説明

電極素子の製造方法および同電極素子を備えた蓄電用電気化学デバイス

【課題】両面電極型でありながら、タブ端子の接触抵抗が低く、しかも高価な専用設備を必要としない電極素子の製造方法を提供する。
【解決手段】金属箔からなる集電体12の両面に所定の電極材13a,13bを塗工してなる素子本体11を有し、素子本体11の所定部分にタブ端子21が取り付けられている電極素子の製造方法において、集電体12の両面のほぼ全面に所定の電極材13a,13bを塗工して素子本体11を作製したのち、素子本体11の片面側に塗工されている電極材13aの一部分(端子付け部分12a)をタブ端子の幅よりも大きな幅をもって剥がし取って集電体12の表面を露出させ、その集電体の露出面にタブ端子21を取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極素子の製造方法および同電極素子を備えた蓄電用電気化学デバイスに関し、さらに詳しく言えば、電極素子の低抵抗化と製造の簡略化をはかる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタについて言えば、電気二重層キャパシタには、例えばエッチング処理されたアルミニウム箔からなる集電体に、活性炭を主材とする分極性電極を塗工してなる素子本体を含む電極素子が用いられている。
【0003】
この種の電極素子には、集電体の片面に分極性電極を塗工した片面電極型と、集電体の両面に分極性電極を塗工した両面電極型とがある(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0004】
片面電極型,両面電極型のいずれの場合も、その素子本体に電極引出用のタブ端子が取り付けられる。従来例として、図3に片面電極型の電極素子を示し、図4(a),(b)に両面電極型の電極素子を示す。
【0005】
図3の片面電極型の電極素子の場合、集電体1の一方の面にのみ分極性電極2が形成されることから、集電体1の他方の面側にタブ端子3が取り付けられる。通常、この端子付けには、錐状のかしめ針を突き刺す「かしめ法」が採用されている。
【0006】
図4の両面電極型の電極素子の場合、集電体1の両面に分極性電極2,2が形成されるため、図4(a)に示すように、タブ端子3を分極性電極2上から集電体1に取り付けていたのでは接触抵抗が高くなる。
【0007】
そこで、多くの場合、図4(b)に示すように、端子付けする部分の両面から分極性電極2を剥がして集電体1を露出させ、その集電体1の露出面にタブ端子3を取り付けるようにしている。
【0008】
【特許文献1】特開平5−74657号公報(図2,図3)
【特許文献2】特開平9−55344号公報(図3)
【特許文献3】特開平10−294102号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3の片面電極型の電極素子の場合、タブ端子3の接触抵抗は低いが、集電体1の片面にしか分極性電極2がないため、両面型に比べて単位面積あたりの静電容量が小さく、同じサイズの両面型キャパシタに比べた場合、静電容量が約70%程度しか得られない。
【0010】
図4(b)の両面型の電極素子によれば、タブ端子3が片面型と同じく集電体1にじか付けされることから接触抵抗が低く、かつ、集電体1の両面に分極性電極2,2が形成されているため、大きな静電容量が得られるが、次のような問題がある。
【0011】
集電体1の両面から分極性電極2を剥がす方法には、片側ずつ剥がす方法と、両面から同時に剥がす方法とがあるが、片側ずつ剥がす方法では、それに用いる治具が例えばブラシ等の簡単なものでよいものの、剥がした位置が表側と裏側とでずれることがある。
【0012】
これに対して、両面から同時に剥がす方法によれば、剥がした位置が表側と裏側とでずれるおそれがないが、専用治具(設備)が必要であり、その導入コストが負担になるので、好ましくない。
【0013】
したがって、本発明の課題は、両面電極型でありながら、タブ端子の接触抵抗が低く、しかも高価な専用設備を必要としない電極素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、金属箔からなる集電体の両面に所定の電極材を塗工してなる素子本体を有し、上記素子本体の所定部分にタブ端子が取り付けられている電極素子の製造方法において、上記集電体の両面のほぼ全面に所定の電極材を塗工して上記素子本体を作製したのち、上記素子本体の片面側に塗工されている上記電極材の一部分を上記タブ端子の幅よりも大きな幅をもって剥がし取って上記集電体の表面を露出させ、その集電体の露出面に上記タブ端子を取り付けることを特徴としている。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、上記電極材の剥がし取りをブラシによって行うことを特徴としている。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1において、上記電極材の剥がし取りをレーザー照射によって行うことを特徴としている。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項において、上記タブ端子の取り付けをかしめ法、コールドウェルド法、超音波溶接法、レーザー溶接法、抵抗溶接法のいずれかひとつの方法もしくは複数の方法によって行うことを特徴としている。
