説明

電子放出装置及びそれを用いた電子放出型電子機器

【課題】熱的励起によらずに電子を電子放出材料から放出させる冷陰極構造を具備し、上記の高速正イオンによる電子放出材料の損傷を防止し、電子放出特性の劣化を防ぐことのできる電子放出装置及び、かかる電子放出装置を用いて長寿命化を実現できる電子放出型電子機器を提供することである。
【解決手段】カソード電極1の表面に対向して距離L1を隔てて、電子引出し電極2が配置されている。カソード電極1及び電子引出し電極2には夫々、カソード貫通孔6、貫通孔7が穿設されている。CNT含有炭素系粉材料からなる電子放出材料4がアノード電極3から見たときのカソード電極1の裏側の面にカソード貫通孔6に近接又は突き出て堆積形成されている。電子引出し電極2とカソード電極1により生じた電界によって電子放出材料4から電子をアノード電極3に向けて放出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的励起によらずに電子を固体から放出させることができる電子放出装置及びそれを用いた電子放出型電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の電子放出装置は、例えば、特許文献1に記載されているように、熱電子放出により電子を取り出し、その電子は電界や磁界で制御されて様々な電子装置として使用されていた。特許文献1には、電子を放出するカソードと、カソードの前面に配置され、カソードに対して正の電位が供給されてカソードから電子を電界放出させるためのゲート電極と、放出された電子を直流高電圧によって加速して衝突させて焦点からX線を放出するアノードとから構成されるX線管が開示されている。
【0003】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略称する。)等の電界電子放出能を有する材料を用いた電子放出装置も提案されている。CNTに電界を印加することで電界放出機構によって電子を取り出す方法が特許文献2及び特許文献3などで提案されている。
【0004】
CNTを用いた電子放出装置における電子放出を、例えば、特許文献2に開示された電子放出構造に基づいて説明する。
図5は特許文献2に開示された電子放出装置を真空中で実際に使用した場合の断面構造を示す。カソード電極30上に絶縁基板31を介して電子引出し電極32が対向配置されている。絶縁基板31及び電子引出し電極32にはカソード電極30の電極面を露出させる孔33が穿設されている。孔33の底部にはCNTの電子放出材料34が堆積されている。カソード電極30に対して電子引出し電極32に電子放出に必要な引出し電圧以上の正電位を与えることにより電子放出材料34から電子が放出される。図5においては、電子放出の様子を電子軌跡36として描いている。
【0005】
上記電子放出装置においては、孔33底部にCNTが堆積された電子放出源を使用しているが、特許文献4には、コーン状のカソード形態からなる冷陰極構造を備えた、所謂スピント型の電子放出装置が開示されている。スピント型電子放出装置の場合、陰極の先はコーン状に尖っていてそれを取り囲むように電子引出し電極が配置されている。陰極と電子引出し電極の間に電圧を加えると、コーン先端から電子が放出される。カソードコーンの陰極材には通常、モリブデン等の融点の高い金属が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−243331号公報
【特許文献2】特開2003−45315号公報
【特許文献3】特開2004−71527号公報
【特許文献4】特開平10−289650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の直熱式のフィラメント等を使用した電子放出装置では、熱的励起による熱電子放出を行うため、小型化や低消費電力化が難しいといった問題があった。特許文献1には、直熱式のフィラメント等のカソードに替えて、電界放出型電子源にCNTを用いることが開示されてはいるものの、これも電子放出を行う熱電子放出機構によるため、大電流の電子放出が難しく、また、電子を放出させるための加熱電力が余分に必要となる問題があった。
【0008】
一方、特許文献2、3に示すような電界電子放出装置では、電子放出を行う真空空間に僅かながらも残留ガス分子があり、図5に示すように、その分子若しくは解離した原子が電子でイオン化されて正電荷を持ち、加速イオン37となって負電位が印加されている電子放出材料34に衝突する。電子放出材料34にも多数の加速イオン37が衝突して電子放出材料であるCNTなどを崩壊したり破砕したりして、その崩壊物質・物体又は破砕物体・物質が飛散物35として飛び散る。この飛散物35は電子放出材料34近傍の真空度を劣化させるため、望まない放電や放電破壊を誘発したり、飛散物35が絶縁物に付着して絶縁破壊を起こしたりして電子放出装置を破壊してしまうおそれがあった。破壊に至らなくても加速イオン37が電子放出材料34に衝突することにより電子放出材料34の電子放出効率を低下させるという課題も抱えていた。
【0009】
