説明

電子機器用接着剤組成物、その製造方法、およびそれを用いた電子機器用接着剤シート

【課題】接着剤シートと被着体との位置決め時や製品のラミネート時には適度なタック力を有し、熱硬化させると十分な接着力を有する電子機器用接着剤組成物、電子機器用接着剤シートおよびそれを用いた電子部品を提供すること。
【解決手段】(A)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して得られる変性熱可塑性樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(D)無機粒子を含有することを特徴とする電子機器用接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用接着剤組成物に関する。より詳しくは、補強板(スティフナー)、放熱板(ヒートスプレッダー)、半導体素子や配線基板(インターポーザー)用半導体集積回路を実装する際に用いられるテープオートメーテッドボンディング(TAB)方式のパターン加工テープ、ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用インターポーザー等の半導体接続用基板、フレキシブルプリント基板(FPC)におけるカバーレイや銅張り積層板およびその補強板、多層基板における層間接着剤、およびそれらを用いた基板部品、リードフレーム固定テープ、LOC固定テープ、半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板等の支持部材との接着剤すなわちダイボンディング材、シールド材等に好適に用いられる電子機器用接着剤組成物、電子機器用接着剤シートおよびそれを用いた電子部品ならびに電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路(IC)パッケージにおいて、多ピン化、小型化の手段としてBGA方式、LGA方式、PGA方式等が実用化されてきた。中でもBGA方式はプラスチック材料の利用による低コスト化、軽量化、薄型化の可能性が高く注目されている。
【0003】
図1にBGA型半導体装置の例を示す。半導体集積回路1を接続するために絶縁体層3および導体パターン5、接着剤層4からなる配線基板層、補強板(スティフナー)、放熱板(ヒートスプレッダー)、シールド板等の導体パターンが形成されていない層7、およびこれらを積層するための接着剤層6を、それぞれ少なくとも1層以上有しており、さらに金バンプ2、ソルダーレジスト8をもち、半導体集積回路1を接続した半導体集積回路接続用基板の外部接続部としてICのピン数にほぼ対応する半田ボール9を格子状(グリッドアレイ)に有している。
【0004】
一方、BGA方式は以下のような課題がある。(a)半田ボールの面の平面性を保つ、(b)放熱を良くする、(c)温度サイクルやリフローの際に半田ボールにかかる熱応力を緩和する、(d)リフロー回数が多いのでより高い耐リフロー性を要する。これらを改善する方法として、半導体集積回路接続用基板に補強、放熱、電磁的シールドを目的とする金属板等の材料を積層する方法が一般的である。この方法は、特に、ICを接続するための絶縁体層および導体パターンからなる配線基板層にTABテープやフレキシブルプリント基板を用いた場合は重要である。
【0005】
接着剤層は、最終的にパッケージ内部に残留する。接着剤層に要求される特性は、(a)易加工性、(b)耐リフロー性、(c)温度サイクルやリフローの際に、配線基板層と補強板等の異種材料間で発生する応力吸収(低応力性)、(d)配線上に積層する場合の絶縁性等が挙げられる。
【0006】
耐リフロー性は、半田浴浸漬、不活性ガスの飽和蒸気による加熱(ペーパーフェイズ法)や赤外線リフロー等パッケージ全体が高温に加熱される実装方法において要求される特性である。近年、環境への負荷を考慮し、外部端子接続に使用される半田からの鉛フリー化が取り組まれている。この各種鉛フリー半田は現行の鉛系半田より融点が高いため、接着剤に要求される耐リフロー性が高くなってきている。
【0007】
接着剤層に要求される別の特性として、易加工性が挙げられるが、耐リフロー性を向上させるために、接着性を向上させようとすると、硬化前の接着剤層の粘着性が強くなる傾向がある。このため接着剤シートと被着体の張り合わせの位置決めをする際に張り付いてしまい、著しく作業性が悪化したり、接着剤シートと被着体とを張り合わせる際に気泡が接着剤と被着体の界面に残留し、リフロー時に膨張して耐リフロー性が低下するといった問題があった。
【0008】
これに対し、特定の(メタ)アクリル酸エステルの共重合体とエポキシ樹脂を含有する熱硬化型接着剤が提案されている(例えば、特許文献1〜2参照)。また、エポキシ樹脂、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム、硬化剤を必須成分とする接着剤層において、エポキシ樹脂の一部と硬化剤の一部をあらかじめ反応させ、その他成分を混合することにより貼り付け作業性を向上させたカバーレイフィルムが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、これらの接着剤は粘着性がないため、位置決めの際に仮止めができず加工性が十分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2000−96003号公報(第8〜10段落)
【特許文献2】特開2000−319612号広報(第7〜8段落)
【特許文献3】特開2000−219854号公報(第5〜8段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、従来の硬化型接着剤組成物は、耐リフロー性を向上させるために接着力を向上させようとするとタック性が強くなり、作業性が悪化したり、ラミネートの際、接着剤と被着体の界面に気泡が残留することで製品の歩留まりが悪化するという問題があり、加工性と耐リフロー性等の特性がバランスよく得られなかった。
【0010】
