説明

電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラム

【課題】MUSIC法やEsprit法等の固有値分解を用いて到来波推定を行い到来波方向の推定の際、ロバスト性が高く、精度良く到来波数の推定を行う電子走査型レーダ装置提供する。
【解決手段】本発明の電子走査型レーダ装置は、送信波を送信する送信部と、ターゲットからの到来波を受信する複数のアンテナからなる受信部と、送信波及び反射波のビート信号を生成するビート信号生成部と、ビート信号から複素数データを算出する周波数分解処理部と、各ビート周波数の強度値からターゲットを検知するピーク検知部と、アンテナ毎のターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出部と、相関行列から固有値を算出する固有値算出部と、正規化された固有値と、設定された閾値とを比較する比較部と、ターゲットが検出されたビート周波数の固有値において、閾値を超える数を到来波の数とする判定部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射した送信波に対するターゲットからの反射波を用い、このターゲットの検出を行う、車載用に好適な電子走査型レーダ装置及びこれに用いる到来波方向推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車載レーダとしては、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダ、多周波CW(Continuous Wave)レーダ、及びパルスレーダ等の方式を利用した電子走査型のレーダが用いられている。
上記各レーダにおいては、送信波に対するターゲットからの反射波である到来波(あるいは受信波)の方向検知の技術として、アレーアンテナの到来波方向推定方法が用いられている。
この到来波方向推定方法は、ビームフォーマ法、Capon法などのビーム走査方法と、最大エントロピー(MEM:Maximum Entropy Method )法などの線形予測法、最小ノルム法、MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法等の超分解能(高精度)アルゴリズムといわれるヌル操作方法がある(例えば、非特許文献1及び2参照)
【0003】
また、車載レーダに用いられる到来波方向推定は、ビームフォーマ法のデジタルビームフォーミング(DBF:Digital Beam Forming)のみで行ったり(例えば、特許文献1参照)、受信波の到来方向の検出精度(またターゲットの分解能)を向上させるため、近年、DBFと最大エントロピー法を組み合わせた方法(例えば、特許文献2及び3参照)により行われている。
さらに、MUSICなどの超分解能アルゴリズムを車載レーダ用に応用させる目的で処理の簡易化に思考を凝らした構成(例えば、特許文献4及び5参照)など、通常のパーソナルコンピュータに比較し、演算処理機能が低い車載用に適用するよう開発されている。
【0004】
上記MUSICなどの超分解能アルゴリズムは、方向推定の精度を向上させるため、上記到来波の数を推定した後に、到来波の方向推定することが望ましい。
非特許文献1及び2においては、到来波数の推定手法として、統計処理における最尤法に基づいて、AIC(Akaike Information Criteria)や、MDL(Minimum Description Length)などが紹介されている。
しかしながら、上述した非特許文献1及び2の推定手法においては、多数のデータを収集して分散評価する必要があるため、ターゲットとの相対距離及び相対速度の変動が早い車載レーダの用途としては適していない。
【0005】
特許文献4においては、MUSICスペクトラムを計算するために必要な到来波数を軽い演算負荷にて推定する手法が記載されている。すなわち、固有値演算の後、固有値の大きさにより信号空間とノイズ空間とを区別して推定する閾値法を応用した手法が記載されている。
この場合、測定距離が遠くなるにつれて、レーダの受信強度が低下するため、ターゲットとの相対距離毎に閾値を記憶・設定しておき、この閾値と固有値(受信強度と等価)とを比較することにより、到来波数の推定を行う。
また、車載用を目的とした構成ではないが、固有値を元の共分散行列(すなわち、相関行列)の対角成分値の一つにて正規化した後、一つの閾値で区別するものがある(例えば、特許文献6参照)。
【0006】
また、精度の良い到来波数の推定方法として、常時、到来波数を受信可能な最大数としみなしてスペクトラム計算し、後段の電力計算において、不要なピーク値を除去して最終の到来波数の推定値とするものがある(特許文献7)。
【非特許文献1】菊間 信良著、アレーアンテナによる適応信号処理、科学技術出版社、1998
【非特許文献2】菊間 信良著、アダプティブアンテナ技術、オーム社、2003年
【特許文献1】特開2000−284044号公報
【特許文献2】特開2006−275840号公報
【特許文献3】特開2006−308542号公報
【特許文献4】特開2006−047282号公報
【特許文献5】特開2007−040806号公報
【特許文献6】特開2006−153579号公報
【特許文献7】特開2000−121716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献4による到来波推定方法は、ターゲット検知における全距離について閾値を記憶する必要があり、必要なメモリ容量の確保(ROMなどに閾値テーブルのマップ形成)を行う必要があり、また、閾値の設定と、距離毎の閾値との比較を行うプログラミング作成が煩わしいという課題がある。
また、上記閾値は、絶対量であるため、ターゲットのRCS(Radar Cross Section)や不必要な物体からの反射であるクラッタ及びノイズなどによって、固有値が上下変動する状態に対応することができず、ロバスト性に欠けるということが懸念される。
【0008】
また、上記特許文献6による到来波推定方法は、算出した固有値を元の共分散行列の対角成分の一つにより正規化するが、常時、到来波数の推定を行うようにしているため、到来波が微弱な際に誤った推定数を算出する可能性がある。ここで、微弱とは、ターゲットのRCSやクラッタ及びノイズなどにより固有値が上下変動するレベルを、遙かに下回る信号レベルを示している。
特に、車載レーダ用途においては、路面からのマルチパス(クラッタの一種)という現象があり、必ず、受信波が上記微弱の信号レベルとなる距離領域が発生してしまう。
このため、微弱な信号レベルとなる距離領域においての到来波数の推定は逆に間違った結果を出力することとなる。
【0009】
また、上記特許文献7による到来波推定方法は、MUSICスペクトラム計算前において、到来波数を推定する処理を必要としないものの、スペクトラム計算の後、必ず逆行列計算を伴う電力計算を実行する必要があり、演算負荷が重くなるという課題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、MUSIC法やEsprit法などの固有値分解を用いて到来波推定を行い到来波方向の推定を行う際、ロバスト性が高く、かつ精度良く到来波数の推定を行う電子走査型レーダ装置、受信波方向推定方法及び受信波方向推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電子走査型レーダ装置は、移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、送信波を送信する送信部と、前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する複数のアンテナから構成される受信部と、前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成部と、時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理部と、各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知部と、前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