説明

電極およびその製造方法

【課題】双極型電池のサイクル特性を向上させる手段を提供する。
【解決手段】導電性を有する樹脂層を含む集電体と、前記樹脂層上に形成され、活物質を含む活物質層と、を有し、前記活物質の一部が樹脂層に取り込まれている、電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極に関し、より詳細には、集電体と活物質層との接触抵抗を低減することにより、電池の出力を高めうる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護のため二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力密度が達成できるリチウムイオン二次電池に注目が集まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般に、バインダを用いて正極または負極活物質等を集電体に塗布して電極を構成する。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池においては、従来、集電体として金属箔が用いられてきた。近年、金属箔に代わって樹脂を含む導電性集電体が用いられるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭63−43257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記樹脂を含む導電性集電体に、従来の方法で活物質層を形成する場合、樹脂を含む導電性集電体および活物質層間の接触抵抗が問題となった。
【0006】
そこで本発明は、集電体および活物質層間の接触抵抗を低減させ、電池の出力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、導電性を有する樹脂層に活物質層に含まれる活物質の一部が樹脂層に取り込まれる形態の電極が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電極は、集電体と活物質の密着性が向上し、樹脂層および活物質層間の接触抵抗を低減させることができる。特に双極型電池用の電極に適用した場合に、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明の好ましい実施形態である双極型リチウムイオン二次電池用電極について説明するが、以下の実施形態のみには制限されない。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
図1は、本発明の好適な一実施形態(以下、第一実施形態とも称する)である双極型リチウムイオン二次電池用電極(以下、双極型電極とも称する)を示す概略図である。双極型電極1は、樹脂層2の片面に正極(正極活物質層)3を設け、もう一方の面に負極(負極活物質層)4を設けた構造を有している。樹脂層2は、導電性を有し、集電体の役割を果たす。正極活物質層3は、正極活物質5を、負極活物質層4は、負極活物質6をそれぞれ含有する。そして、正極活物質5および負極活物質6の一部が樹脂層に取り込まれる形態となっている。
【0011】
活物質層を形成する活物質粒子の一部が樹脂層に取り込まれることで、樹脂層および活物質層間接触抵抗を低減することができる。また、活物質を含むリチウムイオン二次電池は充電および放電過程において、正極および負極活物質中へのリチウムイオンの吸蔵、放出によって正極および負極活物質層の膨張、収縮が起こり、これにより発生する応力により集電体と活物質層が剥離する場合があった。本発明の電極によれば、活物質層を形成する活物質粒子の一部が樹脂層に取り込まれるため、活物質のアンカー効果により、樹脂層と活物質との密着性を向上させることができ、樹脂層および活物質層間の電子伝導性を上げることができる。そして、樹脂層および活物質層間の接触抵抗の低減と、密着性の向上により、電池に適用した場合に、充放電の耐久性の向上と、電池の出力の向上を図ることができる。
【0012】
本発明において、活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さは、厚み方向で、活物質の平均粒子径の1/4〜1/2であることが好ましい。より好ましくは、1/4〜1/3である。この範囲であれば、樹脂層から活物質層がはがれにくく、また、電池として機能しない活物質量が少ないため、エネルギー、出力の低下を抑制することができる。なお「活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さは、厚み方向で、活物質の平均粒子径の1/4〜1/2である」とは、図1にて、最も深く取り込まれている活物質の厚み方向の深さ(図1中のX)が、活物質の平均粒子径の1/4〜1/2であることを意味する。上記図1中のXは、電極から、樹脂層と活物質層とを分離し、樹脂層中に残される活物質の形跡において、厚さ方向の長さを測定すれば、容易に測定することができる。
【0013】
また、ここでいう活物質の平均粒子径は、レーザー回折を用いた粒度分布計(型番SALD−2200、メーカー株式会社島津製作所)で測定される数値を採用する。
【0014】
活物質の平均粒子径は、特に制限されないが、出力の観点からは、好ましくは1〜20μm、より好ましくは1〜10μm、さらに好ましくは1〜5μmである。
【0015】
または、活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さは、厚み方向で、5〜20μmであることも好ましい。より好ましくは、5〜15μm、さらに好ましくは5〜10μmである。この範囲であれば、樹脂層から活物質層がはがれにくく、また、電池として機能しない活物質量が少ないため、エネルギー、出力の低下を抑制することができる。なお、上記「活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さは、厚み方向で、5〜20μm」とは、図1において、最も深く取り込まれている活物質の厚み方向の深さ(図1中のX)が、5〜20μmであることを意味する。
【0016】
