説明

電子線硬化型導電性ペースト及び回路基板

【課題】屈曲性及び耐摩耗性に優れ、且つプラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を形成できる電子線硬化型導電性ペースト及び回路基板を提供すること。
【解決手段】導電粉と、ラジカル重合性樹脂と、飽和ポリエステル樹脂とを含み、飽和ポリエステル樹脂の含有率が0質量%より大きく4質量%以下であることを特徴とする電子線硬化型導電性ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線硬化型導電性ペースト及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パソコンのキーボード、着座センサ、感圧センサなどに使用されるメンブレンスイッチにおいては、回路基板が使用される。この回路基板は一般に、プラスチックフィルムと、このプラスチックフィルム上に電子線硬化型導電性ペーストを印刷し電子線照射によって硬化させてなる導電層とで構成される。
【0003】
このような回路基板の形成に使用する電子線硬化型導電性ペーストとして、アクリレート化合物などのラジカル重合性樹脂を用いたものが知られている(下記特許文献1及び2)。ラジカル重合性樹脂は、導電性ペーストの架橋密度を大きくし、硬化収縮率を大きくする一方で、ラジカル重合性樹脂を含む電子線硬化型導電性ペーストをプラスチックフィルム上に塗布し電子線照射により硬化させて導電層を形成すると、導電層に十分な硬度を付与することができる。
【0004】
一方、電子線硬化型導電性ペーストとしては、ラジカル重合性樹脂にカチオン重合系樹脂を混合したものが知られている(特許文献3)。この電子線硬化型導電性ペーストは、ラジカル重合性樹脂の割合を低下させることができるため、硬化過程での硬化収縮を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2758432号公報
【特許文献2】特開平6−157945号公報
【特許文献3】特開2005−15627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1又は2に記載の電子線硬化型導電性ペーストは、プラスチックフィルムに対する導電層の密着性や、導電層の屈曲性が未だ十分とは言えない。このため、導電層がプラスチックフィルムから剥離したり、導電層にクラック等が生じたりすることがあった。
【0007】
一方、特許文献3記載の電子線硬化型導電性ペーストは、導電層に十分な硬度を付与することができず、耐摩耗性が不十分となる。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を形成できる電子線硬化型導電性ペースト及び回路基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、非架橋成分である不飽和ポリエステル樹脂を所定の割合で含有させることで、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち本発明は、導電粉と、ラジカル重合性樹脂と、飽和ポリエステル樹脂とを含み、前記飽和ポリエステル樹脂の含有率が0質量%より大きく4質量%以下であることを特徴とする電子線硬化型導電性ペーストである。
【0011】
この電子線硬化型導電性ペーストによれば、当該電子線硬化型導電性ペーストをプラスチック基材上に塗布し、電子線照射によって硬化させて導電層を形成した場合に、その導電層を、屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材に対する密着性に優れたものとすることができる。
【0012】
上記電子線硬化型導電性ペーストにおいて、飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度が15℃以下であることが好ましい。この場合、導電層に、優れた屈曲性を付与し、プラスチック基材に対するより優れた密着性を付与することができる。
【0013】
また本発明は、プラスチック基材と、前記プラスチック基材上に上記電子線硬化型導電性ペーストを塗布し、電子線照射により硬化させてなる導電層とを備えることを特徴とする回路基板である。
【0014】
この回路基板においては、導電層が屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材に対する密着性に優れる。このため、プラスチック基材からの導電層の剥離や導電層にクラック等が生じることが十分に抑制される。従って、この回路基板は、例えばメンブレンスイッチのような高度な耐摩耗性が要求される部品として好適に使用することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を形成できる電子線硬化型導電性ペースト及び回路基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の回路基板の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る回路基板の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の回路基板10は、プラスチック基材1と、プラスチック基材1上に設けられる導電層2とを備える。
【0019】
ここで、導電層2は、電子線硬化型導電性ペーストをプラスチック基材1上に塗布し、電子線照射により硬化させることによって得ることができる。電子線硬化型導電性ペーストとしては、導電粉と、ラジカル重合性樹脂と、飽和ポリエステル樹脂とを含み、飽和ポリエステル樹脂の含有率は0質量%より大きく4質量%以下であるものを用いる。
【0020】
この回路基板10においては、導電層2が屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材1に対する密着性に優れる。このため、プラスチック基材1からの導電層2の剥離や、不十分な屈曲性により導電層2にクラック等が生じることが十分に抑制される。
【0021】
プラスチック基材1を構成するプラスチックは、プラスチックであれば特に限定されるものではない。このようなプラスチックとしては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)などのポリエステル樹脂などが挙げられる。回路基板10は、これらのうちPETを用いた場合に特に有効である。これは、プラスチック基材1に対する導電層2の密着性が特にプラスチック基材1としてPETやPENを用いた場合に特に顕著に向上するためである。
【0022】
導電粉としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル又はこれらの2種以上の合金などの金属のほか、セラミック、プラスチックなどの担体を上記金属で被覆したものを用いることができる。上記金属としては、酸化による導電性の低下が小さいことから銀が好ましく用いられる。
【0023】
導電粉の形状は特に限定されるものではないが、導電粉の形状としては、例えば鱗片状、針状、球状が挙げられる。
【0024】
導電粉の平均粒径は、特に制限されるものではないが、通常は0.5〜15μmであり、好ましくは1〜5μmである。
【0025】
ラジカル重合性樹脂としては、電子線照射によりラジカル重合を引き起こすものであればよく、特に制限されるものではないが、このようなラジカル重合性樹脂としては、例えばポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、ポリオールの構造、イソシアネートの種類により多様な塗膜を得ることができることから、ポリウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
ラジカル重合性樹脂の含有率は、特に制限されるものではないが、通常は5〜50質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。
【0027】
飽和ポリエステル樹脂としては、フタル酸、イソフタル酸、アジピン酸などと、ネオペンチルグリコール、エチレングリーコールなどとの共重合体などが挙げられ、具体的には東洋紡績(株)製バイロン300、日本合成化学(株)製P−185、ユニチカ(株)製UE−3220、ユニチカ(株)製UE−3500などを用いることができる。
【0028】
飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に制限されるものではないが、好ましくは15℃以下であり、より好ましくは10℃以下である。Tgが15℃以下であると、Tgが15℃を超える場合に比べて、導電層2に、より優れた屈曲性を付与することができるとともに、プラスチック基材1に対するより優れた密着性を付与することができる。
【0029】
飽和ポリエステル樹脂の含有率は0質量%より大きく4質量%以下であり、好ましくは1〜3.5質量%、より好ましくは2〜3質量%である。飽和ポリエステル樹脂の含有率が0質量%では、飽和ポリエステル樹脂の含有率が上記範囲内にある場合に比べて、プラスチック基材1に対する導電層2の密着性、及び導電層2の屈曲性が顕著に低下する。飽和ポリエステル樹脂の含有率が4質量%を超えると、架橋密度が低下して硬度が不十分になるとともに、硬化収縮が不十分となることにより導電性も低下する。
【0030】
ラジカル重合性樹脂及び飽和ポリエステル樹脂の合計重量を100質量%とした場合の飽和ポリエステル樹脂の質量比は、好ましくは15〜40質量%であり、より好ましくは20〜30質量%である。
【0031】
電子線の照射条件は、導電性ペーストの組成にもよるが、吸収線量は、通常は100〜300kGyであり、加速電圧は通常は150〜300kVである。
【0032】
なお、上記導電性ペーストは、さらにシリカ、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの添加剤を含んでもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
第1の銀粉、第2の銀粉、ラジカル重合性樹脂、飽和ポリエステル樹脂を表1に示す割合で混合し、3本ロールで混練して導電性ペーストを得た。第1の銀粉、第2の銀粉、ラジカル重合性樹脂及び飽和ポリエステル樹脂としては、具体的には、表1に示す成分のものを用いた。
【表1】

