説明

電柱切断機

【課題】本願発明は、人力で持ち運びができ、取り扱いも容易で、かつ、コンクリート片が飛び散るおそれのない電柱切断機を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明に係る電柱切断機は、電柱の表面と略等距離の間隔を隔てて電柱に巻回され固定されるリングレールと、リングレールに跨乗して電柱の周りを周回する周回ブロックと、電柱に対して直径方向に向けて前記周回ブロック上に固定されるラックと、ラック上を前記電柱の直径方向に移動可能な把持部と円盤状のカッターブレードとを有するコンクリートカッターと、からなっていて、カッターブレードを電柱に切り込ませながら電柱周りを周回して切断することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、立設された電柱を立設されたまま切断できる電柱切断機に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の電柱を新しい電柱と交換する工事は、通常、以下の手順によっておこなわれる。すなわち、
(1)電柱に近接して新しい電柱を立設する。
(2)電柱に張架された電線、電話線などのケーブル配線を、新しい電柱に架け替えて張架させる。
(3)電柱を撤去する。
【0003】
ところで、上記の(3)の工程では、クレーン車等を利用して電柱をそのまま地中から引抜き、これを運搬車両に積載して運搬する、という撤去方法がある。しかし、電柱は長さが16mもあるため、このような撤去方法では、大型のクレーンとトレーラが必要であり、狭い道路での作業は難しく、コスト高となり、作業の安全性にも問題がある。また、小型のクレーン車で電柱の上部を懸吊し、この懸吊位置から所定距離隔てた下部を切断して撤去する、という撤去方法がある。この撤去方法において下部を切断する方法として、小型の電動ハンマーやエアハンマーあるいは手ハンマーでコンクリートを斫り、その後剥き出しとなった鉄筋を切断する方法があるが、電柱のコンクリートは極めて硬く、これを上記工具で斫る作業は重労働であり、時間を要するばかりでなく、斫ったコンクリート片が周りに飛び散ってしまい安全上問題がある。
【0004】
そこで、専用の電柱撤去機械を用いて設置されたままの電柱を所定長さに切断し撤去する方法が、特開平6−58020号公報に開示されている。この特開平6−58020号公報に開示の電柱の撤去方法は、電柱撤去機械のクランプ機構で電柱の上部を支持し、先ず、この状態で電柱の地表近くを切断機で切断して電柱の地上部分を地中埋設部分から分離する。次に、切断機のみを上昇させ所定高さに位置決めして、電柱の地上部分の下部を切断する。それから、クランプ機構を下降させることにより、下部が切断された電柱の地上部分の下端を先に分離した地中埋設部分に当接させ、所定高さに保持されている切断機で再度電柱の地上部分の下部を切断する。以後電柱の下降と所定高さでの切断を繰り返すことにより、電柱を所定長さに切断し撤去するという方法のものである。
【特許文献1】特開平6−58020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平6−58020号公報に開示の技術では、「上部車体2に多段マスト3を取り付け、その多段マスト3の最上部可動マスト4にクランプ機構5を設けると共に、多段マスト3の最下部固定マスト6に切断装置7を昇降自在に取り付け(同公報第2頁第2欄8行ないし12行参照)」、また、「前記切断装置7は、最下部固定マスト6に沿って図示しないシリンダで昇降するL字状の支持台11と、この支持台11に取付けたリング状のガイド12と、このガイド12に沿って旋回しながらカッタを回転する切断機13(同公報第2欄15行ないし19行参照)」としたので、大型の機械とならざるを得ない。
そこで、本願発明は、大型の装置ではなく人力で持ち運びができ、取り扱いも容易な立設された電柱を切断する電柱切断機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本願請求項1に係る電柱切断機は、立設された電柱の中間位置に巻回され固定されるリングレールと、前記リングレールに跨乗して前記電柱の周りを周回する周回ブロックと、前記電柱に対して直径方向に向けて前記周回ブロック上に固定されるラックと、前記ラックを把持して前記ラック上を移動可能とする把持部と前記電柱を水平方向に切断可能な円盤状のカッターブレードとを備えるコンクリートカッターと、からなることを特徴としている。