出部と、相関行列から固有値を算出する固有値算出部と、正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較部と、ターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定部とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記固有値算出部が算出された固有値における最大値を有する固有値にて、全ての固有値を除算して正規化し、前記比較部が該正規化された固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0013】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記固有値算出部が前記相関行列における最大値の要素により、前記相関行列の全ての要素を除算し、要素が正規化された相関行列により固有値を演算し、前記比較部が該固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0014】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記判定部が予め設定された最大固有値閾値と、求められた固有値における最大固有値とを比較し、最大固有値が最大固有値閾値を超えた場合、固有値が有効受信レベルであるとして到来波数の推定を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記固有値算出部が前記相関行列の対角要素における最大値の要素により、前記相関行列の全ての要素を除算し、要素が正規化された相関行列により固有値を演算し、前記比較部が該固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする。
【0016】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記ピーク値と予め設定されている有効受信レベルとを比較するピーク値比較部をさらに有し、前記判定部がピーク値が前記有効受信レベルを超えるピーク値である場合、有効受信レベルであるとして到来波数の推定を行うことを特徴とする。
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記判定部が予め設定された最大相関行列対角要素閾値と、求められた前記相関行列における対角要素の最大値とを比較し、対角要素の最大値が最大相関行列対角要素閾値を超えた場合、有効受信レベルであるとして到来波の推定を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記ピーク検知部が各アンテナ毎の前記複素数データにより、前記チャネル方向にデジタルビームフォーミングを行い、前記ターゲットの存在を検知するDBF部を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記DBF部が前記複素数データを用いてデジタルビームフォーミングすることにより角度チャンネル毎のスペクトラムの強度を示す空間複素数データを算出し、隣接した角度チャンネルのスペクトラムの強度が予め設定された角度チャンネル数の範囲において予め設定されたDBF閾値を超えた場合、ターゲットの存在を検知し、ターゲットの存在が検知されていない角度チャンネルのスペクトラム強度を「0」に置き換え、新たな空間複素数データとして出力するチャンネル削除部と、前記新たな空間複素数データを逆DBFすることにより、再生複素数データを生成するIDBF部とをさらに有し、前記相関行列算出部が前記再生複素数データから相関行列を算出することを特徴とする。
【0019】
本発明の電子走査型レーダ装置は、前記ピーク検知部が、全アンテナの複素数データの加算値を周波数スペクトラム化し、このスペクトラムのピーク値によりターゲットを検出することを特徴とする。
本発明の受信波方向推定方法は、移動体に搭載される上記いずれかに記載の電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、送信部が送信波を送信する送信過程と、受信部が複数のアンテナにより前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する構成される受信過程と、ビート信号生成部が前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成過程と、周波数分解処理部が時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理過程と、ピーク検知部が各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知過程と、相関行列算出部が前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出過程と、固有値算出部が相関行列から固有値を算出する固有値算出過程と、比較部が正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較過程と、判定部がターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定過程とを有することを特徴とする。
本発明の受信波方向推定プログラムは、移動体に搭載される上記いずれかに記載の電子走査型レーダ装置の受信波方向推定の動作をコンピュータに制御させるためのプログラムであり、送信部が送信波を送信する送信処理と、受信部が複数のアンテナにより前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する構成される受信処理と、ビート信号生成部が前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成処理と、周波数分解処理部が時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理処理と、ピーク検知部が各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知処理と、相関行列算出部が前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出処理と、固有値算出部が相関行列から固有値を算出する固有値算出処理と、比較部が正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較処理と、判定部がターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定処理とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明(請求項1)によれば、正規化されて求められた固有値において、予め設定した閾値を超える固有値の数を到来波数として出力するため、ターゲットの存在するビート周波数(すなわち、ターゲットとの距離)が何れの場合においても、従来の様にビート周波数毎に閾値を設けることなく、フーリエ変換された全てのビート周波数における固有値に対して、一つの閾値を設定することにより、この閾値を超えた固有値数を、到来波数として推定することができ、従来のようにビート周波数毎に固有値と比較するための閾値を設定する必要がなく、記憶容量を削減することができ、かつ、固有値及び閾値を比較する簡易な演算のみであるため、到来波数算出の処理時間を短縮することが可能となる。
また、本発明によれば、正規化されて計算された固有値と、閾値とを比較する判定を行うため、ターゲットのRCSやクラッタ及びノイズなどによる固有値全体の変動に対してロバスト性を持たせることができる。
【0021】
さらに、本発明によれば、周波数変換後の周波数軸における周波数ポイント(ビート周波数値)におけるスペクトラムのピーク値(受信アンテナ毎のスペクトラムの加算値やDBFにおけるピーク値)からターゲットの存在を検知し、ピーク値の低いビート周波数値に対して相関行列化以降の処理を実行しないため、固有値が上記閾値を超えていたとしても、路面からのマルチパスなどでターゲットからの到来波が微弱となる際に、誤った到来波数の推定をしないようにすることができる。
