説明

電子機器用筐体およびその製造方法

【課題】 筐体全体の強度と曲げ剛性を向上することで、外力が加わった場合の撓み変形量を小さくして、液晶表示装置などを損傷させず、また、携帯型情報機器用としてより軽量にすることでき、さらに、塗装などの表面処理を施すことで意匠性を向上し得る、筐体およびその製造方法を得る。
【解決手段】 素材として、押出法や圧延法などで成形された、表面性状が鋳造材などに比較して格段に優れる展伸材を用い、しかも、この素材を筐体の各部に応じて不等肉厚として、鍛造加工を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用筐体およびその製造方法に関し、例えばノートブック型パーソナルコンピュータ(以下、「ノートパソコン」と言う)に代表される電子機器用筐体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、ノートパソコンの一例の側面図である。図7に示すノートパソコン70は、主基板やキーボードなどが搭載される本体77と、表示部72からなっている。表示部72は、主に、液晶表示装置73(表示面73a)と、この液晶表示装置73を収納する筐体74からなっている。筐体74は、液晶表示装置73の表示面73a以外の面を保護する背面筐体(以下、「背面筐体」および「電子機器用筐体」を略して単に「筐体」という)71と、表示面73aの周囲を保護する枠筐体76により構成されている。表示部72は、本体77と適度な摩擦を持たせたヒンジ78を介して開閉自在に取付けられ、液晶表示装置73が見やすいように適宜な開き角度Θで保持されるようになっている。ヒンジ78は、表示部72側では、ヒンジ78の取付部78aが、筐体71の取付面79に形成されたボス75に小ネジなどで取り付けられている。
【0003】
さて、筐体71は、機械的強度の向上や電磁シールドおよび液晶表示装置73から発生する熱を放つため、また軽量化を図るため、アルミニウム合金よりも密度が小さく強度の大きいマグネシウム合金により成形されたものが普及してきている。例えば、特許文献1には、マグネシウム合金をダイカスト法で成形し、略矩形状の中央部に凸状の隆起部を形成した筐体が提案されている。図8は、特許文献1に提案されるノートパソコン80用の筐体を示し、(a)は、主基板やキーボードなどが搭載される本体87に対して表示部82を閉じた状態の斜視図、(b)は表示部82の一部断面図である。図8(a)(b)で、81は表示部82のうちの筐体で、この筐体81と枠筐体86の間に液晶表示装置83(表示面83a)が配置されている。筐体81には、平面部81aから1〜3mmの隆起部81b(段差H81)が設けられている。この特許文献1によれば、1〜3mmの隆起部81b(段差H81)を設けることで、断面2次モーメントが高くなって、剛性が向上し、筐体81の中央に外力Fが加わった場合でも、隆起部81b(段差H81)がない場合に比較して撓み変形量が小さくなり、許容できる範囲で筐体81の平均肉厚t81を薄くできるとしている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−204174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図7に戻り、ノートパソコン70の表示部72は、使用されるその都度、ヒンジ78を介して開閉されるが、この開閉は通常、表示部72の上端72aを持って行われる。その際、ヒンジ78が取り付けられるボス75の取付面79には、ねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかることになる。特許文献1に提案される筐体には、ヒンジの取り付けについて具体的な提案はないが、ヒンジ78を取り付けるボス75の取付面79に、ねじりや曲げ応力が集中してかかると、ボス75の取付面79や上端72aが大きく撓み変形して、収納している液晶表示装置を損傷させるおそれがある。また、特許文献1に提案される筐体は、マグネシウム合金溶湯を射出成形することで、図8での主要部肉厚T81を0.8mm程度まで薄くできるとしているが、マグネシウム合金溶湯を射出成形して得られる筐体は、その製法上の制約から、比較的厚肉のものに限定され、ノートパソコンなどの携帯型情報機器用として、より軽量にすることは難かしい。さらに、特許文献1に提案される筐体は、その製造過程中に鋳造欠陥や酸化物を内部および表面に介在させる恐れが皆無ではないため、品質の良好なものを工業的に量産しにくいという問題があり、意匠性を上げようと、塗装などの表面処理を施そうとしても、これが困難となるおそれもある。