また、本願請求項2に係る電柱切断機は、請求項1に記載の電柱切断機であって、前記リングレールは分割可能および/または開閉可能であり、前記リングレールと前記周回ブロック、前記周回ブロックと前記ラック、および前記ラックと前記コンクリートカッターは、互に着脱可能である、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係る電柱切断機は、請求項1または請求項2に記載の電柱切断機であり、前記リングレールは、その幅方向が垂直方向である平板状レールであって、前記周回ブロックは前記リングレールの両縁部を把持する把持装置によって前記リングレール上を跨乗して移動する、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係る電柱切断機は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電柱切断機であって、前記リングレールには前記電柱に向けて出入する調整ボルトが少なくとも円周方向に略等間隔に4箇所、かつ、上下2段に配設され、前記リングレールが前記電柱に巻回された後、それぞれの前記調整ボルトの前記電柱側端部を前記電柱に当接させて固定される、ことを特徴としている。
また、本願請求項5に係る電柱切断機は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電柱切断機であって、前記ラックの上面には帯状の平歯車が固着され、前記コンクリートカッターの前記把持部には前記帯状の平歯車に嵌合する平歯車が内蔵されて前記ラックに嵌合しながら移動する、ことを特徴としている。
そして、本願請求項6に係る電柱切断機は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電柱切断機であって、前記周回ブロックの把持装置は、前記リングレールの内側である前記電柱側に位置する第1のローラと外側に位置する第2のローラからなる一対のローラにより挟持され、前記一対のローラは少なくとも前記リングレールの上側縁部に2箇所、下側縁部に1箇所配設されている、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項7に係る電柱切断機は、請求項6に記載の電柱切断機であって、前記一対のローラを構成する第1のローラまたは第2のローラのいずれか一方はその回転軸が前記周回ブロックに固定された固定ローラであり、他方はその回転軸が前記リングレール方向にスライドして所望の位置で前記周回ブロックに固定可能な調整ローラからなっていて、前記第1のローラの回転面と前記第2の回転面との間隔が調整可能である、ことを特徴としている。
また、本願請求項8に係る電柱切断機は、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の電柱切断機であって、前記カッターブレードはカッターブレードカバーにより囲繞され、前記カッターブレードカバーは前記電柱方向にのみ開口する開口部を有する平板状の筐体であって該筐体の側面に突設される排気管と該開口部に嵌合し前記電柱方向に摺動する摺動体とを具え、前記摺動体の前記電柱側は前記電柱の表面に対応する形状を有するとともに前記電柱方向に付勢されて前記電柱の表面に密着し、前記排気管の基端部は前記筐体内に開口し、前記排気管の他端部は吸引機に接続される、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本願請求項1に係る電柱切断機は、電柱の表面と所定の間隔を隔てて巻回され固定されるリングレールと、リングレールに跨乗して周回する周回ブロックと、周回ブロック上に固定されるラックと、ラックに沿って移動可能なコンクリートカッターとから構成されている。
そして、このコンクリートカッターは電柱を水平方向に切断し、電柱のコンクリート内部の鉄筋も同時に切断するから、電柱を圧砕切断する場合に必要な圧砕後の鉄筋切断という工程が不要であるとともに、圧砕時に生ずるコンクリート片の飛散も防ぐことができる。また、コンクリートカッターはラックに沿って移動して電柱表面にコンクリートカッターの円盤状のカッターブレードを当接させるため、確実に所望の位置での切断が可能である。さらに、電柱の表面とリングレールは略等距離の間隔を隔てて固定されて、かつ、周回ブロックはリングレール上を移動することができるから、リングレール上のどの位置であっても、電柱の直径方向に対するコンクリートカッターの移動距離は略同一であるとともに、リングレールに沿って周回ブロックを周回させながら切断する走行切断が可能であり、効率よく短時間に電柱を切断することができる。
【0008】