また、本発明によれば、ターゲットが存在するビート周波数値にDBFを行い、スペクトラムが設定した値より低い場合、その角度チャンネルに対応するスペクトラムを「0」とし、IDBF(逆DBF)を行い、受信アンテナ方向の再生複素数データで相関行列を算出する場合、DBFでのターゲット毎に分割された範囲のみの固有値となるため、分割した到来波のみが受信されることと等価となり、受信アンテナ数に対して到来波数が多い場合にも、固有値計算にて誤った推定を行うことがない。
【0022】
また、本発明によれば、求められた固有値における最大固有値の値が予め設定した最大固有値閾値を超える場合にのみ、判定部が到来波数の推定処理を行うため、周波数分解後の周波数ポイントによるスペクトラムのピーク値からターゲットを検出した結果を用いず、全周波数ポイントあるいは特定の周波数ポイント範囲の相関行列から固有値を求めるような実施例の場合にも、路面からのマルチパスなどによりターゲットからの到来波が微弱となる際に誤った推定を行うことがない。
また、本発明によれば、相関行列における要素の最大値にて全要素を除算することで正規化し、正規化された相関行列により固有値を算出することにより、固有値を計算する際の浮動小数点演算の精度が向上し、固有値及び固有ベクトルの演算アルゴリズム(ヤコビ法及びQR法など)の収束までの演算回数が低減でき、固有値及び固有ベクトルの演算を高速化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態による電子走査型レーダ装置(FMCW方式ミリ波レーダ)を図面を参照して説明する。図1は同実施形態の構成例を示すブロック図である。
この図において、本実施形態による電子走査型レーダ装置は、受信アンテナ11〜1n、ミキサ21〜2n、送信アンテナ3、分配器4、フィルタ51〜5n、SW(スイッチ)6、ADC(A/Dコンバータ)7、制御部8、三角波生成部9、VCO10、信号処理部20を有している。
上記信号処理部20は、メモリ21、周波数分離処理部22、ピーク検知部23、ピーク組合せ部24、距離検出部25、速度検出部26、相関行列算出部28、方位検出部30、固有値算出部31及び判定部32を有している。
【0024】
次に、図1を参照して、本実施形態による電子走査型レーダ装置の動作を説明する。
受信アンテナ11〜1nは、送信波がターゲットにて反射し、このターゲットから到来する反射波、すなわち受信波を受信する。
ミキサ21〜2n各々は、送信アンテナ3から送信される送信波と、各受信アンテナ11〜1nそれぞれにおいて受信された受信波が増幅器により増幅された信号とを混合して、それぞれの周波数差に対応したビート信号を生成する。
上記送信アンテナ3は、三角波生成部9において生成された三角波信号を、VCO(Voltage Controlled Oscillator )10において周波数変調した送信信号をターゲットに対して送信波として送信する。
分配器4は、VCO10からの周波数変調された送信信号を、上記ミキサ21〜2nおよび送信アンテナ3に分配する。
【0025】
フィルタ51〜5n各々は、それぞれミキサ21〜2nにおいて生成された各受信アンテナ11〜1nに対応したCh1〜Chnのビート信号に対して帯域制限を行い、SW(スイッチ)6へ帯域制限されたビート信号を出力する。
SW6は、制御部8から入力されるサンプリング信号に対応して、フィルタ51〜5n各々を通過した各受信アンテナ11〜1nに対応したCh1〜Chnのビート信号を、順次切り替えて、ADC(A/Dコンバータ)7に出力する。
ADC7は、上記W6から上記サンプリング信号に同期して入力される各受信アンテナ11〜1n各々に対応したCh1〜Chnのビート信号を、上記サンプリング信号に同期してA/D変換してデジタル信号に変換し、信号処理部20におけるメモリ21の波形記憶領域に順次記憶させる。
制御部8は、マイクロコンピュータなどにより構成されており、図示しないROMなどに格納された制御プログラムに基づき、図1に示す電子走査型レーダ装置装置全体の制御を行う。
【0026】
<距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理>
次に、図2を用いて、本実施形態における信号処理部20において用いられる、電子走査型レーダ装置とターゲットとの距離、相対速度、角度(方位)を検出する原理について簡単に説明する。
図2は、図1の三角波生成部9において生成された信号をVCO10において周波数変調した送信信号と、その送信信号がターゲットに反射されて受信信号として入力される状態を示す。図2の例はターゲットが1つの場合を示している。
図2(a)から判るように、送信する信号に対し、ターゲットとからの反射波である受信信号が、ターゲットとの距離に比例して右方向(時間軸方向)に遅延されて受信される。さらに、ターゲットとの相対速度に比例して、送信信号に対して上下方向(周波数方向)に変動する。そして、図2(a)から求められたビート周波数の周波数変換(フーリエ変換やDCT、アダマール変換、ウェーブレット変換など)後において、図2(b)に示されるように、ターゲットが1つの場合、上昇領域及び下降領域それぞれに1つのピーク値を有することなる。ここで、図2(a)は横軸が周波数、縦軸が強度となっている。
【0027】
周波数分解処理部22は、メモリ21に蓄積されたビート信号のサンプリングされたデータから、三角波の上昇部分(上り)と下降部分(下り)とのそれぞれについて周波数分解、例えばフーリエ変換などにより離散時間に周波数変換する。
その結果、図2(b)に示すように、上昇部分と下降部分とにおいて、それぞれの周波数分解されたビート周波数毎の信号レベルのグラフが得られる。
そして、ピーク検知部23は、図2(b)に示すビート周波数毎の信号レベルからピーク値を検出し、ターゲットの存在を検出するとともに、ピーク値のビート周波数(上昇部分及び下降部分の双方)をターゲット周波数として出力する。
【0028】
次に、距離検出部25は、ピーク組合せ部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により距離を算出する。
r={C・T/(2・Δf)}・{(fu+fd)/2}
また、速度検出部26は、ピーク組合せ部24から入力される上昇部分のターゲット周波数fuと、下降部分のターゲット周波数fdとから、下記式により相対速度を算出する。
v={C/(2・f0)}・{(fu−fd)/2}
上記距離r及び相対速度vを算出する式において、
C :光速度
Δf:三角波の周波数変調幅
f0 :三角波の中心周波数
T :変調時間(上昇部分/下降部分)
fu :上昇部分におけるターゲット周波数
fd :下降部分におけるターゲット周波数
【0029】
次に、本実施形態における受信アンテナ11〜1nは、図3に示すように、間隔dにより配置されたアレー状のアンテナである。
上記受信アンテナ11〜1nには、アンテナの配列している面に対する垂直方向の軸との角度θ方向から入射される、ターゲットからの到来波(入射波、すなわち送信アンテナ3から送信した送信波に対するターゲットからの反射波)が入力する。
このとき、上記到来波は、上記受信アンテナ11〜1nにおいて同一角度にて受信される。
この同一角度、例えば角度θ及び各アンテナの間隔dにより求められる位相差「dn−1・sinθ」が各隣接する受信アンテナ間にて発生する。
上記位相差を利用して、アンテナ毎に時間方向に周波数分解処理された値を、アンテナ方向にさらにフーリエ変換するデジタルビームフォーミング(DBF)や超分解能アルゴリズム等の信号処理にて上記角度θを検出することができる。
【0030】
<信号処理部20における受信波(到来波)に対する信号処理>
次に、メモリ21は、ADC7により波形記憶領域に対して、受信信号がA/D変換された時系列データ(上昇部分及び下降部分)を、アンテナ11〜1n毎に対応させて記憶している。例えば、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて256個をサンプリングした場合、2×256個×アンテナ数のデータが上記波形記憶領域に記憶される。
