説明

電極インク、内部電極用シートおよびそれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】焼成時の構造欠陥の発生を抑制した、静電容量値の低下の小さい、優れた容量値の温度安定性を有し、信頼性に優れたチップコンデンサなどの積層セラミックコンデンサを提供することができる。
【解決手段】本発明の内部電極用電極インク、電極パターン及びこれを用いた積層型セラミックコンデンサは、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有されるものにより構成されることで実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル粉末を主成分とする内部電極形成用の電極インク、内部電極用シートおよびそれを用いた積層セラミックコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサは、小型、大容量、高信頼性を有する電子部品として幅広く利用されており、近年の電子機器類の小型化及び高性能化に伴い、更なる小型化、大容量化、高信頼性化への要求が高まっている。そして、積層セラミックコンデンサは、所定の誘電体磁器組成物からなるグリーンシート上に内部電極となる導電インクを印刷し、該導電インクを印刷した複数枚のグリーンシートを積層し、グリーンシートと内部電極とを同時に一体的に焼成し、製造されている。
【0003】
特に、近年は内部電極に卑金属粉末を用いたものが、安価で高品質であることから主流となっている。また、その安価な卑金属(例えば、ニッケルや銅など)を内部電極の材料として用いるためには、中性または還元性雰囲気下において低温で焼成しても半導体化せず、すなわち耐還元性に優れ、焼成後には十分な比誘電率と優れた温度特性とを有する誘電体磁器組成物を開発することが必要である。
【0004】
しかしながら、これらの組合せである積層セラミックコンデンサ等の電子部品においては、電極である金属と、セラミックスである誘電体層との界面で焼結時の緻密化する際の収縮挙動の違いから内部欠陥が生じやすくそれがショート率悪化を招いている。
【0005】
これらの抑制策としては、一般には焼成温度の高い誘電体層に金属である電極層の収縮挙動を近づけるために電極側に共材と呼ばれる調整材が添加されている。
【0006】
その共材としては、誘電体層を形成している粉体と同一、もしくはそれを適度に粉砕し粒子径を微細化したものが一般的には使用されている。しかし、共材として電極インクに添加される材料が占める比率はおよそ電極の金属粉末に対して20%と大きく、積層セラミックコンデンサの容量小を招いたり、構造欠陥を発生させたりするために最近ではあまり得策とは言えない状況にある。
【0007】
一方では、共材として添加する材料の粒子径を0.1μm以下の微細粉を用いることで添加量が増えた場合にでも構造欠陥を抑えると共に容量低下を十分に抑制できる試みも行われている。
【0008】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば特許文献1、特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2001−110233号公報
【特許文献2】特許第3146967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、内部電極の材料として卑金属であるニッケル粉末を用い、共材として例えば、誘電体磁器組成物と略同一組成物を添加した場合に種々の提案がなされているが、何れも焼成後に構造欠陥によるショート率悪化や静電容量値の低下、温度特性の悪化等が生じてしまい、電気特性と信頼性、工程歩留まり等を総合的に満足させるに至っていなかった。小型大容量化の進展により、誘電体層の一層当たりの厚みは1μm以下の超薄層化が要求され、電極間にかかる電界強度の増大によるDCバイアス特性や信頼性が十分に確保できないという課題がある。
【0010】
また、前記特許文献1では、電極インクに添加する共材としては最大でも0.1μmの誘電体層と同一の微粒子を5〜30wt%添加する構成が提案されたりしているが、0.1μmのサイズの粒子の作り方や使用する誘電体層の焼結粒径によってはかえって粒子の異常粒成長を助長することになり温度特性や誘電率等の初期電気特性を損なってしまうことになり、さらには要求される所定の誘電率や温度特性等の組成由来の挙動が変化してしまうので設計変更を繰り返し実施しなければ特性を合わせこむことが難しいという課題があった。
【0011】
一方、前記特許文献2では、誘電体層に複数の種類の組成物をブレンドすることで所定の電気特性をバランスさせる手段等が検討されているが、実際には製造工程が繁雑となり工程管理上の負担や安定性確保に大きな問題があった。
【0012】
本発明の目的は、焼成時の耐還元性に優れ、トレードオフ関係にある容量変化率と誘電率の関係を高位に両立できつつ、従来より大きな変更のない工程条件でものづくりができる電極インク、及び積層セラミックコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0014】