本願請求項2に係る電柱切断機は、リングレールが分割可能または開閉可能であるため、リングレールを電柱の所望の位置に的確に、かつ、簡便に取り付けることができる。また、リングレール、周回ブロック、ラックおよびコンクリートカッターは、相互に着脱可能であって、別体とすることができるため、それぞれに分けて持ち運び電柱切断現場で組立が可能となり、人力で持ち運びが可能となる。
【0009】
本願請求項3に係る電柱切断機においては、リングレールの形状をその幅方向が垂直方向である平板状レールとしている。このため、このリングレールは平板を曲げ易い方向に湾曲させればリング状となるから、加工が容易である。また、周回ブロックをリングレールの上縁部と下縁部とに把持させるようにすれば、周回ブロックの垂直方向に対するがたつきがなくなり、したがって、コンクリートカッターの垂直方向に対するがたつきもなくなる。
【0010】
本願請求項4に係る電柱切断機のリングレールには電柱の表面に向けて出入する調整ボルトが少なくとも円周方向に略等間隔に4箇所、かつ、上下2段に配置されていて、リングレールが電柱に巻回された後、調整ボルトの突出長さを調整することにより電柱の表面とリングレールとが略等距離間隔の位置を保持して固定されるようになっている。円周方向に略等間隔に配設されたにより、電柱に対するリングレールの位置は確保され、かつ、上下2段に調整ボルトが配置されているため、リングレールは電柱に対し、強固に固定される。
【0011】
本願請求項5に係る電柱切断機では、ラックの上面に固着された帯状の平歯車にコンクリートカッターの把持部に内蔵された平歯車が嵌合してラック上を移動することとしているため、電柱表面にコンクリートカッターの円盤状のカッターブレードが当接する当接力の強弱を任意に、かつ、微妙に変えることができ、例えば風雨、そのときのコンクリートカッターの調子などの電柱切断時の外的および内的環境に配慮した条件で電柱を切断することができる。
【0012】
本願請求項6に係る電柱切断機では、周回ブロックは、第1のローラと第2のローラからなる一対のローラにより挟持されている。このため、周回ブロックはリングレールに対して滑らかに周方向に移動させることができる。そして、電柱がコンクリートカッターで切断されているときに受ける反力が最も大きい上側縁部には、一対のローラは少なくともリングレールの上側縁部に2箇所配設されているため、この反力を少なくとも2箇所に分散させることができるとともに、周回ブロックの水平方向に対するガタツキがなくなり、したがって、コンクリートカッターの水平方向に対するガタツキもなくなる。
【0013】
本願請求項7に係る電柱切断機では、一対のローラを構成する第1のローラまたは第2のローラのいずれか一方は周回ブロックに固定された固定ローラであり、他方はその回転軸がリングレール方向にスライドして所望の位置で周回ブロックに固定可能な調整ローラからなっていて、第1のローラの回転面と第2のローラの回転面との間隙を調整することが可能となる。したがって、リングレールの縁部を挟持する一対のローラは、第1のローラの回転面と第2のローラの回転面との間隙を調整することよって、リングレールの縁部に対して隙間を生ずることなく密着することになるから、すなわち、周回ブロックはリングレールをより強固に挟持することになるから、コンクリートカッターが電柱を切断するときに生ずる振動によるガタツキがなくなる。このガタツキは、電柱を切断中のコンクリートカッターにブレが生ずることに拠るカッターブレードの破損にも繋がるため、安全上からも、このガタツキを防止することはきわめて重要な要素である。
【0014】
なお、調整ローラである他方のローラの回転軸をリングレール方向にスライドさせる方法としては、例えば、(1)当該回転軸を偏芯させて周回ブロックに固着させる方法、(2)周回ブロックに穿設されたルーズホールに当該回転軸を摺動自在に固着させてリングレール方向に付勢せしめる方法、(3)周回ブロックに穿設されたルーズホールに当該回転軸を取着して所望の位置で固定させる方法、等がある。後述する実施例では、(1)の方法に拠っている。
【0015】
本願請求項8に係る電柱切断機では、電柱の表面に常に密着するカッターブレードカバーを備えていて、カッターブレードカバーの側面に突設された排気管からカッターブレードカバー内の空気が吸引機により排出されるようになっているので、カッターブレードで電柱を切断する際に生ずるコンクリートの粉塵や鉄筋切断の火花などは、電柱切断機外に漏出することがなく、周りの空気を汚染することはない。さらに、カッターブレードはカッターブレードカバーによって保護されるので、電柱切断作業中におけるカッターブレードに接触する事故が防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本願発明を実施するための最良の形態に係る実施例1および実施例2について、図1ないし図6に基づいて説明する。図1は、実施例1に係る電柱切断機の側面図、図2は、実施例1に係る電柱切断機の見下げ図、図3は、実施例1に係る電柱切断機の見上げ図、図4は、実施例2に係る電柱切断機の側面図、図5は、実施例2に係る電柱切断機の見下げ図、図6は、実施例2に係る電柱切断機のVI断面矢視図、である。