更に、特許文献4のスピント型電子放出装置では、コーン状のカソード電極の上に絶縁膜を部分的に堆積し、その上に電子引出し電極を形成した構造の電子放出源を備えるが、この電子放出源も電子が飛び出す部分が電子引出し電極に向けて大きく露出しているため、上記の加速イオンの衝突によって、同様の破壊が生じる可能性が高く、電子放出している先鋭構造材料の先端部分が消失したり、鈍化したりして、電子放出効率が低下する問題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、熱的励起によらずに電子を電子放出材料から放出させる冷陰極構造を具備し、上記の高速正イオンによる電子放出材料の損傷を防止し、電子放出特性の劣化を防ぐことのできる電子放出装置、及び、かかる電子放出装置を用いて長寿命化を実現できる電子放出型電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の形態は、カソード電極に隣接したアノード電極との電極間に印加した電界によって、前記カソード電極に配置した電子放出材料から電子を放出させる2極管構成の電子放出装置、又は、前記カソード電極と前記アノード電極間に電子引出し電極を配置し、前記カソード電極に隣接した電子引出し電極との電極間に印加した電界によって、前記カソード電極に配置した電子放出材料から電子を放出させる3極管構成の電子放出装置において、前記隣接したアノード電極又は前記隣接した電子引出し電極に対向する側の前記カソード電極の面(以下、カソード電極第1面という。)と前記隣接したアノード電極又は前記隣接した電子引出し電極に対向しない側の前記カソード電極の面(以下、カソード電極第2面という。)とを貫通するカソード貫通孔を前記カソード電極に1個または2個以上形成し、且つ前記カソード電極と前記アノード電極との間に電子引出し電極を配置したときには、前記隣接した電子引出し電極を貫通する貫通孔を前記隣接した電子引出し電極に1個または2個以上形成し、前記カソード電極第2面の前記カソード貫通孔の周辺に前記電子放出材料を配置した電子放出装置である。
【0012】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記カソード貫通孔が当該貫通孔の軸方向の途中に孔の断面が縮径された縮径部を有し、前記アノード電極又は前記電子引出し電極方向から見て前記カソード電極第2面に連設した、当該縮径部の壁面の前記貫通部周辺に前記電子放出材料を配置した電子放出装置である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記カソード電極第1面、前記カソード電極第2面及び前記カソード貫通孔の内壁面が導電性を有する電子放出装置である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第1、第2又は第3の形態において、前記電子放出材料の少なくとも一部が前記カソード貫通孔の内側に突出して、又は前記カソード貫通孔の縁近傍に配置された電子放出装置である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第1〜第4のいずれかの形態において、前記引出し電極の前記貫通孔と前記カソード貫通孔との中心軸が一致又は略一致する電子放出装置である。
【0016】
本発明の第6の形態は、第1〜第5のいずれかの形態において、前記カソード電極第2面に対向する位置、又は隣接する位置に電気的に絶縁されて配置された背後電極を有する電子放出装置である。
【0017】
本発明の第7の形態は、第1〜第6のいずれかの形態において、前記カソード電極第2面と前記背後電極の前記カソード電極に対向する面との距離又は隣接最短距離が0.05ミリメートルから10ミリメートルの範囲である電子放出装置である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第1〜第7のいずれかの形態において、前記電子放出材料が、カーボンナノチューブ(CNT)、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド微粒子,ダイヤモンドライクカーボン膜、カーボンナノウォール、グラフェン、炭素繊維、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物のいずれか、又は、これらの材料の組み合わせである電子放出装置である。
【0019】
本発明の第9の形態は、第1〜第8のいずれかの形態において、前記電子放出材料の形状が、繊維状、針状、フレーク状、ウィスカー状、平坦膜状、ディンプル付き膜状、波目付き膜状、皺付き膜状、ギザギザ縁状のいずれか、又は、これらの組み合わせである電子放出装置である。
【0020】
本発明の第10の形態は、第1〜第9のいずれかの形態に係る電子放出装置を備え、当該電子放出装置により放出された電子を駆動電子として機能するエミッション電子機能部を有する電子放出型電子機器である。
【0021】
本発明の第11の形態は、第10の形態において、前記エミッション電子機能部が、前記電子放出装置により放出された電子によって発光する発光面、当該電子を透過する透過面、当該電子によってX線を放出するX線放出面又は当該電子によってX線を放出すると同時にX線を透過するX線放出透過面のいずれかからなる電子放出型電子機器である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の第1の形態によれば、2極管構成において前記カソード電極に隣接したアノード電極との電極間に印加した電界、又は3極管構成において前記カソード電極に隣接した前記電子引出し電極との電極間に印加した電界が、前記隣接したアノード電極又は前記隣接した電子引出し電極に対向しない側の前記カソード電極の面である前記カソード電極第2面側に前記カソード貫通孔を通じて分布する電界分布空間を形成する。
従って、前記カソード電極第2面の前記カソード貫通孔の周辺に設けた前記電子放出材料に対して、前記カソード電極第2面に到達した電界が作用して電子放出を行うことができる。このため、前記アノード電極方向から加速されて飛行してくる高速正イオンが前記電子放出材料に直射せず、前記高速正イオンによる電子放出材料の損傷を防止して電子放出特性の劣化を防ぎ、電子放出装置の長寿命化を図ることができる。
【0023】