【0006】
したがって、本発明の課題は、筐体全体の強度と曲げ剛性を向上することで、外力が加わった場合の撓み変形量を小さくして、液晶表示装置などを損傷させず、また、携帯型情報機器用としてより軽量にすることでき、さらに、塗装などの表面処理を施すことで意匠性を向上し得る、筐体およびその製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、素材として、押出法や圧延法などで成形された、表面性状が鋳造材などに比較して格段に優れる展伸材を用い、しかも、この素材を筐体の各部に応じて不等肉厚として、鍛造加工を施すことで、上記課題が解決できるとの知見を得、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の筐体は、金属材料に鍛造加工が施され、略矩形状の平面部と、該矩形状の平面部の一部に補強面と、前記平面部の両側に立設する側壁とを備えるようにした電子機器用筐体であって、前記補強面の主要部肉厚が、前記平面部の主要部肉厚より厚肉に形成され、かつ、前記側壁の主要部肉厚が、前記補強面の主要部肉厚と同じかまたは厚肉に形成されていることを特徴とする。
【0009】
この構成とすることで、筐体全体の強度と曲げ剛性が向上され、外力が加わった場合の撓み変形量を小さくして、液晶表示装置などを損傷させず、また、携帯型情報機器用としてより軽量にすることでき、さらに、塗装などの表面処理を施すことで意匠性を向上し得るようになる。
【0010】
本発明において、前記筐体は、マグネシウム合金からなり、平面視で、幅が200〜350mm、奥行きが150〜300m、前記平面部の主要部肉厚が0.5〜0.8mm、前記補強面の主要部肉厚が0.7〜1.2mm、前記側壁の主要部肉厚が1.0〜1.5mmに形成され、その内面に液晶表示装置を収納する、ノートパソコン用の筐体であり、前記補強面が、ヒンジを取り付けるためのボス取付面であることが好ましい。
【0011】
マグネシウム合金は、密度が1.8であり、軽量化材料として多用されているアルミニウムの密度2.7と比較しても、非常に小さい。したがって、マグネシウム合金を用いて携帯型情報機器とすることで、さらに軽量化することできる。また、鍛造により、筐体の各部を上記の異なる肉厚として、ヒンジを取り付けるためのボス取付面を含めた筐体全体の強度と曲げ剛性が向上され、外力が加わった場合の撓み変形量を小さくして、ノートパソコン用の筐体として、液晶表示装置などを損傷させないようになる。
【0012】
次に、本別発明の筐体の製造方法は、金属材料からなる不等肉厚展伸材に鍛造加工が施され、もって、略矩形状の平面部と、該矩形状の平面部の一部に補強面と、前記平面部の両側に立設する側壁とを備えると共に、前記平面部、補強面、および側壁のうちの少なくとも1つが、互いの主要部肉厚を異なるように成形されることを特徴とする。この構成とすることで、強度と曲げ剛性が向上され、軽量で、しかも意匠性が向上された筐体を製造することができる。
【0013】
本別発明の筐体の製造方法において、前記不等肉厚展伸材は、前記鍛造加工が施される前、前記補強面となる中間部の肉厚が、前記平面部となる中央部の肉厚より厚肉とされ、かつ、前記側壁となる外側の肉厚が、前記中間部の肉厚と同じまたは厚肉とされていることが好ましい。この構成とすることで、鍛造加工が施された後、容易に、不等肉厚展伸材の中央部を筐体の平面部、中間部をヒンジの取付面、外側を側壁とすることができる。
【0014】
本別発明の筐体の製造方法において、前記不等肉厚展伸材は、鍛造加工が施された後、前記中間部の一部が、前記中央部と実質的に同じ肉厚にされていることが好ましい。この構成とすることで、中間部の一部が、中央部と実質的に同じ肉厚まで薄くされるので、さらに軽量の筐体を製造することができ、また筐体内に収納する部品の容積を増すことができ、また、内蔵部品との干渉を防止することができる。
【0015】
