説明

電子装置およびその製造方法

【課題】グラフェンシートを使い、大電流をオンオフできる電子装置を提供する。
【解決手段】電子装置は基板と、前記基板上にゲート絶縁膜を介して形成されたグラフェンシートと、前記グラフェンシートの一端に形成されたソース電極と、前記グラフェンシートの他端に形成されたドレイン電極と、前記グラフェンシートに前記ソース領域とドレイン領域との間でゲート電圧を印加するゲート電極と、前記グラフェンシートに前記ソース電極とドレイン電極の間において、前記ソース電極からドレイン電極へのキャリアの流れを横切って形成された、複数の開口部よりなる開口部列と、を備え、前記各々の開口部では前記グラフェンシートから4個以上の炭素原子が除去されており、前記各々の開口部は、他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子を二個以上含む少なくとも5個の炭素原子からなるジグザグ形状の端部により画成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェンシートを使った電子装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは例えば黒鉛結晶中において炭素の六角形格子を構成するsp結合をした炭素原子よりなる原子層であるが、散乱の効果を抑制できれば室温でも200000cm2-1cm-1を超える非常に大きな電子移動度を達成可能であることから、グラフェンのシートを使って超高速電子装置を作製する研究がなされている。
【0003】
しかしながら黒鉛結晶と同様にグラフェンシートも半金属であり、価電子帯と伝導帯が重なっていてバンドギャップが存在しないため、そのままでは電流のスイッチングに使えない。
【0004】
このため、特許文献1におけるようにグラフェンシートにより幅が10nm以下のリボン状構造を形成し、量子閉じ込め効果によってバンドギャップを発生させる技術が提案されている。
【0005】
またグラフェンシートに半径が10nm前後の孔をメッシュ状に形成し、形成された孔の周期配列の効果によりバンドギャップを発生させる技術も提案されている(非特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−94190号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Bai et al., Nature Nanotech. 5, 190 (2010)
【非特許文献2】M. Kim et al., Nano. Lett. 10, 1125 (2010)
【非特許文献3】X. Liang et al., Nano Lett. 10, 2454 (2010)
【非特許文献4】K. S. Noveselov, et al., Science 306, 666 (2004)
【非特許文献5】C. Berger, et al., J. Phys. Chem. B 108, 19912 (2004)
【非特許文献6】A. Reina et.al., Nano. Lett. 9, 30 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1に記載の方法では、チャネル幅が10nm以下と狭くなるため、大きな電流を得ようとすると、多数のリボン状構造をソース領域とドレイン領域の間に並列に、かつ高密度に配置する必要があり、電子装置の製造工程が複雑になる問題が生じる。
【0009】
また非特許文献1〜3に記載の方法では、孔の二次元周期配列によりバンドギャップを発生させていることから、グラフェンシート中に半径が10nm程度の孔を二次元的に配列させる必要があり、チャネル長が十数ナノメートル程度の微細化された電子装置には使うことができない。さらにこのような10nmオーダーの周期性により形成されたバンドギャップはせいぜい0.1eV程度と小さく、通常の電子装置で使われるような動作電圧で確実にオンオフ動作をさせるのは容易ではない。
【0010】
さらに2層になったグラフェンシートの面に垂直に電場を印加することによりバンドギャップを発生させる技術も提案されているが、かかる構成で得られるバンドギャップの大きさは最大でも0.3eV程度にしかならず、電子装置への適用は困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一の側面によれば電子装置は基板と、前記基板上にゲート絶縁膜を介して形成されたグラフェンシートと、前記グラフェンシートの一端に形成されたソース電極と、前記グラフェンシートの他端に形成されたドレイン電極と、前記グラフェンシートに前記ソース領域とドレイン領域との間でゲート電圧を印加するゲート電極と、前記グラフェンシートに前記ソース電極とドレイン電極の間において、前記ソース電極からドレイン電極へのキャリアの流れを横切って形成された、複数の開口部よりなる開口部列と、を備え、前記各々の開口部では前記グラフェンシートから4個以上の炭素原子が除去されており、前記各々の開口部は、他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子を二個以上含む少なくとも5個の炭素原子からなるジグザグ形状の端部により画成されている。