上記第一実施形態は、正極および負極活物質が樹脂層に取り込まれている形態であるが、本発明の電極はかような形態に限定されず、正極および負極活物質の少なくとも一方が、樹脂層に取り込まれていればよい。例えば、特に限定されるものではないが、樹脂層からなる集電体に、正極および負極活物質の少なくとも一方が、樹脂層に取り込まれている形態が挙げられる。剥離強度および抵抗低減の観点からは、第一実施形態のように、正極および負極活物質の双方が樹脂層に取り込まれている形態が好ましい。なお、集電体として機能する部材は、少なくとも樹脂層を必須に含めばよく、具体的には、樹脂層からなる集電体、樹脂層および金属箔の積層体等が挙げられる。好ましくは、軽量化の観点から、樹脂層からなる集電体である。樹脂層および金属箔からなる積層体の場合、樹脂層に接する側の活物質層の活物質が、樹脂層に取り込まれる。
【0017】
双極型でない通常の電池の集電体は、集電体の端部に取り付けられたタブを通じて電荷の受け渡しが行われ、集電体は負極側で発生した電荷をタブに集める、またはタブから供給された電荷を正極側に伝達する機能を有する。したがって、集電体は、電荷が移動する水平方向(面方向)の電気抵抗が低い必要があり、水平方向の電気抵抗を低減するために、ある程度の厚みを有する金属箔が用いられている。一方、双極型電池の集電体においては、通常の電池と異なり、負極側で発生した電荷は、集電体の反対側に存在する正極に直接供給される。このため、電流が双極型電池の構成要素の積層方向に流れ、水平方向への流れを必要としない。したがって、水平方向の電気抵抗を低減するために、必ずしも従来のような金属箔を用いなくてもよいため、本発明の電極を用いることができる。さらに、双極型電池に本発明の樹脂層集電体を適用することによって、電池の軽量化を図ることができる。また、双極型電池はエネルギ密度が従来の電池に対して2倍以上のエネルギ密度を持っており、異常時に放出するエネルギが大きく、温度上昇が過度に起こりやすいが、金属箔集電体と比較して、樹脂層集電体を適用した場合、かような温度上昇が抑制される。
【0018】
以上の理由により、本発明の電極は、双極型電池に適用される電極であることが好適であるが、それ以外の形態の電極であっても、本発明の構成である限り当然に本発明に含まれる。
【0019】
次に電極を構成する各要素について説明する。
【0020】
(樹脂層)
樹脂層2は、導電性を有し、必須に樹脂を含み、集電体の役割を果たす。樹脂層2が導電性を有するには、具体的な形態として、1)樹脂を構成する高分子材料が導電性高分子である形態、2)樹脂層が樹脂および導電性粒子を含む形態が挙げられる。
【0021】
導電性高分子は、導電性を有し、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料から選択される。これらの導電性高分子は、共役したポリエン系がエネルギー帯を形成し伝導性を示すと考えられている。代表的な例としては電解コンデンサなどで実用化が進んでいるポリエン系導電性高分子を用いることができる。具体的には、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、ポリオキサジアゾール、またはこれらの混合物などが好ましく、電子伝導性および電池内で安定に使用できるという観点から、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、がより好ましい。
【0022】
導電性粒子は、導電性を有し、電荷移動媒体として用いられるイオンに関して伝導性を有さない材料から選択される。また、導電性粒子は、印加される正極電位および負極電位に耐えうる材料から選択される。具体的には、アルミニウム粒子、SUS粒子、カーボン粒子、銀粒子、金粒子、銅粒子、チタン粒子などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの導電性粒子は1種単独で用いられてもよいし、2種以上併用してもよい。また、これらの合金粒子が用いられてもよい。導電性粒子は、前述の形態に限られず、カーボンナノチューブなど、いわゆるフィラー系導電性樹脂組成物として実用化されているものを用いてもよい。
【0023】
集電体における導電性粒子の分布は、均一でなくてもよく、集電体内部で粒子の分布が変化していてもよい。複数の導電性粒子が用いられ、集電体内部で導電性粒子の分布が変化してもよく、例えば、正極に接する部分と負極に接する部分とで、好ましい導電性粒子を使い分けてもよい。正極側に用いる導電性粒子としては、アルミニウム粒子、SUS粒子、およびカーボン粒子が好ましく、カーボン粒子が特に好ましい。負極に用いる導電性粒子としては、銀粒子、金粒子、銅粒子、チタン粒子、SUS粒子、およびカーボン粒子が好ましく、カーボン粒子が特に好ましい。カーボンブラックやグラファイトなどのカーボン粒子は電位窓が非常に広く、正極電位および負極電位の双方に対して幅広い範囲で安定であり、さらに導電性に優れている。また、カーボン粒子は非常に軽量なため、質量の増加が最小限になる。さらに、カーボン粒子は、電極の導電助剤として用いられることが多いため、これらの導電助剤と接触しても、同材料であるがゆえに接触抵抗が非常に低くなる。なお、カーボン粒子を導電性粒子として用いる場合には、カーボンの表面に疎水性処理を施すことにより電解質のなじみ性を下げ、集電体の空孔に電解質が染み込みにくい状況を作ることも可能である。
【0024】
また、樹脂層が導電性粒子を含む形態の場合、樹脂層を形成する樹脂は、上記導電性粒子に加えて、当該導電性粒子を結着させる導電性のない高分子材料を含んでいてもよい。樹脂層の構成材料として高分子材料を用いることで、導電性粒子の結着性を高め、電池の信頼性を高めることができる。高分子材料は、印加される正極電位および負極電位に耐えうる材料から選択される。
【0025】
高分子材料の例としては、好ましくは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
樹脂層における、導電性粒子の比率は、特に限定されないが、好ましくは、高分子材料および導電性粒子の合計に対して、5〜20質量%、より好ましくは10〜15質量%の導電性粒子が存在する。十分な量の導電性粒子を存在させることにより、樹脂層における導電性を十分に確保できる。
【0027】
樹脂層の体積抵抗率は、特に限定されるものではないが、10−2〜1.0Ωcmであることが好ましい。かような範囲であれば、電池用集電体として適用できるレベルとなる。
【0028】
上記樹脂層には、導電性粒子および樹脂の他、他の添加剤を含んでいてもよいが、好ましくは、導電性粒子および樹脂からなる。
【0029】
