説明

電気ケーブルの外部被覆のためのポリエチレン成形用組成物

本発明は、多峰性モル質量分布を有するポリエチレン成形用組成物に関し、特に、電気又は情報伝送ケーブルの外部被覆に適している。この成形用組成物は、温度23℃で0.94〜0.95g/cm3の密度及び1.2〜2.1dg/分の範囲のMFI190/5を示す。当該組成物は、45〜55重量%の低分子量エチレンホモポリマーA、30〜40重量%の高分子量の、エチレンと4〜8個の炭素原子を有する別のオレフィンとのコポリマーB、及び10〜20重量%の超高分子量エチレンコポリマーCを示す。本発明は、0.2〜3cmの範囲の厚さの前記ポリエチレン成形用組成物の外部被覆を有する電気又は情報伝送ケーブルにも関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は多峰性(multimolar)モル質量分布及び特にケーブル被覆を形成するのに適しているポリエチレン(PE)成形用組成物、並びにチグラー触媒及び助触媒を含む触媒系の共存下、連続重合工程を含む多段階反応系列(multistage reaction sequence)による当該成形用組成物の製造法に関する。
【0002】
ポリエチレンは産業用途に広く使用されており、当該用途では、高い使用温度でも長寿命を確保するために、高機械強度及び高耐熱酸化分解性を有する材料が要求される。加えて、ポリエチレンは、良好な耐化学性を示し、低い固有重量(intrinsic weight)を有し、しかも溶融中に容易に加工できる物質であるという特殊な利点を有する。
【0003】
したがって、ケーブル被覆のためのPE−成形用組成物は下記の重要な特性を有する:すなわち、
− 加工容易性
− 天候の影響に対する良好な抵抗性
− 良好な熱老化耐性
− 高機械応力に耐える能力及び良好な耐摩耗性
− 金属製導体の腐食を回避するような水蒸気及び酸素に対する低透過性
等である。
【0004】
WO 97/03124は、二峰性(bimodal)モル質量分布を有するポリエチレンに基づく被覆用組成物を記載する。この被覆用組成物は、エネルギー及び情報伝送ケーブル用外部被覆を形成するのに非常に適しており、腐食の点、酸化的老化の点、あらゆる種類の天候影響の点及び機械的応力の点で改良した耐性を備えた被覆ケーブルを与える。
【0005】
単峰型(unimodal)モル質量分布を有する公知のポリエチレン成形用組成物は、それらの加工性、それらの耐環境応力亀裂性及びそれらの機械靱性に関して欠点がある。これらと比較して、二峰性モル質量分布を有する成形用組成物は技術的改良を示す。それらは加工し易く、同じ密度で改良した耐環境応力亀裂性及び高機械強度を示す。
【0006】
したがって、本発明の目的は、良好な加工性を維持するが、ケーブル被覆として使用するとき、耐環境応力亀裂性、耐機械応力性並びに単層の改良した摩耗挙動及び相対的に低い蒸気透過性及び酸素透過性の点で顕著な利点を示すポリエチレン成形用組成物を開発することにある。
【0007】
この目的は、最初に述べた一般的タイプの成形用組成物により達成され、区別する特徴は、当該組成物が45〜55重量%の低分子量エチレンホモポリマーA、エチレンと4〜8個の炭素原子を有する別のオレフィンとの、30〜40重量%の高分子量コポリマーB及び10〜20重量%の超高分子量エチレンコポリマーC(総てのパーセントは成形用組成物の総重量を基準とする)を含むことにある。
【0008】
本発明は、直列式懸濁重合でのこの成形用組成物の製造法、及びこの成形用組成物を含み、卓越した機械応力特性と高剛性とを合わせ持つエネルギー及び情報伝送用ケーブルの欠点のない外部被覆をさらに提供する。
【0009】
本発明のポリエチレン成形用組成物は、23℃における密度が0.94〜0.950g/cm3であり、三峰性モル質量分布を有する。高分子量コポリマーBは、一部の、すなわち1〜8重量%の、4〜8個の炭素原子を有する別のオレフィンモノマー単位を含有する。このようなモノマーの例には、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、及び4−メチル−1−ペンテンがある。超高分子量エチレンコポリマーも同様に1〜8重量%の範囲量の1種以上の上記コモノマーを含有する。
【0010】