本発明はこの問題点を解決し、位置決め時や製品のラミネート時には適度なタック力を有し、熱硬化させると十分な接着力を有する電子機器用接着剤組成物および電子機器用接着剤シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は主として以下の構成を有する。すなわち、(A)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して得られる変性熱可塑性樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(D)無機粒子を含有することを特徴とする電子機器用接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電子機器用接着剤組成物は、被着体との適度なタック力を持つ為、被着体と接着剤との位置決めやラミネート時の加工性に優れ、熱硬化させると十分な接着力を有する電子機器用接着剤シートを得ることができる。さらに、この接着剤シートを用いて各部材を積層することにより、耐リフロー性に優れた電子機器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の電子機器用接着剤組成物(以下接着剤組成物という)は、スティフナー、ヒートスプレッダー、半導体素子や配線基板(インターポーザー)用半導体集積回路を実装する際に用いられるテープオートメーテッドボンディング(TAB)方式のパターン加工テープ、ボールグリッドアレイ(BGA)パッケージ用インターポーザー等の半導体接続用基板、またフレキシブルプリント基板(FPC)やその補強板、カバーレイや銅張り積層板、多層基板の層間接着剤、およびそれらを用いた基板部品、リードフレーム固定テープ、LOC固定テープ、半導体素子等の電子部品とリードフレームや絶縁性支持基板等の支持部材との接着剤すなわちダイボンディング材、シールド材等に使用でき、それら被着体の形状および材料は特に限定されない。
【0014】
以下、本発明の構成を詳述する。本発明の接着剤組成物は、(A)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して得られる変性熱可塑性樹脂(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(D)無機粒子を含有する。
【0015】
本発明の接着剤組成物は、(A)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して得られる変性熱可塑性樹脂を含有する。かかる樹脂を含有することにより、少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、硬化剤および無機粒子を同時に混合する場合と比較して、被着体とのタック性をコントロールすることができ、その結果作業性が向上する。
【0016】
少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂(ABS)、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−エチレン樹脂(SEBS)、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン等公知の熱可塑性樹脂にエポキシ基と反応可能な官能基が導入された、あるいは分子末端にエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂が挙げられる。ここで、エポキシ基と反応可能な官能基の具体例としては、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、メチロール基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0017】
これらの中でも、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、スチレン−ブタジエン−エチレン樹脂(SEBS)、スチレン−ブタジエン樹脂(SBS)等のブタジエンを共重合成分とする共重合体は、金属との接着性、耐薬品性等の観点から好適に用いられる。さらに、ブタジエンを共重合成分とし、かつカルボキシル基を有する共重合体はより好ましく用いられ、例えば、カルボキシル化NBR(NBR−C)、カルボキシル化SEBS(SEBS−C)およびカルボキシル化SBS(SBS−C)等が挙げられる。NBR−Cとしては、例えばアクリロニトリルとブタジエンを約10/90〜50/50のモル比で共重合させた共重合ゴムの末端基をカルボキシル化したもの、あるいはアクリロニトリル、ブタジエンとアクリル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有重合性単量体の三元系共重合ゴム等が挙げられる。具体的には、PNR−1H(JSR(株)製)、“ニポール”1072、“ニポール”1072J、“ニポール”DN612、“ニポール”DN631(以上日本ゼオン(株)製)、“ハイカー”CTBN(BFグッドリッチ社製)等がある。また、SEBS−CとしてはMX−073(旭化成(株)製)が、SBS−CとしてはD1300X(シェルジャパン(株)製)が例示できる。
【0018】
アクリル樹脂は、炭素数1〜8の側鎖を有するアクリル酸および/またはメタクリル酸エステルを共重合成分とする共重合体にエポキシ樹脂との反応が可能な官能基を導入したものなどが挙げられる。
【0019】
これらのエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂は、一種もしくは複数種用いても良い。また、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂のみでなく、かかる官能基を有しない熱可塑性樹脂を併用しても良い。
【0020】
変性熱可塑性樹脂の作製にあたり、加熱混合されるエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂中の官能基の総モル数Gと、エポキシ樹脂中のエポキシ基の総モル数Eの比G/Eは、反応性の点で0.5〜2であることが好ましい。G/Eがこの範囲内であることで熱可塑性樹脂の変性が適度に進行する。
【0021】
加熱混合されるエポキシ樹脂の種類は特に限定されないが、接着性、耐薬品性、絶縁性に優れる点で、ジシクロペンタジエンエポキシ樹脂、ビフェニル型骨格を含有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等が好ましい。
【0022】
変性熱可塑性樹脂の作製にあたり、加熱混合される硬化剤の種類は、熱可塑性樹脂の変性を促進する点でジアミン系の硬化剤が好ましい。加熱混合される硬化剤の活性水素のモル数Hとエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数Eの比H/Eは、変性の促進効果の点で0.7〜5の範囲内であることが好ましい。H/Eを0.7以上とすることにより熱可塑性樹脂の変性が効果的に進行し、5以下とすることでエポキシ基と硬化剤間で起こる硬化反応の進行を抑えられる。