本発明の請求項1記載の発明は、ニッケル粉末と樹脂バインダーから構成される内部電極パターンを形成する電極インクであって、該内部電極パターンに主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有される内部電極用電極インクであり、これらを用いることにより適度な誘電率とX7R、X8R特性などの容量温度特性を高位に両立する作用効果と、構造欠陥等のない信頼性に優れる作用効果が得られる。
【0015】
本発明の請求項2記載の発明は、内部電極と誘電体層とを交互に複数積層した積層セラミックコンデンサの内部電極用シートであって、前記内部電極が樹脂バインダーと、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部を含有したものからパターン形成されている内部電極用シートであり、適度な誘電率とX7R、X8R特性などの容量温度特性を高位に両立する作用効果と、構造欠陥等のない信頼性に優れる作用効果が得られる。
【0016】
本発明の請求項3に記載の発明は、誘電体酸化物を含む主成分と、マグネシウムとを少なくとも有する誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と内部電極層とが交互に積層してある素子本体を有する積層セラミックコンデンサであって、特に粒子径0.25μm以下でBET値が4.1〜10m2/gの誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、ニッケル粉末と樹脂バインダーからなる内部電極を交互に積層した積層セラミックコンデンサにおいて、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有される内部電極からなる積層セラミックコンデンサであり、内部電極のニッケル金属に対して共存させる誘電体粒子のサイズ、組合せ、添加量を総合的に規定することにより、誘電体層が持つ誘電率と温度特性のバランスを高レベルで維持することができると共に、焼結工程で発生する構造欠陥やショート率悪化を無くすことができることで信頼性を高レベルで実現できる。
【0017】
また、本発明の積層セラミックコンデンサでは、内部電極に本発明に係る電極インク、電極パターンを用いることにより、優れた容量温度特性を有するとともに、静電容量の低下がなく、しかも絶縁抵抗(IR)や絶縁破壊電圧(BDV)のバラツキが改善され、ショート率発生の極小な積層セラミックコンデンサ等の積層部品を製造できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電極インク、内部電極用シートおよびこれを用いた積層セラミックコンデンサは、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15倍含有されることにより、焼成時に発生しやすい構造欠陥を抑制し、焼成後には静電容量の低下がなく、優れた容量温度特性を有し、高信頼性を実現できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、一実施の形態を用いて本発明の請求項1〜3に記載の発明について説明する。図1は本一実施の形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図であり、図2は図1に示した積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極を構成する組成物粒子の微構造モデル図、図3は従来の積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極を構成する組成物粒子の微構造モデル図である。
【0020】
図1に示されるように、本一実施の形態における積層セラミックコンデンサは、誘電体層1と内部電極層2とが交互に積層された構成のコンデンサ素子本体3を有する。このコンデンサ素子本体3の両端部には、コンデンサ素子本体3の内部で交互に配置された内部電極層2と各々導通する一対の外部電極4が形成してある。コンデンサ素子本体3の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよいが、通常、(0.6〜5.6mm)×(0.3〜5.0mm)×(0.3〜1.9mm)程度である。
【0021】
内部電極層2は、コンデンサ素子本体3の対向する両端面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体3の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層2の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0022】
誘電体層1は、以下に説明する誘電体磁器組成物を含有する。本一実施の形態における誘電体磁器組成物は、BaTiO3で示されるチタン酸バリウムを主成分とする。この際、チタン酸バリウムのBaとTiの存在比は、粉体の製造方法によりいずれも任意の範囲であるが、例えば、1.000≦Ba/Ti≦1.005であることが好ましい。Ba/Ti比が大きくなるに従い、焼結に対し組成物の反応性が敏感になるため他の添加成分との組合せも考慮して選択することが望ましいが、本一実施の形態の場合では、主成分のBaTiO3以外の副成分として添加する希土類金属酸化物、遷移金属酸化物、ガラス成分を所定の量となるように配合して得ることができる。