【0012】
他の側面によれば電子装置の製造方法は、グラフェンシートから少なくとも4個の炭素原子を除去することにより、前記グラフェンシート中に開口部を形成する工程と、前記開口部を形成されたグラフェンシートを還元性雰囲気中においてアニールし、前記開口部の端に、他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子を二個以上含む少なくとも5個の炭素原子からなるジグザグ形状の端部を形成する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、グラフェンシートにジグザグ形状の端部により画成された複数の開口部を形成することにより0.3eVをはるかに超えるバンドギャップを発生させることができ、かつかかる開口部よりなる開口部列を、前記ソース電極からドレイン電極へのキャリアの流れを横切って形成することにより、短いチャネル長、すなわちソース/ドレイン間距離の電子素子において、大きな電流をスイッチングすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態によるグラフェンシートの構成を示す平面図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図3】図1および図2のグラフェンシートのバンド構造を示す図である。
【図4】図1および図2のグラフェンシートにおける電子透過率とエネルギの関係を示すグラフである。
【図5】図1および図2のグラフェンシートが示す電流電圧特性を、比較対照例によるグラフェンシートのものと比較して示すグラフである。
【図6】比較対照例によるグラフェンシートの構成を示す平面図である。
【図7】図6の一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図8】第1の実施形態におけるグラフェンシートの一変形例を示す平面図である。
【図9】第1の実施形態におけるグラフェンシートの他の変形例を示す平面図である。
【図10】第2の実施形態による電子装置の構成を示す平面図である。
【図11】図10中、線A−A'に沿った断面図である。
【図12A】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その1)である。
【図12B】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その2)である。
【図12C】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その3)である。
【図12D】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その4)である。
【図12E】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その5)である。
【図12F】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その6)である。
【図12G】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その7)である。
【図12H】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その8)である。
【図12I】図10および図11の電子装置の製造工程を示す工程断面図(その9)である。
【図13A】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その1)である。
【図13B】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その2)である。
【図13C】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その3)である。
【図13D】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その4)である。
【図13E】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その5)である。
【図13F】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その6)である。
【図13G】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その7)である。
