説明

電子機器用の樹脂製筐体及び樹脂成形品の製造方法

【課題】簡易な構造で効率良く放熱を行える樹脂成形品を提供する。
【解決手段】発熱部からの熱を受ける領域の樹脂基材21中にカーボンナノチューブ同士が接触することにより所定方向に繋がるように配列したカーボンナノチューブ22を含んだ樹脂成形品20である。樹脂成形品は、一定方向に配列させたカーボンナノチューブ22を含むという簡易な構造で効率良く熱を伝播させて放熱を行える。この樹脂成形品を用いて、発熱部12,13を有する電子機器10を収容する樹脂製筐体を形成すれば内部に発生した熱を効率よく放出して冷却できる。また、カーボンナノチューブは、樹脂基材中で長手方向が筐体の表裏方向に沿うように並んで配列することが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブを含有させた電子機器用の樹脂製筐体及び樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ、プロジェクタ、電子カメラなどの電子機器は著しいスピードで小型されると共に、高密度化されている。このような電子機器内にはCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などの電子素子を中心に構成した電気回路が組込まれており、多量の熱が放出される。そのために電子機器には内部で発生した熱を機外へ放熱させるための種々の放熱構造が組込まれている。例えば、複数のフィンを立設した金属製のヒートシンクを回路基板の背面などに設置させた構造などがよく知られている。しかしながら、このような金属部材を用いる放熱構造は装置の更なる小型、軽量化が困難であり、また金属材料では加工の自由度に制限がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1は、グラファイトとカーボンナノチューブを含有させることにより熱伝導性を付与した樹脂製の成形体、並びにこの成形体(樹脂成形品)をヒートシンクに適用することについて開示する。このような放熱機能を備えた樹脂成形品であれば、軽量で且つ加工性にも富むので放熱構造を小型、軽量化することができる。よって、このような樹脂整形品を利用することで、装置の冷却だけでなく、更なる小型化や軽量化を図ることもできる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−75672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1により開示されている成形体は、内部にカーボンナノチューブがランダムな状態、すなわちカーボンナノチューブが一定の方向性を持たない状態で含有されている。そして、このカーボンナノチューブをグラファイトを介して接続することで熱伝導性を担保する構造を実現している。
【0006】
しかしながら、上記のようにカーボンナノチューブがランダムであると成形体内を熱がスムーズに移動せず、熱伝導効率が低くなってしまう。さらに、この成形体はカーボンナノチューブを接続するグラファイト(黒鉛)を生成させるために焼成工程を介して製造される。よって、この成形体は製造コストが嵩むという問題がある。
【0007】
よって、本発明の目的は、効率良く放熱を行える樹脂成形品を利用することにより放熱性と共に、小型、軽量化及び加工性に富む電子機器用の樹脂製筐体を提供すること、また低コストで電子機器を収容する樹脂成形品を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、発熱部を有する電子機器を収容する樹脂製の筐体であって、前記筐体の前記発熱部からの熱を受ける領域の樹脂中にカーボンナノチューブ同士が接触することにより所定方向に繋がるように配列したカーボンナノチューブを含んでいる、ことを特徴とする電子機器用の樹脂製筐体によって達成できる。また、前記カーボンナノチューブは、長手方向が前記筐体の表裏方向に沿うように配列することが望ましい。さらに、前記筐体の発熱部からの熱を受ける領域の表裏面の少なくとも一方に、更に金属層を設けた構造としてもよい。
【0009】
上記目的は、発熱部を有する電子機器を収容する樹脂成形品の製造方法であって、前記樹脂成形品の前記発熱部からの熱を受ける領域の樹脂中にカーボンナノチューブを混入する第1の工程と、前記樹脂を固化させる前に、磁場を印加して前記カーボンナノチューブを所定方向に配列させる第2の工程とを含む、ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法によって達成できる。