本別発明の筐体の製造方法において、前記不等肉厚展伸材は、マグネシウム合金からなり、前記中央部の肉厚が0.5〜0.8mm、前記中間部の肉厚が0.7〜1.2mm、前記外側の肉厚が1.0〜1.5mmとされていることが好ましい。この構成とすることで、強度と曲げ剛性が向上され、軽量な筐体を製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の筐体およびその製造方法によれば、筐体全体の強度と曲げ剛性を向上することで、外力が加わった場合の撓み変形量を小さくして、液晶表示装置などを損傷させず、また、携帯型情報機器用としてより軽量にすることでき、さらに、塗装などの表面処理を施すことで意匠性を向上し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1に係るノートパソコン用の筐体11を示し、(a)はヒンジの取付面13側から見た平面図、(b)は(a)でのX−X断面図、(c)は(a)でのY−Y断面図、(d)は(c)でのZ部拡大図である。図1で、筐体11は、金属材料の一つのマグネシウム合金からなり、略矩形状の平面部12と、この平面部12の一部の角隅に補強面13と、平面部12の両側に立設する側壁14とを備えている。補強面13には、ヒンジ(図示せず)が取り付られるボス15a〜15dが、スタッド溶接により接合されている。そして、補強面13の主要部肉厚t13が、平面部12の主要部肉厚t12より厚肉に形成され、かつ、側壁14の主要部肉厚t14が、補強面13の主要部肉厚t13と同じかまたは厚肉に形成されている。具体的には、筐体11は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、平面視で、幅Wが260mm、奥行きDが210mm、平面部12の主要部肉厚t12が0.7mm、補強面13の主要部肉厚t13が0.9mm、補強面13の寸法が(E)40mm×(F)25mm、側壁14の主要部肉厚t14が1.2mmで、側壁の高さHが10mmとされている。前後壁16の中央部の主要部肉厚t12は、平面部12の肉厚t12と同じにされている。また、補強面13に接合されるボス15a〜15dは、外径が6mmとされ、ヒンジ(図示せず)を固定するための雌ねじ15sが形成されている。このように、補強面13の主要部肉厚t13が0.9mmと、平面部12の主要部肉厚t12の0.7mmより厚肉に形成されているので、補強面13の強度と曲げ剛性が向上されている。さらに、側壁14の主要部肉厚t14が1.2mmと、補強面13の主要部肉厚t13の0.9mmより厚肉に形成されているので、筐体11全体の強度と曲げ剛性が向上されている。したがって、筐体11が、ヒンジ(図示せず)を介して開閉され、ボス15が取り付けられる補強面にねじりや曲げ応力が集中し、しかも繰り返しかかっても、筐体11の撓み変形量を小さくして、収納する液晶表示装置などを損傷させず、また、携帯型情報機器用としてより軽量にされている。
【0018】
次に、図2に基づき、図1に示した筐体11の製造方法について説明する。図2は、筐体11の製造工程を示す図であり、(A)は、ビレットを不等肉厚展伸材に押出している状態、(B)は、押出した不等肉厚展伸材を切断している状態、(C)は、不等肉厚展伸材にボスを接合している状態、(D)はボスと共に不等肉厚展伸材を鍛造している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の平面図である。なお、各工程(A)〜(D)ごとに、主要部肉厚は変化するのであるが、説明の簡略化のため、各工程(A)〜(D)を通じ、同じ部位の主要部肉厚は同符号で示している。
【0019】
(A)押出
図2(A)で、21aはコンテナと呼ばれる耐熱容器、Bはコンテナ21aに装填される、金属材料の一つの(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなるビレット、21bはビレットBを押し出すステム、21cは、図に対して直角方向の中央部、この中央部と外側の中間部、外側にかけ3段に幅が増されたダイス、11Aは押出加工された不等肉厚展伸材である。ビレットBは、耐熱容器に挿入された後、ステム21bに加えた押込力Pで押し込まれ、ダイス21cにより不等肉厚展伸材11Aとされる。このとき、耐熱容器21aは400℃に加熱され、ビレットBは耐熱容器21a挿入前に460℃に加熱され、ダイス21cは470℃に加熱されている。ダイス21cから押出加工された不等肉厚展伸材11Aは、全幅(図示せず)が305mmで、中間部の肉厚t13が0.9mmで、中央部の肉厚t12の0.7mmより厚肉とされ、かつ、外側の肉厚t14が1.2mmで、中間部の肉厚t13の0.9mmより厚肉にされている。