樹脂層の厚さは、特に限定されるものではないが、電池の出力密度を高める上では、薄いほど好ましい。双極型電池においては、正極および負極の間に存在する樹脂層は、積層方向に水平な方向の電気抵抗が高くてもよいため、樹脂層の厚さを薄くすることが可能である。具体的には、樹脂層の厚さは、50μm以下であることが好ましく、0.1〜20μmであることが好ましい。
【0030】
(活物質層)
[正極(正極活物質層)及び負極(負極活物質層)]
正極活物質層3または負極活物質層4は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0031】
正極活物質層3は、正極活物質5を含む。正極活物質5としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni−Co−Mn)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム−遷移金属複合酸化物、リチウム−遷移金属リン酸化合物、リチウム−遷移金属硫酸化合物などが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。好ましくは、リチウム−遷移金属複合酸化物が、正極活物質として用いられる。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0032】
負極活物質層4は、負極活物質6を含む。負極活物質としては、例えば、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料、リチウム−金属合金材料などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、炭素材料またはリチウム−遷移金属複合酸化物が、負極活物質として用いられる。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0033】
正極活物質層3および負極活物質層4に含まれうる添加剤としては、例えば、バインダ、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。
【0034】
バインダとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、合成ゴム系バインダ、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0035】
導電助剤とは、正極活物質層3または負極活物質層4の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層(3、4)が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
【0036】
電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON)、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。
【0037】
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0038】
正極活物質層3および負極活物質層4中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、非水溶媒二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。活物質層中の活物質の含有量は、90〜98重量%であることが好ましく、92〜96重量%であることがより好ましい。かような範囲であると、樹脂層中に活物質が取りこまれやすく、また、樹脂層および活物質層間での活物質のアンカー効果が適切に発揮されるため好ましい。
【0039】
活物質層の空孔率は、特に限定されるものではないが、30〜55%であることが好ましく、30〜45%であることがより好ましい。活物質層の空孔率がかような範囲であると、電池に適用した場合に、高エネルギーまたは高出力の電池を得ることができる。活物質層の空孔率は、後述の電極の製造方法の欄で説明するプレス工程において、プレス圧を適宜調整することによって、容易に上記範囲の空孔率の活物質層を得ることができる。
【0040】
各活物質層3、4の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、各活物質層(3、4)の厚さは、2〜150μm程度である。
【0041】
以上、本発明の好適な一実施形態である双極型リチウムイオン二次電池用電極について説明したが、本発明の電極は双極型に限定されるものではない。例えば、正極活物質層を樹脂層の両面に配置した正極、または負極活物質層を樹脂層の両面に配置した負極に適用してもよい。本発明の効果が顕著に発揮されるのは、上述したように、双極型電極である。
【0042】
次に、本発明の電極を適用した電池について説明する。本発明の電極が適用される電池の種類は、特に制限されず、例えば、非水電解質電池が挙げられる。また、非水電解質電池の構造・形態で区別した場合には、積層型(扁平型)電池、巻回型(円筒型)電池など特に制限されず、従来公知のいずれの構造にも適用されうる。
【0043】
同様に非水電解質電池の電解質の形態で区別した場合にも、特に制限はない。例えば、非水電解液をセパレータに含浸させた液体電解質型電池、ポリマー電池とも称される高分子ゲル電解質型電池および固体高分子電解質(全固体電解質)型電池のいずれにも適用されうる。高分子ゲル電解質および固体高分子電解質に関しては、これらを単独で使用することもできるし、これら高分子ゲル電解質や固体高分子電解質をセパレータに含浸させて使用することもできる。
【0044】
また、本発明の電池は、一次電池および二次電池のいずれであってもよい。さらに、電池の電極材料ないし電極間を移動する金属イオンで見た場合にも、特に制限されず、公知のいずれの電極材料等にも適用されうる。例えば、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池、ニッケルカドミウム二次電池、ニッケル水素電池などが挙げられ、好ましくは、リチウムイオン二次電池である。これは、リチウムイオン二次電池では、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成でき、車両の駆動電源用や補助電源用として優れているためである。さらに、上述したように、双極型である場合に、本発明の効果が顕著に発揮される。
【0045】
したがって、以下、好適な実施形態である、双極型リチウムイオン二次電池について説明する。