2極管構成の場合には、前記カソード電極第2面に到達した電界が作用して前記電子放出材料から放出された電子は前記アノード電極方向に射出される。一方、前記カソード電極と前記アノード電極間に電子引出し電極を配置した3極管構成にあっては、前記電子放出材料から放出された電子は前記隣接した電子引出し電極に設けた前記貫通孔を通過して前記アノード電極方向に射出される。
【0024】
本発明は、熱的励起によらずに電子を電子放出材料から放出させる冷陰極構造を具備した電子放出装置に適用することができ、上記の2極管あるいは3極管構成の他に、集束電極を具備した4極管構成の電子放出装置、あるいは5極以上の多極管構成の電子放出装置にも適用することができる。
【0025】
本発明における前記カソード貫通孔の形状は円形に限らず、楕円形や矩形、星型等でもよく、断面形状は限定されない。また、筒状断面のように断面形状が軸方向に一定である必要もない。特には、前記カソード貫通孔の断面を円形として面積換算した場合に、前記カソード第2面において円形換算直径が1μm〜5mm、好ましくは10μm〜1mmの範囲にあることが望ましい。
3極管構成における前記貫通孔は前記電子放出材料から放出された電子が円滑に通過できる形状、大きさを具備しておればよい。
前記電子放出材料は前記カソード貫通孔の周辺において、その一部が前記カソード電極第2面まで到達した電界に晒される位置に配置されればよく、前記カソード貫通孔の周りに密集配置しても、あるいは間隔を置いて部分的に配置してもよい。
【0026】
本発明に係る前記カソード貫通孔及び前記貫通孔は物理的ないし化学的処理により形成することができる。特に、エッチング等の化学的処理により前記カソード貫通孔を形成する際に孔周辺に凹所が同時に形成されるが、当該貫通孔近傍に設けるには前記電子放出材料を該凹所内に配置するのが好ましい。
即ち、本発明の第2の形態によれば、例えば、化学的処理による貫通孔形成方法によって、貫通孔の軸方向の途中に孔の断面が縮径された縮径部を有したカソード貫通孔を形成した場合、前記縮径部には前記アノード電極又は前記電子引出し電極方向から見て前記カソード電極第2面に連設された壁面が形成されるので、前記壁面に前記電子放出材料を配置することにより、当該貫通孔近傍に前記電子放出材料を設けることができ、前記カソード貫通孔周辺が平坦ないし凹凸を有しない前記カソード電極第2面を使用する場合と同様に、前記カソード電極裏側の面に到達した電界を前記電子放出材料に作用させて電子放出を行うことができる。
【0027】
本発明における前記カソード電極は全体を金属等の導電性基材のみで形成される電極形態に限らず、表層部分に導電性を具備させた電極形態であってもよい。即ち、本発明の第3の形態によれば、例えば、前記カソード電極をセラミックス材料等の絶縁基材に導電性膜を被着して形成することにより、前記カソード電極第1面、前記カソード電極第2面及び前記カソード貫通孔の内壁面に導電性を具備させることができ、金属基材による場合と比較して軽量化及びコストダウンを図ることができる。
【0028】
本発明の第4の形態によれば、前記電子放出材料の少なくとも一部が前記カソード貫通孔の内側に突出して、又は前記カソード貫通孔の縁近傍に配置することにより、高速正イオンの直射による損傷を受けずに、前記カソード電極第2面に到達した電界を前記電子放出材料に作用させて電子放出を行うことができる。従って、前記カソード貫通孔周辺への前記電子放出材料の配置形態は、必ずしも先鋭な材料端が前記カソード貫通孔内に突出している形態に限らず、前記電界作用を受ける位置で孔の淵近傍に配置されているだけでもよい。具体的に示せば、前記電子放出材料の前記カソード貫通孔への飛び出し量は、当該貫通孔の孔淵を原点とし、内径方向を正としたとき、0〜500μmが好ましいが、0〜−100μmでも可能である。
【0029】
本発明の第5の形態によれば、3極管構成において、前記引出し電極の前記貫通孔と前記カソード貫通孔との中心軸が一致又は略一致するので、前記引出し電極が障壁となることなく、前記電子放出材料から放出された電子を、前記貫通孔を通過させて前記アノード電極方向に円滑に射出させることができる。
【0030】
本発明の第6の形態によれば、前記カソード電極第2面に対向する位置又は隣接する位置に電気的に絶縁されて配置された背後電極を有するので、前記背後電極の電位を前記カソード電極の電位に対して相対的に設定することにより、電子放出特性の向上を図ることができる。例えば、前記カソード電極に対して、前記背後電極に負電位を印加したとき、正イオンを前記背後電極に捕獲させることができ、前記電子放出材料の該イオンによる劣化を一層抑制することができる。
【0031】
逆に、前記カソード電極に対して、前記背後電極に正電位を印加したときには、前記カソード貫通孔近傍の等電位面が前記カソード電極第2面にまでより回り込んだ状態になる。これにより、前記電子放出材料から放出される電子を、曲がった等電位面、言い換えれば、レンズ状の電界に沿って、より効率的に前記アノード電極方向に飛行させることができる。一方、前記アノード電極方面から飛んでくる正イオンは質量が大きいため、あまり曲がらずに飛行し、前記カソード貫通孔を通り抜けてほぼ直進し、そのまま前記背後電極に吸収させることができ、より良好な電子放出特性を得ることができる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記カソード電極第2面と前記背後電極の前記カソード電極に対向する面との距離、又は前記カソード電極第2面に隣接する位置に配置したときの隣接最短距離が0.05ミリメートルから10ミリメートルの範囲であるので、前記背後電極の電位の設定を前記カソード電極の電位に対して適切に行うことができる。