【0010】
また、前記第2の工程の後に、前記カーボンナノチューブを脱磁する第3の工程をさらに含むことがより好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、簡易な構造で効率良く放熱を行える樹脂成形品を提供できる。そして、このような樹脂成形品を用いると小型、軽量化及び加工性に富む電子機器用の樹脂製筐体を提供できる。また、本発明の製造法によると上記樹脂成形品を低コストで製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明をカメラ付き携帯電話の筐体に適用した場合の実施例について説明する。図1は、カメラ付き携帯電話1のカメラ周辺構成を模式的に示した図である。この携帯電話1は筐体となる下ケース2と上ケース3とが形成する内部空間にカメラモジュール10を収納している。
【0013】
カメラモジュール10の基板11は下ケース2上に固定されており、この基板11に撮像素子としてのCCD12、このCCD12の駆動を制御するDSP13及び鏡筒14が固定されている。鏡筒14内の所定位置にはレンズ15が固定されている。鏡筒14及び上ケース4のそれぞれには、撮像用の開口4、16が設けられている。カメラモジュール10は、CCD12の代わりにC−MOSを採用したり、DSP13の代わりにISP(Image Signal Processor)を採用してもよい。
【0014】
上記携帯電話1のカメラ機能を作動させると、CCD12及びDSP13が主な発熱部となって、多量の熱を発生させる。そこで、この携帯電話1は筐体となるケースのCCD12やDSP13のIC等が設けられている部分に対向する発熱部からの熱を受ける領域HRに熱伝導性に優れた樹脂成形品を採用している。以下、この樹脂成形品について説明する。
【0015】
図2は、カメラ機能を作動させたときにCCD12及びDSP13から熱が発生する様子を模式的に示した図である。また、この図2では円内CRに下ケース2の構造を拡大した模式図で示している。
【0016】
下ケース2は樹脂成形品20であり、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)、PSS(ポリフェニレンサルファイド)或いはPBTとABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)との混合物などを樹脂基材21とし、この樹脂基材21中の発熱部からの熱を受ける領域にカーボンナノチューブ22を含んでいる。
【0017】
カーボンナノチューブ22は、樹脂基材21中に重量比(wt%)で10〜30%程度が含有されている。理想的には樹脂基材21中にカーボンナノチューブ22が30%で含有されていることが好ましいが、カーボンナノチューブは極めて高価な原料である。その一方で、重量比が10%未満になってしまうと密度が低くなり過ぎて熱伝導効果を期待できなる。そこで、対費用効果の観点から少なくとも10%程度のカーボンナノチューブを樹脂基材21中に含有させるのが好ましい。
【0018】
そして、図2の円内で示すように、樹脂基材21でカーボンナノチューブ22の長手方向が所定方向に向くように、つまりカーボンナノチューブ22同士が接触することにより所定方向に繋がるように配列されている。言い換えると、カーボンナノチューブ22の長手方向がCCD12やDSP13のIC等の発熱部から筐体外側に向く方向に配列されている。しかしながら、カーボンナノチューブ22は、きれいに並ぶ必要はなく、長手方向が発熱部から筐体外側に向く方向におおよそ向くように配列されればよい。このようにカーボンナノチューブ22の長手方向を発熱部から筐体外側に向く方向に配列させると、カーボンナノチューブ22同士が接触しやすくなり、カーボンナノチューブ22の長手方向が発熱部から筐体外側に向く方向に接触して繋がることとなる。より具体的には、筐体内で主な発熱部となるCCD12等から発生した熱HTを効率良く放出できるように、表裏方向(ケース面に垂直な方向)におおよそ揃うようにカーボンナノチューブ22が配列(異方化)されている。このため、カーボンナノチューブ22同士が表裏方向に接触して繋がることとなる。このようにカーボンナノチューブ22を異方化されるための手法については後述するが、カーボンナノチューブ22が表裏方向に向くように配列させると、内部で発生した熱HTをケース外に効率良く伝播させることができる。また、このようにカーボンナノチューブ22を配列させると、少量のカーボンナノチューブ22であっても効率良く接触させて繋がるようにできるので、低コスト化が図れる。
