合した。実施例1と同様に評価した結果、エミッション電流値が1mA/cmに達するゲート電圧は100Vであり、良好な発光特性を示した。
【0070】
(実施例3)
電子放出源を得て起毛処理を行うまでは実施例1と同様にした。前記電子放出源に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として基板上に配置し、陽極接合装置に投入した。大気雰囲気のまま350℃に加熱した。ガラス基板を陰極、ゲート電極を陽極とし、600Vの電圧を10分間印加し、陽極接合によってガラス基板とゲート電極を結合した。実施例1と同様に評価した結果、エミッション電流値が1mA/cmに達するゲート電圧は150Vであり、良好な発光特性を示した。
【0071】
(実施例4)
トライオード型電子放出素子用の背面板の作製を以下の通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、電子放出素子を作製した。
【0072】
カソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷法により印刷した後、熱風乾燥機中で85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペースト塗膜の膜厚は10μmであった。この後、カーボンナノチューブの起毛処理を行わなかった。
【0073】
前記電子放出源用ペーストが印刷された部分に対応した電子通過孔を有するアルミニウムからなる金属メッシュをゲート電極として陽極接合した。続いて電子放出源用ペースト塗膜を窒素中450℃で焼成し、電子放出源を得た。その後、電子放出源の表面活性化処理として金属メッシュの開口部を通して、電子放出源をレーザー照射し、カーボンナノチューブを突出させた。
【0074】
実施例1と同様に評価した結果、エミッション電流値が1mA/cmに達するゲート電圧は80Vであり、良好な発光特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の利用分野は特に制限はなく、例えば電界放出源を備えたディスプレイ用バックライト光源、あるいは照明ランプ等、広範囲に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 電子放出素子
2 前面版
3 トライオード型電子放出素子
10 基板
12 溝部
14 隔壁
16 カソード電極
18 電子放出源
20 ゲート電極
22 電圧源
24 加熱装置
30 ガラス基板
32 アノード電極
34 蛍光体層
36 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって隔てられた窪み部を有し、前記窪み部にはカソード電極と電子放出源が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極が設けられた構造体を備える電子放出素子の製造方法であって、前記隔壁上へゲート電極を陽極接合する工程を含む電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記構造体が基板に窪み部を形成したものであり、窪み部として除かれた残部により隔壁が構成されたものである請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
基板に窪み部を形成する工程と、前記窪み部にカソード電極と電子放出源を形成する工程と、前記基板の前記窪み部以外の部分の上面にゲート電極を陽極接合する工程と、を含む請求項2記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記構造体が基板上に隔壁を形成したものである請求項1記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
基板上に隔壁を形成する工程と、前記隔壁によって隔てられた窪み部にカソード電極と電子放出源を形成する工程と、前記隔壁の上面にゲート電極を陽極接合する工程と、を含む請求項4記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記ゲート電極が金属メッシュである請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記電子放出源が炭素系材料を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
前記電子放出源が炭素系材料と低軟化点ガラスを含有する請求項1〜7のいずれかに記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項9】
隔壁によって隔てられた窪み部を有し、前記窪み部にはカソード電極と電子放出源が設けられ、前記隔壁上にはゲート電極が設けられた構造体を備える電子放出素子であって、前記隔壁上へゲート電極が陽極接合されてなる電子放出素子。
【請求項10】
前記構造体が基板に窪み部を形成したものであり、窪み部として除かれた残部により隔壁が構成されたものである請求項9記載の電子放出素子。
【請求項11】
基板に窪み部を形成する工程と、前記窪み部にカソード電極と電子放出源を形成する工程と、前記基板の前記窪み部以外の部分の上面にゲート電極を陽極接合する工程と、を含む請求項10記載の電子放出素子。
【請求項12】
前記構造体が基板上に隔壁を形成したものである請求項9記載の電子放出素子。
【請求項13】
基板上に隔壁を形成する工程と、前記隔壁によって隔てられた窪み部にカソード電極と電子放出源を形成する工程と、前記隔壁の上面にゲート電極を陽極接合する工程と、を含む請求項12記載の電子放出素子。
【請求項14】
前記ゲート電極が金属メッシュである請求項9〜13のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項15】
前記電子放出源が炭素系材料を含有する請求項9〜14のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項16】
前記電子放出源が炭素系材料と低軟化点ガラスを含有する請求項9〜15のいずれかに記載の電子放出素子。
【請求項17】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法で得られた電子放出素子と、これと対向する面に蛍光体層とアノード電極を有する基板を備える発光装置。
【請求項18】
請求項9〜16のいずれかに記載の電子放出素子と、これと対向する面に蛍光体層とアノード電極を有する基板を備える発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−124086(P2012−124086A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275412(P2010−275412)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】