なお、前記背後電極に一つまたは複数の孔を形成して、正イオンを通過させるようにしてもよい。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記電子放出材料が、CNTの他、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド微粒子,ダイヤモンドライクカーボン膜、カーボンナノウォール、グラフェン、炭素繊維、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物のいずれか、又は、これらの材料の組み合わせを使用するので、効率的に電子放出を行える電子放出特性を得ることができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、繊維状、針状、フレーク状、ウィスカー状、平坦膜状、ディンプル付き膜状、波目付き膜状、皺付き膜状、ギザギザ縁状のいずれか、又は、これらの組み合わせである形状の前記電子放出材料を使用して、効率的に電子放出を行える電子放出特性を得ることができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、第1〜第9のいずれかの形態に係る前記電子放出装置により放出された電子を駆動電子として機能するエミッション電子機能部を有するので、上記の高速正イオンによる電子放出材料の損傷を防止し、電子放出特性の劣化を防ぐことのできる電子放出装置を用いて電子放出型電子機器の長寿命化ないし性能の向上を実現することできる。
前記エミッション電子機能部による機能には、例えば、ターゲット物質等に対するエミッション電子の照射、衝突、付着、電荷交換、イオン化等による直接的作用だけでなく、ターゲット物質近傍のエミッション電子の通過や周辺への放散等の間接的作用を及ぼす機能が含まれる。
なお、本発明に係る電子放出装置は、10−3Pa以下(10−3Pa〜10−10Pa)の高真空度に気密パッケージ封止して使用されるのが好ましいが、電子放出型電子機器への応用例として、例えば、パッケージ内にガスを封入しておき、放出電子によって封入ガスをイオン化させる機能、真空装置に直接取り付け、真空装置内に電子を供給したり、真空中の残存ガスや固体・液体物質をイオン化させたりする機能、あるいは電子を大気中(あるいは装置の真空圧力より高い圧力中)へ隔壁を通過させて引き出して、大気中(あるいは装置の真空圧力より高い圧力中)のガスや液体・固体物質をイオン化する機能を具備した電子放出型電子機器を実現することができる。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記エミッション電子機能部が、前記電子放出装置により放出された電子によって発光する発光面、当該電子を透過する透過面、当該電子によってX線を放出するX線放出面又は当該電子によってX線を放出すると同時にX線を透過するX線放出透過面のいずれかからなる電子放出型電子機器の発光寿命の長期化を実現することできる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例である電子放出装置の断面構造図である。
【図2】図1の電子放出装置における電子放出材料4の配置を示すカソード電極断面図である。
【図3】本発明における別のカソード貫通孔を示すカソード電極断面図である。
【図4】本発明の別の実施例である電子放出装置の断面構造図である。
【図5】従来の電子放出装置の断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施形態に係る電子放出装置を、図面を参照して以下に説明する。
<実施例1>
図1は本発明の一実施例である3極管構成の電子放出装置の断面構造図である。
実施例1は、アノード電極3とカソード電極1の間に電子引出し電極2を配置し、カソード電極1に隣接した電子引出し電極2との電極間に生じた電界によってカソード電極1側に配置した電子放出材料4から電子を放出させる3極管型電子放出装置である。電子引出し電極2はカソード電極1の表面(後述のカソード電極第1面11)に対向して距離L1を隔てて配置されている。アノード電極3は電子引出し電極2の上方に距離L2を隔てて配置されている。アノード電極3カソード電極1及び電子引出し電極2には、夫々、カソード貫通孔6、貫通孔7が穿設されている。一点鎖線で示した、各貫通孔の中心線はアノード電極3に至る。電子放出材料4はCNT含有炭素系粉材料からなる。カソード電極1の裏側には背後電極5が対向配置されている。なお、図示しないが、電子放出装置全体は真空封止技術により真空パッケージングされている。真空度は好ましくは10−5Pa以下の高真空から10−10Pa程度の極高真空である。
【0039】
カソード電極1及び電子引出し電極2はニッケル、銅、ステンレス等の導電性の材料からなる。アノード電極3はその用途に応じて様々な材料や構造のものが用いられる。例えば、電子線を受け止めるコレクタ(アノード電極)としては、一般的にニッケル、銅、ステンレス等の金属、透明導電膜を塗布したガラス、シリコン、ゲルマニウム等の半導体などの導電性の材料を用いる。また、受け止めた電子線のエネルギーによって発生する特性X線を利用する場合には利用するX線のエネルギーに応じてモリブデンやタングステンや銅等を用いる。特に、透過型X線源と呼ばれるタイプのものではモリブデンやタングステンや銅等をベリリウムなどの薄層基板の上にスパッタ法などで薄膜堆積したものを使用する。アノード電極を薄くすることで電子線の一部がアノード電極を透過させることができる。このことを利用して、透過した電子線をそのまま対象材料に照射させることでその対象材料の表面改質処理や表面加工をする使い方もある。