【0035】
(実施例2〜7及び比較例1〜3)
飽和ポリエステル樹脂を、表2に示す成分及び含有率で構成したこと以外は実施例1と同様にして導電性ペーストを得た。なお、実施例2〜7及び比較例1〜3において、ラジカル重合性樹脂と飽和ポリエステル樹脂との合計含有率は10質量%とした。
【0036】
[特性評価]
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた導電性ペーストについて以下の特性を評価した。
(1)密着性1(PETフィルムに対する導電層の密着性)
実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた導電性ペーストを厚さ75μmのPETフィルム上に厚さ20μmとなるように塗布し、加速電圧250kV、吸収線量200kGyの条件で電子線を照射して導電層を形成し、回路基板を得た。そして、この回路基板について、以下のようにしてPETフィルムに対する密着性を評価した。即ち、上記の各回路基板について、JIS K−5400−8.5の8.5.3に規定される碁盤目テープ法に準拠して密着性を評価した。具体的には、導電層に対し、カッターナイフを用いて1mm間隔で11本の平行な切り傷を付け、これらに直交するように、1mm間隔で11本の平行な切り傷を付けた。そして、その上にセロハン粘着テープを貼り付け、消しゴムでこすって完全に貼り付けた。その後、セロハン粘着テープの一端を、導電層に対して直角となるようにしながら瞬間的に引き剥がした。その結果、導電層に剥がれが見られたものを合格とし、導電層に剥がれが見られなかったものを不合格とした。結果を表2に示す。なお、表2では合格については「○」と表示し、不合格については「×」と表示した。
(2)密着性2(PENフィルムに対する導電層の密着性)
PETフィルムをPENフィルムに代えたこと以外は上記と同様にして、実施例1〜7及び比較例1〜3で得られた導電性ペーストを用いて回路基板を作製した。そして、各回路基板について上記と同様にして、PENフィルムに対する導電層の密着性を評価した。結果を表2に示す。
(3)屈曲性
実施例1〜7及び比較例1〜3の導電性ペーストを用い、PETフィルムをプラスチック基材とした上記各回路基板をΦ1mmで折り曲げ、元に戻した回路基板について、倍率40倍で顕微鏡観察を行った。そして、クラックが見られない場合には合格とし、クラックが見られた場合には不合格とした。結果を表2に示す。なお、表2において、合格したものについては「○」と表示し、不合格であったものについては「×」と表示した。
(4)鉛筆硬度
実施例1〜7及び比較例1〜3の導電性ペーストを用い、PETフィルムをプラスチック基材とした上記各回路基板について、JIS K−5600−5−5に準拠して鉛筆硬度を測定し、鉛筆硬度がH以上である場合を合格とし、鉛筆硬度がH未満である場合を不合格とした。結果を表2に示す。
(5)導電性
実施例1〜7及び比較例1〜3の導電性ペーストを用い、PETフィルムをプラスチック基材とした上記各回路基板について、デジタルマルチメータを用いて4端子法により導電層の比抵抗を測定し、比抵抗が1.64××10−4Ωcm以下である場合には導電性に優れるとして合格とし、比抵抗が1.64××10−4Ωcmを超える場合は不合格とした。