【図13H】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その8)である。
【図13I】第3の実施形態による電子装置の製造工程を示す工程断面図(その9)である。
【図14】さらに別の変形例によるグラフェンシートの構成を示す平面図である。
【図15】さらに別の変形例によるグラフェンシートの構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態によるグラフェンシート10の構成を示す平面図、図2は図1中、円で囲んだ部位を拡大して示す平面図である。
【0016】
図1および図2を参照するに、本実施形態ではグラフェンの六角形格子を構成するsp結合をした炭素原子のうち、破線で示した4個の炭素原子を除去しており、その結果、グラフェンシート10中には図2に破線で概略的に示す開口部10Aが形成されている。
【0017】
図1および図2よりわかるようにこのような開口部10Aは、他の炭素原子と結合していない結合手を有する二つの炭素原子CおよびCを含む5個の炭素原子C〜Cが形成するジグザグ端により画成されており、かかるジグザグ端の周期性により、前記グラフェンシート10では伝導帯Ecと価電子帯Evが分離し、図3に示すようにバンド構造にギャップエネルギEgのバンドギャップが出現する。図1および図2において前記ジグザグ端は太く表示してあるが、この「ジグザグ端」は、前記破線で示す4個の炭素原子を除去した結果未結合手を有することになった炭素原子CおよびCがそれぞれ隣接する炭素原子、すなわち炭素原子Cの場合には炭素原子CおよびC、炭素原子Cの場合には炭素原子CとCの間に形成する結合に対応している。図1,図2に示すように、グラフェンの対称性、より正確には、除去された4個の炭素原子の配列が有する対称性に伴い、一つの開口部10Aにつき3つのジグザグ端が生じている。
【0018】
図2に示すように前記他の炭素原子と結合していない結合手を有する二つの炭素原子CおよびCは、いずれも水素原子により終端されており、これに伴いバンドギャップ中には多数の局在準位Lが発生するが、これらの局在準位Lは分散関係を有さないため、電気伝導には寄与しない。
【0019】
そこで、図1に示すようにグラフェンシート10に矢印方向に電子をキャリアとして流した場合、大きなバンドギャップの存在によりキャリアはそのままではグラフェンシート10を流れることができず、グラフェンシート10に電場をゲート電圧の形で印加することにより電流の流れを効果的に制御することが可能となる。
【0020】
図4は、前記図1,図2のグラフェンシート10について、第一原理計算によりバンドギャップエネルギEgの大きさを見積もった結果を示すグラフである。ただし図4中横軸はエネルギEを、縦軸は電子透過率を示しており、EFはフェルミエネルギを表す。
【0021】
また図4中、破線は前記開口部10Aを形成しない通常のグラフェンシートの場合を、実線は前記開口部10Aを形成した本実施形態によるグラフェンシート10の場合を示す。
【0022】
図4を参照するに、通常のグラフェンシートではバンドギャップが存在しないのに対し、本実施形態のグラフェンシート10では約1eVのバンドギャップエネルギEgが出現しているのがわかる。
【0023】
図5は、前記図1,図2のグラフェンシート10において、端と端との間の端部間距離Dが0.74nmとなるように前記開口部10Aを複数配列して開口部列10Nを形成し、前記開口部列に直角方向に電流を流した場合の、グラフェンシート10に印加するバイアス電圧と電流密度の関係を、やはり第一原理計算により求めた結果を示すグラフである。ただし図5中、曲線Aは通常の、開口部を形成しない第1の比較対照例によるグラフェンシートの場合を、曲線Bは図1および図2の本実施形態のグラフェンシート10の場合を、曲線Cは図6および図7で説明する第2の比較対照例の場合を、それぞれ示している。図5中、横軸はバイアス電圧を、縦軸は電流密度を表す。
【0024】
図5を参照するに、第1および第2の比較対照例に対応する曲線AおよびCの場合にはグラフェンシートに実質的なバンドギャップが存在しないことを反映して、電子素子のオンオフ動作の基礎となるしきい値特性は認められないのに対し、本実施形態に対応する曲線Bの場合には、導通/非導通のしきい値となる電流密度を0.2μA/nmとした場合、グラフェンシート10を導通させるには0.35Vのバイアス電圧がしきい値電圧(伝導ギャップ)として必要となり、明瞭なしきい値特性が得られているのがわかる。
【0025】
図5の結果は、先にも説明した通り、前記開口部10Aと、同じ開口部列中で隣接する開口部10Aとの間の端部間距離Dを0.74nmに設定した場合についてのものであったが、前記端部間距離Dをさらに減少させれば、前記しきい値電圧はさらに増大する。例えば0.1V以上のしきい値電圧を望むのであれば、グラフェンシート10において前記開口部10Aを、隣接する開口部10A間における端部間距離Dを2.2nm以下に設定する必要がある。ここで「端部間距離D」とは、図1に規定するように、開口部列の方向に沿って隣接する二つの開口部10Aにおいて、それぞれのジグザグ端が最も近接した点での距離を意味している。