なお、本発明におけるカソード電極は全体を金属等の導電性基材のみで形成される電極形態に限らず、表層部分に導電性を具備させた電極形態であってもよい。例えば、カソード電極をガラスやセラミックス材料等の絶縁基材に導電性膜を被着して形成することにより、カソード電極第1面11、カソード電極第2面12及びカソード貫通孔6の内壁面に導電性を具備させることができ、金属基材による場合と比較して軽量化及びコストダウンを図ることができる。
【0040】
この電子放出構造の特徴をさらに詳しく説明する。
カソード貫通孔6は、カソード電極1に隣接した電子引出し電極2に対向する側のカソード電極面(カソード電極第1面11)と前記隣接した電子引出し電極に対向しない側のカソード電極面(カソード電極第2面12)とを貫通している。電子引出し電極2の貫通孔7はカソード貫通孔6の中心軸と一致するように配設されている。電子放出材料4はアノード電極3から見たカソード電極1の裏側の面である前記カソード電極第2面12に堆積形成されている。
【0041】
電子放出材料4はCNTのうちシングルウォールカーボンナノチューブを含有した炭素粉材料である。シングルウォールカーボンナノチューブは直径がサブナノメートルから数ナノメートルの筒状の物質であり、この電子放出材料全体としては導電性の炭素材料の表面からシングルウォールカーボンナノチューブがところどころ数ミクロンから数十ミクロンの長さで飛び出している(せり出している)状態である。図1に示すように、カソード電極1の裏側の面(カソード電極第2面12)において電子放出材料4をカソード貫通孔6の淵部分に堆積させてある。この堆積状態をさらに細かく説明すると、炭素粉材料4はカソード貫通孔6の孔内側面に付着することなく、カソード電極第2面にのみ付着しており、該淵部分からカソード貫通孔6の内径方向に向けてシングルウォールカーボンナノチューブが突き出した状態(せり出した状態)になっている。この突き出し状態でシングルウォールカーボンナノチューブの先端部分に高い電界が集中し、電界電子放出機構によって電子が放出される。
【0042】
図1における複数の細い実線は各電極の間の空間に生じる等電位面を描いたものである。アノード電極3は電子引出し電極2から60ミリメートル(L2)離れた位置にあり、+30kVが印加されている。電子引出し電極2は厚みが0.1ミリメートルのニッケル板であり、貫通孔7は直径0.5ミリメートルの円形(孔全体で円柱形)である。この電極には+1kVが印加されている。カソード電極1は電子引出し電極2と同じ形状であり、電子引出し電極2との対向面間の距離は0.5ミリメートル(L1)である。カソード電極1には0Vが印加されている。背後電極5は厚み1ミリメートルのニッケル製の板からなり、カソード電極1との距離L3は2ミリメートルである。背後電極5には0Vが印加されている。
【0043】
上記電極配置構成において、等電位面は各電極間の電界が強いところでは線の間隔が密になり、電界が弱いところでは疎になっている。電子やイオンはこの等電位面の直交する方向に向けて加速する。マイナス電荷を持つ電子はマイナス電位からプラス電位の方向に向けて進み、プラスの電荷を持つ正イオンは反対にプラス電位からマイナス電位の方向に向けて進む。電子は質量が小さいために急激に変化した等電位面の分布にも沿う形で方向を変えながら進む性質を持つ。また、同じ電子であっても速度が遅い状態では等電位面の変化に応じて忠実に方向を変えるが速度が速い場合には等電位面の変化に応じずに直進する挙動をとる。一方、正イオンは電子と比べて質量が大きいため、等電位面の変化に応じずに直進する傾向がある。
【0044】
上記の電子あるいは正イオンの挙動を図1に模式的に示している。電子放出材料4から電界放出された電子の電子軌跡8は図示の急峻なカーブを描く。放出された直後で速度が遅い状態の電子が急激に曲がった等電位面の領域を通過するために、このような急峻なカーブを描くことになる。一方、アノード電極3やアノード電極3と電子引出し電極2との間の空間で発生した正イオンはこの空間で十分に加速されて加速イオン9としてカソード貫通孔6、貫通孔7の領域に突入してくる。加速イオン9は等電位面の変化に応じずに直進するので、イオン軌跡10として示すように、カソード貫通孔6の領域をほぼ直進して背後電極5に衝突する。
【0045】
ここで、図1の電極構造において電子が電界放出されて電子軌跡8の通りにアノード電極3に向かうことについて詳しく説明する。図1の等電位面を見るとカソード電極1と電子引出し電極2との間の等電位面が、カソード電極1のカソード貫通孔6の領域ではカソード電極1に沿って膨らんでいる。これはカソード電極1と背後電極5との間の電位差がないためである。その結果、電子放出材料4の部分では電子を外部に引き出す方向に電界がかかることになる。電子放出材料4の表面から突き出したシングルウォールカーボンナノチューブの周辺ではその先鋭な構造によって電界集中が生じてより強い電界となり、電子が実際に放出することになる。このとき、電子放出材料4がカソード貫通孔6の方向に向けて突き出していると電子放出がしやすくなる。従って、電子放出材料4が加速した正イオンによって受ける損傷が大幅に低減される。殊に、加速正イオンの進行方向に対してシングルウォールカーボンナノチューブが横向きに伸びて配置することにより、正イオンから見た面積という観点ではシングルウォールカーボンナノチューブの面積は非常に小さくなるため、衝突の確率を非常に小さくすることができる。しかも、シングルウォールカーボンナノチューブ自身がしなやかな構造を有するため、イオンが衝突してもしなやかに変形して損傷を小さく抑える効果も奏する。特に、正イオンが電子放出材料のどこにも衝突しないで通過するので、実施例1の電子放出装置は衝突により発生する2次粒子や静電気などによる二次被害が全く発生しない構造上の利点を有する。
【0046】
