説明

電極用ペースト組成物及び該組成物から製造された電極層

【課題】
保存安定性に優れるとともに、発電特性に十分な細孔容積を保持しうる電極用触媒ペーストを提供する。
【解決手段】
(i)触媒が担持されたカーボン、
(ii)イオン伝導性芳香族系ポリマー、および
(iii)沸点が75〜250℃、かつ溶解性パラメータの範囲が7.5〜13(cal/mol)1/2、かつ-O-、-OH、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CONR-(Rは、水素原子、炭化水素基)からなる基を少なくとも1種類以上有する有機溶剤
を含有することを特徴とする電極用ペースト組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池などの電極層を形成するための電極用ペースト組成物及び該組成物から製造された電極層に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の電極はカーボンペーパー、シートなどの表面に、触媒を担持させたカーボン粒子と電解質とを含むペーストを塗布・乾燥して形成されていた。しかしながら、従来の電極用ペースト組成物は、分散性が不均質なために保存安定性に問題があった。保存安定性を改良するために分散剤の添加を行うと、保存安定性は改良されるものの、該電極用ペースト組成物から調製した電極を用いた燃料電池では、触媒金属担持カーボンや電解質が密に詰まった状態の電極層を形成し、細孔容積が不充分となるため、燃料ガスや酸素ガスが反応触媒と接触できなくなり、また、生成する水がフラッディング(flooding)等を引き起こして、発電性能が低下する現象がみられることがあった。また、従来の電極用ペースト組成物中の電解質としてスルホン化パーフルオロ系ポリマーが用いられていたが、このポリマーは軟化点が低く、高温耐久性が低いので発電性能が低下するといった問題があった。
【0003】
本発明者は、このような従来技術における問題点に鑑み検討した結果、電極用触媒ペーストに使用する電解質として、耐熱性の高いイオン伝導性芳香族系ポリマーを用い、沸点、及び溶解性パラメータが特定の範囲にある特定の官能基をもつ有機溶剤と組み合わせることで、保存安定性を維持しながら、発電性能を発揮するのに十分な細孔容積を保持しうる電極層が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
すなわち本発明は、保存安定性に優れるとともに、発電特性に十分な細孔容積を保持しうる電極用触媒ペーストを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば下記電極用ペースト組成物が提供されて、本発明の前記目的が達成される。
(1)(i)触媒が担持されたカーボン、(ii)イオン伝導性芳香族系ポリマー、および(iii)沸点が75〜250℃、かつ溶解性パラメータの範囲が7.5〜13(cal/mol)1/2、かつ-O-、-OH、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CONR-(Rは、水素原子、炭化水素基)からなる基を少なくとも1種類以上有する有機溶剤を含有することを特徴とする電極用ペースト組成物。
(2)前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、スルホン酸基もしくはリン酸基からなるイオン伝導成分を有するポリマーセグメント(A)と、イオン伝導成分を有しないポリマーセグメント(B)とが共有結合しているブロック共重合体であることを特徴とする(1)に記載の電極用ペースト組成物。
(3)前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、芳香環を結合基で共有結合させた構造を主鎖骨格に有することを特徴とする(1)ないし(2)のいずれかに記載に記載の電極用ペースト組成物。
(4)前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、下記一般式(A)で表される構成単位および下記一般式(B)で表される構成単位からなることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載に記載の電極用ペースト組成物。
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、Yは2価の電子吸引性基を示し、Zは2価の電子供与性基または直接結合を示し、Arは−SO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示し、mは0〜10の整数を示
し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基およびシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示し、Wは2価の電子吸引性基または単結合を示し、Tは単結合または2価の有機基を示し、pは0または正の整数を示す。)
(5)前記有機溶媒が全溶媒中に20重量%以上含有していることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
(6)さらに分散剤を含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
(7)さらに炭素繊維を含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
(8)さらに水を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
(9)(1)〜(8)に記載の電極用ペースト組成物を塗布・乾燥してなる電極層。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極層形成用ペースト組成物として、耐熱性の高いイオン伝導性芳香族系ポリマーを用い、沸点、及び溶解性パラメータが特定の範囲にある特定の官能基をもつ有機溶剤と組み合わせて使用しているので、保存安定性を維持しながら、高温耐久性が高く、発電性能を発揮するのに十分な細孔容積を保持し、しかも多孔質であるため電極層を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
本発明に係る電極用ペースト組成物は、触媒が担持されたカーボン、イオン伝導性芳香族系ポリマー、および沸点が75〜250℃、かつ溶解性パラメータの範囲が7.5〜13(cal/mol)1/2、かつ-O-、-OH、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CONR-(Rは、水素原子、炭化水素基)からなる基を少なくとも1種類以上有する有機溶剤を含有し、さらに必要に応じて分散剤、炭素繊維、水から選ばれる少なくとも1つの成分を含有している。
【0012】
まず、本発明に係る電極用ペースト組成物に含まれる各成分について説明する。
(i)触媒を担持したカーボン
本発明で用いられる触媒としては、白金、パラジウム、金、ルテニウム、イリジウムなどの貴金属触媒が好ましく用いられる。また、貴金属触媒は合金、混合物など、2種以上の元素が含まれるものであってもよい。
【0013】
上記触媒を担持するカーボンとしては、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが、電子伝導性と比表面積の大きさから好ましいものである。
【0014】
オイルファーネスブラックとしては、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などが挙げられ、アセチレンブラックとしては電気化学工業社製デンカブラックなどの商標で市販されているものが挙げられる。
【0015】
また本発明で用いられるカーボンとして、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などを用いることもできる。
【0016】
これらの炭素材の形態としては、粒子状のほか繊維状も用いることができる。
カーボンに担持される金属触媒の量としては、有効に触媒活性が発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、担持量がカーボン重量に対して0.1〜9.0g-metal/g-carbon、好ましくは0.25〜2.4g-metal/g-carbonの範囲にあることが望ましい。
【0017】
(ii)イオン伝導性芳香族系ポリマー
本発明で用いられるイオン伝導性芳香族系ポリマーは、イオン伝導性官能基を含む芳香族ポリマーが使用される。このようなポリマーはイオン伝導膜を形成するために使用されている。
【0018】
このようなポリマーは、前記触媒を担持したカーボンを結着させるバインダー成分として働く。このようなポリマーをバインダーとして含んでいると、触媒によって発生したイオンをイオン伝導膜へ効率的に供給することが可能となる。なお、イオン伝導膜、バインダーとして使用されるものは、ともにイオン伝導性を有するものであれば特に制限されるものではないが、通常、同じポリマーから構成するとイオン伝導膜と電極層との間の密着性が高くなるので好適である。
【0019】
本発明では、とくに、スルホン酸基、スルホン酸基もしくはリン酸基からなるイオン伝導性ポリマーセグメント(A)とプロトン伝導性を有さないポリマーセグメント(B)が共有結合しているブロック共重合体が好適である。より好ましくは、該共重合体を形成する主鎖骨格が芳香環を結合基で共有結合させた構造を有するポリアリーレンであり、特に好ましくは、下記一般式(A)で表される構成単位と、下記一般式(B)で表される構成単位とを含む下記一般式(C)で表されるスルホン酸基を有するポリアリーレンである。このようなポリアリーレンを使用すると、より耐熱性の高く、細孔容積の大きい電極層を形成することができる。
【0020】
(スルホン酸基を有するポリアリーレン)
本発明で特に好ましく用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、下記一般式(A)で表される構成単位と、下記一般式(B)で表される構成単位とを含む下記一般式(C)で表される重合体である。
【0021】
【化3】