【0026】
図6は、前記図5のシミュレーションにおいて比較対照例2として示されているグラフェンシート100の構成を示す平面図、図7は図6中、円で囲んだ部分を拡大した平面図である。図6および図7においても、除去された炭素原子を破線で、また前記炭素原子を除去した結果未結合手を有することになった炭素原子と、これに隣接する炭素原子との間の結合を太く示してある。
【0027】
図6および図7を参照するに、グラフェンシート100では六角形格子一個分に対応する6個の炭素原子が欠損しており、未結合手を有する炭素原子6個が一つの開口部の周囲に形成されているが、このうちのいずれの炭素原子もジグザグの周期的な端を形成することがなく、このためグラフェンシート100では、開口部の周期配列以外の効果によるバンドギャップの形成は生じない。
【0028】
なお本実施形態において開口部形成にあたりグラフェンシート10から除去される炭素原子の数は4個に限定されるものではなく、図8あるいは図9の変形例に示すように、破線で示した6個あるいは9個の炭素原子を除去する場合であっても、太線で示すように未結合手を有する炭素原子によりジグザグ端が形成されるならば同様に大きなバンドギャップを発生させることが可能である。
【0029】
ジグザグ端を構成する炭素原子の数が増大すれば、バンドギャップエネルギEgの値も増加する。図8および図9の変形例では、ジグザグ端は3個の未結合手を有する炭素原子により形成されている。
【0030】
本実施形態において前記開口部10Aはグラフェンシート10中に必ずしも1列に形成する必要はなく、例えば2列など、複数列に形成してもよい。先にも述べたように本実施形態では、バンドギャップを開口部の周期配列により発生させているわけではないので、開口部端部に生じるジグザグ端により大きなバンドギャップエネルギを実現することが可能となる。
【0031】
本実施形態において前記基板21はp+型のシリコン基板に限定されるものではなく、n+型のシリコン基板や金属基板など、様々な導電性基板を使うことができる。
【0032】
[第2の実施形態]
図10は、前記図1および図2のグラフェンシート10を使った第2の実施形態による電子装置20の構成を示す平面図、図11は図10中、線A−A'に沿った断面図である。
【0033】
図10および図11を参照するに、電子装置20は例えばp+型にドープされたシリコン基板など導電性の基板21上に構成されており、前記基板21上には、ゲート絶縁膜として作用する厚さが300nmのシリコン酸化膜22を介して前記グラフェンシート10が形成されている。前記シリコン酸化膜22は、前記基板21がシリコン基板である場合、熱酸化により形成することができる。
【0034】
さらに前記シリコン酸化膜22上には前記グラフェンシート10の一端を覆って、厚さが例えば5nmのTi密着膜(図示せず)と厚さが例えば30nmのAu膜とを順次積層した構成のソース電極パターン23Sが、また前記グラフェンシートの他端を覆って同様な構成のドレイン電極パターン23Dが形成されている。図10の平面図よりわかるように前記開口部10Aが形成する開口部列10Nは、前記ソース電極パターン23Sからドレイン電極パターン23Dへとグラフェンシート10中を流れるキャリアの流れを直角に横切って形成されている。本実施形態では、前記ソース電極パターン23Sとドレイン電極パターン23Dの間の距離は、少なくとも前記開口部10Aの径に略対応する0.6nmは必要であるが、その限りにおいてソース電極パターン23Sおよびドレイン電極パターニング23Dのパターニング精度が許す限り縮小するのが好ましい。
【0035】
電子装置20では、前記ソース電極パターン23Sとドレイン電極パターン23Dとの間に例えば0.01Vの電源電圧を印加した場合、バックゲート電極となる基板21に0Vのゲート電圧を印加した場合には導通は生じないが、0.17V以上のゲート電圧を印加することにより(ゲート電圧0Vのとき、電極のフェルミ準位にグラフェンシート10のバンドギャップの中央がある場合)導通を生じさせることができる。
【0036】
次に図10および11の電子装置20の製造方法について、図12A〜図12Iの工程断面図を参照しながら説明する。ただし図12A〜図12Iの断面図は、前記開口部列10Nの延在方向に垂直な断面を示している。図中、先に説明した部分に対応する部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0037】