【0020】
(B)切断
図2(B)で、下刃22aと上刃22bは、不等肉厚展伸材11Aを切断するための切断刃である。押出加工された不等肉厚展伸材11Aは、下刃22a上に載置された後、上刃22bが下降されて、幅Wbが300mmで、奥行きDbが250mmに切断されると共に、隅角にR加工が施され、鍛造後の筐体形状を見込んだ形状の切断材(ブランク材)11Bとされている。
【0021】
(C)ボス接合
図2(C)で、X−Yステージ付きの自動スタッド溶接装置(図示せず)の保持台上に不等肉厚展伸材11Aが載置された後、把持具で把持されたボス15a〜15dが、各々、正確に位置決めされ、スタッド溶接されている。これにより、不等肉厚展伸材11Aと4個のスタッド15a〜15dが仮接合され、ボス接合材11Cとされている。
【0022】
(D)鍛造
図2(D)で、24aは下型、24bは上型である。下型24a、上型24bともに380℃に加熱保持され、鍛造前のボス接合材11Cは430℃に加熱されている。ボス接合材11Cは、下型24a上に載置された後、上型24bが下降されて、鍛造速度30spm、荷重9000kNで鍛造されている。そして、鍛造後の素材11Dは、側壁14がほぼ直角に立ち上げられ、幅Wが260mm、奥行きDが210mmで、さらに、中間部の肉厚t13の一部が中央部の肉厚t12と同じ肉厚にされ、平面部12の主要部肉厚t12が0.7mm、補強面13の主要部肉厚t13が0.9mm、側壁14の主要部肉厚t14が1.1mmとされている。鍛造後の素材11Dには、周辺にバリが発生するので、このバリを除去するトリミング処理が行われ、次いで、ボス15への雌ねじほかの機械加工(図示せず)が施され、さらに、仮防食の後、塗装や陽極酸化皮膜処理などの表面処理が施され、図1に示す筐体11とされている。
【0023】
上記の製造方法によれば、品質の良好な筐体を工業的に量産でき、しかも、筐体に塗装などの表面処理を施すことで意匠性を向上し得るようになる。
【0024】
(実施の形態2)
本発明の筐体は、実施の形態1に限らず、例えば図3(a)〜(c)に示す、実施の形態2、3、4とすることもできる。
先ず、図3(a)は、実施の形態2に係る筐体11−2の幅方向断面図である。図3(a)で、筐体11−2は、マグネシウム合金からなり、略矩形状の平面部12と、この矩形状の平面部12の一部に補強面13と、平面部12の両側に立設する側壁14とを備えている。筐体11−2は、中央部が周囲より突出している。そして、補強面13の主要部肉厚t13が、平面部12の主要部肉厚t12より厚肉に形成され、かつ、側壁14の主要部肉厚t14が、補強面13の主要部肉厚t13と同じまたは厚肉に形成されている。補強面13は、ヒンジ(図示せず)を取り付けるためのボス取付面とされ、ボス取付面を除く部位は平面部12の肉厚t12とほぼ同じにされている。実施の形態2に係る筐体11−2は、中央部が周囲より突出しているので、全体の剛性をさらに向上することができる。
【0025】
(実施の形態3)
図3(b)は、実施の形態3に係る筐体11−3の補強面13側から見た平面図である。図3(b)で、筐体11−3は、マグネシウム合金からなり、略矩形状の平面部12と、この矩形状の平面部12の一部に補強面(二点鎖線で示す)13と、平面部12の両側に立設する側壁14とを備えている。そして、補強面13の主要部肉厚t13が、平面部12の主要部肉厚t12より厚肉に形成され、かつ、側壁14の主要部肉厚t14が、補強面13の主要部肉厚t13と同じまたは厚肉に形成されている。前後壁16の中央部の主要部肉厚t12は、平面部12の肉厚t12と同じにされている。補強面13は、ヒンジ(図示せず)を取り付けるためのボス取付面とされている。ボス取付面を除く面15も、補強面13の肉厚t13と同じにされている。実施の形態3に係る筐体11−3は、ボス取付面を除く面15も、補強面13の肉厚t13と同じにされているので、やや軽量でなくなるものの、筐体11−3の剛性をさらに向上することができる。