【0022】
式(A)中、Yは2価の電子吸引性基を示し、具体的には−CO−、−SO2−、−S
O−、−CONH−、−COO−、−(CF2)l−(ここで、lは1〜10の整数である)、−C(CF32−などが挙げられる。
【0023】
Zは2価の電子供与性基または直接結合を示し、電子供与性基の具体例としては、−(CH2)−、−C(CH32−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C―および
【0024】
【化4】

【0025】
などが挙げられる。なお、電子吸引性基とは、ハメット(Hammett)置換基常数がフェニ
ル基のm位の場合0.06以上、p位の場合0.01以上の値となる基をいう。
Arは−SO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示し、芳香族基として具体的に
はフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0026】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
【0027】
【化5】

【0028】
式(B)中、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基およびシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。
【0029】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基などが好ましい。
フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられ、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などが好ましい。
【0030】
アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、
ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
Wは2価の電子吸引性基または単結合を示し、Tは2価の有機基または単結合を示す。
【0031】
pは0または正の整数であり、上限は通常100、好ましくは10〜80である。
【0032】
【化6】

【0033】
式(C)中、W、T、Y、Z、Ar、m、n、k、pおよびR1〜R8は、それぞれ上記一般式(A)および(B)中のW、T、Y、Z、Ar、m、n、k、pおよびR1〜R8と同義である。c、dはc+d=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0034】
本発明で用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、式(A)で表される構成単位を0.5〜100モル%、好ましくは10〜99.999モル%の割合で、式(B)で表される構成単位を99.5〜0モル%、好ましくは90〜0.001モル%の割合で含有している。
【0035】
[スルホン酸基を有するポリアリーレンの製造方法]
スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(A)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーと、上記一般式(B)で表される構造単位となりうるオリゴマーとを共重合させ、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを製造し、このスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを加水分解して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0036】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(A)においてスルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しない構造単位と、上記一般式(B)の構造単位とからなるポリアリーレンを予め合成し、この重合体をスルホン化することにより合成することもできる。
【0037】
上記一般式(A)の構造単位となりうるモノマーとしては、例えば、下記一般式(D)で表されるスルホン酸エステル(以下、モノマー(D)ともいう。)が挙げられる。
【0038】
【化7】

【0039】
式(D)中、Xはフッ素を除くハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)、−OSO2G(
ここで、Gはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)から選ばれる原子または基を示し、Y、Z、Ar、m、nおよびkは、それぞれ上記一般式(A)中のY、Z、Ar、m、nおよびkと同義である。
【0040】
aは炭素原子数1〜20、好ましくは4〜20の炭化水素基を示し、具体的には、メ
チル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert-ブチル基、iso-ブチル
基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]へプチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員の複素環を有する炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、特にネオペンチル基が好ましい。
【0041】
Arは−SO3bで表わされる置換基を有する芳香族基を示し、芳香族基として具体的にはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0042】
置換基−SO3bは、芳香族基に1個または2個以上置換しており、置換基−SO3bが2個以上置換している場合には、これらの置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0043】
ここで、Rbは炭素原子数1〜20、好ましくは4〜20の炭化水素基を示し、具体的
には上記炭素原子数1〜20の炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、特にネオペンチル基が好ましい。
【0044】
mは0〜10、好ましくは0〜2の整数、nは0〜10、好ましくは0〜2の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。
式(D)で表されるスルホン酸エステルの具体例としては、以下の様な化合物が挙げられる。
【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
【化14】

【0052】
【化15】

【0053】
【化16】

【0054】
また、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、上記化合物において−CO−が−SO2−に置き換わった化合物、上記化合物において塩素原子が臭素原
子に置き換わり、かつ、−CO−が−SO2−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0055】
一般式(D)中のRb基は1級のアルコール由来で、β炭素が3級または4級炭素であ
ることが、重合工程中の安定性に優れ、脱エステル化によるスルホン酸の生成に起因する重合阻害や架橋を引き起こさない点で好ましく、さらには、これらのエステル基は1級アルコール由来でβ位が4級炭素であることが好ましい。
【0056】
また、上記一般式(D)において、スルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しない化合物の具体例としては、下記の様な化合物が挙げられる。
【0057】
【化17】