周波数分解処理部22は、例えばフーリエ変換などにより、各Ch1〜Chn(各アンテナ11〜1n)に対応するビート信号それぞれを、予め設定した分解能にて周波数に変換してビート周波数を示す周波数ポイントと、そのビート周波数の複素数データを出力する。例えば、アンテナ毎に上昇部分及び下降部分それぞれが256個のサンプリングされたデータを有している場合、アンテナ毎の複素数の周波数領域データとしてビート周波数に変換され、上昇部分及び下降部分それぞれにおいて128個の複素数データ(2×128個×アンテナ数のデータ)となる。また、上記ビート周波数は周波数ポイントにて示されている。
ここで、アンテナ毎の複素数データそれぞれの相違点は、上記角度θに依存した位相差のみであり、それぞれの複素数データの複素平面上における絶対値(受信強度あるいは振幅など)は等価である。
【0031】
ピーク組合せ部24は、周波数変換されたビート周波数の三角波の上昇領域及び下降領域それぞれ強度のピーク値を、複素数データを用いて信号強度(または振幅など)におけるピークから、予め設定された数値を超えるピーク値を有するビート周波数を検出することにより、ビート周波数毎のターゲットの存在を検出して、ターゲット周波数を選択する。
したがって、ピーク検知部23は、何れかのアンテナにおける複素数データまたは、全アンテナにおける複素数データの加算値を周波数スペクトラム化することにより、スペクトラムの各ピーク値がビート周波数、すなわち距離に依存したターゲットの存在として検出することができる。全アンテナの複素数データの加算により、ノイズ成分が平均化されてS/N比が向上する。
【0032】
ピーク組合せ部24は、ピーク検知部23から入力される図4に示すビート周波数とそのピーク値とを、上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数とそのピーク値をマトリクス状に総当たりにて組合せ、すなわち上昇領域及び下降領域それぞれのビート周波数を全て組み合わせて、順次、距離検出部25及び速度検出部26へ出力し、ペア確定部27で組み合わせを確定する。ここで、図4は、横軸がビート周波数の周波数ポイントを示し、縦軸が信号のレベル(強度)を示している。
【0033】
距離検出部25は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組合せのビート周波数を加算した数値によりターゲットとの上記距離rを演算する。
また、速度検出部26は、順次入力される上昇領域及び下降領域それぞれの組合せのビート周波数の差分によりターゲットとの上記相対速度vを演算する。
また、相関行列算出部28は、組合せが確定したペアにおけるビート周波数の周波数ポイントにより、周波数分解処理部22が周波数分解したビート周波数を選択し、この組合せにおける上昇部分及び下降部分のいずれか一方の(本実施形態においては下降部分)のビート周波数に対応した相関行列を生成する。
【0034】
<受信波の到来方向推定における超分解能アルゴリズム>
次に、上記相関行列算出部28、固有値算出部31、判定部32及び方位検出部30における、受信波の到来方向の推定を行う超分解能アルゴリズムを、MUSICを例に取り図5を用いて説明する。この図5は、一般的なMUSICの処理の流れを示すフローチャートである。MUSICの処理そのものは、一般的に用いられているため(例えば、非特許文献1及び2、あるいは特許文献3〜6)、本実施形態において必要な箇所のみ説明する。
周波数分解処理部22は、メモリ21に記憶されている受信波によるビート信号を読み込み(ステップS101)、アンテナ毎のビート信号を周波数変換する(ステップS102)。
そして、すでに述べたように、相関行列算出部28は、ペア確定部27により組合せが確定した下降領域のターゲットの周波数ポイントに該当する周波数分解された複素数周波数領域データ(以下、複素数データ)を、周波数分解処理部22から選択して読み込み、下降領域において、各アンテナ毎の相関を示す相関行列を生成する(ステップS103)。
【0035】
このステップS103における相関行列算出部28の相関行列の生成において、例えば図6(a)及び図6(b)に示す手法があり、それぞれを以下に簡単に説明する。
図6(a)における手法において、相関行列算出部28は、複素数データのまま相関行列(複素相関行列)を生成し(ステップS103_1)、前方のみの空間平均(Forward空間平均法)または前方/後方空間平均(Forward-Backward空間平均法)にて処理する(ステップS103_2)。
空間平均は、元の受信アンテナのアレーにおけるアンテナ数を、さらにアンテナ数が少ないサブアレーに分け、サブアレー同士を平均したものである。この空間平均法の基本原理は、相関のある波の位相関係は受信位置によって異なるので, 受信点を適当に移動させて相関行列を求めれば, その平均効果により相関性干渉波の相関を抑圧する。一般的には受信アンテナのアレーを動かさずに、全体の受信アンテナのアレーから同じ配列を有するサブアレーを複数取り出し、それぞれの相関行列を平均する方法をとる。
【0036】
例えば、図7に示すように、アンテナ数が9本の受信アンテナアンテナ11〜1n(n=9)のアレーを考えると、相関行列算出部28は、以下の前方の(1)式の相関行列CRに対して、後方の(2)式の後方相関行列CRを求めて、(1)式の相関行列と(2)式の後方相関行列との対応する要素を
CRfb=(CR+CR)/2
として平均したものが前方/後方における要素の平均処理である。
このように、前方/後方平均処理により求められた相関行列CRfbを、サブアレイに分割して平均し、受信波の到来方向の推定に用いる相関行列Rxxを求める。すなわち、前方/後方空間平均処理により求めた相関行列は下記の式により表される。
Rxx=(CRfb1+CRfb2+CRfb3)/3
ここで、相関行列算出部28は、9本の受信アンテナ11〜19のアレーを7本のアンテナ11〜17、12〜18、13〜19の3つのサブアレーに分割し、それぞれのサブアレーの行列の対応する要素を平均することにより、上記相関行列Rxxを求める。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
一方、前方の空間平均の場合、V11からV99のマトリクスは、W11からW99までの(1)式のマトリクスのままでよいので、V11=(W11+W99)/2の例で示す各要素の平均は不要となる。
レーダにおける受信波の到来方向を推定する用途においては、到来する受信波の全てが送信した送信波がターゲットにて反射した反射波であるため、アンテナ毎に受信された受信波のデータは強い相互相関を示すことになる。そのため、後段における固有値計算の結果が正しく現れないことになる。したがって、その相互相関を抑圧して、自己相関を引き出し、正しく到来波方向推定を行う効果があるのが空間平均である。
【0040】
次に、相関行列算出部30は、上述した処理により空間平均された複素数データの相関行列を、実数の相関行列に変換するためのユニタリ変換を行う。
ここで、実数の相関行列に変換することにより、以降におけるステップでの最も計算負荷の重い固有値計算が実数のみの計算とすることができ、大幅に演算負荷を軽減することができる。
一方、図6(b)は、図6(a)のように、ユニタリ変換による実数相関行列への変換を行わずに、次のステップにおける固有値計算も複素数で計算されるタイプである。
また、ステップS103において、図6(a)におけるS103_3及び図6(b)におけるS103_2にて得られた相関行列Rxxにおいて、さらに相関行列(または相関行列の対角成分)の最大値を基準に各要素の値を正規化(=最大値で割る)しておいても良い。
【0041】
次に、固有値算出部31は、ステップS103にて得られた相関行列Rxxの固有値とそれに対応する固有ベクトルとを、
Rxxe=λe
の固有方程式が成り立つ、固有値λ及び固有ベクトルeとして算出し、方位検出部30に出力するとともに、判定部32に対して固有値λを出力する(ステップS104)。
そして、判定部32は、上記固有値算出部31の求めた固有値λから、信号成分ベクトルを取り除くために必要な到来波数の推定を行い、求められた到来波数を方位検出部30へ出力する(ステップS105)。
ここで、判定部32は、上記到来波の推定を後述する到来波推定処理により行う。