さらに、本発明の成形用組成物は、ISO 1133に準拠するメルトフローインデックス(MFI190/5として表現される)が0.5〜2.1dg/分の範囲であり、温度135℃のデカリン中のISO/R 1191に準拠して測定した粘度数VNoverallが260〜340cm3/gの範囲、特に280〜320cm3/gである。
【0011】
3種の個々のモル質量分布の重心位置の指標としての三峰性は、継続する重合段階において形成される複数ポリマーのISO/R 1191に準拠した粘度数VNの助けで記載することができる。ここで、個々の反応段階で形成されるポリマーの帯域幅は次の通りである。
【0012】
第1重合段階後のポリマーで測定した粘度数VN1は、低分子量ポリエチレンAの粘度数VNAと同一であり、本発明では、50〜90cm3/gの範囲、特に60〜80cm3/gである。
【0013】
第2重合段階後ポリマーで測定した粘度数VN2は、第2重合段階において形成した相対的に高分子量のポリエチレンBのVNBに対応しないが、代わりにポリマーAプラスポリマーBとの混合物の粘度数である。本発明では、VN2は260〜320cm3/gの範囲である。
【0014】
第3重合段階後のポリマーで測定した粘度数VN3は、第3重合段階で形成した超高分子量コポリマーCのVNCに対応せず、同様に数学的によってのみで決定でき、代わりに、ポリマーA、ポリマーBプラスポリマーCの混合物の粘度数である。本発明では、VN3は260〜340cm3/gの範囲、特に280〜320cm3/gである。
【0015】
ポリエチレンは、温度70〜90℃、好ましくは、75〜90℃、圧力2〜10バールの範囲、そして遷移金属化合物と有機アルミニウム化合物とから構成される高活性チグラー触媒の共存下、懸濁液中でモノマーの重合により得られる。重合は3段階重合である。すなわち、添加される水素により各段階でモル質量を調節する、3連続段階で行う。
【0016】
ポリエチレンは別として、本発明のポリエチレン成形用組成物はさらに追加的添加剤を含むことができる。このような添加剤は、例えば、0〜10重量%、好ましくは、0〜5重量%の、熱安定剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物−分解性化合物、塩基性共安定剤(basic costabilizer)であり、さらにカーボンブラック、充填材、顔料、難燃剤、又はこれらの組合せも、混合物の総重量を基準に0〜50重量%の総量で含有できる。
【0017】
本発明の成形用組成物は、特に、総てのタイプの電気ケーブル、例えば、情報又はエネルギーの伝送用ケーブル、の外部被覆を形成するのに有用である。このようなケーブルは、普通、絶縁層で各々被覆できる、一種以上の金属又は非金属導体を含む。ケーブル被覆は、外部影響(例えば、架設中)による損傷に対してケーブルを保護する役割を有し、好ましくは、まず、押出機中で200〜250℃の温度でポリエチレン成形用組成物を可塑化し、次いで、適当なノズルによりケーブル表面上に当該組成物を押出し、そこでそれを冷却する。
【0018】
本発明の成形用組成物は、被覆を形成するために押出処理により特に良く加工でき、8〜14kJ/m2のノッチ付き衝撃靱性及び200時間を超える耐環境応力亀裂(ESCR)を示す。
【0019】
ノッチ付き衝撃靱性は、ISO 179−1/1eA/DIN 53453に準拠して−30℃で測定する。試験片の寸法は10×4×80mmであり、45゜の角度、2mmの深さ及び0.25mmのノッチ底部半径のV型−ノッチである。
【0020】
本発明の成形用組成物の耐環境応力亀裂性(ESCR)は内部測定法により決定され、hに報告されている。この実験室法は、KunststoffeのM.Fleisner,77(1987),p.45ffにより記載され、現在有効なISO/CD 16770に対応する。この刊行物は、円周方向ノッチを有する試験棒上のクリープ試験におけるゆっくりとした亀裂成長の決定とISO 1167に準拠した内部圧力試験の脆性ブランチとの間の関係であることを示す。破壊までの時間の短縮化は、80℃の温度及び3.5MPaの引張応力で環境応力亀裂を引き起こす媒体としてのエチレングリコール中のノッチ(1.6mm/レーザーブレード)により亀裂開始時間を短縮させることにより行う。試験片の製造は、10mm厚さの圧縮板から10×10×90mmの寸法を有する3試験片をのこ引きすることにより行う。試験片は、この目的のために社内で製造したノッチ製造装置のレーザーブレードにより中央に順にノッチを付ける(前記刊行物の図5を参照)。ノッチの深さは1.6mmである。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