【0058】
【化18】

【0059】
上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、上記化合物において−CO−が−SO2−に置き換わった化合物、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置
き換わり、かつ、−CO−が−SO2−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0060】
上記一般式(B)の構造単位となりうるオリゴマーとしては、例えば下記一般式(E)で表されるオリゴマー(以下、オリゴマー(E)ともいう。)が挙げられる。
【0061】
【化19】

【0062】
式(E)中、R'およびR''は互いに同一でも異なっていてもよく、フッ素原子を除く
ハロゲン原子または−OSO2G(ここで、Gはアルキル基、フッ素置換アルキル基また
はアリール基を示す。)で表される基を示す。Gが示すアルキル基としてはメチル基、エチル基などが挙げられ、フッ素置換アルキル基としてはトリフルオロメチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、p−トリル基などが挙げられる。
【0063】
1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基およびシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示す。
【0064】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基などが好ましい。
フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられ、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などが好ましい。
【0065】
アリル基としては、プロペニル基などが挙げられ、アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
Wは2価の電子吸引性基または単結合を示し、電子吸引性基としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0066】
Tは2価の有機基または単結合であって、電子吸引性基であっても電子供与性基であってもよい。電子吸引性基および電子供与性基としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0067】
pは0または正の整数であり、上限は通常100、好ましくは10〜80である。
上記一般式(E)で表される化合物として具体的には、p=0の場合、例えば4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンズアニリド、ビス(クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−ク
ロロ安息香酸−4−クロロフェニル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子の少なくとも1つ以上が3位に置換した化合物などが挙げられる。
【0068】
またp=1の場合、上記一般式(E)で表される具体的な化合物としては、例えば4,
4'−ビス(4−クロロベンゾイル)ジフェニルエーテル、4,4'−ビス(4−クロロベ
ンゾイルアミノ)ジフェニルエーテル、4,4'−ビス(4−クロロフェニルスルホニル)ジフェニルエーテル、4,4'−ビス(4−クロロフェニル)ジフェニルエーテルジカルボキシレート、4,4'−ビス〔(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフル
オロプロピル〕ジフェニルエーテル、4,4'−ビス〔(4−クロロフェニル)テトラフルオロエチル〕ジフェニルエーテル、これらの化合物において塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子が3位に置換した化合物、さらにこれらの化合物においてジフェニルエーテルの4位に置換した基の少なくとも1つが3位に置換した化合物などが挙げられる。
【0069】
さらに上記一般式(E)で表される化合物としては、2,2−ビス[4−{4−(4−
クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロ
パン、ビス[4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]スルホン、および下記式で表される化合物などが挙げられる。
【0070】
【化20】

【0071】
【化21】

【0072】
【化22】

【0073】
上記一般式(E)で表される化合物は、例えば以下に示す方法で合成することができる。
まず電子吸引性基で連結されたビスフェノールを、対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒中で、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属塩、アルカリ金属炭酸塩などを加える。
【0074】
アルカリ金属はフェノールの水酸基に対して過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で用いる。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、電子吸引性基で活性化されたフッ素、塩素等のハロゲン原子で置換された芳香族ジハライド化合物、例えば、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−クロロフルオロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、4−フルオロフェニル−4'−クロロフェニルスルホン、ビス
(3−ニトロ−4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、ヘキサフルオロベンゼン、デカフルオロビフェニル、2,
5−ジフルオロベンゾフェノン、1,3−ビス(4−クロロベンゾイル)ベンゼンなどを
反応させる。反応性から言えば、フッ素化合物が好ましいが、次の芳香族カップリング反応を考慮した場合、末端が塩素原子となるように芳香族求核置換反応を組み立てる必要がある。
【0075】
活性芳香族ジハライドはビスフェノールに対し、2〜4倍モル、好ましくは2.2〜2.8倍モルの使用である。芳香族求核置換反応の前に予め、ビスフェノールのアルカリ金属塩としていてもよい。反応温度は60℃〜300℃で、好ましくは80℃〜250℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。最も好ましい方法としては、下記式で示される活性芳香族ジハライドとして反応性の異なるハロゲン原子を一個ずつ有するクロロフルオロ体を用いることであり、フッ素原子が優先してフェノキシドと求核置換反応が起きるので、目的の活性化された末端クロロ体を得るのに好都合である。
【0076】
【化23】

【0077】
(式中、Wは一般式(E)に関して定義した通りである。)
また、特開平2−159号公報に記載のように求核置換反応と親電子置換反応とを組み合わせて、目的の電子吸引性基および電子供与性基からなる屈曲性化合物を合成してもよい。
【0078】
具体的には、電子吸引性基で活性化された芳香族ビスハライド、例えばビス(4−クロロフェニル)スルホンをフェノールで求核置換反応させてビスフェノキシ化合物とし、次いで、このビスフェノキシ化合物と4−クロロ安息香酸クロライドとのフリーデルクラフト反応から目的の化合物を得ることができる。
【0079】
ここで用いる電子吸引性基で活性化された芳香族ビスハライドとしては、上記で例示した化合物が挙げられる。フェノール化合物は置換されていてもよいが、耐熱性や屈曲性の観点から無置換化合物が好ましい。なお、フェノールの置換反応にはアルカリ金属塩とすることが好ましく、使用可能なアルカリ金属化合物としては、上記で例示した化合物が挙げられる。使用量はフェノール1モルに対し、1.2〜2倍モルである。反応に際し、上述した極性溶媒や水との共沸溶媒を用いることができる。
【0080】
クロロ安息香酸クロライドは、ビスフェノキシ化合物に対し2〜4倍モル、好ましくは2.2〜3倍モルで使用される。また、ビスフェノキシ化合物と、アシル化剤であるクロロ安息香酸クロライドとのフリーデルクラフト反応は、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛などのフリーデルクラフト活性化剤の存在下で行うことが好ましい。フリーデルクラフト活性化剤は、アシル化剤のクロロ安息香酸などの活性ハライド化合物1モルに対し、1.1〜2倍当量使用する。反応時間は15分〜10時間の範囲で、反応温度は−20℃から80℃の範囲である。使用溶媒は、フリーデルクラフト反応に不活性な、クロロベンゼンやニトロベンゼンなどを用いることができる。
【0081】
また、一般式(E)において、pが2以上である化合物は、例えば、一般式(E)において電子供与性基Tであるエーテル性酸素の供給源となるビスフェノールと、電子吸引性基Wである、>C=O、−SO2−および>C(CF32から選ばれる少なくとも1種の
基とを組み合わせた化合物、具体的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケト
ン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノールのアルカリ
金属塩と、過剰の4,4−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホンなどの活性芳香族ハロゲン化合物との置換反応を、N−メチル−2−ピロリドン、N,N
−ジメチルアセトアミド、スルホランなどの極性溶媒の存在下で前記単量体の合成手法に順次重合して得られる。
【0082】
このような化合物の例示としては、下記式で表される化合物などを挙げることができる。
【0083】
【化24】