【0017】
図1ないし図6において、符号1は実施例1に係る電柱切断機、符号2は実施例2に係る電柱切断機、符号10はリングレール、符号12は帯板、符号14は上部レール、符号16は下部レール、符号18は上部補強リブ、符号20は下部補強リブ、符号22は接合リブ、符号24は調整ボルト、符号26は接合ボルト、符号30は周回ブロック、符号32は上面材、符号34は下面材、符号36はつなぎ面材、符号40はレール挟持ローラ、符号42は第1のローラ、符号44は第2のローラ、符号50はラック、符号52は帯状平歯車、符号60はコンクリートカッター、符号62はカッターブレード、符号64は駆動部、符号66はグリップ部、符号68はホース接合部、符号70は把持部、符号72はハンドル、符号80は電柱、符号90はカッターブレードカバー、符号92はカッターブレードカバー本体、符号94は摺動体、符号942は上部摺動体、符号944は下部摺動体、符号96は排気管、符号98は付勢具、符号982は引張ばね、符号984は付勢棒、符号986はエンドプレート、符号988は本体突起片、符号989は摺動体突起片、である。
【0018】
まず、実施例1に係る電柱切断機の構成および作用について、図1ないし図3を基に説明する。
電柱切断機1は、主として、リングレール10、周回ブロック30、ラック50、およびコンクリートカッター60から構成されている。以下に、リングレール10、周回ブロック30、ラック50、およびコンクリートカッター60について、それぞれの構成および作用について説明する。
【0019】
リングレール10は、二分割された同一形状のリングレール10aおよびリングレール10bから構成されている。湾曲させた帯板12の幅方向の両縁近傍には、上部補強リブ18および下部補強リブ20が帯板12の長さ全体にわたって固着されていて、上部補強リブ18の上側は上部レール14が形成され、下部補強リブ20の下側は下部レール16が形成されている。この上部補強リブ18および下部補強リブ20は帯板12の曲げ剛性を高める役割を担うものである。そして、帯板12の両端部の上部補強リブ18と下部補強リブ20との間には、接合リブ22、22が固着されている。接合リブ22、22には、それぞれ上下2箇所に接合ボルト26の貫通孔が穿設されていて、リングレール10a、10bは、接合ボルト26により接合される、いわばフランジ継手により一体化されて、円筒状のリングレール10が形成される。
リングレール10の内径は電柱80の外径よりも二周りほど大きく形成されて、本実施例においては略300mm〜400mmとしている。なお、電柱80の切断箇所近辺の外径は、概ね230mm〜350mmである。
【0020】
本実施例におけるリングレール10は、上述のように二分割されていて、フランジ継手により一体化されているが、3つ以上に分割されてもよく、また、二分割された一端同士を蝶着して開閉自在としてもよく、さらには、フランジ継手に代えて、添え板によるウエブ継手であってもよいことは勿論である。
【0021】
リングレール10の帯板12には、円周方向に4箇所、かつ、上下2段に調整ボルト24、24、・・・が等間隔に螺着されている。これら8本の調整ボルト24は、リングレール10の内側に向けて出入するようになっていて、電柱80に巻回した状態で、リングレール10aおよびリングレール10bを一体化した後、それぞれの調整ボルト24を電柱80に向けて突出させ、その先端を電柱80に強く当接させることにより、リングレール10は電柱80に巻回された状態で固定される。このそれぞれの調整ボルト24の突出長さを略同一とすれば、電柱80の軸芯と円筒状のリングレール10の軸芯が一致して、電柱80の表面とリングレール10とが等距離の間隔をもって固定されることになる。
【0022】
周回ブロック30は、上面材32と、下面材34と、上面材32と下面材34とを繋ぐつなぎ面材36から構成されていて、側面視がコの字状を呈している。上面材32と下面材34は同一の形状であって、電柱80側は円弧状となっていて、この円弧の中心は電柱80の軸芯に略一致する。そして、上面材32と下面材34の円弧状となっている辺に正対する辺は直線状となっていて、この直線状の辺縁同士を繋ぐようにつなぎ面材36が固着されている。
【0023】