図12Aを参照するに、機械的剥離、六方晶系SiC基板表面上へのエピタキシャル成長、金属触媒上でのCVD成長などによって得られたグラフェンシート10を、p+型のシリコン基板21上に形成された酸化膜22の表面に転写する。転写は、機械的剥離の場合はテープに残存したグラフェンをそのまま基板にこすりつけて行う。一方グラフェンシートをSiC基板表面にエピタキシャル成長させた場合や、前記CVD成長により形成した場合は、前記SiC基板表面や触媒表面上に形成されたグラフェンシートをテープに転写し、これを前記シリコン基板21上の酸化膜22表面にこすりつけることによりさらなる転写を行う。図12Aの段階では、前記グラフェンシート10に開口部10Aや開口部列10Nはまだ形成されていない。
【0038】
より詳細に説明すると、機械的剥離によりグラフェンシートを形成する場合には、例えば非特許文献4などに記載されているようにスコッチテープ、あるいはセロテープ(登録商標)などの粘着テープを用いて、高配向熱分解グラファイト(Highly Oriented Pyrolytic Graphite;HOPG)、天然グラファイト、キッシュグラファイトなどのバルクグラファイトをへき開させる。さらに、このようにして粘着テープ上にへき開されたグラファイト層を別の粘着テープで繰り返し剥がすことによりグラファイト層を薄片化する。このような工程により、最初の粘着テープ上に単層グラフェンであるグラフェンシート10が得られる。
【0039】
一方グラフェンシートを非特許文献5などに記載されているようにSiC基板表面に形成する場合には六方晶系の6H−SiC基板を用意し、これを真空中またはArなど非酸化性雰囲気中、1200℃以上に加熱することで基板表面からSi原子を脱離させ、SiC基板表面にSiCの六方晶系の原子配列に依存したグラフェンシートがエピタキシャルに得られる。そこで得られたグラフェンシートを粘着テープなどに転写し、これをさらに前記シリコン酸化膜22の表面に転写することにより、図12Aの構造が得られる。
【0040】
また非特許文献6などに記載されているようにグラフェンシートをCVD法で形成する場合には、Fe,Ni,Cuなどの金属触媒をシリコン基板上に形成されているシリコン酸化膜の表面に堆積し、アセチレンを原料とした熱CVD法により650〜1000℃程度の温度において前記金属触媒上にグラフェンシート10を合成する。この場合も、得られたグラフェンシートを粘着テープに転写し、さらにこれを前記シリコン酸化膜22の表面に転写することにより、図12Aの構造を得る。
【0041】
次に図12Bに示すように前記グラフェンシート10上に保護膜として例えば厚さ10nmの酸化シリコン膜24を蒸着し、さらに前記酸化シリコン膜24上にランダム共重合体である poly(sytrene-random-methyl methacrylate) ((P(S-r-MMA);Polymer Source 社)膜25を1wt% のトルエン溶液を使ってスピンコートする。前記スピンコートの後、例えば72時間にわたり170℃でアニーリングを行い、得られたP(S-r-MMA)薄膜25を前記酸化シリコン膜24上に固定する。さらにこうして得られた構造をトルエンで洗浄し、前記酸化シリコン膜24上に固定されていない P(S-r-MMA)化合物を除去する。
【0042】
さらにその上に、表面垂直方向に円筒状のドメインを持ったpoly(sytrene-block-methyl methacrylate)(P(S-b-MMA); Polymer Source 社)と呼ばれるブロック共重合体薄膜26を、1wt%のトルエン溶液を使い、2500〜40000rpmの回転数で25〜35nmの厚さになるようにスピンコートすることにより形成する。
【0043】
次に図12Cの工程において、図12Bの工程で得られた構造に対し、例えば12時間にわたり、180℃のアニーリングを行う。その結果、前記ブロック共重合体薄膜26中には、垂直配向したPMMAシリンダ26Aの六角形状配列が出来ている。
【0044】
さらに図12Dの工程において前記ブロック共重合体薄膜26に対し例えば30分間にわたり波長が295nmの紫外光照射を行い、前記PMMAシリンダ26Aを選択的に分解させる。さらに分解されたPMMAシリンダ26Aを例えば20分間氷酢酸に浸して除去し、純水で洗浄することにより、前記ブロック共重合体薄膜26中に周期的にシリンダ状の開口部26Bが開口した構造のポリスチレン膜26PSが得られる。前記ポリスチレン膜26PSは、後でエッチングのテンプレートとして使われる。
【0045】
次に図12Eの工程において、前記図10における開口部列10Nを構成する開口部10Aに対応する開口部26Bを残し、前記ポリスチレン膜26PSをレジスト膜27で覆い、10mTorrの圧力下、50Wのプラズマパワーで酸素ガスを10sccmの流量で供給しながら酸素プラズマ反応性イオンエッチング(RIE)を行い、前記P(S-r-MMA)薄膜25中に、前記開口部列10Nに対応した開口部列を形成する。その際、必要に応じてオーバーエッチングを行うことで前記ポリスチレン膜26PS中の開口部の大きさを広げることができる。
【0046】