実施例1は、電子放出材料としてシングルウォールカーボンナノチューブを含有した炭素材料を用いた場合であるが、シングルウォールカーボンナノチューブに限らずダブルウォールカーボンナノチューブなどマルチウォールカーボンナノチューブを含有した材料を使用しても同様な動作が可能である。また、カーボンナノコイルやカーボンナノツイストなどの螺旋形状を呈した、所謂ヘリカルカーボンナノファイバや、カーボンファイバ、カーボンナノファイバ、カーボンマイクロコイルなどの繊維状の所謂炭素繊維なども利用可能である。
【0047】
電子放出材料4の形状としては、必ずしも先鋭な構造が突き出している必要はなく、電子放出材料4がカソード電極第2面12にてカソード貫通孔6の淵近傍に配置されていることだけでも同様の効果を奏する。つまり、電子放出材料4の飛び出し(せり出し)量は、カソード電極1の孔淵を原点とし,内径方向を正とすれば、0〜500μmぐらいが好ましいが、0〜−100μmでも可能である。
電子放出材料としては、CNTの他、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド微粒子,ダイヤモンドライクカーボン膜,カーボンナノウォール,グラフェン、カーボンファイバ(炭素繊維)、などの炭素系材料の他、金属酸化物,金属窒化物,金属等で仕事関数が低いことや先鋭な形状などの性質を備えた材料を電子放出材料として単独でカソード電極背面に配置したり、2つ以上の材料を組み合わせて配置したりすることができる。例えば、CNTの表面や近傍に、酸化マグネシウム(MgO)、酸化マグネシウム亜鉛(MgZnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化銀(AgO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化バリウム(BaO)、酸化モリブデン(MoO)などの酸化物、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化マグネシウム(MgF)などのフッ化物、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)などの塩化物、臭化ナトリウム(BrNa)などの臭化物、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)などのヨウ化物、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの半導体、GaPのようなIII属とV属の化合物半導体アルカリ金属、アルカリアンチモンなどのアルカリ金属などを配置し、電子放出能力を高めてもよい。
【0048】
図2は実施例1のカソード貫通孔6の断面形状を示す。カソード貫通孔6は円筒形の孔に対応した断面構造となっている。貫通孔を円筒形状に厳密に穿設するには、微細加工上の困難を伴う場合がある。
図3は本発明におけるカソード貫通孔の別の実施例を示す。図3において、図1及び2と同様の部材については同じ符号を付している。図3のカソード貫通孔部分は孔が端面で広がっていて孔奥方向で縮まっている構造となっている。カソード電極1を製造する工程において金属板の表裏面の両方に同じ大きさの穴の開いたエッチングマスクを被せてエッチング溶液に浸けることにより、図3に示すように、周辺がボトルネック状のカソード貫通孔13を造形することができる。カソード貫通孔13は当該貫通孔の軸方向の途中に孔の断面が縮径された縮径(ボトルネック)部を有し、当該縮径部において凹状に開口した部分の壁面14はアノード電極3又は電子引出し電極2方向から見てカソード電極第2面12に連設している。
【0049】
このボトルネック状のカソード貫通孔13を用いた場合には、電子放出材料4を当該縮径部の壁面14のカソード貫通孔13周辺に堆積形成して配置すればよい。電子放出材料4は壁面14内だけでなく、カソード電極1の平坦な裏側の面に跨って形成してもよい。上記の通り、図3の配置構成においては、カソード電極をエッチングする工程において実際の出来上がりがひさしの構造になっていることを利用して、アノード電極3方向からの正の加速イオンから隠れた位置で且つ電界電子放出が効果的に行われる位置に電子放出材料4を配置した構造となっている。ここで孔の中腹で軸方向にせり出している部分はちょうどボトルネックになっており、この部分の孔の直径は0.4ミリメートルである。電極面の部分での孔の直径は0.5ミリメートルである。なお、アノード電極3方向から見て、カソード電極1の貫通孔13の箇所においてひさしの陰となる面(ひさしの裏となる面)は、カソード電極1の裏側の面の一部、つまりカソード電極第2面12とみなすことができるのは言うまでもない。
【0050】
カソード電極第2面12に対向する位置に電気的に絶縁されて配置された背後電極5のより効果的な使用例を以下に説明する。背後電極5の電位をカソード電極1と同じにして使用した場合には、カソード貫通孔6を通過した正イオンを衝突、回収させる役目として働くにすぎないが、背後電極5を種々の電位に設定することにより種々の応用が可能になる。背後電極としては、カソード電極第2面12に対向する位置に必ずしも配設されてなくてもよく、カソード電極第2面12に対し電位が付与し得る位置で近接ないし隣接して配置するようにしてもよい。
【0051】
背後電極5にカソード電極1(0V)よりも例えば100V低い電位(−100V)を印加して使用する例について説明する。例えば、電子放出の環境真空度が低い場合や電子が照射されるアノード電極3に揮発性の物質が塗布されている場合には正イオンが多く発生して加速しながらカソード電極1の方に向かってくる。この場合には、背後電極5に−100Vを印加すると、背後電極5は正イオンをより多く捕獲することができるので、背後電極5にカソード電極1よりもマイナスの電位を与えることにより電子放出材料4のイオンによる劣化をより抑制することが可能になる。