次に、方位検出部30は、信号ベクトルを除き、ノイズ成分のみとしたベクトルと、予め内部に設定されている方位角度毎の方向ベクトルとの内積演算を行うことにより、角度のスペクトラムを作成する(ステップS106)。これにより、受信波の到来方向に対して指向性のヌルを対応付けることができる。
【0042】
そして、方位検出部30は、上記角度のスペクトラムから、予め設定した閾値を超えるピークを検出することにより、ピークを検知して到来波方向(角度θ)を算出する(ステップS107)。
また、方位検出部30は、角度(=受信波の到来方向)と、距離検出部25で算出された距離とにより、電子走査型レーダ装置におけるアンテナアレーの垂直軸に対して横方向の位置に換算することもできる。
以上は、標準的なMUSICであるが、ステップS106におけるMUSICスペクトラム算出において、方向ベクトルにてサーチするタイプではなく、多項式の根から解を求めるRoot−MUSICという手法を用いることもできる。
【0043】
また、図5におけるステップS107の後に、受信電力計算と不要波(不要な受信波のデータ)削除との処理を追加しても良い。
すなわち、判定部32は、以下の式において行列Sの対角成分に現れる電力と、予め設定しておいた閾値とを比較し、電力が閾値を超えるか否かの検出を行い、電力が閾値を超えた場合に必要な受信波と判定し、一方、電力がこの閾値以下である場合に不要な受信波と判定する処理を有する。
S=(AA)−1(Rxx−σI)A(AA)−1
ここで、Sは受信波の信号の相関行列、Aは方向行列、AはAの共役転置行列、Iは単位行列、Rxxは相関行列算出部28にて演算した相関行列、σは雑音ベクトルの分散である。
【0044】
上述したこの受信電力計算と不要波削除との処理を付け加えることにより、ステップS105の受信波数の推定において、受信波数を多く見積もった際、この処理により不要に到来する受信波の削除を行うことができる。したがって、後述する到来波数の推定処理における閾値λth及び閾値λth’の設定のマージンを確保する(すなわち、各閾値を厳密に設定せずとも、受信電力が十分でない受信波を削除する)ことができる。
【0045】
<到来波推定処理>
次に、本実施形態の特徴的な処理である図5のステップS105における到来波推定処理について、図8を用いて説明する。この図8のフローチャートに示す到来波数推定の処理は、図1における主として判定部32が固有値算出部31から入力される固有値を用いて行う処理である。
すでに、図5のフローチャートにて説明したように、図5におけるステップS105に入る時点において、ピーク組合せ部24がターゲットを検知し、固有値算出部31が相関行列Rxxの固有値及び固有値ベクトルをすでに算出している。
したがって、判定部32は、到来波数が最低でも1つあることを仮定し、到来波数Lに1を代入する(ステップS401)。
【0046】
そして、判定部32は、相関行列から求められた固有値のなかから、最大値を有する最大固有値λaを検出し、その最大固有値λaにより全ての固有値λx(x=1,2,3,…)を除算して(最大固有値λaと、この最大固有値λaを含む全ての固有値λxとの比を求めて)、固有値λxの正規化を行い、正規化固有値としてλy(y=1,2,3,…)とする(ステップS402)。このとき、判定部32は、正規化された固有値λyを大きい順番に並べ替える。
次に、判定部32は、予め設定してある閾値λthと、固有値λyとを、固有値λyの大きい順に、順番に比較し(ステップS403)、固有値λyが閾値λth以上であることを検出した場合、処理をステップS404へ進める。
【0047】
そして、判定部32は、到来波数Lをインクリメント(1を加算)し、処理をステップS403へ戻す。
一方、判定部32は、固有値λyが閾値λth未満であることを検出すると、以降の固有値λyと閾値λthとの比較の処理を行う必要が無くなり(以降の固有値λyが現在比較している固有値λyより小さいため)、処理をステップS405へ進める(ステップS403)。
そして、判定部32は、現在の到来波数Lを検出した到来波数として確定し、この確定された到来波数Lを方向検出部30へ出力する(ステップS405)。
この到来波数推定処理において、判定部32は、上述したステップS401からステップS405の処理を、固有値算出部31からの固有値の入力毎に行う。
【0048】
また、図9のフローチャートに示すように、到来波数推定の処理を行う前に、判定部32が固有値算出部31から入力される固有値λxから最大固有値λaを検出する。
そして、判定部32は、この検出した最大固有値λaが予め設定されている閾値λmax以上か否かの検出を行い(ステップS400)、最大固有値λaが閾値λmax以上であることを検出した場合、すでに説明した図8におけるステップS401以降の到来波数処理を行い、一方、最大固有値λaが閾値λmax未満であることを検出した場合、到来波数の推定処理を行わず、方位検出部30に対して到来波数Lを出力しない。
すなわち、全周波数ポイントあるいは特定の周波数ポイント範囲の相関行列から固有値を求めるような実施例の場合にも、到来波数の推定において、到来波数推定処理をキャンセル(中止)することができ、路面におけるマルチパスの影響により、受信レベルが低い状態であっても、誤った到来波数の推定を回避することができる。
【0049】
次に、図10のフローチャートにより、他の到来波数推定処理の説明を行う。この図10においては、図8及び図9のフローチャートと異なり、固有値を算出した後に正規化を行うのではなく、相関行列算出部28の説明にて記載したように、相関行列算出部28が相関行列Rxxにおける各要素のうち対角要素の最大値により、相関行列Rxxの各要素を除算して要素を正規化した後、固有値算出部31が固有値及び固有値ベクトルの算出を行う様にしてもよい。
また、相関行列算出部28にて相関行列Rxxの正規化を行うのではなく、固有値算出部31が固有値を算出する前に、上述した正規化処理を行った後に、固有値及び固有値ベクトルの算出を行うようにしてもよい。
【0050】
この結果、固有値計算の浮動小数点演算の精度が向上し、固有値及び固有値ベクトルの演算アルゴリズムであるヤコビ法やQR法などの収束までの演算回数を削減することができ、演算時間の短縮を実現することができる。また、到来波数推定処理における固有値の正規化処理を行う必要がない。また、相関行列Rxxにおける各要素のうち対角要素を含む全要素での最大値を正規化の基準にした場合は、図10のステップS501の前に図8のステップS402の固有値の正規化の処理を行えば良い。
いずれにしても、正規化された相関行列により算出された固有値λx(x=1,2,3,…)が判定部32に入力され、図10のフローチャートに示す到来波数の推定処理が開始される。このとき、判定部32は、到来波Lを0にリセットする。
【0051】
判定部32は、入力される固有値λxを大きい順に並べ替え、各固有値λxと予め設定した閾値λth’との比較を、固有値λxの大きい順に行う(ステップS501)。
このとき、判定部32は、固有値λxが予め設定した閾値λth’以上の場合、処理をステップS502へ進め、一方、固有値λxが予め設定した閾値λth’未満の場合、処理をステップS503へ進める。
そして、判定部32は、固有値λxが予め設定した閾値λth’以上の場合、到来波数Lをインクリメントし(ステップS502)、処理をステップS501へ戻す。
また、判定部32は、固有値λxが予め設定した閾値λth’未満の場合、現時点の到来波数Lを推定した到来波数として確定し、方位検出部30へ出力する(ステップS503)。
この到来波数推定処理において、判定部32は、上述したステップS501からステップS503の処理を、固有値算出部31からの固有値の入力毎に行う。
【0052】
また、図11に示すように、図10におけるフローチャートのステップS501の比較処理の前に、周波数分解後にピーク検知部23が検知したピーク値が予め設定された閾値PEAK-thと比較するステップS500を設けても良い。
そして、判定部32は、ピーク検知部23から入力される上記ピーク値が予め設定されている閾値PEAK-th以上か否かの検出を行い(ステップS500)、このピーク値が閾値PEAK-th以上であることを検出した場合、すでに説明した図10におけるステップS501以降の到来波数処理を行い、一方、上記ピーク値が閾値PEAK-th未満であることを検出した場合、到来波数の推定処理を行わず、方位検出部30に対して到来波数Lを出力しない。