【0084】
【化25】

【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【0087】
【化28】

【0088】
【化29】

【0089】
上記において、pは0または正の整数であり、上限は通常100、好ましくは10〜80である。
上記スルホン酸エステル基を有するポリアリーレン(C)は、モノマー(D)とオリゴマー(E)とを触媒の存在下に反応させることにより合成されるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、(1)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)、および(2)還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、「塩」を添加してもよい。
【0090】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナートなどのニッケル化合物;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウム化合物;塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄などの鉄化合物;塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルト化合物などが挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケル、臭化ニッケルなどが好ましい。
【0091】
また、配位子成分としては、トリフェニルホスフィン、2,2'−ビピリジン、1,5−
シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる
。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2,2'−ビピリジンが好ましい。上記配位子成分である化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0092】
さらに、配位子が配位された遷移金属錯体としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2'−ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2'−ビピリジン)、ビス(1,5−シク
ロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。これらのうち、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2'−ビピリジン)が好ましい。
【0093】
上記触媒系に使用することができる還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどが挙げられる。これらのうち、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。
【0094】
また、上記触媒系において使用することのできる「塩」としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物;フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物;フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物などが挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0095】
各成分の使用割合は、遷移金属塩または遷移金属錯体が、上記モノマーの総計((D)+(E)、以下同じ)1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。0.0001モル未満では、重合反応が十分に進行しないことがあり、一方、10モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0096】
触媒系において、遷移金属塩および配位子成分を用いる場合、この配位子成分の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不十分となることがあり、一方、100モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0097】
また、還元剤の使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、重合が十分進行しないことがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難になることがある。
【0098】
さらに、「塩」を使用する場合、その使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不十分であることがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となることがある。
【0099】
モノマー(D)とオリゴマー(E)とを反応させる際に使用することのできる重合溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,
N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリド
ン、γ−ブチロラクトン、N,N'−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。これらのうち、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N'−ジメチルイミダゾリジノンが好ましい。これらの重合溶媒は、十分に乾燥してから用いることが好ましい。
【0100】
重合溶媒中における上記モノマーの総計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。
重合する際の重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜120℃である。また、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0101】
モノマー(D)を用いて得られたスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンは、スルホン酸エステル基を加水分解して、スルホン酸基に変換することによりスルホン酸基を有するポリアリーレンとすることができる。
【0102】
加水分解の方法としては、
(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを投入し、5分間以上撹拌する方法
(2)トリフルオロ酢酸中で、上記スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法
(3)スルホン酸エステル基を有するポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SO3R)1モルに対して1〜3倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチル
ピロリドンなどの溶液中で、上記ポリアリーレンを80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法
などを挙げることができる。
【0103】