【0023】
本発明の接着剤組成物に、(A)成分の他に変性されていない熱可塑性樹脂を含有することは何ら制限されない。
【0024】
かかる熱可塑性樹脂の具体例としては、先に例示したアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂(ABS)、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−エチレン樹脂(SEBS)、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。これらの熱可塑性樹脂は、エポキシ基と反応可能な官能基を有していても良いし、有していなくても良い。
【0025】
本発明の接着剤組成物は、(B)エポキシ樹脂を含有する。エポキシ樹脂を含むことにより、耐熱性、高温での絶縁性、耐薬品性、接着剤層にしたときの強度等の物性バランスを実現することができる。エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものなら特に制限されず、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型骨格を含有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、およびハロゲン化エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0026】
これらのエポキシ樹脂の中で、本発明において好ましく使用されるのは、接着性、耐薬品性、絶縁性に優れる点で、ジシクロペンタジエンエポキシ樹脂、ビフェニル型骨格を含有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0027】
ビフェニル型骨格を含有するエポキシ樹脂の好ましい具体例としては、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5 ’−テトラメチルビフェニル、4,4 −ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3 ’,5,5’−テトラメチル−2−クロロビフェニル、4,4’− ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3 ’,5,5 ’−テトラメチル−2−ブロモビフェニル、4,4 ’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3 ’,5,5 ’−テトラエチルビフェニル、4,4 ’−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−3,3’,5,5’−テトラブチルビフェニル、ビフェニル骨格含有エポキシ樹脂NC−3000(日本化薬(株)製)、YL6954(JER(株)製)等が挙げられる。
【0028】
ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂の好ましい具体例としては、1,5−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ナフタレン、1,5−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−7−メチルナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−2−メチルナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−8−メチルナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−4,8−ジメチルナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−2−ブロモナフタレン、1,6−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)−8−ブロモナフタレン等が挙げられる。
【0029】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の好ましい具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールF型エポキシ樹脂、下記一般式(II)で示されるエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0030】
【化1】

【0031】
上記式中、R〜R22は水素原子、炭素数が1〜20の飽和炭化水素基またはハロゲン原子を表す。nは0〜10の整数を表す。
【0032】
本発明の接着剤組成物中に含有されるエポキシ樹脂の量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して5〜400重量部が好ましく、より好ましくは20〜200重量部である。ここで、熱可塑性樹脂とは、変性熱可塑性樹脂と、変性されていない熱可塑性樹脂を含めたものを意味する。また、ここでいうエポキシ樹脂は、(B)成分のエポキシ樹脂と、(A)変性熱可塑性樹脂を構成するエポキシ樹脂の総量を指す。エポキシ樹脂の含有量を5重量部以上とすることで、高温での弾性率を向上させることができ、400重量部以下とすることで、線膨張係数を高めて熱応力の緩和効果が得られるとともに、リフロー工程において被着体との接着界面で生じるクラックの発生を抑えることができる。
【0033】