【0046】
図2に示す本実施形態の双極型リチウムイオン二次電池30は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素37が、外装であるラミネートシート42の内部に封止された構造を有する。
【0047】
図2に示すように、本実施形態の双極型リチウムイオン二次電池の発電要素37は、複数の双極型電極34(上述した第一実施形態の双極型電極1)を含む。双極型電極34は、樹脂層31(上述した第一実施形態の樹脂層2)の片面に正極活物質層32(上述した第一実施形態の正極活物質層3)を設け、他方の面に負極活物質層33(上述した第一実施形態の負極活物質層4)を設けた構造を有している。双極型リチウムイオン二次電池30は、樹脂層31の一方の面上に正極活物質層32を有し、他方の面上に負極活物質層33を有する双極型電極34を、電解質層35を介して複数枚積層した構造の発電要素37を具備してなるものである。
【0048】
隣接する正極活物質層32、電解質層35および負極活物質層33は、一つの単電池層(=電池単位ないし単セル)36を構成する。従って、双極型リチウムイオン二次電池30は、単電池層36が積層されてなる構成を有するともいえる。また、単電池層36からの電解液の漏れによる液絡を防止するために単電池層36の周辺部には絶縁層(シール部)43が配置されている。絶縁層(シール部)43を設けることによって、隣接する樹脂層31間を絶縁し、隣接する電極(正極32および負極33)間の接触による短絡を防止することができる。
【0049】
正極側の最外層集電体31aは、電気的に接続された正極タブ38に、負極側の最外層集電体31bは、電気的に接続された負極タブ39に接続される。なお、最終的に電流を取り出す最外層集電体31aおよび31bに関しては、水平方向(面方向)の電気抵抗を低くするため、金属箔を用いることが好ましい。そして、これらの正極タブ38および負極タブ39が外部に導出するように、発電要素37が、ラミネートシート42からなる外装材内に封止されている。なお、最外層集電体(31a、31b)とタブ(38、39)との間を正極端子リード、負極端子リードを介して電気的に接続してもよい。また、最外層集電体がタブを兼ねていてもよい。
【0050】
双極型リチウムイオン二次電池は、上記の構成により、縦方向に電流が流れるため、電子伝導のパスが非双極型の積層電池と比べて格段に短くなり、その分、高出力となる。
【0051】
以下、本実施形態の双極型リチウムイオン二次電池30を構成する部材について簡単に説明するが、上記双極型リチウムイオン二次電池の構成要素のうち、電極を構成する部材については上記に記載した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0052】
[電解質層]
電解質層35を構成する電解質としては、液体電解質またはポリマー電解質が用いられうる。
【0053】
液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられうる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiBETI等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。
【0054】
一方、ポリマー電解質は、電解液を含むゲル電解質と、電解液を含まない真性ポリマー電解質に分類される。
【0055】
ゲル電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマーに、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。マトリックスポリマーとして用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、およびこれらの共重合体等が挙げられる。かようなポリアルキレンオキシド系ポリマーには、リチウム塩などの電解質塩がよく溶解しうる。
【0056】
なお、電解質層が液体電解質やゲル電解質から構成される場合には、電解質層にセパレータを用いてもよい。セパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。
【0057】
真性ポリマー電解質は、上記のマトリックスポリマーに支持塩(リチウム塩)が溶解してなる構成を有し、可塑剤である有機溶媒を含まない。したがって、電解質層が真性ポリマー電解質から構成される場合には電池からの液漏れの心配がなく、電池の信頼性が向上しうる。
【0058】
ゲル電解質や真性ポリマー電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合性ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
【0059】
[最外層集電体]
最外層集電体としては、例えば、アルミニウム箔、ステンレス(SUS)箔、ニッケルとアルミニウムのクラッド材、銅とアルミニウムのクラッド材、あるいはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが挙げられる。中でも正極、負極両電位に耐えうる集電体とするためには、ステンレス箔が好ましい。最外層集電体として、上記樹脂層を用いてもよい。集電体の一般的な厚さは、1〜30μmである。
【0060】
[タブ(正極タブおよび負極タブ)]
電池外部に電流を取り出す目的で、各集電体に電気的に接続されたタブ(正極タブ38および負極タブ39)が電池外装材の外部に取り出されている。具体的には、図2に示すように最外層正極集電体31aに電気的に接続された正極タブ38と最外層負極集電体31bに電気的に接続された負極タブ39とが、電池外装材42であるラミネートシートの外部に取り出される。
【0061】
タブ(正極タブ38および負極タブ39)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用のタブとして従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが好ましい。なお、正極タブ38と負極タブ39とでは、同一の材質が用いられてもよいし、異なる材質が用いられてもよい。また、最外層集電体31aおよび31bを延長することにより正極タブ38および負極タブ39としてもよいし、別途準備した正極タブ38および負極タブ39を最外層集電体31aおよび31bに接続してもよい。