さらに図12Fの工程において、CHF3と酸素の混合ガスをエッチングガスとしたプラズマ反応性イオンエッチング(RIE)を60mTorrの圧力下、300Wのプラズマパワーで、エッチングガスとしてCHF3 ガスを45sccm、酸素ガスを5sccmの流量で供給しながら実行し、前記酸化シリコン膜24中に、前記開口部列10Nに対応した周期的な開口部列24Nを形成する。
【0047】
さらに図12Gの工程において前記列状の開口部24Nが形成された酸化シリコン膜24をマスクに前記グラフェンシート10に対し、10mTorrの圧力下、90Wのプラズマパワーで25sccmの流量で酸素ガスを供給しながら反応性イオンエッチング(RIE)を行い、前記グラフェンシート10に開口部10Aおよび開口部列10Nを形成し、さらにHF浸漬により前記酸化シリコン膜24を除去する。
【0048】
さらに本実施形態では、前記開口部10Aのエッジに図1および図2で説明したジグザグ端を形成するため、水素雰囲気中で例えば15分間、1.6Vの電圧を印加してジュール加熱を行うなど、前記グラフェンシート10を1000℃程度の温度に加熱し、前記開口部10Aの端を熱力学的に安定なジグザグ端などに改変する。
【0049】
さらに図12Iの工程において電子線ビーム蒸着法によって、Ti/Au積層構造のソースおよびドレイン電極パタ―ン23S,23Dを形成し、これにより、バックゲート型の電子装置20が得られる。
【0050】
本実施形態では、このようにグラフェンシート10中に形成された開口部列10Nを構成する開口部10Aの端を、図12Hの工程において水素雰囲気中で熱処理することにより、熱力学的に安定な、またバンド構造の発生にとって有用であるジグザグ端へと改変しており、かかる熱処理工程の結果、開口部10Aの端を構成する炭素原子のうち、他の炭素原子と結合していない結合手が水素原子で終端されている。
【0051】
なお本実施形態において開口部列10N中における開口部10Aの周期は、前記ブロック共重合体薄膜26の分子量を変えることで制御可能である。分子量が小さいほど周期は短くなり、例えば分子量が47,700gmol-1の薄膜を使った場合には、前記開口部10Aの繰り返し周期は27nmとなるのに対し、分子量が77,000gmol-1 の場合、周期は39nmとなる。開口部10Aの端と隣接する開口部10Aの端との間の端部間距離Dは、図12Gの反応性イオンエッチングの処理時間で調整する。長時間エッチングすれば開口部10Aの径が増大し、前記端部間距離Dは短くなる。
【0052】
本実施形態による電子装置は、102以上の高いオン/オフ比で大きな駆動電流を与えることができるため、低電力で動作する高速デバイスあるいは高周波デバイスとして有用である。
【0053】
[第3の実施形態]
次に第3の実施形態による電子装置の製造方法を、図13A〜図13Iを参照しながら説明する。ただし図13A〜図13I中、先の実施形態で説明した部分には同一の参照符号を付し、説明を省略する。
【0054】
本実施形態では図13Aの工程において、前記図12Aの工程と同様にして、p+型シリコン基板21の表面を覆うシリコン酸化膜22上にグラフェンシート10を形成し、次いで図13Bの工程において前記グラフェンシート10をシリコン酸化膜24で保護し、さらにその上にポリスチレン薄膜31を、トルエン溶媒を使ったスピンコートにより、例えば20nmの厚さに形成する。
【0055】
さらに図13Cの工程において、非特許文献3に記載されているように、径が例えば20nmの突起32Aよりなる突起列を有するテンプレート32を、自己組織化したブロック共重合体より作製し、前記ポリスチレン薄膜31上に好ましくはUV硬化型シリコーン系離型剤などの離型剤を塗布した後、前記テンプレート32を図13Dに示すように前記ポリスチレン膜31に対し、例えば500psiの圧力で、平行に押圧する。
【0056】
さらにこの状態で前記ポリシリコン薄膜31を120℃の温度に加熱し、5分間にわたり保持する。さらに室温まで冷却した後、前記テンプレート32を離間させ、これにより、図13Eに示すように前記ポリスチレン薄膜31に前記突起32Aに対応した開口部31Aが形成された構造が得られる。
【0057】
次に図13Fの工程において前記ポリシリコン薄膜31をマスクにその下のシリコン酸化膜24を、前記図12Fの工程と同様にして、CHF3と酸素の混合ガスをエッチングガスとしたプラズマ反応性イオンエッチング(RIE)によりエッチングし、前記シリコン酸化膜24中に、前記開口部列10Nに対応した周期的な開口部列24Nを形成する。
【0058】
さらに図13Gの工程において前記シリコン酸化膜24をマスクに前記グラフェンシート10を図12Gの工程と同様にしてエッチングし、前記グラフェンシート10中に開口部10Aよりなる開口部列10Nを形成する。
【0059】
さらに図13Hの工程において図12Hの工程と同様に前記グラフェンシート10を水素雰囲気中でアニールし、前記開口部10Aの形状を熱力学的に安定な形状へと変化させる。またこれに伴って、前記開口部10Aの端には所望のジグザグ端が形成される。
【0060】