上面材32および下面材34の互いに向き合う面には、レール挟持ローラ40が円弧状となっている辺の両端近傍にそれぞれ2箇所取着され、上面材32に取着されたレール挟持ローラ40と下面材34に取着されたレール挟持ローラ40は、互いに向き合った状態となっている。本実施例において、レール挟持ローラ40は、電柱80側に位置する第1のローラ42と電柱80に対して外側に位置する第2のローラ44とから構成され、第1のローラ42はその回転軸が偏芯して上面材32および下面材34に取着された調整ローラであり、第2のローラ44はその回転軸が上面材32および下面材34に固定された固定ローラである。第1のローラ42の回転面と第2のローラ44の回転面とは、互いに向き合っていて、第1のローラ42の回転面と第2のローラ44の回転面との間で上部レール14あるいは下部レール16を挟持している。すなわち、リングレール10の上部レール14および下部レール16に、周回ブロック30に取着された第1のローラ42と第2のローラ44とを嵌合させることにより、周回ブロック30はリングレール10に跨乗した状態で滑動自在に取り付けられている。
【0024】
ところで、第1のローラ42および第2のローラ44と上部レール14および下部レール16との間に間隙があると、コンクリートカッター60が電柱80を切断するときのブレの原因となることから、この間隙を解消する必要がある。ここで、この間隙を解消する仕組みについて説明する。
【0025】
前述のように、第2のローラ44はその回転軸が上面材32および下面材34に固定された固定ローラであり、第1のローラ42はその回転軸が偏芯して上面材32および下面材34に取着された調整ローラである。第1のローラ42の回転軸は上面材32および下面材34に偏芯して螺着されていて、着脱自在であるとともに、螺着部分を緩めることにより、上面材32および下面材34に対して第1のローラ42の回転軸は回動可能となり、螺着部分を締め付けることにより、上面材32および下面材34に対して第1のローラ42の回転軸は固定されるようになっている。第1のローラ42の回転軸は上面材32および下面材34に偏芯して螺着されているから、第1のローラ42の回転軸を回動させることにより第1のローラ42の回転面と第2のローラ44の回転面との間隔を調整することができる。
【0026】
第1のローラ42の回転軸の螺着部分を緩めて、リングレール10aあるいはリングレール10bに周回ブロック30を取り付けた後、第1のローラ42の回転軸を回動させて、上部レール14および下部レール16と第1のローラ42および第2のローラ44との間隙を解消させるように調整する。そして、調整後、第1のローラ42の回転軸の螺着部分を締め付けて第1のローラ42を上面材32および下面材34に固定する。以上が上部レール14および下部レール16と第1のローラ42および第2のローラ44との間隙を解消する仕組みであり、この一連の操作により、周回ブロック30は、第1のローラ42および第2のローラと上部レール14および下部レール16との間に間隙を生ずることなく滑動し、44リングレール10に跨乗した状態でガタツキを生ずることなく移動することができるようになる。
【0027】
ラック50は断面が方形の棒状体であって、他端を電柱80に対して外側に突き出すようにして、その一端が周回ブロック30の上面材32上に着脱自在に螺着されている。そして、ラック50の上面には、平板に複数の凸状の歯すじがラック50の幅方向に刻設された帯状平歯車52が取着されている。
【0028】
コンクリートカッター60は、主に、カッターブレード62、駆動部64および把持部66から構成されている。
カッターブレード62は、円盤状を呈していて、本実施例において、その直径は304.8mmであり、カッターブレード62の有効切断深さ(D:図1参照)は略100mmである。なお、図1において、図面に向かって左側の符号62は、カッターブレード62が電柱80に最大深さ切り込んだ状態を示している。
【0029】
駆動部64には図示外の電動モーターが内蔵されていて、グリップ部66の押圧スイッチのON/OFFにより、カッターブレード62を回転/停止させることができる。また、グリップ部66の近傍にはホース接合部68が配設されていて、このホース接合部68にホースを接合することにより、カッターブレード62の回転時においてコンクリートカッター60の先端から水を噴き出させることができ、必要に応じて、電柱80を切断しつつその切断位置に給水することができるようになっている。
把持部66はラック50にコンクリートカッター60を把持させながら、ラック50上を移動させる役割を担なう部材である。すなわち、把持部66にはラック50が貫通できる貫通孔が貫設され、また、帯状平歯車52に嵌合する図示外の平歯車が内蔵されていて、この平歯車はハンドル72に連設されている。なお、前記の貫通孔は下部が開放された門型であっても構わない。