【0062】
[正極および負極端子リード]
正極端子リードおよび負極端子リードに関しても、必要に応じて使用する。例えば、最外層集電体31aおよび31bから出力電極端子となる正極タブ38および負極タブ39を直接取り出す場合には、正極端子リードおよび負極端子リードは用いなくてもよい。
【0063】
正極端子リードおよび負極端子リードの材料は、公知のリチウムイオン二次電池で用いられる端子リードを用いることができる。なお、電池外装材42から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
【0064】
[電池外装材]
電池外装材42としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素(電池要素)を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。本発明では、高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるラミネートフィルムが望ましい。
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態である双極型リチウムイオン二次電池について説明したが、非双極型のリチウムイオン二次電池であってもよいことは勿論である。非双極型のリチウムイオン二次電池の一例としては、正極集電体の両面に正極活物質層が形成されてなる正極と、電解質層と、負極集電体の両面に負極活物質層が形成されてなる負極とが複数積層された構成が挙げられる。この際、一の正極の片面の正極活物質層と前記一の正極に隣接する一の負極とが、電解質層を介して向き合うように、正極、電解質層、負極がこの順に積層されている。そして、上記双極型と同様に、各電極(正極および負極)と導通される正極タブおよび負極タブが、正極端子リードおよび負極端子リードを介して各電極の正極集電体および負極集電体に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられている。これにより正極タブおよび負極タブは、ラミネートフィルムの周辺部の熱融着にて接合された部位より上記の電池外装材の外部に露出される構造を有している。
【0066】
続いて、本発明の電極の製造方法について説明する。
【0067】
本発明の電極の好適な製造方法は、溶媒に、活物質を添加することにより、活物質スラリーを調製する活物質スラリー調製工程と、前記活物質スラリーを導電性を有する樹脂層の表面に塗布する塗工工程と、前記塗工工程を経て作製された積層体を、前記活物質が前記樹脂層に取り込まれるように、積層方向にプレスするプレス工程と、を含む電極の製造方法である。かような製造方法により、簡便に第一実施形態の電極を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0068】
樹脂層は、従来公知の手法により製造できる。例えば、スプレー法またはコーティング法を用いることにより製造可能である。具体的には、高分子材料を含むスラリーを調製し、これを塗布し硬化させる手法が挙げられる。スラリーの調製に用いられる高分子材料の具体的な形態については上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。前記スラリーに含まれる他の成分としては、導電性粒子が挙げられる。導電性粒子の具体例については上述の通りであるために、ここでは説明を省略する。あるいは、高分子材料および導電性粒子、その他の添加剤を従来公知の混合方法にて混合し、得られた混合物をフィルム状に成形することで得られる。また、例えば、特開2006−190649号に記載の方法のように、インクジェット方式により樹脂層を作製してもよい。
【0069】
(活物質スラリー調製工程)
活物質スラリーは、溶媒に、活物質を添加することにより調整される。所望の活物質、導電助剤、および必要に応じて他の成分(例えば、バインダ、イオン伝導性ポリマー、支持塩(リチウム塩)、分散剤(ポリオキシステアリルアミンなど)、重合開始剤など)を、溶媒中で混合して、活物質スラリーを調製する。この活物質スラリー中に配合される各成分の具体的な形態については、上記の本発明の電極の構成の欄において説明した通りであるため、ここでは詳細な説明を省略する。なお、活物質スラリーにイオン伝導性ポリマーが添加され、当該イオン伝導性ポリマーを架橋させる目的で重合開始剤がさらに添加される場合には、塗工工程における乾燥と同時に、または当該乾燥の前もしくは後に、重合処理を施してもよい(重合工程)。
【0070】
各スラリーの溶媒は、特に限定されず、電極製造について従来公知の知見が適宜参照されうる。溶媒の一例を挙げると、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミドなどが用いられうる。バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を採用する場合には、NMPを溶媒として用いるとよい。溶媒の量の増減によって、スラリーの粘度を制御することが可能である。特に限定されるものではないが、具体的には、活物質スラリーの粘度は、後述する活物質層の好適な空孔率を達成するためには、正極負極両方とも、好ましくは3,000〜6,000cPsである。
【0071】
各スラリー中に含有される成分の配合比は、特に限定されないが、溶媒と、その他の成分との比率(重量比)は、正極において、溶媒:他の成分=0.8:1〜1.2:1であることが好ましく、0.9:1〜1.1:1であることがより好ましい。また、負極において、溶媒:他の成分=1.5:1〜2.0:1であることが好ましく、1.8:1〜2.0:1であることがより好ましい。
【0072】
(塗工工程)
続いて活物質スラリーを樹脂層に塗布する。活物質スラリーを樹脂層の表面に塗布するための塗布手段も特に制限されず、電池の製造分野において従来公知の手法が適宜採用されうる。一例を挙げると、ドクターブレード方式、インクジェット方式、スクリーン印刷方式、ダイコータ方式などの手法が例示される。
【0073】
電極が形成された後は、乾燥により溶媒が除去される。固体電解質の原料がこの段階までに重合されて固体電解質とならない場合には、重合反応を進行させるとよい。例えば、光重合開始剤がインク中に含まれる場合には、所定の光を照射することにより、原料の重合反応を進行させるとよい。
【0074】