【0019】
なお、下ケース2及び上ケース3をPBT等の樹脂基材21と、この中に配列された(接触して繋がった)所定量のカーボンナノチューブ22を含有させた樹脂成形品として形成しもよい。このようにすれば、ケース2、3内に蓄積した熱をほぼ全面で放出できるので、短時間にて装置内の冷却を図ることができる。ただし、前述したように、カーボンナノチューブは極めて高価な素材である。そこで、例えば主な発熱部となるCCD12やDSP13と対面し、特に熱を受ける領域HR部分に限定して配列された(接触して繋がった)カーボンナノチューブ22を配備するのがよい。例えば、領域HR部分にはカーボンナノチューブ22を混ぜた樹脂を、他の部分には、カーボンナノチューブ22が混ざっていない樹脂を採用して2色成形により一体成形してもよい。2色成形にすると組立の工程数を増やすことなく、効率的にカーボンナノチューブ22を配備させることができる。また、領域HR部分には、別工程で成形されたカーボンナノチューブ22を混ぜた樹脂成形品を配置し、カーボンナノチューブ22が混ざっていない樹脂によりインサート成形で一体成形してもよい。このような構造を採用すれば、所定の冷却構造を実現しつつ、製造コストの低減も図ることができる。
【0020】
さらに、上記のように所定方向に配列されたカーボンナノチューブを含む樹脂成形品を製造する方法について図を参照して説明する。
【0021】
図3は、カーボンナノチューブ22を含有する樹脂成形品を製造する工程について示した図である。カーボンナノチューブ22を含まない樹脂と熱を受ける領域HR部分とを2色成形により一体成形するが、ここでは、領域HR部分に設けられる樹脂成形体の製造工程について説明する。図3(A)は樹脂基材21にカーボンナノチューブ22を混入した状態を示している。この図で示すように単にカーボンナノチューブを混入しただけでは配置がアトランダムとなってしまう。このような配置で樹脂基材を固化させるとカーボンナノチューブを混入したことにより熱伝導率が向上するが、限界がある。ちなみに、樹脂基材21の熱伝導率は例えば0.4(W/(m・k) ワット/メートル・ケルビン)程度であり、熱伝導率が極めて低い。これにカーボンナノチューブを単に混入しただけ((A)の状態)の樹脂成形品は、例えば5〜6W/(m・k)程度に向上するだけである。
【0022】
これに対して、図(B)で示すように、樹脂基材を固化させる前に磁場を印加する。ここで印加する磁場は例えば0.4T〜10T(テスラ)である。このように磁場中にカーボンナノチューブ22を置くと、図示のように向きを揃えて並べることができる。また、前述したように樹脂基材21中に一定以上の含有率(重量比で10%以上)のカーボンナノチューブを混合しておくと、カーボンナノチューブ22同士の接触を図ることができる。この状態で樹脂基材21を次の工程(C)で固化させればカーボンナノチューブ22を一定の向きに揃えた状態(異方性化した状態)で固定できる。図3(C)で示す樹脂成形品は、熱伝導率を約20W/(m・k)程度にまで向上させることができる。すなわち、熱伝導率を単にカーボンナノチューブ22を混入した場合の約4倍に向上させることができる。領域HR以外の部分は、カーボンナノチューブ22が混ざっていない樹脂で成形され、領域HR部分の樹脂成形品と2色成形により一体に成形される。よって、このようにして製造した樹脂成形品で、図1及び図2に示すケース2を成形すれば内部の熱を効率良く外部に発散できる筐体となる。
【0023】
図3を用いた上記の説明から明らかなように、本実施例の樹脂成形品は発熱部から熱を受ける領域の樹脂基材21にカーボンナノチューブ22を混入し、磁場処理するという簡単な工程で製造される。よって、従来のようにグラファイトなど他の材料を用いないシンプルな構成となる。よって、低コストにて製造できる。
【0024】