【0052】
上記の使用例とは反対に背後電極5にカソード電極1よりもプラスの電位を与える使い方について説明する。背後電極5にプラス100Vを与えると、カソード電極1の裏側の面に塗布されている電子放出材料4に、より高い電界を与えることができる。これは背後電極5にプラスの電位を与えることにより、カソード貫通孔6近傍の等電位面がよりカソード電極裏側面にまで回り込んだ状態になることに起因する。従って、同裏側の面に塗布された電子放出材料4から放出される電子が曲がった等電位面、言い換えれば、レンズ状の電界に沿って、より効率的にアノード電極3方向に飛行させることができる。一方,アノード電極3方面から飛んでくる正イオンは質量が大きいため、あまり曲がらずに飛行し、カソード電極1のカソード貫通孔6を通り抜けてほぼ直進し、そのまま背後電極5に吸収させることができ、電子放出機能を向上させることができる。
【0053】
実施例1はカソード電極1とアノード電極3の間に電子引出し電極2を介在させた3極管構成を備えた電子放出装置であるが、本発明は電子引出し電極を用いない2極管構成の電子放出装置に適用することができる。
図4は2極管型電子放出装置の実施例2を示す。
<実施例2>
実施例2は、アノード電極21に隣接したカソード電極20との電極間に生じた電界によってカソード電極20側に配置した電子放出材料22から電子を放出させる2極管型電子放出装置である。実施例2においても、カソード貫通孔23がカソード電極20に隣接したアノード電極21に対向する側のカソード電極面(カソード電極第1面28)と前記隣接したアノード電極21に対向しない側のカソード電極面(カソード電極第2面29)とを貫通している。一点鎖線で示した、貫通孔23の中心線はアノード電極21に至る。電子放出材料22はアノード電極21ら見たカソード電極20の裏側の面である前記カソード電極第2面29に堆積形成されている。アノード電極21はカソード電極第1面28に対向して距離を隔てて配置されている。カソード電極20及びアノード電極21の材料、厚さは実施例1と同様である。カソード電極20裏側には、背後電極5と同様の背後電極24をカソード電極第2面29に対して対向配置している。
【0054】
実施例2においても、実施例1の3極管構成と同様に、アノード電極21とカソード電極20により生じた電界がカソード貫通孔23を通じてカソード電極第2面29、つまりアノード電極21から見たときのカソード電極20裏側の面側に分布する電界分布空間を形成する。この電界分布空間による等電位面を図1と同様に実線で図4に示す。カソード電極20裏側の面に設けた電子放出材料22に対して、カソード貫通孔23を通じてカソード電極第2面29に到達した電界が作用して電子放出を行うことができる。電子放出材料22から電界放出された電子の電子軌跡25は実施例1と同様に図示の急峻なカーブを描く。カソード貫通孔23を通過した正イオンは直進方向26に沿って背後電極24に衝突する。
従って、実施例2の2極管構成においても、実施例1と同様に、アノード電極21方向から加速されて飛行してくる高速正イオン27が電子放出材料22に直射せず、高速正イオン27による電子放出材料22の損傷を防止して電子放出特性の劣化を防ぎ、長寿命化を実現することができる。
【0055】
実施例1及び2は、カソード貫通孔6、貫通孔7、カソード貫通孔23を1個形成した場合であるが、夫々の貫通孔を複数個設けてもよい。殊に、実施例1においては、引出し電極2の貫通孔7とカソード貫通孔6は必ずしも同形及び重畳配置の関係になくてもよく、少なくとも引出し電極2が障壁にならずにエミッション電子が貫通孔7を通過可能であれば、貫通孔7とカソード貫通孔6の中心軸が略一致する配置関係や孔形状にすることができる。
【0056】
本発明に係る電子放出装置は冷陰極電子源として利用できる他、電子放出装置により放出された電子を駆動電子として機能するエミッション電子機能部を有する電子放出型電子機器に好適な駆動電子源として応用することができる。前記エミッション電子機能部による機能には、例えば、ターゲット物質等に対するエミッション電子の照射、衝突、付着、電荷交換、イオン化等による直接的作用だけでなく、ターゲット物質近傍のエミッション電子の通過や周辺への放散等の間接的作用を及ぼす機能が含まれる。電子放出型電子機器の具体例としては、前記エミッション電子機能部が電子放出装置により放出された電子によって発光する発光面からなる発光装置ないしディスプレイ装置、前記エミッション電子機能部が当該電子を透過する透過面を有した電子透過処理装置、当該電子によってX線を放出するX線放出面を有したX線照射装置又は当該電子によってX線を放出すると同時にX線を透過するX線放出透過面を有したX線処理装置である。本発明に係る電子放出装置を用いることにより、高速正イオンによる電子放出材料の損傷を防止して、電子放出特性の劣化を防ぐことができ、電子放出型電子機器の長寿命化ないし性能の向上を実現することできる。電子透過処理装置は表面処理(表面クリーニング、表面加工など)の用途やイオン発生装置などとして、大気中をはじめ高圧や低真空でも利用できる。または、透過後の環境に存在する気体・液体・固体物質のイオン化も可能である。
なお、本発明に係る電子放出装置は、10−3Pa以下の高真空度に気密パッケージ封止して使用されるのが好ましいが、電子放出型電子機器への応用例として、例えば、パッケージ内にガスを封入しておき、放出電子によってガスをイオン化させる場合あるいは電子を大気中(あるいは真空より高い圧力中)へ隔壁を通過させて引き出して封入ガスをイオン化する機能を具備した電子放出型電子機器を実現することができる。