【表2】

【0037】
表2に示す結果より、実施例1〜7の導電層は、比較例1〜3に比べてPETフィルム及びPENフィルムに対する密着性、及び、導電層の屈曲性に優れるとともに、高い鉛筆硬度を示すことが分かった。また飽和ポリエステル樹脂の含有率が4質量%を超えると、急激に比抵抗が上昇し、導電性が低下することも分かった。
【0038】
従って、本発明の電子線硬化型導電性ペーストによれば、屈曲性及び耐摩耗性に優れるとともに、プラスチック基材に対する密着性に優れた導電層を形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0039】
1…プラスチック基材、2…導電層、10…回路基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電粉と、
ラジカル重合性樹脂と、
飽和ポリエステル樹脂とを含み、
前記飽和ポリエステル樹脂の含有率が0質量%より大きく4質量%以下であること、
を特徴とする電子線硬化型導電性ペースト。
【請求項2】
前記飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度が15℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子線硬化型導電性ペースト。
【請求項3】
プラスチック基材と、
前記プラスチック基材上に請求項1又は2に記載の電子線硬化型導電性ペーストを塗布し、電子線照射により硬化させてなる導電層と、
を備えることを特徴とする回路基板。


【図1】
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【公開番号】特開2010−192289(P2010−192289A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36348(P2009−36348)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】