エチレンの重合を一連の連結した3反応器中での連続プロセスで行った。WO91/18934、実施例2により製造し、0.08ミリモル/時間量の同公報で操作番号2.2及び充分な懸濁媒体(ヘキサン)を有するチグラー触媒、0.08ミリモル/時間量の助触媒としてのトリエチルアルミニウム、エチレン並びに水素を第1反応器に供給した。エチレンの量(=65kg/時間)及び水素の量(=68g/時間)を、25〜26容量%の割合のエチレン及び65容量%の割合の水素が第1反応器のガス空間中で測定されるように(残りは窒素及び蒸発した懸濁媒体の混合物だった)設定した。第1反応器中の重合は84℃で行った。
【0022】
次いで、第1反応器からの懸濁物を第2反応器中に送り、第2反応器中では、ガス空間中の水素の割合を7〜9容量%に減らし、当該反応器中に48.1kg/時間量のエチレン及び2940g/時間の1−ブテンを導入した。水素量の減少はH2中間減圧により行った。73容量%のエチレン、8容量%の水素及び0.82容量%の1−ブテンが第2反応器中で測定され、残りは窒素及び蒸発した懸濁媒体の混合物だった。第2反応器中の重合は80℃で行った。
【0023】
第2反応器からの懸濁物を、別のH2中間減圧により第3反応器中に送り、該中間減圧により第3反応器中のガス空間中の水素量を2.5容量%に設定した。
第3反応器中に、16.9kg/時のエチレン量及び1500g/時の1−ブテンを導入した。87容量%のエチレン割合、2.5容量%の水素割合及び1.2容量%の1−ブテン割合が第3反応器中のガス空間中で測定され、残りは窒素及び蒸発した懸濁媒体の混合物だった。第3反応器中の重合は80℃で行った。
【0024】
上記連続式操作に必要な長期間活性重合触媒を、上記WO公報で報告されている組成を有する特別に開発したチグラー触媒により確保した。この触媒の有用性の指標は、水素に対するその極度に高い応答性及び1〜8時間にわたる長期間の一定性を維持するその高活性である。
【0025】
懸濁媒体を第3反応器を去るポリマー懸濁液から分離して除き、粉末を乾燥し、当該粉末をペレット化する。
実施例1に記載した通りにして製造したPE成形用組成物のポリマーA、B及びCの粘度数並びに割合WA、WB及びWCを下記の表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1中の物理特性の略号は下記の意味を有する。
− ENCT=[h]のM.Fleisner(条件:95℃、3.5MPa、水/2%Arkopal)により記載された内部測定法により測定した、耐環境応力亀裂性(全ノッチクリープ試験)
− AFM(−30℃)=−30℃でISO 179−1/leA/DIN 53453に準拠して測定したノッチ付き衝撃靱性[kJ/m2
− ACN(+23℃)=+23℃でISO 179−1/leA/DIN 53453に準拠して測定したノッチ付き衝撃靱性[kJ/m2]。
【0028】
このようにして製造したポリエチレン成形用組成物で直径5cmのエネルギーケーブルを、押出機中220℃の温度でポリエチレン成形用組成物を可塑化し、次いで、当該電気ケーブル上に環状ノズルにより当該組成物を押出し、そこで当該組成物を冷却することにより外部被覆した。このようにして製造した被覆の厚さは0.5cmだった。
【0029】
得られた電気ケーブルの表面はなめらかであり、目視して損傷のない外観を示した。
このようにして製造した電気ケーブルを、試験目的のため、金網製バスケットに入れ、水面下2mの深さのフランクフルトのRiver Main水中に貯蔵した。貯蔵期間が1年であり、水温は+3〜+27℃の間で1年の経過時に依存して変化した。
【0030】