上記スルホン酸基を有するポリアリーレン(C)は、上記一般式(D)で表されるモノマー(D)においてスルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記一般式(E)で表されるオリゴマー(E)とを共重合させることによりポリアリーレン系共重合体を予め合成し、このポリアリーレン系共重合体をスルホン化することにより合成することもできる。この場合、上記合成方法に準じた方法によりスルホン酸基を有しないポリアリーレンを製造した後、スルホン化剤を用い、スルホン酸基を有しないポリアリーレンにスルホン酸基を導入することにより、スルホン酸基を有するポリアリーレンを得ることができる。
【0104】
このスルホン化の反応条件としては、スルホン酸基を有しないポリアリーレンを、無溶剤下または溶剤存在下でスルホン化剤を用い、常法によりスルホン酸基を導入することにより得ることが出来る。
【0105】
スルホン酸基を導入する方法としては、例えば、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンを、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの公知のスルホン化剤を用いて、公知の条件でスルホン化することができる〔Polymer Preprints, Japan, Vol.42, No.3, p.730 (1993);Polymer Preprints, Japan, Vol.43, No.3, p.736 (1994);Polymer Preprints, Japan, Vol.42, No.7, p.2490〜2492 (1993)〕。
【0106】
すなわち、このスルホン化の反応条件としては、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンを、無溶剤下または溶剤存在下で、上記スルホン化剤と反応させる。用いられる溶剤としては、例えば、n−ヘキサンなどの炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0107】
上記のような方法により製造されるスルホン酸基を有するポリアリーレン(C)中の、スルホン酸基量は通常0.3〜5meq/g、好ましくは0.5〜3meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。0.3meq/g未満では、プロトン伝導度が低く実用的ではない。一方、5meq/gを超えると、耐水性が大幅に低下してしまうことがあるため好ましくない。
【0108】
上記のスルホン酸基量は、例えばモノマー(D)およびオリゴマー(E)の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。
このようにして得られるスルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。
【0109】
スルホン酸基を有するポリアリーレンには、老化防止剤、好ましくは分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を含有させて使用してもよく、老化防止剤を含有することで電解質としての耐久性をより向上させることができる。
【0110】
本発明で使用することのできるヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレン
グリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5
−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259
)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4
−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX
1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチ
ルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
【0111】
本発明において、スルホン酸基を有するポリアリーレン100重量部に対してヒンダードフェノール系化合物は0.01〜10重量部の量で使用することが好ましい。
(iii)有機溶媒
本発明で用いられる有機溶媒としては、沸点が75〜250℃、かつ溶解性パラメータの範囲が7.5〜13(cal/mol)1/2、かつ-O-、-OH、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CONR-(Rは、水素原子、炭化水素基)からなる基を少なくとも1種類以上有する有機溶剤を含有することを特徴とする。
【0112】
このような有機溶剤としては、エタノール(bp.78.3、δ 12.92)、n−プロピルアルコール(bp.97、δ11.97)、2−プロパノール(bp.82.4、δ11.50 )、2−メチル−2−プロパノール(bp.82.5、δ11.11)、2−ブタノール(bp.99.5、δ11.11*)、n−ブチルアルコール(bp.117℃、δ 11.30)、2−メチル−1−プロパノール(bp.108℃、δ 11.11*
)、1−ペンタノール(bp.138℃、δ 10.96*)、2−ペンタノール(bp.119℃、δ 10.77*)、3−ペンタノール(bp.115℃、δ 10.77*)、2−メチル−1−ブタノール(bp.129℃、δ 10.77*)、3−メチル−1−ブタノール(bp.131℃、δ 10.77*)、2−メチル−2−ブタノール(bp.102℃、δ 10.58*)、3−メチル−2−ブタノール(bp.112℃、δ 10.
58*)、2,2−ジメチル1−プロパノール(bp.113℃、δ 10.58*)、シクロヘキサノール(bp.161℃、δ 12.44*)、1−ヘキサノール(bp.157℃、δ 10.68*)、2−メチル−1−ペンタノール(bp.148℃、δ 10.5
1*)、2−メチル−2−ペンタノール(bp.121℃、δ 10.34*)、4−メチ
ル−2−ペンタノール(bp.132℃、δ 10.34*)、2−エチル−1−ブタノール(bp.147℃、δ 10.51*)、1−メチルシクロヘキサノール(bp.156、δ 11.76*)、2−メチルシクロヘキサノール(bp.168℃、δ 11.74*)、3−メチルシクロヘキサノール(bp.168℃、δ 11.74*)、4−メチルシクロヘキサノール(bp.171℃、δ 11.74*)、1−オクタノール(bp.195℃、δ 10.28*)、2−オクタノール(bp.180℃、δ 10.14*)、2−エチル−1−ヘキサノール(bp.184℃、δ 10.14*)、ジオキサン(bp.101℃、δ 10.0)、ブチルエーテル(bp.140℃、δ 7.78*)、フェニル
エーテル(bp.187℃、δ 12.16)、イソペンチルエーテル(bp.173℃
、δ 7.63*)、1,2−ジメトキシエタン(bp.85.2、δ7.63 *)、ジエ
トキシエタン(bp.102℃、δ 7.63*)、ビス(2−メトキシエチル)エーテル(bp.160℃、δ 8.10*)、ビス(2−エトキシエチル)エーテル(bp.189℃、δ 8.19*)、シネオール(bp.176℃、δ 8.97*)、ベンジルエチルエーテル(bp.185℃、δ 9.20*)、アニソール(bp.154℃、δ 9.3
8*)、フェネトール(bp.170℃、δ 9.27*)、アセタール(bp.104℃