【0030】
コンクリートカッター60をラック50にセットする場合は、把持部66に貫設された貫通孔をラック50の電柱80に対する外端部に押し当てた後、ハンドル72を左に回すと、ハンドル72に連設された平歯車がラック50に噛合して、ラック50に把持部66が嵌合する。さらにハンドル72を左に回すとラック50に噛合した平歯車により、コンクリートカッター60はラック50に嵌合しながら電柱80の方向に移動する。したがって、ハンドル72を左に回せば、コンクリートカッター60は電柱80に接近するようにラック50上を移動し、ハンドル72を右に回せば、コンクリートカッター60は電柱80から離反するようにラック50上を移動する。本実施例においては、コンクリートカッター60のラック50上を移動する有効距離(L:図1参照)を略200mmとしている。
【0031】
次に、電柱80を切断する場合の電柱切断機1の一つの例としての使用手順について説明する。
【0032】
(1)まず、リングレール10aあるいはリングレール10bに周回ブロック30を取り付け、レール挟持ローラ40と上部レール14および下部レール16との間隙がゼロとなるように調整する。
(2)リングレール10aおよびリングレール10bを、電柱80に巻回するようにして接合して一体化する。
(3)周回ブロック30の天端を、所望の切断位置から所定距離(H:図1参照)隔てた位置に合わせ、リングレール10に配設された8本の調整ボルト24によりリングレール10を固定する。このとき、電柱80に円周方向に等分に4分割するラインをマーキングしておけば、リングレール10の軸芯と電柱80の軸芯とが合致し、リングレール10の固定が容易にできる。また、前記の所定距離(H)は、本実施例では260mmとしている。
(4)周回ブロック30にラック50を取り付け、さらに、ラック50にコンクリートカッター60をセットし、必要に応じて、ホース接合部68にホースを接続する。
【0033】
(5)コンクリートカッター60のハンドル72を左に回転させてカッターブレード62の先端を電柱80に近接させた後、グリップ部66を押圧スイッチとともに把持することにより押圧スイッチはONの状態となってカッターブレード62を回転させる。さらに、グリップ部66を握ったままハンドル72を左に回転させると、カッターブレード62は電柱80を切断しながら電柱80内に切り込んでいく。
(6)カッターブレード62が電柱80内に略40mm〜70mm程度切り込んだら、周回ブロック30を左または右に回動させると、電柱切断機1は電柱80の周りを周回しながら電柱80を切断していく。そして、電柱切断機1が電柱80の周りを1周することにより、電柱80は切断箇所を境に上下に分割される。切断終了後、グリップ部66の押圧スイッチをOFFにしてカッターブレード62の回転を停止させ、ハンドル72を右に回転させてコンクリートカッター60を電柱80から引き離すことにより電柱80の切断作業は終了する。
【0034】
なお、電柱80の切断作業中において、必要に応じて、ホース接合部68に接続した図示外のホースに水を送ることにより、コンクリートカッター60の先端から水を噴き出させることができる。この水の使用により、電柱80を切断する際に生ずるコンクリート粉末は、水が混合されて落下するため、風散することを防止できる。
【0035】
つぎに、実施例2に係る電柱切断機の構成および作用について、図4ないし図6を基に説明する。
電柱切断機2は、電柱切断機1にカッターブレードカバー90を付加したものであり、カッターブレードカバー90以外の構成および作用は、電柱切断機1と略同一である。そのため、電柱切断機2については、電柱切断機1とは異なる構成および作用についてのみ説明し、その他の説明を省略する。なお、電柱切断機2の説明において、電柱切断機2の電柱80に当接する側を前側といい、反対側を後側ということとする。
【0036】
上述したように、電柱切断機2は、電柱切断機1にカッターブレードカバー90を具設した構成となっている。そして、カッターブレードカバー90は、カッターブレードカバー本体92、摺動体94、排気管96および付勢具98から構成されている。
【0037】
カッターブレードカバー本体92は、コンクリートカッター60に固定されてカッターブレード62の後側略半分を囲繞し、その形状は平板状の筐体であって前側が開口し、平面視において前側が方形で後側が角を切った六角形となっている。
【0038】