【0023】
本一実施の形態では、主成分のチタン酸バリウムのBa/Ti比をAサイトリッチにすることで焼結性に対する感度を弱めつつ、その寄与度をBa、Siからなるガラス成分量を組合せて規制することにより適度なバランスが確保される。ガラス成分は主に粒界相を形成する作用と一部Ba成分が主成分のチタン酸バリウムのAサイト置換に消費されることになり、緻密化を適度にバランスできるようになるもので、主成分のチタン酸バリウム100モルに対してはBa、Siの酸化物換算で0.5〜5.0モルの範囲が好ましく、特には3.0モル以下が制御しやすいのでより好ましい。
【0024】
このようにBaTiO3に対するMgと希土類金属種の組合せ、量比、希土類金属種の総量を制御することにより、図2に示した構造モデルを形成することが可能となり、微粒子のBaTiO3を焼成させる際に発生する異常粒成長を抑制し、かつ誘電体磁器組成物中の隣接する複数の主成分結晶粒間に存在する粒界部分に偏析するマグネシウムまたはマグネシウムの酸化物の量が少なくなり、その結果、コンデンサの誘電率が高くなる。
【0025】
本一実施の形態では、前記BaTiO3粒子に対して、例えば、Mgは、好ましくは0.2モル以上、より好ましくは0.2から2.5モルである。Mgをこのような範囲にすることにより、誘電体磁器組成物の誘電率を適度に高くしても、誘電率の温度特性を安定にすることができる。なお、マグネシウムの固溶量が過度に少ないと、誘電損失(tanδ)が悪化する傾向があるので、固溶量の下限は0.2モルである。逆に、マグネシウム量が過剰になると組成物の焼結性が極端に悪化してしまうので概ね2.5モルまでが望ましい。
【0026】
本一実施の形態に係る誘電体磁器組成物には、Mg等のアルカリ土類金属、希土類金属の他に、例えばV、Mo、Zn、Cd、Sn、Mn、Al等の酸化物から選ばれる少なくとも1種の副成分が、さらに添加してあってもよく、適度な組合せと量を選択することが可能である。このような副成分を添加することにより、主成分の誘電特性を劣化させることなく低温焼成が可能となり、誘電体層1を薄層化した場合の信頼性不良を低減することができ、長寿命化を図ることも可能である。
【0027】
なお、図1に示される誘電体層1の積層数や厚み等の諸条件は、目的や用途に応じ適宜決定すればよい。また、誘電体層1は、グレインと粒界相とで構成され、誘電体層1のグレインの平均粒子径は、0.25μm以下であることが好ましい。
【0028】
図2に示した誘電体層を構成する誘電体磁器組成物の粒子微構造は、粒子の中心をさすチタン酸バリウムとその周辺を取り囲むように存在するシェル層、粒界層とからなり、Mg、希土類金属A、及び希土類金属Bはこのシェル層部分に偏析している。一方、粒界相は、通常、誘電体材料あるいは内部電極材料を構成する材質の酸化物や、別途添加された材質の酸化物、さらには工程中に不純物として混入する材質の酸化物を成分とし、通常、ガラスないしガラス質で構成される。
【0029】
内部電極層2に含有される導電材は、特に限定されないが、誘電体層1の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0030】
なお、NiまたはNi合金中には、P,Fe,Mg等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層2の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよく、通常、5μm以下、今後の薄層化を考慮すれば、特に0.3〜1.3μm程度であることが好ましい。
【0031】
なお、誘電体層と電極層の焼結緻密化のずれを調整するために内部電極層2に誘電体層に近似のセラミック成分を混入することが推奨され、最終製品の容量値を考慮してその添加量等を調整可能である。
【0032】
本発明では、電極用の卑金属としては湿式法に合成されるニッケル粉末を用いたが他の乾式法であっても何ら差し支えない。
【0033】
本発明では、誘電体層と電極層の焼結緻密化のずれを調整するために主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有されることが望ましい。
【0034】
積層セラミックコンデンサは、その形状寸法により誘電体層と電極双方の厚み設計が変動するため、より好ましくは誘電体層の設計に連動させて調整することが肝要である。
【0035】
なお、電極パターンは、該電極インクを用いてあればよく、その形成手段は印刷法、転写法等いずれの方法であっても何ら差し支えない。
【0036】
外部電極4に含有される導電材は、特に限定されないが、通常、CuやCu合金あるいはNiやNi合金等を用いる。なお、AgやAg−Pd合金等も、もちろん使用可能である。なお、本一実施の形態では、安価なNi,Cuや、これらの合金を用いる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、0.6〜50μm程度であることが好ましい。
【0037】
本発明における積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストやスラリーを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。