、δ 7.65*)、メチルエチルケトン(bp.79.6、δ 9.27)、2−ペンタノン(bp.102℃、δ 8.30*)、3−ペンタノン(bp.102℃、δ 8.30*)、シクロペンタノン(bp.131℃、δ 12.81*)、シクロヘキサノン(bp.156℃、δ 9.88)、2−ヘキサノン(bp.128℃、δ 8.84*)、4−メ
チル−2−ペンタノン(bp.117℃、δ 8.68*)、2−ヘプタノン(bp.151℃、δ 8.84*)、2,4−ジメチル−3−ペンタノン(bp.125℃、δ 8.49)、2−オクタノン(bp.173℃、δ 8.81*)、γーブチロラクトン(bp.
204、δ 12.78)、酢酸−n−ブチル(bp.126℃、δ 8.46)、酢酸イソブチル(bp.126℃、δ 8.42)、酢酸sec-ブチル(bp.112℃、δ 8.51*)、酢酸ペンチル(bp.150℃、δ 8.69*)、酢酸イソペンチル(bp.
142℃、δ 8.52*)、3−メトキシブチルアセタート(bp.173℃、δ 8.
52*)、酪酸メチル(bp.102℃、δ 8.72*)、酪酸エチル(bp.121℃
、δ 8.70*)、乳酸メチル(bp.145℃、δ 12.42*)、乳酸エチル(bp.155℃、δ 10.57)、乳酸ブチル(bp.185℃、δ 11.26*)、2−
メトキシエタノール(bp.125℃、δ 11.98*)、2−エトキシエタノール(bp.136℃、δ 11.47*)、2−(メトキシメトキシ)エタノール(bp.168℃、δ 11.60*)、2−イソプロポキシエタノール(bp.142℃、δ 10.9
2*)、1−メトキシ−2−プロパノール(bp.120℃、δ 11.27*)、1−エ
トキシ−2−プロパノール(bp.132℃、δ 10.92*)、ジメチルスルホキシド(bp.189℃、δ 12.93)、N−メチルホルムアミド(bp.185℃、δ 12.93)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp.153℃、δ 12.14)、N,N
−ジエチルホルムアミド(bp.178℃、δ 10.07*)、N,N−ジメチルアセト
アミド(bp.166℃、δ 11.12)、N−メチル−2−ピロリドン(bp.202、δ11.17 )、テトラメチル尿素(bp.177.5、δ 10.6)などを挙げる
ことができ、これらは1種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0113】
なお、上記例示中δは溶解性パラメータの値((cal/mol)1/2)を示し、数値の後に「*」を付した値は、Fedorsの計算値(R.F Fedors, Polym. Eng. Sci., 14(2)147(1974)参照)である。
【0114】
本発明では、上記有機溶媒を単独で使用してもよいが、前記溶媒が全溶媒中に20重量%以上含有することが好ましい。より好ましくは30重量%以上含有することである。有機溶媒として、上記溶媒を用いると、電極中の細孔容積が十分に確保できるため、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。また、沸点が上記範囲未満であると、電極用ペーストの乾燥性が速く、ダイのノズルが詰まり易い等の現象により、塗工時の生産性が低下し、上記範囲を越えると、溶媒の除去が困難となり、電極中の細孔が閉塞し、発電性能が低下することがある。また、溶解性パラメータが上記範囲外であると、イオン伝導成分含有炭化水素系ポリマーの溶解性が低下し、触媒を担持したカーボンへのイオン伝導成分含有炭化水素系ポリマーの被覆が過剰となり、電極中の細孔が閉塞する傾向にある。
【0115】
なお、含まれていても良い、他の溶媒としては、後述する水のほか、トルエン、キシレン、ヘプタン、オクタンなど炭化水素系有機溶媒、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール系有機溶媒などが挙げられる。
【0116】
(分散剤)
本発明に係る電極用ペースト組成物では、必要に応じてさらに分散剤を添加することができる。
【0117】
本発明で用いられる分散剤としては、オレイン酸・N−メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成燐酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、αーオレフィンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等のアニオン界面活性剤、ベンジルジメチル{2−[2−(P−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エ
トオキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシル
アミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2−ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステア
ラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物等のカチオン界面活性剤、およびジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3−[ωーフルオロアクカノイルーN−エチルアミノ]ー1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]ーN,N−ジメチルーN−カルボキシメチレンアンモニウムベタイン等の両性界面活性剤、およびヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステル、等の非イオン界面活性剤、およびラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等の両性界面活性剤などを挙げることができ、これら
は1種類以上を組み合わせて用いることもでき、好ましくは、塩基性基を有する界面活性剤であり、より好ましくはアニオン性もしくは、カチオン性の界面活性剤であり、さらに好ましくは、分子量5千〜3万の界面活性剤である。
【0118】
電極用ペースト組成物に上記の分散剤を添加すると、保存安定性および流動性に優れ、塗工時の生産性が向上する。
(炭素繊維)
本発明に係る電極用ペースト組成物では、必要に応じてさらに炭素繊維を添加することができる。
【0119】
本発明で必要に応じて用いられる炭素繊維しては、レーヨン系炭素繊維、PAN系炭素繊
維、リグニンポバー系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等を用いることができ、好ましくは、気相成長炭素繊維である。
【0120】
電極用ペースト組成物に炭素繊維をさらに添加すると、電極中の細孔容積が増加することにより、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。
【0121】
(水)
本発明に係る電極用ペースト組成物では、必要に応じてさらに水を添加することができる。
【0122】
電極用ペースト組成物に水をさらに添加すると、電極用ペースト作製時の発熱を低減する効果がある。
(組成)
本発明に係るペースト組成物中に、(i)触媒が担持されたカーボンの使用割合は、重量
比で1重量%〜20重量%、好ましくは3重量%〜15重量%であることが望ましい。また、組成物中の(ii)イオン伝導成分含有炭化水素系ポリマーの使用割合は、重量比で0.5重量%〜30重量%、好ましくは1重量%〜15重量%であることが望ましい。さらに、(iii)有機溶剤の使用割合は、重量比で5重量%〜95重量%、好ましくは15重量%
〜90重量%であることが望ましい。
【0123】