摺動体94は、上部摺動体942と下部摺動体944とから構成されていて、上部摺動体942と下部摺動体944とは相互に固着されていて、上部摺動体942はカッターブレード62の前側略半分を囲繞し、下部摺動体944はコンクリートカッター60の駆動部64の前側部分を囲繞している。そして、上部摺動体942は前後方向に開口した平板状の筐体であり、下部摺動体944は後方向に開口した立方体状の筐体であって、上部摺動体942はカッターブレードカバー本体92に嵌合し、電柱80に接する前側は平面視において略円形状に窪んでいる。本実施例においては、異なる電柱80の径、たとえば、240mmφや290mmφに対応すべく、上部摺動体942前部の曲率が異なる種類の摺動体94を用意している。
そして、摺動体94は、付勢具98により前側方向に付勢されているので、電柱切断機2使用時においては、上部摺動体942の前側は、電柱80の表面に密着するようになる。
【0039】
付勢具98は、引張ばね982、付勢棒984、エンドプレート986、本体突起片988、および摺動体突起片989から構成されていて、カッターブレードカバー90の両脇に具設されている。
本体突起片988は、カッターブレードカバー本体92の下面に固着される前後方向に挿入孔が穿設されたパイプ状の小片であり、摺動体突起片989は、上部摺動体942と下部摺動体944との付け根部に固着される平板の小片である。そして、丸棒状の付勢棒984は、本体突起片988の挿入孔に摺動自在に挿入されて、その一端は摺動体突起片989に固着され、他端はエンドプレート986に固着されている。上述したように、付勢具98はカッターブレードカバー90の両脇に具設されていて、一対の付勢棒984の他端は、1つのエンドプレート986に固着されている。すなわち、エンドプレート986は、付勢棒984、984の他端同士を連結し、エンドプレート986の前後方向の摺動により、付勢棒984、984も連動して摺動するようになっている。さらに、エンドプレート986には、一対の引張ばね982、982の一端が固着されていて、一対の引張ばね982のそれぞれの他端は、本体突起片988に固着されている。
したがって、エンドプレート986は引張ばね982により前側方向に付勢され、エンドプレート986に固着された付勢棒984も前側方向に付勢されるから、付勢棒984に固着された摺動体突起片989を介して摺動体94もまた、前側方向に付勢されることになる。
【0040】
カッターブレードカバー90の側面には排気管96が突設されるが、本実施例においては、上部摺動体942の一側面に突設されている。そして、排気管96の基端部はカッターブレードカバー90内の空間に開口し、他端部は図示外のホースを介して吸引機(図示外)に接続されている。
【0041】
つぎに、電柱切断機2の作用について説明する。前述したように、電柱切断機2は電柱切断機1にカッターブレードカバー90を付加したものであり、カッターブレードカバー90以外の作用は、電柱切断機1と略同一である。したがって、電柱切断機1で説明した使用手順の一例がそのまま当てはまるので、ここでは、前述した手順とは異なる手順についてのみ説明する。
【0042】
前述した手順(1)ないし(3)、すなわち、「リングレール10に周回ブロック30を取り付け、リングレール10を電柱80に巻回して固着する。」ことについては、電柱切断機1と同様である。
手順(4)では、「周回ブロック30にラック50を取り付け、さらに、ラック50にコンクリートカッター60をセットし、必要に応じて、ホース接合部68にホースを接続する。」としているが、本実施例においては、ラック50にコンクリートカッター60をセットする際に、上部摺動体942前部の曲率の異なる種類の摺動体94から、電柱80に見合った摺動体94を選択してコンクリートカッター60をセットすることになる。また、排気管96の先端部には吸引機(図示外)に接続されるホースを接続するが、このホースには高圧ホースを使用することが望ましい。
【0043】
手順(5)および(6)についても、電柱切断機1と同様である。電柱80の切断作業中においては、吸引機(図示外)のスイッチを入れて作動させることにより、カッターブレード62で電柱80を切断する際に生ずるコンクリートの粉塵や鉄筋切断の火花などは、吸引機により吸引されるので、電柱切断機2外に漏出することがなく、周りの空気を汚染することはない。さらに、カッターブレード62はカッターブレードカバー92によって保護されるので、電柱切断作業中において作業員が不用意にカッターブレード62に接触する事故が防止でき、安全性に優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、実施例1に係る電柱切断機の側面図である。