すなわち、全周波数ポイントあるいは特定の周波数ポイント範囲の相関行列から固有値を求めるような実施例の場合にも、到来波数の推定において、到来波数推定処理をキャンセル(中止)することができ、路面におけるマルチパスの影響により、受信レベルが低い状態であっても、誤った到来波数の推定を回避することができる。さらに、図12に示すように、前記図12のステップS500の変わりに、求められた相関行列における対角要素の最大値を予め設定された閾値と比較するステップS500を設けても良い。
【0053】
図13及び図14は、実際に距離毎(ビート周波数毎)に固有値の分布が変動する状態を示すグラフである。図13が到来波が1波(到来波数1)の場合を示し、図14が到来波が2波(到来波数2)の場合を示している。
ここで、図13(a)及び図14(a)の横軸は距離を示し、縦軸は固有値を示している。また、図13(b)及び図14(b)の横軸は距離を示し、縦軸は最大固有値λaにより他の固有値λxを正規化した値を示している。
ターゲットとの距離約65m付近と80m付近とにおいて、マルチパスを受け固有値が小さくなる領域が存在していることが図13(a)及び図14(a)から判る。
また、図13(b)及び図14(b)に示すように、正規化した値においても、マルチパスを受けている場所においては、正規化された数値自体の変動が大きくなり、到来波推定にて誤った到来波数を推定することとなる。
【0054】
したがって、図9のステップS400や図11のステップS500及び図12のステップS500における処理にて、到来波推定を行わない構成を入れることにより、この相関行列での到来波数推定と方位検出をキャンセルし、誤った方位検出結果を算出しないようにできる。
図13(c)には、到来波数が1の図14(a)における距離100(m)時における固有値λxの数値が記載されており、信号空間にある固有値λ1と、それ以外のノイズ空間にある固有値との数値の違いを示している。
従来、図13(a)及び図14(a)の固有値を用いて、それぞれの距離毎に閾値Thを設定して、到来波の推定を行っていたが、本実施形態においては、図13(b)及び図14(b)に示すように、固有値を正規化して閾値Thとの比較を行うため、すでに説明したように、全距離共通の1数値として閾値λth(あるいは閾値λth’)を設定し、全ての距離における固有値と比較するため、容易に到来波数を推定することができる。
また、この到来波数の推定が行えなかった場合、方位検出部30において、過去の距離と相対速度及び方位とから現在の距離を推定する手法などで対処することになる。
【0055】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態による電子走査型レーダ装置を図15を用いて説明する。図15は、第2の実施形態による電子走査型レーダ装置の信号処理部20の構成例を示すブロック図である。
図1に示す第1の実施形態と同様の構成についは、同一の符号を付し、以下第1の実施形態との相違点のみについて説明する。
【0056】
この第2の実施形態においては、第1の実施形態と異なり、先にMUSIC等の超分解能アルゴリズムより分解能が低いDBF(Digital Beam Forming)を用いて一旦行い、後に相関行列からの方位推定を超分解能アルゴリズムで行う構成である。図1に示す第1の実施形態と同様の構成についは、同一の符号を付し、以下第1の実施形態との相違点のみについて説明する。
図15に示すように、図1の第1の実施形態における周波数分解処理部22とピーク検出部23との間にDBF処理部33が設けられ、比較的遠距離ではターゲット毎に細かく分離する程の能力は無いが、各ターゲット群レベルでの方位を事前に検出できる点が第1の実施形態と異なっている。
【0057】
第1の実施形態と同様に、周波数分解処理部22は、入力されるビート信号を周波数分解(時間軸フーリエ変換)し、ビート周波数を示す周波数ポイントと、複素数データとを、DBF処理部33へ出力する。
次に、DBF処理部33は、入力される各アンテナに対応した複素数データを、アンテナの配列方向にフーリエ変換し、すなわち空間軸フーリエ変換を行う。
そして、DBF処理部33は、角度に依存、すなわち角度分解能に対応した角度チャンネル毎の空間複素数データを計算し、ビート周波数毎にピーク検知部23に対して出力する。
【0058】
これにより、DBF処理部33から出力される角度チャンネル毎の空間複素数データ(ビート周波数単位)の示すスペクトラムは、ビーム走査分解能による受信波の到来方向推定に依存したものとなる。
また、アンテナの配列方向にフーリエ変換されているため、角度チャンネル間にて複素数データを加算しているのと同じ効果を得ることができ、角度チャンネル毎の複素数データはS/N比が改善されており、ピーク値の検出における精度を、第1の実施形態と同様に向上させることが可能となる。
上述した複素数データ及び空間複素数データともに、第1の実施形態と同様に、三角波の上昇領域及び下降領域の双方にて算出される。
【0059】
次に、ピーク検知部23は、入力される角度チャンネル毎の空間複素数データの示すスペクトラム強度により、ピーク値の検知を行い、ピーク組合せ部24へ出力するとともに、方位検出部30に対して、分解能の粗い(低い)レベルの方位情報として、ターゲット群の存在する角度チャンネル番号(または領域)を出力する。ターゲットの存在する角度チャンネルを出力することにより、図16(a)及び図17(a)に示すように、MUSICスペクトラムの計算時において、上記角度チャンネルの情報が無い場合に比較し、検知方向範囲を狭い角度範囲に絞り込むことが可能となり、MUSICのスペクトラム算出の分解能を上げることができる。
【0060】
ここで、図16(a)及び図17(a)は、DBF後の角度依存Ch(チャンネル)が15Chとなるように、チャンネル方向(アンテナ方向)に16ビットのフーリエ変換を行った場合である。ここで、方位検出部30は、MUSICの処理において、4Chの連続したCh(角度)の範囲にてスペクトラム強度の値がDBFレベル閾値を超えている場合に、上述した絞り込んだ範囲として設定し、この角度範囲にて検知方向範囲の解析を高い精度にて行う。
また、図17(a)は、DBFレベル閾値を4Chの連続した角度範囲にて超えているスペクトラム強度値のグループが2つに分かれるため、方位検出部30は、それぞれの範囲(Ch3〜Ch6と、Ch10〜Ch13との角度範囲)にて、MUSICスペクトラムを算出する角度範囲を絞り込むことになる。
【0061】
ピーク組合せ部25は、第1の実施形態と同様に、上昇領域及び下降領域におけるビート周波数とそのピーク値を組合せて、距離検出部25及び速度検出部26へ出力し、ペア確定部27で組み合わせを確定する。
このとき、ピーク組合せ部25は、組合せの情報として角度チャンネルを用い、上昇領域及び下降領域のビート周波数の組合せを、距離検出部25及び速度検出部26へ出力する。
図16及び図17において、横軸は角度チャンネルのCh番号を示し、縦軸はDBF処理にて算出された各Ch毎のスペクトラム強度を示している。
【0062】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態による電子走査型レーダ装置を図18を用いて説明する。図18は、第3の実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
この第3の実施形態においては、第2の実施形態と同様に、先にMUSIC等の超分解能アルゴリズムより分解能が低いDBF(Digital Beam Forming)を用いて一旦行い、ターゲットの角度範囲を絞り込み、IDBF(逆DBF、すなわち逆空間軸フーリエ変換)を行い時間軸の複素数データに戻し、後に行う超分解能アルゴリズムで行う方位推定の精度を向上させる構成である。図1に示す第1の実施形態と同様の構成についは、同一の符号を付し、以下第1の実施形態との相違点のみについて説明する。
本実施形態は、第2の実施形態にCh(チャンネル)削除部34及びIDBF処理部35が付加されたものである。