【0026】
(実施の形態4)
図3(c)は、実施の形態4に係る筐体11−4の幅方向断面図である。図3(c)で、筐体11−4は、マグネシウム合金からなり、略矩形状の平面部12と、この矩形状の平面部12の一部の略中央に補強面13と、平面部12の両側に立設する側壁14とを備えている。そして、補強面13の主要部肉厚t13が、平面部12の主要部肉厚t12より厚肉に形成され、かつ、側壁14の主要部肉厚t14が、補強面13の主要部肉厚t13と同じまたは厚肉に形成されている。実施の形態4に係る筐体11−4は、中央の補強面により、全体の剛性を向上することができ、液晶表示装置を内蔵する場合はこれを保護することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
次に、筐体の形状と、(1)筐体全体の強度、(2)撓み変形量、(3)軽量化、および(4)意匠性との関係について、具体例をもとに説明する。図4で、(a)は実施例に係る筐体11の、左側は部分平面図、右側は矢視E−E断面図、(b)は比較例に係る筐体41の、左側は部分平面図、右側は矢視F−F断面図、(c)は従来例に係る筐体51の、左側は部分平面図、右側は矢視G−G断面図である。
【0028】
図4(a)に示す、実施例に係る筐体11は、前述した実施の形態1と同じにしている。すなわち、図1に戻り、実施例の筐体11は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、平面視で、幅Wを260mm、奥行きDを210mm、平面部12の主要部肉厚t12を0.7mm、補強面13の主要部肉厚t13を0.9mm、補強面13の寸法を(E)40mm×(F)25mm、側壁14の主要部肉厚t14を1.2mmとしている。また、補強面13に接合するボス15a〜15dは、外径を6mmとしている。
【0029】
図4(b)に示す、比較例に係る筐体41は、(ASTM規格)AZ31マグネシウム合金からなり、等肉厚の展伸材を素材とし、この素材の平面部42にボス45をスタッド溶接で接合した後、鍛造加工を施している。そして、鍛造加工を施した後の筐体41は、平面視で、幅Wを260mm、奥行きDを210mm、実施例のような補強面は形成せず、平面部42の肉厚t42および側壁44の肉厚t44ともに同じ肉厚の0.7mmとしている。ボス45は、外径を6mmとし、雌ねじ45sを形成している。
【0030】
図4(c)に示す、従来例に係る筐体51は、(ASTM規格)AM20マグネシウム合金からなり、ボス55を含めて特許文献1と同様に射出成形している。そして、射出成形した後の筐体51は、平面視で、幅Wを260mm、奥行きDを210mm、実施例のような補強面は形成せず、平面部52の肉厚t52を0.7mmとし、側壁54は上下で肉厚を異ならせ、上部の肉厚t54−1を1.5mm、下部の肉厚t54−2を2.2mmとしている。また、ボス55は外径を6mmとし、雌ねじ55sを形成し、ボス55の外周には補強のためのリブ55Lを形成している。
【0031】
次に、上述した(a)実施例の筐体11、(b)比較例の筐体41、(c)従来例の筐体51について、(1)筐体全体の強度、(2)撓み変形量、(3)軽量化、および(4)意匠性との関係について、調査した。(1)の強度は、4個のボスを完全拘束した状態で、筐体の右上端部に、筐体を開閉するときに負荷されるヒンジトルク相当の力0.52Nmを加えたときの、ボスの根元に発生する最大のミゼス応力(MPa)から求めた。なお、ミゼス応力(MPa)とは、複数の荷重による3軸応力状態をまとめ、1軸引張り試験から求めた材料強度と直接比較できるようにしたものである。(ASTM規格)AZ31とAM20のマグネシウム合金での、許容ミゼス応力は45MPaである。(2)の撓み変形量(mm)は、上述した(1)の強度を求める際に、筐体の右上端部の変形量(mm)から求めた。(3)の軽量化は、各筐体の体積(cm)とマグネシウム合金の密度1.8を積算した質量から求めた、(4)の意匠性は、筐体の外表面に塗装を何回施した後に意匠性が確保されたかで評価し、1〜2回のものを優、3回以上を良とした。また、(1)〜(4)を総合して、優と良に評価した。その結果を表1に示す。