【0018】
また、本発明には、請求項5として、請求項1ないし4により製造された電極素子の少なくとも一対をセパレータを介して渦巻き状に巻回もしくは積層してなる蓄電体を備えている蓄電用電気化学デバイスも含まれる。
【発明の効果】
【0019】
集電体の両面のほぼ全面に形成された電極材の片面側の電極材の一部分をタブ端子の幅よりも大きな幅をもって剥がし取って集電体の表面を露出させ、その集電体の露出面にタブ端子を取り付けるようにした請求項1に記載の発明によれば、タブ端子が集電体にじか付けされるため、その接触抵抗を低くすることができる。
【0020】
しかも、片面側の電極材の一部分のみを剥がせばよく、電極材を集電体から片側ずつ剥がす方法に比べて1工程削減でき、また、電極材を集電体の両面から同時に剥がす場合のように高価な専用設備を必要としない。
【0021】
電極材の剥がし取りをブラシによって行うようにした請求項2に記載の発明によれば、その剥がし取り治具が安価であることから、それに伴って電極素子の製造コストも下げることができる。
【0022】
電極材の剥がし取りをレーザー照射によって行うようにした請求項3に記載の発明によれば、剥がし取り面の輪郭を明瞭にして電極材をきれいに除去することができる。
【0023】
タブ端子の取り付けをかしめ法、コールドウェルド法、超音波溶接法、レーザー溶接法、抵抗溶接法のいずれかひとつの方法もしくは複数の方法によって行うようにした請求項4に記載の発明によれば、電極素子が適用される蓄電用電気化学デバイスに要求される諸元に応じてタブ端子の接続の信頼性や品質を選択することができる。
【0024】
なお、請求項5に記載の蓄電用電気化学デバイスには、電気二重層キャパシタ、リチウム二次電池、電気化学キャパシタ等が含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、図1および図2により、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明によって製造される電極素子を示す分解斜視図で、図2は上記電極素子の要部を示す拡大断面図である。なお、この実施形態に係る電極素子は、電気二重層キャパシタ用の電極素子である。
【0026】
図1と図2とを参照して、この実施形態に係る電極素子10は、基本的に構成として、素子本体11と、素子本体11に取り付けられるタブ端子21とを備え、図示しない電気二重層キャパシタの陽極箔と陰極箔とに用いられる。
【0027】
素子本体11は両面電極型で、例えばアルミニウムエッチング箔からなる集電体12を備え、集電体12の両面には、電極材としての分極性電極13a,13bが塗工により形成されている。
【0028】
分極性電極13a,13bは、例えば活性炭,カーボンおよびバインダとしてのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、PVA(ポリビニルアルコール)またはCMC(カルボキシメチルセルロース)などを混練した電極材料から形成されてよい。
【0029】
タブ端子21は、端子本体22と、端子本体22に取り付けられたCP線(ハンダメッキ銅被覆鋼線)25とを備えている。なお、近年においては、CP線のハンダメッキが鉛から鉛フリーに変わってきている。
【0030】
端子本体22は、アルミニウムの丸棒線を基材とし、所定長さの丸棒部24を残して、その一端側を例えばプレスにより該丸棒線を羽子板状の平坦部23とすることにより形成され、CP線25は、丸棒部24の他端部に溶接により取り付けられる。
【0031】
この電極素子10は、集電体12の両面のほぼ全面に分極性電極13a,13bを塗工して素子本体11を作製したのち、素子本体11の一方の面に塗工されている分極性電極13aの一部分(端子付け部分12a)を剥がし取って集電体12の表面を露出させ、その集電体12の露出面にタブ端子21を取り付ける。他方の面に形成されている分極性電極13bはそのままとする。
【0032】
タブ端子21の平坦部23が集電体12に取り付けられる。したがって、平坦部23の幅をW1とすると、集電体12の端子付け部分12aの幅はそれよりも大きな幅W2(>W1)とする。
【0033】