本発明の接着剤組成物は、エポキシ基と架橋反応する(C)硬化剤を含有とする。エポキシ基と架橋反応する硬化剤を含有することで硬化後の接着力が向上する。硬化剤の例としては、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’,3,3’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4,4’−トリアミノジフェニルスルホン等の芳香族ポリアミン、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素のアミン錯体、ジシアンジアミド、フェノール樹脂、後述するイミダゾールシラン等が使用できる。これらを単独または2種以上用いても良い。硬化剤の含有量は、接着剤組成物中の硬化剤の活性水素のモル数Hとエポキシ樹脂のエポキシ基のモル数の比H/Eが0.3〜1.1の範囲内であることが好ましい。H/Eが0.3以上であれば接着剤を加熱処理し硬化させる際の反応が十分に進行し、1.1以下であれば接着性が向上する。ここでいう硬化剤は、(C)成分の硬化剤と、(A)変性熱可塑性樹脂を構成する硬化剤の総量を指す。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、硬化促進作用の向上の点で、(C)硬化剤としてイミダゾールシランと称される、一般式(I)で表されるイミダゾール化合物を含有することが好ましい。イミダゾールシランは、イミダゾール基がエポキシ樹脂に対して硬化促進作用を有するとともに、銅および銅合金に対して錯体を形成して高い吸着能も有する。また、アルコキシシリル基が金属や無機材料からなる基材とも強く吸着するため基材との密着性が向上する。さらに、XあるいはXにエポキシ基と反応する官能基が導入されている場合、さらに架橋密度が上がり、接着力およびリフロー耐熱性が向上する。エポキシ基と反応する官能基としては、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、メチロール基、イソシアネート基、ビニル基、シラノール基等が挙げられる。また、イミダゾールシランは、アルコキシシリル基の長さに起因して接着剤硬化物の弾性率を低下させる傾向にあることから、本発明において好ましく用いられるイミダゾールシランのRとRのアルキル鎖の炭素数の合計は1〜15の範囲であり、炭素数1〜5がより好ましい。
【0035】
【化2】

【0036】
ただし、Rは水素または炭素数1〜20の飽和炭化水素基を表す。Rは水素、ビニル基または炭素数1〜5のアルキル基を表す。R〜Rはそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1〜10のアルキル基を表す。XおよびXはそれぞれ同じでも異なってもよく、水素、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、メチロール基、イソシアネート基、ビニル基、シラノール基または炭素数1〜3のアルキル基を表す。pおよびqは1〜10の整数、lは1〜3の整数、rは1〜5の整数を表す。
【0037】
一般式(I)で表されるイミダゾール化合物の含有量は、接着剤組成物中に含まれるエポキシ基に対して0.05〜2.0mol%が好ましく、0.3〜1.0mol%がより好ましい。ここで、接着剤組成物中に含まれるエポキシ基とは、熱可塑性樹脂にエポキシ基が含まれる場合には、熱可塑性樹脂およびエポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の総量を指す。0.05mol%以上とすることで、硬化促進作用が得られ、接着力が向上する。一方、2.0mol%以下とすることで、弾性率を高く保ち、接着剤膜の強度と耐熱性を向上させることができる。
【0038】
また、イミダゾールシランとともに硬化速度の調整等のために公知のイミダゾール化合物を含有してもよい。例として、2−アルキル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−アルキルイミダゾール等のイミダゾール誘導体が挙げられる。これら公知のイミダゾール化合物の含有量は、一般式(I)で表されるイミダゾール化合物100重量部に対して20〜100重量部が好ましい。
【0039】
本発明の接着剤組成物は、さらに(D)無機粒子を含有することにより、接着剤膜強度が増し、応力分散能が向上するため優れた耐リフロー性が得られる。また、打ち抜き性等の加工性、熱伝導性、難燃性を一層向上させることができる。無機粒子は、接着剤の特性を損なうものでなければ特に限定されず、シリカ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素を単独または2種以上混合して用いても良い。中でも熱分解温度が300℃を大きく超えるため接着剤の耐リフロー性に有利である点、接着剤シートの流動性を調整しやすい点、粒径の安定性からシリカが特に好ましい。粒子形状、結晶性は特に制限されず、破砕系、球状、鱗片状等が用いられるが、塗料への分散性の点から、球状が好ましく用いられる。さらに無機粒子の粒径は特に限定されないが、分散性および塗工性、耐リフロー性、熱サイクル性等の信頼性の点で、平均粒径3μm以下、最大粒径10μm以下のものが好ましく用いられ、より好ましくは平均粒径1μm以下、最大粒径6μm以下、さらに好ましくは、平均粒径0.7μm以下、最大粒径2μm以下である。なお、ここでいう平均粒径、最大粒径は堀場LA500レーザー回折式粒度分布計で測定したものをいう。また、粒子の純度は99%を超え、好ましくは99.8%を超え、さらに好ましくは99.9%を超えることが好ましい。特に、不純物イオンのNaイオンは0.1ppm以下、Clイオンは0.2ppm以下であることが好ましい。また、無機粒子の含有量は接着剤組成物中2〜50重量%が適当である。無機粒子の含有量を2重量%以上とすることで、リフロー耐熱性の向上効果が得られ、50重量%以下とすることで、接着力を向上させることができる。
【0040】
また、無機粒子は、(A)変性熱可塑性樹脂を得る工程で、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂および硬化剤とともに加熱混合すると、分散性が向上するため好ましい。
【0041】
また、本発明の接着剤組成物は、エポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂を含有してもよい。具体的には、フェノール樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、フラン樹脂、シアン酸エステル樹脂、等公知のものが例示される。エポキシ樹脂との反応性が良く、絶縁性に優れることから、フェノール樹脂は特に好ましい。
【0042】