また、図5に、各筐体の撓み変形量(mm)を解析した図を示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から、実施例の筐体11は、ミゼス応力が40.3Paと、許容ミゼス応力45MPa以下であり、材料強度が確保されていることわかった。また、実施例の筐体11は、撓み変形量が1.1mmと小さく、ノートパソコン用としてその内面に液晶表示装置を収納しても、液晶表示装置を損傷させないことがわかった。また、実施例の筐体11は、質量が67.6gと、従来例と同等であり、軽量化されていることがわかった。また、実施例の筐体11は、不等肉厚展伸材に鍛造加工を施したものであるので、塗装などの表面処理を施すことで、意匠性に優れていることもわかった。
【0034】
一方、比較例の筐体41は、質量が60.0gと比較的小さく、意匠性にも優れるものの、ミゼス応力が266MPaと、許容ミゼス応力45MPaを大きく超えており、材料強度が不足していることわかった。
また、従来の筐体51は、ミゼス応力が43MPaと許容ミゼス応力45MPa以下であり、撓み変形量も1.3mmと小さく、質量も68.0gと実施例と殆ど同じであるが、塗装などの表面処理を施した後でも、表面に凹凸が僅かではあるが現れ、意匠性を出すのが困難であった。
以上のことから、(1)筐体全体の強度、(2)撓み変形量、(3)軽量化、および(4)意匠性を総合すると、実施例の筐体11が、特に優れていることがわかった。
【0035】
(実施例2)
実施例の筐体11で、補強面13の肉厚t13を0.7〜2.5mmの間で変え、また補強面13の寸法(E×F)を40mm×25mmと35mm×20mmの2種類とし、ボス15の直径を5mmと6mmの2種類とし、不等肉厚展伸材に鍛造加工を施して作製した。そして、実施例1と同様に、4個のボス15を完全拘束した状態で、筐体の右上端部に、筐体を開閉するときに負荷されるヒンジトルク相当の力0.52Nmを加え、ボス15の根元に発生する最大のミゼス応力(MPa)から求めた。補強面13の肉厚t13とボス15部に発生するミゼス応力(MPa)との関係を調査した。その結果を図6に示す。
【0036】
図6から、マグネシウム合金からなる実施例の筐体11では、許容ミゼス応力45MPa以下とするためには、補強面の寸法(E×F)、ボス15の直径の違いがあっても、補強面13の肉厚t13は0.9mm以上であれば良いことがわかった。また、補強面13の肉厚t13が2.5mmになると、ミゼス応力が10MPaまで低下されており、補強面13の肉厚t13を増すことで、ミゼス応力を小さくできることがわかった。そして、実施例の筐体11においては、補強面13の肉厚t13は、軽量化も図ることを考えに入れると、0.9〜2.5mmが良いことがわかった。
【0037】
なお、実施の形態1〜4、および実施例では、金属材料の一つとしてマグネシウム合金により説明したが、本発明はマグネシウム合金に限らず、アルミニウム合金、チタン合金、ステンレス材を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施の形態1に係るノートパソコン用の筐体11を示し、(a)はヒンジの取付面13側から見た平面図、(b)は(a)でのX−X断面図、(c)は(a)でのY−Y断面図、(d)は(c)でのZ部拡大図である。
【図2】筐体11の製造工程を示す図であり、(A)は、ビレットを不等肉厚展伸材に押出している状態、(B)は、押出した不等肉厚展伸材を切断している状態、(C)は、不等肉厚展伸材にボスを接合している状態、(D)はボスと共に不等肉厚展伸材を鍛造している状態の、左側は各工程の断面図、右側は成形体の平面図である。
【図3】(a)は、実施の形態2に係る筐体11−2の幅方向断面図、(b)は、実施の形態3に係る筐体11−3の補強面13側から見た平面図、(c)は、実施の形態4に係る筐体11−4の幅方向断面図である。
【図4】(a)は実施例に係る筐体11の、左側は部分平面図、右側は矢視E−E断面図、(b)は比較例に係る筐体41の、左側は部分平面図、右側は矢視F−F断面図、(c)は従来例に係る筐体51の、左側は部分平面図、右側は矢視G−G断面図である。
【図5】実施例、比較例、従来例の各筐体の撓み変形量を解析した図である。
【図6】補強面13の肉厚t13とボス15部に発生するミゼス応力(MPa)との関係を示す図である。
【図7】ノートパソコンの一例の側面図である。