【0063】
上記DBF処理部33は、第2の実施形態と同様に、空間軸フーリエ変換を行い、空間複素数データをピーク検知部23へ出力するとともに、Ch削除部34へ出力する。
ここで、DBF処理部33は、図16(a)に示すように、受信アンテナの配列方向に本実施形態においては、例えば16ポイントの分解能により、空間軸フーリエ変換を行い、結果として15の角度チャンネルの角度単位のスペクトラムを生成し、Ch削除部34へ出力する。
【0064】
そして、Ch削除部34は、ペア確定部27により組合せが確定した下降領域のターゲットの周波数ポイントに該当する空間複素数データを選出し、スペクトラムのレベルが予め設定された角度範囲にて隣接して連続し、かつ予め設定されたDBF閾値のレベルを超えるか否かの検出を行い、DBF閾値を超えない角度チャンネルのスペクトラムを「0」に置き換える処理を行い、絞り込んだ各ビート周波数毎の図16(b)に示す空間複素データを出力する。
上述した処理において、Ch削除部34は、例えば、隣接した4角度チャンネルが連続して上記DBF閾値を超えるレベルであると、ターゲットが存在するとして、これらの角度チャンネルのスペクトラムを残し、他の角度におけるスペクトラムの強度を「0」に置き換える。
【0065】
そして、IDBF処理部35は、スペクトラムの絞込を行った、すなわち設定した数の角度チャンネルにおいて連続してDBF閾値を超える角度チャンネル領域のデータのみ残し、その他の領域の強度を「0」に置き換えた空間複素数データを、逆空間軸フーリエ変換し、時間軸の複素数データに戻し、相関行列算出部28へ出力する。
そして、相関行列算出部28は、入力される複素数データから相関行列を算出するため、路側物などを除去し、かつノイズ成分を削減した直交性の良い相関行列を求めることができる。図16(c)は、図16(b)のDBF分解能でのターゲット群(実際にはターゲットが2つ以上ある可能性があるのでターゲット群とする)を、上記の方法で相関行列を作成し、超分解能アルゴリズムでさらにターゲットを分離した例である。
【0066】
また、図17(a)に示すように、複数のターゲット群からの反射成分を含む受信波を受信した場合、DBF処理部33から出力される空間複素データには、連続した角度チャンネルにてDBFレベルを超える角度チャンネル範囲が複数存在することとなる。
そして、Ch削除部34は、入力される空間複素データにて、設定された角度チャネル範囲において、隣接した角度チャネルのスペクトラムのレベルが連続してDBF閾値のレベルを超える場合、その超えた角度チャネル領域をそれぞれ抽出し、その角度チャネル領域以外のスペクトラムの強度を「0」に置き換え、図17(b)及び図17(c)のように、角度チャネル領域にて識別される別々の空間複素数データに分割する。
Ch削除部34は、ペア確定部27により組合せが確定した下降領域のターゲットの周波数ポイントに該当する空間複素数データを選出し、上述したCh削除を行った後、IDBF処理部35へ出力する。
【0067】
そして、IDBF処理部35は、入力される空間複素数データを逆空間フーリエ変換して、得られた時間軸の複素数データを相関行列算出部28へ出力する。
これにより、相関行列算出部28は、入力される複素数データから相関行列を算出し、固有値算出部31へ出力する。
後の到来波数推定の処理は、すでに述べた図8〜図11に示した処理と同様である。
上述した処理により、方位検出部30におけるMUSICにおけるMUSICスペクトラム算出時に検知方向範囲を絞り込むことができ、第1の実施形態に比較して、より分解能を上げることが可能となる。
【0068】
さらに、上述した構成とすることにより、方位検出部33おいて、固有値計算に用いる相関行列に、ターゲット群毎の反射成分に分割した受信波を、仮想的に受信されたことになるため、例えば受信アンテナ数及びサブアレー数に対してその数以上のターゲットからの反射成分を含んだ受信波が受信されたとしても、固有値計算で誤ることなく計算が可能となる。
また、方位検出部30が、現在のターゲットの方位が検出された後、このターゲットの方位をメモリ21に記憶させ、次回の方位算出サイクル以降に過去サイクル情報とし、メモリ21から読み出し、方位算出サイクルにおいて、過去サイクルのターゲット方位周辺の角度範囲を優先してスペクトラムの計算を行うことができるようにしても良い。
【0069】
以上、第1〜第3のの実施形態は、図1に示すFMCW方式のレーダに用いる構成例を基に説明したが、FMCW方式の他のアンテナ構成にも適用することが可能である。
また、多周波CW、パルスレーダ等のFMCW方式以外の他の方式においても、適用が可能である。また、本実施例では三角波の上昇部分及び下降部分のいずれか一方のビート周波数に対応した相関行列について、到来波数推定と方向検知を行ったが、上昇部分と下降部分のそれぞれについて行い、方向検知後にピーク組合せを行っても良い。さらに、本実施例では、方位検知部として超分解能アルゴリズムのMUSICを例に述べたが、最小ノルム法やESPRIT法など、同じように固有展開し、到来波方向検知のために到来波数を推定する原理の検知アルゴリズムであれば適用が可能である。
【0070】
なお、図1、図15、図18における信号処理部20の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、受信波数を推定する図8〜図11に示す到来波数の推定処理を含む方位検出を行う信号処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0071】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1の実施形態による電子走査型レーダ装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】送信波及び受信波により、三角波の上昇領域及び下降領域におけるビート信号の生成を説明する概念図である。
【図3】受信アンテナにおける受信波の説明を行う概念図である。
【図4】ビート信号を周波数分解した結果であり、ビート周波数(横軸)とそのピーク値(縦軸)とを示すグラフである。
【図5】MUSICの処理を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5のフローチャートのステップS103にて行われるサブステップを示すフローチャートである。
【図7】相関行列の空間平均を算出する際の処理を説明する概念図である。
【図8】図5のステップS105にて行う到来波数の推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図9】図5のステップS105にて行う到来波数の他の推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図10】図5のステップS105にて行う到来波数の他の推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図11】図5のステップS105にて行う到来波数の他の推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図12】図5のステップS105にて行う到来波数の他の推定処理を詳細に説明するフローチャートである。
【図13】到来波が1の場合の距離とそれぞれの距離における固有値との対応を示すグラフである。
【図14】到来波が2の場合の距離とそれぞれの距離における固有値との対応を示すグラフである。
【図15】本発明の第2の実施形態による電子走査型レーダ装置における信号処理部20の構成例を示すブロック図である。
【図16】DBF処理を用いたMUSICスペクトラムを算出する角度範囲の絞り込み処理を説明するためのグラフである。
【図17】DBF処理を用いたMUSICスペクトラムを算出する角度範囲の絞り込み処理を説明するためのグラフである。
【図18】本発明の第3の実施形態による電子走査型レーダ装置における信号処理部20の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
11,1n…受信アンテナ
21,2n…ミキサ
3…送信アンテナ
4…分配器
51,5n…フィルタ
6…SW
7…ADC