フェノール樹脂としてはノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等の公知のフェノール樹脂がいずれも使用できる。たとえば、フェノール、クレゾール、p−t−ブチルフェノール、ノニルフェノール、p−フェニルフェノール等のアルキル置換フェノール、テルペン、ジシクロペンタジエン等の環状アルキル変性フェノール、ニトロ基、ハロゲン基、シアノ基、アミノ基等のヘテロ原子を含む官能基を有するもの、ナフタレン、アントラセン等の骨格を有するもの、ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビスフェノールS、レゾルシノール、ピロガロール等の多官能性フェノールからなる樹脂が挙げられる。フェノール樹脂の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、5〜400重量部が好ましく、より好ましくは20〜200重量部である。ここで、熱可塑性樹脂とは、変性熱可塑性樹脂と、変性されていない熱可塑性樹脂を含めたものを意味する。フェノール樹脂の含有量をこの範囲にすることにより、接着力と耐熱性を両立させることができる。
【0043】
次に、本発明の接着剤組成物の製造方法について説明する。本発明の接着剤組成物は、(1)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して(A)変性熱可塑性樹脂を得る工程、(2)少なくとも(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(1)の工程で得られた(A)変性熱可塑性樹脂を混合する工程により得ることができる。
【0044】
予め変性熱可塑性樹脂を得た後、他の成分を混合することにより、接着剤全体の硬化反応が必要以上に進行することを防ぎ、接着剤層の塗工性、作製された接着剤シートの接着性、保存安定性が向上するため好ましい。
【0045】
(1)の変性熱可塑性樹脂を得る工程は加熱を行うため、耐熱性のある容器中で行われることが好ましい。変性熱可塑性樹脂の反応率は7〜70%が好ましい。反応率を7%以上とすることでタック性を抑えることができ、70%以下とすることで塗料調合後の塗工性が向上する。加熱温度・時間などの条件は、接着剤組成に応じて適宜選択すればよい。また、(2)の(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(1)の工程で得られた(A)変性熱可塑性樹脂を混合する工程は、(1)の工程と継続して同じ容器中で行っても、異なる容器に移して行っても良い。
【0046】
(2)の混合する工程は固形分が完全に溶解し、均一になるまで充分に混合する必要がある。固形分が溶解しにくい場合や、接着剤溶液が均一になりにくい場合は30〜50℃程度の加熱をしても良い。加熱温度・時間などの条件は、接着剤組成に応じて適宜選択すれば良い。
【0047】
本発明の電子機器用接着剤シート(以下接着剤シートという)とは、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層と、1層以上の剥離可能な保護フィルム層とを有する構成のものをいう。たとえば、保護フィルム層/接着剤層の2層構成、あるいは、図2に示す保護フィルム層11/接着剤層12/保護フィルム層11の3層構成がこれに該当する。 また、接着剤層と保護フィルム層以外に別の層を有していても良い。例えば接着剤層の内部にポリイミド等の絶縁性フィルムを積層した複合構造等がこれにあたる。
【0048】
また、接着剤自体の粘着性を下げ、銅箔や補強板等の被着体への貼り合わせ時における気泡の噛み込みを防止するため、接着剤層の片面もしくは両面を粗面化してもよい。接着剤層自体の粘着性が高くとも、粗面化することで貼り合わせる対象物への接点が分散されることにより、粘着性が低減される。接着剤の粗面化の方法としては、特に限定されるものではないが、次の例が挙げられる。接着剤組成物を溶剤に溶解した塗液を、エンボス加工やサンドマット加工等により表面に凹凸を有するフィルム上に塗布、乾燥し、半硬化状態の接着剤シートを作製することにより、フィルムの凹凸が接着剤シート表面に転写される。また、接着剤シートの保護フィルムとして、凹凸のあるフィルムを用いてラミネートすれば同様に凹凸が接着剤シート表面に転写される。ただし、フィルム表面の凹凸に接着剤が埋まり込むことより、実際の使用の際、フィルムを剥がしにくくなり得るため、使用するフィルムとして特に本発明で好ましく用いられるものは、離型性の調節に優れる、シリコーンあるいは含フッ素化合物等の離型処理を施したフィルムである。その他にも、接着剤シートを凹凸のあるゴムロール等で表面粗化することもできる。また、通常の接着剤層に、低粘着な接着剤層を薄く積層して粘着性を下げる手法と表面粗化を組み合わせることで、より低粘着な接着剤シートにすることもできる。低粘着な接着剤層の具体的な例としては、無機粒子を増量した組成からなる接着剤、もしくは薄厚の接着剤シートを加熱エージングすることで粘着性をコントロールしたもの等が挙げられる。
【0049】
接着剤層表面のタック力は、加工性の点から90〜200kN/mが好ましく、120〜170kN/mがより好ましい。ここでいうタック力は接着剤表面の粘着性を数値化するための指標であり、株式会社レスカ製タッキング試験機により測定される。直径5.1mmのステンレス製の円筒状プローブにて加圧0.98N、加圧時間2.0秒、引き剥がし速度600mm/分の条件でプローブを接着剤層表面に押しつけ、引き剥がしたときに測定されるピーク加重をタック力とする。
【0050】
接着剤層の厚みは、弾性率および線膨張係数との関係で適宜選択できるが、2〜500μmが好ましく、より好ましくは20〜200μmである。
【0051】
ここでいう保護フィルム層とは、絶縁体層および導体パターンからなる配線基板層(TABテープ等)あるいは導体パターンが形成されていない層(スティフナー等)に接着剤層を貼り合わせる前に、接着剤層の形態および機能を損なうことなく剥離できれば特に限定されない。たとえばポリエステル、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリビニルブチラール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート等のプラスチックフィルム、これらにシリコーンあるいはフッ素化合物等の離型剤のコーティング処理を施したフィルムおよびこれらのフィルムをラミネートした紙、離型性のある樹脂を含浸あるいはコーティングした紙等が挙げられる。保護フィルム層は、加工時に視認性が良いように顔料による着色が施されていても良い。これにより、先に剥離する側の保護フィルムが簡便に認識できるため、誤使用を避けることができる。
【0052】
接着剤層の両面に保護フィルム層を有する場合、それぞれの保護フィルム層の接着剤層に対する剥離力をF、F(F>F)としたとき、F−Fは好ましくは5Nm−1以上、さらに好ましくは15Nm−1以上である。F−Fを5Nm−1以上とすることで、目的の保護フィルム層を安定して剥離することができるため作業性が良い。また、剥離力F、Fはいずれも好ましくは1〜200Nm−1、さらに好ましくは3〜100Nm−1である。この範囲であれば、保護フィルム層の脱落や、接着剤層の損傷等のトラブルを防ぐことができる。