【図8】特許文献1に提案されるノートパソコン用の筐体80を示し、(a)は、主基板やキーボードなどが搭載される本体87に対して表示部82を閉じた状態の斜視図、(b)は表示部82の一部断面図である。
【符号の説明】
【0039】
11、11−2、11−3、11−4、41、51、71、74、81:背面筐体(筐体)
11A:不等肉厚展伸材
11B:切断材(ブランク材)
11C:ボス接合材
11D:鍛造後の素材
12:平面部
13:補強面
14:側壁
15、15a〜15d、45、55、75:ボス
15s、45s、55s:雌ねじ
16:前後壁
21a:耐熱容器
21b:ステム
21c:ダイス
22a:下刃
22b:上刃
24a:下型
24b:上型
70、80:ノートパソコン
72、82:表示部
72a:上端
73、83:液晶表示装置
73a、83a:表示面
76、86:枠筐体
77、87:本体
78:ヒンジ
78a:取付部
79:取付面
81a:平面部
81b:隆起部
B:ビレット
D、Db、Dc:奥行き
H:側壁の高さ
H81:段差
F:外力
P:押込力
t12:平面部の主要部肉厚(中央の厚さ)
t13:補強面の主要部肉厚(中間部の厚さ)
t14:側壁の主要部肉厚(外側の厚さ)
Θ:開き角度
W、Wb、Wc:幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料に鍛造加工が施され、略矩形状の平面部と、該矩形状の平面部の一部に補強面と、前記平面部の両側に立設する側壁とを備えるようにした電子機器用筐体であって、前記補強面の主要部肉厚が、前記平面部の主要部肉厚より厚肉に形成され、かつ、前記側壁の主要部肉厚が、前記補強面の主要部肉厚と同じかまたは厚肉に形成されていることを特徴とする電子機器用筐体。
【請求項2】
前記筐体は、マグネシウム合金からなり、平面視で、幅が200〜350mm、奥行きが150〜300m、前記平面部の主要部肉厚が0.5〜0.8mm、前記補強面の主要部肉厚が0.7〜1.2mm、前記側壁の主要部肉厚が1.0〜1.5mmに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電子機器用筐体。
【請求項3】
前記筐体は、その内面に液晶表示装置を収納する、ノートパソコン用の背面筐体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器用筐体。
【請求項4】
前記補強面が、ヒンジを取り付けるためのボス取付面であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器用筐体。
【請求項5】
金属材料からなる不等肉厚展伸材に鍛造加工が施され、もって、略矩形状の平面部と、該矩形状の平面部の一部に補強面と、前記平面部の両側に立設する側壁とを備えると共に、前記平面部、補強面、および側壁のうちの少なくとも1つが、互いの主要部肉厚を異なるように成形されることを特徴とする電子機器用筐体の製造方法。
【請求項6】
前記不等肉厚展伸材は、前記鍛造加工が施される前、前記補強面となる中間部の肉厚が、前記平面部となる中央部の肉厚より厚肉とされ、かつ、前記側壁となる外側の肉厚が、前記中間部の肉厚と同じまたは厚肉とされていることを特徴とする請求項5に記載の電子機器用筐体の製造方法。
【請求項7】
前記不等肉厚展伸材は、鍛造加工が施された後、前記中間部の一部が、前記中央部と実質的に同じ肉厚にされていることを特徴とする請求項6に記載の電子機器用筐体の製造方法。
【請求項8】
前記不等肉厚展伸材は、マグネシウム合金からなり、前記中央部の肉厚が0.5〜0.8mm、前記中間部の肉厚が0.7〜1.2mm、前記外側の肉厚が1.0〜1.5mmとされていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の電子機器用筐体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−52616(P2007−52616A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237010(P2005−237010)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】