1年の貯蔵後、ケーブルを再度取り上げ、目視により試験した。付着した泥及び藻類を機械的に取り除いた後、ケーブルの外部被覆の外観は、製造した直後の状態と相違しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多峰性モル質量分布を有し、温度23℃の密度が0.94〜0.950g/cm3の範囲内であり、MFI190/5が0.5〜2.1dg/分の範囲内であるポリエチレン成形用組成物であり、45〜55重量%の低分子量エチレンホモポリマーA、30〜40重量%の高分子量の、エチレンと4〜8個の炭素原子を有する別のオレフィンとのコポリマーB、及び10〜20重量%の超高分子量エチレンコポリマーCを含み、ここで、総ての百分率は成形用組成物の総重量を基準とする、前記ポリエチレン成形用組成物。
【請求項2】
高分子量コポリマーBが、コポリマーBの重量を基準に、1〜8重量%の、4〜8個の炭素原子を有するコモノマーを含有し、そして、超高分子量エチレンコポリマーCが、エチレンコポリマーCの重量を基準に、1〜8重量%のコモノマーを含有する、請求項1に記載のポリエチレン成形用組成物。
【請求項3】
1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン又はこれらの混合物がコモノマーとして存在する、請求項1又は2に記載のポリエチレン成形用組成物。
【請求項4】
温度135℃のデカリン中でISO/R 1191に準拠して測定した粘度数VNoverallが260〜340cm3/gの範囲、好ましくは、280〜320cm3/gである、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエチレン成形用組成物。
【請求項5】
ノッチ付き衝撃靱性AMF(−30℃)が3.5〜4.5kJ/m2の範囲及びノッチ付き衝撃靱性ACN(+23℃)が12〜16kJ/m2の範囲を示し、耐環境応力亀裂性(ENCT)が150〜250時間を示す、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエチレン成形用組成物。
【請求項6】
懸濁液中、温度70〜90℃、圧力2〜10バールの範囲、遷移金属化合物及び有機アルミニウム化合物から構成される活性チグラー触媒の共存下で、モノマーの重合を行う、請求項1〜5の一つ以上に記載のポリエチレン成形用組成物の製造法であり、重合が三段階重合であり、各段階で形成されるポリエチレンのモル質量を各場合で水素により調節する、前記ポリエチレン成形用組成物の製造法。
【請求項7】
第一重合段階の水素濃度を、低分子量ポリエチレンAの粘度数VN1が50〜90cm3/gの範囲であるように設定する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
第二重合段階の水素濃度を、ポリマーAプラスポリマーBの混合物の粘度数VN2が260〜320cm3/gの範囲であるように設定する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
第三重合段階の水素濃度を、ポリマーA、ポリマーBプラスポリマーCの混合物の粘度数VN3が280〜340cm3/gの範囲、特に、280〜320cm3/gであるように設定する、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
電気ケーブルの外部被覆のための請求項1〜5の一つ以上に記載のポリエチレン成形用組成物の使用であって、まず、ポリエチレン成形用組成物を200〜250℃の範囲の温度で押出機中で可塑化し、次いで、ケーブルの表面にノズルにより押出し成形し、そこで冷却する、前記使用。
【請求項11】
導電性金属内部コア、及び請求項1〜5のいずれかに記載のポリエチレン成形用組成物を含む非導電性外部被覆を有する電気又は情報伝送ケーブルであって、外部被覆の厚さが0.2〜3cmの範囲である、前記ケーブル。

【公表番号】特表2008−520779(P2008−520779A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−541786(P2007−541786)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012305
【国際公開番号】WO2006/053740
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(500289758)バーゼル・ポリオレフィン・ゲーエムベーハー (118)
【Fターム(参考)】