端子付け部分12aから分極性電極13aを剥がし取る方法としてもっとも簡便なのはブラシによる方法である。ブラシは回転ブラシ、摺動(摺接)ブラシのいずれであってもよい。端子付け部分12aの輪郭を明確にして分極性電極13aをきれいに除去する場合には、レーザー照射法を採用すればよい。
【0034】
タブ端子21を集電体12に取り付ける端子付け法は、かしめ法、コールドウェルド法、超音波溶接法、レーザー溶接法、抵抗溶接法のいずれかを採用できる。その場合、例えばかしめ法とレーザー溶接法とを併用してもよい。
【0035】
具体的には、錐状のかしめ針を平坦部23上から集電体12を貫通するように突き刺したのち、その裏面側に形成される花弁状の爪片をプレスにより押し潰し、その爪片の部分をレーザー溶接する。
【0036】
本発明によれば、タブ端子21が集電体12にじか付けされるため、その接触抵抗を低くすることができる。しかも、片面側の電極材(分極性電極13a)の一部分のみを剥がせばよく、上記従来例で説明した電極材を集電体から片側ずつ剥がす方法に比べて1工程削減でき、また、電極材を集電体の両面から同時に剥がす場合のように高価な専用設備を必要としない。
【実施例】
【0037】
それぞれ同一の集電体、電極材(分極性電極)、タブ端子およびかしめ法を採用して、実施例1,比較例1〜3を行った。
【0038】
《実施例1》
図1,図2に示すように、両面電極型の素子本体の片面側の電極材の一部分のみをブラシにより剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0039】
《実施例2》
図1,図2に示すように、両面電極型の素子本体の片面側の電極材の一部分のみをレーザー照射(レーザーの種類(YAG,CO等)は問わない)により剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0040】
〈比較例1〉
図3に示すように、片面電極型の素子本体の背面側(集電体露出面側)にタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0041】
〈比較例2〉
図4(a)に示すように、両面電極型の素子本体の電極材を剥がすことなく、その電極材の上からタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0042】
〈比較例3〉
図4(b)に示すように、両面電極型の素子本体における端子付け部分の両面からブラシにより電極材を剥がしてタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0043】
〈比較例4〉
図4(b)に示すように、両面電極型の素子本体における端子付け部分の両面からレーザー照射(レーザーの種類(YAG,CO等)は問わない)により電極材を剥がしてタブ端子の平坦部をかしめ法にて取り付けた。
【0044】
まず、実施例1,2、比較例1〜4のタブ端子の接触抵抗(mΩ)を四端子法による交流抵抗計(1kHz)を用いて測定した。
【0045】
次に、実施例1,2、比較例1〜4により端子付けされた各電極素子(電極材は分極性電極)を13mm×205mmに裁断し、その各一対を厚み50μmのセルロース系セパレータとともに渦巻き状に巻き取り、φ12.5のアルミケースに収納し、電解液としてTEMABF4/PCを注入し、真空含浸を行ったのち封口ゴムで封止して電気二重層キャパシタを作製した。各例の初期容量(F)と初期内部抵抗(mΩ)を測定した。これらの測定結果を次表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
これから分かるように、実施例1,2、比較例1,3,4は、接触抵抗、初期容量をともに満足している。比較例2は、タブ端子と集電体との間に分極性電極が残存しているため、接触抵抗が高く、初期内部抵抗も高い。
【0048】
容量に関しては、比較例1は片面電極型であるため、容量が小さい。実施例1,2、比較例1,3,4は、端子付けのために分極性電極を剥がした量の順で容量が下がっている。
【0049】
次に、以下の実施例3〜5、比較例5〜9により、タブ端子の圧着の可否を観察した。
【0050】
《実施例3》
図1,図2に示すように、両面電極型の素子本体の片面側の電極材の一部分のみをブラシにより剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0051】
《実施例4》
図1,図2に示すように、両面電極型の素子本体の片面側の電極材の一部分のみをレーザー照射(レーザーの種類(YAG,CO等)は問わない)により剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0052】
《実施例5》