活物質層の表面に塗布された活物質スラリーを乾燥させるための乾燥手段も特に制限されず、従来公知の手法が適宜採用されうる。一例を挙げると、自然乾燥、送風乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥などが挙げられる。活物質層の両面に活物質を形成する場合には、順に活物質層を形成させてもよいし、同時に形成させてもよい。また、乾燥温度も溶媒が乾燥するよう、適宜設定すればよい。
【0075】
(プレス工程)
プレス工程にて、塗膜形成工程を経て作製された積層体を、前記活物質が前記樹脂層に取り込まれるように、積層方向にプレスする。プレス方法としては特に限定されるものではないが、ロールプレス法、平板プレス法、熱ロール法等を用いることができる。ロールプレスの際のプレス線圧は、樹脂層の材料または塗膜の状態等により、適宜設定されるが、2,000〜30,000N/cmであることが好ましく、10,000〜30,000N/cmであることがより好ましい。プレス圧をかような範囲に設定することで、樹脂層から活物質層がはがれにくく、また、電池として機能しない活物質量が少ないため、エネルギー、出力の低下を抑制することができる。プレス圧N/cmは、ロールプレスをかける場合の単位となり、線圧となる。例えば2,000N/cmは、幅30cmのローラーに60,000Nの押し付け力を持たせた条件となる。平板プレスの際のプレス圧は、4.0×10〜6.0×10Paであることが好ましく、2.0×10〜6.0×10Paであることがより好ましい。
【0076】
また、プレスをかけない場合の電極厚さを1とした場合のプレス後の電極厚さ比が、正極負極両方において、0.5〜0.8となるようにプレスすることが好ましく、0.6〜0.7となるようにプレスすることがより好ましい。
【0077】
プレス条件は、好適には、活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さが、厚み方向で、活物質の平均粒子径の1/4〜1/2となる、より好ましくは活物質の平均粒子径の1/4〜1/3となるようにプレスを行うことが好ましい。活物質の平均粒子径の1/4〜1/2となるようにするためのプレス線圧は、塗膜の状態により、適宜調整・設定されるが、2,000〜30,000N/cmであることが好ましく、10,000〜30,000N/cmであることがより好ましい。
【0078】
プレス時の温度は、通常20〜30℃程度である。
【0079】
かようにして得られた電極を電池に用いる場合、電池の製造方法は、従来公知の製造方法により製造することができる。
【0080】
[リチウムイオン二次電池の外観構成]
図3は、本発明に係る電池の代表的な実施形態である積層型の扁平な非双極型あるいは双極型のリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
【0081】
図3に示すように、積層型の扁平なリチウムイオン二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素(電池要素)57は、リチウムイオン二次電池50の電池外装材52によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素(電池要素)57は、正極タブ58及び負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素(電池要素)57は、先に説明した図2に示す双極型のリチウムイオン二次電池30の発電要素(電池要素)37に相当するものである。また、正極(正極活物質層)32、電解質層35および負極(負極活物質層)33で構成される単電池層(単セル)36が複数積層されたものである。
【0082】
なお、本発明の電池は、図3に示すような積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよい。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0083】
また、図3に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図3に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
【0084】
本発明の電池は、電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの大容量電源として、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
【0085】
[組電池]
本発明の組電池は、本発明の電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。なお、本発明の組電池では、非双極型リチウムイオン二次電池と双極型リチウムイオン二次電池を用いて、これらを直列に、並列に、または直列と並列とに、複数個組み合わせて、組電池を構成することもできる。
【0086】
また、図4は、本発明に係る組電池の代表的な実施形態の外観図であって、図4Aは組電池の平面図であり、図4Bは組電池の正面図であり、図4Cは組電池の側面図である。
【0087】
図4に示すように、本発明に係る組電池300は、本発明のリチウムイオン二次電池が複数、直列に又は並列に接続して装脱着可能な小型の組電池250を形成する。この装脱着可能な小型の組電池250をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池300を形成することもできる。図4Aは、組電池の平面図、図4Bは正面図、図4Cは側面図を示しているが、作成した装脱着可能な小型の組電池250は、バスバーのような電気的な接続手段を用いて相互に接続し、この組電池250は接続治具310を用いて複数段積層される。何個の非双極型ないし双極型のリチウムイオン二次電池を接続して組電池250を作製するか、また、何段の組電池250を積層して組電池300を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
【0088】
[車両]