なお、上記のようにカーボンナノチューブ22を配列するために磁場中に置くと、製造した樹脂成形品に磁力が残留する場合がある。残留した磁力が駆動用の電磁アクチュエータやスピーカー等に悪影響を与える虞がある。そこで、図3(D)で示すように最後に脱磁処理を施しておくことがより好ましい。脱磁をすれば、モジュールが小型になって駆動用の電磁アクチュエータやスピーカー等の電磁駆動部がカーボンナノチューブ22を設けた位置に近づいて配置されても磁力の影響を受けることがない。このため、電磁駆動部に影響を与えることなく小型のモジュールに採用できる。このように製造した樹脂材を所定形状に成形すれば、例えば図1、2に示したケース2などの樹脂成形品とすることができる。
【0025】
図4は、上記実施例の携帯電話の下ケース2に改善を加えた変形例について示した図である。図1及び図2と同一部位には、同じ符号を付している。この下ケース2の発熱部からの熱を受ける領域の内外壁面には金属層30、31が更に付加されている。このように更に金属層を設けると放熱効果を向上させることができる。
【0026】
以上説明した実施例から明らかなように、一定方向に配列させ、その一定方向にカーボンナノチューブ22同士を接触させて繋げるという簡易な構造のカーボンナノチューブ22を含む樹脂成形品20で効率良く放熱を行える。また、このような樹脂成形品を筐体となるケース2等に利用することで放熱性と共に、小型、軽量化及び加工の自由度を得ることができる。さらに、前述した製造方法を採用することで低コストにて樹脂成形品を製造できる。
【0027】
上記実施例では携帯電話を電子機器の一例として示しているが、パソコンやプロジェクタの筐体、デジタルカメラなどのレンズホルダなど、発熱部を有する多くの電子機器に本発明を同様に適用できることは言うまでもない。
【0028】
以上、本発明の好ましい一実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例に係るカメラ付き携帯電話のカメラ周辺構成を模式的に示した図である。
【図2】カメラ機能を駆動させたときにCCD及びDSPから熱が発生する様子を模式的に示した図である。
【図3】カーボンナノチューブを含有する樹脂成形品を製造する工程について示した図である。
【図4】実施例の携帯電話のケースに改善を加えた変形例について示した図である。
【符号の説明】
【0030】
1 携帯電話(電子機器)
2 下ケース(筐体)
3 上ケース(筐体)
12 CCD(発熱部)
13 DSP(発熱部)
20 樹脂成形品
21 樹脂基材
22 カーボンナノチューブ
HT 熱
HR 熱を受ける領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱部を有する電子機器を収容する樹脂製の筐体であって、
前記筐体の前記発熱部からの熱を受ける領域の樹脂中にカーボンナノチューブ同士が接触することにより所定方向に繋がるように配列したカーボンナノチューブを含んでいる、ことを特徴とする電子機器用の樹脂製筐体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブは、長手方向が前記筐体の表裏方向に沿うように配列されている、ことを特徴とする請求項1に記載の電子機器用の樹脂製筐体。
【請求項3】
前記筐体の発熱部からの熱を受ける領域の表裏面の少なくとも一方に、更に金属層を設けた、ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子機器用の樹脂製筐体。
【請求項4】
発熱部を有する電子機器を収容する樹脂成形品の製造方法であって、
前記樹脂成形品の前記発熱部からの熱を受ける領域の樹脂中にカーボンナノチューブを混入する第1の工程と、
前記樹脂を固化させる前に、磁場を印加して前記カーボンナノチューブを所定方向に配列させる第2の工程とを含む、ことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程の後に、前記カーボンナノチューブを脱磁する第3の工程をさらに含むことを特徴とする請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−168263(P2007−168263A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369280(P2005−369280)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】