【0053】
次に本発明の接着剤組成物を用いた接着剤シートの製造方法の例について説明する。
【0054】
(a)本発明の接着剤組成物を溶剤に溶解した塗料を、離型性を有するポリエステルフィルム上に塗布、乾燥する。接着剤層の膜厚は10〜100μmとなるように塗布することが好ましい。乾燥条件は、100〜200℃、1〜5分が好ましい。溶剤は特に限定されないが、トルエン、キシレン、クロルベンゼン等の芳香族系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、Nメチルピロリドン等の非プロトン系極性溶剤あるいはこれらの混合物が好適である。
【0055】
(b)(a)のフィルムに上記よりさらに剥離強度の弱い離型性を有するポリエステルあるいはポリオレフィン系の保護フィルム層をラミネートして本発明の半導体装置用接着剤シートを得る。さらに接着剤厚みを増す場合は、該接着剤層を複数回積層すればよい。ラミネート後に、たとえば40〜70℃で20〜200時間程度熱処理して硬化度を調節してもよい。
【0056】
本発明における電子部品とは、本発明の接着剤シートを用いて作製されるものをいい、例えば半導体集積回路接続用基板が挙げられる。
【0057】
半導体集積回路接続用基板は、シリコン等の半導体基板上に素子が形成された後、切り分けられた半導体集積回路(ベアチップ)を接続するものであり、(A)絶縁体層および導体パターンからなる配線基板層、(B)導体パターンが形成されていない層および(C)接着剤層をそれぞれ1層以上有するものであれば、形状、材料および製造方法は特に限定されない。したがって、最も基本的なものは、A/C/Bの構成であるが、A/C/B/C/B等の多層構造もこれに含まれる。
【0058】
(A)絶縁体層および導体パターンからなる配線基板層は、半導体素子の電極パッドとパッケージの外部(プリント基板等)を接続するための導体パターンを有する層であり、絶縁体層の片面または両面に導体パターンが形成されているものである。
【0059】
ここでいう絶縁体層は、ポリイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、アラミド、ポリカーボネート、ポリアリレート等のプラスチックあるいはエポキシ樹脂含浸ガラスクロス等の複合材料からなる、厚さ10〜125μmの可撓性を有する絶縁性フィルム、あるいはアルミナ、ジルコニア、ソーダガラス、石英ガラス等のセラミック基板が好適であり、これらから選ばれる複数の層を積層して用いてもよい。また、必要に応じて、絶縁体層に加水分解、コロナ放電、低温プラズマ、物理的粗面化、易接着コーティング処理等の表面処理を施すことができる。
【0060】
導体パターンの形成は、一般にサブトラクティブ法あるいはアディティブ法のいずれかで行われるが、本発明ではいずれを用いてもよい。
【0061】
サブトラクティブ法では、絶縁体層に銅箔等の金属板を絶縁性接着剤で接着するか、あるいは金属板に絶縁体層の前駆体を積層し、加熱処理等により絶縁体層を形成する方法で作製した材料を、薬剤処理でエッチングすることによりパターン形成する。材料の具体例としては、リジッドあるいはフレキシブルプリント基板用銅張り材料やTABテープ等が挙げられる。中でも、少なくとも1層以上のポリイミドフィルムを絶縁体層とし、銅箔を導体パターンとするフレキシブルプリント基板用銅張り材料やTABテープが好ましく用いられる。
【0062】
アディティブ法では、絶縁体層に無電解メッキ、電解メッキ、スパッタリング等により直接導体パターンを形成する。いずれの場合も、形成された導体に腐食防止のため耐食性の高い金属がメッキされていてもよい。また、配線基板層には必要に応じてビアホールが形成され、両面に形成された導体パターンがメッキにより接続されていてもよい。
【0063】
(B)導体パターンが形成されていない層は、実質的に(A)絶縁体層および導体パターンからなる配線基板層または(C)接着剤層とは独立した均一な層であり、半導体集積回路接続用基板の補強および寸法安定化(補強板あるいはスティフナーと称される)、外部とICの電磁的なシールド、ICの放熱(ヒートスプレッター、ヒートシンクと称される)、半導体集積回路接続基板への難燃性の付与、半導体集積回路接続用基板の形状的による識別性の付与等の機能を担持するものである。したがって、形状は層状だけでなく、たとえば放熱用としてはフィン構造を有するものでもよい。上記の機能を有するものであれば絶縁体、導電体のいずれであってもよく、材料も特に限定されない。金属としては、銅、鉄、アルミニウム、金、銀、ニッケル、チタン、ステンレス等、無機材料としてはアルミナ、ジルコニア、ソーダガラス、石英ガラス、カーボン等、有機材料としてはポリイミド系、ポリアミド系、ポリエステル系、ビニル系、フェノール系、エポキシ系等のポリマー材料が挙げられる。また、これらの組み合わせによる複合材料も使用できる。例えば、ポリイミドフィルム上に薄い金属メッキをした形状のもの、ポリマーにカーボンを練り込んで導電性をもたせたもの、金属板に有機絶縁性ポリマーをコーティングしたもの等が挙げられる。また、上記(A)配線基板層に含まれる絶縁体層と同様に種々の表面処理を行うことは制限されない。
【0064】
一般的には、パターン形成された銅箔等の金属板の上からさらにカバーレイフィルムで保護する。このカバーレイフィルムにも本発明の接着剤組成物を用いることができる。さらにこの可撓性を有する配線基板に金属板または有機絶縁性フィルム等の補強板を貼り付ける際の接着剤層としても本発明の接着剤組成物を用いることができる。
【0065】
本発明のカバーレイフィルムの主な構成としては、ポリイミドフィルムまたはアラミドフィルム等の有機絶縁性フィルム(厚み12.5〜125μm)/接着剤層(厚み5〜50μm)/剥離可能な保護フィルム(厚み12.5〜125μm)等が挙げられる。
【0066】
本発明の、接着剤層を介して有機絶縁性フィルムと銅箔を張り合わせた銅張りポリイミドフィルムの主な構成としては、例えば片面品:銅箔(厚み9〜35μm)/接着剤層(厚み5〜20μm)/ポリイミドフィルム(厚み12.5〜125μm)、両面品:銅箔(厚み9〜35μm)/接着剤層(厚み5〜20μm)/ポリイミドフィルム(厚み12.5〜125μm)/接着剤層(厚み5〜20μm)/銅箔(厚み9〜35μm)等が挙げられる。また銅箔とは、一般的に圧延銅箔、電解銅箔等を用いることができるが、銅張りポリイミドフィルム、フレキシブルプリント配線基板、FPCの屈曲特性をより安定させる上で、圧延銅箔が好適である。