本発明の車両は、本発明の電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を搭載したことを特徴とするものである。本発明の電極を用いると高出力の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。言い換えれば、本発明の電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池は、車両の駆動用電源として用いられうる。車両としては、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)が挙げられる。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
【0089】
図5は、本発明の組電池を搭載した車両の概念図である。
【0090】
図5に示したように、組電池300を電気自動車400のような車両に搭載するには、電気自動車400の車体中央部の座席下に搭載する。座席下に搭載すれば、車内空間およびトランクルームを広く取ることができるからである。なお、組電池300を搭載する場所は、座席下に限らず、後部トランクルームの下部でもよいし、車両前方のエンジンルームでも良い。以上のような組電池300を用いた電気自動車400は高い耐久性を有し、長期間使用しても十分な出力を提供しうる。さらに、燃費、走行性能に優れた電気自動車、ハイブリッド自動車を提供できる。本発明の組電池を搭載した車両としては、図5に示すような電気自動車のほか、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに幅広く適用できるものである。
【実施例】
【0091】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
(実施例1)
樹脂層は、高分子材料として、ポリプロピレン(90質量%)および導電性フィラーとして、ケッチェンブラック(平均粒径1μm、10質量%)からなる樹脂層(厚み50μm)を用いた。
【0092】
次に、正極活物質として、マンガン酸リチウム(LiMnO)(平均粒径5μm、96質量%)、導電助剤としてアセチレンブラック(2.2質量%)、バインダとしてPVdF(1.8質量%)を準備した。スラリー粘度調整溶媒としてNMP(他の成分の合計に対して50質量%)を用いて、スラリーの粘度を調整した(スラリーの粘度5,000cps)。
【0093】
上記スラリーを樹脂層の両面にコーターを用いて塗工した。塗工厚は、100μmであった。塗工後、120℃にて乾燥を行い、電極を得た。
【0094】
この電極に種々のプレス線圧でロールプレスによりプレスを行った。その結果を図6および表1に示す。図6の横軸はプレス線圧、縦軸は、プレス線圧10N/cmの場合の電極厚さを1とした場合の、プレス後の電極厚さ比である。
【0095】
【表1】

【0096】
図6を用いて説明すると、プレス線圧が低い領域は、活物質層内の空隙部が縮む領域であり(プレス線圧2,000N/cm未満)、プレス線圧を上げると樹脂層に活物質が食い込む領域となる(プレス線圧:2,000N/cm〜30,000N/cm)。最後に活物質層及び樹脂層の縮みシロが無くなって厚さの変化が少ない領域が続く(プレス線圧:30,000N/cm越え)。この関係をあらかじめ求めておいて、活物質が集電体に適量食い込むプレス圧条件または縮みシロでプレスをかけることによって、活物質が適量樹脂層に取り込まれた電極を得ることができる。
(実施例2)
(1)電極の作製
正極活物質として、マンガン酸リチウム(LiMnO)(平均粒子径5μm)(96質量%)、導電助剤として、アセチレンブラック(2.2質量%)、バインダとして、PVdF(1.8質量%)を混合した。前記混合物に対して、溶媒としてNMPを加えて十分に撹拌してスラリーを調製した。得られたスラリーを樹脂層に塗布し、120℃で乾燥した。乾燥後、下記表2に記載の種々のプレス線圧で、プレスを行って正極を得た。
【0097】
負極活物質として、グラファイト(平均粒子径5μm)(93質量%)、バインダーとして、PVdF(7.0質量%)を混合した。前記混合物に対して、溶媒としてNMPを加えて十分に撹拌してスラリーを調製した。得られたスラリーを樹脂層に塗布し、120℃で乾燥した。乾燥後、下記表2に記載の種々のプレス線圧で、プレスを行って負極を得た。
【0098】
なお、樹脂層は、高分子材料として、ポリプロピレン(90質量%)および導電性フィラーとして、ケッチェンブラック(平均粒径1μm、10質量%)からなる樹脂層(厚み50μm)を用いた。
【0099】
(3)電池の作製
正極、セパレータ、負極をこの順に積層した。この積層体を外装ケースに載置後、電解液(電解液組成:EC:DEC=4:6(体積比)混合液にリチウム塩としてLiPFが1.0Mの濃度に溶解した溶液)を注液した。この後、絶縁用のガスケットを用いて封口することによりコイン型の電池を作製した。
【0100】
(4)内部抵抗の測定
以下の方法により、電池の内部抵抗を測定した。
【0101】
電池を充電状態(state of charge:SOC)100%に充電した。SOC100%を4.2Voltと定義した場合は、1C充電し、4.2Voltに達したら、4.2Voltの定電圧充電を1時間から1時間30分行う。このSOC100%の状態から、10C,20C,30Cの5〜10秒間パルス放電を行う。電池のクーロン容量をAhとすると、10Cの電流値は10×Ah、20Cの電流値は20×Ah、30Cの電流値は30×Ahとなる。
【0102】
各パルス放電の5秒後の電流値と電池端子電圧を図にプロットする。例えば、図7のようになる。プロットした3点に対して、最小2乗法で直線を引き、傾きを求める。この傾きが電池の内部抵抗とする。電流値として電池を頻繁に使用する電流値を選ぶのが、内部抵抗測定に重要となる。次に、SOC90%での内部抵抗を測定する。そのためにはSOCを10%低下させる必要がある。SOC10%分の容量である0.1*Ahから、10C,20C,30Cの10秒間パルスで放電した放電容量Ah1を除いた(0.1*Ah−Ah)を1C放電し、SOCを90%に設定する。SOCが90%になったら、10C,20C,30Cの5〜10秒間パルス放電を行い、SOC100%で行った方法と同様に、各パルス放電の5秒後の電流値と電池端子電圧を図にプロットする。プロットした3点に対して、最小2乗法で直線を引き、傾きを求める。この傾きが電池の内部抵抗になる。この方法を繰り返し、各SOCの内部抵抗を求める。結果を下記表2に示すが、下記表2の内部抵抗比におけるデータは、SOC50%での値である。
【0103】