8…制御部
9…三角波生成部
10…VOC
20…信号処理部
21…メモリ
22…周波数分解処理部
23…ピーク検知部
24…ピーク組合せ部
25…距離検出部
26…速度検出部
27,27B…ペア確定部
28…相関行列算出部
30…方位検出部
31…固有値算出部
32…判定部
33…DBF処理部
34…Ch削除部
35…IDBF処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載される電子走査型レーダ装置であり、
送信波を送信する送信部と、
前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する複数のアンテナから構成される受信部と、
前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成部と、
時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理部と、
各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知部と、
前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出部と、
相関行列から固有値を算出する固有値算出部と、
正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較部と、
ターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定部と
を有することを特徴とする電子走査型レーダ装置。
【請求項2】
前記固有値算出部が算出された固有値における最大値を有する固有値にて、全ての固有値を除算して正規化し、前記比較部が該正規化された固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項3】
前記固有値算出部が前記相関行列における最大値の要素により、前記相関行列の全ての要素を除算し、要素が正規化された相関行列により固有値を演算し、前記比較部が該固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項4】
前記判定部が予め設定された最大固有値閾値と、求められた固有値における最大の固有値とを比較し、最大固有値が最大固有値閾値を超えた場合、固有値が有効受信レベルであるとして到来波数の推定を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項5】
前記固有値算出部が前記相関行列の対角要素における最大値の要素により、前記相関行列の全ての要素を除算し、要素が正規化された相関行列により固有値を演算し、前記比較部が該固有値と、予め設定された前記閾値とを比較することを特徴とする請求項1に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項6】
前記ピーク値と予め設定されている有効受信レベルとを比較するピーク値比較部をさらに有し、
前記判定部がピーク値が前記有効受信レベルを超えた場合、有効判定レベルであるとして到来波数の推定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項7】
前記判定部が予め設定された最大相関行列対角要素閾値と、求められた前記相関行列における対角要素の最大値とを比較し、対角要素の最大値が最大相関行列対角要素閾値を超えた場合、有効受信レベルであるとして到来波の推定を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項8】
前記ピーク検知部が各アンテナ毎の前記複素数データにより、前記チャネル方向にデジタルビームフォーミングを行い、前記ターゲットの存在を検知するDBF部を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項9】
前記DBF部が前記複素数データを用いてデジタルビームフォーミングすることにより角度チャンネル毎のスペクトラムの強度を示す空間複素数データを算出し、隣接した角度チャンネルのスペクトラムの強度が予め設定された角度チャンネル数の範囲において予め設定されたDBF閾値を超えた場合、ターゲットの存在を検知し、ターゲットの存在が検知されていない角度チャンネルのスペクトラム強度を「0」に置き換え、新たな空間複素数データとして出力するチャンネル削除部と、
前記新たな空間複素数データを逆DBFすることにより、再生複素数データを生成するIDBF部と
をさらに有し、
前記相関行列算出部が前記再生複素数データから相関行列を算出することを特徴とする請求項8に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項10】
前記ピーク検知部が、全アンテナの複素数データの加算値を周波数スペクトラム化し、このスペクトラムのピーク値によりターゲットを検出することを特徴とする請求項1から請求項7に記載の電子走査型レーダ装置。
【請求項11】
移動体に搭載される請求項1から請求項10のいずれかに記載の電子走査型レーダ装置による受信波方向推定方法であり、
送信部が送信波を送信する送信過程と、
受信部が複数のアンテナにより前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する構成される受信過程と、
ビート信号生成部が前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成過程と、
周波数分解処理部が時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理過程と、
ピーク検知部が各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知過程と、
相関行列算出部が前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出過程と、
固有値算出部が相関行列から固有値を算出する固有値算出過程と、
比較部が正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較過程と、
判定部がターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定過程と
を有することを特徴とする受信波方向推定方法。
【請求項12】
移動体に搭載される請求項1から請求項10のいずれかに記載の電子走査型レーダ装置の受信波方向推定の動作をコンピュータに制御させるためのプログラムであり、
送信部が送信波を送信する送信処理と、
受信部が複数のアンテナにより前記送信波のターゲットからの反射波である到来波を受信する構成される受信処理と、
ビート信号生成部が前記送信波及び前記反射波の差分の周波数を有するビート信号を生成するビート信号生成処理と、
周波数分解処理部が時系列に前記ビート信号を予め設定した分解数のビート周波数に周波数分解して複素数データを算出する周波数分解処理処理と、
ピーク検知部が各ビート周波数の強度値からピーク値を検出してターゲットの存在を検知するピーク検知処理と、
相関行列算出部が前記アンテナ毎における前記ターゲットが検出された検出ビート周波数の複素数データそれぞれから相関行列を算出する相関行列算出処理と、
固有値算出部が相関行列から固有値を算出する固有値算出処理と、
比較部が正規化されて求められた固有値と、予め設定された閾値とを比較する比較処理と、
判定部がターゲットが検出されたビート周波数に対応する固有値のうち、前記閾値を超える数値の固有値の数を前記到来波の数とする判定処理と
を有することを特徴とする受信波方向推定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−162688(P2009−162688A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2312(P2008−2312)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(300052246)株式会社ホンダエレシス (105)
【Fターム(参考)】