さらに図13Iの工程において前記図12Iの工程と同様にしてソース電極パタ―ン23Sおよびドレイン電極パターン23Dを形成することにより、前記第1の実施形態と同様な構成の電子装置が得られる。
【0061】
なお前記第1の実施形態および本実施形態において、前記ジグザグ端は図14あるいは図15において破線で示すようにグラフェンシートから炭素原子をより多くの炭素原子を除去することによっても形成可能である。
【0062】
すなわち図14の例では13個の炭素原子が除去されており、図15の例では16個の炭素原子が除去されているが、破線で示されている炭素原子が除去されて生じた空孔は、図12Hあるいは図13Hの水素アニールの結果、開口部10Aの表面積を最小とするように集合しており、前記開口部10Aの端には所望のジグザグ端が安定に形成されるのがわかる。ただし前記開口部10Aの径が大きすぎると、隣の開口部10Aに重なってしまうので、前記開口部10Aは10nmの径を超えないのが好ましい。
【0063】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10,100 グラフェンシート
10A 開口部
10N,24N 開口部列
21 p+型シリコン基板
22,24 シリコン酸化膜
23S ソース電極パターン
23D ドレイン電極パターン
25 P(S-r-MMA)薄膜
26 ブロック共重合体薄膜
26A PMMAシリンダ26A
26B 開口部
27 レジスト膜
27A レジスト開口部
〜C 炭素原子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上にゲート絶縁膜を介して形成されたグラフェンシートと、
前記グラフェンシートの一端に形成されたソース電極と、
前記グラフェンシートの他端に形成されたドレイン電極と、
前記グラフェンシートに前記ソース領域とドレイン領域との間でゲート電圧を印加するゲート電極と、
前記グラフェンシートに前記ソース電極とドレイン電極の間において、前記ソース電極からドレイン電極へのキャリアの流れを横切って形成された、複数の開口部よりなる開口部列と、
を備え、
前記各々の開口部では前記グラフェンシートから4個以上の炭素原子が除去されており、
前記各々の開口部は、他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子を二個以上含む少なくとも5個の炭素原子からなるジグザグ形状の端部により画成されていることを特徴とする電子装置。
【請求項2】
前記基板は導電性シリコン基板よりなり、前記ゲート電極は前記導電性シリコン基板よりなることを特徴とする請求項1記載の電子装置。
【請求項3】
前記開口部の径は炭素原子4個分以上で、10nmを超えないことを特徴とする請求項1または2記載の電子装置。
【請求項4】
前記開口部列は、前記ソース電極とドレイン電極の間で、前記キャリアの流れを横切って複数列にわたり形成されていることを特徴とする請求項1〜3のうち、いずれか一項記載の電子装置。
【請求項5】
前記複数の開口部の各々において、前記他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子は、水素原子により終端されていることを特徴とする請求項1〜4のうち、いずれか一項記載の電子装置。
【請求項6】
グラフェンシートから少なくとも4個の炭素原子を除去することにより、前記グラフェンシート中に開口部を形成する工程と、
前記開口部を形成されたグラフェンシートを還元性雰囲気中においてアニールし、前記開口部の端に、他の炭素原子に結合していない結合手を有する炭素原子を二個以上含む少なくとも5個の炭素原子からなるジグザグ形状の端部を形成する工程と、
を含むことを特徴とする電子装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図12G】
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【図12H】
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【図12I】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図13G】
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【図13H】
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【図13I】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−175087(P2012−175087A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38921(P2011−38921)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】