【0038】
なお、焼成により酸化物になる化合物としては、例えば炭酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、有機金属化合物等が例示される。もちろん、酸化物と、焼成により酸化物になる化合物とを併用してもよい。誘電体磁器組成物原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。塗料化する前の状態で、誘電体磁器組成物原料粉末の粒径は、通常、平均粒子径0.01〜2μm程度である。
【0039】
次いで、この誘電体磁器組成物原料を塗料化して、誘電体層用スラリーを調整する。誘電体層用スラリーは、誘電体磁器組成物原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0040】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものであり、有機ビヒクルに用いられるバインダは、特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、このとき用いられる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法等利用する方法に応じて酢酸ブチル、アセトン、トルエン等の有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0041】
また、水溶系塗料とは、水に水溶性バインダ、分散剤等を溶解させたものであり、水溶系バインダは、特に限定されず、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂、エマルジョン等から適宜選択すればよい。
【0042】
内部電極用インクは、上述した各種導電性金属や合金からなる導電材料あるいは焼成後に上述した導電材料となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上述した有機ビヒクルとを混練して調製される。また、外部電極用ペーストも、この内部電極用インクと同様にして調製される。
【0043】
上述したインク、ペーストの有機ビヒクルの含有量は、特に限定されず、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は0.6〜60重量%程度とすればよい。また、インク、ペースト中には必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されても良い。
【0044】
印刷法を用いる場合は、誘電体ペーストおよび内部電極用インクをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体スラリーを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極ペーストを印刷したのちこれらを積層してグリーンチップとする。
【0045】
次に、このグリーンチップを脱バインダ処理および焼成する。
【0046】
グリーンチップの脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、特に内部電極層の導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、空気雰囲気において、昇温速度を5〜300℃/時間、より好ましくは10〜100℃/時間、保持温度を180〜400℃、より好ましくは200〜350℃、温度保持時間を0.5〜24時間、より好ましくは1〜20時間とする。
【0047】
グリーンチップの焼成雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定すればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合には、焼成雰囲気の酸素分圧を好ましくは10-10〜10-3Paとし、より好ましくは10-10〜6×10-5Paとする。焼成時の酸素分圧が低すぎると内部電極の導電材が異常焼結を起こして途切れてしまい、酸素分圧が高すぎると内部電極が酸化されるおそれがある。
【0048】
焼成の保持温度は、1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1250℃である。保持温度が低すぎると緻密化が不充分となり、保持温度が高すぎると内部電極の異常焼結による電極の途切れまたは内部電極材質の拡散により容量温度特性が悪化するからである。
【0049】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とし、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが望ましく、雰囲気ガスとしては例えば、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスを加湿して用いることが望ましい。
【0050】