図1,図2に示すように、両面電極型の素子本体の片面側の電極材の一部分のみを布(ティッシュペーパーでも可)により目視上綺麗に剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0053】
〈比較例5〉
図3に示すように、片面電極型の素子本体の背面側(集電体露出面側)にタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0054】
〈比較例6〉
図4(a)に示すように、両面電極型の素子本体の電極材を剥がすことなく、その電極材の上からタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0055】
〈比較例7〉
図4(b)に示すように、両面電極型の素子本体における端子付け部分の両面からブラシにより電極材を剥がしてタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0056】
〈比較例8〉
図4(b)に示すように、両面電極型の素子本体における端子付け部分の両面からレーザー照射(レーザーの種類(YAG,CO等)は問わない)により電極材を剥がしてタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0057】
〈比較例9〉
図4(b)に示すように、両面電極型の素子本体における端子付け部分の両面から布(ティッシュペーパーでも可)により電極材を目視上綺麗に剥がして端子付け部分とし、その端子付け部分にタブ端子の平坦部をコールドウェルド法にて取り付けた。
【0058】
実施例3〜5、比較例5〜9のタブ端子の圧着の可否を次表2に示す。
【表2】

【0059】
実施例3、比較例7の場合は、集電体(アルミ箔)の表面が削れるくらいまで強くブラシにより電極を剥がさないと、端子が圧着しなかった。実施例4、比較例5,8は、問題なく圧着した。実施例5、比較例6,9は、全く圧着しなかった。
【0060】
布により剥がしたものや、ブラシによる剥がしが弱いものが圧着しなかった理由は、コールドウェルド法により端子と圧着する部分の表面が目視上綺麗でも、エッチングによりできたピットにカーボンがまだ残っているため、アルミとの接触面が少ないためである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明によって製造される電極素子を示す分解斜視図。
【図2】上記電極素子の要部を示す拡大断面図。
【図3】第1従来例を示す模式的な断面図。
【図4】(a)第2従来例を示す模式的な断面図、(b)第3従来例を示す模式的な断面図。
【符号の説明】
【0062】
10 電極素子
11 素子本体
12 集電体
12a 端子付け部分
13a,13b 分極性電極(電極材)
21 タブ端子
22 端子本体
25 CP線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる集電体の両面に所定の電極材を塗工してなる素子本体を有し、上記素子本体の所定部分にタブ端子が取り付けられている電極素子の製造方法において、
上記集電体の両面のほぼ全面に所定の電極材を塗工して上記素子本体を作製したのち、上記素子本体の片面側に塗工されている上記電極材の一部分を上記タブ端子の幅よりも大きな幅をもって剥がし取って上記集電体の表面を露出させ、その集電体の露出面に上記タブ端子を取り付けることを特徴とする電極素子の製造方法。
【請求項2】
上記電極材の剥がし取りをブラシによって行うことを特徴とする請求項1に記載の電極素子の製造方法。
【請求項3】
上記電極材の剥がし取りをレーザー照射によって行うことを特徴とする請求項1に記載の電極素子の製造方法。
【請求項4】
上記タブ端子の取り付けをかしめ法、コールドウェルド法、超音波溶接法、レーザー溶接法、抵抗溶接法のいずれかひとつの方法もしくは複数の方法によって行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の電極素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4により製造された電極素子の少なくとも一対をセパレータを介して渦巻き状に巻回もしくは積層してなる蓄電体を備えている蓄電用電気化学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−164164(P2009−164164A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339188(P2007−339188)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000103220)エルナー株式会社 (48)
【Fターム(参考)】