【0067】
また、テープオートメーテッドボンディング(TAB)用接着剤付きテープとしては、剥離可能なポリエステル保護フィルム(厚み12.5〜150μm)/接着剤層(厚み5〜200μm)/剥離可能なポリエステル保護フィルム(厚み12.5〜150μm)等を所定の規格幅(29.7〜60.6mm)にスリットした接着剤シートを、幅35〜70mmの規格幅の絶縁性フィルムの中央部に100〜160℃、10N/cm、5m/分の条件で熱ロールラミネートして作製されたもの等が例示される。
【0068】
半導体集積回路接続用基板とICの接続方法は、TAB方式のギャングボンディングおよびシングルポイントボンディング、リードフレームに用いられるワイヤーボンディング、フリップチップ実装での樹脂封止、異方性導電フィルム接続等のいずれでもよい。また、CSPと称されるパッケージも本発明の電子部品に含まれる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。まず、各実施例で行った評価方法について述べる。
【0070】
(1)接着力:0.35mm厚のSUS304上に接着剤層膜厚50μmの接着剤シートの一方の保護フィルムを剥がし130℃、1MPaの条件でラミネートした。その後、ポリイミドフィルム(厚み75μm:宇部興産(株)製“ユーピレックス75S”)を先のSUS上にラミネートした接着剤シートのもう一方の保護フィルムを剥がし130℃、1MPaの条件でさらにラミネートした後、0.5MPa加圧下、180℃、1分の加熱処理を行い、評価用サンプルを作製した。ポリイミドフィルムを5mm幅にスリットした後、5mm幅のポリイミドフィルムを90°方向に50mm/分の速度で剥離し、その際の接着力を測定した。ここで、接着力としては、加工性、ハンドリング性、半導体装置の信頼性の観点より、5N/cm以上であることが好ましい。
【0071】
(2)耐リフロー性:30mm角に型抜きした50μm厚の接着剤シートの一方の保護フィルムを剥がし、30mm角の0.25mm厚SUS304の上に置く。シート同士がくっついている場合は、手でくっついている部分を剥がして行う。60℃、1MPa、1m/分の条件でロールラミネートした後、続いて接着剤シートのもう一方の保護フィルムを剥がし導体幅100μm、導体間距離100μmの模擬パターンを形成した30mm角の半導体接続用基板を150℃、5MPa、1m/分の条件でロールラミネートした。その後、0.5MPa加圧下、180℃、1分の条件で硬化し耐リフロー性評価用サンプルを作製した。30mm角サンプル20個を30℃/70%RHの条件下、168時間吸湿させた後、すみやかに温度設定のされた赤外線リフロー炉を通過させて膨れが発生したか否かを超音波探傷機により観察した。赤外線リフロー炉の最高温度は245℃、260℃の2条件で行い、保持時間は各10秒である。評価用サンプル20個片中で膨れが発生したサンプル数をカウントした。
【0072】
(3)変性熱可塑性樹脂の反応率:示差走査熱量差測定法(DSC法)により、変性熱可塑性樹脂を得る工程で加熱混合する前後の反応熱量より反応率を算出した。反応率は、加熱混合した後の組成物の反応熱を加熱混合する前の組成物の反応熱量で除した値に100を乗じた値とした。反応熱量の測定にはセイコーインスツルメンツ社製DSC6200を使用し、昇温速度10℃/分で測定した。また、反応熱量を測定する前に組成物に含まれる溶媒成分を真空乾燥で良く乾燥させた。
【0073】
(4)タック力:株式会社レスカ製タッキング試験機TAC−IIを使用し、直径5.1mmの円筒状のステンレス製のプローブにて加圧0.98N、加圧時間2.0秒、引き剥がし速度600mm/分の条件で接着剤シート表面の粘着力を測定し、ピーク時の粘着力をタック力とした。
【0074】
(5)加工性:100mm角に型抜きした50μm厚の接着剤シートの一方の保護フィルムを剥がし、接着剤面を下側にしてポリイミドフィルム(厚み75μm:宇部興産(株)製“ユーピレックス75S”)の上に加重をかけずに置いた。10秒後にポリイミドフィルム面に対し接着剤シートを垂直方向に剥離させ、接着剤シートがポリイミドに対し適度に粘着しており、また簡単に剥離させることができるかを評価した。
【0075】
実施例1〜18、比較例1〜2
下記熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂、無機粒子、イミダゾール化合物、その他添加剤を、それぞれ表1〜2に示した組成となるように配合した。配合の手順は以下の通りである。
【0076】
表1〜2中各実施例の(1)変性熱可塑性樹脂を得る工程で加熱混合する成分の欄に示した各成分を配合し、濃度25重量%となるようにDMF/モノクロルベンゼン/MIBK=1/1/1(重量比)混合溶媒を添加した。これを40℃で撹拌、溶解したのちに80℃で2時間加熱混合し、熱可塑性樹脂の官能基とエポキシ樹脂のエポキシ基、硬化剤の反応を促進させ、変性熱可塑性樹脂組成物を作製した。この変性熱可塑性樹脂組成物を含んだ溶液を40℃まで冷却し、表1〜2中各実施例の(2)(A)変性熱可塑性樹脂と混合工程で混合する成分の欄に示した各成分を添加し、濃度28重量%となるようにDMF/モノクロルベンゼン/MIBK=1/1/1(重量比)混合溶媒を添加した。比較例1のように(1)変性熱可塑性樹脂を得る工程で加熱混合する成分の欄に記載が無いものについては、前記の加熱混合の工程は行わず、各成分を配合し、濃度28重量%となるようにDMF/モノクロルベンゼン/MIBK=1/1/1混合溶媒を添加した。これを40℃で撹拌、溶解し、接着剤溶液を作製した。
【0077】
上記の手順で作製した接着剤溶液をバーコータで、シリコーン離型剤付きの厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(藤森工業(株)製“フィルムバイナ”GT)(保護フィルム)に約50μmの乾燥厚さとなるように塗布し、120℃で5分間乾燥し、保護フィルムを貼り合わせて、本発明の接着剤シートを作製した。各実施例・比較例の評価結果を表1〜2に示す。実施例に使用した各原材料は次の通りである。
【0078】
<無機粒子>
無機粒子1:球状シリカ(SO−C5、平均粒径1.6μm(株)アドマテックス製)
無機粒子2:球状シリカ(SO−E1、平均粒径2.0μm(株)アドマテックス製)
無機粒子3:水酸化アルミニウム(H−42、昭和電工(株)製)