還元性雰囲気で焼成した場合は、コンデンサチップの焼結体にアニール(熱処理)を施すことが望ましい。アニールは誘電体層を再酸化するための処理であり、これにより絶縁抵抗を増加させることができる。アニール雰囲気の酸素分圧は、好ましくは10-4Pa以上、より好ましくは10-1〜10Paである。酸素分圧が低すぎると誘電体層2の再酸化が困難となり、酸素分圧が高すぎると内部電極層3が酸化されるおそれがある。
【0051】
アニールの際の保持温度は、1150℃以下、より好ましくは800〜1100℃である。保持温度が低すぎると誘電体層の再酸化が不充分となって絶縁抵抗が悪化する。また、保持温度が高すぎると内部電極が酸化されて容量が低下するだけでなく、誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性、絶縁抵抗が悪化する。
【0052】
以上のようにして得られたコンデンサ焼成体(コンデンサ素子本体3)に、例えば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、外部電極4を形成する。
【0053】
外部電極用ペーストの焼成条件は、例えば、加湿した窒素ガスと水素ガスとの混合ガス中で600〜800℃にて10分〜1時間程度とすることが好ましい。
【0054】
次に、必要に応じて外部電極4の表面にメッキ等により被覆層(パッド層)を形成する。なお、外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用インクと同様にして調製すればよい。
【0055】
このようにして製造された本一実施の形態の積層セラミックコンデンサは、優れた容量温度特性を有し、静電容量値の低下のない、しかも絶縁抵抗(IR)や絶縁破壊電圧(BDV)のバラツキを改善できる。その結果、コンデンサの高温高湿環境下での品質レベルが向上する。
【0056】
また、このようにして製造された積層セラミックコンデンサは、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0057】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【0058】
次に、本発明の一実施の形態をより具体化した実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。本実施例では、以下に示す手順で積層セラミックコンデンサのサンプルを作製した。
【0059】
出発原料として、蓚酸塩法により合成されたBaTiO3粒子を用い、その時の出発原料の平均粒径は0.22μm(BET値4.9m2/g)であった。特に、BaTiO3粒子の製法による特性への影響は小さく、固相法や水熱法等であっても何ら差し支えない。
【0060】
本実施例では温度特性がX5R特性(−25℃〜+85℃の温度範囲にて±15%以内の静電容量値変化を示すコンデンサ)を満足するように、主成分であるBaTiO3100モルに対し、MgをMgO換算で1.0モル、希土類元素酸化物であるDy23を0.3モルと希土類元素酸化物であるYb23を0.2モル、遷移金属酸化物であるMn34を0.1モル、ガラス成分であるBaSiO3を1.95モルの添加量にて所望の誘電体組成になるように調整したものを実施例1として準備した。
【0061】
この希土類金属酸化物A、BとしてはDy23、Yb23のみに限定されることなく、これ以外のHo23、Y23、Er23などを用途に応じて使用しても何ら差し支えないし、その複数種を組合せる選択も十分に目的を達成することが可能である。
【0062】
さらにMg以外のアルカリ土類金属であるBa、Caなどを加えても差し支えないが、焼成条件に影響を及ぼすためにその使用には注意が必要である。
【0063】
また、ガラス成分としてはBa、Siからなる酸化物であればよく、Ba、Siの比率は任意に調整が可能であり、別々の性状での添加であって支障はない。ただし、Ba量が過剰になるとBaTiO3の焼成条件感度が変化しやすくなるのでBaSiO3がより好ましい。
【0064】
さらには、過剰にBa成分が存在するとコアのBaTiO3の焼成条件に影響を与えるのでより好ましくは、0.5〜2.0モルの添加であり、2.0モルより少なくて十分である。
【0065】
次に、内部電極用電極インクとしては、主成分のニッケル粉末は平均粒径0.2μmの堺化学工業製SP02を用い、ニッケル100重量部に対して、MgをMgO換算で1.0モル、前記の誘電体組成物(粒径0.22μm、BET4.9m2/g)を10重量部、前記誘電体中のコア粒子の2倍の平均粒径である0.44μmのコア粒子2重量部を準備した。
【0066】
続いて、積水化学製ブチラール樹脂BM−S、BH−S、BL−Sをそれぞれ1:2:1の比率にブレンドし、可塑剤を樹脂に対し45%添加したものを酢酸ブチル、ブチルセロソルブの有機溶剤と共にビヒクル化した後、各粉体と十分に混合、混練するようにディスパーザーや3本ロール等の設備により作製した。これらを酢酸ブチルやブチルセロソルブ等の有機溶剤で希釈し、10μ、5μ、3μのフィルターを通過させ凝集物や不純物等を濾過することにより所定の電極インクを作製した。本実施例では、各粉体と樹脂バインダーの比率は、電極パターンが正常な平滑表面が形成できるものであれば特に規制するものではないが、3〜7%程度が好ましい。同じく樹脂の組合せは電極シートの剛性を考慮して種々の組合せが選択可能である。
【0067】