必要に応じて用いられる分散剤の使用割合は、重量比で0重量%〜10重量%、好ましくは0重量%〜2重量%であり、必要に応じて用いられる炭素繊維の使用割合は、重量比で0重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%であり、必要に応じて用いられる水の使用割合は重量比で0重量%〜70重量%、好ましくは、2重量%〜30重量%である。(なお、合計で100重量%を超えることはない)
触媒が担持されたカーボンの使用割合が、上記範囲未満であると、電極反応率が低下することがある。また、上記範囲より大きいと、電極ペーストの粘度が増加し、塗工時に塗りむらが発生することがある。
【0124】
(ii)イオン伝導成分含有炭化水素系ポリマーの使用割合が、上記範囲未満であると、プロトン伝導度が低下する。さらに、バインダーとしての役割を果たせなくなり、電極を形成できない。また、上記範囲より大きいと、電極中の細孔容積が減少する。
【0125】
(iii)有機溶剤の使用割合が、上記範囲内にあると、発電に必要な電極中の細孔容積が
十分確保できる。また上記範囲にあれば、組成物がペースト状となりハンドリングに好適である。
【0126】
分散剤の使用割合が、上記範囲内にあると保存安定性に優れた電極ペーストが得られる
。炭素繊維の使用割合が、上記範囲未満であると、電極中の細孔容積の増加効果が低い。また、上記範囲より大きいと、電極反応率が低下することがある。また、水の使用割合が、上記範囲内にあると電極ペースト作製時の発熱を効率的に低減できる。
【0127】
(組成物の調製)
本発明に係る電極用ペースト組成物は、例えば上記各成分を所定の割合で混合し、従来公知の方法で混練することにより調製することができる。
【0128】
各成分の混合順序は特定に限定されないが、例えば全ての成分を混合して一定時間攪拌を行うか、分散剤以外の成分を混合して一定時間攪拌を行った後、必要に応じて分散剤を添加して一定時間攪拌を行うことが好ましい。また、必要に応じて、有機溶媒の量を調整して、組成物の粘度を調整してもよい。
【0129】
(電極層の形成)
以上のような本発明に係る電極用ペースト組成物を、電極触媒層の電極基材、転写基材、またはプロトン伝導膜上に、塗布し、乾燥して、電極層が形成される。
【0130】
塗布方法としては、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布などがあり、他の基材(転写基材)上に塗布して電極触媒層をいったん形成した後、電極基材またはプロトン伝導膜に転写してもよい。この場合の転写基材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のシート、または表面を離型剤処理したガラス板や金属板なども用いることができる。
【0131】
電極基材としては、燃料電池に一般に用いられる電極基材が特に限定されることなく用いられる。例えば、導電性物質を主たる構成材とする多孔質導電シートなどが挙げられ、この導電性物質としては、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛および膨張黒鉛などの炭素材、ステンレススチール、モリブデン、チタンなどが例示される。導電性物質の形態は繊維状または粒子状など特に限定されないが、繊維状導電性無機物質(無機導電性繊維)特に炭素繊維が好ましい。無機導電性繊維を用いた多孔質導電シートとしては、織布または不織布いずれの構造も使用可能である。織布としては、平織、斜文織、朱子織、紋織、綴織など特に限定されること無く用いられる。また、不織布としては、抄紙法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、ウォータージェットパンチ法、メルトブロー法などの方法で製造されたものが特に限定されること無く用いられる。また無機導電性繊維を用いた多孔質導電シートは編物であっても構わない。
【0132】
これらの布帛として特に炭素繊維を用いる場合、耐炎化紡績糸を用いた平織物を炭化または黒鉛化した織布、耐炎化糸をニードルパンチ法やウォータージェットパンチ法などによる不織布加工をした後に炭化または黒鉛化した不織布、耐炎化糸または炭化糸または黒鉛化糸を用いた抄紙法によるマット不織布などが好ましい。例えば、東レ製カーボンペーパーTGPシリーズ、SOシリーズ、E−TEK社製カーボンクロスなどが好ましく用いられる。
【0133】
多孔質導電シートには、導電性向上のために補助剤としてカーボンブラックなどの導電性粒子や、炭素繊維などの導電性繊維を添加することも好ましい実施態様である。
プロトン伝導膜上に形成する場合としては、公知にプロトン伝導膜であれば特に制限されるものではないが、前記したイオン伝導性ポリマーからなるプロトン伝導膜上に形成することが好適である。
【0134】
塗布された塗膜の厚さ(すなわち電極層の厚さ)としては特に制限されるものではないものの、触媒として担持された金属が、コーティングの単位表面積当り、0.05〜4.
0mg/cm2、好ましくは0.1〜2.0mg/cm2の範囲にあることが望ましい。
【0135】
この範囲にあれば充分に高い触媒活性が発揮され、また、効率的にプロトンを取り出すことができる。
こうして形成された導電性シート状の電極層の細孔容積は、0.05〜3.0g/cm2
好ましくは0.1〜2.0g/cm2の範囲にあることが望ましい。
【0136】
また、溶媒の除去は、乾燥温度20℃〜180℃、好ましくは50℃〜160℃、乾燥時間5分〜600分、好ましくは30分〜400分で行う。必要に応じて、水浸漬により除去することもできる。水浸漬温度5℃〜120℃、好ましくは15℃〜95℃、水浸漬時間は1分〜72時間、好ましくは5分〜48時間である。
【0137】
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[合成例1]
(オリゴマーの合成)
攪拌機、温度計、Dean-stark管、窒素導入管、冷却管を取り付けた1Lの三口フラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン24.1g(71.7mmol)、9,9−(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン10.1g(28.7mmol)、2,6−ジクロロベンゾニトリル19.7g(115mmol)、炭酸カリウム18.0g(130mmol)をはかりとった。
【0138】
窒素置換後、スルホラン135mL、トルエン67mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean-stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean-stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、5時間攪拌を続けた後、2,6−ジクロロベンゾニトリル9.86g(57.3mmol)を加え、さらに3時間反応させた。
【0139】
反応液を放冷後、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩をろ過し、ろ液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物をろ過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末をろ過、乾燥し、オリゴマー40.1gを得た。GPCで測定した数平均分子量は7400であった。得られた化合物は、1H−NMRスペクトルから、式(I)で表されるオリゴマーであることが確認できた。a:bは71:29である。
【0140】
【化30】