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂1:NBR−C(Nipol1072、日本ゼオン(株)製、カルボキシル基当量1320)
熱可塑性樹脂2:NBR−C(PNR−1H、JSR(株)製、カルボキシル基当量1340)
熱可塑性樹脂3:アクリル樹脂(SG−280DR、帝国化学産業(株)製:ブチルアクリレートを主成分とするカルボキシル基含有アクリルゴム)
NBR−Cのカルボキシル基当量は水酸化カリウムとフェノールフタレイン溶液による中和滴定により求めた。
【0079】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ(エピコート828、エポキシ当量190、ジャパンエポキシレジン(株)製)
エポキシ樹脂2:ビスフェノールA型エポキシ(エピコート1001、エポキシ当量474、ジャパンエポキシレジン(株)製)
エポキシ樹脂3:ο−クレゾールノボラック型エポキシ(EOCN−1020、エポキシ当量200、日本化薬(株)製)
エポキシ樹脂4:ジシクロペンタジエン型(HP−7200、エポキシ当量:260、大日本インキ化学工業(株)製)
<硬化剤>
硬化剤1:4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(セイカキュアS、アミン当量62)
硬化剤2:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3DAS、アミン当量62)
硬化剤3:フェノールノボラック樹脂(PSM4326、水酸基当量105、群栄化学工業(株)製)
硬化剤4:イミダゾールシラン(IS−1000、(株)日鉱マテリアルズ製)
硬化剤5:2−エチル−4−メチルイミダゾール(EMI24、ジャパンエポキシレジン(株)製)
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
表1〜2から明らかなように、本発明により得られた接着剤シートは適度なタック力を有し加工性に優れ、熱硬化後には十分な接着力を有する。一方、比較例1はあらかじめ加熱混合した変性熱可塑性樹脂を含まないためにタック力が高く、加工性が劣っている。比較例2は全ての成分を同時に加熱混合したため、組成物全体の硬化反応が進行し、タック力および熱硬化後の接着力が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】BGA型半導体装置(BOC)の一態様の断面図。
【図2】本発明の電子機器用接着剤シートの一態様の断面図。
【符号の説明】
【0084】
1 半導体集積回路
2 金バンプ
3 絶縁体層
4 接着剤層
5 導体パターン
6 接着剤層
7 導体パターンが形成されていない層
8 ソルダーレジスト
9 半田ボール
10 封止樹脂
11 保護フィルム層
12 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と、硬化剤とを加熱混合して得られる変性熱可塑性樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(D)無機粒子を含有することを特徴とする電子機器用接着剤組成物。
【請求項2】
(A)変性熱可塑性樹脂が、ブタジエンを必須共重合成分とする共重合体を含有することを特徴とする請求項1記載の電子機器用接着剤組成物。
【請求項3】
ブタジエンを必須共重合成分とする共重合体が、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、メチロール基およびイソシアネート基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有することを特徴とする請求項2記載の電子機器用接着剤組成物。
【請求項4】
(C)硬化剤が、一般式(I)で表されるイミダゾール化合物を含有することを特徴とする請求項1記載の電子機器用接着剤組成物。
【化1】

(ただし、Rは水素または炭素数1〜20の飽和炭化水素基を表す。Rは水素、ビニル基または炭素数1〜5のアルキル基を表す。R〜Rはそれぞれ同じでも異なってもよく、炭素数1〜10のアルキル基を表す。XおよびXはそれぞれ同じでも異なってもよく、水素、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基、メチロール基、イソシアネート基、ビニル基、シラノール基または炭素数1〜3のアルキル基を表す。pおよびqは1〜10の整数、lは1〜3の整数、rは1〜5の整数を表す。)
【請求項5】
(A)変性熱可塑性樹脂を構成する、エポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂中のエポキシ基と反応可能な官能基の総モル数Gと、加熱混合するエポキシ樹脂中のエポキシ基の総モル数Eの比G/Eが0.5〜2.0の範囲であることを特徴とする請求項1記載の電子機器用接着剤組成物。
【請求項6】
(A)変性熱可塑性樹脂を構成する、加熱混合する硬化剤中の活性水素の総モル数Hと、加熱混合するエポキシ樹脂中のエポキシ基の総モル数Eの比H/Eが0.7〜5の範囲であることを特徴とする請求項1記載の電子機器用接着剤組成物。
【請求項7】
(1)少なくともエポキシ基と反応可能な官能基を有する熱可塑性樹脂と、エポキシ樹脂と硬化剤とを加熱混合して(A)変性熱可塑性樹脂を得る工程と、(2)少なくとも(B)エポキシ樹脂、(C)硬化剤および(1)の工程で得られた(A)変性熱可塑性樹脂を混合する工程とを少なくとも有することを特徴とする請求項1記載の電子機器用接着剤組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載の電子機器用接着剤組成物からなる接着剤層と、1層以上の剥離可能な保護フィルム層とを有する電子機器用接着剤シート。
【請求項9】
接着剤層のタック力が90〜200kN/mであることを特徴とする請求項8記載の電子機器用接着剤シート。
【請求項10】
請求項8記載の電子機器用接着剤シートを用いた電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−169469(P2007−169469A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369341(P2005−369341)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】