本実施例の電極パターンは、得られた実施例1の電極インクを溶剤により69%に希釈した上で、グラビア印刷機を用いて乾燥後厚みが0.9μmになるようにグラビア版の深度やライン速度、乾燥ヒーター温度等を調整して作製した。
【0068】
なお、電極パターンの作製は、グラビア印刷法等以外の方法でもよく、得られた電極インクを用いて行えば何ら差し支えなく、熱転写法等清浄なパターンが得られさえすれば問題ない。
【0069】
実施例2以降の実施例、比較例の組成・組合せについては(表1)に示したように調整して実施した。
【0070】
次に、前記誘電体磁器組成物100重量部に対して分散媒として酢酸ブチル30重量部を配合するとともに、直径10mmのジルコニア製玉石500重量部を加える。上記のように配合された誘電体磁器組成物、分散媒および玉石をボールミル内に入れた後12時間混合する。
【0071】
その後、ボールミルで混合された分散媒を含む誘電体磁器組成物の粉体100重量部に対し、樹脂バインダーとしてブチラール樹脂系のバインダー(例えば、積水化学社製 BM−S)8重量部、可塑剤としてフタル酸ベンジルブチル4重量部を添加した後、この配合物を解砕処理ミルや媒体攪拌ミル等で充分に分散処理を行ってスラリー化し、誘電体スラリーとした。
【0072】
次に、前記誘電体スラリーをドクターブレード法などにより厚さ約12μmの誘電体グリーンシートに成形した。このようにして得られた誘電体グリーンシートにニッケル電極インクを用いて内部電極パターンを印刷形成し、各内部電極の一端を交互に対向する端面から引き出し、それぞれの対向する端面で並列接続できるように誘電体層、電極層それぞれ100枚積層して100層の積層体を得た。
【0073】
その後、得られた積層体をN2雰囲気中、450℃で脱バインダー処理した後、内部電極のニッケルが酸化しないような還元雰囲気中にて1180℃の温度で焼成し、端面の電極端子として外部電極をニッケル電極ペーストにて形成した後、銅およびはんだ電極をニッケル電極の上にはんだ濡れ性を高めるためにめっき法にて形成することによってチップ状の積層セラミックコンデンサを得た。
【0074】
デラミ・構造欠陥については、焼成前、及び焼結終了後の外観観察により判断し、ショート率は供試サンプル100個についてのデータとした。
【0075】
また、このようにして得られた積層セラミックコンデンサの電気特性である誘電率等は、LCRメーター(Agilent社製 4284A)を用い、1.0kHz、0.5Vrmsの測定条件にて測定した。誘電率は高いほど好ましいがDCバイアス特性等とのバランスを考慮し、概ね3000前後を必要とするが誘電体層の積層数や誘電体層厚みによって容量を調整できる範囲であれば特に限定されるものではない。作製されたサンプルの容量設定は2.0μF(許容差±10%)とし、容量低下を調べた。
【0076】
また、絶縁破壊電圧(BDV)は直流電源電圧(Kikusui社製 PADIK−0.2L)を積層セラミックコンデンサの両極に印加し、絶縁破壊したときの電圧をオシロスコープ(Tektronix社製 TDS210)によって測定した。この時、測定する積層セラミックコンデンサのサンプルは、絶縁破壊の様子が明確にわかるように誘電体厚みを1.5μmに調整した積層体を作製して実施した。
【0077】
さらに、積層セラミックコンデンサのサンプル100個に対して、150℃においてDC72Vの電圧を72時間連続印加した後の絶縁抵抗を測定し、その値が1×107Ω以下になるサンプルの個数を調べた。この条件下で絶縁抵抗が107Ω以上を確保したサンプル数が多ければ多いほど耐久性に優れた高信頼性であると言える。
【0078】
作製したそれぞれの積層セラミックコンデンササンプルの電気特性を(表1)に示すとともに、−55℃から85℃までの温度範囲でそれぞれ容量を測定し、25℃の容量値を基準に容量温度変化率を求めた結果の代表例を図3に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
ここで、(表1)における静電容量の温度特性ΔCtは、次式に従って求めた。(表1)中におけるTC85は、X5R特性を示し、DC85は、TC85を測定した後125℃で30分アニールし引き続き−55℃まで降温させ測定系が安定した時点でDC4Vを印加させ同様にして各温度での容量変化を調べたDCバイアス特性を示すものである。
【0081】
TC85={(C85−C25)/C25}×100(%)
DC85={(DC85−C25)/C25}×100(%)
ただし、C25は25℃の静電容量、C85は85℃における静電容量を示す。
【0082】
(表1)の結果から明らかなように、本願発明による実施例は、低い静電容量低下を維持し、かつX5R特性として実用できる適度な温度特性を実現するとともに、高い絶縁破壊電圧が得られた。
【0083】
しかしながら、共材が本発明の範囲外である比較例1では、容量低下は見られないものの、構造欠陥やショート率の悪化、温度特性の低下が見られ実用的ではない。共材のうち、誘電体のコア粒子の添加量を本発明の範囲外とした比較例2、7では、規定以上では構造欠陥は解消されるが、温度特性の悪化が著しくなり、規定以下では構造欠陥の悪化と静電容量値の低下を招く結果となった。
【0084】