表2中、「活物質粒径に対する比」とは、活物質が樹脂層に取り込まれている最大深さの、活物質平均粒子径に対する比を意味する。また、活物質粒径に対する比と電池出力比との関係を示した図を図8に示した。なお、活物質粒径に対する比は、正極および負極の双方の値である。活物質粒径に対する比は、電極を切り出し、切断面をマイクロスコープにより観察することにより求めた。この際、樹脂層の凹凸は多少存在したが、活物質の取り込み量に対しては十分小さいものであった。
【0104】
表2中、「耐久性容量低下率」は、電池を1時間放電率の電流値で放電し、SOC100%の状態から、電池電圧が下限の2.5Vになるまでの時間から求める。
【0105】
【表2】

【0106】
以上の結果から、樹脂層に活物質層中の活物質が取り込まれている形態であると、内部抵抗を低減することができ、電池の出力が向上することがわかった。特に活物質粒径に対する比が1/4〜1/2の範囲で活物質が樹脂層中に取り込まれていると、内部抵抗値を顕著に低減することができ、また出力も顕著に向上する。
【0107】
(実施例3〜5および比較例1〜2)
実施例3〜5および比較例1〜2について、実施例2と同様にして電池を得た。ただし、実施例3〜5については、プレス線圧を各々7,500N/cm、50,000N/cm、50,000N/cmとした。また、実施例5については、樹脂層にコロナ処理を行った。コロナ処理条件は、ジェネレーター出力1,000W、ラインスピード3.0m/min、処理出力1,100W/m/minである。コロナ処理は、従来金属との密着性を向上させるために用いられている処理である(例えば、特開平3−2229号公報)。
【0108】
各実施例の活物質の樹脂層への取り込み深さは、活物質の平均粒径に対して、以下の通りであった。実施例4:0.7、実施例5:0.7。また、活物質層の空孔率は以下の通りであった。実施例4:30%、実施例5:30%、
比較例1については、プレスを行わなかった。比較例2は、樹脂層にコロナ処理を行ったものを用い(コロナ処理条件は、実施例6と同じ)、プレスは行わなかった。活物質層の空孔率は以下の通りであった。比較例1:80%、比較例2:80%。
【0109】
得られた電池について、上記と同様に内部抵抗を測定した。実施例3の内部抵抗を1としたときの各実施例および比較例の出力比の結果を下記表3に示す。
【0110】
【表3】

【0111】
プレス無しの条件である比較例1は、内部抵抗が大きく、電池の出力が低い。樹脂層の表面にコロナ処理を行い、プレス無しの条件である比較例2の出力も比較例1と比して向上していない。一方、比較例に比して、実施例3〜5の電池の出力は増加した。これは、活物質間の電子ネットワークが改善されたためであると推察される。また、樹脂層表面にコロナ処理を行った場合の電池(実施例5)の出力は、コロナ処理無し(実施例4)とほぼ同じであった。実施例3は、プレスを最適条件に設定したため、電池の出力が顕著に向上した。これは、活物質間の電子ネットワークが改善されたことと、樹脂層に活物質が取り込まれる量が最適化されているためであると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第一実施形態を示す概念図である。
【図2】本発明の双極型電池を示す模式図である。
【図3】本発明の双極型電池の外観図である。
【図4】本発明の組電池の外観図である。
【図5】本発明の組電池を搭載した車両の概念図である。
【図6】実施例における電極厚さ比とプレス線圧との関係を示した図である。
【図7】電池の内部抵抗を算出する際に用いられるプロットの一例である。
【図8】実施例における電池の出力比と活物質粒径に対する比との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0113】
1、34 双極型電極、
2、31 樹脂層、
3、32 正極活物質層、
4、33 負極活物質層、
5 正極活物質、
6 負極活物質、

30 双極型リチウムイオン二次電池、
31a、31b 最外層集電体、
35 電解質層、
36 単電池層(=電池単位ないし単セル)、
37、57 発電要素(電池要素;積層体)、
38、58 正極タブ、
39、59 負極タブ、
40 正極端子リード、
41 負極端子リード、
42、52 電池外装材(たとえばラミネートフィルム)、
43 シール部(絶縁層)、
50 リチウムイオン二次電池、
250 小型の組電池、
300 組電池、
310 接続治具、
400 電気自動車。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する樹脂層を含む集電体と、
前記樹脂層上に形成され、活物質を含む活物質層と、
を有し、前記活物質の一部が樹脂層に取り込まれている、電極。
【請求項2】
前記活物質が前記樹脂層に取り込まれている最大深さは、厚み方向で、前記活物質の平均粒子径の1/4〜1/2である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記樹脂層が、導電性粒子を含む、請求項1または2に記載の電極。
【請求項4】
前記活物質層の空孔率が30〜55%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
溶媒に、活物質を添加することにより、活物質スラリーを調製する活物質スラリー調製工程と、
前記活物質スラリーを導電性を有する樹脂層の表面に塗布する塗工工程と、
前記塗工工程を経て作製された積層体を、前記活物質が前記樹脂層に取り込まれるように、積層方向にプレスするプレス工程と、
を含む電極の製造方法。
【請求項6】
前記プレス工程において、プレス線圧を2000〜30000N/cmとする、請求項5に記載の電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極、または請求項5もしくは6の製造方法により得られる電極を用いる電池。
【請求項8】
双極型電池である、請求項7に記載の電池。
【請求項9】
請求項7または8に記載の電池が複数個接続された組電池。
【請求項10】
請求項7もしくは8に記載の電池、または請求項9の組電池を、モータ駆動用電源として搭載する車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−67581(P2010−67581A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−235640(P2008−235640)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】