【0141】
[合成例2]
(スルホン化ポリマーの合成)
攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた1Lのフラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル119g(296mmol)、合成例1で得られた分子量7400のオリゴマー31.1g(4.2mmol)、ビス(トリフェニ
ルホスフィン)ニッケルジクロリド5.89g(9.0mmol)、ヨウ化ナトリウム1.35g(9.0mmol)、トリフェニルホスフィン31.5g(120mmol)、亜鉛47.1g(720mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)350mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら、3時間攪拌を続けた後、DMAc700mLを加えて希釈し、不溶物をろ過した。
【0142】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lのフラスコに入れ、115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム56.5g(651mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。次いで、1N塩酸、純水の順に洗浄後、乾燥して目的のスルホン化ポリマー102gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は、160000であった。1H−NMRスペクトルから得られた重合体は、式(II)で表されるスルホン化ポリマーと推定される。
【0143】
【化31】

【0144】
[実施例1]
[ペーストAの調製]
50mlのガラス瓶に直径10mmのジルコニアボール(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)25gを入れ、白金担持カーボン粒子(Pt:46重量%担持、(田中貴金属工業株式会社製:TEC10E50E)1.51g、蒸留水0.88g、合成例2のスル
ホン化ポリアリーレンの15%水−1,2ジメトキシエタン溶液(重量比10:90)3.23g、1,2−ジメトキシエタン(bp.85.2、δ7.63 *)13.97g気
相法炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)0.1gおよび分散剤(商品名:DA234、楠本化成株式会社製)0.028gを加え、ウエーブローターで60分間攪拌し、粘度50cp(25℃)のペーストAを得た。
【0145】
[評価]
カーボンペーパー上に、ペーストAを白金塗布量が0.5mg/cm2になるようにド
クターブレードを用いて製膜した。これを95℃で10分間加熱乾燥し、電極層を形成させ、下記に示す評価を行った。
【0146】
結果を表1、表2に示す。
(細孔分布・細孔容積測定)
水銀ポロシメータを用いて水銀圧入法により、得られた電極の細孔分布および細孔容積を測定した。
【0147】
(燃料電池の作成及び性能の評価)
合成例2のポリマーからなる膜厚50μmの膜を1枚用意し、2枚の電極層で挟み、圧力100kg/cm2下で、160℃×15minの条件でポットプレス成形して、電極
接合体を作製した。次に、作製した電極膜接合体を2枚のチタン製の集電体で挟み、さらにその外側にヒーターを配置し、有効面積25cm2の燃料電池を組み立てた。
【0148】
燃料電池の温度を85℃に保ち、湿度35%RHで水素および酸素を2気圧で供給し、電流密度0.5A/cm2と1.0A/cm2のときの端子間電圧を測定した。
また、燃料電池の温度を85℃に保ち、湿度35%RHで水素および酸素を2気圧で供給し、電流密度0.5A/cm2のときの端子間電圧を150時間測定した。
(電極ペースト組成物の保存安定性評価)
電極ペースト組成物を20ccのガラス瓶に充填し、室温で1週間、静置させる。そして、電極ペーストの上部および下部液をそれぞれ0.5cc採取し、120℃×60minの条件でホッとプレートで乾燥させ、上部、下部液の固形分濃度の変化より、粒子沈降の有無を確認した。
【0149】
[実施例2]
[ペーストBの調製]
50mlのガラス瓶に直径10mmのジルコニアボール(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)25gを入れ、実施例1と同じ白金担持カーボン粒子(Pt:46重量%担持)1.51g、蒸留水0.88g、合成例2のスルホン化ポリアリーレンの15%水−N−メチル−2−ピロリドン溶液(重量比10:90)3.23g、N−メチル−2−ピロリドン(bp.202、δ11.17 )13.97g、気相法炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)0.1gおよび分散剤(商品名:DA234、楠本化成株式会社製)0.028gを加え、ウエーブローターで60分間攪拌し、粘度65cp(25℃)のペーストBを得た。
【0150】
[評価]
ペーストAに代えてペーストBを用いた以外は、実施例1と同様にして電極及び燃料電池を製造し、評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0151】
[比較例1]
[ペーストCの調製]
50mlのガラス瓶に直径10mmのジルコニアボール(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)25gを入れ、白金担持カーボン粒子(Pt:46重量%担持)1.51g、蒸留水0.88g、20.6%Nafion溶液(Du Pont社製)(水:アルコール=
10:90)2.35g、N−メチル−2−ピロリドン(bp.202、δ11.17 )13.97g、気相法炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)0.1gおよび分散剤(商品名:DA234、楠本化成株式会社製)0.028gを加え、ウエーブローターで60分間攪拌し、粘度65cp(25℃)のペーストDを得た。
【0152】
[評価]
ペーストAに代えてペーストCを用いた以外は、実施例1と同様にして電極及び燃料電池を製造し、評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0153】
[参考例1]
[ペーストDの調製]
50mlのガラス瓶に直径10mmのジルコニアボール(商品名:YTZボール、株式会社ニッカトー製)25gを入れ、白金担持カーボン粒子(Pt:46重量%担持)1.51g、蒸留水0.88g、合成例2のスルホン化ポリアリーレンの15%水−1,2ジメトキシエタン溶液(重量比20:80)3.23g、エチレングリコール(bp.19
7.9、δ16.3)13.97g、気相法炭素繊維(商品名:VGCF、昭和電工社製)0.1gおよび分散剤(商品名:DA234、楠本化成株式会社製)0.028gを加え、ウエーブローターで60分間攪拌し、粘度250cp(25℃)のペーストDを得た。
【0154】
[評価]
ペーストAに代えてペーストDを用いた以外は、実施例1と同様にして電極及び燃料電池を製造し、評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0155】
[参考例2]
[ペーストEの調製]
分散剤を添加しない以外は実施例1と同様にして、粘度120cp(25℃)のペーストEを得た。
【0156】
[評価]
ペーストAに代えてペーストEを用いた以外は、実施例1と同様にして電極及び燃料電池を製造し、評価を行った。結果を表1、表2に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)触媒が担持されたカーボン、
(ii)イオン伝導性芳香族系ポリマー、および
(iii)沸点が75〜250℃、かつ溶解性パラメータの範囲が7.5〜13(cal/mol)1/2、かつ-O-、-OH、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CONR-(Rは、水素原子、炭化水素基)からなる基を少なくとも1種類以上有する有機溶剤
を含有することを特徴とする電極用ペースト組成物。
【請求項2】
前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、スルホン酸基もしくはリン酸基からなるイオン伝導成分を有するポリマーセグメント(A)と、イオン伝導成分を有しないポリマーセグメント(B)とが共有結合しているブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項3】
前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、芳香環を結合基で共有結合させた構造を主鎖骨格に有することを特徴とする請求項1ないし2のいずれかに記載に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項4】
前記イオン伝導性芳香族系ポリマーが、下記一般式(A)で表される構成単位および下記一般式(B)で表される構成単位からなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載に記載の電極用ペースト組成物。
【化1】

(式中、Yは2価の電子吸引性基を示し、Zは2価の電子供与性基または直接結合を示し、Arは−SO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示し、mは0〜10の整数を示
し、nは0〜10の整数を示し、kは1〜4の整数を示す。)
【化2】

(式中、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基およびシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子または基を示し、Wは2価の電子吸引性基または単結合を示し、Tは単結合または2価の有機基を示し、pは0または正の整数を示す。)
【請求項5】
前記(iii)有機溶媒を全溶媒中に20重量%以上含有していることを特徴とする請求項
1〜4のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
【請求項6】
さらに分散剤を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
【請求項7】
さらに炭素繊維を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電極用ペ
ースト組成物。
【請求項8】
さらに水を含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電極用ペースト組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の電極用ペースト組成物を塗布し乾燥して製造されてなることを特徴とする電極層。

【公開番号】特開2006−92926(P2006−92926A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277374(P2004−277374)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】