また、誘電体層と略同一の粒子を全く添加しなかった比較例3では、デラミや構造欠陥の発生が頻発し、誘電体層の緻密化も悪く、絶縁破壊電圧も低くなった。
【0085】
さらに、誘電体層と略同一の粒子の添加量が本発明の範囲外である比較例4、6については、構造欠陥の解消には優れるものの、静電容量値の低下が大きく、所定の許容を満足できなかった。共材のうち、添加するコア粒子の平均粒子が本発明の範囲外である比較例5では、容量低下以外のすべての項目において既定値を満足できなかった。
【0086】
以上のように、本発明の電極インク、内部電極用シート及びこれを用いた積層セラミックコンデンサは、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15倍含有されることにより、焼成時に発生しやすい構造欠陥を抑制されたことにより、静電容量値の低下の極小でかつ静電容量の温度特性の安定した、高い絶縁破壊電圧特性を有する信頼性の高い積層セラミックコンデンサを提供することが可能となった。
【0087】
ここで、主成分であるBaTiO3は、その製造方法に特に制限はなく微粒ほど好ましいが、その大きさは特に限定するものではなく、より好ましくはBaTiO3粉末のDSC測定(示差熱量分析)において、25℃から150℃の温度範囲において明確なピークが見られないものを用いることが望ましい。
【0088】
このようにして製造された本一実施の形態の積層セラミックコンデンサは、優れた容量温度特性を有し、静電容量値の低下が小さく、しかも絶縁抵抗(IR)や絶縁破壊電圧(BDV)のバラツキを改善できる。その結果、積層セラミックコンデンサの品質レベルが向上していることが実証できた。
【0089】
また、このようにして製造された積層セラミックコンデンサは、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0090】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0091】
例えば、本発明に係る内部電極用シートは、積層セラミックコンデンサのみに使用されるものではなく、誘電体層が形成されるその他の積層セラミックコンデンサに使用されても良い。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明にかかる電極インク、内部電極用シートおよびこれを用いた積層セラミックコンデンサは、焼成時の耐還元性に優れ、かつ焼成後に構造欠陥の発生しない、優れた容量温度特性を有するとともに、高温使用下での高信頼性実現という効果を有し、回路の温度安定性が厳しく要求される自動車の電子制御回路等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の一実施の形態における積層セラミックコンデンサの断面図
【図2】同積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極を構成する組成物粒子の微構造モデル図
【図3】従来の積層セラミックコンデンサの誘電体層と内部電極を構成する組成物粒子の微構造モデル図
【符号の説明】
【0094】
1 誘電体層
1A 誘電体粒子
2 内部電極層
2C 空隙部
3 コンデンサ素子本体
4 外部電極
8 ニッケル粒子
8A 内部電極含有粒子
8B 内部電極添加粒子A
8C 内部電極添加粒子B

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粉末と樹脂バインダーから構成される内部電極パターンを形成する電極インクであって、前記内部電極パターンに、主成分のニッケル粒子100部に対し誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、前記誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有されることを特徴とする電極インク。
【請求項2】
内部電極と誘電体層とを交互に複数積層した積層セラミックコンデンサの内部電極用シートであって、前記内部電極が樹脂バインダーと、主成分のニッケル粒子100部に対し、誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部を含有したものからパターン形成されていることを特徴とする内部電極用シート。
【請求項3】
粒子径0.25μm以下でBET値が4.1〜10m2/gの誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、ニッケル粉末と樹脂バインダーからなる内部電極を交互に積層した積層セラミックコンデンサにおいて、主成分の前記ニッケル粒子100部に対し、前記誘電体層に含有されるコア粒子の平均サイズの1.5〜3.0倍の粒径を有するコア粒子を0.3〜3.0部と、誘電体層と略同一粒子を3〜15部含有される内部電極からなる積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−180316(P2007−180316A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377933(P2005−377933)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】