【図2】図2は、実施例1に係る電柱切断機の見下げ図である。
【図3】図3は、実施例1に係る電柱切断機の見上げ図である。
【図4】図4は、実施例2に係る電柱切断機の側面図である。
【図5】図5は、実施例2に係る電柱切断機の見下げ図である。
【図6】図6は、実施例2に係る電柱切断機のVI断面矢視図である。
【符号の説明】
【0045】
1 実施例に係る電柱切断機
10 リングレール
24 調製ボルト
30 周回ブロック
38 第1のローラ
40 第2のローラ
50 ラック
60 コンクリートカッター
62 カッターブレード
90 カッターブレードカバー
98 付勢具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立設された電柱の中間位置に巻回され固定されるリングレールと、
前記リングレールに跨乗して前記電柱の周りを周回する周回ブロックと、
前記電柱に対して直径方向に向けて前記周回ブロック上に固定されるラックと、
前記ラックを把持して前記ラック上を移動可能とする把持部と前記電柱を水平方向に切断可能な円盤状のカッターブレードとを備えるコンクリートカッターと、からなることを特徴とする電柱切断機。
【請求項2】
前記リングレールは分割可能および/または開閉可能であり、前記リングレールと前記周回ブロック、前記周回ブロックと前記ラック、および前記ラックと前記コンクリートカッターは、互に着脱可能である、ことを特徴とする請求項1に記載の電柱切断機。
【請求項3】
前記リングレールは、その幅方向が垂直方向である平板状レールであって、前記周回ブロックは前記リングレールの両縁部を把持する把持装置によって前記リングレール上を跨乗して移動する、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電柱切断機。
【請求項4】
前記リングレールには前記電柱に向けて出入する調整ボルトが少なくとも円周方向に略等間隔に4箇所、かつ、上下2段に配設され、前記リングレールが前記電柱に巻回された後、それぞれの前記調整ボルトの前記電柱側端部を前記電柱に当接させて固定される、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電柱切断機。
【請求項5】
前記ラックの上面には帯状の平歯車が固着され、前記コンクリートカッターの前記把持部には前記帯状の平歯車に嵌合する平歯車が内蔵されて前記ラックに嵌合しながら移動する、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の電柱切断機。
【請求項6】
前記周回ブロックの把持装置は、前記リングレールの内側である前記電柱側に位置する第1のローラと外側に位置する第2のローラからなる一対のローラにより挟持され、前記一対のローラは少なくとも前記リングレールの上側縁部に2箇所、下側縁部に1箇所配設されている、ことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の電柱切断機。
【請求項7】
前記一対のローラを構成する第1のローラまたは第2のローラのいずれか一方はその回転軸が前記周回ブロックに固定された固定ローラであり、他方はその回転軸が前記リングレール方向にスライドして所望の位置で前記周回ブロックに固定可能な調整ローラからなっていて、前記第1のローラの回転面と前記第2の回転面との間隔が調整可能である、ことを特徴とする請求項6に記載の電柱切断機。
【請求項8】
前記カッターブレードはカッターブレードカバーにより囲繞され、
前記カッターブレードカバーは前記電柱方向にのみ開口する開口部を有する平板状の筐体であって該筐体の側面に突設される排気管と該開口部に嵌合し前記電柱方向に摺動する摺動体とを具え、
前記摺動体の前記電柱側は前記電柱の表面に対応する形状を有するとともに前記電柱方向に付勢されて前記電柱の表面に密着し、
前記排気管の基端部は前記筐体内に開口し、前記排気管の他端部は吸引機に接続される、ことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の電柱切断機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−316610(P2006−316610A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366249(P2005−366249)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(591177015)和興エンジニアリング株式会社 (6)
【Fターム(参考)】