【0057】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の電子放出装置は、電子放出素子として、長期的な劣化が少なく、電子放出が長期間安定して得られる必要のある用途で広く利用することができる。特に、最近、電子放出装置は、エフ・イー・エル(FEL:Field Emission Light)と呼ばれる電子で蛍光体を直接発光させるタイプの照明としての応用が期待されているが、その最も重要な開発課題が寿命であり、本発明の電子放出装置を用いることにより長寿命化を達成でき、エフ・イー・エルの実用化が可能となる。電子放出装置の利用品としては、X線管や電子線照射管があるが、そのいずれにおいてもこの発明は管としての寿命を改善することになるので商品としての価値を一層高めることとなる。
【符号の説明】
【0059】
1 カソード電極
2 電子引出し電極
3 アノード電極
4 電子放出材料
5 背後電極
6 カソード貫通孔
7 貫通孔
8 電子軌跡
9 加速イオン
10 イオン軌跡
11 カソード電極第1面
12 カソード電極第2面
13 カソード貫通孔
14 壁面
20 カソード電極
21 アノード電極
22 電子放出材料
23 カソード貫通孔
24 背後電極
25 電子軌跡
26 直進方向
27 高速正イオン
28 カソード電極第1面
29 カソード電極第2面
30 カソード電極
31 絶縁基板
32 電子引出し電極
33 孔
34 電子放出材料
35 飛散物
36 電子軌跡
37 加速イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード電極に隣接したアノード電極との電極間に印加した電界によって、又は、前記カソード電極と前記アノード電極間に電子引出し電極を配置し、前記カソード電極に隣接した電子引出し電極との電極間に印加した電界によって、前記カソード電極に配置した電子放出材料から電子を放出させる電子放出装置において、
前記隣接したアノード電極又は前記隣接した電子引出し電極に対向する側の前記カソード電極の面(以下、カソード電極第1面という。)と前記隣接したアノード電極又は前記隣接した電子引出し電極に対向しない側の前記カソード電極の面(以下、カソード電極第2面という。)とを貫通するカソード貫通孔を前記カソード電極に1個または2個以上形成し、且つ前記カソード電極と前記アノード電極間に電子引出し電極を配置したときには、前記隣接した電子引出し電極を貫通する貫通孔を前記隣接した電子引出し電極に1個または2個以上形成し、前記カソード電極第2面の前記カソード貫通孔の周辺に前記電子放出材料を配置したことを特徴とする電子放出装置。
【請求項2】
前記カソード貫通孔が当該貫通孔の軸方向の途中に孔の断面が縮径された縮径部を有し、前記アノード電極又は前記電子引出し電極方向から見て前記カソード電極第2面に連設した、当該縮径部の壁面の前記カソード貫通孔周辺に前記電子放出材料を配置した請求項1に記載の電子放出装置。
【請求項3】
前記カソード電極第1面、前記カソード電極第2面及び前記カソード貫通孔の内壁面が導電性を有する請求項1又は2に記載の電子放出装置。
【請求項4】
前記電子放出材料の少なくとも一部が前記カソード貫通孔の内側に突出して、又は前記カソード貫通孔の縁近傍に配置された請求項1〜3のいずれかに記載の電子放出装置。
【請求項5】
前記引出し電極の前記貫通孔と前記カソード貫通孔との中心軸が一致又は略一致する請求項1〜4のいずれかに記載の電子放出装置。
【請求項6】
前記カソード電極第2面に対向する位置、又は隣接する位置に電気的に絶縁されて配置された背後電極を有する請求項1〜5のいずれかに記載の電子放出装置。
【請求項7】
前記カソード電極第2面と前記背後電極の前記カソード電極に対向する面との距離又は隣接最短距離が0.05ミリメートルから10ミリメートルの範囲である請求項6に記載の電子放出装置。
【請求項8】
前記電子放出材料が、カーボンナノチューブ(CNT)、ダイヤモンド膜、ダイヤモンド微粒子,ダイヤモンドライクカーボン膜、カーボンナノウォール、グラフェン、炭素繊維、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物のいずれか、又は、これらの材料の組み合わせである請求項1〜7のいずれかに記載の電子放出装置。
【請求項9】
前記電子放出材料の形状が、繊維状、針上、フレーク状、ウィスカー状、平坦膜状、ディンプル付き膜状、波目付き膜状、皺付き膜状、ギザギザ縁状のいずれか、又は、これらの組み合わせである請求項1〜8のいずれかに記載の電子放出装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の電子放出装置を備え、当該電子放出装置により放出された電子を駆動電子として機能するエミッション電子機能部を有することを特徴とする電子放出型電子機器。
【請求項11】
前記エミッション電子機能部が、前記電子放出装置により放出された電子によって発光する発光面、当該電子を透過する透過面、当該電子によってX線を放出するX線放出面又は当該電子によってX線を放出すると同時にX線を透過するX線放出透過面のいずれかからなる請求項10に記載の電子放出型電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−71022(P2011−71022A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222541(P2009−222541)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(591113541)株式会社ホリゾン (2)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】